(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】船舶性能評価・提供システム
(51)【国際特許分類】
G01M 10/00 20060101AFI20231206BHJP
B63B 71/20 20200101ALI20231206BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20231206BHJP
【FI】
G01M10/00
B63B71/20
B33Y80/00
(21)【出願番号】P 2019239127
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】辻本 勝
(72)【発明者】
【氏名】白石 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】一ノ瀬 康雄
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/221125(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/004362(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 10/00
B63B 71/20
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の性能を評価し提供するシステムであって、評価対象の前記船舶の性能評価を依頼するための船舶条件及び評価情報条件を入力する条件入力手段と、前記船舶条件及び前記評価情報条件に基づいて実海域での前記船舶の評価を行う評価手段と、前記評価手段を用いた評価結果を、前記依頼を行った依頼者に提供する評価結果提供手段とを備え
、前記評価手段が水槽試験手段及び数値計算手段であり、前記水槽試験手段による水槽試験データと前記数値計算手段による数値計算データとを組み合わせ、コンピュータを用いてデータ同化して前記評価結果を導出することを特徴とする船舶性能評価・提供システム。
【請求項2】
前記評価手段が水槽試験手段である場合、前記水槽試験手段が前記船舶条件に従って模型船を製作する模型船製作手段を有することを特徴とする請求項
1に記載の船舶性能評価・提供システム。
【請求項3】
前記模型船製作手段が、前記模型船を自動製作する3次元プリンタを含むことを特徴とする請求項
2に記載の船舶性能評価・提供システム。
【請求項4】
前記模型船の少なくとも平行部が共通模型船部品から成り、船首部及び/又は船尾部が前記3次元プリンタを利用した3次元造形部品から成ることを特徴とする請求項
3に記載の船舶性能評価・提供システム。
【請求項5】
前記数値計算手段は、前記船舶の船体汚損状態を考慮した数値計算を行う機能を有することを特徴とする請求項
1から請求項
4のいずれか1項に記載の船舶性能評価・提供システム。
【請求項6】
前記水槽試験データ
及び前記数値計算データ
にさらに前記船舶条件による実船モニタリングデー
タを組み合わせ、データ同化して前記評価結果を導出したことを特徴とする請求項
1から請求項
5のいずれか1項に記載の船舶性能評価・提供システム。
【請求項7】
前記実船モニタリングデータとして、前記船舶の運航履歴、及び前記運航履歴に対応した気象海象データを組み合わせて、前記データ同化を行うことを特徴とする請求項
6に記載の船舶性能評価・提供システム。
【請求項8】
前記船舶条件が、前記船舶の運航者に関する情報である運航者情報を含むことを特徴とする請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の船舶性能評価・提供システム。
【請求項9】
前記船舶条件が、前記船舶の運航状態としての気象海象及び載荷状態を含むことを特徴とする請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の船舶性能評価・提供システム。
【請求項10】
前記船舶条件が、前記船舶の画像情報としての船体画像及び/又は航行画像を含むことを特徴とする請求項1から請求項
9のいずれか1項に記載の船舶性能評価・提供システム。
【請求項11】
前記船舶として既に運航されている就航船、又は進水前の未就航船を含むことを特徴とする請求項1から請求項
10のいずれか1項に記載の船舶性能評価・提供システム。
【請求項12】
前記評価情報条件が、前記船舶の性能情報、安全情報、及び強度情報の少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1から請求項
11のいずれか1項に記載の船舶性能評価・提供システム。
【請求項13】
