(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】電磁波シールドスライドファスナー及びそれを用いた装置
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20231206BHJP
A44B 19/24 20060101ALI20231206BHJP
A44B 19/30 20060101ALI20231206BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20231206BHJP
D03D 15/292 20210101ALI20231206BHJP
D03D 15/533 20210101ALI20231206BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
H05K9/00 G
A44B19/24
A44B19/30
D02G3/04
D03D15/292
D03D15/533
D04B1/14
H05K9/00 W
(21)【出願番号】P 2019159199
(22)【出願日】2019-09-02
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】505180335
【氏名又は名称】日本エレテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】建部 則久
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-164290(JP,U)
【文献】特開2018-047232(JP,A)
【文献】国際公開第2012/120602(WO,A1)
【文献】特開2006-167191(JP,A)
【文献】特開平06-177577(JP,A)
【文献】国際公開第2011/161784(WO,A1)
【文献】実開昭59-091119(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
A44B 19/00 -19/64
D02G 3/04
D04B 1/14
D03D 15/292
D03D 15/533
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の電磁波シールドテープと、
前記一対の電磁波シールドテープの端部に相互に対向配置した複数の金属製のエレメントと、
前記相互に対向配置した複数のエレメント同士を係合及び離脱するスライダーとを有し、
前記エレメントは
前記電磁波シールドテープの連結部にカシメ連結してあるとともに前記スライダーの摺接部と、前記摺接部に対して段差部を介して
前記摺接部より厚みのある係合部とを有することで前記スライダーが前記電磁波シールドテープに摺接しないようになって
おり、
前記電磁波シールドテープは樹脂繊維糸に金属箔糸を
螺旋状に巻着してあることを特徴とする
電磁波シールドスライドファスナー。
【請求項2】
前記エレメントの連結部は、
細い銅線に水溶性の樹脂を被覆した複合繊維糸を編んだ後に、表面の樹脂分を水で除去した金属線からなることを特徴とする請求項1記載の電磁波シールドスライドファスナー。
【請求項3】
請求項1
又は2記載の電磁波シールドスライドファスナーを用いて開閉部を形成してあることを特徴とする電磁波シールド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド性能を有するスライドファスナー及びそれを用いた電磁波シールド装置に関する。
特にスライド耐久性に優れるスライドファスナー及びこれを開閉部に設けた電磁波が遮蔽されたボックス,テント,計測施設等に係る。
【背景技術】
【0002】
電子機器の開発分野では、電磁波によるノイズ対策、通信機器の通信性能テスト等、機器の開発段階にて電磁波がシールドされた測定空間が必要となる。
近年は、電気自動車の開発段階にて、大型の電磁波シールド施設が必要になっている。
これらの電磁波シールド空間に対して、電子機器や測定器の出し入れや、研究者等が出入りするための開閉部が必要となる。
このような開閉部を形成する手段として、スライドファスナーを採用することがある。
この場合に、金属製のエレメントを電磁波シールド性を有するテープ材(シート材)に連結することになるが、これまでに採用されている電磁波シールド性シート材としては、例えば特許文献1示すように、繊維シートに無電解メッキや電気メッキ等により、金属メッキにて被覆するものであった。
しかし、これではスライダーの開閉時にこのスライダーがメッキ層に摺接するためにメッキ層が剥離しやすく、また繊維シートが擦れることで破れが生じやすく、ファスナーのスライド耐久性に劣る技術的課題があった。
また、メッキ被覆繊維では金属量が少ないため、電磁波シールド性能が不充分である問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、開閉耐久性に優れるとともに、電磁波シールド性能の高い電磁波シールドスライドファスナー及びそれを用いた装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る電磁波シールドスライドファスナーは、左右一対の電磁波シールドテープと、前記一対の電磁波シールドテープの端部に相互に対向配置した複数の金属製のエレメントと、前記相互に対向配置した複数のエレメント同士を係合及び離脱するスライダーとを有し、前記エレメントは前記スライダーの摺接部と、前記摺接部に対して段差部を介して設けた係合部とを有することで前記スライダーが前記電磁波シールドテープに摺接しないようになっていることを特徴とする。
これにより、スライダーが電磁波シールドテープに摺接せず、テープの劣化を抑え、性能低下が生じない。
【0006】
ここで、エレメントの摺接部と係合部とが段差部を介して有するとは、少なくとも二段形状になっていて、相互に対向配置した複数のエレメント同士が係合する際には、スライダーが両側のエレメント同士が接近する方向に相互にスライド押圧することになるが、本発明に係るエレメントは、この段差部を介して両側から押圧するとともに、スライダーは一段目の摺接部の上面に沿ってスライドすることで、スライダーがテープ生地の表面に当接しないようにしたものである。
これにより、テープ生地の表面がスライダーにより擦れることがなくなり、生地表面の導電性及び劣化耐久性が確保できる。
