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特許7397313スポット溶接継手の製造方法及び抵抗スポット溶接装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】スポット溶接継手の製造方法及び抵抗スポット溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/24 20060101AFI20231206BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20231206BHJP
   B23K 11/16 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B23K11/24 336
B23K11/11 540
B23K11/16 311
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020058750
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021154364
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 直明
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真二
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-035952(JP,A)
【文献】特開2015-155103(JP,A)
【文献】特開2002-045976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/24
B23K 11/11
B23K 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わされた複数の金属材を有する溶接対象を、互いに対向して配置された第一電極及び第二電極で挟み、前記溶接対象に対する前記第一電極及び前記第二電極の加圧を開始する加圧ステップと、
前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線に対する前記第一電極の軸線の傾きである打角の大きさを算出すると共に、前記溶接対象における前記第二電極との接触面の法線に対する前記第二電極の軸線の傾きである打角の大きさを算出する打角算出ステップと、
前記第一電極及び前記第二電極を有する溶接ガンの角度を変更することにより、前記第一電極の打角の大きさ及び前記第二電極の打角の大きさを補正する打角補正ステップと、
前記第一電極及び前記第二電極の間を通電して前記複数の金属材を抵抗スポット溶接し、前記溶接対象からスポット溶接継手を得る溶接ステップと、
を備え、
前記打角算出ステップでは、
前記第一電極に周方向に等間隔で取り付けられた3つ以上の複数の第一ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εから前記複数のひずみ測定値εの平均値εをそれぞれ減算して複数の偏差ひずみε’を算出し、前記複数の偏差ひずみε’に基づいて、前記第一電極の打角の大きさを算出し、
前記複数の第一ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記第一電極の打角の大きさを算出する手法と同一の手法により、前記第二電極に周方向に等間隔で取り付けられた3つ以上の複数の第二ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて、前記第二電極の打角の大きさを算出し、
前記打角補正ステップでは、
前記複数の金属材のうち前記第一電極と接触する第一金属材における引張強さTS(MPa)と板厚T(mm)の積を第一強度指標βと定義すると共に、前記複数の金属材のうち前記第二電極と接触する第二金属材における引張強さTS(MPa)と板厚T(mm)の積を第二強度指標βと定義した場合に、
β<βであるときには、前記第一電極の打角の大きさが前記第二電極の打角の大きさより大きくなるように、前記溶接ガンの角度を変更し、
β=βであるときには、前記第一電極の打角の大きさと前記第二電極の打角の大きさとが同じになるように、前記溶接ガンの角度を変更し、
β>βであるときには、前記第一電極の打角の大きさが前記第二電極の打角の大きさより小さくなるように、前記溶接ガンの角度を変更し、
前記打角算出ステップでは、
前記第一電極及び前記第二電極が対向する方向と直交する方向から見た平面であって、前記第一電極の軸線及び前記第二電極の軸線を含む平面をX-Z平面とした場合に、
前記X-Z平面において前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線と前記第一電極の軸線とのなす角度を前記第一電極の打角の大きさφ ’[°]とし、
前記X-Z平面において前記溶接対象における前記第二電極との接触面の法線と前記第二電極の軸線とのなす角度を前記第二電極の打角の大きさφ ’[°]とし、
前記直交する方向から見て、前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線から反時計回りに前記第一電極の軸線が傾く方向を前記第一電極の打角の大きさφ ’のプラス方向とすると共に、前記溶接対象における前記第二電極との接触面の法線から反時計回りに前記第二電極の軸線が傾く方向を前記第二電極の打角の大きさφ ’のプラス方向とした場合に、
前記X-Z平面における前記第二金属材に対する前記第一金属材の傾斜角度φ を、式(1)により算出し、
φ =|φ ’-φ ’| ・・・(1)
前記打角補正ステップでは、
前記第一強度指標β と前記第二強度指標β との比であるリスク指標βを、式(2)により定義した場合に、
β=β /β ・・・(2)
前記X-Z平面における補正後の前記第一電極の打角の大きさφ ’’及び前記X-Z平面における補正後の前記第二電極の打角の大きさφ ’’を、式(3)、(4)により算出し、
φ ’’=(1-α)×φ ・・・(3)
φ ’’=α×φ ・・・(4)
ただし、係数αは、式(5)~(7)によって表される係数であり、
0<β<1.0のとき、0<α<0.5 ・・・(5)
β>1.0のとき、 0.5<α≦1.0 ・・・(6)
β=1.0のとき、 α=0.5 ・・・(7)
前記第一電極の打角の大きさφ ’及び前記第二電極の打角の大きさφ ’が、前記X-Z平面においてφ ’’、φ ’’になるように、前記溶接ガンの角度を前記X-Z平面に沿って変更する、
スポット溶接継手の製造方法。
【請求項2】
前記打角算出ステップでは、
前記溶接対象における前記第一電極との接触面上に、該接触面と前記第一電極の軸線との交点を中心とする円を設定し、該円の中心から径方向外側へ延びる線を第一基準線とし、
前記溶接対象における前記第一電極との接触面上に前記第一電極の軸線を投影した場合に前記第一基準線と前記第一電極の軸線とのなす角度を前記第一電極の打角の方向θ [°]とし、
同一平面上で前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線と前記第一電極の軸線とのなす角度を前記第一電極の打角の大きさφ [°](0°≦φ <90°)とし、
前記溶接対象における前記第二電極との接触面上に、該接触面と前記第二電極の軸線との交点を中心とする円を設定し、該円の中心から径方向外側へ前記第一基準線に沿って延びる線を第二基準線とし、
前記溶接対象における前記第二電極との接触面上に前記第二電極の軸線を投影した場合に前記第二基準線と前記第二電極の軸線とのなす角度を前記第二電極の打角の方向θ [°]とし、
同一平面上で前記溶接対象における前記第二電極との接触面の法線と前記第二電極の軸線とのなす角度を前記第二電極の打角の大きさφ [°](0°≦φ <90°)とした場合に、
前記複数の偏差ひずみε’に基づいて前記第一電極の打角の方向θ と大きさφ を算出すると共に、前記第一電極の打角の方向θ と大きさφ を算出する手法と同一の手法により、前記第二電極の打角の方向θ と大きさφ を算出し、
前記第一電極の打角の方向θ と大きさφ を用いて、前記X-Z平面に前記第一電極の打角の大きさφ を投影した場合の角度である、前記第一電極の打角の大きさφ ’を算出し、
前記第二電極の打角の方向θ と大きさφ を用いて、前記X-Z平面に前記第二電極の打角の大きさφ を投影した場合の角度である、前記第一電極の打角の大きさφ ’を算出し、
前記打角補正ステップでは、
前記打角算出ステップの算出結果に基づいて、前記溶接ガンの角度を前記X-Z平面に沿って変更する
請求項1に記載のスポット溶接継手の製造方法。
【請求項3】
前記打角算出ステップでは、
前記複数の偏差ひずみε’から前記第一電極の打角がない場合の前記複数の偏差ひずみε’である複数の基準偏差ひずみε φ=0 ’をそれぞれ減算して複数の偏差ひずみ変化量Δε’を算出し、前記複数の偏差ひずみ変化量Δε’に基づいて前記第一電極の打角の方向θ と大きさφ を算出する
請求項2に記載のスポット溶接継手の製造方法。
【請求項4】
前記複数の第一ひずみゲージとして前記第一電極における周方向に90°間隔で離れた位置に取り付けられた4つの第一ひずみゲージを用い、
前記打角算出ステップでは、
前記複数の偏差ひずみ変化量としての4つの偏差ひずみ変化量Δε’のうち、値がマイナス側に最も大きい第一偏差ひずみ変化量Δε1’を特定すると共に、前記第一偏差ひずみ変化量Δε1’が検出された位置から前記第一電極の周方向に±90°離れた2つの位置でそれぞれ検出された偏差ひずみ変化量のうち値がマイナス側に大きい方の第二偏差ひずみ変化量Δε2’を特定し、
前記第一偏差ひずみ変化量Δε1’及び前記第二偏差ひずみ変化量Δε2’に基づいて前記第一電極の打角の方向θ と大きさφ を算出する
請求項3に記載のスポット溶接継手の製造方法。
【請求項5】
式(8)で定義される合成偏差ひずみ変化量Δε ’と前記第一電極の打角の大きさφ との関係から比例係数γを予め算出し、
Δε ’=√{(Δε1’) +(Δε2’) }・・・(8)
前記第一基準線上の位置、前記第一基準線から前記第一電極の周方向に90°離れた位置、前記第一基準線から前記第一電極の周方向に180°離れた位置、及び、前記第一基準線から前記第一電極の周方向に270°離れた位置に、前記4つのひずみゲージをそれぞれ配置した状態とし、
前記第一基準線上の位置で検出された偏差ひずみ変化量Δε’をΔε ’とし、
前記第一基準線から前記第一電極の周方向に90°離れた位置で検出された偏差ひずみ変化量Δε’をΔε 90 ’とし、
前記第一基準線から前記第一電極の周方向に180°離れた位置で検出された偏差ひずみ変化量Δε’をΔε 180 ’とし、
前記第一基準線から前記第一電極の周方向に270°離れた位置で検出された偏差ひずみ変化量Δε’をΔε 270 ’とした場合に、
前記打角算出ステップでは、
Δε1’=Δε ’(<0)、Δε2’=Δε 90 ’(<0)であるときには、前記第一電極の打角の方向θ と大きさφ を次式(A-1)~(A-3)により算出し、
θ =arcTan(|Δε2’|/|Δε1’|)×180/π・・・(A-1)
φ =γ×ΔεN’・・・(A-2)
Δε ’=√{(Δε1’) +(Δε2’) }・・・(A-3)
Δε1’=Δε 90 ’(<0)、Δε2’=Δε ’(<0)であるときには、前記第一電極の打角の方向θ と大きさφ を次式(B-1)~(B-3)により算出し、
θ =arcTan(|Δε1’|/|Δε2’|)×180/π・・・(B-1)
φ =γ×ΔεN’・・・(B-2)
Δε ’=√{(Δε1’) +(Δε2’) }・・・(B-3)
Δε1’=Δε 90 ’(<0)、Δε2’=Δε 180 ’(<0)であるときには、前記第一電極の打角の方向θ と大きさφ を次式(C-1)~(C-3)により算出し、
θ ={π/2+arcTan(|Δε2’|/|Δε1’|)}×180/π・・・(C-1)
φ =γ×ΔεN’・・・(C-2)
Δε ’=√{(Δε1’) +(Δε2’) }・・・(C-3)
Δε1’=Δε 180 ’(<0)、εΔ2’=Δε 90 ’(<0)であるときには、前記第一電極の打角の方向θ と大きさφ を次式(D-1)~(D-3)により算出し、
θ ={π/2+arcTan(|Δε1’|/|Δε2’|)}×180/π・・・(D-1)
φ =γ×ΔεN’・・・(D-2)
Δε ’=√{(Δε1’) +(Δε2’) }・・・(D-3)
Δε1’=Δε 180 ’(<0)、Δε2’=Δε 270 ’(<0)であるときには、前記第一電極の打角の方向θ と大きさφ を次式(E-1)~(E-3)により算出し、
θ ={π+arcTan(|Δε2|’/|Δε1’|)}×180/π・・・(E-1)
φ =γ×ΔεN’・・・(E-2)
Δε ’=√{(Δε1’) +(Δε2’) }・・・(E-3)
Δε1’=Δε 270 ’(<0)、Δε2’=Δε 180 ’(<0)であるときには、前記第一電極の打角の方向θ と大きさφ を次式(F-1)~(F-3)により算出し、
θ ={π+arcTan(|Δε1|’/|Δε2’|)}×180/π・・・(F-1)
φ =γ×ΔεN’・・・(F-2)
Δε ’=√{(Δε1’) +(Δε2’) }・・・(F-3)
Δε1’=Δε 270 ’(<0)、Δε2’=Δε ’(<0)であるときには、前記第一電極の打角の方向θ と大きさφ を次式(G-1)~(G-3)により算出し、
θ ={3π/2+arcTan(|Δε2’|/|Δε1’|)×180/π・・・(G-1)
φ =γ×ΔεN’・・・(G-2)
Δε ’=√{(Δε1’) +(Δε2’) }・・・(G-3)
Δε1’=Δε ’(<0)、Δε2’=Δε 270 ’(<0)であるときには、前記第一電極の打角の方向θ と大きさφ を次式(H-1)~(H-3)により算出し、
θ ={3π/2+arcTan(|Δε1’|/|Δε2’|)×180/π・・・(H-1)
φ =γ×ΔεN’・・・(H-2)
Δε ’=√{(Δε1’) +(Δε2’) }・・・(H-3)
Δε1’=Δε ’(<0)、Δε2’=0であるときには、前記第一電極の打角の方向θ と大きさφ を次式(I-1)~(I-3)により算出し、
θ =0・・・(I-1)
