(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】TNF関連炎症性疾患を治療または診断するTNF指向性アプタマーおよびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/115 20100101AFI20231206BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231206BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20231206BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20231206BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231206BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20231206BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20231206BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20231206BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20231206BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20231206BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C12N15/115 Z ZNA
G01N33/53 D
A61P1/16
A61P1/18
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P17/06
A61P11/00
A61P13/12
A61P9/10
A61K31/711
(21)【出願番号】P 2020558464
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(86)【国際出願番号】 US2018067140
(87)【国際公開番号】W WO2019203904
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-01-19
(32)【優先日】2018-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505008028
【氏名又は名称】中央研究院
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Academia Road,Section 2,Nankang Taipei,Taiwan
(73)【特許権者】
【識別番号】506292158
【氏名又は名称】国立台湾大学
【氏名又は名称原語表記】National Taiwan University
【住所又は居所原語表記】No. 1, Roosevelt Rd. Sec.4, Da‘an District, Taipei,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100154988
【氏名又は名称】小林 真知
(72)【発明者】
【氏名】楊 ▲パン▼池
(72)【発明者】
【氏名】頼 薇云
(72)【発明者】
【氏名】王 人緯
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-155913(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0039500(KR,A)
【文献】核酸医薬品の現状と品質管理に関わるレギュラトリーサイエンス上の課題,RSMP,2017年,Vol. 7 No. 2,p. 113-120
【文献】Conformational plasticity of RNA for target recognition as revealed by the 2.15Å crystal structure of a human IgG-aptamer complex,Nucleic Acids Research,2010年,Vol. 38, No. 21,p. 7822-7829
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト腫瘍壊死因子α(TNFα)に結合できる核酸アプタマーであって、
前記核酸アプタマーが、41~100個のヌクレオチドからなり、
前記核酸アプタマーが、GCGCCACTACAGGGGAGCTGCCATTCGAATAGGTGGGCCGC(配列番号1)と少なくとも85%同一の核酸配列を含み、
前記核酸アプタマーの二次構造が、前記配列番号1の二次構造(下記式で示される。)における全てのループ構造およびその配列を維持することを特徴とする、核酸アプタマー。
【請求項2】
GCGCCACTACAGGGGAGCTGCCATTCGAATAGGTGGGCCGC(配列番号1)と少なくとも90%同一の核酸配列を含む、請求項1に記載の核酸アプタマー。
【請求項3】
GCGCCACTACAGGGGAGCTGCCATTCGAATAGGTGGGCCGC(配列番号1)と少なくとも95%同一の核酸配列を含む、請求項2に記載の核酸アプタマー。
【請求項4】
GCGCCACTACAGGGGAGCTGCCATTCGAATAGGTGGGCCGC(配列番号1)の核酸配列を含む、請求項3に記載の核酸アプタマー。
【請求項5】
GCGCCACTACAGGGGAGCTGCCATTCGAATAGGTGGGCCGC(配列番号1)の核酸配列からなる、請求項4に記載の核酸アプタマー。
【請求項6】
ポリエチレングリコール(PEG)部分に共役する、請求項1~4のいずれか一項に記載の核酸アプタマー。
【請求項7】
前記PEG部分は、15~40kDaの分子量を有する、請求項6に記載の核酸アプタマー。
【請求項8】
核酸アプタマーの二つのコピーを含む二量体形態である、請求項1~7のいずれか一項に記載の核酸アプタマー。
【請求項9】
前記核酸アプタマーの二つのコピーは、
ポリエチレングリコール(PEG
)部分で連接される、請求項8に記載の核酸アプタマー。
【請求項10】
検出可能標識に共役する、請求項1~9のいずれか一項に記載の核酸アプタマー。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の核酸アプタマー、および薬学上許容できる担体を含む、医薬組成物。
【請求項12】
有効量の請求項1~9のいずれか一項に記載の核酸アプタマーを含む、対象におけるTNFα活性を抑制するための、医薬組成物。
【請求項13】
前記対象は、TNFαにより媒介される疾患に罹患している、罹患の疑いがある、もしくはその危険性があるヒト患者である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記TNFαにより媒介される疾患は、関節リウマチ、乾癬、クローン病、急性肝損傷、急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、眼球乾燥症候群、全身性炎症反応症候群(SIRS)関連脳疾患、喘息、ブドウ膜炎、急性膵炎、急性糸球体損傷、急性腎不全、ANCA関連血管炎、または急性脳疾患である、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記対象は、TNFα拮抗剤に関与する治療法を受けた、もしくは受けている、請求項12~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
有効量の請求項1~9のいずれか一項に記載の核酸アプタマーを含む、対象における肝損傷を緩和または肝再生を促進するための、医薬組成物。
【請求項17】
前記対象は、肝疾患関連の肝損傷を有する、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記肝疾患は、肝炎、肝硬変症、肝線維症、脂肪性肝疾患、肝癌、または急性肝損傷である、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記対象は、前記肝疾患の急性期にある、請求項17または18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記核酸アプタマーの量は、前記対象における血清アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)レベル、血清アラニントランスアミナーゼ(ALT)レベル、またはその両者を低下させるのに十分な量である、請求項12~19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記核酸アプタマーの量は、前記対象における肝臓への好中球浸潤を低下させるのに十分な量である、請求項12~19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記核酸アプタマーは、気管内で投与する、請求項12~21のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記核酸アプタマーは、吸入または皮下注射で投与する、請求項12~21のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
TNFαを含んでいる可能性がある生体試料に、請求項10に記載の核酸アプタマーを接触させ、試料におけるTNFαと前記核酸アプタマーとの結合を検査することを含む、試料における腫瘍壊死因子α(TNFα)の存在を検出する方法。
【請求項25】
有効量の請求項10に記載の核酸アプタマーを含む組成物であって、
検出可能標識からのシグナルにより、核酸アプタマーの位置を検出することで、対象における腫瘍壊死因子α(TNFα)を生体内でモニタリングするための組成物。
【請求項26】
前記対象は、肝疾患に罹患している、もしくは罹患の疑いがあるヒト患者である、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記検出は、ヒト患者の肝臓における前記検出可能標識からのシグナルのレベルを測定することで行われる、請求項26に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条に基づく2018年4月20日付けて出願した米国の仮出願第62/660,324号の優先権を主張しており、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
腫瘍壊死因子α(以下、TNFαまたはTNFと略称する)は、炎症に関与するサイトカインである。これは主に活性化マクロファージや他の免疫細胞、例えば、リンパ球、好中球、およびNK細胞から分泌される。TNFは、生理的条件でホモトリマーを形成し、その受容体であるTNFR1またはTNFR2に結合することで、細胞の増殖、分化、またはアポトーシスを制御する下流のNF-κB、MAPK、または死亡シグナル経路を励起する。TNFは、ほぼ全種類の炎症関連疾患で役割を担っており、TNF分泌の調節不全は、関節リウマチ、乾癬、強直性脊椎炎、炎症性腸疾患、神経変性疾患、肝損傷、および癌を含む疾患を引き起こす。
【0003】
しかしながら、TNFに直接に対抗する抗体は、クッパー細胞および多核白血球のような膜結合型TNF発現細胞に対抗する抗体依存-細胞媒介細胞傷害性(ADCC)および補体依存細胞毒性(CDC)を誘発することができる。TNF濃度の常規的な予測マーカーまたは生体内(in vivo)でのTNFを検出する診断ツールは、未だに存在していない。さらに、抗体のようなタンパク質系薬剤は、通常、高価でバッチ間変動がある細胞ベースの生産システムを必要とする。
【0004】
そのため、TNFの指向化および検出のための非タンパク質系薬剤の開発に対する関心は高い。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、試験管内でTNFのシグナル伝達を抑え、生体内でTNFが媒介される急性肝損傷を減少する抗TNFα(すなわち、抗TNF)核酸アプタマーの開発に基づく。
【0006】
そのため、本開示の一つの態様は、TNFに結合してTNFの活性を中和する核酸アプタマー(抗TNFアプタマー)を特徴とする。本開示の核酸アプタマーのいずれも、その長さが200個のヌクレオチドに達し得る。例えば、抗TNF核酸アプタマーは、40~100個のヌクレオチドからなるものであってもよい。
【0007】
いくつかの具体的な実施態様において、前記核酸アプタマーは、5’-GCGCCACTACAGGGGAGCTGCCATTCGAATAGGTGGGCCGC-3’(配列番号1)のヌクレオチド配列を有する核酸モチーフを含む。このような抗TNFアプタマーは、配列番号1と少なくとも85%(例えば、少なくとも90%、少なくとも95%、またはそれ以上)同一の核酸配列を含んでもよい。一つの実施態様において、前記核酸アプタマーは、配列番号1の核酸配列を含む。もう一つの実施態様において、前記核酸アプタマーは、配列番号1の核酸配列からなる。
【0008】
いくつかの具体的な実施態様において、前記核酸アプタマーは、ポリエチレン(PEG)部分(moiety)(例えば、分子量が約15~40kDaであるPEG部分)に共役する。
【0009】
いくつかの具体的な実施態様において、前記核酸アプタマーは、核酸アプタマーの二つのコピーを含む二量体形態である。いくつかの具体的な実施態様において、PEG部分は、前記核酸アプタマーの二つのコピーを連接する。
【0010】
いくつかの具体的な実施態様において、前記核酸アプタマーは、検出可能標識に共役する。
【0011】
本開示のもう一つの態様は、本明細書に記載の抗TNFアプタマーのいずれか、および薬学上許容できる担体を含む、医薬組成物を特徴とする。
【0012】
