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特許7397311被矯正材の変形状態の推定方法及びローラレベラのロール押込量制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】被矯正材の変形状態の推定方法及びローラレベラのロール押込量制御方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 1/05 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
B21D1/05 K
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020046861
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2020175442
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2019079543
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】比護 剛志
(72)【発明者】
【氏名】岩城 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】根上 潤
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-087962(JP,A)
【文献】特開2010-172925(JP,A)
【文献】特表2009-516592(JP,A)
【文献】特開2004-314150(JP,A)
【文献】特開昭61-262427(JP,A)
【文献】特開2009-034705(JP,A)
【文献】日比野 文雄,ローラ・レベラの与えるひずみの実用算式,塑性と加工,第31巻、第349号,日本,日本塑性加工学会,1990年02月,第208頁-第212頁
【文献】日本塑性加工学会,矯正加工,日本,コロナ社,1992年,第80頁-第88頁
【文献】梶原 哲雄,厚板レベラの負荷特性の研究,三菱重工技報,第25巻、第4号,日本,三菱重工業株式会社,1988年07月31日,第321頁-第326頁
【文献】中島 浩衛,ローラー矯正における定常変形過程の理論解析(第1報),昭和48年度春季塑性加工講演会論文集,日本,日本塑性加工学会,1973年05月10日,第143頁-第146頁
【文献】伊丹 美昭,厚板レベラーの変形解析-1,平成8年度塑性加工春季講演会講演論文集,日本,日本塑性加工学会,1996年05月10日,第522頁-第523頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 1/05
B21D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラレベラによる被矯正材の変形状態の推定方法であって、
前記ローラレベラは、上下に千鳥状に配置された複数本のロールを有し、
矯正中の被矯正材の変形状態を表現する任意の2つの表現パラメータと、前記ローラレベラに発生する総矯正荷重及び総矯正動力との関係を取得し、
前記ローラレベラに発生する総矯正荷重及び総矯正動力を測定して、前記関係に基づき2つの表現パラメータを推定し、
推定された前記2つの表現パラメータに基づいて、矯正中の被矯正材の変形状態を推定する、被矯正材の変形状態の推定方法。
【請求項2】
前記2つの表現パラメータとして、負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量を推定する、請求項1に記載の被矯正材の変形状態の推定方法。
【請求項3】
前記2つの表現パラメータとして、前記被矯正材に付与される最大加工度、及び、前記被矯正材の矯正に寄与するロール本数を推定する、請求項1に記載の被矯正材の変形状態の推定方法。
【請求項4】
前記被矯正材に付与される最大加工度、及び、前記被矯正材の矯正に寄与するロール本数は、負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量の推定値に基づき推定される、請求項3に記載の被矯正材の変形状態の推定方法。
【請求項5】
被矯正材を矯正するローラレベラのロール押込量制御方法であって、
前記ローラレベラは、上下に千鳥状に配置された複数本のロールを有し、
矯正中の被矯正材の変形状態を表現する任意の2つの表現パラメータと、前記ローラレベラに発生する総矯正荷重及び総矯正動力との関係を取得し、
前記ローラレベラに発生する総矯正荷重及び総矯正動力を測定して、前記関係に基づき2つの表現パラメータを推定し、
推定された前記2つの表現パラメータに基づいて、矯正中の被矯正材の変形状態を推定し、
推定された前記被矯正材の変形状態が適正となるように、入側ロール押込量と出側ロール押込量とのうち少なくともいずれか一方を制御する、ローラレベラのロール押込量制御方法。
【請求項6】
前記2つの表現パラメータとして、負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量を推定する、請求項5に記載のローラレベラのロール押込量制御方法。
【請求項7】
前記2つの表現パラメータとして、前記被矯正材に付与される最大加工度、及び、前記被矯正材の矯正に寄与するロール本数を推定する、請求項5に記載のローラレベラのロール押込量制御方法。
【請求項8】
前記被矯正材に付与される最大加工度、及び、前記被矯正材の矯正に寄与するロール本数は、負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量の推定値に基づき推定される、請求項7に記載のローラレベラのロール押込量制御方法。
【請求項9】
前記被矯正材の変形状態を最大加工度により表すとき、
前記最大加工度が所望の値よりも大きい場合には、前記入側ロール押込量を減少させ、
前記最大加工度が所望の値よりも小さい場合には、前記入側ロール押込量を増加させる、請求項5~8のいずれか1項に記載のローラレベラのロール押込量制御方法。
【請求項10】
前記被矯正材の変形状態を前記被矯正材の矯正に寄与するロール本数により表すとき、