φ =γ×ΔεN’・・・(I-2)
Δε ’=√{(Δε1’) +(Δε2’) }・・・(I-3)
Δε1’=Δε 90 ’(<0)、Δε2’=0であるときには、前記第一電極の打角の方向θ と大きさφ を次式(J-1)~(J-3)により算出し、
θ =90・・・(J-1)
φ =γ×ΔεN’・・・(J-2)
Δε ’=√{(Δε1’) +(Δε2’) }・・・(J-3)
Δε1’=Δε 180 ’(<0)、Δε2’=0であるときには、前記第一電極の打角の方向θ と大きさφ を次式(K-1)~(K-3)により算出し、
θ =180・・・(K-1)
φ =γ×ΔεN’・・・(K-2)
Δε ’=√{(Δε1’) +(Δε2’) }・・・(K-3)
Δε1’=Δε 270 ’(<0)、Δε2’=0であるときには、前記第一電極の打角の方向θ と大きさφ を次式(L-1)~(L-3)により算出し、
θ =270・・・(L-1)
φ =γ×ΔεN’・・・(L-2)
Δε ’=√{(Δε1’) +(Δε2’) }・・・(L-3)
Δε1’=0、Δε2’=0であるときには、前記第一電極の打角の方向θ は算出せず、大きさφ を次式(M-1)により算出する、
φ =0・・・(M-1)
請求項4に記載のスポット溶接継手の製造方法。
【請求項6】
前記複数の金属材は、複数の鋼板であり、
前記複数の鋼板は、重ね合わせ面に亜鉛系めっきが被覆された亜鉛めっき鋼板を1枚以上含む、
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のスポット溶接継手の製造方法。
【請求項7】
互いに対向して配置された第一電極及び第二電極を有する溶接ガンと、
前記第一電極に周方向に等間隔で取り付けられた3つ以上の複数の第一ひずみゲージと、
前記第二電極に周方向に等間隔で取り付けられた3つ以上の複数の第二ひずみゲージと、
前記第一電極及び前記第二電極の少なくとも一方を前記第一電極及び前記第二電極が近づく方向に移動させるアクチュエータと、
前記溶接ガンの角度を変更するロボットと、
前記第一電極及び前記第二電極の間を通電する電源と、
前記複数の第一ひずみゲージ、前記複数の第二ひずみゲージ、前記アクチュエータ、前記ロボット及び前記電源と電気的に接続された制御部と、
を備え、
前記制御部は、
重ね合わされた複数の金属材を有する溶接対象が、前記第一電極及び前記第二電極で挟まれて、前記溶接対象に対する前記第一電極及び前記第二電極の加圧が開始されるように、前記アクチュエータを制御する加圧制御部と、
前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線に対する前記第一電極の軸線の傾きである打角の大きさを算出すると共に、前記溶接対象における前記第二電極との接触面の法線に対する前記第二電極の軸線の傾きである打角の大きさを算出する打角算出部と、
前記溶接ガンの角度が変更されることにより、前記第一電極の打角の大きさ及び前記第二電極の打角の大きさが補正されるように、前記ロボットを制御する打角補正部と、
前記第一電極及び前記第二電極の間が通電されて前記複数の金属材が抵抗スポット溶接されるように、前記電源を制御する溶接制御部と、
を備え、
前記打角算出部は、
前記第一電極に周方向に等間隔で取り付けられた3つ以上の複数の第一ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εから前記複数のひずみ測定値εの平均値ε をそれぞれ減算して複数の偏差ひずみε’を算出し、前記複数の偏差ひずみε’に基づいて、前記第一電極の打角の大きさを算出し、
前記複数の第一ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記第一電極の打角の大きさを算出する手法と同一の手法により、前記第二電極に周方向に等間隔で取り付けられた3つ以上の複数の第二ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて、前記第二電極の打角の大きさを算出し、
前記打角補正部は、
前記複数の金属材のうち前記第一電極と接触する第一金属材における引張強さTS (MPa)と板厚T (mm)の積を第一強度指標β と定義すると共に、前記複数の金属材のうち前記第二電極と接触する第二金属材における引張強さTS (MPa)と板厚T (mm)の積を第二強度指標β と定義した場合に、
β <β であるときには、前記第一電極の打角の大きさが前記第二電極の打角の大きさより大きくなるように、前記ロボットを制御して、前記溶接ガンの角度を変更し、
β =β であるときには、前記第一電極の打角の大きさと前記第二電極の打角の大きさとが同じになるように、前記ロボットを制御して、前記溶接ガンの角度を変更し、
β >β であるときには、前記第一電極の打角の大きさが前記第二電極の打角の大きさより小さくなるように、前記ロボットを制御して、前記溶接ガンの角度を変更し、
前記打角算出部は、
前記第一電極及び前記第二電極が対向する方向と直交する方向から見た平面であって、前記第一電極の軸線及び前記第二電極の軸線を含む平面をX-Z平面とした場合に、
前記X-Z平面において前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線と前記第一電極の軸線とのなす角度を前記第一電極の打角の大きさφ ’[°]とし、
前記X-Z平面において前記溶接対象における前記第二電極との接触面の法線と前記第二電極の軸線とのなす角度を前記第二電極の打角の大きさφ ’[°]とし、
前記直交する方向から見て、前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線から反時計回りに前記第一電極の軸線が傾く方向を前記第一電極の打角の大きさφ ’のプラス方向とすると共に、前記溶接対象における前記第二電極との接触面の法線から反時計回りに前記第二電極の軸線が傾く方向を前記第二電極の打角の大きさφ ’のプラス方向とした場合に、
前記X-Z平面における前記第二金属材に対する前記第一金属材の傾斜角度φ を、式(1)により算出し、
φ =|φ ’-φ ’| ・・・(1)
前記打角補正部は、
前記第一強度指標β と前記第二強度指標β との比であるリスク指標βを、式(2)により定義した場合に、
β=β /β ・・・(2)
前記X-Z平面における補正後の前記第一電極の打角の大きさφ ’’及び前記X-Z平面における補正後の前記第二電極の打角の大きさφ ’’を、式(3)、(4)により算出し、
φ ’’=(1-α)×φ ・・・(3)
φ ’’=α×φ ・・・(4)
ただし、係数αは、式(5)~(7)によって表される係数であり、
0<β<1.0のとき、0<α<0.5 ・・・(5)
β>1.0のとき、 0.5<α≦1.0 ・・・(6)
β=1.0のとき、 α=0.5 ・・・(7)
前記第一電極の打角の大きさφ ’及び前記第二電極の打角の大きさφ ’が、前記X-Z平面においてφ ’’、φ ’’になるように、前記溶接ガンの角度を前記X-Z平面に沿って変更する、
抵抗スポット溶接装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接継手の製造方法及び抵抗スポット溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車部品の溶接組立工程には、量産性に優れた抵抗スポット溶接が広く適用されている。一般的に、抵抗スポット溶接機としては、産業用ロボットに抵抗スポット溶接用の一対の電極を有する溶接ガンを組み合わせた抵抗スポット溶接ロボットが用いられている。
【0003】
実際の溶接組立工程で生じる代表的な外乱の一つに、電極の打角が挙げられる。打角とは、溶接対象における電極との接触面の法線に対して電極の軸線が傾くことである。打角がある状態でスポット溶接した場合には、溶接品質への悪影響が生じる虞がある。特に、溶接対象として亜鉛めっき鋼板を用いた場合には、溶融亜鉛に起因した液体金属脆化割れ(以下、LME割れと呼ぶ。LME:Liquid Metal Embrittlement)が発生し問題になる。
【0004】
ここで、特許文献1には、第一電極及び第二電極の打角の大きさに応じて、第一電極及び第二電極間の主通電の電流値、クール時間、後通電の電流値を制御する技術が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、第一鋼板及び第二鋼板の総板厚に応じて、スクイズ時間及びホールド時間を制御する技術が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、LME割れを抑制するために、第一電極及び第二電極の打角を5°未満に調整する技術が記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、第一鋼板及び第二鋼板の総板厚と、第一電極及び第二電極の打角とに応じて、第一電極及び第二電極間の通電時間を調整する技術が記載されている。
【0008】
また、特許文献5には、一対の板材の接合部間に閉断面形状の隙間(板隙)がある場合に、この隙間をゼロとした後に、所定の加圧力で一対の板材を第一電極及び第二電極で挟み、一対の板材をスポット溶接する技術が記載されている。
【0009】
また、例えば、特許文献6~特許文献11には、打角検出手段を用いて電極の打角を検出する技術が記載されている。
【0010】
また、特許文献12には、電極に光学的なひずみゲージを取り付け、通電開始後にひずみゲージから出力された信号に基づいて電極に加わる荷重の方向と大きさを検出する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2018/159764号パンフレット
【文献】国際公開第2017/038981号パンフレット
【文献】国際公開第2016/181996号パンフレット
【文献】特開2018-39019号公報
【文献】特開2000-218379号公報
【文献】特開2002-35952号公報
【文献】特開2002-45976号公報
【文献】特開平10-143212号公報
【文献】特許第3359012号公報
【文献】特許第5101466号公報
【文献】特許第3982603号公報
【文献】特開2015-155103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
実際の溶接組立工程で生じる他の外乱としては、スポット溶接される第一鋼板及び第二鋼板の接合部間の隙間がある。この隙間の形態には、一般的に、次の二種類があるとされている。
【0013】
すなわち、第一の形態は、例えば、図1に示されるように、第一鋼板31の接合部が凸状に変形することにより第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部間に閉断面形状に形成された隙間(板隙)である。また、第二の形態は、例えば、図2に示されるように、第一鋼板31の接合部が第二鋼板32の接合部に対して傾斜することにより第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部間に開断面形状に形成された隙間(片隙)である。
【0014】
図1に示されるように、第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部間に閉断面形状の隙間(板隙)がある場合には、凸形状に変形した接合部の頂部から外れた位置で接合部を第一電極41及び第二電極42で挟んで加圧すると、第一電極41及び第二電極42に打角が生じる虞がある。また、図2に示されるように、第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部間に開断面形状の隙間(片隙)がある場合にも、接合部を第一電極41及び第二電極42で挟んで加圧すると、第一電極41及び第二電極42に打角が生じる虞がある。
【0015】
このような隙間及び打角のある状態でスポット溶接を行うと、隙間及び打角がないときに比べて第一鋼板31及び第二鋼板32に高い引張応力が生じるため、めっき鋼板、特に引張強さが980MPa以上の亜鉛めっき鋼板を用いたスポット溶接では、LME割れが発生するリスクが高まる。LME割れは、溶接組立した部品の強度や疲労特性等を低下させる要因となるため、LME割れを抑制する技術が強く望まれる。
【0016】
しかしながら、上記特許文献に記載された技術では、隙間及び打角のある場合が考慮されておらず、また、第一鋼板31及び第二鋼板32の引張強さや板厚も考慮されていない。このため、例えば、隙間及び打角があり、かつ、第一鋼板31及び第二鋼板32で引張強さ又は板厚が異なる場合には、第一電極41及び第二電極42によって第一鋼板31及び第二鋼板32が加圧されたときに、第一鋼板31及び第二鋼板32のうち引張強さが高い鋼板又は板厚が厚い鋼板に高い応力が生じ、結果的にLME割れが発生するリスクが高まる虞がある。
【0017】
また、上記説明は、鋼板、特に、引張強さが980MPa以上の亜鉛めっき鋼板を含む複数の金属材をスポット溶接する場合の問題点であるが、例えば、鋼板ではない複数の金属材をスポット溶接する場合においても、溶接品質上の問題が生じる虞がある。
【0018】
本発明は、鋼板に限らず、第一電極と接触する第一金属材及び第二電極と接触する第二金属材を含む複数の金属材をスポット溶接する技術に関するものである。
【0019】
