(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】電子線照射装置
(51)【国際特許分類】
G21K 5/00 20060101AFI20231206BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20231206BHJP
H01J 37/18 20060101ALI20231206BHJP
H01J 37/16 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G21K5/00 E
G21K5/04 E
G21K5/00 S
H01J37/18
H01J37/16
(21)【出願番号】P 2020031558
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】503237806
【氏名又は名称】株式会社NHVコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】人見 将宏
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特許第6343154(JP,B2)
【文献】実開昭53-18498(JP,U)
【文献】特開2004-264194(JP,A)
【文献】特開平11-121192(JP,A)
【文献】特開2013-326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/00-5/04
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を発生させる電子線発生部と、
前記電子線が通過する開口窓部を有する筐体部と、
前記開口窓部を塞ぐように設けられ、前記電子線を前記筐体部の内部から前記筐体部の外部に透過させる窓箔と、
前記窓箔の外部側を覆う、着脱可能な保護カバーと、
前記保護カバーが取付状態にあるか否かを検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に基づき、前記保護カバーが非取付状態であることを条件として前記窓箔を介した前記電子線の出射を許可する制御部と、
を備えた電子線照射装置。
【請求項2】
前記検出部の検出結果に基づく報知を行う報知部を備えた、請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項3】
前記電子線発生部及び前記筐体部を囲い、外部への前記電子線の流出を遮るための遮蔽体を備え、
前記検出部が前記遮蔽体の外部に設けられている、請求項1又は請求項2に記載の電子線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載された電子線照射装置は、電子線発生部からの電子線が通過する開口窓部を有する筐体部と、開口窓部を塞ぐように設けられ、電子線を筐体部の内部から筐体部の外部に透過させる窓箔と、窓箔の外部側を覆う着脱可能な保護カバーと、を備えている。電子線照射装置の通常使用時には、保護カバーを筐体部から取り外した状態とし、窓箔を介して筐体部の外部に出射された電子線を被照射物に照射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような電子線照射装置では、保護カバーを外し忘れた状態で電子線の照射を行ってしまうと、電子線が保護カバーに照射されて保護カバーが損傷するおそれがある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、保護カバーの損傷を抑制できる電子線照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する電子線照射装置は、電子線を発生させる電子線発生部と、前記電子線が通過する開口窓部を有する筐体部と、前記開口窓部を塞ぐように設けられ、前記電子線を前記筐体部の内部から前記筐体部の外部に透過させる窓箔と、前記窓箔の外部側を覆う、着脱可能な保護カバーと、前記保護カバーが取付状態にあるか否かを検出する検出部と、前記検出部の検出結果に基づき、前記保護カバーが非取付状態であることを条件として前記窓箔を介した前記電子線の出射を許可する制御部と、を備えた。
【0006】
この構成によれば、保護カバーを外し忘れた状態では、検出部の検出結果を受けた制御部によって電子線の出射が許可されない。このため、保護カバーに電子線が照射されることによる保護カバーの損傷を抑制できる。
【0007】
上記電子線照射装置において、前記検出部の検出結果に基づく報知を行う報知部を備えた。
この構成によれば、報知部によって、検出部の検出結果に基づいた報知が可能となる。これにより、電子線の出射が許可されている状態かそうでないかを作業者が認識しやすくなり、作業性の向上を図ることができる。
