(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】走行模擬試験設備
(51)【国際特許分類】
G01M 9/02 20060101AFI20231206BHJP
G01M 17/007 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G01M9/02
G01M17/007 P
(21)【出願番号】P 2023533972
(86)(22)【出願日】2023-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2023009759
【審査請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2022187128
(32)【優先日】2022-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391007242
【氏名又は名称】三菱重工冷熱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102738
【氏名又は名称】岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】遠藤浩司
(72)【発明者】
【氏名】小松由尚
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-108038(JP,A)
【文献】実開昭61-070752(JP,U)
【文献】特開平10-221202(JP,A)
【文献】特開2020-046401(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111272377(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0152799(US,A1)
【文献】特許第7286223(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 9/00-9/08
G01M 17/00-17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止車両を走行模擬する走行模擬試験設備であって、
走行模擬試験設備は、風洞内で発生させるジェット気流を静止車両に吹き付ける風洞設備と、静止車両の車輪を回転駆動する走行模擬設備とを有し、
該走行模擬設備は、各車輪下方の床面に配置され、
床面に設けられた開口と、
該開口に対して、非接触式に回転可能に設けられる円筒状ダイナモローラーと、
該ダイナモローラーを円筒の中心軸線を中心に回転駆動する回転駆動手段とを有し、
該ダイナモローラーは、円筒の中心軸線が床面下方に位置するように配置され、
前記ダイナモローラーの前記開口から臨む外周面に、車両の車輪を載置した状態で、前記ダイナモローラーを回転駆動することにより、車両の走行を模擬し、
さらに、前記走行模擬設備の後方に、境界層制御装置が設けられ、
該境界層制御装置は、
車両下面と床面との間のスペース内に生じるジェット気流の境界層を吸い込み可能なように、車両が覆うように上方に配置される境界層吸い込み面が床面に設けられ、
床面の下方には、該境界層吸い込み面に臨む吸い込みダクトが設けられ、
該境界層吸い込み面を介して、境界層を吸い込む吸い込み手段と、吸い込み手段により吸い込む境界層の吸い込み量を調整する吸い込み量調整手段とを、有し、
さらに、ジェット気流が車両下面と床面との間のスペースを車両の前後方向に流れる際、該吸い込み量調整手段により調整された吸い込み量に基づいて、該吸い込み手段により境界層を吸い込むことに起因して発生する車両下面と床面との間のスペースの車両前後方向の静圧分布を調整可能な静圧分布調整手段を有し、
前記境界層吸い込み面は、車両の下面に対向する床面において、前記ダイナモローラーの前記開口の後方の所定位置に位置決めされ、
前記境界層制御装置の前記境界層吸い込み手段が、前記ダイナモローラーの回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室と車両下面と床面との間の静圧差によりダイナモ設置室側からの流入空気によって発生する連行気流が、前記開口を通じて、車両下面と床面との間のスペースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段を兼ね、
前記静圧分布調整手段は、ジェット気流が車両下面と床面との間のスペースを車両の前後方向に流れる際の、車両下面と床面との間のスペースの第1静圧を測定する第1静圧測定手段と、床面下方の該吸い込みダクト内の第2静圧を測定する第2静圧測定手段と、第1静圧と第2静圧との静圧差を調整可能な静圧差調整手段とを有する、ことを特徴とする走行模擬試験設備。
【請求項2】
静止車両を走行模擬する走行模擬試験設備であって、
走行模擬試験設備は、風洞内で発生させるジェット気流を静止車両に吹き付ける風洞設備と、静止車両の車輪を回転駆動する走行模擬設備とを有し、
該走行模擬設備は、各車輪下方の床面に配置され、
床面に設けられた開口と、
該開口に対して、非接触式に回転可能に設けられる円筒状ダイナモローラーと、
該ダイナモローラーを円筒の中心軸線を中心に回転駆動する回転駆動手段とを有し、
該ダイナモローラーは、円筒の中心軸線が床面下方に位置するように配置され、
前記ダイナモローラーの前記開口から臨む外周面に、車両の車輪を載置した状態で、前記ダイナモローラーを回転駆動することにより、車両の走行を模擬し、
さらに、前記走行模擬設備の後方に、境界層制御装置が設けられ、
該境界層制御装置は、
車両下面と床面との間のスペース内に生じるジェット気流の境界層を吸い込み可能なように、車両が覆うように上方に配置される境界層吸い込み面が床面に設けられ、
床面の下方には、該境界層吸い込み面に臨む吸い込みダクトが設けられ、
該境界層吸い込み面を介して、境界層を吸い込む吸い込み手段と、吸い込み手段により吸い込む境界層の吸い込み量を調整する吸い込み量調整手段とを、有し、
さらに、ジェット気流が車両下面と床面との間のスペースを車両の前後方向に流れる際、該吸い込み量調整手段により調整された吸い込み量に基づいて、該吸い込み手段により境界層を吸い込むことに起因して発生する車両下面と床面との間のスペースの車両前後方向の静圧分布を調整可能な静圧分布調整手段を有し、
前記境界層吸い込み面は、車両の下面に対向する床面において、前記ダイナモローラーの前記開口の後方の所定位置に位置決めされ、
前記境界層制御装置の前記境界層吸い込み手段が、前記ダイナモローラーの回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室と車両下面と床面との間の静圧差によりダイナモ設置室側からの流入空気によって発生する連行気流が、前記開口を通じて、車両下面と床面との間のスペースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段を兼ね、
前記吸い込みダクトは、前記吸い込み手段に連通接続される吸い込み管を有し、該吸い込み管には、ダンパーが付設される、ことを特徴とする走行模擬試験設備。
【請求項3】
静止車両を走行模擬する走行模擬試験設備であって、
走行模擬試験設備は、風洞内で発生させるジェット気流を静止車両に吹き付ける風洞設備と、静止車両の車輪を回転駆動する走行模擬設備とを有し、
該走行模擬設備は、各車輪下方の床面に配置され、
床面に設けられた開口と、
該開口に対して、非接触式に回転可能に設けられる円筒状ダイナモローラーと、
該ダイナモローラーを円筒の中心軸線を中心に回転駆動する回転駆動手段とを有し、
該ダイナモローラーは、円筒の中心軸線が床面下方に位置するように配置され、
前記ダイナモローラーの前記開口から臨む外周面に、車両の車輪を載置した状態で、前記ダイナモローラーを回転駆動することにより、車両の走行を模擬し、
さらに、前記走行模擬設備の後方に、境界層制御装置が設けられ、
該境界層制御装置は、
車両下面と床面との間のスペース内に生じるジェット気流の境界層を吸い込み可能なように、車両が覆うように上方に配置される境界層吸い込み面が床面に設けられ、
床面の下方には、該境界層吸い込み面に臨む吸い込みダクトが設けられ、
該境界層吸い込み面を介して、境界層を吸い込む吸い込み手段と、吸い込み手段により吸い込む境界層の吸い込み量を調整する吸い込み量調整手段とを、有し、
さらに、ジェット気流が車両下面と床面との間のスペースを車両の前後方向に流れる際、該吸い込み量調整手段により調整された吸い込み量に基づいて、該吸い込み手段により境界層を吸い込むことに起因して発生する車両下面と床面との間のスペースの車両前後方向の静圧分布を調整可能な静圧分布調整手段を有し、
前記境界層吸い込み面は、車両の下面に対向する床面において、前記ダイナモローラーの前記開口の後方の所定位置に位置決めされ、
前記境界層制御装置の前記境界層吸い込み手段が、前記ダイナモローラーの回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室と車両下面と床面との間の静圧差によりダイナモ設置室側からの流入空気によって発生する連行気流が、前記開口を通じて、車両下面と床面との間のスペースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段を兼ね、
前記吸い込みダクト内に吸い込まれるジェット気流の淀み圧を低減する淀み圧低減手段をさらに有する、ことを特徴とする走行模擬試験設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行模擬試験設備に関し、特に、風洞内で発生させる気流を静止車両の前方から後方に向けて流しつつ、ダイナモローラーの回転により車輪を回転させる車両の走行模擬において、床面に生じる境界層の吸い込みによる弊害、および、ダイナモローラーを原因として車両の下面と床面との間のスペースに向かう連行気流の抑制を一挙解決することにより、車両の下面と床面との間のスペースを流れる気流の乱れを低減することが可能な走行模擬試験設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の性能試験、耐久試験、環境試験用に、静止車両による走行模擬が行われている。
走行模擬は、通常、風洞外の測定室に車両を配置し、車輪を床面下方に設置するダイナモローラーの回転により回転させつつ、車両の前方から後方に向けてジェット気流を流して、走行中の風速を模擬することにより行われる。
この場合、風洞内で発生させる車両の前後方向のジェット気流は、走行中の車両が受ける風速を模擬するもので、平行流であり、車両の下面と床面との間のスペースにも、車両の前後方向に流れる。
ダイナモローラーは、通常、風洞内の床面に設けられた開口から上方に臨むように、開口に対して非接触態様で設けられ、開口とダイナモローラーの周縁との間に不可避的に隙間を設けざるを得ないところ、測定室から引き込む連行気流や、測定室へ流出する連行気流が不可避的に発生し、連行気流は、床面の開口を介して、車両の下面と床面との間のスペース内に斜流として、風洞内のジェット気流と同様、車両の前後方向へ流れる。
