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特許7397316コークスの製造方法及びコークス製造用原料炭の調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】コークスの製造方法及びコークス製造用原料炭の調整方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 57/00 20060101AFI20231206BHJP
   C10B 57/04 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C10B57/00
C10B57/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020065520
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021161300
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(72)【発明者】
【氏名】野村 誠治
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-255671(JP,A)
【文献】特開2001-181649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 57/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉炭化室に装入された原料炭を乾留してコークスを製造する方法であって、
第1原料炭をコークス炉炭化室に装入して下部原料層を形成した後、第2原料炭をコークス炉炭化室に装入して前記下部原料層上に上部原料層を形成し、
前記第1原料炭及び前記第2原料炭は、下記式(I),(II)に示す条件、下記式(III),(IV)に示す条件又は、下記式(I),(III)に示す条件を満たすことを特徴とするコークスの製造方法。
Sc1≦Sth1,Sc2≧Sth2(Sth1<Sth2) …(I)
Bc2≦Bc1+α …(II)
Bc2≦Bth …(III)
Sc2≧Sc1-β …(IV)
Sc1は前記第1原料炭中の硫黄濃度[質量%]、Sc2は前記第2原料炭中の硫黄濃度[質量%]、Sth1及びSth2は硫黄濃度に関する閾値[質量%]、Bc1は前記第1原料炭における灰分の塩基性度[-]、Bc2は前記第2原料炭における灰分の塩基性度[-]、Bthは塩基性度に関する閾値[-]であって、前記第1原料炭及び前記第2原料炭を含む配合炭における平均塩基性度から、この平均塩基性度の10%以上の値を減算した塩基性度、α及びβのそれぞれ0.0以上0.2以下である。
【請求項2】
前記閾値Sth1は、前記第1原料炭及び前記第2原料炭を含む配合炭の平均硫黄濃度から、この平均硫黄濃度のN1%の値を減算した硫黄濃度であることを特徴とする請求項1に記載のコークスの製造方法。
【請求項3】
前記N1が10以上であることを特徴とする請求項2に記載のコークスの製造方法。
【請求項4】
前記閾値Sth2は、前記第1原料炭及び前記第2原料炭を含む配合炭の平均硫黄濃度に対して、この平均硫黄濃度のN2%の値を加算した硫黄濃度であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のコークスの製造方法。
【請求項5】
前記N2が10以上であることを特徴とする請求項4に記載のコークスの製造方法。
【請求項6】
前記上部原料層の層厚は、前記上部原料層及び前記下部原料層の全体の層厚に対して、1~50%であることを特徴とする請求項1からのいずれか1つに記載のコークスの製造方法。
【請求項7】
コークス炉炭化室に装入されるコークス製造用原料炭を調整する方法であって、
コークス炉炭化室に装入されて下部原料層を構成する第1原料炭と、前記第1原料炭の装入後にコークス炉炭化室に装入されて前記下部原料層上に形成される上部原料層を構成する第2原料炭とが、下記式(I),(II)に示す条件、下記式(III),(IV)に示す条件又は、下記式(I),(III)に示す条件を満たすことを特徴とするコークス製造用原料炭の調整方法。
Sc1≦Sth1,Sc2≧Sth2(Sth1<Sth2) …(I)
Bc2≦Bc1+α …(II)
Bc2≦Bth …(III)
Sc2≧Sc1-β …(IV)
Sc1は前記第1原料炭中の硫黄濃度[質量%]、Sc2は前記第2原料炭中の硫黄濃度[質量%]、Sth1及びSth2は硫黄濃度に関する閾値[質量%]、Bc1は前記第1原料炭における灰分の塩基性度[-]、Bc2は前記第2原料炭における灰分の塩基性度[-]、Bthは塩基性度に関する閾値[-]であって、前記第1原料炭及び前記第2原料炭を含む配合炭における平均塩基性度から、この平均塩基性度の10%以上の値を減算した塩基性度、α及びβのそれぞれ0.0以上0.2以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス中の硫黄濃度を低減することができるコークスの製造方法と、コークス製造用原料炭の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、配合炭における灰分の塩基性度を所定値以下にすることにより、コークス中の硫黄濃度を所定値以下にすることができるコークスの製造方法が記載されている。塩基性度は、配合炭における灰分の酸化物(Fe,CaO,MgO,NaO,KO,SiO,Al)の濃度から算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-262153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、上述したように、配合炭における灰分の塩基性度に着目して、コークス中の硫黄濃度を所定値以下にすることが開示されている。本発明者は、原料炭における硫黄濃度も考慮して、コークス炉炭化室内において、原料炭から発生する硫黄ガスの流れに着目したところ、コークス炉炭化室に装入される原料炭を2層構造とすることにより、コークス中の硫黄濃度を低減できることが分かり、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願第1の発明は、コークス炉炭化室に装入された原料炭を乾留してコークスを製造する方法であり、第1原料炭をコークス炉炭化室に装入して下部原料層を形成した後、第2原料炭をコークス炉炭化室に装入して下部原料層上に上部原料層を形成する。第1原料炭及び第2原料炭は、下記式(I),(II)に示す条件、下記式(III),(IV)に示す条件又は、下記式(I),(III)に示す条件を満たす。