そして、本発明は、一つの観点として、第一金属材及び第二金属材の接合部間に隙間(板隙又は片隙)があり、かつ、第一電極及び第二電極に打角が生じている場合でも、溶接品質を確保できる技術を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第一態様は、重ね合わされた複数の金属材を有する溶接対象を、互いに対向して配置された第一電極及び第二電極で挟み、前記溶接対象に対する前記第一電極及び前記第二電極の加圧を開始する加圧ステップと、前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線に対する前記第一電極の軸線の傾きである打角の大きさを算出すると共に、前記溶接対象における前記第二電極との接触面の法線に対する前記第二電極の軸線の傾きである打角の大きさを算出する打角算出ステップと、前記第一電極及び前記第二電極を有する溶接ガンの角度を変更することにより、前記第一電極の打角の大きさ及び前記第二電極の打角の大きさを補正する打角補正ステップと、前記第一電極及び前記第二電極の間を通電して前記複数の金属材を抵抗スポット溶接し、前記溶接対象からスポット溶接継手を得る溶接ステップと、を備え、前記打角算出ステップでは、前記第一電極に周方向に等間隔で取り付けられた3つ以上の複数の第一ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εから前記複数のひずみ測定値εの平均値εをそれぞれ減算して複数の偏差ひずみε’を算出し、前記複数の偏差ひずみε’に基づいて、前記第一電極の打角の大きさを算出し、前記複数の第一ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記第一電極の打角の大きさを算出する手法と同一の手法により、前記第二電極に周方向に等間隔で取り付けられた3つ以上の複数の第二ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて、前記第二電極の打角の大きさを算出し、前記打角補正ステップでは、前記複数の金属材のうち前記第一電極と接触する第一金属材における引張強さTS(MPa)と板厚T(mm)の積を第一強度指標βと定義すると共に、前記複数の金属材のうち前記第二電極と接触する第二金属材における引張強さTS(MPa)と板厚T(mm)の積を第二強度指標βと定義した場合に、β<βであるときには、前記第一電極の打角の大きさが前記第二電極の打角の大きさより大きくなるように、前記溶接ガンの角度を変更し、β=βであるときには、前記第一電極の打角の大きさと前記第二電極の打角の大きさとが同じになるように、前記溶接ガンの角度を変更し、β>βであるときには、前記第一電極の打角の大きさが前記第二電極の打角の大きさより小さくなるように、前記溶接ガンの角度を変更し、前記打角算出ステップでは、前記第一電極及び前記第二電極が対向する方向と直交する方向から見た平面であって、前記第一電極の軸線及び前記第二電極の軸線を含む平面をX-Z平面とした場合に、前記X-Z平面において前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線と前記第一電極の軸線とのなす角度を前記第一電極の打角の大きさφ ’[°]とし、前記X-Z平面において前記溶接対象における前記第二電極との接触面の法線と前記第二電極の軸線とのなす角度を前記第二電極の打角の大きさφ ’[°]とし、前記直交する方向から見て、前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線から反時計回りに前記第一電極の軸線が傾く方向を前記第一電極の打角の大きさφ ’のプラス方向とすると共に、前記溶接対象における前記第二電極との接触面の法線から反時計回りに前記第二電極の軸線が傾く方向を前記第二電極の打角の大きさφ ’のプラス方向とした場合に、前記X-Z平面における前記第二金属材に対する前記第一金属材の傾斜角度φ を、式(1)により算出し、φ =|φ ’-φ ’| ・・・(1)前記打角補正ステップでは、前記第一強度指標β と前記第二強度指標β との比であるリスク指標βを、式(2)により定義した場合に、β=β /β ・・・(2)前記X-Z平面における補正後の前記第一電極の打角の大きさφ ’’及び前記X-Z平面における補正後の前記第二電極の打角の大きさφ ’’を、式(3)、(4)により算出し、φ ’’=(1-α)×φ ・・・(3)φ ’’=α×φ ・・・(4)ただし、係数αは、式(5)~(7)によって表される係数であり、0<β<1.0のとき、0<α<0.5 ・・・(5)β>1.0のとき、 0.5<α≦1.0 ・・・(6)β=1.0のとき、 α=0.5 ・・・(7)前記第一電極の打角の大きさφ ’及び前記第二電極の打角の大きさφ ’が、前記X-Z平面においてφ ’’、φ ’’になるように、前記溶接ガンの角度を前記X-Z平面に沿って変更する、スポット溶接継手の製造方法である。
【0021】
本発明の第二態様は、互いに対向して配置された第一電極及び第二電極を有する溶接ガンと、前記第一電極に周方向に等間隔で取り付けられた3つ以上の複数の第一ひずみゲージと、前記第二電極に周方向に等間隔で取り付けられた3つ以上の複数の第二ひずみゲージと、前記第一電極及び前記第二電極の少なくとも一方を前記第一電極及び前記第二電極が近づく方向に移動させるアクチュエータと、前記溶接ガンの角度を変更するロボットと、前記第一電極及び前記第二電極の間を通電する電源と、前記複数の第一ひずみゲージ、前記複数の第二ひずみゲージ、前記アクチュエータ、前記ロボット及び前記電源と電気的に接続された制御部と、を備え、前記制御部は、重ね合わされた複数の金属材を有する溶接対象が、前記第一電極及び前記第二電極で挟まれて、前記溶接対象に対する前記第一電極及び前記第二電極の加圧が開始されるように、前記アクチュエータを制御する加圧制御部と、前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線に対する前記第一電極の軸線の傾きである打角の大きさを算出すると共に、前記溶接対象における前記第二電極との接触面の法線に対する前記第二電極の軸線の傾きである打角の大きさを算出する打角算出部と、前記溶接ガンの角度が変更されることにより、前記第一電極の打角の大きさ及び前記第二電極の打角の大きさが補正されるように、前記ロボットを制御する打角補正部と、前記第一電極及び前記第二電極の間が通電されて前記複数の金属材が抵抗スポット溶接されるように、前記電源を制御する溶接制御部と、を備え、前記打角算出部は、前記第一電極に周方向に等間隔で取り付けられた3つ以上の複数の第一ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εから前記複数のひずみ測定値εの平均値εをそれぞれ減算して複数の偏差ひずみε’を算出し、前記複数の偏差ひずみε’に基づいて、前記第一電極の打角の大きさを算出し、前記複数の第一ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記第一電極の打角の大きさを算出する手法と同一の手法により、前記第二電極に周方向に等間隔で取り付けられた3つ以上の複数の第二ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて、前記第二電極の打角の大きさを算出し、前記打角補正部は、前記複数の金属材のうち前記第一電極と接触する第一金属材における引張強さTS(MPa)と板厚T(mm)の積を第一強度指標βと定義すると共に、前記複数の金属材のうち前記第二電極と接触する第二金属材における引張強さTS(MPa)と板厚T(mm)の積を第二強度指標βと定義した場合に、β<βであるときには、前記第一電極の打角の大きさが前記第二電極の打角の大きさより大きくなるように、前記ロボットを制御して、前記溶接ガンの角度を変更し、β=βであるときには、前記第一電極の打角の大きさと前記第二電極の打角の大きさとが同じになるように、前記ロボットを制御して、前記溶接ガンの角度を変更し、β>βであるときには、前記第一電極の打角の大きさが前記第二電極の打角の大きさより小さくなるように、前記ロボットを制御して、前記溶接ガンの角度を変更し、前記打角算出部は、前記第一電極及び前記第二電極が対向する方向と直交する方向から見た平面であって、前記第一電極の軸線及び前記第二電極の軸線を含む平面をX-Z平面とした場合に、前記X-Z平面において前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線と前記第一電極の軸線とのなす角度を前記第一電極の打角の大きさφ ’[°]とし、前記X-Z平面において前記溶接対象における前記第二電極との接触面の法線と前記第二電極の軸線とのなす角度を前記第二電極の打角の大きさφ ’[°]とし、前記直交する方向から見て、前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線から反時計回りに前記第一電極の軸線が傾く方向を前記第一電極の打角の大きさφ ’のプラス方向とすると共に、前記溶接対象における前記第二電極との接触面の法線から反時計回りに前記第二電極の軸線が傾く方向を前記第二電極の打角の大きさφ ’のプラス方向とした場合に、前記X-Z平面における前記第二金属材に対する前記第一金属材の傾斜角度φ を、式(1)により算出し、φ =|φ ’-φ ’| ・・・(1)前記打角補正部は、前記第一強度指標β と前記第二強度指標β との比であるリスク指標βを、式(2)により定義した場合に、β=β /β ・・・(2)前記X-Z平面における補正後の前記第一電極の打角の大きさφ ’’及び前記X-Z平面における補正後の前記第二電極の打角の大きさφ ’’を、式(3)、(4)により算出し、φ ’’=(1-α)×φ ・・・(3)φ ’’=α×φ ・・・(4)ただし、係数αは、式(5)~(7)によって表される係数であり、0<β<1.0のとき、0<α<0.5 ・・・(5)β>1.0のとき、 0.5<α≦1.0 ・・・(6)β=1.0のとき、 α=0.5 ・・・(7)前記第一電極の打角の大きさφ ’及び前記第二電極の打角の大きさφ ’が、前記X-Z平面においてφ ’’、φ ’’になるように、前記溶接ガンの角度を前記X-Z平面に沿って変更する、抵抗スポット溶接装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、例えば、複数の金属材を第一電極及び第二電極で挟んで加圧した際に、第一金属材及び第二金属材の接合部間に隙間(板隙又は片隙)があり、かつ、第一電極及び第二電極に打角が生じている場合でも、第一金属材及び第二金属材の引張強さ及び板厚に応じて第一電極及び第二電極の打角の大きさを補正することで、溶接品質を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第一鋼板及び第二鋼板の接合部間に閉断面形状の隙間(板隙)がある場合のスポット溶接の一例を説明する図である。
図2】第一鋼板及び第二鋼板の接合部間に開断面形状の隙間(片隙)がある場合のスポット溶接の一例を説明する図である。
図3】溶接ガンをX方向から見た場合に、溶接ガンのZ方向が第一鋼板及び第二鋼板の法線方向と平行である場合と傾斜する場合とを比較する図である。
図4】本発明の一実施形態に係る抵抗スポット溶接装置を示す図である。
図5図4の抵抗スポット溶接装置における第一電極の打角の方向θと大きさφ’及び第二電極の打角の方向θと大きさφ’を説明する図である。
図6図4の抵抗スポット溶接装置における第一電極及び第二電極の加圧力と第一電極及び第二電極へ供給される電流のタイムチャートを示す図である。
図7図6の加圧工程において4つの第一ひずみゲージで測定されたひずみ測定値εを打角の大きさφ毎に示したグラフである。
図8図7のグラフに基づいて算出された偏差ひずみε’を打角の大きさφ毎に示したグラフである。
図9図8のグラフに基づいて算出された偏差ひずみ変化量Δε’を打角の大きさφ毎に示したグラフである。
図10】一例として打角の方向θ=120°である場合の偏差ひずみ変化量Δε’を打角の大きさφ毎に示したグラフである。
図11】合成偏差ひずみ変化量Δε’を模式的に説明する平面図である。
図12】合成偏差ひずみ変化量Δε’と打角の大きさφとの関係を複数の条件毎に示すグラフである。
図13】第一電極の打角の方向θのバリエーションの一例を示す図である。
図14】本発明の一実施形態に係る抵抗スポット溶接継手の製造方法の流れを示す図である。
図15図14の打角算出ステップにおいて制御部(打角算出部)が実行する処理の流れを示す図である。
図16】第一鋼板及び第二鋼板の接合部間に閉断面形状の隙間(板隙)がある場合の傾斜角度φの一例を示す図である。
図17】第一鋼板及び第二鋼板の接合部間に開断面形状の隙間(片隙)がある場合の傾斜角度φの一例を示す図である。
図18図14の打角補正ステップにおいて制御部(打角補正部)が実行する処理の流れを示す図である。
図19】リスク指標β及び係数αの関係の一例を示す図である。
図20】第一鋼板及び第二鋼板の接合部間に閉断面形状の隙間(板隙)がある場合に第一電極の打角の大きさφ’及び第二電極の打角の大きさφ’がφ’’、φ’’にそれぞれ補正された一例を示す図である。
図21】第一鋼板及び第二鋼板の接合部間に開断面形状の隙間(片隙)がある場合に第一電極の打角の大きさφ’及び第二電極の打角の大きさφ’がφ’’、φ’’にそれぞれ補正された一例を示す図である。
図22図20に示される例の変形例を示す図である。
図23図21に示される例の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0025】
[抵抗スポット溶接装置10の説明]
図4は、本発明の一実施形態に係る抵抗スポット溶接装置10を示す図である。図4において、(A)はブロック図を含む抵抗スポット溶接装置10の側面図、(B)はB-B線断面図、(C)はC-C線断面図である。
【0026】
図4に示されるように、抵抗スポット溶接装置10は、溶接ガン20と、複数の第一ひずみゲージ21と、複数の第二ひずみゲージ22と、アクチュエータ23と、ロボット24と、電源25と、制御部26とを備える。この抵抗スポット溶接装置10は、重ね合わされた複数の鋼板を有する溶接対象30をスポット溶接するものである。
【0027】
溶接対象30を構成する複数の鋼板の枚数は、二枚に限らず、例えば、三枚でもよい。複数の鋼板は、例えば、重ね合わせ面に亜鉛系めっきが被覆された亜鉛めっき鋼板を1枚以上含む。
【0028】
なお、溶接対象30は、複数の鋼板に限らず、複数の金属材を有していてもよい。この金属材の材料は、鋼に限らず、鋼以外の金属でもよい。さらに、金属材の形態は、板状に限らず、板状以外でもよい。本実施形態では、一例として、溶接対象30を構成する複数の鋼板が、第一鋼板31及び第二鋼板32である場合について説明する。第一鋼板31及び第二鋼板32は、「複数の金属材」の一例である。
【0029】