【0007】
本発明において、電磁波シールドテープは樹脂繊維糸に金属箔糸を巻着してあってもよい。
例えば、ポリエステル等の各種繊維にアルミ箔や銅箔等の薄い箔を帯状に細く裁断した箔糸を螺旋状に巻き付けた繊維を織り込んで製造したテープ生地を採用するとよい。
電磁波シールド性能は表面抵抗及び遮蔽材質量の影響を受ける。
メッキ繊維や金属含浸繊維に比べると、金属箔を使用することにより表面抵抗が下がり、金属量が増え、その分電磁波シールド性能が向上する。
また、箔の両側のエッジによるコロナ放電効果により、従来のメッキ被覆繊維よりも表面抵抗が低く、電磁波シールド性能に優れる。
【0008】
本発明において、電磁波シールドテープと前記エレメントの連結部は金属糸を用いて編んであってもよい。
エレメントとテープとの連結部は、強度が必要であるとともに、その部分から電磁波が濡れるのを防ぐ必要がある。
そこで、上記連結部は細い銅線等を編んだものがよいが、金属糸を直接編むのが難しい場合には、水溶性の樹脂等で被覆した金属糸を編んだ後に樹脂層を除去してもよい。
【0009】
本発明に係る電磁波シールドスライドファスナーを用いることで、開閉部の耐久性に優れるとともにシールド性能の高い電磁波シールドボックス,電磁波シールドテントを製作したり、シールド性の高い測定室等の建築物を製作することもできる。
また、生地の接合部としても使用でき、大型テント等の場合に生地同士をファスナーで繋ぐことで、サイズの変更ができる。
なお、大型の場合に強度を上げる目的で芯糸にアラミド系の高強度繊維を使用してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るスライドファスナーは、開閉時にスライダーがテープ生地に直接触れないので、テープ生地の表面の擦れや傷付きを防止するので、開閉耐久性に優れる。
また、テープ生地に金属箔糸を巻着した繊維糸を用いたので、シールド性能も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(a)は本発明に係るスライドファスナーの構造例を示し、(b)は部分拡大図を示す。
【
図2】本発明に係るスライドファスナーの部分拡大図を示す。
【
図4】エレメントの連結部の編み部の拡大図を示す。
【
図5】(a)はシールドボックスの例、(b)はシールドテントの例を示す。
【
図6】電磁波シールド試験に用いたサンプル写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る(電磁波シールドスライドファスナー(以下、単にスライドファスナーと称する。)の構造例及びそれを用いた装置の例を以下図に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0013】
図1~
図4に本発明に係るスライドファスナーの構造例を示し、これを利用したシールドボックス,シールドテントの例を
図5に示す。
スライドファスナーは、左右一対のテープ10,20とそれぞれの端部に沿って、連結部13,23にて連結した複数のエレメント11,21とを有し、複数のエレメント11と複数のエレメント21とは、相互に係合するように対向配置されている。
このエレメント11,21の係合及び離脱をするためのスライダー30が、スライド自在に取り付けられている。
スライダー30は、胴体33と引手31を有する。
このスライダー30は、この胴体の両側に設けた溝部34に沿って両側のエレメント11,21が移動する。
両側のエレメントが相互に係合する際には、胴体の両側に設けたレール部32に沿ってエレメント11,21が押圧係合しながら移動する。
本発明においては、エレメント11,21がそれぞれ第1段目の摺接部11a,21aと段差部11c,21cを介して、それよりも厚みのある第2段目の係合部11b,21bとの二段構造になっている。
これにより、スライダーのレール部32がテープ10,20の生地に直接触れないようになっている。
エレメント11,21は、丹銅,洋白等の金属製で製作されているが、本実施例は丹銅を用いた。
また、電気抵抗の低いベリリウム銅や銅銀合金を採用してもよい。
なお、
図1は直角状の段差部の例で、
図2は斜面状の段差部の例を示す。
【0014】
テープ10,20の生地12,22の拡大図を
図3に示す。
例えば、テープ10で説明すると、ポリエステル繊維からなる縦糸12aと、横糸12bとを用いた布状(テープ状)に織ってあるが、それぞれの繊維糸にはアルミ箔からなる金属箔糸12cを螺旋状に巻き付けてある。
これにより、表面抵抗が低く、電磁波シールド性が従来のメッキ繊維系よりも向上する。
【0015】
図4にテープとエレメントの連結部12,23の拡大図を示す。
連結部13,23は、エレメントをカシメ連結する部位であり、強度が必要であるともに、導電性を必要とする。
そこで本実施例は、細い銅線に水溶性の樹脂を被覆した複合繊維糸を編んだ後に、表面の樹脂分を水等にて除去することで、相互の交点が密集した金属線23aからなる導電性コードになっている。
【0016】
本発明に係るスライドファスナー1は、
図5に示すように(a)シールドボックス,(b)シールドテント等の開閉部に用いることができる。
本体部2と開閉布3との間に本発明に係るスライドファスナー1を設けることになるが、本体部2や開閉布3は、電磁波シールド性の素材で製作される。
例えば、本出願人が商品名「エレテックスI」及び「ソルファイバー」として販売している素材等を用いることができる。
【0017】
図6に示した試験サンプルを製作し、シールド性能の比較試験を行った。
図6(a)は、本発明に係る試験サンプルであり、錫メッキ普通銅箔糸を巻着したものである。
(b)は線材からなる錫メッキ普通銅糸、(c)は銅/ニッケルのメッキ布である。
これらのサンプルを用いて、KEC関西電子工業振興センターが開発したKEC法(500Hzから1GHz)にてシールド試験をした結果を
図7のグラフに示す。
グラフ中の(a)~(c)は、上記サンプルの(a)~(c)に対応している。
本発明に係る金属箔糸を用いると、電磁波シールド性能が向上している。
【符号の説明】
【0018】
1 スライドファスナー
2 本体部
3 開閉布
10 テープ
11 エレメント
12 生地
13 連結部
20 テープ
21 エレメント
22 生地
23 連結部
30 スライダー
31 引手
32 レール部
33 胴体