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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】熱転写シートの組み合わせ
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/385 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
B41M5/385 400
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022169832
(22)【出願日】2022-10-24
(62)【分割の表示】P 2018185840の分割
【原出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2023002731
(43)【公開日】2023-01-10
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】小林 良正
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-272852(JP,A)
【文献】特開平04-314592(JP,A)
【文献】特開2002-361918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/385
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イエロー染料Y1を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M1を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C1を含むシアン染料層を有する第1の熱転写シートと、
イエロー染料Y2を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M2を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C2を含むシアン染料層を有する第2の熱転写シートと、の組み合わせであって、
前記イエロー染料Y1およびY2の最大吸収波長は、どちらも400nm以上500nm以下の範囲内にあり、
前記マゼンタ染料M1およびM2の最大吸収波長は、どちらも500nm以上600nm以下の範囲内にあり、
前記シアン染料C1およびC2の最大吸収波長は、どちらも600nm以上700nm以下の範囲内にあり、
前記イエロー染料Y1、マゼンタ染料M1、およびシアン染料C1、それぞれの最大吸収波長は互いに80nm以上離れており、
前記イエロー染料Y2の最大吸収波長は、前記イエロー染料Y1の最大吸収波長と前記マゼンタ染料M1の最大吸収波長の間であって、それぞれから30nm以上離れており、
前記マゼンタ染料M2の最大吸収波長は、前記マゼンタ染料M1の最大吸収波長と前記シアン染料C1の最大吸収波長の間であって、それぞれから30nm以上離れており、
前記シアン染料C2の最大吸収波長は、前記シアン染料C1の最大吸収波長よりも長波長側であって、当該シアン染料C1の最大吸収波長から30nm以上100nm以下の範囲内にある、ことを特徴とする、第1の熱転写シートと第2の熱転写シートの組み合わせ。
【請求項2】
イエロー染料Y1を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M1を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C1を含むシアン染料層を有する第1の熱転写シートと、
イエロー染料Y2を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M2を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C2を含むシアン染料層を有する第2の熱転写シートと、の組み合わせであって、
前記第1の熱転写シートは、イエロー染料Y1を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M1を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C1を含むシアン染料層を有し、
前記第2の熱転写シートは、イエロー染料Y2を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M2を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C2を含むシアン染料層を有し、
前記イエロー染料Y1の最大吸収波長と前記イエロー染料Y2の最大吸収波長が異なっており、
前記マゼンタ染料M1の最大吸収波長と前記マゼンタ染料M2の最大吸収波長が異なっており、
前記シアン染料C1の最大吸収波長と前記シアン染料C2の最大吸収波長が異なっている、ことを特徴とする、第1の熱転写シートと第2の熱転写シートの組み合わせ。
