(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】浮遊する移動体、この移動体を備えた撹拌装置。
(51)【国際特許分類】
B01F 33/25 20220101AFI20231206BHJP
H02K 7/00 20060101ALI20231206BHJP
B01F 33/452 20220101ALI20231206BHJP
【FI】
B01F33/25
H02K7/00 Z
B01F33/452
(21)【出願番号】P 2019088728
(22)【出願日】2019-05-09
【審査請求日】2022-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(73)【特許権者】
【識別番号】500273355
【氏名又は名称】有限会社マグネオ技研
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤川 太郎
(72)【発明者】
【氏名】秋山 慎一
(72)【発明者】
【氏名】松井 里美
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-204938(JP,A)
【文献】特開昭52-133173(JP,A)
【文献】特開2007-083168(JP,A)
【文献】特開2002-018475(JP,A)
【文献】実開平03-112267(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 33/25
B01F 33/45 - 33/453
B01F 27/00 - 27/96
B01F 35/21 - 35/33
H02K 7/00
A01K 93/00
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中にあっては水密もしくは気体中であっては気密の円筒形または球形の回転殻と、
該回転殻内に格納される回動制御装置と、を備え、
該回動制御装置が、
前記円筒の軸方向もしくは前記球の中心を通る軸方向に延在する前記回転殻の回転軸と、
該回転軸を回転させる駆動部と、を有し、
前記回転殻と前記回動制御装置とが前記回転軸によって軸架されている、
液体中もしくは気体中に浮遊して移動する移動体。
【請求項2】
前記回転軸の回転数および回転したときの前記回転殻と液体もしくは気体との間の抵抗力に応じて、前記回転殻と前記回動制御装置の重量および前記回転軸回りの形状を調整して前記回転軸回りの慣性モーメントを設定する、ことを特徴とする請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
前記回転殻の外殻には前記回転軸に対して対称位置となるように複数の羽根が配設されている、ことを特徴とする請求項1または2に記載の移動体。
【請求項4】
前記回転殻内には、前記移動体が浮遊する液体もしくは気体に応じて、前記移動体が浮力を有するように作動気体が封入されている、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の移動体。
【請求項5】
前記回動制御装置が、
前記駆動部の駆動を制御する制御部と、
該制御部への信号を受信する受信部と、
前記制御部と該受信部への電力を供給する電源部と、を備え、
前記回転殻外から送信される前記信号に基づいて、前記駆動部を駆動させる、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の移動体。
【請求項6】
前記電源部には前記回転殻外から非接触で電力が供給される、ことを特徴とする請求項5に記載の移動体。
【請求項7】
前記回動制御装置が、前記移動体の加速度、地磁気、前記回転殻内の温度、湿度、気圧を計測する計測装置と、
該計測装置が取得したデータを前記回転殻外へ送信する送信部と、を備える、ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の移動体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の前記移動体が、前記液体が充填された容器内に配置された撹拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中もしくは気体中を浮遊する移動体に関し、さらにはこの移動体を備えた撹拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体中または気体中を浮遊し、かつ移動する移動体は、広汎な利用が想定されることから、様々な技術が提案されている。例えば、潜水艦・深海探査機や気球・飛行船に係る浮遊かつ移動技術が該当する。これらの移動体において移動するための動力を得るには、外側に設けられたプロペラ等の可動部分を備えることが一般的である。この構成では、可動部分と接触する軸受やシール等の静止部分との間に摩擦・摩耗が生じ、この摩擦・摩耗によって、シーリングの劣化や、摩耗粉の発生のおそれがあった。そして、シーリングの劣化は移動体に対して外的環境の影響を及ぼし、摩耗粉の発生は逆に外的環境に対して影響を及ぼす可能性があった。