溶接ガン20は、互いに対向して配置された第一電極41及び第二電極42を有する。第一電極41及び第二電極42は、シャンク43と、電極チップ44とをそれぞれ有する。電極チップ44は、シャンク43の先端に取り付けられている。溶接ガン20の形態は、特に限定されないが、溶接ガン20には、例えば、側面視でC字状のC字ガンや側面視でX字状のX字ガン等を用いることが可能である。本実施形態では、一例として、溶接ガン20がC字ガンであり、第一電極41は、可動電極であり、第二電極42は、固定電極である。X方向は溶接ガン20の前後方向を示し、Y方向は溶接ガン20の横方向を示し、Z方向は溶接ガン20の上下方向を示している。溶接ガン20の側面視は、Y方向に沿って見ることに相当する。
【0030】
複数の第一ひずみゲージ21の数は、3以上であれば、いくつでもよいが、本実施形態では、好ましい例として、4つの第一ひずみゲージ21を用いる場合について説明する。この4つの第一ひずみゲージ21は、一例として、第一電極41に周方向に等間隔で取り付けられている。つまり、この4つの第一ひずみゲージ21は、第一電極41における周方向に90°間隔で離れた位置に取り付けられている。この4つの第一ひずみゲージ21の間隔は、90°±5°以内が望ましく、より望ましくは90°±3°以内である。
【0031】
また、4つの第一ひずみゲージ21の取り付け位置は、一例として、シャンク43の電極チップ44側の位置とされている。4つの第一ひずみゲージ21には、同じ構成のものが用いられる。この4つの第一ひずみゲージ21には、例えば、光学式などの非電気的な構成のものや、抵抗式などの電気的な構成のものを用いることができる。
【0032】
本実施形態では、一例として、4つの第一ひずみゲージ21に電気的な構成のものを用いることとする。4つの第一ひずみゲージ21は、第一ひずみゲージ21の測定方向(伸縮方向)を第一電極41の軸方向に一致させた状態で第一電極41にそれぞれ取り付けられている。
【0033】
上述の4つの第一ひずみゲージ21が第一電極41に取り付けられているのと同様に、第二電極42には、4つの第二ひずみゲージ22が取り付けられている。つまり、4つの第二ひずみゲージ22は、第二電極42における周方向に90°間隔で離れた位置に取り付けられている。
【0034】
アクチュエータ23は、例えば、電動式直動アクチュエータ、油圧式直動アクチュエータ、又は、空圧式直動アクチュエータである。このアクチュエータ23は、溶接ガン20の上部に設けられている。アクチュエータ23は、第一電極41と機械的に接続されており、第一電極41を第二電極42に対して接離する方向に移動させるように作動する。
【0035】
第一電極41及び第二電極42が溶接対象30の両側に配置された状態で、アクチュエータ23によって第一電極41が第二電極42に近づく側に移動されると、溶接対象30が第一電極41及び第二電極42で挟まれ、溶接対象30に対する第一電極41及び第二電極42の加圧が開始される。なお、アクチュエータ23として、第一電極41及び第二電極42の両方を互いに接離する方向に移動させるアクチュエータが用いられてもよい。
【0036】
ロボット24は、例えば、六軸垂直多関節ロボット等である。このロボット24は、溶接ガン20を水平方向及び鉛直方向に移動させると共に、溶接ガン20を任意の回転軸を中心に回転させるように作動する。このようにロボット24が作動することにより、溶接ガン20の位置及び角度が変更される。
【0037】
電源25は、第一電極41及び第二電極42の各電極チップ44と電気的に接続されている。第一電極41及び第二電極42で溶接対象30を挟み、溶接対象30が第一電極41及び第二電極42で加圧されている状態で、電源25によって第一電極41及び第二電極42の間(電極チップ44の間)が通電されると、第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部に接触抵抗並びに鋼板の抵抗によるジュール熱によってナゲット(溶融部)が形成される。このナゲットが冷却されて凝固すると、第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部が溶接接合される。
【0038】
制御部26は、アクチュエータ23、ロボット24及び電源25を制御するものであり、アクチュエータ23、ロボット24及び電源25と電気的に接続されている。
【0039】
この制御部26は、例えば、プロセッサ51とメモリ52とを有するコンピュータによって実現される。プロセッサ51は、例えば、CPU(Central Processing Unit)によって構成され、メモリ52は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び、ストレージによって構成される。メモリ52は、不揮発性記憶部を有しており、この不揮発性記憶部には、プログラム53が記憶されている。
【0040】
制御部26は、機能的な構成として、加圧制御部61と、打角算出部62と、打角補正部63と、溶接制御部64とを有する。この加圧制御部61、打角算出部62、打角補正部63及び溶接制御部64は、プロセッサ51がプログラム53を実行することにより実現される。この加圧制御部61、打角算出部62、打角補正部63及び溶接制御部64の機能については、後述するスポット溶接継手の製造方法と併せて説明する。
【0041】
[打角の方向と大きさの説明]
図5は、図4の抵抗スポット溶接装置10における第一電極41の打角の方向θと大きさφ及び第二電極42の打角の方向θと大きさφを説明する図である。図5において、(A)は第一電極41の打角の大きさφ及び第二電極42の打角の大きさφを説明する溶接ガン20の側面図、(B)は第一電極41の打角の方向θを模式的に説明する平面図、(C)は第二電極42の打角の方向θを模式的に説明する底面図である。
【0042】
実際の溶接組立工程では、上述の通り、第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部間に、閉断面形状の隙間(板隙)、又は、開断面形状の隙間(片隙)がある場合がある。このような場合に、第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部を第一電極41及び第二電極42で挟んで加圧すると、第一電極41及び第二電極42の少なくとも一方に軸線の傾斜が生じる虞がある。第一電極41の軸線B1の傾斜角度と、第二電極42の軸線B2の傾斜角度とは、同じ場合と、異なる場合がある。
【0043】
本実施形態では、溶接対象30における第一電極41との接触面31Aの法線A1に対して第一電極41の軸線B1が傾くことを、第一電極41の打角と称する。さらに、溶接対象30における第一電極41との接触面31A上に、該接触面31Aと第一電極41の軸線B1との交点O1を中心とする円P1を設定し、該円P1の中心から径方向外側へ延びる線を第一基準線C1と定義する。
【0044】
4つの第一ひずみゲージ21は、第一基準線C1上の位置、第一基準線C1から第一電極41の周方向に90°離れた位置、第一基準線C1から第一電極41の周方向に180°離れた位置、及び、第一基準線C1から第一電極41の周方向に270°離れた位置にそれぞれ配置されている。
【0045】
また、溶接対象30における第一電極41との接触面31A上に第一電極41の軸線B1を投影した場合に第一基準線C1と第一電極41の軸線B1とのなす角度を、第一電極41の打角の方向θ[°](0°≦θ<360°)と定義する。さらに、同一平面上で溶接対象30の接触面31Aの法線A1と第一電極41の軸線B1とのなす角度を、第一電極41の打角の大きさφ[°](0°≦φ<90°)と定義する。この定義において、同一平面とは、溶接対象30の接触面31Aの法線A1と第一電極41の軸線B1とを含む平面のことである。
【0046】
同様に、本実施形態では、溶接対象30における第二電極42との接触面32Aの法線A2に対して第二電極42の軸線B2が傾くことを、第二電極42の打角と称する。さらに、溶接対象30における第二電極42との接触面32A上に、該接触面32Aと第二電極42の軸線B2との交点O2を中心とする円P2を設定し、該円P2の中心から径方向外側へ第一基準線C1に沿って延びる線を第二基準線C2と定義する。
【0047】
4つの第二ひずみゲージ22は、第二基準線C2上の位置、第二基準線C2から第二電極42の周方向に90°離れた位置、第二基準線C2から第二電極42の周方向に180°離れた位置、及び、第二基準線C2から第二電極42の周方向に270°離れた位置にそれぞれ配置されている。
【0048】
また、溶接対象30における第二電極42との接触面32A上に第二電極42の軸線B2を投影した場合に第二基準線C2と第二電極42の軸線B2とのなす角度を、第二電極42の打角の方向θ[°](0°≦θ<360°)と定義する。さらに、同一平面上で溶接対象30の接触面32Aの法線A2と第二電極42の軸線B2とのなす角度を、第二電極42の打角の大きさφ[°](0°≦φ<90°)と定義する。この定義において、同一平面とは、溶接対象30の接触面32Aの法線A2と第二電極42の軸線B2とを含む平面のことである。
【0049】
[課題解決の着想について]
発明者らは、図1に示されるように、第一鋼板31の接合部が凸状に変形することにより第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部間に閉断面形状に形成された隙間(板隙)が形成された状態での、スポット溶接について鋭意検討した。その結果、第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部間に閉断面形状の隙間(板隙)がある場合に、凸形状に変形した接合部の頂部から外れた位置で接合部を第一電極41及び第二電極42で挟んで加圧すると、第一電極41及び第二電極42に打角が生じる虞があることを見出した。
【0050】
また、発明者らは、図2に示されるように、第一鋼板31の接合部が第二鋼板32の接合部に対して傾斜することにより第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部間に開断面形状の隙間(片隙)が形成された状態での、スポット溶接についても鋭意検討した。その結果、第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部間に開断面形状の隙間(片隙)がある場合に、接合部を第一電極41及び第二電極42で挟んで加圧すると、第一電極41及び第二電極42に打角が生じる虞があることを見出した。
【0051】
そして、発明者らは、このような隙間及び打角のある状態でスポット溶接を行うと、隙間及び打角がないときに比べて第一鋼板31及び第二鋼板32に高い引張応力が生じるため、めっき鋼板、特に引張強さが980MPa以上の亜鉛めっき鋼板を用いたスポット溶接では、LME割れが発生するリスクが高まると考えた。LME割れは、溶接組立した部品の強度や疲労特性等を低下させる要因となるため、発明者らは、LME割れを抑制する技術が強く望まれると考えた。
【0052】
また、発明者らは、実際のスポット溶接では、第一鋼板31及び第二鋼板32の引張強さや板厚も考慮する必要があると考えた。つまり、発明者らは、例えば、隙間及び打角があり、かつ、第一鋼板31及び第二鋼板32で引張強さ又は板厚が異なる場合には、第一電極41及び第二電極42によって第一鋼板31及び第二鋼板32が加圧されたときに、第一鋼板31及び第二鋼板32のうち引張強さが高い鋼板又は板厚が厚い鋼板に高い応力が生じ、結果的にLME割れが発生するリスクが高まると考えた。
【0053】
ここで、発明者らは、ロボット24を用いれば、溶接ガン20の角度を変更することにより第一電極41及び第二電極42の打角の大きさφ、φを補正できると考えた。また、発明者らは、第一鋼板31及び第二鋼板32の引張強さと板厚の積で表される強度指標に応じて第一電極41及び第二電極42の打角の大きさφ、φの補正量を配分すれば、LME割れを低減できると考えた。
【0054】
具体的には、例えば、第一鋼板31の方が第二鋼板32よりも強度指標が大きい場合、第一電極41の打角の大きさφを第二電極42の打角の大きさφよりも小さくすることによって、LME割れの発生リスクが高い第一鋼板31に生ずる応力、及び、LME割れの発生リスクが低い第二鋼板32に生ずる応力を、それぞれLME割れが生ずる応力未満に低減できると考えた。
【0055】
そこで、第一電極41を対象にし、第一電極41の周方向の4箇所に90°間隔で4つの第一ひずみゲージ21を取り付けた状態で、溶接対象30を第一電極41及び第二電極42で挟み、この第一電極41及び第二電極42で溶接対象30を加圧したときの第一電極41のひずみを4つの第一ひずみゲージ21で測定した。この結果、第一電極41の打角の方向θと大きさφに応じたひずみ測定値が得られるという特性があることが分かった。
【0056】
また、発明者らは、第二電極42にも4つの第二ひずみゲージ22を取り付ければ、第一電極41の打角の方向θと大きさφ、及び、第二電極42の打角の方向θと大きさφを、独立して検出できると考えた。
【0057】
そして、第一電極41の打角の方向θと大きさφ、及び、第二電極42の打角の方向θと大きさφを独立して検出し、第一鋼板31及び第二鋼板32の引張強さと板厚の積で表される強度指標に応じて、第一電極41及び第二電極42の打角の大きさφ、φの補正量を配分することで、LME割れを低減することを着想した。
【0058】
なお、図3に示されるように、溶接ガン20をX方向から見た場合に溶接ガン20のZ方向が第一鋼板31及び第二鋼板32の法線方向に対して傾斜する場合がある。この原因としては、例えば、ロボットのティーチング不良等が考えられる。しかしながら、例えば、第一鋼板31の接合部及び第二鋼板32の接合部がフランジである場合には、X方向から見ると、第一鋼板31の接合部及び第二鋼板32の接合部が平行であることが多く、その一方で、図1図2に示されるように、Y方向から見ると、スプリングバックや変形等の影響により、第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部間に閉断面形状の隙間(板隙)や開断面形状の隙間(片隙)が生じることがある。このような場合には、溶接ガン20をX方向から見た場合に溶接ガン20のZ方向が第一鋼板31及び第二鋼板32の法線方向に対して傾斜していることよりも、第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部間に閉断面形状の隙間(板隙)や開断面形状の隙間(片隙)が生じていることによってY方向から見た場合に第一電極41及び第二電極42に打角が生じていることの方が、LME割れの発生に影響すると発明者らは考えた。そこで、発明者らは、溶接ガン20をX方向から見た場合に溶接ガン20が第一鋼板31及び第二鋼板32の法線方向と平行である場合に加えて、法線方向に対して傾いている場合においても、X-Z平面に沿って溶接ガン20の角度を変更して第一電極41及び第二電極42の打角の大きさφ、φを補正することにした。