【請求項3】
イエロー染料Y1を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M1を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C1を含むシアン染料層を有する第1の熱転写シートと、
イエロー染料Y2を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M2を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C2を含むシアン染料層を有する第2の熱転写シートと、の組み合わせであって、
前記第1の熱転写シートは、イエロー染料Y1を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M1を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C1を含むシアン染料層を有し、
前記第2の熱転写シートは、イエロー染料Y2を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M2を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C2を含むシアン染料層を有し、
前記イエロー染料Y1の最大吸収波長と前記イエロー染料Y2の最大吸収波長が同じで
あり、
前記マゼンタ染料M1の最大吸収波長と前記マゼンタ染料M2の最大吸収波長が同じであり、
前記シアン染料C1の最大吸収波長と前記シアン染料C2の最大吸収波長が同じであり、
前記第1の熱転写シートのイエロー染料層が含有している前記イエロー染料Y1の量と
前記第2の熱転写シートのイエロー染料層が含有している前記イエロー染料Y2の量は異なり、
前記第1の熱転写シートのマゼンタ染料層が含有している前記マゼンタ染料M1の量と
前記第2の熱転写シートのマゼンタ染料層が含有している前記染料M2の量は異なり、
前記第1の熱転写シートのシアン染料層が含有している前記シアン染料C1の量と前記
第2の熱転写シートのシアン染料層が含有している前記シアン染料C2の量は異なる、第1の熱転写シートと第2の熱転写シートの組み合わせ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写シートの組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、昇華性染料を含む染料層が設けられた熱転写シートを用いた昇華転写方式の印画物の製造方法が知られている。昇華転写方式は、階調表現が滑らかであることがメリットであるが、用いられる熱転写シートを構成する染料層は、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、およびC(シアン)の3色である場合が多く(たとえば、特許文献1参照)、この3色でフルカラー画像を形成することとなるため、色再現性が劣ることがあった。
【0003】
昇華転写方式において色再現性を向上するために、前記YMCに加え、これら以外の色の染料層を有する熱転写シートを用いることも考えられるが、この場合、被転写体側の受容層に繰り返し転写が行われることとなり、熱ダメージが蓄積され、熱転写シートと受容層との融着が生じたり、濃度低下が生じたりすることが懸念される。また、染料層の数が多くなると、その分だけ画像形成が長時間化するといった新たな課題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-087309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下においてなされた発明であり、階調表現が滑らかな昇華転写方式のメリットを活かした印画物の製造に用いる熱転写シートの組み合わせを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明は、印画物の製造方法であって、被転写体と、被転写体用熱転写シートと、中間転写媒体と、中間転写媒体用熱転写シートと、を準備する工程と、前記被転写体上に、前記被転写体用熱転写シートを用いて第1の画像を形成する工程と、前記中間転写媒体上に、前記中間転写媒体用熱転写シートを用いて前記第1の画像を反転した第2の画像を形成する工程と、前記中間転写媒体上の前記第2の画像を、前記被転写上の前記第1の画像上に転写する工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