前記ロール本数が所望の値よりも少ない場合には、前記出側ロール押込量を増加させ、
前記ロール本数が所望の値よりも多い場合には、前記出側ロール押込量を減少させる、請求項5~8のいずれか1項に記載のローラレベラのロール押込量制御方法。
【請求項11】
被矯正材を矯正するローラレベラのロール押込量制御方法であって、
前記ローラレベラは、上下に千鳥状に配置された複数本のロールを有し、
過去の操業実績において、前記ローラレベラにより望ましい被矯正材の矯正効果が得られたときの総矯正荷重及び総矯正動力の実績値を基準として、
前記ローラレベラに発生する総矯正荷重及び総矯正動力を測定し、
総矯正荷重及び総矯正動力の測定値と前記基準とした実績値とが一致するように、入側ロール押込量と出側ロール押込量とのうち少なくともいずれか一方を制御する、ローラレベラのロール押込量制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被矯正材の変形状態の推定方法及びローラレベラのロール押込量制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
板材、形材、管材、線材等の圧延や冷却過程等で発生した反りや波形状を平坦化したり、所望の反りや波形状を付与したりするために、ローラレベラが用いられる。ローラレベラは、上下に千鳥状に配置された複数本のロールにより被矯正材に繰り返し曲げを与えることによって、被矯正材の反りや波形状を平坦化したり、被矯正材に所望の反りや波形状を付与したりするといった、被矯正材の矯正を行う。
【0003】
ローラレベラによるローラ矯正効果は、ローラ矯正中の被矯正材の変形状態で決まる。ローラ矯正中の被矯正材の変形状態は、ローラレベラの各ロールにより被矯正材に与えられる曲げ変形状態(又は曲げ変形量)、すなわち各ロールにより被矯正材に与えられる曲率によって正確に把握することができる。
【0004】
ここで、加工度と呼ぶ、ローラレベラの各ロールにより被矯正材に与えられる曲率の絶対値を被矯正材の弾性限曲率で除した値が、曲げ変形量、曲げ変形状態を定量化する指標として広く用いられている。
【0005】
ローラレベラは、上ロール群及び下ロール群がそれぞれ一体となっており、一方のロール群に対して他方のロール群を傾動させて押し込むものが多い。そのため、ローラ矯正中の被矯正材の変形状態は、一般に、ローラレベラの入側ロール押込量と出側ロール押込量とを設定することにより制御される。したがって、負荷下での入側ロール押込量と出側ロール押込量とがわかれば、ローラ矯正中の変形状態の推定は可能である。しかし、ローラレベラの弾性変形やがた、ロール位置の零点設定誤差等の影響により、負荷下での入側ロール押込量及び出側ロール押込量は、それらの設定値とは異なる。このため、単に目標とする値となるように入側ロール押込量及び出側ロール押込量を設定しても、ローラレベラによる矯正効果を十分に得ることができない。入側ロール押込量及び出側ロール押込量が異なれば、各ロールにより被矯正材に与えられる曲率の実際の値と設定値(狙い値)とは異なってしまう。
【0006】
ローラレベラによる矯正効果を十分に得るために、例えば、特許文献1には、入側最大加工度、出側加工度と板厚、板幅、降伏応力とに基づき上ロール群の入側ロール押込量と出側ロール押込量とを決定した上で、ローラ矯正中の被矯正材に所望の曲げ変形を与えた場合に発生する矯正荷重、矯正動力を予測しておき、矯正荷重の予測値と測定値との差に基づいてローラレベラの弾性変形に相当するロール押込量の修正を行い、さらに、矯正動力の予測値と測定値との差に基づいてロール押込量を補正する方法が開示されている。特許文献1に記載の方法では、矯正荷重及び矯正動力の予測値と測定値の差に基づくロール押込量の修正量を、入側ロール押込量と出側ロール押込量とで等しいとしている。
【0007】
また、特許文献2には、ローラ矯正中の被矯正材に所望の曲げ変形を与えた場合に発生する入側矯正荷重、出側矯正荷重を予測し、入側矯正荷重の予測値と測定値との差に基づき入側ロール押込量を補正するとともに、出側矯正荷重の予測値と測定値との差に基づき出側ロール押込量を補正する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭53-87962号公報
【文献】特開昭61-262427号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】「塑性と加工」、1990年、第31巻、第349号、第208頁~第212頁
【文献】「矯正加工」コロナ社、1992年、第80頁~第88頁
【文献】「三菱重工技報」1988年、第25巻、第4号、第321頁~第326頁
【文献】「昭和48年度春季塑性加工講演会論文集」、1973年、第143頁~第146頁
【文献】「平成8年度塑性加工春季講演会講演論文集」、1996年、第522頁~第523頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記特許文献1に記載の方法では、上ロール群の入側ロール押込量と出側ロール押込量とを同量補正するため、ローラ矯正中の被矯正材の変形状態を細やかに制御することは難しい。また、上記特許文献2に記載の方法では、入側矯正荷重と出側矯正荷重とに基づいて入側ロール押込量及び出側ロール押込量を補正しているが、ロール押込量の増加に伴って矯正荷重の変化は小さくなるので、特に強い曲げを付与する矯正条件ではロール押込量の制御精度が低下してしまう。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、ローラ矯正中の被矯正材の変形状態を精度よく推定し、被矯正材の変形状態を適正にすることの可能な、新規かつ改良された被矯正材の変形状態の推定方法及びローラレベラのロール押込量制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、ローラレベラによる被矯正材の変形状態の推定方法であって、ローラレベラは、上下に千鳥状に配置された複数本のロールを有し、矯正中の被矯正材の変形状態を表現する任意の2つの表現パラメータと、ローラレベラに発生する総矯正荷重及び総矯正動力との関係を取得し、ローラレベラに発生する総矯正荷重及び総矯正動力を測定して、関係に基づき2つの表現パラメータを推定し、推定された2つの表現パラメータに基づいて、矯正中の被矯正材の変形状態を推定する、被矯正材の変形状態の推定方法が提供される。