【0008】
上記電子線照射装置において、前記電子線発生部及び前記筐体部を囲い、外部への前記電子線の流出を遮るための遮蔽体を備え、前記検出部が前記遮蔽体の外部に設けられている。
【0009】
この構成によれば、検出部が遮蔽体の外部に設けられるため、検出部が遮蔽体の内部の電子線の照射状況下に曝されない構成とすることができ、その結果、電子線が照射されることによる検出部の損傷を抑制できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電子線照射装置によれば、保護カバーの損傷を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態における電子線照射装置の概略構成図。
【
図2】同形態における電子線照射装置の要部を示す概略構成図。
【
図3】同形態の電子線照射装置における電子線の出射部位を示す概略構成図。
【
図4】同形態における保護カバーが取り付けられた状態の電子線照射装置を示す概略構成図。
【
図5】変更例における保護カバーが取り付けられた状態の電子線照射装置を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、電子線照射装置の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際と異なる場合がある。
【0013】
図1に示す本実施形態の電子線照射装置10は、走査型の電子線照射装置である。電子線照射装置10は、熱電子放出を行う例えばタングステン製のフィラメント11を備えている。フィラメント11は、電子線eを発生させる電子線発生部に該当する。フィラメント11は、フィラメント用電源12からの電源供給に基づく自身の加熱により電子を放出する。フィラメント11は、加速管13の上端側に設けられている。
【0014】
加速管13は、フィラメント11が配置される上端側が閉塞された筒状をなしている。加速管13は、自身の管軸方向に並設される複数の加速電極14を有している。加速電極14は、加速電極用電源15からの電源供給に基づき、フィラメント11から放出された電子を収束させつつ下方に向けて加速させるような電界を生じさせる。つまり、加速管13では、加速電極14にて生じる電界にて、管軸方向の下方に向く電子流、すなわち電子線eが生じるようになっている。加速管13は、下端部に走査管16が接続されている。加速管13と走査管16とは互いに内部空間17が連通し、その内部空間17において電子線eが加速管13から走査管16側に進む。なお、走査管16は電子線照射装置10の筐体部に該当する。
【0015】
走査管16は、上端側が幅狭で、下方に向かうほど拡開する形状をなしている。走査管16は、その幅狭の上端部に走査コイル18が設けられている。走査コイル18は、自身への通電に基づき、加速管13にて生成された電子線eの向きを偏向、すなわち電子線eの走査を行う。
【0016】
図1、
図2及び
図3に示すように、走査管16の下端部、すなわち出射側の端部には、例えば略長方形状の開口窓部19が設けられており、開口窓部19には略長方形状の窓箔20が取り付けられている。本実施形態の窓箔20は極めて薄い金属箔からなり、より詳しくは、本実施形態の窓箔20はチタン系の金属材料から形成されている。窓箔20は、開口窓部19よりも一回り大きな形状をなし、開口窓部19を塞ぐように設けられている。
【0017】
窓箔20は、走査管16の下端部と、開口窓部19の周縁部に固定された取付枠19aとによって挟まれる態様で固定されている。取付枠19aは、走査管16の下端部に対して、図示しないボルトなどによって固定されている。取付枠19aには、窓箔20を透過した電子線eを通すための開口19bが形成されている。
【0018】
窓箔20は、電子線eを透過させつつも、開口窓部19を密閉させるものである。つまり、加速管13と走査管16とに跨がる内部空間17は、密閉空間にて構成されている。内部空間17は、例えば走査管16に接続された真空ポンプ21の駆動にて、少なくとも電子線eを生じさせる期間は真空状態とされる。
【0019】
上記した電子線照射装置10の構成部材において、少なくともフィラメント11、加速管13及び走査管16は、
図2に示すような遮蔽体Sによって囲われている。なお、
図1では、説明の便宜上、遮蔽体Sの図示を省略している。遮蔽体Sは、外部への電子線eの流出を遮るためのものであり、本実施形態の遮蔽体Sは鉛系の金属材料にて形成されている。
【0020】
遮蔽体Sは、フィラメント11、加速管13及び走査管16が内部に配置された第1構成体S1と、第1構成体S1の開口部Saを覆う第2構成体S2とを備えている。第2構成体S2は、第1構成体S1に対して着脱可能に構成されている。第1構成体S1と第2構成体S2とが連結された状態では、電子線照射装置10から出射される電子線eが遮蔽体Sの外部に流出しないようになっている。