前記評価結果が、燃費及び/又は安全性を考慮した最適運航情報を含むことを特徴とする請求項1から請求項
12のいずれか1項に記載の船舶性能評価・提供システム。
【請求項14】
評価対象の前記船舶が複数隻であり、前記評価結果提供手段が前記評価結果を、複数隻の前記船舶を比較して提供することを特徴とする請求項1から請求項
13のいずれか1項に記載の船舶性能評価・提供システム。
【請求項15】
前記条件入力手段、前記評価手段、及び前記評価結果提供手段とをネットワークを介して遠隔地に設置したことを特徴とする請求項1から請求項
14のいずれか1項に記載の船舶性能評価・提供システム。
【請求項16】
前記ネットワークが、陸上に設置されたサーバ/クラウドを介して通信を行うことを特徴とする請求項
15に記載の船舶性能評価・提供システム。
【請求項17】
前記条件入力手段が、陸上の船舶管理会社、船主、荷主を含む前記依頼者の居所、又は前記船舶に設置されたものであることを特徴とする請求項1から請求項
16のいずれか1項に記載の船舶性能評価・提供システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の性能を評価して依頼者に提供する船舶性能評価・提供システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水槽試験や、航海時におけるデータの収集等により船舶の性能評価が行われている。
例えば、特許文献1には、操作制御装置と航走体に搭載された駆動制御装置を光通信装置を用いて各種データの送受信を可能とし、操作制御装置及び光無線モデムを航走体の航走に追従して移動し、光無線モデムと航走体の光無線モデムとの距離を赤外線により通信可能な距離に維持することで、高精度な航走データを得ようとする航走体の制御装置が開示されている。
また、特許文献2には、陸上のパソコンから無線LANを介して模型船上のパソコンを操作して模型船上のパソコンに航行計画を設定すると共に、模型船上のパソコンに設定されている航行計画や模型船上のパソコンが収集した計測データを陸上のパソコンに送信し、その計測データを陸上のパソコンで表示できるようにした模型船試験装置が開示されている。
また、特許文献3には、自航可能な模型を用いて試験を行い、模型を自航させる動力を得る模型用原動機と、模型用原動機により駆動される模型用駆動手段と、模型用原動機の出力を検出する出力検出手段と、実際の機関系を数学的に特性模擬した機関モデルとを備え、出力検出手段からのフィードバック信号と機関モデルに入力される目標値に基づいて機関モデルで処理を行い模型用原動機に対する指令値を得る模型試験用自航装置が開示されている。
また、特許文献4には、立体物を造形する立体造形装置と、立体造形装置に対して造形すべき立体物に係る情報を送信する情報処理装置とを備え、情報処理装置は、所定の立体物の三次元形状を示す立体物形状データと、当該所定の立体物の周囲の流体流れを示す流線に係る流線形状データとに基づいて、所定の立体物と流線とを含む立体物を立体造形装置に造形させるための造形用データを作成する造形用データ作成手段と、造形用データ作成手段によって作成された造形用データを、立体造形装置に対して送信するデータ送信手段とを備える立体造形システムが開示されている。
また、特許文献5には、航海の運行データが所定時間間隔で記録されている複数の運行データファイルが格納されている運行データ格納部と、運行データ格納部の中に格納されている複数の運行データファイルを航海毎にグループ化して、航海情報ファイルを作成する航海情報ファイル作成部とを備える船舶の性能評価システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-196818号公報
【文献】特開2009-264781号公報
【文献】特開2012-250619号公報
【文献】特開2017-222160号公報
【文献】特開2007-296929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまで船舶試験水槽等の利用者は専らメーカー(設計者、造船所、舶用メーカー)であり、船舶ユーザー(船主、運航会社、傭船者、船舶管理会社、荷主)による利用はほぼ皆無である。
特許文献1から特許文献4は、船舶の設計等への利用を目的として試験によりデータを収集、解析等するものであり、船舶ユーザーによる利用は考慮されていない。
また、特許文献5は、実運航データの管理及び分析に関するものであり、水槽試験等の結果を実運行に利用するものではない。
