(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】エンドトキシンの測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/579 20060101AFI20231206BHJP
C12Q 1/37 20060101ALI20231206BHJP
C12Q 1/26 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G01N33/579
C12Q1/37 ZNA
C12Q1/26
(21)【出願番号】P 2021092897
(22)【出願日】2021-06-02
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000219451
【氏名又は名称】東亜ディーケーケー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【氏名又は名称】柳井 則子
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】八幡 悟史
(72)【発明者】
【氏名】小田 侑
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 優香
(72)【発明者】
【氏名】下村 亜依
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-225372(JP,A)
【文献】特開2014-062785(JP,A)
【文献】特開2014-014375(JP,A)
【文献】特開2014-110806(JP,A)
【文献】小田侑,生物発光を利用した透析液および透析用水中のエンドトキシン測定,エンドトキシン・自然免役研究,2019年,Vol.22,Page.17-20
【文献】Satoshi Yawata,Improved bioluminescence-based endotoxin measurement method using a salt-resistant luciferase mutant,Analytical Biochemistry,2021年10月08日,Vol.633,Page.114408
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/579
C12Q 1/37
C12Q 1/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドトキシンを測定する方法であって、
所定量の被験試料を、ライセート試薬を含む乾燥粉末と混合して第1の反応溶液を調製した後、当該第1の反応溶液を所定時間インキュベートするライセート反応工程と、
前記ライセート反応工程の後、遮光下で、前記第1の反応溶液と、ルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末とを混合して第2の反応溶液を調製し、当該第2の反応溶液の発光量を測定するルシフェラーゼ反応工程と、
前記ルシフェラーゼ反応工程で得られた発光量に基づいて、前記被験試料のエンドトキシン濃度を測定する、エンドトキシン測定工程と、
を有し、
前記被験試料が、透析液又は水であり、
前記ライセート試薬が、C因子と、B因子と、前凝固酵素とを含有し、
前記ルシフェラーゼ生物発光試薬が、発光合成基質と、耐塩性ルシフェラーゼと、ATPとを含有し、
前記発光合成基質が、活性型C因子、活性型B因子、又は前記前凝固酵素の変換により得られる凝固酵素によって消化されることにより、発光基質を遊離する物質であり、
前記ルシフェラーゼ反応工程において、前記第2の反応溶液が、ナトリウムイオン濃度が250~390mM、カルシウムイオン濃度が0.5~10mM、塩化物イオン濃度が250~361.5mM、及びトリス濃度が20~30mMである、エンドトキシンの測定方法。
【請求項2】
前記ルシフェラーゼ反応工程において、前記第2の反応溶液のpHが、7.7~8.5である、請求項1に記載のエンドトキシンの測定方法。
【請求項3】
前記ルシフェラーゼ反応工程において、前記第2の反応溶液が、マグネシウムイオン濃度が10~20mM、炭酸イオン濃度が1~5mMである、請求項1又は2に記載のエンドトキシンの測定方法。
【請求項4】
エンドトキシンを測定する方法であって、
所定量の被験試料を、ライセート試薬及びルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末と混合して反応溶液を調製し、
当該反応溶液を遮光下で所定時間インキュベートした後、当該反応溶液の発光量に基づいて、前記被験試料のエンドトキシン濃度を測定し、
前記被験試料が、透析液又は水であり、
前記ライセート試薬が、C因子と、B因子と、前凝固酵素とを含有し、
前記ルシフェラーゼ生物発光試薬が、発光合成基質と、耐塩性ルシフェラーゼと、ATPとを含有し、
前記発光合成基質が、活性型C因子、活性型B因子、又は前記前凝固酵素の変換により得られる凝固酵素によって消化されることにより、発光基質を遊離する物質であり、
前記反応溶液が、ナトリウムイオン濃度が250~390mM、カルシウムイオン濃度が0.5~10mM、塩化物イオン濃度が250~361.5mM、及びトリス濃度が20~30mMである、エンドトキシンの測定方法。
【請求項5】
前記反応溶液のpHが、7.7~8.5である、請求項4に記載のエンドトキシンの測定方法。
【請求項6】
前記反応溶液が、マグネシウムイオン濃度が10~20mM、炭酸イオン濃度が1~5mMである、請求項4又は5に記載のエンドトキシンの測定方法。
【請求項7】
前記ライセート試薬が、カブトガニの血球からの抽出成分である、請求項1~6のいずれか一項に記載のエンドトキシンの測定方法。
【請求項8】
前記エンドトキシン測定工程において、前記被験試料のエンドトキシン濃度を、水に濃度既知のエンドトキシンを含有させた希釈系列を用いて作成された検量線と前記ルシフェラーゼ反応工程で得られた発光量とに基づいて測定する、請求項1~
3のいずれか一項に記載のエンドトキシンの測定方法。
【請求項9】
透析液又は水のエンドトキシン濃度を測定するためのキットであって、
ライセート試薬を含む乾燥粉末を含む第1の容器と、
ルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末を含む第2の容器と、を含有し、
前記ライセート試薬が、C因子と、B因子と、前凝固酵素とを含有し、
前記ルシフェラーゼ生物発光試薬が、発光合成基質と、耐塩性ルシフェラーゼと、ATPとを含有し、
前記発光合成基質が、活性型C因子、活性型B因子、又は前記前凝固酵素の変換により得られる凝固酵素によって消化されることにより、発光基質を遊離する物質であり、
さらに、請求項1~8のいずれか一項に記載のエンドトキシンの測定方法を実施するためのプロトコルが記載されている書面を含有する、エンドトキシン測定用キット。
【請求項10】
透析液又は水のエンドトキシン濃度を測定するためのキットであって、
ライセート試薬及びルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末を含む容器を含有し、
前記ライセート試薬が、C因子と、B因子と、前凝固酵素とを含有し、
前記ルシフェラーゼ生物発光試薬が、発光合成基質と、耐塩性ルシフェラーゼと、ATPとを含有し、
前記発光合成基質が、活性型C因子、活性型B因子、又は前記前凝固酵素の変換により得られる凝固酵素によって消化されることにより、発光基質を遊離する物質であり、
さらに、請求項1~8のいずれか一項に記載のエンドトキシンの測定方法を実施するためのプロトコルが記載されている書面を含有する、エンドトキシン測定用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水と透析液中のエンドトキシンを、ライセート反応と生物発光を利用して測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンは、グラム陰性菌の細胞壁を構成するリポ多糖であり、非常に強力な毒素である。このため、水、医薬品、飲食品等におけるエンドトキシン汚染の検出が非常に重要である。特に、透析患者に対して静脈投与される透析液は、通常、長期にわたって投与されるため、非常に低濃度のエンドトキシンであっても、重篤な影響を及ぼすおそれがある。このため、安全性の点から、透析液のエンドトキシン汚染管理は非常に重要である。
