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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】金型及びプレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 37/16 20060101AFI20231206BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20231206BHJP
   B21D 24/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B21D37/16
B21D22/20 E
B21D24/00 M
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022552091
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035232
(87)【国際公開番号】W WO2022065465
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2020161574
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野村 成彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利哉
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】巽 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】泰山 正則
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-012115(JP,A)
【文献】特開2018-012113(JP,A)
【文献】特開平10-328749(JP,A)
【文献】特開2004-058082(JP,A)
【文献】特開2006-102757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 37/16
B21D 22/20 - 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接合された第1金属板及び第2金属板を含む素材にプレス加工を施すための金型であって、
成形面が設けられた上型と、前記上型の前記成形面に対応する形状を有し、前記上型の前記成形面とともに前記素材を成形する成形面が設けられた下型と、を含む金型本体と、
冷媒の供給導管と、前記冷媒の排出導管と、を含む冷却手段と、
を備え、
前記上型の前記成形面及び前記下型の前記成形面の各々は、前記素材の前記第1金属板と前記第2金属板との境界部分に対応する位置に、前記金型本体が閉じた状態で前記境界部分との間に隙間が生じるように形成された凹状又は段状の逃がし部を有し、
前記冷却手段は、前記金型本体が閉じた状態で前記供給導管を介して前記隙間に前記冷媒を供給し、前記排出導管を介して前記隙間から前記冷媒を排出して前記境界部分を局所的に冷却するように構成されている、金型。
【請求項2】
請求項1に記載の金型であって、
前記上型の前記成形面及び前記下型の前記成形面の一方は、段状の前記逃がし部を有する、金型。
【請求項3】
請求項2に記載の金型であって、
前記上型の前記成形面及び前記下型の前記成形面の他方は、凹状の前記逃がし部を有する、金型。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の金型であって、
前記逃がし部は、円形、楕円形、又は線対称の凸多角形に沿った断面形状を有する、金型。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の金型であって、
前記逃がし部は、
前記金型本体の外表面に開口する第1端部と、
前記第1端部の反対側の端部であって、前記外表面に開口する第2端部と、
を有する、金型。
【請求項6】
請求項5に記載の金型であって、
前記冷却手段は、前記第1端部側から前記第2端部側に向かって前記隙間内に前記冷媒を流す、金型。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の金型であって、
前記供給導管は、前記金型本体に対して接近及び離隔可能に構成され、前記金型本体が閉じたとき、前記第1端部に接続されて前記冷媒を吐出する先端部を有する、金型。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか1項に記載の金型であって、
前記排出導管は、前記金型本体に対して接近及び離隔可能に構成され、前記金型本体が閉じたとき、前記第2端部に接続されて前記冷媒を回収する先端部を有する、金型。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の金型であって、
前記供給導管及び前記排出導管の少なくとも一方は、先端部として、前記上型又は前記下型に形成された貫通孔を含む、金型。
【請求項10】
プレス成形品の製造方法であって、
互いに接合された第1金属板及び第2金属板を含む素材を準備する工程と、
請求項1から9のいずれか1項に記載の金型を準備する工程と、
前記上型と前記下型とを接近させて前記金型本体を閉じ、前記上型の前記成形面及び前記下型の前記成形面により、加熱された前記素材にプレス加工を施す工程と、
前記金型本体が閉じた状態で、前記冷却手段により、前記供給導管を介して前記隙間に冷媒を供給し、前記排出導管を介して前記隙間から前記冷媒を排出してプレス加工後の前記素材の前記境界部分を局所的に冷却する工程と、
を備える、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金型に関し、より詳細には、互いに接合された第1金属板及び第2金属板を含む素材にプレス加工を施すための金型に関する。また、本開示は、プレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体等に用いられる部材は、例えば、熱間プレスによって製造される。熱間プレスでは、加熱された板状の素材を金型によってプレス加工し、所定の形状に成形した後、成形品を金型内で冷却して焼入れする。熱間プレスは、高強度部材を容易に得られる工法として広く普及している。
【0003】
従来、部材の高機能化を図るため、例えばテーラードブランクやパッチワークブランク等といった、複数の金属板を含む素材が利用されている。テーラードブランクは、板厚及び強度(材質)の少なくとも一方が異なる複数の金属板から構成される素材である。テーラードブランクの種類として、複数の金属板がレーザ溶接等で突き合わせ接合されてなるテーラーウェルドブランクや、金属板の圧延時に部位ごとに板厚を変更して形成されるテーラーロールドブランク等が挙げられる。パッチワークブランクは、複数の金属板を重ね合わせて接合することにより、その一部分が厚肉化された素材である。
【0004】
例えば、テーラーロールドブランクや、板厚が異なる複数の金属板からなるテーラーウェルドブランクでは、金属板同士の境界部分に段差が存在する。テーラーウェルドブランクの場合、各金属板の板厚が同じであっても、溶接時の材料の溶融量次第で、溶接部が凹むアンダーフィルや、溶接部が盛り上がるオーバーフィルが発生するため、金属板同士の境界部分で板厚が変化する。パッチワークブランクでは、ブランク本体としての金属板に補強材としての小さな金属板が重ね合わされているため、補強材の周縁部分に段差が存在する。
【0005】
このように、板厚及び強度の少なくとも一方が異なる複数の金属板を含む素材では、金属板同士の境界部分に段差又は凹凸が存在する。この素材に対して熱間プレスを行う場合、段差又は凹凸が成形中に金型の成形面に対して摺動し、金型を損傷させる可能性がある。そのため、金型の成形面のうち金属板同士の境界部分に対応する位置には、段差又は凹凸が成形中に成形面に接触しないよう、逃がし部が形成されることがある。しかしながら、成形面の逃がし部は、成形が完了しても金属板同士の境界部分に接触しない。そのため、金属板同士の境界部分では冷却速度が遅くなり、焼入れが不十分となりやすく、完成したプレス成形品において強度不足の部位が発生してしまう可能性がある。このとき、成形完了後の金型内での冷却時間を増加させる等の対策が必要となり、当該対策がプレス成形品の生産性の低下を招く要因にもなる場合がある。
【0006】
金型内での成形品の冷却を促進するため、冷媒を使用することが考えられる。例えば、特許文献1には、冷媒の供給配管を金型の内部に設けるとともに、供給配管と連通する噴出孔を金型の成形面に設ける技術が開示されている。特許文献1では、金型の成形面に、所定の大きさを有する凸部が所定の面積率で複数形成されている。特許文献1によれば、金型を下死点で保持した状態で、供給配管からの冷媒を噴出孔から噴出することにより、成形品が強制冷却される。また、特許文献1によれば、成形面上の凸部と成形品との間隙において冷媒を循環させることにより、成形品の冷却効率が高められる。
【0007】