本開示のさらにもう一つの態様は、有効量の本明細書に記載の核酸アプタマーのいずれかを必要のある対象に投与することを含む、対象におけるTNF活性を抑制する方法を提供する。いくつかの具体的な実施態様において、前記対象は、TNFが媒介される疾患(例えば、関節リウマチ、乾癬、クローン病、急性肝損傷、急性肺損傷(ALI)、急性肺不全、全身性炎症反応症候群(SIRS)関連脳疾患、急性呼吸窮迫症候群、眼球乾燥症候群、ブドウ膜炎、急性膵炎、急性糸球体損傷、急性腎不全、ANCA関連血管炎、または急性脳疾患)に罹患している、罹患の疑いがある、もしくはその危険性があるヒト患者であってもよい。いくつかの具体的な実施態様において、前記対象は、TNF拮抗剤に関与する治療法を受けた、もしくは受けている。いくつかの実施態様において、前記対象は、前記疾患の急性期にある。
【0013】
本開示のもう一つの態様は、有効量の本明細書に記載の核酸アプタマーのいずれかを必要のある対象に投与することを含む、肝損傷の緩和または肝再生の促進のための方法を提供する。いくつかの具体的な実施態様において、前記対象は、肝疾患(例えば、肝炎、肝硬変症、肝線維症、脂肪性肝疾患、肝癌、または急性肝損傷)関連の肝損傷を有する。いくつかの具体的な実施態様において、前記核酸アプタマーの投与量は、対象における血清アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)レベル、血清アラニントランスアミナーゼ(ALT)レベル、またはその両者を十分に低下させる量である。いくつかの具体的な実施態様において、前記核酸アプタマーの投与量は、対象における肝臓への好中球浸潤を十分に低下させる量である。
【0014】
本明細書に開示の方法のいずれかにおいて、前記核酸アプタマーは、必要のある対象に気管内で投与してもよい。いくつかの具体的な実施態様において、前記アプタマーは、吸入または皮下注射で投与してもよい。
【0015】
さらに、本開示は、TNFを含んでいる可能性がある生体試料に、本明細書に記載の検出可能標識に共役する抗TNF核酸アプタマーを接触させ、試料におけるTNFと核酸アプタマーとの結合を検査することを含む、試料におけるTNFの存在を検出する方法を提供する。
【0016】
本開示のもう一つの態様は、有効量の検出可能標識に共役する抗TNF核酸アプタマーを必要のある対象に投与し、前記検出可能標識からのシグナルにより、核酸アプタマーの位置を検出することを含む、生体内で腫瘍壊死因子α(TNF)をモニタリングする方法を提供する。いくつかの具体的な実施態様において、前記対象は、肝疾患に罹患している、もしくは罹患の疑いがあるヒト患者。いくつかの具体的な実施態様において、検出工程は、ヒト患者の肝臓における検出可能標識からのシグナルのレベルを測定することで行われる。
【0017】
本発明の一つまたは複数の実施態様の詳細は、下記の内容によって説明する。本発明の他の特徴または利点は、下記の図面、いくつかの実施態様の詳細な説明、および添付の特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、aptTNFαおよび/またはaptTNFα-PEGは、急性損傷期におけるTNFα(TNF-αともいう)媒介のアポトーシスの抑制に使用でき、かつ組織修復期における増殖のシグナル伝達に影響しないことを示す概略図である。
【
図2A-G】
図2A~2Gは、aptTNFαが高親和性でヒトTNFαに結合し、生体内でTNFαをモニタリングする分子撮像プローブとして使えることを示すデータを含む。
図2A:例示的なaptTNFαの構造である。前記aptTNFαは配列番号1を含む。
図2B:aptTNFαとヒトTNFαの解離定数のグラフ(左側)であり、aptTNFαがヒトTNFαにもマウスTNFαにも結合することを示すチャート(n=3、右側)である。
図2C:ALIを有する場合および有しない場合に、マウスにおけるaptTNFαシグナルの生体内検出を示す写真である(n=3)。
図2D:
図2C中のaptTNFαシグナルを定量化したチャートである。
図2E:アプタマーを投与してから4時間後のIRDye(登録商標)800CW標識のaptTNFαの生体内分布を示す一連の写真である(n=3)。
図2F:
図2Eに示されるIRDye(登録商標)800CW標識のaptTNFαの生体内分布を定量化したチャートである。
図2G:アプタマーを投与してから4時間後の血清におけるLDH、AST、およびALTのレベルを示す一連のチャートである(n=5)。
【
図3A-C】
図3A~3Cは、aptTNFα-PEGは、抗TNFα抗体に比べて、TNFα経路に対する抑制期間が短いことを示すデータを含む。
図3A:例示的な二量体aptTNFα-PEGの概略図である。前記aptTNFαアプタマーは配列番号1の二つのコピーを含む。
図3B:aptTNFα-PEGがマウスTNFαに結合することを示すチャートである(n=3)。
図3C:TNFα処理から4時間後(上側)および24時間後(下側)、TNFα/NF-κBレポーターアッセイで測定したaptTNFα、aptTNFα-PEG、および抗TNFα抗体の抑制効果を示すグラフである(n=3)。
【
図4A-J】
図4A~4Jは、aptTNFαおよびaptTNFα-PEGは気管内(i.t.)または静脈内(i.v.)送達により、LPS誘発のALIを抑制することを示すデータを含む。
図4A:気管内または静脈内投与のaptTNFα-PEGの、血中酸素飽和度レベルに対する影響を示すチャートである。
図4B:気管内または静脈内投与のaptTNFα-PEGの、体重で標準化された肺の湿重量に対する影響を示すチャートである。
図4C:肺組織のヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)と好中球染色を示す一連の写真である。
図4D:気管内または静脈内投与のaptTNFα-PEGの肺損傷スコアに対する影響を示すチャートである。
図4E:気管内または静脈内投与の異なる濃度のaptTNFα-PEGの、気管支肺胞洗浄液(BALF)における総タンパク質に対する影響を示すチャートである。
図4F:気管内または静脈内投与の異なる濃度のaptTNFα-PEGの、BALFにおける総細胞数に対する影響を示すチャートである。
図4G:気管内または静脈内投与の異なる濃度のaptTNFα-PEGの、BALFにおけるミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性に対する影響を示すチャートである。
図4H~4J:肺組織における指定のサイトカイン/ケモカインの発現レベルを示す一連のチャートである。
図4A~4Jは、異なる処理群(n=6)からのデータを含む。前記処理の投与量は、μg/kgで表される。
【
図5A-G】
図5A~5Gは、AptTNFαおよびaptTNFα-PEGがD-GalN/TNFα誘発の急性肝損傷の度合いを低減させ、早期的な肝再生を増強させることを示すデータを含む。
図5A:aptTNF-PEG共役物は、TNFおよびD-GalNで誘発した重症な肝細胞死亡および肝組織出血を救助すること(H&E染色)、ならびにaptTNFα-PEG処理が好中球浸潤を抑制すること(好中球染色)を示す一連の写真である。
図5B:NACに比べて、aptTNFαおよびaptTNFα-PEGは、D-GalNおよびTNFで誘発したASTの血清中レベルを低減させる優れた効果を有することを示すチャートである。
図5C:急性肝損傷のマウスモデルにおいて、aptTNFおよびaptTNFα-PEG処理は、TNFおよびD-GalNで誘発したALTの血清中レベルを有意に抑制すること示すチャートである。
図5D~5F:炎症促進性サイトカイン(IL1β、IL6)および好中球動員ケモカイン(CXCL2)の発現レベルは、TNFおよびD-GalN注射によって増加し、aptTNFαまたはaptTNFα-PEG処理によって減少することを示す一連のチャートである。
図5G:急性肝損傷のマウスモデルにおいて、aptTNFαまたはaptTNFα-PEG処理は、PCNAタンパク質発現を増加し、肝再生を促進することを示す写真である。
図5A~5Gは、異なる処理群(n=6)の肝組織からのデータを含む。前記処理の投与量は、μg/kgで表される。
【
図6】
図6は、aptTNFαまたはaptTNFα-PEGが肝組織におけるカスパーゼ-3の活性化を抑制することを示す写真である。
【
図7】
図7は、マクロファージ動員ケモカイン(CCL2)および好中球動員ケモカイン(IL23およびIL17)の発現レベルは、TNFαおよびD-GalN注射によって増加し、aptTNFα-PEG処理によって減少することを示す一連のチャートである。
【
図8】
図8は、急性肝損傷のマウスモデルにおいて、aptTNFαおよびaptTNFα-PEG処理は、サイクリンd1(CCND1)およびPCNA mRNAの発現を増加し、肝再生を促進することを示す一連のチャートである。
【
図9A-C】
図9A~9Cは、AptTNFαが肝臓におけるTNFαを生体内でモニタリングするための診断剤として使用できることを示すデータを含む。
図9A:IRDye(登録商標)800CW標識のaptTNFαは、LPSおよびD-GalNで誘発した内因性TNFα分泌および急性肝損傷を有するマウスの肝臓に特異的に局在し、LPSおよびD-GalNを注射していないマウスの肝臓に局在しないが、両方ともaptTNFαを膀胱に排泄されることを示す一連の写真である。
図9B:肝臓からのIRDye(登録商標)800CW標識のaptTNFαの経時的な全流量を示すチャートである。
図9C:LPSおよびD-GalN注射で誘発した急性肝損傷のマウスモデルにおいて、腎臓および肝臓でのIRDye(登録商標)800CW標識のaptTNFαの局在を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示の一部は、抗TNF核酸アプタマー(aptTNF)およびそのPEG共役物の開発に基づいて、TNFのシグナル伝達の抑制および生体内でのTNF媒介の急性肝損傷の軽減に優れた効果を示す。例えば、例示的なアプタマー(例えば、aptTNFまたはaptTNF-PEG)は、試験管内でのTNFのシグナル伝達の抑制において、抗TNF抗体と同等またはより優れているであることが分かった。さらに、急性肝損傷の動物モデルから得られた結果では、例示的な抗TNFアプタマーは、血清アミノトランスフェラーゼのレベルの低下において、N-アセチルシステイン(一般的に使用される急性肝損傷用の治療薬)と同等またはより優れている治療効果を示すことにより、肝臓への好中球浸潤を抑制し、肝再生を促進することを示した。よって、本明細書に記載の抗TNFアプタマーは、炎症の軽減、肝損傷の軽減、および/または肝再生の促進に有用であるため、TNFが媒介される疾患、例えば、肝疾患の治療に有効である。前記抗TNFアプタマーは、急性肺損傷のマウスモデルにも、組織保護効果および全身性抗炎症効果を示した。さらに、TNFに対する結合親和性を考えると、抗TNFアプタマーのいずれも、試験管内または生体内でTNFの存在および/またはレベルを検出するための診断剤として使用できる。TNFの存在および/またはレベルは、TNFシグナル伝達関連炎症性疾患および癌に関連するバイオマーカーとすることができる。
【0020】
したがって、本明細書には、抗TNFアプタマー、それを含む医薬組成物、ならびにそれを治療および/または診断の目的に使用される方法が記載されている。
【0021】
抗TNFアプタマー
本明細書に記載されているのは、TNFに結合して、TNF媒介のシグナル伝達を抑制する核酸アプタマー(抗TNFアプタマー)であり、予想通りに、炎症を軽減する。本明細書に使用される核酸アプタマーは、特定の標的分子(TNF、例えばヒトTNF)に対する結合活性を有する核酸分子(DNAまたはRNA)を指す。前記アプタマーは、TNF分子に結合することでTNF媒介のシグナル伝達を阻害できる。本開示の抗TNFアプタマーは、線状または環状の形式で、RNA、DNA(例えば、一本鎖DNA)、修飾された核酸、またはこれらの混合物であってもよい。前記抗TNFアプタマーは、非自然発生分子(例えば、天然遺伝子に存在しないヌクレオチド配列を含むか、または自然界に存在しない修飾されたヌクレオチドを含む)であってもよい。あるいは、またはさらに、前記抗TNFアプタマーは、機能性ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含まなくてもよい。
【0022】
TNFは、腫瘍壊死因子(腫瘍壊死因子α、TNFα、カケキシン(cachexin)、またはカケクチン(cachectin)とも言われている)を指し、炎症に関連するサイトカインである。主に、活性化マクロファージから生成されているが、好中球、肥満細胞、およびリンパ球を含む他の細胞タイプから生成されていてもよい。ヒトにおいて、TNFは、TNFA遺伝子によってコードされ、例示的なヒトTNF配列は、GenBank受託番号NP_000585.2として提供される。
【0023】
本明細書に開示の抗TNF核酸アプタマーは、5’-GCGCCACTACAGGGGAGCTGCCATTCGAATAGGTGGGCCGC-3’(配列番号1)と少なくとも85%(例えば、90%、95%、または98%)同一のヌクレオチド配列を含んでもよい。
【0024】
二つの核酸の「同一性の百分率」は、KarlinおよびAltschul Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:5873-77,1993によって修正されたKarlinおよびAltschul Proc.Natl.Acad.Sci.USA87:2264-68,1990の演算法を使用することで決定する。このような演算法は、Altschul,et al.J.Mol.Biol.215:403-10,1990のNBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれた。BLASTヌクレオチド検索は、本発明の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得るように、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長12によって行うことができる。二つの配列の間にギャップが存在する場合、Altschul et al.,Nucleic Acids Res.25(17):3389-3402,1997に記載のGapped BLASTを利用してもよい。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用してもよい。
