IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】耐油剤および耐油組成物
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/14 20060101AFI20231206BHJP
   D21H 19/20 20060101ALI20231206BHJP
   D21H 19/10 20060101ALI20231206BHJP
   D21H 17/28 20060101ALI20231206BHJP
   D21H 17/37 20060101ALI20231206BHJP
   C08L 3/00 20060101ALI20231206BHJP
   C08L 5/00 20060101ALI20231206BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20231206BHJP
   C08F 222/20 20060101ALI20231206BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20231206BHJP
   B65D 65/42 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
D21H21/14 Z
D21H19/20 A
D21H19/10 B
D21H17/28
D21H17/37
C08L3/00
C08L5/00
C08L33/00
C08F222/20
C08L29/04 B
B65D65/42 A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022067758
(22)【出願日】2022-04-15
(62)【分割の表示】P 2021168638の分割
【原出願日】2021-10-14
(65)【公開番号】P2022103182
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2020174147
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021142572
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100224605
【弁理士】
【氏名又は名称】畠中 省伍
(72)【発明者】
【氏名】松田 礼生
(72)【発明者】
【氏名】坂下 浩敏
(72)【発明者】
【氏名】山口 のぞみ
(72)【発明者】
【氏名】上原 徹也
(72)【発明者】
【氏名】野口 太甫
(72)【発明者】
【氏名】柴田 俊
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-029940(JP,A)
【文献】国際公開第2020/054856(WO,A1)
【文献】特開2013-237941(JP,A)
【文献】特開2006-037316(JP,A)
【文献】特開2002-004194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00
D21H 11/00-27/42
B65D 65/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水化変性澱粉と他の澱粉との組み合わせである、2種以上の多糖類の組み合わせを含紙の外添に用いる紙用耐油剤であって、
疎水化変性澱粉が炭素数3~40の炭化水素基を有するように変性されており、ヒドロキシアルキル基を有さず
他の澱粉がヒドロキシアルキル化澱粉、酸化澱粉、デキストリン、カチオン化澱粉、アルファ化澱粉およびエーテル化澱粉からなる群から選択された少なくとも1種である、紙用耐油剤。
【請求項2】
疎水化変性澱粉と他の澱粉との組み合わせが、アルケニルコハク酸エステル化澱粉と、ヒドロキシアルキル化澱粉、酸化澱粉、デキストリン、カチオン化澱粉、アルファ化澱粉およびエーテル化澱粉からなる群から選択された少なくとも1種の澱粉との組み合わせである請求項1に記載の紙用耐油剤。
【請求項3】
アルケニルコハク酸エステル化澱粉が、オクテニルコハク酸エステル化澱粉、デセニルコハク酸エステル化澱粉、ドデセニルコハク酸エステル化澱粉、テトラデセニルコハク酸エステル化澱粉、ヘキサデセニルコハク酸エステル化澱粉、及びオクタデセニルコハク酸エステル化澱粉からなる群から選択される少なくとも一種である請求項2に記載の紙用耐油剤。
【請求項4】
疎水化変性澱粉と他の澱粉との組み合わせにおいて、疎水化変性澱粉と他の澱粉との重量比は、10:90~99:1である請求項1または2に記載の紙用耐油剤。
【請求項5】
(1)請求項1~4のいずれかに記載の紙用耐油剤における多糖類、および
(2)炭素数7~40の長鎖炭化水素基を有するアクリル単量体から形成される繰り返し単位を有する非フッ素重合体である耐油性ポリマー
を含んでなる耐油組成物。
【請求項6】
耐油性ポリマー(2)が、
(a)炭素数7~40の長鎖炭化水素基を有するアクリル単量体から形成された繰り返し単位、および
(b)親水性基を有するアクリル単量体から形成された繰り返し単位
を有する非フッ素共重合体であり、
多糖類と耐油性ポリマーとの重量比が、10:90~98:2である請求項5に記載の耐油組成物。
【請求項7】
長鎖炭化水素基を有するアクリル単量体(a)が、式:
CH2=C(-X)-C(=O)-Y(R)
[式中、Rは、それぞれ独立的に、炭素数7~40の炭化水素基であり、
は、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
は、2価~4価の炭素数1の炭化水素基、-C-、-O-、-C(=O)-、-S(=O)-または-NH-から選ばれる少なくとも1つ以上で構成される基(但し、炭化水素基を除く)であり、
kは1~3である。]
で示される単量体である請求項6に記載の耐油組成物。
【請求項8】
長鎖炭化水素基を有するアクリル単量体(a)が、
(a1)式:
CH2=C(-X)-C(=O)-Y-R
[式中、Rは、炭素数7~40の炭化水素基であり、
は、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
は、-O-または-NH-である。]
で示されるアクリル単量体、および/または
(a2)式:
CH2=C(-X)-C(=O)-Y-Z(-Y-R)
[式中、Rは、それぞれ独立的に、炭素数7~40の炭化水素基であり、
は、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
は、-O-または-NH-であり、
は、それぞれ独立的に、直接結合、-O-、-C(=O)-、-S(=O)-、-NH-または-CH-から選ばれる少なくとも1つ以上で構成される基であり、
Zは、直接結合、あるいは2価または3価の炭素数1~5の炭化水素基であり、
nは、1または2である。]
で示されるアクリル単量体であり、
親水性基を有するアクリル単量体(b)が、式:
CH=CX11C(=O)-Y11-(RO)-A
[式中、
11は、水素原子またはメチル基であり、
11は、-O-または-NH-であり、
Rは、炭素数2~6のアルキレン基、
Aは、水素原子、炭素数1~22の不飽和または飽和の炭化水素基、またはCH=CX11C(=O)-(ただし、X11は、水素原子またはメチル基である。)であり、
nは、1~90の整数である。]
で示されるオキシアルキレン(メタ)アクリレートである、請求項6または7に記載の耐油組成物。
【請求項9】
水または水と有機溶媒の混合物である液状媒体をさらに含んでなる請求項5~8のいずれかに記載の耐油組成物。
【請求項10】
鎖炭化水素基の炭素数が12~30である請求項5~9のいずれかに記載の耐油組成物。
【請求項11】
請求項1~4のいずれかに記載の紙用耐油剤または請求項5~10のいずれかに記載の耐油組成物と水から形成されており、粘度が200cps以下である処理液。
【請求項12】
耐油層を形成させるために用いる請求項11記載の処理液。
【請求項13】
処理液における多糖類の量が、5重量%以上である請求項11または12記載の処理液。
【請求項14】
添加剤をも含む請求項11~13のいずれかに記載の処理液。
【請求項15】
添加剤が、ポリビニルアルコールおよびグルコースから選択された少なくとも1種である請求項14に記載の処理液。
【請求項16】
請求項1~4のいずれかに記載の紙用耐油剤または請求項5~10のいずれかに記載の耐油組成物または請求項11~15のいずれかに記載の処理液から形成された耐油層を紙の表面に有する耐油紙。
【請求項17】
食品包装材または食品容器である請求項16に記載の耐油紙。
【請求項18】
請求項1~4のいずれかに記載の紙用耐油剤または請求項5~10のいずれかに記載の耐油組成物または請求項11~15のいずれかに記載の処理液で紙を外添処理または内添処理により処理する紙の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、耐油剤および耐油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紙からできている食品包装材および食品容器は、食品の水分および油分が染み出すことを防止することが要求される。したがって、耐油剤が紙に内添または外添により適用されている。
【0003】
特許文献1(特開2004-238518号公報)は、塗料総固形分の12.5~100重量%の澱粉を含む塗料を紙基材に塗工して澱粉加工紙を製造することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-238518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、紙に対して優れた耐油性を与えることができる耐油剤および耐油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、多糖類(好ましくは2種以上の多糖類の組み合わせ)を含んでなる紙用耐油剤に関する。
さらに、本開示は、紙用耐油剤と水との混合物である粘度200cps以下の処理液にも関する。粘度は、50℃の温度での粘度であり、好ましくは150cps以下、100cps以下または80cps以下である。粘度の下限は1cpsであってよい。
加えて、本開示は、多糖類および耐油性ポリマーを含んでなる耐油組成物に関する。
紙用耐油剤および耐油組成物は、水および/または有機溶媒、好ましくは水または水と有機溶媒の混合物(水性媒体)である液状媒体をも含有してよい。
本開示は、紙用耐油剤または耐油組成物で処理されている耐油紙を提供する。紙の処理は、外添または内添である。耐油紙は、外添処理方法により、紙用耐油剤または耐油組成物を含む耐油層を有する。あるいは耐油紙は、内添処理方法により、紙用耐油剤または耐油組成物を紙の内部に含む。
【0007】
本開示の好ましい態様は次のとおりである。
態様1:
(1)多糖類および(2)耐油性ポリマーを含んでなる耐油組成物。
態様2:
耐油性ポリマー(2)が、
(a)炭素数7~40の長鎖炭化水素基を有するアクリル単量体から形成された繰り返し単位、および
(b)親水性基を有するアクリル単量体から形成された繰り返し単位
を有する非フッ素共重合体であり、
多糖類と耐油性ポリマーとの重量比が、10:90~98:2である態様1に記載の耐油組成物。
態様3:
長鎖炭化水素基を有するアクリル単量体(a)が、式:
CH2=C(-X)-C(=O)-Y(R)
[式中、Rは、それぞれ独立的に、炭素数7~40の炭化水素基であり、
は、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
は、2価~4価の炭素数1の炭化水素基、-C-、-O-、-C(=O)-、-S(=O)-または-NH-から選ばれる少なくとも1つ以上で構成される基(但し、炭化水素基を除く)であり、
kは1~3である。]
で示される単量体である態様2に記載の耐油組成物。
