(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】摺動用積層成形体及びその製造方法並びにホットランテーブル用ガイド板
(51)【国際特許分類】
B32B 5/28 20060101AFI20231206BHJP
B32B 27/42 20060101ALI20231206BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20231206BHJP
B29K 61/00 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
B32B5/28 A
B32B27/42 101
B29B11/16
B29K61:00
(21)【出願番号】P 2020131001
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】小林 三晃
(72)【発明者】
【氏名】平 拓馬
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特許第5216170(JP,B2)
【文献】特開平07-269480(JP,A)
【文献】登録実用新案第3190042(JP,U)
【文献】特許第3894200(JP,B2)
【文献】特開2018-034388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 70/00-70/88
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/00- 5/24
B29C 43/00-43/58
B21B 39/00-41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性繊維製基材と該基材に含浸させた熱硬化性樹脂組成物とで構成される複数のプリプレグの積層体で構成される摺動用積層成形体であって、
前記プリプレグは、相対して重なり合う積層面と該積層面の周縁端部とで構成され、
前記摺動用積層成形体の摺動面は、複数の前記プリプレグを積層することで生じる前記周縁端部に由来するプリプレグ端線が略平行に形成されている平面であり、前記プリプレグ端線に沿う方向を基準として±45°の範囲を摺動方向とする、摺動用積層成形体。
【請求項2】
前記摺動面に直交する厚さ方向を有し、前記のプリプレグ端線に沿う方向に直交する前記厚さ方向の断面において、前記複数のプリプレグが、前記のプリプレグ端線に沿う方向の長さ全体に亘って屈曲又は湾曲した構造を有する、請求項1記載の摺動用積層成形体。
【請求項3】
前記耐熱性繊維製基材が、ガラス繊維、アラミド繊維及びポリノジック繊維から選択される少なくとも一種を含む繊維の織物である、請求項1又は2に記載の摺動用積層成形体。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂組成物が、樹脂成分としてフェノール樹脂を含む請求項1~3の何れか一項に記載の摺動用積層成形体。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の摺動用積層成形体を備えるホットランテーブル用ガイド板。
【請求項6】
請求項2~4の何れか一項に記載の摺動用積層成形体の製造方法であって、
型内に矩形状に切り揃えた複数の原料プリプレグを相対する前記積層面が平行になるように充填し、加熱下で、前記積層面に対して平行に加圧し、前記原料プリプレグを、前記厚さ方向の断面において、加圧する前の前記積層面に平行で加圧する方向に直交方向の前記原料プリプレグの長さ全体に亘って、屈曲又は湾曲させた状態で硬化させる、摺動用積層成形体の製造方法。
【請求項7】
前記積層面に対して平行に加圧することで、型内面からの反力で、加圧方向に直交する方向に同時に加圧する、請求項6記載の摺動用積層成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動用積層成形体及びその製造方法並びに前記摺動用積層成形体を備えるホットランテーブル用ガイド板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等の樹脂成分と繊維製基材とを組み合わせた複合材料は、金属材料より軽量で、高強度とすることが可能であることが多いため、各種の用途で広く用いられている。このような複合材料は、一般的には、樹脂成分を繊維製基材に含浸させたプリプレグを積層し、積層面に対して直交方向に加熱下で加圧することで積層体を得て、この積層体に対して必要に応じて所望の形状になるように機械加工を施して製造されているが、各種の用途等に応じて、樹脂や繊維の素材を選択したり、積層構造やプリプレグの形状を改良したものが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、連続熱間鋼板圧延設備における仕上圧延機から巻取機にいたるホットランテーブルに使用されるガイド板であって、ガラス繊維、アラミド繊維及びポリノジック繊維を混紡した混紡糸を用いて製織した基材に熱硬化性樹脂を含浸させた樹脂含浸シートを積層し、加熱加圧成形した樹脂積層板からなることを特徴とするホットランテーブル用ガイド板が開示されている。また、このような構成により、高温耐久性に優れ、ホットランテーブルにおける熱延鋼帯の安定した通板性能を長期間にわたって確保することができるとされている。
【0004】
特許文献2には、連続繊維を用いた強化繊維樹脂プリプレグにおいて、各強化繊維を平面内で長手方向に沿って平行にかつ整列して引き揃えた状態で一周期内で各単繊維の屈曲形状を等しく揃えて屈曲せしめ、マトリックス樹脂によって固定したことにより、大きなせん断変形を可能としたことを特徴とする深絞り加工可能な強化繊維樹脂プリプレグが記載されている。また、このような構成により、三次元曲面に沿った成型品を製造可能な強化繊維樹脂プリプレグを安価に提供可能であるとされている。
【0005】
特許文献3には、層間強化材からなる多孔シートと、前記多孔シートの少なくとも一方の面に付着された熱融着材と、前記多孔シートの前記一方の面において前記熱融着材に接着された強化繊維束とを備え、少なくとも一部の前記強化繊維束には、前記強化繊維束が屈曲又は湾曲された方向転換部が形成されている強化繊維シートが開示されている。また、このような構成により、強度的な品質に優れた強化繊維シート及び繊維強化複合材を提供することができるとされている。
