(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】SOD1二重発現ベクターおよびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20231206BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20231206BHJP
C12N 15/35 20060101ALI20231206BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20231206BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231206BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231206BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20231206BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231206BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20231206BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20231206BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/53
C12N15/35
C12N7/01
A61P43/00 111
A61P25/00
A61P21/00
A61K48/00
A61K31/7105
A61K35/76
(21)【出願番号】P 2020516885
(86)(22)【出願日】2018-09-21
(86)【国際出願番号】 US2018052173
(87)【国際公開番号】W WO2019060686
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-09-21
(32)【優先日】2017-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507088266
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ マサチューセッツ
【住所又は居所原語表記】One Beacon Street,31st Floor,Boston,Massachusetts 02108
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,ロバート,エイチ.,ジュニア
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-510298(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0042828(US,A1)
【文献】KUBODERA, T. et al.,In vivo application of an RNAi strategy for the selective suppression of a mutant allele.,Human gene therapy,2011年,Vol. 22,P. 27-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61P
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
(a)対象の内因性mRNAにハイブリダイズし、および前記内因性mRNAの発現を阻害する、前記内因性mRNAに相補的な充分な配列を有する核酸を含む1以上の第1miRNAをコードする第1領域(ここで、1以上の第1miRNAが、配列番号3および/または配列番号4の配列を含み、ここで、前記内因性mRNAはSOD1タンパク質をコードする);および
(b)野生型SOD1タンパク質をコードする外因性mRNAをコードする第2領域(ここで外因性mRNAが、配列
番号7の配列を含む)
を含む、単離された核酸であって、1以上の第1miRNAは、前記外因性mRNAにハイブリダイズしてその発現を阻害するのに充分な配列相補性を有する核酸を含まない、前記単離された核酸。
【請求項2】
(i)外因性mRNAが、5'非翻訳領域(5'UTR)を欠く、3'非翻訳領域(3'UTR)を欠く、または5'UTRおよび3'UTRの両方を欠く;および/または
(ii)SOD1タンパク質をコードする外因性mRNAが、内因性mRNAに対する1以上のサイレント塩基対突然変異を有し、任意にここで、外因性mRNAは、内因性mRNAと少なくとも95%同一である核酸配列を含む、
請求項1に記載の単離された核酸。
