(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20231206BHJP
B60K 35/00 20060101ALI20231206BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/00 A
C03C27/12 Z
(21)【出願番号】P 2020556705
(86)(22)【出願日】2019-10-10
(86)【国際出願番号】 JP2019039954
(87)【国際公開番号】W WO2020095612
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2018208896
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 健介
(72)【発明者】
【氏名】森 直也
【審査官】佐藤 洋允
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-158883(JP,A)
【文献】特開平06-040271(JP,A)
【文献】特開2017-149604(JP,A)
【文献】特表平04-502525(JP,A)
【文献】特表2016-519774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
B60K 35/00
C03C 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載され、投影光の投影部での反射像に基づく虚像を前記移動体の乗員に視認させる、へッドアップディスプレイ装置であって、
前記投影部は、中間膜及び前記中間膜を介して対向して配置された、前記移動体の室外側に配置される第一ガラス板と、前記移動体の室内側に配置される第二ガラス板とを備え、
前記第一ガラス板は、前記室外側に露出される第一主面と、前記第一主面の反対側の第二主面とを備え、
前記第二ガラス板は、前記室内側に露出される第四主面と、前記第四主面の反対側の第三主面とを備え、
前記第一ガラス板と、前記第二ガラス板とは、表面に錫が検出される錫面と、前記錫面よりも表面の錫濃度が低い非錫面とを備え、
前記第四主面は、錫面が配置されており、
前記虚像は、前記第四主面に形成された第一反射像に基づ
き、
前記投影光がS偏光からなり、
前記中間膜が半波長板を含む、又は、半波長板が前記第一ガラス板又は前記第二ガラス板に貼り付けられており、
前記投影光が、前記第一主面に対して、ブリュースター角の±10°を形成する入射角度で入射する、
ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記第一主面は、非錫面が配置されている請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
移動体に搭載され、投影光の投影部での反射像に基づく虚像を前記移動体の乗員に視認させる、へッドアップディスプレイ装置であって、
前記投影部は、中間膜及び前記中間膜を介して対向して配置された、前記移動体の室外側に配置される第一ガラス板と、前記移動体の室内側に配置される第二ガラス板とを備え、
前記第一ガラス板は、前記室外側に露出される第一主面と、前記第一主面の反対側の第二主面とを備え、
前記第二ガラス板は、前記室内側に露出される第四主面と、前記第四主面の反対側の第三主面とを備え、
前記第一ガラス板と、前記第二ガラス板とは、表面に錫が検出される錫面と、前記錫面よりも表面の錫濃度が低い非錫面とを備え、
前記第一主面は、非錫面が配置されており、
前記虚像は、前記第四主面に形成された第一反射像に基づ
き、
前記投影光がS偏光からなり、
前記中間膜が半波長板を含む、又は、半波長板が前記第一ガラス板又は前記第二ガラス板に貼り付けられており、
前記投影光が、前記第一主面に対して、ブリュースター角の±10°を形成する入射角度で入射する、
ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記投影光の光線が、前記第一主面に対して、ブリュースター角を形成する入射角度で入射する
請求項1~3のいずれかに記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項5】
前記第一反射像の領域が、前記投影部の縦方向に150mm以上である、請求項1~4のいずれかに記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項6】
前記投影部は、前記第一反射像の領域において、厚さが徐々に変動する楔角プロファイルを備える、請求項1~5のいずれかに記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項7】
移動体に搭載され、投影光の投影部での反射像に基づく虚像を前記移動体の乗員に視認させる、へッドアップディスプレイ装置であって、
前記投影部は、中間膜及び前記中間膜を介して対向して配置された、前記移動体の室外側に配置される第一ガラス板と、前記移動体の室内側に配置される第二ガラス板とを備え、
前記第一ガラス板は、前記室外側に露出される第一主面と、前記第一主面の反対側の第二主面とを備え、
前記第二ガラス板は、前記室内側に露出される第四主面と、前記第四主面の反対側の第三主面とを備え、
前記第一ガラス板と、前記第二ガラス板とは、表面に錫が検出される錫面と、前記錫面よりも表面の錫濃度が低い非錫面とを備え、
前記第一主面は、錫面が配置されており、
前記虚像は、前記第一主面に形成された第二反射像に基づ
き、
前記投影光がP偏光からなり、
前記中間膜が半波長板を含む、又は、半波長板が前記第一ガラス板又は前記第二ガラス板に貼り付けられており、
前記投影光が、前記第四主面に対して、ブリュースター角の±10°を形成する入射角度で入射する、
ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項8】