【0006】
特許文献4には、繊維を方向性を持たせたままプラスチックの中に入れて強化することで形成される一方向繊維強化層を、前記繊維の方向が厚さ方向に対称となり、且つR部を形成するように複数積層した繊維強化層積層部を有する積層複合材料構造において、前記R部の始端から終端の範囲に、前記繊維強化層積層部のみによって形成されるR部よりもR部の厚さが大となるように補強材を配置したことを特徴とする積層複合材料構造が開示されている。また、このような構成により、R部の強度を向上させることができるとされている。
【0007】
特許文献5には、補強材がポリエステル繊維織布であり、マトリックス樹脂がフェノール類原料としてビスフェノールAを50-100モル%で含むレゾール型フェノール樹脂硬化物およびポリフッ素化エチレン樹脂である、少なくとも積層物の厚さ方向断面を摺動面とする摺動部材が開示されている。また、このような構成により、従来品と比較して非常に長時間使用することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3894200号公報
【文献】特許第6310578号公報
【文献】特許第5614384号公報
【文献】特開2010-143155号公報
【文献】特許第5216170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、本出願人は、例えば特許文献1に記載のようなホットランテーブルに使用されるガイド板を提供している。このガイド板は、高温耐久性に優れ、ホットランテーブルにおける熱延鋼帯の安定した通板性能を長期間にわたって確保することが可能である。しかし、相応に長期間使用した際には、樹脂積層板の表面近傍の樹脂含浸シートが高温にさらされて、熱硬化性樹脂が劣化して分解ガスを生じたり、内部に吸着していた水分が気化したりして、表面近くの内部に局所的な剥離が発生し、表面が膨れるフクレ現象を生じる場合がある。このフクレが発生した状態で鋼板を摺動させると、フクレが生じた部分が破壊してクレーター状の層剥離を生じることとなる。また、高温にさらされた熱硬化性樹脂が熱劣化して接着強度が低下した状態で鋼板を摺動させると、その衝撃により熱劣化した熱硬化性樹脂や繊維基材が剥離する場合がある。
【0010】
そこで、本発明者は、このようなフクレ現象又は熱劣化による接着強度の低下及びそれに伴う剥離の発生を抑制すべく、鋭意検討を行った。その結果、例えば、特許文献1~4に記載のように、耐熱性繊維製基材に熱硬化性樹脂組成物を含浸させたプリプレグの積層体において、プリプレグの表面及び裏面のうちの一方の面を摺動面となるようにするのではなく、積層面とその周縁端部で構成されるプリプレグを積層した結果生じるプリプレグの周縁端部が連続して形成される面ないしは積層体の積層方向に平行な断面を摺動面とすることを検討した。このようは積層体の厚さ方向断面を摺動面とすることは特許文献5に開示されている。
【0011】
しかし、特許文献5に記載の摺動部材は、エアモータ用ベーンに適用される摺動部材しか記載されていない。また、エアモータ用ベーンは、一般的には、ローターの回転軸方向に延びる、直線状の上辺及び凸状に連続する屈曲線状の下辺と、回転軸に対して放射方向に延びる両側辺とを有する所定厚みの平板状の構造を有する。そして、ベーンは、平行な2つの側面と、両側面を連結する、前記上辺、下辺、各側辺において形成される厚み方向の各周面とを有し、その側面はローターの回転軸に対して放射方向に摺動し、上辺の周面がローター室の内壁面に対して摺動する。このようなベーンでは、その側面に、積層体の積層面が形成され、ローター室の内壁面に対して摺動する上辺における周面に、積層体の厚さ方向断面が形成されるように、積層体に対して切削加工が施されるのが普通である。そのような切削加工により得られる摺動部材をベーンとして用いる結果、特許文献5に記載の摺動部材では、プリプレグの積層方向に平行な方向、換言すると、プリプレグの積層面に直交する方向に、摺動部材であるベーンを摺動させることになる。そして、このように、積層体の積層方向に平行な断面を摺動面として有し、摺動方向がプリプレグの積層方向に平行な方向とする摺動部材を、例えば、ホットランテーブルに使用されるガイド板として用いると、フクレ現象は防止できるが、摺動面において剥離が発生することを確認した。
【0012】
そこで、本発明の目的は、高温にさらされた場合でもフクレの発生を防止可能で、かつ、摺動面の摩耗及び剥離の抑制が可能な摺動用積層成形体を提供すること、このような積層成形体を容易に製造可能な製造方法を提供すること、このような摺動用積層成形体を備えるホットランテーブル用ガイド板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前述の課題解決のために鋭意検討を行った。その結果、プリプレグの積層体で構成される摺動用積層成形体において、積層面とその周縁端部とで構成されるプリプレグの積層方向に平行な平面を摺動面とし、この摺動面に形成されている周縁端部に由来する直線状の端線に沿う方向を基準として±45°の範囲を摺動方向とすることで、前述の課題が解決可能であることを見出した。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0014】
(1)耐熱性繊維製基材と該基材に含浸させた熱硬化性樹脂組成物とで構成される複数のプリプレグの積層体で構成される摺動用積層成形体であって、前記プリプレグは、相対して重なり合う積層面と該積層面の周縁端部とで構成され、前記摺動用積層成形体の摺動面は、複数の前記プリプレグを積層することで生じる前記周縁端部に由来するプリプレグ端線が略平行に形成されている平面であり、前記プリプレグ端線に沿う方向を基準として±45°の範囲を摺動方向とする、摺動用積層成形体。
(2)前記摺動面に直交する厚さ方向を有し、前記のプリプレグ端線に沿う方向に直交する前記厚さ方向の断面において、前記複数のプリプレグが、前記のプリプレグ端線に沿う方向の長さ全体に亘って屈曲又は湾曲した構造を有する、前項(1)記載の摺動用積層成形体。
(3)前記耐熱性繊維製基材が、ガラス繊維、アラミド繊維及びポリノジック繊維から選択される少なくとも一種を含む繊維の織物である、前項(1)又は(2)に記載の摺動用積層成形体。
(4)前記熱硬化性樹脂組成物が、樹脂成分としてフェノール樹脂を含む前項(1)~(3)の何れか一項に記載の摺動用積層成形体。
