(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】睡眠時の呼吸音測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 7/04 20060101AFI20231206BHJP
A61B 5/08 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
A61B7/04 D
A61B5/08
(21)【出願番号】P 2019138012
(22)【出願日】2019-07-26
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000101204
【氏名又は名称】株式会社oneA
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越智 優
(72)【発明者】
【氏名】大越 健史
(72)【発明者】
【氏名】葛原 弘安
(72)【発明者】
【氏名】濱田 裕史
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-061203(JP,A)
【文献】特開2018-102849(JP,A)
【文献】特表2014-522653(JP,A)
【文献】特開2012-152377(JP,A)
【文献】特開2008-042741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06-5/22
7/00-7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者頸部の周方向に沿って装着可能に構成され、内周面に被験者側に向かって突出する
剛性を有する筒状突起と、前記筒状突起の外側を囲むように設けられた弾性を有する突出部が設けられたネックバンドを備え、
前記ネックバンドには、被験者の呼吸音を測定するためのマイクロフォンが内蔵され、
前記突出部には、被験者の呼吸音を導入するための導音口が開口され、前記導音口から前記ネックバンドの内側に向かって内径が次第に狭まるテーパー状の集音部
が設けられ、
前記集音部で集音された呼吸音
は、前記筒状突起を経由して前記マイクロフォンに導
かれるように構成されており、
前記筒状突起の内壁面には、導音空間に前記ネックバンドからの固体伝搬音が生じるのを抑えるための遮音材が設けられている
ことを特徴とする呼吸音測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の呼吸音測定装置において、
前記遮音材は、弾性材で形成されている
ことを特徴とする呼吸音測定装置。
【請求項3】
請求項1記載の呼吸音測定装置において、
前記マイクロフォンは、基板に取り付けられており、
前記遮音材の前記基板側の端部には、前記基板の表面に沿う方向に広がる板状でかつ前記基板に密着させた遮音性を有するフランジが一体的に設けられている
ことを特徴とする呼吸音測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の睡眠時の呼吸音測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被験者の睡眠状態を測定する方法や装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1にはマイクロフォンを各患者の首の周りに設けて、患者の睡眠中にマイクロフォンが受信した音を記録する方法が示されている。
【0004】
また、特許文献2にはネックバントに設けられ、被験者が前記ネックバンドを装着した場合に被験者の頸部に接触して生体情報を検出する生体情報を検出する装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2013-504406号公報
