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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】殺菌用液体及びその生成方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/00 20060101AFI20231206BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20231206BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20231206BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20231206BHJP
   C02F 1/48 20230101ALI20231206BHJP
   C02F 1/34 20230101ALI20231206BHJP
【FI】
A01N59/00 A
A01P1/00
A01P3/00
A01N25/04 102
C02F1/48 B
C02F1/34
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022528862
(86)(22)【出願日】2021-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2021020982
(87)【国際公開番号】W WO2021246439
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2020096108
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】515040704
【氏名又は名称】株式会社大日製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】岡 好浩
(72)【発明者】
【氏名】橋本 智裕
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-041914(JP,A)
【文献】特開2015-003297(JP,A)
【文献】特開2017-176201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺菌用液体の生成方法であって、殺菌用液体の生成装置を稼働させることにより、初期pHが5~9、導電率が2000μS/cm以下、かつ、化学的酸素要求量CODが2000ppm以下の水を流動させながら、水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、タングステン、銀、銅及び鉄のいずれかの電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構によりプラズマを発生させることによって、殺菌用液体の生成装置の稼働を停止した静置状態で活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水からなる殺菌用液体を生成することを特徴とする殺菌用液体の生成方法。
【請求項2】
前記殺菌用液体の生成直後の活性酸素種のうちの過酸化水素の濃度が30-2000ppm、ナノ粒子触媒の濃度が16ppm以上であることを特徴とする請求項1に記載の殺菌用液体の生成方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業、食品、衛生、医療等の分野において、殺菌の用途に広く利用できる殺菌用液体及びその生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液液状物質にキャビテーションを起こさせ、このキャビテーションによって発生した気泡中でプラズマを発生させることにより液状物質中にヒドロキシルラジカル(・OH)等の活性酸素種を生成させ、当該活性酸素種の酸化力によって液状物質中の微生物を殺菌する方法が提案されている(例えば、特許文献1-3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-41914号公報
【文献】特開2015-3297号公報
【文献】特開2017-176201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1-3に記載の液状物質の殺菌方法は、活性酸素種の酸化力により液状物質中の微生物を殺菌するものであるため、大きい殺菌力が得られる反面、殺菌を行う対象の液状物質を殺菌装置に直接導入する必要があるため、適用方法や用途に制約があるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記従来の液状物質の殺菌方法が有する問題点に鑑み、適用方法や用途に制約がなく、殺菌の用途に広く利用できる殺菌用液体及びその生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の殺菌用液体は、静置状態で活性酸素種及びナノ粒子触媒(ナノ粒子が凝集して2次粒子になっているものを含む。)を含有する水からなることを特徴とする。
【0007】
この場合において、前記殺菌用液体の生成直後の活性酸素種のうちの過酸化水素の濃度が30-2000ppm、ナノ粒子触媒の濃度が16ppm以上であることを特徴とする。
ここで、「殺菌用液体の生成直後」とは、殺菌用液体の生成後、数分以内をいう。
また、前記殺菌用液体の殺菌効果は、数時間以上持続されることを特徴とする。
【0008】
