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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】モールドパウダー
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
B22D11/108 F
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022016257
(22)【出願日】2022-02-04
(65)【公開番号】P2023114110
(43)【公開日】2023-08-17
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100195877
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】中谷 枝里香
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 尚志
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-063713(JP,A)
【文献】特開2021-126700(JP,A)
【文献】特開2011-036889(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101406939(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102218514(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/108
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaOとSiOを主成分として含み、
CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)は0.5~0.9であり、
Alの含有量は0.0~6.0質量%であり、
MgOの含有量は0.0~2.0質量%であり、
NaO、LiO及びKOの合計含有量は3.0~10.0質量%であり、
Fの含有量は0.0~5.0質量%であり、
の含有量は0.0~3.0質量%以下であり、
結晶化温度が1130~1230℃であり、
1300℃における粘度が1.0~4.0Pa・sであり、
スラグフィルム中にウォラストナイトが晶出することを特徴とするモールドパウダー(但し、Fe を含有し、かつ、ウォラストナイトが晶出しない場合を除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼の連続鋳造に好適なモールドパウダーに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造では、モールド内の溶鋼がモールドに冷やされて凝固シェルを形成し、凝固シェルは下方向に連続的に引き抜かれる。モールド内では溶鋼表面にモールドパウダーが投入される。モールドパウダーは溶鋼の熱によって溶融し、溶融スラグ層が形成される(以下、溶融したモールドパウダーをパウダースラグという)。パウダースラグは、モールドと凝固シェルとの間に流入し、モールドに冷やされてフィルム(スラグフィルム)に変化し、モールド下端から排出されて消費される。モールドパウダーの主な役割は、(1)溶鋼表面の保温及び酸化防止、(2)溶鋼から浮上する非金属介在物の吸収及び溶鋼の清浄化、(3)モールドと凝固シェルとの間の潤滑の確保、(4)凝固シェルからモールドへの熱流束を制御することによる凝固シェルの均一冷却化等である。
【0003】
モールドパウダーが前記(1)~(4)の役割を十分に果たせない場合、鋳片品質の劣化、操業の不安定化に繋がるため、安定した高品質のモールドパウダーの開発が進められている。
【0004】
例えば、特許文献1は、高粘度パウダーの適用による操業トラブルの抑制と鋳片品質の向上を目的として、1300℃における粘度が5ポイズ以上、かつ、下記(式1)を満足し、7≦CaO/F≦∞であることを特徴とするモールドパウダーを開示する。
A≧(B+30)0.35 (式1)
[(式1)において、Aはパウダー中のトータルカーボン量(重量%)であり、Bは1300℃における粘度(ポイズ)である]
【0005】
特許文献2は、質量%で、SiO:40~60%、CaO:15~35%を含有し、さらにAl:10%以下、MgO:10%以下、NaO:10%以下、LiO:10%以下、F:10%以下、T.C:15%以下を含有する組成物からなり、CaO/SiO:0.25~0.88、軟化点:1100~1250℃、1300℃における粘度:10.0poise以上の物性を有することを特徴とするモールドパウダーを開示する。
【0006】