その際、第1に、床面下方へのダイナモローラーの設置に伴い、第2に、風洞設備の利用に伴い、以下のような技術的問題が引き起こされる。
【0003】
第1の点について、ダイナモローラーの回転に伴って、連行気流が不可避的に発生し、連行気流は、床面の開口を介して、車両の下面と床面との間のスペース内に斜流として、風洞内の気流と同様、車両の前後方向へ流れる。
それにより、スペース内で、風洞内の気流が乱され、精確に走行模擬した試験を行うことが困難となる。
【0004】
この点、本発明者は、このような技術的問題点を解決するために、特許文献1において、走行模擬設備を提案している。
この走行模擬装置は、床面に設けられた開口と、開口に対して、非接触式に回転可能に設けられる円筒状ダイナモローラーと、ダイナモローラーを円筒の中心軸線を中心に回転駆動する回転駆動手段とを有し、ダイナモローラーは、円筒の中心軸線が床面下方に位置するように配置され、ダイナモローラーの開口から臨む外周面に、車両の車輪を載置した状態で、ダイナモローラーを回転駆動することにより、車両の走行を模擬する走行模擬装置であって、車両は、円筒の中心軸線に対して、直交する向きに、風洞内に配置され、風洞内で、車両の前方から後方に向かって、床面から少なくとも車高までの高さに亘って、気流を送るように構成され、ダイナモローラーの回転に伴われて発生する連行気流が、開口を通じて、車両下面と床面との間のスペースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段を、開口とダイナモローラーとの間の隙間に設ける、構成としている。
【0005】
以上の構成を有する走行模擬設備によれば、風洞内で、車両の前方から後方に向かって、床面から少なくとも車高までの高さに亘って、気流を送りつつ、ダイナモローラーの開口から臨む外周面に、車両の車輪を載置した状態で、ダイナモローラーを回転駆動することにより、静止車両により、車両の走行を模擬することが可能である。
その際、ダイナモローラーの回転に伴われて連行気流が不可避的に発生するところ、連行気流は、風洞内の気流と同様に、車両の後方に向かう向きであるが、風洞内の気流が平行流なのに対して、床面の開口から車両の下面に向かう斜流であることから、車両下面と床面との間のスペース内で風洞内の気流が乱されるところ、開口とダイナモローラーとの間の隙間に連行気流抑制手段を設けることにより、このような連行気流が床面の開口を通じて、車両下面と床面との間のスペースに及ぶのを抑制することが可能であり、以て、車両の走行に応じて生じる風速を模擬する風洞内の気流が車両の下面と床面との間のスペース内で乱されることを低減することが可能である。
【0006】
第2の点について、風洞の吹出口から噴出するジェット気流は、主流空気による主流層の他に主流層と床面との間で抵抗が生じるために風速が遅れた境界層が床面に沿って生じる。そのため、車両の風速分布の試験を行う際、境界層の影響を受けることになる。
ここに、境界層とは、床面表面付近の主流空気の流れにおいて、速度が床面表面上から主流空気の流速にまで急激に変化する範囲の層をいい、例えば主流空気の流速を100%とした時、流速が99%以下に減速する層をいう。
【0007】
この点、たとえば、特許文献2に示すように、吸込んだジェット気流に起因して吹出口から吹出すジェット気流の主流方向の流れが阻害されるのを低減し、風速低下を軽減した境界層制御装置及び風洞試験装置境界層が開示されている。
この境界層制御装置は、環状に連続する送風路を通じて、送風機によりジェット気流を循環回流させ、吹出口を 通じて測定部に前記ジェット気流を吹き出す際、ジェット気流の主流空気が床界面側で発生する境界層をジェット気流の主流方向に対して鉛直軸方向に吸込み、排出する 吸込みダクトを有する境界層制御装置であって、吸込みダクト内に吸込まれたジェット気流の淀み圧を低減し、ジェット気流の主流方向の流れの阻害を低減するのに、吸込みダクトの上流側に形成され、ジェット気流の一部を吸込みダクト内に導く導風部や、吸込みダクトの吸込み口の下流側の縁近傍に湾曲部を設けたり、吸込みダクトの吸込み口の下流側に鍔部を設けたりすることにより、ジェット気流の主流空気が床界面側で発生する境界層をジェット気流の主流方向に対して鉛直軸方向に吸込み、排出する吸込みダクト内に吸込まれたジェット気流の淀み圧を低減することができるため、ジェット気流の主流方向の流れの阻害を低減することができる。
【0008】
しかしながら、このような境界層制御装置は、風洞の吹き出し口直後における床界面側で発生する境界層の吸い込みに関し、ジェット気流の主流方向の流れの阻害を低減するに過ぎず、以下に示すように、車両下面と床面との間、あるいは、車両後部背面での風速分布および/または流れ方向の正確な模擬には不十分である。
【0009】
すなわち、風洞の吹き出し口の直下流部、すなわち風速分布測定試験対象である車体の上流側に、境界層制御装置が設けられるに過ぎず、境界層は、ジェット気流の主流層と床面との間の抵抗に起因して生じるものである以上、車体の前部から後部に至るまでの、数メートルに及ぶ車体の前後方向長さを主流が通過する際にも、境界層の発生は避けがたく、風洞の吹き出し口の直下流部にのみ境界層制御装置を設けるだけでは、実走行では発生しない床面境界層の発達によって、車両の下面と床面との間の気流(風速分布および/または流れ方向)が阻害される点に対して、対処不十分となる。
この場合、車両の下面に相当する床面に、同様に境界層制御装置を設けるとすれば、車両の下面と床面の間の静圧分布を考慮しないと境界層吸込み面において部分的な境界層の吸込みムラが生じる。
単に車両まわりの風速分布を測定するのではなく、実走行を模擬した燃費、電費(EV車)、エアコン試験、熱マネージメント試験、吹雪試験、雨試験等を行うには、走行模擬車両まわりの精度の高い風速分布および/または流れ方向の再現が必須であるところ、このような主流への阻害により、信頼性の高い評価が困難となる。
一方、走行車両の車両後部背面での吹き上がり現象を模擬するには、
図6に示すように、車両後部背面に生じ得る渦の再現が必要であり、この意味において、気流の風速分布および/または流れ方向が重要となる。
【0010】
この点、本発明者は、このような技術的問題点を解決するために、特許文献3において、境界層制御装置を提案している。
この境界層制御装置は、風洞内で発生させるジェット気流を車両に吹き付ける場合において、車両下面と床面との間のスペース内に生じるジェット気流の境界層を吸い込み可能なように、車両が覆うように上方に配置される境界層吸い込み面が床面に設けられ、床面の下方には、該境界層吸い込み面に臨む吸い込みダクトが設けられ、境界層吸い込み面を介して、境界層を吸い込む吸い込み手段と、吸い込み手段により吸い込む境界層の吸い込み量を調整する吸い込み量調整手段とを、有し、さらに、ジェット気流が車両下面と床面との間のスペースを車両の前後方向に流れる際に発生する車両下面と床面との間のスペースの車両前後方向の静圧分布を調整可能な静圧分布調整手段を有する、構成としている。
【0011】
以上の構成を有する境界層制御装置によれば、風洞内に吹き出し口に向かって、たとえば送風機によりジェット気流を吹き出し口の下流に配置された車両に向かって吹き出す際、ジェット気流の主流に対して、車両の下面と床面との間には、境界層が生じるところ、車両が覆うように上方に配置される境界層吸い込み面を通じて、境界層吸い込み面に臨む吸い込みダクト内に、境界層を吸い込む吸い込み手段により、境界層を吸い込むことが可能であり、この場合、静圧分布調整手段により、ジェット気流が車両下面と床面との間のスペースを車両の前後方向に流れる際に発生する車両下面と床面との間のスペースの車両前後方向の静圧分布を調整可能であることから、ジェット気流が車両下面と床面との間のスペースを車両の前後方向に流れる際、床面近傍の境界層を吸い込むのに、境界層の吸い込みに起因して、実走行で発生する車両下面と床面との間のスペースの車両前後方向の静圧分布から乖離するのを抑制可能であり、それにより、車両下面と床面との間のスペースにおいて、車両の前後方向に、実走行と異なる風速分布および/または流れ方向が生じたり、吸い込みダクト内から車両下面と床面との間のスペースへの逆流を抑制することが可能であり、以て、走行模擬車両を用いて、実走行に近似した精緻な試験を行うことが可能となる。
【0012】
以上に関連して、本発明者は、境界層を吸い込みために吸い込みダクトを設けることにより、車両の下面と床面との間のスペースと吸い込みダクト内との静圧差に起因して、かえって、車両の下面と床面との間のスペースを流れる気流を乱すことになるところ、同様なことが、ダイナモ設置室39を床面下方に設けることにより、車両の下面と床面との間のスペースとダイナモ設置室39内との静圧差に起因して、ダイナモローラを回転させない場合であっても、静圧の高いダイナモ設置室39内から、静圧の低い車両の下面と床面との間のスペースに向かう連行気流が発生することを発見するに至った。
この場合、車両の下面と床面との間のスペースと吸い込みダクト内との静圧差に起因する車両の下面と床面との間のスペースを流れる気流の乱れ、および車両の下面と床面との間のスペースとダイナモ設置室39内との静圧差に起因する連行気流による車両の下面と床面との間のスペースを流れる気流の乱れそれぞれを個別の技術的手段により解消するとすれば、車両の下面に対向する限られた床面スぺ―スの範囲内に、これらの個別の技術的手段を設けるのは、技術的に困難であるか、設備のコスト増を引き起こす。
以上を契機として、本発明者は、境界層吸い込みに伴う弊害と連行気流の発生とによる車両の下面と床面との間のスペースを流れる気流の乱れの一挙解決を企図するものである。
【文献】特願2021-195282号
【文献】特開2009-156695号
【文献】PCT/JP2022/028665
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上の技術的問題点に鑑み、風洞内で発生させる気流を静止車両の前方から後方に向けて流しつつ、ダイナモローラーの回転により車輪を回転させる車両の走行模擬において、床面に生じる境界層の吸い込みによる弊害、および、ダイナモローラーを原因として車両の下面と床面との間のスペースに向かう連行気流の抑制を一挙解決することにより、車両の下面と床面との間のスペースを流れる気流の乱れを低減することが可能な走行模擬試験設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の走行模擬試験設備は、
静止車両を走行模擬する走行模擬試験設備であって、
走行模擬試験設備は、風洞内で発生させるジェット気流を静止車両に吹き付ける風洞設備と、静止車両の車輪を回転駆動する走行模擬設備とを有し、
該走行模擬設備は、各車輪下方の床面に配置され、
床面に設けられた開口と、
該開口に対して、非接触式に回転可能に設けられる円筒状ダイナモローラーと、
該ダイナモローラーを円筒の中心軸線を中心に回転駆動する回転駆動手段とを有し、