【0006】
【数1】
【0007】
ここで、Sc1は第1原料炭中の硫黄濃度[質量%]、Sc2は第2原料炭中の硫黄濃度[質量%]、Sth1及びSth2は硫黄濃度に関する閾値[質量%]、Bc1は第1原料炭における灰分の塩基性度[-]、Bc2は第2原料炭における灰分の塩基性度[-]、Bthは塩基性度に関する閾値[-]であって、第1原料炭及び第2原料炭を含む配合炭における平均塩基性度から、この平均塩基性度の10%以上の値を減算した塩基性度、α及びβのそれぞれ0.0以上0.2以下である。
【0008】
閾値Sth1としては、第1原料炭及び第2原料炭を含む配合炭の平均硫黄濃度から、この平均硫黄濃度のN1%の値を減算した硫黄濃度とすることができる。ここで、N1は10以上とすることができる。
【0009】
閾値Sth2としては、第1原料炭及び第2原料炭を含む配合炭の平均硫黄濃度に対して、この平均硫黄濃度のN2%の値を加算した硫黄濃度とすることができる。ここで、N2は10以上とすることができる。
【0011】
上部原料層の層厚は、上部原料層及び下部原料層の全体の層厚に対して、1~50%とすることができる。
【0012】
本願第2の発明は、コークス炉炭化室に装入されるコークス製造用原料炭を調整する方法であって、第1原料炭は、コークス炉炭化室に装入されて下部原料層を構成し、第2原料炭は、第1原料炭の装入後にコークス炉炭化室に装入されて下部原料層上に形成される上部原料層を構成する。また、第1原料炭及び第2原料炭は、上記式(I),(II)に示す条件、上記式(III),(IV)に示す条件又は、下記式(I),(III)に示す条件を満たす。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第1原料炭及び第2原料炭を分けることなく均一に混合した場合と比較して、コークス炉炭化室で製造されるコークス全体に着目したときに、原料炭の塩基性成分に固定される硫黄ガスの量を低減して、コークス中の硫黄濃度(言い換えれば、コークス炉炭化室で製造されるコークス全体での平均硫黄濃度)を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】コークス炉炭化室内の原料層の構造を示す概略図である。
図2】上部原料炭及び下部原料炭をコークス炉炭化室に装入する方法(第1の装入方法)を説明する概略図である。
図3】上部原料炭及び下部原料炭をコークス炉炭化室に装入する方法(第2の装入方法)を説明する概略図である。
図4】上部原料炭及び下部原料炭をコークス炉炭化室に装入する方法において、装入車ホッパーの内部構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
本実施形態では、図1に示すように、コークス炉炭化室1の内部において、コークス炉炭化室1の下部に位置する原料層(以下、下部原料層という)LLと、コークス炉炭化室1の上部に位置する原料層(以下、上部原料層という)ULと、を形成している。上部原料層ULは、下部原料層LLの上面に積層される。
【0016】
なお、上部原料層ULの上面は、コークス炉炭化室1の上面1aから離れており、上部原料層ULの上面及びコークス炉炭化室1の上面1aの間には、原料炭の乾留時に発生するガス(以下、コークス炉ガスという)を通過させるためのスペースSが形成されている。また、コークス炉炭化室1の上面1aには、コークス炉ガスを排出するための上昇管1bが設けられている。図1に示す矢印は、コークス炉ガスの主な移動方向を示している。
【0017】
上部原料層UL及び下部原料層LLのそれぞれの層厚(コークス炉炭化室1の上下方向における長さ)は、適宜決めることができる。例えば、上部原料層ULの層厚は、上部原料層UL及び下部原料層LLを含む原料層全体の層厚に対して1~50%とすることができる。原料層全体の層厚は予め決められているため、上部原料層ULの層厚を決めれば、下部原料層LLの層厚が決まる。
【0018】
上部原料層ULの層厚が、原料層全体の層厚に対して1%未満となるように、原料炭を装入することは難しいため、上部原料層ULの層厚の下限値は、原料層全体の層厚の1%とすることが現実的である。例えば、上部原料層ULを構成する原料炭を成型炭としてコークス炉炭化室1に装入する場合、この成型炭を積層させることなく水平面内で敷き詰めることにより、上部原料層ULの層厚を原料層全体の層厚の1%以上とすることができる。
【0019】
一方、上部原料層ULの層厚が原料層全体の層厚の50%よりも大きいと、後述する本実施形態の効果(コークス中の硫黄濃度の低減)が発揮されにくくなる。このため、上部原料層ULの層厚の上限値は、原料層全体の層厚の50%とすることが好ましい。
【0020】
下部原料層LLを構成する原料炭(以下、下部原料炭という。本発明における第1原料炭に相当する)の硫黄濃度Sc1は、予め定められた第1閾値(硫黄濃度)Sth1以下である。また、上部原料層ULを構成する原料炭(以下、上部原料炭という。本発明における第2原料炭に相当する)の硫黄濃度Sc2は、予め定められた第2閾値(硫黄濃度)Sth2以上である。第2閾値(硫黄濃度)Sth2は、第1閾値(硫黄濃度)Sth1よりも高い。したがって、上部原料炭の硫黄濃度Sc2は、下部原料炭の硫黄濃度Sc1よりも高くなる。
【0021】
また、上部原料炭における灰分の塩基性度Bc2は、下部原料炭における灰分の塩基性度Bc1とほぼ同等か、それよりも低くする。ここで、上記の「ほぼ同等」とは、上部原料炭における灰分の塩基性度Bc2が、下部原料炭における灰分の塩基性度Bc1より少し高くても許容されることを意味している。
【0022】
