(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】鎌錠受具
(51)【国際特許分類】
E05B 65/08 20060101AFI20231206BHJP
E05B 15/02 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
E05B65/08 G
E05B15/02 D
(21)【出願番号】P 2020079943
(22)【出願日】2020-04-30
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】592114703
【氏名又は名称】株式会社ベスト
(74)【代理人】
【識別番号】100160299
【氏名又は名称】伊藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】坂村 光一
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-148118(JP,A)
【文献】特開平9-78902(JP,A)
【文献】実開昭54-2594(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 65/08
E05B 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面が開放されている収容部を有する筐体と、
前記筐体の前面を被覆し、鎌部材を係入させるための係入部を有する前板と、を備え、
前記鎌部材とトリガーを有する鎌錠本体に用いられ、前記鎌部材を回動しながら前記係入部に挿入し、前記筐体内の所定位置に係止させることにより施錠される鎌錠受具において、
前記前板の係入部における上端縁部又は下端縁部であって、前記筐体の後面側において、前記前板の幅寸法以下の幅寸法の薄板から構成される、前記トリガーを当接させるためのトリガー当接板を有し、
前記トリガー当接板は、前記前板に沿って、前記係入部の一部を閉塞するように上下方向にスライド自在に取り付けられていること、を特徴とする鎌錠受具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
引戸の柱又は縦枠等に埋設され、施錠時に鎌錠のフックを係合させるための鎌錠の受具に関する。
【背景技術】
【0002】
引戸は、各種の施設で使用されており、その施錠装置として鎌錠が用いられている。一般的な鎌錠は、引戸の端面に埋設されており、フック(鎌部材)及びトリガー等を有する鎌錠本体と、縦枠に埋設される受具とを備え、トリガーを押圧してフックを回動させ、受具に掛止させることで施錠される構造となっている。
【0003】
ところで、取り付けを行う引戸に応じて、フックの大きさ等が異なる種々の鎌錠を使い分ける必要があるが、フックの大きさに伴い、受具の開口部を大きくしなければならい等の対応が要求されていた。
一方、近年、製造コストを削減するために部品の共通化が要請されている。そのため、フックの態様等、複数の鎌錠本体に対応可能な鎌錠の提供が望まれている。このような鎌錠では、取付時において、適切にフックとトリガーを動作させるために、当該フックとトリガーの間隔、並びに、開口部の大きさ等を調整する必要がある。
【0004】
上記課題に対し、従来の鎌錠の受具として、前板の開口部におけるフックの係入する側と対向する端部に、鎌錠本体のトリガーを当接させるための補助部材を着脱自由に取り付け可能とした構造が存在している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の鎌錠の受具では、トリガーを当接させるための補助部材が着脱自由に設けられる構造であるため、調整時において、当該補助部材の着脱作業が煩雑であるという問題点を有していた。
【0007】
本発明は、上記各問題点を解決するためになされたものであり、簡易な構造により、トリガーの当接部の位置調整が可能となる鎌錠の受具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の鎌錠の受具(以下、「本鎌錠受具」という。)は、前面が開放されている収容部を有する筐体と、上記筐体の前面を被覆し、鎌部材を係入させるための係入部を有する前板と、を備え、上記鎌部材とトリガーを有する鎌錠本体に用いられ、上記鎌部材を回動しながら上記係入部に挿入し、上記筐体内の所定位置に係止させることにより施錠される鎌錠受具において、上記前板の係入部における上端縁部又は下端縁部であって、上記筐体の後面側において、上記前板の幅寸法以下の幅寸法の薄板から構成される、上記トリガーを当接させるためのトリガー当接板を有し、上記トリガー当接板は、上記前板に沿って、上記係入部の一部を閉塞するように上下方向にスライド自在に取り付けられていること、を特徴としている。