【請求項3】
1以上の第1miRNA
が、miR-155またはmiR-30の隣接領域をさらに含む、請求項1または2に記載の単離された核酸。
【請求項4】
第1領域に作動可能に連結されている第1プロモーターをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の単離された核酸であって、任意にここで、第1プロモーターは、
(a)RNAポリメラーゼIII(pol III)プロモーターであり、任意にここで、pol IIIプロモーターは、H1プロモーターまたはU6プロモーターである;
または
(b)RNAポリメラーゼII(pol II)プロモーターであり、任意にここで、pol IIプロモーターは、ニワトリベータアクチン(CBA)プロモーターまたは内因性SOD1プロモーター(例として、配列番号16)である、前記単離された核酸。
【請求項5】
第2領域に作動可能に連結されている第2プロモーターを含む、請求項4に記載の単離された核酸であって、任意にここで、第2プロモーターは、pol IIプロモーターであり、任意にここで、pol IIプロモーターは、ニワトリベータアクチン(CBA)プロモーターまたは内因性SOD1プロモーターである、前記単離された核酸。
【請求項6】
エンハンサー配列をさらに含み、任意にここで、エンハンサーはサイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーである、請求項1~5のいずれか一項に記載の単離された核酸。
【請求項7】
第1領域が、第2領域の非翻訳領域(例として、UTR)内に配置され、任意にここで第1領域は、単離された核酸のイントロン内に配置されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の単離された核酸。
【請求項8】
第1領域が、第2領域に対して5'に配置されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の単離された核酸。
【請求項9】
少なくとも1のアデノ随伴ウイルス(AAV)逆位末端配列(ITR)をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の単離された核酸であって、任意にここで、前記単離された核酸は、全長ITRおよび変異型ITRを含み、ここで、ITRは、第1および第2領域に隣接する、前記単離された核酸。
【請求項10】
以下:
(i)請求項1~9のいずれか一項に記載の単離された核酸;および
(ii)AAVカプシドタンパク質
を含む、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
【請求項11】
請求項10に記載のrAAVであって、
(a)前記rAAVはCNS組織を標的とし、任意にここで、前記rAAVはニューロンを標的とする;および/または
(b)カプシドタンパク質は、AAV9カプシドタンパク質またはAAVrh.10カプシドタンパク質である、前記rAAV。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載の単離された核酸、または請求項10または11記載のrAAV、および薬学的に許容し得る賦形剤を含む、組成物。
【請求項13】
細胞においてSOD1発現を阻害するための方法における使用のための単離された核酸であって、前記方法は、請求項1~9のいずれか一項に記載の単離された核酸または請求項10または11に記載のrAAVを細胞へ送達することを含み、任意にここで、細胞は、変異型SOD1タンパク質をコードする核酸配列を含む、前記単離された核酸。
【請求項14】
ALSを有するか、または有すると疑われる対象を処置する方法における使用のための単離された核酸であって、前記方法は、有効量の請求項1~9のいずれか一項に記載の単離された核酸、または有効量の請求項10または11に記載のrAAVを対象へ投与することを含み、任意にここで、対象は哺乳動物であり、任意にここで、哺乳動物はヒトである、前記単離された核酸。
【請求項15】
対象が、変異型SOD1タンパク質をコードする核酸配列を含み、任意にここで、対象は哺乳動物であり、任意にここで、哺乳動物はヒトである、請求項14に記載の単離された核酸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、「SOD1二重発現ベクターおよびその使用」と題された2017年9月22日に出願された米国仮出願第62/561,932号の出願日の35U.S.C.119(e)下の利益を主張し、その全体の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、時として前頭側頭型認知症(FTD)と同時に進行する進行性の一般に致命的な運動ニューロン障害である。ALSは散発性(SALS)および家族性(FALS)の両方の形式で発生する。症例の約10%は常染色体優性形質として伝わる。FDAが承認したALSの治療は、生存率を約10%延長する化合物であるリルゾールである。