【0025】
他の実施態様において、本明細書に記載の抗TNFアプタマーは、5’-GCGCCACTACAGGGGAGCTGCCATTCGAATAGGTGGGCCGC-3’(配列番号1)のヌクレオチド配列と比較して、最大5個(例えば、最大5、4、3、2、または1個)のヌクレオチド変異を含んでもよい。
図2Aに示されるように、配列番号1のある一部が二本鎖構造を形成している。場合によっては、任意の二本鎖セグメントにおける一つまたは複数の塩基対に関与するヌクレオチドは、異なる塩基対で転換または置換されてもよい。このような変異体は、
図2Aに示される配列番号1と同じ二次構造を維持し、全てのループ構造/配列を維持する。
【0026】
本明細書に開示の抗TNFアプタマーのいずれも、最大200個のヌクレオチド(nts)、例えば、150個のヌクレオチド、100個のヌクレオチド、80個のヌクレオチド、70個のヌクレオチド、60個のヌクレオチド、50個のヌクレオチド、40個のヌクレオチド、または30個のヌクレオチドを含んでもよい。いくつかの実施態様において、前記抗TNFアプタマーは、30~150個のヌクレオチド、30~100個のヌクレオチド、30~80個のヌクレオチド、30~70個のヌクレオチド、30~60個のヌクレオチド、30~50個のヌクレオチド、または30~40個のヌクレオチドという範囲のヌクレオチドを含んでもよい。
【0027】
前記抗TNFアプタマーは、ヒトTNFに特異的に結合してもよい。あるいは、前記アプタマーは、異なる種(例えば、ヒトおよびマウス)由来のTNF分子に結合してもよい。TNFに結合する場合、このようなアプタマーは、少なくとも20%(例えば、40%、50%、80%、100%、2倍、5倍、10倍、100倍、または1,000倍)のTNF媒介の細胞シグナル伝達を阻害できる。TNFアプタマーのTNF媒介のシグナル伝達に対する阻害活性は、常規的なアッセイ法および/または以下の実施例に記載される方法によって確認できる。
【0028】
いくつかの具体的な実施態様において、本明細書に記載の抗TNFアプタマーは、非自然発生の核酸塩基、糖、またはヌクレオシド間共有結合(骨格)を含んでもよい。このような修飾されたオリゴヌクレオチドは、所望の特性、例えば、細胞取込の増強、標的核酸に対する親和性の改善、および生体内安定性の増加を与える。
【0029】
一つの実施態様において、本明細書に記載のアプタマーは、修飾された骨格を有し、これにはリン原子を保持するもの(例えば、米国特許第3,687,808号、米国特許第4,469,863号、米国特許第5,321,131号、米国特許第5,399,676号、および米国特許第5,625,050号を参照する。)、およびリン原子を有さないもの(例えば、米国特許第5,034,506号、米国特許第5,166,315号、および米国特許第5,792,608号を参照する。)を含む。リン含有の修飾された骨格の例としては、ホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、メチルや他のアルキルホスホネート(3’-アルキレンホスホネート、5’-アルキレンホスホネート、およびキラルホスホネートを含む)、ホスフィナート、ホスホロアミデート(3’-アミノホスホロアミデート、およびアミノアルキルホスホロアミデートを含む)、チオホスホロアミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、セレノホスフェート、および3’-5’結合または2’-5’結合を有するボラノホスフェートを含むが、これらに限定されない。このような骨格には、反転の極性を有する骨格も含まれ、すなわち、3’から3’へ、5’から5’へ、または2’から2’への結合である。リン原子を含まない修飾された骨格は、短鎖アルキルまたはシクロアルキルヌクレオシド間結合、混合ヘテロ原子およびアルキルまたはシクロアルキルヌクレオシド間結合、または一つまたは複数の短鎖ヘテロ原子または複素環ヌクレオシド間結合によって形成される。このような骨格には、モルホリノ結合を有する骨格(一部がヌクレオシドの糖部分で形成される);シロキサン骨格;スルフィド、スルホキシドおよびスルホン骨格;ホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格;メチレンホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格;リボアセチル骨格;アルケン含有骨格;スルファメート骨格;メチレンイミノおよびメチレンヒドラジノ骨格;スルホン酸塩およびスルホンアミド骨格;アミド骨格;ならびに他のN、O、SおよびCH2混合含有の構成部分も含まれている。
【0030】
もう一つの実施態様において、本明細書に記載のアプタマーは、一つまたは複数の置換糖部を含む。このような置換糖部は、これらの2’位置に、OH;F;O-アルキル基、S-アルキル基、N-アルキル基、O-アルケニル基、S-アルケニル基、N-アルケニル基;O-アルキニル基、S-アルキニル基、N-アルキニル基、およびO-アルキル-O-アルキル基のうちの一つを含んでもよい。これらの基において、前記アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、置換または非置換のC1~C10アルキル基またはC2~C10アルケニル基やアルキニル基であってもよい。これらは、これらの2’位置に、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロシクロアルカリル基、アミノアルキルアミノ基、ポリアルキルアミノ基、置換シリル基、RNA開裂基、レポーター基、インターカレータ、オリゴヌクレオチドの薬物動態性質を改善するための基、またはオリゴヌクレオチドの薬力学特性を改善するための基を含んでもよい。好ましい置換糖部は、2’-メトキシエトキシ基、2’-ジメチルアミノオキシエトキシ基、および2’-ジメチルアミノエトキシエトキシ基を有するものを含む。Martin et al.,Helv.Chim.Acta,1995,78,486-504を参照する。
【0031】
あるいは、またはさらに、本明細書に記載のアプタマーは、一つまたは複数の修飾された天然核酸塩基(すなわち、アデニン、グアニン、チミン、シトシンおよびウラシル)を含む。修飾された核酸塩基には、米国特許第3,687,808号、「高分子科学および工学の簡明な百科事典」(The Concise Encyclopedia Of Polymer Science And Engineering,858-859ページ,Kroschwitz,J.I.,ed.John Wiley&Sons,1990,Englisch et al.,Angewandte Chemie,国際版,1991,30,613)、および「アンチセンス研究および応用」(Sanghvi,Y.S.,第15章,Antisense Research and Applications,289-302ページ,CRC Press,1993)に記載されているものが含まれる。これらの核酸塩基のいくつかは、特に、アプタマー分子とその標的部位の結合親和性を高めることに有用である。これらには、5-置換ピリミジン、6-アザピリミジン、ならびにN-2、N-6、およびO-6置換プリン(例えば、2-アミノプロピル-アデニン、5-プロピニルウラシル、および5-プロピニルシトシン)が含まれる。Sanghvi,et al.,eds.,Antisense Research and Applications,CRC Press,Boca Raton,1993,pp.276-278を参照する。
【0032】
本明細書に記載のアプタマーのいずれも、従来の方法、例えば、化学合成または試験管内転写によって調製できる。本明細書に記載のこれらの所期の生物活性は、例えば、以下の実施例に記載されるものによって検証できる。前記抗TNFアプタマーのいずれかを発現するベクターも本開示の範囲内に含まれる。
【0033】
本明細書に記載のアプタマーのいずれも、共有結合、非共有結合、またはその両方を介して、一つまたは複数のポリエーテル部分、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)部分に共役してもよい。したがって、いくつかの具体的な実施態様において、本明細書に記載のアプタマーは、ペグ化されたものである。本開示は、特定の分子量のPEG部分に限定されるものではない。いくつかの具体的な実施態様において、前記ポリエチレングリコール部分は、5kDa~100kDa、10kDa~80kDa、20kDa~70kDa、20kDa~60kDa、20kDa~50kDa、10kDa~40kDa、10kDa~30kDa、15kDa~40kDa、15kDa~30kDa、15kDa~35kDa、15kDa~25kDa、20kDa~40kDa、20kDa~35kDa、または20kDa~30kDaの範囲の分子量を有する。いくつかの実施態様において、前記PEG部分は20kDaの分子量を有する。本明細書に記載の抗TNFアプタマーに共役するPEG部分は、直鎖状または分岐状であってもよい。これは、核酸アプタマーの5’末端、アプタマーの3’末端、またはその両方に共役してもよい。必要に応じて、前記PEG部分は、核酸アプタマーの3’末端に共有結合的に共役してもよい。PEG共役は、核酸アプタマーの半減期を延長することが予期される。
【0034】
PEG部分と核酸とを共役する方法は、当技術分野で知られており、例えば、PCT公開番号WO2009/073820A2に記載されており、その関連教示は参照により本明細書に組み込まれる。PEGによって共役された核酸アプタマー、およびPEGと本明細書に記載の核酸アプタマーとを共役する方法は、例示的なものであり、限定を意味するものではないと理解されるべし。
【0035】
場合によっては、前記核酸アプタマーは、一つまたは複数のN-アセチルグルコサミン(GalNAc)部分に共役して、組織特異的送達(例えば、肝臓送達)を促進してもよい。
【0036】
前記抗TNF核酸アプタマーは、多量体形態、例えば、二量体形態であってもよい。いくつかの具体的な実施態様において、抗TNFアプタマー二量体は、本明細書に記載のPEG部分のような適切なポリマー部分で連結された二つの抗TNFアプタマーを含んでもよい。二量体抗TNFアプタマーの非限定的な例を
図3Aに示す。二量体における二つのアプタマーの一方または両方は、配列番号1のヌクレオチド配列を含んでもよい。二つの抗TNFアプタマーは、同一であっても異なっていてもよい。例えば、前記抗TNFアプタマーの一方または両方は、配列番号1を含んでもよい。いくつかの具体的な実施態様において、抗TNF核酸アプタマーは、配列番号1を有する二つのアプタマーがPEGで連結された抗TNFアプタマー二量体である。
【0037】
本明細書に記載の抗TNFアプタマーのいずれも、化学的に合成できる。前記アプタマーは、治療目的の薬物、または生体内もしくは試験管内の診断目的の検出可能標識(例えば、造影剤のようなイメージング剤)に共役するために、官能基で操作できる。本明細書で使用される場合、「共役」または「付着」とは、二つの実体が結合し、好ましくは二つの実体の間の結合の治療/診断的利益が実現されるような十分な親和性で結合していることを意味する。二つの実体の間の結合は、直接、またはポリマーリンカーのようなリンカーを介して行ってもよい。共役または付着には、共有結合または非共有結合、および他の形態の結合、例えば、一つの実体がもう一つの実体の上または内部にあるか、または実体の一方または両方が三つ目の実体の上または内部にあるエントラップメント(例えば、ミセル)が含まれる。
【0038】
一つの実施態様において、本明細書に記載の抗TNFアプタマーは、検出可能標識に付着し、前記検出可能標識は、試験管内または生体内でアプタマーを検出、測定、および/または鑑定できるように、直接または間接的に検出可能シグナルを放出できる化合物である。このような「検出可能標識」の例としては、蛍光標識、化学発光標識、比色標識、酵素マーカー、放射性同位体、および親和性タグ(例えば、ビオチン)を含むが、これらに限定されない。このような標識は、従来の方法で直接または間接的にアプタマーに共役してもよい。
【0039】
いくつかの具体的な実施態様において、前記検出可能標識は、TNFが媒介される疾患をイメージングすることに適する薬剤であり、放射性分子、放射性医薬品、または酸化鉄粒子であってもよい。生体内イメージングに適する放射性分子は、122I、123I,124I、125I、131I、18F、75Br、76Br、76Br、77Br、211At、225Ac、177Lu、153Sm、186Re、188Re、67Cu、213Bi、212Bi、212Pb、および67Gaを含むが、これらに限定されない。生体内イメージングに適する例示的な放射性医薬品は、111Inオキシキノリン(Oxyquinoline)、131Iヨウ化ナトリウム、99mTcメブロフェニン(Mebrofenin)、および99mTc赤血球、123Iヨウ化ナトリウム、99mTcエキサメタジム(Exametazime)、99mTc大凝集アルブミン(Macroaggregate Albumin)、99mTcメドロネート(Medronate)、99mTcメルチアチド(Mertiatide)、99mTcオキシドロネート(Oxidronate)、99mTcペンテテート(Pentetate)、99mTc過テクネチウム酸(Pertechnetate)、99mTcセスタミビ(Sestamibi)、99mTc硫黄コロイド、99mTcテトロホスミン(Tetrofosmin)、タリウム-201、およびキセノン-133を含む。レポーティング剤は、組織試料においてTNF媒介の疾患を検出するのに有用な染料、例えば、蛍光体(fluorophore)であってもよい。