【0009】
ここで、トリガー当接板の取付箇所は、鎌錠の種類により、鎌部材及びトリガーの形状、取付位置等の諸態様に応じて、前板の係入部における上端縁部又は下端縁部の適宜な位置とすることができる。また、トリガー当接板は、トリガーを当接させることができる形状であれば、任意の形状とすることができるが、コンパクトに形成するためには、その効果を奏する範囲内において、前板の幅寸法以下の幅寸法にすることが必要となる。
【0010】
また、鎌部材は、筐体内の所定位置に設けられる鎌部材の受け部材に係止させることが好適である。
さらに、本鎌錠受具において、上下位置調整機構と、前後位置調整機構を備えることが好適である。
【0011】
本鎌錠受具によれば、トリガー当接板を前板の幅寸法以下の幅寸法である薄板として形成し、前板の係入部における上端縁部又は下端縁部であって、筐体の後面側(鎌部材の係入してくる側に対する裏面側)において、当該前板に沿って、係入部の一部を閉塞するように上下方向にスライド自在に取り付けることとしている。そのため、トリガー当接板を着脱させることなく、トリガーの態様に応じて、容易にその位置を調整することができる。また、その取付箇所を目立たなくし、前板と一体化することができるため、簡易な構造で小型化を実現することが可能であり、デザイン的にも優れた構造とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡易な構造により、トリガーの当接部の位置調整が可能となる鎌錠受具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】施錠前における本発明の鎌錠受具と鎌錠本体の一部を示す側断面図である。
【
図2】施錠時における本発明の鎌錠受具と鎌錠本体の一部を示す側断面図である。
【
図4】本発明の鎌錠受具におけるフック受具の上下方向及び前後方向の位置調整、並びにトリガー調整板の上下方向の位置調整を行う場合の動作等を説明するための一部を拡大した側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本鎌錠受具Uの一実施形態について詳細に説明する。なお、図面に基づく説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
また、本鎌錠受具Uに関する以下の説明において、上下方向とは縦枠Tを基準とした方向をいい、前後方向とは、引戸Hの方向を前方とし、縦枠Tの奥行方向を後方とする方向をいう。
【0015】
図1に示すように、本鎌錠受具Uに対応する鎌錠本体Kは、公知の引戸Hの戸先側の端面における所定高さ置に埋設されている。そして、戸枠を構成する縦枠Tにおける鎌錠本体Kに対向する位置に、本鎌錠受具Uが埋設されている。
【0016】
鎌錠本体Kは、公知の鎌錠を使用することができるため詳説しないが、錠箱5に収納されている、フック6(鎌部材)と、トリガー7を主要部としている。そして、トリガー7が押圧されることにより、フック6が回動しながら突出して、下記本鎌錠受具Uのフック受具25(鎌部材の受け部材)に係止されるようになっている(
図2)。
【0017】
(1)鎌錠受具の構成
縦枠Tの戸当り面には、錠箱5に対向して、本鎌錠受具Uが取り付けられている。
図3に示すように、本鎌錠受具Uは、トロヨケ10(筐体)と、当該前面を被覆する前板15と、フック受具25と、当該フック受具25が取り付けられている位置調整ベース30と、トリガー当接板20を備えている。そして、位置調整ベース30に取り付けられているフック受具25は、上下位置調整機構により、所定の範囲で上下方向への位置調整が可能であるとともに、前後位置調整機構である前後調整ネジ41により、所定の範囲で前後方向への位置調整が可能となっている。
【0018】
[トロヨケ]
トロヨケ10は、上下方向に長い略矩形箱状に形成されており、前面が開放され、内部にフックの収容空間(以下、「収容空間10a」という。)(収容部)が設けられている。長手方向の両縁部は長さ方向に延出しており、当該部分が縦枠Tへの取付部11となっている。なお、取付部における符号11aは、取付孔である。
【0019】
トロヨケ10の後面の上部には、下記上下調整ネジ35を挿通するための後面孔10b(
図1,
図2)が形成されており、両側面の上部の後端部には、位置調整ベース30の上下方向への移動をガイドするための、角長孔10cが形成されている。