そこで本発明は、船舶ユーザーに対しても船舶の性能を評価して提供することができる船舶性能評価・提供システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載に対応した船舶性能評価・提供システムにおいては、船舶の性能を評価し提供するシステムであって、評価対象の船舶の性能評価を依頼するための船舶条件及び評価情報条件を入力する条件入力手段と、船舶条件及び評価情報条件に基づいて実海域での船舶の評価を行う評価手段と、評価手段を用いた評価結果を、依頼を行った依頼者に提供する評価結果提供手段とを備え、評価手段が水槽試験手段及び数値計算手段であり、水槽試験手段による水槽試験データと数値計算手段による数値計算データとを組み合わせ、コンピュータを用いてデータ同化して評価結果を導出することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、例えば、造船所等のメーカーのみならず、運航会社等の船舶ユーザーに対しても船舶条件と評価情報条件を入力するだけで実海域での船舶の評価を行ない評価結果を提供することができる。依頼者が船舶ユーザーである場合は、評価結果を利用して例えば、運航の効率性や安全性の向上を図ること等ができる。また、水槽試験及び数値計算を行なうことにより、精度の高い評価結果を依頼者に提供することができる。
【0006】
請求項2記載の本発明は、評価手段が水槽試験手段である場合、水槽試験手段が船舶条件に従って模型船を製作する模型船製作手段を有することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、依頼された船舶条件に従って製作された模型船を用いて水槽試験を行うことで、汎用的な模型船を用いて水槽試験を行う場合よりも、より精度の高い評価結果を依頼者に提供することができる。
【0007】
請求項3記載の本発明は、模型船製作手段が、模型船を自動製作する3次元プリンタを含むことを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、3次元プリンタで模型船の製作を短期間で行い、評価結果を迅速に依頼者に提供することができる。
【0008】
請求項4記載の本発明は、模型船の少なくとも平行部が共通模型船部品から成り、船首部及び/又は船尾部が3次元プリンタを利用した3次元造形部品から成ることを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、共通模型船部品を製作しないことで、依頼を受けてから製作する部品点数を減らし、模型船の製作をより短期間で行うことができる。
【0009】
請求項5記載の本発明は、数値計算手段は、船舶の船体汚損状態を考慮した数値計算を行う機能を有することを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、経年劣化を考慮した、より精度の高い評価結果を依頼者に提供することができる。
【0010】
請求項6記載の本発明は、水槽試験データ及び数値計算データにさらに船舶条件による実船モニタリングデータを組み合わせ、データ同化して評価結果を導出したことを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、データ同化により、評価精度のさらなる向上や評価期間の短縮を実現することができる。
【0011】
請求項7記載の本発明は、実船モニタリングデータとして、船舶の運航履歴、及び運航履歴に対応した気象海象データを組み合わせて、データ同化を行うことを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、実海域での実船の運航状態を考慮した、より精度の高い評価結果を依頼者に提供することができる。
【0012】
請求項8記載の本発明は、船舶条件が、船舶の運航者に関する情報である運航者情報を含むことを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、運航者の特性(性格、実績など)を反映して実海域での船舶の評価を導出するため、より精度の高い評価結果を依頼者に提供することができる。
【0013】
請求項9記載の本発明は、船舶条件が、船舶の運航状態としての気象海象及び載荷状態を含むことを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、船舶が運航する海域の気象海象や、運航中の載貨状態を反映して実海域での船舶の評価を導出するため、より精度の高い評価結果を依頼者に提供することができる。
【0014】
請求項10記載の本発明は、船舶条件が、船舶の画像情報としての船体画像及び/又は航行画像を含むことを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、船体画像を利用して模型船の製作や数値計算を行うことができる。また、航行画像を利用して航走中の造波状況等を反映し実海域での船舶の評価を導出することで、より精度の高い評価結果を依頼者に提供することができる。