また、上記殺菌用液体を生成するための本発明の殺菌用液体の生成方法は、導電率が2000μS/cm以下、かつ、CODが2000ppm以下の水を流動させながら、水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構によりプラズマを発生させることによって、静置状態で活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水からなる殺菌用液体を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の殺菌用液体及びその生成方法によれば、特許文献1-3に記載の液状物質の殺菌方法のように、殺菌を行う対象の液状物質を殺菌装置に直接導入する必要がなく、特に、本発明の殺菌用液体は、原料が水であり、殺菌作用を発揮する成分の活性酸素種が最終的に水に戻ることから、安心・安全なものであることから、適用方法や用途に制約がなく、殺菌の用途に広く利用できる殺菌用液体及びその生成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の殺菌用液体の生成方法に適用する殺菌用液体の生成装置の一例を示す概念図である。
図2】活性酸素種による有機物の分解原理及び活性酸素種を含む各種物質の酸化電位及び結合エネルギを示す図である。
図3】電極の材質ごとの処理時間とpH、導電率、過酸化水素の濃度及び電極消耗量との関係を示す図である。
図4】CBP処理後の経過時間と菌の生存率との関係を示す図である。
図5】MB水溶液の吸収ピーク値の経時変化(経過時間と吸収ピーク値との関係)を示す図である。
図6】発光分光分析を用いたCBPの発光スペクトル(波長と発光強度との関係)を示す図である。
図7】ヒドロキシルラジカル(・OH)(309.6nm)の発光ピーク値のCBP処理時間依存性(処理時間と発光強度との関係)を示す図である。
図8】MB水溶液の吸収ピーク値(664nm)の経時変化(経過時間と吸収ピーク値との関係)を示す図である。
図9図8の傾きから求めた反応速度定数k(経過時間と反応速度定数との関係)を示す図である。
図10】過酸化水素濃度のCBP処理時間依存性(処理時間と過酸化水素濃度との関係)を示す図である。
図11】電極消耗量のCBP処理時間依存性(処理時間と電極消耗量との関係)を示す図である。
図12】殺菌用液体の生成装置の処理条件(t=0.5min)で処理した場合のメチレンブルー水溶液の紫外可視吸収光スペクトル(経過時間ごとの波長と吸収度との関係)を示す図である。
図13】殺菌用液体の生成装置の処理条件(t=1min)で処理した場合のメチレンブルー水溶液の紫外可視吸収光スペクトル(経過時間ごとの波長と吸収度との関係)を示す図である。
図14】殺菌用液体の生成装置の処理条件(t=2min)で処理した場合のメチレンブルー水溶液の紫外可視吸収光スペクトル(経過時間ごとの波長と吸収度との関係)を示す図である。
図15】殺菌効果試験(2)の実験手順を示す説明図である。
図16】殺菌用液体の生成装置の処理条件ごとの殺菌用液体の生成後の経過時間とMB分解率との関係を示す図である。
図17】殺菌用液体による殺菌効果の要因の説明図である。
図18】殺菌用液体による殺菌効果の要因の説明図である。
図19】殺菌用液体による殺菌効果の要因の説明図である。
図20】殺菌用液体による殺菌効果の要因の説明図である。
図21】殺菌用液体と過酸化水素水の経過時間とMB分解率との関係を示す図である。
図22】殺菌用液体の生成装置の処理条件(t=1min-30min)とタングステン(W)電極消耗量との関係を示す図である。
図23】殺菌用液体の生成装置の処理条件(t=1min-30min)ごとの殺菌用液体の生成後の経過時間とpHとの関係を示す図である。
図24】殺菌用液体の生成装置の処理条件(t=1min-30min)ごとの殺菌用液体の生成後の経過時間と導電率との関係を示す図である。
図25】殺菌用液体の生成装置の処理条件(t=1min-30min)ごとの殺菌用液体の生成後の経過時間とORPとの関係を示す図である。
図26】殺菌用液体の生成装置の処理条件(t=1min-30min)ごとの殺菌用液体の生成後の経過時間と過酸化水素濃度との関係を示す図である。
図27】CBP処理時間と液中プラズマの発生率との関係を示す図である。
図28】殺菌用液体の生成装置の処理条件(電極材質)ごとの殺菌用液体の生成後の経過時間とMB分解率との関係を示す図である。
図29】殺菌用液体の生成装置の処理条件(電極材質)ごとの殺菌用液体の生成後の経過時間とMB分解率との関係を示す図である。
図30】(a)は殺菌用液体の生成装置の処理条件(電極材質)ごとの電極材質とpHとの関係を、(b)は同電極材質と導電率との関係をそれぞれ示す図である。
図31】(a)は殺菌用液体の生成装置の処理条件(電極材質)ごとの電極材質とORPとの関係を、(b)は同電極材質と過酸化水素濃度との関係をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の殺菌用液体及びその生成方法の実施の形態を説明する。
【0012】
本発明の殺菌用液体は、静置状態で活性酸素種及びナノ粒子触媒を含有する水からなるものであり、この殺菌用液体は、導電率が2000μS/cm以下、かつ、CODが2000ppm以下の水を流動させながら、水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構によりプラズマを発生させることによって生成することができる。
【0013】
殺菌用液体の生成装置としては、従来公知の装置、すなわち、水にキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡を含む水中で、電極間にパルス電圧を印加するようにしたプラズマ発生機構によりプラズマを発生させる機構、より具体的には、特許文献1-2に記載された、ノズル、障害物等によって流路断面積を変化させて水にキャビテーションを起こさせるキャビテーション発生機構とプラズマ発生機構とを組み合わせた装置、特許文献3に記載された、回転翼を回転させることによって水にキャビテーションを起こさせるキャビテーション発生機構とプラズマ発生機構とを組み合わせた装置等を用いることができる。