態様4:
長鎖炭化水素基を有するアクリル単量体(a)が、
(a1)式:
CH2=C(-X)-C(=O)-Y-R
[式中、Rは、炭素数7~40の炭化水素基であり、
は、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
は、-O-または-NH-である。]
で示されるアクリル単量体、および/または
(a2)式:
CH2=C(-X)-C(=O)-Y-Z(-Y-R)
[式中、Rは、それぞれ独立的に、炭素数7~40の炭化水素基であり、
は、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
は、-O-または-NH-であり、
は、それぞれ独立的に、直接結合、あるいは-O-、-C(=O)-、-S(=O)-、-NH-または-CH-から選ばれる少なくとも1つ以上で構成される基であり、
Zは、直接結合、あるいは2価または3価の炭素数1~5の炭化水素基であり、
nは、1または2である。]
で示されるアクリル単量体であり、
親水性基を有するアクリル単量体(b)が、式:
CH=CX11C(=O)-Y11-(RO)-A
[式中、
11は、水素原子またはメチル基であり、
11は、-O-または-NH-であり、
Rは、炭素数2~6のアルキレン基、
Aは、水素原子、炭素数1~22の不飽和または飽和の炭化水素基、またはCH=CX12C(=O)-(ただし、X12は、水素原子またはメチル基である。)であり、
nは、1~90の整数である。]
で示されるオキシアルキレン(メタ)アクリレートである、態様2~3のいずれかに記載の耐油組成物。
態様5:
水または水と有機溶媒の混合物である液状媒体をさらに含んでなる態様1~4のいずれかに記載の耐油組成物。
態様6:
2種以上の多糖類の組み合わせを含んでなる紙用耐油剤。
態様7:
少なくとも1種の多糖類が、変性澱粉であるか、またはヒドロキシアルキル化澱粉、酸化澱粉、アルケニルコハク酸エステル化澱粉、デキストリン、カチオン化澱粉およびアルファ化澱粉からなる群から選択された少なくとも1種の澱粉であり、紙の外添に用いる態様6に記載の紙用耐油剤。
態様8:
態様1~5のいずれかに記載の耐油組成物または態様6または7に記載の紙用耐油剤と水から形成されており、粘度が200cps以下である処理液。
態様9:
耐油層を形成させるために用いる態様8記載の処理液。
態様10:
処理液における多糖類の量が、5重量%以上である態様8または9記載の処理液。
態様11:
添加剤をも含む態様8~10のいずれかに記載の処理液。
態様12:
添加剤がポリビニルアルコールおよびグルコースから選択された少なくとも1種である態様11に記載の処理液。
態様13:
態様1~5のいずれかに記載の耐油組成物または態様6または7に記載の紙用耐油剤から形成された耐油層を紙の表面に有する耐油紙。
態様14:
食品包装材または食品容器である態様13に記載の耐油紙。
態様15:
態様1~5のいずれかに記載の耐油組成物または態様6または7に記載の紙用耐油剤で紙を外添処理または内添処理により処理する紙の処理方法。
【発明の効果】
【0008】
紙用耐油剤は、紙に、高い耐油性を付与する。
耐油組成物は、塗工量が少なくても、高い耐油性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
紙用耐油剤は、(1)多糖類を含んでなる。
耐油組成物は、(1)多糖類、および(2)耐油ポリマーを含んでなる。
【0010】
(1)多糖類
多糖類は、グルコース、ガラクトース、フルクトース等の単糖類が複数(3以上、例えば3~2000)で結合した化合物である。多糖類は、単糖類が3~10個結合したオリゴ糖類であってもよい。
【0011】
多糖類は、酸性多糖類、中性糖類および/または塩基性糖類であってよい。
酸性多糖類は、一般的に、カルボキシル基(-COOH)等を有する多糖類である。 酸性多糖類の具体例は、カラギナン、ペクチン、アラビアガム、キサンタンガム、ジェランガム、寒天、トラガントガムである。
中性多糖類は、電気的に中性である多糖類である。中性多糖類の具体例は、タマリンドシードガム、グァーガム、ローカストビーンガム、澱粉、プルランである。
塩基性多糖類は、アミノ基(-NH2)等を有する多糖類である。塩基性多糖類の具体例は、キトサンである。
【0012】
多糖類の具体例としては、キサンタンガム、カラヤガム、ウェランガム、グアーガム、ペクチン、タマリンドガム、カラギーナン、キトサン、アラビアガム、ローカストビーンガム、セルロース、アルギン酸、澱粉、寒天、デキストラン、プルランが挙げられる。多糖類は、置換されている多糖類であってよく、特に、ヒドロキシル基が置換されている多糖類であってよい。
【0013】
多糖類としては、澱粉が好ましい。澱粉は、未変性澱粉または変性澱粉であってよい。澱粉としては、エステル化変性、エーテル化変性、酸化変性、アルカリ変性、酵素変性および漂白変性等の少なくとも1つの変性を施した変性澱粉が好ましい。澱粉はアルファ化澱粉であってよい。アルファ化澱粉とは、澱粉中の糖鎖間の水素結合が破壊され糖鎖間が自由になった状態の澱粉をいう。本明細書において、アルファ化澱粉は、変性澱粉に含まれる。
変性澱粉としては、例えば、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、アルケニルコハク酸エステル化澱粉、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシアルキル化澱粉(アルキル基の炭素数2~40または2~10、特に2または3)、ヒドロキシアルキル化リン酸架橋澱粉(アルキル基の炭素数2~40または2~10、特に2または3)、リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、酸変性澱粉、アルカリ処理澱粉、酵素処理澱粉、漂白処理澱粉、カチオン化澱粉(四級アンモニウム化澱粉)を挙げることができる。澱粉を化学的あるいは酵素的な方法により低分子化したデキストリンも挙げることができる。
【0014】
澱粉は、疎水化変性澱粉であることが特に好ましい。疎水化変性澱粉は、疎水基(例えば、炭素数1~40、2~40、3~30または4~20の炭化水素基)を有するように変性(疎水化処理)されている澱粉である。疎水化変性澱粉の例は、アルケニルコハク酸エステル化澱粉、酢酸エステル化澱粉、ポリアクリロニトリルグラフト澱粉、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルグラフト澱粉、架橋澱粉である。(メタ)アクリル酸エステルの例は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルである。架橋澱粉において、多官能性(2~5価)薬剤を用いるが、多官能性薬剤の例は、オキシ塩化リン、エピクロロヒドリンなどである。
【0015】
疎水化変性方法の例は、コハク酸のアルケニル(例えば、アルケニル基の炭素数3~40、例えば5~30または6~24)誘導体(例えば、オクテニルコハク酸無水物やドデセニルコハク酸無水物などのアルケニルコハク酸無水物)を用いて原料澱粉をエステル化してアルケニルコハク酸エステル化澱粉を得る方法、疎水性モノマー(例えば、アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル、アルキル(メタ)アクリレート(例えば、アルキル基の炭素数1~30)などのアクリルモノマー)を原料澱粉にグラフト化する方法、原料澱粉をオルガノシランと反応させる方法、ならびにエーテル化またはエステル化により炭化水素基(例えば、炭素数1~30)を含む疎水基をデンプンに付与させる方法、等である。原料澱粉の例は、米澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ポテトスターチ、タピオカスターチ、甘藷澱粉等の天然澱粉である。
【0016】
アルケニルコハク酸エステル化澱粉(例えば、オクテニルコハク酸エステル化澱粉)が好ましい。アルケニルコハク酸エステル化澱粉において、アルケニル基の炭素数は、炭素数3~40、例えば5~30または6~24であってよい。アルケニルコハク酸エステル化澱粉の具体例としては、オクテニルコハク酸エステル化澱粉、デセニルコハク酸エステル化澱粉、ドデセニルコハク酸エステル化澱粉、テトラデセニルコハク酸エステル化澱粉、ヘキサデセニルコハク酸エステル化澱粉、オクタデセニルコハク酸エステル化澱粉等を挙げることができる。オクテニルコハク酸エステル化澱粉が好ましい。
エステル化澱粉のエステル化度は置換度として表し(無水グルコース残基1モル当りの置換基DSモル)、DSが0.005~0.3または0.01~0.2であってよい。
【0017】
疎水化変性澱粉は、疎水基(例えば、炭素数1~40、2~40または3~30の炭化水素基)を有するが、親水性(例えば、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、オキシアルキレン基(アルキレンの炭素数1~3、特に1または2))も有していることが好ましい。疎水基および親水基の存在により、耐油性が高くなる。
好ましい澱粉の具体例としては、ヒドロキシアルキル化澱粉(例えば、ヒドロキシエチル化澱粉)、酸化澱粉、アルケニルコハク酸エステル化澱粉(例えば、オクテニルコハク酸エステル化澱粉)、デキストリン(例えば、シクロデキストリン)、カチオン化澱粉およびアルファ化澱粉が挙げられる。
【0018】
澱粉は、1種であってよいが、2種以上の澱粉の組み合わせであることが好ましい。2種以上の澱粉は、(i)疎水化変性澱粉(例えば、炭素数2~40または3~30の炭化水素基を有するように変性されている澱粉)少なくとも2種の組み合わせ、あるいは(ii)疎水化変性澱粉と、他の澱粉(疎水化変性澱粉以外の澱粉、特に、疎水化変性澱粉以外の変性澱粉)との組み合わせであることが好ましい。組み合わせる他の澱粉の例は、限定されないが、例えば、エーテル化澱粉、酸化澱粉、デキストリンである。
2種以上の澱粉の好ましい組み合わせは、アルケニルコハク酸エステル化澱粉、ヒドロキシアルキル化澱粉または酸化澱粉を含む組み合わせである。2種以上の澱粉の好ましい組み合わせの例は、アルケニルコハク酸エステル化澱粉と、ヒドロキシアルキル化澱粉、酸化澱粉、デキストリン、カチオン化澱粉およびアルファ化澱粉からなる群から選択された少なくとも1種の澱粉との組み合わせであってよい。
疎水化変性澱粉と、他の澱粉(疎水化変性澱粉以外の澱粉)との組み合わせの好ましい具体例としては、アルケニルコハク酸エステル化澱粉(例えば、オクテニルコハク酸エステル化澱粉)とヒドロキシアルキル化澱粉(例えば、ヒドロキシエチル化澱粉)との組み合わせが挙げられる。
【0019】
疎水化変性澱粉と他の澱粉との組み合わせにおいて、疎水化変性澱粉と他の澱粉との重量比は、10:90~99:1、20:80~95:5または30:70~90:10または40:60~85:15であってよい。疎水化変性澱粉のみの組み合わせにおいて、アルケニルコハク酸エステル化澱粉と他の疎水化変性澱粉との重量比は、10:90~99:1、20:80~95:5または30:70~90:10または40:60~85:15であってよい。
【0020】
耐油剤は、一般に、液状媒体、具体的には、水および/または有機溶媒、好ましくは水性媒体、すなわち水または水と有機溶媒の混合物をも含有する。
【0021】
耐油組成物は、(1)多糖類に加えて、(2)耐油ポリマーを含んでなる。
【0022】
(2)耐油ポリマー
耐油ポリマー(2)は、一般に、非フッ素重合体である。
非フッ素重合体は、
(a)炭素数7~40の長鎖炭化水素基を有するアクリル単量体から形成される繰り返し単位
を有する化合物である。
【0023】
非フッ素重合体は、
(a)炭素数7~40の長鎖炭化水素基を有するアクリル単量体から形成される繰り返し単位、および
(b)親水性基を有するアクリル単量体から形成される繰り返し単位を有する非フッ素共重合体であることが好ましい。
さらに、非フッ素共重合体は、単量体(a)および(b)に加えて、