【0040】
特定の理論に拘束されることなく、本明細書に記載の抗TNFアプタマーは、少なくとも以下の利点を与える。その一、前記抗TNFアプタマーは、血液脳関門(BBB)を通ることができ、神経変性疾患の治療に有用であるサイズが小さい(例えば、約14kDaの分子量有する)分子である。その二、前記抗TNFアプタマーの製造は、細胞に基づくシステムを必要とせず、対費用効果がある。その三、タンパク質系治療薬(例えば、モノクローナル抗体)に比べて、前記抗TNFアプタマーは、生体内において、より短い半減期を有する。したがって、前記抗TNFアプタマーは、急性期TNFグナル伝達を阻害するが、感染に対抗する長期の自然免疫に影響しないことが予期されるので、急性炎症性疾患の治療に使用するのにより適している。
【0041】
医薬組成物
本明細書に記載の一つまたは複数の抗TNFアプタマー(単量体または多量体、例えば、二量体)またはそのPEG共役物は、薬学上許容できる担体(賦形剤)と混合して、対象疾患を治療するための医薬組成物を形成してもよい。「許容できる」とは、担体が必ず組成物の活性成分と相溶し(好ましくは、活性成分を安定させられる)、治療対象に有害ではないことを意味する。緩衝剤を含む薬学上許容できる賦形剤(担体)は、当技術分野で周知のものである。例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed.(2000)Lippincott Williams and Wilkins,Ed.K.E.Hooverを参照する。
【0042】
本発明の方法で使用される医薬組成物は、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、薬学上許容できる担体、賦形剤、または安定化剤を含んでもよい。例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed.(2000)Lippincott Williams and Wilkins,Ed K.E.Hooverを参照する。許容できる担体、賦形剤、または安定化剤は、使用される投与量および濃度において、受容者にとって無毒であり、また、緩衝剤、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸;アスコルビン酸およびメチオニンを含む酸化防止剤;防腐剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンのようなアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量(約10個未満の残基)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンのようなタンパク質;ポリビニルピロリドンのような親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジンのようなアミノ酸;グルコース、マンノース、またはデキストランを含む単糖、二糖および他の炭水化物;EDTAのようなキレート剤;ショ糖、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールのような糖;ナトリウムのような塩形成対イオン;金属複合体(例えば、Zn-タンパク質複合体);および/またはTWEENTM、PLURONICSTMまたはポリエチレングリコール(PEG)のような非イオン性界面活性剤を含んでもよい。
【0043】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の医薬組成物は、TNF結合アプタマー(またはアプタマー製造用のベクター)含有リポソームを含み、これは当技術分野で周知の方法、例えば、Epstein,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:3688(1985);Hwang,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4030(1980);および米国特許第4,485,045号、米国特許第4,544,545号に記載されているものによって調製できる。循環時間が増強されたリポソームは、米国特許第5,013,556号に開示されている。特に有用なリポソームは、逆相蒸発法で、ホスファチジルコリン、コレステロールおよびPEG-誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含む脂質組成物を利用して生成できる。リポソームは、所定の孔径を有するフィルターを通して押出され、所望の直径を有するリポソームを生成する。
【0044】
本明細書に記載の抗TNFアプタマーは、例えば、コアセルベーション技術または界面重合で製作したマイクロカプセル、例えば、それぞれ、コロイド状薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、ミクロエマルション、ナノ粒子、およびナノカプセル)またはマクロエマルションにおいて、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン-マイクロカプセル、およびポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに封入してもよい。このような技術は、当技術分野で周知のものであり、例えば、Remington,The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed.Mack Publishing(2000)を参照する。
【0045】
他の実施態様において、本明細書に記載の医薬組成物は、徐放性の形態として調製できる。徐放性製剤の適切な例としては、TNF結合アプタマーを含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスを含み、前記マトリックスは、成形品の形式、例えば、フィルム、またはマイクロカプセルである。徐放性マトリックスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸と7エチル-L-グルタメートとの共重合体、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性乳酸-グリコール酸共重合体、例えば、LUPRON DEPOTTM(乳酸-グリコール酸共重合体および酢酸リュープロリドからなる注射可能なマイクロスフェア)、酢酸イソ酪酸ショ糖、およびポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸を含む。
【0046】
生体内投与に使用される医薬組成物は、無菌でなければならない。これは、例えば、無菌濾過膜で濾過することによって容易に実現できる。治療用TNF結合アプタマー組成物は、無菌アクセスポートを有する容器、例えば、皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有する静脈内溶液バッグまたはバイアルに入れてもよい。
【0047】
本明細書に記載の医薬組成物は、単位剤形、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、溶液剤または懸濁剤、あるいは経口、非経口または直腸投与用の坐剤であるか、または吸入もしくは吹送投与であってもよい。
【0048】
固体組成物、例えば、錠剤を調製するために、主要な活性成分は、医薬担体(例えば、コーンスターチ、ラクトース、ショ糖、ソルビトール、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウムまたはガムのような従来の打錠成分)および他の医薬希釈剤(例えば、水)と混合して、本発明の化合物またはその薬学上許容できる非毒性塩の均一混合物を含む固体予備処方組成物を形成してもよい。これらの予備処方組成物を均一と称する場合とは、活性成分が組成物全体に均一に分散されるため、組成物を同等な効果を有する単位剤形、例えば、錠剤、丸剤、およびカプセル剤に容易に細分できることを意味する。そして、この固体予備処方組成物を、0.1~約500mgの本発明の活性成分を含む上記のタイプの単位剤形に細分する。新規組成物の錠剤または丸剤は、コーティングされるか、または別な方法で配合して、持続性作用の利点を与える剤形を提供できる。例えば、錠剤または丸剤は、内部剤および外部剤成分を含んでもよく、そのうち、後者がエンベロープの形態として前者を覆う。この二つの成分は、腸溶性層によって分離してもよく、前記腸溶性層は、胃での崩壊に耐えて内部成分を無損傷で十二指腸に通過させるかまたは遅延放出させるためのものである。このような腸溶性層またはコーティングには様々な材料を使用でき、このような材料は、いくつかのポリマー酸、およびポリマー酸とシェラック、セチルアルコールおよび酢酸セルロースのような材料との混合物を含む。
【0049】
適切な界面活性剤は、特に、非イオン性剤、例えば、ポリオキシエチレンソルビタン(例えば、TweenTM20、40、60、80または85)および他のソルビタン(例えば、SpanTM20、40、60、80または85)を含む。界面活性剤を有する組成物は、便利に、0.05~5%の界面活性剤を含み、それは0.1~2.5%であってもよい。必要に応じて、他の成分、例えば、マンニトールまたは他の薬学上許容できるビヒクルを添加してもよいと理解されるべし。
【0050】
適切なエマルジョンは、市販の脂肪乳剤、例えば、IntralipidTM、LiposynTM、InfonutrolTM、LipofundinTMおよびLipiphysanTMを使用して調製してもよい。活性成分は、予混合エマルジョン組成物に溶解してもよく、あるいは油(例えば、大豆油、サフラワー油、綿実油、ゴマ油、コム油またはアーモンド油)に溶解してもよく、リン脂質(例えば、卵リン脂質、大豆リン脂質または大豆レシチン)および水と混合する際はエマルジョンが形成される。他の成分、例えば、グリセロールまたはグルコースを添加して、エマルジョンの張度を調整してもよいと理解されるべし。適切なエマルジョンは、通常、最大20%、例えば、5~20%の油を含んでもよい。前記脂肪乳剤は、0.1~1.0μm、特に0.1~0.5μmの脂肪小滴を含んでもよく、また、5.5~8.0の範囲のpHを有する。
【0051】
前記エマルジョン組成物は、抗TNFアプタマーと、IntralipidTMまたはその成分(大豆油、卵リン脂質、グリセロール、および水)と混合することで調製できる。
【0052】
吸入または吹送用の医薬組成物には、薬学上許容できる水性あるいは有機溶媒またはこれらの混合物における溶液および懸濁液、ならびに粉末が含まれる。液体または固体の組成物は、上記のような適切な薬学上許容できる賦形剤を含んでもよい。いくつかの具体的な実施態様において、前記組成物は、局所的または全身的作用のために、経口または鼻呼吸経路で投与される。
【0053】
好ましくは、無菌の薬学上許容できる溶媒中の組成物は、ガスを使用して霧状化してもよい。霧状化した溶液は、噴霧装置から直接に呼吸してもよく、または噴霧装置がフェイスマスク、テント、または間欠的陽圧呼吸装置に取り付けてもよい。溶液、懸濁液または粉末組成物は、適切な方法で、製剤を送達する装置から投与、好ましくは経口または経鼻投与してもよい。
【0054】
治療および診断への応用
TNFは、ほぼ全種類の炎症関連疾患で役割を担っており、また、TNF分泌の調節不全は、例えば、関節リウマチ、乾癬、強直性脊椎炎、炎症性腸疾患、神経変性疾患、急性肺損傷(または急性肺不全)、急性肝損傷、成人呼吸窮迫症候群、および癌などの疾患を引き起こす。したがって、TNF媒介のシグナル伝達の調節および/またはTNFの存在/レベルの検出は、TNF媒介の疾患を効果的に治療または診断できる。
【0055】
本明細書に記載の抗TNFアプタマーのいずれかまたはそのPEG共役物は、治療および診断の用途に使用できる。例えば、前記抗TNFアプタマーは、TNF媒介のシグナル伝達の抑制に使用でき、これによって、関節リウマチ、乾癬、クローン病、喘息、全身性炎症反応症候群(SIRS)関連脳疾患、肝疾患(例えば、急性肝損傷)、急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、眼球乾燥症候群、ブドウ膜炎、急性膵炎、急性糸球体損傷、急性腎不全、ANCA関連血管炎、または急性脳疾患を含むTNF媒介の疾患を効果的に治療する。
【0056】
急性肝不全(ALF)または急性肝損傷は、希少ではあるが、命に危険を及ぼすような疾患であり、肝細胞の大部分は既存の肝疾患がない状態で細胞死を経験する(Bernal et al.,N.Engl.J.Med.2013;369:2525-34)。ALFの進行につれて、心臓血管系、呼吸器系、腎臓系、中枢神経系、血液系を含む他の組織の機能不全もすぐに発生する。肝移植の前に、唯一の利用可能なALF治療は、N-アセチルシステイン(NAC)の静脈内注入である(Mumtaz et al.,Hepatol Int.2009;3(4):563-70;Sales et al.,Ann Hepatol.2013;12(1):6-10)。しかしながら、NACは、末期脳浮腫のALF患者には無益である(Lee et al.,Gastroenterology 2009;137:856-64)。したがって、クリニックにおける代替の選択肢は、ALF患者(特に脳疾患)および肝移植設備のないセンターにとっては、未だ満たされていないニーズである。
【0057】