前記第四主面は、非錫面が配置されている請求項
7に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項9】
移動体に搭載され、投影光の投影部での反射像に基づく虚像を前記移動体の乗員に視認させる、へッドアップディスプレイ装置であって、
前記投影部は、中間膜及び前記中間膜を介して対向して配置された、前記移動体の室外側に配置される第一ガラス板と、前記移動体の室内側に配置される第二ガラス板とを備え、
前記第一ガラス板は、前記室外側に露出される第一主面と、前記第一主面の反対側の第二主面とを備え、
前記第二ガラス板は、前記室内側に露出される第四主面と、前記第四主面の反対側の第三主面とを備え、
前記第一ガラス板と、前記第二ガラス板とは、表面に錫が検出される錫面と、前記錫面よりも表面の錫濃度が低い非錫面とを備え、
前記第四主面は、非錫面が配置されており、
前記虚像は、前記第一主面に形成された第二反射像に基づ
き、
前記投影光がP偏光からなり、
前記中間膜が半波長板を含む、又は、半波長板が前記第一ガラス板又は前記第二ガラス板に貼り付けられており、
前記投影光が、前記第四主面に対して、ブリュースター角の±10°を形成する入射角度で入射する、
ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項10】
前記投影光の光線が、前記第四主面に対して、ブリュースター角を形成する入射角度で入射する請求項7~9のいずれかに記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項11】
前記第二反射像の領域が、前記投影部の縦方向に150mm以上である、請求項7~10のいずれかに記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項12】
前記投影部は、前記第二反射像の領域において、厚さが徐々に変動する楔角プロファイルを備える、請求項7~11のいずれかに記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項13】
前記錫面の表面錫量は、10ppm~300ppmである、請求項1~
12のいずれかに記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項14】
前記非錫面の表面錫量は、10ppm未満である、請求項1~
13のいずれかに記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両や航空機などの移動体に搭載されて、乗員の前方視野内の投影部に映像を投影して乗員に視認させるようにしたヘッドアップディスプレイ(以降、HUDと表記する場合がある)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
HUD装置の前記投影部として、移動体の前方部に設置されるウィンドシールドが用いられている。乗員は、前記投影部における投影光の反射像に基づく虚像を視認する。前記投影部では、室内側主面に第一反射像、室外側主面に第二反射像が形成され得るので、前記虚像は、二重像として、乗員に視認され得る(二重像発生の機構は、非特許文献1を参照されたい)。HUD装置では、二重像を低減する方式として、楔HUD方式、偏光HUD方式、そして、室内側主面・室外側主面の反射率を調整する方式(反射率調整方式とする)がある。
【0003】
楔HUD方式は、前記投影部を、厚さが徐々に変動する楔角プロファイルを備えるものとすることで、乗員からみて第一反射像に基づく虚像と、第二反射像に基づく虚像とが一致するように、投影光の光路が調整される(二重像低減の機構は、非特許文献1を参照されたい)。
【0004】
また、偏光HUD方式の二重像低減は、次のような機構でなされている。前記投影部を、室内側に配置されるガラス等からなる第一透光板と、室外側に配置される第二透光板と、前記第一透光板と前記第二透光板との間に配置される半波長板とを備える積層部材から構成し、前記積層部材の各材料は、可視光領域での屈折率が同等となるように調整されたものとする。そして、前記投影部に対して、投影光がブリュースター角で入射される。尚、ISO16293-1で規定されているソーダ石灰珪酸塩ガラスの組成物からなるフロートガラス板に対する光入射では、前記ブリュースター角は、56°となる。
【0005】
入射される投影光がS偏光からなる場合、前記第一透光板の室内側主面に前記反射像が形成される。そして、前記投影部を通過する投影光はP偏光に変換される。該P偏光は、前記第二透光板の室外側主面に達したときは、該主面で反射されることなく、室外側へと出射される。前記乗員は、前記第一透光板の室内側主面に形成された、S偏光の反射像に基づく虚像を視認する。この方式を、S-HUD方式と表記する。
【0006】
他方で、入射される投影光がP偏光からなる場合、前記第一透光板の室内側主面では反射は生じない。前記投影部を透過する投影光はS偏光に変換される。S偏光に変換された投影光は、前記第二透光板の室外側主面に達したとき、一部は該主面で反射像を形成し、残部は該主面を透過する。この反射像を形成した投影光は前記投影部を再度透過するので、P偏光へと変換される。前記乗員は、前記第二透光板の室外側主面に形成された反射像に基づく、P偏光による虚像を視認する。この方式を、P-HUD方式と表記する。
【0007】
反射率調整方式は、虚像のもとになる反射像の形成領域での可視光の反射率を上げるか、二重像表示の原因となる反射像の形成領域での可視光の反射率を下げる、というものである。例えば、特許文献1では、前記第一反射像の形成される領域に可視光反射率の高いコーティングが配置され、特許文献2、3、4では、前記第一反射像の形成される領域に可視光反射率の高いコーティング、前記第二反射像が形成される領域に可視光反射率の低いコーティングが配置されている。また、特許文献5では、前記第一反射像の形成される領域に可視光反射率の低いコーティング、前記第二反射像が形成される領域に可視光反射率の高いコーティングが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実開平01-35141号公報