(c)イオン供与基を有する単量体
によって形成されている繰り返し単位を有することが好ましい。
非フッ素共重合体は、単量体(a)、(b)および(c)に加えて、
(d)他の単量体
から形成される繰り返し単位を有していてもよい。
【0024】
(a)長鎖炭化水素基を有するアクリル単量体
長鎖炭化水素基を有するアクリル単量体(a)は、炭素数7~40の長鎖炭化水素基を有する。炭素数7~40の長鎖炭化水素基は、炭素数7~40の直鎖状または分岐状の炭化水素基であることが好ましい。長鎖炭化水素基の炭素数は、10~40、例えば、12~30、特に15~30であることが好ましい。あるいは、長鎖炭化水素基の炭素数は、18~40であってよい。
【0025】
長鎖炭化水素基を有するアクリル単量体(a)は、式:
CH2=C(-X)-C(=O)-Y(R)
[式中、Rは、それぞれ独立的に、炭素数7~40の炭化水素基であり、
は、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
は、2価~4価の炭素数1の炭化水素基(特に、-CH-、-CH=)、-C-、-O-、-C(=O)-、-S(=O)-または-NH-から選ばれる少なくとも1つ以上で構成される基(但し、炭化水素基を除く)であり、
kは1~3である。]
で示される単量体であることが好ましい。
【0026】
は、水素原子、メチル基、フッ素原子を除くハロゲン、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基であってよい。Xの例は、水素原子、メチル基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基である。Xは、水素原子、メチル基、塩素原子であることが好ましい。Xは水素原子であることが特に好ましい。
【0027】
は、2価~4価の基である。Yは、2価の基であることが好ましい。
は、炭素数1の炭化水素基、-C-、-O-、-C(=O)-、-S(=O)-または-NH-から選ばれる少なくとも1つ以上によって構成される基(但し、炭化水素基を除く)であることが好ましい。炭素数1の炭化水素基の例として、-CH-、枝分かれ構造を有する-CH=または枝分かれ構造を有する-C≡が挙げられる。
【0028】
は、-Y’-、-Y’-Y’-、-Y’-C(=O)-、-C(=O)-Y’-、-Y’-C(=O)-Y’-、-Y’-R’-、-Y’-R’-Y’-、-Y’-R’-Y’-C(=O)-、-Y’-R’-C(=O)-Y’-、-Y’-R’-Y’-C(=O)-Y’-、または-Y’-R’-Y’-R’-
[式中、Y’は、直接結合、-O-、-NH-または-S(=O)-であり、
R’は-(CHm-(mは1~5の整数である)または-C-(フェニレン基)である。]
であってよい。
【0029】
の具体例は、-O-、-NH-、-O-C(=O)-、-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-、-O-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-O-、-NH-C(=O)-NH-、-O-C-、-O-(CHm-O-、-NH-(CHm-NH-、-O-(CHm-NH-、-NH-(CHm-O-、-O-(CHm-O-C(=O)-、-O-(CHm-C(=O)-O-、-NH-(CHm-O-C(=O)-、-NH-(CHm-C(=O)-O-、-O-(CHm-O-C(=O)-NH-、-O-(CHm-NH-C(=O)-O-、-O-(CHm-C(=O)-NH-、-O-(CHm-NH-C(=O)-、-O-(CHm-NH-C(=O)-NH-、-O-(CHm-O-C-、-O-(CHm-NH-S(=O)-、-O-(CHm-S(=O)-NH-、-NH-(CHm-O-C(=O)-NH-、-NH-(CHm-NH-C(=O)-O-、-NH-(CHm-C(=O)-NH-、-NH-(CHm-NH-C(=O)-、-NH-(CHm-NH-C(=O)-NH-、-NH-(CHm-O-C-、-NH-(CHm-NH-C-、-NH-(CHm-NH-S(=O)-、または-NH-(CHm-S(=O)-NH-である[式中、mは1~5、特に2または4である。]。
【0030】
は、-O-、-NH-、-O-(CHm-O-C(=O)-、-O-(CHm-NH-C(=O)-、-O-(CHm-O-C(=O)-NH-、-O-(CHm-NH-C(=O)-O-、-O-(CHm-NH-C(=O)-NH-、-O-(CHm-NH-S(=O)-、-O-(CHm-S(=O)-NH-、-NH-(CHm-NH-S(=O)-、または-NH-(CHm-S(=O)-NH-
[式中、mは1~5の整数、特に2または4である。]
であることが好ましい。Yは、-O-または-O-(CHm-NH-C(=O)-、特に-O-(CHm-NH-C(=O)-であることがより好ましい。
【0031】
は、直鎖状または分岐状の炭化水素基であることが好ましい。炭化水素基は、特に直鎖状の炭化水素基であってよい。炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、特に飽和の脂肪族炭化水素基、特別にアルキル基であることが好ましい。炭化水素基の炭素数は、12~30、例えば16~26または15~26、特に18~22または17~22であることが好ましい。
【0032】
長鎖炭化水素基を有するアクリル単量体(a)の例は、
(a1)式:
CH2=C(-X-C(=O)-Y-R
[式中、Rは、炭素数7~40の炭化水素基であり、
は、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
は、-O-または-NH-である。]
で示されるアクリル単量体、および
(a2)式:
CH2=C(-X)-C(=O)-Y-Z(-Y-R)
[式中、Rは、それぞれ独立的に、炭素数7~40の炭化水素基であり、
は、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
は、-O-または-NH-であり、
は、それぞれ独立的に、直接結合、あるいは-O-、-C(=O)-、-S(=O)-、-NH-または-CH-から選ばれる少なくとも1つ以上で構成される基であり、
Zは、2価または3価の炭素数1~5の炭化水素基であり、
nは、1または2である。]
で示されるアクリル単量体である。
【0033】
(a1)アクリル単量体
アクリル単量体(a1)は、式:
CH2=C(-X)-C(=O)-Y-R
[式中、Rは、炭素数7~40の炭化水素基であり、
は、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
は、-O-または-NH-である。]
で示される化合物である。
【0034】
アクリル単量体(a1)は、Yが-O-である長鎖アクリレートエステル単量体、またはYが-NH-である長鎖アクリルアミド単量体である。
は、脂肪族炭化水素基、特に飽和の脂肪族炭化水素基、特別にアルキル基であることが好ましい。Rにおいて、炭化水素基の炭素数は、12~30、例えば16~26、特に18~22であることが好ましい。
は、水素原子、メチル基、フッ素原子を除くハロゲン、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基であってよい。水素原子、メチル基または塩素原子であることが好ましい。
【0035】
長鎖アクリレートエステル単量体の好ましい具体例は、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、ステアリルαクロロアクリレート、イコシルαクロロアクリレート、ベヘニルαクロロアクリレートである。
長鎖アクリルアミド単量体の好ましい具体例は、ステアリル(メタ)アクリルアミド、イコシル(メタ)アクリルアミド、ベヘニル(メタ)アクリルアミドである。
【0036】
(a2)アクリル単量体
アクリル単量体(a2)は、アクリル単量体(a1)とは異なる単量体である。アクリル単量体(a2)は、-O-、-C(=O)-、-S(=O)-、-NH-または-CH-から選ばれる少なくとも1つ以上で構成される基を有する(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミドである。
アクリル単量体(a2)は、式:
CH2=C(-X)-C(=O)-Y-Z(-Y-R)
[式中、Rは、それぞれ独立的に、炭素数7~40の炭化水素基であり、
は、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
は、-O-または-NH-であり、
は、それぞれ独立的に、直接結合、あるいは-O-、-C(=O)-、-S(=O)-、-NH-または-CH-から選ばれる少なくとも1つ以上で構成される基であり、
Zは、直接結合、あるいは2価または3価の炭素数1~5の炭化水素基であり、
nは、1または2である。]
で示される化合物であってよい。
【0037】
は、脂肪族炭化水素基、特に飽和の脂肪族炭化水素基、特別にアルキル基であることが好ましい。Rにおいて、炭化水素基の炭素数は、12~30、例えば16~26または15~26、特に18~22または17~22であることが好ましい。
【0038】
は、水素原子、メチル基、フッ素原子を除くハロゲン、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基であってよい。水素原子、メチル基または塩素原子であることが好ましい。
【0039】
は、-Y’-、-Y’-Y’-、-Y’-C(=O)-、-C(=O)-Y’-、-Y’-C(=O)-Y’-、-Y’-R’-、-Y’-R’-Y’-、-Y’-R’-Y’-C(=O)-、-Y’-R’-C(=O)-Y’-、-Y’-R’-Y’-C(=O)-Y’-、または-Y’-R’-Y’-R’-
[式中、Y’はそれぞれ独立して、直接結合、-O-、-NH-または-S(=O)-であり、
R’は-(CH-(mは1~5の整数である)、炭素数1~5の不飽和結合を有する直鎖状の炭化水素基、炭素数1~5の枝分かれ構造を有する炭化水素基、または-(CH-C-(CH-(lはそれぞれ独立して0~5の整数であり-C-はフェニレン基である)である。]
であってよい。
【0040】
の具体例は、直接結合、-O-、-NH-、-O-C(=O)-、-C(=O)-O-、-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-、-NH-S(=O)-、-S(=O)-NH-、-O-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-O-、-NH-C(=O)-NH-、-O-C-、-NH-C-、-O-(CHm-O-、-NH-(CHm-NH-、-O-(CHm-NH-、-NH-(CHm-O-、-O-(CHm-O-C(=O)-、-O-(CHm-C(=O)-O-、-NH-(CHm-O-C(=O)-、-NH-(CHm-C(=O)-O-、-O-(CHm-O-C(=O)-NH-、-O-(CHm-NH-C(=O)-O-、-O-(CHm-C(=O)-NH-、-O-(CHm-NH-C(=O)-、-O-(CHm-NH-C(=O)-NH-、-O-(CHm-O-C-、-NH-(CHm-O-C(=O)-NH-、-NH-(CHm-NH-C(=O)-O-、-NH-(CHm-C(=O)-NH-、-NH-(CHm-NH-C(=O)-、-NH-(CHm-NH-C(=O)-NH-、-NH-(CHm-O-C-、-NH-(CHm-NH-C
[式中、mは1~5の整数である。]
である。
【0041】
は、-O-、-NH-、-O-C(=O)-、-C(=O)-O-、-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-、-NH-S(=O)-、-S(=O)-NH-、-O-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-O-、-NH-C(=O)-NH-、-O-C-であることが好ましい。Yは、-NH-C(=O)-、-C(=O)-NH-、-O-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-O-または-NH-C(=O)-NH-であることがさらに好ましい。