ALFの背後にある潜在的なメカニズムには、肝細胞とさまざまな種類の免疫細胞との相互作用が含まれている(Possamai et al.,J.Hepatol.2014;61(2):439-45)。一度、肝細胞が細胞死を起こすと、放出された損傷関連分子パターン(DAMPs)は、常在する好中球および肝マクロファージ(クッパー細胞)を活性化する。活性化したクッパー細胞は、腫瘍壊死因子(TNF)およびケモカインを分泌して、損傷した肝組織により多くの単核球および好中球を動員し、肝細胞の死亡シグナル伝達を悪化させる(Krenkel et al.,2014;3(6):331-43;Bantel et al.,Front Physiol.2012;3:79)。さらに、TNFは血液脳関門の透過性に影響し、神経炎症を引き起こし、脳浮腫および脳疾患を誘発する(Lv et al.,Liver Int.2010;30(8):1198-210;B meur et al.Neurochem Int.2010;56(2):213-5;Butterworth et al.,Hepatology.2011;53(4):1372-6)。TNF遮断薬が動物モデルにおいて有望な治療効果を示したものの、急性アルコール性肝炎患者には重度の感染症を引き起こす(Naveau et al.,Hepatology 2004;39:1390-1397;Boetticher et al.,Gastroenterology 2008;135:1953-1960)。重度の感染症は、抗体またはFc融合組換えタンパク質による望ましくない抗体依存-細胞媒介細胞傷害性(ADCC)および補体依存細胞毒性(CDC)効果に起因する可能性があり、前記Fc融合組換えタンパク質は、マクロファージ、活性化Tリンパ球および多核白血球に発現される膜結合型TNFを認識する(Naveau et al.,Hepatology 2004;39:1390-1397;Tracey et al.,Pharmacol Ther.2008;117(2):244-79)。また、これらのTNF遮断薬の半減期が長いため、TNF/NF-κBシグナル伝達が持続的に抑制され、急性肝損傷後の肝再生が阻害される(Naveau et al.,Hepatology 2004;39:1390-1397;Tracey et al.,Pharmacol Ther.2008;117(2):244-79;Bhushan et al.,Am.J.Pathol.2014;184(11):3013-25)。
【0058】
血清中のTNF濃度が高い患者は、抗TNF治療に対する反応がより良く、感染の副作用が少ない可能性がある。しかしながら、TNF濃度の常規的な予測マーカーまたは生体内でのTNFを検出する診断ツールは、未だに存在していない。上記のように、本明細書に開示のTNF-アプタマーは、CT、MRI、超音波、および内視鏡検出用のイメージング剤に共役するために、操作および改変されてもよい(Bird-Lieberman et al.,Nat Med.2012;18(2):315-21;Van den Brande et al.,Gut.2007;56(4):509-17)。アプタマーを使用して抗TNF治療に対する潜在的な応答者を事前にスクリーニングすると、安全性と有効性が向上させる。いくつかの具体的な実施態様において、本明細書に開示の抗TNFアプタマーは、治療効果を有し、潜在的なモニタリングツールとして使用できる。前記抗TNFアプタマーは、肝移植前のALF患者に対する代替治療アプローチとして役立つことができる。
【0059】
さらに、aptTNFα/aptTNFα-PEG用の解毒剤、アプタマー自体の相補配列であり、容易に設計および合成でき、解毒剤の適時の投与が可能になる。特定の理論に拘束されることなく、本明細書に記載の抗TNFアプタマーは、必要に応じてアプタマー阻害剤(アンチセンス配列を含む)と共に、急性組織損傷段階でTNFα経路の適切な阻害を可能にし、組織修復段階での再生抑制を回避し、必要に応じて拮抗剤効果の適時な終了を強化する。
【0060】
SIRSは終末器官の損傷に発生する一般的な現象である(Bernal et al.,N.Engl.J.Med.2013;369:2525-34;Ware et al.,N.Engl.J.Med. 2000;342:1334-49;Gattinoni et al., Am.J.Resp.Crit.Care.2016;194: 1051-2)。以下に説明するALIモデルで証明されているように、LPS誘発のALIにおいて、全身のLDH、ASTおよびALTのレベルが増加し、主要な重要な臓器でaptTNFαシグナルが検出された。サイトカインストームの急増は、単一の臓器疾患を全身性炎症性疾患に発展させ、中枢神経系、心臓血管系、呼吸器系、胃腸系、腎臓系、および血液系などを含む多臓器機能不全を引き起こす可能性がある。特定の理論に拘束されることなく、本明細書に記載の小分子のサイズのアプタマーは、効率的な組織浸透を可能にする。いくつかの具体的な実施態様において、本明細書に記載のアプタマーは、血液脳関門を通ることができる。特定のものに拘束されることなく、本明細書に記載の抗TNFアプタマーは、救命救急医療において一般的に遭遇するSIRS関連脳疾患の治療に使用できる。
【0061】
本明細書に開示の方法を実施するために、有効量の本明細書に記載の少なくとも一つの抗TNFアプタマーを含む医薬組成物を、治療の必要のある対象(例えば、ヒト)に、適切な経路を介して、例えば、ボーラスとして、または一定期間にわたる連続注入による静脈内投与、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑液嚢内、髄腔内、経口、吸入または局所経路によって投与できる。液体製剤用の市販の噴霧器は、ジェット噴霧器および超音波噴霧器を含み、投与に有用である。液体製剤は、直接噴霧でき、凍結乾燥粉末は、再構成後に霧状化してもよい。あるいは、本明細書に記載の抗TNFアプタマー含有組成物は、フルオロカーボン製剤および定量吸入器を使用してエアロゾル化するか、または凍結乾燥および粉砕粉末として吸入することができる。
【0062】
本明細書で使用されるように、「有効量」とは、単独で、または一つもしくは複数の他の活性剤と組み合わせて、対象に治療効果を与えるのに必要な各活性剤の量を指す。いくつかの具体的な実施態様において、前記治療効果は、TNF媒介の細胞シグナル伝達の阻害、炎症の減少、肝損傷の減少、および/または肝再生の増加である。TNF結合アプタマーの量が治療効果を達成したかどうかについての決定は、当業者には明らかである。当業者に認識されているように、有効量は、治療される特定の病状、病状の重症度、年齢、体調、サイズ、性別および体重を含む個々の患者パラメータ、治療期間、併用療法の性質(もしあれば)、特定の投与経路、および医療従事者の知識と専門知識内の同様の要因による。これらの要因は、当業者によく知られており、日常的な実験だけで対処できる。一般的に、好ましくは、各成分またはこれらの組み合わせの最大投与量、すなわち、健全な医学的判断による最高の安全投与量を使用する。
【0063】
半減期のような経験的考察は、一般的に、投与量の決定に寄与する。投与の頻度は、治療の過程で決定および調整でき、一般的に(しかし必ずしもそうではない)、対象疾患/障害の治療および/または抑制および/または改善および/または遅延に基づく。あるいは、TNF結合アプタマーの徐放性製剤が適切である可能性がある。徐放を達成するためのさまざまな製剤および装置が当技術分野で知られている。
【0064】
一つの実施態様において、本明細書に記載の抗TNFアプタマーの投与量は、一つまたは複数回のTNF結合アプタマーの投与を受けた個体において経験で決定される。個体には漸増投与量の拮抗剤を与える。拮抗剤の有効性を評価するために、疾患/障害の指標に従ってもよい。
【0065】
一般的に、本明細書に記載の抗TNFアプタマーのいずれかの投与は、治療の必要のある対象に初期候補投与量に与え、前記抗TNFアプタマーに対する対象の反応に基づいて調整できる。本開示の目的のために、典型的な1日投与量は、上記の要因に応じて、約0.1μg/kg~100mg/kgまたはそれ以上のいずれかの範囲であってもよい。
【0066】
いくつかの具体的な実施態様において、正常体重の成人患者に対して、約0.3~5.00mg/kgの範囲の投与量を投与してもよい。特定の投与計画、すなわち、投与量、タイミング、および繰り返しは、特定の個体およびその個体の病歴、ならびに個々の薬剤の特性(例えば、薬剤の半減期、および当業者によく知られている他の考慮事項)に依存する。
【0067】
本開示の目的のために、本明細書に記載のTNF結合アプタマーの適切な投与量は、特異的なTNF結合アプタマー、疾患/障害のタイプおよび重症度、TNF結合アプタマーが予防または治療目的で投与されるかどうか、以前の治療、患者の病歴および拮抗剤に対する反応、および主治医の裁量に依存する。臨床医は、所望の結果を達成する投与量に達するまで、TNF結合アプタマーを投与できる。いくつかの具体的な実施態様において、前記所望の結果は、炎症の減少(例えば、組織への好中球浸潤の減少)、肝損傷の減少、および/または肝再生の増加である。投薬量が所望の結果をもたらしたかどうかを決定する方法は、当業者には明らかである。一つまたは複数のTNF結合アプタマーの投与は、例えば、受容者の生理学的状態、投与の目的が治療的であるか予防的であるか、および熟練した開業医に知られている他の要因に応じて、連続的または断続的であってもよい。TNF結合アプタマーの投与は、事前に選択された期間にわたって本質的に連続的、または、例えば、対象疾患または障害を発展する前、発展中、または発展後のいずれかである一連の間隔を置いた投与量であってもよい。
【0068】
本明細書で使用されるように、用語の「治療」とは、一つまたは複数の活性剤を含む組成物を対象疾患または障害、疾患/障害の症状、または疾患/障害の素因を有する対象に適用または投与することを指し、障害、疾患の症状、または疾患または障害の素因を治癒、癒す、軽減、緩和、変更、救済、向上、改善、または影響を与えることを目的とする。
【0069】
対象疾患/障害の軽減には、疾患の発展または進行の遅延、または疾患の重症度の低減が含まれ。疾患の軽減は必ずしも治癒的な結果を必要としない。本明細書で使用されるように、対象疾患または障害の発展を「遅延」することは、疾患の進行を延期、妨害、遅く、阻止、安定、および/または間延することを意味する。この遅延は、疾患の病歴および/または治療されている個体に応じて、さまざまな長さの時間になることができる。疾患の発展の「遅延」または軽減、または疾患の発症を遅延する方法は、方法を使用しない場合と比べて、所与の時間範囲内に一つまたは複数の疾患の症状を発症する可能性を低減し、および/または症状の程度を低減する方法である。このような比較は、通常、統計的に有意な結果をもたらすのに十分な数の被験者を使用した臨床研究に基づいている。
【0070】
疾患の「発展」または「進行」は、疾患の初期症状および/またはその後の進行を意味する。疾患の発展は、当技術分野で周知の標準的な臨床技術を使用して検出および評価できる。しかしながら、発展は、検出できない可能性のある進行も指す。本開示の目的のために、発展または進行は、症状の生物学的経過を指す。「発展」は、発生、再発、および発症を含む。本明細書で使用されるように、対象疾患または障害の「発症」または「発生」は、初期の発症および/または再発を含む。
【0071】
いくつかの具体的な実施態様において、本明細書に記載のTNF結合アプタマーは、治療の必要のある対象に、TNF媒介のシグナル伝達を少なくとも5%(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上)減少させるのに十分な量で投与され、これは常規的なアッセイ法および/または以下の実施例に記載される方法によって確認できる。いくつかの具体的な実施態様において、前記TNF結合アプタマーは、生体内で対象の組織における炎症(例えば、好中球浸潤の低減、一つまたは複数の炎症促進性サイトカイン(例えば、IL1βおよびIL-6)、一つまたは複数のマクロファージ動員ケモカイン(例えば、CCL2)、一つまたは複数の好中球動員ケモカイン(例えば、IL23およびIL17)またはこれらの組み合わせの生成の低減)を少なくとも5%(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上)低減させるのに有効な量で投与される。
【0072】
他の実施態様において、前記TNF結合アプタマーは、対象(例えば、肝損傷を有する対象)におけるアミノトランスフェラーゼ(例えば、アラニントランスアミナーゼ(ALT)またはアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST))の血清中レベルを少なくとも5%(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上)低減させるのに有効な量で投与される。いくつかの具体的な実施態様において、前記抗TNFアプタマーは、肝臓における細胞周期遺伝子(例えば、サイクリンD1またはPCNA)の発現(による肝再生の促進)を少なくとも5%(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上)増加させるのに有効な量で投与される。
【0073】
治療される疾患の種類または疾患の部位に応じて、医学の当業者に知られている従来の方法を使用して、対象に医薬組成物を投与することができる。この組成物はまた、他の従来の経路を介して、例えば、経口、非経口、スプレーの吸入、局所、直腸、鼻腔、口腔、膣内、または移植されたリザーバーを介して投与できる。本明細書で使用される用語の「非経口」は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、病巣内、および頭蓋内注射または注入技術を含む。さらに、注射可能なデポ投与経路を介して、例えば、1ヶ月、3ヶ月、または6ヶ月のデポ注射可能、または生分解性の材料および方法を使用して対象に投与できる。いくつかの実施態様において、前記医薬組成物は、眼内または硝子体内で投与される。いくつかの実施態様において、前記医薬組成物は、気管内で投与される。他の施態様において、前記医薬組成物は、吸入または皮下注射で投与されてもよい。
【0074】
