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  • 特許-菓子用プレミックス及び菓子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】菓子用プレミックス及び菓子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 13/047 20170101AFI20231206BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20231206BHJP
   A23G 3/36 20060101ALI20231206BHJP
   A23G 3/00 20060101ALI20231206BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20231206BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20231206BHJP
【FI】
A21D13/047
A21D2/18
A23G3/36
A23G3/00
A21D2/36
A21D13/80
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021210836
(22)【出願日】2021-12-24
(65)【公開番号】P2023095131
(43)【公開日】2023-07-06
【審査請求日】2022-12-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000164689
【氏名又は名称】熊本製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】山村 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】原 朋也
(72)【発明者】
【氏名】前原 永
(72)【発明者】
【氏名】山田 徹
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-065509(JP,A)
【文献】特開2019-013214(JP,A)
【文献】特開2019-013223(JP,A)
【文献】特開昭64-034234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
A23G
A23L
Google
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
28品目アレルゲンを使用せずに、ソフトでしっとり食感、口溶け及び冷凍耐性が良い菓子を作製することができる菓子用プレミックスであって、
RVA試験の結果が[最低粘度/最高粘度]=0.79以上1以下である加工でん粉と、米粉と、リパーゼと、膨張剤とを含有し、前記加工でん粉は10~50質量%の範囲内であり、前記米粉は20~60質量%の範囲内であり、前記リパーゼは0.005~0.02質量%の範囲内であり、前記膨張剤は2.0~5.0質量%の範囲内であ
前記[最低粘度/最高粘度]は、ラピッド・ビスコ・アナライザーを用いた前記RVA試験において、測定用アルミニウムカップに精製水25mLを入れ、2~6gの範囲で測定サンプルを投入し、(a)温度50℃、回転速度960rpmで10秒間撹拌し、(b)温度50℃、回転速度160rpmで4分50秒間撹拌し、(c)温度50℃から92℃まで2.8℃/分で昇温しながら、回転速度160rpmで15分間撹拌し、(d)温度92℃、回転速度160rpmで15分間撹拌し、(e)温度92℃から50℃まで2.8℃/分で降温しながら、回転速度160rpmで15分間撹拌し、(f)温度50℃、回転速度50rpmで撹拌し、これら(a)~(f)をその順で処理するプロファイルから得たものである、ことを特徴とする菓子用プレミックス。
【請求項2】
前記菓子が、スポンジケーキ又はロールケーキである、請求項1に記載の菓子用プレミックス
【請求項3】
菓子用プレミックスに、水とオリゴ糖とサラダ油と起泡性製剤を添加し、混合して生地を調製し、該生地を窯で加熱調理して菓子を製造する方法であって、