上述した点をまとめると、下部原料炭及び上部原料炭のそれぞれは、下記式(1),(2)に示す条件を満足する。なお、上記の塩基性度Bc2の許容される値は、原料炭が均一に混合された配合炭を乾留して得られるコークスの硫黄濃度Sb(質量%)をベースとして、配合炭全体としての性状は同じで、上部原料炭と下部原料炭の2層構造とした配合炭を乾留して得られるコークスの硫黄濃度Se(質量%)の低減代(ΔS=Sb-Se)が0.01(質量%)以上となる様に、設定することができる。ここで、下部原料炭における灰分の塩基性度Bc1に対して、許容される塩基性度Bc2も含めた大小関係は、下記式(2)に示すように、定数αを含む式として規定することができる。定数αと低減代ΔSとの関係は、過去の操業実績等から求めることができ、低減代ΔSが0.01(質量%)以上となるときの定数αを適宜決めることができる。例えば、定数αを0.0以上0.2以下の値とすることができる。
【0023】
【数2】
【0024】
下部原料炭及び上部原料炭のそれぞれは、単味炭であってもよいし、配合炭であってもよい。下部原料炭及び上部原料炭は、上記式(1),(2)に示す条件を満たすように、コークス炉炭化室1への装入対象となる複数種類の原料炭から調整(選別)される。
【0025】
上部原料炭又は下部原料炭として単味炭を用いるとき、この単味炭の硫黄濃度をJIS M8813の規定に準じて測定すれば、この硫黄濃度が第1閾値(硫黄濃度)Sth1以下であるか、第2閾値(硫黄濃度)Sth2以上であるかを判別することができる。硫黄濃度が第1閾値(硫黄濃度)Sth1以下であるときには、この硫黄濃度を示す単味炭が下部原料炭の候補となる。また、硫黄濃度が第2閾値(硫黄濃度)Sth2以上であるときには、この硫黄濃度を示す単味炭が上部原料炭の候補となる。
【0026】
上部原料炭又は下部原料炭として配合炭を用いるときには、まず、配合炭に含まれる各単味炭の硫黄濃度をJIS M8813の規定に準じて測定する。そして、配合炭に含まれる各単味炭の配合比率に基づいて、各単味炭の硫黄濃度を加重平均することにより、配合炭の硫黄濃度を求めることができる。この配合炭の硫黄濃度が第1閾値(硫黄濃度)Sth1以下であるときには、この硫黄濃度を示す配合炭が下部原料炭の候補となる。また、配合炭の硫黄濃度が第2閾値(硫黄濃度)Sth2以上であるときには、この硫黄濃度を示す配合炭が上部原料炭の候補となる。
【0027】
上述した第1閾値(硫黄濃度)Sth1及び第2閾値(硫黄濃度)Sth2は、適宜決めることができる。例えば、基準値(硫黄濃度)Srefを決めておき、基準値(硫黄濃度)Srefを基準として第1閾値(硫黄濃度)Sth1及び第2閾値(硫黄濃度)Sth2を決めることができる。
【0028】
第1閾値(硫黄濃度)Sth1としては、基準値(硫黄濃度)Srefから、基準値(硫黄濃度)SrefのN1%の値を減算した硫黄濃度とすることができる。また、第2閾値(硫黄濃度)Sth2としては、基準値(硫黄濃度)Srefに対して、基準値(硫黄濃度)SrefのN2%の値を加算した硫黄濃度とすることができる。すなわち、第1閾値(硫黄濃度)Sth1及び第2閾値(硫黄濃度)Sth2は、それぞれ下記式(3),(4)で表される。
【0029】
【数3】
【0030】
上記式(3),(4)において、N1及びN2のそれぞれは予め定められた所定値である。所定値N1,N2は、同じ値であってもよいし、互いに異なる値であってもよい。例えば、所定値N1,N2のそれぞれを10以上の値とすることができる。
【0031】
基準値(硫黄濃度)Srefの決定方法(一例)としては、コークス炉炭化室1に装入されるすべての原料炭(下部原料炭及び上部原料炭を含む)の平均硫黄濃度を基準値(硫黄濃度)Srefとすることができる。具体的には、まず、コークス炉炭化室1に装入されるすべての単味炭のそれぞれについて、JIS M8813の規定に準じて硫黄濃度を測定する。次に、コークス炉炭化室1に装入される各単味炭の配合比率に基づいて、各単味炭の硫黄濃度を加重平均し、この加重平均した値が基準値(硫黄濃度)Srefとなる。基準値(硫黄濃度)Srefを決定することにより、上記式(3),(4)に基づいて、第1閾値(硫黄濃度)Sth1及び第2閾値(硫黄濃度)Sth2を決めることができる。
【0032】
一方、原料炭における灰分の塩基性度Bは、特許文献1にも記載されているように、下記式(5)に基づいて求められる。
【0033】
【数4】
【0034】
上記式(5)において、[Fe]は、原料炭の灰分に含まれるFeの濃度[質量%]、[CaO]は、原料炭の灰分に含まれるCaOの濃度[質量%]、[MgO]は、原料炭の灰分に含まれるMgOの濃度[質量%]、[NaO]は、原料炭の灰分に含まれるNaOの濃度[質量%]、[KO]は、原料炭の灰分に含まれるKOの濃度[質量%]、[SiO]は、原料炭の灰分に含まれるSiOの濃度[質量%]、[Al]は、原料炭の灰分に含まれるAlの濃度[質量%]である。[Fe]、[CaO]、[MgO]、[NaO]、[KO]、[SiO]及び[Al]のそれぞれの濃度は、JIS M8815の規定に準じて測定することができる。
【0035】
上部原料炭又は下部原料炭として単味炭を用いるとき、この単味炭の塩基性度Bを求めれば、上記式(2)に示す条件を満たすか否かを判別することができる。ここで、上記式(2)に示す条件を満たす塩基性度Bc2を有する単味炭は、上部原料炭の候補となり、上記式(2)に示す条件を満たす塩基性度Bc1を有する単味炭は、下部原料炭の候補となる。
【0036】
上部原料炭又は下部原料炭として配合炭を用いるときには、まず、配合炭に含まれる各単味炭の塩基性度Bを求める。そして、配合炭に含まれる各単味炭の配合比率に基づいて、各単味炭の塩基性度Bを加重平均することにより、配合炭の塩基性度Bを求めることができる。このように配合炭の塩基性度Bを求めれば、上記式(2)に示す条件を満たすか否かを判別することができる。ここで、上記式(2)に示す条件を満たす塩基性度Bc2を有する配合炭は、上部原料炭の候補となり、上記式(2)に示す条件を満たす塩基性度Bc1を有する配合炭は、下部原料炭の候補となる。
【0037】
上記式(1),(2)に示す条件を満たすように下部原料炭及び上部原料炭をそれぞれ調整した後、まず、下部原料炭をコークス炉炭化室1に装入することにより、下部原料層LLが形成される。次に、上部原料炭をコークス炉炭化室1に装入することにより、下部原料層LLの上面に上部原料層ULが形成される。なお、図1に示すように、コークス炉炭化室1の内部に下部原料層LL及び上部原料層ULを形成することができればよく、下部原料炭及び上部原料炭を調整してからコークス炉炭化室1に装入するまでの方法は、適宜決めることができる。
【0038】
以下、下部原料炭及び上部原料炭を調整してからコークス炉炭化室1に装入するまでの方法について、2つの例を挙げて説明する。
