(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】合金触媒の製造方法及び合金触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/89 20060101AFI20231206BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20231206BHJP
B01J 29/035 20060101ALI20231206BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20231206BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20231206BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20231206BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20231206BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20231206BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20231206BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20231206BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20231206BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20231206BHJP
C22C 5/02 20060101ALN20231206BHJP
C22C 5/04 20060101ALN20231206BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20231206BHJP
【FI】
B01J23/89 M
B01J23/42 M
B01J29/035 M
B01J37/02 101E
B01J37/08
B01J37/16
B82Y30/00
B82Y40/00
H01M4/86 B
H01M4/88 K
H01M4/90 B
H01M4/90 M
H01M4/92
C22C5/02
C22C5/04
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2020039244
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2019076038
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】小村 智子
(72)【発明者】
【氏名】飯島 孝
(72)【発明者】
【氏名】日吉 正孝
(72)【発明者】
【氏名】古川 晋也
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-500171(JP,A)
【文献】国際公開第2005/120703(WO,A1)
【文献】特開2012-041622(JP,A)
【文献】特開2018-097976(JP,A)
【文献】特開2000-123843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B82Y 30/00
B82Y 40/00
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 4/90
H01M 4/92
C22C 5/02
C22C 5/04
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属元素を含む貴金属化合物と卑金属元素を含む卑金属化合物と第1の溶媒と多孔質材料とを混合して混合物を得る第1の工程と、
以下の式(1):
(混合物中の第1の溶媒の容積)≦(多孔質材料の細孔容積)×5 (1)
を満足するまで前記混合物から前記第1の溶媒を除去することにより、前記貴金属化合物および前記卑金属化合物を前記多孔質材料に固定する第2の工程と、
前記多孔質材料に、酸化還元電位が-1.20V以下である還元剤と第2の溶媒とを含む還元溶液を接触させる第3の工程と、を有し、
前記還元溶液中における前記還元剤の物質量が、前記貴金属元素の総物質量の5倍以上であ
り、
前記還元溶液の25℃におけるpHが8.0以上12.0以下である、合金触媒の製造方法。
【請求項2】
前記第2の工程において、以下の式(2):
(混合物中の第1の溶媒の容積)≦(多孔質材料の細孔容積)×2 (2)
を満足するまで前記混合物から前記第1の溶媒を除去する、請求項1に記載の合金触媒の製造方法。
【請求項3】
前記第1の溶媒と前記第2の溶媒とが、同一の溶媒を含む、または、
前記第1の溶媒のオクタノール/水分配係数と前記第2の溶媒のオクタノール/水分配係数との差の絶対値が、1.2以下である、請求項1または2に記載の合金触媒の製造方法。
【請求項4】
前記第1の溶媒が水を含み、かつ、前記第2の溶媒のオクタノール/水分配係数が、0.8以下である、
前記第2の溶媒が水を含み、かつ、前記第1の溶媒のオクタノール/水分配係数が、0.8以下である、または、
前記第1の溶媒および前記第2の溶媒が、ともに水を含む、請求項1または2に記載の合金触媒の製造方法。
【請求項5】
前記還元剤は、水素化ホウ素アルカリ金属塩、水素化ホウ素遷移金属塩、水素化アルミニウムアルカリ金属塩、シアノ水素化ホウ素アルカリ金属塩および水素化ジイソブチルアルミニウムからなる群から選択される1種または2種以上を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
【請求項6】
前記還元剤は、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ホウ素ニッケル、水素化ホウ素亜鉛、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムナトリウム、水素化アルミニウムカリウム、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、シアノ水素化ホウ素リチウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素カリウム、水素化ジイソブチルアルミニウムからなる群から選択される1種または2種以上を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
【請求項7】
前記還元剤は、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、および水素化ホウ素リチウムからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
【請求項8】
前記還元溶液中における前記還元剤の物質量が、前記貴金属元素の総物質量の10倍以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
【請求項9】
前記還元溶液のpHが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、およびアンモニア水からなる群から選択される塩基を用いて調節される、請求項1~
8のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
【請求項10】
前記貴金属化合物中の前記貴金属元素は、白金、金、およびパラジウムからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
【請求項11】
前記貴金属化合物は、ジニトロジアンミン白金、ビス(アセチルアセトナート)白金、ヘキサクロロ白金(IV)酸、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム六水和物、ヘキサアンミン白金(IV)クロライド、ヘキサアンミン白金(IV)水酸塩溶液、テトラアンミン白金(II)ジクロライド、臭化白金(II)、臭化白金(IV)、シアン化白金(II)、ヨウ化白金、ジメチル(アセチルアセトナート)金(III)、塩化金、塩化金酸、臭化金、ヨウ化金、シアン化金、シアン化金カリウム、塩化パラジウム、ヨウ化パラジウム、臭化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナート)パラジウム(II)、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム、およびテトラクロロパラジウム酸カリウムからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~
10のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
【請求項12】
前記卑金属化合物中の卑金属元素が、Co、Fe、NiおよびTiからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~
11のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
【請求項13】
前記卑金属化合物は、塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルト、シアン化コバルト、チオシアン酸コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、アセチルアセトナートコバルト、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、鉄(III)アセチルアセトナート、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、シアン化ニッケル(II)カリウム、ニッケル(II)アセチルアセトナート、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタン、チタニウムテトライソプロポキシドおよび硫酸チタンからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~
12のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金触媒の製造方法及び合金触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
合金触媒は、複数の金属を合金化して得られる触媒粒子を多孔質体(多孔質材料)に担持したものであり、活性金属として単一の金属を用いる触媒と比較して、触媒活性の大きさやその活性自体の機構を異ならせることも可能である。以下、「合金触媒」など「触媒」は、担持体である多孔質体に触媒能を有する触媒粒子を担持させたものを指し、触媒能を有する触媒粒子そのものを指すときには、「触媒粒子」と記載する。したがって、その用途に応じて、またはさらなる高い触媒活性を得るため、各種の分野、例えば固体高分子形燃料電池の触媒や、石油化学、石油精製等の化学プロセス用触媒、排ガス処理用触媒等、において合金触媒の開発が進められている。
【0003】
一般に、このような合金触媒には、その触媒性能を十分に発揮させるため、複数の金属が十分に合金化していることが求められる。また、合金触媒は、その活性点を多くする観点から、高い表面積が求められ、このため小径の触媒粒子が多孔質体内に分散した状態であることが好まれている。さらには、触媒反応を繰り返し行った際に、触媒粒子が凝集して粗大粒子を形成すると合金触媒の触媒反応に寄与し得る活性点が減少してしまう。したがって、触媒反応を繰り返し行った際にも、触媒粒子の凝集が防止されて耐久性が高まるように、触媒粒子は高度に分散していることが求められる。
【0004】
以上の点につき、合金触媒の一例として固体高分子形燃料電池の触媒について、詳細に説明する。固体高分子形燃料電池の触媒には、従来多孔質の炭素材料に担持した白金が用いられてきた。近年、さらなる発電性能の向上を目指し、より高活性な白金系の合金触媒が用いられている。固体高分子形燃料電池用の合金触媒のなかでも特に高活性とされているのは、白金と卑金属からなるものである。
【0005】
ここで、合金触媒の触媒粒子の粒径が大きい場合、発電性能が低下する。触媒粒子に凝集が見られる場合、耐久性が低下する。触媒粒子の合金化率が低い場合、発電性能が低下する。したがって、「小粒径・高分散・高合金化率」の合金触媒は、概して固体燃料電池の触媒として好適である。
【0006】
合金触媒を合成する方法として以下のような方法が一般的である。ひとつは、複数の金属を別々に担体に担持する方法である。この方法では、まず担体にどちらか一方の金属種を担持した後、もう一方の金属種をさらに担持させ、熱処理することによって金属種同士を合金化させる。もうひとつは、複数の金属を同時に担体に担持する方法である。担体と金属種を含む溶液に還元剤を加え、複数種類の金属種を同時に還元する(例えば、特許文献1)。この他、先述の2つの方法の中間的な方法として、担体に金属種を含む溶液を含浸乾固させ、これを水素などの還元性ガスを含む雰囲気下で熱処理することにより合金化する方法がある(例えば特許文献2)。
【0007】
また、触媒粒子の凝集を抑制するための一般的な方法として、高分子や有機酸などからなる保護剤を触媒粒子表面に吸着させる方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-41622号公報
【文献】国際公開第2014/025049号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、固体高分子形燃料電池用の合金触媒は、白金等の貴金属と卑金属との合金である触媒粒子が多孔質材料に担持されたものである。貴金属の前駆体と卑金属の前駆体とを還元する場合、貴金属が優先的に還元されてしまい、その後卑金属が還元され、別個に貴金属と卑金属が析出しやすい。この結果、固体高分子形燃料電池用の合金触媒のように貴金属と卑金属とを同時に含む合金触媒は、合金化率を高くすることが困難である。
【0010】
一方で、熱処理を行うことにより合金化を促進させることも考えられるが、この場合、触媒粒子の凝集や粒成長が起こりやすく、熱処理のみによる合金化を行うと、小粒径、高分散の触媒粒子を得ることが困難となる。
【0011】
また、上述したように、触媒粒子の凝集を抑制するための方法として、従来、高分子や有機酸などからなる保護剤を触媒粒子表面に吸着させる方法が一般的に用いられてきた。しかしこの場合、保護剤を除去しなければ、発電反応に寄与可能な触媒表面積が低下すること、保護剤除去の方法として一般的である熱処理を行うと、触媒粒子の凝集や粒成長が起こりやすいこと、保護剤を用いているとその分粒径が大きくなるため、担体の細孔内部へ触媒粒子を担持できないこと、などの問題があった。さらに、本発明者が合金触媒の発電性能に寄与する特性について検討したところ、触媒粒子毎の組成のばらつきが小さいほど、発電性能、特に初期の発電性能が向上することが明らかになった。
【0012】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、小粒径かつ高分散であり、組成のばらつきが小さく、合金化率の高い触媒粒子が担持された合金触媒の製造方法及び合金触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、多孔質材料上に触媒粒子の前駆体となる貴金属化合物および卑金属化合物を含む溶液を含浸させた後、一旦溶液中の溶媒を除去し、さらに比較的還元力の強い還元剤を含む溶液と多孔質材料とを接触させることにより小粒径かつ高分散であり、組成のばらつきが小さく、合金化率の高い触媒粒子が担持された合金触媒を製造できることを見出し、さらに検討した結果、本発明に至った。
【0014】
上記知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
〔1〕 貴金属元素を含む貴金属化合物と卑金属元素を含む卑金属化合物と第1の溶媒と多孔質材料とを混合して混合物を得る第1の工程と、
以下の式(1):
(混合物中の第1の溶媒の容積)≦(多孔質材料の細孔容積)×5 (1)
を満足するまで前記混合物から前記第1の溶媒を除去することにより、前記貴金属化合物および前記卑金属化合物を前記多孔質材料に固定する第2の工程と、
前記多孔質材料に、酸化還元電位が-1.20V以下である還元剤と第2の溶媒とを含む還元溶液を接触させる第3の工程と、を有し、
前記還元溶液中における前記還元剤の物質量が、前記貴金属元素の総物質量の5倍以上であり、
前記還元溶液の25℃におけるpHが8.0以上12.0以下である、合金触媒の製造方法。
〔2〕 前記第2の工程において、以下の式(2):
(混合物中の第1の溶媒の容積)≦(多孔質材料の細孔容積)×2 (2)
を満足するまで前記混合物から前記第1の溶媒を除去する、〔1〕に記載の合金触媒の製造方法。
〔3〕 前記第1の溶媒と前記第2の溶媒とが、同一の溶媒を含む、または、
前記第1の溶媒のオクタノール/水分配係数と前記第2の溶媒のオクタノール/水分配係数との差の絶対値が、1.2以下である、〔1〕または〔2〕に記載の合金触媒の製造方法。
〔4〕 前記第1の溶媒が水を含み、かつ、前記第2の溶媒のオクタノール/水分配係数が、0.8以下である、
前記第2の溶媒が水を含み、かつ、前記第1の溶媒のオクタノール/水分配係数が、0.8以下である、または、
前記第1の溶媒および前記第2の溶媒が、ともに水を含む、〔1〕または〔2〕に記載の合金触媒の製造方法。
〔5〕 前記還元剤は、水素化ホウ素アルカリ金属塩、水素化ホウ素遷移金属塩、水素化アルミニウムアルカリ金属塩、シアノ水素化ホウ素アルカリ金属塩および水素化ジイソブチルアルミニウムからなる群から選択される1種または2種以上を含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