【0014】
ここでは、殺菌用液体の生成装置として、回転翼を回転させることによって水にキャビテーションを起こさせるキャビテーション発生機構とプラズマ発生機構とを組み合わせた装置を用いた例について、以下説明する。
【0015】
この殺菌用液体の生成装置は、図1に示すように、水を貯留するタンク1と、キャビテーション発生機構としてのタンク1から供給された水を撹拌する撹拌装置2と、撹拌装置2によってキャビテーションを起こさせ、それによって発生する水蒸気を主成分とする気泡(キャビテーション気泡)を含む水中で、プラズマを発生させるプラズマ発生機構3と、これらの機構を接続して水を循環させる管路4とを備えて構成されている。
ここで、水を循環させることは必須ではなく、例えば、プラズマ発生機構を複数設けたり、電極対を複数組設置したりすることによって、より処理効率を高めることができれば、1パス処理でもよい。
【0016】
ここで、撹拌装置2は、ケーシング21の内部に同心状で回転可能に設けられたロータ22と、ロータ22を回転駆動するモータ23等を備えて構成されている。
【0017】
また、プラズマ発生機構3は、導体からなる電極31と、電極31間に、例えば、放電開始電圧以上の電圧、パルス幅1.5μs以下、繰り返し周波数100kHz以上のパルス電圧を印加するパルス電源32等を備えて構成され、絶縁性の気泡領域で、パルス電圧による高電圧絶縁破壊放電により気化物が電離(プラズマ化)して液中プラズマ(キャビテーションプラズマ。本明細書において、「CBP(Cavitation bubble plasma)」という場合がある。)を発生させるものである。
パルス電圧によって生起される放電形態は、グロー放電(グロー放電によって生成される低温プラズマ)であることが好ましく、電極31の消耗成分に起因する金属や金属酸化物、液中プラズマによって生成される水に含まれる不純物に起因する硫化物、塩化物等の無機化合物等からなる、結晶、準結晶、アモルファス等の形態のナノ粒子触媒の合成を、低温で、かつ、エネルギ効率よく行うことができる。すなわち、ナノ粒子触媒は、電極31の成分のナノ粒子であり、電極が金属の場合、ナノ粒子ができた瞬間は金属ナノ粒子となり、金属の種類によって、そのナノ粒子が酸化されたり、水に塩素や硫黄が含まれているとナノ粒子が塩化されたり硫化されたりする(不純物に含まれる物質によってその物質との化合物になる場合がある。)。
ここで、プラズマ発生機構3内の電極31付近の水の流速は約10m/sであり、5m/s以上が望ましい。
電極31は、水の流れに対して垂直方向に、対向させて配置することが好ましいが、プラズマが生成できる限りにおいて、ハの字等の配置形態を採用することができる。
電極31の材料には、タングステン、銅、鉄、銀、金、白金のほか、アルミニウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドミウム、インジウム、錫、アンチモン、ランタノイド、ハフニウム、タンタル、レニウム、オスミウム、イリジウム、タリウム、ビスマス、ボロニウム等の金属、カーボン、導電性ダイヤモンド、それらの合金や複合材料(メッキやドライコーティング等の手法で薄膜で被覆したものを含む。)や酸化物(電極31の表面が水と反応したものを含む。)等の導体材料を、用途に応じて、任意に選択することができる。対向させて配置する電極31で、金と銀など、用いる材料や電極サイズを異ならせることもできる。
電極31の形状は、円柱のほか、角柱、楕円柱、円錐、角錘であってもよい。電極31は、1対あれば問題ないが、より処理効率を上げるために2対以上設置してもよい。また、プラズマ発生機構は1セットあれば問題ないが、より処理効率を上げるために2セット以上設置してもよい。
電極31の片側は接地してもよいし、接地しなくてもよい。接地しない方が放電路は電極間に限定されるため、安全である。
また、必要に応じて、殺菌用液体の生成装置に設けた冷却手段、例えば、撹拌装置2に設けたジャケット冷却手段(図示省略)を稼働することによって、水を50℃以下で処理するようにすることができる。
【0018】
そして、このようにして液中プラズマによって生成された水には、ナノ粒子触媒に加えて、活性酸素種としての過酸化水素等が、殺菌用液体の生成装置の稼働を停止した静置状態でも安定して存在することで、その酸化力により、殺菌作用を有する殺菌用液体として利用することができる。
そして、この殺菌用液体は、殺菌用液体中に存在する長寿命の活性酸素種(スーパーオキシドアニオンラジカル(・O )、ヒドロペルオキシラジカル(HOO・)、過酸化水素(H))による殺菌作用に加えて、殺菌用液体中に存在する過酸化水素(H)が殺菌用液体中に存在するナノ粒子触媒の触媒作用によって、活性酸素種の中で最も酸化力の高いヒドロキシルラジカル(・OH)等の活性酸素種を持続的に生成させることにより、より殺菌効果が増強され、効果が長期間持続するものとなる。
このため、殺菌用液体は、殺菌用液体中に存在する過酸化水素及びナノ粒子触媒の量が重要であり、本発明によって、原料は水だけで簡単、高速、かつ、大量に同時に生成することができる。
【0019】
図2に、活性酸素種による有機物(微生物(ウイルス、細菌、真菌、原虫)等を含む。)の分解(殺菌)原理及び活性酸素種を含む各種物質の酸化電位及び結合エネルギを示す。
図2からも明らかなように、ヒドロキシルラジカル(・OH)等の活性酸素種は、有機物(微生物(ウイルス、細菌、真菌、原虫)等を含む。)の大きな分解(殺菌)作用を有するため、殺菌用液体として利用することができることが分かる。
【実施例
【0020】