注射可能な組成物は、様々な担体、例えば、植物油、ジメチルアクタミド、ジメチルホルムアミド、乳酸エチル、炭酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、エタノール、およびポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)を含んでもよい。静脈内注射の場合、水溶性TNF結合アプタマーは、ドリップ法によって投与でき、これによってTNF結合アプタマーおよび生理学的に許容できる賦形剤を含む医薬製剤が注入される。生理学的に許容できる賦形剤は、例えば、5%デキストロース、0.9%生理食塩水、リンゲル液または他の適切な賦形剤を含んでもよい。筋肉内調製剤、例えば、TNF結合アプタマーの適切な可溶性塩形態の無菌製剤は、注射用水、0.9%生理食塩水、または5%グルコース溶液のような医薬賦形剤に溶解して投与してもよい
【0075】
一つの具体的な実施態様において、TNF結合アプタマーは、部位特異的または標的局所送達技術を介して投与される。部位特異的または標的局所送達技術の例としては、TNF結合アプタマーの様々な移植可能なデポ源または局所送達カテーテル、例えば、注入カテーテル、留置カテーテル、または針カテーテル、合成グラフト、外来ラップ、シャントおよびステント、または他の埋め込み型デバイス、部位特異的担体、直接注射、または直接適用。例えば、PCT特許WO00/53211および米国特許第5,981,568号を参照する。
【0076】
いくつかの具体的な実施態様において、本明細書に記載のアプタマーは、異なる材料と相溶し、局所使用のために異なる製剤にすることができる。いくつかの具体的な実施態様において、急性肺損傷を有する対象において、気管内経路増加を介した本明細書に記載の抗TNFアプタマーの投与は、静脈内経路を介したものに比べて、より低い薬物濃度で最適な効果を得られる。いくつかの具体的な実施態様において、局所送達は、局所的な有効薬物濃度を増加させ、全身性副作用を減少させ、喘息を含む炎症性疾患において有用である。
【0077】
アンチセンスポリヌクレオチド、発現ベクター、またはサブゲノムポリヌクレオチドを含む治療用組成物の指向性送達も使用できる。受容体を介したDNA送達技術は、例えば、Findeis et al.,Trends Biotechnol.(1993)11:202;Chiou et al.,Gene Therapeutics:Methods And Applications Of Direct Gene Transfer(J.A.Wolff,ed.)(1994);Wu et al.,J.Biol.Chem.(1988)263:621;Wu et al.,J.Biol.Chem.(1994)269:542;Zenke et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1990)87:3655;Wu et al.,J.Biol.Chem.(1991)266:338に記載されている。
【0078】
ポリヌクレオチドを含む治療組成物(例えば、本明細書に記載のTNF結合アプタマーまたはこれらを生成するベクター)は、遺伝子治療プロトコルにおける局所投与のために、約100ng~約200mgのDNAを投与する。いくつかの具体的な実施態様において、約500ng~約50mg、約1μg~約2mg、約5μg~約500μg、および約20μg~約100μgのDNA、またはそれ以上の濃度範囲も、遺伝子治療プロトコル中に使用できる。
【0079】
本明細書に記載の方法によって治療される対象は、哺乳動物、例えば、家畜、スポーツ動物、ペット、霊長類、ウマ、イヌ、ネコ、マウスおよびラットであってもよい。一つの実施態様において、対象はヒトである。前記抗TNFアプタマー含有組成物は、治療の必要がある対象において、炎症の軽減、肝再生の促進、肝損傷の軽減、腫瘍負荷の軽減に使用できる。いくつかの実施態様において、対象は、健常な(例えば、TNF関連疾患がない)ヒト対象と比較してTNFの血清中レベルが上昇のヒト対象であってもよい。対象内(例えば、対象の血清中)のTNFのレベルは、常規的な医療行為を使用して評価できる。
【0080】
いくつかの実施態様において、対象は、TNFが媒介される疾患(関節リウマチ、乾癬、強直性脊椎炎、炎症性腸疾患、急性肺損傷、神経変性疾患、肝疾患関連の肝損傷、および癌を含む)に罹患している、罹患の疑いがある、もしくはその危険性があるヒト患者であってもよい。例示的な肝疾患は、肝炎、肝硬変症、肝線維症、脂肪性肝疾患、および肝癌を含む。いくつかの実施態様において、対象は、TNF媒介の急性炎症疾患に罹患しているヒト患者であってもよい。例としては、急性肝損傷、急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、眼球乾燥症候群、ブドウ膜炎、急性膵炎、急性糸球体損傷、急性腎不全、ANCA関連血管炎、急性脳疾患を含む。
【0081】
対象疾患または障害(例えば、関節リウマチ、乾癬、強直性脊椎炎、炎症性腸疾患、神経変性疾患、急性肺損傷、急性肝損傷、および癌を含むTNF媒介の疾患)に罹患している対象は、常規的な健康診断、例えば、実験室試験、臓器機能検査、CTスキャン、または超音波によって特定できる。このような対象疾患/障害のいずれかに罹患する疑いがある対象は、その疾患/障害の一つまたは複数の症状を示す可能性がある。その疾患/障害に罹患する危険性がある対象は、疾患/障害に関連する一つまたは複数の危険因子を有する対象であってもよい。このような対象も、常規的な医療行為によって特定できる。対象におけるTNFレベルは、本明細書に記載の方法を使用して評価できる。いくつかの具体的な実施態様において、より高いTNF濃度を有する患者は、抗TNF療法(例えば、抗TNFアプタマー治療)に対してより良好な反応を有し、感染によって引き起こされる副作用が低減される。
【0082】
本明細書に記載の方法で使用される特定の投与計画、すなわち、投与量、タイミング、および繰り返しは、特定の対象(例えば、ヒト患者)およびその対象の病歴に依存する。
【0083】
いくつかの具体的な実施態様において、前記抗TNFアプタマーは、他の適切な治療薬と共に、本明細書に記載の対象疾患に使用できる。あるいは、またはさらに、前記抗TNFアプタマーは、薬剤の有効性を増強および/または補完するために他の薬剤と組み合わせて使用できる
【0084】
対象疾患/障害の治療効果は、例えば、以下の実施例に記載の方法によって評価できる。
【0085】
いくつかの具体的な実施態様において、本明細書に開示の検出可能標識(例えば、イメージング剤)に共役する抗TNFアプタマーは、対象におけるTNFレベルを評価するために投与される。このようなTNFの検出は、関連する患者の抗TNF治療(例えば、本明細書に開示の抗TNF医薬組成物による治療または抗TNF抗体による治療)を特定するために使用できる。
【0086】
本明細書に記載のアプタマーのいずれかを使用して常規的な方法を介して、試験管内で試料(例えば、TNFを含有する可能性がある、血液サンプルおよび尿サンプルを含むがこれらに限定されない、生体試料)におけるTNFを検出できる。場合によっては、アプタマーは、シグナルを直接的または間接的に放出し得る検出可能標識に共役し、試料におけるTNFの存在および/またはレベルを示す。あるいは、前記抗TNFアプタマーは、対象(例えば、本明細書に記載のヒト患者)におけるTNFの存在および位置の生体内イメージングに使用される。本明細書に記載の診断アッセイ(試験管内または生体内)のいずれかから得られた結果は、TNF関連疾患のリスクまたは状態を示すことができる。
【0087】
治療または診断に使用されるキット
本開示は、炎症の低減(例えば、炎症タンパク質生成の低減または好中球浸潤の低減)、TNF媒介の疾患(例えば、関節リウマチ、乾癬、強直性脊椎炎、炎症性腸疾患、急性肺疾患、神経変性疾患、肝疾患関連の肝損傷、および癌)の軽減、および対象におけるTNFレベルの検出に使用されるキットを提供する。このようなキットは、TNFに結合するアプタマー、例えば、本明細書に記載されるもののいずれかを含む一つまたは複数の容器を含んでもよい。
【0088】
いくつかの具体的な実施態様において、前記キットは、本明細書に記載の方法のいずれかに従って使用するための説明書を含んでもよい。含まれた説明書は、治療、発症の遅延、または本明細書に記載の対象疾患の軽減のためのアプタマーの投与の説明を含んでもよい。前記キットは、個体が対象疾患を有するかどうかを識別することに基づいての、治療に適した個体を選択することの説明をさらに含んでもよい。さらに他の実施態様において、説明書は、対象疾患のリスクがある個体にアプタマーを投与することの説明を含む。
【0089】
TNF結合アプタマーの使用に関する説明書は、通常、予定された治療のための投薬量、投薬スケジュール、および投与経路に関する情報を含む。容器は、単位投与量、バルクパッケージ(例えば、複数投与量パッケージ)または亜単位投与量であってもよい。本発明のキットで提供される説明書は、通常、ラベルまたは添付文書(例えば、キットに含まれる紙シート)に書かれた説明書であるが、機械可読の指示(例えば、磁気または光学記憶ディスクに搭載されている説明書)でも許容できる。
【0090】
ラベルまたは添付文書は、組成物が、本明細書に記載の癌に関連する疾患または障害の治療、発症の遅延および/または軽減に使用されることを示す。説明書は本明細書に記載の方法のいずれかを実施するために提供されてもよい。
【0091】
本発明のキットは、適切なパッケージに入っている。適切なパッケージは、バイアル、ボトル、ジャー、柔軟なパッケージ(例えば、密封されたマイラーまたはビニル袋)などを含むが、これらに限定されない。吸入器、経鼻投与装置(例えば、噴霧器)またはミニポンプのような注入装置などの特定の装置と組み合わせて使用するためのパッケージも考える。キットは、無菌アクセスポート(例えば、容器は、静脈内溶液バッグまたは皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有するバイアルであってもよい)を有してもよい。容器は、さらに、無菌アクセスポート(例えば、容器は、静脈内溶液バッグまたは皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有するバイアルであってもよい)を有してもよい。組成物における少なくとも一つの活性剤は、本明細書に記載のTNF結合アプタマー。
【0092】
キットは、必要に応じて、追加の部品、例えば、緩衝剤および解釈情報を提供してもよい。通常、キットは、容器、および容器上または容器に関連付けられたラベルまたは添付文書で構成される。いくつかの具体的な実施態様において、本発明は、上記のキットの内容物を含む製品を提供する。
【0093】
一般的な技術
本発明の実施は、他に説明されない限り、当技術分野の技術の範囲内である分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来の技術を使用する。分子クローニング:実験マニュアル、第2版(Sambrook,et al.,1989)Cold Spring Harbor Press;オリゴヌクレオチド合成(M.J.Gait,ed.,1984);分子生物学方法,Humana Press;細胞生物学:実験ノート(J.E.Cellis,ed.,1998)Academic Press;動物細胞培養(R.I.Freshney,ed.,1987);細胞および組織培養の紹介(J.P.MatherおよびP.E.Roberts,1998)Plenum Press;細胞および組織培養:実験手順(A.Doyle,J.B.Griffiths,and D.G.Newell,eds.,1993-8)J.WileyおよびSons;酵素学方法(Academic Press,Inc.);実験免疫学のハンドブック(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell,eds.);哺乳類細胞の遺伝子導入ベクター(J.M.MillerおよびM.P.Calos,eds.,1987);分子生物学の現在のプロトコル(F.M.Ausubel,et al.,eds.,1987);PCR:ポリメラーゼ連鎖反応(Mullis,et al.,eds.,1994);免疫学の現在のプロトコル(J.E.Coligan et al.,eds.,1991);分子生物学の短いプロトコル(WileyおよびSons,1999);免疫生物学(C.A.JanewayおよびP.Travers,1997);抗体(P.Finch,1997);抗体:実用的なアプローチ(D.Catty.,ed.,IRL Press,1988-1989);モノクローナル抗体:実用的なアプローチ(P.ShepherdおよびC.Dean,eds.,Oxford University Press,2000);抗体の使用:実験マニュアル(E.HarlowおよびD.Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999);抗体(M.ZanettiおよびJ.D.Capra,eds.,Harwood Academic Publishers,1995)。さらなる詳細な説明がなくても、当業者は、上記に基づいて本発明を最大限に活用するできる。したがって、以下の具体的な実施例は、単なる例示として解釈されるべき、いかなる方法であれ、本開示の残りの部分を限定するものではない。本明細書で参照される目的または標的のために、本明細書で引用されるすべての刊行物は、参照により組み込まれる。
【実施例】
【0094】
実施例1:TNF指向性核酸アプタマーおよびこれらの急性肺損傷(ALI)に対する治療効果
【0095】
材料および方法
化学物質およびオリゴヌクレオチド.
すべての化学物質は、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO、USA)から購入され、オリゴヌクレオチドは、Integrated DNA technologies(Coralville、IA、USA)によって合成された。aptTNFαの配列は5’-GCGCCACTACAGGGGAGCTGCCATTCGAATAGGTGGGCCGC-3’(配列番号1)であった。
【0096】
SELEX.