一般に、ALS細胞およびトランスジェニック動物におけるSOD1サイレンシングの利益を示す研究は、突然変異アレルのみのサイレンシングについて記載していない。むしろ、ほとんどの研究では、サイレンシングが変異型毒性SOD1タンパク質および野生型SOD1タンパク質の両方のレベルを低減する。しかしながら、変異型および野生型の両方のアレルからのSOD1の過剰なサイレンシングは、野生型SOD1タンパク質の活性または機能の低下の結果として、望ましくない生物学的結果に関連し得る。
【発明の概要】
【0003】
概要
本開示の側面は、細胞におけるサイトゾルCu/Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)発現を調節するための組成物および方法に関する。したがって、いくつかの態様において、ALSを処置するのに有用な方法が提供される。いくつかの態様において、本開示は、細胞または対象における内因性SOD1の発現を阻害するように操作された合成核酸(例として、合成マイクロRNA)を提供する。いくつかの態様において、本開示は、細胞または対象において外因性SOD1を発現するように操作された核酸を提供する。いくつかの態様において、かかる外因性SOD1は、内因性SOD1を標的とする合成核酸(例として、合成マイクロRNA)による標的化に耐性がある。したがって、いくつかの態様において、本開示は、(1)内因性サイトゾルCu/Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)活性の発現を抑制する合成マイクロRNAの送達を、(2)合成マイクロRNA(miRNA)に耐性がある外因性SOD1を発現する第2構築物に連結するための組成物および方法を提供する。
【0004】
本開示は、抗SOD1 miRNA、抗SOD1 miRNAに耐性があるように操作されたRNAから発現したSOD1のcDNAを連続して含めることにより、SOD1不均化による神経保護活性の喪失の課題に取り組む、本明細書に記載される組成物および方法に部分的に基づく。いくつかの態様において、本開示によって記載される構築物は、WTおよび変異型内因性SOD1アレルの両方の完全なサイレンシングを伴う場合でも、(例として、構築物が投与された細胞または対象における)正常なレベルのSOD1不均化活性を可能にする。
【0005】
したがって、いくつかの側面において、本開示は、以下を含む単離された核酸を提供する:対象の内因性mRNAにハイブリダイズし、前記内因性mRNAの発現を阻害する、前記内因性mRNAに相補的な充分な配列を有する核酸を含む1以上の第1miRNAをコードする第1領域、ここで、内因性mRNAはSOD1タンパク質をコードする;および、野生型SOD1タンパク質をコードする外因性mRNAをコードする第2領域、ここで、1以上の第1miRNAは、前記外因性mRNAにハイブリダイズし、前記外因性mRNAの発現を阻害するための相補的な充分な配列を有する核酸を含まない。
いくつかの態様において、外因性mRNAは、5’非翻訳領域(5’UTR)を欠く、3’非翻訳領域(3’UTR)を欠く、または5’UTRおよび3’UTRの両方を欠く。
いくつかの態様において、SOD1タンパク質をコードする外因性mRNAは、内因性mRNAに対する1以上のサイレント塩基対突然変異を有する。いくつかの態様において、外因性mRNAは、内因性mRNAと少なくとも95%同一である核酸配列を含む。
【0006】
いくつかの態様において、野生型SOD1は、配列番号7に記載の核酸配列によってコードされている(強化SOD1配列)。
いくつかの態様において、1以上の第1miRNAは、内因性mRNAをコードする核酸の非翻訳領域(例として、5’UTRまたは3’UTR)を標的とする。いくつかの態様において、1以上の第1miRNAは、内因性mRNAをコードする核酸のコード配列を標的とする。
いくつかの態様において、1以上の第1miRNAは、配列番号3に記載の配列によってコードされているRNAの5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20または21の連続したヌクレオチドを含む核酸にハイブリダイズする。いくつかの態様において、1以上の第1miRNAは、配列番号2に記載の配列によってコードされているRNAの5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20または21の連続したヌクレオチドを含む核酸にハイブリダイズする。
【0007】