【0059】
[打角の方向と大きさの検出メカニズム]
以下、第一電極41を例に、打角の方向θと大きさφの検出メカニズムを説明する。発明者らは、鋭意検討した結果、第一電極41に4つの第一ひずみゲージ21を取り付けた場合に、以下の要領で第一電極41の打角の方向θと大きさφを定量的に算出できることを見出した。
【0060】
図6は、図4の抵抗スポット溶接装置10における第一電極41及び第二電極42の加圧力と第一電極41及び第二電極42へ供給される電流のタイムチャートを示す図である。
【0061】
抵抗スポット溶接は、一般的には、図6に示すようなタイムチャートに沿って実施される。すなわち、第一電極41及び第二電極42で溶接対象30を挟んだ状態で、第一電極41及び第二電極42の加圧が開始され、その後に、第一電極41及び第二電極42への電流の供給が開始される。また、第一電極41及び第二電極42への電流の供給が停止された後に、第一電極41及び第二電極42の加圧が終了する。
【0062】
図6の加圧工程とは、第一電極41及び第二電極42の加圧が開始されてから、第一電極41及び第二電極42への電流の供給が開始されるまでの間の期間に相当し、図6の一定加圧期間とは、第一電極41及び第二電極42の加圧が開始されて第一電極41及び第二電極42の加圧力が上昇し、この加圧力が一定に保持される期間に相当する。
【0063】
発明者らは、図6の一定加圧期間において4つの第一ひずみゲージ21を用いて第一電極41のひずみを測定した。図7は、図6の加圧工程において4つの第一ひずみゲージ21で測定されたひずみ測定値ε、ε90、ε180、ε270を打角の大きさφ(φ=0°、3°、6°、9°)毎に示したグラフである。このグラフは、一例として、打角の方向θ=90°の場合のグラフである。
【0064】
図7の縦軸は、ひずみ測定値を示し、図7の横軸は、4つの第一ひずみゲージ21の取付位置[°]を示している。図7において、グラフG1は、打角の大きさφ=0°の場合、グラフG2は、打角の大きさφ=3°の場合、グラフG3は、打角の大きさφ=6°の場合、グラフG4は、打角の大きさφ=9°の場合をそれぞれ示している。
【0065】
ひずみ測定値ε、ε90、ε180、ε270は、第一電極41に周方向に90°間隔で取り付けられた4つの第一ひずみゲージ21でそれぞれ測定された値である。すなわち、ひずみ測定値εは、第一基準線C1上に位置する第一ひずみゲージ21で測定された値であり、ひずみ測定値ε90は、第一基準線C1から第一電極41の周方向に90°離れた位置にある第一ひずみゲージ21で測定された値であり、ひずみ測定値ε180は、第一基準線C1から第一電極41の周方向に180°離れた位置にある第一ひずみゲージ21で測定された値であり、ひずみ測定値ε270は、第一基準線C1から第一電極41の周方向に270°離れた位置にある第一ひずみゲージ21で測定された値である。
【0066】
図7に示されるように、第一電極41に打角がある場合、発明者らは、ひずみ測定値ε、ε90、ε180、ε270が互いに異なる値を示すと考えた。そこで、発明者らは、打角によるひずみ測定値の変化量を取り出すために、式(1)の通り、ひずみ測定値ε、ε90、ε180、ε270の平均値εを算出し、式(2)~式(5)の通り、ひずみ測定値ε、ε90、ε180、ε270から平均値εをそれぞれ減算して偏差ひずみε’、ε90’、ε180’、ε270’を算出した。
【0067】
ε=(ε+ε90+ε180+ε270)/4・・・(1)
ε’=ε-ε・・・(2)
ε90’=ε90-ε・・・(3)
ε180’=ε180-ε・・・(4)
ε270’=ε270-ε・・・(5)
【0068】
図8は、図7のグラフに基づいて算出された偏差ひずみε’、ε90’、ε180’、ε270’を打角の大きさφ(φ=0°、3°、6°、9°)毎に示したグラフである。このグラフは、一例として、打角の方向θ=90°の場合のグラフである。
【0069】
図8の縦軸は、偏差ひずみを示し、図8の横軸は、4つの第一ひずみゲージ21の取付位置[°]を示している。図8において、グラフG1は、打角の大きさφ=0°の場合、グラフG2は、打角の大きさφ=3°の場合、グラフG3は、打角の大きさφ=6°の場合、グラフG4は、打角の大きさφ=9°の場合をそれぞれ示している。
【0070】
ここで、発明者らは、偏差ひずみε’、ε90’、ε180’、ε270’には、第一電極41の打角に起因した偏差成分に加えて、第一電極41の剛性が周方向に不均一であることに起因した偏差成分も含まれると考えた。また、発明者らは、第一電極41に打角がない場合、すなわち、打角の大きさφ=0の場合でも、図8に示される通り、偏差ひずみε’、ε90’、ε180’、ε270’が0にならないことに気が付いた。
【0071】
そして、発明者らは、第一電極41の打角に起因した偏差成分のみを抽出するためには、偏差ひずみε’、ε90’、ε180’、ε270’から第一電極41の剛性の影響分を除去する必要があると考えた。
【0072】
そこで、発明者らは、第一電極41に打角がない場合の偏差ひずみε’、ε90’、ε180’、ε270’を基準偏差ひずみε0,φ=0’、ε90,φ=0’、ε180,φ=0’、ε270,φ=0’と定義した。
【0073】
そして、発明者らは、式(6)~(9)の通り、偏差ひずみε’、ε90’、ε180’、ε270’から基準偏差ひずみε0,φ=0’、ε90,φ=0’、ε180,φ=0’、ε270,φ=0’をそれぞれ減算して偏差ひずみ変化量Δε’、Δε90’、Δε180’、Δε270’を算出した。
【0074】
偏差ひずみ変化量Δε’は、第一基準線C1上の位置で検出された偏差ひずみ変化量であり、偏差ひずみ変化量Δε90’は、第一基準線C1から第一電極41の周方向に90°離れた位置で検出された偏差ひずみ変化量であり、偏差ひずみ変化量Δε180’は、第一基準線C1から第一電極41の周方向に180°離れた位置で検出された偏差ひずみ変化量であり、偏差ひずみ変化量Δε270’は、第一基準線C1から第一電極41の周方向に270°離れた位置で検出された偏差ひずみ変化量である。
【0075】
Δε’=ε’-ε0,φ=0・・・(6)
Δε90’=ε90’-ε90,φ=0・・・(7)
Δε180’=ε180’-ε180,φ=0・・・(8)
Δε270’=ε270’-ε270,φ=0・・・(9)
【0076】
図9は、図8のグラフに基づいて算出された偏差ひずみ変化量Δε’、Δε90’、Δε180’、Δε270’を打角の大きさφ(φ=0°、3°、6°、9°)毎に示したグラフである。このグラフは、一例として、打角の方向θ=90°の場合のグラフである。
【0077】
図9の縦軸は、偏差ひずみ変化量を示し、図9の横軸は、4つの第一ひずみゲージ21の取付位置[°]を示している。図9において、グラフG1は、打角の大きさφ=0°の場合、グラフG2は、打角の大きさφ=3°の場合、グラフG3は、打角の大きさφ=6°の場合、グラフG4は、打角の大きさφ=9°の場合をそれぞれ示している。
【0078】
図9に示されるように、第一電極41に打角がない場合、すなわち、打角の大きさφ=0°の場合に、偏差ひずみ変化量Δε’、Δε90’、Δε180’、Δε270’は、いずれも0となった。
【0079】
一方、第一電極41に打角がある場合に、偏差ひずみ変化量Δε’、Δε90’、Δε180’、Δε270’のうち、打角の方向における偏差ひずみ変化量はマイナス値となり、打角の方向と反対方向における偏差ひずみ変化量はプラス値となり、打角の方向と直交する方向の偏差ひずみ変化量はほぼ0となった。
【0080】
この図9に示される例では、一例として、打角の方向θ=90°であり、打角の大きさφ=3°、6°、9°のいずれの場合にも、打角の方向における偏差ひずみ変化量Δε90’はマイナス値となり、打角の方向と反対方向における偏差ひずみ変化量Δε270’はプラス値となり、打角の方向と直交する方向の偏差ひずみ変化量Δε180’はほぼ0となった。なお、打角の方向θ=90°以外についても検討した結果、同様の傾向があることが分かった。
【0081】
このように、発明者らは、偏差ひずみ変化量Δε’、Δε90’、Δε180’、Δε270’を算出することで、第一電極41の打角の方向θを検出できることを見出した。
【0082】
また、図9に示される結果から、第一電極41の打角の大きさφの増大に伴って、偏差ひずみ変化量Δε’、Δε90’、Δε180’、Δε270’の絶対値も増加することが明らかになった。そして、発明者らは、偏差ひずみ変化量Δε’、Δε90’、Δε180’、Δε270’を算出することで、第一電極41の打角の大きさφを検出できることを見出した。
【0083】
ここで、発明者らは、第一電極41の打角の方向θによっては、打角の方向θと第一ひずみゲージ21の取付位置が一致しない場合があると考えた。そこで、発明者らは、一例として、打角の方向θ=120°である場合について検討した。
【0084】
図10は、打角の方向θ=120°である場合の偏差ひずみ変化量Δε’、Δε90’、Δε180’、Δε270’を打角の大きさφ(φ=0°、3°、6°、9°)毎に示したグラフである。
【0085】
図10の縦軸は、偏差ひずみ変化量を示し、図10の横軸は、4つの第一ひずみゲージ21の取付位置[°]を示している。図10において、グラフG1は、打角の大きさφ=0°の場合、グラフG2は、打角の大きさφ=3°の場合、グラフG3は、打角の大きさφ=6°の場合、グラフG4は、打角の大きさφ=9°の場合をそれぞれ示している。
【0086】
このように、打角の方向θ=120°である場合に、打角の方向θ=120°の両側に位置する第一ひずみゲージ21、すなわち、90°の位置にある第一ひずみゲージ21及び180°の位置にある第一ひずみゲージ21では、偏差ひずみ変化量Δε90’、Δε180’がマイナス値になった。また、打角の大きさφが増加するに伴って、偏差ひずみ変化量Δε90’、Δε180’の絶対値が増加した。
【0087】
この図10に示される結果から、発明者らは、打角の方向θと第一ひずみゲージ21の取付位置が一致しない場合でも、偏差ひずみ変化量Δε’、Δε90’、Δε180’、Δε270’を検出することで、任意の打角の方向θと大きさφを推定できると考えた。
【0088】
そして、発明者らは、打角の方向θと第一ひずみゲージ21の取付位置が一致しない場合でも、任意の打角の方向θと大きさφを推定する手法を考え出した。以下、打角の方向θと第一ひずみゲージ21の取付位置が一致しない場合に、任意の打角の方向θと大きさφを推定する手法を説明する。
【0089】
先ず、式(10)により、合成偏差ひずみ変化量Δε’を定義する。
Δε’=√{(Δε1’)+(Δε2’)}・・・(10)
【0090】
図11は、合成偏差ひずみ変化量Δε’を模式的に説明する平面図である。第一偏差ひずみ変化量Δε1’は、偏差ひずみ変化量Δε’、Δε90’、Δε180’、Δε270’のうち、値がマイナス側に最も大きい偏差ひずみ変化量である。第二偏差ひずみ変化量Δε2’は、第一偏差ひずみ変化量Δε1’が検出された位置から第一電極41の周方向に±90°離れた2つの位置でそれぞれ検出された偏差ひずみ変化量のうち値がマイナス側に大きい方の第二偏差ひずみ変化量である。
【0091】
図11では、一例として、打角の方向θ=120°である場合が示されている。図11に示される例において、第一偏差ひずみ変化量Δε1’は、偏差ひずみ変化量Δε’、Δε90’、Δε180’、Δε270’のうち、値がマイナス側に最も大きい偏差ひずみ変化量Δε90’である。また、第二偏差ひずみ変化量Δε2’は、偏差ひずみ変化量Δε90’が検出された位置から第一電極41の周方向に±90°離れた2つの位置(0°の位置及び180°の位置)でそれぞれ検出された偏差ひずみ変化量Δε’、Δε180’のうち値がマイナス側に大きい方の偏差ひずみ変化量Δε180’である。
【0092】
本手法では、合成偏差ひずみ変化量Δε’をベクトルしてとらえた場合の向きから、打角の方向θを算出する。また、合成偏差ひずみ変化量Δε’の大きさから打角の大きさφを算出する。
【0093】
図12は、合成偏差ひずみ変化量εN’と打角の大きさφとの関係を複数の条件毎に示すグラフである。図12の縦軸は、合成偏差ひずみ変化量εN’を示し、図12の横軸は、打角の大きさφを示している。図12において、グラフG1は、基準条件である場合、グラフG2は、基準条件に対して第一電極41及び第二電極42の加圧力が増加した場合、グラフG3は、基準条件に対して第一電極41及び第二電極42の剛性が増加した場合をそれぞれ示している。
【0094】
図12に示されるように、合成偏差ひずみ変化量εN’と打角の大きさφとの間には、直線関係が成り立つ。このため、合成偏差ひずみ変化量εN’と打角の大きさφから実験的に比例係数γを求めることにより、打角の大きさφの定量予測が可能と考えられる。なお、比例係数γは、第一電極41及び第二電極42の加圧力及び第一電極41及び第二電極42の剛性の影響を主に受けるため、実際の溶接組立工程の開始前に、この溶接組立工程の条件で比例係数γを実験的に求めておく必要がある。
【0095】
そして、本手法では、第一電極41の打角の方向θと大きさφを次のように算出する。図13は、第一電極41の打角の方向θのバリエーションの一例を示す図である。
【0096】
図13(A)に示されるように、例えば、打角の方向θが0°<θ<45°である場合に、Δε1’=Δε’(<0)、Δε2’=Δε90’(<0)になる。このように、Δε1’=Δε’(<0)、Δε2’=Δε90’(<0)であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(A-1)~(A-3)により算出する。
θ=arcTan(|Δε2’|/|Δε1’|)×180/π・・・(A-1)
φ=γ×ΔεN’・・・(A-2)
Δε’=√{(Δε1’)+(Δε2’)}・・・(A-3)
【0097】