特許文献2には、金型の成形面に冷媒用の溝を設ける技術が開示されている。特許文献2では、例えば、上型の成形面の全域にわたり、上型の幅方向に延びる複数の冷媒導入溝が設けられる。また、上型の幅方向の中央部に、各冷媒導入溝に連通する導入口が形成される。導入口を通過した冷媒は、導入口と冷媒導入溝との接続点で上型の幅方向に分岐して、冷媒導入溝を流れる。金型内の素材は、金型との接触によって抜熱されるとともに、冷媒によって冷却される。特許文献2によれば、上型と下型とのクリアランスが所定の大きさに保たれた状態で、金型との接触抜熱及び冷媒によって素材を冷却することにより、素材の冷却速度が高められ、均一な焼入れ硬度及び良好な寸法精度を有するプレス成形品を得ることができる。
【0008】
特許文献3にも、金型の成形面に冷媒用の溝を設ける技術が開示されている。特許文献3では、例えば、上型及び下型の各々において、成形面に開口する複数の冷媒吐出口が形成され、各冷媒吐出口から複数の冷媒案内溝が延びている。冷媒案内溝は、上型及び下型の各々において成形面の全体を網羅するように設けられている。冷媒は、各冷媒吐出口から吐出され、複数の冷媒案内溝に分岐して各冷媒案内溝を流れる。特許文献3によれば、上型及び下型の各々において、成形面の長手方向に間隔を空けて冷媒吐出口が設けられ、各冷媒吐出口から延びる冷媒案内溝が成形面の全体を網羅しているため、成形面の長手方向において、冷媒による素材の冷却性に大きな差が生じない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第3863874号公報
【文献】特開2002-282951号公報
【文献】特開2020-116610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
各特許文献における冷却方法は、プレス成形品の広域を均一に冷却するときに利用される。例えば、特許文献1の冷却方法は、直水冷工法と称される。直水冷工法では、金型の成形面と成形品との間に冷媒を行き渡らせるため、通常、成形面の広範囲にわたって微細な凸部が多数形成される。しかしながら、複数の金属板を含む素材から成形された成形品において、金属板同士の境界部分を局所的に冷却したい場合、このような凸部を金属板同士の境界部分の段差又は凹凸に合わせて成形面に形成することは困難である。また、成形面の凸部と成形品の段差又は凹凸とが成形中に干渉する可能性もある。よって、特許文献1のような方法では、金属板同士の境界部分を局所的に冷却することは難しい。
【0011】
本開示は、複数の金属板を含む素材から熱間プレスによってプレス成形品を製造する際、金属板同士の境界部分における冷却速度の低下を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示に係る金型は、互いに接合された第1金属板及び第2金属板を含む素材にプレス加工を施すための金型である。金型は、金型本体と、冷却手段と、を備える。金型本体は、上型と、下型と、を含む。上型及び下型には、それぞれ成形面が設けられている。下型の成形面は、上型の成形面に対応する形状を有し、上型の成形面とともに素材を成形する。冷却手段は、冷媒の供給導管と、冷媒の排出導管と、を含む。上型の成形面及び下型の成形面の少なくとも一方は、凹状又は段状の逃がし部を有する。逃がし部は、成形面のうち、素材の第1金属板と第2金属板との境界部分に対応する位置に、金型本体が閉じた状態で当該境界部分との間に隙間が生じるように形成されている。冷却手段は、金型本体が閉じた状態で供給導管を介して隙間に冷媒を供給し、排出導管を介して隙間から冷媒を排出して境界部分を局所的に冷却するように構成されている。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、複数の金属板を含む素材から熱間プレスによってプレス成形品を製造する際、金属板同士の境界部分における冷却速度の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、第1実施形態に係る金型を含むプレス装置の概略構成を示す正面図である。
図2図2は、第1実施形態に係る金型の本体の斜視図である。
図3A図3Aは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
図3B図3Bは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
図3C図3Cは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
図3D図3Dは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
図3E図3Eは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
図4図4は、素材の高温化領域を説明するための模式図である。
図5図5は、本発明者等が実施した数値解析結果をプロットした図であり、段状の逃がし部の位置での金型本体と素材との隙間の幅L1に対する、素材の高温領域の幅W1の比率と、金属板間の板厚比Rtとの関係を示す図である。
図6図6は、本発明者等が実施した数値解析結果をプロットした図であり、素材の高温領域の幅W2と、凹状の逃がし部の位置での金型本体と素材との隙間の幅L2との関係を示す図である。
図7図7は、第2実施形態に係る金型を含むプレス装置の概略構成を示す正面図である。
図8図8は、第2実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
図9図9は、第2実施形態に係る金型の部分斜視図である。
図10A図10Aは、第3実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
図10B図10Bは、第3実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
図10C図10Cは、第3実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
図11図11は、第3実施形態に係る金型の部分斜視図である。
図12図12は、第1~第3実施形態の変形例に係る金型の本体の縦断面図である。
図13図13は、第1~第3実施形態の変形例に係る金型の本体の縦断面図である。
図14図14は、第1~第3実施形態の変形例に係る金型の本体の縦断面図である。
図15図15は、第1~第3実施形態の変形例に係る金型の本体の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施形態に係る金型は、互いに接合された第1金属板及び第2金属板を含む素材にプレス加工を施すための金型である。金型は、金型本体と、冷却手段と、を備える。金型本体は、上型と、下型と、を含む。上型及び下型には、それぞれ成形面が設けられている。下型の成形面は、上型の成形面に対応する形状を有し、上型の成形面とともに素材を成形する。冷却手段は、冷媒の供給導管と、冷媒の排出導管と、を含む。上型の成形面及び下型の成形面の少なくとも一方は、凹状又は段状の逃がし部を有する。逃がし部は、成形面のうち、素材の第1金属板と第2金属板との境界部分に対応する位置に、金型本体が閉じた状態で当該境界部分との間に隙間が生じるように形成されている。冷却手段は、金型本体が閉じた状態で供給導管を介して隙間に冷媒を供給し、排出導管を介して隙間から冷媒を排出して境界部分を局所的に冷却するように構成されている(第1の構成)。
【0016】
第1の構成に係る金型によれば、金型本体に含まれる上型及び下型のうち少なくとも一方の成形面において、第1金属板と第2金属板との境界部分に対応する位置に、凹状又は段状の逃がし部が設けられている。金型本体が閉じた状態では、逃がし部と、第1金属板と第2金属板との境界部分との間に隙間が生じる。すなわち、金型本体の逃がし部は、金属板同士の境界部分に非接触である。金型本体が閉じて素材が成形されたとき、金型本体の逃がし部と金属板同士の境界部分との隙間に対し、冷却手段が供給導管を介して冷媒を供給する。この冷媒は、上記隙間内を流れ、排出導管を介してこの隙間から排出される。これにより、金属板同士の境界部分を局所的に、且つ直接冷却することができる。よって、複数の金属板を含む素材から熱間プレスによってプレス成形品を製造する際、金型本体内の成形品のうち成形面に接触する部分と比較して、金属板同士の境界部分の冷却速度が低下するのを防止することができる。
【0017】
上型の成形面及び下型の成形面の一方は、段状の逃がし部を有することができる(第2の構成)。
【0018】
上型の成形面及び下型の成形面の一方が段状の逃がし部を有する場合、上型の成形面及び下型の成形面の他方は、凹状の逃がし部を有していてもよい(第3の構成)。
【0019】
上記金型において、逃がし部は、円形、楕円形、又は線対称の凸多角形に沿った断面形状を有することが好ましい(第4の構成)。
【0020】
逃がし部の断面がいびつな形状を有する場合、逃がし部と金属板同士の境界部分との隙間に供給される冷媒の流れが阻害される。一方、第4の構成のように、逃がし部の断面形状を円形、楕円形、又は線対称の凸多角形に沿う、整った形状とした場合、逃がし部の内面には冷媒が供給される隙間に突出する部分がなくなるため、当該隙間を冷媒が流れやすくなる。そのため、金属板同士の境界部分を効果的に冷却することができる。
【0021】
上記金型において、逃がし部は、第1端部と、第2端部と、を有することができる。第1端部は、金型本体の外表面に開口する。第2端部は、第1端部の反対側の端部であって、金型本体の外表面に開口する(第5の構成)。
【0022】