【文献】実開平01-35142号公報
【文献】実開平5-83789号公報
【文献】実用新案登録公報第2598605号明細書
【文献】特開2016-97781号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】「新型アクティブドライビングディスプレイの開発」、マツダ技法、No.33(2016)、60頁-65頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
楔HUD方式及び偏光HUD方式での二重像低減は、投影光の光路設計がポイントとなる。前者の場合、乗員からみて第一反射像に基づく虚像と、第二反射像に基づく虚像とが一致するように、投影光の光路が調整される。また、後者の場合、投影部に対して投影光の入射角がブリュースター角を形成するように、投影光の光路が調整される。
【0011】
次世代のHUD装置では、映像の表示領域の拡大が求められているので、楔HUD方式、偏光HUD方式でも、二重像低減のための光路設計が難しくなる傾向にある。例えば、偏光HUD方式では、映像の表示領域が拡大すると、前記投影光の前記投影部に対する入射角がブリュースター角からずれる領域が出現するようになる。
【0012】
楔HUD方式や偏光HUD方式と、反射率調整方式との併用で、映像の表示領域の拡大に対応できる可能性はある。よって、特許文献1~5に開示されたような、反射率調整のためのコーティングが、楔HUD方式や偏光HUD方式のための投影部に配置されることはありえる。しかしながら、コーティングの場合、入射角度で光路長が変動するので、反射率の角度依存性が大きく、映像の表示領域の拡大に伴う、二重像低減効果は低い。
【0013】
本発明は、HUD装置において、投影部へのコーティングによらない方法で、反射率を調整せしめる構成を提供し、楔HUD方式、偏光HUD方式などの各方式に対応できる、HUD装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
移動体に搭載され、投影光の投影部での反射像に基づく虚像を前記移動体の乗員に視認させる、へッドアップディスプレイ装置において、投影部は、中間膜及び中間膜を介して対向して配置された、移動体の室外側に配置される第一ガラス板と、移動体の室内側に配置される第二ガラス板とを備えるものが使用される。
第一ガラス板及び第二ガラス板には、通常、フロート法で製造されたガラス板(以下、「フロートガラス板」と表記される場合有り)が使用される。フロートガラス板は、その製造過程で、溶融された錫からなる、錫浴上で板状に成形される。そのため、フロートガラス板の主面としては、その製造過程で錫浴に接した面である錫面と、該錫面とは反対側となる面の非錫面とがある。前者の面は、表面に錫が検出される錫面となり、後者の面は、前記錫面よりも表面の錫濃度が低い非錫面となる。
【0015】
本発明者は、フロートガラス板の錫面の可視光反射率が、非錫面の可視光反射率よりも高くなり、フロートガラス板の入射面側で明確な差となって生じることを見出した。本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置は、フロートガラス板の錫面と非錫面の可視光反射率の違いを活用して、なされたものである。
【0016】
すなわち、本発明の一態様のヘッドアップディスプレイ装置は、移動体に搭載され、投影光の投影部での反射像に基づく虚像を前記移動体の乗員に視認させる、へッドアップディスプレイ装置であって、
前記投影部は、中間膜及び前記中間膜を介して対向して配置された、前記移動体の室外側に配置される第一ガラス板と、前記移動体の室内側に配置される第二ガラス板とを備え、
前記第一ガラス板は、前記室外側に露出される第一主面と、前記第一主面の反対側の第二主面とを備え、
前記第二ガラス板は、前記室内側に露出される第四主面と、前記第四主面の反対側の第三主面とを備え、
前記第一ガラス板と、前記第二ガラス板とは、表面に錫が検出される錫面と、前記錫面よりも表面の錫濃度が低い非錫面とを備え、
前記第四主面は、錫面が配置されており、
前記虚像は、前記第四主面に形成された第一反射像に基づく、ヘッドアップディスプレイ装置である。
【0017】
このHUD装置では、虚像が、第四主面に形成された第一反射像に基づくので、第四主面を錫面とすることで、第一反射像に基づく虚像の鮮鋭性が改善される。そのため、乗員に視認されるべき虚像と、二重像の原因となる虚像とのコントラストが改善されるので、乗員の視認レベルにおいて、二重像は改善されることになる。尚、本明細書では、前記乗員に視認させる虚像が、前記第四主面に形成された第一反射像に基づくものを、第一のHUD装置という。
【0018】
さらには、第一のHUD装置の別態様は、移動体に搭載され、投影光の投影部での反射像に基づく虚像を前記移動体の乗員に視認させる、へッドアップディスプレイ装置であって、
前記投影部は、中間膜及び前記中間膜を介して対向して配置された、前記移動体の室外側に配置される第一ガラス板と、前記移動体の室内側に配置される第二ガラス板とを備え、
前記第一ガラス板は、前記室外側に露出される第一主面と、前記第一主面の反対側の第二主面とを備え、
前記第二ガラス板は、前記室内側に露出される第四主面と、前記第四主面の反対側の第三主面とを備え、
前記第一ガラス板と、前記第二ガラス板とは、表面に錫が検出される錫面と、前記錫面よりも表面の錫濃度が低い非錫面とを備え、
前記第一主面は、非錫面が配置されており、
前記虚像は、前記第四主面に形成された第一反射像に基づく、ヘッドアップディスプレイ装置である。
【0019】
このHUD装置では、虚像が、第四主面に形成された第一反射像に基づくので、第一主面を非錫面とすることで、第一反射像に基づく虚像の鮮鋭性が改善される。そのため、乗員に視認されるべき虚像と、二重像の原因となる虚像とのコントラストが改善されるので、乗員の視認レベルにおいて、二重像は改善されることになる。
