(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】鋼板の製造方法、鋼管の製造方法、鋼板製造装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B21C 51/00 20060101AFI20231206BHJP
B21B 1/38 20060101ALI20231206BHJP
B21B 38/00 20060101ALI20231206BHJP
B21D 1/05 20060101ALI20231206BHJP
C21D 7/06 20060101ALI20231206BHJP
G01N 27/80 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B21C51/00 P
B21B1/38 A
B21B38/00 F
B21D1/05 E
C21D7/06 A
G01N27/80
(21)【出願番号】P 2020076695
(22)【出願日】2020-04-23
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】山本 龍司
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕久
(72)【発明者】
【氏名】宮本 充
(72)【発明者】
【氏名】鈴間 俊之
(72)【発明者】
【氏名】山野 正樹
(72)【発明者】
【氏名】宮田 修宏
(72)【発明者】
【氏名】石塚 裕也
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-042807(JP,A)
【文献】特開2019-112673(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221894(WO,A1)
【文献】特開2008-224494(JP,A)
【文献】特開昭59-147253(JP,A)
【文献】特開平09-057348(JP,A)
【文献】特開2017-164808(JP,A)
【文献】特開2004-283878(JP,A)
【文献】特開2013-139628(JP,A)
【文献】特開2012-241273(JP,A)
【文献】特開2012-077331(JP,A)
【文献】特開平08-090067(JP,A)
【文献】特開平06-246637(JP,A)
【文献】特開2012-232355(JP,A)
【文献】特開2014-092867(JP,A)
【文献】特開平10-128665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 51/00
C21D 7/06
B24C 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラブを制御圧延する圧延工程と、
前記圧延工程で制御圧延された鋼板を、制御冷却する冷却工程と、
前記冷却工程で制御冷却された前記鋼板の少なくとも一部の表面に、ブラスト材を衝突させて、前記表面を含む前記鋼板の表層の応力状態を調整するショットブラスト工程と、
前記鋼板の前記ショットブラスト工程が実施された前記表面の硬度を測定する硬度測定工程と、
前記硬度測定工程の測定結果に基づいて、硬度が予め設定された閾値を超える部位を硬度不良部位と判定する硬度判定工程と、
前記硬度不良部位を除去する除去工程とを備える鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記硬度測定工程では、前記表面の電磁気特性を測定することによって前記表面の硬度を測定する請求項1に記載の鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記ショットブラスト工程では、前記ブラスト材から前記鋼板の前記表面に与えられる衝突エネルギー密度が40MJ/(m
2・分)以上で、累積衝突エネルギーが1100MJ/m
2以上である請求項1または請求項2に記載の鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記冷却工程と前記硬度測定工程との間で実施され、前記鋼板を繰り返し塑性変形することで、前記鋼板の表面を含む前記鋼板の表層の応力状態を調整する塑性変形工程を備える請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記鋼板は鋼管の素材として用いられ、
前記ショットブラスト工程、前記硬度測定工程、前記硬度判定工程及び前記除去工程は、前記鋼管の内面となる部分について実施する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の鋼板の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の鋼板の製造方法で製造された鋼板をU字状にプレス加工する第一のプレス工程と、
前記第一のプレス工程で加工された前記鋼板をO字状にプレス加工する第二のプレス工程と、
前記第二のプレス工程で加工された前記鋼板の端部同士を溶接する溶接工程とを備える鋼管の製造方法。
【請求項7】
スラブを制御圧延する圧延部と、
前記圧延部で制御圧延された鋼板を、制御冷却する冷却部と、
前記冷却部で制御冷却された前記鋼板の少なくとも一部の表面に、ブラスト材を衝突させて、前記表面を含む前記鋼板の表層の応力状態を調整するショットブラスト部と、
前記鋼板の前記ショットブラスト部によってショットブラストされた前記表面の硬度を測定する硬度測定部と、
前記硬度測定部の測定結果に基づいて、硬度が予め設定された閾値を超える部位を硬度不良部位と判定する硬度判定部とを備える鋼板製造装置。
【請求項8】
コンピュータを、
スラブを制御圧延及び制御冷却することで生成された鋼板のうち、ブラスト材を衝突させて表層の応力状態が調整された表面に対して測定された電磁気特性から、当該表面の硬度を演算する硬度演算手段、
前記硬度演算手段によって演算された硬度に基づいて硬度が予め設定された閾値を越える部位を硬度不良と判定する硬度判定手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の製造方法、鋼管の製造方法、鋼板製造装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、硫化水素環境下に晒される鋼板及び鋼板により製造された鋼製品では、硫化物腐食割れ(SSC:Sulfide Stress Cracking)が問題となっている。SSCは、硫化水素などの硫化物にさらされる鋼板の表層において、予め定められた硬度の上限値よりも硬度の高い表層硬化部が起点となって発生することが明らかとなっている。また、鋼板の強度が不足すると、鋼板の表層においては予め定められた硬度の下限値よりも硬度の低い表層軟化部が起点となって鋼板の破断が発生してしまう場合がある。このため、製造段階において、このような表層硬化部や表層軟化部(以下、表層硬化部および表層軟化部を総称して表層硬度変化部という)を硬度の測定により検出して、表層硬度変化部が存在しない鋼板、及び、鋼板を用いた鋼製品を製造することが求められている。
【0003】
鋼板の表層の硬度を測定する方法としては、例えば鋼板の表層の電磁気特性を測定する方法が知られている。例えば、特許文献1に記載する技術では、このような電磁気特性が鋼板の硬度に対して対応関係を示す一方、簡単な分析的な解決を不可能とするように変動することから、複数の電磁気特性によって鋼板の硬度を概算する方法が提案されている。具体的には、特許文献1に記載する技術では、各電磁気特性に関して、類似の化学組成を有する複数の鋼試料の硬度および電磁気特性を測定し、これら測定値をデータバンク内に、各々測定された電磁気特性に対する硬度の量子化された複数の組分け中に記憶する。そして、硬度を概算すべき鋼の複数の電磁気特性を測定し、データバンク内に記憶された量子化された組分けと比較して、測定された電磁気特性が入る量子化された組分けを決定した後に、それぞれの電磁気特性で組分けされた結果を比較することで硬度を概算している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、それぞれの電磁気特性値において、あくまでも組分けを決定することに限られており、複数の電磁気特性値で得られた組分けから確からしい硬度を概算することができるにすぎなかった。このため、必ずしも硬度以外の影響によって電磁気特性値が変化した場合を控除できているわけではなく、確実に硬度以外の影響を控除して硬度が変化した部分を検出し、硬度が品質上問題となる部分が存在しない鋼板を製造する技術が求められていた。