【0021】
上記したフィラメント用電源12、加速電極用電源15、走査コイル18及び真空ポンプ21は、制御装置22にて制御される。制御装置22は、各電源12,15を通じて電子線eの出力調整を行ったり、走査コイル18を通じて電子線eの走査制御を行ったり、真空ポンプ21を通じて加速管13及び走査管16の内部空間17の真空調整を行ったりする。
【0022】
なお、制御装置22は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサ、または、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する、特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路、または、それらの組み合わせ、を含む回路(circuitry)として構成し得る。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0023】
開口窓部19に装着の窓箔20を介して出射される電子線eは、例えば搬送装置23により搬送方向xに搬送される被照射物24に対して照射され、被照射物24に所定処理を行う。なおこの場合、電子線照射装置10は、略長方形状の開口窓部19の長手方向が搬送装置23の搬送直交方向yに向く配置であり、搬送方向x及び搬送直交方向yを含めた電子線eの所定走査が行われて、開口窓部19に対応した略長方形状の照射エリアAの照射が行われる。電子線eの被照射物24への照射効果としては、例えば素材の性質改善や機能付加、殺菌・滅菌等が期待できる。
【0024】
次に、窓箔20を保護するための保護カバー30について説明する。
図4に示すように、電子線照射装置10は、取付枠19aに対して着脱可能な保護カバー30を備えている。
【0025】
図4は、保護カバー30が装着された状態の電子線照射装置10を示している。保護カバー30は取付枠19aの開口19bよりも一回り大きい形状をなしている。保護カバー30は、開口19bを塞ぐ態様で取付枠19aにボルトBで固定される。すなわち、保護カバー30が取付枠19aに装着された状態では、保護カバー30は窓箔20の外部側を覆っている。これにより、保護カバー30により、窓箔20に対して外部側から接触できない状態となり、外部側からの接触による窓箔20の損傷を防止できるようになっている。なお、保護カバー30の表面には取っ手31が設けられている。また、保護カバー30の表面には、視認しやすい色(例えば黄色)の塗装が施されている。
【0026】
電子線照射装置10は、保護カバー30が取付状態にあるか否かを検出する検出部32を備えている。本実施形態の検出部32は機械式センサであり、遮蔽体Sの第1構成体S1の外側面に設置されている。一方、保護カバー30には、第1構成体S1の開口部Saを通って第1構成体S1の外側の検出部32まで延出する延出部33が設けられている。検出部32は、延出部33の先端部が挿入可能に構成されている。そして、検出部32は、延出部33先端が挿入されているか否かに基づいて、保護カバー30の取付状態を検出する。検出部32は制御装置22に信号を出力する。制御装置22は、検出部32の検出結果に基づき、保護カバー30が非取付状態であることを条件としてフィラメント11からの電子線eの出力を許可する。
【0027】
また、電子線照射装置10は、検出部32の検出結果に基づき、保護カバー30が取付状態にある旨を報知する報知部34を備えている。本実施形態の報知部34は、制御装置22の制御によって動作するものである。報知部34は、ディスプレイ、スピーカー及び表示灯のうちの少なくとも1つを備え、ディスプレイの表示、スピーカーからの音出力、または、表示灯の点灯により、作業者に対して、保護カバー30が取付状態にある旨を報知する。
【0028】
本実施形態の作用について説明する。
図4に示すように、電子線照射装置10を使用しない状況では、第2構成体S2を第1構成体S1から外して第1構成体S1の開口部Saを開けた状態として、保護カバー30を取付枠19aにボルトBによって取り付ける。これにより、窓箔20の外部側が保護カバー30によって覆われる。
【0029】
また、このとき、保護カバー30の延出部33の先端部が検出部32に挿入される。これにより、検出部32は、保護カバー30が取付状態にある旨を検出する。そして、検出部32からの検出信号が制御装置22に出力され、制御装置22はその検出信号に基づいて、フィラメント11からの電子線eの出力を許可しないように制御する。これにより、保護カバー30を取り付けた状態で、電子線eが出射されることが防止されるようになっている。
【0030】
また、報知部34の動作の一例を説明する。検出部32によって保護カバー30が取り付けられていることが検出されている状況下において、作業者によって電子線eの出力操作がなされたときに、前記ディスプレイに保護カバー30が取り付けられている旨を表示する、または、スピーカーから音出力を行う、または、表示灯を点灯させるといった動作を行うようになっている。これにより、作業者に対して、保護カバー30が取付状態にある旨が報知される。