いくつかの態様において、1以上の第1miRNAは、配列番号4に記載の配列の5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20または21の連続したヌクレオチドを含むか、またはこれによってコードされる。いくつかの態様において、1以上の第1miRNAは、配列番号3に記載の配列の5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20または21の連続したヌクレオチドを含むか、またはこれによってコードされる。いくつかの態様において、miRNAは、miR-155の隣接領域またはmiR-30の隣接領域をさらに含む。
いくつかの態様において、単離された核酸は第1プロモーターをさらに含む。いくつかの態様において、第1プロモーターは、本開示によって記載される単離された核酸の第1領域に作動可能に連結されている。
いくつかの態様において、第1プロモーターは、H1プロモーターまたはU6プロモーターなどのRNAポリメラーゼIII(pol III)プロモーターである。
【0008】
いくつかの態様において、第1プロモーターは、ニワトリベータアクチン(CBA)プロモーターまたは内因性SOD1プロモーター(例として、配列番号16)などのRNAポリメラーゼII(pol II)プロモーターである。
いくつかの態様において、単離された核酸は、第2プロモーターをさらに含む。いくつかの態様において、第2プロモーターは、本開示によって記載される単離された核酸の第2領域に作動可能に連結されている。
いくつかの態様において、第2プロモーターは、ニワトリベータアクチン(CBA)プロモーターまたは内因性SOD1プロモーターなどのpol IIプロモーターである。
いくつかの態様において、単離された核酸は、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーなどのエンハンサー配列をさらに含む。
【0009】
いくつかの態様において、第1領域は、第2領域の非翻訳領域(例として、UTR)内に配置される。いくつかの態様において、第1領域は、単離された核酸のイントロン内に配置される。いくつかの態様において、第1領域は、第2領域に対して5’に配置される。
いくつかの態様において、単離された核酸は、少なくとも1のアデノ随伴ウイルス(AAV)逆位末端配列(ITR)をさらに含む。いくつかの態様において、単離された核酸は、全長ITRおよび変異型ITRを含む。いくつかの態様において、ITRは、本開示によって記載される単離された核酸の第1および第2領域に隣接する。
いくつかの態様において、本開示は、本開示によって記載される単離された核酸およびAAVカプシドタンパク質を含む組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を提供する。
【0010】
いくつかの態様において、rAAVはCNS組織を標的とする。いくつかの態様において、rAAVはニューロンを標的とする。
いくつかの態様において、カプシドタンパク質は、AAV9カプシドタンパク質またはAAVrh.10カプシドタンパク質である。
いくつかの側面において、本開示は、本開示によって記載される単離された核酸または本開示によって記載されるrAAV、および薬学的に許容し得る賦形剤を含む組成物を提供する。
いくつかの側面において、本開示は、本開示によって記載される単離された核酸または本開示によって記載されるrAAVを細胞へ送達することを含む、細胞においてSOD1発現を阻害するための方法を提供する。
【0011】
いくつかの態様において、細胞は、変異型SOD1タンパク質をコードする核酸配列を含む。
いくつかの側面において、本開示は、有効量の本開示によって記載される単離された核酸、または有効量の本開示によって記載されるrAAVを対象へ投与することを含む、ALSを有するか、または有すると疑われる対象を処置するための方法を提供する。
いくつかの態様において、対象は、変異型SOD1タンパク質をコードする核酸配列を含む。いくつかの態様において、対象は、ヒト対象などの哺乳動物対象である。
図面の簡潔な説明
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、2シストロン性二重機能ベクターの構築物設計の概略図を示す。抗Sod1 miRNAはH1プロモーターによって発現され、miRNA耐性SOD1 cDNAはニワトリベータアクチンプロモーターおよびCMVエンハンサー(例として、CAGプロモーター)によって発現される。
【
図2】
図2は、単一プロモーター二重機能ベクターの構築物設計の概略図を示す。抗Sod1 miRNAおよびmiRNA耐性SOD1 cDNAは両方とも、ニワトリベータアクチンプロモーターおよびCMVエンハンサー(例として、CAGプロモーター)によって発現される。抗Sod1 miRはイントロンに位置する。
【
図3】