【0013】
2つの表現パラメータとして、負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量が推定されてもよい。
【0014】
あるいは、2つの表現パラメータとして、被矯正材に付与される最大加工度、及び、被矯正材の矯正に寄与するロール本数が推定されてもよい。
【0015】
あるいは、被矯正材に付与される最大加工度、及び、被矯正材の矯正に寄与するロール本数は、負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量の推定値に基づき推定されてもよい。
【0016】
さらに、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、被矯正材を矯正するローラレベラのロール押込量制御方法であって、ローラレベラは、上下に千鳥状に配置された複数本のロールを有し、矯正中の被矯正材の変形状態を表現する任意の2つの表現パラメータと、ローラレベラに発生する総矯正荷重及び総矯正動力との関係を取得し、ローラレベラに発生する総矯正荷重及び総矯正動力を測定して、関係に基づき2つの表現パラメータを推定し、推定された2つの表現パラメータに基づいて、矯正中の被矯正材の変形状態を推定し、推定された被矯正材の変形状態が適正となるように、入側ロール押込量と出側ロール押込量とのうち少なくともいずれか一方を制御する、ローラレベラのロール押込量制御方法が提供される。
【0017】
2つの表現パラメータとして、負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量が推定されてもよい。
【0018】
あるいは、2つの表現パラメータとして、被矯正材に付与される最大加工度、及び、被矯正材の矯正に寄与するロール本数が推定されてもよい。
【0019】
被矯正材に付与される最大加工度、及び、被矯正材の矯正に寄与するロール本数は、負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量の推定値に基づき推定されてもよい。
【0020】
被矯正材の変形状態を最大加工度により表すとき、最大加工度が所望の値よりも大きい場合には、入側ロール押込量を減少させ、最大加工度が所望の値よりも小さい場合には、入側ロール押込量を増加させてもよい。
【0021】
また、被矯正材の変形状態を被矯正材の矯正に寄与するロール本数により表すとき、ロール本数が所望の値より少ない場合には、出側ロール押込量を増加させ、ロール本数が所望の値よりも多い場合には、出側ロール押込量を減少させてもよい。
【0022】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、被矯正材を矯正するローラレベラのロール押込量制御方法であって、ローラレベラは、上下に千鳥状に配置された複数本のロールを有し、過去の操業実績において、ローラレベラにより望ましい被矯正材の矯正効果が得られたときの総矯正荷重及び総矯正動力の実績値を基準として、ローラレベラに発生する総矯正荷重及び総矯正動力を測定し、総矯正荷重及び総矯正動力の測定値と基準とした実績値とが一致するように、入側ロール押込量と出側ロール押込量とのうち少なくともいずれか一方を制御する、ローラレベラのロール押込量制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明によれば、ローラ矯正中の被矯正材の変形状態を精度よく推定し、被矯正材の変形状態を適正にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ローラレベラの概略構成を示す側面図である。
図2】ローラレベラロールの駆動系を示す模式図である。
図3】出側ロール押込量と残留曲率との関係の一例を示すグラフである。
図4】出側ロール押込量と総矯正荷重との関係の一例を示すグラフである。
図5】総矯正荷重と総矯正動力との関係の一例を示すグラフである。
図6】本発明の第1の実施形態に係る被矯正材の変形状態の推定方法を示すフローチャートである。
図7】実ロール押込量分布の一例を示す説明図である。
図8】加工度分布の一例を示す説明図である。
図9】同実施形態に係るローラレベラのロール押込量制御方法の概要を示すフローチャートである。
図10】同実施形態に係るローラレベラのロール押込量制御方法の一例を示すフローチャートである。
図11】実施例の検証結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0026】
[1.第1の実施形態]
[1-1.ローラレベラの構成]
まず、図1及び図2に基づいて、ローラレベラ100の概略構成について説明する。図1は、ローラレベラ100の概略構成を示す側面図である。図2は、ローラレベラ100のロールの駆動系を示す模式図である。
【0027】
ローラレベラ100は、被矯正材Sの搬送方向に沿って(すなわち、図1の左から右に向かって)、上下に千鳥状に配置された複数本のロールにより構成されている。例えば図1に示すように、ローラレベラ100は、5本の下ロール151、153、155、157、159と、4本の上ロール152、154、156、158とを有する。下ロール151、153、155、157、159をまとめて下ロール群ともいい、上ロール152、154、156、158をまとめて上ロール群ともいう。
【0028】
下ロール151、153、155、157、159は、ハウジング110に固定された下ロール群支持部140に対して回転可能に支持されている。したがって、下ロール群は、被矯正材Sの搬送方向に対して略平行に配置されている。一方、上ロール152、154、156、158は、上ロール群支持部130に対して回転可能に設けられている。上ロール群支持部130は、押込機構120を介して、ハウジング110に支持されている。
【0029】