第5の構成によれば、逃がし部の両端部が金型本体の外表面に開口する。そのため、逃がし部の各端部が冷媒の給排口になり得る。すなわち、プレス成形品における金属板同士の境界部分と逃がし部との隙間に対し、逃がし部の一端部(第1端部)から直接的に冷媒を供給することができ、逃がし部の他端部(第2端部)を介して当該隙間から冷媒を直接的に排出することができる。
【0023】
上記金型において、冷却手段は、逃がし部の第1端部側から逃がし部の第2端部側に向かって隙間内に冷媒を流すことが好ましい(第6の構成)。
【0024】
第6の構成によれば、冷媒は、逃がし部の第1端部側から第2端部側に向かい、逃がし部と金属板同士の境界部分との隙間を流れる。この場合、逃がし部と金属板同士の境界部分との隙間内に冷媒が供給されたとき、蒸気や気泡が発生したとしても、所定方向に流れる冷媒によって蒸気や気泡が押し流され、隙間内に滞留しない。よって、金属板同士の境界部分において冷媒が未達となる箇所がなく、金属板同士の境界部分を均一に冷却することができる。また、逃がし部と金属板同士の境界部分との隙間内を流れる冷媒の量は実質的に一定となるため、金属板同士の境界部分の全体を一様に抜熱することができる。
【0025】
上記金型において、供給導管は、先端部を有することができる。供給導管の先端部は、金型本体に対して接近及び離隔可能に構成されていてもよい。この場合、供給導管の先端部は、金型本体が閉じたとき、逃がし部の第1端部に接続されて冷媒を吐出する(第7の構成)。
【0026】
第7の構成において、冷媒の供給導管の先端部は、金型本体に対して接近及び離隔可能となっている。この先端部は、金型本体が閉じたときに逃がし部の第1端部に接続され、冷媒を吐出する。よって、金型本体が閉じて素材の成形が終了したとき、逃がし部と金属板同士の境界部分との隙間に速やかに冷媒を供給することができる。
【0027】
上記金型において、排出導管は、先端部を有することができる。排出導管の先端部は、金型本体に対して接近及び離隔可能に構成されていてもよい。この場合、排出導管の先端部は、金型本体が閉じたとき、逃がし部の第2端部に接続されて冷媒を回収する(第8の構成)。
【0028】
第8の構成において、冷媒の排出導管の先端部は、金型本体に対して接近及び離隔可能となっている。この先端部は、金型本体が閉じたときに逃がし部の第2端部に接続される。よって、金属板同士の境界部分を冷却し、温度が上昇した冷媒を回収することができる。
【0029】
上記金型において、供給導管及び排出導管の少なくとも一方は、先端部として、上型又は下型に形成された貫通孔を含んでいてもよい(第9の構成)。
【0030】
実施形態に係るプレス成形品の製造方法は、素材を準備する工程と、上記金型を準備する工程と、を備える。素材は、互いに接合された第1金属板及び第2金属板を含む。プレス成形品の製造方法は、さらに、上型と下型とを接近させて金型本体を閉じ、上型の成形面及び下型の成形面により、加熱された素材にプレス加工を施す工程と、金型本体が閉じた状態で、冷却手段により、供給導管を介して、素材の第1金属板と第2金属板との境界部分と、上型の成形面及び/又は下型の成形面の逃がし部との隙間に冷媒を供給し、排出導管を介して当該隙間から冷媒を排出してプレス加工後の素材の境界部分を局所的に冷却する工程と、を備えている。
【0031】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0032】
<第1実施形態>
[プレス装置の構成]
図1は、熱間プレス用のプレス装置100の概略構成を示す正面図である。プレス装置100は、本実施形態に係る金型1を除き、公知のプレス装置と概ね同様の構成を有する。プレス装置100は、金型1に加え、フレーム2と、スライド3と、ボルスタ4と、ベース5,6とを備えている。
【0033】
図1を参照して、フレーム2には、スライド3が昇降可能に取り付けられている。スライド3は、フレーム2に設けられた機械式機構又は液圧式機構によって駆動される。ボルスタ4は、スライド3の下方に配置される。ベース5は、スライド3の下面に取り付けられている。ベース6は、ボルスタ4上に配置されている。
【0034】
金型1は、金型本体11と、冷却手段12とを備えている。プレス装置100による熱間プレスでは、金型本体11によって素材の成形が行われ、継続して、成形品のうち金型本体11と接触する部分が金型本体11によって抜熱される。一方、成形品のうち金型本体11と接触しない部分は、冷却手段12によって冷却される。
【0035】
金型本体11は、上型111と、下型112とを含む。上型111及び下型112は、図1の紙面奥側に向かって延びている。以下、プレス装置100及び金型1に関して、上型111及び下型112が延びる方向を長手方向といい、長手方向及び上下方向に垂直な方向を幅方向という。
【0036】
上型111は、スライド3とともに昇降するよう、ベース5を介してスライド3に取り付けられている。下型112は、上型111の下方に配置されている。下型112は、ベース6の上面に取り付けられる。
【0037】
冷却手段12は、冷媒の供給導管121と、冷媒の排出導管122とを含む。冷却手段12は、冷媒を貯留するタンク123と、開閉弁124と、圧送ポンプ125と、吸引ポンプ126とをさらに含んでいる。
【0038】
供給導管121は、圧送ポンプ125を介してタンク123に接続されている。供給導管121は、先端部121aを有する。先端部121aは、例えば、下型112の近傍に配置されている。先端部121aは、タンク123から送られる冷媒を吐出するノズルとして機能する。供給導管121には、開閉弁124が設けられている。
【0039】
排出導管122は、吸引ポンプ126を介してタンク123に接続されている。排出導管122は、先端部122aを有する。先端部122aは、例えば、下型112の近傍に配置される。本実施形態では、排出導管122の先端部122aは、下型112を挟んで供給導管121の先端部121aの反対側に配置されている。先端部122aは、冷媒をタンク123へと回収するノズルとして機能する。排出導管122には、回収した冷媒をろ過するためのフィルタや、冷媒を冷却するためのチラーが設けられていてもよい。
【0040】
供給導管121の先端部121aは、金型本体11に対し、接近及び離隔可能に構成されている。排出導管122の先端部122aも、金型本体11に対し、接近及び離隔可能に構成されている。供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aは、それぞれ駆動手段127によって駆動される。駆動手段127は、先端部121a,122aを同じタイミングで金型本体11に接近させ、また、同じタイミングで金型本体11から離隔させる。駆動手段127は、上型111及び下型112による素材のプレスと連動して、先端部121a,122aを動作させる。
【0041】
特に限定されるものではないが、駆動手段127は、例えば、公知の直動式アクチュエータである。直動式アクチュエータは、典型的には、供給導管121の先端部121a又は排出導管122の先端部122aを支持するテーブルと、このテーブルを摺動させるガイドレールとを有する。駆動手段127は、例えば、モータ及びラックピニオン機構の組み合わせや、エアシリンダ等の流体圧シリンダによってテーブルを移動させるように構成される。駆動手段127は、スライド3の上下方向の位置に応じて作動するカム機構によってテーブルを移動させるように構成されていてもよい。
【0042】
[金型本体の構成]
以下、図2を参照して金型本体11の構成について具体的に説明する。図2は、金型本体11の概略構成を示す斜視図である。
【0043】
図2に示すように、上型111の下面には、成形面113が設けられている。本実施形態において、成形面113は、上方に凹の形状を有する。成形面113は、底面113aと、2つの側面113bと、2つのフランジ面113cとを含んでいる。底面113a、各側面113b、及び各フランジ面113cは、上型111の長手方向に延びている。底面113aは、両側面113bによって両側のフランジ面113cと連結されている。各側面113bは、例えば、底面113aの側縁からフランジ面113cに向かうにつれて幅方向の外側に広がるように上下方向に対して傾斜している。
【0044】
成形面113は、段状の逃がし部114を有している。逃がし部114は、上型111の幅方向に延び、上型111を横断する。逃がし部114の両端部114a,114bは、金型本体11の外表面に開口する。金型本体11の外表面とは、金型本体11のうち、上型111と下型112とが閉じた状態で露出している表面である。上型111のうち成形面113以外の表面、すなわち、上型111の長手方向の両端面、幅方向の両端面、及び上面(成形面113と反対側の面)は、金型本体11の外表面に含まれる。本実施形態の例において、一方の端部114aは、上型111の幅方向の一端面に開口している。他方の端部114bは、上型111の幅方向の他端面に開口している。
【0045】
逃がし部114が形成されていることにより、成形面113では、長手方向において一方側の領域R1が高く、他方側の領域R2が低くなっている。領域R1及び領域R2は、例えば、斜面を介して接続される。
【0046】
下型112の上面には、成形面115が設けられている。成形面115は、上型111の成形面113に対応する形状を有する。本実施形態において、成形面115は、上型111の成形面113に対応して、上方に凸の形状を有する。
【0047】
