(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】レーザ溶接方法及びレーザ溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20231206BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20231206BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20231206BHJP
【FI】
B23K26/21 F
B23K26/00 N
B23K26/082
(21)【出願番号】P 2020033623
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉野 友洋
(72)【発明者】
【氏名】松岡 修史
(72)【発明者】
【氏名】山崎 哲郎
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-171425(JP,A)
【文献】特開2019-141876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板同士をレーザ溶接により接合するレーザ溶接方法であって、
金属板間のギャップを跨ぐようにレーザ光をオシレートさせつつ前記ギャップに沿ってレーザ光を照射するに際して、
レーザ光が前記ギャップ上を
含むオシレート中間部を移動する際のレーザ光の出力を前記ギャップの一方側及び他方側で等しく設定し、前記ギャップの一方側のオシレート折り返し部
及び他方側のオシレート折り返し部
に近づくにつれてレーザ光の出力を
漸次低く
するべく設定するレーザ溶接方法。
【請求項2】
金属板同士をレーザ溶接により接合するレーザ溶接装置であって、
レーザ光を前記金属板間に照射するレーザヘッドと、
前記レーザ光を前記金属板間のギャップに沿って移動させるヘッド駆動機構と、
前記ギャップを跨ぐようにレーザ光をオシレートさせるオシレート機構と、
前記オシレート機構の角度及び前記レーザヘッドによるレーザ光の出力を制御する制御部を備えたレーザ溶接装置において、
前記制御部は、前記オシレート機構の動作に同期してレーザ出力を制御し、オシレートするレーザ光が前記ギャップ上を
含むオシレート中間部を移動する際のレーザ光の出力を前記ギャップの一方側及び他方側で等しくし、前記ギャップの一方側のオシレート折り返し部
及び他方側のオシレート折り返し部
に近づくにつれてレーザ光の出力を
漸次低く
するべく制御するレーザ溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば、板厚5mm程度の金属板同士を突き合わせてレーザ光の照射によって接合する際に用いられるレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記したような板厚5mm程度の金属板同士を突き合わせて接合する場合、金属板間にはギャップが否応なく生じる。このようなギャップがある金属板同士をレーザ光により接合する場合には、このギャップをなくすために、従来において、例えば、金属板間に向けて照射するレーザ光をオシレートさせるレーザ溶接方法が採用されている。
なお、ここで言う「ギャップ」とは、金属板間に生じる隙間のことであり、金属板間に意図して設ける『ルートギャップ(ルート間隔)』のことではない。
【0003】
すなわち、このレーザ溶接方法では、金属板間のギャップを跨ぐようにレーザ光を往復移動させつつレーザ光をギャップに沿って移動させることで、このギャップ付近における溶融領域を広げてギャップをなくすようにしている。なお、このレーザ溶接方法に類する方法が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、レーザ光をオシレートさせる従来のレーザ溶接方法において、レーザ光はそのスポット径が小さく且つエネルギ密度が高いことから、局所的に温度差が生じ、これにより生じるレーザ光照射部分とレーザ光非照射部分との間の大きな温度勾配等に起因して、オシレートするレーザ光の折り返し部(金属板間のギャップを跨いで往復移動するレーザ光の移動端部)において多量のスパッタが発生してしまうという問題を有しており、この問題を解決することが従来の課題となっている。
【0006】
本開示は、上記した従来の課題を解決するためになされたもので、板厚5mm程度の金属板同士を突き合わせてレーザ光の照射により接合する場合において、金属板間のギャップをなくすことができるのは勿論のこと、金属板間のギャップ及びその近傍に生じるスパッタを少なく抑えることが可能なレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで、オシレートするレーザ光の折り返し部において多量のスパッタが発生するメカニズムを
図4及び
図5を用いて考察する。
【0008】
図4の上側には金属板w,w間のギャップwaを横切る方向の部分拡大断面を示しており、この部分拡大断面から判るように、オシレートするレーザ光lには、一点鎖線で示す溶融池msが追従して移動する。
図4の下側に溶融池msの平面形状を模式的に示す。
【0009】
この溶融池ms内における溶融金属の進行方向(図示右方向)の流速v及び溶融池msの溶融深さdは、いずれもレーザ光lの出力Lpの大きさに伴って増減する。
したがって、
図5に示すように、折り返し部P1,P2間をレーザ光lの出力Lpを大きく保ったまま変化させずにオシレートさせると、溶融池msは、その溶融金属の流速v及び溶融深さdがいずれも大きいままの状態で、レーザ光lの折り返し部P2(
図4に斜線で示す部分(レーザ光非照射部分))に到達する。
【0010】