該ダイナモローラーは、円筒の中心軸線が床面下方に位置するように配置され、
前記ダイナモローラーの前記開口から臨む外周面に、車両の車輪を載置した状態で、前記ダイナモローラーを回転駆動することにより、車両の走行を模擬し、
さらに、前記走行模擬設備の後方に、境界層制御装置が設けられ、
該境界層制御装置は、
車両下面と床面との間のスペース内に生じるジェット気流の境界層を吸い込み可能なように、車両が覆うように上方に配置される境界層吸い込み面が床面に設けられ、
床面の下方には、該境界層吸い込み面に臨む吸い込みダクトが設けられ、
該境界層吸い込み面を介して、境界層を吸い込む吸い込み手段と、吸い込み手段により吸い込む境界層の吸い込み量を調整する吸い込み量調整手段とを、有し、
さらに、ジェット気流が車両下面と床面との間のスペースを車両の前後方向に流れる際、該吸い込み量調整手段により調整された吸い込み量に基づいて、該吸い込み手段により境界層を吸い込むことに起因して発生する車両下面と床面との間のスペースの車両前後方向の静圧分布を調整可能な静圧分布調整手段を有し、
前記境界層吸い込み面は、車両の下面に対向する床面において、前記ダイナモローラーの前記開口の後方の所定位置に位置決めされ、
前記境界層制御装置の前記境界層吸い込み手段が、前記ダイナモローラーの回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室と車両下面と床面との間の静圧差によりダイナモ設置室側からの流入空気によって発生する連行気流が、前記開口を通じて、車両下面と床面との間のスペースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段を兼ねる、構成としている。
【0015】
以上の構成を有する走行模擬試験設備によれば、風洞内に吹き出し口に向かって、たとえば送風機によりジェット気流を吹き出し口の下流に配置された車両に向かって吹き出すとともに、車両の車輪をダイナモローラー上に載置した状態で、ダイナモローラーを回転駆動することにより、走行模擬する際、ジェット気流の主流に対して、車両の下面と床面との間には、境界層が生じるところ、車両が覆うように上方に配置される境界層吸い込み面を通じて、境界層吸い込み面に臨む吸い込みダクト内に、境界層を吸い込む吸い込み手段により、境界層を吸い込むことが可能であり、この場合、ジェット気流が車両下面と床面との間のスペースを車両の前後方向に流れる際、該吸い込み量調整手段により調整された吸い込み量に基づいて、該吸い込み手段により境界層を吸い込むことに起因して発生する車両下面と床面との間のスペースの車両前後方向の静圧分布を静圧分布調整手段により調整可能であることから、ジェット気流が車両下面と床面との間のスペースを車両の前後方向に流れる際、床面近傍の境界層を吸い込むのに、境界層の吸い込みに起因して、実走行で発生する車両下面と床面との間のスペースの車両前後方向の静圧分布から乖離するのを抑制可能であるとともに、境界層吸い込み面を車両の下面に対向する床面において、ダイナモローラーの開口の後方の所定位置に位置決めすることにより、境界層吸い込み手段が、ダイナモローラーの回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室39と車両下面と床面との間の静圧差によりダイナモ設置室39側からの流入空気によって発生する連行気流が、開口を通じて、車両下面と床面との間のスペースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段を兼ねるように構成することから、車両の下面と床面との間のスペースと吸い込みダクト内との静圧差に起因する車両の下面と床面との間のスペースを流れる気流の乱れ、および車両の下面と床面との間のスペースとダイナモ設置室39内との静圧差に起因する連行気流による車両の下面と床面との間のスペースを流れる気流の乱れを一挙解決することにより、車両下面と床面との間のスペースにおいて、車両の前後方向に、実走行と異なる風速分布および/または流れ方向が生じたり、吸い込みダクト内から車両下面と床面との間のスペースへの逆流を抑制することが可能であり、以て、走行模擬車両を用いて、実走行に近似した精緻な試験を行うことが可能となる。
【0016】
また、前記静圧分布調整手段は、ジェット気流が車両下面と床面との間のスペースを車両の前後方向に流れる際の、車両下面と床面との間のスペースの第1静圧を測定する第1静圧測定手段と、床面下方の該吸い込みダクト内の第2静圧を測定する第2静圧測定手段と、第1静圧と第2静圧との静圧差を調整可能な静圧差調整手段とを有するのがよい。
さらに、前記静圧差調整手段は、車両下面と床面との間のスペースの静圧に対して、床面下方の該吸い込みダクト内の静圧を調整する手段を有するのがよい。
【0017】
さらにまた、前記静圧差調整手段は、床面下方の該吸い込みダクト内の静圧に対して、車両下面と床面との間のスペースの静圧を調整する手段を有するのがよい。
加えて、前記静圧差調整手段は、前記境界層吸い込み面の幅方向に亘って延びることにより、前記吸い込みダクトを複数の領域に仕切る仕切板であり、それにより、前記吸い込みダクトは、車両の前後方向に複数の領域に仕切られ、
該仕切り板の車両の前後方向位置に応じて定まる分割された境界層吸い込み面の面積に応じて、前記吸い込み量調整手段により、各領域において、境界層の吸い込み量を調整するのがよい。
【0018】
また、前記静圧差調整手段は、前記境界層吸い込み面に設けられた、吸い込みジェット気流に対する抵抗を形成する抵抗体を有する、のがよい。
さらに、前記抵抗体は、多孔体であり、異なる抵抗係数の抵抗体が積層され、それにより、前記境界層吸込み面における吸込風速分布ムラおよび/または流れ方向ムラを低減するのがよい。
さらにまた、前記吸い込みダクトは、前記吸い込み手段に連通接続される吸い込み管を有し、該吸い込み管には、ダンパーが付設されるのがよい。
加えて、前記吸込みダクト内に吸込まれるジェット気流の淀み圧を低減する淀み圧低減手段をさらに有するのがよい。
【0019】
また、前記ダイナモローラーの前記開口は、矩形開口であり、前記ダイナモローラーの各端面と前記開口の対応する車両前後方向に沿う縁部との間には、所定隙間が設けられ、ダイナモ設置室と車両下面と床面との間の静圧差によりダイナモ設置室側からの流入空気によって発生する連行気流は、主として、該所定隙間を通じて、車両下面と床面との間のスペースに及び、前記境界層吸い込み面は、前記開口の車両前後方向に沿う縁部を跨ぐように位置決めされるのがよい。
さらに、前記開口の後方の所定位置に位置決めされる前記境界層吸い込み面の車両幅方向の幅は、前記開口の車両幅方向の幅より狭く、前記開口の後方の所定位置に位置決めされる前記境界層吸い込み面は、前記開口の対応する車両前後方向に沿う内縁部および/または外縁部を跨ぐように位置決めされるのがよい。
さらにまた、前記ダイナモローラーの前記開口の後方の所定位置の前記境界層吸い込み面は、車両の前輪に対応する前記ダイナモローラーの前記開口に対して設けられるのがよい。
加えて、前記ダイナモローラーの前記開口の後方の所定位置の前記境界層吸い込み面は、一対設けられ、それぞれ車両の一対の前輪各々に対応する前記ダイナモローラーの前記開口に対して設けられ、前記一対の前記境界層吸い込み面間の床面に、車両の前後方向に延びる境界層吸い込み面が設けられるのがよい。
【0020】
また、前記ダイナモローラーの前記開口に対応するダイナモ設置室と、その後方の所定位置の前記境界層吸い込み面に対応する吸い込みダクトとは、車種に応じて車両の前後方向に可動な仕切り板により仕切られるのでもよい。
さらに、前記ダイナモローラーの前記開口の後方の所定位置の前記境界層吸い込み面は、単一であり、前記境界層吸い込み面は、車両の幅方向に、車両の一対の前輪各々に対応する前記ダイナモローラーの前記開口に亘って延びるのでもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1ないし
図6を参照しながら、本発明の走行模擬試験設備の第1実施形態を以下に詳細に説明する。
走行模擬試験設備100は、風洞内で発生させるジェット気流を静止車両Vに吹き付ける風洞設備と、静止車両Vの車輪を回転駆動する走行模擬設備とを有し、以下、風洞設備、走行模擬設備の順に説明する。
風洞設備は、内部にジェット気流MFを発生する風洞Tと、風洞Tの吹き出し口106と流入口108との間に設けられる測定室109に設けられる境界層制御装置10A,10Bおよび走行模擬設備34を有し、境界層制御装置10および走行模擬設備34いずれも、測定室109の床面FLの下方に設けられる。
図1に示すように、風洞設備は、回流式であり、風洞T内にジェット気流MFを供給するファン( 送風機)101が設けられ、吸込口( コレクタ)で収集されたジェット気流MFをファン101により風速調整して、ほぼ環状に連続する送風路103を通じて強制的に循環回流させ、吹出口106を通じて測定室109 に対しジェット気流MFを吹き出すものであり、測定室109 から吸込口108 を通じてジェット気流MFを収集し、送風路103を通じて再びジェット気流MF を循環回流させるようになっている。吹出口106での風速は、ファン101の回転数により、送風路103を流れるジェット気流MFの定常流量として決定される。
【0022】
送風路103の途中の各コーナー部には、ジェット気流MFの流れの方向を変えるコーナーベーン105が設けられ、ファン101の下流側のコーナーベーン105の上流側には図示しない空気冷却装置( 熱交換器) が設けられ、吸込口106および吹出口108を囲んで、内部が測定部である測定室109が配置されている。測定室109には、被試験体である車両Vを配置し、ジェット気流MFを車両Vに向けて送給し、実走行を模擬した燃費、電費(EV車)、エアコン試験、熱マネージメント試験、吹雪試験、雨試験等などの試験を行うようにしている。
【0023】
風洞Tは、測定室109がセミオープンタイプの回流型であり、測定対象である車両Vを設置する測定室109と、整流洞102、縮流洞104を経て、測定室109に開口する吹出し口106と、測定室109に開口する流入口108とを有し、たとえば、ファン101で発生した気流は、整流洞102、縮流洞104を経て、測定室109に開口する吹出し口106から測定室109に流入し、流入部107の流入口108へ流れ込むようになっている。
ファン101によって送風された気流は、いったん気流全体としての風速(動圧)を低下させて中間胴部における圧力(静圧)を上昇させた後、縮流洞104を通過させることで、測定するのに必要十分な風量(風速)の気流を吹出し口から測定室に吹き出すことができるようにしている。
これにより、後に説明するように、測定室109内において、静止車両Vを走行模擬する際、設定する走行速度に応じて、車両Vの前方から後方に流れる平行気流を模擬するようにしており、設定する走行速度に応じて、ファン101により気流の風速を調整することにより、静止車両Vでありながら走行車両Vを模擬できるようにしている。
【0024】