【0015】
請求項11記載の本発明は、船舶として既に運航されている就航船、又は進水前の未就航船を含むことを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、評価結果を提供する対象となる依頼者や依頼の機会を広げることができる。
【0016】
請求項12記載の本発明は、評価情報条件が、船舶の性能情報、安全情報、及び強度情報の少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、依頼者は、関心のある評価情報を依頼することで、これらの評価結果を運航の効率性や安全性の向上等に活用することができる。
【0017】
請求項13記載の本発明は、評価結果が、燃費及び/又は安全性を考慮した最適運航情報を含むことを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、依頼者は、最適運航情報を参考に船舶を運航することで、燃費や安全性を向上させることができる。
【0018】
請求項14記載の本発明は、評価対象の船舶が複数隻であり、評価結果提供手段が評価結果を、複数隻の船舶を比較して提供することを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、例えば、船団としての運航最適化を行うことができる。また、配船や傭船等に当って配船計画立案の効率性を向上させることができる。
【0019】
請求項15記載の本発明は、条件入力手段、評価手段、及び評価結果提供手段とをネットワークを介して遠隔地に設置したことを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、依頼者や評価者や評価結果提供者等の様々な利用形態に対応することができる。
【0020】
請求項16記載の本発明は、ネットワークが、陸上に設置されたサーバ/クラウドを介して通信を行うことを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、依頼者は、サーバ又はクラウドにアクセスして評価を依頼し、サーバ又はクラウド経由で評価結果を取得することができる。
【0021】
請求項17記載の本発明は、条件入力手段が、陸上の船舶管理会社、船主、荷主を含む依頼者の居所、又は船舶に設置されたものであることを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、陸上からでも船上からでも船舶ユーザーが、船舶性能評価・提供システムにアクセス可能とし、依頼者の利便性を高めることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の船舶性能評価・提供システムによれば、例えば、造船所等のメーカーのみならず、運航会社等の船舶ユーザーに対しても船舶条件と評価情報条件を入力するだけで実海域での船舶の評価を行ない評価結果を提供することができる。依頼者が船舶ユーザーである場合は、評価結果を利用して例えば、運航の効率性や安全性の向上を図ること等ができる。また、水槽試験及び数値計算を行なうことにより、精度の高い評価結果を依頼者に提供することができる。
【0023】
また、評価手段が水槽試験手段である場合、水槽試験手段が船舶条件に従って模型船を製作する模型船製作手段を有する場合には、依頼された船舶条件に従って製作された模型船を用いて水槽試験を行うことで、汎用的な模型船を用いて水槽試験を行う場合よりも、より精度の高い評価結果を依頼者に提供することができる。
【0024】
また、模型船製作手段が、模型船を自動製作する3次元プリンタを含む場合には、3次元プリンタで模型船の製作を短期間で行い、評価結果を迅速に依頼者に提供することができる。
【0025】
また、模型船の少なくとも平行部が共通模型船部品から成り、船首部及び/又は船尾部が3次元プリンタを利用した3次元造形部品から成る場合には、共通模型船部品を製作しないことで、依頼を受けてから製作する部品点数を減らし、模型船の製作をより短期間で行うことができる。
【0026】
また、数値計算手段は、船舶の船体汚損状態を考慮した数値計算を行う機能を有する場合には、経年劣化を考慮した、より精度の高い評価結果を依頼者に提供することができる。
【0027】
また、水槽試験データ及び数値計算データにさらに船舶条件による実船モニタリングデータを組み合わせ、データ同化して評価結果を導出した場合には、データ同化により、評価精度のさらなる向上や評価期間の短縮を実現することができる。
【0028】
また、実船モニタリングデータとして、船舶の運航履歴、及び運航履歴に対応した気象海象データを組み合わせて、データ同化を行う場合には、実海域での実船の運航状態を考慮した、より精度の高い評価結果を依頼者に提供することができる。