【0042】
Zは、直接結合、あるいは2価または3価の炭素数1~5の炭化水素基であり、直鎖構造を有しても、枝分かれ構造を有していてもよい。Zの炭素数は、2~4、特に2であることが好ましい。Zの具体例は、直接結合、-CH-、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHCHCHCH-、-CHCHCHCHCH-、枝分かれ構造を有する-CHCH=、枝分かれ構造を有する-CH(CH-)CH-、枝分かれ構造を有する-CHCHCH=、枝分かれ構造を有する-CHCHCHCHCH=、枝分かれ構造を有する-CHCH(CH-)CH-、枝分かれ構造を有する-CHCHCHCH=である。
Zは直接結合でないことが好ましく、YおよびZは同時に直接結合であることはない。
【0043】
アクリル単量体(a2)は、CH2=C(-X)-C(=O)-O-(CHm-NH-C(=O)-R、CH=C(-X)-C(=O)-O-(CH-O-C(=O)-NH-R、CH=C(-X)-C(=O)-O-(CH-NH-C(=O)-O-R、CH=C(-X)-C(=O)-O-(CH-NH-C(=O)-NH-Rであることが好ましい[ここで、RおよびXは上記と同意義である。]。
アクリル単量体(a2)は、CH2=C(-X)-C(=O)-O-(CHm-NH-C(=O)-Rであることが特に好ましい。
【0044】
アクリル単量体(a2)は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートまたはヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドと長鎖アルキルイソシアネートを反応させることによって製造できる。長鎖アルキルイソシアネートとしては例えば、ラウリルイソシアネート、ミリスチルイソシアネート、セチルイソシアネート、ステアリルイソシアネート、オレイルイソシアネート、ベヘニルイソシアネートなどがある。
あるいは、アクリル単量体(a2)は、側鎖にイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルメタクリレートと長鎖アルキルアミンまたは長鎖アルキルアルコールを反応させることでも製造できる。長鎖アルキルアミンとしては例えば、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベヘニルアミンなどがある。長鎖アルキルアルコールとしては例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコールなどがある。
【0045】
長鎖炭化水素基含有アクリル単量体の好ましい例は、次のとおりである。
ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、ステアリルαクロロアクリレート、ベヘニルαクロロアクリレート;
ステアリル(メタ)アクリルアミド、ベヘニル(メタ)アクリルアミド;
【0046】

【0047】



【0048】



【0049】




【0050】



[上記式中、nは7~40の数であり、mは1~5の数である。]
上記の化学式の化合物は、α位が水素原子であるアクリル化合物であるが、具体例は、α位がメチル基であるメタクル化合物およびα位が塩素原子であるαクロロアクリル化合物であってよい。
【0051】
長鎖炭化水素基を有するアクリル単量体(a)の融点は10℃以上であることが好ましく、25℃以上であることがより好ましい。
【0052】
長鎖炭化水素基を有するアクリル単量体(a)としては、X、X及びXが水素原子である、アクリレートであることが好ましい。
【0053】
アクリル単量体(a2)は、式:
12-C(=O)-NH-R13-O-R11
[式中、R11は、エチレン性不飽和重合性基を有する有機残基、
12は、炭素数7~40の炭化水素基、
13は、炭素数1~5の炭化水素基である。]
で示されるアミド基含有単量体であることが好ましい。
【0054】
11は、エチレン性不飽和重合性基を有する有機残基であり、炭素同士の二重結合があれば特に限定されない。具体的には-C(=O)CR14=CH、-CHR14=CH、-CHCHR14=CH等のエチレン性不飽和重合性基を有する有機残基が挙げられ、R14は、水素原子または炭素数1~4のアルキル基が挙げられる。またR11はエチレン性不飽和重合性基以外に種々の有機性基を有してよく、例えば鎖式炭化水素、環式炭化水素、ポリオキシアルキレン基、ポリシロキサン基等の有機性基が挙げられ、これら有機性基は種々の置換基で置換されていても良い。R11は-C(=O)CR14=CHであることが好ましい。
【0055】
12は、炭素数7~40の炭化水素基、好ましくはアルキル基であり、鎖式炭化水素基、環式の炭化水素基等が挙げられる。そのなかで、鎖式炭化水素基であることが好ましく、直鎖状の飽和炭化水素基であることが特に好ましい。R12の炭素数は、7~40であるが、好ましくは11~27、特に好ましくは15~23である。
【0056】
13は、炭素数1~5の炭化水素基、好ましくはアルキル基である。炭素数1~5の炭化水素基は直鎖状または分岐鎖状のいずれでも良く、不飽和結合を有していても良いが、好ましくは直鎖状が良い。R13の炭素数は、2~4が好ましく、特に2であることが好ましい。R13は、アルキレン基であることが好ましい。
【0057】
アミド基含有単量体は、R12が1種類であるもの(例えば、R12が炭素数17である化合物のみ)、またはR12が複数の組み合わせであるもの(例えば、R12の炭素数が17である化合物と、R12の炭素数が15である化合物との混合物)であってよい。
【0058】
アミド基含有単量体の例は、カルボン酸アミドアルキル(メタ)アクリレートである。
アミド基含有単量体の具体例としては、パルミチン酸アミドエチル(メタ)アクリレート、ステアリン酸アミドエチル(メタ)アクリレート、ベヘニン酸アミドエチル(メタ)アクリレート、ミリスチン酸アミドエチル(メタ)アクリレート、ラウリン酸アミドエチル(メタ)アクリレート、イソステアリン酸エチルアミド(メタ)アクリレート、オレイン酸エチルアミド(メタ)アクリレート、ターシャリーブチルシクロヘキシルカプロン酸アミドエチル(メタ)アクリレート、アダマンタンカルボン酸エチルアミド(メタ)アクリレート、ナフタレンカルボン酸アミドエチル(メタ)アクリレート、アントラセンカルボン酸アミドエチル(メタ)アクリレート、パルミチン酸アミドプロピル(メタ)アクリレート、ステアリン酸アミドプロピル(メタ)アクリレート、パルミチン酸アミドエチルビニルエーテル、ステアリン酸アミドエチルビニルエーテル、パルミチン酸アミドエチルアリルエーテル、ステアリン酸アミドエチルアリルエーテル、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0059】
アミド基含有単量体は、ステアリン酸アミドエチル(メタ)アクリレートであることが好ましい。アミド基含有単量体は、ステアリン酸アミドエチル(メタ)アクリレートを含む混合物であってよい。ステアリン酸アミドエチル(メタ)アクリレートを含む混合物において、ステアリン酸アミドエチル(メタ)アクリレートの量は、アミド基含有単量体全体の重量に対して、例えば55~99重量%、好ましくは60~85重量%、更に好ましくは65~80重量%であってよく、残りの単量体は、例えば、パルミチン酸アミドエチル(メタ)アクリレートであってよい。
【0060】
(b)親水性基を有するアクリル単量体
親水性基を有するアクリル単量体(b)は、単量体(a)以外の単量体であって、親水性単量体である。親水性基は、オキシアルキレン基(アルキレン基の炭素数は2~6である。)であることが好ましい。特に、親水性基を有するアクリル単量体(b)は、オキシアルキレン(メタ)アクリレート、例えば、ポリアルキレン(またはモノアルキレン)グリコールモノ(メタ)アクリレートおよび/またはポリアルキレン(またはモノアルキレン)グリコールジ(メタ)アクリレート、ポリアルキレン(またはモノアルキレン)グリコールモノ(メタ)アクリルアミドであることが好ましい。
【0061】
親水性基を有するアクリル単量体(b)は、式:
CH=CX11C(=O)-Y11-(RO)-A
[式中、
11は、水素原子またはメチル基であり、
11は、-O-または-NH-であり、
Rは、炭素数2~6のアルキレン基、
Aは、水素原子、炭素数1~22の不飽和または飽和の炭化水素基、またはCH=CX11C(=O)-(ただし、X11は、水素原子またはメチル基である。)であり、
nは、1~90の整数である。]
で示されるオキシアルキレン(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0062】
親水性基を有するアクリル単量体(b)の例は、式:
CH=CX11C(=O)-O-(RO)-X12 (b1)
および
CH=CX11C(=O)-O-(RO)-C(=O)CX11=CH (b2)、
CH=CX11C(=O)-NH-(RO)-X12 (b3)
[式中、
11は、各々独立に水素原子またはメチル基、
12は、各々独立に水素原子または炭素数1~22の不飽和または飽和の炭化水素基、
Rは、炭素数2~6のアルキレン基、
nは、1~90の整数
である。]
で示されるオキシアルキレン(メタ)アクリレートであることが好ましい。nは、例えば1~50、特に1~30、特別に1~15あるいは2~15であってよい。あるいは、nは、例えば1であってよい。
Rは、直鎖または分岐のアルキレン基であってよく、例えば、式-(CH-または-(CHx1-(CH(CH))x2-[式中、x1およびx2は0~6、例えば2~5であり、x1およびx2の合計は1~6である。-(CHx1-と-(CH(CH))x2-の順序は、記載の式に限定されず、ランダムであってもよい。]で示される基であってよい。
-(RO)-において、Rは2種類以上(例えば、2~4種類、特に2種類)であってよく、-(RO)-は、例えば、-(RO)n1-と-(RO)n2-[式中、RとRは、相互に異なって、炭素数2~6のアルキレン基であり、n1およびn2は、1以上の数であり、n1とn2の合計は2~90である。]の組み合わせであってよい。
【0063】
式(b1)および(b2)、(b3)中のRは特にエチレン基、プロピレン基またはブチレン基であることが好ましい。式(b1)および(b2)、(b3)中のRは2種類以上のアルキレン基の組み合わせであっても良い。その場合、少なくともRのひとつはエチレン基、プロピレン基またはブチレン基であることが好ましい。Rの組合せとしては、エチレン基/プロピレン基の組合せ、エチレン基/ブチレン基の組合せ、プロピレン基/ブチレン基の組合せが挙げられる。単量体(b)は2種類以上の混合物であっても良い。その場合は少なくとも単量体(b)のひとつは式(b1)または(b2)、(b3)中のRがエチレン基、プロピレン基またはブチレン基であることが好ましい。また、式(b2)で示されるポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートを使用する場合、単独で単量体(b)として使用することは好ましくなく、単量体(b1)と併用することが好ましい。その場合も、式(b2)で示される化合物は使用される単量体(b)の中で30重量%未満にとどめることが好ましい。
【0064】
親水性基を有するアクリル単量体(b)の具体例は、例えば以下のものを例示できるが、これらに限定されるものではない。
CH2=CHCOO-CH2CH2O-H
CH2=CHCOO-CH2CH2CH2O-H
CH2=CHCOO-CH2CH(CH3)O-H
CH2=CHCOO-CH(CH3)CH2O-H
CH2=CHCOO-CH2CH2CH2CH2O-H
CH2=CHCOO-CH2CH2CH(CH3)O-H