押込機構120は、ハウジング110の上部から鉛直方向下側に向かって延設され、鉛直方向に伸縮可能な機構である。押込機構120は、例えば油圧機構が組み込まれており、押込機構120を動作させて上ロール群を鉛直方向に移動させることにより、被矯正材Sに対する上ロール押込量を一律に調整することができる。押込機構120の先端には、押込機構120に対して上ロール群支持部130を搬送方向に沿って傾動させる傾動装置121が設けられている。図1に示すローラレベラ100では、傾動装置121は、上ロール群支持部130の被矯正材Sの搬送方向中央部分の1箇所で、上ロール群支持部130を支持している。傾動装置121により上ロール群支持部130を傾動させることで、入側から出側に向かって各上ロールに異なるロール押込量を設定することができる。
【0030】
ローラレベラ100の各ロール151~159は、駆動モータ160により回転される。駆動モータ160の動力は、減速機170、分配器180を介して、各ロール151~159へ伝達される。駆動モータ160、減速機170、分配器180及び各ロール151~159は、伝動軸を介して接続されている。駆動モータ160の動力は、分配器180から各ロール151~159に対してそれぞれ伝達される。各ロール151~159を駆動する動力は、例えば、駆動モータ160の電流値を測定し、測定された電流値をトルク換算することにより求めることができる。あるいは、各ロール151~159を駆動する動力は、伝動軸にトルク計を設けることにより測定することもできる。
【0031】
[1-2.被矯正材の変形状態の推定]
[1-2-1.検討]
被矯正材を真直かつ平坦にするローラレベラによる被矯正材の矯正効果は、ローラ矯正中に被矯正材にどの程度の曲げを付与できているかによって左右される。つまり、ローラ矯正条件を適正化し、より大きなローラ矯正効果を発揮するためには、ローラ矯正中の被矯正材の変形状態を把握することが重要である。ところが、被矯正材の変形状態として、ローラ矯正中に被矯正材に付与される曲げ曲率を測定することは、そのセンサ設置スペースがない等の理由から困難である。そのため、ロール押込量設定から被矯正材に加えられる変形(曲げ曲率)を推定できる実用算式や数値解析手法が提案されている。つまり、ローラ矯正中の被矯正材の変形状態を推定するためには、ローラレベラのロール押込量を把握することが必要である。
【0032】
しかし、矯正荷重(矯正反力)に伴うローラレベラの弾性変形により、設定された(無負荷状態の)ロール押込量と、矯正負荷下での実際のロール押込量とは、大きく異なる。そこで、ローラレベラの弾性変形特性(例えば、剛性、ミル定数)を取得する方法等も提案されているが、ロールの押込機構がスクリュー方式である場合のように締め込み試験ができないローラレベラでは、弾性変形特性の取得は困難である。また、ロールの押込機構が油圧方式である場合のように締め込み試験が可能なローラレベラであっても、一定回数の締め込み試験が必要など、その弾性変形特性の取得は決して容易ではない。
【0033】
そこで、本願発明者は、以下に述べるようなローラ矯正中の被矯正材の変形状態、すなわち、ローラレベラの各ロールにより被矯正材に与えられる曲げ曲率を把握する方法を考案した。まず、一般にローラレベラは、上ロール群及び下ロール群がそれぞれ一体となっており、一方のロール群に対して他方のロール群を傾動させて押し込むものが多い。そのため、ローラレベラは、入側ロール押込量と出側ロール押込量との2つを設定することにより制御される。つまり、ローラレベラの各ロールにより被矯正材に与えられる曲げ曲率分布の自由度は2であることから、本願発明者は、ローラ矯正中の被矯正材の変形状態も任意の2つの表現パラメータを用いて表すことができると考えた。
【0034】
ローラ矯正中の被矯正材の変形状態を表わす任意の2つの表現パラメータとして、例えば、矯正負荷下の入側ロール押込量と出側ロール押込量や、最大加工度と矯正に寄与しているロール本数などが考えられる。ここで、被矯正材の矯正に寄与するロールとは、被矯正材に対して塑性曲げを付与しているロール及びこれに隣接するロールを指す。換言すれば、被矯正材の矯正に寄与しないロールとは、そのロールが存在しなかった場合にも被矯正材に塑性曲げを付与するロール本数が変化しないロールを指す。
【0035】
一方で、ある被矯正材をあるローラレベラで矯正する場合、ローラレベラの各ロールにより被矯正材に与えられる曲げ曲率が決まれば、ローラ矯正中の総矯正荷重と総矯正動力とは一意に決まる。そのため、本願発明者は、ローラ矯正中の被矯正材の変形状態を推定するためには、ローラ矯正中の総矯正荷重と総矯正動力とに着目すればよいと考えた。以下では、ローラ矯正中の被矯正材の変形状態を表わす任意の2つの表現パラメータの一例である、矯正負荷下での実際の入側ロール押込量及び出側ロール押込量を、ローラ矯正中の総矯正荷重と総矯正動力とに基づいて推定する場合を例に説明する。
【0036】
矯正負荷下でのローラレベラの入出側ロール押込量と、総矯正荷重、総矯正動力との関係を数値解析により調べた。なお、以下では、ロール押込量は、上ロールと下ロールとの間隔が被矯正材の厚みに等しいときをゼロとし、上ロールと下ロールとの間隔が狭くなる方向を正とする。なお、ここでは、各上ロール押込量は入側から出側に向かって線形に分布すると仮定した。
【0037】
数値解析では、図1に示したローラレベラによる板厚20mmの普通鋼板の冷間矯正を想定した。ローラレベラの仕様は以下の通りである。
【0038】
(ローラレベラ)
ロール直径D :280[mm]
ロールピッチ2l :300[mm]
ロール本数N :9
【0039】
この際、上ロール群のうち、被矯正材の搬送方向最上流側の上ロール152(#2)の入側ロール押込量sを最大加工度Kmax=2、3、5を付与できる値に固定した上で、被矯正材の搬送方向最下流側の上ロール158(#8)の出側ロール押込量sを変化させた。このとき、ローラレベラの剛性は無限大としたことから、本数値解析で与えた入出側ロール押込量は矯正負荷下での値とみなしてよい。
【0040】
(a.出側ロール押込量と残留曲率との関係)
まず、出側ロール押込量sと残留曲率κresとの関係を調べた。その結果を図3に示す。図3の結果より、出側ロール押込量sを大きくする(すなわち、出側ロールを締め込む)と残留曲率κresが発散的に大きくなる一方、出側ロール押込量sを小さくする(すなわち、出側ロールを開放する)と残留曲率κresがゼロとなる点が複数存在することがわかった。これは、出側ロール押込の開放に伴って下流側のロールが被矯正材の矯正に寄与しなくなるからである。つまり、かかる結果は、ある入側ロール押込量(もしくは最大加工度)を付与した際に、残留曲率κresをゼロとする出側ロール押込量は唯一ではなく、複数存在することを意味する。