【文献】特開2007-202939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ネックバンド式の呼吸音測定装置では、吸気・呼気の気流音(以下、単に呼吸音という)と同時に、外部の雑音や喉の血流音(心拍音)が記録される場合がある。外部の雑音としては、外気から伝搬される空気伝搬音と、測定装置の筐体が受ける振動による固体伝搬音とがある。固体伝搬音は、例えば、被験者が就寝中に体位変動をした場合等に、測定装置が寝具や被験者の手などでこすれることにより発生し得る。そこで、従来技術では、マイクロフォンで測定された測定データからいびき等の呼吸音のみを抽出するために、ノイズ除去やフーリエ変換を行うといった面倒な加工処理が必要であった。
【0007】
また、マイクロフォンを用いて、睡眠時無呼吸を精度よく判定しようとすると、いびきの判別だけでは十分ではなく、通常睡眠状態すなわち呼吸音(いびきと比較して微弱な呼吸音)がある状態と、睡眠時無呼吸状態すなわち実質的に呼吸音がない状態とを判別する必要がある。通常睡眠時における呼吸音は、いびきと比較するとその音量が非常に小さいため、通常睡眠時における呼吸音がノイズに埋もれてしまう可能性がある。
【0008】
そのため、現状では、睡眠時無呼吸の測定精度を高めるためには、マイクロフォンに加えて、加速度センサー、フローセンサー、酸素飽和度センサー等の複数種類のセンサーを組み合わせた測定が行われている。しかしながら、複数種類のセンサーを組み合わせた測定を行う場合、装置が煩雑になるとともに、被験者の負担も大きくなるという問題がある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、ネックバンド式の呼吸音測定装置において、複数のセンサーを組み合わせずに測定精度を向上させた呼吸音測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る呼吸音測定装置は、被験者頸部の周方向に沿って装着可能に構成され、内周面に被験者側に向かって突出する剛性を有する筒状突起と、前記筒状突起の外側を囲むように設けられた弾性を有する突出部が設けられたネックバンドを備え、前記ネックバンドには、被験者の呼吸音を測定するためのマイクロフォンが内蔵され、前記突出部には、被験者の呼吸音を導入するための導音口が開口され、前記導音口から前記ネックバンドの内側に向かって内径が次第に狭まるテーパー状の集音部が設けられ、前記集音部で集音された呼吸音は、前記筒状突起を経由して前記マイクロフォンに導かれるように構成されており、前記筒状突起の内壁面には、導音空間に前記ネックバンドからの固体伝搬音が生じるのを抑えるための遮音材が設けられている、ことを特徴とする。
【0011】
本態様によると、ネックバンドの内周面に突出部を設けて、突出部の導音口から被験者の呼吸音を導入し、テーパー状の集音部で集音し、筒状突起を介して集音された呼吸音をマイクロフォンに導くようにしている。これにより、被験者の体内で発生する音(例えば、心音)と呼吸音とを分離することができる。一方で、外部から与えられた衝撃等により生じた振動がネックバンドを伝搬し、導音空間内に固体伝搬音が発生し、それが雑音となって呼吸音の測定精度に影響がでる恐れがある。そこで、本実施形態では、筒状突起の内壁面に遮音材を設けることで、導音空間内に固体伝搬音が発生するのを抑えている。これにより、呼吸音測定装置の測定精度を向上させることができる。
【0012】
前記呼吸音測定装置において、前記遮音部は、弾性材で形成されていてもよい。
【0013】
前記マイクロフォンは、基板に取り付けられており、前記遮音材の前記基板側の端部には、前記基板の表面に沿う方向に広がる板状でかつ前記基板に密着させた遮音性を有するフランジが一体的に設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、呼吸音測定装置の測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】呼吸音測定装置を左斜め後ろ側から見た斜視図
【
図4】呼吸音測定装置を幅方向の中央で切断した断面図
【
図5】
図4の呼吸音測定装置のうち測定部周りを拡大した拡大図
【
図8A】呼吸音測定装置の動作例を示すフローチャート
【
図8B】呼吸音測定装置の動作例を示すフローチャート
【
図9】呼吸音測定装置の測定結果の一例を示す波形図
【
図10】呼吸音測定装置の他の構成例を示す
図3相当の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0017】
<呼吸音測定装置の構成>