【0003】
移動体の外環境の影響を受けない、もしくは外環境に影響を与えない、という特徴を有することは浮遊移動体の利用範囲をさらに広げる可能性がある。例えば、異物の混入を防止することが要求される医薬・バイオ・ファインケミカルなどの製造における撹拌・混合において、この特徴を活かした浮遊移動体を撹拌機とすることで高品質の製造が可能となる(特許文献1参照)。
【0004】
一方、狭い場所で作業を行なうロボットや、安全性や気密性の要求が高いクリーンルーム内や水中内での作業を行なうロボット、家庭内で人と共存できる機動性の高いパーソナルロボットなどの走行装置として、密閉した外殻を有した移動体の技術が提案されている(特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-020387
【文献】特開平07-285475
【文献】実用新案登録第3116275号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1にて開示された非接触撹拌装置の技術は、撹拌槽の外部に動力源を配し、バルク超伝導体にて槽内の撹拌翼を磁気浮上させるとともに回転させるものであり、期待される作用効果を奏するものの、材料・設備等が複雑になる可能性があった。
【0007】
また、特許文献2,3にて開示された密閉した外殻を有した移動体の技術は、密閉容器の内部に、外殻とは独立した運動体を備えることで、移動体自身の重心移動、揺動を利用して推進力を得るものであり、液体中・気体中における浮遊移動に対して効率的とはいえなかった。
【0008】
本発明は、前記背景におけるこれらの実情に鑑みてなされたものであり、液体中もしくは気体中を浮遊する移動体、さらにはこの移動体を備えた撹拌装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、液体中もしくは気体中に浮遊して移動する移動体である。本発明の一態様は、液体中にあっては水密もしくは気体中であっては気密の円筒形または球形の回転殻と、該回転殻内に格納される回動制御装置と、を備え、該回動制御装置が、前記円筒の軸方向もしくは前記球の中心を通る軸方向に延在する前記回転殻の回転軸と、該回転軸を回転させる駆動部と、を有し、前記回転殻と前記回動制御装置とが前記回転軸によって軸架されている構成としている。
【0010】
前記構成は、回りにくさの指標となる慣性モーメントに注目して創出された。例えば、一つのスクリューを備えたモーターボートを考えると、スクリューと比べて船体の慣性モーメントは極めて大きい。そして、船体を回転させるためには水の抵抗も負荷されることから、船体の回りにくさはさらに増加する。そのため、スクリューを回転させても、船体は回転せず、スクリューの翼が水をかくことで推進力を得ている。
【0011】
本構成は、この考え方を応用し、水密・気密容器となる回転殻とこの回転殻と回転軸のみで連結された回動制御装置とし、両者の慣性モーメント(回りにくさ)、角運動エネルギの差によって、回転殻(外殻)が回動制御装置(中身)よりも絶対座標において高回転となるようにしている。
【0012】
このような構成とすることで、浮遊移動体は外環境に対して露出する部分が回転殻(外殻)のみとなり、外殻の材料選択だけで容易に耐環境性を備えることができる。そして、回転殻の回転によって、外環境となる液体もしくは気体との摩擦を生じ、推進力や撹拌力を発生させることができる。
【0013】
さらに、この構成では、可動部分と接触する軸受やシール等の静止部分との間に摩擦・摩耗が生じることがないため、摩擦・摩耗によるシーリングの劣化や、摩耗粉の発生のおそれを排除することができる。すなわち、シーリングの劣化による移動体への外的環境からの悪影響、摩耗粉の発生による外的環境への悪影響を排除することができる。
【0014】
前記態様の移動体において、前記回転軸の回転数および回転したときの前記回転殻と液体もしくは気体との間の抵抗力に応じて、前記回転殻と前記回動制御装置の重量および前記回転軸回りの形状を調整して前記回転軸回りの慣性モーメントを設定する構成とすることができる。
【0015】
前記したように、相互に回転する回動制御装置(中身の駆動部)と回転殻とは、絶対座標系において、異なる回転数となり、回転方向も異なる場合がある。ここで、「回転数」「回転方向」を決定するのは、1)回転する回転殻と周囲の流体間の抵抗、2)モータの駆動力、3)回転殻と回動制御装置の回転軸回りの慣性モーメント、となる。本構成によれば、浮遊移動体を使用する環境および要求される回転数に応じて、回転殻もしくは回動制御装置のいずれかにウェイト(錘)を装着して質量を増加させることや、軽量化を図ることや、回転軸回りの搭載機器の配置の変更や、外形状を変えることで対応することができる。