【0020】
また、本発明の別態様のヘッドアップディスプレイ装置は、移動体に搭載され、投影光の投影部での反射像に基づく虚像を前記移動体の乗員に視認させる、へッドアップディスプレイ装置であって、
前記投影部は、中間膜及び前記中間膜を介して対向して配置された、前記移動体の室外側に配置される第一ガラス板と、前記移動体の室内側に配置される第二ガラス板とを備え、
前記第一ガラス板は、前記室外側に露出される第一主面と、前記第一主面の反対側の第二主面とを備え、
前記第二ガラス板は、前記室内側に露出される第四主面と、前記第四主面の反対側の第三主面とを備え、
前記第一ガラス板と、前記第二ガラス板とは、表面に錫が検出される錫面と、前記錫面よりも表面の錫濃度が低い非錫面とを備え、
前記第一主面は、錫面が配置されており、
前記虚像は、前記第一主面に形成された第二反射像に基づく、ヘッドアップディスプレイ装置である。
【0021】
このHUD装置では、虚像が、第一主面に形成された第二反射像に基づくので、第一主面を錫面とすることで、第二反射像に基づく虚像の鮮鋭性が改善される。そのため、乗員に視認されるべき虚像と、二重像の原因となる虚像とのコントラストが改善されるので、乗員の視認レベルにおいて、二重像は改善されることになる。尚、本明細書では、前記乗員に視認させる虚像が、前記第一主面に形成された第二反射像に基づくものを、第二のHUD装置という。
【0022】
さらには、第二のHUD装置の別態様は、移動体に搭載され、投影光の投影部での反射像に基づく虚像を前記移動体の乗員に視認させる、へッドアップディスプレイ装置であって、
前記投影部は、中間膜及び前記中間膜を介して対向して配置された、前記移動体の室外側に配置される第一ガラス板と、前記移動体の室内側に配置される第二ガラス板とを備え、
前記第一ガラス板は、前記室外側に露出される第一主面と、前記第一主面の反対側の第二主面とを備え、
前記第二ガラス板は、前記室内側に露出される第四主面と、前記第四主面の反対側の第三主面とを備え、
前記第一ガラス板と、前記第二ガラス板とは、表面に錫が検出される錫面と、前記錫面よりも表面の錫濃度が低い非錫面とを備え、
前記第四主面は、非錫面が配置されており、
前記虚像は、前記第一主面に形成された第二反射像に基づく、ヘッドアップディスプレイ装置である。
【0023】
このHUD装置では、虚像が、第一主面に形成された第二反射像に基づくので、第四主面を非錫面とすることで、第二反射像に基づく虚像の鮮鋭性が改善される。そのため、乗員に視認されるべき虚像と、二重像の原因となる虚像とのコントラストが改善されるので、乗員の視認レベルにおいて、二重像は改善されることになる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の実施形態に係るHUD装置は、乗員に視認されるべき虚像と、二重像の原因となる虚像とのコントラストが改善されるので、乗員の視認レベルにおいて、二重像を改善することができる。また、投影部での反射率の調整が、フロートガラス板の主面の配置パターンのみでなされるので、楔HUD方式、偏光HUD方式などの各方式の光学特性に負の作用を与えることなく、対応することできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る第一のHUD装置の概略と、該装置での光路を示す、模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る第二のHUD装置の概略と、該装置での光路を示す、模式図である。
【
図3】
図3は、実施例で使用した第一のHUD装置を模式的に示す配置図である。
【
図4】
図4は、実施例及び比較例において視認される虚像を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態に係る第一のHUD装置及び本発明の実施形態に係る第二のHUD装置につき、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る第一のHUD装置の概略と、該装置での光路を示す、模式図である。
図2は、本発明の実施形態に係る第二のHUD装置の概略と、該装置での光路を示す、模式図である。
図1及び
図2では、投影光の光路は実線で示され、二重像の原因となる投影光の光路は点線で表されている。映像部3からの光束のうち、投影部4の第四主面424に反射して乗員6の目に届く投影光を光線L1とし、投影部4の第一主面411に反射して乗員6の目に届く投影光を光線L2とする。
投影部4は、中間膜44及び中間膜44を介して対向して配置された、移動体の室外側に配置される第一ガラス板41と、移動体の室内側に配置される第二ガラス板42とを備えている。
【0027】
第一ガラス板41は、室外側に露出される第一主面411と、第一主面411の反対側の第二主面とを備え、第二ガラス板42は、室内側に露出される第四主面424と、第四主面424の反対側の第三主面とを備えている。
【0028】
投影部4が、二重像低減のための構成を備えない場合、乗員6が二重像を観測する機構は次のとおりとなる。光線L1は、第四主面424に照射され、第四主面424には第一反射像が形成される。乗員6は第一反射像に基づく虚像511を観察する。
第四主面424を通過した光線L2は、第一主面411に到達し、第一主面411には第二反射像が形成される。乗員6は、第二反射像に基づく虚像521を観察する。
このように、光線L1により作られる虚像511の位置と、光線L2により作られる虚像521の位置とにずれが生じるため、乗員6には、ずれて重なった虚像が見えることとなり、これが二重像観察の原因となる。
【0029】