次に、殺菌用液体の生成装置(具体的には、日本スピンドル製造社製「キャビテーションプラズマ装置」。)を使用して行った試験について説明する。
【0021】
[殺菌用液体の生成装置の処理条件について]
まず、表1に、殺菌用液体の生成装置の処理条件(好ましい範囲)を、図3に、電極の材質ごとの処理時間とpH、導電率、過酸化水素の濃度及び電極消耗量との関係を、それぞれ示す。
【0022】
【表1】
【0023】
ここで、表1及び図3において、以下のことがいえる。
・初期(「プラズマ処理前」を意味する。他の項目も同じ。)の導電率は低い方がプラズマ生成率(印加したパルス数に対するプラズマが生成したパルス数の割合。)が高くなり、効率よく活性酸素殺菌水を生成することができる。
・初期CODが高いと、生成される活性酸素種が消費されてしまい好ましくない。
・初期導電率、初期pH、初期CODが好ましい範囲内であれば、他の混雑物は影響しない。このため、処理原料となる水としては、イオン交換水等の精製水を用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。
・撹拌装置の回転数は高い方がキャビテーション気泡が増えるので、プラズマ生成率が高くなり、効率よく活性酸素殺菌水を生成することができる。
・印加電圧は低すぎるとプラズマが点灯せず、高くなるとプラズマ生成率が高くなるが、高すぎると好ましいグロー放電からアーク放電に移行してしまい好ましくない。
・パルス幅は短すぎるとプラズマが点灯せず、長くなるとプラズマ生成率が高くなるが、長すぎるとアーク放電に移行してしまい好ましくない。
・繰り返し周波数は高いほどプラズマ生成率が高くなり、安定してプラズマが生成できる。
・パルス電圧の極性は、両極性でも正極性でも負極性でもよい。
・電極材質は、水中で安定な導体であればよい。金属でも合金でもカーボンでもよい。
・活性酸素殺菌水に不純物として電極成分等のナノ粒子触媒が混入するため、用途によって材料を選ぶ必要がある。
・電極直径は細すぎると電界が集中してプラズマが点灯しやすいが、アーク放電に移行しやすくなり、太すぎるとプラズマが点灯しにくくなる。
・電極のギャップ長は短すぎるとアーク放電に移行しやすくなる、長すぎるとプラズマが点灯しにくくなる。
・処理時間は短すぎると生成される活性酸素種及びナノ粒子触媒が少なくなり、長すぎると生成される活性酸素種及びナノ粒子触媒によって導電率が高くなり、プラズマ生成率が低下する。処理時間は、通常は、2-10分程度、好ましくは、3-8分程度、より好ましくは、5分程度である。ここで、殺菌用液体の生成装置は、撹拌装置の回転数が7200rpmの場合、1秒間に250mLの水が装置内を1回循環するようにされている。
【0024】
[殺菌残存効果試験]
次に、以下の試験方法で、モデル微生物として大腸菌を用いた殺菌残存効果試験を行った。
(1)試験菌
Escherichia coli NBRC 3301(大腸菌)
(2)菌数測定用培地及び培養条件
SCDLP寒天培地(日本製薬社製)、混釈平板培養法、35℃±1℃、2日間
(3)試験菌液の調製
試験菌を普通寒天培地(栄研化学社製)で35℃±1℃、18-24時間培養した後、精製水に浮遊させ、菌数が約107mLとなるように調製し、試験菌液とした。
(4)殺菌用液体の生成装置の前処理
殺菌用液体の生成装置に約0.02%となるように調製した次亜塩素酸ナトリウム溶液を投入し、殺菌用液体の生成装置をプラズマ処理なしの条件で15分間作動させた。排水後、水道水、0.002%チオ硫酸ナトリウム添加水道水、蒸留水の順で殺菌用液体の生成装置内をすすぎ、排水を行った。
(5)試験操作
前処理後の殺菌用液体の生成装置に精製水(イオン交換水)250mLを投入し、表2に示す処理条件で殺菌用液体の生成装置を5分間作動させたものを試料水とした。試料水を滅菌合成樹脂製容器に採水し、所定時間放置した。所定時間放置後の試料水10mLに試験菌液0.1mLを接種し、試験液とした。その後、試験液をSCDLP培地(日本製薬社製)で100倍に希釈し、試験液中の生菌数を菌数測定用培地を用いて測定した。
なお、対照として精製水(イオン交換水)に試験菌液を接種したものについても同様に試験し、試験液中の生菌数を菌数測定用培地を用いて測定した。
図4に、殺菌残存効果試験(CBP処理後の経過時間と菌の生存率との関係)を、それぞれ示す。
【0025】
【表2】
【0026】
図4に示す殺菌残存効果試験から、以下のことが分かった。
・CBP処理後(殺菌用液体の生成後)、時間が経過するに従って、菌の生存率が高まり、殺菌効果が低下する。
・CBP処理後(殺菌用液体の生成後)、数分程度であれば、菌の生存率が低く、十分な殺菌効果が得られ、特に、6秒以内であれば、菌の生存率が0.1%以下となり、顕著な殺菌効果が得られる。
【0027】
[殺菌効果試験(1)]
次に、以下の手順で、微生物の代わりに有機物(メチレンブルー(本明細書において、「MB」という場合がある。))水溶液を用いて殺菌効果試験(1)を行った。
ここで、有機物(メチレンブルー)水溶液を微生物の代わりに用いたのは、殺菌も有機物(メチレンブルー)の分解も効果の要因は活性酸素種であるため、より簡単に評価できるメチレンブルーを採用している(後述の殺菌効果試験(2)も同様。)。
まず、表3及び表4に、殺菌用液体の生成装置の処理条件を示す。
【0028】
【表3】
【0029】
【表4】
【0030】
まず、有機物分解効果が、殺菌用液体の生成装置内の有機物等の残留物に大きく左右される可能性があることを確認するための試験を行った。
図5に、表3(tp=5min、t=0-10min)の条件で処理したMB水溶液の吸収ピーク値の経時変化(経過時間と吸収ピーク値との関係)を示す。ここで、凡例[A、B、C、D]は、それぞれ直前に[表3(t=0min)、表3(t=5min)、表4(t=5min)、表4(t=10min)]の条件で前処理を行うようにしている。