このように、レーザ光lの折り返し部P2におけるレーザ光lの出力Lpが大きい(レーザ光照射部分とレーザ光非照射部分との間の温度勾配が大きい)と、溶融金属に大きな慣性力が作用すること、レーザ光lが折り返す時点で溶融金属の深い部分に残される金属蒸気が冷えかかった溶融金属表面から一気に噴き出すこと、溶融池内部で発生した気化ガスの気泡が浮上して溶融池表面で破裂する際に付近の溶融金属を弾き飛ばすこと、及び、キーホールの溶接進行方向後方の溶融金属溜まりに生じている上向きの溶融金属の流れがレーザ出力や溶接速度を上げることで大きくなって、溶融金属溜まり表面の溶融金属が火花となって飛散することが相俟って、多量のスパッタsが発生すると考えられる。
【0011】
本開示者は、上記したように、レーザ光をオシレートさせるレーザ溶接において、レーザ光に追従して移動する溶融池内における溶融金属の流速及び溶融深さがレーザ出力の大きさに伴って増減することに着目して、本開示をするに至った。
【0012】
すなわち、本開示の第1の態様は、金属板同士をレーザ溶接により接合するレーザ溶接方法であって、金属板間のギャップを跨ぐようにレーザ光をオシレートさせつつ前記ギャップに沿ってレーザ光を照射するに際して、レーザ光が前記ギャップ上を含むオシレート中間部を移動する際のレーザ光の出力を前記ギャップの一方側及び他方側で等しく設定し、前記ギャップの一方側のオシレート折り返し部及び他方側のオシレート折り返し部に近づくにつれてレーザ光の出力を漸次低くするべく設定する構成としている
【0013】
一方、本開示の第2の態様は、金属板同士をレーザ溶接により接合するレーザ溶接装置であって、レーザ光を前記金属板間に照射するレーザヘッドと、前記レーザ光を前記金属板間のギャップに沿って移動させるヘッド駆動機構と、前記ギャップを跨ぐようにレーザ光をオシレートさせるオシレート機構と、前記オシレート機構の角度及び前記レーザヘッドによるレーザ光の出力を制御する制御部を備えたレーザ溶接装置において、前記制御部は、前記オシレート機構の動作に同期してレーザ出力を制御し、オシレートするレーザ光が前記ギャップ上を含むオシレート中間部を移動する際のレーザ光の出力を前記ギャップの一方側及び他方側で等しくし、前記ギャップの一方側のオシレート折り返し部及び他方側のオシレート折り返し部に近づくにつれてレーザ光の出力を漸次低くするべく制御する構成としている。
【0014】
本開示に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置において、金属板間のギャップから離れたオシレート折り返し部のレーザ光の出力をオシレート中間部のレーザ光の出力よりも低くする。例えば、オシレート中間部のレーザ光の出力を10kWとする場合には、オシレート折り返し部のレーザ光の出力は、その1割程度の1kWにまで落とすようにする。
【0015】
なお、本開示に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置において、レーザ溶接により接合する金属板の厚さは特に限定しない。例えば、所謂中板と呼称される3~6mmの金属板を特に対象としている。
【0016】
また、本開示に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置において、レーザにはYAGレーザや半導体レーザやファイバーレーザを用いるのが一般的であるが、これらのものに限定されない。
【0017】
さらに、本開示に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置は、金属板同士の突き合わせ継手に用いることができるほか、本開示に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置を金属板同士の重ね継手にも適用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本開示に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置によれば、板厚5mm程度の金属板同士をレーザ光の照射により接合する場合に、スパッタの発生を少なく抑えたうえで、金属板間のギャップをなくすことが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本開示の一実施形態に係るレーザ溶接方法に用いるレーザ溶接装置を示す概略説明図である。
【
図2】
図1のレーザ溶接装置によるレーザ光のオシレートの状況に溶融池の平面形状を併せて示す拡大断面説明図である。
【
図3】
図1のレーザ溶接装置によるオシレート中のレーザ光出力の変化を示すグラフである。
【
図4】従来のレーザ溶接方法によるレーザ光のオシレートの状況に溶融池の平面形状を併せて示す拡大断面説明図である。
【
図5】
図4のオシレート中のレーザ光出力の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係るレーザ溶接装置を示しており、本実施形態では、本開示に係るレーザ溶接装置を金属板同士の突き合わせ接合に用いた場合を例に挙げて説明する。
【0021】
図1に概略的に示すように、このレーザ溶接装置1は、金属板W,W同士をレーザ溶接により突き合わせ接合するものであって、レーザ発振器2と、このレーザ発振器2から供給されるレーザ光Lを内蔵した光学系3により集光して金属板W,W間に照射するレーザヘッド4と、レーザ発振器2からのレーザ光Lをレーザヘッド4へ導く光ファイバ5と、レーザヘッド4を金属板W,W間のギャップWaに沿って移動させるヘッド駆動機構6と、ギャップWaを跨ぐようにレーザ光Lを往復移動させる、すなわち、