(5)前項1~4の何れか一項に記載の摺動用積層成形体を備えるホットランテーブル用ガイド板。
(6)前項2~4の何れか一項に記載の摺動用積層成形体の製造方法であって、型内に矩形状に切り揃えた複数の原料プリプレグを相対する前記積層面が平行になるように充填し、加熱下で、前記積層面に対して平行に加圧し、前記原料プリプレグを、前記厚さ方向の断面において、加圧する前の前記積層面に平行で加圧する方向に直交方向の前記原料プリプレグの長さ全体に亘って、屈曲又は湾曲させた状態で硬化させる、摺動用積層成形体の製造方法。
(7)前記積層面に対して平行に加圧することで、型内面からの反力で、加圧方向に直交する方向に同時に加圧する、前項6記載の摺動用積層成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高温にさらされた場合でもフクレの発生を防止可能で、かつ、摺動面の摩耗及び剥離の抑制が可能な摺動用積層成形体を提供すること、このような積層成形体を容易に製造可能な製造方法を提供すること、このような摺動用積層成形体を備えるホットランテーブル用ガイド板を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第一実施形態に係る摺動用積層成形体を模式的に示した斜視図である。
【
図2】(a)摺動用積層成形体に用いられるプリプレグの外観形状を模式的に示した斜視図である。(b)第一実施形態に係る摺動用積層成形体の製造方法を説明するための説明図である。
【
図3】第二実施形態に係る摺動用積層成形体を模式的に示した斜視図である。
【
図4】第二実施形態に係る摺動用積層成形体の製造方法を説明するための説明図である。
【
図5】第二実施形態に係る摺動用積層成形体の製造方法を説明するための説明図である。
【
図6】第二実施形態に係る摺動用積層成形体の製造方法を説明するための説明図である。
【
図7】第一実施形態に係る摺動用積層成形体の表面に形成される縞模様の一例の撮像を示した図である。
【
図8】実施例及び比較例の摩耗測定に用いたブロックオンリング型摩擦摩耗試験機の概要を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態に係る摺動用積層成形体は、耐熱性繊維製基材と該基材に含浸させた熱硬化性樹脂組成物とで構成される複数のプリプレグの積層体で構成される。また、このプリプレグは、相対して重なり合う積層面と該積層面の周縁端部とで構成される。さらに、前記摺動用積層成形体の摺動面は、複数の前記プリプレグを積層することで生じる前記周縁端部に由来するプリプレグ端線が略平行に形成されている平面であり、前記プリプレグ端線に沿う方向を基準として±45°の範囲を摺動方向とする。
【0018】
ここで、プリプレグ端線(以下、単に「端線」と称する場合がある。)は、プリプレグの周縁端部に由来するため一定の幅を有する概念である。端線は、プリプレグに含まれる耐熱性繊維製基材及び熱硬化性樹脂組成物の層により形成されるため、その各厚みが端線として摺動面等に表れる。端線に沿う方向とは、摺動面に形成されている複数の端線全体として把握可能な方向を意味する。プリプレグの周縁端部は、摺動用積層成形体の外表面に現れる部分を基準に確定される。つまり、製造過程におけるプリプレグの周縁端部に限られないことを意味する。「プリプレグ端線が略平行に形成されている」とは、複数のプリプレグ端線がそれぞれ平行である場合のほか、端線が完全に平行ではないまでも、全体として各プリプレグ端線が同程度の間隔で並行する場合を含む。
【0019】
このように、摺動面を複数の前記プリプレグを積層することで生じる前記周縁端部に由来するプリプレグ端線が略平行に形成されている平面とすることで、例えば高温の鋼板を摺動させた際に摺動面近傍で樹脂分解ガスや低分子量成分、水分などのガスが発生しても、各プリプレグの周縁端部が摺動面に位置していることで、これらのガスが摺動面の表面の周縁端部から外部に逃げやすくなるため、フクレ現象を防止することができる。また、プリプレグの積層面を摺動面とする場合に比べて摩耗特性を向上させることができる。さらに、摺動面に形成されているプリプレグの周縁端部に由来する直線状の端線に沿う方向を基準として±45°の範囲を摺動方向とすることで、特許文献5に記載の摺動部材のように端線に直交する方向を摺動方向とする場合とは異なり、摺動による積層体の剥離現象が抑えられスムースに鋼板等を摺動させながら搬送できる。
【0020】
耐熱性繊維製基材としては、耐熱性繊維を用いて形成された基材であれば、特に限定はなく、布帛等が挙げられる。布帛としても特に限定はなく、例えば織物、編物、不織布等のシート状の形状を有するものが挙げられるが、織物が好ましい。織物は、経糸と緯糸とが互いに交錯してできたものである。織物の組織は特に限定はなく、各種の織物組織が採用され得る。例えば、一重組織、重ね組織、からみ組織等が挙げられる。このうち、一重組織がこのましい。一重組織としては、平織、綾織、朱子織の3原組織、これらの変化組織、3原組織と変化組織を混ぜた組織である混合組織、3原組織及び変化組織によらない組織、模様を浮き出した紋織が挙げられる。このうち、平織が好ましい。
【0021】
耐熱性繊維としては、耐熱温度が200℃以上であるものが好ましく、400℃以上のものがより好ましく、500℃以上のものがさらに好ましい。耐熱温度とは、熱分解温度又は融点を意味する。
【0022】
耐熱性繊維は、前述の耐熱温度を有するものであれば、無機繊維、有機繊維、これらの混合物のいずれでもよい。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、セラミック繊維、シリカ繊維等が挙げられる。有機繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリノジック繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、綿繊維等が挙げられる。
【0023】