特許文献3は、SiO:25~70重量%、CaO:10~50重量%、MgO:20重量%以下、炭素:0.5~30重量%、F:0~1重量%(不可避不純物)の範囲内にあり、1300℃で溶融モールドパウダーの粘度が4ポイズ以上であることを特徴とするモールドパウダーを開示する。
【0007】
特許文献4は、Fの含有量は0.5質量%以下(0質量%を含む)であり、主成分としてCaOとSiOを含み、CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)は0.6~1.4であり、Bの含有量は0.3~2.8質量%、NaOの含有量は5.0~20.0質量%、LiO及びKOの含有量は合計で0~4.0質量%、MgOの含有量は0~3.5質量%、Alの含有量は1.0~8.0質量%、MnOの含有量は1.0質量%以下(0質量%を含む)であることを特徴とするモールドパウダーを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-334351号公報
【文献】特開2003-53496号公報
【文献】WO00/033992
【文献】特開2021-126700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1~3に開示されるモールドパウダーは、主な役割「(4)凝固シェルからモールドへの熱流束を制御することによる凝固シェルの均一冷却化」、即ち、緩冷却特性に課題がある。また、特許文献4に開示されるモールドパウダーは、スラグ巻き込みによる鋳片品質の悪化や浸漬ノズルの溶損という課題がある。
【0010】
また、モールドとシェルが直接接触して発生する焼き付きによる拘束性ブレークアウト(以下、BO)を防止するため、モールド内には熱電対が埋め込まれており、熱電対の挙動を監視するBO予知警報システムが一般的に使用される。BO予知警報が作動するとBOを防止するため鋳造速度が減速される。従来のモールドパウダーは、BO予知警報システムの誤動作を引き起こしやすく、都度鋳造速度を減速するため、生産性の大きなロスとなり、操業安定性に好ましくないという課題がある。
【0011】
本開示は上記実状を鑑みてなされたものであり、本開示の態様は、緩冷却特性に優れ、スラグ巻き込みによる鋳片品質の悪化や浸漬ノズルの溶損が少なく、BO又はBO予知警報システムの誤動作による操業トラブルを防止し、生産性を向上させることができるモールドパウダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本開示の一の態様は、
CaOとSiOを主成分として含み、
CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)は0.5~0.9であり、
Alの含有量は0.0~6.0質量%であり、
MgOの含有量は0.0~2.0質量%であり、
NaO、LiO及びKOの合計含有量は3.0~10.0質量%であり、
Fの含有量は0.0~5.0質量%であり、
の含有量は0.0~3.0質量%以下であり、
結晶化温度が1130~1230℃であり、
1300℃における粘度が1.0~4.0Pa・sであり、
スラグフィルム中にウォラストナイトが晶出することを特徴とするモールドパウダーに関する。
【0013】
本開示の一の態様のモールドパウダーを鋼の連続鋳造に使用すると、BO又はBO予知警報システムの誤動作による操業トラブルが少なく、生産性を向上させることができる。これは、スラグフィルム中に晶出するウォラストナイトが高い緩冷却特性を有し、凝固シェルの均一な緩冷却に優れ、モールド内の熱電対の挙動を安定させるためと考えられる。また、1300℃における粘度が1.0~4.0Pa・sと高く、モールドと凝固シェルの間にスラグフィルムが確実に形成され、かつ、スラグフィルムが容易に切断されないことにより、モールドと凝固シェルが直接接触しないためと考えられる。
【0014】
また、本開示の一の態様のモールドパウダーを使用すると、スラグ巻き込みによる鋳片欠陥や鋳片オシレーションマーク深さ、割れ感受性が高い鋼種の割れやメニスカス近傍での凝固シェルの倒れ込みを低減させ、鋳片品質を向上させることができる。これは、パウダースラグの粘度が高く、スラグ巻き込みが発生しにくいためと考えられる。また、スラグフィルム中に晶出するウォラストナイトが高い緩冷却特性を有し、凝固シェルの均一な緩冷却に優れるためと考えられる。
【0015】
さらに、本開示の一の態様のモールドパウダーを使用すると、浸漬ノズルの溶損を低減させることができる。これは、パウダースラグの粘度が高く、モールドと凝固シェルの間への流入が減ることによりパウダースラグのモールド内での滞留時間が長くなり、パウダースラグ中へ溶解した浸漬ノズルに使用されるZrOの拡散が抑制されることで更なるZrOの溶解を抑制できるためと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本開示の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本開示の解決手段として必須であるとは限らない。