成形面115は、頂面115aと、2つの側面115bと、2つのフランジ面115cとを含んでいる。頂面115a、各側面115b、及び各フランジ面115cは、それぞれ上型111の底面113a、各側面113b、及び各フランジ面113cに対応するように下型112に設けられる。頂面115a、各側面115b、及び各フランジ面115cは、下型112の長手方向に延びている。頂面115aは、両側面115bによって両側のフランジ面115cと連結されている。各側面115bは、例えば、頂面115aの側縁からフランジ面115cに向かうにつれて幅方向の外側に広がるように上下方向に対して傾斜している。
【0048】
成形面115は、凹状の逃がし部116を有している。逃がし部116は、下型112の幅方向に延び、下型112を横断する。逃がし部116の両端部116a,116bは、金型本体11の外表面に開口する。下型112のうち成形面115以外の表面、すなわち、下型112の長手方向の両端面、幅方向の両端面、及び下面(成形面115と反対側の面)は、金型本体11の外表面に含まれる。本実施形態の例において、一方の端部116aは、下型112の幅方向の一端面に開口している。端部116aの反対側の端部である端部116bは、下型112の幅方向の他端面に開口している。
【0049】
[プレス成形品の製造方法]
次に、プレス装置100を用い、熱間プレスによってプレス成形品を製造する方法について説明する。プレス成形品は、例えば自動車用の部材として利用される。本実施形態に係るプレス成形品の製造方法は、準備工程と、プレス加工工程と、冷却工程とを備えている。
【0050】
(準備工程)
プレス成形品を製造するに際し、金型本体11及び冷却手段12を含む金型1を準備する。また、図3Aに例示する素材7を準備する。図3Aに示すように、素材7は、互いに接合された金属板71,72を含んでいる。本実施形態において、金属板71,72は、その端面同士が接合されている。すなわち、素材7は、テーラードブランクである。素材7は、例えば、別体の金属板71,72を突き合わせ溶接したテーラーウェルドブランクであってもよいし、一枚の金属板の板厚を部位ごとに変更して金属板71,72としたテーラーロールドブランクであってもよい。金属板71,72は、典型的には鋼板である。金属板71,72は、例えば、亜鉛めっき処理やアルミニウムめっき処理等が施された鋼板(めっき鋼板)であってもよいし、めっき処理が施されていない鋼板(いわゆる裸材)であってもよい。
【0051】
本実施形態の例では、金属板71の板厚が金属板72の板厚よりも大きい。そのため、素材7の一方面において、金属板71と金属板72との境界部分73に段差が生じている。境界部分73とは、素材7において板厚が変化する部分であり、例えば、金属板71の端面と金属板72の端面との接合部である。素材7の反対面では、金属板71,72の板厚差に起因する段差は生じない。しかしながら、例えば素材7がテーラーウェルドブランクである場合、素材7の反対面では、アンダーフィルやオーバーフィル等の溶接欠陥、あるいは金属板71,72の位置ずれ等により、金属板71,72の境界部分73に段差又は凹凸が生じることがある。
【0052】
(プレス加工工程)
素材7は、プレス加工工程の前に、熱間プレスに適した温度に加熱される。図3Bを参照して、プレス加工工程では、上型111及び下型112を相対的に接近させて金型本体11を閉じ、上型111の成形面113及び下型112の成形面115により、加熱された素材7にプレス加工を施す。より具体的には、素材7の両面のうち、金属板71と金属板72との境界部分73に段差が生じている側の面を上に向け、下型112上に素材7を載置する。この状態でプレス装置100のスライド3(図1)を下降させることにより、素材7が載置された下型112に向かって上型111を下降させる。このとき、図1に示す冷却手段12は、圧送ポンプ125及び吸引ポンプ126を既に作動させている。ただし、開閉弁124が閉じているため、供給導管121の先端部121aから冷媒は吐出されない。上型111が下死点まで下降すると、上型111の成形面113及び下型112の成形面115により、素材7がプレスされる。
【0053】
図3Cは、上型111が下死点に到達した状態、つまり金型本体11の閉じた状態での側面図である。図3Cを参照して、上型111の成形面113において、素材7のうち金属板71,72の境界部分73に対応する位置には、段状の逃がし部114が設けられている。より具体的には、成形面113のうち、金属板71,72の境界部分73の直上の部分、及びその近傍部分に逃がし部114が設けられている。そのため、金型本体11が閉じた状態では、逃がし部114と、金属板71,72の境界部分73との間に隙間C1が生じる。上型111の長手方向における隙間C1の長さは、成形中における境界部分73の移動等を考慮して設定される。隙間C1の長さ(図3Cの両矢印)は、5.0mm以上20.0mm以下であることが好ましい。
【0054】
金型本体11が閉じたとき、逃がし部114を境界に区分された成形面113の領域R1,R2のうち、上段側の領域R1は、板厚が大きい金属板71に接触し、下段側の領域R2は、板厚が小さい金属板72に接触する。成形面113のうち領域R1,R2を接続する斜面は、素材7に非接触である。また、上段側の領域R1のうち斜面に隣接する部分も、素材7に接触しない。例えば、領域R1のうち、斜面から上型111の長手方向に1.0mm~20.0mmの範囲は、素材7に接触しない。領域R1,R2の高さの差(段差)は、実質的に金属板71,72の板厚差となっている。金属板72の板厚に対する金属板71の板厚の比は、例えば2.0以下であり、素材7の最大板厚は、例えば5.0mm以下である。本実施形態の例では、金属板71の板厚が金属板72の板厚よりも大きいため、金属板72の板厚に対する金属板71の板厚の比は1.0よりも大きい。ただし、金属板72の板厚に対する金属板71の板厚の比は1.0であってもよい。すなわち、金属板71,72の板厚は等しくてもよい。
【0055】
下型112の成形面115において、素材7のうち金属板71,72の境界部分73に対応する位置には、凹状の逃がし部116が設けられている。より具体的には、成形面115のうち、金属板71,72の境界部分73の直下の部分、及びその近傍部分に逃がし部116が形成されている。そのため、金型本体11が閉じた状態では、逃がし部116と、金属板71,72の境界部分73との間に隙間C2が生じる。下型112の長手方向における隙間C2の長さ(図3Cの両矢印)、つまり逃がし部116の長さは、成形中における境界部分73の移動等を考慮し、5.0mm以上20.0mm以下であることが好ましい。逃がし部116の深さは、全体にわたって一定であってもよいし、逃がし部116が延びる方向に沿って変化してもよい。逃がし部116の最小深さ(深さの下限)は、後述する冷媒を安定して流すことを考慮し、例えば0.5mmである。逃がし部116の最大深さ(深さの上限)については、特に制限はない。ただし、金属板71,72及び境界部分73から離れた位置を流れる冷媒の冷却への寄与は小さいため、冷却効率の点から、逃がし部116の深さは、例えば、上述した逃がし部116の長さ以下とすることができる。下型112側の凹状の逃がし部116は、上型111側の段状の逃がし部114に概ね対向する位置に設けられている。例えば、金型本体11が閉じた状態で隙間C1,C2の少なくとも一部が重複するように、逃がし部114,116が配置される。
【0056】
(冷却工程)
図3Dを参照して、上型111の逃がし部114と素材7との隙間C1、及び下型112の逃がし部116と素材7との隙間C2には、金型本体11が閉じた状態で冷却手段12(図1)によって冷媒が供給される。この冷媒により、素材7から成形されたプレス成形品8のうち金型本体11に非接触の部分、すなわち金属板71,72の境界部分73が冷却される。冷媒は、典型的には水である。ただし、冷媒は、例えば、スケール除去剤を含む溶液や、酸化防止剤を含む溶液であってもよいし、油であってもよい。一方、素材7から成形されたプレス成形品8のうち、金型本体11に接触する部分は、金型本体11によって抜熱される。
【0057】
金属板71,72の境界部分73の冷却について、図3Eを参照してより具体的に説明する。図3Eにおいて、金型本体11は、境界部分73の位置で長手方向に対して垂直に切断した断面(横断面)で示されている。図3Eでは、金型本体11の横断面を部分的に示す。
【0058】
図3Eを参照して、供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aは、金型本体11が閉じる直前に駆動手段127(図1)によって駆動され、金型本体11への接近を開始する。先端部121a,122aは、幅方向の両側から金型本体11に接近する。先端部121a,122aは、金型本体11が閉じた時点で所定位置に到達して停止する。
【0059】
金型本体11が閉じたとき、供給導管121の先端部121aは、逃がし部114,116の一端部114a,116aに接続される。本実施形態の例では、供給導管121の先端部121aは、上型111と下型112との間に挿入されることにより、逃がし部114,116の一端部114a,116aに接続される。冷却手段12は、上型111が下死点に到達し、金型本体11が閉じた時点で開閉弁124を開く。タンク123の冷媒を圧送する圧送ポンプ125は常時作動しているため、開閉弁124が開かれると、タンク123の冷媒が供給導管121の先端部121aへと流れ、先端部121aから吐出される。冷媒は、上型111が下死点に到達するのと実質同時に、先端部121aから吐出される。これにより、逃がし部114,116とプレス成形品8との隙間C1,C2に冷媒が供給される。
【0060】