耐熱性繊維製基材の好適例としては、例えば、特許文献1に記載のものである。即ち、ガラス繊維、アラミド繊維及びポリノジック繊維を混紡した混紡糸を用いて製織した織物である。このような混紡糸は、ガラス繊維、アラミド繊維及びポリノジック繊維を常法に従って混紡機により所定の割合で混合し、カード機によりカーディングしたスライバーを紡糸して得られる。前記ガラス繊維は、特に限定されるものではなく、Eガラス、Dガラス、シリカガラス等をいずれも使用することができる。また、ガラス繊維の繊維長や繊維径は、例えば、繊維長が25~75mm、繊維径が5~10μm程度であるが、特に限定されるものではなく、混紡可能なサイズであればよい。また、前記アラミド繊維としては、パラ系及びメタ系のいずれであってもよいが、成形後の樹脂積層板の切削加工性の点ではメタ系が好ましい。アラミド繊維としては、例えば帝人社製のコーネックス(登録商標)、同じくテクノーラ(登録商標)やデュポン社製のケブラー等を使用することができる。このアラミド繊維の繊維長や繊維径についても特に限定されるものではなく、前記ガラス繊維と同様に紡績可能なサイズであればよい。更に、前記ポリノジック繊維についても、前記ガラス繊維やアラミド繊維と同様に紡績可能なサイズであればよい。前記ガラス繊維、アラミド繊維及びポリノジック繊維の混紡比(重量比)は、混紡糸、ひいてはそれから製織される織布(基材)の強度、耐久性(寿命)、コスト、紡糸時の加工性などのバランスから、ガラス繊維:アラミド繊維:ポリノジック繊維=40~70:5~50:5~40の範囲内とすることが好ましく、例えばガラス繊維:アラミド繊維:ポリノジック繊維=55:30:15である。前記混紡糸は、単糸のまま使用してもよいが、撚り合わせて双糸として使用することで、これから製織される基材の強度を向上させるとともに、基材の厚みが厚くなることで、マトリックスとしての熱硬化性樹脂の含浸量が増大する、また、基材が嵩高くなることで、樹脂マトリックスと繊維、繊維間の絡み合いが増え、積層板強度を向上させることができる。基材の製織方法は特に限定されず、平織り、あや織り、朱子織り等、何れでもよいが、コスト面からは平織りが好ましい。また、製織される基材(織布)の目付重量としては、例えば前記ガラス繊維:アラミド繊維:ポリノジック繊維=55:30:15の混紡糸から製織する場合は300~1000g/m2の範囲内とすることが好ましい。300g/m2未満では基材(織布)の強度が不足して樹脂含浸時に基材が切れてしまうおそれがある。また、1000g/m2を超えると基材への樹脂の含浸性が低下する傾向にある。
【0024】
熱硬化性樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂としては、特に限定はなく、例えば、フェノール樹脂、ポリイミド、エポキシ樹脂等が挙げられる。このうち、耐熱性、コスト、加工性等のトータルバランスに優れたフェノール樹脂が好ましい。フェノール樹脂としては、一般的な耐熱用レゾール樹脂(例えば、クレゾール変性、ホウ素変性等)でよく、特に限定されない。
【0025】
熱硬化性樹脂組成物には、摺動用積層成形体の耐摩耗性、摺動特性の改善等を目的として、グラファイト、マイカ、カーボンブラック等の固体潤滑剤を添加したり、その他の添加剤を添加したりすることもできる。
【0026】
プリプレグは、耐熱性繊維基材に熱硬化性樹脂組成物を含浸させたものであり、必要に応じて熱硬化性樹脂組成物中の熱硬化性樹脂成分を一部硬化させた(例えば、B-ステージ化した)もの、揮発性成分を含む場合は、これの一部又は全部を揮発させ固化状態にしたものも含む。プリプレグは、例えば、ディッピング等の従来公知の方法で作製することができる。プリプレグないしプリプレグの積層体は、熱硬化性樹脂成分をより硬化させた(例えば、完全に硬化させた)硬化物として摺動用積層形成体に含まれる。また、摺動用積層成形体を製造する際に用いる原料としてのプリプレグは原料プリプレグと称する。
【0027】
プリプレグは、積層面と該積層面の周縁端部とで構成される。積層面は隣接するプリプレグと相対して重なり合う面である。耐熱性繊維製基材が例えば布帛である場合、布帛の表裏の面に平行な2つの面が積層面となり、2つの積層面の周縁から両積層面に連続する部分が周縁端部となる。プリプレグは、後述するように、硬化前において(つまり原料プリプレグとして)、例えば矩形状を有する。矩形状には、長方形、正方形が含まれる。
【0028】
耐熱性繊維製基材への熱硬化性樹脂組成物の含浸量(固形分基準)としてはプリプレグ(含浸シートとも称する。)の全体の重量の35~60%の範囲とすることが好ましい。含浸量が35重量%未満では積層したプリプレグ間の充分な接着性が得られにくい傾向にあり、60重量%を超えると耐熱性繊維製基材による補強効果が発揮されにくくなる傾向にある。プリプレグの重量は、例えば750g/m2~2000g/m2の範囲とすることができ、厚みは、例えば1.0~2.0mm程度、通常、1.5~1.6mm程度とすることができる。
【0029】
複数のプリプレグの積層体で構成される摺動用積層成形体には、その摺動面に、複数のプリプレグを積層することで周縁端部に由来するプリプレグ端線が略平行に形成されている。プリプレグ端線は、直線状であるのが好ましい。また、摺動面は平面である。換言すると、平面である摺動面には、外観上プリプレグの周縁端部に由来する、好ましくは直線状のプリプレグ端線の縞模様が形成されている。そして、その端線に沿う方向を基準として±45°の範囲が摺動方向となる。摺動方向は、その基準に対する角度が、好ましくは±30°、より好ましくは±15°、最も好ましくは0°(即ち、端線に沿う方向)である。このような構成を有するものであれば、積層体の構造は特に限定はない。以下では、代表的な2つの構造を例にして図面を参照しながら説明する。尚、プリプレグ端線が直線状とは、直線である場合のほか、ある程度湾曲等した部分が存在する場合を含む。
【0030】
(第一実施形態)
第一実施形態に係る摺動用積層成形体1は、
図1に示すように、複数のプリプレグ2aを積層することで生じる周縁端部4bに由来するプリプレグ端線4aが略平行に形成されている平面である摺動面3を有する。換言すると、プリプレグ2aの積層方向xに対して平行に形成された平面である摺動面3を天面に有し、摺動面3には、プリプレグ2aの積層方向xに対して直交する方向にプリプレグ2aの周縁端部4b、本実施形態では、後述する各原料プリプレグ2の周縁端部(
図2(a)の符号4)に由来する直線状の各端線4aの縞模様5が形成されている。摺動面3とは反対側に、当該摺動面3と平行に、摺動面3となり得る面3aが形成される。つまり、この面3aにも摺動面3と同様に複数のプリプレグ端線4aが略平行に形成され、縞模様5aが形成されている。