【0016】
前記態様の移動体において、前記回転殻の外殻には前記回転軸に対して対称位置となるように複数の羽根が配設されているように構成することができる。
【0017】
回転殻と周囲流体との摩擦だけでは移動の推進力を多く得られない。この構成によれば、回転殻に羽根を付加することで、移動もしくは撹拌の性能を向上させている。羽根を装着する箇所は、回転殻の外側でも、上側・下側でも良い。例えば、ラジアルタービン状の羽根を回転殻の上もしくは下に取り付けることでも、外側に羽根を付加することができる。また羽根の装着を対称位置とすることで回転体のバランスをとることができる。
【0018】
前記態様の移動体において、前記回転殻内には、前記移動体が浮遊する液体もしくは気体に応じて、前記移動体が浮力を有するように作動気体が封入されているように構成することができる。
【0019】
この構成は、浮遊移動体の質量と外環境となる気体もしくは液体の密度から、適宜回転殻内へ封入する作動気体の種類と注入量を設定した上で、封入することで、回転による推進力が無い状態においても所望の浮遊状態を実現することができる。この構成によれば、気体もしくは液体内において浮遊移動体を滞留させることができるため、動力推進のためのエネルギ消費をセーブすることができる。また、気体もしくは液体に流れがある場合は、その流れに乗せた浮遊移動をさせることもできる。
【0020】
なお、この構成に係る浮遊移動体を液体中において使用する場合には、漏れ出しても液体と反応しない不活性ガスや溶解しないガスを適用することができる。さらに封入する作動気体にはシール効果を向上させるように分子量の大きな気体を適用しても良い。
【0021】
前記態様の移動体において、前記回動制御装置が、前記駆動部の駆動を制御する制御部と、該制御部への信号を受信する受信部と、前記制御部と該受信部への電力を供給する電源部と、を備え、前記回転殻外から送信される前記信号に基づいて、前記駆動部を駆動させるように構成することができる。
【0022】
この構成によれば、外部からの無線通信によって浮遊移動体の回転を制御することができる。そして、回転駆動を制御することで浮遊移動体の移動や位置の保持等の運動を実現することができる。なお、電源部については通常の二次電池等を搭載することもできるし、回転殻表面、もしくは透明の回転殻としたときに回動制御装置の外面に太陽電池を配設することで電力を供給する形態としても良い。
【0023】
前記態様の移動体において、前記電源部には前記回転殻外から非接触で電力が供給されるように構成することができる。
【0024】
本構成は、いわゆるワイヤレス電力伝送であり、消費に応じて交換が必要な電池等の交換部品の交換時期を長期化して、メンテナンスフリーに近づけることができる。なお、ワイヤレス電力伝送の方式については特に限定はされず、磁気結合・電界結合・エバネセント波式などの非放射型であっても、レーザー・マイクロ波・超音波式などの放射型であっても、どちらでも良く、浮遊移動体が使用される環境等に応じて選択することができる。また、回転殻の外表面に太陽電池を配設して、外側から光を照射することで、電力を発生させるような構成とすることもできる。
【0025】
前記態様の移動体において、前記回動制御装置が、前記移動体の加速度、地磁気、前記回転殻内の温度、湿度、気圧を計測する計測装置と、該計測装置が取得したデータを前記回転殻外へ送信する送信部と、を備えるように構成することができる。
【0026】
この構成によれば、浮遊移動体の次の状態を確認することができる。すなわち、移動体の加速度では、解析結果で回転数を算出できるとともに、初期の位置座標と加速度の積分によって、液体中、気体中の位置を演算結果として算出することができる。地磁気では自己位置の推定ができる。回転殻内の温度では、多少のタイムラグはあるが、周囲温度の変化を取得できる。回転殻内の湿度、気圧では、浮遊移動体の水密・気密状態を取得できる。これらの物理量は、制御のフィードバック量、アラート情報の発信、外環境の状況等に利用することができる。なお、データの受送信については、電波によるものでも可視光通信でも良く、特に限定はされない。
【0027】
前記態様の移動体を前記液体が充填された容器内に配置された撹拌装置とすることができる。
【0028】
本構成は、浮遊移動体を、撹拌装置として適用するものである。医薬・バイオ・ファインケミカルなどの製造における撹拌は、複数種の気体・流体・固体が、一様に分散・混合することが要求される。また、撹拌の際の異物混入を極力防止することも求められている。本構成にかかる浮遊移動体は、従来技術の撹拌装置と異なり、撹拌槽内を自由に浮遊移動しながら撹拌できるため、槽内の撹拌対象を一様に分散・混合させることが容易になる。