【0006】
そこで、この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、対象となる表面において、硬度が品質上問題となる部分を抑制した鋼板を製造することが可能な鋼板の製造方法、鋼管の製造方法、鋼板の製造装置、及びプログラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、様々な鋼種の鋼材に対して、様々な条件の下、鋼材の表層の性状によって変化するパラメータを測定した。その結果、発明者らは、測定されるパラメータが、表層の硬度に依存するとともに、表層の応力状態にも依存することを見出した。また、制御圧延、制御冷却により製造された鋼板の表層には、残留応力が存在し、箇所によって応力状態が不均一であることが判明した。すなわち、硬度を正確に測定して硬度が品質上問題となる部分を正確に把握して対処するためには、鋼板の表層の応力状態の不均一さを解消する必要があるとの知見に至った。
【0008】
本知見に基づいて、上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用している。すなわち、本発明の一態様に係る鋼板の製造方法は、スラブを制御圧延する圧延工程と、前記圧延工程で制御圧延された鋼板を、制御冷却する冷却工程と、前記冷却工程で制御冷却された前記鋼板の少なくとも一部の表面に、ブラスト材を衝突させて、前記表面を含む前記鋼板の表層の応力状態を調整するショットブラスト工程と、前記鋼板の前記ショットブラスト工程が実施された前記表面の硬度を測定する硬度測定工程と、前記硬度測定工程の測定結果に基づいて、硬度が予め設定された閾値を超える部位を硬度不良部位と判定する硬度判定工程と、前記硬度不良部位を除去する除去工程とを備える。
【0009】
この方法によれば、圧延工程及び冷却工程が実施された鋼板に対して、ショットブラスト工程において対象となる表面にブラスト材を衝突させる。これにより、対象となる表面を含む鋼板の表層では、冷却工程後に箇所によって残留応力が異なる応力が不均一な状態であったとしても、応力が不均一な状態を解消することができる。そして、硬度測定工程において、ショットブラスト工程で応力状態の不均一さを解消した状態で対象となる表面に対して硬度を測定することで、応力の影響を抑制して正確に硬度を測定することができる。このため、硬度判定工程では、正確に測定された硬度に基づいて硬度不良部位を正確に判定し、除去工程において硬度不良部位を確実に除去することができる。
【0010】
また、上記の鋼板の製造方法において、前記硬度測定工程では、前記表面の電磁気特性を測定することによって前記表面の硬度を測定するものとしても良い。
【0011】
この方法によれば、硬度測定工程で、鋼板の表面に損傷を与えることなく、また、応力の状態の影響を受けることなく、正確に硬度を測定することができる。
【0012】
また、上記の鋼板の製造方法において、前記ショットブラスト工程では、前記ブラスト材から前記鋼板の前記表面に与えられる衝突エネルギー密度が40MJ/(m2・分)以上で、累積衝突エネルギーが1100MJ/m2以上であるものとしても良い。
【0013】
この方法によれば、衝突エネルギー密度及び累積衝突エネルギーを上記数値範囲とすることで、対象となる表面を含む鋼板の表層の応力状態をより一層均一化することができる。
【0014】
また、上記の鋼板の製造方法において、前記冷却工程と前記硬度測定工程との間で実施され、前記鋼板を繰り返し塑性変形することで、前記鋼板の表面を含む前記鋼板の表層の応力状態を調整する塑性変形工程を備えるものとしても良い。
【0015】
この方法によれば、冷却工程と硬度測定工程との間で塑性変形工程を実施することで、対象となる表面を含む鋼板の表層の応力状態をより一層均一化することができる。
【0016】
また、上記の鋼板の製造方法において、前記鋼板は鋼管の素材として用いられ、前記ショットブラスト工程、前記硬度測定工程、前記硬度判定工程及び前記除去工程は、前記鋼管の内面となる部分について実施するものとしても良い。
【0017】
この方法によれば、内部を流通する流体による腐食が懸念される鋼管の内面部分について腐食の影響を受けやすい硬度不良部位が抑制された鋼管を製造することができる。
【0018】
また、上記の鋼管の製造方法において、鋼板の製造方法で製造された鋼板をU字状にプレス加工する第一のプレス工程と、前記第一のプレス工程で加工された前記鋼板をO字状にプレス加工する第二のプレス工程と、前記第二のプレス工程で加工された前記鋼板の端部同士を溶接する溶接工程とを備えるものとしても良い。
【0019】
この方法によれば、内部を流通する流体による腐食が懸念される鋼管の内面部分について腐食の影響を受けやすい硬度不良部位が抑制された鋼管を製造することができる。
【0020】
また、本発明の一態様に係る鋼板製造装置は、スラブを制御圧延する圧延部と、前記圧延部で制御圧延された鋼板を、制御冷却する冷却部と、前記冷却部で制御冷却された前記鋼板の少なくとも一部の表面に、ブラスト材を衝突させて、前記表面を含む前記鋼板の表層の応力状態を調整するショットブラスト部と、前記鋼板の前記ショットブラスト部によってショットブラストされた前記表面の硬度を測定する硬度測定部と、前記硬度測定部の測定結果に基づいて、硬度が予め設定された閾値を超える部位を硬度不良部位と判定する硬度判定部とを備える。
【0021】
この構成によれば、圧延部及び冷却部によって圧延及び冷却が実施された鋼板に対して、ショットブラスト部によって対象となる表面にはブラスト材が衝突される。これにより、対象となる表面を含む鋼板の表層では、冷却部による冷却後に箇所によって残留応力が異なる応力が不均一な状態であったとしても、応力が不均一な状態を解消することができる。そして、硬度測定部によって、ショットブラスト部によって応力状態の不均一さが解消された状態で対象となる表面に対して硬度が測定されることで、応力の影響を抑制して正確に硬度が測定される。このため、硬度判定部によって、正確に測定された硬度に基づいて硬度不良部位が正確に判定され、硬度不良部位を確実に除去することができる。
【0022】
また、本発明の一態様に係るプログラムは、コンピュータを、スラブを制御圧延及び制御冷却することで生成された鋼板のうち、ブラスト材を衝突させて表層の応力状態が調整された表面に対して測定された電磁気特性から、当該表面の硬度を演算する硬度演算手段、前記硬度演算手段によって演算された硬度に基づいて硬度が予め設定された閾値を越える部位を硬度不良と判定する硬度判定手段、として機能させる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、対象となる表面において、硬度が品質上問題となる部分を抑制した鋼板及び鋼管を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1の実施形態の鋼板製造装置を模式的に示した側面図である。
【
図2】第1の実施形態の鋼板製造装置においてショットブラスト部を模式的に示した搬送方向視した断面図である。
【
図3】第1の実施形態の鋼板製造装置において硬度測定部を模式的に示したブロック図である。
【
図4】電磁気特性値と、応力及び硬度との相関関係の例を模式的に示したグラフである。
【
図5】第1の実施形態の硬度演算部及び硬度判定部のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図6】第1の実施形態の鋼板の製造方法を示すフロー図である。
【
図7】第1の実施形態の鋼管の製造方法を示すフロー図である。
【
図8】第1の実施形態の変形例の鋼板製造装置において硬度測定部を模式的に示したブロック図である。
【
図9】第1の実施形態の変形例の鋼板製造装置の硬度測定部で得られる波形の模式図である。
【
図10】第2の実施形態の鋼板製造装置を模式的に示した側面図である。
【
図11】第2の実施形態の鋼板製造装置において塑性変形付与設備を模式的に示した側面図である。
【
図12】実施形態の鋼板製造装置の塑性変形付与設備における寸法関係を示す説明図である。
【
図13】各加工度において、板厚と、塑性変形の範囲の表面からの深さの関係を示したグラフである。
【