図1に示す第一実施形態では、端線4aに沿う方向、即ち、積層方向xに直交し、摺動面3に平行な方向に摺動方向yが形成される。また、成形体1は、プリプレグ2aの積層方向x及び摺動面3に対して直交するように形成された平面であり、積層したプリプレグ2aの末端の積層面8aに対応する2つの側面を有する。さらに、成形体1は、摺動方向y及び摺動面3に直交するように形成された平面であり、その表面に後述する原料プリプレグ2の周縁端部(
図2(a)の符号41)に由来する屈曲又は湾曲した縞模様7が形成されている2つの正面6を有する。換言すると、正面6において、各プリプレグ2aの周縁端部41bが屈曲又は湾曲した構造を有している。
【0031】
このように、成形体1は、摺動面3これと平行な面3a、積層面8aで形成される両側面及び両正面6で確定される直方体の形状を有する。そして、両正面6において、各プリプレグ2aの周縁端部41bが屈曲又は湾曲した構造を有する、換言すると、両正面6に、本実施形態では、後述する各原料プリプレグ2の周縁端部41(
図2(a))に由来する屈曲又は湾曲した縞模様7が形成されている。このような屈曲又は湾曲した縞模様7は、摺動方向yの全長に亘り、摺動面3に直交する厚さ方向zの断面においても形成されている。つまり、プリプレグ2aは摺動方向yの長さは維持しつつ厚さ方向zにおいては折り曲げられて屈曲又は湾曲した構造を有している。屈曲又は湾曲の角度は、高温の圧延鋼板に触れることで発生する分解ガスや低分子量成分が逃げやすくする観点から、摺動面3近傍では、摺動面3に対して90°~60°が好ましく、90°~70°がより好ましく、90°~80°がさらに好ましい。また、より良好なへき開強さを得る観点から、摺動面3近傍以外の部分では、屈曲又は湾曲の角度は、摺動面3に対して95~75°が好ましく、75~60°がより好ましく、60~0°がさらに好ましい。尚、所定の断面において屈曲した構造とは、所定の断面において、少なくとも1ヶ所折れ曲がった部分を有する線状の構造を意味する。また、所定の断面において湾曲した構造とは、所定の断面において、少なくとも1ヶ所、弧状の部分を有する線状の構造を意味する。所定の断面において屈曲又は湾曲した構造とは、屈曲した構造及び湾曲した構造を有する場合を含む。また、屈曲した構造や湾曲した構造は、何れの構造においても、各プリプレグ2aにおいて異なってよいし、類似する構造の部分が1ヶ所以上含まれてもよい。湾曲の角度は、湾曲部分の接線方向において前述のような角度となる部分が含まれていればよい。
【0032】
このように、摺動方向yに直交する厚さ方向zの断面において、積層された状態の各プリプレグ2aが、その周縁端部41bが屈曲又は湾曲構造を有する、換言すると、屈曲又は湾曲した縞模様7が形成されるような断面構造を有することで、このような断面構造を有さない場合に比べて、プリプレグ2aの積層間のへき開強度が高くなり、積層成形体1のたわみによる破壊や被摺動物の衝突による破壊を防止することができる。したがって、摺動面3における前述のフクレ現象防止効果との相乗効果により、高温耐久性が一層向上する。
【0033】
尚、以上の実施形態では、摺動方向yを端線4aに沿う方向とした場合について説明したが、端線4aに沿う方向を除き、当該方向を基準にして±45°の範囲に摺動方向を定めた場合も、端線4aに沿う方向において同じ断面構造を有する。したがって、摺動方向yを端線4aに沿う方向とした場合と同様の屈曲又は湾曲した構造による効果を奏し得る。
【0034】
このような積層成形体1は、例えば、以下のようにして製造することができる。先ず、定法に従って、前述の耐熱性繊維製基材に対して熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、切断し、
図2(a)に模式的に示すような平板状の矩形状の原料プリプレグ2を製造する。原料プリプレグ2は、積層成形体1を製造するための原料として用いられるものであり、その両面に積層面8を有し、両積層面8の周縁と連続する周縁端部4、41を有する。積層面8は、長方形であるがこれに限定されず、正方形であってもよい。次に、
図2(b)に示すように、原料プリプレグ2を相対する積層面8が平行になるように、キャビティ10に充填する。原料プリプレグ2の積層方向xの積層厚みに対するキャビティ10の長さは、原料プリプレグ2の特性、圧縮の程度、得られる積層成形体1の密度等を考慮して適宜選択することができる。積層方向xに直交し、積層成形体1のプリプレグ端線に沿う方向(摺動方向)yに対応する方向の原料プリプレグ2の長さに対するキャビティ10の長さは、原料プリプレグ2の長さより長ければ特に限定はなく、原料プリプレグ2の特性、圧縮の程度、得られる積層成形体1の密度等を考慮して適宜選択することができる。
【0035】
次いで、加熱下で、原料プリプレグ2の積層面8に対して平行に、即ち、積層方向xに対した直交方向に(
図2(b)の矢印方向)、パンチを用いて加圧する。このように加圧することで、シート状の原料プリプレグ2は、積層方向xに直交する方向からの応力により折り曲げられて、屈曲又は湾曲する。この時、加圧方向zに直交する平面で、原料プリプレグ2が周縁端部4の側から加圧されることで、加圧方向zに直交する面に平行な方向の変形は抑制され、直線状に維持される。そして、この状態で加熱加圧を維持することで、原料プリプレグ2のプリプレグ端線に沿う方向(摺動方向)yの長さは加熱加圧前の長さと同程度に保持されるが、加圧方向zにおいてはプリプレグ端線に沿う方向(摺動方向)y方向の全長に亘って原料プリプレグ2が折り曲げられ、原料プリプレグ2が屈曲又は湾曲した状態で保持され、硬化させる。加圧状態を保持した状態で冷却した後、脱型する。尚、前述のように金型内で原料プリプレグ2の積層充填物を加熱下で、原料プリプレグ2の積層面8に平行に加圧することで、原料プリプレグ2が折れ曲がるに従い型内面からの反力で、加圧方向zに直交する方向に同時に加圧される。また、加熱加圧時の温度、加圧、時間の各条件は、適宜決定することができる。
【0036】
このようにして得られる積層成形体1には、硬化したプリプレグ2aの周縁端部4bに由来する端線4aが略平行に形成されている平面である摺動面3が形成されている。換言すると、積層成形体1の摺動面3(摺動方向)yには、原料プリプレグ2の周縁端部4に由来する直線状の端線4aの縞模様5が形成されている。また、端線4aに沿う方向(摺動方向)yに直交する厚さ方向zの断面において、積層されている各プリプレグ2aが端線4aに沿う方向(摺動方向)yの長さ全体に亘って屈曲又は湾曲した構造を有する、換言すると、各プリプレグ2aの周縁端部41bにより形成される、本実施形態では原料プリプレグ2の周縁端部41に由来する屈曲又は湾曲した縞模様が形成される(例として、