前記菓子用プレミックスは、28品目アレルゲンを使用せずに、ソフトでしっとり食感、口溶け及び冷凍耐性が良い菓子を作製することができる菓子用プレミックスであり、RVA試験の結果が[最低粘度/最高粘度]=0.79以上1以下である加工でん粉と、米粉と、リパーゼと、膨張剤とを含有し、前記加工でん粉は10~50質量%の範囲内であり、前記米粉は20~60質量%の範囲内であり、前記リパーゼは0.005~0.02質量%の範囲内であり、前記膨張剤は2.0~5.0質量%の範囲内であ
前記[最低粘度/最高粘度]は、ラピッド・ビスコ・アナライザーを用いた前記RVA試験において、測定用アルミニウムカップに精製水25mLを入れ、2~6gの範囲で測定サンプルを投入し、(a)温度50℃、回転速度960rpmで10秒間撹拌し、(b)温度50℃、回転速度160rpmで4分50秒間撹拌し、(c)温度50℃から92℃まで2.8℃/分で昇温しながら、回転速度160rpmで15分間撹拌し、(d)温度92℃、回転速度160rpmで15分間撹拌し、(e)温度92℃から50℃まで2.8℃/分で降温しながら、回転速度160rpmで15分間撹拌し、(f)温度50℃、回転速度50rpmで撹拌し、これら(a)~(f)をその順で処理するプロファイルから得たものである、ことを特徴とする菓子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、28品目アレルゲンを使用せず又は実質的に使用せずに、ソフトでしっとり食感、口溶け及び冷凍耐性が良いスポンジケーキ等を作製することができる菓子用プレミックス及び、菓子用プレミックスを用いた菓子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窯等で焼成した焼成済みのスポンジ生地(「焼成済みスポンジ生地」という。)は、しっとり食感やふんわり食感が好まれる傾向にある。ふんわり食感を出すために、卵を気泡し、小麦粉を混合することで骨格形成を行い、しっとり食感を出すために、乳等の他の原材料を混合している。そのため、従来から、焼成済みスポンジ生地の原材料として、小麦粉、卵、乳等が使用されており、その代替は難しい。
【0003】
近年、食物アレルギーを有する人が増加している。食物アレルギーとは、特定の食べ物に含まれるアレルゲンに免疫機能が過剰に反応してしまい、身体に様々な症状を起こすことである。特に、小麦、卵、乳は、食物アレルギー発症頻度が高く、特定原材料7品目に選定されるほどであり、喫食できないアレルギー患者も多い。また、大豆に関しても、特定原材料に準ずる21品目に選定されており、喫食できないアレルギー患者は多い。
【0004】
上記のようなアレルギー患者でも食べられるスポンジケーキは、市場に出回っているが、卵フリー、小麦フリー等、アレルゲン単体を含まないと謳っているものが多い。一方、全てのアレルゲンを制御しているアレルゲンフリースポンジケーキは、極端に数が少ない。こうしたアレルゲンフリースポンジケーキは、小麦、卵、乳等のアレルゲンを使用したスポンジケーキと比較して、食感が大きく異なる。例えば、現在市場にあるアレルゲンフリースポンジケーキの食感の特徴は、大きく分けて以下の2パターンあり、1つ目は、しっとり食感であるが、ねちゃつき、口溶けが悪いものであり、2つ目は、口溶けが良く、弾力もあるが、パサつき、ざらつきを感じるものであり、いずれも優れた食感であるとは言いにくい。
【0005】
なお、先行技術として、特許文献1には、口溶けの良いケーキ類を得るための品質改良剤が提案されているが、いずれも卵、乳成分等のアレルゲンフリーではなく、28品目のアレルゲンフリーの菓子についての製造方法ではない。また、特許文献2には、小麦、卵、乳を使用しないスポンジケーキの製造技術が提案されているが、ソフトさ、しっとり食感、口溶け等の食感向上については記載されていない。また、特許文献3,4には、小麦、卵、乳を使用しないスポンジケーキの製造技術が提案されているが、いずれも28品目のアレルギーフリーではなく、口溶け、冷凍耐性等については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2021-010342号公報
【文献】特開2017-209025号公報