次に、走行模擬設備34が設けられる測定室内の床面FLの躯体構造について、説明すれば、床面FLの下方スぺ―スには、床面を天井とする建築コンクリート躯体構造であり、装置室内には、直方体状のスペースであるダイナモ設置室39が形成され、ダイナモ設置室39内に一対のダイナモローラー38及びダイナモとが概略設けられる。
【0025】
天井は、車両Vが直接乗り入れられる床面FLを構成し、一対のダイナモローラー38の周面の上部がそれぞれ露出する開口36(図参照)が形成されている。ダイナモローラー38及びダイナモは、底面上に支持されて装置室内に設けられている。
【0026】
後述する境界層制御装置の吸い込みダクトについても、床面の下方に設ける点で走行模擬設備と共通であり、躯体構造も、上述と同様である。境界層制御装置の吸い込みダクトや後述する仕切り板の材質は、ステンレス材が最も好ましいが、防食の処理(溶融亜鉛メッキや塗装)を施した鋼材でもよい。
【0027】
次に、走行模擬設備34の詳細について、
図3を参照しながら、説明する。
走行模擬設備34は、風洞Tにより内部に気流を流す測定室109の床面FL下方に設置され、測定室109内には、測定対象である車両Vが設置され、静止車両Vの車輪WHが走行模擬設備34により回転駆動されるように構成している。
測定室109内に、一対の前輪FWおよび一対の後輪RWそれぞれに対して、走行模擬設備34が対応して設けられている。これらの走行模擬設備34を用いて、測定室109上に進めた自動車の各種特性が測定される 。
【0028】
各ダイナモローラー38は、床面FL下方のダイナモ設置室39内に設けられ、自身の中心軸に設けられた回転軸13が、底板上に設けられた軸受(図示せず)に回転可能に支持されている。両ダイナモローラー38の間には、連結軸(図示せず)が同軸配置され、両ダイナモローラー38の回転軸とカップリング(図示せず)によって連結されており、これにより両ダイナモローラー38は一体的に回転可能となっている。
【0029】
ダイナモは、ダイナモローラー38の回転駆動源で液冷式であり、入出力軸(図示せず)は、一方のダイナモローラー38の回転軸と同軸配置されていて、ロック用ディスク(図示せず)によって連結されている。また、ダイナモの入出力軸には、トルクメータ(図示せず)が設けられており、入出力軸におけるトルクを検出可能となっている。
【0030】
走行模擬設備34は、測定室109上に進めた自動車の車輪WHを、測定室109の床面FLに設けた開口36から天頂部を露出させたダイナモローラー38の上に配置して走行させながら、ダイナモでダイナモローラー38を介して車輪WHにトルクを加えたり、車輪WHより加わるトルクをロードセル(図示せず)で計測するように構成している。
【0031】
本実施形態に係る走行模擬設備34としては、各々一つのダイナモローラー38と 一つのダイナモとを備えた四つの走行模擬設備34を用いる代わりに、 各々車輪WHがひとつずつ載置される二つのダイナモローラー38とこの二つのダイナモローラー38を回転駆動する一つのダイナモを備えた走行模擬設備34を用いるようにしてもよい。
各開口36について、開口36の上流縁24および下流縁28の直下方には、中実バー状のセンタリングパイプ35が開口36の幅方向Wに亘って設けられ、各センタリングパイプ35は、開口36の床面FLの長手方向中心位置から等距離に位置決めされ、車両Vを測定室109内で位置決めする際、車両Vの車輪WHを対応する開口36に対してセンタリングして、対応するダイナモローラー38により回転駆動可能なように、その目安として利用される。
【0032】
以上の走行模擬設備34においては、車両Vは、ダイナモローラー38の円筒の中心軸線に対して、直交する向きに、風洞T外の測定室109に配置され、風洞T内で、車両Vの前方から後方に向かって、床面FLから少なくとも車高までの高さに亘って、ジェット気流MFを送るように構成され、開口36に対して、非接触式に回転可能に設けられる円筒状ダイナモローラー38が、円筒の中心軸線が床面FL下方に位置するように配置され、ダイナモローラー38の開口36から臨む上部外周面に、車両Vの車輪WHを載置した状態で、ダイナモローラー38を回転駆動することにより、車両Vの走行を模擬するようにしている。
【0033】
さらに、各開口36について、ダイナモローラー38の上部外周面の最上部23は、床面FLと面一に設定されるところ、ダイナモローラー38の回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室39と車両下面LSと床面FLとの間の静圧差によりダイナモ設置室39側からの流入空気によって発生する連行気流B1,B2が、開口36を通じて、車両V下面LSと床面FLとの間のスぺースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段21を、開口36とダイナモローラー38との間の隙間Cに設ける。
より詳細には、開口36は矩形状であり、連行気流抑制手段21は、開口36の上流側縁24と対応するダイナモローラー38との隙間C、および開口36の下流側縁28と対応するダイナモローラー38との隙間Cそれぞれに配置される平板である
【0034】
図3に示すように、開口36の大きさは、ダイナモローラー38の大きさに依存し、ダイナモローラー38に接触しない観点から定められるが、通常、幅Wは600ミリないし700ミリ、気流の流れ方向の長さLは600ミリないし700ミリであり、ダイナモローラー38と開口縁との隙間Cは、通常、幅は10ミリないし20ミリである。
平板の材質、大きさは、連行気流抑制手段21により連行気流を有効に抑制する観点から、適宜定めればよく、たとえば、材質は、柔軟性が確保される限り任意であり、金属製、樹脂製等、大きさについて、幅は、開口36の幅に亘ることにより、床面FLに常設固定されるのでよく、車両Vの前後方向の長さは、開口36の上下流縁24、28それぞれから最上部23までの半分を覆う程度でよい。常設固定であれば、車両Vが上を通過する際、耐える程度の厚みが必要である。なお、常設固定でなく、取り外し式としてもよい。
【0035】
連行気流としては、以下に示すダイナモローラー38の回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモローラー38が収容されるダイナモ設置室39と車両下面と床面との間の静圧差によりダイナモ設置室39側からの流入空気によって発生する連行気流があり得る。
この場合、
図3に示すように、ダイナモローラー38の開口36から、車両Vの下面LSと床面FLとの間のスぺースに向かう吹き出し(流入空気)流による連行気流B1に対しては、開口36の上流側縁24に設けられる平板21Aがスぺースに及ぶのを抑制する一方、ダイナモローラー38の開口36からの下向きの回転により発生する、車両Vの下面LSと床面FLとの間のスぺースからの吸い込み連行気流B2に対しては、開口36の下流側縁28に設けられる平板21Bが吸い込まれるのを抑制することが可能である。
【0036】
変形例として、連行気流抑制手段21は、開口36の上流側縁24および下流側縁28それぞれから、車輪WHとダイナモローラー38との最上部23に向かって延びるブラシ32であり、ブラシ32が、側縁の幅方向W全体に亘って、密接して設けられるのでもよい。
さらなる変形例として、連行気流抑制手段21は、床面FLを構成する床躯体構造を利用して支持され、床面FLの下面LSレベルからダイナモローラー38の上部外周面レベルまで及び、開口縁の延び方向に沿って延びる堰き止め面を備えた連行気流堰き止め部材でもよい。
さらなる変形例として、連行気流抑制手段21は、床面FLを構成する床躯体構造を利用して支持され、 吸い込み開口36を上流側に臨むように差し向けた、連行気流Bを吸い込む吸い込み管であり、吸い込み開口36は、床面FLとダイナモローラー38の上部外周面レベルとの間に設けられるのでもよい。
さらなる変形例として、連行気流抑制手段21は、床面FLを構成する床躯体構造を利用して支持され、開口36の対向側縁26に沿って延びる堰き止め板であり、堰き止め板の上縁は、床面FLレベルに設定され、下縁は、ダイナモローラー38の上部外周面に接触しない範囲に設定されるのでもよい。
【0037】
さらなる変形例として、連行気流抑制手段21は、床面FLを構成する床躯体構造を利用して支持され、床面FLに対向する上面、ダイナモローラー38の上部外周面に対向する下曲面および床面FLからダイナモローラー38の上部外周面に向かって延びる後面とから構成されるほぼ三角形状断面を有し、下流縁28に沿って延びるエゼクタ流路形成部材であり、床面FLの下面LSとエゼクタ流路形成部材の上面との間に、上方エゼクタ流路、エゼクタ流路形成部材の下曲面とダイナモローラー38の上部外周面との間に、下方エゼクタ流路を形成するのでもよい。この場合、上方エゼクタ流路および下方エゼクタ流路の傾斜、長さは、連行気流抑制手段21により連行気流を有効に抑制する観点から、エゼクタ内部の空間が圧力の低下を引き起こし、外部の空気を吸い込むように、適宜定めればよく、これにより、ダイナモローラー38の開口36からの下向きの回転により発生する、車両Vの下面LSと床面FLとの間のスぺースからの吸い込み連行気流B2に対しては、開口36の下流側縁28に設けられるエゼクタ流路形成部材が吸い込まれるのを抑制することが可能である。
【0038】
次に、境界層制御装置について説明すれば、
図1に示すように、測定部に配置される車両下方に設けられる第1境界層制御装置10Aと、車両の上流側の風洞吹き出し口106直下流に設けられる第2境界層制御装置10Bとが設けられ、いずれも、環状に連続する送風路を通じて、ファン( 送風機)によりジェット気流MFを強制的に循環回流させ、吹出口を通じて測定部にジェット気流MFを吹き出す際、ジェット気流MFの主流空気が床界面側で発生する境界層をジェット気流MFの主流方向に対して鉛直軸方向に吸込み、排出する吸込みダクトを有する点で共通である。
先に、第2境界層制御装置10Bについて説明すれば、車両の上流側の床面に構成する境界層吸い込み面12からジェット気流MFを吸い込み、吸い込み管26を介してファン29により大気に放出することにより、境界層の影響を減少させるものであり、ジェット気流MFの一部を吸込みダクト内に導く導風部(図示せず)を設け、吸込んだジェット気流MFの流れの向きを転向させて、吸込みダクトに導くことにより、吸込んだジェット気流MFがジェット気流MFの主流方向に対して鉛直軸方向に転向する際の流れの転向角度を低減する結果、吸込みダクト内に吸込まれたジェット気流MFの淀み圧を低減し、以て、ジェット気流MFの主流方向の流れの阻害を低減するのでもよい。
風洞の吹き出し口直後に設けられる第2境界層制御装置10Bは、吸込みダクト内に吸込まれたジェット気流MFの淀み圧を低減する淀み圧低減手段(図示せず)を有し、それにより、ジェット気流MFの車両Vへの吹き出し前に、ジェット気流MFの主流方向の流れの阻害を低減するのでもよい。
吸い込みダクト14は、上面が床面FLを構成する床躯体構造に設けられる凹部により構成される。
【0039】