【0020】
[前板]
トロヨケ10の前面には、当該トロヨケ10の前面形状と同一形状に形成されている矩形形状の薄板である前板15が設けられている。前板15は、両端部におけるトロヨケ10の取付孔11aに対応する位置に、同じく取付孔15aが設けられ、上部の取付孔15aの下部には、上下調整ネジ35を挿通するための上部孔15bが設けられている。また、中央部には、矩形形状であるフック係入口15d(係入部)が設けられている。
【0021】
上記フック係入口15dの上部には、前後調整ネジ41を挿通するための第1長孔15cが設けられるとともに、当該フック係入口15dの下部には、トリガー当接板20を取り付けるための当接板位置調整ネジ22を挿通するための第2長孔15eが設けられている。
なお、各孔の孔幅は、挿着されるネジの頭部の直径と比較して長い寸法に形成されており、各ネジが挿着された場合には、各孔の上面から突出しないようになっている。
【0022】
[位置調整ベース]
トロヨケ10の収容空間10aの上部には、位置調整ベース30が内装されている。
位置調整ベース30は、トロヨケ10の内幅寸法及び奥行寸法と略同一の寸法を有し、当該トロヨケ10の上端部からフック係入口15dの上縁部までの高さ寸法と略同一の寸法を有する矩形筒体として形成されている。また、前面は後面よりも短い長さ寸法として、下縁部に間隙が形成されており、当該間隙と繋がるように、両側面部の下隅角部にも間隙が設けられている。
【0023】
上記位置調整ベース30の両側面部における対向する位置には、上端部からトロヨケ10の奥行方向(後方)の下部に向けて下降する同一形状の傾斜溝30aが形成されている。この傾斜溝30aは、上端部が開口しており、下端部は、奥行き方向の端面近傍にまで至っており、位置調整ベース30の略中間の高さに至っている。
なお、この傾斜溝30aの態様は、適宜に定めうるものである。
【0024】
位置調整ベース30の前板15側の面(前面)の中央部には、前後調整ネジ41を挿通するためのネジ挿通前孔30cが形成されている。また、位置調整ベース30の後面には、上縁部から傾斜溝30aの下端部の高さに至る位置にまで、上面が開口している丸長孔30bが形成されているとともに、ネジ挿通前孔30cに対応する位置には、ネジ挿通後孔30dが設けられている。
さらに、位置調整ベース30の両側面の下部後端には、トロヨケ10の角長孔10bに摺動自在に挿入されるガイド突起30eが設けられている。
【0025】
フック受具25は薄板であり、上側の幅狭部が位置調整ベース30の内側に嵌装される寸法であり、下側の幅広部が当該位置調整ベース30の側面部とフラットになるとともに、下端部と同一高さとなるように形成されている。フック受具25の幅狭部の中央部には、前後調整ネジ41を挿通するためのネジ挿通孔25aが形成されており、前板15の第1長孔15cと、位置調整ベース30のネジ挿通前孔30cと,ネジ挿通孔25aと、ネジ挿通後孔30dの位置を一致させた状態で、各孔(15c,30c,25a,30d)に挿通される前後調整ネジ41により、フック受具25の幅広部が前面の間隙を塞ぐようにして、位置調整ベース30に取り付けられている。
【0026】
[上下位置調整機構及び前後調整ネジ]
上記位置調整ベース30は、上下位置調整機構により、上下方向に位置変更が可能となっている。上記上下位置調整機構は、上下調整ネジ35と、位置調整ベース30の傾斜溝30aと、当該傾斜溝30aに沿って、上下に摺動移動する上下移動板33から構成されている。
薄板である上下移動板33は、上側の幅狭部が位置調整ベース30の内側に嵌装される寸法であり、下縁部の突起部33aが移動自在となるよう傾斜溝30aに挿通されるように、凸状に形成されている。また、上記上下移動板33の幅狭部の略中央部には中央孔33bが設けられている。
【0027】
上下調整ネジ35は、位置調整ベース30の取付位置を上下方向に調節するために設ける部材である。また、前後調整ネジ41は、下記のとおり、位置調整ベース30に取り付けられているフック受具25の取付位置を前後方向(トロヨケ10の奥行方向)に調節するために設ける部材である。
【0028】
[トリガー当接板]
トリガー当接板20は、トリガー7の先端を当接させるために設けられる部材であり、トロヨケ10の収容空間10aに収容されるように、当該トロヨケ10の内幅寸法と略同一寸法である薄板形状に形成されている。上記トリガー当接板20の上縁部には、フック係入口15dの方向に突出しており、当該フック係入口15dにおいて移動自在となるように挿通されている、突出縁辺部20aが設けられている。また、トリガー当接板20の下側の中央部には、当接板位置調整ネジ22を挿通するための中央孔20bが形成されている。