CH2=CHCOO-CH2CH(CH3)CH2O-H
CH2=CHCOO-CH(CH3)CH2CH2O-H
CH2=CHCOO-CH2CH(CH2CH3)O-H
CH2=CHCOO-CH2C(CH3)2O-H
CH2=CHCOO-CH(CH2CH3)CH2O-H
CH2=CHCOO-C(CH3)2CH2O-H
CH2=CHCOO-CH(CH3)CH(CH3)O-H
CH2=CHCOO-C(CH3)(CH2CH3)O-H
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)2-H
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)4-H
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)5-H
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)6-H
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)5-CH3
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)9-CH3
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)23-CH3
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)90-CH3
【0065】
CH2=CHCOO-(CH2CH(CH3)O)9-H
CH2=CHCOO-(CH2CH(CH3)O)9-CH3
CH2=CHCOO-(CH2CH(CH3)O)12-CH3
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)5-(CH2CH(CH3)O)2-H
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)5-(CH2CH(CH3)O)3-CH3
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)8-(CH2CH(CH3)O)6-CH2CH(C2H5)C4H9
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)23-OOC(CH3)C=CH2
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)20-(CH2CH(CH3)O)5-CH2-CH=CH2
【0066】
CH2=CHCOO-(CH2CH2O)9-H
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2O-H
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2CH2O-H
CH2=C(CH3)COO-CH2CH(CH3)O-H
CH2=C(CH3)COO-CH(CH3)CH2O-H
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2CH2CH2O-H
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2CH(CH3)O-H
CH2=C(CH3)COO-CH2CH(CH3)CH2O-H
CH2=C(CH3)COO-CH(CH3)CH2CH2O-H
CH2=C(CH3)COO-CH2CH(CH2CH3)O-H
CH2=C(CH3)COO-CH2C(CH3)2O-H
CH2=C(CH3)COO-CH(CH2CH3)CH2O-H
CH2=C(CH3)COO-C(CH3)2CH2O-H
CH2=C(CH3)COO-CH(CH3)CH(CH3)O-H
CH2=C(CH3)COO-C(CH3)(CH2CH3)O-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)2-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)4-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)5-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)6-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)9-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)5-CH3
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)9-CH3
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)23-CH3
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)90-CH3
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH(CH3)O)9-H
【0067】
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH(CH3)O)9-CH3
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH(CH3)O)12-CH3
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)5-(CH2CH(CH3)O)2-H
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)5-(CH2CH(CH3)O)3-CH3
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)8-(CH2CH(CH3)O)6-CH2CH(C2H5)C4H9
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)23-OOC(CH3)C=CH2
CH2=C(CH3)COO-(CH2CH2O)20-(CH2CH(CH3)O)5-CH2-CH=CH2
【0068】
CH2=CH-C(=O)-NH-CH2CH2O-H
CH2=CH-C(=O)-NH-CH2CH2CH2O-H
CH2=CH-C(=O)-NH-CH2CH(CH3)O-H
CH2=CH-C(=O)-NH-CH(CH3)CH2O-H
CH2=CH-C(=O)-NH-CH2CH2CH2CH2O-H
CH2=CH-C(=O)-NH-CH2CH2CH(CH3)O-H
CH2=CH-C(=O)-NH-CH2CH(CH3)CH2O-H
CH2=CH-C(=O)-NH-CH(CH3)CH2CH2O-H
CH2=CH-C(=O)-NH-CH2CH(CH2CH3)O-H
CH2=CH-C(=O)-NH-CH2C(CH3)2O-H
CH2=CH-C(=O)-NH-CH(CH2CH3)CH2O-H
CH2=CH-C(=O)-NH-C(CH3)2CH2O-H
CH2=CH-C(=O)-NH-CH(CH3)CH(CH3)O-H
CH2=CH-C(=O)-NH-C(CH3)(CH2CH3)O-H
CH2=CH-C(=O)-NH-(CH2CH2O)2-H
CH2=CH-C(=O)-NH-(CH2CH2O)4-H
CH2=CH-C(=O)-NH-(CH2CH2O)5-H
CH2=CH-C(=O)-NH-(CH2CH2O)6-H
CH2=CH-C(=O)-NH-(CH2CH2O)9-H
CH2=CH-C(=O)-NH-(CH2CH2O)5-CH3
CH2=CH-C(=O)-NH-(CH2CH2O)9-CH3
CH2=CH-C(=O)-NH-(CH2CH2O)23-CH3
CH2=CH-C(=O)-NH-(CH2CH2O)90-CH3
【0069】
CH2=CH-C(=O)-NH-(CH2CH(CH3)O)9-H
CH2=CH-C(=O)-NH-(CH2CH(CH3)O)9-CH3
CH2=CH-C(=O)-NH-(CH2CH(CH3)O)12-CH3
CH2=CH-C(=O)-NH-(CH2CH2O)5-(CH2CH(CH3)O)2-H
CH2=CH-C(=O)-NH-(CH2CH2O)5-(CH2CH(CH3)O)3-CH3
CH2=CH-C(=O)-NH-(CH2CH2O)8-(CH2CH(CH3)O)6-CH2CH(C2H5)C4H9
【0070】
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-CH2CH2O-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-CH2CH2CH2O-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-CH2CH(CH3)O-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-CH(CH3)CH2O-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-CH2CH2CH2CH2O-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-CH2CH2CH(CH3)O-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-CH2CH(CH3)CH2O-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-CH(CH3)CH2CH2O-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-CH2CH(CH2CH3)O-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-CH2C(CH3)2O-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-CH(CH2CH3)CH2O-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-C(CH3)2CH2O-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-CH(CH3)CH(CH3)O-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-C(CH3)(CH2CH3)O-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-(CH2CH2O)2-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-(CH2CH2O)4-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-(CH2CH2O)5-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-(CH2CH2O)6-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-(CH2CH2O)9-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-(CH2CH2O)5-CH3
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-(CH2CH2O)9-CH3
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-(CH2CH2O)23-CH3