前記発明にあっては、前記被転写体用熱転写シートは、イエロー染料Y1を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M1を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C1を含むシアン染料層を有し、前記中間転写媒体用熱転写シートは、イエロー染料Y2を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M2を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C2を含むシアン染料層を有し、前記イエロー染料Y1の最大吸収波長と前記イエロー染料Y2の最大吸収波長が異なっており、前記マゼンタ染料M1の最大吸収波長と前記マゼンタ染料M2の最大吸収波長が異なっており、前記シアン染料C1の最大吸収波長と前記シアン染料C2の最大吸収波長が異なっていてもよい。
【0008】
また一方で、前記発明にあっては、前記被転写体用熱転写シートは、イエロー染料Y1を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M1を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C1を含むシアン染料層を有し、前記中間転写媒体用熱転写シートは、イエロー染料Y2を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M2を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C2を含むシアン染料層を有し、前記イエロー染料Y1の最大吸収波長と前記イエロー染料Y2の最大吸収波長が同じであり、前記マゼンタ染料M1の最大吸収波長と前記マゼンタ染料M2の最大吸収波長が同じであり、前記シアン染料C1の最大吸収波長と前記シアン染料C2の最大吸収波長が同じであってもよい。
【0009】
さらに、前記発明にあっては、前記イエロー染料Y1およびY2の最大吸収波長は、どちらも400nm以上500nm以下の範囲内にあり、前記マゼンタ染料M1およびM2の最大吸収波長は、どちらも500nm以上600nm以下の範囲内にあり、前記シアン染料C1およびC2の最大吸収波長は、どちらも600nm以上700nm以下の範囲内にあり、前記イエロー染料Y1、マゼンタ染料M1、およびシアン染料C1、それぞれの最大吸収波長は互いに80nm以上離れており、前記イエロー染料Y2の最大吸収波長は、前記イエロー染料Y1の最大吸収波長と前記マゼンタ染料M1の最大吸収波長の間であって、それぞれから30nm以上離れており、前記マゼンタ染料M2の最大吸収波長は、前記マゼンタ染料M1の最大吸収波長と前記シアン染料C1の最大吸収波長の間であって、それぞれから30nm以上離れており、前記シアン染料C2の最大吸収波長は、前記シアン染料C1の最大吸収波長よりも長波長側であって、当該シアン染料C1の最大吸収波長から30nm以上100nm以下の範囲内にあってもよい。
【0010】
前記課題を解決するための別の本発明は、イエロー染料Y1を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M1を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C1を含むシアン染料層を有する第1の熱転写シートと、イエロー染料Y2を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M2を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C2を含むシアン染料層を有する第2の熱転写シートと、の組み合わせであって、前記イエロー染料Y1およびY2の最大吸収波長は、どちらも400nm以上500nm以下の範囲内にあり、前記マゼンタ染料M1およびM2の最大吸収波長は、どちらも500nm以上600nm以下の範囲内にあり、前記シアン染料C1およびC2の最大吸収波長は、どちらも600nm以上700nm以下の範囲内にあり、前記イエロー染料Y1、マゼンタ染料M1、およびシアン染料C1、それぞれの最大吸収波長は互いに80nm以上離れており、前記イエロー染料Y2の最大吸収波長は、前記イエロー染料Y1の最大吸収波長と前記マゼンタ染料M1の最大吸収波長の間であって、それぞれから30nm以上離れており、前記マゼンタ染料M2の最大吸収波長は、前記マゼンタ染料M1の最大吸収波長と前記シアン染料C1の最大吸収波長の間であって、それぞれから30nm以上離れており、前記シアン染料C2の最大吸収波長は、前記シアン染料C1の最大吸収波長よりも長波長側であって、当該シアン染料C1の最大吸収波長から30nm以上100nm以下の範囲内にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の印画物の製造方法によれば、昇華転写方式を採用していることから階調表現が滑らかでありつつ、色再現性に優れた高品質の印画物を製造することができる。また、本発明の熱転写シートの組み合わせを用いることでも、同様の効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態にかかる印画物の製造方法を実施するための装置の構成図である。
図2】第1の画像P1の波長毎の分光濃度の一例を示すグラフである。
図3】第2の画像P2の波長毎の分光濃度の一例を示すグラフである。