図1の拡大円内に示す折り返し部P1,P2の間でレーザ光Lをオシレートさせるオシレート機構8と、このオシレート機構8によるオシレート角度及びレーザヘッド4による溶接速度,レーザ出力,スポット径等を制御する制御部10を備えている。
【0022】
ヘッド駆動機構6は、金属板W,W間のギャップWaに沿って配置されるレール6aと、このレール6a上を往復移動するスライダ6bを具備している。この場合、レーザヘッド4は、金属板W,Wと平行で且つレール6aと直交する方向にレーザ光照射方向を合わせるようにしてスライダ6bに固定されている。
【0023】
また、オシレート機構8は、ヘッド駆動機構6のスライダ6bに支持台7を介して取り付けられたケース9に保持されており、レーザヘッド4からのレーザ光Lを反射するスキャナミラー8aと、このスキャナミラー8aを所定の範囲で回動させるスキャナモータ8bとから構成されている。
つまり、ヘッド駆動機構6及びオシレート機構8では、双方をそれぞれ動作させてスライダ6bとともにレーザヘッド4を金属板W,W間のギャップWaに沿って移動させつつ、レーザ光Lを反射するスキャナミラー8aを所定の範囲で回動させることで、ギャップWaを跨ぐようにレーザ光Lをジグザグに往復移動させるようになっている。
【0024】
この際、制御部10において、オシレート機構8によるギャップWaを跨いだオシレート中において、レーザ光LがギャップWa上を通過するオシレート中間部におけるレーザ光Lの出力よりもギャップWaから離れたオシレート折り返し部P1,P2におけるレーザ光Lの出力が低くなるように設定している。例えば、オシレート中間部のレーザ光Lの出力を10kWとする場合には、オシレート折り返し部P1,P2のレーザ光Lの出力をその1割程度の1kWにまで落とすように設定している。
【0025】
このように構成されたレーザ溶接装置1を用いて金属板W,W同士を接合するに際しては、まず、金属板W,Wの各両端部間にタブ板Tをそれぞれ仮付けする。
【0026】
この後、レーザ溶接装置1を始動すると、レーザ発振器2からレーザヘッド4に対するレーザ光Lの供給が開始され、レーザヘッド4からは光学系3で集光したレーザ光Lの照射が金属板W,W間に向けて開始される。
【0027】
これと同時に、ヘッド駆動機構6及びオシレート機構8がそれぞれ動作を開始し、これにより、金属板W,W間のギャップWaを跨ぐようにオシレートしつつレーザ光LがギャップWaに沿って移動する。
【0028】
このレーザ溶接装置1では、オシレート機構8によるギャップWaを跨いだオシレート中において、オシレート折り返し部P1,P2のレーザ光Lの出力が、レーザ光LがギャップWa上を通過するオシレート中間部(ギャップWaの一方側のオシレート折り返し部P1と、ギャップWaの他方側のオシレート折り返し部P2との間の部分)のレーザ光Lの出力よりも低くなるようにしている。
【0029】
すなわち、
図2の上側に示すギャップWaを横切る方向の拡大断面から判るように、レーザ光Lが折り返し部P1,P2に近づくにつれて、レーザ出力がLPh→LPm→LPlとなるように漸次変化させているので、レーザ光Lに追従して移動する溶融池MSが一点鎖線で示す状態→二点鎖線示す状態→実線で示す状態に変化して、溶融池MS内における溶融金属の進行方向(図示右方向)の流速Vが徐々に減じると共に、溶融深さDも徐々に浅くなる。
図2の下側に溶融池MSの平面形状を模式的に示している。
【0030】
したがって、
図3に示すように、折り返し部P1,P2間において、レーザ光Lの出力LPを上述のようにLPl→LPm→LPh→LPm→LPlと変化させてオシレートさせると、折り返し部P1,P2において、溶融金属が遅い流速Vで非照射部分(
図2に斜線で示す部分)に到達することになる。
【0031】
加えて、折り返し部P1,P2において、溶融金属の溶融深さDが浅い分だけ上方に噴き出す金属蒸気が少ないこととなり、その結果、レーザ光Lが折り返す時点に発生するスパッタ量が少なく抑えられることとなる。
【0032】
なお、上記した実施形態では、金属板W,Wと平行で且つレール6aと直交する方向にレーザ光照射方向を合わせるようにしてレーザヘッド4をスライダ6bに固定し、このレーザヘッド4からのレーザ光Lを反射するスキャナミラー8aを所定の範囲で回動させることで、ギャップWaを跨ぐようにレーザ光Lを往復移動させるようにしているが、レーザヘッド4及びスキャナミラー8aの相対位置関係はこれに限定されるものではない。
【0033】
また、上記した実施形態では、ギャップWaを跨ぐようにレーザ光Lをジグザグに往復移動させるようにしているが、レーザ光Lの移動軌跡はこれに限定されるものではなく、例えば、サインカーブを描くようにしてギャップWaを跨いでレーザ光Lを往復移動させるようにしてもよい。
【0034】
上記した実施形態では、本開示に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置が、金属板W,W同士を突き合わせ接合するレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置である場合を示したが、これに限定されるものではなく、本開示に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置を金属板同士の重ね継手にも適用することが当然可能である。
【0035】
本開示に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置の構成は、上記した実施形態に限られるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 レーザ溶接装置
4 レーザヘッド
6 ヘッド駆動機構
8 オシレート機構
10 制御部
L レーザ光
P1,P2 オシレート折り返し部
W 金属板
Wa ギャップ