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-(CH2CH2O)90-CH3
【0071】
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-(CH2CH(CH3)O)9-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-(CH2CH(CH3)O)9-CH3
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-(CH2CH(CH3)O)12-CH3
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-(CH2CH2O)5-(CH2CH(CH3)O)2-H
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-(CH2CH2O)5-(CH2CH(CH3)O)3-CH3
CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-(CH2CH2O)8-(CH2CH(CH3)O)6-CH2CH(C2H5)C4H9
【0072】
単量体(b)としては、X11が水素原子である、アクリレートまたはアクリルアミドであることが好ましい。特に、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、またはヒドロキシエチルアクリルアミドであることが好ましい。
【0073】
(c)イオン供与基を有する単量体
イオン供与基を有する単量体(c)は、単量体(a)および単量体(b)以外の単量体である。単量体(c)は、オレフィン性炭素―炭素二重結合およびイオン供与基を有する単量体であることが好ましい。イオン供与基は、アニオン供与基および/またはカチオン供与基である。
【0074】
アニオン供与基を有する単量体としては、カルボキシル基、スルホン酸基またはリン酸基を有する単量体が挙げられる。アニオン供与基を有する単量体の具体例は、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、リン酸(メタ)アクリレート、ビニルベンゼンスルホン酸、アクリルアミドターシャリーブチルスルホン酸など、またはそれらの塩である。
【0075】
アニオン供与基の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、またはアンモニウム塩、例えばメチルアンモニウム塩、エタノールアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩などが挙げられる。
【0076】
カチオン供与基を有する単量体において、カチオン供与基の例は、アミノ基、好ましくは、三級アミノ基および四級アミノ基である。三級アミノ基において、窒素原子に結合する2つの基は、同じかまたは異なって、炭素数1~5の脂肪族基(特にアルキル基)、炭素数6~20の芳香族基(アリール基)または炭素数7~25の芳香脂肪族基(特にアラルキル基、例えばベンジル基(C-CH-))であることが好ましい。四級アミノ基において、窒素原子に結合する3つの基は、同じかまたは異なって、炭素数1~5の脂肪族基(特にアルキル基)、炭素数6~20の芳香族基(アリール基)または炭素数7~25の芳香脂肪族基(特にアラルキル基、例えばベンジル基(C-CH-))であることが好ましい。三級アミノ基および四級アミノ基において、窒素原子に結合する残りの1つの基が、炭素―炭素二重結合を有していてよい。カチオン供与基は塩の形でもよい。
【0077】
塩であるカチオン供与基は、酸(有機酸または無機酸)との塩である。有機酸、例えば炭素数1~20のカルボン酸(特に、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ステアリン酸などのモノカルボン酸)が好ましい。ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびそれらの塩が好ましい。
【0078】
カチオン供与基を有する単量体の具体例は、次のとおりである。
CH2=CHCOO-CH2CH2-N(CH3)2 およびその塩(例えば酢酸塩)
CH2=CHCOO-CH2CH2-N(CH2CH3)2 およびその塩(例えば酢酸塩)
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2-N(CH3)2 およびその塩(例えば酢酸塩)
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2-N(CH2CH3)2 およびその塩(例えば酢酸塩)
CH2=CHC(O)N(H)-CH2CH2CH2-N(CH3)2 およびその塩(例えば酢酸塩)
CH2=CHCOO-CH2CH2-N(-CH3)(-CH2-C6H5) およびその塩(例えば酢酸塩)
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2-N(-CH2CH3)(-CH2-C6H5)およびその塩(例えば酢酸塩)
CH2=CHCOO-CH2CH2-N+(CH3)3Cl-
CH2=CHCOO-CH2CH2-N+(-CH3)2(-CH2-C6H5)Cl-
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2-N+(CH3)3Cl-
CH2=CHCOO-CH2CH(OH)CH2-N+(CH3)3Cl-
CH2=C(CH3)COO-CH2CH(OH)CH2-N+(CH3)3Cl-
CH2=C(CH3)COO-CH2CH(OH)CH2-N+(-CH2CH3)2(-CH2-C6H5)Cl-
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2-N+(CH3)3Br-
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2-N+(CH3)3I-
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2-N+(CH3)3O-SO3CH3
CH2=C(CH3)COO-CH2CH2-N+(CH3)(-CH2-C6H5)2Br-
【0079】
イオン供与基を有する単量体(c)としては、メタアクリル酸、アクリル酸及びジメチルアミノエチルメタクリレートが好ましく、メタアクリル酸及びジメチルアミノエチルメタクリレートであることがより好ましい。
【0080】
(d)他の単量体
他の単量体(d)は、単量体(a)、(b)および(c)以外の単量体である。そのような他の単量体としては、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、フッ化ビニル、ハロゲン化ビニルスチン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、メチロール化(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、アルキルビニルエーテル、ハロゲン化アルキルビニルエーテル、アルキルビニルケトン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、グリシジル(メタ)アクリレート、アジリジニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソシアネートエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、短鎖アルキル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸、ポリジメチルシロキサン基を有する(メタ)アクリレート、N-ビニルカルバゾールが挙げられる。
【0081】
単量体(a)から形成される繰り返し単位(繰り返し単位(a))の量は、非フッ素共重合体に対して(または繰り返し単位(a)と繰り返し単位(b)の合計に対して)、30~95重量%または30~90重量%、好ましくは40~88重量%(または45~95重量%)、より好ましくは50~85重量%であってよい。
単量体(b)から形成される繰り返し単位(繰り返し単位(b))の量は、非フッ素共重合体に対して(または繰り返し単位(a)と繰り返し単位(b)の合計に対して)、5~70重量%または10~70重量%、好ましくは8~50重量%、より好ましくは10~40重量%であってよい。
単量体(c)から形成される繰り返し単位の量は、非フッ素共重合体に対して、0.1~30重量%、好ましくは0.5~20重量%、より好ましくは1~15重量%であってよい。
単量体(d)から形成される繰り返し単位の量は、非フッ素共重合体に対して、0~20重量%、例えば1~15重量%、特に2~10重量%であってよい。
【0082】
非フッ素共重合体の重量平均分子量は、1000~1000000または10000000、好ましくは5000~800000または8000000、より好ましくは10000~400000または4000000であってよい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりポリスチレン換算で求めた値である。
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルまたはメタクリルを意味する。例えば、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0083】
非フッ素共重合体は、耐油性の観点から、ブロック共重合体であるよりも、ランダム共重合体であることが好ましい。
非フッ素共重合体の融点またはガラス転移点は、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、特に好ましくは35℃以上、例えば40℃以上である。
【0084】
非フッ素共重合体の重合は、特に限定されず塊状重合、溶液重合、乳化重合、放射線重合などの種々重合方法を選択できる。例えば一般的には有機溶剤を用いた溶液重合や、水または有機溶剤と水を併用する乳化重合が選定される。重合後に水で希釈して水に乳化することで処理液に調製される。
本開示においては、重合(例えば、溶液重合または乳化重合、好ましくは溶液重合)後、水を加えてから脱溶剤して、重合体を水に分散させることが好ましい。乳化剤を加える必要なく、自己分散型の製品を製造することができる。
【0085】
有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸メチルなどのエステル類、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、低分子量のポリエチレングリコールなどのグリコール類、エチルアルコール、イソプロパノールなどのアルコール類などが挙げられる。
【0086】
重合開始剤として、例えば過酸化物、アゾ化合物または過硫酸系の化合物を使用し得る。重合開始剤は、一般に、水溶性および/または油溶性である。
油溶性重合開始剤の具体例としては、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2、4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2、4-ジメチル4-メトキシバレロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2-イソブチロニトリル)、ベンゾイルパーオキシド、ジ-第三級-ブチルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t-ブチルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、過ピバル酸t-ブチル等が好ましく挙げられる。
【0087】