〔6〕 前記還元剤は、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ホウ素ニッケル、水素化ホウ素亜鉛、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムナトリウム、水素化アルミニウムカリウム、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、シアノ水素化ホウ素リチウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素カリウム、水素化ジイソブチルアルミニウムからなる群から選択される1種または2種以上を含む、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
〔7〕 前記還元剤は、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウムおよび水素化ホウ素リチウムからなる群から選択される1種以上を含む、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
〔8〕 前記還元溶液中における前記還元剤の物質量が、前記貴金属元素の総物質量の10倍以上である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
〔9〕 前記還元溶液のpHが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、およびアンモニア水からなる群から選択される塩基を用いて調節される、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
〔10〕 前記貴金属化合物中の前記貴金属元素は、白金、金、およびパラジウムからなる群から選択される1種以上を含む、〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
〔11〕 前記貴金属化合物は、ジニトロジアンミン白金、ビス(アセチルアセトナート)白金、ヘキサクロロ白金(IV)酸、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム六水和物、ヘキサアンミン白金(IV)クロライド、ヘキサアンミン白金(IV)水酸塩溶液、テトラアンミン白金(II)ジクロライド、臭化白金(II)、臭化白金(IV)、シアン化白金(II)、ヨウ化白金、ジメチル(アセチルアセトナート)金(III)、塩化金、塩化金酸、臭化金、ヨウ化金、シアン化金、シアン化金カリウム、塩化パラジウム、ヨウ化パラジウム、臭化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナート)パラジウム(II)、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム、およびテトラクロロパラジウム酸カリウムからなる群から選択される1種以上を含む、〔1〕~〔10〕のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
〔12〕 前記卑金属化合物中の卑金属元素が、Co、Fe、NiおよびTiからなる群から選択される1種以上を含む、〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
〔13〕 前記卑金属化合物は、塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルト、シアン化コバルト、チオシアン酸コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、アセチルアセトナートコバルト、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、鉄(III)アセチルアセトナート、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、シアン化ニッケル(II)カリウム、ニッケル(II)アセチルアセトナート、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタン、チタニウムテトライソプロポキシドおよび硫酸チタンからなる群から選択される1種以上を含む、〔1〕~〔12〕のいずれか1項に記載の合金触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば小粒径かつ高分散であり、組成のばらつきが小さく、合金化率の高い触媒粒子が担持された合金触媒の製造方法及び合金触媒を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例2-15に係る合金触媒の30kVの加速電圧で走査型透過電子顕微鏡により観察した二次電子像(左)および透過像(右)である。
【
図2】比較例2-9に係る合金触媒の30kVの加速電圧で走査型透過電子顕微鏡により観察した二次電子像(左)および透過像(右)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好適な実施形態に基づき、本発明を詳細に説明する。また、以下の説明においては、固体高分子形燃料電池用の合金触媒の製造方法及び当該製造方法によって製造される合金触媒を中心に記載するが、本発明に係る合金触媒の製造方法において採用される原理上、本発明が任意の用途における合金触媒の製造に適用可能であることは言うまでもない。
【0018】
<1.本発明に至る着想>
まず、本発明の詳細な説明に先立ち、本発明者らによる本発明に至るまでの検討について説明する。上述したように、本発明者らは、小粒径かつ高分散であり、組成のばらつきが小さく、合金化率の高い触媒粒子を有する合金触媒を得るべく検討を行った。
【0019】
合金化率を高める方法としては、上述したように、熱処理を行うことにより合金化を促進させることも考えられるが、この場合、触媒粒子の凝集や粒成長が起こりやすく、熱処理のみによる合金化を行うと、小粒径、高分散の触媒粒子を得ることが困難となる。
【0020】
そこで、本発明者らは、貴金属化合物と卑金属化合物の還元速度の違いに着目し、強力な還元剤を用いて貴金属化合物と卑金属化合物とを同時に還元し、貴金属化合物と卑金属化合物との還元速度の差の影響を小さくすることを試みた。ここで、強力な還元剤は、通常液相において作用することから、上記の還元反応は、液相中で行われる。しかしながら、このような液相中の還元反応においても、貴金属化合物と卑金属化合物との還元速度の差の影響を十分に排除することはできず、高い合金化率の触媒粒子を得ることは困難であった。なお、合金化率が高くなる場合もあったが、この場合、分散性が低くなる等、別の問題が生じた。この結果、本発明者らは、従来法と同じ液相中において、還元剤の種類、還元反応時の温度、金属種と還元剤それぞれの濃度、金属種として用いる化合物の種類、といった合成条件を種々検討するなかで、単純な液相中の反応では、還元速度の違いの影響を除去することができない、との理解に至った。
【0021】
このような問題に直面した本発明者らは、貴金属化合物と卑金属化合物との還元速度の差の影響をより小さくすべく、還元反応における反応場を多孔質材料の表面付近に制限することに思い至った。すなわち、多孔質材料に対し貴金属化合物と卑金属化合物とを含む溶液を含浸させた後、溶媒の少なくとも一部を除去することにより、貴金属化合物と卑金属化合物とを多孔質材料の細孔内部を含む表面付近に偏在させる。このような多孔質材料に対し強力な還元剤を含む溶液を接触させることにより、還元反応における反応場を多孔質材料の表面付近に制限することができ、この結果貴金属化合物と卑金属化合物とが同時に還元されやすくなると、本発明者らは、着想した。
【0022】
当該着想に基づき、本発明者らは各種条件について検討したところ、多孔質材料表面に合金化率の高い触媒粒子を生成させることができることを見出した。そして、得られた触媒粒子は、多孔質材料表面において強力な還元剤により短時間で形成されたものであるため、小粒径であり、かつ多孔質材料表面に渡り均一に分散していること、さらには、触媒粒子毎の組成のばらつきも小さいことが見出された。このような触媒粒子は、多孔質材料の細孔外部の表面のみならず細孔内部にもわたり均一に分布していた。以上により、多孔質材料上に小粒径かつ高分散であり、組成のばらつきが小さく、合金化率の高い触媒粒子が担持された合金触媒を得られることが判明した。このように、本発明者は、従来認識されていなかった新たな問題(課題)を抽出し、それを解決するための方針を着想し、そのような着想に基づいて本実施形態に係る新規かつ改良された合金触媒の製造方法を完成するに至った。このような合金触媒の製造方法により製造される合金触媒は、例えば固体高分子形燃料電池燃料電池の発電特性及び耐久性等を飛躍的に向上させることができる。
【0023】
<2.合金触媒の製造方法>
次に、本実施形態に係る合金触媒の製造方法について説明する。本実施形態に係る合金触媒の製造方法は、貴金属元素を含む貴金属化合物と卑金属元素を含む卑金属化合物と第1の溶媒と多孔質材料とを混合して混合物を得る第1の工程と、
以下の式(1):
(混合物中の第1の溶媒の容積)≦(多孔質材料の細孔容積)×5 (1)
を満足するまで上記混合物から上記第1の溶媒を除去することにより、上記貴金属化合物および上記卑金属化合物を上記多孔質材料に固定する第2の工程と、
上記記多孔質材料に、酸化還元電位が-1.20V以下である還元剤と第2の溶媒とを含む還元溶液を接触させる第3の工程と、を有し、
上記還元溶液中における上記還元剤の物質量が、上記貴金属元素の総物質量の5倍以上である。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0024】
〔2.1. 第1の工程〕
まず、第1の工程においては、貴金属元素を含む貴金属化合物と卑金属元素を含む卑金属化合物と第1の溶媒と多孔質材料とを混合して混合物を得る。
【0025】
(貴金属化合物および卑金属化合物)
貴金属化合物中の貴金属元素および卑金属化合物中の卑金属元素は、得られる触媒粒子の構成元素となる。したがって、貴金属化合物および卑金属化合物は、触媒粒子の前駆体である。
【0026】
貴金属元素としては、触媒粒子の構成元素として使用可能であれば特に限定されず、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)が挙げられ、これらのうち1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
貴金属元素は、用途に応じて適宜選択可能であるが、特に固体高分子形燃料電池用の合金触媒を製造する場合、白金、金およびパラジウムからなる群から選択される1種以上を含むことが好ましく、白金を含むことがより好ましい。
【0028】
上述した貴金属元素を含む貴金属化合物としては、例えば貴金属元素の無機および/または有機塩、酸化物、硫化物、ハロゲン化物等を1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。貴金属化合物としては、具体的には、水酸化金、酸化金(III)、フッ化金、塩化金、塩化金酸、臭化金、ヨウ化金、シアン化金、シアン化金カリウム、亜硫酸金ナトリウム、ジクロロ(1,10-フェナントロリン)金(III)クロライド、八塩化四金、クロロ(トリメチルホスフィン)金(I)、クロロ(トリエチルホスフィン)金(I)、クロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)、ブロモ(トリフェニルホスフィン)金(I)、クロロ[1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール‐2‐イリデン]金(I)、水酸化[1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール‐2‐イリデン]金(I)、クロロジフェニル(3-スルホナトフェニル)ホスフィン金(I)ナトリウム塩、金チオ硫酸ナトリウム、酢酸金(III)、ジメチル(アセチルアセトナート)金(III)、ジメチル(トリフルオロアセチルアセトナート)金(III)、トリクロロピリジン金(III)、メチルトリフェニルホスフィン金(I)、トリフェニルホスフィン金(I)ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミダート等の金化合物、水酸化銀、フッ化銀、塩化銀、塩素酸銀、過塩素酸銀、臭化銀、ヨウ化銀、ヨウ素酸銀、硝酸銀、亜硝酸銀、シアン化銀、シアン化銀カリウム、酢酸銀、炭酸銀、チオシアン銀、チオシアン酸銀、テトラフルオロホウ酸銀(I)、トリフオロメタンスルホン酸銀、トリフルオロ酢酸銀、ヘキサフルオロリン酸銀(I)、硫化銀、硫酸銀、亜硫酸銀、リン酸銀、酸化銀、クエン酸銀、メタンスルホン酸銀、乳酸銀0.5水和物、トルエンスルホン酸銀、2-エチルヘキサン銀、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト銀(I)等の銀化合物、アジ化銅、アジ化銅、安息香酸銅(II)、水酸化銅、フッ化銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、ヨウ素酸銅、硝酸銅、シアン化銅、ジクロロ銅(I)酸、炭酸銅、チオシアン酸銅、チオフェン-2-カルボン酸銅(I)、硫化銅、硫酸銅、硫酸アンモニウム銅、酢酸銅、酸化銅、過酸化銅、銅(II)エトキシド、銅イソプロポキシド、ビス(アセチルアセトナート)銅(II)、エチルアセト酢酸銅、塩化二アンモニウム銅(II)二水和物、ぎ酸銅(II)四水和物、フタル酸銅、オレイン酸銅、シュウ酸銅、クエン酸銅、リン酸銅、グルコン酸銅、メタクリル酸銅、イソ酪酸銅、酒石酸銅(II)水和物、テレフタル酸銅(II)酸水和物、トリフルオロメタンスルホン酸銅、トリフルオロアセチルアセトナート銅(II)、トリシアノ銅(I)二カリウム、銅(I)フェニルアセチリド、2-エチルヘキサン酸銅(II)、シクロペンタジエニル(トリエチルホスフィン)銅(I)、硫酸テトラアンミン銅(II)水和物、テトラキス(アセトニトリル)銅(I)ヘキサフルオロホスファート、ジヒドロキソビス(テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)塩化物、フタロシアニン銅、フタロシアニン銅四スルホン酸四ナトリウム塩、銅クロロフィリン三ナトリウム塩、ベンゼンスルフィン酸銅、水素化ホウ素ビス(トリフェニルホスフィン)銅、エチレンジアミン四酢酸銅(II)二ナトリウム塩四水和物等の銅化合物、ヘキサクロロ白金(IV)酸、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム六水和物、塩化白金(IV)酸アンモニウム、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸カリウム、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸ナトリウム、亜硫酸白金、硝酸白金(II)、塩化第一白金(II)、塩化第二白金(IV)、ヘキサシアノ白金(IV)酸カリウム、テトラブロモ白金(II)酸カリウム、ヘキサブロモ白金酸(IV)アンモニウム、ヘキサブロモ白金酸(IV)ナトリウム、ヘキサブロモ白金酸(IV)九水和物、ヘキサヨード白金酸(IV)カリウム、ジニトロジアンミン白金(II)、ヘキサアンミン白金(IV)クロライド、ヘキサアンミン白金(IV)水酸塩溶液、テトラアンミン白金(II)ジクロライド、テトラアンミン白金(II)ジクロライド、テトラアンミン白金(II)水酸化物、テトラアミン白金(II)テトラクロロ白金(II)酸、硝酸テトラアンミン白金(II)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金(O)、ビス(アセチルアセトナート)白金(II)、テトラクロロ白金(II)酸カリウム、テトラクロロ白金(II)酸アンモニウム、テトラクロロ白金(II)酸ナトリウム、酸化白金(IV)、臭化白金(II)、臭化白金(IV)、硫化白金(IV)、ヨウ化白金、シアン化白金(II)、ヨードトリメチル白金(IV)、白金フタロシアニン、炭酸水素テトラアンミン白金(II)、ジクロロ(エチレンジアミン)白金(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)白金(II)、ジニトロスルファト白金酸(II)、ビス(ピリジン)白金(II)クロリド、りん酸テトラアンミン白金(II)、ジクロロビス(ジエチルスルフィド)白金(II)、ジクロロビス(クロロシクロヘキセン)白金(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)白金(II)等の白金化合物、塩化パラジウム、ヨウ化パラジウム、臭化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム(II)クロライド、テトラアンミンパラジウム(II)ブロマイド、テトラアンミンパラジウム(II)水酸化物、水酸化パラジウム、亜硝酸ジアミンパラジウム(II)、ジアンミンジニトロパラジウム(II)、ジアンミンジクロロパラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、ビス(アセチルアセトナート)パラジウム(II)、ビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム(II)、ジクロロビス(ピリジン)パラジウム(II)、trans-ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロ(テトラメチルエチレンジアミン)パラジウム(II)、trans-ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、酸化パラジウム(II)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム、テトラクロロパラジウム酸カリウム、テトラブロモパラジウム(II)酸ナトリウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸カリウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸ナトリウム、ジクロロ(エチレンジアミン)パラジウム(II)、テトラニトロパラジウム(II)酸カリウム、硫化パラジウム、ジクロロ[ビス(1,2-ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