【0029】
[各構成要素の取付構造]
トロヨケ10は、縦枠Tに埋設され、前面に前板15が取り付けられ、上下の取付部11の各取付孔11a,15aを同一位置に合わせて、ネジ17により取り付けられている。
【0030】
上記位置調整ベース30は、トロヨケ10における収容空間10aの上部に内装され、上下調整ネジ35が、前板15の上部孔15bと、上下移動板33の中央孔33bと、丸長孔30bと、トロヨケ10の後面孔10bに挿通されるとともに、ガイド突起30eが角長孔10cにスライド自在に挿入されることにより、当該上下調整ネジ35と上下移動板33により架設されている。なお、符号36は、上下調整ネジ35の先端部に設けられているカシメ座金である。
【0031】
また、上記前後調整ネジ41は、頭部が前板15の第1長孔15cに挿着されるとともに、胴部及びネジ部が、位置調整ベース30のネジ挿通前孔30cと、フック受具25の中央孔25aと、ネジ挿通後孔30dに挿通されている。なお、符号42は、前後調整ネジ41の先端部に設けられているカシメ座金である。
【0032】
上記構成である位置調整ベース30は、上下調整ネジ35を回動させることにより、上下移動板33の突起部33aが傾斜溝30aに沿って摺動するとともに、ガイド突起30eが、トロヨケ10の角長孔10に沿って摺動しながら昇降することにより、フック受具25の上下位置を調整することができるようになっている(
図4における(1)のA-B)。
また、上記位置調整ベース30は、前後調整ネジ41を回動させることにより、上下位置調整ベース30に取り付けられているフック受具25の前後位置を調整することができるようになっている(
図4における(2))。
【0033】
さらに、トリガー当接板20の前面は、前板15のフック係入口15dの裏面と当接し、突出縁辺部20aがフック係入口15dに嵌装されており、当該前板15の第2長孔15eに沿ってスライド(摺動)可能となっている。そして、前板15の第2長孔15eと、トリガー当接板20の中央孔20aを合致させ、当接板位置調整ネジ22を挿通して位置決めすることにより、トリガー当接板20の突出縁辺部20aの上下位置を調整できるようになっている(
図4における(3))。
【0034】
(2)本鎌錠受具置の作用効果
本鎌錠受具Uでは、取付時において、鎌錠本体Kのトリガー7の形態に応じて、当接板位置調整ネジ22の締結位置を適切な位置に定めて、トリガー当接板20を前板15に取り付けることにより、トリガー7が当接する位置を容易に調整可能となる。
また、上下位置調整機構及び前後調整ネジ41により、鎌錠本体Kのフック6の形態に応じて、位置調整ベース30に取り付けられているフック受具25の上下位置及び前後位置を調整可能となる。
【0035】
上記のとおり、本鎌錠受具Uによれば、トリガー当接板20は、フック係入口15dにおける下端縁部であって、トロヨケ10の後面側において、当該前板15に沿って、フック係入口15dの一部を閉塞するように上下方向にスライド自在に取り付けられている。そのため、トリガー当接板20を着脱させることなく、トリガー7の態様に応じて、容易にその位置を調整することができる。また、トリガー当接板20は前板15の幅寸法以下の幅寸法の薄板として形成されていることから、その取付箇所を目立たなくし、前板15と一体化することができるため、簡易な構造で小型化を実現することが可能であり、デザイン的にも優れた構造とすることができる。
【0036】
以上、本発明について、好適な実施形態についての一例を説明したが、本発明は当該実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜設計変更が可能である。
【0037】
特に、本発明は、鎌部材及びトリガーを有する鎌錠であれば、いずれの鎌錠についても適用可能であり、また、本鎌錠受具が取り付けられる扉部材についての制限はない。
さらに、本鎌錠受具を構成する各部材及び各要素についての仕様、材質、寸法、形状、取り付け位置等に関しては、基本的な構成を備えていれば、種々の構造を用いることができる。
【符号の説明】
【0038】
U 鎌錠受具
K 鎌錠本体
H 引戸
T 縦枠
6 フック(鎌部材)
7 トリガー
10 トロヨケ(筐体)
10a 収容空間
15 前板
15b 上部孔
15c 第1長孔
15d フック係入口(係入部)
15e 第2長孔
20 トリガー当接板
20a 突出縁辺部
22 当接板位置調整ネジ
25 フック受具
30 位置調整ベース
30a 傾斜溝
33 上下移動板
35 上下調整ネジ
41 前後調整ネジ