【0039】
第1の装入方法としては、図2に示すように、まず、下部原料炭及び上部原料炭をそれぞれ調整し、これらの原料炭を原料炭塔10の2つのホッパー11,12に分けて入れる。次に、原料炭塔10から装入車ホッパー20に原料炭を供給するとき、まず、原料炭塔10のホッパー11から装入車ホッパー20に下部原料炭を供給し、次に、原料炭塔10のホッパー12から装入車ホッパー20に上部原料炭を供給する。これにより、装入車ホッパー20の内部では、下部原料炭の層と上部原料炭の層とが上下に形成される。
【0040】
次に、装入車(不図示)がコークス炉炭化室1の上部に移動した後、装入車ホッパー20の下部から原料炭を落下させることにより、コークス炉炭化室1に原料炭が装入される。装入車ホッパー20からコークス炉炭化室1には、下部原料炭及び上部原料炭の順に装入されるため、コークス炉炭化室1の内部では、図1に示す2層構造(下部原料層LL及び上部原料層UL)が形成される。
【0041】
第2の装入方法としては、図3に示すように、下部原料炭及び上部原料炭をそれぞれ調整した後、下部原料炭及び上部原料炭の順に原料炭塔のホッパー10aに入れる。これにより、原料炭塔のホッパー10aの内部では、下部原料炭の層と上部原料炭の層とが上下に形成される。次に、原料炭塔のホッパー10aの下部から装入車ホッパー20に原料炭を落下させる。ここで、原料炭塔のホッパー10aの下部からは、下部原料炭及び上部原料炭の順に落下するため、装入車ホッパー20の内部では、下部原料炭の層と上部原料炭の層とが上下に形成される。
【0042】
次に、装入車(不図示)がコークス炉炭化室1の上部に移動した後、装入車ホッパー20の下部から原料炭を落下させることにより、コークス炉炭化室1に原料炭が装入される。装入車ホッパー20からコークス炉炭化室1には、下部原料炭及び上部原料炭の順に装入されるため、コークス炉炭化室1の内部では、図1に示す2層構造(下部原料層LL及び上部原料層UL)が形成される。
【0043】
なお、コークス炉炭化室1に原料炭を挿入する方法は、上述した方法に限るものではない。例えば、第1の装入車ホッパーに下部原料炭を入れるとともに、第2の装入車ホッパーに上部原料炭を入れる。そして、第1の装入車ホッパーからコークス炉炭化室1に下部原料炭を装入した後、第2の装入車ホッパーからコークス炉炭化室1に上部原料炭を装入する。ここで、第1の装入車ホッパー及び第2の装入車ホッパーは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。同一の装入車ホッパーを用いる場合には、まず、装入車ホッパーに下部原料炭だけを入れて、コークス炉炭化室1に下部原料炭を装入する。この後、空となっている装入車ホッパーに上部原料炭だけを入れて、コークス炉炭化室1に上部原料炭を装入する。
【0044】
一方、図4に示すように、装入車ホッパーの内部を、垂直方向に延びる仕切り21によって、2つの空間に区画し、第1の区画空間に下部原料炭を入れ、第2の区画空間に上部原料炭を入れる。そして、装入車(不図示)がコークス炉炭化室1の上部に移動したとき、第1の区画空間からコークス炉炭化室1に下部原料炭を装入した後、第2の区画空間からコークス炉炭化室1に上部原料炭を装入する。これにより、コークス炉炭化室1の内部では、図1に示す2層構造(下部原料層LL及び上部原料層UL)が形成される。
【0045】
図1に示す2層構造の原料炭を乾留してコークスを製造することにより、コークス中の硫黄濃度を低減することができる。以下、コークス中の硫黄濃度を低減できる原理について説明する。
【0046】
原料炭の乾留時には原料炭中の硫黄がガス化し、硫黄ガスは、図1の矢印で示すように、原料炭と接触しながら上方に移動する。図1に示すスペースSに移動した硫黄ガスは、コークス炉炭化室1の上面1aに沿って移動して、上昇管1bに導かれる。
【0047】
特許文献1(段落[0009])に記載されているように、原料炭中の塩基性成分は硫黄ガスを固定するため、硫黄ガスが塩基性成分に接触するほど、硫黄ガスがコークス中に留まりやすくなり、コークス中の硫黄濃度が上昇しやすくなる。言い換えれば、硫黄ガスが塩基性成分に接触しにくくすれば、コークス中の硫黄濃度を低減することができる。本実施形態では、図1に示す2層構造とすることにより、コークス中の硫黄濃度を低減している。
【0048】
図1に示す2層構造として、上部原料層ULと下部原料層LLが同じ層厚の場合を例として説明する。上部原料層ULは、硫黄濃度Sc2が第2閾値(硫黄濃度)Sth2以上である上部原料炭によって構成されているため、上部原料炭からは、より多くの硫黄ガスが発生する。一方、下部原料層LLは、硫黄濃度Sc1が第1閾値(硫黄濃度)Sth1以下である下部原料炭によって構成されているため、下部原料炭から発生する硫黄ガスの量は、上部原料炭から発生する硫黄ガスの量よりも少ない。
【0049】
また、上部原料層ULにおける灰分の塩基性度Bc2は、上述したように下部原料層LLにおける灰分の塩基性度Bc1とほぼ同等か、それよりも低い。従って、上部原料層ULにおける上部原料炭の塩基性成分が硫黄ガスを固定する作用は、下部原料層LLにおける下部原料炭の塩基性成分が硫黄ガスを固定する作用とほぼ同等か、それよりも低い。
【0050】
ここで、上部原料層ULと下部原料層LLの灰分の塩基性度Bc2,Bc1がほぼ同等の場合(Bc1≒Bc2)、上部原料層ULは下部原料層LLの上方に位置しているため、上部原料炭から多く発生した硫黄ガスはスペースS(図1参照)に移動しやすくなり、上部原料炭から発生した硫黄ガスが原料炭(塩基性成分)と接触する時間は、下部原料炭から少なく発生した硫黄ガスが原料炭(塩基性成分)と接触する時間よりも短くなる。多く発生した硫黄ガスであっても、原料炭(塩基性成分)との接触時間が短いため、原料炭中の塩基性成分に硫黄ガスが固定されにくくなる。
【0051】
また、上部原料層ULの灰分の塩基性度Bc2が、下部原料層LLの灰分の塩基性度Bc1よりも低い場合(Bc2<Bc1)、上部原料炭から多く発生した硫黄ガスは、上部原料炭の塩基性成分に、より固定されにくくなる。
【0052】