図14】第2の実施形態の鋼板の製造方法を示すフロー図である。
【
図15】鋼板の表面の残留応力分布を示す度数分布であって、実施例1において、(a)ショットブラスト工程直前、(b)ショットブラスト実施直後の度数分布図である。
【
図16】実施例1の鋼板の表面の応力状態を電磁気特性値によって示したコンター図であって、(a)ショットブラスト工程直前、(b)ショットブラスト工程直後を示している。
【
図17】実施例2におけるショットブラスト工程で鋼板に与えた衝突エネルギー密度と累積衝突エネルギーとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の実施形態)
以下、本発明に係る第1の実施形態について
図1から
図7を参照して説明する。
図1は、本実施形態の鋼板の製造方法に用いられる鋼板製造装置1を示している。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の鋼板製造装置1は、スラブSを連続鋳造する連続鋳造設備10と、スラブSを再加熱する再加熱炉20と、スラブSを制御圧延して鋼板Pとする圧延設備30(圧延部)と、鋼板Pを熱間矯正する熱間矯正設備40と、鋼板Pを制御冷却する冷却設備50(冷却部)とを備える。さらに、鋼板製造装置1は、制御冷却された鋼板Pにショットブラスト処理を行うショットブラスト設備60(ショットブラスト部)と、ショットブラスト処理された鋼板Pの表面P1の硬度を測定する硬度測定部70と、硬度測定部70による測定結果に基づいて硬度不良部位Wを判定する硬度判定部90とを備える。以下、詳細を説明する。
【0027】
連続鋳造設備10は、溶鋼Mが注入される鋳型11を有し、鋳型11から連続してスラブSを生成する。再加熱炉20は、連続鋳造設備10によって生成されたスラブSを、圧延設備30で圧延可能な温度に再加熱する。なお、鋼板製造装置1は、連続鋳造設備10を備えておらず、予め製造されたスラブ片を再加熱炉20で加熱した後に圧延設備30によって圧延するものとしてもよい。
【0028】
圧延設備30は、スラブSを制御圧延する。圧延設備30は、粗圧延部31と、仕上圧延部32とを有する。粗圧延部31は、再加熱炉20によって再加熱されたスラブSに対して粗圧延を行う。また、仕上圧延部32は、粗圧延部31で粗圧延が実施されたスラブSに対して仕上圧延を実施して鋼板Pを生成する。粗圧延部31は、上下に複数の粗圧延ローラ31a、31bを有する。また、仕上圧延部32は、上下に複数の仕上圧延ローラ32a、32bを有する。粗圧延部31及び仕上圧延部32は、いずれも、予め測定された鋼板Pの温度などの情報に基づいて粗圧延ローラ31a、31b、及び、仕上圧延ローラ32a、32bによる圧下率等を制御して、予め設定された範囲内の温度、圧下率等とすることで所望の鋼板Pを製造するための制御圧延を行う。熱間矯正設備40は、圧延設備30によって生成された鋼板Pを熱間において矯正する。熱間矯正設備40は、上下に複数の矯正ローラ40a、40bを有し、これら矯正ローラ40a、40bの上下の間隔等を調整することで鋼板Pの平坦度を矯正する。
【0029】
冷却設備50は、圧延設備30によって生成された鋼板Pに対して制御冷却を実施する。ここで、制御冷却とは、予め設定された範囲内の冷却開始温度、冷却停止温度、冷却速度により冷却することで鋼板Pの組織を制御することである。具体的には、制御冷却は、自然冷却よりも冷却速度が速い水冷、空冷等による加速冷却、自然冷却、自然冷却よりも冷却が遅い徐冷を含む工程であり、途中で加熱してもよい。加速冷却の冷却速度を途中で変更する多段冷却や、加速冷却を途中で停止して自然冷却し、加速冷却を再開する間欠冷却なども制御冷却に含まれる。
【0030】
本実施形態では、冷却設備50は、鋼板Pを搬送する上下複数設けられた搬送ローラ51a、51bと、搬送ローラ51a、51bで搬送される鋼板Pを水冷する水冷部52とを有する。水冷部52は、鋼板Pに対して冷却水を噴射させる。水冷部52は、搬送ローラ51a、51bで搬送される鋼板Pの表面P1である上面P1aの上方に、搬送方向に沿って複数設けられるとともに、同様に表面P1である下面P1bの下方に、搬送方向に沿って複数設けられている。そして、水冷部52は、鋼板Pの上面P1a及び下面P1bに冷却水を噴射させて鋼板Pを冷却する。
【0031】
ショットブラスト設備60は、鋼板Pに対してショットブラスト処理を実施する。本実施形態において、ショットブラスト設備60は、鋼板Pの表面P1のうち、後述するようにその後の加工によって鋼管Qの内面Q1(
図7参照)となる上面P1aのみについて実施し、下面P1bについては実施しない。ショットブラスト設備60は、鋼板Pの上方に設けられ、ブラスト材Aを噴射する噴射部61と、鋼板Pを搬送する搬送ローラ62とを有する。本実施形態において、噴射部61は、搬送方向Pに異なる複数箇所(
図1では2ヵ所)に設けられている。また、噴射部61は、各箇所において、搬送方向と直交する幅方向において互いの鋼板Pの表面P1への噴射範囲が重なるようにして、かつ、鋼板Pの表面P1の幅方向全域において噴射可能となるように間隔を有して複数設けられている。
図2に示すように、各噴射部61は、ブラスト材Aを供給する図示しない供給部と、放射状に配されて回転し、供給されたブラスト材Aを加速させる噴射翼61aと、加速されたブラスト材Aを鋼板Pに向かって噴射させる噴出口61bとを有する。
【0032】
ブラスト材Aは、噴射部61により鋼板Pの所定の範囲に噴射される。これにより、鋼板Pの表面P1のうち、ブラスト材Aが噴射された上面P1aを含む表層部分は、ブラスト材Aによる衝撃によって塑性変形され、表層部分の応力状態を調整し、均一化を図ることができる。ここで、応力状態の均一化とは、応力にばらつきがある状態から、対象となる範囲において応力が等しくすることだけでなく、後述する硬度測定部による硬度測定工程において応力の影響を受けることなく硬度が測定可能な程度に応力がばらつく状態まで調整することも含む。鋼板Pは、搬送ローラ62によって搬送されながら噴射部61によるブラスト材Aの噴射を受けることで、上面P1a全面に均一にブラスト材Aの噴射を受け、これにより上面P1a全面に亘って表層に塑性変形が施される。
【0033】
本実施形態ではブラスト材Aは、鋼材から形成された球状の部材である。ただし、ショットブラスト処理に用いられる粒状のブラスト材Aとしては、鋼板Pの表面P1に塑性変形を施すことが可能であれば、様々なものが適用可能である。材質としては、鋼材に限られず、他の金属材やセラミック材としても良い。また、粒形状についても、球状に限られず楕円球状や多角形状としても良い。また、砂によってブラスト材Aが構成された所謂サンドブラスト材としても良い。球状のブラスト材Aの場合、粒の直径は、0.5mm以上3.0mm以下であることが好ましい。粒の直径が0.5mm以上であることで、鋼板Pの表面P1に、より効果的に衝撃エネルギーを与えることができる。また、粒の直径が3.0mm以下であることで、ショットブラスト処理を実施した表面の粗度を十点平均粗さ(JIS B 0601 付属書JA)RZJISで100μm以下としてより良好なものとすることができる。なお、粒の直径としては、2.0mm以下であることがさらに好ましい。粒の直径を2.0mm以下とすることでショットブラスト処理を実施した表面の粗度をでRZJIS50μm以下としてさらに良好なものとすることができる。
【0034】
また、噴射部61から噴射されるブラスト材Aによって鋼板Pの表面P1に与えられる衝突エネルギー密度は、40MJ/(m2・分)以上であることが好ましい。さらに、衝突エネルギー密度は、200MJ/(m2・分)以上であることがより好ましい。また、噴射部61から噴射されるブラスト材Aによって鋼板Pの表面P1に与えられる累積衝突エネルギーは、1100MJ/m2以上であることが好ましい。衝突エネルギー密度(MJ/(m2・分))は、ブラスト材の噴射速度(m/秒)、噴射流量(kg/分)、噴射部61によって噴射可能な噴射面積(m2)、搬送ローラ62によって搬送される鋼板Pの通板速度(mpm)によって求めることができる。また、累積衝突エネルギー密度(MJ/m2)は、衝突エネルギーを通板速度によって除することによって求めることができる。そして、衝突エネルギー密度が40MJ/(m2・分)以上、かつ、累積衝突エネルギーが1100MJ/m2以上であることで、ブラスト材Aを噴射させた鋼板Pの表面P1を含む表層部分の応力状態をより好適に均一化させることが可能となる。また、衝突エネルギー密度を200MJ/(m2・分)以上することでより効果的に当該表層部分の応力状態を均一化させることができる。