)、ジクロロ[ビス(1,4-ジフェニルホスフィノ)ブタン]パラジウム(II)、2,2‘-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチルジクロロパラジウム(II)、2,2‘-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチルジブロモパラジウム(II)、ビス(トリ-t-ブチルホスフィン)パラジウム、ビス(ジ-t-ブチルフェニルホスフィン)ジクロロパラジウム(II)、ビス(トリ-o-トリルホスフィン)ジブロモパラジウム(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、[4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテン]ジクロロパラジウム(II)、ジクロロ(シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロビス[ジ-t-ブチル(p-ジメチルアミノフェニル)ホスフィノ]パラジウム(II)、(エチレンジアミン)ジニトラトパラジウム(II)等のパラジウム化合物、酸化ロジウム、塩化ロジウム、ヨウ化ロジウム、臭化ロジウム、硫酸ロジウム、硝酸ロジウム、酢酸ロジウム(II)、ヘキサクロロロジウム(III)酸カリウム、ヘキサクロロロジウム(III)酸ナトリウム、ヘキサクロロロジウム(III)酸カリウム、ヘキサクロロロジウム(III)酸アンモニウム、ヘキサニトリトロジウム(III)酸カリウム、トリス(アセチルアセトナート)ロジウム(III)、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)、アセチルアセトナートジカルボニルロジウム(I)、アセチルアセトナートカルボニルトリフェニルホスフィンロジウム(I)等のロジウム化合物、酸化イリジウム、臭化イリジウム、ヨウ化イリジウム、塩化イリジウム(III)、塩化イリジウム(IV)酸、トリス(アセチルアセトナート)イリジウム(II)、アセチルアセトンイリジウム(III)、(アセチルアセトナート)ジカルボニルイリジウム(I)、硝酸イリジウム、酢酸イリジウム、ヘキサアミンイリジウム水酸化物、塩化イリジウム(IV)酸アンモニウム、塩化イリジウム(IV)酸カリウム、イリジウムカルボニル、ドデカカルボニル四イリジウム、ヘキサニトロイジリウム(III)酸ナトリウム、ヘキサクロロイリジウム(IV)酸カリウム、ヘキサクロロイリジウム(IV)酸アンモ二ウム、ヘキサクロロイリジウム(IV)酸ナトリウム、等のイリジウム化合物、塩化ルテニウム、酸化ルテニウム、硝酸ルテニウム、ヘキサアンミンルテニウム(III)クロライド、ドデカカルボニルトリルテニウム(O)、トリス(アセチルアセトナート)ルテニウム(III)、ルテニウム酸ナトリウム、ルテニウム酸カリウム、ルテニウムカルボニル、ヨウ化ルテニウム、臭化ルテニウム、過ルテニウム酸カリウム、過ルテニウム酸テトラブチルアンモニウム、過ルテニウム酸テトラプロピルアンモニウム、ニトロシル塩化ルテニウム、ニトロシル硝酸ルテニウム、ヘキサシアノルテニウム(II)酸カリウム、ペンタクロロルテニウム(III)酸カリウム、ヘキサクロロルテニウム酸(IV)アンモニウム、カルボニルジヒドリドトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、カルボニルクロロヒドリドトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ルテニウムポルフィリン錯体、トリス(2,2´-ビピリジル)ルテニウム(II)ジクロリド等のルテニウム化合物、酸化オスミウム、オスミウムカルボニル、塩化オスミウム、ビス(シクロペンタジエニル)オスミウム、ヘキサクロロオスミウム(IV)酸ナトリウム、ヘキサクロロオスミウム(IV)酸カリウム、ヘキサクロロオスミウム酸(IV)アンモニウム、ヘキサブロモオスミウム酸(IV)アンモニウム、ヘキサブロモオスミウム酸(IV)カリウム、オスミウム(VI)酸カリウム等のオスミウム化合物等が挙げられる。
【0029】
上述した中でも、貴金属化合物は、好ましくは白金化合物(ジニトロジアンミン白金、ビス(アセチルアセトナート)白金、ヘキサクロロ白金(IV)酸、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム六水和物、ヘキサアンミン白金(IV)クロライド、ヘキサアンミン白金(IV)水酸塩溶液、テトラアンミン白金(II)ジクロライド、臭化白金(II)、臭化白金(IV)、シアン化白金(II)およびヨウ化白金)、金化合物(ジメチル(アセチルアセトナート)金(III)、塩化金、塩化金酸、臭化金、ヨウ化金、シアン化金、シアン化金カリウム)およびパラジウム化合物(塩化パラジウム、ヨウ化パラジウム、臭化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナート)パラジウム(II)、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム、テトラクロロパラジウム酸カリウム)からなる群から選択される1種以上を含む。このような化合物は、還元速度が比較的小さく、貴金属化合物と卑金属化合物との還元速度の差の影響を小さくすることに寄与することができる。これにより、貴金属化合物のみが還元して粒子化することが抑制され、触媒粒子とした際の合金化率が高まる。
【0030】
特に貴金属化合物が白金化合物を含む場合、貴金属化合物は、好ましくは、ジニトロジアンミン白金、ビス(アセチルアセトナート)白金、ヘキサクロロ白金(IV)酸、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム六水和物およびヨウ化白金からなる群から選択される1種以上を含む。このような白金化合物は、還元速度が比較的小さく、貴金属化合物と卑金属化合物との還元速度の差を小さくすることに寄与することができる。
【0031】
混合物中の貴金属化合物の含有量は、特に限定されず、貴金属化合物の第1の溶媒に対する溶解度や、卑金属化合物との比率に応じて適宜設定される。
【0032】
卑金属元素は、例えば貴金属元素と組み合わせることにより合金触媒の触媒性能を向上させるために添加される。例えば、固体高分子形燃料電池の合金触媒の場合、貴金属元素の卑金属元素との合金化により、貴金属原子間の原子間距離が短くなり、これにより酸素との結合・脱離しやすさが最適化されることに起因して、触媒粒子の触媒活性が向上すると考えられている。
【0033】
卑金属元素としては、触媒粒子の構成元素として使用可能であれば特に限定されず、合金触媒の用途、目的に応じて、貴金属以外の任意の金属元素を1種単独で、または2種以上組み合わせ用いることができる。
【0034】
このような卑金属元素としては、例えば、金属、半金属の性質を有し、かつ貴金属でない周期表第1族~第16族の各種元素が挙げられる。具体的には、卑金属元素として、アルカリ金属元素(Li、Na、K、Rb、Cs、Fr)、アルカリ土類金属元素(Ca、Sr、Ba、Ra)、遷移金属元素(Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ni)、希土類元素(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)、アクチノイド(Ac、Th、Pa、U、Np、Pu)、その他の金属的性質を示す典型元素(Be、Mg、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Tl、Sn、Pb、Bi、Po)、半金属元素(B、Si、Ge、As、Sb、Te、At、Se)が挙げられる。
【0035】
卑金属元素は、用途に応じて適宜選択可能であるが、特に固体高分子形燃料電池用の合金触媒を製造する場合、好ましくはTi、Zr、V、Nb、Mn、Fe、Co、Ni、Al、SnおよびSiからなる群から選択される1種以上を含み、より好ましくはCo、Fe、NiおよびTiからなる群から選択される1種以上を含む。
【0036】
上述した卑金属元素を含む卑金属化合物としては、例えば、卑金属元素の無機および/または有機塩、酸化物、硫化物、ハロゲン化物等を、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。このような卑金属化合物としては、Co、Fe、NiおよびTiについては、具体的には、酸化コバルト、水酸化コバルト、フッ化コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルト、ヨウ素酸コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、シアン化コバルト、アセチルアセトナートコバルト、ギ酸コバルト、シュウ酸コバルト、オレイン酸コバルト、コバルトカルボニル、コバルトセン、シクロヘキサン酪酸コバルト、ステアリン酸コバルト、チオシアン酸コバルト、テトラメトキシフェニルポルフィリンコバルト、ナフテン酸コバルト、フタロシアニンコバルト、ヘキサシアノコバルト(III)酸カリウム、ヘキサニトロコバルト(III)酸ナトリウム、炭酸コバルト、酢酸コバルト等のコバルト化合物、酸化鉄、水酸化鉄、フッ化鉄、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硝酸鉄、硫酸鉄、シアン化鉄(II)、硫化鉄、塩化ヒドロキシルアンモニウム、フェロシアン化ナトリウム、フェロシアン化カリウム、フェリシアン化カリウム、過塩素酸鉄、炭酸鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、シュウ酸第二鉄カリウム、シュウ酸鉄第二鉄アンモニウム、酸化水酸化鉄、乳酸鉄(II)、硫酸アンモニウム鉄(II)、リン酸鉄、クエン酸鉄、クエン酸アンモニウム鉄、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、鉄ペンタカルボニル、ドデカカルボニル三鉄、フタロシアニン鉄、鉄(III)アセチルアセトナート等の鉄化合物、酸化ニッケル(II)、水酸化ニッケル(II)、フッ化ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)、ヨウ化ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、炭酸ニッケル、クエン酸ニッケル、シュウ酸ニッケル、ステアリン酸ニッケル、安息香酸ニッケル、酢酸ニッケル、過塩素酸ニッケル、シアン化ニッケル(II)カリウム、塩化ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、ジカルボニルビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、ニッケル(II)アセチルアセトナート、フタロシアニンニッケル等のニッケル化合物、フッ化チタン、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタン、硫酸チタン、炭化チタン、窒化チタン、シュウ酸チタンカリウム、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラ-n-ブトキシド等のチタン化合物等が挙げられる。
【0037】
上述した中でも、卑金属化合物は、好ましくは、塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルト、シアン化コバルト、チオシアン酸コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、アセチルアセトナートコバルト、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、鉄(III)アセチルアセトナート、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、シアン化ニッケル(II)カリウム、ニッケル(II)アセチルアセトナート、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタン、チタニウムテトライソプロポキシドおよび硫酸チタンからなる群から選択される1種以上、より好ましくは、塩化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、アセチルアセトナートコバルト、硫酸鉄、硝酸鉄、鉄(III)アセチルアセトナート、塩化ニッケル(II)、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、ニッケル(II)アセチルアセトナート、チタニウムテトライソプロポキシドおよび硫酸チタンからなる群から選択される1種以上を含む。これらの卑金属化合物は、比較的還元速度が大きく、このため卑金属化合物と貴金属化合物との還元速度の差の影響を小さくすることに寄与する。これにより、貴金属化合物のみが還元して粒子化することが抑制され、触媒粒子とした際の合金化率が高まる。
【0038】
また、貴金属化合物と卑金属化合物とは、還元速度の差ができる限り小さくなるように選択されることが好ましい。具体的には、還元しにくく還元速度の小さな貴金属化合物と、還元しやすく還元速度の大きい卑金属化合物とを組み合わせることが好ましい。このような組み合わせとしては、例えば貴金属化合物がジニトロジアンミン白金、ビス(アセチルアセトナート)白金、ヘキサクロロ白金(IV)酸、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム六水和物、ヨウ化白金、ジメチル(アセチルアセトナート)金(III)、塩化金、塩化金酸、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、ジアンミンジニトロパラジウム(II)およびビス(アセチルアセトナート)パラジウム(II)からなる群から選択される1種以上を含み、かつ卑金属化合物は、塩化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、アセチルアセトナートコバルト、硫酸鉄、硝酸鉄、鉄(III)アセチルアセトナート、塩化ニッケル(II)、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、ニッケル(II)アセチルアセトナート、チタニウムテトライソプロポキシドおよび硫酸チタンからなる群から選択される1種以上を含む場合が挙げられる。これらの化合物は、市場より容易かつ安価に入手可能である。なお、このような組み合わせは、例えばHSAB則(Hard and Soft Acids and Bases)に基づき各化合物の還元反応における安定性を決定し、選択することができる。
【0039】
混合物中の卑金属化合物の含有量は、特に限定されず、卑金属化合物の第1の溶媒に対する溶解度や、貴金属化合物との比率に応じて適宜設定される。具体的には、例えば固体高分子形燃料電池用の合金触媒を製造する場合、貴金属化合物の貴金属元素1モルに対し、卑金属化合物の卑金属元素が例えば0.1モル以上5モル以下、好ましくは0.3モル以上3モル以下となるように卑金属化合物の含有量が設定される。
【0040】
(第1の溶媒)
混合物に用いる第1の溶媒は、上述した貴金属化合物および卑金属化合物を溶解可能であれば特に限定されず、水や各種有機溶媒を使用することができ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。有機溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、グリコール系溶媒、炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒、ハロゲン化炭化水素、アミド系溶媒、カルボン酸系溶媒等が挙げられる。これらのうち、水、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒およびカルボン酸系溶媒は、比較的貴金属化合物および卑金属化合物を溶解しやすい。また、これらの溶媒は、後述する第2の工程において、比較的容易に多孔質材料から除去することができる。さらには、これらの溶媒は、第2の溶媒として水等の極性溶媒を用いる場合、これらの極性溶媒との親和性が高い。
【0041】
特に、貴金属化合物および卑金属化合物の溶解性、後述する還元溶液との混合を考慮すると、第1の溶媒は、水を含むことが好ましい。
【0042】
アルコール系溶媒としては、例えば、炭素数1~10の分岐、環状または直鎖状アルコール化合物が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。またアルコール系溶媒に含まれるアルコール化合物は、第1級、第2級および第3級アルコールのいずれであってもよく、多価アルコールであってもよい。より具体的には、アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブチルアルコール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、シクロペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、メチルシクロヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール等が挙げられる。
【0043】
エーテル系溶媒としては、例えば、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、メチル-n-プロピルエーテル、エチル-n-プロピルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、メチルイソプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル-n-ブチルエーテル、エチル-n-ブチルエーテル、メチルイソブチルエーテル、エチルイソブチルエーテル等の炭素数1~4の分岐または直鎖状アルキルのエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、オキサシクロヘプタン、1,4-ジオキサン等の環状エーテル等が挙げられる。
【0044】
ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチル-n-ブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ペンタナール、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
【0045】
エステル系溶媒としては、例えば、炭素数1~5の分岐、環状または直鎖状アルコール化合物と炭素数1~5の有機酸または炭酸とのエステルが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。具体的には、エステル系溶媒としては、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸-sec-ブチル、酢酸-tert-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ベンジル酢酸アミル、酢酸イソアミル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸-n-ブチル、酪酸-sec-ブチル、酪酸-tert-ブチル、酪酸イソブチル、酪酸イソアミル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸-n-ブチル、吉草酸-sec-ブチル、吉草酸-tert-ブチル、イソ吉草酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸-n-ブチル、乳酸-sec-ブチル、乳酸-tert-ブチル、乳酸イソブチル等が挙げられる。
【0046】
カルボン酸系溶媒としては、例えば、炭素数1~5の有機酸が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。具体的には、カルボン酸系溶媒としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、乳酸等が挙げられる。
【0047】
(多孔質材料)
多孔質材料は、得られる合金触媒において、触媒粒子を担持する担体である。多孔質材料は、通常その構成粒子が多数の細孔を有し、大きな表面積を有している。そして、多孔質材料は、その細孔内部および外部の露出した表面において、触媒粒子を担持することが可能である。
【0048】
多孔質材料としては、触媒の担体として使用可能であれば特に限定されず、多孔質炭素材料(例えば活性炭等)、シリカ、シリカアルミナ、シリカカルシア、モレキュラーシーブ、アルミナ、ゼオライト、チタニア、粘土、珪藻土、炭化ケイ素等が挙げられる。
【0049】
上述した中でも、多孔質材料としては、細孔容量が比較的大きく、入手、取り扱いが容易な点で、シリカ、モレキュラーシーブ、アルミナ、ゼオライト、チタニア、多孔質炭素材料が好ましい。
【0050】
また、多孔質材料の表面積は、材料の種類が異なる場合、気孔率を比較することにより、多孔質材料の表面積の比較が可能である。気孔率とは、材料の占める容積に対する空間の容積の比率を示し、例えば多孔質材料であれば、1g当たりの細孔容積を求め、細孔容積を、多孔質材料の密度(真密度)から算出した1g当たりの容積で除することにより、算出することが可能である。また、水銀ポロシメトリーを用いた水銀気孔率法などにより、測定することも可能である。気孔率は3%以上75%以下であることが好ましく、5%以上50%以下であることがより好ましい。
【0051】
なお、同一種の多孔質材料の場合、比表面積(例えば、BET比表面積)を比較することにより、多孔質材料の表面積の比較が可能である。例えば、多孔質材料が、多孔質炭素材料である場合、そのBET比表面積は300cm2/g以上であることが好ましく、450cm2/g以上2500cm2/g以下であることがより好ましい。
【0052】
(その他の成分)
また、混合物中において、貴金属化合物や卑金属化合物の溶解を補助するために、酸や塩基が適宜添加されてもよい。ここで、上記の「酸」とは、いわゆるブレンステッド-ローリの定義に基づく酸をいい、プロトンを与える物質をいう。同様に、上記の「塩基」とはいわゆるブレンステッド-ローリの定義に基づく塩基をいい、プロトンを受容する物質をいう。このような、酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、リン酸、等の無機酸や酢酸、クエン酸、ギ酸、乳酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機酸が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。また、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アンモニア、等が挙げられる。
【0053】
混合物の25℃におけるpHは、特に限定されないが、例えば1.0以上11.0以下、好ましくは2.0以上9.0以下であることができる。上記範囲内である場合、多孔質材料の劣化を防止しつつ貴金属化合物および卑金属化合物を混合物中に好適に溶解させることができる。
【0054】
以上説明した各材料を混合し、混合物(混合液)を得る。混合方法および材料の添加順序は、特に限定されず、多孔質材料が十分に混合物中に分散し、かつ貴金属化合物および卑金属化合物が溶解するように、適宜混合方法を選択することができる。
【0055】
混合方法の一例を以下に示す。まず、第1の溶媒に多孔質材料を添加し、超音波ホモジナイザー等により、多孔質材料を第1の溶媒中で分散させる。次いで、貴金属化合物および卑金属化合物を第1の溶媒に添加し、所定時間撹拌する。なお、この場合において、貴金属化合物および卑金属化合物の添加順序は特段限定されるものではなく、一方を先に添加してもよいし、両方を同時に添加してもよい。以上の混合時においては、必要に応じて加熱等を行って貴金属化合物および卑金属化合物の第1の溶媒への溶解を促進させてもよい。
【0056】
あるいは、第1の溶媒を分割し、一方に多孔質材料を分散させ、他方に貴金属化合物および卑金属化合物を溶解させ、これらを最終的に混合することにより混合物を得てもよい。さらには、第1の溶媒に予め貴金属化合物および卑金属化合物を溶解させておき、その後多孔質材料を分散させてもよい。
【0057】
〔2.2. 第2の工程〕
第2の工程では、以下の式(1)を満足するまで混合物から第1の溶媒を除去することにより、貴金属化合物および卑金属化合物を多孔質材料に固定する。
(混合物中の第1の溶媒の容積)≦(多孔質材料の細孔容積)×5 (1)
【0058】
このように、混合物中における第1の溶媒を多孔質材料の細孔容積に対し十分に小さくすることにより、多孔質材料の細孔表面に貴金属化合物および卑金属化合物が均一に分散しつつ、付着し、固定される。これにより、後述する第3の工程において貴金属化合物および卑金属化合物の還元反応の反応場が多孔質材料の細孔表面に固定される。
【0059】
これに対し、混合物中の第1の溶媒の容積が、多孔質材料の細孔容積の5倍を超えると、多孔質材料に対し第1の溶媒の量が多くなりすぎる結果、多孔質材料の細孔内部に貴金属化合物および卑金属化合物が十分には保持されず、多孔質材料外部の第1の溶媒中にも多量の貴金属化合物および卑金属化合物が溶解しつつ存在してしまう。この結果、後述する第3の工程において貴金属化合物および卑金属化合物の還元反応の反応場が多孔質材料の細孔表面には十分には固定されず、貴金属化合物および卑金属化合物の還元速度の差の影響を小さくすることができない。このため、得られる触媒粒子の合金化率を大きくすることができない。
【0060】
好ましくは、以下の式(2)を満足するまで混合物から第1の溶媒を除去することにより、貴金属化合物および卑金属化合物を多孔質材料に固定する。
(混合物中の第1の溶媒の容積)≦(多孔質材料の細孔容積)×2 (2)
【0061】
第1の溶媒の除去は、例えば加熱、減圧、風乾等により行うことができる。効率的に第1の溶媒の除去を行うためにも、例えば、ロータリーエバポレーター等のエバポレーターを用いて減圧により第1の溶媒を揮発させることが好ましい。
【0062】
減圧時においては、加熱と組み合わせることにより、第1の除去効率が向上する。加熱温度は、例えば50℃以上110℃以下、好ましくは65℃以上95℃以下であることができる。
【0063】
また、第1の溶媒の除去時において、均一に第1の溶媒を除去するために、必要に応じて撹拌を行ってもよい。混合物中の第1の溶媒の容積は、第1の溶媒の除去を行っている最中に、サンプル全体の重量を測定し、この重量から多孔質材料、貴金属化合物、卑金属化合物の重量を差し引いて第1の溶媒の重量を求めることで、混合物中の第1の溶媒の容積を算出することができる。あるいは、第1の溶媒の除去を行っている最中に、除去した溶媒を回収し、回収した溶媒の重量を測定して、元の溶媒重量から差し引いた値からも、算出することができる。多孔質材料の細孔容積は、例えば窒素吸着測定(例えばマイクロトラック・ベル社製、BEL-MAX)を用いて測定することができる。具体的には、窒素吸脱着等温線を測定し、この窒素吸脱着等温線にBET法を適用することによりBETプロットを作成する。ついで、BETプロットから、全細孔容積を算出することができる。後述する実施例では、マイクロトラック・ベル社製、BEL-MAXを用いた上記方法により、多孔質材料の細孔容積を算出した。
【0064】
〔2.3. 第3の工程〕
第3の工程においては、多孔質材料に、酸化還元電位が-1.20V以下である還元剤と第2の溶媒とを含む還元溶液を接触させる。ここで、還元溶液中における還元剤の物質量は、貴金属元素の総物質量の5倍以上である。これにより、貴金属化合物および卑金属化合物が同時に還元され、合金化率の高い合金粒子が触媒粒子として、多孔質材料の細孔内部に均一に析出する。
【0065】
詳しく説明すると、第2の工程において、貴金属化合物および卑金属化合物は、多孔質材料の細孔内部に均一に担持・固定されている。このように貴金属化合物および卑金属化合物は、多孔質材料の細孔内部に均一に担持・固定された状態で、酸化還元電位が-1.20V以下である比較的還元力の高い還元剤を多量に接触させることにより、多孔質材料の細孔内部に均一に担持・固定された貴金属化合物および卑金属化合物が、限定された反応場において、迅速に還元される。この結果、貴金属化合物および卑金属化合物の還元速度の差の影響が小さくなり、合金化率が高い触媒粒子が形成される。また、貴金属化合物および卑金属化合物は、多孔質材料の細孔内部に均一に担持・固定された状態で迅速に還元されることから、多孔質材料の細孔内部に均一に、微細な触媒粒子が析出することとなる。さらには、触媒粒子毎の組成のばらつきも小さくなる。以上により、合金触媒の触媒粒子は、小粒径かつ高分散であり、組成のばらつきが小さく、合金化率の高いものとなる。
【0066】
上述したように還元溶液は、酸化還元電位が-1.20V以下である還元剤と第2の溶媒とを含む。
還元剤の酸化還元電位は、-1.20V以下である。これにより、貴金属化合物および卑金属化合物を同時かつ迅速に還元することができる。これに対し、還元剤の酸化還元電位が-1.20Vを超えると、還元力が弱くなる結果、貴金属化合物の還元速度が遅くなり、貴金属化合物および卑金属化合物の還元速度の差が大きくなり、得られる触媒粒子の合金化率を大きくすることができない。還元剤の酸化還元電位は、好ましくは-1.20V以下、より好ましくは-1.28V以上-1.23V以下である。なお、本明細書において、酸化還元電位は、比較電極として飽和塩化銀電極を内蔵した酸化還元電位測定用電極(例えば、(株)堀場製作所製ORP電極9300-10Dや、東亜DKK(株)製ORP複合電極PST-5821C)およびORPメータ(例えば、(株)堀場製作所製ポータブル型pHメータD-72や、東亜DKK(株)製pHメータHM-42X)用いて還元剤の水溶液を測定した値を、標準水素電極基準の値に補正することにより求められる電位をいう。還元溶液が水以外を溶媒としている場合、還元剤の酸化還元電位を測定することは困難であることから、アルコールへ変換可能なカルボニル化合物によって還元剤の還元力の強さを判断することが可能である。例えば、ケトン類やアルデヒド類のみをアルコールに還元可能な還元剤よりも、ケトン類、アルデヒド類に加えてカルボン酸類やエステル類をも還元可能な還元剤の方が、強力な還元剤である、と判断することができる。
【0067】
このような還元剤としては、上述した酸化還元電位を有するものであれば特に限定されないが、例えば水素化ホウ素リチウム(LiBH4)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化ホウ素カリウム(KBH4)、水素化トリエチルホウ素リチウム等の水素化ホウ素アルカリ金属塩、水素化ホウ素ニッケル(Ni(BH4)2)、水素化ホウ素亜鉛(Zn(BH4)2)等の水素化ホウ素遷移金属塩、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)、水素化アルミニウムナトリウム(NaAlH4)、水素化アルミニウムカリウム(KAlH4)、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム等の水素化アルミニウムアルカリ金属塩、シアノ水素化ホウ素リチウム(LiBH3CN)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH3CN)、シアノ水素化ホウ素カリウム(KBH3CN)等のシアノ水素化ホウ素アルカリ金属塩、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL)等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
したがって、還元剤は、水素化ホウ素アルカリ金属塩、水素化ホウ素遷移金属塩、水素化アルミニウムアルカリ金属塩、シアノ水素化ホウ素アルカリ金属塩および水素化ジイソブチルアルミニウムからなる群から選択される1種または2種以上を含むことができ、より具体的には、水素化ホウ素リチウム(LiBH4)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化ホウ素カリウム(KBH4)、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ホウ素ニッケル(Ni(BH4)2)、水素化ホウ素亜鉛(Zn(BH4)2)、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)、水素化アルミニウムナトリウム(NaAlH4)、水素化アルミニウムカリウム(KAlH4)、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、シアノ水素化ホウ素リチウム(LiBH3CN)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH3CN)、シアノ水素化ホウ素カリウム(KBH3CN)、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL)からなる群から選択される1種または2種以上を含むことができる。
【0069】
上述した中でも、貴金属化合物および卑金属化合物の両者を還元可能な高い還元力を有すること、複数の溶媒に可溶であること、試薬として容易に入手可能であること、発火等の危険性が低いこと等の観点から、還元剤は、好ましくは水素化ホウ素アルカリ金属塩、水素化ホウ素遷移金属塩、シアノ水素化ホウ素アルカリ金属塩を含み、より好ましくは水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウムおよび水素化ホウ素リチウムからなる群から選択される1種以上を含む。これらの還元剤は、貴金属化合物および卑金属化合物を同時に還元するための十分な還元力を有するとともに、比較的容易に入手可能である。
【0070】
また、還元溶液における還元剤の物質量は、多孔質材料に担持される貴金属化合物の貴金属元素の総物質量に対し、5倍以上である。これにより、貴金属化合物および卑金属化合物に対して充分に過剰な量の還元剤が存在し、貴金属化合物および卑金属化合物に接触することができることから、貴金属化合物および卑金属化合物を同時かつ迅速に還元することができる。還元溶液における還元剤の物質量は、貴金属元素の総物質量に対し5倍未満の場合、たとえ酸化還元電位が-1.28Vを下回る非常に強力な還元剤を用いたとしても、還元剤の量が貴金属化合物、卑金属化合物に対して不充分であることから、貴金属化合物、卑金属化合物の還元速度が遅くなる、あるいは貴金属化合物、卑金属化合物を十分に還元することができなくなり、貴金属化合物および卑金属化合物の還元速度の差の影響が大きくなり、得られる触媒粒子の合金化率を大きくすることができない。さらには、貴金属化合物、卑金属化合物を十分に還元できない結果、多孔質材料に触媒粒子が担持されず、担持率が仕込みの値に到達しない場合がある。
【0071】
還元溶液における還元剤の物質量は、貴金属化合物および卑金属化合物の還元速度の差を小さくする観点から、貴金属元素の総物質量に対し好ましくは10倍以上、より好ましくは100倍以上である。なお、還元溶液における還元剤の物質量の上限は、特に限定されないが、コストを抑制する観点から、例えば貴金属元素の総物質量に対し200倍以下とすることができる。
【0072】
還元溶液における還元剤の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1mol/L以上5.5mol/L以下、好ましくは1.0mol/L以上5.0mol/L以下であることができる。これにより、過度に還元剤が希釈され、還元速度が遅くなることを防止することができるとともに、還元剤の濃度が適度であるため、還元反応を十分に制御することができる。
【0073】
さらに還元溶液に含まれる第2の溶媒は、上述した還元剤を溶解可能であれば特に限定されず、上述した第1の溶媒において用いることのできる溶媒のうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
これらのうち、水、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒は、比較的還元剤を溶解しやすいことから、好適に用いることができる。
【0075】