呼吸音測定装置1は、被験者が、就寝前に、頸部に装着し、睡眠時における吸気・呼気の気流音(以下、単に呼吸音という)を測定するためのものである。具体的に、呼吸音測定装置1は、ネックバンド型の装置であり、被験者頸部の周方向に沿って装着可能に構成されている。ネックバンド11は、例えば、
図1に示すように、略C字状に形成される。ネックバンド11は、被験者により、開口部分を両側に広げられた後、頸部の後ろ側から頸部に向かって装着され、被験者の頸部を周方向の外側から挟み込むように構成されている。
【0018】
ネックバンド11を形成する材料は特に限定されないが、被験者が両手で開口部分を両側に広げて首に装着することができ、且つ、被験者が手を離した際にネックバンド11の内周面11aの少なくとも一部が被験者頸部に密着するように弾性を有するとともに、継続的な使用に耐えうる強度を有する弾性材が好ましい。例えば、ネックバンド11は、板バネの周囲をエラストマー樹脂で取り巻いた弾性構造を採用することができる。ただし、本開示の技術は、ネックバンド11に板バネの構造を採用することや、エラストマー樹脂を用いることに限定されるものではない。
【0019】
図4及び
図5に示すように、ネックバンド11には、被験者の呼吸音を導入するための導音口が形成されており、導音口から導入された被験者の呼吸音を測定するためのマイクロフォン2が内蔵されている。そして、ネックバンド11には、導音口から導入された呼吸音をマイクロフォン2に導くための導音空間RSが設けられている。
【0020】
マイクロフォン2は、例えば、ネックバンド11の一方の開放端部に内蔵された基板50に実装されている。本実施形態では、ネックバンド11のうち、基板50が内蔵された先端部分のことを、測定部40と呼ぶものとする。また、ネックバンド11のうち、C字状の略環状部分であって、被験者の頸部に装着するための構成を装着部30と呼ぶものとする。
【0021】
なお、本発明において、マイクロフォン2とは、音波を電気信号に変換する機器や装置や回路、及び、そのような機器等に用いるMEMSマイクロフォンのような音センサー等を広く含む概念で使用するものとし、その具体的な構成は特に限定されない。一方で、本実施形態では、説明の便宜上、「マイクロフォン」との用語を、MEMSマイクロフォンのような呼吸音を取得するための音センサーについて用いるものとする。ただし、「マイクロフォン」との用語の意味を限定することを意図するものではない。
【0022】
また、以下の説明では、被験者の呼吸音測定装置1の装着状態を基準として、上下方向、左右方向を定義する。また、被験者の正面(胸)側を前、背中側を後と定義する。また、
図1に示すように、呼吸音測定装置1の装着状態を基準として、「被験者側」を定義するものとし、後述する測定部40や基板50の説明に際して、それぞれの被験者側を「裏」、その反対側を「表」と呼ぶ場合がある。
【0023】
図3~
図5に示すように、測定部40は、被験者側端部においてネックバンド11の内周面と面一になるように構成された底板41と、底板41と対向するように配置された天板と、底板と天板とを接続する側板とを備え、天板、底板41及び側板により基板50等を収容するための収容導音空間RSが形成されている。
【0024】
具体的な図示は省略するが、測定部40が、使用時にネックバンド11と一体的に構成されている一方で、被験者が首から外した不使用時に装着部30から取り外しができるように構成されていてもよい。
図5及び
図6は、測定部40が取り外し可能に構成され、測定部40が装着部30から取り外された状態を示している。
【0025】
基板50は、測定部40の底板41(被験者側の板)上に、測定部40の長手方向に沿って延びるように配置されている。基板50は、測定部40の底板41の表面に接着剤等を用いて固定されている。換言すると、基板50は、接着剤を介して測定部40に密着されている。また、基板50は、表側から基板押さえ部材42によって動かないように固定されている。
【0026】
基板50表面の略中央には、マイクロフォン2が配置されている。基板50には、マイクロフォン2と対応する位置において表裏方向に貫通する導音孔50aが形成されている。換言すると、導音孔50aの内側の空間は、導音空間RSの一部を構成する。より具体的に、導音孔50aの内側の空間は、導音空間RSのうち、導音方向の終端側に位置する導音空間RS1を構成する。このように、マイクロフォン2を基板50の表面に取り付け、導音孔50aを介して基板50の裏側から呼吸音を導入する構成とすることにより、ノイズが入りにくい構成を実現することができる。