【0031】
電子線照射装置10の使用するときには、
図2に示すように、保護カバー30を取付枠19aから取り外した後、第1構成体S1の開口部Saを第2構成体S2にて閉塞する。この状態では、検出部32にて保護カバー30が非取付状態である旨が検出され、制御装置22は検出部32からの検出信号に基づいて、フィラメント11からの電子線eの出力を許可する。
【0032】
本実施形態の効果について説明する。
(1)電子線照射装置10は、保護カバー30が取付状態にあるか否かを検出する検出部32と、検出部32の検出結果に基づき、保護カバー30が非取付状態であることを条件としてフィラメント11からの電子線eの出力を許可する制御装置22と、を備える。この構成によれば、保護カバー30が取り付けられた状態では、検出部32の検出結果を受けた制御装置22によって電子線eの出力が許可されないようになっている。このため、外し忘れた保護カバー30に電子線eが照射されることによる保護カバー30の損傷を抑制できる。
【0033】
(2)電子線照射装置10は、検出部32の検出結果に基づき、保護カバー30が取付状態にある旨を報知する報知部34を備えた。この構成によれば、報知部34によって、保護カバー30が取付状態であることを作業者に報知可能となる。これにより、保護カバー30が取付状態にあることで電子線eの出射が許可されていない状態であることを作業者が認識しやすくなり、作業性の向上を図ることができる。
【0034】
(3)電子線照射装置10は、フィラメント11、加速管13及び走査管16を囲い、外部への電子線eの流出を遮るための遮蔽体Sを備える。そして、検出部32は、遮蔽体Sの外部に設けられている。この構成によれば、検出部32が遮蔽体Sの外部に設けられるため、検出部32が遮蔽体Sの内部の電子線eの照射状況下に曝されない構成とすることができ、その結果、電子線eが照射されることによる検出部32の損傷を抑制できる。
【0035】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、検出部32を遮蔽体Sの外部に設けたが、これに限らず、
図5に示すように、検出部32を遮蔽体Sの内部に設けてもよい。
図5に示す構成では、検出部32は、遮蔽体Sの第1構成体S1の内側面に設けられている。また、検出部32は、電子線eを遮蔽するためのシールドボックス40の内部に設けられている。このように、検出部32がシールドボックス40によって囲われることで、検出部32に電子線eが照射されることを抑制し、その結果、電子線eが照射されることによる検出部32の損傷を抑制できる。
【0036】
・窓箔20に用いる材料は上記実施形態に限定されるものではなく、チタン系の金属材料以外の材料を用いてもよい。
・遮蔽体Sに用いる材料は上記実施形態に限定されるものではなく、鉛系の金属材料以外のコンクリートなどを用いてもよい。
【0037】
・検出部32は、機械式センサ以外の例えば磁気センサとしてもよい。検出部32を磁気センサとする構成の一例としては、延出部33の先端部にセンサマグネットを設け、保護カバー30が取付枠19aに取り付けられた状態において、センサマグネットが検出部32に近接する構成とする。
【0038】
・上記実施形態の報知部34は、検出部32の検出結果に基づいて、保護カバー30が取付状態にある旨を報知するが、これに限らず、保護カバー30が非取付状態にある旨(すなわち電子線eの出射が許可されている旨)を報知するように構成してもよい。
【0039】
・上記実施形態の電子線照射装置10では、開口窓部19の開口方向を下向きとした構成、すなわち、電子線eの進行方向を下方向の設定としていたが、上方向や水平方向、斜め方向であってもよい。
【0040】
・単一のフィラメント11から放出された電子から電子線eを形成し走査コイル18にて走査して照射エリアAの照射を行う走査型の電子線照射装置10に適用したが、照射エリアに対応して複数のフィラメントを用い走査コイルを省略した態様のエリア型の電子線照射装置に適用してもよい。
【0041】
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)電子線照射装置において、前記報知部は、前記検出部の検出結果に基づき、前記保護カバーが取付状態にある旨を報知する。
【0042】
この構成によれば、報知部によって、保護カバーが取付状態であることを作業者に報知可能となる。
【符号の説明】
【0043】
10…電子線照射装置
11…フィラメント(電子線発生部)
16…走査管(筐体部)
19…開口窓部
20…窓箔
22…制御装置(制御部)
30…保護カバー
32…検出部
34…報知部
e…電子線
S…遮蔽体