【0003】
エンドトキシンの検出は、一般的に、カブトガニの血球抽出成分(amebocyte lysate)より調製されたライセート試薬を用いたライセート反応を利用して行われる。このライセート試薬には、カブトガニ由来のC因子とB因子と前凝固酵素(プロクロッティングエンザイム)が含まれている。エンドトキシンを含むサンプルにライセート試薬を混合すると、エンドトキシンによってC因子が活性化され、この活性型C因子によりB因子が活性化され、この活性型B因子により前凝固酵素が活性化されて凝固酵素(クロッティングエンザイム)が生成される。この凝固酵素の活性を指標として、エンドトキシンの量を測定する。
【0004】
凝固酵素の活性は、従来、コアギュローゲンの加水分解により生じたコアギュリンの不溶性ゲルの量を比濁法により測定する方法や、ペプチドに凝固酵素による消化部位によって発色色素を結合させた合成基質を反応系に添加しておき、凝固酵素による消化によって合成基質から遊離した発色色素による発色量を測定する比色法により測定されていた。近年、より高感度かつ迅速に凝固酵素の活性を測定する方法として、生物発光法を利用して測定する方法が開発された(非特許文献1)。当該方法では、凝固酵素の基質となるペプチドで修飾された発光基質とルシフェラーゼとアデノシン三リン酸(ATP)を用いる。凝固酵素による消化によって遊離した発光基質が、ATPとルシフェラーゼによって発光する。この発光量に基づいて、凝固酵素の活性は測定され、ひいてはエンドトキシンの量を測定することができる。
【0005】
ルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応に、甲虫ルシフェラーゼが広く用いられている。野生型甲虫ルシフェラーゼは、塩化ナトリウムの影響を受け、高濃度の塩化ナトリウム環境下では酵素反応が阻害され、塩化ナトリウムを含まない水溶液中に比べて、発光強度が20~50%程度にまで低下してしまう。このため、非特許文献1に記載の方法では、塩化ナトリウム濃度が130~150mM程度と高い透析液のエンドトキシン濃度を測定する場合には、耐塩性ルシフェラーゼ(特許文献1)を使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】小田侑ら、エンドトキシン・自然免疫研究、2019年、第22巻、第17~20ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
耐塩性ルシフェラーゼを用いることにより、塩化ナトリウム濃度の高い透析液中のエンドトキシン濃度も測定することができるものの、透析液成分による阻害の影響を完全に除くことはできない。このため生物発光を利用した測定方法では、透析液中のエンドトキシン濃度は、同じエンドトキシン濃度の水に比べて、発光量が小さくなる。このため、水で作成された検量線を用いた場合には、透析液中のエンドトキシン濃度は、実際のエンドトキシン濃度よりも低濃度に測定されてしまう。従って、より正確に透析液のエンドトキシン濃度を測定するためには、水ではなく、透析液で作成した検量線を用いる必要があるが、2種類の検量線を使用するのは煩雑である。
【0009】
そこで、本発明は、透析液のエンドトキシン濃度を、水で作成された検量線を用いてより精度よく測定するための方法、及び当該方法に使用されるキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意研究したところ、ライセート反応と生物発光法を利用してエンドトキシンを測定する方法において、ルシフェラーゼ反応時の反応溶液中の塩濃度を特定の範囲内に調整することによって、エンドトキシンの検出感度を充分に担保しつつ、水を被験試料とした場合と、透析液を被験試料とした場合の発光量の差を小さくすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係る発明は、下記[1]~[13]である。
[1] エンドトキシンを測定する方法であって、
所定量の被験試料を、ライセート試薬を含む乾燥粉末と混合して第1の反応溶液を調製した後、当該第1の反応溶液を所定時間インキュベートするライセート反応工程と、
前記ライセート反応工程の後、遮光下で、前記第1の反応溶液と、ルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末とを混合して第2の反応溶液を調製し、当該第2の反応溶液の発光量を測定するルシフェラーゼ反応工程と、
前記ルシフェラーゼ反応工程で得られた発光量に基づいて、前記被験試料のエンドトキシン濃度を測定する、エンドトキシン測定工程と、
を有し、
前記被験試料が、透析液又は水であり、
前記ライセート試薬が、C因子と、B因子と、前凝固酵素とを含有し、
前記ルシフェラーゼ生物発光試薬が、発光合成基質と、耐塩性ルシフェラーゼと、ATPとを含有し、
前記発光合成基質が、活性型C因子、活性型B因子、又は前記前凝固酵素の変換により得られる凝固酵素によって消化されることにより、発光基質を遊離する物質であり、
前記ルシフェラーゼ反応工程において、前記第2の反応溶液が、ナトリウムイオン濃度が250~390mM、カルシウムイオン濃度が0.5~10mM、塩化物イオン濃度が250~361.5mM、及びトリス濃度が20~30mMである、エンドトキシンの測定方法。
[2] 前記ルシフェラーゼ反応工程において、前記第2の反応溶液のpHが、7.7~8.5である、前記[1]のエンドトキシンの測定方法。
[3] 前記ルシフェラーゼ反応工程において、前記第2の反応溶液が、マグネシウムイオン濃度が10~20mM、炭酸イオン濃度が1~5mMである、前記[1]又は[2]のエンドトキシンの測定方法。
[4] エンドトキシンを測定する方法であって、
所定量の被験試料を、ライセート試薬及びルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末と混合して反応溶液を調製し、
当該反応溶液を遮光下で所定時間インキュベートした後、当該反応溶液の発光量に基づいて、前記被験試料のエンドトキシン濃度を測定し、
前記被験試料が、透析液又は水であり、
前記ライセート試薬が、C因子と、B因子と、前凝固酵素とを含有し、
前記ルシフェラーゼ生物発光試薬が、発光合成基質と、耐塩性ルシフェラーゼと、ATPとを含有し、
前記発光合成基質が、活性型C因子、活性型B因子、又は前記前凝固酵素の変換により得られる凝固酵素によって消化されることにより、発光基質を遊離する物質であり、
前記反応溶液が、ナトリウムイオン濃度が250~390mM、カルシウムイオン濃度が0.5~10mM、塩化物イオン濃度が250~361.5mM、及びトリス濃度が20~30mMである、エンドトキシンの測定方法。
[5] 前記反応溶液のpHが、7.7~8.5である、前記[4]のエンドトキシンの測定方法。
[6]前記反応溶液が、マグネシウムイオン濃度が10~20mM、炭酸イオン濃度が1~5mMである、前記[4]又は[5]のエンドトキシンの測定方法。
[7] 前記ライセート試薬が、カブトガニの血球からの抽出成分である、前記[1]~[6]のいずれかのエンドトキシンの測定方法。
[8] 前記エンドトキシン測定工程において、前記被験試料のエンドトキシン濃度を、水に濃度既知のエンドトキシンを含有させた希釈系列を用いて作成された検量線と前記ルシフェラーゼ反応工程で得られた発光量とに基づいて測定する、前記[1]~[3]のいずれかのエンドトキシンの測定方法。
[9] 透析液又は水のエンドトキシン濃度を測定するためのキットであって、
ライセート試薬を含む乾燥粉末を含む第1の容器と、
ルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末を含む第2の容器と、を含有し、
前記ライセート試薬が、C因子と、B因子と、前凝固酵素とを含有し、
前記ルシフェラーゼ生物発光試薬が、発光合成基質と、耐塩性ルシフェラーゼと、ATPとを含有し、
前記発光合成基質が、活性型C因子、活性型B因子、又は前記前凝固酵素の変換により得られる凝固酵素によって消化されることにより、発光基質を遊離する物質であり、
さらに、前記[1]~[8]のいずれかのエンドトキシンの測定方法を実施するためのプロトコルが記載されている書面を含有する、エンドトキシン測定用キット。
[10] 透析液又は水のエンドトキシン濃度を測定するためのキットであって、