【0035】
なお、上記においては、鋼板Pの上面P1aにショットブラスト処理を行うために、噴射部61を鋼板Pの上方に設けるものとしたがこれに限られるものではない。鋼板Pの上面P1a、下面P1bの両面にショットブラスト処理を実施しても良いし、下面P1bの硬度判定が必要な場合には下面P1bのみにショットブラスト処理を実施しても良い。下面P1bにショットブラスト処理を実施する場合には、鋼板Pの下方に噴射部61を設けて鋼板Pの下面P1bに向けてブラスト材Aを噴射させる構成とすれば良い。
【0036】
硬度測定部70は、ショットブラスト処理が施された鋼板Pの表面P1の硬度を測定する。本実施形では、鋼板Pの表面P1のうち、上面P1aにショットブラスト処理を実施したので、硬度測定部70は当該上面P1aについて硬度測定を実施する。
【0037】
図3に示すように、本実施形態の硬度測定部70は、鋼板Pの表層の性状によって変化するパラメータに基づいて硬度を測定する装置である。本実施形態のパラメータとしては、例えば鋼板Pの表層に磁界をかけた場合に、磁界を生成するために入力するパラメータであって当該表層の性状の影響を受けて変化するパラメータ、及び、磁界をかけることによって当該表層の性状に応じた値が測定されるパラメータを含む。なお、鋼板Pの表層に磁界をかけた場合に、当該表層の性状の影響を受けて変化するパラメータを総称して電磁気特性と称し、得られるパラメータの値を電磁気特性値と称する。以下、鋼板Pの表層の性状によって変化するパラメータが、鋼板Pの表層の電磁気特性である場合について説明する。
【0038】
硬度測定部70は、鋼板Pの表層の電磁気特性値を測定するパラメータ測定部700と、パラメータ測定部700で測定された電磁気特性値に基づいて鋼板Pの表層の硬度を求める硬度演算部720とを備える。ここで、本実施形態における硬度とは、様々な試験によって定量される硬度を含む。例えば、ビッカース硬さ試験によるビッカース硬度、ブリネル硬さ試験によるブリネル硬度、ヌープ硬さ試験によるヌープ硬度、ロックウェル硬さ試験によるロックウェル硬度などである。また、これらの硬度は、各硬度を測定する試験方法によって測定される値である必要はなく、予め相関関係が分かっていれば、リバウンド式試験機によって測定された結果に基づいて測定値を得ても良く、リバウンド式試験で得られる測定値そのものを硬度の指標として用いても良い。以下においては、一例としてビッカース硬度を測定するものとして説明し、単に硬度と称する。
【0039】
図3に示すように、本実施形態においてパラメータ測定部700は、例えば鋼板PのBHループから得られる電磁気特性値を測定する装置である。BHループは、鋼板Pの表層に周期的に印加される磁界の強さHと、印加された磁界により鋼板Pの表層に生じた磁束密度Bとの関係を示す相関データである。パラメータ測定部700は、磁化器710と、発振器712と、励磁電源713と、磁界演算部714と、検出コイル715と、磁束密度演算部716と、BHループ演算部717と、電磁気特性値検出部718とを備える。
【0040】
磁化器710は、測定対象となる鋼板Pの表層部分、すなわち、ショットブラスト処理が施された上面P1aを含む表層部分の当該上面P1aとの間に隙間を有して上面P1aの上方に配されている。磁化器710は、ヨーク711Aと、励磁コイル711Bとを有する。U字形状のヨーク711Aは、胴部711bと、胴部711bの両端に形成された一対の先端部711aとを有している。一対の先端部711aは、磁極となる先端面を測定対象である鋼板Pの表層の表面P1に対向して配される。励磁コイル711Bは、先端部711aのそれぞれに巻かれている。このような構成により、ヨーク711Aは、励磁コイル711Bに交流電流が流れることで、先端部711aと対向する位置に配された鋼板Pの表層に、交流電流の大きさに応じた強さHの磁界を発生させることができる。
【0041】
発振器712は、目的とする交流電流の周波数に応じた周波数の信号を出力する。励磁電源713は、発振器712から受け付けた信号の周波数に応じた交流電流を励磁コイル711Bに出力する。また、励磁電源713は、出力する交流電流の大きさ、すなわち交流電流の振幅を設定できる。磁界演算部714は、励磁電源713から励磁コイル711Bに出力される交流電流の大きさを検出し、検出された交流電流の大きさ、予め記憶された励磁コイル711Bの巻き数などから、鋼板Pの表層に発生した磁界の強さHを演算する。磁界演算部714は、演算した磁界の強さHをBHループ演算部717に出力する。
【0042】
検出コイル715は、一対の先端部711aの少なくとも一方の先端部分に、磁極となる先端面を囲むように巻かれている。磁化器710によって発生する磁界と鋼板Pの表層の状態とにより、磁極と鋼板Pの表面P1とのギャップに発生する磁束Φは変化する。そして、検出コイル715には、この磁束Φの時間変化に応じて電磁誘導により電圧が発生する。磁束密度演算部716は、検出コイル715に発生する電圧を検出し、検出された電圧と、予め求められた検出コイル715の巻き数、検出コイル715の断面積などから、磁束密度Bを演算する。磁束密度演算部716は、演算した磁束密度BをBHループ演算部717に出力する。
【0043】
BHループ演算部717は、磁界演算部714から出力された磁界の強さHと、磁束密度演算部716から出力された磁束密度Bとに基づいて、磁界の強さHと磁束密度Bとの関係を示すBHループを演算する。
図4は、BHループ演算部717で演算されるBHループの一例を示している。
図4に示すようなBHループにより、測定対象である鋼板Pの表層の電磁気特性値を得ることができる。具体的には、電磁気特性値としては、残留磁束密度Br、保磁力Hc、透磁率μなどが挙げられる。残留磁束密度Brは、BHループにおいてHが最大なった点R1から磁界の強さHを小さくしてゼロになった点R2における磁束密度Bである。また、保磁力Hcは、さらに磁界の向きを逆転させて磁束密度Bがゼロとなる点R3における磁界の強さを示している。また、透磁率μは、任意の磁界の強さHの時において磁界の強さをΔH分変動させた時の磁界の強さHに対する磁束密度Bの変化率を示している。なお、電磁気特性値としては、残留磁束密度Br、保磁力Hc、透磁率μに限られず、磁界の強さの変化により検出される電磁気特性値であればこれに限られるものではない。本実施形態では、電磁気特性値検出部718は、例えば、保磁力Hcを抽出する。ただし、これに限られず、電磁気特性値検出部718は、保磁力Hcに代えて残留磁束密度Brや透磁率μなどとしても良く、複数種類の電磁気特性値を検出するものとしても良い。電磁気特性値検出部718は、抽出した電磁気特性値を硬度演算部720に出力する。
【0044】
次に、硬度演算部720について説明する。
図5に示すように、硬度演算部720は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ800とメモリ810とを備える制御部80により、プログラムを実行することにより実現される機能部である。硬度演算部720は、記憶部82に予め記憶されている硬度と上記電磁気特性値との相関関係と、硬度測定部70によって測定された電磁気特性値とに基づいて硬度を算出する。
【0045】
なお、硬度演算部720の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0046】
出力部81は、各種情報を出力する。出力部81は、例えば、パラメータ測定部700で測定され、硬度演算部720により算出された鋼板Pの表面上の任意の位置おける硬度を出力する。また、位置情報取得し、位置情報と硬度に関する情報とを対応付けて表示しても良い。また、位置情報と硬度に基づいて鋼板Pを示す平面上に硬度に関する情報を数値、または、色により視覚的に示すものとしても良い。出力部81は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイや液晶ディスプレイ、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等の表示装置を含んで構成される。出力部81は、これらの表示装置を自装置に接続するインタフェースとして構成されてもよい。
【0047】
図1に示す硬度判定部90は、