冷媒は、金型本体11の幅方向に延びる隙間C1,C2を流れ、金属板同士の境界部分73を冷却する。先端部121aの外周面には、先端部121aと上型111又は下型112との間からの冷媒の漏出を防止するため、シール材121bが装着されていることが好ましい。
【0061】
金型本体11が閉じたとき、排出導管122の先端部122aは、逃がし部114,116の他端部114b,116bに接続される。本実施形態の例では、排出導管122の先端部122aは、上型111と下型112との間に挿入されることにより、逃がし部114,116の他端部114b,116bに接続される。冷却手段12は、常時作動している吸引ポンプ126により、隙間C1,C2を流れてきた冷媒を先端部122aから吸引して回収する。先端部122aの外周面には、先端部122aと上型111又は下型112との間からの冷媒の漏出を防止するため、シール材122bが装着されていることが好ましい。隙間C1,C2から吸引された冷媒は、排出導管122を通り、タンク123へと戻される。冷媒は、例えば、排出導管122に設けられたフィルタ及びチラー(図示略)により、タンク123に戻る前にろ過及び冷却される。
【0062】
冷却手段12は、所定時間が経過した後、開閉弁124を閉じて隙間C1,C2への冷媒の供給を停止する。また、冷却手段12は、駆動手段127(図1)によって供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aを駆動する。これにより、先端部121a,122aが金型本体11から離隔し、初期位置へと戻る。その後、完成したプレス成形品8が金型本体11から取り外される。
【0063】
[効果]
本実施形態では、上型111の成形面113において、金属板71,72の境界部分73に対応する位置に段状の逃がし部114が設けられている。また、下型112の成形面115において、金属板71,72の境界部分73に対応する位置に凹状の逃がし部116が設けられている。そのため、金属板71,72の境界部分73は、プレス加工中、上型111及び下型112に接触しない。よって、金属板71,72の境界部分73に段差又は凹凸が存在していたとしても、当該段差又は凹凸によって上型111及び下型112が損傷するのを防止することができる。
【0064】
本実施形態において、上型111の成形面113の逃がし部114と金属板71,72の境界部分73との間には、金型本体11が閉じた状態で隙間C1が生じる。同様に、下型112の成形面115の逃がし部116と金属板71,72の境界部分73との間には、金型本体11が閉じた状態で隙間C2が生じる。冷却手段12は、上型111が下死点に到達して金型本体11が閉じた時点で、供給導管121を介してこれらの隙間C1,C2に冷媒を供給する。また、冷却手段12は、排出導管122を介し、隙間C1,C2から冷媒を回収する。隙間C1,C2を流れる冷媒により、金属板71,72の境界部分73が金型本体11と非接触であるにもかかわらず、金属板71,72の境界部分73を冷却することができる。よって、金属板71,72の境界部分73の冷却速度の低下を防止することができ、均一に焼入れされたプレス成形品8を得ることができる。
【0065】
隙間C1,C2に冷媒が供給されない場合、金属板71,72の境界部分73の冷却速度が低下し、境界部分73が素材7(プレス成形品8)の他の部分と比較して高温化する。本発明者等が数値解析を行った結果、上型111の成形面113に段状の逃がし部114が設けられ、逃がし部114と素材7との隙間C1に冷媒が供給されない場合、素材7のうち、逃がし部114内にある領域が高温化する。さらに、下型112の成形面115に凹状の逃がし部116が設けられ、逃がし部116と素材7との隙間C2に冷媒が供給されない場合、素材7の高温領域は、逃がし部116の外側にまで拡大する。
【0066】
図4を参照して、本発明者等は、段状の逃がし部114と素材7(プレス成形品8)との隙間C1の幅(金型本体の長手方向の長さ)をL1、逃がし部114内の高温領域の幅(金型本体の長手方向の長さ)をW1とし、金属板71,72の板厚比(厚い方の金属板71の板厚/薄い方の金属板72の板厚)をRtとして、隙間C1の幅L1及び板厚比Rtを変更したときの高温領域の幅W1の変化を数値解析によって確認した。また、本発明者等は、凹状の逃がし部116と素材7との隙間C2の幅(金型本体の長手方向の長さ)をL2、逃がし部116からはみ出した高温領域の幅(金型本体の長手方向の長さ)をW2として、隙間C2の幅L2及び板厚比Rtを変更したときの高温領域の幅W2の変化を数値解析によって確認した。これらの解析では、厚い方の金属板71の板厚を3.2mmとした。図5及び図6は、各解析結果をプロットした図である。
【0067】
図5に示す解析結果のプロットより、段状の逃がし部114内の高温領域の幅W1、隙間C1の幅L1、及び板厚比Rtの関係は、以下の式で表される。
W1/L1≦0.93 (1≦Rt≦1.38)
W1/L1≦-1.22×Rt+2.62 (2≧Rt>1.38)
【0068】
図6に示す解析結果のプロットより、凹状の逃がし部116の外側の高温領域の幅W2と、隙間C2の幅L2との関係は、以下の式で表される。
W2≦4.5mm (L2>5.0mm)
W2≦0.32×L2(mm)+2.9 (L2≦5.0mm)
【0069】
本実施形態に係る金型1の冷却手段12は、金型本体11に逃がし部114,116が設けられ、金型本体11との間に隙間C1,C2が生じていることによって発生する、素材7の高温領域を冷却する。すなわち、冷却手段12は、素材7のうち、逃がし部114,116内に発生する高温領域、及び凹状の逃がし部116に隣接して発生する高温領域を冷却することができる。これらの高温領域は、上記関係式によって表される通りその幅に上限があり、金型本体11に逃がし部114,116が設けられている場合に素材7において局所的に発生するものである。なお、関係式(1)及び(2)の係数又は定数は、金属板の板厚等の条件によってわずかに変動することがある。ただし、係数又は定数の変動範囲はせいぜい±10%であり、各式によって表される関係が実質的に変わるわけではない。
【0070】
逃がし部114,116と素材7(プレス成形品8)との隙間C1,C2の幅L1,L2が小さい場合、金属板71,72及び境界部分73への冷媒の接触面積が小さくなるため、冷媒の流速で冷却性能の不足を補う必要がある。しかしながら、隙間C1,C2を通る冷媒の流速を大きくすると、隙間C1,C2の流路断面の小ささから圧力損失が増大する。隙間C1,C2の幅L1,L2は、成形中における境界部分73の移動に加え、この点も考慮して、5.0mm以上20.0mm以下に設定されることが好ましい。
【0071】
本実施形態では、冷媒を吐出する供給導管121の先端部121a、及び冷媒を回収する排出導管122の先端部122aが金型本体11と別体となっている。本実施形態では、金型本体11内に冷媒の供給及び排出を行うために、金型本体11を加工する必要はない。また、供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aは、金型本体11が閉じる直前に金型本体11への接近を開始し、金型本体11が閉じた時点で所定位置に到達する。供給導管121の先端部121aは、上型111が下死点に到達するのと実質同時に冷媒を吐出する。そのため、金型本体11が閉じて素材7の成形が終了したとき、隙間C1,C2に対して速やかに冷媒を供給することができる。また、排出導管122の先端部122aより、隙間C1,C2を流れ、金属板71,72の境界部分73を冷却した後の冷媒を速やかに回収することができる。
【0072】
本実施形態において、逃がし部114,116の一方の端部114a,116aは、金型本体11の外表面に開口している。逃がし部114,116の他方の端部114b,116bも、金型本体11の外表面に開口している。冷却手段12は、逃がし部114,116の一方の端部114a,116a側から他方の端部114b,116b側に向かって、逃がし部114,116と金属板71,72の境界部分73との隙間C1,C2内に冷媒を流す。そのため、隙間C1,C2内で冷媒が蒸発して蒸気が発生し、あるいは冷媒に気泡が発生したとしても、蒸気や気泡は、冷媒によって押し流され、隙間C1,C2内に滞留しない。よって、金属板71,72の境界部分73において冷媒が未達となる箇所がなく、境界部分73を均一に冷却することができる。また、冷媒の流量は、隙間C1,C2の全長にわたって実質的に一定となるため、金属板71,72の境界部分73の全体を一様に抜熱することができる。
【0073】
例えば、金型本体11に多数の吐出孔を設け、これらの吐出孔から逃がし部114,116と金属板71,72の境界部分73との隙間C1,C2に冷媒を吐出させた場合、各吐出孔から吐出された冷媒が干渉する。そのため、隙間C1,C2内において、冷媒の流れが滞ったり、蒸気又は気泡が滞留したりする箇所が発生し、金属板71,72の境界部分73の冷却が不均一になる。一方、本実施形態において、冷却手段12は、逃がし部114,116の端部114a,116a側から端部114b,116b側へと向かう所定方向の流れを冷媒に発生させる。そのため、冷媒や蒸気又は気泡の滞留が生じず、金属板71,72の境界部分73を均一に冷却することができる。
【0074】
金型本体11に多数の冷媒の吐出孔を設けた場合、これらの吐出孔内には錆等が残留しやすく、金型本体11のメンテナンスに手間がかかる。これに対して、本実施形態では、金型本体11に冷媒の吐出孔は存在しないため、金型本体11のメンテナンスが容易である。
【0075】