【0029】
そして、この構成では、可動部分と接触する軸受やシール等の静止部分との間に摩擦・摩耗が生じることがないため、摩擦・摩耗による、シーリングの劣化や、摩耗粉の発生のおそれを排除することができる。したがって、シーリングの劣化による移動体への外的環境からの悪影響、摩耗粉の発生による外的環境への悪影響を排除することができる。また、浮遊移動体は自立して浮遊移動をすることもできるため、どのような容器(撹拌槽)であっても、移動体自体を容器内に挿入することで容器内の液体を撹拌することができる。
【0030】
前記態様の撹拌装置において、前記回動制御装置が第1磁石を備え、
該第1磁石に対応するように前記容器外に第2磁石が配設され、該第1磁石と該第2磁石との反発力もしくは吸引力によって前記浮力を調整するように構成することができる。
【0031】
この構成によれば、撹拌槽となる容器外と、回動制御装置とに磁石を備えることで、気体中もしくは液体中において浮遊移動体の位置を保持したり、撹拌槽の上面・底面・側壁への接触を防止したり、外部から所定の位置に移動させたり、することができる。なお、それぞれ装着される相対的な磁極の関係、すなわち、同極同士(反発)か異極同士(吸引)かは、前記した目的及び移動体自体の諸元に応じて適宜設定することができる。それぞれの磁石の配設箇所についても底面・上面・側面等、浮遊移動の要求に応じて適宜設定することができる。また、磁石については永久磁石であっても電磁石であってもいずれでも適用することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、液体中もしくは気体中を浮遊する移動体、さらにはこの移動体を備えた撹拌装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施形態に係る浮遊移動体の側断面を示す全体説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る容器内における浮遊移動体の動作を示す説明図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る羽根形状の一例である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る移動機構の例である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る移動機構の例である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る磁石の設置例である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る電力伝送の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら、本発明の液体中もしくは気体中を浮遊する移動体、この移動体を備えた撹拌装置に係る好適な実施の形態について説明する。以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。
【0035】
本発明に係る一態様である液体中もしくは気体中に浮遊して移動する移動体は、液体中にあっては水密もしくは気体中であっては気密の円筒形または球形の回転殻と、該回転殻内に格納される回動制御装置と、を備え、該回動制御装置が、前記円筒の軸方向もしくは前記球の中心を通る軸方向に延在する前記回転殻の回転軸と、該回転軸を回転させる駆動部と、を有し、前記回転殻と前記回動制御装置とが前記回転軸によって軸架されている構成であれば、その具体的態様はいかなるものであっても構わない。
【0036】
(全体構成の説明)
はじめに、
図1,2を参照して本発明に係る一実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る浮遊移動体の側断面を示す全体説明図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る容器内における浮遊移動体の動作を示す説明図である。なお、以下の説明では、移動体を液体が充填された容器内に配設した場合について説明するが、移動体自体は容器内で使用することに限定されないことは言うまでもなく、海中や空気中においても適用できる。
【0037】
図1,2を参照すると、本実施形態は、容器5の液体6中に浮遊して移動する移動体1である。移動体1は、水密の円筒形の回転殻100と、この回転殻100内に格納される回動制御装置200と、を備えている。回動制御装置200は、円筒形状の回転殻100の軸方向に延在する回転軸212と、回転軸212を回転させる駆動部210と、を有している。そして、回転殻100と回動制御装置200とが回転軸212によって軸架されている。
【0038】