直前の前処理により経時変化は大きく異なり、特に、処理前にMB水溶液を投入した後ではMBの分解速度が大幅に減少しており、有機物分解効果が、殺菌用液体の生成装置内の有機物等の残留物(汚れ)に大きく左右されることを確認した。
さらに、上記知見に基づき、試験前にはCBP装置内をイオン交換水で5回洗浄し、ガラスセル、ガラスビーカー、CBP装置の処理液排出口はそれぞれイオン交換水で5min超音波洗浄を行い汚れを除去するようにした。
また、殺菌用液体を取り出す容器(石英ガラスセル(紫外可視吸収スペクトル用)、ビーカー(容器))も汚れを除去する。殺菌用液体を保管する容器は有機物でなく、汚れがないものが望ましい。
このため、以下の試験では、表4(t=5min)を標準条件とし、上記の前処理を含めた手法を採用するようにしている。
【0031】
図6に、表4に示す殺菌用液体の生成装置の処理条件で処理した場合の発光分光分析を用いたCBPの発光スペクトル(波長と発光強度との関係)を、図7に、その場合のヒドロキシルラジカル(・OH)(309.6nm)の発光ピーク値のCBP処理時間依存性(処理時間と発光強度との関係)を、それぞれ示す。
これらから、殺菌用液体の生成装置の処理条件で処理したプラズマ処理水中には、OHラジカルやOラジカルが生成されていることが分かる。
【0032】
次に、以下の手順で、有機物分解効果試験を行った。
表4に示す殺菌用液体の生成装置の処理条件で処理した直後に、濃度8600ppmのMB水溶液260μLを装置内に投入した。投入後のMB水溶液の紫外可視吸収スペクトルにおける波長664nmのピーク強度の経時変化を、紫外可視分光光度計(V-730BIO、JASCO)を用いて測定した。
【0033】
図8に、MB水溶液の吸収ピーク値(664nm)の経時変化(経過時間と吸収ピーク値との関係)を、図9に、図8の傾きから求めた反応速度定数k(経過時間と反応速度定数との関係)を、それぞれ示す。
【0034】
図8に示すように、t=0.1minのとき、経過時間の増加では吸収ピーク値はほとんど減少しない。
一方、t=2minのとき、経過時間の増加に伴い吸収ピーク値はt=2-20minの範囲で指数関数的に減少する。t=20min以降では、傾きは緩やかになり、t=30minのとき吸収ピーク値は1.8まで減少する。減少速度はt=5minが最も大きく、吸収ピーク値t=30minのとき、1.4まで減少する。t=5min以降では減少速度は小さくなり、t=20minのとき、吸収ピーク値は最大で1.82までしか減少しない。このことから、t=5minのプラズマ処理水には分解効果がより多く残存しているといえる。
【0035】
図9に示すように、t=2-5minの範囲ではCBP処理時間の増加に伴い反応速度定数kは直線的に増加し、t=5minのとき、k=0.012min-1となる。t=5-10minの範囲ではCBP処理時間の増加に伴い反応速度定数kは直線的に減少し、t=10minのとき、k=0.0052min-1となる。それ以降では減少速度が緩やかになり、t=20minのとき、k=0.0030min-1となる。このことから、残存分解効果が最も強くなるCBP処理時間は、t=5min付近(活性酸素種のうちの過酸化水素の濃度=1500ppm(図10参照。))に存在し、残存分解効果があるCBP処理時間は、2-10分程度(活性酸素種のうちの過酸化水素の濃度=700-2000ppm(図10参照。))、好ましくは、3-8分程度(活性酸素種のうちの過酸化水素の濃度=1000-1800ppm(図10参照。))であるといえる。
ここで、過酸化水素の濃度は、殺菌用液体の生成直後(殺菌用液体の生成後、数分以内)の測定値である。
【0036】
図10に、過酸化水素濃度のCBP処理時間依存性(処理時間と過酸化水素濃度との関係)を示す。
図10に示すように、CBP処理時間の増加に伴い過酸化水素濃度は飽和傾向に近い形で増加し、t=10minにおける過酸化水素濃度は2.0g/L(2000ppm)である。CBP処理することで過酸化水素が生成する原因はCBP処理により生成したヒドロキシルラジカル(・OH)同士が結合して生成すると考えられる。
【0037】
図11に、電極消耗量のCBP処理時間依存性(処理時間と電極消耗量との関係)を示す。
図11に示すように、CBP処理時間の増加に伴い電極消耗量は直線的に増加し、t=2minのとき4mg(ナノ粒子触媒の濃度=16ppm)、t=10minのとき18mg(ナノ粒子触媒の濃度=72ppm)となる。これより、殺菌用液体に含まれるナノ粒子触媒の濃度は、16ppm以上(~72ppm)であるといえる。ここで、CBP処理時間の増加に伴い電極が消耗する理由は、電極がCBP処理によるスパッタリングによりナノ粒子となるためである。
【0038】
[汚れた水を想定した殺菌効果試験]
次に、イオン交換水に代えてMB水溶液を用いて汚れた水を想定した殺菌効果試験を行った。
この試験は、CBP処理前に使用する水が汚れていた場合(CODが高い場合)を想定した試験で、汚れの代わりにメチレンブルーを使用し、CBP処理前の水に溶解させたMB水溶液を用いている。ここで、プラズマ処理時間を短くした試験は、CBP処理後も汚れが残っていることを想定した試験である。
表5に、殺菌用液体の生成装置の処理条件を示す。
【0039】
【表5】
【0040】
図12図14に、表5に示す殺菌用液体の生成装置の処理条件(t=0.5min、1min、2min)で処理した場合のメチレンブルー水溶液の紫外可視吸収光スペクトル(経過時間ごとの波長と吸収度との関係)を、それぞれ示す。
図12図14に示す有機物分解効果試験から、以下のことが分かった。
・プラズマ処理中に生成された活性酸素種が汚れを分解することでプラズマ処理中に消費され、プラズマ処理後に残存する活性酸素種の量が減り、全体的に殺菌効果が低くなる。