【文献】特開2017-176120号公報
【文献】特開2006-230348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、28品目のアレルゲンを使用せず又は実質的に使用せずに、ソフトでしっとり食感、口溶け及び冷凍耐性が良いスポンジケーキ等を作製することができる、菓子用プレミックス及び菓子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る菓子用プレミックスは、28品目アレルゲンを使用せず又は実質的に使用せずに、ソフトでしっとり食感、口溶け及び冷凍耐性が良いスポンジケーキ等の菓子を作製することができる菓子用プレミックスであって、
RVAの試験結果が[最低粘度/最高粘度]=0.79以上1以下である加工でん粉と、米粉と、リパーゼと、膨張剤とを含有し、前記加工でん粉は10~50質量%の範囲内であり、前記米粉は20~60質量%の範囲内であり、前記リパーゼは0.005~0.02質量%の範囲内であり、前記膨張剤は2.0~5.0質量%の範囲内である、ことを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、菓子用プレミックスが28品目アレルゲンを使用せず又は実質的に使用せずに加工でん粉と米粉とリパーゼと膨張剤とを含有し、それらの含有量が上記範囲内であるので、その菓子用プレミックスを用いて得られたスポンジケーキ等は、ソフトでしっとり食感、口溶け及び冷凍耐性が良いものとすることができた。
【0010】
(2)本発明に係る菓子の製造方法は、菓子用プレミックスに、水とオリゴ糖とサラダ油と起泡性製剤を添加し、混合して生地を調製し、該生地を窯で加熱調理して菓子を製造する方法であって、前記菓子用プレミックスは、28品目アレルゲンを使用せず又は実質的に使用せずに、ソフトでしっとり食感、口溶け及び冷凍耐性が良いスポンジケーキ等の菓子を作製することができる菓子用プレミックスであり、RVAの試験結果が[最低粘度/最高粘度]=0.79以上1以下である加工でん粉と、米粉と、リパーゼと、膨張剤とを含有し、前記加工でん粉は10~50質量%の範囲内であり、前記米粉は20~60質量%の範囲内であり、前記リパーゼは0.005~0.02質量%の範囲内であり、前記膨張剤は2.0~5.0質量%の範囲内である、ことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、28品目アレルゲンを使用しない菓子用プレミックスを用いることで、ソフトでしっとり食感、口溶け及び冷凍耐性が良いスポンジケーキ等を製造できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、28品目のアレルゲンを使用せず又は実質的に使用せずに、ソフトでしっとり食感、口溶け及び冷凍耐性が良いスポンジケーキ等を作製することができる、菓子用プレミックス及び菓子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】RVA試験による加工でん粉の粘度特性の測定結果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る菓子用プレミックス及び菓子の製造方法について詳しく説明する。なお、本発明は、以下の実施形態や実施例だけに限定されず、その要旨を含む範囲を包含する。
【0015】
[菓子用プレミックス]
本発明に係る菓子用プレミックスは、28品目アレルゲンを使用せず又は実質的に使用せずに、ソフトでしっとり食感、口溶け及び冷凍耐性が良いスポンジケーキ等の菓子を作製することができる菓子用プレミックスである。そして、その特徴は、RVAの試験結果が[最低粘度/最高粘度]=0.79以上1以下である加工でん粉と、米粉と、リパーゼと、膨張剤とを含有し、前記加工でん粉は10~50質量%の範囲内であり、前記米粉は20~60質量%の範囲内であり、前記リパーゼは0.005~0.02質量%の範囲内であり、前記膨張剤は2.0~5.0質量%の範囲内である。
【0016】