図4】第1の画像P1と第2の画像P2とを重ね合わせることにより形成された印画物Pの波長毎の分光濃度の一例を示すグラフである。
図5】第1の画像P1と第2の画像P2とを重ね合わせることにより形成された印画物Pの波長毎の分光濃度の一例を示すグラフである。
図6】被転写体用熱転写シートの一例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.印画物の製造方法
以下に、本発明の実施形態にかかる印画物の製造方法について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態にかかる印画物の製造方法を実施するための装置の構成図である。なお、図1に示す装置は、本発明の実施形態にかかる印画物の製造方法を実施するための装置の一例であって、本発明がこの装置に限定されることはない。
【0015】
1-1.準備工程
図1に示す装置100の構成図にあるように、本実施形態にかかる印画物の製造方法においては、被転写体10と、被転写体用熱転写シート20と、中間転写媒体30と、中間転写媒体用熱転写シート40と、を準備する工程が行われる。
【0016】
この工程において準備される、被転写体10、被転写体用熱転写シート20、中間転写媒体30、および中間転写媒体用熱転写シート40、それぞれの具体的な構成については特に限定されることはない。なお、それぞれの具体的な構成の一例については、後述する。
【0017】
1-2.第1の画像形成工程
次いで、図1に示す装置100の構成図にあるように、本実施形態にかかる印画物の製造方法においては、図1中の符号Xの部分において、前記被転写体10上に、サーマルヘッドH1および前記被転写体用熱転写シート20を用いて、第1の画像P1を形成する工程が行われる。
【0018】
図2は、第1の画像P1の波長毎の分光濃度の一例を示すグラフである。
【0019】
たとえば、被転写体用熱転写シート20に、イエロー染料Y1を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M1を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C1を含むシアン染料層が設けられており、これらの染料層を用いて黒ベタの第1の画像P1を形成した場合における、当該第1の画像P1の波長毎の分光濃度の一例は図2のようになる。なお、説明を分かりやすくするため、第1の画像P1が黒ベタであることを例に挙げているが、当該第1の画像P1はこれに限定されることはなく、最終的に製造しようとする印画物Pを、予め設定されたカラーテーブルに基づいて、被転写体用熱転写シート20におけるイエロー染料Y1、マゼンタ染料M1、およびシアン染料C1により形成した画像である。
【0020】
第1画像P1の波長毎の分光濃度の測定については特に限定されることはなく、市販の分光濃度計を用いて測定可能である。図2および以下に示す図3~4の分光濃度は、i1i02(X-rite社 分光濃度計)を用いて測定したものである。
【0021】
1-3.第2の画像形成工程
一方で、図1に示す装置100の構成図にあるように、本実施形態にかかる印画物の製造方法においては、図1中の符号Yの部分において、前記中間転写媒体30上に、サーマルヘッドH2および前記中間転写媒体用熱転写シート40を用いて前記第1の画像P1を反転した第2の画像P2を形成する工程が行われる。
【0022】
図3は、第2の画像P2の波長毎の分光濃度の一例を示すグラフである。
【0023】
ここで、たとえば、中間転写媒体用熱転写シート40に、イエロー染料Y2を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M2を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C2を含むシアン染料層が設けられており、これらの染料層を用いて黒ベタの第2の画像P2を形成した場合における、当該第2の画像P2の波長毎の分光濃度の一例は図3のようになる。なお、前記第1の画像P1と同様、説明を分かりやすくするため、第2の画像P2も黒ベタであることを例に挙げているが、当該第2の画像P2はこれに限定されることはなく、最終的に製造しようとする印画物Pの反転画像であって、予め設定されたカラーテーブルに基づいて、中間転写媒体用熱転写シート40におけるイエロー染料Y2、マゼンタ染料M2、およびシアン染料C2により形成した画像である。
【0024】
1-4.転写(重ね合わせ)工程
次いで、図1に示す装置100の構成図にあるように、本実施形態にかかる印画物の製造方法においては、図1中の符号Zの部分において、前記中間転写媒体30上の前記第2の画像P2を、前記被転写体10上の前記第1の画像P1上に転写する工程が行われ、所望の印画物Pが形成される。
【0025】
図4は、第1の画像P1と第2の画像とを重ね合わせることにより形成された印画物Pの波長毎の分光濃度の一例を示すグラフである。
【0026】