【0027】
基板50には、マイクロフォン2の他に、呼吸音測定装置1の各構成要素に電源を供給するためのバッテリ51、測定結果を記憶するための記憶部52、測定結果を外部機器(例えば、端末機器80)に送信するための通信モジュール53、体位/体動を検出するための加速度センサー54、外部機器との通信及びバッテリへの充電をするためのコネクタ55、被験者に刺激を与えるためのバイブレータ56、電源ボタン57、及び、被験者用のモニタランプ58等が実装されている。
【0028】
測定部40の側板には、外側に向かって開口する挿入口が設けられており、挿入口を介して、コネクタ55に通信用/充電用のケーブルが差し込めるようになっている。
【0029】
電源ボタン57は、例えば、測定部40の側板の外側に押しボタンが突出する構成であって、被験者が呼吸音測定装置1の電源のオン/オフ操作ができるようになっている。
【0030】
モニタランプ58は、例えば、発光ダイオードで構成されている。例えば、測定部40の側板に、透光性部材で構成された透光部が設けられ、被験者は、その透光部を介してモニタランプ58の発光状態を見ることで、呼吸音測定装置1の電源のオン/オフ状態や通信状態、充電状態等を確認できるようになっている。
【0031】
測定部40の底板41には、マイクロフォン2と対応する位置に、円形状の開口43が形成されている。測定部40の底面には、開口43の外周縁から被験者側に向かって一体的に突出する同径筒状の筒状突起44が設けられている。換言すると、筒状突起44は、ネックバンド11と一体的に設けられ、且つ、ネックバンド11の内周面11aから被験者側に向かって突出するように設けられている。
【0032】
筒状突起44は、先端の開口から導入された被験者の呼吸音を長手方向(被験者頸部からマイクロフォン2に向かう導音方向)に導くためのものである。換言すると、筒状突起44及び底板41の開口の内側には、筒状突起44先端の開口から導入された被験者の呼吸音を導音方向に導くための導音空間RS2が設けられている。
【0033】
導音空間RS2の周りには、外部から与えられた衝撃等により生じた振動がネックバンド11を伝搬し、導音空間内に固体伝搬音が発生するのを抑えるための遮音材60が設けられている。換言すると、筒状突起44の内壁面には、外径が筒状突起44の内径よりも若干小さく、筒状突起44の内壁面に当接する円筒状の遮音材60が設けられており、遮音材60の下端の位置が、筒状突起44の下端位置と揃えられている。ここで、ネックバンド11の振動は、例えば、被験者が就寝中に体位変動をした場合等に呼吸音測定装置1が寝具や被験者の手などでこすれることにより生じる。
【0034】
遮音材60を形成する材料は、特に限定されないが、筒状突起44からの固体振動を吸収しつつ、被験者頸部から取得されて導音路R2を通過する音波は吸収しにくいような素材で形成されるのが好ましい。遮音材60は、例えば、筒状突起44よりも柔らかい材料で形成される。具体的に、遮音材60には、例えば、シリコンゴムのような弾性材を好適に使用できる。
【0035】
筒状突起44は、被験者頸部に装着された際に、被験者頸部に押し付けられた場合においても形状が保持できる程度の剛性を有することが望ましい。例えば、筒状突起44は、底板41と同じ樹脂で形成される。筒状突起44を設けることで、被験者頸部とマイクロフォン2との間の距離を確保することができ、呼吸音の測定において心音の影響を受けにくくすることができる。
【0036】
筒状突起44の先端部(被験者側の端部)には、後述する突出部70を抜け止めするためのフランジ44aが連続一体的に形成されている。また、測定部40の底板41には、基板50との対向面において、開口部43よりも内径が大きい円形状の窪み部41bが設けられている。
【0037】
なお、測定部40の形成材料は、装着部30と同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。同様に、測定部40と筒状突起44とを形成する材料が、同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0038】