ここで、混合物に含まれる第1の溶媒と、還元溶液に含まれる第2の溶媒との好ましい関係について説明する。上述したように、本実施形態においては、還元溶液を多孔質材料に接触させることにより、迅速に貴金属化合物および卑金属化合物を還元させる。このために、第1の溶媒と第2の溶媒とは、混和性が高いことが好ましい。
【0076】
このため、第1の溶媒と第2の溶媒とは、同一の溶媒を含むか、第1の溶媒のオクタノール/水分配係数と第2の溶媒のオクタノール/水分配係数との差の絶対値が、1.2以下であることが好ましい。
【0077】
一方で、第1の溶媒には、貴金属化合物および卑金属化合物を溶解させることが求められ、第2の溶媒には、還元剤を溶解させることが求められる。このような貴金属化合物、卑金属化合物、および還元剤を溶解させる観点からは、水や、水と親和性高い溶媒が有利である。したがって、第1の溶媒と第2の溶媒とは、特に、以下の組み合わせまたは関係(i)~(iii)のいずれかを満足することが好ましい。
【0078】
(i)第1の溶媒が水を含み、かつ、第2の溶媒のオクタノール/水分配係数が、0.8以下である。
(ii)第2の溶媒が水を含み、かつ、第1の溶媒のオクタノール/水分配係数が、0.8以下である。
(iii)第1の溶媒および第2の溶媒が、ともに水を含む。
【0079】
ここで、「オクタノール/水分配係数」は、「JIS Z 7260-107:2000 分配係数(1-オクタノール/水)の測定 フラスコ振とう法」、あるいは、「JIS Z 7260-117:2006 分配係数(1-オクタノール/水)の測定 高速液体クロマトグラフィー」に基づき求めることができる。例えば、以下の各溶媒のオクタノール/水分配係数は、エタノール:-0.32、イソプロパノール:0.05、アセトン:-0.24、メタノール:-0.82、1-プロパノール:0.25、ジエチルエーテル:-0.36、酢酸:-0.17、トルエン:2.73、ベンゼン:2.13、テトラヒドロフラン:0.46である。
【0080】
また、還元溶液の25℃におけるpHは、特に限定されないが、好ましくは8.0以上12.0以下、より好ましくは8.5以上11.5以下である。これにより、還元剤が適度に安定し、不本意な還元剤の分解や、失活が抑制される。また、pHが12.0以下であることにより、還元剤の安定性が過度に高くなることが防止され、還元速度の低下が抑制される。
【0081】
還元溶液のpHの調節は、例えば上述したような酸、塩基、特に塩基によって調節することができる。特に、第3の工程で得られる合金触媒を含む液体は、後述する後工程において洗浄を行うが、この際、多くの種類のイオンが液中に含まれていると、イオンを除去するために要する洗浄回数が多くなってしまうことから、還元溶液のpHが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、およびアンモニア水からなる群から選択される塩基を用いて調節されることが好ましい。
【0082】
また、還元反応時における温度は、特に限定されず、第2の溶媒の種類や、還元反応の速度を考慮して適宜決定できる。還元反応時における温度は、例えば、0℃以上270℃以下、好ましくは3℃以上150℃以下であることができる。
【0083】
また、還元反応の時間は、特に限定されず、貴金属化合物および卑金属化合物の還元状態に応じて適宜選択でき、例えば10分以上24時間以下、好ましくは15分以上15時間以下であることができる。
【0084】
また、還元反応時において、多孔質材料と還元溶液との混合液を必要に応じて撹拌してもよい。
また、還元反応時において、第1の溶媒、第2の溶媒に水以外の溶媒を含む場合、反応による発火の危険性を抑える観点から、不活性ガス(希ガス、窒素等)雰囲気にて還元反応を行うことが好ましい。第1の溶媒、第2の溶媒に水以外の溶媒を含まない場合には、還元反応時の雰囲気は大気中、不活性ガス中など、任意の雰囲気下で行うことができる。
以上のようにして、多孔質材料の細孔内部に小粒径、高分散かつ合金化率が高い触媒粒子が担持された、合金触媒を得ることができる。
【0085】
〔2.4. 後工程〕
得られた合金触媒は、必要に応じて公知の方法により洗浄、乾燥等の後処理を行って使用することができる。
【0086】
また、得られた合金触媒について熱処理を行ってもよい。熱処理を行うことにより、触媒粒子の合金化率が向上する。従来の合金触媒の熱処理を行うと、合金化率が向上する一方で、触媒粒子同士が融着し、触媒粒子の粒径が大きくなり、凝集も進むことが知られている。しかしながら、上述した本実施形態にかかる合金触媒の製造方法においては、触媒粒子が多孔質材料の細孔内部に高分散で均一に分布していることから、熱処理を行った際にも触媒粒子同士が接触しにくく、この結果粒子径の増大や、分散性の低下は生じにくい。
【0087】
熱処理の温度は、特に限定されないが、例えば450℃以上1200℃以下、好ましくは600℃以上900℃以下とすることができる。また、熱処理の時間も特に限定されず、例えば10分以上3時間以下、好ましくは20分以上1時間以下とすることができる。
なお、熱処理は、不活性ガス(希ガス、窒素等)雰囲気、還元性ガス(水素等)雰囲気、不活性ガスと還元性ガスの混合雰囲気、あるいは真空雰囲気下で行うことが好ましい。
【0088】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。本実施形態に係る合金触媒の製造方法によれば、第2の工程において、所定の量となるまで第1の溶媒を除去することにより、多孔質材料の細孔内部の表面付近に貴金属化合物および卑金属化合物を固定することができる。そして、このような貴金属化合物および卑金属化合物が固定された多孔質材料に対し、第3の工程で強力な還元剤を十分な量接触させることにより、貴金属化合物および卑金属化合物の還元反応の反応場が多孔質材料の細孔内部の表面付近に制限され、かつ貴金属化合物および卑金属化合物の還元速度の差の影響が小さくなる。この結果、合金化率の大きな小粒径の粒子が、多孔質材料の細孔内部の表面にわたり均一かつ大量に発生する。このため、多孔質材料の細孔内部に小粒径かつ高分散であり、組成のばらつきが小さく、合金化率が高い触媒粒子が担持された、合金触媒を得ることができる。
【0089】
なお、熱処理による合金化処理や気相による還元反応の前処理として多孔質材料から溶媒を除去することは従来知られていた一方で、本実施形態のように、還元溶液を用いた還元反応の前処理として多孔質材料から予め溶媒を除去することは、従来知られていなかった。
【0090】
また、触媒粒子の分散性を維持するための保護剤が不要であるため、保護材の除去工程も不要であり、除去による合金触媒の劣化(例えば、触媒粒子の粗大化、凝集等)を防止することができる。さらには、保護剤を不要とすることにより、多孔質材料の細孔内部における触媒粒子の担持量が増加することができる。
【0091】
<3.合金触媒>
つぎに、本実施形態に係る合金触媒について説明する。本実施形態に係る合金触媒は、上述した合金触媒の製造方法によって製造されたものである。したがって、本実施形態に係る合金触媒では、多孔質材料上に小粒径かつ高分散であり、組成のばらつきが小さく、合金化率の高い触媒粒子が担持されている。以下、合金触媒の構成について詳細に説明する。
【0092】
〔3.1.触媒粒子、貴金属元素、卑金属元素、及び多孔質材料〕
触媒粒子は、貴金属元素と卑金属元素とを含む。触媒粒子内では、貴金属元素と卑金属元素とが合金化されている。貴金属元素及び卑金属元素は上述した貴金属化合物及び卑金属化合物に由来するものであり、具体的な種類は上述した通りである。貴金属元素は、白金、金、およびパラジウムからなる群から選択される1種以上を含むことが好ましく、卑金属元素は、Co、Fe、NiおよびTiからなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。多孔質材料の具体的な構成は上述した通りである。
【0093】
〔3.2.触媒粒子の粒径〕
上述したように、本実施形態に係る合金触媒では、多孔質材料上に担持される触媒粒子が小粒径となっている。より具体的に説明すると、本実施形態における触媒粒子の粒径は、X線回折装置によるXRD(X線回折分析)測定の結果より、以下のシェラーの式を用いて算出される。したがって、ここでの粒径は所謂平均粒径である。なお、合金触媒は熱処理される場合があるが、熱処理の有無に関わらず、本実施形態における触媒粒子の粒径は本方法により測定される平均粒径となる。
シェラーの式:D=Kλ/βcosθ
D:結晶子径、K:シェラー定数(0.94)、λ:CuKαのX線波長、β:半値幅、θ:Bragg角
【0094】
そして、本実施形態に係る合金触媒では、水素50vol%+アルゴン50vol%からなる混合ガスを150mL/minで流通させながら、合金触媒を900℃で20分間熱処理した場合に、熱処理後の触媒粒子の粒径が3nm以上7.5nm以下となる。このように、本実施形態に係る合金触媒では、触媒粒子が多孔質材料上に小粒径かつ高分散で担持されているので、熱処理後であっても触媒粒子同士がほとんど凝集せず、小粒径を維持することができる。
【0095】
〔3.3.分散性〕
上述したように、本実施形態に係る合金触媒では、触媒粒子が多孔質材料上に高分散で担持されている。触媒粒子の分散性は、以下の式(5):
(分散度)={(上記熱処理後の触媒粒子の粒径)-(上記熱処理前の触媒粒子の粒径)}/(上記熱処理前の前記触媒粒子の粒径) (5)
で定義される分散度で評価される。本実施形態に係る合金触媒では、分散度が1.5以下となる。分散度が小さいほど、触媒粒子の分散性が高いと言える。
【0096】
〔3.4.合金化率〕
上述したように、本実施形態に係る合金触媒では、触媒粒子の合金化率が非常に高くなっている。ここで、合金化率は以下の式(3):
合金化率[%]={(バルク貴金属の格子定数)-(触媒粒子の格子定数)}/{(バルク貴金属の格子定数)-(バルク合金の最大ピークの格子定数)}×100 (3)
で定義される。本実施形態に係る合金触媒では、合金化率が80%以上となる。合金化率が高いほど貴金属元素と卑金属元素との合金化が進んでいると言える。
【0097】
合金化率は、概念的には触媒粒子内の卑金属元素の固溶度合いを示す値であり、合金化率が高いほど卑金属元素と貴金属元素が触媒粒子内で均一に固溶している。貴金属元素及び卑金属元素が合金化されることで、貴金属元素のみからなる触媒粒子に比べて原子間距離が変動し、固体高分子形燃料電池の発電性能、特に初期の発電性能が向上する。ただし、ここで求められる合金化率はあくまで触媒粒子全体の平均的な合金化率であり、合金化率が高いからといって個々の触媒粒子が十分に合金化されているとは必ずしも言えない。そこで、本実施形態では、合金化率の他に後述する卑金属元素濃度の標準偏差を評価し、この標準偏差が低いことを合金触媒の要件とした。式(3)で求められる合金化率が高く、かつ標準偏差が低い場合には、触媒粒子毎の組成のばらつきが小さく、かつ個々の触媒粒子も十分に合金化されていると考えられる。
【0098】
式(3)において、触媒粒子の格子定数は、X線回折分析により求められた値である。バルク貴金属の格子定数は、貴金属元素の標準試料をX線回折分析することで得られた格子定数であり、データベース(例えば、国際回折データセンター(International Centre for Diffraction Date; ICDDが配布するデータベース)に登録されている。なお、触媒粒子に貴金属元素が複数種類含まれている場合、バルク貴金属の格子定数は、触媒粒子中の物質量が最も多い貴金属元素の格子定数を用いることができる。バルク合金の最大ピークの格子定数は、触媒粒子と同一組成の標準試料をX線回折分析することで得られた格子定数であり、データベース(例えば、国際回折データセンター(International Centre for Diffraction Date; ICDDが配布するデータベース)に登録されている。なお、ここでの触媒粒子の組成は触媒粒子全体の平均的な組成、すなわち多孔質材料に担持されている貴金属元素及び卑金属元素の質量%である。多孔質材料に担持されている貴金属元素及び卑金属元素の質量%は、後述する実施例において触媒粒子の担持率として評価されている。後述する実施例では、国際回折データセンターが配布するデータベースに基づいて、合金化率を算出した。
【0099】
〔3.5.組成のばらつき〕
上述したように、本実施形態に係る合金触媒では、触媒粒子毎の組成のばらつきが小さくなっている。つまり、より多くの触媒粒子の組成が仕込みの組成(すなわち、合金触媒の作製に使用した貴金属化合物及び卑金属化合物の化学式及び使用量から導かれる触媒粒子の組成。触媒粒子の組成は、例えば多孔質材料に担持された全貴金属元素の質量%及び全卑金属元素の質量%として示される。)に非常に類似する。このため、より多くの触媒粒子が効率よく触媒反応(酸素還元反応)を行うことができ、ひいては、固体高分子形燃料電池の発電性能、特に初期の発電性能を高めることができる。組成のばらつきが大きい場合、触媒粒子毎に組成が大きく異なることになるので、触媒反応を高効率で行う触媒粒子とそうでない触媒粒子とが混在することになり、初期の発電性能が低下する。
【0100】
本実施形態に係る合金触媒では、触媒粒子毎の組成のばらつきを触媒粒子の卑金属元素濃度の標準偏差で評価する。当該標準偏差は、6.5以下となる。この場合、組成のばらつきは十分小さいと評価できる。すなわち、標準偏差が6.5以下となる場合、より多くの触媒粒子が効率よく触媒反応を行うことができる。標準偏差が低いほど、組成のばらつきが小さいと言える。標準偏差は好ましくは6.0以下である。標準偏差の下限値は特に制限されず、理想的には0である。ただし、実際的には標準偏差は0超の値となる。
【0101】
触媒粒子毎の組成のばらつき、すなわち触媒粒子の卑金属元素濃度の標準偏差は、STEM-EDS(Scanning Transmission Electron Microscopy-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)で測定される。具体的には、1試験サンプルあたり合計100粒子以上の触媒粒子を無作為に抽出し、それぞれの触媒粒子に対してEDSの点分析によって貴金属と卑金属の原子数濃度を測定する。このとき、観察時の倍率は50万倍とし、またサンプル全体の平均的なばらつきを知るため、1試験サンプルあたり3視野以上観察を行うことが好ましい。つまり、これらの視野から合計で100粒子以上の触媒粒子を抽出する。なお、触媒粒子の抽出に際しては、別途観察画像を2値化しておき、この2値化画像を参照してもよい。2値化画像では、触媒粒子の画像がより鮮明になっている可能性がある。ついで、触媒粒子毎の卑金属元素濃度(原子濃度)に基づいて標準偏差を算出する。なお、触媒粒子が複数種類の卑金属元素を含む場合、少なくとも1種以上の卑金属元素の標準偏差が6.5以下であればよく、好ましくは全ての卑金属元素の標準偏差が6.5以下である。
【0102】
以上述べた通り、本実施形態に係る合金触媒では、多孔質材料上に小粒径かつ高分散であり、組成のばらつきが小さく、合金化率の高い触媒粒子が担持されている。したがって、本実施形態に係る合金触媒を固体高分子形燃料電池に用いることで、固体高分子形燃料電池の耐久性及び発電性能を向上させることができる。
【0103】
〔3.6.内部担持率〕
本実施形態に係る合金触媒では、さらに多孔質材料の細孔内部に触媒粒子が担持されていることが好ましい。より具体的には、合金触媒を走査型透過電子顕微鏡で観察した場合に、以下の式(4):
内部担持率[%]=(b-2×a)/b (4)
で定義される内部担持率が26%以上であることが好ましい。ここで、bは観察視野内の全触媒粒子数、aは多孔質材料の最表面および表面近傍に存在する触媒粒子数である。a、bは、同一視野を異なる加速電圧で観測することで測定される。例えば、後述する実施例では、aは3kVの反射像における触媒粒子数として測定され、bは30kVの透過像における触媒粒子数として測定される。したがって、多孔質材料の細孔内部に触媒粒子が担持されていることは、内部担持率によって評価される。内部担持率が26%以上となる場合、多孔質材料の細孔内部に担持された触媒粒子が十分に多いと評価できる。なお、詳細は後述するが、本実施形態に係る合金触媒は、上述した製造方法によって製造されているので、多孔質材料の細孔内部に多くの触媒粒子が担持されており、内部担持率が26%を超えている。このため、固体高分子形燃料電池の発電性能及び耐久性がさらに向上する。内部担持率が大きいほど、細孔内部に担持されている触媒粒子の数が大きく、好ましいと言える。
【0104】
なお、上述した本実施形態に係る合金触媒の製造方法により製造される合金触媒は、特に限定されず、その合金触媒を構成する触媒成分に応じた任意の用途に適用することが可能である。特に、当該合金触媒には、小粒径かつ高分散であり、組成のばらつきが小さく、合金化率が高い触媒粒子が担持されている。したがって、当該合金触媒は、触媒粒子が小粒径かつ高分散であり、組成のばらつきが小さく、合金化率が高いことが要求される分野、例えば固体高分子形燃料電池の触媒として好適に利用することができる。
【0105】
そして、本実施形態に係る合金触媒の製造方法により製造される合金触媒を固体高分子形燃料電池の触媒に適用する場合、以下の理由により、発電性能および耐久性が著しく優れたものとなる。
【0106】
まず、触媒粒子が小粒径であり、上述した熱処理後の粒径が3nm以上7.5nm以下となるので、合金触媒の発電反応に寄与可能な触媒粒子の有効比表面積が大きい。
さらに、触媒粒子同士の凝集がなく分散性が良好であるため、熱処理しても小粒径を維持可能であり、熱処理による粒成長が少ない(例えば熱処理後の粒径が3nm以上7.5nm)ことから、熱処理を行った場合でも依然として触媒粒子の発電反応に寄与可能な有効比表面積が大きい。また同時に、触媒粒子の分散性が良好であることから繰り返し発電反応を行った際の触媒粒子の粗大化(例えば15nm以上の粒径の粗大粒の形成)による合金触媒の劣化が少なく、耐久性が高い。
【0107】
また、本実施形態においては、触媒粒子の合金化率が高い。貴金属元素の卑金属元素との合金化により、貴金属原子間の原子間距離が短くなり、これにより酸素との結合・脱離しやすさが最適化される。触媒粒子の酸素との吸着性が高すぎると還元反応後に脱着しづらくなり、触媒粒子の脱離性が高すぎると酸素が吸着しないため還元反応を起こすことができない。固体高分子形燃料電池の発電反応においては、律速となるのがカソード側の酸素還元反応であるため、合金化により触媒粒子と酸素との結合・脱離しやすさが最適化されると、発電反応が促進され、発電性能が向上する。