図5に示す制御部80により、硬度演算部720と同様にプログラムを実行することにより実現される機能部である。硬度判定部90は、硬度測定部70により測定された硬度に基づいて、当該硬度が測定された位置が硬度不良部位であるか否かを判定する。本実施形態では、鋼板Pの表面P1のうち対象となる上面P1aにおいて硬度が予め定められた硬度の上限値よりも硬度の高い表層硬化部を検出する。すなわち、硬度判定部90は、記憶部82に予め記憶された上限値と、硬度測定部70により測定された硬度を比較して、測定された硬度が上限値を上回る場合には、当該位置を硬度不良部位Wと判定する。なお、硬度判定部90は、鋼板Pの表面P1のうち対象となる上面P1aにおいて硬度が予め定められた硬度の下限値よりも硬度の低い表層軟化部を検出するものとしても良い。硬度判定部90は、表層硬化部及び表層軟化部の少なくとも一方の表層硬度変化部を硬度不良部位Wとして検出するものとする。硬度判定部90は、硬度不良部位Wとして判定された部位を、位置情報とともに出力部81に表示させる。
【0048】
なお、本実施形態の鋼板製造装置1では、硬度測定部70及び硬度判定部90を、連続鋳造設備10、再加熱炉20、圧延設備30、熱間矯正設備40、冷却設備50、及び、ショットブラスト設備60と一体のラインとして説明したが、これに限られない。ショットブラスト処理が実施された鋼板Pを、別ラインに運搬し、当該別ラインにおいて装置として構成された硬度測定部70A及び硬度判定部90によって、後述する硬度測定工程S7及び硬度判定工程S8を実施しても良い。さらには、ショットブラスト設備60も別ラインとして、冷却設備50で冷却された鋼板Pを、別ラインに運搬し、当該別ラインにおいてショットブラスト設備60によって後述するショットブラスト工程S6を実施しても良い。
【0049】
また、制御冷却実施後に鋼板Pに対して焼鈍工程を実施しても良い。焼鈍工程を実施する場合には、冷却設備50とショットブラスト設備60との間に焼鈍設備を設けるものとしても良い。また、製造された鋼板Pに対して内部欠陥を検出する内部欠陥検出工程を実施しても良い。内部欠陥検出工程を実施する場合には、例えば、焼鈍工程を実施しない場合には冷却設備50の後に、また、焼鈍工程を実施する場合には焼鈍設備の後に内部欠陥検出設備を設ける。内部欠陥検出設備としては、例えば鋼板Pに対して超音波を発振して反射波を検出することで内部欠陥を検出する超音波探傷試験装置が挙げられる。
【0050】
次に、本実施形態の鋼板の製造方法について説明する。
図6は、本実施形態の鋼板の製造方法のフロー図を示している。
図6に示すように、本実施形態の鋼板の製造方法は、スラブSを連続鋳造する鋳造工程S1と、スラブSを再加熱する再加熱工程S2と、スラブSを制御圧延して鋼板Pとする圧延工程S3と、鋼板Pを熱間矯正する熱間矯正工程S4と、鋼板Pを制御冷却する冷却工程S5とを備える。さらに、本実施形態の鋼板Pの製造方法は、制御冷却された鋼板Pにショットブラスト処理を行うショットブラスト工程S6と、ショットブラスト処理された鋼板Pの表面P1の硬度を測定する硬度測定工程S7と、硬度測定結果に基づいて硬度不良部位Wを判定する硬度判定工程S8とを備える。さらに、本実施形態の鋼板の製造方法は、硬度不良部位Wと判定された部位の表面を研磨する表面研磨工程S9と、表面を研磨した硬度不良部位Wについて硬度の確認を行う硬度確認工程S10と、硬度確認の結果に基づいて硬度不良部位Wを除去する除去工程S11と、除去工程S11後に再度硬度の確認を行う硬度再確認工程S12と、鋼板Pの厚みを計測する厚み確認工程S13、S14とを備える。以下、詳細を説明する。
【0051】
鋳造工程S1では、連続鋳造設備10によりスラブSが生成される。また、再加熱工程S2では、再加熱炉20により、連続鋳造設備10によって生成されたスラブSが、圧延設備30で圧延可能な温度まで再加熱される。なお、鋳造工程S1を実施せず、予め製造されたスラブ片を再加熱炉20で加熱した後に次に説明する圧延工程S3において圧延するものとしてもよい。
【0052】
圧延工程S3では、圧延設備30によりスラブSが制御圧延される。本実施形態では、圧延工程S3では、再加熱されたスラブSに対して粗圧延を行う粗圧延工程S3aと、粗圧延されたスラブSに対して仕上圧延を行い、鋼板Pを生成する仕上圧延工程S3bとを実施する。熱間矯正工程S4では、熱間矯正設備40により、制御圧延によって生成された鋼板Pに対して、熱間において平坦度が矯正される。冷却工程S5では、冷却設備50により、制御圧延された鋼板Pに対して制御冷却が実施される。
【0053】
ショットブラスト工程S6では、ショットブラスト設備60により、制御冷却された鋼板Pに対してショットブラスト処理が実施される。本実施形態では、鋼板Pの表面P1のうち、上面P1aにショットブラスト処理が実施される。ショットブラスト処理に用いられるブラスト材Aは、鋼板Pの表面P1に塑性変形を施すことが可能であれば、様々なものが適用可能である。また、ブラスト材Aによって鋼板Pに与えられる好ましいエネルギーの程度は前述のとおりであり、衝突エネルギー密度は40MJ/(m2・分)以上であることが好ましく、200MJ/(m2・分)以上であることがより好ましく、また、累積衝突エネルギーは1100MJ/m2以上であることが好ましい。
【0054】
硬度測定工程S7では、硬度測定部70により、ショットブラスト処理が施された鋼板Pの表面P1の硬度が測定される。本実施形態の硬度測定工程S7では、鋼板Pの表面P1のうち、上面P1aにショットブラスト処理を実施したので、当該上面P1aについて硬度測定を実施する。本実施形態の硬度測定工程S7では、鋼板Pの表層の性状によって変化するパラメータに基づいて硬度を測定する。本実施形態のパラメータとしては、電気特性値であって、例えば上記のとおり残留磁束密度Br、保磁力Hc、透磁率μなどが挙げられる。なお、硬度の測定方法としては、上記のように、鋼板Pの表層の性状によって変化するパラメータに基づいて硬度を測定する方法に限らず、リバウンド式硬度試験のように、直接的に硬度を測定する試験方法としても良い。
【0055】
硬度判定工程S8では、硬度判定部90によって、測定された硬度に基づいて、測定された上面P1aにおいて硬度不良部位Wの有無が判定される。硬度不良部位Wの判定アルゴリズムについては上記のとおりである。なお、硬度不良部位Wの存在が確認されない場合には、本実施形態の鋼板の製造方法は完了し、鋼板Pが製品として取り出される。
【0056】
表面研磨工程S9では、後述する硬度確認工程S10で直接的に硬度を測定して硬度を確認するために、硬度不良部位Wと判定された部位の表面を研磨して表面のスケールを除去する。研磨方法としては例えばグラインダによって表面を研磨する方法が挙げられる。グラインダで表面を研磨する場合、研磨材に用いる研磨微粉の粒度としては、例えばP100~180(JIS R6001)が採用される。表面研磨工程S9を実施することにより鋼板Pの表面P1から、例えば深さ0.01~0.1mm程度の範囲で、表面に存在するスケールを除去する。
【0057】
硬度確認工程S10では、硬度不良部位Wと判定されて鋼板Pの表面P1のスケールが除去された位置において、再度硬度の確認を行う(ステップS10a)。本実施形態では、リバウンド式硬度試験のような直接的に硬度を測定する試験方法によって実施する。これにより、間接的に硬度を測定する場合と比較して、より狭い範囲でより正確に硬度を測定することができる。なお、上記硬度測定工程S7と同様に、間接的に硬度を測定する測定方法により実施することとしても良い。また、間接的に硬度を測定する場合には表面研磨工程S9を省略しても良い。硬度確認工程S10による測定結果により硬度不良部位Wが確認されない場合(ステップS10b:NO)には、鋼板の製造方法は完了し、鋼板Pが製品として取り出される。一方、硬度不良部位Wが確認される場合(ステップS10b:YES)には除去工程S11に移行する。
【0058】
除去工程S11では、硬度確認工程S10で確認された硬度不良部位Wが除去される。具体的には、硬度不良部位Wが存在する位置に対して研削装置によって研削を行う。研削方法としては例えばグラインダによって表面を研削する方法が挙げられる。グラインダで表面を研削する場合、研削材に用いる研削微粉の粒度としては、例えばP36~60(JIS R 6010)が採用される。これにより鋼板Pの表面P1から、例えば深さ0.1~0.5mm程度の範囲で、硬度不良の原因となっている鋼材を除去することができる。少なくとも表面から0.25mm程度の範囲において、硬度不良が発生しうることから、表面から少なくとも0.25mmを超える範囲で研削することが好ましい。そして、除去した後に硬度再確認工程S12を実施する。