ライセート試薬及びルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末を含む容器を含有し、
前記ライセート試薬が、C因子と、B因子と、前凝固酵素とを含有し、
前記ルシフェラーゼ生物発光試薬が、発光合成基質と、耐塩性ルシフェラーゼと、ATPとを含有し、
前記発光合成基質が、活性型C因子、活性型B因子、又は前記前凝固酵素の変換により得られる凝固酵素によって消化されることにより、発光基質を遊離する物質であり、
さらに、前記[1]~[8]のいずれかのエンドトキシンの測定方法を実施するためのプロトコルが記載されている書面を含有する、エンドトキシン測定用キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るエンドトキシンの測定方法により、水で作成された検量線を用いた場合でも、透析液中のエンドトキシン濃度を、より精度よく測定することができる。
また、本発明に係るエンドトキシン測定用キットを使用することにより、当該測定方法を、より簡便かつ容易に実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るエンドトキシンの測定方法は、水又は透析液のエンドトキシン濃度を測定する方法であって、ライセート反応と生物発光法を利用する。当該生物発光では、ライセート反応により生じた活性型C因子、活性型B因子、又は凝固酵素のプロテアーゼ活性によって消化されることにより発光基質を遊離させる発光合成基質と、ルシフェラーゼとATPとを用いる。当該方法では、被験試料中にエンドトキシンが含まれている場合、エンドトキシンによってC因子が活性化し、活性型C因子によってB因子が活性化し、活性型B因子によって前凝固酵素が凝固酵素に変換される。生じた活性型C因子、活性型B因子、又は凝固酵素のプロテアーゼ活性により発光合成基質が分解される。これにより遊離した発光基質(ルシフェリン又はその誘導体)が、ルシフェラーゼとATPによって生物発光する。被験試料中のエンドトキシン量が多いほど、生じる凝固酵素の量が多くなり、結果としてルシフェラーゼにより生じる発光量が多くなるため、透過光量の減衰を観察する比濁法よりも、S/N(Signal/Noise)が優れている。
【0014】
具体的には、水又は透析液を被験試料として、下記のライセート反応工程、ルシフェラーゼ反応工程、及びエンドトキシン測定工程を有する。
所定量の被験試料を、ライセート試薬を含む乾燥粉末と混合して第1の反応溶液を調製した後、当該第1の反応溶液を所定時間インキュベートするライセート反応工程。
前記ライセート反応工程の後、遮光下で、前記第1の反応溶液と、ルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末とを混合して第2の反応溶液を調製し、当該第2の反応溶液の発光量を測定するルシフェラーゼ反応工程。
前記ルシフェラーゼ反応工程で得られた発光量に基づいて、前記被験試料のエンドトキシン濃度を測定する、エンドトキシン測定工程。
【0015】
本発明において使用されるライセート試薬は、C因子と、B因子と、前凝固酵素とを含有する。本発明において使用されるライセート試薬としては、ライセート反応に一般的に使用される試薬であれば特に限定されるものではない。例えば、カブトガニの血球からの抽出成分からなるライセート試薬の乾燥粉末を、本発明におけるライセート試薬を含む乾燥粉末として使用できる。ライセート試薬は、カブトガニの血球から常法により調製できる。
【0016】
本発明及び本願明細書において、「カブトガニ」とは、例えば、タキプレウス・トリデンタツス(Tachypleus tridentatus)やタキプレウス・ギガス(Tachypleus gigas)等のタキプレウス(Tachypleus)属に属するカブトガニ、リムルス・ポリフェムス(Limulus polyphemus)等のリムルス(Limulus)属に属するカブトガニ、カルシノスコルピウス・ロツンディカウダ(Carcinoscorpius rotundicauda)等のカルシノスコルピウス(Carcinoscorpius)属に属するカブトガニが挙げられる。
【0017】
本発明において使用されるライセート試薬が含有するC因子とB因子と前凝固酵素は、リコンビナントタンパク質であってもよい。「リコンビナントタンパク質からなるC因子」としては、野生のカブトガニ血球抽出物から精製されるC因子(野生型C因子)と同じアミノ酸配列からなるリコンビナントタンパク質であってもよく、野生型C因子に各種変異が導入された変異型のタンパク質(変異体)であってもよく、野生型C因子又は変異体のN末端やC末端にその他のペプチドやタンパク質が融合した改変体であってもよい。同様に、「リコンビナントタンパク質からなるB因子」としては、野生のカブトガニ血球抽出物から精製されるB因子(野生型B因子)と同じアミノ酸配列からなるリコンビナントタンパク質であってもよく、野生型B因子に各種変異が導入された変異体であってもよく、野生型B因子又は変異体のN末端やC末端にその他のペプチドやタンパク質が融合した改変体であってもよい。「リコンビナントタンパク質からなる前凝固酵素」としては、野生のカブトガニ血球抽出物から精製される前凝固酵素(野生型前凝固酵素)と同じアミノ酸配列からなるリコンビナントタンパク質であってもよく、野生型前凝固酵素に各種変異が導入された変異体であってもよく、野生型前凝固酵素又は変異体のN末端やC末端にその他のペプチドやタンパク質が融合した改変体であってもよい。
【0018】
変異体としては、それぞれの活性を損なわないものであればよい。例えば、公知のものがあればそれを用いればよく、野生型を新たに改変して得たものを用いてもよい。新たに改変する場合には、例えば、発現したC因子、B因子、又は前凝固酵素の活性型における酵素活性が野生型よりも高くなるように設計し得たもの等が好ましい。例えば、野生型のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換又は付加されたアミノ酸配列等が挙げられる。ここで、「1又は数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換又は付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により欠失、挿入、置換又は付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、最も好ましくは5個以下)のアミノ酸が欠失、挿入、置換又は付加されていることが意図される。また、野生型と変異体のアミノ酸配列の配列同一性は、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上が最も好ましい。
【0019】
なお、アミノ酸配列同士の配列同一性(相同性)は、2つのアミノ酸配列を、対応するアミノ酸が最も多く一致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながら並置し、得られたアラインメント中のギャップを除くアミノ酸配列全体に対する一致したアミノ酸の割合として求められる。アミノ酸配列同士の配列同一性は、当該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェアを用いて求めることができる。
【0020】
野生型又は変異体のC因子、B因子、及び前凝固酵素に融合させるペプチド又はタンパク質としては、各活性を損なわないものであれば特に限定されるものではない。当該ペプチド等としては、例えば、ヒスチジンタグ、HA(hemagglutinin)タグ、Mycタグ、及びFlagタグ等の組換えタンパク質の発現・精製において汎用されているタグ等が挙げられる。
【0021】
リコンビナントタンパク質からなるC因子、B因子、及び前凝固酵素は、例えば、それぞれのタンパク質をコードする遺伝子を、宿主となる細胞に導入し、得られた形質転換体に発現させた後、精製することにより得られる。宿主となる細胞としては、大腸菌、酵母、昆虫細胞、哺乳細胞を用いることができ、これらの細胞の抽出物を利用した無細胞発現系を用いることもできる。また、遺伝子導入による形質転換体の作製、得られた形質転換体の培養及びリコンビナントタンパク質の発現、並びに培養物からのリコンビナントタンパク質の精製は、常法により行うことができる。
【0022】