次に、第1境界層制御装置10Aについて、車両Vの下面LSより広い面積を有する境界層吸い込み面12が床面FLに設けられる。なお、第1境界層制御装置10Aは、第2境界層制御装置10Bと同様に、吸い込みダクト内の空気を 吸い込み管26を介して、ファン29により大気に放出する点で共通である。
図4に示すように、第1境界層制御装置10Aにおいては、車両Vの一対の前輪FWそれぞれに対応する開口36の後方に、開口36の車両Vの幅方向の両側に配置される境界層吸い込み面12R1、12R2(右前輪側)、および境界層吸い込み面12L1、12L2(左前輪側)と、車両Vの一対の前輪FWそれぞれに対応する開口36の間と車両Vの一対の後輪RWそれぞれに対応する開口36の間を、車両Vの前後方向に延びる境界層吸い込み面12Aの計5つの境界層吸い込み面12が設けられている。
5つの境界層吸い込み面12は、すべて矩形状であり、境界層吸い込み面12は、車両Vの下面LSに対向する床面FLにおいて、開口36以外の領域に設けられる。なお、境界層吸い込み面12は、角部のない、車両の前後方向に細長の楕円形状、台形や多角形状でもよい。
【0040】
境界層吸い込み面12Aについて、説明すれば、
図5に示すように、床面FLの下方に、境界層吸い込み面12に臨む吸い込みダクト14が設けられ、
吸い込みダクト14は、車両Vの前後方向に複数の領域16に仕切られ、各領域16は、境界層吸い込み面12を介して、境界層を吸い込む吸い込み手段18と、吸い込み手段18により吸い込む境界層の吸い込み量を調整する吸い込み量調整手段20とを、有する。境界層の吸い込み量は、仕切板22により仕切られ、複数の領域16(後述)の各領域に対応する境界層吸い込み面12の面積に応じて、調整する。
【0041】
複数の領域16において、隣接する領域16は、仕切板22により仕切られ、複数の領域16各々は、直方体状スペースを構成する。
複数の領域16において、仕切り板は、境界層吸い込み面12の幅方向Wに亘って延びる。
各仕切板22の車両前後方向位置は、車両下面と床面の間の前後方向の静圧分布、複数の領域16それぞれの必要容積、あるいは、車両前後方向の長さに応じて決定すればよく、たとえば、走行模擬状態での車両の下面と床面との間の気流を精緻に模擬したい場合には、隣接する仕切り板の車両前後方向の間隔を狭め、その分、仕切板22の枚数を増やしてもよい。特に、車両Vの下面LSと床面FLの間の車輪に相当する領域の静圧は他の領域よりも低いことから、車輪に相当する領域は仕切板22にて分割するのがよい。
【0042】
境界層吸い込み面12には、吸い込みジェット気流MFに対する抵抗を形成する抵抗体24が設けられる。
たとえば、抵抗体24としては、多孔な通気体、特に、多孔板により、開口率を変えた組み合わせが好ましく、多孔板のみでは強度がない場合は、多孔板の下部に強度のあるグリッドやグレーチング等で補強するのがよい。この場合、ジェット気流MFに直交する方向には、このような強度部材を設けないのが好ましい。
抵抗体24は、異なる抵抗係数の抵抗体24が積層され、各領域16ごとに、抵抗体24の種類および/または積層数が調整され、それにより、各領域において、車両Vの下面LSと床面FLとの間の静圧分布に応じて、抵抗体の抵抗係数が異なるようにして、各領域内の境界層吸込み面12における部分的な吸込風速分布ムラを低減する。
【0043】
吸い込みダクト14は、吸い込み手段18に連通接続される吸い込み管26を有し、吸い込み管26には、ダンパー27が付設され、通常どおり、ダンパー27の調整により、吸い込み管26内を流れる吸い込み空気の流量を調整可能である。
仕切りおよび/または抵抗体24は、車両Vの前後方向に可動であり、それにより、複数の領域16の各領域16の車両Vの前後方向の隣接する仕切り間の間隔が調整可能である。
これにより、試験目的、車型、同じ車型での走行模擬速度の変動等に応じて、各領域16の車両Vの前後方向の隣接する仕切り間の間隔を調整してもよい。
吸い込み手段18は、ファンであり、吸い込み量調整手段20は、ファンの回転数を制御するインバータ(図示せず)により、吸い込み量を調整するのでもよい。
複数の領域16において、ファンが共用されるのでもよく、たとえば、抵抗体24およびダンパー27との組み合わせにより、各領域16において境界層の適切な吸い込みが可能である限り、複数の領域16すべてについて、ファンを共用するのでもよい。
【0044】
ジェット気流MFが車両Vの下面LSと床面との間のスペースを車両Vの前後方向に流れる際に発生する車両Vの下面LSと床面との間のスペースの車両前後方向の静圧分布を調整可能な静圧分布調整手段を有し、静圧分布調整手段は、車両Vの下面LSと床面との間のスペースと、床面下方の吸い込みダクト14内の静圧差を調整可能な静圧差調整手段32をさらに有する。
【0045】
静圧差調整手段32は、吸い込みダクト14を車両の前後方向に仕切る複数の仕切り板22と、仕切り板22により仕切られる吸い込みダクト14の各領域に対応する境界層吸い込み面12に設ける抵抗体24とに構成される。
実走行の車両において、ジェット気流MFが車両Vの下面LSと床面との間のスペース内に前後方向に静圧分布が生じるところ、境界層吸込みに起因して、走行模擬車両においては、このような前後方向静圧分布から乖離する。より詳細には、仕切り板22により仕切られた各領域において、境界層吸い込み面12を介する吸い込み気流の風速ムラおよび/または流れ方向ムラが、スペース内の前後方向静圧分布に影響を及ぼすことから、車両Vの下面LSと床面との間のスペース内の静圧と、吸い込みダクト14内の静圧との差を調整することにより、このような吸い込み気流の風速ムラおよび/または流れ方向ムラを低減し、以て、走行模擬車両における車両Vの下面LSと床面との間のスペース内の前後方向の静圧分布を、実走行のそれに近似させるために、静圧分布調整手段を設けるものであり、静圧分布調整手段は、ジェット気流が車両Vの下面LSと床面との間のスペースを車両Vの前後方向に流れる際の、車両Vの下面LSと床面との間のスペースの静圧と、床面下方の吸い込みダクト14内の静圧との静圧差を調整可能な静圧差調整手段32を有し、そのために、車両下面と床面との間のスペースの第1静圧を測定する第1静圧測定手段と、床面下方の吸い込みダクト14内の第2静圧を測定する第2静圧測定手段とを有する。
静圧差調整手段32は、具体的には、抵抗体24の抵抗係数を異ならせたり、同抵抗係数または異なる抵抗係数のものを積層させて構成する。
【0046】
複数の抵抗体24を積層するのに、同じ開口率の抵抗体24を用いる場合には、各抵抗体24の孔の中心をずらして積層することにより、全体的な開口率の調整が可能であり、異なる開口率の抵抗体24を用いる場合には、孔径が大で、強度を厚みにより確保した多孔体と、孔径が小さい軽量な金網との積層でもよい。
いずれの場合においても、車両Vの下面と床面FLとの間のスペースの静圧分布が車種によって異なる場合に備えて、基本となる抵抗体24を固定設置し、取り外し可能に、調整用抵抗体24を追加積層するのでもよい。
【0047】
境界層制御方法としては、上述の境界層制御装置10を用いて、風洞内に発生するジェット気流MFを風洞外の測定室109に配置される静止車両Vに向かって吹き出し、走行模擬する場合において、
車両を配置しない状態で、ジェット気流MFの速度を変えながら、車両V設置エリアに生じる境界層の厚みを各領域16に対応する境界層吸い込み面12の部分において測定する段階と、
測定した境界層の厚みに基づいて、境界層吸い込み面12における吸い込む風速ムラを低減するように、各領域16において、抵抗係数および/または境界層の吸い込み量を調整する段階と、
各領域16において境界層の吸い込み量を調整した状態で、風洞内に発生するジェット気流MFを風洞外の測定室109に配置される静止車両Vに向かって吹き出し、車両Vまわりの風速分布を測定し、各種試験を行う。
より詳細には、さらに、車両Vの前後方向の各位置の車両下面と床面FLとの間の静圧と、吸い込みダクト14内静圧とを測定する段階と、
および/またはジェット気流MFの風速に応じて吸込み風量を調整しながら、抵抗体22の各々の抵抗係数を調整する段階とを有し、
それにより、吸い込みダクト14内の静圧を車両下面と床面FLとの間の静圧よりも低くする。
【0048】
吸い込み手段における最大吸い込み量については、境界層内の速度勾配が急激であることから、境界層厚さ、境界層吸い込み面の幅(車両の幅方向)、および主流であるジェット気流MFの流速により、安全率を考慮して設定すればよい。
このような最大吸い込み能力を具備する吸い込み手段を用いる際、仕切板により仕切られた各領域において、各領域における境界層吸い込み面の面積に応じて、境界層吸い込み面における吸い込み気流の流速(面風速)が定まるところ、境界層吸い込み面の面積が過小であると、吸い込み気流の流速が過大となり、それにより、車両下面と床面との間のスペースにおいて、各領域に対応する部分の静圧が高くなり、実走行の車両V周囲の静圧場から乖離することになるので、仕切板により仕切られた各領域の車両前後方向の長さは、このような影響がない程度に確保するのが好ましい。
【0049】
また、車両前部側の境界層吸い込み面12では、車両後部側および/または車両中央部の境界層吸い込み面12よりも、抵抗体24の選択により、流れ抵抗を大きく設定するのがよい。これにより、車両前部側の境界層吸い込み面12では、車両後部側に比べて、静圧が低いので、場合により、吸い込みダクト内から床面FLと車両Vの下面LSとの間のスペースへ逆流が発生するところ、このような逆流を抑制し、境界層吸い込み面12の前後方向における吸い込み風速ムラを低減することが可能である。
さらに、車両後部側の境界層吸い込み面12では、車両前部側および/または車両中央部の境界層吸い込み面12よりも、吸い込み量を小さく設定するのがよい。これにより、車両Vの後部での風の吹き上がり現象を再現しやすくすることが可能である(
図6参照)。
【0050】
このような境界層制御方法によれば、実際の試験設備における実測値に基づいて、境界層の厚みを測定するので、たとえば、数値シミュレーションまたは平板に沿う層流の理論式に基づいて境界層の厚みを決定するのに比べて、実設備では施工精度に伴う境界の厚みがシミュレーションや理論式よりも厚くなることから、より精緻に境界層の制御を行うことが可能であり、走行模擬車両を用いた試験目的に応じて、ジェット気流MFの速度の変動範囲を決定すればよい。
【0051】
以上、風洞は、風洞内に生じさせるジェット気流MFを吹出口を通じて、風洞外の測定室109に配置される車両Vに向かって吹き出す際に、ジェット気流MFの主流が床面FL側で発生する境界層を床面FLに対してほぼ鉛直下方に吸込み可能である限り、風洞は、回流式または吹き流し式でよい。
【0052】
次に、境界層吸い込み面12R1、12R2(右前輪側)、および境界層吸い込み面12L1、12L2(左前輪側)について、説明する。
なお、境界層吸い込み面12R1、12R2(右前輪側)、および境界層吸い込み面12L1、12L2(左前輪側)それぞれには、境界層吸い込み面12Aと同様に、対応する吸い込みダクトに、境界を吸い込む吸い込み手段、吸い込み量調整手段、および静圧分布調整手段が設けられている。