【0017】
本実施形態のモールドパウダーは、CaOとSiOを主成分として含み、CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)は0.5~0.9であり、Alの含有量は0.0~6.0質量%であり、MgOの含有量は0.0~2.0質量%であり、NaO、LiO及びKOの合計含有量は3.0~10.0質量%であり、Fの含有量は0.0~5.0質量%であり、Bの含有量は0.0~3.0質量%以下であり、結晶化温度が1130~1230℃であり、1300℃における粘度が1.0~4.0Pa・sであり、スラグフィルム中にウォラストナイトが晶出する。
【0018】
本実施形態のモールドパウダーにおいて、組成の主成分はCaO、SiOであり、副成分はAl、MgO、NaO、LiO、F、C等である。原料は、基材原料、シリカ原料、フラックス原料及び/又はその他の原料で構成される。なお、モールドパウダーは、溶鋼温度まで加熱されると分解、酸化等の化学反応を生じるため、加熱前後で組成が変動する。したがって、モールドパウダーの組成は、加熱前の組成を示し、以下のように記載する。即ち、FとC以外の成分については酸化物換算での質量%で表し、Fについては単体換算での質量%で表し、Cについては、炭素原料として添加されるものは単体換算での質量%で表し、炭素原料として添加されるもの以外のC(炭酸カルシウムのC等)については消失するものとして算入しない。
【0019】
基材原料としては、例えば、合成珪酸カルシウム、ウォラストナイト、リンスラグ、高炉スラグ、ダイカルシウムシリケート、炭酸カルシウム、石灰石、生石灰、セメント類等が挙げられ、主成分のCaOとSiOを供給する。シリカ原料としては、例えば、パーライト、フライアッシュ、珪砂、長石、珪石粉、珪藻土、ガラス粉、シリカフラワー等が挙げられ、モールドパウダーの質量比(CaO/SiO)を調整する。フラックス原料としては、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、氷晶石、蛍石、ホウ酸、ホウ砂、コレマナイト等が挙げられ、モールドパウダーの溶融特性を調整する。その他の原料としては、例えば、炭素原料、マグネシア、アルミナ等が挙げられる。炭素原料としては、例えば、コークス、グラファイト、カーボンブラック等が挙げられ、モールドパウダーの溶融速度を調整する。
【0020】
本実施形態のモールドパウダーにおいて、CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)は0.5~0.9であり、好ましくは0.6~0.8である。質量比(CaO/SiO)が0.5未満であると、粘度が高くなりすぎ、スラグフィルム中に結晶が晶出しにくくなる。また、0.9を超えると、粘度を高くすることが困難になる。
【0021】
本実施形態のモールドパウダーにおいて、Alの含有量は0.0~6.0質量%であり、好ましくは0.0~5.0質量%である。Alの含有量が6.0質量%を超えると、スラグフィルム中に結晶が晶出しにくくなり、緩冷却が不十分になる。
【0022】
本実施形態のモールドパウダーにおいて、MgOの含有量は0.0~2.0質量%であり、好ましくは0.0~1.0質量%である。MgOの含有量が2.0質量%を超えると、スラグフィルム中に結晶が晶出しにくくなり、緩冷却が不十分になる。
【0023】
本実施形態のモールドパウダーにおいて、NaO、LiO及びKOの合計含有量は3.0~10.0質量%であり、好ましくは4.0~9.0質量%である。NaO、LiO及びKOの合計含有量が3.0質量%未満であると結晶化温度が高くなり、モールドと凝固シェルとの間へのパウダースラグの流入が阻害され、モールドと凝固シェルとの間の潤滑を確保できない。10.0質量%を超えると粘度が低くなりすぎ、スラグ巻き込みによる鋳片欠陥や浸漬ノズルの溶損が大きくなる。また、NaOの含有量は好ましくは9.0質量%以下であり、LiO及びKOの合計含有量は好ましくは3.0質量%以下である。NaOの含有量とLiO及びKOの合計含有量をこれらの範囲にすることにより、結晶化温度と粘度がより好適になり、モールドと凝固シェルとの間の潤滑を好適に確保でき、スラグ巻き込みによる鋳片欠陥や浸漬ノズルの溶損を低減させることができる。
【0024】
本実施形態のモールドパウダーにおいて、Fの含有量は0.0~5.0質量%であり、好ましくは0.0~3.0質量%である。Fの含有量が5.0質量%を超えると、晶出結晶がウォラストナイトからカスピダインになるため、好ましくない。また、カスピダインに十分な緩冷却効果を発揮させるためにFの含有量を増加させると、モールドパウダーの粘度が下がり、好ましくない。
【0025】