野生型のC因子、B因子、及び前凝固酵素をコードする遺伝子は、文献やデータベース(例えば、EMBL Nucleotide Sequence Database(http://www.ebi.ac.uk/embl/))により公知である。したがって、例えば、B因子をコードする遺伝子はJ. Biol. Chem. 268, 21384-21388 (1993)、C因子をコードする遺伝子はJ. Biol. Chem. 266, 6554-6561 (1991)、前凝固酵素をコードする遺伝子は国際公開第2008/004674号に掲載される塩基配列情報等を参照して、PCR法等により適宜増幅し、クローニングすることができる。また、変異体のC因子、B因子、及び前凝固酵素をコードする遺伝子は、目的のアミノ酸配列から成るタンパク質をコードする塩基配列に基づき、化学合成により製造してもよく、それぞれの野生型の遺伝子を適宜改変することによって製造することもできる。また、本発明において用いられる形質転換体に導入されるC因子、B因子、及び前凝固酵素をコードする遺伝子は、縮重コドンを宿主のコドン使用頻度の高いものに改変したものであることが好ましい。
【0023】
その他、本発明においては、市販されているライセート試薬の乾燥粉末を用いることもできる。
【0024】
本発明において使用されるライセート試薬に含まれるC因子に対するB因子の含有割合(B因子/C因子)は、質量比で10/1~0.1/1が好ましく、2/1~0.5/1がより好ましい。また、当該ライセート試薬に含まれるC因子に対する前凝固酵素の含有割合(前凝固酵素/C因子)は、質量比で10/1~0.1/1が好ましく、2/1~0.5/1がより好ましい。
【0025】
本発明において使用されるライセート試薬には、塩、pH調整剤等のカブトガニ血球抽出成分に由来しない他の成分を適宜含ませてもよい。
【0026】
本発明において使用されるルシフェラーゼ生物発光試薬は、発光合成基質と、耐塩性ルシフェラーゼと、ATPとを含有する。本発明において使用されるルシフェラーゼ生物発光試薬の乾燥粉末は、発光合成基質と、耐塩性ルシフェラーゼと、ATPとを含む溶液を調製し、当該溶液を凍結乾燥等によって乾燥させることにより得られる。
【0027】
本発明において使用される発光合成基質は、ライセート反応において生成された活性型C因子、活性型B因子、又は凝固酵素によって消化されることにより、発光基質を遊離する物質である。発光基質としては、ルシフェラーゼとATPによって生物発光する物質であれば特に限定されるものではなく、例えば、ホタルルシフェリンやその誘導体等を用いることができる。ルシフェリンの誘導体としては、例えば、アミノルシフェリンが挙げられる。
【0028】
本発明において使用される発光合成基質としては、例えば、発光基質(ルシフェリン又はその誘導体)とペプチドの連結物であって、発光基質とペプチドの連結部位が、活性型C因子、活性型B因子、及び凝固酵素の少なくともいずれかのプロテアーゼ活性によって切断されるアミノ酸配列からなるものが挙げられる。なかでも、アミノルシフェリンのアミノ基がペプチドのカルボキシル基とアミド結合を形成しており、当該アミド結合が、活性型C因子、活性型B因子、及び凝固酵素の少なくともいずれかのプロテアーゼ活性によって切断される物質が好ましい。当該ペプチドのアミノ酸残基数及びアミノ酸配列は限定されないが、特異性、合成コスト、取扱い易さ等の観点からアミノ酸残基数は2個~10個が好ましい。また、当該ペプチドの種類は、単独でもよく、2種以上の組合せであってもよい。
【0029】
具体的には、凝固酵素の認識配列を有するペプチドとしては、Gly-Val-Ile-Gly-Arg-(配列番号1)、Val-Leu-Gly-Arg-(配列番号2)、Leu-Arg-Arg-(配列番号3)、Ile-Glu-Gly-Arg-(配列番号4)、Leu-Gly-Arg-(配列番号5)、Val-Ser-Gly-Arg-(配列番号6)、Val-Gly-Arg-(配列番号7)等が挙げられる。当該ペプチドのN末端は、保護基で保護されていてもよい。保護基としては、通常この分野で用いられるものであれば限定されることなく用いることができる。具体的には、例えば、N-スクシニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ベンゾイル基、p-トルエンスルホニル基等が挙げられる。
【0030】
本発明において使用される発光合成基質は、市販されているものであってもよく、合成したものであってもよい。市販されている発光合成基質としては、例えば、プロメガ社から市販されている「Proteasome-GloTM Assay Systems」に付属の発光合成基質(ベンゾイル-Leu-Arg-Arg-アミノルシフェリン)が挙げられる。合成する方法としては、例えば、特表2005-530485号公報(国際公開第2003/066611号)に記載の方法が挙げられる。
【0031】
本発明において使用されるルシフェラーゼ生物発光試薬に含まれる耐塩性ルシフェラーゼは、野生型ルシフェラーゼと比較して、塩化ナトリウムによる発光阻害の影響を受けにくい変異型ルシフェラーゼである。耐塩性ルシフェラーゼとは、野生型ルシフェラーゼに変異が導入された変異型ルシフェラーゼであって、0.9質量%の塩化ナトリウム溶液中における発光強度が、塩化ナトリウム非含有溶液中における発光強度の50%以上である変異型ルシフェラーゼである。本発明において使用される耐塩性ルシフェラーゼとしては、ルシフェラーゼ活性の残存活性が50%以上であればよく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることがよりさらに好ましい。
【0032】
なお、ルシフェラーゼの「残存活性(%)」とは、塩化ナトリウム非含有溶液中における発光強度を100%とした場合の、0.9質量%の塩化ナトリウム溶液中における発光強度の相対値([0.9質量%の塩化ナトリウム溶液中における発光強度]/[塩化ナトリウム非含有溶液中における発光強度]×100)(%)である。なお、ルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応の反応溶液が「塩化ナトリウム非含有溶液」であるとは、塩化ナトリウムを配合せずに調製された反応溶液であることを意味する。残存活性を算出するためのルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応を行う際の「塩化ナトリウム非含有溶液」と「0.9質量%の塩化ナトリウム溶液」は、塩化ナトリウム以外の組成は全て同一であり、反応温度や時間等の反応条件も揃えて行う。
【0033】
本発明において使用される耐塩性ルシフェラーゼは、甲虫由来の野生型ルシフェラーゼの変異体が好ましく、野生型甲虫ルシフェラーゼをコードするアミノ酸配列において、少なくとも下記(a)、(b)、(c)及び(d)からなる群より選択される1種以上の変異を有している変異型甲虫ルシフェラーゼが特に好ましい(特許文献1)。
【0034】
(a)野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における288位のバリンに相当するアミノ酸が、イソロイシン、ロイシン、又はフェニルアラニンである変異。
(b)野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における376位のロイシンに相当するアミノ酸が、プロリンである変異。
(c)野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における455位のグルタミン酸に相当するアミノ酸が、バリン、アラニン、セリン、ロイシン、イソロイシン、又はフェニルアラニンである変異。
(d)野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における488位のグルタミン酸に相当するアミノ酸が、バリン、アラニン、セリン、ロイシン、イソロイシン、又はフェニルアラニンである変異。
【0035】
本発明及び本願明細書において、「野生型甲虫ルシフェラーゼ」とは、北米ホタル(Photinus pyralis)ルシフェラーゼ(配列番号8)、ヘイケホタル(Luciola lateralis)ルシフェラーゼ(配列番号9)、ゲンジボタル(Luciola cruciata)ルシフェラーゼ(配列番号10)、東ヨーロッパホタル(Luciola mingrelica)ルシフェラーゼ、ツチホタル(Lampyris noctiluca)ルシフェラーゼ、ヒカリコメツキムシ(Pyrophorus plagiophthalamus)ルシフェラーゼ(配列番号11)等が挙げられる。なお、各種の野生型甲虫ルシフェラーゼのアミノ酸配列は、データベース(例えば、EMBL-EBI Database(http://www.ebi.ac.uk/queries/))で検索することができる。