ダイナモローラー38の周縁と開口36の周縁との間には、所定隙間が設けられ、ダイナモ設置室39と車両Vの下面LSと床面FLとの間の静圧差によりダイナモ設置室39側からの流入空気によって発生する連行気流は、主として、所定隙間を通じて、特に、ダイナモローラ―の各端面と対応する開口36の周縁との間の隙間を通して、車両Vの下面LSと床面FLとの間のスペースに及ぶ。
この場合、車両Vの下面LSに対向する床面FLにおいて、ダイナモローラー38の開口36の後方の所定位置に、境界層吸い込み面12が位置するように、境界層制御装置10を設け、境界層制御装置10の境界層吸い込み手段18が、ダイナモローラー38の回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室39と車両Vの下面LSと床面FLとの間の静圧差によりダイナモ設置室39側からの流入空気によって発生する連行気流が、開口36を通じて、車両Vの下面LSと床面FLとの間スペースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段を兼ねるのが好ましい。
【0053】
境界層吸い込み面12R1、12R2(右前輪側)、および境界層吸い込み面12L1、12L2(左前輪側)は共通であるので、その1つについて、説明すれば、
ダイナモローラー38の開口36の後方の所定位置の境界層吸い込み面12は、車両Vの前輪FWに対応するダイナモローラー38の開口36に対して設けられる。
ダイナモローラー38の開口36の後方の所定位置の境界層吸い込み面12は、車両の右前輪および左前輪に対応して、一対(12Rおよび12L)設けられ、それぞれ車両Vの一対の前輪FW各々に対応するダイナモローラー38の開口36の後方で、車両Vの前後方向に延びる。境界層吸い込み面12Rおよび12Lそれぞれにおいて、対応する開口36の車両V前後方向に沿う内縁部35および外縁部37それぞれに対応して、境界層吸い込み面12R2および12L1、境界層吸い込み面12R1および12L2が設けられる。
開口36の車両Vの幅方向の両側に配置される境界層吸い込み面12R1、12R2(右前輪側)、および境界層吸い込み面12L1、12L2(左前輪側)は、大きさおよび内部構造が共通である。
【0054】
ダイナモローラー38の開口36は、矩形開口であり、ダイナモローラー38の開口36の後方の所定位置の境界層吸い込み面12は、矩形状であり、ダイナモローラー38の各端面と開口36の対応する車両V前後方向に沿う縁部との間には、所定隙間が設けられ、ダイナモ設置室39と車両V下面と床面との間の静圧差によりダイナモ設置室39側からの流入空気によって発生する連行気流は、主として、該所定隙間を通じて、車両V下面と床面との間のスペースに及び、境界層吸い込み面12は、開口36の車両V前後方向に沿う縁部を跨ぐように位置決めされる。
より具体的には、開口36の後方の所定位置に位置決めされる境界層吸い込み面12の車両V幅方向の幅は、開口36の車両V幅方向の幅より狭く、開口36の後方の所定位置に位置決めされる境界層吸い込み面12は、開口36の対応する車両V前後方向に沿う内縁部35および外縁部37を跨ぐように位置決めされる。境界層吸い込み面12R1と12R2との間隔、および境界層吸い込み面12L1と12L2との間隔は、車輪幅に対応する幅であるのがよく、境界層吸い込み面12R1および12R2それぞれは、外縁部37および内縁部35を中心軸線として、車両幅方向に広がるのがよい。
これにより、ダイナモローラー38の各端面と開口36の対応する車両V前後方向に沿う縁部との間の所定隙間を通じて車両V下面と床面との間のスペースに及ぶ連行気流に対して、有効に吸い込み機能を奏することが可能となる。
境界層吸い込み面12Rおよび境界層吸い込み面12Lはそれぞれ、境界層吸い込み面12Aとは異なり、車両の前後方向に、仕切板22を設けず、抵抗体24は境界層吸い込み面12Aで採用の抵抗体24と同じものを用いる。車両Vの下面と床面FLとの間のスペースの気流をより精緻に模擬する場合には、
図5と同様に、適宜、車両の前後方向に、仕切板22を設けるとともに、静圧差に応じた異なる抵抗体24を設置するのでもよい。
変形例として、境界層吸い込み面12Rの内縁部35の境界層吸い込み面12R2と、境界層吸い込み面12Lの内縁部35の境界層吸い込み面12L1とは、同じ大きさおよび/または同じ抵抗体24、境界層吸い込み面12Rの外縁部37の境界層吸い込み面12R1と、境界層吸い込み面12Lの外縁部37の境界層吸い込み面12L2とは、同じ大きさおよび/または同じ抵抗体24とするが、内縁部35の境界層吸い込み面と、外縁部37の境界層吸い込み面とにおいて、大きさおよび/または抵抗体24とを異ならせるのでもよい。
さらなる変形例として、車輪の向きを変えてコーナー走行を静止車両Vにより模擬する場合、左右車輪が異なる回転数となることから、車輪と同角度にダイナモローラー38とダイナモローラー38の後方の境界吸込み面12の設置向きを移動可能とすることを前提に、内縁部35の境界層吸い込み面12R2と内縁部35の境界層吸い込み面12L1とにおいて、異なる吸込み量、および外縁部37の境界層吸い込み面12R1と外縁部37の境界層吸い込み面12L2とにおいて、は異なる吸込み量をそれぞれ設定してもよい。
なお、さらなる変形例として、境界層吸い込み面12Rおよび境界層吸い込み面12Lそれぞれについて、開口36の車両Vの幅方向の両側に配置される境界層吸い込み面12R1、12R2(右前輪側)、および境界層吸い込み面12L1、12L2(左前輪側)を設けずに、単一な境界層吸い込み面として構成し(
図12参照)、内縁部35および外縁部37を跨ぐように、車両Vの幅方向に、車両の一対の前輪各々に対応するダイナモローラー38の開口36に亘って延びるようにしてもよく、車両Vの幅方向に静圧分布が生じる場合には、車両Vの幅方向に間隔を隔てて仕切板22を設けるのがよい。
なお、ダイナモローラー38の開口36に対応するダイナモ設置室39と、その後方の所定位置の境界層吸い込み面12に対応する吸い込みダクトとは、床面の下方に設けられる別個のスペースであるが、変形例として、単一のスペースとして設け、車種に応じて車両Vの前後方向に可動な仕切板により仕切られるのでもよい。
【0055】
図4に示すように、開口36に対応するダイナモ設置室39と、境界層吸い込み面12Rおよび12L各々に対応する吸い込みダクト14とは、連通せずに、互いに仕切られているが、境界層吸い込み面12Rおよび12L各々の前縁と開口36の後縁との間の間隔は、上述のように、境界層吸い込み手段18が、連行気流抑制手段を兼ねるのが可能な観点から定めるのがよい。
たとえば、車輪FWの回転を停止した試験の場合には、ダイナモローラー38を回転させないことから、ダイナモローラー38の回転に伴う連行気流は発生しないが、ダイナモ設置室39と車両Vの下面LSと床面FLとの間の静圧差により、静圧が高いダイナモ設置室39側からダイナモローラー38のローラー端面と開口36との隙間を介する流入空気による連行気流が発生し、車両Vの下面LSと床面FLとの間の気流を大きく乱す場合があり、この場合には、境界層吸い込み面12Rおよび12Lが、特に有効に機能し、車両Vの下面LSと床面FLとの間の境界層を吸い込むとともに、このような流入空気を吸い込みダクト14内へ吸い込み可能とし、車両Vの下面LSと床面FLとの間の気流の乱れを抑制することも可能となる。
【0056】
以上の構成を有する走行模擬試験設備100によれば、風洞内に吹き出し口に向かって、たとえば送風機によりジェット気流を吹き出し口の下流に配置された車両Vに向かって吹き出すとともに、車両Vの車輪WHをダイナモローラー38上に載置した状態で、ダイナモローラー38を回転駆動することにより、走行模擬する際、ジェット気流の主流に対して、車両Vの下面と床面FLとの間には、境界層が生じるところ、車両Vが覆うように上方に配置される境界層吸い込み面12を通じて、境界層吸い込み面12に臨む吸い込みダクト14内に、境界層を吸い込む吸い込み手段により、境界層を吸い込むことが可能であり、この場合、静圧分布調整手段により、ジェット気流が車両V下面と床面FLとの間のスペースを車両Vの前後方向に流れる際に発生する車両V下面と床面FLとの間のスペースの車両V前後方向の静圧分布を調整可能であることから、ジェット気流が車両V下面と床面FLとの間のスペースを車両Vの前後方向に流れる際、床面FL近傍の境界層を吸い込むのに、境界層の吸い込みに起因して、実走行で発生する車両V下面と床面FLとの間のスペースの車両V前後方向の静圧分布から乖離するのを抑制可能であるとともに、境界層吸い込み面12を車両Vの下面に対向する床面FLにおいて、ダイナモローラー38の開口36の後方の所定位置に位置決めすることにより、境界層吸い込み手段が、ダイナモローラー38の回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室39と車両V下面と床面FLとの間の静圧差によりダイナモ設置室39側からの流入空気によって発生する連行気流が、開口36を通じて、車両V下面と床面FLとの間のスペースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段を兼ねるように構成することから、車両Vの下面と床面FLとの間のスペースと吸い込みダクト14内との静圧差に起因する車両Vの下面と床面FLとの間のスペースを流れる気流の乱れ、および車両Vの下面と床面FLとの間のスペースとダイナモ設置室39内との静圧差に起因する連行気流による車両Vの下面と床面FLとの間のスペースを流れる気流の乱れを一挙解決することにより、車両V下面と床面FLとの間のスペースにおいて、車両Vの前後方向に、実走行と異なる風速分布および/または流れ方向が生じたり、吸い込みダクト14内から車両V下面と床面FLとの間のスペースへの逆流を抑制することが可能であり、以て、走行模擬車両Vを用いて、実走行に近似した精緻な試験を行うことが可能となる。
【0057】
以上の構成を有する走行模擬設備34について、以下に、走行模擬設備34を用いる走行模擬方法として、その作用を説明する。
走行模擬設備34を用いる走行模擬方法は、概略的には、風洞T外の測定室109の床面FLに設けられた開口36から外周面40が臨むダイナモローラー38に、車両Vの車輪WHを載置する段階と、開口36とダイナモローラー38の周縁との間の隙間Cを狭める段階と、
風洞T内でジェット気流MFを車両Vの前方から後方に向けて流しつつ、ダイナモローラー38の回転により車輪WHを回転させる車両Vの走行模擬段階とから構成され、隙間Cを狭める段階は、連行気流抑制手段21により実現可能である。
この場合、隙間を狭める段階は、連行気流抑制手段21を用いて行うが、連行気流抑制手段21は、取り外し式または可動式であり、車輪WHが対応する開口36に位置決めされるように、車両Vを床面FL上で移動する際は、連行気流抑制手段21を取り外し、または可動として、車両Vの移動後に、取り付ける段階を有するのがよい。
【0058】