本実施形態では、金型本体11における逃がし部114,116の、逃がし部114,116の延在方向に垂直な断面形状は一定である。そのため、例えば溶接条件の変動等による境界部分73の形状の変動や成形による境界部分73の移動があるものの、隙間C1,C2の断面積(流路断面積)は、隙間C1,C2の全長にわたって実質的に一定である。これにより、隙間C1,C2内を所定方向に流れる冷媒の流速は、隙間C1,C2の全長にわたって実質的に一定となる。よって、冷媒と金型本体11の逃がし部114,116との熱伝達率が隙間C1,C2の全長にわたって一様になり、冷却後のプレス成形品8の温度を安定させることができる。冷媒の温度は、成形直後のプレス成形品8の温度と比べて相当低い。そのため、隙間C1,C2内を流れる冷媒の温度変化の影響は、無視することができる。すなわち、逃がし部114,116の一方の端部114a,116a近傍の熱伝達率と、他方の端部114b,116b近傍の熱伝達率との差は、無視できるほどに小さい。
【0076】
隙間C1,C2の全長にわたって冷媒の流速及び熱伝達率が一定であることにより、隙間C1,C2に流す冷媒の流量と、金属板71,72の境界部分73の温度との対応が把握しやすくなる。そのため、プレス成形品8の温度管理を容易に行うことができる。
【0077】
本実施形態において、逃がし部114,116と金属板71,72の境界部分73との隙間C1,C2は、金型本体11の上下方向視で屈曲又は湾曲する部分を有しない直線状である。つまり、金型本体11の上下方向視では、逃がし部114,116は、逃がし部114,116の延在方向に対して直線状である。そのため、隙間C1,C2が実質的に又は概ね直線状である。よって、隙間C1,C2を流れる冷媒の方向変化が最小限となる。これにより、隙間C1,C2から冷媒が漏れ出ようとする圧力の増加が抑制される。その結果、隙間C1,C2の外側への冷媒の漏洩を抑制することができる。
【0078】
本実施形態において、供給導管121から金型本体11の隙間C1,C2に供給され、排出導管122を介して隙間C1,C2から排出される冷媒の流路には、分岐が存在しない。冷媒は、逃がし部114,116の一方の端部114a,116a側から他方の端部114b,116b側に向かい、隙間C1,C2内を一方向に流れる。そのため、冷媒の圧力損失が生じにくく、冷媒の流速を確保することができる。また、冷媒の流路、つまり、素材7とともに隙間C1,C2を画定する逃がし部114,116が分岐しないことにより、金型本体11の加工を容易に行うことができる。さらに、冷媒の循環系を小型化することもできる。
【0079】
<第2実施形態>
図7は、熱間プレス用のプレス装置100Aの概略構成を示す正面図である。プレス装置100Aは、第2実施形態に係る金型1Aを備えている。金型1Aは、主に冷却手段12Aの構成において、第1実施形態に係る金型1と異なる。
【0080】
冷却手段12Aは、第1実施形態と同様、冷媒の供給導管121及び排出導管122を含んでいる。ただし、第1実施形態と異なり、供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aは移動可能となっていない。本実施形態において、先端部121a,122aは、下型112に形成された貫通孔となっている。
【0081】
供給導管121の先端部121aは、下型112の幅方向の一端面及び下型112の成形面115に開口する。先端部121aは、成形面115の逃がし部116(図2)に開口している。より詳細には、先端部121aは、逃がし部116の一端部116a又はその近傍に開口している。下型112の幅方向の一端面には、先端部121aと連通するように供給導管121の本体部121cが固定されている。本体部121cは、圧送ポンプ125を介してタンク123に接続されている。本体部121cには、開閉弁124が設けられている。
【0082】
排出導管122の先端部122aは、下型112の幅方向の他端面及び下型112の成形面115に開口する。先端部122aは、成形面115の逃がし部116(図2)に開口している。より詳細には、先端部122aは、逃がし部116の他端部116b又はその近傍に開口している。下型112の幅方向の他端面には、先端部122aと連通するように排出導管122の本体部122cが固定されている。本体部122cは、吸引ポンプ126を介してタンク123に接続されている。
【0083】
下型112の成形面115上には、シール材128が設けられている。シール材128は、成形面115の幅方向の両端部に配置されている。成形面115において、一方のシール材128は、供給導管121の先端部121aの開口よりも幅方向において外側に配置される。成形面115において、他方のシール材128は、排出導管122の先端部122aの開口よりも幅方向において外側に配置される。各シール材128は、好ましくは耐熱性を有する材料で構成される。
【0084】
図8は、プレス装置100Aを用いてプレス成形品を製造する方法を説明するための模式図である。以下、本実施形態における金属板同士の境界部分73の冷却について、図8を参照して具体的に説明する。図8において、金型本体11は、境界部分73の位置で長手方向に対して垂直に切断した断面(横断面)で示されている。図8では、金型本体11の横断面を部分的に示す。
【0085】
図8に示すように、本実施形態においても、冷却手段12Aにより、金型本体11が閉じた状態で供給導管121を介して隙間C1,C2に冷媒が供給され、排出導管122を介して隙間C1,C2から冷媒が排出される。
【0086】
より詳細に説明すると、上型111が下降して下死点に到達すると、一方のシール材128により、逃がし部114,116の一端部114a,116aが閉じられる。また、他方のシール材128により、逃がし部114,116の他端部114b,116bが閉じられる。冷却手段12Aは、上型111が下死点に到達し、金型本体11が閉じた時点で開閉弁124を開き、タンク123の冷媒を供給導管121の先端部121aから吐出させる。これにより、逃がし部114,116とプレス成形品8との隙間C1,C2に冷媒が供給される。冷却手段12Aは、吸引ポンプ126により、隙間C1,C2を流れる冷媒を排出導管122の先端部122aから吸引して回収する。
【0087】
図9は、逃がし部114,116の一端部114a,116aを封鎖するシール材128を拡大して示す斜視図である。図が煩雑になるのを回避するため、図9では上型111を省略している。図9に示すように、シール材128は、プレス成形品8の端面とともに供給導管121の先端部121aの開口を囲む形状を有することが好ましい。シール材128の上面は、好ましくは、上型111の段状の逃がし部114(図2)に対応する形状を有する。シール材128の下面は、好ましくは、下型112の凹状の逃がし部116に対応する形状を有する。
【0088】
図示を省略するが、同様に、逃がし部114,116の他端部114b,116bを封鎖するシール材128も、プレス成形品8の端面とともに排出導管122の先端部122aの開口を囲む形状を有することが好ましい。シール材128の上面は、好ましくは、上型111の段状の逃がし部114に対応する形状を有する。シール材128の下面は、好ましくは、下型112の凹状の逃がし部116に対応する形状を有する。すなわち、下型112の成形面115の両端部に設けられたシール材128は、プレス成形品8のシールされる端面に対し、実質的に面対称となっている。
【0089】
本実施形態においても、上型111が下死点に到達して金型本体11が閉じた時点で、金型本体11の逃がし部114,116と金属板同士の境界部分73との隙間C1,C2に冷媒が供給される。そのため、金属板同士の境界部分73が金型本体11と非接触であるにもかかわらず、当該境界部分73を冷却することができる。よって、金属板同士の境界部分73の冷却速度の低下を防止することができ、均一に焼入れされたプレス成形品8を得ることができる。
【0090】
本実施形態では、供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aとして、貫通孔が下型112に形成されている。ただし、冷却手段12Aは、第1実施形態と同様、逃がし部114,116の一方の端部114a,116a側から他方の端部114b,116b側に向かう流れを冷媒に生じさせる。そのため、逃がし部114,116の途中に冷媒吐出用の孔を設ける必要はない。すなわち、金型本体11に多数の貫通孔を設ける必要はない。よって、本実施形態の場合も、金型本体11のメンテナンスが容易である。
【0091】
<第3実施形態>
第1及び第2実施形態では、プレス成形品8の成形終了とほぼ同時に、冷却手段12,12Aによる金属板71,72の境界部分73の冷却を開始する例について説明した。本実施形態では、プレス成形品8の成形が終了した後、境界部分73の冷却を開始する前に、プレス成形品8の端部のトリムを行う例について説明する。すなわち、本実施形態に係るプレス成形品8の製造方法は、プレス加工工程と冷却工程との間に行われるトリム工程を含んでいる。
【0092】
図10A図10Cは、本実施形態に係るプレス成形品8の製造方法を説明するための模式図である。図10A図10Cでは、金属板同士の境界部分73の位置で長手方向に対して垂直に切断した断面(横断面)で金型本体11を示す。
【0093】