回転殻100は、液体中にあっては水密もしくは気体中であっては気密の密閉された容器となっている。回転殻100には、外環境の影響を受けない材料を適宜使用することができ、金属系であっても樹脂系であっても良い。外部との通信や電力伝送のために、回転殻100の内外を電波もしくは光を容易に透過させるように、材料を選択することもできる。
【0039】
回転殻100のサイズは使用される環境に応じた移動体1の浮力を調整するために設定され、回転殻100内には外環境に応じた作動気体を封入することができる。
【0040】
回転殻100の円筒の側面には複数の羽根110が備えられている。羽根110は、回転殻100が回転することで周囲の流体を撹拌することができる。また、羽根110に機軸方向の傾きを持たせることで、機軸方向上方もしくは下方への推進力を得ることができる。羽根110の位置は、円筒の側面への配置に限定されず、上面、下面等に配設することもできる。また、羽根110にアクチュエータを備えて、傾きをつけたり、折りたたんだりできる可動翼とすることもできる。このアクチュエータとしては、例えば形状記憶合金を羽根110内に配設して、回動制御装置200からの指令で駆動させることができる。
【0041】
回動制御装置200には、前記した駆動部210と、制御部220と、受送信部230と、計測部240と、電源部250とが枠体201に搭載されている。さらに枠体201の下面には第1磁石50が、側面にはセンサ242が配設されている。
【0042】
駆動部210は、電動モータであり、ロータとなる回転軸212と、この回転軸212を軸支する軸受215と、ステータ216を備えている。駆動部210は電力の供給によって回転軸212と、この回転軸212に軸架されている回転殻100を回転駆動させる。
【0043】
回転軸212の回転殻100とステータ216との間には継手214が設けられている。継手214は、ユニバーサルジョイント等を適用することができ、回転殻100の回転軸に対して回動制御装置200の回転軸が傾きを持っていても回転殻100に動力を伝達できる構成としている。また、継手214にアクチュエータを付加して傾きを操作する構成とすることもできる。このアクチュエータとしては、例えば形状記憶合金を継手214内に配設して、回動制御装置200からの指令で駆動させることができる。
【0044】
制御部220は、駆動部210の回転を制御するように電力の供給を行う。また、制御部220は、可動翼とした場合の羽根110の駆動、継手214の駆動を行う。さらに、図示しないバランスウェイト等を枠体201に移動可能に配置して、このバランスウェイト等の位置を操作することで移動体1の姿勢安定を行うことができる。
【0045】
制御部220は、マイクロコンピュータで構成されており、演算を行うプロセッサCPU、制御プログラムおよび各種データのリスト、テーブル、マップを格納するROM、およびCPUによる演算結果などを一時記憶するRAMを有する。制御部220は、不揮発性のメモリを備えており、次回の運転サイクルでの制御に必要なデータなどをこの不揮発性メモリに保存する。不揮発性メモリは、書き換え可能なROMであるEEPROM、または車両の電源がオフにされていても保持電流が供給されて記憶を保持するバックアップ機能付きのRAMで構成することができる。
【0046】
受送信部230は、外部から送信される回転の開始・中止・速度、移動体1の移動、姿勢等の指令を信号として受信し、また駆動部210の電力供給状況、その他センサ242による計測データ等を信号として送信する。送信方法・受信方法は特に限定されず、電波、可視光、赤外光、超音波などを適用することができる。
【0047】
また、受送信部230は、
図2に示す電力伝送装置10から電力の受け側としても良い。ワイヤレス電力伝送の方式については特に限定はされず、磁気結合・電解結合・エバネセント波式などの非放射型、レーザー・マイクロ波・超音波式などの放射型等を適宜選択することができる。
【0048】
計測部240は、移動体1の加速度、地磁気、回転殻100内の温度、湿度、気圧等を計測する複数のセンサ242が取得したデータを、受送信部230を介して回転殻100の外へ送信する。前記したように、移動体の加速度では、解析結果で回転数を算出できるとともに、初期の位置座標と加速度の積分によって、液体中、気体中の位置を演算結果として算出することができる。地磁気では自己位置の推定ができる。回転殻内の温度では、多少のタイムラグはあるが、周囲温度の変化を取得できる。回転殻内の湿度、気圧では、浮遊移動体の水密・気密状態を取得できる。これらの物理量は、制御のフィードバック量、アラート情報の発信、外環境の状況等に利用することができる。
【0049】
電源部250は、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム蓄電池、金属リチウム電池、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンポリマー二次電池、ナトリウムイオン電池などの二次電池(蓄電池、充電池)や燃料電池、太陽電池を適用することができ、特に限定されない。外部からのワイヤレス電力伝送によって、直接電力を供給する構成としても良い。