【0029】
また、船舶条件が、船舶の運航者に関する情報である運航者情報を含む場合には、運航者の特性(性格、実績など)を反映して実海域での船舶の評価を導出するため、より精度の高い評価結果を依頼者に提供することができる。
【0030】
また、船舶条件が、船舶の運航状態としての気象海象及び載荷状態を含む場合には、船舶が運航する海域の気象海象や、運航中の載貨状態を反映して実海域での船舶の評価を導出するため、より精度の高い評価結果を依頼者に提供することができる。
【0031】
また、船舶条件が、船舶の画像情報としての船体画像及び/又は航行画像を含む場合には、船体画像を利用して模型船の製作や数値計算を行うことができる。また、航行画像を利用して航走中の造波状況等を反映し実海域での船舶の評価を導出することで、より精度の高い評価結果を依頼者に提供することができる。
【0032】
また、船舶として既に運航されている就航船、又は進水前の未就航船を含む場合には、評価結果を提供する対象となる依頼者や依頼の機会を広げることができる。
【0033】
また、評価情報条件が、船舶の性能情報、安全情報、及び強度情報の少なくともいずれか1つを含む場合には、依頼者は、関心のある評価情報を依頼することで、これらの評価結果を運航の効率性や安全性の向上等に活用することができる。
【0034】
また、評価結果が、燃費及び/又は安全性を考慮した最適運航情報を含む場合には、依頼者は、最適運航情報を参考に船舶を運航することで、燃費や安全性を向上させることができる。
【0035】
また、評価対象の船舶が複数隻であり、評価結果提供手段が評価結果を、複数隻の船舶を比較して提供する場合には、例えば、船団としての運航最適化を行うことができる。また、配船や傭船等に当って配船計画立案の効率性を向上させることができる。
【0036】
また、条件入力手段、評価手段、及び評価結果提供手段とをネットワークを介して遠隔地に設置した場合には、依頼者や評価者や評価結果提供者等の様々な利用形態に対応することができる。
【0037】
また、ネットワークが、陸上に設置されたサーバ/クラウドを介して通信を行う場合には、依頼者は、サーバ又はクラウドにアクセスして評価を依頼し、サーバ又はクラウド経由で評価結果を取得することができる。
【0038】
また、条件入力手段が、陸上の船舶管理会社、船主、荷主を含む依頼者の居所、又は船舶に設置されたものである場合には、陸上からでも船上からでも船舶ユーザーが、船舶性能評価・提供システムにアクセス可能とし、依頼者の利便性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の実施形態による船舶性能評価・提供システムのブロック図
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、本発明の実施形態による模型船試験自動化システムについて説明する。
【0041】
図1は船舶性能評価・提供システムのブロック図である。また、
図2は船舶性能評価・提供システムの利用概念図である。基本的に本実施形態の船舶性能評価・提供システムは、主としてコンピュータとその周辺機器、通信回線又はネットワークにより構成される。
船舶性能評価・提供システムは、評価対象の船舶の性能評価を依頼するための船舶条件及び評価情報条件を入力する条件入力手段10と、船舶条件及び評価情報条件に基づいて実海域での船舶の評価を行う評価手段20と、評価手段20を用いた評価結果を、依頼を行った依頼者1に提供する評価結果提供手段30を備える。
依頼者1は、船舶性能評価・提供システムに対し、評価対象の船舶の性能評価を依頼する場合、条件入力手段10を用いて船舶条件及び評価情報条件を入力する。条件入力手段10は、例えば、依頼者1が所有するコンピュータ機能を有するパソコン又は携帯端末等である。
船舶条件は、船舶の性能を評価する際の条件とすることを要求する項目であり、評価情報条件は、評価結果40に含めることを要求する項目である。
評価手段20は、条件入力手段10から船舶条件及び評価情報条件を受信すると、それらの条件に基づき評価対象の船舶について実海域での性能を評価して評価結果40を導出し、得られた評価結果40を評価結果提供手段30へ出力する。
評価結果提供手段30は、評価手段20から入力された評価結果40を、依頼者1が所有するパソコンや携帯端末等へ送信する。この場合、評価結果40を受け取るパソコンや携帯端末等は、入力を行なったパソコンや携帯端末等とは別のものであってもよい。
船舶性能評価・提供システムは、例えば、造船所等のメーカーのみならず、運航会社等の船舶ユーザーや船舶そのものに対しても船舶条件と評価情報条件を入力するだけで実海域での船舶の評価を行ない評価結果40を提供することができる。そして、依頼者1が船舶ユーザーや船舶である場合は、評価結果40を利用して運航の効率性や安全性の向上を図ること等ができる。