一方、図13(B)に示されるように、例えば、打角の方向θが45°<θ<90°である場合に、Δε1’=Δε90’(<0)、Δε2’=Δε’(<0)になる。このように、Δε1’=Δε90’(<0)、Δε2’=Δε’(<0)であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(B-1)~(B-3)により算出する。
θ=arcTan(|Δε1’|/|Δε2’|)×180/π・・・(B-1)
φ=γ×ΔεN’・・・(B-2)
Δε’=√{(Δε1’)+(Δε2’)}・・・(B-3)
【0098】
また、図13(C)に示されるように、例えば、打角の方向θが90°<θ<135°である場合に、Δε1’=Δε90’(<0)、Δε2’=Δε180’(<0)になる。このように、Δε1’=Δε90’(<0)、Δε2’=Δε180’(<0)であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(C-1)~(C-3)により算出する。
θ={π/2+arcTan(|Δε2’|/|Δε1’|)}×180/π・・・(C-1)
φ=γ×ΔεN’・・・(C-2)
Δε’=√{(Δε1’)+(Δε2’)}・・・(C-3)
【0099】
また、図13(D)に示されるように、例えば、打角の方向θが135°<θ<180°である場合に、Δε1’=Δε180’(<0)、εΔ2’=Δε90’(<0)になる。このように、Δε1’=Δε180’(<0)、εΔ2’=Δε90’(<0)であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(D-1)~(D-3)により算出する。
θ={π/2+arcTan(|Δε1’|/|Δε2’|)}×180/π・・・(D-1)
φ=γ×ΔεN’・・・(D-2)
Δε’=√{(Δε1’)+(Δε2’)}・・・(D-3)
【0100】
また、図13(E)に示されるように、例えば、打角の方向θが180°<θ<225°である場合に、Δε1’=Δε180’(<0)、Δε2’=Δε270’(<0)になる。このように、Δε1’=Δε180’(<0)、Δε2’=Δε270’(<0)であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(E-1)~(E-3)により算出する。
θ={π+arcTan(|Δε2|’/|Δε1’|)}×180/π・・・(E-1)
φ=γ×ΔεN’・・・(E-2)
Δε’=√{(Δε1’)+(Δε2’)}・・・(E-3)
【0101】
また、図13(F)に示されるように、例えば、打角の方向θが225°<θ<270°である場合に、Δε1’=Δε270’(<0)、Δε2’=Δε180’(<0)になる。このように、Δε1’=Δε270’(<0)、Δε2’=Δε180’(<0)であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(16-1)~(16-3)により算出する。
θ={π+arcTan(|Δε1|’/|Δε2’|)}×180/π・・・(F-1)
φ=γ×ΔεN’・・・(F-2)
Δε’=√{(Δε1’)+(Δε2’)}・・・(F-3)
【0102】
また、図13(G)に示されるように、例えば、打角の方向θが270°<θ<315°である場合に、Δε1’=Δε270’(<0)、Δε2’=Δε’(<0)になる。このように、Δε1’=Δε270’(<0)、Δε2’=Δε’(<0)であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(G-1)~(G-3)により算出する。
θ={3π/2+arcTan(|Δε2’|/|Δε1’|)×180/π・・・(G-1)
φ=γ×ΔεN’・・・(G-2)
Δε’=√{(Δε1’)+(Δε2’)}・・・(G-3)
【0103】
また、図13(H)に示されるように、例えば、打角の方向θが315°<θ<360°である場合に、Δε1’=Δε’(<0)、Δε2’=Δε270’(<0)になる。このように、Δε1’=Δε’(<0)、Δε2’=Δε270’(<0)であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(H-1)~(H-3)により算出する。
θ={3π/2+arcTan(|Δε1’|/|Δε2’|)×180/π・・・(H-1)
φ=γ×ΔεN’・・・(H-2)
Δε’=√{(Δε1’)+(Δε2’)}・・・(H-3)
【0104】
なお、打角の方向θによっては、値がマイナス側に最も大きい偏差ひずみ変化量が二つ存在する可能性がある。この場合には、二つの偏差ひずみ変化量のうち一方を選択して第一偏差ひずみ変化量Δε1’とすればよい。
【0105】
例えば、打角の方向θ=45°の場合に、値がマイナス側に最も大きい偏差ひずみ変化量は、偏差ひずみ変化量Δε’と偏差ひずみ変化量Δε90’である可能性がある。この場合には、偏差ひずみ変化量Δε’及び偏差ひずみ変化量Δε90’のうち一方を選択して第一偏差ひずみ変化量Δε1’とすればよい。
【0106】
また、打角の方向θ=135°の場合に、値がマイナス側に最も大きい偏差ひずみ変化量は、偏差ひずみ変化量Δε90’と偏差ひずみ変化量Δε180’である可能性がある。この場合には、偏差ひずみ変化量Δε90’及び偏差ひずみ変化量Δε180’のうち一方を選択して第一偏差ひずみ変化量Δε1’とすればよい。
【0107】
また、打角の方向θ=225°の場合に、値がマイナス側に最も大きい偏差ひずみ変化量は、偏差ひずみ変化量Δε180’と偏差ひずみ変化量Δε270’である可能性がある。この場合には、偏差ひずみ変化量Δε180’及び偏差ひずみ変化量Δε270’のうち一方を選択して第一偏差ひずみ変化量Δε1’とすればよい。
【0108】
また、打角の方向θ=315°の場合に、値がマイナス側に最も大きい偏差ひずみ変化量は、偏差ひずみ変化量Δε270’と偏差ひずみ変化量Δε’である可能性がある。この場合には、偏差ひずみ変化量Δε270’及び偏差ひずみ変化量Δε’のうち一方を選択して第一偏差ひずみ変化量Δε1’とすればよい。
【0109】
同様に、打角の方向θによっては、第二偏差ひずみ変化量Δε2’の候補となる偏差ひずみ変化量が二つ存在する可能性がある。この場合には、二つの偏差ひずみ変化量のうち一方を選択して第二偏差ひずみ変化量Δε2’とすればよい。
【0110】
例えば、第二偏差ひずみ変化量Δε2’の候補となる偏差ひずみ変化量が偏差ひずみ変化量Δε’及び偏差ひずみ変化量Δε90’である場合には、偏差ひずみ変化量Δε’及び偏差ひずみ変化量Δε90’のうち一方を選択して第二偏差ひずみ変化量Δε2’とすればよい。
【0111】
また、第二偏差ひずみ変化量Δε2’の候補となる偏差ひずみ変化量が偏差ひずみ変化量Δε90’及び偏差ひずみ変化量Δε180’である場合には、偏差ひずみ変化量Δε90’及び偏差ひずみ変化量Δε180’のうち一方を選択して第二偏差ひずみ変化量Δε2’とすればよい。
【0112】
また、第二偏差ひずみ変化量Δε2’の候補となる偏差ひずみ変化量が偏差ひずみ変化量Δε180’及び偏差ひずみ変化量Δε270’である場合には、偏差ひずみ変化量Δε180’及び偏差ひずみ変化量Δε270’のうち一方を選択して第二偏差ひずみ変化量Δε2’とすればよい。
【0113】
また、第二偏差ひずみ変化量Δε2’の候補となる偏差ひずみ変化量が偏差ひずみ変化量Δε270’及び偏差ひずみ変化量Δε’である場合には、偏差ひずみ変化量Δε270’及び偏差ひずみ変化量Δε’のうち一方を選択して第二偏差ひずみ変化量Δε2’とすればよい。
【0114】
また、特にΔε1’及びΔε2’のどちらか一方もしくは両方が0の場合、以下の式を用いればよい。
【0115】
例えば、打角の方向θが0°である場合に、Δε1’=Δε’(<0)、Δε2’=0になる。このように、Δε1’=Δε’(<0)、Δε2’=0であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(I-1)~(I-3)により算出する。
θ=0°・・・(I-1)
φ=γ×ΔεN’・・・(I-2)
Δε’=√{(Δε1’)+(Δε2’)}・・・(I-3)
【0116】
また、例えば、打角の方向θが90°である場合に、Δε1’=Δε90’(<0)、Δε2’=0になる。このように、Δε1’=Δε90’(<0)、Δε2’=0であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(J-1)~(J-3)により算出する。
θ=90°・・・(J-1)
φ=γ×ΔεN’・・・(J-2)
Δε’=√{(Δε1’)+(Δε2’)}・・・(J-3)
【0117】
また、例えば、打角の方向θが180°である場合に、Δε1’=Δε180’(<0)、Δε2’=0になる。このように、Δε1’=Δε180’(<0)、Δε2’=0であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(K-1)~(K-3)により算出する。
θ=180°・・・(K-1)
φ=γ×ΔεN’・・・(K-2)
Δε’=√{(Δε1’)+(Δε2’)}・・・(K-3)
【0118】
また、例えば、打角の方向θが270°である場合に、Δε1’=Δε270’(<0)、Δε2’=0になる。このように、Δε1’=Δε270’(<0)、Δε2’=0であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(L-1)~(L-3)により算出する。
θ=270°・・・(L-1)
φ=γ×ΔεN’・・・(L-2)
Δε’=√{(Δε1’)+(Δε2’)}・・・(L-3)
【0119】
また、例えば、打角の大きさφが0°である場合に、Δε1’=0、Δε2’=0になる。このように、Δε1’=0、Δε2’=0であるときには、打角の大きさφを(M-1)により算出する。打角の方向θは定義することができないため、算出しない。
φ=0・・・(M-1)
【0120】
以上の手法により、第一電極41の打角の方向θと大きさφを定量的に求めることができる。なお、以上は、第一電極41の打角の方向θと大きさφを定量的に求める手法であるが、第二電極42の打角の方向θと大きさφについても、上述の第一電極41の打角の方向θと大きさφを算出する手法と同一の手法により算出することができる。
【0121】
[抵抗スポット溶接継手の製造方法]
【0122】
次に、本発明の一実施形態に係る抵抗スポット溶接継手の製造方法を実際の溶接組立工程に適用する場合について説明する。
【0123】
本発明の一実施形態に係る抵抗スポット溶接継手の製造方法は、図4に示される抵抗スポット溶接装置10によって実行される。図14は、本発明の一実施形態に係る抵抗スポット溶接継手の製造方法の流れを示す図である。
【0124】
図14に示されるように、抵抗スポット溶接継手の製造方法は、加圧ステップと、打角算出ステップと、打角補正ステップと、溶接ステップとを備える。この抵抗スポット溶接継手の製造方法は、例えば、第二電極42が第二鋼板32に当接し、第一電極41が第一鋼板31から離間した状態を初期状態とし、この初期状態から、加圧ステップ、打角算出ステップ、打角補正ステップ及び溶接ステップが、この順に実行される。
【0125】
(加圧ステップ)
加圧ステップでは、制御部26(加圧制御部61)がアクチュエータ23を制御する。このとき、溶接対象30が第一電極41及び第二電極42で挟まれて、溶接対象30に対する第一電極41及び第二電極42の加圧が開始されるように、制御部26によってアクチュエータ23が制御される。これにより、溶接対象30に対する第一電極41及び第二電極42の加圧が開始される。
【0126】
(打角算出ステップ)
打角算出ステップでは、制御部26(打角算出部62)が、第一電極41の打角の大きさφ及び第二電極42の打角の大きさφを算出する。図15は、図14の打角算出ステップにおいて制御部26(打角算出部62)が実行する処理の流れを示す図である。この打角算出ステップにおいて、制御部26(打角算出部62)は、より具体的には、ステップS1~ステップS7を実行する。
【0127】
なお、打角算出ステップの開始前に、制御部26は、上記式(10)で定義される合成偏差ひずみ変化量Δε’と第一電極41の打角の大きさφとの関係から予め算出された比例係数γをメモリ52に記憶する。この比例係数γは、実際の溶接組立工程の開始前に、この溶接組立工程の条件で実験的に算出されたものである。また、第一電極41の打角がない場合の条件で算出された基準偏差ひずみε0,φ=0’、ε90,φ=0’、ε180,φ=0’、ε270,φ=0をメモリ52に記憶する。
【0128】
同様に、制御部26は、上記式(10)で定義される合成偏差ひずみ変化量Δε’と第二電極42の打角の大きさφとの関係から予め算出された比例係数γをメモリ52に記憶する。この比例係数γは、実際の溶接組立工程の開始前に、この溶接組立工程の条件で実験的に算出されたものである。また、第二電極42の打角がない場合の条件で算出された基準偏差ひずみε0,φ=0’、ε90,φ=0’、ε180,φ=0’、ε270,φ=0をメモリ52に記憶する。
【0129】
また、打角算出ステップの開始前に、制御部26は、第一鋼板31の引張強さTS(MPa)及び板厚T(mm)と、第二鋼板32の引張強さTS(MPa)及び板厚T(mm)をメモリ52に記憶する。
【0130】
そして、ステップS1では、第一電極41及び第二電極42で溶接対象30を加圧したときの第一電極41のひずみが4つの第一ひずみゲージ21で測定される。この4つの第一ひずみゲージ21で測定されたひずみ測定値ε、ε90、ε180、ε270は、制御部26に出力される。このひずみ測定値ε、ε90、ε180、ε270は、「第一ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値ε」の一例である。
【0131】
また、ステップS1では、第一電極41及び第二電極42で溶接対象30を加圧したときの第二電極42のひずみが4つの第二ひずみゲージ22で測定される。この4つの第二ひずみゲージ22で測定されたひずみ測定値ε、ε90、ε180、ε270は、制御部26に出力される。このひずみ測定値ε、ε90、ε180、ε270は、「第二ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値ε」の一例である。