【0050】
第1磁石50は、
図2に示す容器5に配設された第2磁石60との引力もしくは斥力(MF1)によって、浮遊移動体の位置を保持したり、撹拌槽の上面・底面・側壁への接触を防止したり、外部から所定の位置に移動させたり、することができる。第1磁石50と第2磁石60との相対的な磁極の関係、すなわち、同極同士(反発)か異極同士(吸引)かは、前記した目的及び移動体自体の諸元に応じて適宜設定することができる。また、複数の目的を達成できるように磁力の強度も可変としてもよい。磁石の種類については特に限定はなく、永久磁石であっても電磁石であってもいずれでも適用できる。
【0051】
容器5には、液体6が充填されている。撹拌槽を例にとると、容器5が撹拌槽であり、液体6は被撹拌物に相当する。被撹拌物は、医薬・バイオ・ファインケミカルなどの製造における素材となるものであり、複数種の気体・液体・粒状体が該当する。
【0052】
図2を参照すると、移動体1は液体6が充填された容器5内を浮遊しており、回動制御装置200内の駆動部216を作動させることで、移動体1は、軸Zを回転軸として回転Rを行う。
【0053】
移動体1の製作では、回転殻100内に回動制御装置200を封入するが、例えば
図1の回転殻100の上部を蓋状にして適宜取り外しができるようにしてもよい。また、回転殻100の一部にキャップ状の気体封入部を設けても良く、特に限定はされない。
【0054】
(動作原理の説明)
以下、回転Rについて主に
図3を参照して説明する。
図3は、本発明の動作原理の説明図である。
図3を参照すると、説明を簡易化するために、(a)は回動制御装置200を円柱とし、(b)は回転殻100を円筒と見做している。
図3及び以下の式において、それぞれの記号は、 I:慣性モーメント、 Z:回転軸、 a:外径、 M:質量、 F:粘性による抵抗力、 w:角速度、 K:運動エネルギ、 f:Fによって生じる回転殻100のエネルギ増加分であり、また添字の1:回動制御装置200、2:回転殻100、 z:回転軸、を表している。
【0055】
ここで、回動制御装置200(添字1)のZ軸周り慣性モーメントは、
I1Z=1/2×M1×a1
2
で表され、回動制御装置200(添字1)のZ軸周り運動エネルギは、
K1=1/2×I1Z×w1
2
で表される。
【0056】
次に、回転殻100(添字2)のZ軸周り慣性モーメントは、
I2Z=M2×a2
2
で表され、回転殻100(添字2)のZ軸周り運動エネルギは、
K2=1/2×I2Z×w2
2
で表される。
【0057】
ここで、I1Z>> I2Zの関係となるように、I1Z、I2Zを設定すると、 K1 >> K2 となる。この関係は、静止座標系のZ軸周りにおいて、回転殻100(添字2)が回動制御装置200(添字1)よりも相対的に早く回転することを意味する。
【0058】
さらに、浮遊する移動体1が流体(気体もしくは液体)中において回転状態にある場合は、回転殻100(添字2)の円筒もしくは球体の外側面もしくは付加された羽根と、流体との粘性による抵抗が生ずる。
【0059】
この抵抗力によって生ずるエネルギは、回転殻100(添字2)の運動エネルギを見かけ上大きくする側に働く。この場合には、下記の不等式が成立するように、例えば錘の搭載をすることでM1を増加させることや、外部から対象物1の回転を抑制することで、下式の関係となって、必要な外殻の回転を得ることができる。
K1 >> K2 +f(F)
【0060】
以上説明したように、相互に回転する回動制御装置200(中身の駆動部)と回転殻100とは、絶対座標系において、異なる回転数となり、回転方向も異なる場合があるものの、回転殻100を絶対座標系に対して
図3(c)に示すように移動体1を、粘性による抵抗力Fが負荷された状態で、角速度w3で回転させることができる。
【0061】
ここで「回転数」「回転方向」を決定する因子を再掲すると、1)回転する回転殻と周囲の流体間の抵抗、2)モータの駆動力、3)回転殻と回動制御装置の回転軸回りの慣性モーメント、となる。すなわち、浮遊する移動体1を使用する環境および要求される回転数に応じて、回転殻100もしくは回動制御装置200のいずれかにウェイト(錘)を装着して質量を増加させることや、軽量化を図ることや、回転軸回りの搭載機器の配置の変更や、回転殻100と回動制御装置200に配設されて相対する磁石の引斥力を調整することや、羽根の形状を変えることで対応することができる。
【0062】
(羽根形状の他の例)
図1,2では円筒状の回転殻100の外周面状に突出した羽根110の実施例を説明したが、羽根の形状はこのような形式に限定されることはない。