遮音材60の基板50側の端部には、前述の窪み部41bと対応した大きさのフランジ61が一体的に設けられており、このフランジ61が窪み部41bに係止されることで遮音材60が測定部40の外側に抜け落ちないようになっている。また、フランジ61は、底部41と基板50との間及びフランジ61と基板50との境界面の密着性を高め空洞をなくしさらに遮音材としての機能も兼ねており、基板50を介して伝搬される振動による固体振動音をおさえることができる。
【0039】
ネックバンド11には、筒状突起44の外側を覆い、測定部40(底板41)の被験者側の端面から被験者側に向かって突出する略円筒状の突出部70が設けられている。突出部70の先端(被験者側の端)には、ネックバンド11が被験者に装着された際に、被験者の呼吸音を導入するための導音口が開口されている。
【0040】
図3及び
図5に示すように、突出部70の導音口には、導音空間側に向かって内径が次第に狭まるテーパー状の集音部71が設けられている。集音部71の基端(基板50側の端)は開口している。換言すると、集音部71の内側には、導音空間RS2と連通する導音空間RS3が形成されている。
【0041】
突出部70は、その先端部分が被験者頸部に押し付けられることで、被験者頸部の形状に適合して変形かつ密着するように構成されている。すなわち、突出部70は、ネックバンド11が被験者頸部に装着された際に、被験者側の端部が被験者頸部に密着し、集音部71と被験者頸部とで閉じられた導音空間RS3を形成するように構成されている。突出部70は、被験者が就寝中に寝がえり等により姿勢が変化した場合に被験者の頸部から測定部40が離れることが無いように設けられ、さらに突出部70の姿勢が変化することで頸部に沿う動きをすればなおよい。
【0042】
突出部70は、被験者頸部との密着性を高めるために、例えば、弾性材で形成されている。なお、突出部70は、全体が弾性材で形成されている構成に限定されるものではなく、少なくとも、当接部72が、被験者頸部に押し付けられて密着可能な弾性材で形成されているのが好ましい。
【0043】
突出部70は、ネックバンド11が被験者頸部に装着された際に、被験者頸部に当接する先端部分(以下、当接部72という)が、被験者頸部に沿うように平たく平面状に形成されている。これにより、被験者頸部と、当接部72との接触面積を広くすることができるとともに、肌への食い込みの痕が残りにくい。
【0044】
また、このような当接部72を設けることで、被験者の肌への影響や違和感を緩和することができる。また、被験者頸部への密着性を向上させることができる。また、被験者側から見た場合に、突出部70の被験者側の端面が弾性材で覆われているので、固体振動音が導音空間内に発生するのを抑えることができる。
【0045】
集音部71の基端の内径は、筒状突起44の内径と揃えられており、被験者側から見た突出部70の正面視において、集音部71が筒状突起44の被験者側の端面を覆っている。これにより、集音部71は、筒状突起44と導音空間RS3との間の遮音材としての機能を兼ねている。
【0046】
さらに、集音部71の基端開口と、筒状突起44の先端開口との中心位置が揃えられている。これにより、
図5に示すように、集音部の導音空間RS3、筒状突起44の導音空間及び導音孔の導音空間が一直線状に並べて配置され、導音口から導入された被験者の呼吸音の音波が、直線状の導音空間RSを介してマイクロフォン2に伝搬されるように構成されている。
【0047】
このような構成にすることで、心音の影響を回避するために、被験者頸部とマイクロフォン2との間に一定の距離を確保しつつ、被験者頸部とマイクロフォンと間の導音距離(導音空間の長さ)を短くすることができる。なお、
図5に示すように、突出部70の円筒状の壁部と筒状突起44の円筒状の壁部との間に、略円筒状の中空空間73を設けるようにしてもよい。このような中空空間73を設けることで、被験者の肌への影響や違和感を緩和することができる。また、被験者頸部への密着性を向上させることができる。
【0048】