なお、28品目のアレルゲンは、特定原材料(義務表示)の7品目である、えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)、及び、特定原材料に準ずるもの(推奨表示)の21品目である、アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン、である。
【0017】
「28品目アレルゲンを使用せず」とは、菓子用プレミックスに28品目のアレルゲンを実際に使用していないことを意味する。「28品目アレルゲンを実質的に使用せず」とは、本願発明の効果である「ソフトでしっとり食感、口溶け及び冷凍耐性が良いスポンジケーキ等を作製することができる」を阻害しない範囲内で且つアレルギーを発症しない程度の微量であれば含まれていてもよいという意味である。
【0018】
以下、各構成要素を説明する。
【0019】
(米粉)
米粉は、アレルゲンを含まない穀物の代表例である。米粉の品種は特に限定されないが、例としては、ミズホチカラ、ヒノヒカリ、ツクシホマレ、アキマサリ、こなだもん、春陽、ホシユタカ等を挙げることができる。なお、米粉は、公知の製粉方法や粉砕機を用いて得ることができ、粉砕機としては、例えば高速回転衝撃式粉砕機、気流粉砕機、又は胴搗式粉砕機等を挙げることができる。
【0020】
米粉は、菓子用プレミックス中に20質量%以上60質量%以下の範囲内で含まれる。この範囲内とすることにより、ソフトでしっとり食感、口溶け及び冷凍耐性が良好の菓子を好ましく得ることができる。米粉の含有量が20質量%未満では、ソフトでしっとり食感が劣ったりボリュームが小さくなったりすることがあり、米粉の含有量が60質量%を超えると、口溶けが劣ることがある。
【0021】
米粉の澱粉損傷度や平均粒径は特に限定されないが、澱粉損傷度については、3%~12%程度のものは入手も容易で好ましく用いることができる。平均粒径は、製粉の程度によって任意に調製できるので特に限定されないが、あまり大きいとザラザラ感が出てしまうこともあり、食感的には75μm以下程度の平均粒径であればよい。澱粉損傷度は、本件出願人が既に出願した特開2015-42149号公報の第0030~0031段落に記載の公知の方法、すなわちStarch Damage Assay Kit(Megazyme社)を使用して後述の実験例に記載した方法で測定して得ることができる。平均粒径も同公開公報の第0032段落に記載の公知の方法で測定することができる。
【0022】
(加工でん粉)
加工でん粉は、RVAの試験結果が[最低粘度/最高粘度]=0.79以上、1以下であるものが望ましい。[最低粘度/最高粘度]が0.79未満では、食感もねちゃつくスポンジケーキ等の菓子になってしまうことがある。なお、[最低粘度/最高粘度]は1を超えることはない。
【0023】
加工でん粉の種類については、[最低粘度/最高粘度]が0.79以上1以下であるものであれば、原料、架橋等、特に限定されない。例えば、加工前のでん粉原料として、ホワイトソルガム、コーン、甘藷、タピオカ、馬鈴薯等の各種のものを挙げることができ、それらから得られるでん粉を処理した加工でん粉を適用できる。具体的な加工でん粉(いずれも商品名)として、811starch(Ingredion Japan製)、バッタースターチM(松谷化学工業株式会社製)、PURITY87(Ingredion Japan製)、パインベークCC(松谷化学工業株式会社製)を用いることができる。
【0024】
加工でん粉は、菓子用プレミックス中で、10~50質量%の範囲内であることが、ソフトでしっとり食感、口溶け特性が向上するので望ましい。加工でん粉の含有率が10質量%未満であると、口溶けが劣ることがあり、加工でん粉の含有率が50質量%を超えると、ボリュームと口溶けが劣ることがある。なお、より好ましい範囲は、10~30質量%である。
【0025】
(加工でん粉のRVA試験)