【0041】
(b.総矯正荷重と出側ロール押込量との関係)
次に、出側ロール押込量sと総矯正荷重ΣP、総矯正動力ΣQとの関係を調べた。その結果を図4に示す。図4の結果より、出側ロール押込量sを大きくする(すなわち、出側ロールを締め込む)にしたがって総矯正荷重ΣPは増加することがわかった。このとき、例えば図4に破線で示すように、同一の総矯正荷重ΣPを示す入側ロール押込量と出側ロール押込量との組合せは複数存在する。図は割愛するが、総矯正動力ΣQについても同様のことが言える。つまり、総矯正荷重ΣPのみ、もしくは総矯正動力ΣQのみからは入出側ロール押込条件が一意に決まらない。これより、矯正荷重のみ、あるいは矯正動力のみに着目して被矯正材の変形状態を推定し、また、所望の変形状態を得ようとする方法は不適当と考えられる。
【0042】
加えて、同一の最大加工度(入側ロール押込量)において、出側ロールを締め込むにつれて総矯正荷重の変化が小さくなることもわかる。特に、最大加工度が大きくなると、出側ロール押込量の変化に伴う総矯正荷重の変化が小さくなる。このことからも、特に強い曲げを付与する矯正条件では、矯正荷重のみに着目して被矯正材の変形状態を推定し、また、所望の変形状態を得ようとすることは不適当と考えられる。
【0043】
(c.総矯正荷重と総矯正動力との関係)
図5は、入側ロール押込量をある値に固定した上で、出側ロール押込量を変化させた場合の総矯正荷重ΣPと総矯正動力ΣQとの関係を整理したグラフである。図5より、総矯正荷重ΣPと総矯正動力ΣQとから入側ロール押込量と出側ロール押込量の組合せは唯一に求めることができる。つまり、このようにして総矯正荷重ΣPと総矯正動力ΣQとの測定値に基づいて求められた入出側ロール押込量は、それらの負荷下での値とみなすことができるので、これに基づいて被矯正材の変形状態を推定できる。よって、被矯正材に付与されている加工度や、矯正に寄与しているロール本数を推定できる。これらの情報に基づいて、該矯正条件の妥当性を考察することが可能である。
【0044】
なお、総矯正動力は、同一の最大加工度(入側ロール押込量)において、出側ロールを締め込むにつれて変化が大きくなる特性がある。特に、最大加工度が大きくなると、出側ロール押込量の変化に伴う総矯正動力の変化が大きくなる。つまり、特に強い曲げを付与する矯正条件では、総矯正荷重ではその変形状態の違いを検知しにくい一方、総矯正動力ではその変形状態の違いを検知しやすくなる。したがって、総矯正荷重と総矯正動力とを用いて被矯正材の変形状態を推定することにより、その推定精度を高めることが可能となる。
【0045】
[1-2-2.被矯正材の変形状態の推定処理]
上述の検討を踏まえ、本実施形態では、総矯正荷重と総矯正動力との2つの測定値から、未知数である矯正中の被矯正材の変形状態を表現する任意の2つの表現パラメータとして負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量を同定する。そして、同定した2つの表現パラメータ(負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量)に基づき、被矯正材の変形状態を推定する。一般的なローラレベラでは各ロールに作用する矯正荷重及び矯正動力を測定することは難しいものの、総矯正荷重及び総矯正動力は比較的測定可能であることから、かかる手法は実用的である。以下、本実施形態に係る被矯正材の変形状態の推定方法について説明する。
【0046】
図6は、本実施形態に係る被矯正材の変形状態の推定方法を示すフローチャートである。図6に示すように、本実施形態に係る被矯正材の変形状態の推定方法では、まず、矯正中の被矯正材の変形状態を表現する任意の2つの表現パラメータ(例えば、負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量)と、ローラレベラに発生する総矯正荷重及び総矯正動力との関係を予め取得する(S11)。次いで、ローラレベラに発生する総矯正荷重及び総矯正動力を測定する(S13)。そして、ステップS11にて取得された関係に基づき、2つの表現パラメータ(例えば、負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量)が推定される(S15)。その後、推定された2つの表現パラメータに基づいて、矯正中の被矯正材の変形状態が推定される(S17)。
【0047】
ここで、本実施形態では、2つの表現パラメータとして、負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量を例示したが、本発明に用いる表現パラメータはこれらに限定するものではない。例えば、被矯正材に付与される最大加工度及び被矯正材の矯正に寄与するロール本数であってもよい。あるいは、例えば、負荷下の各ロール押込量の平均値と偏差(最大値と最小値との差)や、最大加工度と任意の指定値を上回る加工度を付与しているロール本数などでもよい。以下、これらの2つの表現パラメータを用いた被矯正材の変形状態の推定処理について、具体的に説明する。
【0048】
(A)2つの表現パラメータとして負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量を用いる場合
(ステップ1:負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量と、総矯正荷重及び総矯正動力との関係の取得(図6のS11))
2つの表現パラメータとして負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量を用いる場合、まず、2つの表現パラメータである矯正負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量と、総矯正荷重及び総矯正動力との関係が予め取得される。ここで、負荷下の各ロール押込量は、負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量に基づいて与えればよい。各ロール押込量から総矯正荷重及び総矯正動力は公知の理論計算により算出可能である。例えば、入側ロール押込量及び出側ロール押込量と、総矯正荷重及び総矯正動力との関係として、図5に示したような情報が取得される。