【0108】
さらには、本実施形態に係る方法においては、多孔質材料の細孔内部に十分な量の触媒粒子を担持することが可能である。この結果、担体としての多孔質材料の表面積を有効に利用できる。この結果、細孔内部に担持された触媒粒子は細孔外(多孔質材料の外表面)に担持された触媒粒子と比較して、繰り返しの発電反応による、粒子の粗大化等の劣化が起こりづらく、耐久性に優れている。さらには、細孔内部に担持された触媒粒子は細孔外(多孔質材料の外表面)に担持された触媒粒子と比較して、触媒層に含まれる高分子電解質としてのアイオノマーの被覆が抑制されているため、アイオノマーの被覆による発電反応に寄与可能な有効比表面積の低下が少なく、発電性能の低下が小さい。以上により、本実施形態においては、多孔質材料の細孔内部に十分な量の触媒粒子を担持することにより固体高分子形燃料電池の発電性能および耐久性の向上に寄与する。
【実施例】
【0109】
以下に、実施例を示しながら、本発明の実施形態について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明のあくまでも一例であって、本発明が、下記の例に限定されるものではない。
【0110】
1.合金触媒の製造
(実施例1-1)
(i)第1の工程
第1の溶媒としての水100mLに、多孔質材料としてのメソポーラスシリカ(太陽化学(株)製、TMPS-4R、細孔容積:0.89cm3/g)0.5gを加えて、超音波ホモジナイザーによって2分間分散させた。ここに貴金属化合物としてのジニトロジアンミン白金硝酸溶液を0.39g、卑金属化合物としての硫酸ニッケル(II)六水和物0.046g、および硫酸コバルト七水和物0.051gを加え、スターラーを用いて30分間撹拌した。
【0111】
(ii)第2の工程
撹拌後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。溶媒除去中、サンプルの質量を測定して水の質量を算出し、水の質量が0.22gとなるまで溶媒の除去を継続した。ここで、メソポーラスシリカの細孔容積は、0.89cm3/g×0.5(g)=0.445cm3である。0.22gの水の容積は、水の密度が0.99g/cm3であるため、0.22cm3である。したがって、サンプル中の水の容積は、メソポーラスシリカの細孔容積の0.5倍であった。
【0112】
(iii)第3の工程
次に、大気中で、還元剤としての水素化ホウ素ナトリウム0.34gを4.5mLの水(第2の溶媒)に溶解した還元溶液を、溶媒除去後に得られたサンプルへ投入し、強撹拌した。このとき、反応は室温で行った。このまま1時間撹拌した後、得られた混合液をろ過によって洗浄し、回収したサンプルを真空乾燥することで、実施例1-1に係る合金触媒を得た。
【0113】
(実施例1-2)
第1の工程~第3の工程における各種材料および実験条件を表1-1に示すように変更した以外は、実施例1-1と同様にして実施例1-2に係る合金触媒を得た。
【0114】
(実施例1-3)
(i)第1の工程
第1の溶媒としての水/エタノール=1/1(vol/vol)混合溶液100mLに、多孔質材料としてのメソポーラスシリカ(太陽化学(株)製、TMPS-4R、細孔容積:0.89cm3/g)0.5gを加えて、超音波ホモジナイザーによって2分間分散させた。ここに貴金属化合物としての塩化金酸を0.14g、卑金属化合物としての塩化ニッケル(II)六水和物0.027gを加え、スターラーを用いて30分間撹拌した。
【0115】
(ii)第2の工程
撹拌後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。溶媒除去中、サンプルの質量を測定して第1の溶媒の質量を算出し、第1の溶媒の質量が0.20gとなるまで溶媒の除去を継続した。ここで、メソポーラスシリカの細孔容積は、0.89cm3/g×0.5(g)=0.445cm3である。0.20gの第1の溶媒の容積は、水/エタノール=1/1(vol/vol)混合溶液の密度が0.91g/cm3であるため、0.22cm3である。したがって、サンプル中の水の容積は、メソポーラスシリカの細孔容積の0.5倍であった。
【0116】
(iii)第3の工程
次に、Ar雰囲気中で、還元剤としての水素化ホウ素ナトリウム1.27gを16.8mLの水(第2の溶媒)に溶解した還元溶液を、溶媒除去後に得られたサンプルへ投入し、強撹拌した。このとき、反応は室温で行った。このまま1時間撹拌した後、得られた混合液をろ過によって洗浄し、回収したサンプルを真空乾燥することで、実施例1-3に係る合金触媒を得た。
【0117】
以上の各実施例における製造条件を表1-1に示す。なお、表中、
「Pt(NO2)2(NH3)2」は、白金濃度4.5wt%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を、
「硝酸Pd」は、硝酸パラジウムを、
「塩化金酸」は、塩化金(III)酸四水和物を、
「硫酸Ni」は、硫酸ニッケル(II)六水和物を、
「硫酸Co」は、硫酸コバルト(II)七水和物を、
「硝酸Co」は、硝酸コバルト(II)六水和物を、
「塩化Ni」は、塩化ニッケル(II)六水和物を、
「EtOH」は、エタノールを、
「r.t.」は、室温を、それぞれ示す。なお、第2の工程における、第1の溶媒の残存量は、多孔質材料の細孔容積を基準とした比率として記載した。
【0118】
【0119】
【0120】
2.合金触媒の評価
2.1. 触媒粒子の粒径
得られた合金触媒の触媒粒子の粒径は、X線回折装置(X-Ray Diffraction;XRD、(株)リガク製、Smart Lab)により測定した。XRD測定の結果より、以下のシェラーの式を用いて結晶子径(触媒粒子の粒径)を算出した。
シェラーの式:D=Kλ/βcosθ
D:結晶子径、K:シェラー定数(0.94)、λ:CuKαのX線波長、β:半値幅、θ:Bragg角
【0121】
2.2. 分散性
得られた合金触媒の分散性は、熱処理前後での粒径変化によって測定した。得られた合金触媒を真空乾燥し、乾燥後のサンプルを、水素50vol%+アルゴン50vol%からなる混合ガスを150mL/minで流通させながら、900℃で20分間熱処理した。分散性が悪い場合、熱処理による粗大粒生成が顕著に確認されることから、熱処理前後の粒径変化(粒径の増加)を測定することにより、分散性を評価した。より具体的には、上述した式(5)で定義される分散度を測定した。分散度が1.5以下であれば、分散性が十分高いと評価できる。
【0122】
2.3. 合金化率
得られた触媒粒子の合金化率は、X線回折装置(X-Ray Diffraction;XRD、(株)リガク製、Smart Lab)により測定した。XRD測定の結果より、上述した式(3)を用いて合金化率を算出した。なお、貴金属が二種類以上の場合は、最も物質量が多く含まれる貴金属の格子定数によって算出した。
【0123】
2.4. 触媒粒子の細孔内部における存在評価(内部担持率)
得られた合金触媒の触媒粒子の内部担持率の評価は、走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope;STEM(株)日立ハイテクノロジーズ製、SU9000)および画像解析ソフト(ImageJ)を用いて行った。まずSTEM観察によって、異なる加速電圧における同一視野の画像を得た。加速電圧は、低加速電圧(~1kV)、高加速電圧(25~30kV)、両者の中間の加速電圧(2~7kV)、を含む値から選択することができ、低加速電圧、高加速電圧を含むことが好ましい。本実施例では、3kV、30kVで観察を行った。次に、画像解析ソフトを用い、STEM観察で得られた画像の粒子解析を行った。まず触媒粒子を縁取り処理し、その後、二値化処理を行った。得られた二値化処理画像から、それぞれの加速電圧における触媒粒子数をカウントした。すなわち、3kVの反射像における触媒粒子数、30kVの透過像における触媒粒子数をカウントした。これらの値と、上述した式(4)とに基づいて、内部担持率を算出した。ここで、3kVの反射像における触媒粒子数は、式(4)中のa、すなわち多孔質材料の最表面および表面近傍に存在する触媒粒子数を示し、30kVの透過像における触媒粒子数は、式(4)中のb、すなわち観察視野内の全触媒粒子数を示す。なお、bは担体の裏側に存在する粒子数も含むため、担体裏側にも最表面および表面近傍と同数の粒子が存在すると仮定した。
【0124】
2.5. 触媒粒子の担持率
得られた触媒粒子の担持率は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES: Inductively Coupled Plasma - Atomic Emission Spectrometry、(株)島津製作所製、ICPE-9800)により測定した。なお、ここでの担持率は、試験サンプルとして使用した合金触媒の総質量に対する各金属元素の質量%として求めた。
【0125】
2.6. 卑金属元素濃度の標準偏差
卑金属元素の標準偏差は、STEM-EDSを用いて測定した。具体的には、STEMとして日立ハイテクノロジーズ社製SU9000を使用し、EDSとして堀場製作所社製E-MAX Evolutionを使用した。本測定では、1試験サンプルを異なる3視野で観察し、各視野から合計で100個の触媒粒子を無作為に抽出した。観察時の倍率は50万倍とした。ついで、それぞれの触媒粒子に対してEDSの点分析によって貴金属と卑金属の原子数濃度を測定した。ついで、触媒粒子毎の卑金属元素濃度(原子濃度)に基づいて標準偏差を算出した。なお、実施例1-1の触媒粒子は卑金属元素を2種類(Ni、Co)含む三元系の触媒粒子となっているため、実施例1-1では、Co濃度の標準偏差を算出した。
以上の結果を表1-2に示す。
【0126】
【0127】
3.結果
表1-2からも明らかなように、実施例1-1~1-3に係る合金触媒は、小粒径かつ高分散であり、組成のばらつきが小さく、合金化率の高い触媒粒子が多孔質材料に担持されていた。
【0128】
4.固体高分子形燃料電池用合金触媒の製造
(実施例2-1)
(i)第1の工程
第1の溶媒としての1-プロパノール100mLに、多孔質材料としてのケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、細孔容積:2.9cm3/g)0.5gを加えて、超音波ホモジナイザーによって2分間分散させた。ここに貴金属化合物としてのアセチルアセトナート白金を0.32g、卑金属化合物としてのアセチルアセトナートコバルト(III)0.22gを加え、スターラーを用いて30分間撹拌した。
【0129】
(ii)第2の工程
撹拌後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。溶媒除去中、サンプルの質量を測定して1-プロパノールの質量を算出し、1-プロパノールの質量が5.8gとなるまで溶媒の除去を継続した。ここで、ケッチェンブラックの細孔容積は、2.9cm3/g×0.5(g)=1.45cm3である。5.8gの1-プロパノールの容積は、1-プロパノールの密度が0.8g/cm3であるため、7.25cm3である。したがって、サンプル中の1-プロパノールの容積は、ケッチェンブラックの細孔容積の5.0倍であった。
【0130】
(iii)第3の工程
次に、Ar雰囲気中で、還元剤としてのシアノ水素化ホウ素ナトリウム0.27gを4mLのメタノール(第2の溶媒)に溶解した還元溶液を、溶媒除去後に得られたサンプルへ投入し、強撹拌した。このとき、反応は75℃に設定したオイルバス中で行った。このまま1時間撹拌した後、得られた混合液をろ過によって洗浄し、回収したサンプルを真空乾燥することで、実施例2-1に係る合金触媒を得た。
【0131】
(実施例2-2~2-7)
第1の工程~第3の工程における各種材料および実験条件を表2-1に示すように変更した以外は、実施例2-1と同様にして実施例2-2~2-7に係る合金触媒を得た。
【0132】
(実施例2-8)
(i)第1の工程
第1の溶媒としての水100mLに、多孔質材料としてのケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、細孔容積:2.9cm3/g)0.5gを加えて、超音波ホモジナイザーによって2分間分散させた。ここに貴金属化合物としての白金濃度4.5wt%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液5.5g、卑金属化合物としての硝酸鉄(III)九水和物0.066gを加え、スターラーを用いて30分間撹拌した。
【0133】
(ii)第2の工程
撹拌後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。溶媒除去中、サンプルの質量を測定して水の質量を算出し、水の質量が0.072gとなるまで溶媒の除去を継続した。ここで、ケッチェンブラックの細孔容積は、2.9cm3/g×0.5(g)=1.45cm3である。0.072gの水の容積は、水の密度が0.99g/cm3であるため、0.073cm3である。したがって、サンプル中の水の容積は、ケッチェンブラックの細孔容積の0.05倍であった。
【0134】
(iii)第3の工程
次に、大気中で、還元剤としての水素化ホウ素ナトリウム4.8gに少量(1mL程度)の1.0mol/L水酸化ナトリウム水溶液、32mLの水(第2の溶媒)を加えた。この溶液を撹拌しながらpHを測定し、pHが11.8になるまで1.0mol/L水酸化ナトリウムを加え、還元溶液を得た。得られた還元溶液を、溶媒除去後に得られたサンプルへ投入し、強撹拌した。このとき、反応は室温にて行った。このまま1時間撹拌した後、得られた混合液をろ過によって洗浄し、回収したサンプルを真空乾燥することで、実施例2-8に係る合金触媒を得た。
【0135】
(実施例2-9~2-13)
第1の工程~第3の工程における各種材料および実験条件を表2-1に示すように変更した以外は、実施例2-8と同様にして実施例2-9~2-13に係る合金触媒を得た。
【0136】
(実施例2-14)
(i)第1の工程
第1の溶媒としての水100mLに、多孔質材料としてのケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、細孔容量:2.9cm3/g)0.5gを加えて、超音波ホモジナイザーによって2分間分散させた。ここに貴金属化合物としての白金濃度4.5wt%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液5.5g、卑金属化合物としての硫酸コバルト七水和物0.12gを加え、スターラーを用いて30分間撹拌した。
【0137】
(ii)第2の工程
撹拌後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。溶媒除去中、サンプルの質量を測定して水の質量を算出し、水の質量が0.015gとなるまで溶媒の除去を継続した。ここで、ケッチェンブラックの細孔容積は、2.9cm3/g×0.5(g)=1.45cm3である。0.015gの水の容積は、水の密度が0.99g/cm3であるため、0.015cm3である。したがって、サンプル中の水の容積は、ケッチェンブラックの細孔容積の0.01倍であった。
【0138】
(iii)第3の工程
次に、大気中で、還元剤としての水素化ホウ素ナトリウム4.8gを32mLの水(第2の溶媒)に溶解した還元溶液32mLを、溶媒除去後に得られたサンプルへ投入し、強撹拌した。このとき、反応は室温にて行った。このまま1時間撹拌した後、得られた混合液をろ過によって洗浄し、回収したサンプルを真空乾燥することで、実施例2-14に係る合金触媒を得た。
【0139】
(実施例2-15)
第1の工程~第3の工程における各種材料および実験条件を表2-1に示すように変更した以外は、実施例2-14と同様にして実施例2-15に係る合金触媒を得た。
【0140】
(比較例2-1~2-10)
第1の工程~第3の工程における各種材料および実験条件を表2-2に示すように変更した以外は、実施例2-1と同様にして比較例2-1~2-10に係る合金触媒を得た。
【0141】
(比較例2-11)
水80mLにケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)0.5gを加えて、超音波ホモジナイザーによって2分間分散させた。ここに白金濃度4.5wt%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液5.5g、エタノール20mLを加え、110℃に設定したオイルバス中で12時間撹拌した。得られた混合液をろ過によって洗浄し、回収した。回収したサンプルに水を100mL注ぎ、ここに硝酸コバルト六水和物を0.12g加え、30分間撹拌した。
【0142】
撹拌後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。溶媒除去中、サンプルの重量を測定して水の重量を算出し、水の重量が0.015gとなるまで溶媒の除去を継続した。
【0143】
溶媒除去後、サンプルを真空乾燥し、乾燥後のサンプルを、水素50vol%+アルゴン50vol%からなる混合ガスを150mL/minで流通させながら、900℃で20分間熱処理することにより、比較例2-11に係る合金触媒を得た。
【0144】
(比較例2-12)
水80mLにケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)0.5gを加えて、超音波ホモジナイザーによって2分間分散させた。ここに白金濃度4.5wt%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液5.5g、エタノール20mLを加え、110℃に設定したオイルバス中で12時間撹拌した。得られた混合液をろ過によって洗浄し、回収した。回収したサンプルに水を100mL注ぎ、ここに硝酸コバルト六水和物を0.12g加え、30分間撹拌した。
【0145】
撹拌後、この混合液に水素化ホウ素ナトリウム4.8gを43mLの水に溶解した水溶液を加え、強撹拌した。3時間撹拌後、混合液をろ過によって洗浄し、回収したサンプルを真空乾燥後、水素50vol%+アルゴン50vol%からなる混合ガスを150mL/minで流通させながら、900℃で20分間熱処理することにより、比較例2-12に係る合金触媒を得た。