本発明者は、加工でん粉の種類によって菓子の特性結果が異なることについて種々検討している過程でRVA試験をしたところ、ソフトでしっとり食感、口溶け及び冷凍耐性が良いスポンジケーキを作製できるものと、作製できないものとを区分けできる関係性があることを突き止めた。RVA試験の評価の模式図を図1に示す。なお、RVA試験とは、ラピッド・ビスコ・アナライザー(RVA)を用いて行う試験のことで、米国穀物化学会(AACC)の公定法でもある。RVA試験の測定原理は、温度プロファイルの下で、水に懸濁させたでん粉の粘度特性をパドル(羽根)の回転により測定し、そのときの粘度をRVUで表すラピッド・ビスコ・アナライザーを用いたものである。サンプルの粘度が高い場合はパドルに加わる抵抗が強くなり、粘度が低い場合には抵抗が低くなることを利用している。ここでは、Perten Istruments社製のラピッド・ビスコ・アナライザーを用いて行い、試験溶液は、測定用アルミニウムカップに精製水25mLを入れ、測定サンプルを適量(例えば2~6g)投入して粘度調製した。温度プロファイルは、撹拌しながら50℃から92℃に至る連続的な加温状態を2.8℃/分にて与え、さらに92℃で15分間保持した。
【0026】
本発明では、後述の実施例に記載のように、RVA試験で得られる最高粘度と最低粘度の関係を特定して評価し、[最低粘度/最高粘度]が0.79以上1以下であるものであれば、本発明の目的を達成できることを見出した。
【0027】
(リパーゼ)
リパーゼは、0.005~0.02質量%(=50~200ppm)の範囲内で含まれることが、冷凍耐性やソフトさの特性向上の点で望ましい。リパーゼの含有量が0.005質量%未満では、冷凍耐性、食感改善効果が付与されないことがあり、リパーゼの含有量が0.02質量%を超えると、粘度が低くなり、ボリュームが小さくなることがあるとともに、風味についても、やや劣る傾向にある。
【0028】
(膨張剤)
膨張剤の種類は特に限定されないが、例えば、ガス発生剤として作用する、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム等が挙げられ、酸性剤として作用する、フマル酸、フマル酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸水素カリウム、第一リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、グルコノデルタラクトン等が挙げられる。膨張剤として、前記したガス発生剤として作用する1種又は2種以上の膨張剤を任意に含有させてもよいし、又は、前記したガス発生剤として作用する膨張剤と、酸性剤として作用する膨張剤とを、それぞれ1種又は2種以上任意に含有させてもよい。
【0029】
膨張剤は、菓子用プレミックス中で、2.0~5.0質量%の範囲内で含まれていることが、ボリューム、焼き色、食感の特性向上の点で望ましい。膨張剤の含有率が2.0質量%未満であると、ボリューム、しっとり食感、ソフトな食感が劣ることがあり、膨張剤の含有率が5.0質量%を超えると、ボリューム、口溶け、風味が劣ることがある。なお、より好ましい範囲は、2.0~3.0質量%であり、しっとり食感、ソフトな食感、口溶け特性をより向上させることができる。
【0030】
(その他)
菓子用プレミックスには、必要に応じて糖類や増粘剤を含有させてもよい。糖類を含有させる場合の糖類の種類と含有量は特に限定されないが、目的とする菓子の品質に応じて適宜選択できる。増粘剤を含有させる場合の増粘剤の種類と含有量も特に限定されないが、増粘剤を含有させることにより得られる効果に応じて適宜選択できる。菓子用プレミックスには、さらに、食塩、味付け剤、乳化剤、香料、着色料等の副原料を必要に応じて含有させることができ、その種類は特に限定されない。なお、味付け剤としては、所望とする菓子の種類に応じて選択して用いることができ、例えば、ココアパウダー等を挙げることができる。
【0031】
菓子用プレミックスは、上記した28品目の大アレルゲン(アレルギー原料)を含まない。本発明に係る菓子用プレミックスは、これら28品目のアレルゲンを含まないでも、ソフトでしっとり食感、口溶け及び冷凍耐性が良いスポンジケーキ等の菓子を作製することができる点で、従来にない菓子用プレミックスである。
【0032】
[菓子の製造方法]
本発明に係る菓子の製造方法は、上記本発明に係る菓子用プレミックスに、水とオリゴ糖とサラダ油と起泡性製剤を添加し、混合して生地を調製し、該生地を窯で加熱調理して菓子を製造する方法である。この方法により、28品目アレルゲンを使用しない菓子用プレミックスを用いるので、ソフトでしっとり食感、口溶け及び冷凍耐性が良いスポンジケーキ等を得ることができる。