図7参照)。また、摺動方向をプリプレグ端線4aに対して所定の角度を有するようにする場合は、例えば、積層成形体1に対して、摺動方向がプリプレグ端線4aに沿う方向に対して所定角度を有する構造になるように機械加工を施して所望の形状にすることができる。
【0037】
(第二実施形態)
第二実施形態に係る摺動用積層成形体11は、
図3に示すように、複数のプリプレグ2bを積層することで生じる周縁端部14に由来するプリプレグ端線14aが略平行に形成されている平面である摺動面13を有する。換言すると、プリプレグ2bの積層方向xに対して平行に形成された平面である摺動面13を天面に有し、摺動面13には、プリプレグ2bの積層方向xに対して直交する方向にプリプレグ2bの周縁端部14に由来する直線状の端線14aの縞模様15が形成されている。摺動面13とは反対側に、当該摺動面13と平行に、摺動面13となり得る面13aが形成される。つまり、この面13aにも摺動面13と同様に複数のプリプレグ端線14aが略平行に形成され、縞模様15aが形成されている。端線14aに沿う方向、即ち、積層方向xに直交し、摺動面13に平行な方向に、摺動方向yが形成される。また、成形体11は、プリプレグ2bの積層方向x及び摺動面13に対して直交するように形成された平面であり、積層したプリプレグ2bの末端の積層面8bに対応する2つの側面を有する。さらに、成形体11は、端線14aに沿う方向(摺動方向)y及び摺動面13に直交するように形成された平面であり、その表面に原料プリプレグ2の周縁端部(
図2(a)、
図4の符号41)に由来する直線状の端線14bの縞模様17が形成されている2つの正面16を有する。
【0038】
このように、成形体11は、摺動面13これと平行な面13a、積層面8bで形成される両側面及び両正面16で確定される直方体の形状を有する。そして、摺動面13及び面13a並びに両正面16には、プリプレグ2bに由来する直線状の端線14a、14bの縞模様15、17が形成されている。正面16に形成されている直線状の端線14bの縞模様7は、端線14aに沿う方向(摺動方向)yの全長に亘り、摺動面13に直交する厚さ方向zの断面においても形成されている。換言すると、プリプレグ2bは、摺動面13に直交する厚さ方向zの断面において、端線14aに沿う方向(摺動方向)yの長さ全体に亘って直線状の構造を有している。第二実施形態に係る成形体11は、第一実施形態に係る成形体1と異なり、厚さ方向zの断面方向に屈曲又は湾曲した断面構造を有さないため、第一実施形態と比べるとへき開強度は低くなるが、摺動面13にはプリプレグ2bの周縁端部14が位置し、直線状の端線の縞模様が形成されているため、前述のようにフクレ現象を防止することができる。
【0039】
尚、本実施形態では、摺動方向yを端線14aに沿う方向とした場合について説明したが、端線14aに沿う方向を除き、当該方向を基準にして±45°の範囲に摺動方向を定めた場合も、端線14aに沿う方向において同じ断面構造を有する。したがって、摺動方向yを端線4aに沿う方向とした場合と同様の屈曲又は湾曲した構造による効果を奏し得る。
【0040】
このような積層成形体11は、例えば、以下のようにして製造することができる。先ず、定法に従って、前述の耐熱性繊維製基材に対して熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、必要に応じて切断し、
図4に模式的に示すような複数の平板状の原料プリプレグ2を製造する。次に、
図4に示すように、原料プリプレグ2を積層面8が平行になるように、いわゆる平積みに積層する。必要に応じて、金型内に充填してもよい。次いで、加熱下で、原料プリプレグ2の積層面8に対して直交方向(
図4の矢印方向)に、プレス機を用いて積層面8全体を加圧する。加熱加圧状態を所定時間保持した後、加圧状態を保持した状態で冷却し、加圧状態を解除する。金型を用いた場合は脱型する。このようにして得られる積層成形中間体18は、
図5に示すように隣接する加熱加圧処理後の原料プリプレグ2が積層面8同士で平行に接合された構造を有する。積層成形中間体18を積層面8に直交する方向に所定の長さ(
図5の符号19で示される切断部参照)で切断することで、例えば、
図3に示すようなプリプレグ2bの積層体で構成される成形体11が得られる。尚、加熱加圧時の温度、加圧、時間の各条件は、定法に従って適宜決定することができる。また、摺動方向をプリプレグ端線14aに対して所定の角度を有するようにする場合は、例えば、積層成形体11に対して、摺動方向がプリプレグ端線41aに沿う方向に対して所定角度を有する構造になるように機械加工を施して所望の形状にすることができる。
【0041】
また、
図3に示す成形体11の積層方向xの長さを大きくする場合は、例えば、
図6に示すように、複数の積層体11を用い、これらの隣接する積層体11の対向する積層面8bにノックピン用孔20を設け、ノックピン21を対向する孔20に嵌め合わせ、接着剤を用いて積層面8b同士を接合することで、摺動面13の大きさを大きくすることができる。ノックピン21の材質は、プリプレグ2bと同じ構成のものを用いるのが好ましい。接着剤は熱硬化性樹脂系接着剤が好ましい。
【0042】
このようにノックピンを用いて成形体11同士を接合することで、へき開強及び曲げ剛性を向上させることができる。このようなノックピンを用いない場合は、原料プリプレグ2の積層数を多くすることも考えられるが、成形時間が増大し、しかも、原料プリプレグ2の積層面8の大きさを大きくする必要があるため、歩留まりが低下するため実用的ではない。そのため、第二実施形態においてはノックピンを用いた方法を好適に適用することができる。
【0043】
以上のような実施形態に係る積層成形体は、そのまま摺動用部材として用いることができるが、必要に応じて、摺動面等の外表面に対して仕上げ加工を施したり、所望の形状になるように機械加工を施したりしてもよい。但し、所望の形状に加工する場合でも、摺動面には、前述の複数のプリプレグ端線が略平行に形成される、換言すると、前述の複数のプリプレグ端線の縞模様が形成され、端線に沿う方向を基準として±45°の範囲を摺動方向とすることが可能なようにすることや、必要に応じて第一又は第二実施形態のようにプリプレグ端線に沿う方向に直交する厚さ方向zの断面において、プリプレグが所定の構造を有する、換言すると、所定の縞模様が形成される必要があることは勿論のことである。