図10Aに示すように、本実施形態では、金型本体11の幅方向の両側にトリム機構9が設けられている。トリム機構9は、金型本体11及び冷却手段12を備える金型に含まれる。トリム機構9は、一般的なプレス装置で使用される公知のトリム機構である。トリム機構9の各々は、例えば、昇降可能に構成された刃物91及び下型ガード92を含んでいる。刃物91の下端は、上型111が下死点に到達する前は、上型111の成形面113に含まれるフランジ面113cよりも上方に位置している。一方、下型ガード92の上面は、上下方向において、下型112の成形面115に含まれるフランジ面115cとほぼ同じ位置に配置されている。
【0094】
図10Bに示すように、上型111が下死点に到達してプレス成形品8の成形が終了すると、刃物91が下型ガード92に向かって下降し、プレス成形品8の幅方向の各端部が刃物91及び下型ガード92によって挟持される。この状態で刃物91がさらに下降し、下型ガード92を押し下げることにより、プレス成形品8の幅方向の各端部が刃物91で切断される。
【0095】
図10Cに示すように、プレス成形品8の幅方向の各端部が切断された後、刃物91が上昇する。刃物91の上昇に伴って下型ガード92も上昇し、刃物91及び下型ガード92が初期位置に戻る。プレス成形品8の各切断片81は、例えば、下型ガード92が初期位置に戻る前に除去手段によって除去される。本実施形態において、除去手段は、各下型ガード92に設けられた排出孔93である。プレス成形品8の各切断片81は、下型ガード92の排出孔93内に落下し、排出孔93の下端から排出される。刃物91及び下型ガード92が初期位置に戻った後、第1実施形態と同様に構成された冷却手段12が駆動手段127(図1)によって供給導管121の先端部121aを金型本体11に接近させ、逃がし部114,116の一端部114a,116aに接続する。また、冷却手段12は、駆動手段127によって排出導管122の先端部122aを金型本体11に接近させ、逃がし部114,116の他端部114b,116bに接続する。
【0096】
本実施形態において、供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aは、第1実施形態と同様に、金型本体11に対して接近及び離隔可能となっている。ただし、本実施形態では、トリム工程後のプレス成形品8の両端が金型本体11の幅方向の両端面と揃っているため、供給導管121の先端部121aは、金型本体11の幅方向の一端面に圧着される。排出導管122の先端部122aは、金型本体11の幅方向の他端面に圧着される。これにより、逃がし部114,116の一端部114a,116a及び他端部114b,116bに対し、供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aがそれぞれ接続される。本実施形態の例において、供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aは、それぞれ下型ガード92にも圧着される。
【0097】
供給導管121の先端部121aは、シールド121dを有している。このシールド121dにより、金型本体11の幅方向の一端面側から逃がし部114,116の一端部114a,116aが覆われる。シールド121dは、金型本体11の幅方向の一端面、及び下型ガード92に接触して、逃がし部114,116の一端部114a,116aを覆う。図11は、供給導管121の先端部121aを例示する斜視図である。図11に示すように、シールド121dは、金型本体11の幅方向の一端面及び下型ガード92に接触する端縁に、シール材121eを含むことが好ましい。
【0098】
図10Cに戻り、排出導管122の先端部122aは、供給導管121の先端部121aと同様のシールド122dを有している。このシールド122dにより、金型本体11の幅方向の他端面側から逃がし部114,116の他端部114b,116bが覆われる。シールド122dは、金型本体11の幅方向の他端面、及び下型ガード92に接触して、逃がし部114,116の他端部114b,116bを覆う。シールド122dは、図11に示すシールド121dと同様、金型本体11の幅方向の他端面及び下型ガード92に接触する端縁に、シール材を含むことが好ましい。
【0099】
供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aが金型本体11及び下型ガード92に圧着されると、冷却手段12が開閉弁124(図1)を開き、タンク123(図1)の冷媒を供給導管121の先端部121aから吐出させる。これにより、逃がし部114,116とプレス成形品8との隙間C1,C2に冷媒が供給される。冷却手段12は、隙間C1,C2を流れる冷媒を排出導管122の先端部122aから吸引して回収する。これにより、金属板同士の境界部分73を冷却することができる。よって、金属板同士の境界部分73の冷却速度の低下を防止することができ、均一に焼入れされたプレス成形品8を得ることができる。
【0100】
本実施形態の例では、供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aが金型本体11及び下型ガード92に圧着される。しかしながら、例えば、各下型ガード92の上面が下型112の成形面115(フランジ面115c)よりも下方に配置されている場合、あるいは下型ガード92が存在しない場合は、供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aを金型本体11にのみ圧着させることができる。すなわち、供給導管121の先端部121aを金型本体11の幅方向の一端面にのみ圧着させ、この先端部121aだけで逃がし部114,116の一端部114a,116aを覆ってもよい。同様に、排出導管122の先端部122aを金型本体11の幅方向の他端面にのみ圧着させ、この先端部122aだけで逃がし部114,116の他端部114b,116bを覆ってもよい。この場合、シールド121d,122dは、例えば、中空半球状(長手方向に対して垂直に切断した断面で見て半円状)である。
【0101】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0102】
上記各実施形態では、上型111の成形面113に段状の逃がし部114が設けられ、下型112の成形面115に凹状の逃がし部116が設けられている。例えば、図12に示すように、逃がし部114,116の断面形状は、楕円形(二点鎖線)に沿った形状とすることができる。あるいは、逃がし部114,116は、正円や、正方形、又は長方形等に沿う断面形状を有していてもよい。逃がし部114,116の断面形状は、長手方向又は上下方向に関して線対称な五角形以上の凸多角形に沿う形状とすることもできる。すなわち、逃がし部114,116は、実質的に円形、長円形、又は線対称の凸多角形に沿う断面形状を有することができる。この場合、逃がし部114,116の内面を、冷媒の流路となる隙間C1,C2内に突出する部分がない形状とすることができる。なお、ここでいう楕円形とは、幾何学的な定義による楕円だけでなく、例えばオーバルトラック状や卵形等、楕円に類似する形状を含む概念である。逃がし部114,116が実質的に円形、楕円形、又は線対称の凸多角形に沿った断面形状を有する場合、逃がし部114,116の比表面積(断面周長/断面積)が小さくなり、逃がし部114,116とプレス成形品8との隙間C1,C2を冷媒が流れやすくなるため、金属板71,72の境界部分73を効果的に冷却することができる。逃がし部の断面形状とは、逃がし部の延在方向に垂直な断面の形状を表す。
【0103】
供給導管121の先端部121a及び供給導管121の先端部121aが金型本体11に対して接近及び離隔可能なノズルである場合、逃がし部114,116の断面形状は、先端部121a,122aの断面形状と実質的に一致していることが好ましい。これにより、供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aの逃がし部114,116への接続をより確実に行うことができる。
【0104】
なお、金型本体11の成形面113又は115において、逃がし部を境界に高さの差が生じる場合、この逃がし部を段状の逃がし部という。図12に示す例では、逃がし部114が楕円形に沿う断面形状となるように形成されていることにより、上型111の成形面113において、逃がし部114の一部が上段側の領域R1よりも上方に窪んでいる。しかしながら、成形面113では、逃がし部114を境界として領域R1,R2に高さの差が生じることに変わりはないため、図12に例示される逃がし部114も、段状の逃がし部114と呼ぶ。
【0105】
上記各実施形態では、上型111の成形面113に段状の逃がし部114が設けられ、下型112の成形面115に凹状の逃がし部116が設けられている。つまり、上型111の成形面113と下型112の成形面115の双方に対して逃がし部が設けられているが、上型111の成形面113及び下型112の成形面115のいずれか一方にのみ、逃がし部が設けられていてもよい。この場合、逃がし部は段状の逃がし部とすることが好ましい。例えば、上型111の成形面113にのみ段状の逃がし部114を設ける場合、図13に示すように、逃がし部114は、実質的に円形、楕円形、又は線対称の凸多角形に沿った断面形状を有することが好ましい。同様に、下型112の成形面115にのみ段状の逃がし部を設ける場合、この逃がし部は、実質的に円形、楕円形、又は線対称の凸多角形に沿った断面形状を有することが好ましい。
【0106】