第一のHUD装置1は、第二反射像に基づく虚像521を観察せずに、第一反射像に基づく虚像511を観察するように光学設計されたものである。このようなHUD装置としては、楔HUD方式、S-HUD方式が例示される。これらの具体的な構成は、後段にて詳述される。乗員6が虚像511と虚像521とを別位置に観測し、かつ、虚像511の映像輝度と虚像521の映像輝度とのコントラスト差が小さくなると、乗員6は、虚像521を、二重像として認識しやすくなる。そのため、第四主面424を錫面として、第一反射像を強調するか、第一主面411を非錫面とし、第二反射像の強度を低下させて、二重像の改善が図られる。また、第四主面424を錫面として、第一反射像を強調し、且つ、第一主面411を非錫面とし、第二反射像の強度を低下させる構造としてもよい。
【0030】
第二のHUD装置2は、第一反射像に基づく虚像511を観察せずに、第二反射像に基づく虚像521を観察するように光学設計されたものである。このようなHUD装置としては、P-HUD方式が例示される。これらの具体的な構成は、後段にて詳述される。乗員6が虚像521と虚像511とを別位置に観測し、かつ、虚像521の映像輝度と虚像511の映像輝度とのコントラスト差が小さくなると、乗員6は、虚像511を、二重像として認識しやすくなる。そのため、第一主面411を錫面として、第二反射像を強調するか、第四主面424を非錫面とし、第一反射像の強度を低下させて、二重像の改善が図られる。また、第一主面411を錫面として、第二反射像を強調し、且つ、第四主面424を非錫面とし、第一反射像の強度を低下させる構造としてもよい。
【0031】
第一ガラス板41及び第二ガラス板42は、表面に錫が検出される錫面と、錫面よりも表面の錫濃度が低い非錫面とを備える。
第一ガラス板41及び第二ガラス板42は、フロートガラス板、好ましくはISO16293-1で規定されているソーダ石灰珪酸塩ガラスの組成物からなるフロートガラス板が使用されることが好ましい。フロートガラス板は、その製造過程で、溶融された錫からなる、錫浴上で溶融ガラス素地を板状に成形することで得られる。そのため、フロートガラス板の主面には、その製造過程で、錫浴に接した面である錫面と、該錫面とは反対側となる面の非錫面とがある。溶融ガラス素地を板状に成形する過程で、雰囲気中に存在する酸素は、錫浴に溶解する、または、錫と反応して酸化錫を形成する。錫浴中の錫と酸素又は酸化錫の一部は、ガラス素地の錫浴と接する面に取り込まれ、フロートガラス板の主面の一つに錫面が形成される。錫面とは反対側の主面が非錫面となる。
【0032】
ガラス板の錫面、非錫面は次の方法で見分けることができる。錫面と非錫面とでは、表面錫量が異なっており、表面錫量は、蛍光X線法によって測定することができる。
表面錫量とは、ガラス板の表面から厚み方向に数十μmに存在するSnの量(単位はppm)のことである。蛍光X線法では、予め湿式化学分析法にて表面錫量が測定された標準試料の蛍光X線強度を求め、その蛍光X線強度と表面錫量との関係から検量線が得られる。あるフロートガラス板主面の蛍光X線強度と、検量線との対比から表面錫量が求められる。フロートガラス板の錫面の表面錫量は、10ppm以上(非錫面の表面錫量は10ppmには到達しない)なので、フロートガラス板の主面の表面錫量を求めることで、フロートガラス板の主面が錫面か、非錫面であるかを見分けることができる。
【0033】
錫面の表面錫量は、溶融ガラス素地を板状に成形する過程で、雰囲気中の水素や窒素などのガスの流量、濃度を調整することや、溶融ガラス素地の温度や、該素地の錫浴上の滞留時間を調整することで、調整することができる。
一般的に、雰囲気が還元性の雰囲気であるほど、表面錫量は低下する傾向にある。
また、溶融ガラス素地の温度が高いほど、該素地の錫浴上の滞留時間が長いほど、表面錫量は高くなる傾向にある。
【0034】
錫面の表面錫量は、ガラス板主面の可視光反射率に影響するので、10ppm~300ppmであることが好ましく、30ppm~160ppmであることがより好ましく、40ppm~120ppmであることがさらに好ましい。
【0035】
他方で、非錫面の表面錫量は、可視光反射率を低くするために、10ppm未満であることが好ましい。より好ましくは、5ppm以下、さらに好ましくは2ppm以下であることが好ましい。さらには、測定限界以下の量、すなわち0ppmであることがより好ましい。
【0036】
以下に、本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置に使用される投影部の好適な形態を実施するための構成及び材料について説明する。
投影部は、中間膜を第一ガラス板及び第二ガラス板で挟持して作製される合わせガラスである。また、S-HUD方式のHUD装置、又は、P-HUD方式のHUD装置の場合は、投影部に半波長板が配置されている。
【0037】
<ガラス板>
第一ガラス板及び第二ガラス板としては、フロート法で製造されたガラス板を好適に用いることができる。ガラス板の材質としては、ISO16293-1で規定されているようなソーダ石灰珪酸塩ガラスの他、アルミノシリケートガラスやホウケイ酸塩ガラス、無アルカリガラス等の公知のガラス組成のものを使用することができる。ガラス板の厚さは、約2mmtのものを使うことが好ましいが、軽量化のためにこれよりも薄い厚さのものを用いてもよい。
【0038】
曲面形状が必要とされる場合には、ガラス板を軟化点以上に加熱した後、モールドによるプレスや自重による曲げなどで2枚が同じ面形状となるように成形し、ガラスを冷却する。また、厚さに傾斜を備えたガラス板を用いることもできる。
また、楔HUD方式に用いる場合には、厚さに傾斜があるガラス板を用いることができる。
【0039】
<中間膜>
中間膜としては樹脂中間膜を用いることができ、樹脂中間膜としては、熱可塑性の透明なポリマーを用いるのが好ましい。ポリマーとして、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、アクリル樹脂(PMMA)、ウレタン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)等を使用することができる。
通常、樹脂中間膜の表面には、合わせガラスへの一体化加工時に発生する脱気不良に起因する失透や泡欠陥が生じないように、凹凸状のエンボス加工がなされており、本発明の実施形態に係るHUD装置においてもエンボス加工がなされた樹脂中間膜を用いることができる。