【0146】
(比較例2-13)
水200mLにケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)0.5gを加えて、超音波ホモジナイザーによって2分間分散させた。ここに白金濃度4.5wt%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液5.5g、硫酸コバルト七水和物0.12gを加え、30分間撹拌した。
【0147】
撹拌後、この混合液に水素化ホウ素ナトリウム4.8gを60mLの水に溶解した水溶液を加え、強撹拌した。3時間撹拌後、混合液をろ過によって洗浄し、回収したサンプルを真空乾燥後、水素50vol%+アルゴン50vol%からなる混合ガスを150mL/minで流通させながら、900℃で20分間熱処理することにより、比較例2-13に係る合金触媒を得た。
【0148】
(比較例2-14)
水100mLに、ケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)0.5gを加えて、超音波ホモジナイザーによって2分間分散させた。ここに白金濃度4.5wt%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液5.5g、硫酸コバルト七水和物0.12gを加え、スターラーを用いて30分間撹拌した。
【0149】
撹拌後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。溶媒除去中、サンプルの重量を測定して水の重量を算出し、水の重量が0.15gとなるまで溶媒の除去を継続した。
溶媒除去後、水素を150mL/minで流通させながら、900℃で20分間熱処理することにより、比較例2-14に係る合金触媒を得た。
【0150】
(比較例2-15)
水200mLにケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)0.5gを加えて、超音波ホモジナイザーによって2分間分散させた。ここに白金濃度4.5wt%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液5.5g、硫酸コバルト七水和物0.12g、ポリビニルピロリドンK-15 0.13gを加え、30分間撹拌した。
【0151】
撹拌後、この混合液に水素化ホウ素ナトリウム4.8gを43mLの水に溶解した水溶液を加え、強撹拌した。3時間撹拌後、混合液をろ過によって洗浄し、回収したサンプルを真空乾燥後、水素50vol%+アルゴン50vol%からなる混合ガスを150mL/minで流通させながら、900℃で20分間熱処理することにより、比較例2-15に係る合金触媒を得た。
【0152】
(比較例2-16)
テトラエチレングリコール60mLに、白金濃度4.5wt%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液5.5gを加えて撹拌し、Pt希釈溶液を調整した。一方で、テトラエチレングリコール70mLに、硫酸コバルト七水和物0.12gを加えて撹拌し、Co希釈溶液を調整した。
ポリビニルピロリドン(PVP)に、テトラエチレングリコール70mLを加えて攪拌し、PVP溶液を調製した。
【0153】
上記で調製したPVP溶液にPt希釈溶液をゆっくり滴下し混合して、窒素雰囲気中、室温で1時間程度攪拌した。これに、Co希釈溶液をゆっくり滴下し混合して、窒素雰囲気中で1時間程度攪拌した。この混合液に水素化ホウ素ナトリウム4.8gを43mLのテトラエチレングリコールに溶解した溶液を加え、150℃に加熱し、1時間程度加熱還流することで、PtとCoとを同時還元した。
【0154】
得られた反応溶液を、70mLの蒸留水に分散させたケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)0.5gに、Ptが粉末に対して32.3質量%となるように添加し、3時間攪拌した。さらに、120℃で水分を蒸発させ、450℃で2時間焼成し、比較例2-16に係る合金触媒を得た。
【0155】
(比較例2-17)
第1の溶媒としての水100mLに、多孔質材料としてのケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、細孔容量:2.9cm3/g)0.5gを加えて、超音波ホモジナイザーによって2分間分散させた。ここに貴金属化合物としてのヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物0.66g、卑金属化合物としての塩化コバルト0.10gを加え、スターラーを用いて30分間撹拌した。
【0156】
撹拌後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。溶媒除去中、サンプルの質量を測定して水の質量を算出し、水の質量が0.015gとなるまで溶媒の除去を継続した。ここで、ケッチェンブラックの細孔容積は、2.9cm3/g×0.5(g)=1.45cm3である。0.015gの水の容積は、水の密度が0.99g/cm3であるため、0.015cm3である。したがって、サンプル中の水の容積は、ケッチェンブラックの細孔容積の0.01倍であった。
【0157】
得られた多孔質材料について窒素雰囲気下で150℃にて16時間乾燥し、その後、窒素中の5%エチレンを用いて、150℃で5時間還元し、比較例2-17に係る合金触媒を得た。
【0158】
(比較例2-18)
第1の溶媒としての水100mLに、多孔質材料としてのケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、細孔容量:2.9cm3/g)0.5gを加えて、超音波ホモジナイザーによって2分間分散させた。ここに貴金属化合物としてのヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物0.66g、卑金属化合物としての塩化コバルト0.10gを加え、スターラーを用いて30分間撹拌した。
【0159】
撹拌後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。溶媒除去中、サンプルの質量を測定して水の質量を算出し、水の質量が0.015gとなるまで溶媒の除去を継続した。ここで、ケッチェンブラックの細孔容積は、2.9cm3/g×0.5(g)=1.45cm3である。0.015gの水の容積は、水の密度が0.99g/cm3であるため、0.015cm3である。したがって、サンプル中の水の容積は、ケッチェンブラックの細孔容積の0.01倍であった。
【0160】
その後、多孔質材料に0.21gの水酸化カリウムを溶解させた391.79mlの水溶液を含浸させ、16時間攪拌し、貴金属元素および卑金属元素をそれぞれの水酸化物として析出させた。次いで、得られた多孔質材料について窒素雰囲気下で150℃にて16時間乾燥し、その後、窒素中の5%エチレンを用いて、150℃で5時間還元し、比較例2-18に係る合金触媒を得た。
【0161】
(比較例2-19)
第1の溶媒としての水100mLに、多孔質材料としてのケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、細孔容量:2.9cm3/g)0.5gを加えて、超音波ホモジナイザーによって2分間分散させた。ここに貴金属化合物としてのヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物0.66g、卑金属化合物としての塩化コバルト0.10gを加え、スターラーを用いて30分間撹拌した。
【0162】
撹拌後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。溶媒除去中、サンプルの質量を測定して水の質量を算出し、水の質量が0.015gとなるまで溶媒の除去を継続した。ここで、ケッチェンブラックの細孔容積は、2.9cm3/g×0.5(g)=1.45cm3である。0.015gの水の容積は、水の密度が0.99g/cm3であるため、0.015cm3である。したがって、サンプル中の水の容積は、ケッチェンブラックの細孔容積の0.01倍であった。
【0163】
その後、多孔質材料に0.21gの水酸化カリウムを溶解させた391.79mlの水溶液を含浸させ、16時間攪拌し、貴金属元素および卑金属元素をそれぞれの水酸化物として析出させた。
【0164】
次に、Ar雰囲気中で、還元剤としてのヒドラジン一水和物3.21gを13mLの水に溶解した還元溶液を、得られたサンプルへ投入し、強撹拌した。このとき、反応は室温にて行った。このまま1時間撹拌した後、得られた混合液をろ過によって洗浄し、回収したサンプルを真空乾燥することで、比較例2-19に係る合金触媒を得た。
【0165】
(比較例2-20)
ヒドラジン一水和物0.45gを30mLの水に溶解した還元溶液に、多孔質材料としてのケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、細孔容量:2.9cm3/g)0.5gを加えて、超音波ホモジナイザーによって2分間分散させた。次いで白金濃度4.5wt%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液5.5g、および硝酸コバルト六水和物を0.12g加え、室温にて30分間撹拌した。
【0166】
撹拌後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。溶媒除去中、サンプルの質量を測定して水の質量を算出し、水の質量が0.015gとなるまで溶媒の除去を継続した。ここで、ケッチェンブラックの細孔容積は、2.9cm3/g×0.5(g)=1.45cm3である。0.015gの水の容積は、水の密度が0.99g/cm3であるため、0.015cm3である。したがって、サンプル中の水の容積は、ケッチェンブラックの細孔容積の0.01倍であった。
次いで、窒素雰囲気下において、630℃で5時間焼成し、比較例2-20に係る合金触媒を得た。
【0167】
以上の各実施例および比較例における製造条件を表2-1、2-2に示す。なお、表中、「acacPt」は、ビス(アセチルアセトナート)白金(II)を、「塩化Pt」は、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物を、「Pt(NO2)2(NH3)2」は、白金濃度4.5wt%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を、「acacCo」は、アセチルアセトナートコバルト(III)を、「塩化Co」は、塩化コバルト(II)を、「硝酸Co」は、硝酸コバルト(II)六水和物を、「硫酸Co」は、硫酸コバルト(II)七水和物を、「硝酸Fe」は、硝酸鉄(III)九水和物を、「硝酸Ni」は、硝酸ニッケル(II)六水和物を、「硫酸Ti」は、硫酸チタン(IV)を、「EtOH」は、エタノールを、「1-PrOH」は、1-プロパノールを、「2-PrOH」は、2-プロパノール(イソプロパノール)を、「THF」は、テトラヒドロフランを、「MeOH」は、メタノールを、「TEG」は、テトラエチレングリコールを、「DEE」は、ジエチルエーテルを、「ヒドラジン」は、ヒドラジン一水和物を、「PVP」は、ポリビニルピロリドンを、「r.t.」は、室温を、それぞれ示す。なお、第2の工程における、第1の溶媒の残存量は、多孔質材料の細孔容積を基準とした比率として記載した。さらには、還元剤の物質量も、貴金属化合物の物質量を基準とした比率として記載した。また、比較例2-11~2-20については、本来単純に本実施形態に係る合金触媒の製造方法の各工程に当てはめることができるものではないが、参考までに、各条件を本実施形態に係る方法における条件に対応し得る部分に記載している。
【0168】
なお、実施例2-1について、NaBH3CNは有機溶媒中で使用しているため、酸化還元電位を測定することは困難である。従って表2-1には、参考値として、実施例2-3で測定される水溶液中のNaBH3CNの酸化還元電位の値を示している。
【0169】
また、実施例2-2について、LiAlH4は、非常に強力な還元剤として周知である。そして、LiAlH4がNaBH4よりも強力であり、その酸化還元電位が-1.20V以下であることについても、明らかである。例えば、一般にNaBH4ではアルデヒドやケトンは還元可能でも、通常エステル、アミド、カルボン酸は還元不可であるのに対し、LiAlH4はアルデヒドやケトンはもちろん、エステル、カルボン酸、カルボン酸塩まで還元可能である。従って、還元力の強さからLiAlH4の水溶液を得ることが出来ず、測定することは困難であるものの、LiAlH4の酸化還元電位が-1.20V以下であることは、明らかである。
【0170】
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
5.合金触媒の評価
合金触媒の触媒粒子の粒径、分散性、合金化率、触媒粒子の細孔内部における存在評価(すなわち内部担持率)、触媒粒子の担持率、及び卑金属元素濃度の標準偏差の評価については、上述した2.1.~2.6に記載の方法により評価を行った。
【0175】
6. 固体高分子形燃料電池の評価
6.1. 試験セルの作成
6.1.1.塗布インクの作製
電解質樹脂となるナフィオン(Dupont社製ナフィオン、登録商標:Nafion、パースルホン酸系イオン交換樹脂)が溶解したナフィオン溶液を用意した。ついで、アルゴン雰囲気下で合金触媒及びナフィオン溶液を混合した。ここで、電解質樹脂の固形分の質量比は、合金触媒に対して1.0倍とした。ついで、混合溶液を軽く撹拌した後、超音波で混合溶液中の合金触媒を解砕した。ついで、混合溶液に更にエタノールを加えることで、合金触媒及び電解質樹脂の合計の固形分濃度が混合物の総質量に対して1.0質量%となるように調整した。これにより、合金触媒及び電解質樹脂を含む塗布インクを作製した。
【0176】
6.1.2.触媒層の作製
塗布インクにさらにエタノールを加えることで、塗布インク中の触媒濃度(燃料電池用触媒の濃度)を塗布インクの総質量に対して1.0質量%とした。ここで、燃料電池用触媒の種類はサンプル毎に異なるが、燃料電池用触媒の濃度は、合金触媒を構成する金属元素の全成分の濃度を意味する。後述の目付量も同様である。ついで、燃料電池用触媒の触媒層単位面積当たりの質量(以下、「触媒目付量」という。)が0.2mg/cm2となるようにスプレー条件を調節し、上記塗布インクをテフロン(登録商標)シート上にスプレーした。ついで、アルゴン雰囲気中120℃で60分間の乾燥処理を行うことで、触媒層を作製した。同じ触媒層を2つ作製し、一方をカソード、他方をアノードとした。
【0177】
6.1.3.膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)の作製
ナフィオン膜(Dupont社製NR211)から一辺6cmの正方形状の電解質膜を切り出した。また、テフロン(登録商標)シート上に塗布されたアノード及びカソードの各触媒層をそれぞれカッターナイフで一辺2.5cmの正方形状に切り出した。このようにして切り出されたアノード及びカソードの各触媒層の間に、各触媒層が電解質膜の中心部を挟んでそれぞれ接すると共に互いにずれが無いように、この電解質膜を挟み込み、120℃、100kg/cm2で10分間プレスした。次いで、この積層体を室温まで冷却した。次いで、アノード及びカソード共にテフロン(登録商標)シートのみを注意深く剥ぎ取った。以上の工程により、アノード及びカソードの各触媒層を電解質膜に定着させた。
【0178】
次に、ガス拡散層となるカーボンペーパー(SGLカーボン社製35BC)から一辺2.5cmの正方形状のカーボンペーパーを2つ切り出した。ついで、これらのカーボンペーパーをアノードとカソードにずれが無いように積層することで、積層体を作製した。ついで、積層体を120℃、50kg/cm2で10分間プレスすることで、MEAを作製した。なお、プレス前の触媒層付テフロン(登録商標)シートの重量とプレス後にはがしたテフロン(登録商標)シートの質量との差からナフィオン膜に定着した触媒層の質量を求め、触媒層の組成の質量比より触媒目付量、合金触媒の目付量、及び電解質樹脂の目付量を算出した。この方法により、触媒目付量が0.2mg/cm2であることを確認した。
【0179】
6.2. 発電性能、耐久性評価
上述の方法で作製したMEAをそれぞれセルに組み込み、燃料電池測定装置((株)東陽テクニカ製、AutoPEM)にセットして、以下の手順で燃料電池の性能評価を行った。
【0180】
6.2.1.発電性能
反応ガスについては、カソードに空気を、また、アノードに純水素を、それぞれ利用率が40%と70%となるように、大気圧下に供給した。また、セル温度は80℃に設定した。供給するガスについては、カソード側及びアノード側共に加湿器中で65℃に保温された蒸留水にそれぞれ通す(すなわち、バブリングを行う)ことで、加湿機中の水温に相当する飽和水蒸気を伴ってセルに供給されるようにした。
【0181】
このような設定の下にセルにガスを供給した条件下で、負荷を徐々に増やし、初期の発電特性の評価を実施した(表中「初期性能」の欄に示す)。発電特性は、電流密度0.2A/cm2におけるセル端子間電圧(以下、セル電圧という)を記録し、このセル電圧の値を発電特性として比較することにより、評価を行った。
【0182】
6.2.2.耐久性
引き続いて、耐久性評価のために、“セル端子間電圧を0.6Vにして4秒間保持し、次いでセル端子間電圧を1.2Vに上昇させて4秒間保持し、その後にセル端子間電圧を元の0.6Vに戻す”という操作を1回のサイクル操作とし、このサイクル操作を300回繰り返す耐久試験を実施した。この耐久試験の後に、耐久試験前の初期性能の評価試験の場合と同様に発電性能(耐久試験後の電流密度0.2mA/cm2におけるセル電圧)を測定した(表中「耐久後」の欄に示す)。この耐久試験後のセル電圧(V)を耐久試験前のセル電圧から差し引いてセル電圧の低下幅△Vを求め、この低下幅△Vを耐久前試験前のセル電圧で除してセル電圧低下率を算出することにより、耐久性の評価を行った。
結果を表3-1、表3-2に示す。
【0183】
【0184】
【0185】
【0186】
【0187】
7.結果