なお、導音口の広さは、特に限定されるわけではないが、発明者らが鋭意検討した結果、導音口の広さをより広く確保した方が、信号のS/N比が改善する傾向がある。一方で、集音部71内の導音空間RS3として、所定の高さと広さを確保する必要があり、また、測定部40の厚さは薄い方が被験者の邪魔にならずに好ましいので、それらを総合的加味して導音口の開口の広さや集音部71の高さを設定するのが望ましい。
【0049】
さらに、突出部70には、筒状突起44と底板41との間に引っ掛けるための円環状に形成された爪部が、集音部71と連続一体的に設けられている。このような構成にすることで、突出部70を測定部40から取り外して交換しやすくなっている。
【0050】
図7は、呼吸音測定装置1は、概略構成を示すブロック図である。
図7において、
図1~
図6と共通の構成には、共通の符号を付している。
【0051】
呼吸音測定装置1は、装置全体としての動作を制御する制御部59を備えている。制御部59は、例えばマイクロプロセッサであって、CPUやメモリ等を有している。制御部59は、バッテリ51からの電源供給を受け、記憶部52に記憶されたプログラム等に基づいて動作する。なお、具体的な動作については後述する「呼吸音測定装置の動作」において説明する。制御部59は、例えば、測定部40の収容空間に配置され、例えば、基板50に実装される。
【0052】
<呼吸音測定装置の動作>
次に、
図8A及び
図8Bを用いて、呼吸音測定装置1の動作について具体的に説明する。
【0053】
まず、電源オフの状態から電源ボタン57が長押しされると、呼吸音測定装置1が起動される(ステップS10)。次に、制御部59は、バッテリ51の残量があるかどうかを確認する(ステップS11)。バッテリ51の残量が十分でない場合(S11でNO)、制御部59は、呼吸音測定装置1の電源を再びオフにし、処理を終了する。
【0054】
一方で、バッテリ51の残量が十分残っている場合(S11でYES)、制御部59は、所定時間以内に被験者が呼吸音測定装置1を首に装着したかどうかを判定する(ステップS12)。呼吸音測定装置1が被験者の首に装着されたか否かは、例えば、加速度センサー54やマイクロフォン2の測定結果に基づいて判定する。所定時間が経過しても呼吸音測定装置1の装着が確認できない場合(S12でNO)、制御部59は、呼吸音測定装置1の電源をオフにし、処理を終了する。装着確認のための所定時間は、特に限定されないが、例えば、数分程度である。
【0055】
制御部59は、吸音測定装置1の装着が確認されると(S12でYES)、呼吸音測定のためのタイマー設定を行う(ステップS13)。ここでは、例えば、互いに異なる3つの時間t1,t2,t3(t1<t2<t3)が設定される。
【0056】
そして、吸音測定装置1が被験者頸部に装着されていることを再度確認するとともに(ステップS14)、電源ボタン57の長押しがされていないことを確認し(ステップS15)、呼吸音の測定工程に入る(ステップS16)。
【0057】
ステップS17~S19では、制御部59は、所定時間t1毎に、加速度センサー54から得られた加速度データを基に、被験者の体位を検出する。
【0058】
ステップS21~S23では、制御部59は、所定時間t2(t1<t2)毎に、いびきの有無の判定をするとともに(ステップS22)、睡眠時無呼吸の発生の有無を判定する(ステップS23)。
【0059】
図9では、(a)被験者が通常睡眠時の呼吸音(以下、通常時呼吸音という)、(b)いびきをかいている場合の呼吸音(以下、いびき音という)の測定結果の一例を示している。
図9には、約30秒程度の測定結果を示しており、アンプ回路(図示省略)を用いて呼吸音を350倍程度増幅したものである。
図9(a),(b)に示すように、通常時呼吸音といびき音とは、音量が大きく異なるので、いびきの有無は、比較的容易に判別することができる。なお、ここで示す測定時間及び測定倍率については、あくまで一例であり、異なる時間や倍率であってもよく、これらの数値に本願発明の範囲を限定する意図はない。本実施形態内の他の場所で使用する数値についても、同様である。
【0060】
一方で、睡眠時無呼吸の発生の有無は、一時的に呼吸が止まっていることを判断する必要がある。そこで、例えば、呼吸音測定装置1では、いびきの有無の判定時よりも増幅率を上げて、睡眠時の呼吸音データを取得する。
図9において、(c)は被験者通常時呼吸音の測定結果を示し、(d)は睡眠時に無呼吸期間がある場合の呼吸音(以下、無呼吸時呼吸音という)の測定結果を示している。