【0036】
野生型甲虫ルシフェラーゼが北米ホタルルシフェラーゼでない場合は、当該野生型甲虫ルシフェラーゼのアミノ酸配列における、「北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列のX位のアミノ酸に相当するアミノ酸」は、アミノ酸配列の相同性解析ソフト(例えば、「Micro Genie」、Beckman Coulter社製)等を用いて、当該野生型甲虫ルシフェラーゼ及び北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列を最もホモロジー(配列同一性)が高くなるようにアラインメントした場合に、「北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列のX位のアミノ酸」に対応する位置にあるアミノ酸を意味する。
【0037】
具体的には、野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における288位のバリンに相当するアミノ酸は、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における290位のバリン、野生型ゲンジボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における290位のバリン、野生型ヒカリコメツキムシルシフェラーゼのアミノ酸配列における285位のバリンにそれぞれ相当する。野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における376位のロイシンは、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における378位のロイシン、野生型ゲンジボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における378位のロイシンにそれぞれ相当する。野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における455位のグルタミン酸は、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における457位のグルタミン酸、野生型ゲンジボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における457位のグルタミン酸、野生型ヒカリコメツキムシルシフェラーゼのアミノ酸配列における452位のグルタミン酸にそれぞれ相当する。野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における488位のグルタミン酸は、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における490位のグルタミン酸、野生型ゲンジボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における490位のグルタミン酸、野生型ヒカリコメツキムシルシフェラーゼのアミノ酸配列における489位のグルタミン酸にそれぞれ相当する。
【0038】
本発明において使用される耐塩性ルシフェラーゼが、前記(a)の変異を有している場合、当該変異としては、野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における288位のバリンに相当するアミノ酸が、イソロイシン又はロイシンである変異が好ましく、イソロイシンである変異がより好ましい。
【0039】
本発明において使用される耐塩性ルシフェラーゼが、前記(c)の変異を有している場合、当該変異としては、野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における455位のグルタミン酸に相当するアミノ酸が、バリン、ロイシン、イソロイシン、又はアラニンである変異が好ましく、バリンである変異がより好ましい。
【0040】
本発明において使用される耐塩性ルシフェラーゼが、前記(d)の変異を有している場合、当該変異としては、野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における488位のグルタミン酸に相当するアミノ酸が、バリン、ロイシン、イソロイシン、又はアラニンである変異が好ましく、バリンである変異がより好ましい。
【0041】
本発明において使用される耐塩性ルシフェラーゼは、前記(a)、(b)、(c)及び(d)の変異のうち、1種のみ有していてもよく、2種以上を組み合わせて有していてもよい。なかでも、0.9質量%の塩化ナトリウム溶液中におけるルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応による発光強度が、野生型甲虫ルシフェラーゼの発光強度よりも大きいことから、前記(a)、(b)、(c)及び(d)の変異のうち、前記(a)の変異のみ有する変異型甲虫ルシフェラーゼ、前記(b)の変異のみ有する変異型甲虫ルシフェラーゼ、前記(d)の変異のみ有する変異型甲虫ルシフェラーゼ、前記(a)と(b)の変異を有する変異型甲虫ルシフェラーゼ、前記(a)と(d)の変異を有する変異型甲虫ルシフェラーゼ、又は前記(a)と(b)と(d)の変異を有する変異型甲虫ルシフェラーゼが好ましく、さらに残存活性も高いことから、前記(a)、(b)、(c)及び(d)の変異のうち、前記(a)の変異のみ有する変異型甲虫ルシフェラーゼ、前記(d)の変異のみ有する変異型甲虫ルシフェラーゼ、前記(a)と(b)の変異を有する変異型甲虫ルシフェラーゼ、前記(a)と(d)の変異を有する変異型甲虫ルシフェラーゼ、又は前記(a)と(b)と(d)の変異を有する変異型甲虫ルシフェラーゼがより好ましい。
【0042】
本発明において使用される耐塩性ルシフェラーゼとしては、例えば、野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における288位のバリンに相当するアミノ酸がイソロイシンに置換された変異型甲虫ルシフェラーゼ、野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における376位のロイシンに相当するアミノ酸がプロリンに置換された変異型甲虫ルシフェラーゼ、野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における455位のグルタミン酸に相当するアミノ酸がバリンに置換された変異型甲虫ルシフェラーゼ、野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における488位のグルタミン酸に相当するアミノ酸がバリンに置換された変異型甲虫ルシフェラーゼ、野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における288位のバリンに相当するアミノ酸がイソロイシンに、376位のロイシンに相当するアミノ酸がプロリンにそれぞれ置換された変異型甲虫ルシフェラーゼ、野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における288位のバリンに相当するアミノ酸がイソロイシンに、488位のグルタミン酸に相当するアミノ酸がバリンにそれぞれ置換された変異型甲虫ルシフェラーゼ、野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における288位のバリンに相当するアミノ酸がイソロイシンに、376位のロイシンに相当するアミノ酸がプロリンに、488位のグルタミン酸に相当するアミノ酸がバリンにそれぞれ置換された変異型甲虫ルシフェラーゼ等が挙げられる。
【0043】
なお、野生型甲虫ルシフェラーゼをコードするアミノ酸配列において、少なくとも前記(a)、(b)、(c)及び(d)からなる群より選択される1種以上の変異を有している変異型甲虫ルシフェラーゼは、特許文献1に記載の方法で合成できる。
【0044】