・CBP処理時間が短く(t=0.5min、1min)、活性酸素種(段落[0018]参照。)及びナノ粒子触媒の生成量が少ない場合、初期段階で活性酸素種が消費されてしまい、停止後の有機物分解効果が得られにくい。このことは、有機物分解(殺菌)効果が、殺菌用液体の生成装置内の有機物等の残留物(汚れ)に加え、殺菌用液体の生成後の有機物等の残留にも大きく左右されることを示唆する。
・CBP処理時間が長く(t=2min)、活性酸素種及びナノ粒子触媒の生成量が多い場合、初期段階で活性酸素種が消費されても、停止後に残存する活性酸素種によって有機物分解効果が得られる。
【0041】
[殺菌効果試験(2)]
次に、以下の手順で、微生物の代わりに有機物(メチレンブルー)水溶液を用いて殺菌効果試験(2)を行った。
この殺菌効果試験(2)は、殺菌用液体の殺菌効果の持続時間を調べるために行ったものである。
表6に、殺菌用液体の生成装置の処理条件を示す。
【0042】
【表6】
【0043】
以下の試験では、表6(t=5min)を標準条件とし、殺菌効果試験(1)と同様の前処理を含めた手法を採用するようにしている。
【0044】
次に、以下の手順で、有機物分解効果試験を行った。
表6に示す殺菌用液体の生成装置の処理条件で処理した直後に、図15に示すように、濃度8600ppmのMB水溶液260μLを装置内に投入した。投入後のMB水溶液の紫外可視吸収スペクトルにおける波長664nmのピーク強度の経時変化(t=0.03-15h(時間))を、紫外可視分光光度計(V-730BIO、JASCO)を用いて測定し、殺菌用液体の生成後の経過時間ごとのMB分解率を算出した。
【0045】
図16に、殺菌用液体の生成装置の処理条件(t=1min-30min)ごとの殺菌用液体の生成後の経過時間とMB分解率との関係を示す。
図16に示すように、t=15hでのMB分解効果は、処理時間が大きい順で高いことが分かる。しかし、t<2hの領域においてt=3minのときMB分解率が最もよい。このことより、MB分解効果の支配的な要因はt=2h前後で異なることが示唆される。MB分解の要因については以下に説明するが、t<2hの領域においては、殺菌用液体の生成時に存在する活性酸素種が、また、t>2hの領域においては、それに加え、殺菌用液体に含まれる過酸化水素が解離することにより生成されるOHラジカルが関与することで、殺菌用液体の殺菌効果が、数時間以上(図16の試験結果からは、15時間以上、また、後述の図22図26の試験結果からは、数十時間以上。)持続されることを確認した。ここで、生成後の殺菌用液体の保管温度は、25℃であり、室温(冷却したり、加熱したりしない常温)で殺菌用液体を保管することで、殺菌用液体の殺菌効果を持続させることができる。なお、上記過酸化水素の解離反応は、通常の化学反応と同様、保管温度が低いほど反応速度が低下するため、保管温度を低く維持することによって、殺菌用液体の殺菌効果の持続時間を長くすることができると考えられる。
すなわち、CBP処理された水である殺菌用液体(CBPTW)中には、図17に示すように、活性酸素種(・OH、・O、・HO、・O 、O)(図6及び図7に記載したように、殺菌用液体の生成装置の処理条件で処理したプラズマ処理水中には、OHラジカルやOラジカルが生成され、これらが水と反応することで、活性酸素種が生成されると考えられる。)、過酸化水素(H)及びタングステン(W)ナノ粒子(ナノ粒子触媒)が存在する。
ここで、過酸化水素(H)は、水をCBP処理することにより、図18に示すようにして生成されると考えられる。
また、タングステン(W)ナノ粒子(ナノ粒子触媒)は、図19に示すように、過酸化水素(H)の存在下で、その一部が、タングステン(W)イオンとして存在することになる。
さらに、図20に示すように、タングステン(W)ナノ粒子(ナノ粒子触媒)及びタングステン(W)イオンが作用することで、過酸化水素(H)は解離し、OHラジカルであるヒドロキシルラジカル(・OH)が生成される。
これにより、初期は、殺菌用液体の生成時に存在する活性酸素種が、また、一定時間経過した以降は、それに加え、殺菌用液体に含まれる過酸化水素が解離することにより生成されるOHラジカルが関与することで、殺菌用液体の殺菌効果が、長時間(具体的には、数時間以上(図16の試験結果からは、16時間以上、また、後述の図22図26の試験結果からは、数十時間以上。))に亘って持続される。
ここで、タングステン(W)ナノ粒子(ナノ粒子触媒)が、殺菌用液体に含まれる過酸化水素を解離させ、ヒドロキシルラジカル(・OH)を生成することで、有機物(メチレンブルー)の分解(殺菌)に寄与する(当該効果は、過酸化水素単独では得られない。)ことは、図21に示す、CBP処理された水である殺菌用液体(CBPTW)と過酸化水素水との比較試験の結果から明らかである。
【0046】
ここで、殺菌効果試験(2)の殺菌用液体の生成装置の処理条件と電極消耗量及び水質(MB水溶液未添加)との関係について、図22図26に基づいて説明する。
【0047】
図22に、殺菌用液体の生成装置の処理条件(t=1min-30min)とタングステン(W)電極消耗量との関係を示す。
図22に示すように、タングステン(W)電極は、t=1minで約1.8mg消耗し、その後t=1-10minまで直線的に増加し、t=10minのとき約17.3mg消耗する。その後、傾きは緩やかになりt=30minのとき約32.5mg消耗する。処理時間が大きくなるにつれ傾きが緩やかになることは、溶液の導電率が上昇し、プラズマ発生率が低下することによると考えられる。消耗した電極は、CBP処理された水である殺菌用液体(CBPTW)中に、タングステン(W)ナノ粒子やタングステン(W)イオンとして存在する。このことから、殺菌用液体に含まれるナノ粒子触媒の濃度は、t=30minのときに130ppmとなり、ナノ粒子触媒が、過酸化水素(H)の解離(ヒドロキシルラジカル(・OH)の生成)に寄与することを勘案すると、殺菌用液体の生成後、数時間経過した以降に殺菌用液体を使用する場合は、ナノ粒子触媒の濃度は、好ましくは、70ppm以上(t=10min以上)、より好ましくは、130ppm以上(t=30min以上)であるといえる。