【0042】
条件入力手段10、評価手段20、及び評価結果提供手段30は、ネットワークを介して遠隔地に設置することができる。これにより、船舶性能評価・提供システムは、依頼者1、評価者、又は評価結果提供者等の様々な利用形態に対応することができる。なお、評価者とは評価手段20を用いて評価を行う者であり、評価結果提供者とは評価結果提供手段30を用いて評価結果40を提供する者である。また、評価者と評価結果提供者は同一人の場合もある。
本実施形態では、評価手段20及び評価結果提供手段30は、依頼者1の所在地から離れた場所に設置されており、インターネット回線で条件入力手段10と結ばれている。なお、条件入力手段10と評価手段20と評価結果提供手段30は、任意に組み合わせて遠隔地に設置すること、また、全体を取りまとめて同一場所に設置することが可能である。
【0043】
条件入力手段10、評価手段20、及び評価結果提供手段30を繋げているネットワークは、陸上に設置されたサーバ(専用サーバ)又はクラウド(クラウドサーバ)を介して通信を行う。これにより依頼者1は、サーバ又はクラウドにアクセスして評価を依頼し、サーバ又はクラウド経由で評価結果40を取得することができる。なお、電子メールでの通信も可能である。
依頼者1が本実施形態の船舶性能評価・提供システムを利用するに当って、割り当てられたIDや設定したパスワードを利用したり、サーバが、アクセスキーを予め生成して管理し、利用者からの申し込みを受信してアクセスキーを発行し、アクセスキーを利用して依頼者1の認証を行うことが好ましい。また、評価結果40を受け取る場合もこれらのIDやパスワード、またアクセスキーを利用することが好ましい。
【0044】
条件入力手段10は、陸上の船舶管理会社、船主、又は荷主といった依頼者1の居所、あるいは船舶に設置している。
これにより、陸上からでも船上からでも船舶ユーザーが、船舶性能評価・提供システムにアクセス可能とし、依頼者1の利便性を高めることができる。
【0045】
船舶性能評価・提供システムは、既に運航されている就航船、又は進水前の未就航船も評価対象とする。これにより、評価結果40を提供する対象となる依頼者1を、造船所、舶用機器製造会社等といったメーカーに限らず、船舶ユーザー等にも広げることができ、また依頼者1から依頼を受ける機会も増やすことができる。
船舶ユーザー等とは、船主、運航会社、傭船者、船舶管理会社、荷主、ウェザールーティングサービス会社、船舶保険会社、船舶検査会社、修繕ドック、船舶ブローカー、又は船舶格付会社等である。
なお、評価結果提供手段30は、依頼者1以外にも評価結果40を提供できる。例えば、造船所が依頼して船舶格付会社が評価結果40を受信し船舶の格付けに役立てる場合や、運航会社や荷主が依頼して船舶保険会社が評価結果40を受信し保険料の算定に役立てる場合等である。これらの場合は、依頼者1の了解のもと、評価結果提供手段30は他者にも評価結果40を提供できる。
【0046】
依頼者1が入力する船舶条件には、評価対象の船舶を操船する船長(キャプテン)に関する情報である運航者情報を含めることができる。運航者情報は、例えば船長の性格や実績等であり、航路の選択や遭遇した気象海象にどう対応する傾向があるか等を考慮するものである。
この場合、評価手段20が、運航者の特性(性格、実績など)を反映して実海域での船舶の評価を導出するため、船舶性能評価・提供システムは、より精度の高い評価結果40を依頼者1に提供することができる。
【0047】
また、依頼者1が入力する船舶条件には、船舶の運航状態としての気象海象及び載荷状態を含めることができる。気象海象は、船舶に設置されたレーダーや機器による計測、写真、又は目視等により取得する。また、載貨状態には、重心・GM情報(メタセンター高さ)、喫水・トリム情報等を含む。
この場合、評価手段20が、船舶が運航する海域の気象海象や、運航中の載貨状態を反映して実海域での船舶の評価を導出するため、船舶性能評価・提供システムは、より精度の高い評価結果40を依頼者1に提供することができる。
【0048】
また、依頼者1が入力する船舶条件には、船舶の画像情報としての船体画像及び航行画像の少なくとも一方を含めることができる。船体画像は、バルブ、省エネ付加物、錨・ボルスター、船首ステム部、船尾トランサム部、舵、及びプロペラ等の他、船体汚損状態25等を、船上又はドック等で撮影した写真である。また、航行画像は、波浪状況や航走中の船首や船尾の造波状況等の写真である。船体画像及び航行画像は、動画であってもよい。