また、水溶性重合開始剤の具体例としては、2,2’-アゾビスイソブチルアミジン2塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオナミジン)塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]硫酸塩水和物、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]塩酸塩、過硫酸カリウム、過硫酸バリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等が好ましく挙げられる。
重合開始剤は単量体100重量部に対して、0.01~5重量部の範囲で用いられる。
【0088】
また、分子量調節を目的として、連鎖移動剤、例えば、メルカプト基含有化合物を使用してもよく、その具体例として2-メルカプトエタノール、チオプロピオン酸、アルキルメルカプタンなどが挙げられる。メルカプト基含有化合物は単量体100重量部に対して、10重量部以下、0.01~5重量部の範囲で用いられる。
【0089】
具体的には、非フッ素共重合体は、以下のようにして製造できる。
溶液重合では、単量体を有機溶剤に溶解させ、窒素置換後、重合開始剤を添加して、例えば40~120℃の範囲で1~10時間、加熱撹拌する方法が採用される。重合開始剤は、一般に、油溶性重合開始剤であってよい。
【0090】
有機溶剤としては、単量体に不活性でこれらを溶解するものであり、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸メチルなどのエステル類、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、低分子量のポリエチレングリコールなどのグリコール類、エチルアルコール、イソプロパノールなどのアルコール類、n-ヘプタン、n-ヘキサン、n-オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、メチルペンタン、2-エチルペンタン、イソパラフィン系炭化水素、流動パラフィン、デカン、ウンデカン、ドデカン、ミネラルスピリット、ミネラルターペン、ナフサなどの炭化水素系溶媒などである。溶剤の好ましい例として、例えば、アセトン、クロロホルム、HCHC225、イソプロピルアルコール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、石油エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、1,1,2,2-テトラクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、テトラクロロジフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)などが挙げられる。有機溶剤は単量体の合計100重量部に対して、50~2000重量部、例えば、50~1000重量部の範囲で用いられる。
【0091】
乳化重合では、単量体を乳化剤などの存在下、水中に乳化させ、窒素置換後、重合開始剤を添加し、40~80℃の範囲で1~10時間、撹拌して重合させる方法が採用される。重合開始剤は、水溶性重合開始剤、例えば、2,2’-アゾビスイソブチルアミジン2塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオナミジン)塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]硫酸塩水和物、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]塩酸塩、過硫酸カリウム、過硫酸バリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、
ならびに
油溶性重合開始剤、例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2、4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2、4-ジメチル4-メトキシバレロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2-イソブチロニトリル)、ベンゾイルパーオキシド、ジ-第三級-ブチルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t-ブチルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、過ピバル酸t-ブチル
が用いられる。重合開始剤は単量体100重量部に対して、0.01~10重量部の範囲で用いられる。
【0092】
放置安定性の優れた重合体水分散液を得るためには、高圧ホモジナイザーや超音波ホモジナイザーのような強力な破砕エネルギーを付与できる乳化装置を用いて、単量体を水中に微粒子化し、油溶性重合開始剤を用いて重合することが望ましい。また、乳化剤としてはアニオン性、カチオン性あるいはノニオン性の各種乳化剤を用いることができ、単量体100重量部に対して、0.5~20重量部の範囲で用いられる。アニオン性および/またはノニオン性および/またはカチオン性の乳化剤を使用することが好ましい。単量体が完全に相溶しない場合は、これら単量体に充分に相溶させるような相溶化剤、例えば、水溶性有機溶剤や低分子量の単量体を添加することが好ましい。相溶化剤の添加により、乳化性および共重合性を向上させることが可能である。
【0093】
水溶性有機溶剤としては、アセトン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エタノール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール又はイソプレングリコールなどが挙げられ、水100重量部に対して、1~50重量部、例えば10~40重量部の範囲で用いてよい。NMP又はDPM又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール又はイソプレングリコール(好ましい量は、組成物に対して例えば1~20重量%、特に3~10重量%)を添加することにより、組成物(特に、エマルション)の安定性が向上する。また、低分子量の単量体としては、メチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレートなどが挙げられ、単量体の総量100重量部に対して、1~50重量部、例えば10~40重量部の範囲で用いてよい。
【0094】
耐油剤または耐油組成物(本明細書において、耐油剤および耐油組成物を、「耐油剤」と呼ぶことがある。)は、溶液、エマルションまたはエアゾールの形態であることが好ましい。耐油剤は、多糖類および媒体(例えば、有機溶媒および水などの液状媒体)を含んでなる。
【0095】
多糖類の量は、耐油剤または耐油組成物に対して、1重量%以上、5重量%以上または30重量%以上、例えば、1~70重量%または5~60重量%であってよい。耐油性ポリマーの量は、耐油組成物に対して、例えば、0~50重量%、0.1~40重量%または1~30重量%であってよい。耐油剤は、乳化剤を含まないことが好ましい。
多糖類と耐油性ポリマーとの重量比は、10:90~98:2、例えば40:60~95:5または55:45~90:10、特に70:30~95:5、80:20~93:7、特別に82:18~93:7または88:12~92:8であってよい。
紙を加工するための処理液は、50℃において、200cps以下、例えば150cps以下、100cps以下または80cps以下の粘度を有することが好ましい。粘度の下限は1cpsであってよい。
【0096】
重合体の溶液における有機溶媒の除去は、重合体溶液を(好ましくは減圧下)(例えば、30℃以上、例えば50~120℃に)加熱することによって行える。
【0097】
耐油剤は、紙基材を処理(例えば、表面処理)するために使用することができる。本開示において、表面処理(外添)が好ましい。
耐油剤は、従来既知の方法により被処理物に適用することができる。通常、耐油剤を有機溶剤または水に分散して希釈して、浸漬塗布、スプレー塗布、泡塗布などのような既知の方法により、被処理物の表面に付着させ、乾燥する方法が採られる(表面処理)。
被処理物の紙基材としては、紙、紙でできた容器、紙でできた成形体(例えばパルプモールド)などが挙げられる。食品包装材および食品容器が好ましい。
多糖類および耐油性ポリマーは、紙基材に良好に付着する。
【0098】
紙は、従来既知の抄造方法によって製造できる。抄造前のパルプスラリーに耐油剤を添加する内添処理方法、または抄造後の紙に耐油剤を適用する外添処理方法を用いることができる。本開示における耐油剤の処理方法は、外添処理方法が好ましい。
【0099】
外添処理方法のサイズプレスは、塗布方式によって以下のように分けることも可能である。
1つの塗布方式は、2本のゴムロールの間に紙を通して形成されるニップ部に塗布液(サイズ液)を供給し、ポンドと呼ばれる塗液溜りを作り、この塗液溜りに紙を通して紙の両面にサイズ液を塗布する、いわゆるポンド式ツーロールサイズプレスである。他の塗布方式は、サイズ液を表面転写型により塗布するゲートロール型、及び、ロッドメタリングサイズプレスである。ポンド式ツーロールサイズプレスにおいてサイズ液は紙の内部まで浸透しやすく、表面転写型においてサイズ液成分は紙の表面に留まりやすい。表面転写型は、ポンド式ツーロールサイズプレスと比べて、塗布層が紙の表面に留まりやすく、表面に形成される耐油層がポンド式ツーロールサイズプレスより多い。
本開示では、前者のポンド式2ロールサイズプレスを用いた場合でも紙に耐油性能を付与できる。
このように処理された紙は、室温または高温での簡単な乾燥後に、任意に、紙の性質に依存して300℃まで、例えば200℃まで、特に80℃~180℃の温度範囲をとり得る熱処理を伴うことで、優れた耐油性および耐水性を示す。
【0100】
本開示は、石膏ボード原紙、コート原紙、中質紙、一般ライナーおよび中芯、中性純白ロール紙、中性ライナー、防錆ライナーおよび金属合紙、クラフト紙などにおいて使用することができる。また、中性印刷筆記用紙、中性コート原紙、中性PPC用紙、中性感熱用紙、中性感圧原紙、中性インクジェット用紙および中性情報用紙においても用いることができる。
【0101】
パルプ原料としては、クラフトパルプあるいはサルファイトパルプ等の晒あるいは未晒化学パルプ、砕木パルプ、機械パルプあるいはサーモメカニカルパルプ等の
晒あるいは未晒高収率パルプ、新聞古紙、雑誌古紙、段ボール古紙あるいは脱墨古紙等の古紙パルプのいずれも使用することができる。また、上記パルプ原料と石綿、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール等の合成繊維との混合物も使用することができる。
【0102】
サイズ剤を加えて、紙の耐水性を向上させることができる。サイズ剤の例は、カチオン性サイズ剤、アニオン性サイズ剤、ロジン系サイズ剤(例えば、酸性ロジン系サイズ剤、中性ロジン系サイズ剤)である。サイズ剤の量は、パルプに対して0.01~5重量%であってよい。
【0103】
紙には必要に応じて、通常使用される程度の製紙用薬剤として、カルボキシメチルセルロース、ポリアミドポリアミン-エピクロルヒドリン樹脂等の紙力増強剤、凝集剤、定着剤、歩留り向上剤、染料、蛍光染料、スライムコントロール剤、消泡剤等の紙の製造で使用される添加剤を使用することができる。
必要により、ポリビニルアルコール、グルコース、染料、コーティングカラー、防滑剤等を用いて、サイズプレス、ゲートロールコーター、ビルブレードコーター、キャレンダー等によって、耐油剤を紙に塗布することができる。
添加剤として、ポリビニルアルコールまたはグルコースを使用することが好ましい。ポリビニルアルコールまたはグルコースを多糖類とともに用いることにより、高い耐油性が得られる。ポリビニルアルコールの量は、多糖類100重量部に対して、1~1000重量部、2~200重量部、3~100重量部または5~50重量部、特に10~40重量部であってよい。