本実施形態にかかる印画物の製造方法において形成された印画物の波長毎の分光濃度の一例は図4のようになる。図4に示すように、本実施形態にかかる印画物の製造方法によれば、被転写体用熱転写シート20によって被転写体10上に形成された第1の画像P1と、中間転写媒体用熱転写シート40によって中間転写媒体30上に形成された第2の画像P2を重ね合わせて印画物Pが形成されることから、当該印画物Pの波長毎の分光濃度は、当然に第1の画像P1の分光濃度(図2)と第2の画像P2の分光濃度(図3)を重ね合わせたものとなる。したがって、図2および図3に示すように、被転写体用熱転写シート20における各色(Y、M、C)それぞれの染料層に含まれるY1染料、M1染料およびC1染料と、中間転写媒体用熱転写シート40における各色(Y、M、C)それぞれの染料層に含まれるY2染料、M2染料およびC2染料の最大吸収波長を異ならせることにより、被転写体用熱転写シート20のみ、もしくは中間転写媒体用熱転写シート40のみで形成した場合生じる、各色の分光濃度の谷を埋めることができ、色の再現性を格段に向上せしめることができる。
【0027】
なお、上記の例によれば、最終的に形成された印画物Pには、イエロー染料Y1、Y2、マゼンタ染料M1、M2、シアン染料C1、C2、の6色の染料が含まれることとなる。当該6色を転写するにあたり、被転写体用熱転写シートに当該6色の染料をそれぞれ含む6つの染料層を形成し、この被転写体用熱転写シートを用いて印画物を形成することも可能ではあるが、この場合には、被転写体に6回にわたりサーマルヘッドからの熱ダメージが加わることとなり、融着などの不具合が生じる可能性がある。また、当該6色の染料層を中間転写媒体用熱転写シートに設け、中間転写媒体を用いて被転写体に転写を行うことも可能ではあるが、この場合には、6回にわたり中間転写媒体から被転写体への再転写が行われることとなり、完成した印画物は6層構造となり1層目と6層目との間に大きなギャップが生じ、画像がぼやけるおそれがある。画像のぼやけを回避するために、1つの中間転写媒体の受容層に6色分の転写を行うことも考えられるが、この場合には触媒褪色の問題が生じ得る。さらに、被転写体用熱転写シートに、イエロー染料Y1とY2の双方を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M1とM2の双方を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C1とC2の双方を含むシアン染料層を形成し、この被転写体用熱転写シートを用いて印画物を形成することも可能であるが、この場合、それぞれの染料層に含まれる2つの染料のそれぞれの量を転写時の熱量によって独立に調整することができないため、各染料の最大吸収波長の間に生じる谷は埋めることができても、色再現性は良好なものとはならない。一方で、本実施形態にかかる印刷物の形成方法によれば、所望する印刷物Pを形成するにあたり、上記の通り、被転写体10に直接形成する第1の画像P1と、中間転写媒体30を介して形成する第2の画像P2とに分けているため、被転写体への熱ダメージを最小限に抑え、かつ、中間転写媒体からの再転写の回数も最小限に抑えつつ、それぞれ異なる分光濃度を有する染料を用いることができるため、それぞれの染料の量を転写時の熱量によって別個独立に調整することで色再現性を向上せしめることが可能となる。
【0028】
ここで、上記の例においては、被転写体用熱転写シート20に設けられている各色染料層にそれぞれ含まれている染料(Y1、M1、およびC1)と、中間転写媒体用熱転写シート40に設けられている各色染料層にそれぞれ含まれている染料(Y2、M2、およびC2)とが異なっていたが、本実施形態にかかる印刷物の形成方法においては、必ずしも異なっている必要はなく、同一の染料が用いられている、つまり、Y1=Y2、M1=M2、およびC1=C2であってもよい。
【0029】
この場合あっても、本実施形態にかかる印画物の製造方法においては、被転写体用熱転写シート20によって被転写体10上に形成された第1の画像P1と、中間転写媒体用熱転写シート40によって中間転写媒体30上に形成された第2の画像P2を重ね合わせて印画物Pが形成されることとなる。
【0030】
図5は、第1の画像P1と第2の画像とを重ね合わせることにより形成された印画物Pの波長毎の分光濃度の一例を示すグラフである。
【0031】
ここで、第1の画像P1と第2の画像P2は同じ染料を含む染料層により形成された画像であるため、その分光濃度は、どちらも図2に示す通りとなり、同一画像を重ね合わせることで完成された印画物Pは、図5に示すように、その濃度がより濃いものとなる。
【0032】
以上、具体例を挙げて説明したように、本実施形態にかかる印画物の製造方法によれば、被転写体へ直接形成される第1の画像と、中間転写媒体を介して前記第1の画像に重ね合わされる第2の画像とにより最終的な印画物を形成するため、第1の画像を形成するために用いられる被転写体用熱転写シートにおける染料層に含まれる染料、および第2の画像を形成するために用いられる中間転写媒体用熱転写シートにおける染料層に含まれる染料の組合せを自由に選択することができ、また、それぞれの染料層に含まれる染料の量を別個独立に調整できるので、当該選択の仕方、いわば組み合わせによって、さらにはそれぞれの染料層を用いて形成される画像の濃度の調整によって、最終的に完成される印画物の色再現性や濃度を向上せしめることが可能となる。