【0059】
硬度再確認工程S12では、硬度不良部位Wと判定されて表面P1の鋼材が除去された位置において再度硬度の確認を行う(ステップS12a)。本実施形態では、リバウンド式硬度試験のような直接的に硬度を測定する試験方法によって実施する。なお、硬度確認工程S10同様に、上記硬度測定工程S7と同様に、間接的に硬度を測定する測定方法により実施することとしても良い。硬度再確認工程S12による測定結果により硬度不良部位Wが確認されない場合(ステップS12b:NO)には、厚み確認工程S13に移行する。一方、硬度不良部位Wが確認される場合(ステップS12b:YES)には厚み確認工程S14に移行する。
【0060】
厚み確認工程S13では、硬度不良部位Wが除去されたことが確認できた鋼板Pに対して厚みを計測する(ステップS13a)。厚みを計測する範囲は鋼板P全体でも良いし、除去工程S11で硬度不良部位Wが除去された位置のみとしても良い。測定方法としては、例えば超音波探傷試験が用いられる。超音波探傷試験機により一方の面から超音波を発信させて反対側の面で反射される反射波を測定することで、測定位置における鋼板Pの厚みを測定することができる。測定の結果、鋼板Pの厚みが予め設定されている基準値以上の場合(ステップS13b:YES)には、鋼板の製造方法は完了し、鋼板Pが製品として取り出される。一方、測定の結果、鋼板Pの厚みが予め設定されている基準値未満の場合(ステップS13b:NO)には、製品不良と判定される。
【0061】
また、厚み確認工程S14では、硬度不良部位Wが残っていることが確認された鋼板Pに対して厚みを計測する(ステップS14a)。厚みを計測する範囲は鋼板P全体でも良いし、除去工程S11で硬度不良部位Wについて研削された位置のみとしても良い。測定方法は、厚み確認工程S13と同様である。測定の結果、鋼板Pの厚みが予め設定されている基準値以上の場合(ステップS14b:YES)には、再度、除去工程S11を実施する。一方、測定の結果、鋼板Pの厚みが予め設定されている基準値未満の場合(ステップS14b:NO)には、製品不良と判定される。
【0062】
なお、上記の鋼板の製造方法において、冷却工程S5の後に鋼板Pに対して焼鈍を行う焼鈍工程を実施しても良い。また、製造された鋼板Pに対して内部欠陥を検出する内部欠陥検出工程を実施しても良い。内部欠陥検出工程を実施する場合には、焼鈍工程を実施しない場合には冷却工程S5実施後に、焼鈍工程を実施する場合には焼鈍工程後に実施する。内部欠陥検出工程で実施する検査方法としては、上記のとおり例えば超音波探傷試験が挙げられる。
【0063】
また、上記の鋼板の製造方法では、表面研磨工程S9、硬度確認工程S10、硬度再確認工程S12、及び厚み確認工程S13、S14とを備えるものとしたが、これに限られるものではない。例えば、硬度判定工程S8まで実施した後に、硬度不良部位Wの存在が確認されない場合には鋼板Pの製造方法を完了し、また、硬度不良部位Wの存在が確認された場合にも当該部位について除去工程S11を実施して鋼板Pの製造方法を完了としても良い。
【0064】
以上のように、本実施形態の鋼板の製造方法及び鋼板製造装置1では、圧延工程S3及び冷却工程S5が実施された鋼板Pに対して、ショットブラスト工程S6において対象となる表面P1にブラスト材Aを衝突させる。これにより、対象となる表面P1である上面P1aを含む鋼板Pの表層部分では、冷却工程S5後の鋼板Pが箇所によって残留応力が異なる応力が不均一な状態であったとしても、応力が不均一な状態を解消することができる。そして、硬度測定工程S7において、ショットブラスト工程S6で応力状態の不均一さを解消した状態で対象となる表面P1に対して硬度を測定することで、応力の影響を抑制して正確に硬度を測定することができる。このため、硬度判定工程S8では、正確に測定された硬度に基づいて硬度不良部位Wを正確に判定し、除去工程S11において硬度不良部位Wを確実に除去することができる。このため、対象となる表面P1において、硬度が品質上問題となる部分を抑制した鋼板Pを製造することができる。
【0065】
また、硬度測定工程S7で、鋼板Pの表面P1の電磁気特性を測定することによって、硬度を測定する鋼板Pの表面P1に損傷を与えることなく、また、応力の状態の影響を受けることなく、正確に硬度を測定することができる。さらに、衝突エネルギー密度を40MJ/(m2・分)以上及び累積衝突エネルギーを1100MJ/m2以上とすることで、対象となる表面P1を含む鋼板Pの表層の応力状態をより一層均一化することができる。
【0066】
また、このような鋼板Pの製造方法で製造される鋼板Pが鋼管Qの素材として用いられ、ショットブラスト工程S6、硬度測定工程S7、硬度判定工程S8及び除去工程S11が、鋼管Qの内面Q1(
図7及び下記参照)となる部分について実施、すなわち、上記鋼板Pの上面P1aについて実施されることで、内部を流通する流体による腐食が懸念される鋼管Qの内面Q1部分について、腐食の影響を受けやすい硬度不良部位Wが抑制された鋼管Qを製造することができる。
【0067】
そして、上記鋼板Pの製造方法は、鋼管の製造方法の一工程として実施されて鋼管Qを製造するものとしても良い。すなわち、
図7に示すように、本実施形態の鋼管Qの製造方法では、上記鋼板Pの製造方法で鋼板Pを製造する鋼板製造工程S20と、第一のプレス工程S21と、第二のプレス工程S22と、溶接工程S23とを備える。第一のプレス工程S21では、上記鋼板の製造方法で製造された鋼板PをU字状にプレス加工してU字状中間材P´を形成する。その際、ショットブラスト工程S6、硬度測定工程S7、硬度判定工程S8及び除去工程S11が実施された鋼板Pの上面P1aが鋼管Qとなった場合の内面Q1となるように、言い換えれば凹曲面となるように、鋼板PはU字状に加工される。また、第二のプレス工程S22では、第一のプレス工程S21で加工されたU字状中間材P´をO字状にプレス加工してO字状中間材P´´を形成する。さらに、溶接工程S23では、第二のプレス工程S22で加工されたO字状中間材P´´における鋼板Pの端部となる部分同士を、溶接線Q2にて溶接する。
【0068】
このような鋼管の製造方法によれば、内部を流通する流体による腐食が懸念される鋼管Qの内面Q1部分について、腐食の影響を受けやすい硬度不良部位Wが抑制された鋼管Qを製造することができる。さらに、上記鋼管の製造方法において、溶接工程S23後に、鋼管Qを拡径する拡径工程を実施することで、UOE鋼管も製造することができる。
【0069】
なお、上記硬度測定工程S7では、検査対象となる鋼板Pについて、BHループを測定し、当該BHループから得られる電磁気特性値を得て硬度を演算するものとしたが、これに限られるものではない。
図8及び
図9は、上記硬度測定工程S7で用いられる変形例の鋼板製造装置1Aにおける硬度測定部70Aを示している。
【0070】
図8に示すように、本変形例の鋼板製造装置1Aの硬度測定部70Aは渦流探傷装置である。すなわち、硬度測定部70Aは、検査プローブ851と、発振器852と、ブリッジ853と、移相器854と、増幅器855と、同期検波器856と、波形生成部857と、電磁気特性値検出部858とを有する。検査プローブ851は、測定コイル851aを有する。発振器852は、所定の周波数を有する基準信号を生成し、ブリッジ853及び移相器854に出力する。ブリッジ853は、測定コイル851aの微小なインピーダンス変化を電圧に変換し増幅器855に出力する。増幅器855は、ブリッジ853から出力された信号を増幅して、同期検波器856に出力する。移相器854は、基準信号の周波数を保ったまま位相をシフトした信号を生成し、同期検波器856に出力する。同期検波器856は、増幅器855から出力された信号を、移相器854から出力される信号によって同期検波し、直流成分を抽出して波形生成部857に出力する。波形生成部857では、同期検波器856から出力された信号に基づいて
図9に示すような波形を生成する。電磁気特性値検出部858では、電磁気特性値として、同期検波器856で生成された波形から、例えば渦流位相δを検出する。そして、電磁気特性値検出部858は、電磁気特性値である渦流位相δを硬度演算部720に出力する。硬度演算部720では、記憶部82(
図5参照)に予め記憶されている硬度と電磁気特性値である渦流位相δとの相関関係と、硬度測定部70Aによって測定されたである渦流位相δとに基づいて硬度を算出する。