このように、上部原料炭から多く発生した硫黄ガスであっても、原料炭との接触を低減させながら、より多くの硫黄ガスをスペースSに移動させることができる。一方、下部原料炭から発生した硫黄ガスについては、上部原料炭から発生した硫黄ガスと比べて、原料炭との接触時間が長くなるが、上述したように、下部原料炭の硫黄濃度Sc1を第1閾値(硫黄濃度)Sth1以下とすることにより、下部原料炭からの硫黄ガスの発生量を制限している。結果として、上部原料炭及び下部原料炭を分けることなく均一に混合した場合と比較すると、コークス炉炭化室1で製造されるコークス全体に着目したときに、原料炭の塩基性成分に固定される硫黄ガスの量を低減することができ、コークス中の硫黄濃度(言い換えれば、コークス炉炭化室1で製造されるコークス全体での平均硫黄濃度)を低減することができる。
【0053】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態(図1)と同様に、コークス炉炭化室1の内部に下部原料層LL及び上部原料層ULを形成している。第1実施形態では、下部原料炭及び上部原料炭における硫黄濃度Sc1,Sc2に主に着目しているが、本実施形態では、以下に説明するように、上部原料炭における灰分の塩基性度Bc2に主に着目している。
【0054】
上部原料炭における灰分の塩基性度Bc2は、予め定められた閾値(塩基性度)Bth以下である。また、上部原料炭における硫黄濃度Sc2は、下部原料炭における硫黄濃度Sc1とほぼ同等か、それよりも高くする。ここで、上記の「ほぼ同等」とは、上部原料炭における硫黄濃度Sc2が、下部原料炭における硫黄濃度Sc1より少し低くても許容されることを意味している。
【0055】
上述した点をまとめると、下部原料炭及び上部原料炭のそれぞれは、下記式(6),(7)に示す条件を満足する。なお、上記の硫黄濃度Sc2の許容される値は、原料炭が均一に混合された配合炭を乾留して得られるコークスの硫黄濃度Sb(質量%)をベースとして、配合炭全体としての性状は同じで、上部原料炭と下部原料炭の2層構造とした配合炭を乾留して得られるコークスの硫黄濃度Se(質量%)の低減代(ΔS=Sb-Se)が0.01(質量%)以上となる様に、設定することができる。ここで、下部原料炭における硫黄濃度Sc1に対して、許容される硫黄濃度Sc2も含めた大小関係は、下記式(7)に示すように、定数βを含む式として規定することができる。定数βと低減代ΔSとの関係は、過去の操業実績等から求めることができ、低減代ΔSが0.01(質量%)以上となるときの定数βを適宜決めることができる。例えば、定数βを0.0以上0.2以下の値とすることができる。
【0056】
【数5】
【0057】
下部原料炭及び上部原料炭のそれぞれは、単味炭であってもよいし、配合炭であってもよい。下部原料炭及び上部原料炭は、上記式(6),(7)に示す条件を満たすように、コークス炉炭化室1への装入対象となる複数種類の原料炭から調整(選別)される。
【0058】
上部原料炭又は下部原料炭として単味炭を用いるとき、この単味炭の塩基性度Bを求めれば、この塩基性度Bが閾値(塩基性度)Bth以下であるかを判別することができる。塩基性度Bが閾値(塩基性度)Bth以下であるときには、この塩基性度Bを示す単味炭が上部原料炭の候補となる。
【0059】
上部原料炭又は下部原料炭として配合炭を用いるときには、まず、配合炭に含まれる各単味炭の塩基性度Bを求める。そして、配合炭に含まれる各単味炭の配合比率に基づいて、各単味炭の塩基性度Bを加重平均することにより、配合炭の塩基性度Bを求めることができる。配合炭の塩基性度Bが閾値(塩基性度)Bth以下であるときには、この塩基性度Bを示す配合炭が上部原料炭の候補となる。
【0060】
上述した閾値(塩基性度)Bthは、適宜決めることができる。例えば、基準値(塩基性度)Brefを決めておき、基準値(塩基性度)Brefを基準として閾値(塩基性度)Bthを決めることができる。
【0061】
閾値(塩基性度)Bthとしては、基準値(塩基性度)Brefから、基準値(塩基性度)BrefのM%の値を減算した塩基性度とすることができる。すなわち、閾値(塩基性度)Bthは、下記式(8)で表される。
【0062】
【数6】
【0063】
上記式(8)において、Mは予め定められた所定値である。例えば、所定値Mを10以上の値とすることができる。
【0064】
基準値(塩基性度)Brefの決定方法(一例)としては、コークス炉炭化室1に装入されるすべての原料炭(下部原料炭及び上部原料炭を含む)の平均塩基性度を基準値(塩基性度)Brefとすることができる。具体的には、まず、コークス炉炭化室1に装入されるすべての単味炭のそれぞれについて、塩基性度Bを求める。次に、コークス炉炭化室1に装入される各単味炭の配合比率に基づいて、各単味炭の塩基性度Bを加重平均し、この加重平均した値が基準値(塩基性度)Brefとなる。基準値(塩基性度)Brefを決定することにより、上記式(8)に基づいて、閾値(塩基性度)Bthを決めることができる。
【0065】
一方、上部原料炭又は下部原料炭として単味炭を用いるとき、この単味炭の硫黄濃度を求めれば、上記式(7)に示す条件を満たすか否かを判別することができる。ここで、上記式(7)に示す条件を満たす硫黄濃度Sc2を有する単味炭は、上部原料炭の候補となり、上記式(7)に示す条件を満たす硫黄濃度Sc1を有する単味炭は、下部原料炭の候補となる。
【0066】
上部原料炭又は下部原料炭として配合炭を用いるときには、まず、配合炭に含まれる各単味炭の硫黄濃度を求める。そして、配合炭に含まれる各単味炭の配合比率に基づいて、各単味炭の硫黄濃度を加重平均することにより、配合炭の硫黄濃度を求めることができる。このように配合炭の硫黄濃度を求めれば、上記式(7)に示す条件を満たすか否かを判別することができる。ここで、上記式(7)に示す条件を満たす硫黄濃度Sc2を有する配合炭は、上部原料炭の候補となり、上記式(7)に示す条件を満たす硫黄濃度Sc1を有する配合炭は、下部原料炭の候補となる。
【0067】
上記式(6),(7)に示す条件を満たすように下部原料炭及び上部原料炭をそれぞれ調整した後、まず、下部原料炭をコークス炉炭化室1に装入することにより、下部原料層LLが形成される。次に、上部原料炭をコークス炉炭化室1に装入することにより、下部原料層LLの上面に上部原料層ULが形成される。なお、図1に示すように、コークス炉炭化室1の内部に下部原料層LL及び上部原料層ULを形成することができればよく、下部原料炭及び上部原料炭を調整してからコークス炉炭化室1に装入するまでの方法は、第1実施形態で説明したとおりであり、適宜決めることができる。
【0068】