上記第1及び第3実施形態では、冷却手段12において、供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aの双方が金型本体11に対して接近及び離隔可能に構成されている。一方、上記第2実施形態では、供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aは、それぞれ、下型112に設けられた貫通孔である。しかしながら、供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aは、第1~第3実施形態を種々組み合わせて構成することもできる。
【0107】
例えば、供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aのうち、一方を第1又は第3実施形態のように金型本体11に対して接近及び離隔可能とし、他方を第2実施形態のように金型本体11に設けられた貫通孔とすることができる。また、例えば、供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aのうち、一方を第1実施形態のように上型111と下型112との間に挿入し、他方を第3実施形態のように金型本体11の端面に圧着することもできる。さらに、例えば、供給導管121及び排出導管122のうち少なくとも一方において、金型本体11に対して接近及び離隔可能な先端部121a,122aと、金型本体11に設けられた貫通孔である先端部121a,122aとの双方が設けられていてもよい。供給導管121及び排出導管122の一方又は両方が先端部121a,122aとして貫通孔を有する場合、当該貫通孔は、必ずしも下型112に形成される必要はない。先端部121a又は先端部122aは、上型111に形成され、成形面113に開口する貫通孔であってもよい。
【0108】
上記各実施形態では、供給導管121の先端部121aから上型111の逃がし部114及び下型112の逃がし部116の双方に冷媒を供給し、逃がし部114,116とプレス成形品8との隙間C1,C2において同一方向に冷媒を流している。しかしながら、隙間C1と隙間C2とで冷媒の流れる方向を逆向きにすることもできる。この場合、逃がし部114,116のそれぞれに対応して、供給導管121の先端部121a及び排出導管122の先端部122aを設ければよい。例えば、金型本体11の幅方向の一端部側に、逃がし部114に対応する供給導管121の先端部121a、及び逃がし部116に対応する排出導管122の先端部122aを設け、金型本体11の幅方向の他端部側に、逃がし部114に対応する排出導管122の先端部122a、及び逃がし部116に対応する供給導管121の先端部121aを設ける。これにより、上型111側の隙間C1を流れる冷媒と下型112側の隙間C2を流れる冷媒とが対向流となり、金属板71,72の境界部分73をより均一に冷却することができる。
【0109】
上記第1及び第3実施形態では、冷却手段12は、供給導管121の先端部121aを1つ有している。しかしながら、冷却手段12において、冷媒の供給ノズルとしての供給導管121の先端部121aは、複数設けられていてもよい。供給導管121の先端部121aが複数設けられている場合、冷媒の回収ノズルとしての排出導管122の先端部122aも、これに対応して複数設けられることが好ましい。先端部121a,122aの数及び形状は、適宜変更することができる。
【0110】
上記各実施形態では、板厚が異なる2枚の金属板71,72を含む素材7を使用してプレス成形品8が製造されている。しかしながら、プレス成形品8の製造には、3枚以上の金属板を含む素材を使用することもできる。この場合、それぞれの金属板の境界部分73に応じて、金型本体11に複数の逃がし部を設けて、逃がし部ごとに冷却手段12又は12Aを設けてもよい。また、例えば、タンク123、圧送ポンプ125、及び吸引ポンプ126等については、複数の冷却手段の間で兼用してもよい。また、プレス成形品8の素材として、同板厚で強度(材質)が異なる複数の金属板を含むものを使用することもできる。
【0111】
図14及び図15に示す素材7Aは、金属板71A,72Aを突き合わせ溶接したテーラーウェルドブランクである。図14に示すように、金属板71A,72Aの板厚が同じであっても、溶接時にアンダーフィルが生じた場合、金属板71A,72Aの境界部分73Aに凹部が形成され、素材7Aの板厚が境界部分73Aで部分的に変化する。また、図15に示すように、金属板71A,72Aの板厚が同じであっても、溶接時にオーバーフィルが生じた場合、金属板71A,72Aの境界部分73Aに凸部が形成され、素材7Aの板厚が境界部分73Aで変化する。そのため、図14及び図15に示す例では、上型111の成形面113及び下型112の成形面115に、それぞれ凹状の逃がし部116が形成されている。これにより、上型111の成形面113と境界部分73Aとの間、及び下型112の成形面115と境界部分73Aとの間にそれぞれ隙間が生じる。この隙間に対し、第1若しくは第3実施形態の冷却手段12又は第2実施形態の冷却手段12Aによって冷媒を供給することにより、金属板71A,72Aの境界部分73Aを冷却することができる。図14及び図15の例において、上型111及び下型112の各逃がし部116は、二点鎖線で示す長方形に沿った断面形状を有する。
【0112】
プレス成形品8の製造に用いられる素材は、パッチワークブランクであってもよい。図示を省略するが、パッチワークブランクは、ブランク本体としての金属板に補強材としての金属板が重ねられたものであるため、補強材の周縁部分に段差が存在する。プレス成形品8の素材としてパッチワークブランクを使用する場合、補強材の周縁部分が金型本体11に干渉しないように、補強材の周縁部分に沿って上型111の成形面113又は下型の成形面115に段状の逃がし部を設ければよい。これにより、補強材の周縁部分と上型111の成形面113又は下型の成形面115との間に隙間が形成されるため、この隙間に冷媒を供給することができる。
【0113】
例えば、下型112の成形面115において補強材に対応する位置に補強材の板厚分の凹部が形成されていることにより、パッチワークブランクから成形されたプレス成形品8では、見た目上、補強材がブランク本体と面一となる場合がある。しかしながら、この場合も、上型111の成形面113のうち、補強材の周縁部分に対応する位置に逃がし部を設けることができる。すなわち、プレス成形品8の素材が2枚以上の金属板を含み、金属板同士の境界部分が存在する場合は、各金属板の板厚及び形状にかかわらず、成形面113,115の一方又は両方において当該境界部分に対応する位置に凹状又は段状の逃がし部を設けることができる。
【0114】
上記各実施形態では、逃がし部114,116の一端部114a,116aは、金型本体11の幅方向の一端面に開口し、逃がし部114,116の他端部114b,116bは、金型本体11の幅方向の他端面に開口する。しかしながら、逃がし部114,116の両端部のうち一方が金型本体11の長手方向の一端面に開口し、他方が金型本体11の長手方向の他端面に開口するように、金型本体11を構成することもできる。あるいは、逃がし部114,116の両端部のうち一方が金型本体11の幅方向の端面に開口し、他方が金型本体11の長手方向の端面に開口してもよい。また、逃がし部114,116は、その両端部が金型本体11の幅方向又は長手方向の同一端面に開口する場合もある。逃がし部114,116は、金属板同士の境界部分73,73Aが金型本体11に干渉しないよう、金属板同士の境界部分73,73Aに応じた形状に適宜形成されればよい。
【0115】
上記各実施形態では、その延在方向に垂直な断面形状が一定の逃がし部114,116を例示したが、冷媒の通流方向に関して逃がし部114,116の断面形状は異なっていてもよい。また、逃がし部114,116は、逃がし部114,116の延在方向に対して直線状でなくともよい。
【0116】
プレス成形品8の素材としてパッチワークブランクが使用される場合、逃がし部114又は116は、補強材の周縁部分に沿って形成されるため、金型本体11の外表面に開口する端部を有しないことが多い。このような場合、逃がし部114,116を外部と連通させる貫通孔を金型本体11に形成することにより、逃がし部114,116に冷媒を供給し、且つ逃がし部114,116から冷媒を排出することが可能となる。このような貫通孔は、第2実施形態のように、供給導管121及び排出導管122の先端部121a,122aとして取り扱うことができる。あるいは、第1又は第3実施形態のように、移動可能な先端部121a,122aを所望のタイミングでこのような貫通孔に接続することもできる。
【0117】
上記各実施形態では、金型本体11内のプレス成形品8のうち、金属板71,72の境界部分73を冷却手段12,12Aが供給する冷媒によって冷却し、境界部分73以外の領域を金型本体11との接触のみによって抜熱する。しかしながら、金型本体11内のプレス成形品8のうち、境界部分73以外の領域を冷却手段12,12Aと別個の冷却手段を用いて冷媒で冷却することもできる。例えば、プレス成形品8のうち、上型111の側面113b及び下型112の側面115bで成形される領域の一部又は全部を従来の直水冷工法で冷却することができる。
【符号の説明】
【0118】
1,1A:金型
11:金型本体
111:上型
112:下型
113,115:成形面
114,116:逃がし部
114a,114b,116a,116b:端部
12,12A:冷却手段
121:供給導管
122:排出導管
121a,122a:先端部
7,7A:素材
8:プレス成形品
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図13
図14
図15