本発明において使用されるルシフェラーゼ生物発光試薬の乾燥粉末中の発光合成基質の量は、ルシフェラーゼ反応工程において調製される第2の反応溶液中の発光合成基質濃度が、0.1~100μMとなる量が好ましく、1~20μMとなる量がより好ましい。発光合成基質の濃度が前記下限値以上であれば、充分な検出感度が得られ、一方、前記上限値以下であれば、材料コストが抑えられる。
【0045】
本発明において使用されるルシフェラーゼ生物発光試薬の乾燥粉末中の耐塩性ルシフェラーゼの量は、ルシフェラーゼ反応工程において調製される第2の反応溶液中の耐塩性ルシフェラーゼ濃度が、1ng/μL~10μg/μLとなる量が好ましく、10ng/μL~100ng/μLとなる量がより好ましい。耐塩性ルシフェラーゼの濃度が前記下限値以上であれば、充分な検出感度が得られ、一方、前記上限値以下であれば、材料コストが抑えられる。
【0046】
本発明において使用されるルシフェラーゼ生物発光試薬の乾燥粉末中のATPの量は、ルシフェラーゼ反応工程において調製される第2の反応溶液中のATP濃度が、10-7~10-3Mとなる量が好ましく、10-6~10-4Mとなる量がより好ましい。ATPの濃度が前記下限値以上であれば、生物発光反応においてATPが不足することを防げ、一方、前記上限値以下であれば、材料コストが抑えられ、また、過剰なATPによる生物発光反応の阻害が防げる。
【0047】
本発明においては、まず、所定量の被験試料(水又は透析液)を、ライセート試薬を含む乾燥粉末と混合して第1の反応溶液を調製した後、当該第1の反応溶液を所定時間インキュベートする(ライセート反応工程)。被験試料とライセート試薬を含む乾燥粉末を混合した後、得られた第1の反応溶液は、攪拌することが好ましい。ライセート試薬を含む乾燥粉末と混合する被験試料の量は、特に限定されるものではなく、例えば、10μL~1mLとすることができ、100~800μLが好ましく、100~500μLがより好ましい。第1の反応溶液をインキュベートする温度及び時間は、ライセート反応が進行し得る温度と時間であれば特に限定されるものではなく、例えば、20~40℃で5~40分間インキュベートすることができ、37℃で10~30分間インキュベートすることが好ましい。
【0048】
次いで、遮光下で、第1の反応溶液と、ルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末とを混合して第2の反応溶液を調製し、当該第2の反応溶液の発光量を測定する(ルシフェラーゼ反応工程)。第1の反応溶液とルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末を混合した後、得られた第2の反応溶液は、攪拌することが好ましい。生物発光反応の反応温度、すなわち、調製された第2の反応溶液の発光量測定までの温度は、生物発光反応が進行し得る温度であればよく、例えば、室温~40℃、好ましくは20~40℃とすることができる。また、生物発光反応の反応時間、すなわち、第2の反応溶液を調製してから当該反応溶液の発光量を測定するまでの時間は、特に限定されるものではなく、例えば、0秒~2分間、好ましくは0~30秒間とすることができる。なお、反応時間が0秒間とは、第1の反応溶液と、ルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末とを混合して直ちに発光量を測定することを意味する。
【0049】
第2の反応溶液の発光量は、例えば、光電子増倍管(photomultiplier:PMT)によって検出することができる。発光量の測定時間は、特に限定されるものではなく、例えば、10~60秒間とすることができる。第2の反応溶液の発光量は、その他、市販の生物発光測定装置を用いて測定することもできる。生物発光測定装置としては、例えば、「ルミテスター(登録商標)C1000」(キッコーマン社製)等が挙げられる。
【0050】
本発明におけるライセート反応工程とルシフェラーゼ反応工程は、例えば、特許第5979318号公報に記載の試料液の分析システムや、市販のエンドトキシン計「ルミニッツ(登録商標)-ET」(東亜ディーケーケー社製)を用いることにより測定できる。
【0051】
最後に、ルシフェラーゼ反応工程で得られた発光量に基づいて、被験試料のエンドトキシン濃度を測定する(エンドトキシン測定工程)。具体的には、濃度既知のエンドトキシン標準品の希釈系列について、同様にして発光量を測定し、エンドトキシン濃度と発光量の関係を示す検量線を作成する。この検量線と、被験試料についてルシフェラーゼ反応工程で得られた発光量に基づいて、当該被験試料のエンドトキシン濃度を算出する。ルシフェラーゼ反応で得られる発光量は、ライセート反応により生じた活性型C因子、活性型B因子、又は凝固酵素の量と、ルシフェラーゼ反応で生じる発光基質(ルシフェリン又はその誘導体)の量に依存する。このため、検量線作成に用いられるエンドトキシン標準品の希釈系列と、作成された検量線を用いてエンドトキシン濃度を算出する被験試料については、反応に用いる被験試料の量、第1の反応溶液をインキュベートする温度と時間、第2の反応溶液をインキュベートする温度と時間が、同じ条件で測定することが好ましい。
【0052】
耐塩性ルシフェラーゼであっても、反応溶液中の塩化ナトリウム濃度の影響を受ける。すなわち、第2の反応溶液の塩化ナトリウム濃度が高くなるほど、ルシフェラーゼ反応で生じる発光量は低下する。第2の反応溶液には、被験試料に由来する塩化ナトリウムが含まれるため、被験試料が水の場合と透析液の場合には、第2の反応溶液の塩化ナトリウム濃度が異なる。このため、同じエンドトキシン濃度であっても、透析液を被験試料として得られた発光量は、水を被験試料として得られた発光量よりも少なくなる。
【0053】
本発明においては、被験試料が水の場合と透析液の場合のいずれにおいても、第2の反応溶液の各イオン濃度やトリス濃度を一定の範囲内にすることにより、被験試料が水である場合と被験試料が透析液である場合の第2の反応溶液の発光量の差を抑えることができる。このため、本発明においては、濃度既知のエンドトキシン標準品を水に溶解して作製した希釈系列を用いて作成された検量線を用いて、透析液のエンドトキシン濃度を精度よく測定することができる。
【0054】
本発明においては、被験試料が水の場合と透析液の場合のいずれにおいても、第2の反応溶液が、ナトリウムイオン濃度が250~390mM、カルシウムイオン濃度が0.5~10mM、塩化物イオン濃度が250~361.5mM、及びトリス濃度が20~30mMであるように調整される。例えば、塩化ナトリウム濃度が250~390mMでは、塩化ナトリウムの濃度差による発光量の差が小さい。このため、被験試料が水の場合に調製された第2の反応溶液の塩化ナトリウム濃度と、被験試料が透析液の場合に調製された第2の反応溶液の塩化ナトリウム濃度が、いずれも250~390mMの範囲内であれば、水を用いて作成された検量線を使用した場合でも、透析液中のエンドトキシン濃度を精度よく測定できる。塩化カルシウム及びトリスも同様である。
【0055】
本発明においては、被験試料が水の場合と透析液の場合のいずれにおいても、第2の反応溶液が、マグネシウムイオン濃度が10~20mM、炭酸イオン濃度が1~5mMであるように調整されることが好ましい。被験試料が水の場合に調製された第2の反応溶液のマグネシウムイオン濃度と、被験試料が透析液の場合に調製された第2の反応溶液のマグネシウムイオン濃度が、いずれも10~20mMの範囲内であれば、マグネシウムイオンの濃度差による発光量の差をより小さくすることができる。炭酸イオンも同様に、被験試料が水の場合に調製された第2の反応溶液の炭酸イオン濃度と、被験試料が透析液の場合に調製された第2の反応溶液の炭酸イオン濃度が、いずれも1~5mMの範囲内であれば、炭酸イオンの濃度差による発光量の差をより小さくすることができる。
【0056】
本発明においては、被験試料が水の場合と透析液の場合のいずれにおいても、第2の反応溶液のpHが7.7~8.5であるように、調整されることが好ましい。pH7.7~8.5であれば、同じエンドトキシン濃度であっても、より発光量が大きくなり、エンドトキシンの検出感度をより高めることができる。
【0057】