本実施形態のモールドパウダーにおいて、Bの含有量は0.0~3.0質量%であり、好ましくは0.0~2.0質量%である。Bの含有量が3.0質量%を超えると、スラグフィルム中に結晶が晶出しにくくなり、緩冷却が不十分になる。
【0026】
本実施形態のモールドパウダーにおいて、滓化速度を調整するために炭素を添加してもよい。炭素の含有量(トータルカーボン(T.C)量)は好ましくは0.0~20.0質量%であり、より好ましくは0.0~15.0質量%である。これにより、適切な溶融層厚みを確保することが可能である。
【0027】
本実施形態のモールドパウダーにおいて、結晶化温度は1130~1230℃であり、好ましくは1150~1220℃である。結晶化温度が1130℃未満であると、スラグフィルム中に結晶が晶出しにくくなり、緩冷却が不十分になる。結晶化温度が1230℃を超えると、モールドと凝固シェルとの間へのパウダースラグの流入が阻害され、モールドと凝固シェルとの間の潤滑を確保できない。
【0028】
本実施形態のモールドパウダーにおいて、1300℃における粘度は1.0~4.0Pa・sであり、より好ましくは1.2Pa・s~4.0Pa・sである。粘度が1.0Pa・sより低いとスラグ巻き込みが増加するため、鋳片欠陥が増加し、また、モールドと凝固シェルの間への流入が増えることによりパウダースラグのモールド内での滞留時間が短くなり、パウダースラグ中へ溶解した浸漬ノズルに使用されるZrOの拡散が促進されることで更なるZrOの溶解が促進され、浸漬ノズルの溶損が増加する。
【0029】
本実施形態のモールドパウダーは、1300℃の溶融したパウダースラグ約120gをカーボンの樋上に流入させると、スラグフィルム中にウォラストナイトが晶出する。晶出結晶としてはカスピダインが一般的であるが、十分な緩冷却効果を発揮させるためには一定量が必要であり、そのためには一定量のFが必要である。しかし、Fの含有量が増加すると粘度が低下し、スラグ巻き込みや浸漬ノズルの溶損が増加する。一方、ウォラストナイトは高い緩冷却特性を有し、凝固シェルの均一な緩冷却に優れ、モールド内の熱電対の挙動を安定させるため、BO又はBO予知警報システムの誤動作による操業トラブルが少なく、生産性を向上させることができる。また、Fの含有量を低減させることができるため、パウダースラグの粘度が高く、スラグ巻き込みによる鋳片欠陥や鋳片オシレーションマーク深さ、割れ感受性が高い鋼種の割れやメニスカス近傍での凝固シェルの倒れ込みを低減させ、鋳片品質を向上させることができる。
【0030】
本実施形態のモールドパウダーにおいて、形態は特に限定されるものではなく、例えば、押出し顆粒、中空スプレー顆粒、撹拌造粒顆粒、転動造粒顆粒といった顆粒や、粉末等、使用目的に応じた形態を適宜選択することができる。
【実施例
【0031】
以下、本開示の実施例について詳細に説明する。
【0032】
[実験方法]
実験に用いたモールドパウダーの組成を表1に示す。組成の単位は質量%であるが、「CaO/SiO」はCaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)である。
【表1】
【0033】
実施例1~8は本開示の実施例である。比較例1は質量比(CaO/SiO)が0.5より小さく、比較例2は0.9より大きい。比較例3はAlの含有量が6.0質量%より多い。比較例4はMgOの含有量が2.0質量%より多い。比較例5はNaO、LiO及びKOの合計含有量が3.0質量%より少なく、比較例6は10.0質量%より多い。比較例7はFの含有量が5.0質量%より多い。比較例8はBの含有量が3.0質量%より多い。比較例9はAlの含有量が6.0質量%より多く、MgOの含有量が2.0質量%より多い。比較例10はFの含有量が5.0質量%より多い。
【0034】
実施例及び比較例のモールドパウダーについて、以下の評価を行った。
【0035】
<結晶化温度>
モールドパウダーの結晶化温度は示差熱法により測定した。即ち、1300℃のパウダースラグ約120gに熱電対を挿入し、4℃/minで降温しながらパウダースラグの温度を測定し、パウダースラグの結晶化に伴う発熱開始温度を結晶化温度とした。
【0036】
<粘度>
モールドパウダーの粘度は球引き上げ法により測定した。即ち、1300℃のパウダースラグ約120gに直径10mmの白金球を吊り下げ、8.5mm/sの速度で引き上げた際の抵抗力を測定し、ストークスの式を用いて粘度(η)(単位:Pa・s)を求めた。
【0037】
<晶出結晶>
スラグフィルム中の晶出結晶は、1300℃のパウダースラグ約120gをカーボンの樋上に流入させ、得られたスラグフィルムを粉砕し、X線粉末回折により同定した。
【0038】
<晶出割合>
スラグフィルム中の結晶の晶出割合は、1300℃のパウダースラグ約120gをカーボンの樋上に流入させ、晶出する結晶がスラグフィルム表面に占める割合を目視で観察した。晶出する結晶がスラグフィルム表面全体を占める場合を優(◎)、8割程度の場合を良(○)、8割未満の場合を不可(×)と評価した。