【0132】
続いて、ステップS2において、制御部26は、4つの第一ひずみゲージ21から出力されたひずみ測定値ε、ε90、ε180、ε270を取得し、上記式(1)の通り、ひずみ測定値ε、ε90、ε180、ε270の平均値εを算出する。また、制御部26は、上記式(2)~式(5)の通り、ひずみ測定値ε、ε90、ε180、ε270から平均値εをそれぞれ減算して偏差ひずみε’、ε90’、ε180’、ε270’を算出する。この偏差ひずみε’、ε90’、ε180’、ε270’は、「複数の偏差ひずみε’」の一例である。
【0133】
また、ステップS2では、第二電極42についても、偏差ひずみε’、ε90’、ε180’、ε270’を同様に算出する。
【0134】
続いて、ステップS3において、制御部26は、式(6)~(9)の通り、偏差ひずみε’、ε90’、ε180’、ε270’から予めメモリ52に記憶した基準偏差ひずみε0,φ=0’、ε90,φ=0’、ε180,φ=0’、ε270,φ=0’をそれぞれ減算して偏差ひずみ変化量Δε’、Δε90’、Δε180’、Δε270’を算出する。基準偏差ひずみε0,φ=0’、ε90,φ=0’、ε180,φ=0’、ε270,φ=0’は、「複数の基準偏差ひずみεφ=0’」の一例であり、偏差ひずみ変化量Δε’、Δε90’、Δε180’、Δε270’は、「複数の偏差ひずみ変化量Δε’」の一例である。
【0135】
また、ステップS3では、第二電極42についても、偏差ひずみ変化量Δε’、Δε90’、Δε180’、Δε270’を同様に算出する。
【0136】
続いて、ステップS4において、制御部26は、偏差ひずみ変化量Δε’、Δε90’、Δε180’、Δε270’のうち、値がマイナス側に最も大きい第一偏差ひずみ変化量Δε1’を特定すると共に、第一偏差ひずみ変化量Δε1’が検出された位置から第一電極41の周方向に±90°離れた2つの位置でそれぞれ検出された偏差ひずみ変化量のうち値がマイナス側に大きい方の第二偏差ひずみ変化量Δε2’を特定する。
【0137】
また、ステップS4では、第二電極42についても、第一偏差ひずみ変化量Δε1’を特定すると共に、第二偏差ひずみ変化量Δε2’を特定する。
【0138】
そして、ステップS5において、制御部26は、第一偏差ひずみ変化量Δε1’及び第二偏差ひずみ変化量Δε2’に基づいて第一電極41の打角の方向θと大きさφを算出する。
【0139】
ここで、図13(A)に示されるように、例えば、打角の方向θが0°<θ<45°である場合に、制御部26は、Δε1’=Δε’(<0)、Δε2’=Δε90’(<0)と特定する。そして、制御部26は、打角の方向θと大きさφを上記式(A-1)~(A-3)により算出する。
【0140】
一方、図13(B)に示されるように、例えば、打角の方向θが45°<θ<90°である場合に、制御部26は、Δε1’=Δε90’(<0)、Δε2’=Δε’(<0)と特定する。そして、制御部26は、打角の方向θと大きさφを上記式(B-1)~(B-3)により算出する。
【0141】
また、図13(C)に示されるように、例えば、打角の方向θが90°<θ<135°である場合に、制御部26は、Δε1’=Δε90(<0)’、Δε2’=Δε180’(<0)と特定する。そして、制御部26は、打角の方向θと大きさφを上記式(C-1)~(C-3)により算出する。
【0142】
また、図13(D)に示されるように、例えば、打角の方向θが135°<θ<180°である場合に、制御部26は、Δε1’=Δε180’(<0)、εΔ2’=Δε90’(<0)と特定する。そして、制御部26は、打角の方向θと大きさφを上記式(D-1)~(D-3)により算出する。
【0143】
また、図13(E)に示されるように、例えば、打角の方向θが180°<θ<225°である場合に、制御部26は、Δε1’=Δε180’(<0)、Δε2’=Δε270’(<0)と特定する。そして、制御部26は、打角の方向θと大きさφを上記式(E-1)~(E-3)により算出する。
【0144】
また、図13(F)に示されるように、例えば、打角の方向θが225°<θ<270°である場合に、制御部26は、Δε1’=Δε270’(<0)、Δε2’=Δε180’(<0)と特定する。そして、制御部26は、打角の方向θと大きさφを上記式(F-1)~(F-3)により算出する。
【0145】
また、図13(G)に示されるように、例えば、打角の方向θが270°<θ<315°である場合に、制御部26は、Δε1’=Δε270’(<0)、Δε2’=Δε’(<0)と特定する。そして、制御部26は、打角の方向θと大きさφを上記式(G-1)~(G-3)により算出する。
【0146】
また、図13(H)に示されるように、例えば、打角の方向θが315°<θ<360°である場合に、制御部26は、Δε1’=Δε’(<0)、Δε2’=Δε270’(<0)と特定する。そして、制御部26は、打角の方向θと大きさφを上記式(H-1)~(H-3)により算出する。
【0147】
なお、上述の通り、打角の方向θによっては、値がマイナス側に最も大きい偏差ひずみ変化量が二つ存在する可能性がある。この場合に、制御部26は、二つの偏差ひずみ変化量のうち一方を選択して第一偏差ひずみ変化量Δε1’とする。
【0148】
同様に、打角の方向θによっては、第二偏差ひずみ変化量Δε2’の候補となる偏差ひずみ変化量が二つ存在する可能性がある。この場合に、制御部26は、二つの偏差ひずみ変化量のうち一方を選択して第二偏差ひずみ変化量Δε2’とする。
【0149】
また、特にΔε1’及びΔε2’のどちらか一方もしくは両方が0の場合、次式を用いて算出する。
【0150】
例えば、Δε1’=Δε’(<0)、Δε2’=0の場合、上記式(I-1)~(I-3)により算出する。
【0151】
また、例えば、Δε1’=Δε90’(<0)、Δε2’=0の場合、上記式(J-1)~(J-3)により算出する。
【0152】
また、例えば、Δε1’=Δε180’(<0)、Δε2’=0の場合、上記式(K-1)~(K-3)により算出する。
【0153】
また、例えば、Δε1’=Δε270’(<0)、Δε2’=0の場合、上記式(L-1)~(L-3)により算出する。
【0154】
また、Δε1’=0、Δε2’=0の場合、打角の大きさφを上記式(M-1)により算出する。打角の方向θは定義することができないため、算出しない。
【0155】
また、ステップS5では、第二電極42についても、第一偏差ひずみ変化量Δε1’及び第二偏差ひずみ変化量Δε2’に基づいて打角の方向θと大きさφを算出する。
【0156】
このように、制御部26は、以上のステップS1~ステップS5によって、第一電極41の打角の方向θと大きさφを算出する。また、制御部26は、上述の第一電極41の打角の方向θと大きさφを算出する手法と同一の手法により、第二電極42の打角の方向θと大きさφを算出する。
【0157】
続いて、ステップS6において、第一電極41の打角の方向θと大きさφを用いて、X-Z平面における第一電極41の打角の大きさφ’を算出する。X-Z平面における第一電極41の打角の大きさφ’とは、X-Z平面に打角の大きさφを投影した場合の角度のことである。X-Z平面における第一電極41の打角の大きさφ’は、X-Z平面において溶接対象30における第一電極41との接触面31Aの法線A1と第一電極41の軸線B1とのなす角度で定義される。φ’の具体的な算出方法は、当業者であれば三角関数等を用いることにより明らかである。同様にして、第二電極42の打角の方向θと大きさφを用いて、X-Z平面における第二電極42の打角の大きさφ’を算出する。X-Z平面における第二電極42の打角の大きさφ’とは、X-Z平面に打角の大きさφを投影した場合の角度のことである。第二電極42の打角の大きさφ’は、X-Z平面において溶接対象30における第二電極42との接触面32Aの法線A2と第二電極42の軸線B2とのなす角度で定義される。
【0158】
そして、ステップS7において、制御部26は、第二鋼板32に対する第一鋼板31の傾斜角度φを、式(11)により算出する。このとき、一例として、第一電極41及び第二電極42が対向する方向と直交する方向を矢印Y方向とし、このY方向から見て、溶接対象30における第一電極41との接触面31Aの法線A1から反時計回りに第一電極41の軸線B1が傾く方向を第一電極41の打角の大きさφ’のプラス方向とすると共に、溶接対象30における第二電極42との接触面32Aの法線A2から反時計回りに第二電極42の軸線B2が傾く方向を第二電極42の打角の大きさφ’のプラス方向とする。また、このとき、Y方向から見た平面であって、第一電極41の軸線B1及び第二電極42の軸線B2を含む平面を、X-Z平面とし、傾斜角度φを、X-Z平面における第二鋼板32に対する第一鋼板31の傾斜角度とする。
φ=|φ’-φ’| ・・・(11)
【0159】
ここで、図16は、第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部間に閉断面形状の隙間(板隙)がある場合の傾斜角度φの一例を示す図である。図16において、(A)は第一電極41の打角の大きさφ’<0であり、かつ、第二電極42の打角の大きさφ’>0である例を示す図、(B)は第一電極41の打角の大きさφ’>0であり、かつ、第二電極42の打角の大きさφ’>0である例を示す図である。
【0160】
また、図17は、第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部間に開断面形状の隙間(片隙)がある場合の傾斜角度φの一例を示す図である。図17において、(A)は第一電極41の打角の大きさφ’<0であり、かつ、第二電極42の打角の大きさφ’>0である例を示す図、(B)は第一電極41の打角の大きさφ’>0であり、かつ、第二電極42の打角の大きさφ’>0である例を示す図である。
【0161】
(打角補正ステップ)
打角補正ステップでは、制御部26(打角補正部63)がロボット24を制御する。このとき、溶接ガン20の角度が変更されることにより、第一電極41の打角の大きさφ’及び第二電極42の打角の大きさφ’がφ’’、φ’’にそれぞれ補正されるように、制御部26によってロボット24が制御される。図18は、図14の打角補正ステップにおいて制御部26(打角補正部63)が実行する処理の流れを示す図である。この打角補正ステップにおいて、制御部26(打角補正部63)は、ステップS11~ステップS14を実行する。
【0162】
ステップS11において、制御部26は、第一鋼板31に関する第一強度指標βと、第二鋼板32に関する第二強度指標βとの関係について判定する。第一強度指標βは、第一鋼板31における引張強さTS(MPa)と板厚T(mm)の積で定義されたものであり、第二強度指標βは、第二鋼板32における引張強さTS(MPa)と板厚T(mm)の積で定義されたものである。制御部26は、メモリ52に記憶されている第一鋼板31の引張強さTS(MPa)と板厚Tから第一強度指標βを算出し、同様に、メモリ52に記憶されている第二鋼板32の引張強さTS(MPa)と板厚Tから第二強度指標βを算出する。
【0163】
ここで、β<βであるとき、制御部26は、ステップS12に移行し、β=βであるとき、制御部26は、ステップS13に移行し、β>βであるとき、制御部26は、ステップS14に移行する。
【0164】
そして、ステップS12において、制御部26は、第一電極41の打角の大きさが第二電極42の打角の大きさより大きくなるように(|φ’|>|φ’|になるように)、ロボット24を制御して、溶接ガン20の角度を変更する。
【0165】
また、ステップS13において、制御部26は、第一電極41の打角の大きさφ’と第二電極42の打角の大きさφ’とが同じになるように(|φ’|=|φ’|になるように)、ロボット24を制御して、溶接ガン20の角度を変更する。
【0166】
また、ステップS14において、制御部26は、第一電極41の打角の大きさφ’が第二電極42の打角の大きさφ’より小さくなるように(|φ’|<|φ’|になるように)、ロボット24を制御して、溶接ガン20の角度を変更する。
【0167】
このステップS12~ステップS14において、制御部26は、より具体的には、次の要領でロボット24を制御して溶接ガン20の角度を変更する。ここでは、第一強度指標βと第二強度指標βとの比であるリスク指標βが、式(12)により定義される。
β=β/β ・・・(12)
【0168】
そして、制御部26は、X-Z平面における補正後の第一電極41の打角の大きさφ’’及びX-Z平面における補正後の第二電極42の打角の大きさφ’’を、式(13)、(14)により算出する。X-Z平面における補正後の第一電極41の打角の大きさφ’’とは、第一電極41の打角の大きさがφ’である状態から後述する如く溶接ガン20の角度をX-Z平面に沿って変更した場合の変更後の角度のことである。同様に、X-Z平面における補正後の第二電極42の打角の大きさφ’’とは、第二電極42の打角の大きさがφ’である状態から後述する如く溶接ガン20の角度をX-Z平面に沿って変更した場合の変更後の角度のことである。
φ’’=(1-α)×φ ・・・(13)
φ’’=α×φ ・・・(14)
ただし、係数αは、式(15)~(17)によって表される係数である。
0<β<1.0のとき、0<α<0.5 ・・・(15)
β>1.0のとき、 0.5<α≦1.0 ・・・(16)
β=1.0のとき、 α=0.5 ・・・(17)
【0169】
図19は、リスク指標β及び係数αの関係の一例を示す図である。制御部26は、係数αとして、図19に示されるリスク指標βと係数αとの関係パターン(P1~P2)を満たすものを採用してもよい。
【0170】
ここで、図19における関係パターンP1は、リスク指標βの増加に伴って係数αが直線状に増加するパターンであり、関係パターンP2は、リスク指標βの増加に伴って係数αが曲線状に増加するパターンである。これらの関係パターンP1、P2は、いずれもβ=1.0のときに、α=0.5を通り、かつ、図19において網掛領域で示される上記式(13)及び上記式(14)の範囲を通るように増加するパターンである。具体的な関係パターンP1、P2は事前に実験等によって求められる。
【0171】
そして、制御部26は、第一電極41の打角の大きさφ’及び第二電極42の打角の大きさφ’が、X-Z平面においてφ’’、φ’’になるように、ロボット24を制御して、溶接ガン20の角度をX-Z平面に沿って変更する。