【0044】
また、実施形態に係る積層成形体は、摺動面に形成された端線に沿う方向を基準として±45°の範囲を摺動方向とすることが可能な摺動用部材として好適に用いることができるが、例えば特許文献1に記載のような連続熱間鋼板圧延設備における仕上圧延機から巻取機にいたるホットランテーブルに使用されるホットランテーブル用ガイド板として特に好適である。実施形態に係る積層成形体は、前述のように摺動面には、前述の複数のプリプレグ端線が略平行に形成される、換言すると、プリプレグの周縁端部に由来する直線状の端線の縞模様が形成されているため、高温の圧延鋼板を摺動させてもフクレ現象を防止可能であり、例えば第一及び第二実施形態の成形体1、11のように、複数のプリプレグ2a、2bが、プリプレグ端線に沿う方向(
図1、3に示す例では摺動方向y)の長さ全体に亘って屈曲又は湾曲した構造若しくは直線状の構造を有することで、正面6、16には、積層方向xに対する直交方向又は交差方向に、プリプレグ2a、2bに由来する直線状又は屈曲若しくは湾曲する縞模様が形成されるため、圧延鋼板の搬送が乱れて、積層方向xに平行になっている圧延鋼板の平板状の先端が、正面6、16に衝突しても、当該正面6、16におけるプリプレグ間の剥離を抑制することができる。そのため、連続熱間鋼板圧延設備におけるトラブルを低減することができる。また、第一実施形態のように成形体1のプリプレグ2aが所定の屈曲又は湾曲する構造を有して積層している場合は、例えば第二実施形態の成形体11に比べてへき開強度が高くなり、積層成形体1のたわみによる破壊や圧延鋼板の衝突等による破壊を防止することができる。
【0045】
実施形態に係る摺動用積層成形体は、そのままホットランテーブル用ガイド板として用いることも可能であるし、所望の形状になるように機械加工を施して用いることも可能である。ホットランテーブル用ガイド板として用いる場合の摺動用積層成形体の厚さは、適宜決定することが可能であるが、曲げ剛性等の観点からは10~60mmが好ましい。
【実施例】
【0046】
本発明の実施形態を実施例に基づきより詳細に説明する。
【0047】
(製造例1):原料プリプレグ1の調製
ガラス繊維製織物(平織、850g/m2)に耐熱用レゾール樹脂ワニス(R200、スターライト工業株式会社製)を含浸し、165℃10分間熱処理してワニスの溶剤成分を除去した後に、樹脂量45重量%の樹脂含浸シートを得た。得られた含浸シートを80℃で数時間熱処理して、樹脂含浸シートのB-ステージ化を進めた後、長さ709mm×幅100mm(厚み2mm)の大きさの表裏2つの面となるように切断し、原料プリプレグ1を得た。原料プリプレグ1の表裏の少なくとも一方が積層面となり、表裏両面から連続して端部を形成している部分が周縁端部となる。
【0048】
(製造例2):原料プリプレグ2の調製
B-ステージ化した樹脂含浸シートを、長さ150mm×幅150mm(厚み2mm)の大きさの表裏2つの面となるように切断した以外は、製造例1と同様にして、原料プリプレグ2を得た。
【0049】
(製造例3):原料プリプレグ3の調製
B-ステージ化した樹脂含浸シートを、長さ700mm×幅200mm(厚み2mm)の大きさの表裏2つの面となるように切断した以外は、製造例1と同様にして、原料プリプレグ3を得た。
【0050】
(実施例1):摺動用積層成形体1の製造
内寸が長さ710mm×幅220mm×深さ160mmの圧縮成型用金型のキャビティ内部に、製造例1で得られた原料プリプレグ1を、キャビティの長さ方向と原料プリプレグ1の長さ方向を一致させ、キャビティの幅方向を積層方向として積層面方向をキャビティの底面に対して垂直に立てて各原料プリプレグ1を相対する積層面が平行になるように整列させて、100枚(原料プリプレグ1の積層高さが約220mmの積層物となる)を充填した(参考として
図2(b)参照。)。
【0051】
圧縮成型用金型の深さ方向の上下に所定のパンチを設置して、圧縮成形機(1000トン)を用いて、深さ方向において成形圧力5MPa、加熱温度190℃にて3時間加圧した。即ち、原料プリプレグ1の積層面に対して平行に加圧した。これにより、型内面、特に、金型の幅方向に対向する両面からの反力で、原料プリプレグ1の積層面に直交する方向(その積層方向でもある。)に同時に加圧することになる。その後、加圧力を保持した状態で空冷し、金型温度が80℃以下となってから脱型し、160℃で20時間、後硬化処理を行って、直方体の摺動用積層成形体1(成形体1とも称する。)を得た。この成形体1の寸法は、長さ710mm、幅220mm、厚さ30mmであった。
【0052】
ここで、成形体1の長さ(摺動)方向、幅(積層)方向、厚さ方向は、それぞれ原料プリプレグ1の長さ方向、積層方向、幅方向に対応し(例えば
図2(a)参照)、前述のように加圧することにより、原料プリプレグ1が、その長さ方向の長さを概ね維持しながら屈曲又は湾曲して、幅方向(金型においては深さ方向)の寸法が100mmであった原料プリプレグ1の積層充填物が、脱型後の厚さ方向の寸法が30mmの成形体1となった。成形体1は、摺動面となり得る2つの天面、天面に直交し、(加圧後の)原料プリプレグ1の積層方向に直交する2つの側面、天面に直交し、加圧後の原料プリプレグ1の積層方向に平行な2つの正面を有する直方体であった。そして、成形体1の天面には、加圧後の積層されている各原料プリプレグ1の周縁端部に由来するプリプレグ端線が略平行に形成された、換言すると、(加圧後の)原料プリプレグ1の長さ方向に沿ってその周縁端部に由来する直線状の端線の縞模様が形成された。プリプレグ端線に沿う方向が摺動方向となる。また、原料プリプレグ1が、前述のようにして加圧されることで、正面に平行な断面(摺動面に直交する厚さ方向、且つ、(加圧後の)原料プリプレグ1の積層方向に直交する方向の断面)においてプリプレグ端線に沿う方向(摺動方向)の長さ全体に亘って屈曲又は湾曲した構造を有し、成形体1の正面及び正面に平行な断面に、積層された加圧後の原料プリプレグ1の周縁端部に由来する屈曲又は湾曲した縞模様が形成された(以上、参考として
図2(a)、(b)参照)。
【0053】
(実施例2):摺動用積層成形体2の製造