【0071】
このように、電磁気特性値を測定する装置としては、BHループを検出する装置に限られず、本実施形態のような渦流探傷試験装置とし、これによって得られる電磁気特性値としても良い。また、BHループを検出する装置と渦流探傷試験装置とを組み合わせても良いし、BHループを検出する装置及び渦流探傷試験装置以外でも良い。少なくとも鋼板Pの表層に磁界を発生させ、硬度の違いによって異なる応答が得られる電磁気特性値を測定可能な装置であれば適用可能である。
【0072】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図10から
図12は、本発明の第2の実施形態を示したものである。この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0073】
図10に示すように、本実施形態の鋼板製造装置1Bは、冷却設備50と、ショットブラスト設備60との間に、平坦度測定部900と、塑性変形付与設備910(塑性変形付与部)とを備える。平坦度測定部900は、鋼板Pにおいて対象となる表面P1である上面P1aの平坦度を測定する。平坦度測定部900は、鋼板Pを搬送する搬送ローラ901と、搬送ローラ901で搬送される鋼板Pにおいて平坦度を測定する上面P1aの上方に離間した位置に配されたレーザ距離計902とを有する。レーザ距離計902は、搬送ローラ901によって搬送される鋼板Pの上面P1aにレーザを照射してその反射光を受光することで照射位置までの距離を測定する。レーザ距離計902は、搬送方向に直交する幅方向(すなわち紙面奥行方向)に複数設けられ、鋼板Pの幅全域において距離を測定可能である。このため、鋼板Pは、搬送ローラ901によって搬送されながら、上面P1a全域において距離を測定し、当該距離測定結果から上面P1aの平坦度を測定可能である。
【0074】
本実施形態では、塑性変形付与設備910は、鋼板Pの平坦度を矯正することで、鋼板Pを繰り返し塑性変形させる平坦度矯正部である。
図11に示すように、塑性変形付与設備910は、搬送される鋼板Pの下方に複数配された下側ローラ911と、鋼板Pの上方に複数配された上側ローラ912とを有する。下側ローラ911と上側ローラ912とは、搬送方向に位置をずらすようにして配されている。また、下側ローラ911と上側ローラ912の少なくとも一方は、上下に移動可能に設けられていて、これにより下側ローラ911と上側ローラ912との間隔を調整可能である。そして、下側ローラ911の上端と上側ローラ912の下端との間隔を鋼板Pの厚さ以下、または、下側ローラ911の上端を上側ローラ912の下端よりも上側となる(間隔寸法が負の値となる)ようにすることで、鋼板Pは、その間隔に応じて複数の下側ローラ911の上端と、複数の上側ローラ912の下端との間で蛇行して、引張変形と圧縮変形とが繰り返される。そして、表面側では上記間隔の大きさに応じて引張変形に伴う引張応力、圧縮変形に伴う圧縮応力が降伏応力を超え、これにより鋼板Pの表層には引張塑性変形、圧縮塑性変形が生じる。つまり、塑性変形付与設備910によって、鋼板Pは、表面を含む表層部分において、引張塑性変形及び圧縮塑性変形が交互に繰り返し実施される。これにより、制御冷却後に鋼板Pの表面P1を含む表層部分に生じている残留圧縮応力は、緩和される。
【0075】
上記のように、表層部分に生じる塑性変形領域の厚さは、加工度Kで表すことができる。加工度Kは、当該塑性変形領域の厚みに対する鋼板Pの全厚の比である。そして、上記のように複数の下側ローラ911の上端と、複数の上側ローラ912の下端との間を蛇行することによる加工度は以下のように示される。
【0076】
すなわち、複数の上側ローラ912の下端との間を蛇行する鋼板Pの曲率kは、日比野の実用算式(参考文献1参照)及び
図12から式(1)のように求められる。
参考文献1:社団法人 日本塑性加工学会,“矯正加工-板,管,棒,線を真直ぐにする方法-Straightening of Metal Products-Technology to Straighten Sheet,Tube and Others-”,株式会社コロナ社,1992年1月20日,p.29-89
【0077】
【0078】
ただし、k:曲率
m:定数(=6:参考文献1参照)
d:インターメッシュ(押し込み量)(mm)
L:ロール半ピッチ(mm)
である。インターメッシュdは、例えば、下側ローラ911の上端の高さ(上下方向の位置座標)に鋼板Pの板厚tを加えた値と、上側ローラ912の下端の高さ(上下方向の位置座標)との差分により求められる。また、ローラ半ピッチLは、隣り合う下側ローラ911の搬送方向における中心間距離の1/2であり、隣り合う下側ローラ911と上側ローラ912の搬送方向における中心間距離であり、曲げ梁の長さに相当する。
【0079】
また、隣り合う上側ローラ912の下端同士の間を蛇行する鋼板Pにおいて、塑性変形している部分を示す降伏曲率kyは、同様に式(2)のように求められる。
【0080】
【0081】
ただし、ky:降伏曲率
sy:降伏応力(MPa)
t:板厚(mm)
E:縦弾性係数(MPa)
【0082】
【0083】
そして、一般に、上記のとおり少なくとも表面P1から厚さ0.25mmの範囲において硬度不良が問題となり、また、鋼材Pにおいて表層の硬度が変化し得る範囲としては、表面P1から厚さ0.5mmの範囲である。表面P1から厚さ0.5mmの範囲での硬度の変化を後述する電磁気特性の測定に基づいて測定する場合、電磁気特性を測定させるために鋼板Pの内部に生じさせる渦電流の浸透深さは、表面P1から少なくとも0.5mm以上とする必要がある。一方、残留応力の影響は、測定範囲となる表面P1から0.5mmの範囲だけでなく、当該範囲に隣接する範囲の残留応力状態も影響しうる。したがって、当該表層硬度変化部周辺の残留応力の影響を排除するためには、少なくとも表面P1から厚さ2.0mmの範囲について残留応力を緩和させることが望ましい。
【0084】
図13及び表1は、加工度ごとに、板厚t(mm)と塑性変形付与設備910により塑性変形した表面からの深さh(mm)との関係を計算した結果を示している。
図13及び表1に示すように、加工度を1.8以上とすることで、一般的な厚板の厚さ範囲が含まれる10mm以上の厚さtの範囲において、いずれも表面P1から厚さ2.0mmの範囲について塑性変形を生じさせて残留応力を緩和させることができる。このため、加工度としては1.8以上とすることが好ましい。また、鋼板Pに塑性変形による損傷を与えることなく残留応力を緩和させるためには加工度5.0以下であることがより好ましい。このようにして目標の加工度を決定して、鋼板Pの厚さ、鋼板Pの材質の降伏応力、縦弾性係数、及び、式(1)~式(3)に基づいて、インターメッシュdによって定まる塑性変形付与設備910における下側ローラ911と上側ローラ912との位置を決定すればよい。
【0085】
【0086】
塑性変形付与設備910は、平坦度測定部900による平坦度の測定結果に応じて、下側ローラ911と上側ローラ912との間隔を調整するものとしても良い。塑性変形付与設備910は、平坦度測定部900を設けず、平坦度測定部900の測定結果に関係なく、鋼板Pに対して平坦度矯正を実施することで鋼板Pに対して繰り返し塑性変形を施すものとしてもよい。
【0087】
また、上記においては、鋼板Pに繰り返し塑性変形を施す手段として平坦度矯正するものとしたがこれに限られるものではない。鋼板Pに対して、圧縮塑性変形と、引張塑性変形を繰り返すことで鋼板Pの表層の応力状態を調整可能であれば、例えばオイルプレス機による3点曲げを繰り返し実施するなど、他の手段によって塑性変形付与部を実現するものとしても良い。
【0088】
図14に示すように、このような鋼板製造装置1Bを用いた鋼板の製造方法では、冷却工程S5を実施した後に、平坦度測定部900及び塑性変形付与設備910によって鋼板Pを繰り返し塑性変形する塑性変形工程S30が実施される。すなわち、塑性変形工程S30では、まず鋼板Pの表面P1のうち対象となる上面P1aにおいて平坦度が測定される(ステップS30a)。そして、測定結果に基づいて、塑性変形付与設備910によって鋼板Pに対して繰り返し塑性変形が施される。(ステップS30b)。本実施形態の塑性変形工程S30では、鋼板Pの平坦度を矯正することにより鋼板Pに繰り返し塑性変形を施して鋼板Pの表層の応力状態を調整する平坦度矯正工程を実施する。これにより冷却設備50で冷却された直後の平坦度に応じて鋼板Pの矯正を行うことができる。このため、平坦度の矯正に伴って、鋼板Pの表面P1を含む表層部分の応力状態を調整し、均一化を図ることができる。そして、塑性変形工程S30が実施された後にさらにショットブラスト工程S6によって鋼板Pの上面P1aの応力状態を調整することで、対象となる上面P1aを含む表層部分の応力状態をより一層均一化することができる。