【0033】
2.本実施形態にかかる印画物の製造方法において準備されるもの
以下に、上記で説明した本実施形態にかかる印画物の製造方法において準備される被転写体、被転写体用熱転写シート、中間転写媒体、および中間転写媒体用熱転写シートの構成について説明する。
【0034】
2-1.被転写体
本実施形態にかかる印画物の製造方法において準備される被転写体は、特に限定されることはなく、カード基材や熱転写受像シートなど、昇華型熱転写方式に用いられる従来公知の被転写体を適宜選択して用いることができる。
【0035】
2-2.被転写体用熱転写シートおよび中間転写媒体用熱転写シート
本実施形態にかかる印画物の製造方法において準備される被転写体用熱転写シートそれ自体の構造については、特に限定されることはなく、昇華型熱転写方式に用いられる従来公知の熱転写シートを適宜選択して用いることができる。
【0036】
また、本実施形態にかかる印画物の製造方法において準備される中間転写媒体用熱転写シートそれ自体の構造についても特に限定されることはなく、昇華型熱転写方式に用いられる従来公知の熱転写シートを適宜選択して用いることができる。
【0037】
つまり、本実施形態において準備される被転写体用熱転写シートと中間転写媒体用熱転写シートの違いは、用途の違い、具体的には被転写体に画像を形成するために用いられるか、中間転写媒体に画像を形成するために用られるかの違いであって、そのもの自体の構造に違いはない。したがって、以下においては、被転写体用熱転写シートについて説明するが、そのまま中間転写媒体用熱転写シートにも適用可能である。
【0038】
図6は、被転写体用熱転写シートの一例の概略断面図である。
【0039】
図6に示すように、被転写体用熱転写シート20は、基材21と、基材21の一方の面上に位置する染料層22と、基材21の他方の面上に位置する背面層23と、から構成されていてもよく、前記染料層22は、イエロー染料層22Y、マゼンタ染料層22M、およびシアン染料層22Cとが、面順次に配置されている構造であってもよい。
【0040】
そして、被転写体用熱転写シート20を構成する基材21や背面層23の材質や厚さなどについても特に限定されることはなく、従来公知の熱転写シートにおける基材や背面層を適宜選択して用いればよい。
【0041】
被転写体用熱転写シート20を構成する染料層22は、昇華性染料とバインダーとを含有している。
【0042】
昇華性染料は、特に限定されることはなく、従来公知の昇華性染料から適宜選択して用いることができるが、印画材料として良好な特性を有するもの、たとえば、十分な着色濃度を有し、光、熱、温度等により変退色しないものが好ましく、ジアリールメタン系染料、トリアリールメタン系染料、チアゾール系染料、メロシアニン染料、ピラゾロン染料、メチン系染料、インドアニリン系染料、アセトフェノンアゾメチン、ピラゾロアゾメチン、イミダゾルアゾメチン、イミダゾアゾメチン、ピリドンアゾメチン等のアゾメチン系染料、キサンテン系染料、オキサジン系染料、ジシアノスチレン、トリシアノスチレン等のシアノスチレン系染料、チアジン系染料、アジン系染料、アクリジン系染料、ベンゼンアゾ系染料、ピリドンアゾ、チオフェンアゾ、イソチアゾールアゾ、ピロールアゾ、ピラゾールアゾ、イミダゾールアゾ、チアジアゾールアゾ、トリアゾールアゾ、ジスアゾ等のアゾ系染料、スピロピラン系染料、インドリノスピロピラン系染料、フルオラン系染料、ローダミンラクタム系染料、ナフトキノン系染料、アントラキノン系染料、キノフタロン系染料などを例示できる。より具体的には、ディスパースレッド60、ディスパースバイオレット26、CeresRed 7B、Samaron Red F3BS等の赤色染料、ディスパースイエロー231、PTY-52、マクロレックスイエロー6G、等の黄色染料、ソルベントブルー63、ワクソリンブルーAP-FW、ホロンブリリアントブルーS-R、MSブルー100、C.I.ソルベントブルー22等の青色染料などを例示できる。
【0043】
上記昇華性染料を担持するためのバインダー樹脂としては、たとえば、エチルセルロース樹脂、ヒドロキシエチルセルロース樹脂、エチルヒドロキシセルロース樹脂、メチルセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂等のセルロース樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン等のビニル樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド等のアクリル樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステルなどを例示できる。これらの中でも、セルロース樹脂、ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリエステル等の樹脂が、耐熱性、染料の移行性等の点において好ましい。