製造例2で得られた原料プリプレグ2を30枚平積みに積層して、積層面に対して直交(積層方向に平行)に、圧縮成形プレス機を用いて190℃、5MPaの圧力で、3時間加圧した。その後、加圧力を保持した状態で空冷し、プレス面盤温度が80℃以下となってから加圧力を開放し、160℃で20時間、後硬化して、直方体の積層硬化物(積層成形中間体)を得た。この積層硬化物の寸法は、長さ150mm、幅150mm、厚さ30mmであった。この厚さ方向は、積層方向に平行である(以上、参考として
図4、5参照)。
【0054】
積層硬化物(積層成形中間体)を積層面に対して直交方向で、長さ方向に平行に、幅が20mmとなるように切断し、切断面を天面、即ち、摺動面とする摺動用積層成形体2(成形体2とも称する。)を得た。つまり、成形体2は、長さ150mm、幅30mm、厚さ20mmの直方体であり、摺動面となり得る2つの天面、天面に直交し、(加圧後の)原料プリプレグ2の積層方向に直交する2つの側面、天面に直交し、(加圧後の)原料プリプレグ2の積層方向に平行な2つの正面を有する。そして、成形体2の天面には、加圧後の積層されている各原料プリプレグ2の周縁端部に由来するプリプレグ端線が略平行に形成された、換言すると、(加圧後の)原料プリプレグ2の長さ方向に沿ってその周縁端部に由来する直線状の端線の縞模様が形成された。プリプレグ端線に沿う方向が摺動方向となる。また、原料プリプレグ2が、前述のようにして加圧されることで、正面に平行な断面においてプリプレグ端線に沿う方向(摺動方向)の長さ全体に亘って直線状の構造を有し、成形体2の正面に、加圧後の積層された原料プリプレグ2の周縁端部に由来する直線状の平行な縞模様が形成された(以上、参考として
図3、5参照)。
【0055】
(比較例1)摺動用積層成形体3の製造
実施例1と同様にして成形体1を得た後、成形体1を、長さ方向の長さが150mmとなるように切断した分割部材を摺動用積層成形体3(成形体3とも称する。)とした。成形体3は、長手方向に直交する方向にプリプレグ1の周縁端部に由来するプリプレグ端線が略平行に形成される、換言すると、直線状のプリプレグ端線の縞模様が形成される天面、即ち、摺動面を有する。つまり、成形体3は、成形体1とは異なり、この端線に直交する方向が摺動方向となる。
【0056】
(比較例2)摺動用積層成形体4の製造
原料プリプレグ3を用いた以外は実施例2と同様にして得られた積層硬化物(積層成形中間体)を、積層面の両端面の何れかを天面、即ち、摺動面とする摺動用積層成形体4(成形体4とも称する。)とした。つまり、成形体4は、長さ150mm、幅150mm、厚さ30mmの直方体で、摺動面には、加圧後の原料プリプレグ3の周縁端部に由来するプリプレグ端線が形成されていない、従来のものである。
【0057】
(評価)
<フクレ試験>
実施例1、2及び比較例1、2で得られた成形体1~4の天面、即ち、摺動面をガスバーナー(キャンピングガス、CT200)の炎を2分間照射した後の、天面の変化(フクレ現象の有無)を目視により確認した。
【0058】
<摺動試験>
<<試験片の作製>>
実施例1、2及び比較例1、2で得られた成形体1~4を用いて、10mm×10mm×10mmの立方体を機械加工により作製した。尚、各立方体の各面は、成形体1~4の天面、正面、側面に対応するようにした。次いで、各立方体の一方の天面に対して、摺動方向に沿って、半径が24mmの凹曲面が形成されるように、旋盤加工を行った。つまり、本試験では、試験の都合上、凹曲面が天面即ち摺動面となる。
【0059】
<<摩耗測定及び剥離の有無>>
試験片の凹曲面に対して、ガスバーナー(キャンピングガス、CT200)の炎を10秒間照射した後10秒間休止する操作を6回繰り返した後、
図8に示すブロックオンリング型摩擦摩耗試験機(スターライト工業株式会社製)を用いて、S45C製リング(表面粗さRa:約0.2μm)に対する摺動試験を行った。摺動試験を行った後、摩耗高さを測定するとともに、摺動面における加圧後の原料プリプレグの剥離の有無を目視により確認した。ブロックオンリング型摩擦摩耗試験機の試験条件は、速度を2m/sec、荷重を2MPa、温度を室温、試験時間を72時間、無潤滑とした。
図8に示すブロックオンリング型摩擦摩耗試験機は、(i)支点で支持されたレバー、(ii)支点からレバーの一方の側に所定距離の位置に試験片を固定する固定部、(iii)固定部に固定されている試験片に対して摺動回転するリング、(iv)リングを回転させる相手軸、(v)リングが試験片に対して摺動する際の摩擦力を測定する摩擦力記録計、(vi)支点からレバーの他方の側に所定距離の位置に設置され、リングに対して試験片を所定の押圧力を負荷する荷重、(vii)試験片が摩耗することで、支点より一方の側が上昇し、他方の側が下降する際の変位量を測定するための摩耗測定機を有する。前述の摩耗高さは、摩耗測定機により測定することができる。
【0060】
<屈曲又は湾曲構造の効果>
<<試験片の作製>>
実施例1、2で得られた成形体1、2を用い、長さ25mm、幅13mm、厚み25mmの直方体の試験片を作製した。尚、各直方体の各面は、成形体1、2の天面、正面、側面に対応するようにした。
【0061】
<<へき開強度測定>>
RH-10型万能試験機(株式会社島津製作所製、RH-10型)のクロスヘッドにφ10の球状圧子を取り付け、クロスヘッドスピード5mm/minにて試験片の天面を圧縮し、試験片の積層間が剥離して破壊する際の力の大きさを測定した。
【0062】
以上の評価結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
表1より、摺動方向を端線方向に沿うようにすることで、フクレを防止し、かつ、良好な摺動特性を有することが分かる。また、へき開強度は屈曲又は湾曲構造のある実施例1が、ない実施例2よりも50%高くなっており、熱間圧延工程において屈曲又は湾曲構造を有するガイド板を用いると、圧延鋼の衝突等に起因する外力による破壊の可能性が低くなることとなり、圧延工程でのトラブルの発生を抑えることができることが分かる。
【符号の説明】
【0065】
1、11 摺動用積層成形体;2 原料プリプレグ;2a、2b プリプレグ;3、13 摺動面(天面);3a、13a 面(天面);4、4b、14、41、41b 周縁端部;4a、14a、14b プリプレグ端線;5、5a、7、15、17 縞模様;6、16 正面;8 積層面;8a、8b 積層面(側面);9 金型;10 キャビティ;18 積層成形中間体;19 切断部;20 ノックピン用孔;21 ノックピン;x 積層方向、幅方向;y プリプレグ端線に沿う方向、摺動方向、長さ方向;z 摺動用積層成形体の厚さ方向(加圧方向、金型の深さ方向)