【0172】
また、この打角補正ステップでは、上述の打角算出ステップの算出結果である、第一電極41の打角の方向θと大きさφ’及び第二電極42の打角の方向θと大きさφ’に基づいて、溶接ガン20の角度がX-Z平面に沿って変更される。つまり、第一電極41の打角の方向θと大きさφ’及び第二電極42の打角の方向θと大きさφ’に基づいて、X-Z平面に沿った溶接ガン20の修正角度が算出され、この算出結果に基づいて溶接ガン20の角度がX-Z平面に沿って変更される。なお、このとき、図3に示されるように、溶接ガン20は、X方向から見た場合に溶接ガン20のZ方向が第一鋼板31及び第二鋼板32の法線方向と平行でも、傾斜していてもどちらでもよい。
【0173】
ここで、図20は、第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部間に閉断面形状の隙間(板隙)がある場合に第一電極41の打角の大きさφ’及び第二電極42の打角の大きさφ’がφ’’、φ’’にそれぞれ補正された一例を示す図である。図20において、(A)は第一電極41の打角の大きさφ’がφ’’=1/2・φに補正され、第二電極42の打角の大きさφ’がφ’’=1/2・φに補正された例を示す図、(B)は第一電極41の打角の大きさφ’がφ’’=α・φに補正され、第二電極42の打角の大きさφ’がφ’’=(1-α)・φに補正された例を示す図である。
【0174】
また、図21は、第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部間に開断面形状の隙間(片隙)がある場合に第一電極41の打角の大きさφ’及び第二電極42の打角の大きさφ’がφ’’、φ’’にそれぞれ補正された一例を示す図である。図21において、(A)は第一電極41の打角の大きさφ’がφ’’=1/2・φに補正され、第二電極42の打角の大きさφ’がφ’’=1/2・φに補正された例を示す図、(B)は第一電極41の打角の大きさφ’がφ’’=α・φに補正され、第二電極42の打角の大きさφ’がφ’’=(1-α)・φに補正された例を示す図である。
【0175】
このように、打角補正ステップでは、第一電極41及び第二電極42を有する溶接ガン20の角度が変更され、これにより、第一電極41の打角の大きさφ’及び第二電極42の打角の大きさφ’がφ’’、φ’’にそれぞれ補正される。
【0176】
なお、上述の打角算出ステップにおいて、第一電極41の打角の大きさφ’=0であり、かつ、第二電極42の打角の大きさφ’=0である場合には、打角補正ステップにおける打角の大きさの補正量は0とされる。
【0177】
(溶接ステップ)
溶接ステップでは、制御部26(溶接制御部64)が電源25を制御する。このとき、第一電極41及び第二電極42の間が通電されて第一鋼板31及び第二鋼板32が抵抗スポット溶接されるように、制御部26によって電源25が制御される。これにより、第一鋼板31及び第二鋼板32が抵抗スポット溶接され、溶接対象30からスポット溶接継手70が得られる。
【0178】
[作用及び効果]
次に、本発明の一実施形態の作用及び効果について説明する。
【0179】
以上詳述した通り、第一鋼板31及び第二鋼板32を第一電極41及び第二電極42で挟んで加圧した際には、第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部間に隙間(板隙又は片隙)があり、かつ、第一電極41及び第二電極42に打角が生じている場合がある。この場合に、本実施形態では、第一鋼板31及び第二鋼板32の引張強さ及び板厚に応じて第一電極41及び第二電極42の打角の大きさφ’、φ’がφ’’、φ’’にそれぞれ補正される。
【0180】
つまり、第一鋼板31の第一強度指標βと第二鋼板32の第二強度指標βとの関係が、β<βであるときには、第一電極41の打角の大きさが第二電極42の打角の大きさより大きくなるように(|φ’|>|φ’|になるように)、溶接ガン20の角度が変更される。また、β=βであるときには、第一電極41の打角の大きさと第二電極42の打角の大きさとが同じになるように(|φ’|=|φ’|になるように)、溶接ガン20の角度が変更される。また、β>βであるときには、第一電極41の打角の大きさが第二電極42の打角の大きさより小さくなるように(|φ’|<|φ’|になるように)、溶接ガン20の角度が変更される。
【0181】
これにより、第一鋼板31及び第二鋼板32のうち、LME割れの発生リスクが高い方の鋼板に生ずる応力、及び、LME割れの発生リスクが低い方の鋼板に生ずる応力を、それぞれLME割れが生ずる応力未満に低減できる。この結果、第一鋼板31及び第二鋼板32にLME割れが発生することを抑制できるので、第一鋼板31及び第二鋼板32の接合部における溶接品質を確保できる。
【0182】
また、本実施形態によれば、第一電極41に複数の4つの第一ひずみゲージ21が取り付けられ、第二電極42に複数の第二ひずみゲージ22が取り付けられているので、式(A-1)~(M-1)に示されるように、第一電極41の打角の方向θと大きさφ及び第二電極42の打角の方向θと大きさφを独立して検出することができる。
【0183】
また、本実施形態によれば、例えば第一電極41について打角の方向θと大きさφを算出する際に、ひずみ測定値ε、ε90、ε180、ε270からひずみ測定値ε、ε90、ε180、ε270の平均値εをそれぞれ減算して偏差ひずみε’、ε90’、ε180’、ε270’を算出する。これにより、打角によるひずみ測定値の変化量を取り出すことができるので、例えば、ひずみ測定値ε、ε90、ε180、ε270をそのまま用いる場合に比して、打角の方向θと大きさφを精度よく検出できる。
【0184】
また、本実施形態によれば、打角の方向θと大きさφを算出する際に、偏差ひずみε’、ε90’、ε180’、ε270’から打角がない場合の偏差ひずみε’、ε90’、ε180’、ε270’である基準偏差ひずみε0,φ=0’、ε90,φ=0’、ε180,φ=0’、ε270,φ=0をそれぞれ減算して偏差ひずみ変化量Δε’、Δε90’、Δε180’、Δε270’を算出する。これにより、第一電極41の剛性が周方向に不均一であることに起因した偏差成分を除去でき、打角に起因した偏差成分のみを抽出できるので、例えば、偏差ひずみε’、ε90’、ε180’、ε270’をそのまま用いる場合に比して、打角の方向θと大きさφの検出精度を向上させることができる。
【0185】
また、本実施形態によれば、偏差ひずみ変化量Δε’、Δε90’、Δε180’、Δε270’のうち、値がマイナス側に最も大きい第一偏差ひずみ変化量Δε1’を特定すると共に、第一偏差ひずみ変化量Δε1’が検出された位置から第一電極41の周方向に±90°離れた2つの位置でそれぞれ検出された偏差ひずみ変化量のうち値がマイナス側に大きい方の第二偏差ひずみ変化量Δε2’を特定し、第一偏差ひずみ変化量Δε1’及び第二偏差ひずみ変化量Δε2’に基づいて打角の方向θと大きさφを算出する。したがって、打角の方向θと大きさφに応じて感度よく増減する第一偏差ひずみ変化量Δε1’及び第二偏差ひずみ変化量Δε2’に基づいて打角の方向θと大きさφを算出するので、打角の方向θと大きさφの検出精度を向上させることができる。
【0186】
また、本実施形態によれば、第一偏差ひずみ変化量Δε1’及び第二偏差ひずみ変化量Δε2’の合成値である合成偏差ひずみ変化量Δε’と打角の大きさφとの関係から比例係数γを予め算出し、実際の打角の測定では、上記式(A-2)等の通り、合成偏差ひずみ変化量Δε’に比例係数γを乗算して打角の大きさφを算出する。これにより、第一電極41及び第二電極42の加圧力及び第一電極41及び第二電極42の剛性の影響を排除して打角の大きさφを検出できる。
【0187】
また、本実施形態によれば、特定された第一偏差ひずみ変化量Δε1’及び第二偏差ひずみ変化量Δε2’に応じて予め定められた上記式(A-1)~(H-3)により打角の方向θと大きさφを算出する。したがって、打角の方向θと大きさφを幾何学的に算出するので、打角の方向θと大きさφの検出精度を向上させることができる。
【0188】
また、本実施形態によれば、一例として、第一電極41の打角の方向θと大きさφ及び第二電極42の打角の方向θと大きさφを算出し、その後、第一電極41及び第二電極42の間を通電して溶接対象30をスポット溶接する溶接ステップに移行する。したがって、例えば、溶接対象30をスポット溶接する前に、打角の大きさφ、φを修正したり、溶接ステップへの移行を中止したりすることができる。
【0189】
また、本実施形態によれば、第一電極41の打角の方向θと大きさφ及び第二電極42の打角の方向θと大きさφを算出するために、安価で小型である第一ひずみゲージ21及び第二ひずみゲージ22を用いるので、第一電極41及び第二電極42の周辺部品と干渉しない省スペース性や、イニシャルコスト及びランニングコスト等の経済性の課題を解決できる。
【0190】
また、本実施形態によれば、4つの第一ひずみゲージ21を第一電極41に、4つの第二ひずみゲージ22を第二電極42にそれぞれ取り付けたまま、第一電極41及び第二電極42の間を通電して溶接対象30を溶接する。したがって、例えば、打角を検出するための打角検出手段を取り外してから、第一電極41及び第二電極42の間を通電して溶接対象30を溶接する場合に比して、工数を削減できるので、溶接コストを低減できる。
【0191】
[変形例]
次に、本発明の一実施形態の変形例について説明する。
【0192】
上記実施形態では、複数の第一ひずみゲージ21の一例として、4つの第一ひずみゲージ21が第一電極41に取り付けられているが、第一電極41に周方向に等間隔で取り付けられる複数の第一ひずみゲージ21の数は、3つ以上であれば、いくつでもよい。同様に、第二電極42に周方向に等間隔で取り付けられる複数の第二ひずみゲージ22の数は、3つ以上であれば、いくつでもよい。
【0193】
また、上記実施形態では、一例として、第一電極41の軸線B1の傾斜角度と第二電極42の軸線B2の傾斜角度とが同じであるが、第一電極41の軸線B1の傾斜角度と第二電極42の軸線B2の傾斜角度とは異なっていてもよく、また、第一電極41の軸線B1が第一鋼板31と垂直で第二電極42の軸線B2が第二鋼板32の法線A2に対して傾斜していてもよく、また、第一電極41の軸線B1が第一鋼板31の法線A1に対して傾斜し第二電極42の軸線B2が第二鋼板32と垂直であってもよい。
【0194】
また、上記実施形態では、打角補正ステップにおいて、打角算出ステップの算出結果である、第一電極41の打角の方向θと大きさφ’及び第二電極42の打角の方向θと大きさφ’に基づいて、溶接ガン20の角度がX-Z平面に沿って変更されるが、第一電極41の打角の方向θ及び第二電極42の打角の方向θの情報を用いずに、X-Z平面に沿って溶接ガン20の角度を変更するコマンドを用いてロボット24が制御されてもよい。
【0195】
また、上記実施形態では、図20図21に示されるように、X-Z平面における第二鋼板32に対する第一鋼板31の傾斜角度φが算出され、溶接ガン20の角度がX-Z平面に沿って変更されるが、図22図23に示されるように、Y-Z平面における第二鋼板32に対する第一鋼板31の傾斜角度φが算出され、溶接ガン20の角度がY-Z平面に沿って変更されてもよい。
【0196】
[実施例]
次に、本発明の一実施形態の実施例について説明する。
【0197】
本実施例では、引張強さが270MPa又は980MPaで板厚が1.0mm~1.6mmの合金化亜鉛めっき鋼板(GA鋼板)を試験片として用いた。試験片のサイズは、幅30mm×長さ100mmとした。この鋼板を表1に示す組合せで2枚重ね合わせて板組を形成し、第一鋼板と第二鋼板の間の一端にスペーサを挟んで片隙を形成し、第二鋼板に対する第一鋼板の傾斜角度φを5°に設定した。
【0198】
この板組に対して、C型の溶接ガンを備えた溶接ロボット装置を用いて、加圧力4000N、通電時間0.36秒、保持時間0.1秒の溶接条件で抵抗スポット溶接を実施した。
【0199】
第一電極の打角の大きさφ’と第二電極の打角の大きさφ’を、一例として図19に示すパターンP0~P1に従い、リスク指標βに応じて係数αの値を0~1.0の値で設定して算出した。
【0200】
具体的には、パターンP1では、0<β<1.0のときに、0<α<0.5の関係が満足され、αとβの関係は直線関係である。β=1.0のときα=0.5となる。β>1.0の場合、0.5<α≦1.0の関係が満足され、αとβの関係は直線関係である。なお,パターンP0は、リスク指標βの値に関わらず常にα=0とした比較例用のパターンである。パターンP0を採用した実施例は、比較例であり、パターンP1を採用した実施例は、本発明が適用された本発明例である。
【0201】
表1に実施例の結果を示す。表1に示されるように、比較例では、打角補正ステップにおいて、第一電極の打角の大きさφ’及び第二電極の打角の大きさφ’が補正されず、LME割れに対するリスクが分散されていない。これに対し、本発明例では、打角補正ステップにおいて、第一鋼板及び第二鋼板の引張強さと板厚の積で表される強度指標β、βに応じて第一電極及び第二電極の打角の大きさφ’、φ’の補正量が配分されており、LME割れに対するリスクが分散されている。したがって、第一鋼板及び第二鋼板にLME割れが発生することを抑制できるので、第一鋼板及び第二鋼板の接合部における溶接品質を確保できる。
【表1】
【0202】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0203】
10 抵抗スポット溶接装置
20 溶接ガン
21 第一ひずみゲージ
22 第二ひずみゲージ
23 アクチュエータ
24 ロボット
25 電源
26 制御部
30 溶接対象
31 第一鋼板
31A 接触面
32 第二鋼板
32A 接触面
41 第一電極
41A 断面
42 第二電極
42A 断面
61 加圧制御部
62 打角算出部
63 打角補正部
64 溶接制御部
A1、A2 法線
B1、B2 軸線
C1 第一基準線
C2 第二基準線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図19
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図21
図22
図23