図3は、2シストロン性二重機能ベクターの構築物設計の概略図を示す。抗Sod1 miRNAはH1プロモーターによって発現され、miRNA耐性SOD1 cDNAはニワトリベータアクチンプロモーターおよびCMVエンハンサー(例として、CAGプロモーター)によって発現される。野生型SOD1に対するサイレント突然変異を含むSOD1 cDNAの遺伝子座が示されている(「miR-SOD耐性標的」)。
【0013】
【
図4】
図4は、単一プロモーター二重機能ベクターの構築物設計の概略図を示す。抗Sod1 miRNAおよびmiRNA耐性SOD1 cDNAは両方とも、ニワトリベータアクチンプロモーターおよびCMVエンハンサー(例として、CAGプロモーター)によって発現される。野生型SOD1に対するサイレント突然変異を含むSOD1 cDNAの遺伝子座が示されている(「miR-SOD耐性標的」)。抗Sod1 miRはイントロンに位置する。
【
図5】
図5は、2シストロン性二重機能自己相補的AAVベクターの構築物設計の概略図を示す。抗Sod1 miRNAはH1プロモーターによって発現され、miRNA耐性SOD1 cDNAはニワトリベータアクチンプロモーターおよびCMVエンハンサー(例として、CAGプロモーター)によって発現される。野生型SOD1に対するサイレント突然変異を含むSOD1 cDNAの遺伝子座が示されている(「miR-SOD耐性標的」)。変異型AAV逆位末端配列(ITR)は、構築物の5'末端に存在し、全長AAV ITRは3'末端に位置する。
【0014】
【
図6】
図6は、2シストロン性二重機能自己相補的AAVベクターの構築物設計の概略図を示す。抗Sod1 miRNAはH1プロモーターによって発現され、miRNA耐性SOD1 cDNAはニワトリベータアクチンプロモーターおよびCMVエンハンサー(例として、CAGプロモーター)によって発現される。野生型SOD1に対するサイレント突然変異を含むSOD1 cDNAの遺伝子座が示されている(「miR-SOD耐性標的」)。SOD1発現構築物は3’UTRを欠く。変異型AAV逆位末端配列(ITR)は、構築物の5'末端に存在し、全長AAV ITRは3'末端に位置する。
【
図7】
図7は、単一プロモーター二重機能AAVベクターの構築物設計の概略図を示す。抗Sod1 miRNAおよびmiRNA耐性SOD1 cDNAは両方とも、ニワトリベータアクチンプロモーターおよびCMVエンハンサー(例として、CAGプロモーター)によって発現される。野生型SOD1に対するサイレント突然変異を含むSOD1 cDNAの遺伝子座が示されている(「miR-SOD耐性標的」)。抗Sod1 miRはイントロンに位置する。AAV ITRは構築物の5'および3'末端に位置する。
【0015】
【
図8】
図8は、単一プロモーター二重機能AAVベクターの構築物設計の概略図を示す。抗Sod1 miRNAおよびmiRNA耐性SOD1 cDNAは両方とも、ニワトリベータアクチンプロモーターおよびCMVエンハンサー(例として、CAGプロモーター)によって発現される。野生型SOD1に対するサイレント突然変異を含むSOD1 cDNAの遺伝子座が示されている(「miR-SOD耐性標的」)。SOD1発現構築物は3’UTRを欠く。抗Sod1 miRはイントロンに位置する。AAV ITRは構築物の5'および3'末端に位置する。
【
図9】
図9は、野生型SOD1コード配列(配列番号1)の「強化」SOD1コード配列(配列番号7)の例との核酸配列アラインメントを示す。
【0016】
詳細な記載
いくつかの側面において、本開示は、細胞(例として、対象の細胞)における筋萎縮性側索硬化症(ALS)に関連する遺伝子の発現および/または活性を調節するための組成物および方法に関する。例えば、いくつかの側面において、本開示は、細胞または対象において、(i)ALSに関連する遺伝子を阻害する1以上の合成核酸(例として、miRNA、siRNA、shRNAなどの阻害性RNA)および(ii)合成核酸に耐性があるタンパク質をコードするALSに関連する外因性遺伝子を同時に発現する組成物(例として、二重機能ベクター)を提供する。ALSに関連する遺伝子の例は、C9Orf72、SOD1、FUS、TARDBP、SQSTM1、VCP、OPTN、PFN1、UBQLN2、DCTN1、ALS2、CHMP2B、FIG4、HNRNAP1、ATXN2、ANG、SPG11、VAPB、NEFH、CHCHD10、ERBB4、PRPH、MATR3、SETX、SIGMAR1、TBK1、TRPM7、TUBA4A、ANXA11、NEK1、SARM1、UN13A、MOBP、SCFD1、C21Orf2、および他の記載されるもの(例えば、Renton et al. (2014) Nature Neuroscience 17(1):17-23)を含むが、これらに限定されない。いくつかの態様において、ALSに関連する遺伝子は、ALSに関連するドミナントネガティブ遺伝子(例として、ALSに関連するタンパク質などのドミナントネガティブ遺伝子産物をコードする遺伝子)である。
【0017】