図4に本発明の一実施形態に係る羽根形状の他の例を示す。
【0063】
図4に示す羽根111は、いわゆる遠心羽根車であり、羽根111は回転Rを付与されると、(a)に示すように流入口INから、周囲の流体(気体もしくは液体)を内部へ流入する。そして、
図4(b)に示すように回転中心から外周に向けて翼室を広げることで半径方向の遠心流となる流入口INから流出口OUTへの流れを生じさせる。
【0064】
遠心方向の流路が同形状であるならば、流出口OUTの流れはほぼ一様な流量となり、
図2における容器5の内壁面に向い、容器5の内壁に移動体1が接触することを回避することができる。また、この遠心羽根車の形状は、回転殻100から突出した羽根と比べて、周囲流体による粘性抵抗力はモーメント長が短くなる分低くなるため、慣性モーメント設定のための調整が容易となる。
【0065】
(姿勢変更および操舵の例)
次に
図5~7を参照して姿勢変更および操舵の例について説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係る移動機構の例である。
図6は、本発明の一実施形態に係る移動機構の例である。
図7は、本発明の一実施形態に係る磁石の設置例である。
【0066】
図5を参照すると、回転軸212の回転殻100とステータ216との間に設けられている継手214にアクチュエータを付加して傾きを操作する構成としている。このアクチュエータとしては、例えば形状記憶合金を継手214内に配設して、回動制御装置200からの指令で駆動させることができる。係る構成によって、回動制御装置200の回転軸が傾きを持っていても回転殻100に動力を伝達できる。
【0067】
継手214に傾きを持たせると、回動制御装置200と回転殻100との相対的な位置関係が変わり、移動体1は新たな回転軸AR回りの振れ回り運動を開始する。質量分布を考えると、回動制御装置200の質量が支配的になるため、移動体1としての重心CGは中央から
図5における左側に移動する。羽根110による推進力は、
図5の回転軸ARに沿う方向に作用するとともに、重心CGの位置による振れ回りによって、移動体1は、姿勢を変えるとともに容器5内を移動させることができる。
【0068】
次に
図6を参照すると、例えば
図1に示す枠体201の下面に位置を移動できる錘(図示せず)を配置し、この錘を移動させることで重心CGの位置が変わり、
図5と同様な作用を実現させることができる。錘の移動手段は特に限定されないが、例えば
図5と同様な構成で機軸方向に配設された振り子状の錘をアクチュエータで移動させることができる。
【0069】
次に
図7を参照すると、容器5の外側面に第2磁石62を配設し、この第2磁石62に対応する第1磁石52を回動制御装置200の外側面に配設している。
【0070】
第1磁石52は、第2磁石62との引力もしくは斥力によって、浮遊移動体の位置を保持したり、撹拌槽の側壁への接触を防止したり、外部から所定の位置に移動させたり、することができる。第1磁石52と第2磁石62との相対的な磁極の関係、すなわち、同極同士(反発)か異極同士(吸引)かは、前記した目的及び移動体自体の諸元に応じて適宜設定することができる。また、複数の目的を達成できるように磁力の強度も可変としてもよい。
【0071】
図5,6、7にて説明したように移動体1の姿勢変更、操舵、移動を行うことにより、撹拌装置として、撹拌槽内の被混合体に対して一様な混合・撹拌を実現することができる。
【0072】
(ワイヤレス電力伝送の例)
図8を参照して、光を利用したワイヤレス電力伝送の例を説明する。
図8は、本発明の一実施形態に係る電力伝送の一例である。
【0073】
図8を参照すると、移動体1の回転殻の表面に太陽電池120を配設している。容器5には光を透過できる材料を適用し、容器5の外側には照明15を備えている。照明15によって発光された光は、太陽電池120に到達して、電気を発生させる。回転軸212を経由して、さらに図示しないスリップリング等を介することによって電源部250に蓄電することができる。
【0074】
この構成によれば、例えば、気体中にておいて移動体1を浮遊移動させる場合に、太陽光を利用してエネルギを供給することができる。
【0075】
以上説明したように、本発明は、液体中もしくは気体中を浮遊する移動体、さらにはこの移動体を備えた撹拌装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0076】
1・・・移動体
5・・・容器
6・・・液体
10・・・電力伝送装置
15・・・照明
50,52・・・第1磁石
60,62・・・第2磁石
100・・・回転殻
110・・・羽根
200・・・回動制御装置
201・・・枠体
210・・・駆動部
214・・・継手
215・・・軸受
216・・・ステータ
220・・・制御部
230・・・受送信部
240・・・計測部
242・・・センサ
250・・・電源部