【0033】
なお、油脂は、28品目のアレルゲンに含まれる乳製品(バター、マーガリン等)以外のものであれば、常温(20℃)で液状の油脂(液状油脂)でも、常温で固形状の油脂(固形状油脂)でもよく、特に限定されずに使用することができる。液状油脂としては、例えば、菜種、コーン、紅花、綿実等の油糧種子原料から圧搾又は抽出して精製した各種の植物油等を挙げることができるが,これらに限定されない。固形状油脂としては、例えば、パーム等、比較的融点の高い油脂を含む油糧種子原料から抽出し精製した植物油脂等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0034】
水についても特に限定されない。なお、「水」の概念には、水のほか、他の成分と水との混合物も含まれる。例えば、純水、上水等の水、炭酸水等の混合水等を挙げることができる。これら以外では、ライスミルク、ココナッツミルク等も使用可能である。
【0035】
菓子用プレミックスの生地は、菓子用プレミックスに油脂や水等を混合して調製され、必要に応じて粘度が調整される。その後、生地を加熱調理することにより菓子を得ることができる。製造される菓子としては、スポンジケーキ、ロールケーキ等を挙げることができる。本発明では、上記した菓子用プレミックスを用いることにより、ソフトでしっとり食感、口溶け及び冷凍耐性が良いスポンジケーキ等の菓子を製造することができる。
【実施例
【0036】
本発明について以下に詳しく説明する。本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0037】
[実験1]
実験1では、菓子用プレミックスについて、加工でん粉の種類を変えた。加工でん粉の種類(9種類)を変えた菓子用プレミックス粉を、米粉(ミズホチカラ)60質量%、加工でん粉(表1参照)20質量%、砂糖を15質量%、膨張剤(奥野製薬工業株式会社製)4質量%、増粘剤(株式会社キミカ製)0.3質量%、リパーゼ100ppmとして配合した。この菓子用プレミックス粉300質量部、水225質量部、オリゴ糖68.5質量部、サラダ油55質量部、起泡性製剤22.75質量部を配合して生地を調製した。調整した生地300gを5号型に入れ、180℃/150℃の菓子窯で30分焼成して菓子を作製した。
【0038】
得られた生地の食感を官能評価した。食感は、しっとり食感、ソフトさ、口溶けの良さを総合評価し、表1に示した。食感の評価は、「○」は好ましい場合とし、「△」はやや好ましい場合とし、「×」は好ましくない場合とした。「○」と「△」は製品として許容できるものである。
【0039】
表1は、使用した加工でん粉の種類と、各加工でん粉を用いて作製した生地の食感を示している。本発明者は、加工でん粉の種類によって生地の食感が異なることに着目した。そこで、表1に示した9種類の加工でん粉(いずれも商品名)についてRVA試験を試みた。
【0040】
【表1】
【0041】
RVA試験は、「加工でん粉のRVA試験」の欄で説明したとおりの方法で行った。試験溶液は、測定用アルミニウムカップ(容積約70mL)に精製水25mLを入れ、測定サンプルをその種類に応じて適した適量(例えば2~6g)を投入して調製した。このRVA試験において、温度及び撹拌プロファイルは、(a)温度50℃、回転速度960rpmで10秒間撹拌し、(b)温度50℃、回転速度160rpmで4分50秒間撹拌し、(c)温度50℃から92℃まで2.8℃/分で昇温しながら、回転速度160rpmで15分間撹拌し、(d)温度92℃、回転速度160rpmで15分間撹拌し、(e)温度92℃から50℃まで2.8℃/分で降温しながら、回転速度160rpmで15分間撹拌し、(f)温度50℃、回転速度50rpmで撹拌し、これら(a)~(f)をその順で処理するプロファイルである。
【0042】