【0040】
また、樹脂中間膜には、その一部が着色したもの、遮音機能を有する層をサンドイッチしたもの、厚さに傾斜があるものなどが使用できる。また、樹脂中間膜に紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、抗酸化剤、帯電防止剤、熱安定剤、着色剤、接着調整剤等を適宜添加配合したものでも良い。また、樹脂中間膜は、テンションをかけて延伸したものでも、傘状の加圧ロールの間に通して扇型に変形したものでも良い。
また、楔HUD方式に用いる場合には、厚さに傾斜がある中間膜を用いることができる。
【0041】
<半波長板>
半波長板としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、シクロオレフィンポリマー等のプラスチックフィルムを一軸又は二軸延伸した位相差素子や、液晶ポリマーを特定方向に配向させて配向状態を固定化した位相差素子を用いることができる。ポリマーを配向させる方法としては、例えば、ポリエステルフィルムやセルロースフィルムなどの透明プラスチックフィルムをラビング処理する方法や、ガラス板やプラスチックフィルム上に配向膜を形成し、上記配向膜をラビング処理又は光配向処理する方法などが挙げられる。配向を固定化する方法としては、例えば、紫外線硬化型の液晶ポリマーを光重合開始剤の存在下、紫外線照射して重合反応によって硬化させる方法や、加熱により架橋させる方法や、高温状態で配向した後に急冷する方法などが挙げられる。
【0042】
液晶ポリマーとして使用される化合物は、特定方向へ配向する際、液晶性を示す化合物であれば特に限定されない。例えば、液晶状態でねじれネマティック配向し、液晶転移点以下ではガラス状態となるものを使用することができ、光学活性なポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステルイミドなどの主鎖型液晶ポリマー、光学活性なポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリマロネート、ポリシロキサン、ポリエーテルなどの側鎖型液晶ポリマーや重合性液晶などが挙げられる。また、光学活性でないこれらの主鎖型あるいは側鎖型ポリマーに、他の低分子あるいは高分子の光学活性化合物を加えたポリマー組成物などを例示することができる。
半波長板は、投影部の光路内に配置されていればよく、例えば、中間膜が半波長板を含んでいてもよいし、ガラス板に接する位置に配置されても良い。
【0043】
以下に、本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置に使用される光源及び投影部に入射する投影光の形態について説明する。
<光源及び投影光>
映像部からの投影光としてはP偏光とS偏光とを含む投影光を使用することができる。
P偏光とS偏光とを含む投影光の例としては、あらゆる偏光をランダムに含んだもの(無偏光)、円偏光や楕円偏光、P偏光とS偏光との混合光、P偏光、S偏光でもない直線偏光などが挙げられる。
映像部としては、P偏光とS偏光とを含む投影光を照射できるプロジェクターが好適に使用される。そのようなプロジェクターの例としては、DMD投影システム方式プロジェクター、レーザー走査型MEMS投影システム方式プロジェクター、または、反射型液晶方式プロジェクターからなるものが挙げられる。
【0044】
投影光が通る経路に偏光子を配置することでP偏光とS偏光とを含む投影光をP偏光からなる投影光又はS偏光からなる投影光に変換することができる。また、投影光が通る経路に位相差板を配置することで、S偏光のみからなる投影光をP偏光のみからなる投影光、又は、P偏光のみからなる投影光をS偏光のみからなる投影光、又は、直線偏光をP偏光のみ又はS偏光のみからなる投影光に変換することができる。投影光がP偏光からなる投影光、S偏光からなる投影光のいずれかに調整されることで、P-HUD方式とS-HUD方式との切り替えが行われる。
偏光子は、一つの直線偏光に対する透過窓を有し、該透過窓が投影光の進行方向に面するように配置される。
2つの偏光子を配置し、スライド機構(図示せず)によって、いずれかの偏光子が、投影光の進行方向に面するようにすることで、P-HUD方式とS-HUD方式との切り替えができるようになっていてもよい。
また、投影光は、投影部に対して、ブリュースター角を形成するような入射角度で、投影部に入射されることが好ましい。
【0045】
以下に、本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置に適用される、楔HUD方式、S-HUD方式及びP-HUD方式について説明する。
【0046】
第一のHUD装置は、楔HUD方式又はS-HUD方式のものであることが好ましい。
楔HUD方式の場合、投影部が、第一反射像又は第二反射像の領域において、厚さが徐々に変動する楔角プロファイルを備える。
楔HUD方式の場合、投影光の偏光に限定はなく、P偏光とS偏光とを含む投影光を使用することができる。
この場合、投影部の第四主面で第一反射像が形成され、移動体の乗員は、第四主面での第一反射像に基づく虚像を視認する。投影部の第一主面では第二反射像が形成されるが、楔角プロファイルを調整しておくことにより第二反射像と第一反射像が重なるようになり、二重像が生じることが防止される。
また、第四主面を錫面とすることで、第一反射像に基づく虚像の鮮鋭性が改善される。そのため、楔角プロファイルにより第二反射像と第一反射像が重なるようになった領域の境界における第二反射像の影響が低減されるので、実質的に映像の表示領域を拡大することができる。
このようにして拡大された映像の表示領域として、第一反射像の領域が、投影部の縦方向に150mm以上であることが好ましい。
また、第一反射像の領域が、投影部の横方向にも150mm以上であることが好ましい。
【0047】