バルブや舵等の船体画像は後述する模型船の製作に利用することができ、船体汚損状態25の船体画像は後述する数値計算に利用することができる。これにより、評価対象の船舶が傭船の場合など、不明点が多いため依頼者が入力できる船舶条件が限られる場合であっても精度よく評価することができる。また、船舶条件に航行画像を含める場合、評価手段20が、航走中の波浪状況や造波状況等を反映して実海域での船舶の評価を導出するため、船舶性能評価・提供システムは、より精度の高い評価結果40を依頼者1に提供することができる。
【0049】
評価手段20は、水槽試験手段21及び数値計算手段22を有する。
水槽試験手段21は、長さ数百メートルの水槽において模型船を航走させ、実海域における船舶の性能を推定する。水槽施設には、風洞、キャビテーション水槽、回流水槽を含み、コンピュータにより自動制御される自動化水槽であることが好ましい。利用者は、自らのパソコンや携帯端末等から評価手段20にアクセスして水槽の空き状況を確認し、水槽試験を用いた評価を依頼することができる。
数値計算手段22は、CFD(数値流体力学)や簡易推定といった数値計算により、実海域における船舶の性能を推定する。利用者1は、同様に自らのパソコンや携帯端末等から評価手段20にアクセスしてCFDの空き状況を確認し、CFDを用いた評価を依頼することができる。評価手段20は、実海域における船舶の性能を、水槽試験手段21と数値計算手段22の両方を使用して評価することもでき、どちらか一方のみを使用して評価することもできる。さらに評価手段20自身が依頼された評価内容(船舶条件、評価情報条件)を判断して水槽試験手段21と数値計算手段22を組み合わせた試験をすることもできる。
船舶性能評価・提供システムは、水槽試験や数値計算を行なうことにより、精度の高い評価結果40を依頼者1に提供することができる。
また、タイプシップデータや模型船を予め保持しておくことで、試験期間や計算期間を短縮して短納期を実現することができる。
【0050】
水槽試験手段21は、入力された船舶条件に従って模型船を製作する模型船製作手段23を有する。模型船は、船体スキャンデータ、上述の船体画像、又は一般配置図等の簡単な図面情報から模型形状を簡易表現して製作することができる。
水槽試験手段21は、依頼者1から依頼があると試験準備に取り掛かり、模型船製作手段23により模型船の製作を開始する。この模型船の製作を含めて水槽試験手段21は、一貫した自動化水槽であることが好ましい。
依頼された船舶条件に従って製作された模型船を用いて水槽試験を行うことで、汎用的な模型船を用いて水槽試験を行う場合よりも、より精度の高い評価結果40を依頼者1に提供することができる。
【0051】
本実施形態における模型船製作手段23は、模型船を自動製作する3次元プリンタ(3Dプリンタ)24を有する。
模型船の製作を手作業で行う場合は、依頼を受けてから水槽試験を実施するまでに最短でも2か月ほどかかるが、模型船の製作を3次元プリンタ24で行うと、依頼を受けてから1週間程度で水槽試験を実施することが可能となる。したがって、3次元プリンタ24を用いることで、模型船の製作を短期間で行い、評価結果40を迅速に依頼者1に提供することができる。これにより、例えば大型船の大洋航海は1航海が2週間程度であるが、依頼者1は、出港直前又は出港後に船舶性能評価・提供システムに当該船舶の評価を依頼した場合でも、その航海において評価結果40を利用することができる。
【0052】
また、入力された試験条件に従って模型船を新たに製作したうえで水槽試験を行う場合に備えて、予め模型船の平行部を複数種類製作し、共通模型船部品として保管しておき、依頼を受けてからは共通模型船部品を製作しないようにしてもよい。なお、平行部とは、船首部と船尾部の間の部分である。
これにより模型船製作手段23は、依頼を受けた後に、船舶条件に従い3次元造形部品として船首部と船尾部、また必要に応じて省エネ付加物やボルスターといったパーツを3次元プリンタ24を利用して造形し、保管されている平行部の中から船舶条件に適合する平行部を選択し、これらを接合して模型船とすることができるため、依頼を受けてから製作する部品点数を減らし、模型船の製作をより短期間で行うことができる。
この場合、模型船は、平行部が共通模型船部品から成り、船首部及び船尾部が3次元プリンタ24を利用した3次元造形部品から成る。なお、予め製作しておく平行部も3次元プリンタ24を利用して製作してもよい。また、船首部と船尾部のどちらか一方についても、予め複数種類製作し、共通模型船部品として保管しておいてもよい。
【0053】