【0049】
具体的には、総矯正荷重及び総矯正動力は、例えば、各ロールでの実ロール押込量(すなわち、ローラ矯正負荷下でのロール押込量)sを仮定して、下記式により求めることができる。一例として、図7に示すように、被矯正材の搬送方向最上流側にある入側ロールから最下流側にある出側ロールに向けて直線状に変化する実ロール押込量分布を仮定する。
【0050】
このとき、ローラレベラの実際のロール押込量と被矯正材の曲率(すなわち、加工度)との関係は、種々の実験式あるいは数値解析より求める手法が提案されている。例えば、非特許文献1には、ローラレベラのロールピッチと実ロール押込量とから、被矯正材の曲率を求める実験式が開示されている。各ロールによって被矯正材に付与される曲率が得られれば、以下の算出式より、総矯正荷重及び総矯正動力を求めることができる。
【0051】
まず、任意の加工度について、各ロールにおいて被矯正材に作用する曲げモーメントは、下記式(1)より算出される(非特許文献2参照)。
【0052】
【数1】
【0053】
ここで、Kは該ロールで被矯正材に付与される加工度、Meは降伏開始時の曲げモーメントである。また、各ロールに作用する矯正荷重は、下記式(2)により表される(非特許文献2参照)。
【0054】
【数2】
【0055】
ここで、Pは各ロール荷重、Lはロール間隔、Mは曲げモーメント、iはロール番号を示す。これより、各ロールに作用する矯正荷重の合計(すなわち、総矯正荷重)ΣPは、上ロール(もしくは下ロール)に作用する各ロール荷重の総和として求められる。
【0056】
一方、総矯正動力ΣQは、被矯正板を弾完全塑性体とみなすと、下記式(3)より求めることができる。式(3)は、非特許文献3に記載の式から導出できる。
【0057】
【数3】
【0058】
ここで、wは被矯正材の板幅、tは被矯正材の板厚、σは被矯正材の降伏応力、Eは被矯正材のヤング率、vは矯正速度、Kiは各ロールでの加工度である。
【0059】
このように、各ロールによって被矯正材に付与される曲率が得られれば、これらの式(1)~(3)を用いて、総矯正荷重及び総矯正動力を求めることができる。
【0060】
なお、曲げモーメント、総矯正荷重、総矯正動力の計算式は、上記式(1)~(3)に示したものに限定されず、他の公知の式を用いてもよい。
【0061】
あるいは、非特許文献4には、梁の曲げ理論に基づいて実ロール押込量から被矯正材の変形状態を理論的に求める方法が開示されている。もしくは、非特許文献5には、有限要素解析を用いて実ロール押込量から被矯正材の変形状態を求める方法が開示されている。このような手法を用いて求められた被矯正材の変形状態に基づき、各ロールで付与される曲率、総矯正荷重、総矯正動力などを求めることもできる。
【0062】
(ステップ2:被矯正材の変形状態の推定(図6のS13~S17))
次いで、総矯正荷重及び総矯正動力の実測値から、上記ステップ1で取得された負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量と、総矯正荷重及び総矯正動力との関係に基づいて、被矯正材の変形状態が推定される。
【0063】
すなわち、総矯正荷重及び総矯正動力が測定されると(図6のS13)、測定された値に基づき、負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量と、総矯正荷重及び総矯正動力との関係から、このときの負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量を推定し得る(図6のS15)。そして、推定された負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量に基づき、このときの被矯正材の変形状態を取得することができる(図6のS17)。
【0064】
(B)2つの表現パラメータとして被矯正材に付与される最大加工度及び被矯正材の矯正に寄与するロール本数を用いる場合
(ステップ1:被矯正材に付与される最大加工度及び被矯正材の矯正に寄与するロール本数と、総矯正荷重及び総矯正動力との関係の取得(図6のS11))
2つの表現パラメータとして被矯正材に付与される最大加工度及び被矯正材の矯正に寄与するロール本数を用いる場合、まず、2つの表現パラメータである被矯正材に付与される最大加工度及び被矯正材の矯正に寄与するロール本数と、総矯正荷重及び総矯正動力との関係が予め取得される。これらも公知の理論計算により算出可能である。これらの関係を求めるにあたり、総矯正荷重及び総矯正動力は、例えば、加工度(曲率)分布を仮定することにより算出することができる。
【0065】
具体的には、総矯正荷重及び総矯正動力は、各ロールで被矯正材に付与される曲率(加工度)分布を仮定して、上記式(1)~(3)により求めることができる。一例として、ロール本数Nのローラレベラにおいて、図8に示すような、被矯正材の搬送方向上流側から4番目(上ロールでは2番目)のロールで最大加工度Kmaxとなり、(m-1)番目のロールで加工度Km-1となる加工度分布を仮定する。ここで、m≦Nであるとする。このとき、m番目から下流に位置するロールからは被矯正材に塑性曲げが加えられないので、(m+1)~N番目のロールは矯正に寄与していないことを意味する。
【0066】
かかる加工度分布における任意のKmax、m、Km-1に対し、上記式(1)から各ロールにおいて被矯正材に作用する曲げモーメントを算出することで、上記式(2)から総矯正荷重を算出することができる。また、上記式(3)より、総矯正動力を算出することができる。
【0067】
なお、図8に示した加工度分布は一例であり、本発明はかかる例に限定されない。例えば、図8に示したように各ロールでの加工度を線形補間ではなく、曲線状に付与してもよい。また、最大加工度を与えるロールを4番目のロールに限定する必要もない。
【0068】
(ステップ2:被矯正材の変形状態の推定(図6のS13~S17))
次いで、総矯正荷重及び総矯正動力の実測値から、上記ステップ1で取得された被矯正材に付与される最大加工度及び被矯正材の矯正に寄与するロール本数と、総矯正荷重及び総矯正動力との関係に基づいて、被矯正材の変形状態が推定される。