S-HUD方式の場合、投影光はS偏光からなり、中間膜が半波長板を含むことが好ましい。そして、S偏光からなる投影光を第一主面に対して、ブリュースター角の±10°、好ましくは、ブリュースター角を形成する入射角度で入射することが好ましい。この場合、投影部の第四主面で第一反射像が形成され、移動体の乗員は、第四主面での第一反射像に基づく虚像を視認する。第四主面を透過し、投影部内を進行した投影光は、半波長板で、P偏光に変換され、投影部の第一主面で反射が生じることなく、投影光はP偏光のまま室外側へ放出される。
また、第四主面を錫面とすること又は第一主面を非錫面とすることで、第一反射像に基づく虚像の鮮鋭性が改善される。そのため、投影光の投影部に対する入射角がブリュースター角よりずれる領域における第二反射像の影響が低減され、実質的に映像の表示領域を拡大することができる。
このようにして拡大された映像の表示領域として、第一反射像の領域が、投影部の縦方向に150mm以上であることが好ましい。
【0048】
第二のHUD装置は、P-HUD方式のものであることが好ましく、P-HUD方式の場合、投影光はP偏光からなり、中間膜が半波長板を含むことが好ましい。そして、P偏光からなる投影光を第四主面に対して、ブリュースター角の±10°、好ましくは、ブリュースター角を形成する入射角度で入射することが好ましい。この場合に第四主面での投影光の反射は生じない。そして、投影部内を進行した投影光は、半波長板でS偏光に変換され、第一主面で第二反射像を形成しつつ、第一主面を透過した投影光はS偏光のまま室外側へ放出される。
第一主面での第二反射像を形成した投影光は、再度、半波長板を通過し、P偏光に変換される。移動体の乗員は、第一主面での第二反射像に基づく虚像を視認する。この虚像は、P偏光からなるので、乗員は、偏光サングラス越しでも、該虚像を視認することができる。
また、第一主面を錫面とすること又は第四主面を非錫面とすることで、第二反射像に基づく虚像の鮮鋭性が改善される。そのため、投影光の投影部に対する入射角がブリュースター角よりずれる領域における第一反射像の影響が低減され、実質的に映像の表示領域を拡大することができる。
このようにして拡大された映像の表示領域として、第二反射像の領域が、投影部の縦方向に150mm以上であることが好ましい。
【0049】
拡大された映像領域を有するHUD装置が必要とされるときは、前記第一反射像又は、前記第二反射像の領域は、投影部の縦方向に150mm以上であるものが使用される。この場合、楔HUD方式、S-HUD方式、P-HUD方式によって、二重像の低減が見られるものの、投影光の光軸中心から外れるほど、特に移動体が夜間に走行する場合に、二重像の影響が生じやすくなる。移動体が夜間に走行する場合、乗員が視認するHUDの映像は、背景が黒に近いものであるから、わずかな映像の反射、すなわち二重像の原因となる反射像に基づく虚像であっても、乗員に視認されやすくなる。本発明の実施形態に係るHUD装置では、前述のとおり、第一及び第二のHUD装置で、第一主面及び/又は第四主面で、適切な錫面、非錫面が配置されているので、楔HUD方式、S-HUD方式、P-HUD方式のいずれの場合でも、二重像の改善を図ることができる。
【0050】
<合わせガラスの作製手順>
以下に、本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置の投影部となる合わせガラスを作製する方法の好適な一例を説明する。
ガラス板のうちの1枚を水平に置き、その上に中間膜(樹脂中間膜)を重ね、最後にもう一方のガラス板を置く。なお、樹脂中間膜としてPVBを用いる場合には、PVBの含水率を最適に保つために、作業時の温度を恒温恒湿に維持するのが好ましい。その後、サンドイッチ状に積層したガラスと樹脂中間膜との間に存在する空気を脱気しながら温度80~100℃に加熱し、予備接着を行う。空気を脱気する方法には、ガラス板と樹脂中間膜の積層物を耐熱ゴムなどでできたゴムバッグで包んで行うバッグ法、積層物のガラス板の端部のみをゴムリングで覆ってシールするリング法、積層物をロールの間に通して最外層となる2枚のガラス板の両側から加圧するロール法などがあり、いずれの方法を用いても良い。
【0051】
予備接着が終了後、バッグ法を用いた場合は積層物をゴムバッグから取り出し、リング法を用いた場合は積層物からゴムリングを取り外す。その後、積層物をオートクレーブに入れ、10~15kg/cm2の高圧下で、120℃~150℃に加熱し、この条件で20~40分間、加熱・加圧処理(仕上げ接着)する。処理後、50℃以下に冷却したのちに除圧し、合わせガラスをオートクレーブから取り出す。
【0052】
楔HUD方式のHUD装置の投影部となる合わせガラスの場合は、中間膜又はガラス板の厚さに傾斜があるものが用いられる。
中間膜又はガラス板の厚さに傾斜があるものを使用することで、投影部は、第一反射像又は第二反射像の領域において、厚さが徐々に変動する楔角プロファイルを備えるようにすることができる。
【0053】
S-HUD方式又はP-HUD方式のHUD装置の投影部となる合わせガラスの場合は、半波長板をガラス板とガラス板との間に挟持し、中間膜に含ませるようにしたものや、ガラス板の中間膜と接する面に半波長板が貼り付けられたものが用いられる。半波長板は、反射像が形成される領域に配置されていれば良く、ガラス板と同じ大きさであっても、ガラス板よりも小さくても良い。
【実施例】
【0054】
ここで、フロートガラス板の錫面、非錫面、それぞれの可視光反射率の測定結果について述べる。フロートガラス板の錫面、非錫面の可視光反射率は、380nm~780nmの波長範囲の分光反射スペクトルを求め、JIS R3106(1998年)に基づいて測定した。
但し、測定試料に対する投影光の入射角度は、40°、56°(ブリュースター角)、70°に、重価係数に関わる光のスペクトルは、CIE昼光Aへと、前記JISから変更されている。
【0055】
また、可視光反射率は、測定光のガラス板への入射面(投影部4の第四主面424に相当)での空気側への反射と、出射面(投影部4の第一主面411に相当)でのガラス媒体側への反射のそれぞれで求めた。