数値計算手段22は、CFDサーバ等を用いて船舶の船体汚損状態25を考慮した数値計算を行う機能を有しており、船舶条件に上述の船体画像等による船体汚損状態25に関するデータが含まれている場合は、船体汚損状態25による影響が反映された評価を導出する。これにより船舶性能評価・提供システムは、経年劣化を考慮した、より精度の高い評価結果40を依頼者1に提供することができる。この船体汚損状態25にはプロペラも含み、船舶を長期間使用することによる海洋生物付着の他、錆や瘤の発生、塗膜の劣化等による船体の摩擦抵抗増加係数やプロペラの推進力低下量等による経年劣化を考慮した数値計算を行なう。また数値計算には船体汚損状態25の他、経年劣化の観点から主機関や給排気系、燃料供給系、動力伝達系、またプロペラ等の摩耗や損傷等、評価期間により異なる劣化率に関連したあらゆるパラメーター値を含むことができる。
【0054】
評価手段20は、水槽試験手段21による水槽試験データ50、数値計算手段22による数値計算データ51、及び船舶条件による実船モニタリングデータ52の少なくともいずれか2つを組み合わせ、データ同化して評価結果40を導出することが好ましい。実船モニタリングデータ52は、航海中や停泊中等において、実船60に設置されている各種センサー等によって取得したデータである。
データ同化は、コンピュータを用いて水槽試験データ50、数値計算手段22による数値計算データ51、及び船舶条件による実船モニタリングデータ52を適宜組み合わせて処理することにより、評価精度のさらなる向上や評価期間の短縮を実現することができる。
【0055】
実船モニタリングデータ52の一例として、船舶の運航履歴53と、運航履歴53に対応した気象海象データ54が挙げられる。運航履歴53のデータは、例えばAIS(船舶自動識別装置)から取得する。
評価手段20が、船舶の運航履歴53とそれに対応した気象海象データ54を組み合わせてデータ同化を行うことで、実海域での減速状況、停泊期間による船体汚損の評価結果40を導出するなど、船舶性能評価・提供システムは、実海域での実船60の運航状態を考慮した、より精度の高い評価結果40を依頼者1に提供することができる。
また、評価手段20が、船舶の運航履歴53とそれに対応した気象海象データ54に、さらに運航者情報(船長情報)を組み合わせてデータ同化し、AI等による運航者(船長)評価を行うことも可能である。これにより依頼者1は、運航者を適切に評価、指導等することができる。
【0056】
依頼者1が入力する評価情報条件には、船舶の性能情報、安全情報、及び強度情報の少なくともいずれか1つを含めることができる。性能情報は、速力、出力、燃費、燃料費等である。安全情報は、耐航性能、操縦性能等である。また、強度情報は、疲労評価、構造評価等である。
この場合、依頼者1に提供される評価結果40には、性能情報、安全情報、又は強度情報を含めることができるため、依頼者1は、関心のある評価情報条件を入力することで、これらの評価結果40を運航の効率性や安全性の向上等に活用することができる。
【0057】
また、依頼者1が入力する評価情報条件には、貨物の状態予測を含めることができる。この場合、評価手段20は、航海中の動揺履歴や、IoTと組み合わせ実船モニタリングデータ52として取得した貨物の輸送温度情報等から、実海域での船舶の評価として貨物の状態の適切性を評価する。
これにより、依頼者1は、貨物の輸送を依頼する運航会社や船舶を、提供された評価結果40に基づいて適切に選定すること等ができる。
【0058】
船舶性能評価・提供システムが提供する評価結果40には、燃費と安全性の少なくとも一方を考慮した最適運航情報を含むことが好ましい。最適運航情報は、最適トリム、最適バラスト、荒天避航判断等である。
依頼者1は、最適運航情報を参考に船舶を運航することで、燃費や安全性を向上させることができる。
【0059】
船舶性能評価・提供システムは、評価対象の船舶を複数隻とすることができる。この場合、評価結果提供手段30は、評価結果40を、複数隻の船舶を比較して提供する。
これにより、例えば、入港順番待ちによる減速・増速判断を付近の船舶の運航状況に基づいて行ったり、複数の船舶がそれぞれ取得したデータを集めて気象海象に関する情報の精度を向上させたりするなど、本船だけでなく、船団としての運航最適化を行うことができる。また、配船や傭船等に当って配船計画立案の効率性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、実海域での船舶性能の評価を可能とするとともに、評価結果を、メーカーのみならず船舶ユーザーにも提供することができ、新たなビジネスモデルの構築に役立てることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 依頼者
10 条件入力手段
20 評価手段
21 水槽試験手段
22 数値計算手段
23 模型船製作手段
24 3次元プリンタ
25 船体汚損状態
30 評価結果提供手段
40 評価結果
50 水槽試験データ
51 数値計算データ
52 実船モニタリングデータ
53 運航履歴
54 気象海象データ