【0048】
図23に、殺菌用液体の生成装置の処理条件(t=1min-30min)ごとの殺菌用液体の生成後の経過時間とpHとの関係を示す。
pHはt=1minで4.4であり、その後は処理時間の増加によらずほぼ一定である。プラズマ処理時間が増加するにつれpHは減少していくが、t=30minを除きいずれの処理後経過時間でもほぼ一定であることが分かる。t=30minではt=0.03hで3.3であり、その後t=1hまでpHが増加しそれ以降3.6でほぼ一定である。pHが処理時間の増加により減少することはタングステンが水や過酸化水素と反応しHを生成することが原因と考えられる。
【0049】
図24に、殺菌用液体の生成装置の処理条件(t=1min-30min)ごとの殺菌用液体の生成後の経過時間と導電率との関係を示す。
導電率はt=1minでt=0.1hのとき約16μS/cmであり、t=1.5hまで上昇し、約18.5μS/cmになった後飽和傾向を示す。その後少しずつ減少し、t=24hで約18.3μS/cmである。導電率の経時変化はt=5min以下ではt=1minと同様の傾向を示すがt=7minでは処理後経過時間が増加するにつれ減少する。t=30minは特に減少が顕著でt=1hまで急激に導電率が減少し、t=0.1hで200μS/cmである導電率がt=1hで140μS/cmになる。その後、飽和傾向を示しt=24hで138μS/cmである。導電率が減少する原因はWが過酸化水素濃度の高い水中で溶解することが考えられる。WがCBP処理水中で析出することで溶液中のイオンが減少し導電率が減少することが考えられる。
【0050】
図25に、殺菌用液体の生成装置の処理条件(t=1min-30min)ごとの殺菌用液体の生成後の経過時間とORP(Oxidation-Reduction Potential(酸化還元電位))との関係を示す。
ORPは、t=1minでt=0.1hで約588mVであり処理後経過時間の増加に伴い少しずつ増加しt=24hで約592mVまで増加する。またt=7min以下ではt=1minの傾向と同様に処理後経過時間の増加に伴い少しずつ増加するが、t=10min以上では処理後経過時間の増加に伴いORPは減少する。このことは過酸化水素が関係すると考えられる。過酸化水素は金属粉末に添加することによりOHラジカルに分解する。OHラジカルは酸化体でありORPの上昇に関わる。このことより過酸化水素が分解することによりORPの値が上昇すると考えられる。よって過酸化水素が減少し生成されるOHラジカルが減少したことによりORPが減少したと考えられる。
【0051】
図26に、殺菌用液体の生成装置の処理条件(t=1min-30min)ごとの殺菌用液体の生成後の経過時間と過酸化水素濃度との関係を示す。
過酸化水素はプラズマ生成中に水が反応することにより生成される。過酸化水素濃度は、t=1minでt=0.03hのとき約360ppmであり処理後経過時間の増加に伴い指数関数的に減少し、t=24hで約60ppmである。すべての処理時間において過酸化水素濃度は指数関数的に減少するがt=0.03hにて同程度の過酸化水素濃度(t=30minで約30ppm)を示した。t=5、7、10minではt=30hでの過酸化水素濃度は処理時間が大きいほど小さくなった。過酸化水素は金属イオンの環境下にてOHラジカルに解離することが知られている。以上の要因により過酸化水素濃度は処理時間が大きくなれば解離速度が大きくなることが考えられる。ただし、図16に示す、殺菌用液体の生成装置の処理条件(t=1min-30min)ごとの殺菌用液体の生成後の経過時間とMB分解率との関係を参酌すると、殺菌効果があるCBP処理時間は、殺菌効果試験(1)の試験結果から導かれたt=2-10分程度に限定されず、t=30分(活性酸素種のうちの過酸化水素の濃度=30ppm(図26参照。))(又はそれ以上)でも殺菌効果があることが分かった。
【0052】
図22図26の実験結果より、MBの分解には過酸化水素が関係することが考えられる。CBP処理された水である殺菌用液体(CBPTW)中には、活性酸素種、過酸化水素、金属ナノ粒子及びイオンが存在し、金属イオンの環境下で起きる過酸化水素の解離により生成されたOHラジカルが分解効果の持続要因であることが考えられる。また、処理時間の増加に伴い電極消耗量が増加していることより、溶液内の金属ナノ粒子及びイオンは処理時間の増加に伴い増加することが考えられる。よって処理時間の増加に伴い過酸化水素の解離速度が大きくなると考えられる。t<2hでは上記に加えCBPによって直接生成された、比較的長寿命な活性酸素種により分解効果が嵩増しされていると考えられる。また、プラズマ発生率が処理時間の増加に伴い減少していることから、CBPによって生成される活性酸素種は処理時間の増加に伴い最大値をとった後、減少することが考えられる。よってt<2h以前では3minに分解効果の最大があり、その後は処理時間が大きい順に分解率が上昇したと考えられる。
【0053】
ここで、CBP処理時間t(水質(MB水溶液未添加))と液中プラズマ(キャビテーションプラズマ)の発生率((プラズマが生成したパルス数)÷(印加したパルス数)×100[%])との関係を、図27に示す。
液中プラズマ(キャビテーションプラズマ)は高繰り返し高電圧パルスを印加することで生成される。
図27に示すように、プラズマ発生率は、CBP処理時間t=3-5min以降低下していく傾向がある。
この理由は、CBP処理をしていくうちに処理水の導電率が上昇し、電源の出力インピーダンスとの関係で、電極間に印加される電圧が低下し、放電開始電圧を下回る確率が上がり、プラズマが生成されない回数が増えることによると考えられる。