ヒトTNFα指向性アプタマーは、ニトロセルロースフィルターSELEXによって同定された。合成した一本鎖DNAライブラリーは、80個のヌクレオチド長の一本鎖DNAで構成され、40ヌクレオチドのランダム配列にプライマー配列が隣接する5’-ACGCTCGGATGCCACTACAG[N]40CTCATGGACGTGCTGGTGAC(配列番号2)であり、ここで、N=A、T、G、C。一回目のSELEXラウンドでは、1015分子のssDNAライブラリーを組換えヒトTNFαタンパク質(R&D Systems、Minneapolis、MN、USA)と一緒に培養した。TNFαタンパク質に結合したssDNAは、ニトロセルロースフィルターで収集し、非結合のssDNAは、繰り返して洗浄することで、除去した。TNFαに結合したssDNAsを加熱して溶出し、ネガティブセレクションのためにアルブミンと培養し、ニトロセルロースフィルターに通した。フロースルーを収集し、PCRによって増幅した。SELEXは10ラウンド繰り返された。TNFαに結合したssDNAおよびアルブミンに結合したssDNAの両方は、次世代シーケンシング(Illumina MiSeq System、Illumina、San Diego、CA)を行った。出力読み取りはFASTApatmer(Alam et al., Mol.Ther.Nucleic Acids.2015;4:e230)によってクラスター化され、アルブミン結合グループに現れたクラスターで差し引かれた。次に、残りのクラスターで最も高い読み取り値を示した代表的な配列を、Mfoldを使用して構造解析を行った。これらの切り捨てられた派生物は、予測された二次構造に従って設計した。
【0097】
PEG共役
過剰量のアミン標識のaptTNFαを、二官能性N-ヒドロキシルスクシンイミドポリエチレングリコール(NHS-PEG-NHS、分子量20kDa、Polysciences Inc.、Warrington、PA)と一緒に、重炭酸ナトリウム緩衝剤(pH8.3)において37℃で18時間培養した。PEG化二量体aptTNFα(aptTNFα-PEG)は非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって精製され、その濃度はNanodrop分光光度計(Thermo Scientific、Hudson、NH、USA)によって測定した。
【0098】
結合親和性の測定
ヒトTNFαタンパク質(0、8.75、17.5、35、70、140nM、R&D Systems)を、aptTNFα(50nM)と一緒に、37℃で1時間培養した。さらに、マウスTNFαタンパク質(140nM)またはBSA(140nM)を、aptTNFα(50nM)またはaptTNFα-PEG(50nM)と培養した。タンパク質結合アプタマーをニトロセルロースフィルターによって収集し、加熱して溶出した。溶出されたアプタマーの量は、定量的PCR(LightCycler 480 system、Roche Applied Science、Mannheim、Germany)によって定量化された。解離定数(Kd)は、式Y=Amax×X/(Kd+X)を使用して、GraphPad Prism 5(GraphPad Software、San Diego、CA)によって算出した。タンパク質結合アプタマー(ヒトTNFαタンパク質およびマウスTNFαタンパク質)の相対量は、BSAを参照として使用して倍率変化として表された(1倍)。
【0099】
aptTNFαの生体内分布
マウスは国立実験動物センター(台北、台湾)から購入した。すべての動物実験は、中央研究院の動物施設の指導に従って行われた。6週齢のBalb/c雄マウスにLPS(10mg/kg、気管内)を投与してALIを誘導した。IRDye(登録商標)800CW標識のaptTNFα(Integrated DNA technologies)は、LPS投与の1時間後に静脈内注射された。aptTNFαから放出された蛍光シグナルを、Xenogen IVIS Imaging System 200シリーズ(Caliper Life Sciences、Alameda)によって、アプタマー投与後の2時間、4時間、7時間、10時間、および24時間後に、それぞれ検出した(Cakarova et al.,Am J Respir Crit Care Med.2009;180:521-32)。さらに、IRDye(登録商標)800CW標識のaptTNFαで処理された群のマウスは、アプタマー投与後の4時間後に犠牲された。心臓、肝臓、脾臓、肺臓、腎臓、膀胱を含む重要な臓器を収集し、aptTNFαから放出された蛍光シグナルも検出した。血液をサンプリングし、LDH、AST、およびALTのレベルをFuji Dri-Chem 4000i(Fujifilm、Tokyo、Japan)によって検出した。
【0100】
細胞培養およびルシフェラーゼ活性アッセイ
HEK293細胞を、10%FBS(Gibco)を含むDMEM(Gibco BRL、Life Technologies、Grand Island、NY、USA)で培養し、NF-κBレポーター(pGL4.32、Promega、Madison、WI、USA)でトランスフェクトした。トランスフェクトした後の24時間後、抗生物質耐性クローンを選択するために、細胞をハイグロマイシンで処理し。NF-κBレポーターを発現するHEK293細胞を96ウェルプレートそれぞれ、2000個の細胞)に播種し、一晩培養した。TNFαタンパク質(5ng)と、aptTNFα(50、500nM)、aptTNFα-PEG(10、50nM)、またはanti-ヒトTNFα抗体(10、50nM、R&D Systems)とをそれぞれ独立したウェルに加えた。4時間または24時間の培養の後、ルシフェラーゼ活性は、製造元のプロトコルに従ってルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)によって測定した。データは、陰性対照として処理なしの群(活性0%)および陽性対照としてTNFα処理ありの群(活性100%)を使用して、相対的なルシフェラーゼ活性として表された。
【0101】
急性肺損傷(ALI)動物研究
ALIを誘導するために、6週齢のBalb/c雄マウスをLPS(10mg/kg)で気管内処理した。LPS処理の1時間後、aptTNFα(1600μg/kg)またはaptTNFα-PEG(32、320μg/kg)を、気管内または静脈内投与した。血中酸素飽和度は、MouseMonitorTM S plusパルスオキシメータモジュール(Indus Instrumeヌクレオチド、Webster、TX、USA)による処理の24時間後に記録した。ある研究群では、マウスを犠牲にした。肺の重量を測定し、組織をRNAおよびタンパク質の抽出と免疫化学染色に供した。もう一つの群では、気管支肺胞洗浄液(BALF)を収集した。BALFにおける総細胞数をカウントし、BALFにおける総タンパク質濃度をNanodrop分光光度計で定量し、BALFにおけるミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を、製造元のプロトコルに従ってMPO蛍光活性アッセイキット(BioVision)で測定した。
【0102】
定量的PCR
RNAはTrizol(Invitrogen)によってマウスの肝組織から抽出され、cDNAは製造元のプロトコルに従って、ランダムヘキサマー(Invitrogen)を使用してSuperScript III逆転写酵素(Invitrogen)によって合成された。定量的PCRは、LightCycler480システム(Roche Applied Science、Mannheim、Germany)で実行された。qPCRで使用されるマウスcDNAに対するプライマー配列は、以下のように示す:il-1β、5’-agttgacggaccccaaaag-3’(順方向)(配列番号3)および5’-agctggatgctctcatcagg-3’(逆方向)(配列番号4);il-6、5’-gctaccaaactggatataatcagga-3’(順方向)(配列番号5)および5’-ccaggtagctatggtactccagaa-3’(逆方向)(配列番号6);cxcl2、5’-aatcatccaaaagatactgaacaaag-3’(順方向)(配列番号7)および5’-ttctctttggttcttccgttg-3’(逆方向)(配列番号8);actb、5’-ctaaggccaaccgtgaaaag-3’(順方向)(配列番号9)および5’-accagaggcatacagggaca-3’(逆方向)(配列番号10);CCL2、5’-catccacgtgttggctca-3’(順方向)(配列番号11)および5’-gatcatcttgctggtgaatgagt-3’(逆方向);5’-IL17(配列番号12)、5’-cagggagagcttcatctgtgt-3’(順方向)(配列番号13)および5’-gctgagctttgagggatgat-3’(逆方向)(配列番号14);IL23、5’-tccctactaggactcagccaac-3’(順方向)(配列番号15)および5’-agaactcaggctgggcatc-3’(逆方向)(配列番号16);CCND1、5’-tttctttccagagtcatcaagtgt-3’(順方向)(配列番号17)および5’-tgactccagaagggcttcaa-3’(逆方向)(配列番号18);およびPCNA、5’-ctagccatgggcgtgaac-3’(順方向)(配列番号19)および5’-gaatactagtgctaaggtgtctgcatt-3’(逆方向)(配列番号20)。
【0103】
ウエスタンブロットおよび免疫組織化学染色
ウエスタンブロットに使用された一次抗体は、以下のように示す:抗GAPDH(Santa Cruz)および抗PCNA(Cell Signaling Technology、Beverly、MA、USA)。ヘマトキシリンおよびエオシン染色(H&E)は、中央研究院の生物医科学研究所の病理学核心室によって実施された。肺損傷スコアは、動物急性肺損傷研究グループ(Matute-Bello et al.,Am.J.Respir Cell Mol.Biol.2011;44:725-38)によって設計されたスコアシステムに従って計算された。免疫組織化学染色には、抗Ly6G(clone 1A8、Biolegend、San Diego、CA、USA)抗体を1:100で希釈して使用した。ImmPRESS HRP抗ラットIgG、マウス吸着(ペルオキシダーゼ)ポリマー検出キット(Vectors laboratories、Burlingame、CA、USA)を使用してシグナルを増幅し、DABペルオキシダーゼ(HRP)基質キット(Vectors laboratories)を使用して発色させた。
【0104】
統計
結果は平均値±平均値の標準誤差として示され、P値はスチューデントのt検定によって計算された。両側P値が0.05未満であることを統計的に有意であると定義した。
【0105】
結果
AptTNFαが高親和性でTNFαに結合し、生体内でTNFαを標的とする
TNFα指向性アプタマー(aptTNFまたはaptTNFα、
図2A)は、ニトロセルロースフィルターSELEXによって選択され、FASTAptamerによって分析され、Mfoldを使用して予測された二次構造に基づいて最適化された。aptTNFαおよびヒトTNFαの解離定数(Kd)は、8nMである(
図2B、左側)。データは、さらに、aptTNFαもマウスTNFαに結合することを示したため(
図2B、右側)、その後、ALIマウスモデルを使用してaptTNFαの生体内結合効果を調査した。
【0106】
データでは、ALI群において、aptTNFαシグナルが2時間および4時間で胸部にはっきりと観察されたが、LPS誘発ALI後の24時間で消失したことを示した(
図2C~2D)。この観察結果は、ALI時の肺組織に報告されたTNFα動力学と一致している(Cakarova et al.,Am.J.Respir.Crit.Care Med.2009;180:521-32)。SIRSはALIの後に発生し、多臓器障害を引き起こす可能性があるため、aptTNFα投与の4時間後に重要な臓器を収集し、その生体内分布を検査した。データは、同じ投与量でaptTNFαを投与し、対照群と比較して、ALI群は、肝臓、脾臓、肺臓、および腎臓で、aptTNFαシグナルが有意に増加したことを示した(
図2E~2F)。対照群において、aptTNFαシグナルは主に腎臓および膀胱、アプタマー排泄に関与する器官で観察されたが、シグナル強度はALI群より低かった。さらなる血液検査も、ALI群におけるLDH、ASTおよびALTレベルが有意に増加したことを示した。データは、aptTNFαの生体内分布画像研究で観察された終末器官損傷の発生を支持した(
図2G)。まとめると、データは、aptTNFαはヒトTNFαに対して良好な試験管内結合親和性を有し、マウスALIモデルに示されているように、生体内でTNFαを標的にできることを示した。
【0107】
AptTNFα-PEGはTNFα媒介のシグナル伝達を抑制する
次に、aptTNFαまたはその誘導体がTNFα媒介のシグナル伝達を効果的に阻害するかどうかを研究した。生理活性TNFαが生理的条件において三量体形態で存在するため、2つのaptTNFα単量体(aptTNFα-PEG、
図3A)の間にポリエチレングリコール(PEG)リンカーを追加して二量体aptTNFαを合成することで、aptTNFαの潜在的な拮抗作用を増加した。データは、二量体aptTNFα-PEGがヒトおよびマウスTNFαタンパク質に対しても特異的な結合活性を有することを示した(
図3B)。
【0108】
さらに、レポーターアッセイは、単量体aptTNFαが500nMの濃度でTNFα/NF-κBシグナル伝達を効果的に抑制した一方で、二量体aptTNFα-PEGはTNFα処理の4時間後に測定した50nMでより優れたTNFα/NF-κBシグナル伝達抑制効力を有することを明らかにした(
図3C、上側)。さらに、単量体aptTNFαの抑制効果はTNFα処理の24時間後に低下し、二量体aptTNFα-PEGの抑制効果は元の効果の約40%に減少した。逆に、前記抗TNFα抗体の抑制効果はTNFα処理の24時間後でも維持された(
図3C、下側)。これらのデータは、aptTNFαおよびaptTNFα-PEGは、急性期TNFαシグナル伝達のみを抑制することから、全身性炎症反応を伴う急性疾患における潜在的な役割を示唆した。これにより、組織修復段階で必要とされる基本的なTNFαシグナル伝達の干渉や、自然免疫の持続的な抑制に関連する副作用を回避できる。
【0109】
AptTNFαが急性肺損傷の重症度を軽減する
次に、LPS誘発ALIマウスモデルを使用してaptTNFαおよびaptTNFα-PEGの生体内効果を研究した。データは、酸素飽和度の有意な低下に示されるように、LPS治療が呼吸窮迫症を誘発したことを示した(