【0069】
具体的には、総矯正荷重及び総矯正動力が測定されると(図6のS13)、総矯正荷重及び総矯正動力の実測値から、ステップ1で取得された最大加工度及び矯正に寄与しているロール本数と総矯正荷重及び総矯正動力との関係に基づいて、このときの被矯正材に付与される最大加工度及び被矯正材の矯正に寄与するロール本数を推定し得る(図6のS15)。そして、推定された被矯正材に付与される最大加工度及び被矯正材の矯正に寄与するロール本数に基づき、被矯正材の変形状態が推定される(図6のS17)。
【0070】
以上、本実施形態に係る被矯正材の変形状態の推定方法について説明した。なお、被矯正材の変形状態を推定するにあたり設定される2つの表現パラメータは、上記組合せ例に限定されない。2つの表現パラメータは、ローラ矯正中の被矯正材の変形状態を表現するパラメータから任意の2つのパラメータを選択してもよい。
【0071】
[1-3.ローラレベラのロール押込量制御]
本実施形態に係るローラレベラのロール押込量制御では、ローラレベラにより矯正中の被矯正材の変形状態が適正な値となるように入側ロール押込量及び出側ロール押込量を制御する。すなわち、図9に示すように、まず、被矯正材の変形状態の推定処理により、被矯正材の変形状態が推定される(S10)。次いで、推定された被矯正材の変形状態が適正な値となるように、入側ロール押込量及び出側ロール押込量が制御される(S20)。ステップS10の推定処理は、例えば図6に示した処理を行えばよい。
【0072】
一例として、2つの表現パラメータとして負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量を用いて、ローラレベラにより矯正中の被矯正材の変形状態を推定する場合のローラレベラのロール押込量制御方法について、図10に基づき説明する。図10は、本実施形態に係るローラレベラのロール押込量制御方法の一例を示すフローチャートである。
【0073】
図10に示すように、本実施形態に係るローラレベラのロール押込量制御を開始するに当たり、まず、負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量と、総矯正荷重及び総矯正動力との関係を予め取得する(S100)。かかる関係は、上述した被矯正材の変形状態の推定処理のステップ1の処理により取得することができる。
【0074】
次いで、被矯正材を矯正中のローラレベラの総矯正荷重及び総矯正動力を測定する(S110)。総矯正荷重は、例えば、図1に示した押込機構120に搭載された荷重検出装置(図示せず。)により測定可能である。荷重検出装置は、例えばロードセルである。総矯正動力は、例えば、図2に示した駆動モータ160の電流値を測定し、当該電流値を換算して得ることができ、あるいは、伝動軸に設置されたトルク計を用いて測定することもできる。
【0075】
さらに、ステップS110にて測定された総矯正荷重及び総矯正動力に基づき、ステップS100にて予め取得されている負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量と、総矯正荷重及び総矯正動力との関係から、負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量が推定される(S120)。そして、推定された負荷下の入側ロール押込量及び出側ロール押込量に基づき、ローラ矯正中の被矯正材の変形状態が推定される(S130)。ステップS110~S130の処理は、上述した被矯正材の変形状態の推定処理のステップ2の処理に対応している。すなわち、ステップS100~S130の処理は、図6に示したステップS11~S17の処理に対応している。
【0076】
その後、ステップS130により推定されたローラ矯正中の被矯正材の変形状態が所望の状態に近づくように入側ロール押込量及び出側ロール押込量が調整され、ローラレベラのロール押込量が制御される。具体的には、所望のローラ矯正中の被矯正材の変形状態における総矯正荷重及び総矯正動力が算出される(S140)。そして、総矯正荷重及び総矯正荷重の実測値がステップS140で求められたそれらの算出値に近づくように、ローラレベラの入側ロール押込量及び出側ロール押込量が制御される(S150)。なお、ローラ矯正中の被矯正材の所望の変形状態は、例えば過去の操業実績に基づき、経験的に設定してもよい。入側ロール押込量及び出側ロール押込量の調整は、ローラレベラの押込機構120による鉛直方向の押込み状態や傾動装置121による傾動状態を変更することにより行われる。
【0077】
例えば、被矯正材の変形状態を表現する表現パラメータである最大加工度に着目すると、最大加工度は、一般には大きい方が好ましいが、最大加工度を大きくするにしたがって被矯正材の矯正効果は飽和する。最大加工度を大きくすると矯正負荷も増加するので、過大な最大加工度を付与しないようにするのが好ましい。このため、例えば、最大加工度が所望の値よりも大きい場合には、入側ロール押込量を減少させ、最大加工度が所望の値よりも小さい場合には、入側ロール押込量を増加させるようにする。なお、被矯正材に付与する最大加工度の所望の値は、被矯正材条件や要求される平坦度、用いるローラレベラの仕様等に応じて適宜設定可能である。
【0078】
また、例えば、被矯正材の変形状態を表現する表現パラメータである被矯正材の矯正に寄与するロール本数に着目すると、かかるロール本数が所望の値よりも少ない場合には、出側ロール押込量を増加させ、かかるロール本数が所望の値よりも多い場合には、出側ロール押込量を減少させるようにする。なお、被矯正材の矯正に寄与するロール本数の所望の値は、被矯正材条件や要求される平坦度等に応じて適宜設定可能である。
【0079】
このように、ローラ矯正中の被矯正材の変形状態が所望の状態に近づくように入側ロール押込量及び出側ロール押込量が調整されることで、被矯正材の変形状態を適正にすることができる。なお、入側ロール押込量または出側ロール押込量のうちいずれか一方を調整して、ローラ矯正中の被矯正材の変形状態が所望の状態に近づくようにしてもよい。また、測定された総矯正荷重及び総矯正動力に基づき、予め取得されている矯正中の被矯正材の変形状態を表現する任意の2つの表現パラメータ(例えば、入側ロール押込量及び出側ロール押込量)と、総矯正荷重及び総矯正動力との関係から、ローラ矯正中の被矯正材の変形状態を推定することで、ローラ矯正中の被矯正材の変形状態を精度よく推定することができる。