図1に示す2層構造の原料炭を乾留してコークスを製造することにより、コークス中の硫黄濃度を低減することができる。以下、コークス中の硫黄濃度を低減できる原理について説明する。
【0069】
第1実施形態で説明したように、原料炭中の塩基性成分は硫黄ガスを固定するため、硫黄ガスと接触する原料炭の塩基性度Bが高いほど、硫黄ガスがコークス中に留まりやすくなり、コークス中の硫黄濃度が上昇しやすくなる。言い換えれば、硫黄ガスが塩基性成分に接触しにくくすれば、コークス中の硫黄濃度を低減することができる。本実施形態では、図1に示す2層構造とすることにより、コークス中の硫黄濃度を低減している。
【0070】
図1に示す2層構造として、上部原料層ULと下部原料層LLが同じ層厚で、かつ、硫黄濃度がほぼ同等である場合(Sc1≒Sc2)を例として説明する。上部原料層ULは、塩基性度Bc2が閾値(塩基性度)Bth以下である上部原料炭によって構成されているため、硫黄ガスが上部原料炭に接触しても、塩基性成分に固定されにくくなる。ここで、上部原料層ULを通過する硫黄ガスは、上部原料層ULから発生する硫黄ガスと、下部原料層LLから発生する硫黄ガスの両方であるものの、上部原料層ULにおける上部原料炭の塩基性成分に固定されにくいため、図1に示すスペースSに移動しやすくなる。一方、下部原料層LLでは、下部原料炭から発生した硫黄ガスのみが、下部原料炭と接触するだけであるため、上部原料層ULと比較すると硫黄ガスが下部原料炭の塩基性成分に固定される影響が小さい。このため、下部原料炭の塩基性度Bc1は特に規定されない。
【0071】
上部原料炭における硫黄濃度Sc2が下部原料炭における硫黄濃度Sc1より高い場合(Sc2>Sc1)でも、上部原料層ULにおける上部原料炭の塩基性度Bc2が閾値(塩基性度)Bth以下であるため、上部原料炭から発生した硫黄ガスは、上部原料炭の塩基性成分に固定されにくい。また、下部原料炭における硫黄濃度Sc1は上部原料炭における硫黄濃度Sc2よりも低くなるため、下部原料炭からの硫黄ガスの発生量が少なくなり、この硫黄ガスが下部原料炭の塩基性成分に固定される影響が小さい。このため、下部原料炭の塩基性度Bc1は特に規定されない。
【0072】
結果として、上部原料炭及び下部原料炭を分けることなく均一に混合した場合と比較すると、コークス炉炭化室1で製造されるコークス全体に着目したときに、原料炭の塩基性成分に固定される硫黄ガスの量を低減することができ、コークス中の硫黄濃度(言い換えれば、コークス炉炭化室1で製造されるコークス全体での平均硫黄濃度)を低減することができる。
【0073】
(第3実施形態)
本実施形態では、第1実施形態(図1)と同様に、コークス炉炭化室1の内部に下部原料層LL及び上部原料層ULを形成している。下部原料層LLを構成する下部原料炭の硫黄濃度Sc1が第1閾値(硫黄濃度)Sth1以下であるとともに、上部原料層ULを構成する上部原料炭の硫黄濃度Sc2が第2閾値(硫黄濃度)Sth2以上である。また、上部原料層ULを構成する上部原料炭の灰分の塩基性度Bc2が閾値(塩基性度)Bth以下である。第1閾値(硫黄濃度)Sth1及び第2閾値(硫黄濃度)Sth2は、第1実施形態で説明したとおりであり、閾値(塩基性度)Bthは、第2実施形態で説明したとおりである。
【0074】
本実施形態では、上部原料炭及び下部原料炭のそれぞれについて、第1実施形態で説明した上記式(1)に示す条件と、第2実施形態で説明した上記式(6)に示す条件の両方を満たすようにしている。これにより、第1実施形態及び第2実施形態で説明した効果を発揮させることができ、コークス中の硫黄濃度を低減することができる。
【実施例
【0075】
(比較例)
比較例では、複数種類の原料炭を均一に混合して配合炭を調整し、この配合炭をコークス炉炭化室1に装入した。このため、コークス炉炭化室1の内部では、複数種類の原料炭が均一に混合された配合炭によって1つの層が構成されている。
【0076】
配合炭については、揮発分が28.5[質量%]であり、硫黄濃度が0.660[質量%]であり、灰分の塩基性度Bが0.150[-]であった。揮発分は、JIS M8812の規定に準じて測定し、硫黄濃度は、JIS M8813の規定に準じて測定した。また、塩基性度Bは、上記式(5)に基づいて算出した。配合炭の揮発分、硫黄濃度及び塩基性度Bの測定方法は、以下に説明する実施例1~8でも同様である。
【0077】
上述した配合炭を乾留してコークスを製造し、このコークスについて、硫黄濃度及び硫黄残留率を測定した。硫黄濃度は、JIS M8813の規定に準じて測定し、硫黄残留率は、下記式(9)に基づいて算出した。コークスの硫黄濃度及び硫黄残留率の測定方法は、以下に説明する実施例1~8でも同様である。
【0078】
【数7】
【0079】
上記式(9)において、Rsは硫黄残留率[質量%]であり、Scokeは、コークス中に残存する全硫黄量であり、Scoalは、配合炭中に含有する全硫黄量である。また、[Scoke]は、コークス中の硫黄濃度であり、[Scoal]は、配合炭中の硫黄濃度であり、Rcはコークス歩留[%]である。
【0080】
(実施例1)
実施例1(第1実施形態に対応する実施例)では、上部原料炭として、硫黄濃度Sc2が0.726[質量%]である配合炭を用い、下部原料炭として、硫黄濃度Sc1が0.594[質量%]である配合炭を用いた。上部原料炭の硫黄濃度Sc2(0.762)は、比較例の原料炭の硫黄濃度(0.660)に、この硫黄濃度(0.660)の10%の値を加算した硫黄濃度(第1実施形態で説明した第2閾値(硫黄濃度)Sth2)である。下部原料炭の硫黄濃度Sc1(0.594)は、比較例の原料炭の硫黄濃度(0.660)から、この硫黄濃度(0.660)の10%の値を減算した硫黄濃度(第1実施形態で説明した第1閾値(硫黄濃度)Sth1)である。
【0081】
ここで、比較例の原料炭の硫黄濃度は、第1実施形態で説明した基準値(硫黄濃度)Srefに相当する。また、上記式(3),(4)に示す所定値N1,N2は、それぞれ10である。
【0082】
上部原料層UL及び下部原料層LLを含む原料層全体の硫黄濃度が比較例の硫黄濃度(0.660)と等しくなるように、上部原料層UL及び下部原料層LLのそれぞれの層厚を設定した。具体的には、上部原料層UL及び下部原料層LLを含む原料層全体の層厚を1[-]としたとき、上部原料層ULの層厚を0.50[-]とし、下部原料層LLの層厚を0.50[-]とした。ここで、下部原料層LL及び上部原料層ULの層厚の比率に基づいて、下部原料炭及び上部原料炭のそれぞれの硫黄濃度Sc1,Sc2を加重平均した値は、0.660(比較例の硫黄濃度)となる。なお、上部原料炭及び下部原料炭のそれぞれにおける揮発分及び灰分の塩基性度は、比較例と同一に調整した。