このように、プラズマ発生率が低下すると、初期に存在する活性酸素種が減るため、殺菌用液体の生成後、2時間以内に殺菌用液体を使用する場合は、CBP処理時間t=5min程度が好ましいといえる。
【0054】
次に、殺菌効果試験(2)の殺菌用液体の生成装置の処理条件(表6(t=5min))で、電極材質をW、Fe、Cu、Agにして生成した殺菌用液体(CBPTW)の電極材質と殺菌効果、電極消耗量及び水質(MB水溶液未添加)との関係について、図28図31に基づいて説明する。
【0055】
図28に、電極材質とMB分解率(殺菌効果)との関係(処理時間依存性)を示す。
W電極の場合、処理後経過時間t=0.03-3hにおいて指数関数的に分解率が20%まで上昇した後、傾きは緩やかになりt=30hで58%まで上昇する。他の電極にてCBPTWを作製し、MBを投入したときではt=0.1-3hにおいて分解率が急激に上昇した後、飽和傾向を示したのは同じであったが、Cu及びFe電極ではt=30hでの分解率が約100%まで上昇する。その中でCu及びFe電極では分解率の上昇の様子も異なりt=3hでCu電極では76%ほど上昇するのに対し、Fe電極では65%ほどしか上昇していないことから、電極材質がFeよりCuの方がMBの分解効果が高いことが分かる。また、電極材質がAgではt=30hでの分解率は約10%とほとんど分解しない。これより、MB分解効果は電極材質がAg<W<Fe<Cuの順で高いことが分かる。
【0056】
図29に、電極材質と電極消耗量との関係を示す。
図29に示すように、電極消耗量は電極がW、Fe、Cu、Agのとき、それぞれ9.8、5.2、3.6、3.8mgである。消耗した電極は溶液中にナノ粒子又は金属イオンとして存在していると考えられる。
【0057】
図30(a)に、電極材質とpHとの関係を示す。
図30(a)に示すように、W電極において処理後経過時間t=0.1hで約3.8であり経過時間の増加に伴い少しずつpHは増加し、t=900hで約4.1まで上昇する。Fe、Cu及びAg電極ではt=0.1hでそれぞれ約5.2、5.8、7.2である。また、経過時間の増加に伴い、Fe電極では少しずつ上昇しt=970hで約5.5であるがCu及びAg電極はt=24hで6.5まで変化しその後飽和傾向を示しt=970hで約6.5である。
【0058】
図30(b)に、電極材質と導電率との関係を示す。
図30(b)に示すように、W電極において処理後経過時間t=0.1hで約78μS/cmでありその後t=1.5hで約80μS/cmまで上昇した後t=100hまで飽和傾向を示しt=450hまで減少傾向に移り60μS/cmまで減少した後飽和傾向を示す。Fe、Cu及びAg電極ではW電極に比べて導電率が低く約8μS/cm程しかなく、経過時間の増加に伴い少しずつ導電率が上昇し、t=950hでFe、Cu及びAg電極でそれぞれ約9、15、11μS/cmであった。このことから、導電率の経時変化は電極材質により差があることが分かった。
【0059】
図31(a)に、電極材質とORPとの関係を示す。
図31(a)に示すように、W電極においてt=0.1hで約650mVでありt=100hまでは少しずつ上昇し680mVとなり、その後減少してt=950hで約600mVまで減少する。Fe、Cu及びAg電極ではt=0.1hでそれぞれ340、340、320mVであり、経過時間の増加に伴い少しずつ減少しt=100hでそれぞれ200、230、210mVとなりその後飽和傾向を示す。ORPが減少する原因として、過酸化水素は解離することによりOHラジカルに分解するので過酸化水素がCBPTW中になくなりOHラジカルが生成されなくなったことによりORPが減少したと考えられる。
【0060】
図32(b)に、電極材質と過酸化水素濃度との関係を示す。
図32(b)に示すように、W電極ではt=0.03で1200ppmほどでありt=5hまで指数関数的に減少した後、傾きが緩やかになりt=880hで2ppmである。t=0.03hでFe及びCu電極ではW電極と同じく約1200ppmほどであるがFe電極ではt=400h、Cu電極ではt=48hにて測定範囲外になることから電極材質により過酸化水素濃度の減少量に違いがあることが分かる。また、Ag電極ではt=0.03hで10ppmであり、t=4hにて測定範囲外になることから他の電極に比べて特に過酸化水素濃度の減少が大きいことが分かる。このことから、過酸化水素濃度の分解速度は電極材質がW<Fe<Cu<Agの順で大きく、また、Ag電極では他電極と同様に過酸化水素が生成されるが、分解速度が大きく、t=0.03hのときにほとんど分解されていると考えられる。
【0061】
以上、本発明の殺菌用液体及びその生成方法について、その実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の殺菌用液体及びその生成方法は、本発明の殺菌用液体は、原料が水であり、殺菌作用を発揮する成分の活性酸素種が最終的に水に戻ることから、安心・安全なものであって、適用方法や用途に制約がなく、殺菌の用途に広く利用できることから、農業、食品、衛生、医療等の分野において、殺菌(例えば、殺菌用液体を散布することによる農場の病原菌殺菌、植物工場における病原菌殺菌、ポストハーベスト用の腐敗菌消毒液、酪農におけるウイルス感染予防等)の用途に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0063】
1 タンク
2 撹拌装置
21 ケーシング
22 ロータ
23 モータ
3 プラズマ発生機構
31 電極
32 パルス電源
4 管路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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