【0104】
外添においては、耐油層は、多糖類(および耐油性ポリマー)によって形成されることが好ましい。耐油層に含まれる多糖類の量が0.01~5.0g/m、特に0.1~3.0g/m、0.1~2.0g/mまたは0.1~1.0g/mであることが好ましい。耐油層に含まれる耐油性ポリマーの量が0.01~2.0g/m、特に0.1~1.0g/mであることが好ましい。耐油層における紙用耐油剤の固形分量は2g/m以下であることが好ましい。耐油層に含まれるポリビニルアルコールを含めた添加剤の固形分量は、0.01~1.0g/mまたは0.1~0.5g/mであってよい。
内添においては、紙を形成するパルプ100重量部に対して、耐油剤の量が0.01~50重量部または0.01~30重量部、例えば0.01~10重量部、特に0.2~5.0重量部となるように、耐油剤をパルプと混合することが好ましい。
外添および内添において、多糖類と非フッ素共重合体との重量比は、10:90~98:2、例えば40:60~95:5または55:45~90:10であってよい。多糖類と添加剤との重量比は、70:30~99:1、80:20~95:5または85:15~90:10であってよい。
【0105】
外添において、ロールとロールの間に処理液をため、任意のロールスピードとニップ圧で、ロール間の処理液に原紙を通す、いわゆるポンド式2ロールサイズプレス処理を用いても紙に耐油性を付与することができる。
【0106】
耐油性ポリマーは、ノニオン性、カチオン性、アニオン性または両性であってよい。外添処理において、紙基材はサイズ剤、紙力増強剤、凝集剤、歩留まり剤または凝結剤などの添加剤を含んでよい。添加剤はノニオン性、カチオン性、アニオン性または両性であってよい。添加剤のイオン電荷密度は-10000~10000 μeq/g、好ましくは-4000~8000 μeq/gであり、より好ましくは-1000~7000 μeq/gであってよい。サイズ剤、紙力増強剤、凝集剤、歩留まり剤または凝結剤などの添加剤(固形分または活性成分)は、パルプに対して、一般に、0.1~10重量%(例えば、0.2~5.0重量%)の量で使用できる。カチオン性の添加剤(例えば、サイズ剤、紙力増強剤、凝集剤、歩留まり剤または凝結剤)を含む紙基材の場合は、耐油剤はアニオン性であることが好ましい。
【0107】
内添処理において、パルプ濃度が0.5~5.0重量%(例えば、2.5~4.0重量%)であるパルプスラリーを抄紙することが好ましい。
【0108】
添加剤(例えば、サイズ剤、紙力増強剤、凝集剤、歩留まり剤または凝結剤など)の例は、ポリビニルアルコール、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、スチレン系重合体(スチレン/マレイン酸系重合体、スチレン/アクリル酸系重合体)、尿素‐ホルムアルデヒド重合体、ポリエチレンイミン、メラミン‐ホルムアルデヒド重合体、ポリアミドアミン‐エピクロルヒドリン重合体、ポリアクリルアミド系重合体、ポリアミン系重合体、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルアミン・エピクロルヒドリン縮合物、アルキレンジクロライドとポリアルキレンポリアミンの縮合物、ジシアンジアミド・ホルマリン縮合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体、オレフィン/無水マレイン酸重合体である。
【0109】
本開示においては、被処理物品を耐油剤で処理する。「処理」とは、耐油剤を、浸漬、噴霧、塗布などにより被処理物に適用することを意味する。処理により、耐油剤の有効成分である多糖類および非フッ素共重合体が被処理物の内部に浸透するおよび/または被処理物の表面に付着する。
【実施例
【0110】
次に、実施例、比較例および試験例を挙げて本開示を具体的に説明する。ただし、これらの説明が本開示を限定するものでない。
以下において、部、%または比は、特記しない限り、重量部、重量%または重量比を表す。
【0111】
以下において使用した試験方法は次のとおりである。
【0112】
処理液粘度
回転体が流体から受ける抵抗(粘性抵抗)を回転トルクなどから読み取る回転式粘度計(B型)を使用して、粘度(cps)を測定した。
【0113】
耐油性(KIT)
耐油性(KIT法)は、TAPPI T-559cm-02に従って測定した。KIT試験液はひまし油、トルエン、ヘプタンを表1の比率で混合した試験液である。表1に示す試験液1滴を紙の上におき、15秒後に油の浸透状態を観察した。浸透を示さないKIT試験液が与える耐油度の最高点を耐油性とした。KIT試験液の番号が高いほど耐油性が高い。
【0114】
【表1】

【0115】
合成例1
撹拌装置、温度計、還流冷却器、滴下漏斗、窒素流入口および加熱装置を備えた容積500mlの反応器を用意し、溶媒のメチルエチルケトン(MEK)を100部添加した。続いて、撹拌下、ステアリン酸アミドエチルアクリレート(C18AmEA、融点:70℃)78部、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)16部、およびジメチルアミノエチルメタクリレート(DM)6部からなる単量体(単量体計100部)、および開始剤のパーブチルPV(PV)1.2部をこの順に添加し、この混合物を65-75℃の窒素雰囲気下で12時間混合撹拌して共重合を行った。得られた共重合体含有溶液の固形分濃度は50重量%であった。
後処理として、得られた共重合体溶液の50gに0.4%の酢酸水溶液142gを添加し、分散させた後、エバポレーターを用いて加熱しながら減圧下でMEKを留去し、乳白色の共重合水分散液(揮発性有機溶媒の含有量は1重量%以下)を得た。この水分散液にさらにイオン交換水を加えて固形分濃度15重量%である水分散液を得た。
この共重合体の融点は、64℃であった。
得られた共重合体の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィーで分析したところ、ポリスチレン換算の質量平均分子量は900,000であった。
【0116】
実施例1
木材パルプとして、LBKP(=広葉樹さらしクラフトパルプ)とNBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)の重量比率が、60重量%と40重量%で、かつ、パルプのろ水度が400ml(Canadian Standard Freeness)のパルプスラリーを調整し、このパルプスラリーに湿潤紙力剤を乾燥パルプに対して固形分濃度で0.5重量%添加して長網抄紙機により、紙密度が0.58g/cm3の坪量45g/mの紙を外添処理(サイズプレス処理)の原紙として使用した。またこの原紙の耐油性(KIT値)は0、耐水性(Cobb値)は52g/mであった。
合成例1で得られた共重合体の水分散液を耐油剤として用い、以下の処方により、耐油紙(加工紙)を得た。
処理液は、合成例1で得られた共重合体の水分散液を固形分濃度が1.5重量%、かつ、澱粉の固形分濃度が7%となるように調整し、サイズプレス機で処理した後、ドラムドライヤーで乾燥し、耐油紙(加工紙)を得た。得られた耐油紙の澱粉と共重合体の固形分の塗工量は0.8g/m(共重合体の塗工量は0.14g/m)であった。得られた原紙を試験紙として用い、キット試験(Kit Test)を行った。評価結果を表2に示す。
ここで記載した澱粉は、ヒドロキシエチル化変性澱粉(10重量%の50℃での粘度が11cps)を使用した。ここで記載したサイズプレス処理(Mathis社製のサイズプレス機を使用)とは、ロールとロールの間に処理液をため、任意のロールスピードとニップ圧で、ロール間の処理液に原紙を通す、いわゆるポンド式2ロールサイズプレス処理のことである。
【0117】
実施例2
処理液中の澱粉濃度を10重量%用いる他は、実施例1と同様の処理を行った。
得られた耐油紙の澱粉と共重合体の固形分の塗工量は1.2g/m(共重合体の塗工量は0.16g/m)であった。キット試験の結果を表2に示す。
【0118】
実施例3
処理液中の澱粉濃度を14重量%用いる他は、実施例1と同様の処理を行った。得られた耐油紙の澱粉と共重合体の固形分の塗工量は1.8/m(共重合体の塗工量は0.17g/m)であった。キット試験の結果を表2に示す。
【0119】
実施例4
実施例1のヒドロキシエチル化変性澱粉に代えて、酸化澱粉(10重量%の50℃での粘度が26cps)を用いる他は、実施例1と同様の処理を行った。得られた耐油紙の澱粉と共重合体の固形分の塗工量は0.8/m(共重合体の塗工量は0.14g/m)であった。キット試験の結果を表2に示す。
【0120】
実施例5
実施例1のヒドロキシエチル化変性澱粉に代えて、オクテニルコハク酸変性澱粉(10重量%の50℃での粘度が7cps)を用いる他は、実施例1と同様の処理を行った。得られた耐油紙の澱粉と共重合体の固形分の塗工量は0.8/m(共重合体の塗工量は0.14g/m)であった。キット試験の結果を表2に示す。
【0121】
実施例6
処理液中の澱粉濃度を14重量%用いる他は、実施例5と同様の処理を行った。得られた耐油紙の澱粉と共重合体の固形分の塗工量は1.8g/m(共重合体の塗工量は0.17g/m)であった。キット試験の結果を表2に示す。
【0122】
実施例7
実施例1のヒドロキシエチル化変性澱粉に代えて、デキストリン(10重量%の50℃での粘度が3cps)を30重量%用いる他は、実施例1と同様の処理を行った。得られた耐油紙の澱粉と共重合体の固形分の塗工量は4.0/m(共重合体の塗工量は0.19g/m)であった。キット試験の結果を表2に示す。
【0123】
実施例8
実施例1のヒドロキシエチル化変性澱粉に代えて、カチオン化変性澱粉(10重量%の50℃での粘度が80cps)を5重量%用いる他は、実施例1と同様の処理を行った。得られた耐油紙の澱粉と共重合体の固形分の塗工量は0.6/m(共重合体の塗工量は0.15g/m)であった。キット試験の結果を表2に示す。
【0124】
実施例9
実施例1にポリビニルアルコール2重量%を加える他は、実施例1と同様の処理を行った。得られた耐油紙の澱粉と共重合体の固形分の塗工量は1.2/m(共重合体の塗工量は0.17g/m)であった。キット試験の結果を表2に示す。
【0125】
実施例10
実施例1にオクテニルコハク酸変性澱粉7重量%を加える他は、実施例1と同様の処理を行った。得られた耐油紙の澱粉と共重合体の固形分の塗工量は1.9g/m(共重合体の塗工量は0.18g/m)であった。キット試験の結果を表2に示す。
【0126】
実施例11
共重合体を用いない他は、実施例10と同様の処理を行った。得られた耐油紙の固形分の塗工量は1.8g/mであった。キット試験の結果を表2に示す。
【0127】
実施例12
実施例1のヒドロキシエチル化変性澱粉に代えて、アルファ化澱粉A(25重量%の50℃での粘度が41cps)を25重量%用いる他は、実施例1と同様の処理を行った。得られた耐油紙の澱粉と共重合体の固形分の塗工量は1.9/m(共重合体の塗工量は0.11g/m)であった。キット試験の結果を表2に示す。
【0128】
実施例13
実施例1のヒドロキシエチル化変性澱粉に代えて、アルファ化澱粉B(30重量%の50℃での粘度が22cps)を30重量%用いる他は、実施例1と同様の処理を行った。得られた耐油紙の澱粉と共重合体の固形分の塗工量は2.1/m(共重合体の塗工量は0.10g/m)であった。キット試験の結果を表2に示す。
【0129】
実施例14
実施例3にグルコース10重量%を加える他は、実施例3と同様の処理を行った。得られた耐油紙の澱粉と共重合体の固形分の塗工量は1.9/m(共重合体の塗工量は0.14g/m)であった。キット試験の結果を表2に示す。
【0130】
【表2-1】
【0131】
【表2-2】
【0132】
【表2-3】
【産業上の利用可能性】
【0133】
本開示の耐油剤および耐油組成物は、食品容器および食品包装材に用いられる紙に適用できる。