表1には、RVA試験で得られた「最高粘度とその時間」と「最低粘度とその時間」を表1に示した。表1の結果より、ブレークダウンの値(最高粘度と最低粘度との差)が大きいものがよい結果にはならなかった。そこで、「最低粘度/最高粘度」の値で比較したところ、その値が0.79以上の場合、食感の良いスポンジ生地になった。その理由は、値が0.79以上のものは、でん粉がスポンジ生地内の気泡を保持し続けるため、食感の良いスポンジ生地ができると考えられる。一方、その値が0.79未満のものは食感が悪かった。その理由は、値が0.79未満のものは、最高粘度と最低粘度との差が大きく、スポンジ生地内の気泡を保持していたでん粉が骨格を形成しなくなったため、スポンジ生地内の気泡が消泡してしまい、食感が悪くなってしまったと考えられる。
【0043】
[実験2]
実験2では、菓子用プレミックス粉について、米粉と加工でん粉の配合比を変えた。米粉(ミズホチカラ)と加工でん粉(PURITY87、Ingredion Japan製)の配合比を表2に示すように変化させた。それ以外は、砂糖15質量%、膨張剤(奥野製薬工業株式会社製)4質量%、増粘剤(株式会社キミカ製)0.3質量%、リパーゼ100ppmとして配合し、No.2-1~No.2-8とした。この菓子用プレミックス粉300質量部、水225質量部、オリゴ糖68.5質量部、サラダ油55質量部、起泡性製剤22.75質量部を配合して生地を調製した。調整した生地300gを5号型に入れ、180℃/150℃の菓子窯で30分焼成して菓子を作製した。
【0044】
得られた生地の食感を実験1と同様の基準で評価し、表2に示した。表2の結果より、米粉0~10質量%で加工でん粉70質量%の場合は、生地が硬くなり、ソフトさと口溶けが劣るものとなった。一方、米粉が70質量%では、ねちねち食感となり、口溶けも劣るものとなった。この結果より、米粉は20~60%で好ましく、加工でん粉は10~50質量%で好ましいことがわかった。
【0045】
【表2】
【0046】
[実験3]
実験3では、菓子用プレミックス粉について、膨張剤の配合量を変えた。米粉(ミズホチカラ)53~60質量%、加工でん粉(PURITY87、Ingredion Japan製)20質量%、砂糖15質量%、増粘剤(株式会社キミカ製)0.3質量%、リパーゼ100ppm、膨張剤(奥野製薬工業株式会社製)を表3に示す量(質量%)で配合し、No.3-1~No.3-6とした。この菓子用プレミックス粉300質量部、水225質量部、オリゴ糖68.5質量部、サラダ油55質量部、起泡性製剤22.75質量部を配合して生地を調製した。調整した生地300gを5号型に入れ、180℃/150℃の菓子窯で30分焼成して菓子を作製した。
【0047】
得られた生地の食感を実験1と同様の基準で評価し、表3に示した。表3の結果より、膨張剤0~1.0質量%の場合は、キメがつまり、しっとり食感とソフトさが劣るものとなった。一方、膨張剤7.0質量%の場合は、火通りが良くなり、もろく口溶けの悪い食感になった。この結果より、膨張剤は2.0~5.0%で好ましいことがわかった。
【0048】
【表3】
【0049】
[実験4]
実験4では、菓子用プレミックス粉について、リパーゼの配合量を変えた。米粉(ミズホチカラ)60質量%、加工でん粉(PURITY87、Ingredion Japan製)20質量%、砂糖15質量%、膨張剤(奥野製薬工業株式会社製)4質量%、増粘剤(株式会社キミカ製)0.3質量%、リパーゼを表4に示す量(ppm)で配合し、No.4-1~No.4-5とした。この菓子用プレミックス粉300質量部、水225質量部、オリゴ糖68.5質量部、サラダ油55質量部、起泡性製剤22.75質量部を配合して生地を調製した。調整した生地300gを5号型に入れ、180℃/150℃の菓子窯で30分焼成して菓子を作製した。
【0050】
得られた生地の食感を実験1と同様の基準で評価し、表4に示した。冷凍耐性については、冷凍して1週間後に解凍したものについて食感(しっとり食感、ソフトさ、口溶けの良さ)を評価し、併せて表4に示した。冷凍耐性の評価は、「○」は好ましい食感の場合とし、「△」はやや好ましい食感の場合とし、「×」は好ましくない食感の場合とした。「○」と「△」は製品として許容できるものである。
【0051】
表4の結果より、リパーゼを含めない場合は、食感、冷凍耐性ともやや不十分であった。一方、リパーゼ400ppmの場合は、食感、冷凍耐性ともやや不十分となった。この結果より、リパーゼは50~200ppm(=0.005~0.02質量%)で好ましいことがわかった。
【0052】
【表4】

図1