図9の(c),(d)では、
図9の(a),(b)と比較して、増幅率を25倍程度高めている。すなわち、呼吸音を9000倍程度増幅したものである。
【0061】
なお、睡眠時無呼吸の発生の有無の具体的な判定方法は、特に限定されないが、例えば、
図9(c),(d)のように測定された呼吸音について、その通常睡眠時の呼吸音データが所定の閾値を下回っている期間が、所定の期間継続している場合に、被験者が睡眠時無呼吸の状態になっていると判定する。
【0062】
次のステップS24では、ステップS22,S23において、いびきまたは睡眠時無呼吸の判定がされたかどうかを確認する。ステップS24において、いびきまたは睡眠時無呼吸があったと判定されていた場合、制御部59は、例えば、被験者の体位を変えさせるために、例えば、バイブレータ56を起動して振動させる(ステップS25)。また、あわせて、ステップS21の判定をするかどうかの判断の基となる時間t2をリセットする(ステップS26)。
【0063】
次のステップS27~S29では、制御部59は、所定時間t3毎に、上記の判定結果や各センサーでの測定データを保存する。保存先は、特に限定されないが、例えば、呼吸音測定装置1に内蔵されている記憶部52に保存される。また、所定時間t3毎に、通信モジュール53を介して、外部の端末機器80等にデータを送信し、端末機器80内の記憶部に記憶させたり、端末機器80の表示画面81に表示させるようにしてもよい。
【0064】
上記のステップS14からステップS29の処理を繰り返し、所定の測定時間が経過すると、ステップS30でYES判定となり、制御部59は、呼吸音測定装置1の電源をオフにし、処理を終了する。
【0065】
以上のように、本実施形態では、ネックバンド11の内周面11aに筒状突起44を設けて、筒状突起44の導音口から被験者の呼吸音を導入するようにしている。これにより、被験者の体内で発生する音(例えば、心音)と呼吸音とを分離することができる。一方で、筒状突起44を設けた場合、外部から与えられた衝撃等により生じた振動がネックバンド11を伝搬し、導音空間RS内に固体伝搬音が発生するおそれがある。そこで、本実施形態では、導音空間RSの周りに遮音材60を設けている。これにより、導音空間RS内に固体伝搬音が発生するのを抑えることができる。
【0066】
<その他の実施形態>
なお、上記実施形態において、ネックバンド11の形状は、略C字形状に限定されるものではない。ネックバンド11は、被験者の頸部に装着されて被験者頸部の呼吸音がマイクロフォン2で測定できるように構成されていればよく、例えば、ビニールや繊維等の柔らかい素材で形成されたネックバンドを首に巻付け、面ファスナーやアジャスターバックルのような係止具で係止するような構成であってもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、ネックバンド11に、略円筒状の突出部70が設けられているものとしたが、これに限定されない。例えば、
図10に示すように、突出部70を省いて、測定部40の底板41に対して、集音部71を設けるようにしてもよく、呼吸音測定装置1の測定精度を向上させることができるという上記の実施形態と同様の効果が得られる。この場合、測定部40の底板41が、当接部としての機能を兼ねる。
【0068】
ただし、突出部70を設けることで、被験者の首の形状によらずに、集音部71を被験者頸部により安定的に密着させることができ、その密着性も高めることができる。
【0069】
また、上記実施形態では、測定部40に筒状突起44が設けられているものとしたが、筒状突起44を省いた構成としてもよい。この場合、例えば、集音部71の基端部と、基板50の導音孔50aとが直接接続される、すなわち、導音口から導入された呼吸音は、導音空間RS3から導音空間RS1に導入され、マイクロフォン2に導かれる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、主に在宅等で被験者の睡眠状態を測定する装置として有用である。
【符号の説明】
【0071】
1 呼吸音測定装置
2 マイクロフォン
11 ネックバンド
44 筒状突起
60 遮音材
72 当接部
RS 導音空間