表3-1、表3-2からも明らかなように、実施例2-1~2-15に係る合金触媒は、小粒径かつ高分散であり、組成のばらつきが小さく、合金化率の高い触媒粒子が多孔質材料に担持されており、固体高分子形燃料電池の触媒として使用した際にも、初期の発電性能および耐久性に優れていた。これに対し、比較例2-1~2-20に係る合金触媒は、小粒径かつ高分散であり、組成のばらつきが小さく、合金化率の高い触媒粒子を、多孔質材料上に形成、担持することができなかった。この結果、固体高分子形燃料電池の触媒として使用した際に、初期の発電性能および耐久後の発電性能のいずれもが、劣っており、また、総じて電圧低下率も実施例2-1~2-15に係る合金触媒を用いた場合と比較して劣っていた。
【0188】
具体的には、第1の溶媒の除去量が多かった(乾燥後の第1の溶媒が少なかった)実施例2-2~2-15においては、実施例2-1に係る合金触媒と比較して、小粒径であり、組成のばらつきが小さく、高合金化率であった。この傾向は、第1の溶媒の除去量が多いほど顕著であった。これは、第1の溶媒の除去量が多い場合、第3の工程における還元反応の反応場が、多孔質材料の表面により近い領域に制限された結果、触媒粒子の凝集が抑制されたものと考えられる。
【0189】
また、実施例2-2、2-7~2-15においては、第1の溶媒と第2の溶媒とは、同一の溶媒を含むか、第1の溶媒のオクタノール/水分配係数と第2の溶媒のオクタノール/水分配係数との差の絶対値が、1.2以下である。さらに、実施例2-3~2-15においては、第1の溶媒と第2の溶媒とが、上述した関係(i)~(iii)のいずれかを満足する。これらの実施例2-2~2-15においては、実施例2-1に係る合金触媒と比較して、小粒径であり、組成のばらつきが小さく、高合金化率であった。これは、上述した理由に加え、第3の工程において還元溶液を多孔質材料に接触した際に、第1の溶媒と第2の溶媒とが素早く混和し、卑金属化合物、貴金属化合物と、還元剤とが接触しやすくなったため、還元反応が進行しやすくなったと考えられる。
【0190】
また、実施例2-4~2-15においては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウムまたは水素化ホウ素リチウムが還元剤として使用されている。上記の結果から、これらの還元剤が貴金属化合物と卑金属化合物とを同時に還元するために十分な還元力を有していることが明らかとなった。なお、これらの還元剤は、より強力な還元剤と比較して安全性が高い。また、還元力がより弱いシアノ水素化ホウ素ナトリウムを用いた実施例2-3の場合と比較して、粒径、分散性、組成のばらつき、合金化率が改善する傾向があった。これは、第3の工程における還元反応の際、より大きな還元速度で短時間に還元反応が進行するため、貴金属化合物と卑金属化合物の還元速度の差の影響がより小さくなった結果と考えられる。
【0191】
実施例2-5~2-15においては、使用した還元剤の物質量が、貴金属元素の総物質量の10倍以上である。この結果、得られた触媒粒子の粒径、分散性、組成のばらつき、合金化率が、実施例2-1~2-4の場合と比較して向上する傾向があった。これは、還元剤の使用量を多くしたことから、還元反応がより均一に進行した結果と考えられる。この傾向は、還元剤の使用量が多くなるほど観察された(例えば、実施例2-8~2-10、2-14、2-15)。
【0192】
実施例2-7~2-15においては、貴金属化合物としてジニトロジアンミン白金が用いられ、卑金属化合物として硫酸コバルト、硝酸コバルト、硫酸鉄、硝酸鉄、硫酸ニッケル、硝酸ニッケルまたは硫酸チタンが用いられた。これらの化合物の組み合わせは、HSAB則によると、卑金属化合物と貴金属化合物との還元速度の差の影響がより小さくなる組み合わせである。この結果、他の実施例2-1~2-6と比較して、触媒粒子の粒径、分散性、組成のばらつき、合金化率が向上する傾向があった。
【0193】
実施例2-8~2-15においては、還元溶液のpHを8.0以上12.0以下とした。これにより、他の実施例2-1~2-7と比較して、触媒粒子の粒径、分散性、組成のばらつき、合金化率が向上する傾向があった。これは、還元剤を安定化させることができ、不本意な還元剤の分解を抑制して還元剤の失活を抑制しつつ、なおかつ、還元剤の安定性が過度に高くなることが防止され、還元速度の低下が抑制された結果と考えられる。
【0194】
比較例2-1においては、卑金属化合物を用いず、貴金属化合物のみを用いて触媒を製造した。このため、初期性能が実施例に係る合金触媒のものと比較して低かった。なお、比較例2-1では卑金属元素を使用していないので、卑金属元素濃度の標準偏差は測定しなかった。
【0195】
比較例2-2~2-5においては、第2の工程における第1の溶媒の除去が不十分であり、得られる触媒粒子の熱処理後の粒径が大きくなり、分散性が低下していた。これは、第3の工程において還元反応の反応場が十分に制限されていなかった結果であると考えられる。この点、多孔質材料の細孔内部への担持が不十分であることからも裏付けられる。また、合金化率は大きくなったものの、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなった。還元剤自体は強力であるため、合金化率が大きくなったと考えられる。しかしながら、還元反応の反応場が十分に制限されておらず、貴金属化合物と卑金属化合物の還元速度差の影響を小さくできていないことから、多くの反応場において貴金属化合物が卑金属化合物に先行して還元されてしまい、全ての触媒粒子上で均一に合金化を進行させることが困難であったと考えられる。このため、触媒粒子毎の組成がばらつき、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなったと考えられる。
【0196】
比較例2-6~2-9においては、還元剤として比較的弱いヒドラジンを用いた結果、十分な合金化率を得ることが困難であり、あるいは小粒径、高分散とすることが困難であった。これは、貴金属化合物と卑金属化合物とを同時に還元するための十分な還元力をヒドラジンが有していなかったため、また、還元力が比較的弱く還元速度が小さいことから、還元反応して生成した触媒粒子が、担体に沈着する前に、液相中において触媒粒子同士の凝集体を形成してしまったため、と考えられる。また、比較例2-6~2-8においては、用いた第1の溶媒が第2の溶媒としての水との親和性が不十分であり、還元反応の際にヒドラジンと貴金属化合物、卑金属化合物との接触が不十分となったことも一因であると考えられた。また、比較例2-6~2-9においても、卑金属元素原子数濃度の標準偏差が大きくなった。ヒドラジンは還元力が不十分であり、貴金属化合物と卑金属化合物を同時にかつ速やかに還元することができないため、触媒粒子毎の組成がばらつき、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなったと考えられる。
【0197】
比較例2-10においては、還元剤の量が十分でなく、貴金属化合物と卑金属化合物を還元するには還元力が不足であったことから、粒径が大きく、分散性に劣り、合金化率の低い触媒粒子が生成した。また、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなった。還元剤の量が十分でないことから還元力が不十分であり、貴金属化合物と卑金属化合物を同時にかつ速やかに還元することができないため、触媒粒子毎の組成がばらつき、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなったと考えられる。
【0198】
比較例2-11、2-12は、触媒粒子を構成する構成元素を別々に担持する、従来より知られている一般的な合金触媒の合成技術に基づき、これを再現した結果である。比較例2-11、2-12においては、貴金属化合物と卑金属化合物とを別々に還元して担持した結果、十分に合金化せず、合金化率が低下した。比較例2-11においては、熱処理のみによって卑金属化合物の還元反応を行うと同時に、貴金属化合物との合金化も進行させなければならないため、特に合金化率の低下が顕著であった。比較例2-12においては、卑金属化合物の還元を液相中において還元剤を用いて行ったのちに、熱処理によって合金化を進行させたことから、合金化率の低下のみならず、分散性も低下した。さらに、比較例2-11、2-12では、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなった。比較例2-11、2-12では、貴金属化合物と卑金属化合物とを別々に還元して担持しているので、全ての触媒粒子において均一に合金化を進行させることは困難であり、触媒粒子毎の組成がばらつき、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなったと考えられる。さらに、比較例2-11、2-12では、実施例2-1~2-15と異なり、合金化の駆動力は熱処理のみなので、貴金属成分と卑金属成分が担体である多孔質材料上で移動し、熱拡散しなければ合金化が進行しない。従って、この点でも、全ての触媒粒子において均一に合金化を進行させることは困難であり、触媒粒子毎の組成がばらつき、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなったと考えられる。
【0199】
比較例2-13は、触媒粒子を構成する構成元素を液相中で同時に還元する、従来より知られている一般的な合金触媒の合成技術に基づき、これを再現した結果である。比較例2-13においては、第1の溶媒の除去を行わず、液相において還元を行った結果、触媒粒子の凝集を抑制できず、分散性が低下した。また、合金化率は大きくなったものの、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなった。還元剤自体は強力であるため、合金化率が大きくなったと考えられる。しかしながら、還元反応の反応場が十分に制限されておらず、貴金属化合物と卑金属化合物の還元速度差の影響を小さくできていないことから、多くの反応場において貴金属化合物が卑金属化合物に先行して還元されてしまい、全ての触媒粒子上で均一に合金化を進行させることが困難であったと考えられる。このため、触媒粒子毎の組成がばらつき、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなったと考えられる。
【0200】
比較例2-14、2-17は、触媒粒子を構成する構成元素を担持させた担体を加熱し、熱処理によって合金化を進行させる、従来より知られている一般的な合金触媒の合成方法に基づき、これを再現した結果である。比較例2-14、2-17においては、熱処理により還元反応および合金化を行った結果、合金化の進行が不十分であり、合金化率が低下した。さらに、比較例2-14、2-17では、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなった。比較例2-14、2-17では、合金化は貴金属化合物と卑金属化合物とが担持された多孔質材料を熱処理することのみによって進行する。貴金属成分(ここでは主に多孔質材料に担持された貴金属化合物)と卑金属成分(ここでは主に多孔質材料に担持された卑金属化合物)が担体である多孔質材料上で移動し、熱拡散しなければ合金化が進行しない。従って、全ての触媒粒子において均一に合金化を進行させることは困難であり、触媒粒子毎の組成がばらつき、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなったと考えられる。
【0201】
比較例2-15は、微粒子を高分子等の保護剤によって分散させる、従来より知られている一般的な微粒子の分散技術に基づき、これを再現した結果である。比較例2-15は、比較例2-13においてPVPを保護剤として使用し、分散性の低下の抑制を試みた。しかしながら、保護剤により触媒粒子が覆われる結果、多孔質材料の細孔内部への担持が困難であり、表面で凝集が生じやすく、依然として分散性は十分でなかった。また、保護剤により触媒粒子が覆われる結果、発電性能、特に初期性能が低下した。また、合金化率は大きくなったものの、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなった。還元剤自体は強力であるため、合金化率が大きくなったと考えられる。しかしながら、還元反応の反応場が十分に制限されておらず、貴金属化合物と卑金属化合物の還元速度差の影響を小さくできていないことから、多くの反応場において貴金属化合物が卑金属化合物に先行して還元されてしまい、全ての触媒粒子上で均一に合金化を進行させることが困難であったと考えられる。このため、触媒粒子毎の組成がばらつき、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなったと考えられる。
【0202】
比較例2-16は、特許文献1に記載の合成方法を、本発明の条件にあてはめて再現した結果である。比較例2-16においては、保護剤を用い、触媒粒子を合成した後、多孔質材料に担持させた。この結果、保護剤により触媒粒子が覆われる結果、多孔質材料の細孔内部への担持が困難であり、多孔質材料の外表面にしか触媒粒子が担持されないことから、触媒粒子の凝集が生じ、分散性が低下した。また、保護剤により触媒粒子が覆われる結果、発電性能、特に初期性能が低下した。また、合金化率は大きくなったものの、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなった。還元剤自体は強力であるため、合金化率が大きくなったと考えられる。しかしながら、比較例2-16では還元反応が液相中で進行するため、還元反応の反応場が十分に制限されておらず、貴金属化合物と卑金属化合物の還元速度差の影響を小さくできていない。このことから、多くの反応場において貴金属化合物が卑金属化合物に先行して還元されてしまい、全ての触媒粒子上で均一に合金化を進行させることが困難であったと考えられる。このため、触媒粒子毎の組成がばらつき、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなったと考えられる。
【0203】
比較例2-18、2-19は、本発明においては第3の工程で還元溶液のpHを制御するために用いているアルカリ性物質を、第2の工程の後、多孔質材料に用いるように方法を変更したものである。比較例2-18、2-19においては、貴金属化合物と卑金属化合物とを多孔質材料に含浸させたのち、水酸化カリウムにより、これらの水酸化物を形成している。しかしながら、このように水酸化物を形成した場合、形成される水酸化物はゲル状の固体となることから、多孔質材料の細孔内部へ固定化させることが困難であり、細孔内部を含めた多孔質材料の表面積が活用されないことから、触媒粒子の分散性が低下した。さらに、比較例2-18においては、熱処理により還元反応および合金化を行っていることから、この結果、合金化の進行が不充分であり、合金化率も低下した。また、比較例2-19においては、還元力が弱いヒドラジンを還元剤として用いた結果、合金化が充分に進行せず、合金化率も低下した。また、比較例2-18、2-19では、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなった。比較例2-18、2-19では、貴金属化合物および卑金属化合物は水酸化物を形成し、多孔質材料に均一に吸着していない。このため、その後の還元反応の際に一斉に均一な粒子化が行われず、触媒粒子間で組成にばらつきが生じ、卑金属元素原子数濃度の標準偏差が大きくなったと考えられる。
【0204】
比較例2-20は、本発明においては、第2の工程で貴金属化合物、卑金属化合物を多孔質材料に固定化した後に、第3の工程で還元溶液と接触させている方法を変更し、第2の工程において、貴金属化合物、卑金属化合物、還元剤をあらかじめ全て同時に多孔質材料に固定化するようにしたものである。比較例2-20においては、多孔質材料に含浸させる溶液としてヒドラジンがあらかじめ含まれたものを用いている。このような場合、ヒドラジン、貴金属化合物、卑金属化合物が液相中で接触した時点から、還元反応が開始されてしまい、還元反応場を多孔質材料の表面付近に制限して還元速度の差を小さくすることが困難となった結果、分散性が低下した。また、比較例2-13と同様、結果として液相において還元を行っていることから、触媒粒子の凝集を抑制できず、分散性が低下した。さらに、比較例2-20では、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなった。比較例2-20では、貴金属化合物と卑金属化合物の還元速度差の影響が大きく、多くの反応場において貴金属化合物が卑金属化合物に先行して還元されてしまい、全ての触媒粒子上で均一に合金化を進行させることが困難であったと考えられる。このため、触媒粒子毎の組成がばらつき、卑金属元素濃度の標準偏差が大きくなったと考えられる。
【0205】
なお、比較例2-20に係る方法において、還元剤としてより強力な還元剤を用いた場合であっても、還元剤、貴金属化合物、卑金属化合物が液相中で接触した時点で還元反応が進行してしまうことから、触媒粒子の凝集を抑制できず、分散性が低下する。
【0206】
なお、
図1に、実施例2-15に係る合金触媒の30kVの加速電圧で走査型透過電子顕微鏡により観察した二次電子像(左)と透過像(右)とを示し、
図2に、比較例2-9に係る合金触媒の30kVの加速電圧で走査型透過電子顕微鏡により観察した二次電子像(左)と透過像(右)とを示す。
【0207】
図1に示すように、実施例2-15に係る合金触媒においては、合金触媒の外表面の様子を現す二次電子像(左)において、触媒粒子はまばらにしか観察されず、一方で、合金触媒の内部の様子を現す透過像(右)において、10nm弱の小粒径の触媒粒子が高度に分散されていることが観察された。このことから、実施例2-15に係る合金触媒においては、多孔質材料内部に小粒径の触媒粒子が高度に分散していることが理解できる。
【0208】
これに対し、
図2に示すように、比較例2-9に係る合金触媒においては、合金触媒の外表面の様子を現す二次電子像(左)においても、合金触媒の内部の様子を現す透過像(右)においても、100nm弱の比較的大きな触媒粒子が多数観察された。このことから、比較例2-9に係る合金触媒においては、多孔質材料の内部には担持困難な粗大な触媒粒子が、多孔質材料の外表面に付着しており、多孔質材料内部には小粒径の触媒粒子が担持されていないことが理解できる。
【0209】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。