入射面での空気側への分光反射スペクトル<1>の測定時には、出射面での光の反射を抑制するために、ガラス板の出射面にブラスト加工を施した後に黒色つや消しスプレーを塗布した。
【0056】
また、出射面でのガラス媒体側への分光反射スペクトル<2>は、前述の表面加工(ブラスト加工及びつや消しスプレーの塗布)を施していないガラス板の分光反射スペクトル(入射面での空気側への反射と、出射面でのガラス媒体側への反射の両方を含むもの)<3>から、入射面での空気側への分光反射スペクトル<1>を、各波長で除くこと、すなわち、
<2>=<3>-<1>
により求めた。
【0057】
各フロートガラス板の錫面、非錫面の可視光反射率は、表1、2のとおりである。尚、ここでの投影光は、S偏光とP偏光が1:1の混合比の光である。
また、表2は、入射面での反射率と、出射面での反射率との差分が示されている。表1、2から、錫面での可視光反射率は、非錫面での可視光反射率よりも高くなっていることがわかる。両面での可視光反射率の差は、小さいように見えるかもしれないが、可視光反射率自体の絶対値が大きいわけではないので、第一反射像又は第二反射像に与える影響は大きいものとなる。
【0058】
表1、表2での入射面による可視光反射率である<A>、<C>の値は、第一反射像に影響し、出射面での可視光反射率である<B>、<D>の値は、第二反射像に影響する。
第一のHUD装置では、入射面による反射率が高く、出射面による反射率が低いほど、二重像改善に好ましいものとなる。例えば、クリアガラスの入射角度56°での結果を見ると、「<A>-<B>」が2.5%、「<C>-<D>」が1.9%と、その差が0.6%となる。
入射面での可視光反射率が7%台程度なので、そのような差であっても、<A>と<B>との組み合わせによる投影部4は、<C>と<D>との組み合わせによる投影部4よりも、二重像の改善に対して大きな影響があることがわかる。
以上のことから、第一のHUD装置では、第四主面が錫面とされるか、第一主面が非錫面とされることで、二重像が改善される。
【0059】
一方、第二のHUD装置では、出射面での反射率が高く、入射面での反射率が低いと、二重像改善に好ましいものとなる。そのため、第二のHUD装置では、第一主面が錫面とされるか、第四主面が非錫面とされることで二重像が改善される。
【0060】
【0061】
【0062】
表3には、楔HUD方式の第一のHUD装置において、第一ガラス板と第二ガラス板の錫面と非錫面の組み合わせを変えて、可視光反射率比を比較した結果を示す。
この試験ではS偏光とP偏光が1:1の混合比の光を入射角56°で第四主面に入射している。
この結果からは、第四主面を錫面とし、第一主面を非錫面とすることで可視光反射率比が最も大きくなることがわかる。このことから、第四主面を錫面とし、第一主面を非錫面とする組み合わせの場合に二重像が最も改善されることが理解できる。
【0063】
【0064】
表4には、S-HUD方式の第一のHUD装置において、第一ガラス板と第二ガラス板の錫面と非錫面の組み合わせを変えて、可視光反射率比を比較した結果を示す。
この試験ではS偏光の光を入射角56°で第四主面に入射している。
この結果からは、第四主面を錫面とし、第一主面を非錫面とすることで可視光反射率比が最も大きくなることがわかる。このことから、第四主面を錫面とし、第一主面を非錫面とする組み合わせの場合に最も二重像が改善されることが理解できる。
【0065】
【0066】
表5には、P-HUD方式の第二のHUD装置において、第一ガラス板と第二ガラス板の錫面と非錫面の組み合わせを変えて、可視光反射率比を比較した結果を示す。
この試験ではP偏光の光を入射角56°で第四主面に入射している。
この結果からは、第四主面を非錫面とし、第一主面を錫面とすることで可視光反射率比が最も大きくなることがわかる。このことから、第四主面を非錫面とし、第一主面を錫面とする組み合わせの場合に二重像が改善されることが理解できる。
【0067】
【0068】
<拡大された映像領域を有するHUD装置の検証>
図3は、実施例で使用した第一のHUD装置を模式的に示す配置図である。
図3に示すような第一のHUD装置1´を準備した。第一のHUD装置1´は、S-HUD方式用の、300mm×300mmの正方形の投影部4を有する。
実施例では、第四主面が錫面、第一主面が非錫面で、比較例では、第四主面が非錫面、第一主面が錫面である。
図3に示すとおり、映像部3を水平に置き、投影部4を、映像部3に対して、ブリュースター角を形成する56°の位置関係で配置する。前記映像部3から、垂直上方にS偏光からなる投影光を照射し、乗員6は、投影部4に表示された虚像を観察する。投影部4に形成される反射像の大きさは縦方向(投影部4の部材内の縦方向に沿った方向で、本実施例及び比較例では映像部3に対して56°の方向となる)に、150mmの大きさとなるように設定されている。
また、移動体の夜間での走行を模擬するために、乗員6が視認する方向で、投影部4の向こう側には、黒の背景板7が配置されている。
【0069】
図4は、実施例及び比較例において視認される虚像を示す写真である。
左半分が実施例に相当し、右半分が比較例に相当する。
右半分に示した比較例で視認される虚像では横方向に伸びる二重像が観察された。特に下半分の虚像で二重像が顕著に観察された。
一方、左半分の実施例で視認される虚像では、実施例では、投影部の縦方向に150mmの大きさにおいて二重像が低減されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
自動車などの車両のフロントガラス部における映像の表示領域を拡大することのできるHUD装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0071】
1、1´第一のHUD装置
2 第二のHUD装置
3 映像部
4 投影部
6 乗員
7 背景板
41 第一ガラス板
411 第一主面
42 第二ガラス板
424 第四主面
44 中間膜
511 第一反射像に基づく虚像
521 第二反射像に基づく虚像