【0083】
上述した2層構造の原料炭を乾留してコークスを製造したところ、コークスの硫黄残留率Rsが57.8[質量%]であり、比較例の硫黄残留率Rsよりも低下した。また、コークスの硫黄濃度が0.55[質量%]であり、比較例の硫黄濃度よりも低下した。
【0084】
(実施例2)
実施例2(第1実施形態に対応する実施例)では、上部原料炭として、硫黄濃度Sc2が0.860[質量%]である配合炭を用い、下部原料炭として、硫黄濃度Sc1が0.460[質量%]である配合炭を用いた。上部原料炭の硫黄濃度Sc2(0.860)は、実施例1の上部原料炭の硫黄濃度Sc2(0.726、第2閾値(硫黄濃度)Sth2に相当する)よりも高くした。下部原料炭の硫黄濃度Sc1(0.460)は、実施例1の下部原料炭の硫黄濃度Sc1(0.594、第1閾値(硫黄濃度)Sth1に相当する)よりも低くした。
【0085】
上部原料層UL及び下部原料層LLを含む原料層全体の硫黄濃度が比較例の硫黄濃度(0.660)と等しくなるように、上部原料層UL及び下部原料層LLのそれぞれの層厚を設定した。具体的には、上部原料層UL及び下部原料層LLを含む原料層全体の層厚を1[-]としたとき、上部原料層ULの層厚を0.50[-]とし、下部原料層LLの層厚を0.50[-]とした。ここで、下部原料層LL及び上部原料層ULの層厚の比率に基づいて、下部原料炭及び上部原料炭のそれぞれの硫黄濃度Sc1,Sc2を加重平均した値は、0.660(比較例の硫黄濃度)となる。なお、上部原料炭及び下部原料炭のそれぞれにおける揮発分及び灰分の塩基性度は、比較例と同一に調整した。
【0086】
上述した2層構造の原料炭を乾留してコークスを製造したところ、コークスの硫黄残留率Rsが55.2[質量%]であり、比較例の硫黄残留率Rsよりも低下した。また、コークスの硫黄濃度が0.53[質量%]であり、比較例の硫黄濃度よりも低下した。
【0087】
(実施例3)
実施例3(第1実施形態に対応する実施例)では、上部原料炭として、硫黄濃度Sc2が1.127[質量%]である配合炭を用い、下部原料炭として、硫黄濃度Sc1が0.460[質量%]である配合炭を用いた。上部原料炭の硫黄濃度Sc2(1.127)は、実施例2の上部原料炭の硫黄濃度Sc2(0.860)よりも高くした。下部原料炭の硫黄濃度Sc1(0.460)は、実施例2の下部原料炭の硫黄濃度Sc1(0.460)と等しくした。
【0088】
上部原料層UL及び下部原料層LLを含む原料層全体の硫黄濃度が比較例の硫黄濃度(0.660)と等しくなるように、上部原料層UL及び下部原料層LLのそれぞれの層厚を設定した。具体的には、上部原料層UL及び下部原料層LLを含む原料層全体の層厚を1[-]としたとき、上部原料層ULの層厚を0.30[-]とし、下部原料層LLの層厚を0.70[-]とした。ここで、下部原料層LL及び上部原料層ULの層厚の比率に基づいて、下部原料炭及び上部原料炭のそれぞれの硫黄濃度Sc1,Sc2を加重平均した値は、0.660(比較例の硫黄濃度)となる。なお、上部原料炭及び下部原料炭のそれぞれにおける揮発分及び灰分の塩基性度は、比較例と同一に調整した。
【0089】
上述した2層構造の原料炭を乾留してコークスを製造したところ、コークスの硫黄残留率Rsが53.7[質量%]であり、比較例の硫黄残留率Rsよりも低下した。また、コークスの硫黄濃度が0.52[質量%]であり、比較例の硫黄濃度よりも低下した。
【0090】
(実施例4)
実施例4(第1実施形態に対応する実施例)では、上部原料炭として、硫黄濃度Sc2が2.460[質量%]である配合炭を用い、下部原料炭として、硫黄濃度Sc1が0.460[質量%]である配合炭を用いた。上部原料炭の硫黄濃度Sc2(2.460)は、実施例3の上部原料炭の硫黄濃度Sc2(1.127)よりも高くした。下部原料炭の硫黄濃度Sc1(0.460)は、実施例3の下部原料炭の硫黄濃度Sc1(0.460)と等しくした。
【0091】
上部原料層UL及び下部原料層LLを含む原料層全体の硫黄濃度が比較例の硫黄濃度(0.660)と等しくなるように、上部原料層UL及び下部原料層LLのそれぞれの層厚を設定した。具体的には、上部原料層UL及び下部原料層LLを含む全体の層厚を1[-]としたとき、上部原料層ULの層厚を0.10[-]とし、下部原料層LLの層厚を0.90[-]とした。ここで、下部原料層LL及び上部原料層ULの層厚の比率に基づいて、下部原料炭及び上部原料炭のそれぞれの硫黄濃度Sc1,Sc2を加重平均した値は、0.660(比較例の硫黄濃度)となる。なお、上部原料炭及び下部原料炭のそれぞれにおける揮発分及び灰分の塩基性度は、比較例と同一に調整した。
【0092】
上述した2層構造の原料炭を乾留してコークスを製造したところ、コークスの硫黄残留率Rsが52.2[質量%]であり、比較例の硫黄残留率Rsよりも低下した。また、コークスの硫黄濃度が0.50[質量%]であり、比較例の硫黄濃度よりも低下した。
【0093】
(実施例5)
実施例5(第1実施形態に対応する実施例)では、上部原料炭として、硫黄濃度Sc2が7.200[質量%]である配合炭を用い、下部原料炭として、硫黄濃度Sc1が0.594[質量%]である配合炭を用いた。上部原料炭の硫黄濃度Sc2(7.200)は、実施例4の上部原料炭の硫黄濃度Sc2(2.460)よりも高くした。下部原料炭の硫黄濃度Sc1(0.594)は、実施例4の下部原料炭の硫黄濃度Sc1(0.460)よりも高くして第1閾値(硫黄濃度)Sth1と等しくした。
【0094】
上部原料層UL及び下部原料層LLを含む原料層全体の硫黄濃度が比較例の硫黄濃度(0.660)と等しくなるように、上部原料層UL及び下部原料層LLのそれぞれの層厚を設定した。具体的には、上部原料層UL及び下部原料層LLを含む全体の層厚を1[-]としたとき、上部原料層ULの層厚を0.01[-]とし、下部原料層LLの層厚を0.99[-]とした。ここで、下部原料層LL及び上部原料層ULの層厚の比率に基づいて、下部原料炭及び上部原料炭のそれぞれの硫黄濃度Sc1,Sc2を加重平均した値は、0.660(比較例の硫黄濃度)となる。なお、上部原料炭及び下部原料炭のそれぞれにおける揮発分及び灰分の塩基性度は、比較例と同一に調整した。