より詳細には、風洞T外の測定室109で、車両Vの前方から後方に向かって、床面FLから少なくとも車高までの高さに亘って、ジェット気流MFを送りつつ、ダイナモローラー38の開口36から臨む上部外周面に、車両Vの車輪WHを載置した状態で、ダイナモローラー38を回転駆動することにより、静止車両Vにより、車両Vの走行を模擬することが可能である。
その際、ダイナモローラー38の回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室39と車両Vの下面LSと床面FLとの間の静圧差によりダイナモ設置室39側からの流入空気によって発生する連行気流が、不可避的に発生し、車両Vの下面LSと床面FLとの間のスぺース内で風洞T外の測定室109のジェット気流MFが乱されるところ、開口36とダイナモローラー38の周縁との間の隙間Cに連行気流抑制手段21を設けることにより、および/または、ダイナモローラー38の開口36の後方の所定位置に、境界層吸い込み面12が位置するように境界層制御装置10を設けることにより、このような連行気流が床面FLの開口36を通じて、車両V下面LSと床面FLとの間のスぺースに及ぶのを抑制することが可能であり、以て、車両Vの走行に応じて生じる風速を模擬する風洞T内のジェット気流MFが車両Vの下面LSと床面FLとの間のスぺース内で乱されることを低減することが可能である。
【0059】
それにより、実走行を模擬した燃費、電費(EV車)、エアコン試験、熱マネージメント試験、吹雪試験、雨試験等の各種試験を行うのに、電気自動車の下面LSと路面との間のスペース内において、ダイナモローラー38の回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室39と車両Vの下面LSと床面FLとの間の静圧差によりダイナモ設置室39側からの流入空気によって発生する連行気流により乱れることなく、車両Vの前方から後方へ通過する気流を精確に模擬し、放熱試験の信頼性を確保することが可能となる。
なお、車両Vが四輪駆動の場合には、ダイナモローラー38を利用して、前輪FWおよび後輪RWを同時に回転させることから、各車輪WHに対応する開口36に対して、連行気流抑制手段21を適用するのがよいが、車両VがFFまたはFRの場合には、 駆動されない後輪RWまたは前輪FWに対応する開口36に対しては、ダイナモローラー38を利用する必要がなく、車両Vの床下気流を重視する試験の場合には、開口36とダイナモローラー38とを一体で移動したり、開口36に蓋をするのがよい。
【0060】
走行模擬速度が設定されると、それに応じて、ダイナモローラ―の回転数および風洞内に発生させるべきジェット気流速度が定められ、ジェット気流速度に応じて、境界層の厚みが定まり、境界層制御装置10による境界層吸い込み量が設定される一方、連行気流がダイナモローラ―の回転数により発生する場合には、ダイナモローラ―の回転数に応じて、連行気流の吸い込み量が定められ、ダイナモ設置室39と車両下面LSと床面FLとの間の静圧差によりダイナモ設置室39側からの流入空気によって発生する連行気流の場合には、ジェット気流速度により定められるところ、一対の前輪FW間に設けられる領域16、あるいは、一対の後輪RW間に設けられる領域16における境界層吸い込み量は、車両の前後方向に隣接する走行模擬設備34による連行気流により影響を受けやすいことから、設定されるダイナモローラ―の回転数に応じて、各領域を仕切り仕切り板の車両前後方向位置を微調整するのでもよい。
【0061】
本出願人は、境界層制御装置による境界層吸い込み効果を確認するために、以下に示す流動解析数値シミュレーションを行った。
コンピューターによる数値シミュレーション用の3次元モデルを
図7に示す。
流動解析ソフトは、市販されているFluent (version 19.2)である。
図7および
図12に示すように、床面に配置される車両、前輪および後輪、および吸い込みダクトをモデル化しており、吸い込みダクトは、各前輪の下方に設置するダイナモローラ―用開口の後方(12Fおよび12G)、および一対の前輪の間と一対の後輪の間を延びるスペース(12A)、および一対の前輪の前部と一対の後輪の後部とをカバーする各車輪と境界層吸い込み面の縁との間のスペースに設置され、車両の前後方向に延びる中心線に関して軸対称であることから、車両の前後方向に延びる中心線に関して、一方の側のみをモデル化している。
ダイナモローラ―用開口の後方の吸い込みダクト(12Fおよび12G)の有無、ダイナモローラ―用開口における連行気流抑制手段の有無、一対の前輪の間と一対の後輪の間を延びる中央部の吸い込みダクト(12A)の有無および仕切りの有無、境界吸い込み面における抵抗体の有無、および各区画における吸い込み量をパラメータとしている。
床面に配置される車両に向かって、前後方向に流れる気流を前提に、吸い込みダクトから空気を吸い込む点を模擬している。
シミュレーション結果として、車両まわりの静圧分布の側面図を
図8および
図9、車両まわりの風速分布の側面図を
図10および
図11、車両下面の風速分布の平面図を
図13ないし
図15に示す。
【0062】
図13は、ダイナモローラ―用開口の後方の吸い込みダクト(12Fおよび12G)なし、ダイナモローラ―用開口における連行気流抑制手段なし、および一対の前輪の間と一対の後輪の間を延びる中央部の吸い込みダクト(12A)なしの場合の車両下面の風速分布を示す。
図13によれば、各前輪の後方エリアの風速の低いゾーン(青色)の両側において後方に向かう風速の低いゾーン(緑色)が形成されており、これが連行気流を示す。
【0063】
それに対して、
図8、
図10および
図14は、ダイナモローラ―用開口の後方の吸い込みダクト(12Fおよび12G)有り、ダイナモローラ―用開口における連行気流抑制手段有り、および一対の前輪の間と一対の後輪の間を延びる中央部の吸い込みダクト(12A)における仕切りなしで、境界吸い込み面は同じ抵抗係数の抵抗体の場合を示す。
図8に示すように、車両下面に対向する床面の下方に、車両の前部から後部に亘って吸い込みダクトを設ける場合には、車両下面と床面との間のスペース内において、車両前後方向の中央部あたりの境界層吸い込み面には、スペース内の他の部位に比べて静圧の低い部分が存在する。
このような静圧の低い部分の存在により、車両下面と床面との間のスペース内静圧と、対応する床面下方の吸い込みダクト内の静圧との差が、車両前後方向の位置により、異なる。それにより、
図10に示すように、境界層吸込み面における吸込み気流の風速ムラが生じ、このために車両下面と床面との間のスペース内の気流に実走行と異なる風速分布および/または流れ方向が引き起される。このような風速分布および/または流れ方向が発生している状態では、床面近傍の境界層吸い込みはなされるとしても、静止車両による走行模擬した精緻な試験を行うことが困難である。
図14によれば、ダイナモローラー開口の隙間に設けた連行流抑制、およびダイナモローラー開口の後方に設けた連行流抑制兼境界層吸込みにより、各前輪の後方エリアの風速の低いゾーン(青色)の両側において後方に向かう風速の低いゾーン(緑色)が風速の高いゾーン(黄色)に変わっている。一方、車両前後方向の中央部の気流は、境界層吸込みの未設定による実走行と異なる風速分布および/または流れ方向が引き起される状態となっている。
【0064】
それに対して、
図9、
図11および
図15は、ダイナモローラ―用開口の後方の吸い込みダクト(12Fおよび12G)有り、ダイナモローラ―用開口における連行気流抑制手段有り、および一対の前輪の間と一対の後輪の間を延びる中央部の吸い込みダクト(12A)における仕切り有りで、各区画に対応する境界層吸い込み面に、所与抵抗係数の抵抗体を設ける場合を示す。
図9に示すように、12Aにおいて、車両下面に対向する床面の下方に、車両の前部から後部に亘って吸い込みダクトを設け、吸い込みダクトを車両の前後方向に仕切る(5区画)とともに、12Gおよび12Fも含め、吸い込み量を設定し、各区画に対応する境界層吸い込み面に、所与抵抗係数の抵抗体を設ける場合には、車両下面と床面との間のスペース内静圧は、境界層吸い込み面近傍に亘って車両の前後方向に一様に、区画それぞれのダクト内静圧よりも高い状態が明示され、車両前後方向の中央部あたりの境界層吸い込み面には、静圧の低い部分が解消されている点が明示されている。
よって、
図11に示すように、車両下面と床面との間のスペース内の気流に実走行と異なる風速分布および/または流れ方向が発生するのが抑制され、床面近傍の境界層吸い込みを行うことにより、静止車両による走行模擬した精緻な試験を行うことが可能となる。
図15によれば、境界層吸込み設定の適正化により、各前輪の後方エリアの風速の低いゾーン(青色)の両側において後方に向かう風速の低いゾーン(緑色)が風速の高いゾーン(赤、橙色)に変わっている。
よって、境界層吸込み設定の適正化により、実走行と異なる風速分布および/または流れ方向が発生するのが抑制され、床面近傍の境界層吸い込みを行うことにより、静止車両による走行模擬した精緻な試験を行うことが可能となる。
【0065】
以上のシミュレーション結果によれば、車両の前後方向長さおよび/またはジェット気流の風速に応じて、吸い込みダクトを車両の前後方向に仕切り方法(区画数)および/または各区画に対応する境界層吸い込み面に設ける抵抗体の抵抗係数を調整することにより、床面近傍の境界層を吸い込む際、境界層吸い込み面における、吸い込み気流の風速ムラおよび/または方向ムラに起因する、車両下面と床面との間のスペース内の気流に実走行と異なる風速分布および/または流れ方向の発生が抑制可能である点が示されるとともに、ダイナモローラーの開口の後方の所定位置に位置決めされる境界層吸い込み面が、ダイナモローラーの回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室と車両下面と床面との間の静圧差によりダイナモ設置室側からの流入空気によって発生する連行気流が、開口を通じて、車両下面と床面との間のスペースに及ぶのを抑制する点が示されている。
【0066】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱しない範囲内において、当業者であれば、種々の修正あるいは変更が可能である。
たとえば、本実施形態においては、車両Vの一対の前輪FWそれぞれに対応する開口36の後方に、開口36の車両Vの幅方向の両側に配置される境界層吸い込み面12R1、12R2(右前輪側)、および境界層吸い込み面12L1、12L2(左前輪側)を設けるものとして説明したが、それに限定されることなく、境界層吸い込み手段が、開口36を通じて、車両下面と床面との間のスペースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段を兼ねることが可能である限り、境界層吸い込み面12R1、12R2のいずれか一方、境界層吸い込み面12L1、12L2のいずれか一方でもよく、一方の前輪には、いずれか一方、他方の前輪には、両方設けるのでもよい。