【0044】
染料層22には、無機粒子、有機粒子等の添加剤が含有されていてもよい。無機粒子としては、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、二硫化モリブデン等が挙げられ、有機粒子としては、ポリエチレンワックス等が挙げられる。また、染料層22には、離型剤が含有されていてもよい。離型剤としては、シリコーンオイル、リン酸エステル、フッ素系材料等を挙げることができる。また、染料層22には、イソシアネート、エポキシ樹脂、カルボジイミド等の各種の硬化剤が含有されていてもよい。
【0045】
ここで、本実施形態にかかる印画物の製造方法にあっては、被転写体用熱転写シートに設けられている染料層中の染料と、中間転写媒体用熱転写シートに設けられている染料層中の染料、それぞれの最大吸収波長の関係を考慮することにより、これら2つの熱転写シートそれぞれによって形成した画像を重ね合わせた際に、色再現性や濃度の向上を図ることを特徴としている。したがって、被転写体用熱転写シートおよび中間転写媒体用熱転写シートそれぞれの染料層に含まれている染料同士の関係、換言すれば組み合わせが重要となる。
【0046】
たとえば、被転写体用熱転写シートが、イエロー染料Y1を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M1を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C1を含むシアン染料層を有し、中間転写媒体用熱転写シートが、イエロー染料Y2を含むイエロー染料層、マゼンタ染料M2を含むマゼンタ染料層、およびシアン染料C2を含むシアン染料層を有している場合にあっては、前記イエロー染料Y1およびY2の最大吸収波長は、どちらも400nm以上500nm以下の範囲内にあり、前記マゼンタ染料M1およびM2の最大吸収波長は、どちらも500nm以上600nm以下の範囲内にあり、前記シアン染料C1およびC2の最大吸収波長は、どちらも600nm以上700nm以下の範囲内にあり、前記イエロー染料Y1、マゼンタ染料M1、およびシアン染料C1、それぞれの最大吸収波長は互いに80nm以上離れていることが好ましい。また、前記イエロー染料Y2、マゼンタ染料M2、およびシアン染料C2、それぞれの最大吸収波長も互いに80nm以上離れていることが好ましい。さらに、イエロー染料Y1、イエロー染料Y2、マゼンタ染料M1、マゼンタ染料M2、シアン染料C1およびシアン染料C2の最大吸収波長は、それぞれ互いに30nm以上離れていることがより好ましい。
【0047】
さらには、前記イエロー染料Y2の最大吸収波長は、前記イエロー染料Y1の最大吸収波長と前記マゼンタ染料M1の最大吸収波長の間にあり、前記マゼンタ染料M2の最大吸収波長は、前記マゼンタ染料M1の最大吸収波長と前記シアン染料C1の最大吸収波長の間にあり、それぞれから30nm以上離れており、前記シアン染料C1の最大吸収波長は、前記シアン染料C1の最大吸収波長よりも長波長側であって、当該シアン染料C1の最大吸収波長から30nm以上100nm以下の範囲内にある、ような関係となることがより好ましい。
【0048】
上記関係を満たすイエロー染料Y1とY2の組み合わせとしては、たとえば、Disperse Yellow 201と、下記の構造式(1)で表される染料との組み合わせを挙げることができる。
【0049】
【化1】
【0050】
また、上記関係を満たすマゼンタ染料M1とM2の組み合わせとしては、たとえば、下記の構造式(2)で表される染料と、下記の構造式(3)で表される染料との組合せを挙げることができる。
【0051】
【化2】
【0052】
【化3】
【0053】
また、上記関係を満たすシアン染料C1とC2の組み合わせとしては、たとえば、Disperse Blue 354と、下記の構造式(4)で表される染料との組み合わせを挙げることができる。
【0054】
【化4】
【0055】
上記イエロー染料、マゼンタ染料、およびシアン染料の組み合わせは、一方を被転写体用熱転写シートの染料層に用い、他方を中間転写媒体用熱転写シートの染料層に用いればよい。また、上記の組み合わせは一例にすぎず、これら以外の染料を用いることも可能である。
【0056】
2-3.中間転写媒体
本実施形態にかかる印画物の製造方法において準備される中間転写媒体は、特に限定されることはなく、昇華型熱転写方式に用いられる従来公知の中間転写媒体を適宜選択して用いることができる。中間転写媒体としては、たとえば、基材の一方の面上に、剥離層、プライマー層、保護層、および受容層をこの順で積層した構造を有してもよく、これら各層についても特に限定されることはない。
【符号の説明】
【0057】
10…被転写体
20…被転写体用熱転写シート
30…中間転写媒体
40…中間転写媒体用熱転写シート
P1…第1の画像
P2…第2の画像
P…印画物
100…印画物形成装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6