【0095】
上述した2層構造の原料炭を乾留してコークスを製造したところ、コークスの硫黄残留率Rsが57.4[質量%]であり、比較例の硫黄残留率Rsよりも低下した。また、コークスの硫黄濃度が0.55[質量%]であり、比較例の硫黄濃度よりも低下した。
【0096】
(実施例6)
実施例6(第2実施形態に対応する実施例)では、上部原料炭として、灰分の塩基性度Bc2が0.135[-]である配合炭を用い、下部原料炭として、灰分の塩基性度Bc1が0.165[-]である配合炭を用いた。上部原料炭の塩基性度Bc2(0.135)は、比較例の原料炭の塩基性度(0.150)から、この硫黄濃度(0.150)の10%の値を減算した硫黄濃度(第2実施形態で説明した閾値(塩基性度)Bth)である。
【0097】
ここで、比較例の原料炭の塩基性度は、第2実施形態で説明した基準値(塩基性度)Brefに相当する。また、上記式(8)に示す所定値Mは10である。
【0098】
上部原料層UL及び下部原料層LLを含む原料層全体の塩基性度が比較例の塩基性度(0.150)と等しくなるように、上部原料層UL及び下部原料層LLのそれぞれの層厚を設定した。具体的には、上部原料層UL及び下部原料層LLを含む全体の層厚を1[-]としたとき、上部原料層ULの層厚を0.50[-]とし、下部原料層LLの層厚を0.50[-]とした。ここで、下部原料層LL及び上部原料層ULの層厚の比率に基づいて、下部原料炭及び上部原料炭のそれぞれの塩基性度Bc1,Bc2を加重平均した値は、0.150(比較例の塩基性度)となる。なお、上部原料炭及び下部原料炭のそれぞれにおける揮発分及び硫黄濃度は、比較例と同一に調整した。
【0099】
上述した2層構造の原料炭を乾留してコークスを製造したところ、コークスの硫黄残留率Rsが57.8[質量%]であり、比較例の硫黄残留率Rsよりも低下した。また、コークスの硫黄濃度が0.55[質量%]であり、比較例の硫黄濃度よりも低下した。
【0100】
(実施例7)
実施例7(第2実施形態に対応する実施例)では、上部原料炭として、灰分の塩基性度Bc2が0.100[質量%]である配合炭を用い、下部原料炭として、灰分の塩基性度Bc1が0.200[質量%]である配合炭を用いた。上部原料炭の塩基性度Bc2(0.100)は、実施例6の上部原料炭の塩基性度Bc2(0.135、閾値(塩基性度)Bthに相当する)よりも低くした。下部原料炭の塩基性度Bc1(0.200)は、実施例6の下部原料炭の塩基性度Bc1(0.165)よりも高くした。
【0101】
上部原料層UL及び下部原料層LLを含む原料層全体の塩基性度が比較例の塩基性度(0.150)と等しくなるように、上部原料層UL及び下部原料層LLのそれぞれの層厚を設定した。具体的には、上部原料層UL及び下部原料層LLを含む全体の層厚を1[-]としたとき、上部原料層ULの層厚を0.50[-]とし、下部原料層LLの層厚を0.50[-]とした。ここで、下部原料層LL及び上部原料層ULの層厚の比率に基づいて、下部原料炭及び上部原料炭のそれぞれの塩基性度Bc1,Bc2を加重平均した値は、0.150(比較例の塩基性度)となる。なお、上部原料炭及び下部原料炭のそれぞれにおける揮発分及び硫黄濃度は、比較例と同一に調整した。
【0102】
上述した2層構造の原料炭を乾留してコークスを製造したところ、コークスの硫黄残留率Rsが53.8[質量%]であり、比較例の硫黄残留率Rsよりも低下した。また、コークスの硫黄濃度が0.52[質量%]であり、比較例の硫黄濃度よりも低下した。
【0103】
(実施例8)
実施例8(第3実施形態に対応する実施例)では、上部原料炭として、硫黄濃度Sc2が0.760[質量%]であり、灰分の塩基性度Bc2が0.130[-]である配合炭を用いた。上部原料炭について、硫黄濃度Sc2(0.760)は、実施例1の上部原料炭の硫黄濃度Sc2(0.726)よりも高くし、塩基性度Bc2(0.130)は、実施例6の上部原料炭の塩基性度Bc2(0.135)よりも低くした。
【0104】
下部原料炭として、硫黄濃度Sc1が0.560[質量%]であり、灰分の塩基性度Bc1が0.170[-]である配合炭を用いた。下部原料炭について、硫黄濃度Sc1(0.560)は、実施例1の下部原料炭の硫黄濃度Sc1(0.594)よりも低くし、塩基性度Bc1(0.170)は、実施例6の下部原料炭の塩基性度Bc1(0.165)よりも高くした。
【0105】
上部原料層UL及び下部原料層LLを含む原料層全体の硫黄濃度が比較例の硫黄濃度(0.660)と等しいとともに、上部原料層UL及び下部原料層LLを含む原料層全体の塩基性度が比較例の塩基性度(0.150)と等しくなるように、上部原料層UL及び下部原料層LLのそれぞれの層厚を設定した。具体的には、上部原料層UL及び下部原料層LLを含む全体の層厚を1[-]としたとき、上部原料層ULの層厚を0.50[-]とし、下部原料層LLの層厚を0.50[-]とした。
【0106】
ここで、下部原料層LL及び上部原料層ULの層厚の比率に基づいて、下部原料炭及び上部原料炭のそれぞれの硫黄濃度Sc1,Sc2を加重平均した値は、0.660(比較例の硫黄濃度)となる。また、下部原料層LL及び上部原料層ULの層厚の比率に基づいて、下部原料炭及び上部原料炭のそれぞれの塩基性度Bc1,Bc2を加重平均した値は、0.150(比較例の塩基性度)となる。なお、上部原料炭及び下部原料炭のそれぞれにおける揮発分は、比較例と同一に調整した。
【0107】
上述した2層構造の原料炭を乾留してコークスを製造したところ、コークスの硫黄残留率Rsが55.0[質量%]であり、比較例の硫黄残留率Rsよりも低下した。また、コークスの硫黄濃度が0.53[質量%]であり、比較例の硫黄濃度よりも低下した。
【0108】
上述した比較例及び実施例1~8の結果を下記表1にまとめた。下記表1に示す平均値は、下部原料層LL及び上部原料層ULの層厚の比率に基づいて、下部原料炭及び上部原料炭のそれぞれのパラメータ(揮発分、硫黄濃度、塩基性度)を加重平均した値である。
【0109】
【表1】
【符号の説明】
【0110】
1:コークス炉炭化室、1a:上面、1b:上昇管、10:原料炭塔、
10a:ホッパー(原料炭塔)、11,12:ホッパー(原料炭塔)、
20:装入車ホッパー、21:仕切り、UL:上部原料層、LL:下部原料層、
S:スペース
図1
図2
図3
図4