【0089】
なお、本実施形態では、全ての鋼板Pに対して平坦度矯正により鋼板Pに繰り返し塑性変形を施すものとしたが、これに限られるものではない。例えば、平坦度測定部900によって鋼板Pの平坦度を測定した結果、平坦度が所定の範囲に含まれて所定の平坦性を有している場合には、塑性変形付与設備910による平坦度矯正を実施しなくても良い。すなわち、平坦度測定部900と塑性変形付与設備910との間から、塑性変形付与設備910とショットブラスト設備60との間に繋がるバイパスを設ける。そして、所定の平坦性を有している場合には、鋼板Pをバイパスに通して塑性変形付与設備910による平坦度矯正を省略し、所定の平坦性を有していない場合のみ塑性変形付与設備910によって平坦度矯正を実施しても良い。このようにすることで、不要な平坦度矯正の実施を削減して効率良く鋼板Pを製造することができるとともに、応力状態が不均一な場合には、ショットブラスト処理と合せて確実に応力状態の均一化を図って鋼板Pを製造することができる。
【0090】
また、上記においては、鋼板Pに繰り返し塑性変形を施す方法として平坦度矯正するものとしたがこれに限られるものではない。鋼板Pに対して、圧縮塑性変形と、引張塑性変形を繰り返すことで鋼板Pの表層の応力状態を調整可能であれば、他の方法によって塑性変形付与部を実現するものとしても良い。
【実施例】
【0091】
(実施例1)
図15及び
図16は、本発明の実施例1を示している。
図15は、(a)が、第1の実施形態の鋼板製造装置1によって鋼板Pを製造した場合において、ショットブラスト設備60によってショットブラスト工程S6を実施する直前の鋼板Pの上面P1aの残留応力を測定した結果であり、また、(b)がショットブラスト工程S6を実施した直後の鋼板Pの上面P1aの残留応力を測定した結果である。鋼板PにはX65(降伏応力450MPa)を用いた。ショットブラスト処理に用いたブラスト材Aは鋼球(材質SS400)であり、粒直径1.0mmのものとした。また、ショットブラスト処理時の衝突エネルギー密度は392MJ/(m
2・分)、及び累積衝突エネルギーは1958MJ/m
2とした。残留応力はX線応力測定法によって測定した。負の値は圧縮応力を示し、正の値は引張応力を示している。また、
図15は、応力範囲ごとに示した度数分布であり、-50MPa未満-100MPa以上のバンド、-100MPa未満-150MPa以上のバンドというように50MPaのバンドごとの度数を示している。
図15(a)に示すように、ショットブラスト工程S6前における残留応力は、平均で-225MPaであり、標準偏差は77.5MPaであった。一方、
図15(b)に示すように、ショットブラスト工程S6を実施することで、鋼板Pの上面P1a全体を、平均326MPaの圧縮応力状態とし、標準偏差16.4MPaとなり、標準偏差を26MPaの範囲に収めることができた。これにより圧縮応力状態で均一化を図ることができ、その後の硬度測定工程S7において応力の影響を受けずに正確に硬度を測定できる状態とすることが確認できた。
【0092】
図16は、鋼板Pの上面P1aについて硬度測定部70Aによって電磁気特性値として増分透磁率(Ω)を測定した結果を、上面P1a上にコンターによって示したものである。増分透磁率は、測定結果から得られる
図4に示すBHループにおいて、B=0における変化率を示す値である。H=0であれば、H=+Hcの場合でも、H=-Hcの場合でも構わない。
図16(a)は冷却工程S5実施直後の測定結果を示している。また、
図16(b)はショットブラスト工程S6実施直後の測定結果を示している。
図16(a)に示すように、冷却工程S5実施直後では、鋼板Pの上面P1a上の増分透磁率の測定結果は大きなむらとなって表れている。これは、冷却工程S5までの工程の影響により鋼板Pの上面P1aを含む表層部分の応力状態が不均一であり、応力の影響を受けて増分透磁率の測定結果もばらつきが生じてしまっていることによる。一方、
図16(b)に示すように、ショットブラスト工程S6実施直後では、ショットブラスト処理により鋼板Pの上面P1aを含む表層部分の応力状態について圧縮応力側で均一化が図られて、これにより応力の影響を受けずに増分透磁率の測定結果にもばらつきが生じていない。このため、硬度の影響によるわずかな増分透磁率の変化も検出が可能となっている。
【0093】
(実施例2)
図17は、本発明の実施例2を示している。実施例2では、第1の実施形態の鋼板製造装置1によって鋼板Pを製造した場合において、各種条件を変えてショットブラスト設備60によってショットブラスト工程S6を実施した直後の鋼板Pの上面P1aの残留応力を測定し、応力状態の均一化の程度を評価した。具体的には、表2に示すように、実施例2-1~2-6については、ブラスト材Aを球状として平均粒直径を1.0、2.0、3.5mmとした。実施例2-7については、ブラスト材Aを多角粒子状として平均粒相当直径を0.5mmとした。平均粒相当直径は重量及び比重から体積を求め、当該体積をブラスト材Aの数で割った値から求めた。なお、ブラスト材Aはいずれの実施例においても鋼材から形成されている。また、実施例2-1~2-7において、噴射速度、噴射流量、噴射面積、鋼板Pの通板速度を変化させることで、ブラスト材Aによって鋼板Pに与えられる衝突エネルギー密度及び累積エネルギー密度を異なるものとした。そして、実施例1同様にブラスト材Aを噴射させた鋼板Pの上面P1aの残留応力を測定し標準偏差を求めた。標準偏差が40MPa以下の場合には応力状態が均一化されたと判断して○または◎と評価し、特に標準偏差が26MPa以下の場合には応力状態がより均一化されたと判断して◎とした。また、標準偏差が40MPa超えの場合には応力状態が不均一なままと判断して×とした。また、ショットブラスト工程S6実施後の表面P1の粗度を測定した。粗度は、JIS B 0601 付属書JAにより、十点平均粗さR
ZJISとした。そして、粗度が100μm以下の場合には○または◎と評価し、特に粗度が50μm以下の場合には◎とした。また、粗度が100μm超えの場合には表面の粗度が鋼材として不適切と判断して×とした。
【0094】
【0095】
実施例2-1~2-7に示すように、応力状態の均一化が×と判定された例はなく、いずれも標準偏差が40MPa以下となり応力状態の均一化が図られた。また、実施例2-1、2-2、2-4、2-5については標準偏差が26MPa以下となり特に応力状態の均一化が図られた。また、実施例2-1~2-7に示すように、表面の粗度が×と判定された例はなく、いずれも粗度が100μm以下となった。また、特に実施例2-1~2-4、2-6、2-7については粗度が50μm以下となり特に表面の粗度を良好なものとすることができた。応力の均一化及び表面の粗度を総合して、いずれの実施例2-1~2-7においても基準値を満たし、特に実施例2-1、2―2、2-4においては応力の均一化、表面の粗度のいずれもより好ましい範囲に含まれる結果となった。
【0096】
図17は、実施例2-1~2-7の結果を、X軸を衝突エネルギー密度、Y軸を累積衝突エネルギーとしたグラフにプロットしたものである。なお、実施例2-4~2-6のプロットは、実施例2-1のプロットに重なっている。この結果から、衝突エネルギー密度は40MJ/(m
2・分)以上であることが好ましく、200MJ/(m
2・分)以上であることがより好ましく、また、累積衝突エネルギーは1100MJ/m
2以上であることが好ましいことが明らかとなった。
【0097】
以上、本発明の実施形態及び実施例について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0098】
1、1A、1B 鋼板製造装置
30 圧延部
50 冷却部
60 ショットブラスト部
70、70A 硬度測定部
90 硬度判定部
A ブラスト材
P 鋼板
P1 表面
Q 鋼管
Q1 内面
S スラブ
S3 圧延工程
S5 冷却工程
S6 ショットブラスト工程
S7 硬度測定工程
S8 硬度判定工程
S11 除去工程
S21 第一のプレス工程
S22 第二のプレス工程
S23 溶接工程
S30 塑性変形工程
W 硬度不良部位