図4A)。LPS処理群における肺の湿重量の増加は、LPS誘発損傷の時に肺胞毛細血管膜の透過性が増強したことを示唆した(
図4B)。LPS誘発ALI群の組織学的検査では、肺胞腔には肺胞中隔の肥厚と、赤血球、好中球、およびフィブリン鎖の蓄積の現象に、肺損傷スコアの増加を伴うことを示した(
図4C~4D)。BALFのさらなる分析は、総タンパク質レベルの増加、総細胞数の増加、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性の増強、および炎症促進性サイトカイン/ケモカイン(il-1β、il-6、およびcxcl2)発現の上方制御を示した(
図4E~4J)。これらの表現型および分子の結果は、予想されているALIに反応してサイトカインおよびケモカインによって調整された組織反応カスケードに符合した。
【0110】
その後、aptTNFα-PEGの気管内または静脈内投与は、投与量依存的に、表現型的、組織学的、および分子的にLPS誘発損傷を救助したことを示した(
図4A~4J)。データは、気管内経路を介して送達された場合、全身送達と比較して、aptTNFα-PEGがより優れた有効性を有することを明らかにし、これはより高い局所濃度に関連している可能性がある。aptTNFαの気管内投与もLPS誘発ALIをある程度抑制したが、これは比較的高い薬物濃度(aptTNFα-PEGの5倍)でのみ達成され、aptTNFα-PEGの効力が高いことを示した。まとめると、データは、aptTNFα-PEGまたはaptTNFαが、TNFα経路およびその後のサイトカインストームによって媒介される急性期アポトーシスシグナル伝達を抑制し、最終的にALIの組織損傷を引き起こす可能性があることを示した。
【0111】
実施例2:急性肝不全(ALF)に対する治療効果を有する新規TNF指向性アプタマー
【0112】
材料および方法
使用した材料方法は、以下に記載する動物実験を除いて、実施例1と同じであった。
【0113】
急性肝不全(ALF)の動物実験
ALFを誘発するために、6週齢のBalb/c雄マウスにD-ガラクトサミン(D-GalN、100mg/kg、腹腔内)およびヒトTNFα(40μg/kg、静脈内)を注射した。次に、静脈内でN-アセチルシステイン(NAC、600mg/kg)、aptTNFα(1600μg/kg)、またはaptTNFα-PEG(3.2、32、320μg/kg)を与える処理をして、処理の6時間後に血液を採取した(Saito et al.,Hepatology.2010;51:246-54;Sass et al., Cytokine.2002;19:115-20)。血液をASTおよびALT分析に使用した(Fuji Dri-Chem 4000i)。処理の6時間または24時間後に、マウスを犠牲にした。RNA、タンパク質抽出、および免疫化学染色のために、肝組織を収集した。
【0114】
結果
AptTNFαがTNFα媒介の急性肝不全(ALF)を軽減し、早期的な肝再生を促進する
劇症性結果を有するALF患者の場合、肝移植前に現在利用可能な治療法は、N-アセチルシステイン(NAC)の全身注入である(Bernal et al.,N.Engl.J.Med.2013;369:2525-34)。ALFはTNFαが媒介されるため、その後、ALFにおけるaptTNFαおよびaptTNFα-PEGの役割を研究し、D-ガラクトサミン(D-GalN)/TNFα-誘発のマウスALFモデルを使用してそれらの効果をNACと比較した。
【0115】
データは、D-GalN/TNFαの注射が、組織出血および好中球浸潤を伴う重度の肝細胞死を誘発したことを示した。観察された肝損傷は、aptTNFα-PEG処理により減少した(
図5A)。血清AST/ALTおよび組織炎症促進性のサイトカイン/ケモカイン(il-1β、il-6、およびcxcl2)のさらなる分析は、aptTNFα(1600μg/kg)またはaptTNFα-PEG(3.2μg/kg~320μg/kg)からNAC(600mg/kg)まで優れた肝臓保護効果を示した(
図5B~5F)。マクロファージ動員ケモカイン(CCL2)、および好中球動員ケモカイン(IL23、IL17)もTNFおよびD-GalN注射によって増加し、aptTNFα-PEG処理によって減少した(
図7)。さらに、aptTNFα-PEGは、投与量依存的な肝臓保護効果を有し、aptTNFαよりも優れている(
図5B~5F)。
【0116】
さらに、肝細胞は急性損傷期の後にG0期からG1期に移行するため、PCNA発現の上方制御は、一般的に肝再生中に観察できる。データは、NAC処理群と比較して、aptTNFα-およびaptTNFα-PEG処理群の両方が、より高いPCNAタンパク質(
図5G)およびmRNA(
図8)の発現ことを示した。データは、急性損傷の後、aptTNFα/aptTNFα-PEG処理群において、肝細胞がより早い時点でG1期に入ることを示唆した(
図5G)。
【0117】
aptTNF-PEG群は有意に高いサイクリンD1タンパク質およびmRNA発現も示し(データは示さず、
図8)、NAC群における発現はわずかに増加しただけであり(
図8、データは示さず)、aptTNF-PEG群において肝細胞がより早い時点で再生プロセスに入ることも示唆した。
【0118】
さらに、aptTNFαまたはaptTNFα-PEG処理を受けた群においてSTおよびALTの上昇逆転の程度は同一であることを示した。それにもかかわらず、ALT上昇はNAC処理群で逆転できるが、ASTは高いままである。(
図5B~5C)。肝組織では、すべての処理(NAC、aptTNF、またはaptTNF-PEGを使用した処理を含む)がカスパーゼ-3の活性化を阻害した(
図6)。ALTは主に肝臓で発現する酵素である。逆に、ASTは肝臓だけでなく、心臓、筋肉、脳組織でも発現する酵素である。肝不全は単なる単一臓器疾患ではなく、SIRSや多臓器不全を引き起こす可能性があるため、我々のデータでは、aptTNFα/aptTNFα-PEGによる処理は急性肝障害を救助するだけでなく、SIRSのプロセスを抑制することを示唆した。データは、ALFにおけるaptTNFα/aptTNFα-PEGの潜在的な全身保護効果。まとめると、本明細書に記載のデータは、aptTNFα/aptTNFα-PEGが良好な肝臓保護効果を有し、SIRSのプロセスを抑制して臨床診療で一般的に観察される多臓器不全を防ぐことが可能であることを示した。
【0119】
実施例3:生体内で肝臓においてTNFαをモニタリングするための診断剤として機能するAptTNFα
【0120】
材料および方法
生体内分布分析
内因性マウスのTNF誘導について、急性肝不全を誘発するために、6週齢のBalb/c雄マウスにD-GalN(650mg/kg)およびLPS(10μg/kg)を腹腔内注射した。処理の6時間後にマウスを犠牲し、血清および肝臓組織を収集した。生体内分布分析のために、D-GalNおよびLPS処理の0.5時間後に、IRDye(登録商標)800CW標識のaptTNF(Integrated DNA technologies)を静脈注射し、aptTNFから放出された蛍光シグナルをXenogen IVIS Imaging System 200シリーズ(Caliper Life Sciences、Alameda)によって検出した。
【0121】
結果
生体内でTNFαをモニタリングするための診断剤として機能するAptTNFα
肝組織におけるTNFα濃度が高い患者は、抗TNFα療法に対してより良い反応を示す可能性がある。しかしながら、TNFα濃度の常規的な予測マーカーまたは生体内でTNFαを検出する診断ツールは、未だに存在していない。反応がないものに対する抗TNFα療法の望ましくない副作用を減らすために、生体内でTNFαをモニタリングするための診断剤としてのaptTNFαの実現可能性を研究した。マウスの内因性TNFα分泌および急性肝損傷を誘発するために、マウスにLPSおよびD-GalNを注射した。LPSおよびD-GalN注射の30分後に蛍光標識のaptTNFαを投与した。LPSおよびD-GalNを注射していないが、蛍光標識のaptTNFαを投与したマウスを陰性対照として使用した。陰性対照群と比較して、LPSおよびD-GalN注射群は、AptTNFαが肝組織に有意に蓄積され(
図9A~9C)、ただし、両群で大量のaptTNFαが腎臓濾過から膀胱に排泄された。
【0122】
他の実施態様
本明細書で開示されているすべての特徴は、任意の組み合わせで組み合わせることがでる。本明細書で開示されている各特徴は、同じ、同等、または類似の目的を果たす代替特徴に置き換えることができる。したがって、特に明記しない限り、開示されている各特徴は、同等または類似の特徴の一般的なシリーズの例にすぎない。
【0123】
上記の説明から、当業者は、本発明の本質的な特徴を容易に確認することができ、その精神および範囲から逸脱することなく、本発明を様々な用途および条件に適合させるために様々な変更および修正を行うことができる。したがって、他の実施態様も特許請求の範囲内にある。
【0124】
同等物
いくつかの本発明の実施態様が本明細書に記載および説明されているが、当業者は、機能の実行および/または結果の獲得のための様々な他の手段および/または構造および/または記載される一つまたは複数の利点を容易に想定する。そのような変形および/または修正のそれぞれは、本明細書に記載される発明の実施態様の範囲内であると見なされる。より一般的には、当業者は、本明細書に記載のすべてのパラメータ、寸法、材料、および構成が例示的であることを意味し、実際のパラメータ、寸法、材料、および/または構成が具体的な用途に依存することを容易に理解する。当業者は、本明細書に記載の具体的な実施態様の多くの同等物を認識し、または通常の実験のみを使用して確認することができる。したがって、前述の実施態様は例としてのみ提示され、添付の特許請求の範囲およびその同等物の範囲内で、本発明の実施態様は、具体的に記載および請求される以外の方法で実施できることを理解されたい。本開示の発明の実施態様は、本明細書に記載の個々の特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法のそれぞれを対象とする。さらに、2つ以上のそのような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法の任意の組み合わせは、そのような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法が相互に矛盾しない場合、本開示の発明の範囲に含まれる。
【0125】
本明細書で定義および使用されるすべての定義は、辞書に制御する定義、参照により組み込まれる文献内の定義、および/または定義された用語の通常の意味と理解されるべきである。
【0126】
本明細書に開示されるすべての参考文献、特許、および特許出願は、それぞれが引用される主題に関して参照により組み込まれ、場合によっては、文書全体を包含することがある。
【0127】
本明細書および特許請求の範囲で使用される不定冠詞「一つ(a)」および「一つ(an)」は、反対のことが明確に示されない限り、「少なくとも一つ」を意味すると理解されるべきである。
【0128】
本明細書および特許請求の範囲で使用される「および/または」という句は、そのように結合された要素、すなわち、ある場合には結合的に存在し、他の場合には分離的に存在する要素の「いずれ一方または両方」を意味すると理解されるべきである。「および/または」でリストされた複数の要素は、同じ方法で解釈され、すなわち、そのように結合された要素の「一つ以上」と解釈されるべきである。「および/または」節によって具体的に識別される要素以外の他の要素が、具体的に識別される要素に関連するかどうかにかかわらず、必要に応じて存在し得る。したがって、非限定的な例として、「Aおよび/またはB」への言及は、「含む」などの制限のない言語と組み合わせて使用される場合、一つの実施態様では、Aのみ(必要に応じてB以外の要素を含む)、もう一つの実施態様では、Bのみ(必要に応じてA以外の要素を含む)、さらにもう一つの実施態様では、AおよびBの両方(必要に応じて他の要素を含む)を含む等を指すことができる。
【0129】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、「または」は、上記で定義された「および/または」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト内の項目を区切る場合、「または」または「および/または」は包括的であると解釈され、すなわち、要素の数またはリストの少なくとも一つを含むが、その複数、および必要に応じて追加のリストされていない項目を含むと解釈されるべきである。「一つのみ」または「厳密に一つ」などの反対に明確に示される用語のみ、または特許請求の範囲で使用される場合、「から組成する」は、数またはリストの厳密に一つの要素を含むことを指す。一般的に、本明細書で使用される「または」という用語は、「どちらか」、「一方」、「いずれか」などの排他性の用語が先行する場合にのみ、排他的代替(すなわち、「一方または他方、しかし両方ではない」)を示すと解釈されるものとする。特許請求の範囲で使用される場合、「本質的に…から組成する」は、特許法の分野で使用される通常の意味を有する。
【0130】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、一つまたは複数の要素のリストに関連する「少なくとも一つ」という句は、前記要素のリスト内の任意の一つまたは複数の要素から選択される少なくとも一つの要素を意味すると理解されるべき、ただし、要素のリスト内に具体的にリストされているすべての要素の少なくとも1つを含む必要はなく、要素のリスト内の要素の組み合わせを除外するものではない。この定義は、「少なくとも一つ」という句が参照する要素のリスト内で具体的に識別される要素以外の要素が、具体的に識別される要素に関連するかどうかにかかわらず、必要に応じて存在し得る。したがって、非限定的な例として、「AおよびBの少なくとも一つ」(または同等に「AまたはBの少なくとも一つ」、または同等に「Aおよび/またはBの少なくとも一つ」)は、一つの実施態様では、少なくとも一つ、必要に応じて2つ以上のAを含み、Bが存在せず(また、必要に応じてB以外の要素を含む)、もう一つの実施態様では、少なくとも一つ、必要に応じて2つ以上のBを含み、Aが存在せず(また、必要に応じてA以外の要素を含む)、さらにもう一つの実施態様では、少なくとも一つ、必要に応じて2つ以上のA、および少なくとも一つ、必要に応じて2つ以上のB(および必要に応じて他の要素を含む)を含む等。
【0131】
また、反対のことが明確に示されていない限り、本明細書に記載の複数の工程または行為を含む方法において、方法の工程または行為の順序は、必ずしも工程または行為の順序に限定されないことも理解されたい。
【配列表】