第2の反応溶液の各イオン濃度やトリス濃度、pHは、ライセート反応工程で用いるライセート試薬を含む乾燥粉末と、ルシフェラーゼ反応工程で用いるルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末における各イオン濃度やトリス濃度を調節することにより、調整することができる。例えば、ライセート試薬の乾燥粉末とルシフェラーゼ生物発光試薬の乾燥粉末に含まれているナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、塩化物塩、炭酸塩、及びトリスの濃度を測定し、所定量の水を用いて第1の反応溶液、及び第2の反応溶液を調製した場合に、第2の反応溶液の各イオン濃度やトリス濃度が、所定の濃度範囲の下限値以上となるために不足する量を調べる。この不足量を、ライセート試薬の乾燥粉末とルシフェラーゼ生物発光試薬の乾燥粉末のいずれかに添加する。ライセート試薬を含む乾燥粉末とルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末の両方に分けて添加してもよい。この際に、所定量の透析液を用いて第1の反応溶液、及び第2の反応溶液を調製した場合に、第2の反応溶液の各イオン濃度やトリス濃度が、所定の濃度範囲の上限値を超えないように注意する。例えば、被験試料とする透析液の各イオン濃度は、予め調べておくことにより、第2の反応溶液の各イオン濃度を、水と透析液のいずれを用いた場合でも所定の範囲内になるように、ライセート試薬の乾燥粉末とルシフェラーゼ生物発光試薬の乾燥粉末に含まれる各塩の量を調整することが容易になる。
【0058】
例えば、透析液のナトリウムイオン濃度は、一般的に、100~140mMである。そこで、第2の反応溶液中の被験試料以外に由来するナトリウムイオン濃度が250~390mMとなるように、ライセート試薬を含む乾燥粉末とルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末に含まれるナトリウム塩の含有量を調整する。同様に、透析液の塩化物イオン濃度は、一般的に、100~140mMであるため、第2の反応溶液中の被験試料以外に由来する塩化物イオン濃度が250~361.5mMとなるように、ライセート試薬を含む乾燥粉末とルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末に含まれる塩化物塩の含有量を調整する。
【0059】
また、前記ライセート反応工程で用いるライセート試薬を含む乾燥粉末と、前記ルシフェラーゼ反応工程で用いるルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末とを、予め混合して一剤化し、ライセート反応工程とルシフェラーゼ反応工程を遮光下における一連の工程として行うこともできる。具体的には、まず、所定量の被験試料を、遮光下で、ライセート試薬及びルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末(以下、「一剤化乾燥粉末」ということがある。)と混合して反応溶液を調製する。次いで、得られた反応溶液を、遮光下で所定時間インキュベートして、ライセート反応とルシフェラーゼ反応を同時に行う。その後、当該反応溶液の発光量に基づいて、被験試料のエンドトキシン濃度を測定する。
【0060】
使用するライセート試薬やルシフェラーゼ生物発光試薬は、前記と同様のものを用いることができる。また、一剤化乾燥粉末中のライセート試薬の各成分の含有量は、所定量の被験試料と混合して得られた反応溶液中の濃度が、前記の第1の反応溶液中の濃度と同程度になるように調整することが好ましい。同様に、一剤化乾燥粉末中のルシフェラーゼ生物発光試薬の各成分の含有量は、所定量の被験試料と混合して得られた反応溶液中の濃度が、前記の第2の反応溶液中の濃度と同程度になるように調整することが好ましい。具体的には、所定量の被験試料と一剤化乾燥粉末とを混合した反応溶液は、ナトリウムイオン濃度が250~390mM、カルシウムイオン濃度が0.5~10mM、塩化物イオン濃度が250~361.5mM、及びトリス濃度が20~30mMであることが好ましく、さらに、pHが7.7~8.5、マグネシウムイオン濃度が10~20mM、炭酸イオン濃度が1~5mMであることがより好ましい。
【0061】
本発明に係るエンドトキシンの測定方法に使用する各種試薬をキット化することにより、当該方法をより簡便に実施することができる。透析液又は水のエンドトキシン濃度を測定するためのキットとしては、例えば、ライセート試薬を含む乾燥粉末を含む第1の容器と、ルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末を含む第2の容器とを含有することが好ましい。また、第1の容器と第2の容器に代えて、一剤化乾燥粉末を含む容器を含有することも好ましい。さらに、当該キットを用いて本発明に係るエンドトキシンの測定方法を実施するためのプロトコルが記載されている書面等を含むことも好ましい。
【0062】
当該キットにおいて、ライセート試薬を含む乾燥粉末とルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末に含まれている塩やトリスの濃度は、第1の容器に所定量の透析液又は水を混合して第1の反応溶液を調製した後、得られた第1の反応溶液の全量を前記第2の容器に混合して得られた第2の反応溶液が、ナトリウムイオン濃度が250~390mM、カルシウムイオン濃度が0.5~10mM、塩化物イオン濃度が250~361.5mM、及びトリス濃度が20~30mMとなるように、より好ましくは、第2の反応溶液のpHが、7.7~8.5、マグネシウムイオン濃度が10~20mM、炭酸イオン濃度が1~5mMとなるように、調整されていることが好ましい。同様に、一剤化乾燥粉末に含まれている塩やトリスの濃度は、一剤化乾燥粉末を含む容器に所定量の透析液又は水を混合して調製された反応溶液が、ナトリウムイオン濃度が250~390mM、カルシウムイオン濃度が0.5~10mM、塩化物イオン濃度が250~361.5mM、及びトリス濃度が20~30mMとなるように、より好ましくは、第2の反応溶液のpHが、7.7~8.5、マグネシウムイオン濃度が10~20mM、炭酸イオン濃度が1~5mMとなるように、調整されていることが好ましい。
【実施例】
【0063】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
水中のエンドトキシンを、ライセート反応と生物発光反応を用いて測定し、反応溶液中のナトリウム濃度の影響を調べた。
【0065】
エンドトキシンは、大腸菌O113:H10由来エンドトキシン(富士フィルム和光純薬製)を用いた。また、水は、特に記載のない限り、エンドトキシンを含有しないパイロジェンフリー水を用いた。本実施例では、エンドトキシン活性値が0.01EU/mLとなるようにパイロジェンフリー水にエンドトキシンを溶解させたエンドトキシン水溶液を、被験試料とし、ブランク(対照被験試料)として、パイロジェンフリー水を用いた。
【0066】
エンドトキシンの測定には、エンドトキシン計「ルミニッツ(登録商標)-ET」(東亜ディーケーケー社製)を用いた。200μLの被験試料を、ライセート試薬の乾燥粉末を含む容器に添加して攪拌した後、当該容器をエンドトキシン計の所定の位置にセットし、37℃で20分間、インキュベートすることにより、ライセート反応を行った。反応終了後の反応物に、ルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末を加え、生物発光反応を開始させた。生物発光は、ライセート反応と同様に37℃で行った。生物発光反応開始から40秒経過時点までに生じた発光量を、PMTによって検出して測定した。
【0067】
ライセート試薬としては、カブトガニの血球からの抽出成分(ライセート試薬)の乾燥粉末であって、当該エンドトキシン計の専用キットに付属のライセート試薬の乾燥粉末(東亜ディーケーケー社製)を用いた。
【0068】
ルシフェラーゼ生物発光試薬のうち、耐塩性ルシフェラーゼとしては、北米ホタルルシフェラーゼの変異体(V288I+E488V)(特許文献1)を用いた。また、発光合成基質としては、ベンゾイル-Leu-Gly-Arg-アミノルシフェリン(AATバイオクエスト社製)を用いた。
【0069】
ルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末としては、0.25μg/μLの耐塩性ルシフェラーゼ、5mMのATP、93mMの酢酸マグネシウム、及び0.1Mの発光合成基質を含む溶液(pH8.0)を調製し、当該溶液30μLを凍結乾燥して得られた乾燥粉末を用いた。ライセート試薬を含む乾燥粉末としては、167mMのTris-Clと、0、233、466、1000、1333、又は1666mMの塩化ナトリウムとを含む溶液(pH8.0)を調製し、当該溶液30μLを凍結乾燥して得られた乾燥粉末を用いた。ルシフェラーゼ生物発光試薬にはほとんど塩やトリスは含まれていないため、被験試料を水とした場合には、生物発光反応の反応溶液のナトリウムイオン濃度、カルシウムイオン濃度、マグネシウムイオン濃度、塩化物イオン濃度、炭酸イオン濃度、及びトリス濃度は、ライセート試薬を含む乾燥粉末に由来する。
【0070】
各試験区の発光量の測定値から、ブランクの発光量の測定値を差し引いた発光量を、各試験区の発光量とした。塩化ナトリウム濃度が0mMであるルシフェラーゼ生物発光試薬を用いた試験区(生物発光反応の反応溶液中の塩化ナトリウム濃度が0mMの試験区)の発光量を100%とし、各試験区の相対発光量(%)を算出した。算出結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
表1に示すように、生物発光反応の反応溶液中の塩化ナトリウム濃度が高くなると、相対発光量が低下する傾向にあるが、反応溶液中の塩化ナトリウム濃度が250~390mMでは、ほぼ相対発光量は等しく、この濃度範囲であれば、塩化ナトリウム濃度の違いによる発光量の差を十分に小さくできることがわかった。例えば、生物発光反応の反応溶液中の被験試料以外に由来する塩化ナトリウム濃度が150mMとなるように、ライセート試薬を含む乾燥粉末とルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末を調製した場合には、生物発光反応の反応溶液の塩化ナトリウム濃度は、被験試料が水の場合には150mM、被験試料が透析液(塩化ナトリウム濃度が100~140mM)の場合には250~390mMとなる。被験試料が水の場合と透析液の場合のどちらも、生物発光反応の反応溶液中の塩化ナトリウム濃度が250~390mMの範囲内であり、両者の発光量の差が小さく、透析液が被験試料の場合も、水を用いて作成された検量線を使用してエンドトキシン濃度を測定することができることがわかった。
【0073】
[実施例2]
ライセート試薬を含む乾燥粉末として、167mMのTris-Clと、0又は1000mMの塩化ナトリウムと、0、3.3、6.6、13.3、33.3、66.6、133、又は200mMの塩化カルシウムとを含む溶液(pH8.0)を調製し、当該溶液30μLを凍結乾燥して得られた乾燥粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、0.01EU/mLのエンドトキシンを含有する水を被験試料として、当該被験試料のエンドトキシン濃度を、ライセート反応と生物発光反応を用いて測定した。測定結果を表2に示す。
【0074】
【0075】
表2に示すように、生物発光反応の反応溶液中の塩化カルシウム濃度が高くなると、相対発光量が低下する傾向にあり、この傾向は、生物発光反応の反応溶液中の塩化ナトリウム濃度が高いほど顕著であった。塩化ナトリウム濃度にかかわらず、生物発光反応の反応溶液中の塩化カルシウム濃度が0.5~10mMでは、塩化カルシウム濃度の違いによる発光量の差が小さかった。このことから、生物発光反応の反応溶液中の被験試料以外に由来する塩化カルシウム濃度が0.5~10mMとなるように、ライセート試薬を含む乾燥粉末とルシフェラーゼ生物発光試薬を含む乾燥粉末を調製した場合には、生物発光反応の反応溶液の塩化カルシウム濃度は、被験試料が水の場合と透析液の場合のどちらも0.5~10mMの範囲内であり、両者の発光量の差が小さく、透析液が被験試料の場合も、水を用いて作成された検量線を使用してエンドトキシン濃度をより精度よく測定することができることがわかった。
【0076】
[実施例3]
ライセート試薬を含む乾燥粉末として、167mMのTris-Cl、150mMの塩化ナトリウム、及び、13.3mMの炭酸カルシウムを含む溶液(pH7.0、7.5、8.0、8.5、又は9.0)を調製し、当該溶液30μLを凍結乾燥して得られた乾燥粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、0.01EU/mLのエンドトキシンを含有する水を被験試料として、当該被験試料のエンドトキシン濃度を、ライセート反応と生物発光反応を用いて測定した。測定結果を表3に示す。
【0077】
【0078】
表3に示すように、生物発光反応は、反応溶液のpHの影響を受けた。特に、生物発光反応の反応溶液のpHが8.0~8.5の試験区が、非常に相対発光量が高く、エンドトキシンの検出感度が高かった。
【0079】
[実施例4]
被験試料として、実施例1で用いた0.01EU/mLのエンドトキシンを含有する水又は透析液を用い、ライセート試薬を含む乾燥粉末として、150mMの塩化ナトリウム及び13.3mMの炭酸カルシウムを含む溶液と、133、166、200、266、333、又は466mMのTris-Clを含む溶液(pH8.0)とを調製し、当該溶液30μLを凍結乾燥して得られた乾燥粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、被験試料のエンドトキシン濃度を、ライセート反応と生物発光反応を用いて測定した。
【0080】
透析液としては、「サブラッド(登録商標)血液ろ過用補充液BSG」(扶桑薬品社製)を用いた。当該透析液は、ナトリウムイオン濃度が140.0mM(140.0mEq/L)、カリウムイオン濃度が2.0mM(2.0mEq/L)、カルシウムイオン濃度が3.5mM(3.5mEq/L)、マグネシウムイオン濃度が1.0mM(1.0mEq/L)、塩化物イオン濃度が111.5mM(111.5mEq/L)、炭酸イオン濃度が35mM(70mEq/L)である。測定結果を表4に示す。
【0081】
【0082】
表4に示すように、生物発光反応は、反応溶液のトリス濃度の影響を受けた。特に、被験試料が水の場合には、透析液を被験試料とした場合よりも、トリス濃度の影響をより強く受け、被験試料が水の場合と透析液の場合の発光量の差が大きくなった。生物発光反応の反応溶液のトリス濃度が20~30mMの範囲内であれば、被験試料が水の場合と透析液の場合の発光量の差が小さく、透析液が被験試料の場合も、水を用いて作成された検量線を使用してエンドトキシン濃度を測定することができることがわかった。
【0083】
[実施例5]
ライセート試薬とルシフェラーゼ生物発光試薬を一剤化した乾燥粉末を用いて、水と透析液中におけるエンドトキシン量を測定した。被験試料として、水又は透析液に、0、0.001、0.003、0.005、又は0.01EU/mLのエンドトキシンを溶解させた溶液を用いた。水及び透析液は、実施例4で用いたものを用いた。
【0084】
一剤化乾燥粉末は、ライセート試薬(0.38μg/μL)、0.25μg/μLの耐塩性ルシフェラーゼ、5mMのATP、及び、0.1Mの発光合成基質を、適量の塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウムと共に、トリス緩衝液(25mM,pH8.0)に溶解させた溶液を調製し、当該溶液30μLを凍結乾燥して得られた乾燥粉末を用いた。ライセート試薬、耐塩性ルシフェラーゼ、及び発光合成基質は、実施例1で用いたものと同じものを用いた。
【0085】
エンドトキシンの測定には、実施例1と同様に、エンドトキシン計「ルミニッツ(登録商標)-ET」(東亜ディーケーケー社製)を用いた。200μLの被験試料を、一剤化乾燥粉末を含む容器に添加して攪拌した後、当該容器をエンドトキシン計の所定の位置にセットし、遮光下で、37℃で20分間、インキュベートすることにより、ライセート反応を行った。反応終了後から40秒経過時点までに生じた発光量を、PMTによって検出して測定した。
【0086】
被験試料が水の場合と透析液の場合における、発光量測定時の反応溶液の各成分の濃度を表5に示す。また、各被験試料の反応溶液の発光量の測定結果を表6に示す。各反応溶液の発光量は、被験試料が水の場合のエンドトキシン濃度が0EU/mLのサンプルの発光量が0となるように補正して測定した。
【0087】
【0088】
【0089】
表6に示すように、エンドトキシン濃度が同じサンプルでは、被験試料が水の場合も透析液の場合も同程度の発光量であった。これらの結果から、当該一剤化乾燥粉末を用いることにより、水で作成された検量線を用いて、透析液中のエンドトキシン濃度を精度よく測定できることが明らかである。
【配列表】