たとえば、本実施形態においては、各車輪に対してダイナモが床面下方に配置されているものとして説明したが、ダイナモが床面下方でなく、測定室内の床面よりも上部に設置される場合もあり、この場合には、ダイナモローラーによりダイナモを回転することにより、車輪が回転するのでなく、ダイナモがタイヤの回転軸と直結となることから、境界層吸込み面は、ダイナモローラーが無いので、各車輪を外したエリアに配置されることになる。
たとえば、本実施形態においては、境界層制御装置において、吸い込みダクトの仕切られた各領域において、境界層の吸い込み量を制御するのに、境界層吸い込み面に設ける抵抗体、吸い込む管に設けるダンパー27、吸い込みに利用する送風機の回転数または送風機内のダンパー27、いずれかを調整することにより行うものとして説明したが、各領域において、主流に阻害が生じないように境界層を適切に吸い込み可能である限り、各領域において、たとえば、ある領域は境界層吸い込み面に設ける抵抗体、別の領域は吸い込む管に設けるダンパー27等、異なる調整方法を用いてもよく、また、同じ領域において、境界層吸い込み面に設ける抵抗体、および送風機の回転数等の複数の調整方法を用いてもよい。
【0067】
たとえば、本実施形態においては、境界層制御装置において、風洞の吹き出し口106直下流に設ける第2境界層制御装置10Bと、測定部に配置する車両の下方に設ける第1境界層制御装置10Aとを同時に駆動するものとして説明したが、これに限定されることなく、主流に阻害が生じないように境界層を適切に吸い込み可能である限り、たとえば、第1境界層制御装置10Aのみを駆動して、第2境界層制御装置10Bを休止したり、第1境界層制御装置10Aを停止して、第2境界層制御装置10Bのみを駆動したり、第1境界層制御装置10Aにおいて、各領域中、車両後部側のみを駆動したりするものでもよい。たとえば、風洞設備を利用して、車両に対して吹雪を模擬して、吹き付け試験を行う場合、境界層制御装置の吸い込みダクト内に境界層吸い込み面を介して、境界層を吸い込もうとすると、吹雪を吸い込むことにもなり、吹雪が境界層吸い込み面および/または吸い込む管内に付着して、面または管を閉鎖する自体が生じ得ることから、風洞の吹き出し口106直下流に設ける第2境界層制御装置10Bのみ駆動し、測定部に配置する車両の下方に設ける第1境界層制御装置10Aを停止、または、第1境界層制御装置10A中、車両後部側の領域のみを停止することにより、このような事態を防ぐのに有効である。
【0068】
たとえば、本実施形態においては、境界層制御装置により、主流に阻害が生じないように境界層が適切に吸い込む際、風洞設備において、設定走行模擬速度に基づく所定ジョット気流速度のもとで、実際に発生する境界層の厚みを測定し、その測定結果に基づき、境界層制御装置による境界層吸い込み量を調整するものとして説明したが、これに限定されることなく、主流に阻害が生じないように境界層を適切に吸い込むことが可能である限り、実際の測定でなく、平板上の層流の理論式、または、流動モデルによる数値シミュレーション解析を利用するのでもよい。
【0069】
たとえば、本実施形態においては、風洞設備において車両の走行を模擬する場合、設定する走行模擬速度に基づいて、風洞内に発生させるジェット気流速度を設定し、設定したジェット気流速度に応じて、境界層制御装置により、境界層吸い込み量を定めるものとして説明したが、これに限定されることなく、主流に阻害が生じないように境界層が適切に吸い込み可能である限り、同種車両の走行模擬をする場合、境界層吸い込み面に設ける抵抗体、吸い込む管に設けるダンパー27、吸い込みに利用する送風機の回転数または送風機内のダンパー27として同じ境界層吸い込み量調整方法による限り、予め走行模擬速度と境界層吸い込み量とをデータベース化しておくのでもよい。
【0070】
たとえば、本実施形態においては、一つ車輪に対応する開口36の上流縁および下流縁に適用する連行気流抑制手段21は、同じであるものとして説明したが、これに限定されることなく、上流側がブラシ、下流側がブラシ、上流側が連行気流堰き止め部材、下流側がブラシでもよく、あるいは、一つの車輪の上流縁に複数の抑制手段を設置する、たとえば、ブラシと連行気流堰き止め部材とを同時に併用するのでもよく、一つの車輪の下流縁に複数の抑制手段を設置する、たとえば、ブラシとエゼクターとを同時に併用するのでもよい。
【0071】
たとえば、本実施形態において、車両V下面LSと床面FLとの間のスぺースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段21を設定したら、それに基づき、走行模擬する車両Vを用いて、性能試験、環境試験、耐久試験等を行うものとして説明したが、走行模擬する際、模擬走行速度に応じてダイナモローラー38の回転数、および風洞T内のジェット気流MFの速度が変動するところ、ダイナモローラー38の回転数に応じて、たとえば、第1実施形態の平板の位置または大きさを調整し、隙間を塞ぐ度合いを調整してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【
図1】本発明の実施形態に係る風洞設備の全体概略図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る風洞設備の測定部の平面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る風洞設備の測定部の境界層吸い込み面まわりの部分詳細側面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る風洞設備の境界層吸い込み面の配置を示す平面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る風洞設備の測定部の境界層制御装置の詳細部分側面図である。
【
図6】風洞設備の測定部に配置される車両の下面と床面、および車両後部における気流を示す概略説明図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る風洞設備の測定部の境界層制御装置において、車両まわりの静圧分布および風速分布の数値シミュレーション用の3次元モデル図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る風洞設備の測定部の境界層制御装置において、境界層吸い込みダクトを設ける場合の車両まわりの静圧分布のシミュレーション結果を示す側面図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る風洞設備の測定部の境界層制御装置において、境界層吸い込みダクトを複数の領域に分け、各区画の境界層吸い込み面に所与抵抗係数の抵抗体を設ける場合の車両まわりの静圧分布のシミュレーション結果を示す側面図である。
【
図10】
図8における風速分布を示す側面図である。
【
図11】
図9における風速分布を示す側面図である。
【
図12】
図7の3次元モデル図における境界層吸い込み面の配置を示す平面図である。
【
図13】ダイナモローラ―用開口の後方の吸い込みダクトなし、ダイナモローラ―用開口における連行気流抑制手段なし、および一対の前輪の間と一対の後輪の間を延びる中央部の吸い込みダクトなしの場合の車両下面の風速分布を示す平面図である。
【
図14】
図8における車両下面の風速分布を示す平面図である。
【
図15】
図9における車両下面の風速分布を示す平面図である。
【符号の説明】
【0073】
V 車両
T 風洞
WH 車輪
RW 後輪
FW 前輪
W 幅方向
B1,B2 連行気流
C 隙間
LS 下面
FL 床面
MF ジェット気流
SW 渦
10A 第1境界層制御装置
10B 第2境界層制御装置
12 境界層吸い込み面
14 吸い込みダクト
16 複数の領域
18 吸い込み手段
20 吸い込み量調整手段
21 連行気流抑制板
22 仕切板
24 抵抗体
26 吸い込み管
27 ダンパー
29 送風機
30 インバータ
32 静圧差調整手段
34 走行模擬設備
36 開口
38 ダイナモローラー
39 ダイナモ設置室
23 最上部
24 上流側縁
28 下流側縁
35 センタリングパイプ
100 走行模擬試験設備
101 ファン
102 整流洞
103 送風路
104 縮流洞
105 コーナーベーン
106 吹出し口
107 流入部
108 流入口
109 測定室
【要約】
【課題】風洞内で発生させる気流を静止車両の前方から後方に向けて流しつつ、ダイナモローラーの回転により車輪を回転させる車両の走行模擬において、床面に生じる境界層の吸い込みによる弊害、および、ダイナモローラーを原因として車両の下面と床面との間のスペースに向かう連行気流の抑制を一挙解決することにより、車両の下面と床面との間のスペースを流れる気流の乱れを低減することが可能な走行模擬試験設備100を提供する.
【解決手段】静止車両Vを走行模擬する走行模擬試験設備100であって、
走行模擬試験設備100は、風洞内で発生させるジェット気流を静止車両Vに吹き付ける風洞設備と、静止車両Vの車輪を回転駆動する走行模擬設備34とを有し、
該走行模擬設備34は、各車輪WH下方の床面FLに配置され、
床面FLに設けられた開口36と、
該開口36に対して、非接触式に回転可能に設けられる円筒状ダイナモローラー38と、
該ダイナモローラー38を円筒の中心軸線を中心に回転駆動する回転駆動手段とを有し、
該ダイナモローラー38は、円筒の中心軸線が床面FL下方に位置するように配置され、
前記ダイナモローラー38の前記開口36から臨む外周面に、車両Vの車輪WHを載置した状態で、前記ダイナモローラー38を回転駆動することにより、車両Vの走行を模擬し、
さらに、前記走行模擬設備の後方に、境界層制御装置10が設けられ、
該境界層制御装置10は、
車両V下面と床面FLとの間のスペース内に生じるジェット気流の境界層を吸い込み可能なように、車両Vが覆うように上方に配置される境界層吸い込み面12が床面FLに設けられ、
床面FLの下方には、該境界層吸い込み面12に臨む吸い込みダクト14が設けられ、
該境界層吸い込み面12を介して、境界層を吸い込む吸い込み手段と、吸い込み手段により吸い込む境界層の吸い込み量を調整する吸い込み量調整手段とを、有し、
さらに、ジェット気流が車両V下面と床面FLとの間のスペースを車両Vの前後方向に流れる際、該吸い込み量調整手段により調整された吸い込み量に基づいて、該吸い込み手段により境界層を吸い込むことに起因して発生する車両V下面と床面FLとの間のスペースの車両V前後方向の静圧分布を調整可能な静圧分布調整手段を有し、
前記境界層吸い込み面12は、車両Vの下面に対向する床面FLにおいて、前記ダイナモローラー38の前記開口36の後方の所定位置に位置決めされ、
前記境界層制御装置10の前記境界層吸い込み手段が、前記ダイナモローラー38の回転によって発生する連行気流、および/またはダイナモ設置室39と車両V下面と床面FLとの間の静圧差によりダイナモ設置室39側からの流入空気によって発生する連行気流が、前記開口36を通じて、車両V下面と床面FLとの間のスペースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段を兼ねる、ことを特徴とする走行模擬試験設備100。
【選択図】
図1