【0039】
<操業安定性>
操業安定性は、鋼の連続鋳造を行い、BO予知がなく、モールドと凝固シェルとの間の潤滑が確保され、操業上の問題がない場合を優(◎)、モールドの熱電対温度のばらつきは発生するが操業上大きな問題にならない場合を良(○)、BO予知警報の作動や操業上問題になるようなモールドと凝固シェルとの間の潤滑不良が発生する場合を不可(×)と評価した。
【0040】
<鋳片品質>
鋳片品質は、鋼の連続鋳造を行い、介在物欠陥や鋳片表面の縦割れ、きず、へこみ等の欠陥が見られない場合を優(◎)、欠陥が発生しても極小さく、圧延して問題ない程度の場合を良(○)、鋳片に品質上問題になるような欠陥が発生している場合を不可(×)と評価した。
【0041】
<総合評価>
総合評価は、晶出割合、操業安定性、鋳片品質が全て優(◎)と評価された場合を優(◎)、晶出割合、操業安定性、鋳片品質が全て良(○)以上と評価された場合(全て優(◎)と評価された場合を除く)を良(○)、晶出割合、操業安定性、鋳片品質のいずれか一つでも不可(×)と評価された場合を不可(×)と評価した。
【0042】
[評価結果]
実施例及び比較例の評価結果を表2に示す。
【表2】
【0043】
実施例1~8は、いずれも結晶の晶出割合は良好であり、安定操業性に優れ、鋳片品質も良好であった。また、浸漬ノズルの溶損が少ないことを目視にて確認した。
【0044】
比較例1は、結晶がほとんど晶出せず、操業安定性が不可(×)、鋳片品質が不可(×)であった。質量比(CaO/SiO)が0.50より低いため、粘度が高くなりすぎ、結晶が晶出しにくくなったと考えられる。
【0045】
比較例2は、鋳片品質が不可(×)であった。質量比(CaO/SiO)が0.90より高いため、粘度が低くなりすぎ、スラグ巻き込みが多く発生したと考えられる。また、浸漬ノズルの溶損も大きくなった。
【0046】
比較例3は、晶出割合が低く、操業安定性が不可(×)、鋳片品質が不可(×)であった。Alの含有量が6.0質量%より多いため、結晶が晶出しにくくなったと考えられる。
【0047】
比較例4は、晶出割合が低く、操業安定性が不可(×)、鋳片品質が不可(×)であった。MgOの含有量が2.0質量%より多いため、結晶が晶出しにくくなったと考えられる。
【0048】
比較例5は、操業安定性が不可(×)であった。NaO、LiO及びKOの合計含有量が3.0質量%より少ないため、結晶化温度が高くなりすぎ、モールドと凝固シェルとの間へのパウダースラグの流入が阻害され、モールドと凝固シェルとの間の潤滑を確保できなかったと考えられる。
【0049】
比較例6は、鋳片品質が不可(×)であった。NaO、LiO及びKOの合計含有量が10.0質量%より多いため、パウダースラグの粘度が低くなりすぎ、スラグ巻き込みが多く発生したと考えられる。また、浸漬ノズルの溶損も大きくなった。
【0050】
比較例7は、晶出割合が低く、操業安定性が不可(×)、鋳片品質が不可(×)であった。Fの含有量が5.0質量%より多いため、晶出結晶がカスピダインとなり、緩冷却効果が十分ではなかったと考えられる。
【0051】
比較例8は、晶出割合が低く、操業安定性が不可(×)、鋳片品質が不可(×)であった。Bの含有量が3.0質量%より多いため、結晶が晶出しにくくなったと考えられる。
【0052】
比較例9は、晶出割合が低く、操業安定性が不可(×)、鋳片品質が不可(×)であった。Alの含有量が6.0質量%より多く、MgOの含有量が2.0質量%より多いため、結晶が晶出しにくくなったと考えられる。
【0053】
比較例10は、鋳片品質が不可(×)であった。Fの含有量が8.0質量%と5.0質量%より多いため、パウダースラグの粘度が低くなりすぎ、スラグ巻き込みが多く発生したと考えられる。また、浸漬ノズルの溶損も大きくなった。晶出結晶はカスピダインであった。
【0054】
比較例11は、晶出割合が低く、操業安定性が不可(×)、鋳片品質が不可(×)であった。CaO/SiOが0.9より大きく、かつ、MgOが2.0質量%より多いため、晶出結晶がNaO・3CaO・2SiOとなり、ウォラストナイトが晶出しなくなったためと考えられる。また、浸漬ノズルの溶損も大きくなった。
【0055】
以上示したように、緩冷却特性に優れ、スラグ巻き込みによる鋳片品質の悪化や浸漬ノズルの溶損が少なく、BO又はBO予知警報システムの誤動作による操業トラブルを防止し、生産性を向上させることができるモールドパウダーを得ることができた。
【0056】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれる。例えば、明細書において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語とともに記載された用語は、明細書のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えられることができる。