【0080】
なお、上記説明では、ローラレベラの上ロール群の押込量が鉛直方向に伸縮可能な押込機構と、その先端に具備された傾動装置とにより設定される場合の被矯正材の変形状態の推定方法及びローラレベラのロール押込量制御方法について説明したが、本発明の適用対象はかかるロール押込量設定機構を有するローラレベラに限定されない。例えば、入側押込装置により入側ロール押込量を設定し、出側押込装置により出側ロール押込量を設定するローラレベラを用いてもよい。
【0081】
また、図10では、ローラレベラにより矯正中の被矯正材の変形状態を、負荷下の入出側ロール押込量を通じて推定する場合のローラレベラのロール押込量制御方法について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、負荷下の入出側ロール押込量ではなく、最大加工度と矯正に寄与しているロール本数とを直接推定することで矯正中の被矯正材の変形状態を推定し、また、矯正中の被矯正材が所望の変形状態となるように、入側ロール押込量及び出側ロール押込量を制御するようにしてもよい。
【0082】
さらに、総矯正動力の代わりに総矯正トルクを用いて被矯正材の変形状態を推定し、また、ローラレベラのロール押込量を制御してもよい。
【0083】
[2.第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係るローラレベラのロール押込量制御方法について説明する。本実施形態に係るローラレベラのロール押込量制御方法は、矯正中の被矯正材の変形状態を表現する任意の2つの表現パラメータを推定することなく、入側ロール押込量及び出側ロール押込量を制御する点で、第1の実施形態と相違する。
【0084】
すなわち、本実施形態に係る被矯正材の変形状態の推定方法では、予め、過去の操業実績において、ローラレベラにより望ましい被矯正材の矯正効果が得られたときの総矯正荷重及び総矯正動力の実績値、すなわち、ローラレベラによる被矯正材の矯正効果が良好であったときの総矯正荷重及び総矯正動力の実績値を基準として設定する。次いで、ローラレベラに発生する総矯正荷重及び総矯正動力を測定し、総矯正荷重及び総矯正動力の測定値と実績値とを比較する。そして、比較結果に基づいて、総矯正荷重及び総矯正動力の測定値と実績値とが一致するように、入側ロール押込量及び出側ロール押込量が制御される。
【0085】
このように、矯正中の被矯正材の変形状態を表現する任意の2つの表現パラメータを推定することなく、ローラレベラによる被矯正材の矯正効果が良好であったときの総矯正荷重及び総矯正動力の実績値を用いて、総矯正荷重及び総矯正動力の測定値と実績値とが一致するように、入側ロール押込量及び出側ロール押込量を制御することによっても、ローラレベラにより矯正中の被矯正材の変形状態を適正にすることができる。なお、総矯正動力の代わりに総矯正トルクを用いて被矯正材の変形状態を推定し、また、ローラレベラのロール押込量を制御してもよい。
【0086】
[3.補足]
上記の被矯正材の変形状態の推定、及び、ローラレベラのロール押込量制御は、ローラレベラを制御する演算処理装置(図示せず。)により行われる。演算処理装置は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、演算処理装置の各構成要素の機能を、CPU等がすべて行ってもよい。演算処理装置は、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
【0087】
また、上述のような本実施形態に係る演算処理装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
【実施例
【0088】
本発明者らは、本発明の矯正効果を比較する実機実験を行った。実施例では、本発明に係る被矯正材の変形状態の推定を行い、総矯正荷重及び総矯正動力が所望の値となるように、押込機構を制御し、ローラレベラのロール押込量制御を行った。比較例では、特許文献2に示した手法により、入側矯正荷重、出側矯正荷重が所望の値となるように入側押込装置、出側押込装置を制御し、ローラレベラのロール押込量制御を行った。本検証では、ロール直径280mm、ロール9本を有するローラレベラにおいて、板厚4~30mm、板幅1200~4500mm、強度250~980MPaの普通鋼板を矯正した。
【0089】
図11に検証結果を示す。図11では、比較例の結果として、入側矯正荷重及び出側矯正荷重が所望の値となるように入側押込装置及び出側押込装置を制御して被矯正材を矯正した場合の、矯正後の被矯正材の平坦度合格率を示す。また、実施例の結果として、全矯正荷重及び全矯正動力が所望の値となるように押込機構を制御して被矯正材を矯正した場合の、矯正後の被矯正材の平坦度合格率を示す。なお、ここでは、JIS G3141に示されている平坦度基準に照らし合わせて平坦度の合否を判定した。
【0090】
図11に示すように、比較例の平坦度合格率は66%であったのに対し、実施例の平坦度合格率は75%であった。平坦度合格率が高かった本発明に係る手法により被矯正材を矯正では、平坦度不合格材の発生率低減による生産性向上、動力原単位の低減などの効果も享受することができた。これより、本発明に係る手法により全矯正荷重及び全矯正動力が所望の値となるように押込機構を制御して被矯正材を矯正した方が、従来の技術に比べ矯正効果が向上していることが実証された。これは、全矯正荷重、全矯正動力を用いるほうが被矯正板の変形状態をより正しく推定でき、これを所望の状態に制御できたことによるものと考えられる。
【0091】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0092】
100 ローラレベラ
110 ハウジング
120 押込機構
121 傾動装置
130 上ロール群支持部
140 下ロール群支持部
151~159 ロール
160 駆動モータ
170 減速機
180 分配器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11