本開示の側面は、細胞におけるサイトゾルCu/Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)発現を調節するための組成物および方法に関する。したがって、いくつかの態様において、ALSを処置するのに有用な方法が提供される。いくつかの態様において、本開示は、細胞または対象における内因性SOD1の発現を阻害するように操作された合成核酸(例として、合成マイクロRNA)を提供する。いくつかの態様において、本開示は、細胞または対象において外因性SOD1を発現するように操作された核酸を提供する。いくつかの態様において、かかる外因性SOD1は、内因性SOD1を標的とする合成核酸(例として、合成マイクロRNA)による標的化に耐性がある。
【0018】
本開示の側面は、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを使用してALSを処置するための改善された遺伝子治療組成物および関連する方法に関する。特に、ALSに関連するSOD1などの遺伝子を抑制する阻害性核酸を発現するように操作された核酸を内包するrAAVが提供される。いくつかの態様において、本開示は、組み換えAAV(例として、rAAV9、rAAV.Rh10など)を利用して、マイクロRNAをCNSに送達し、それにより、SOD1などのALS遺伝子を抑制する。いくつかの側面において、本開示は、野生型SOD1を発現しながら、対象における内因性SOD1発現(例として、野生型SOD1および変異型SOD1発現)をノックダウンすることができる二重機能ベクターの発見に関する。したがって、本開示によって記載される構築物は、いくつかの態様において、WTおよび変異型の内因性SOD1アレルの両方の完全なサイレンシングを伴う場合でさえ、(例として、構築物が投与された細胞または対象における)正常なレベルのSOD1不均化活性を可能にする。
【0019】
いくつかの側面において、本開示は、以下を含む単離された核酸を提供する:対象の内因性mRNAにハイブリダイズし、前記内因性mRNAの発現を阻害する、前記内因性mRNAに相補的な充分な配列を有する核酸を含む1以上の第1miRNAをコードする第1領域、ここで、内因性mRNAはSOD1タンパク質をコードする;および、野生型SOD1タンパク質をコードする外因性mRNAをコードする第2領域、ここで、1以上の第1miRNAは、前記外因性mRNAにハイブリダイズし、前記外因性mRNAの発現を阻害するための相補的な充分な配列を有する核酸を含まない。
【0020】
SOD1
本明細書中で使用されるとき、「SOD1」は、SOD1遺伝子によってヒトにおいてコードされる酵素であるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)を指す。典型的には、SOD1はスーパーオキシドの過酸化水素および二酸素への不均一化を触媒し、体内のフリーラジカルを除去するように機能する。「野生型SOD1」は、細胞または対象において機能毒性の獲得を引き起こさない(例として、ALSの発症をもたらさない、またはもたらさないであろう)SOD1遺伝子によってコードされる遺伝子産物(例として、タンパク質)を指す。いくつかの態様において、野生型SOD1遺伝子は、NCBIアクセッション番号NM_000454.4に記載の配列を有するmRNA転写産物(例として、成熟mRNA転写産物)をコードする。
「変異型SOD1」は、機能の毒性獲得などの変化した機能を有する遺伝子産物(例として、タンパク質)をもたらす1以上の突然変異(例として、ミスセンス突然変異、ナンセンス突然変異、フレームシフト突然変異、挿入、欠失など)を含む遺伝子産物(例として、タンパク質)を指す。一般に、変異型SOD1遺伝子産物をコードする核酸は、野生型SOD1遺伝子産物をコードする核酸に対するサイレント突然変異を含まない。
【0021】
21番染色体上に位置するスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)をコードする遺伝子の突然変異は、家族性筋萎縮性側索硬化症につながっている。スーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)は、SOD1遺伝子によってコードされる酵素である。SOD1は銅イオンおよび亜鉛イオンに結合し、体内のフリースーパーオキシドラジカルを破壊する原因となる3つのスーパーオキシドジスムターゼの1つである。コード化されたアイソザイムは、可溶性の細胞質およびミトコンドリアの膜間腔タンパク質であり、ホモダイマーとして機能して、天然に存在するが有害なスーパーオキシドラジカルを分子状酸素および過酸化水素に変換する。ALSを生じさせ、ALSを引き起こす頻繁なSOD1突然変異は、A4V、H46RおよびG93Aを含む。追加のSOD1突然変異は、例えばBanci et al. (2008) PLoS ONE 3(2): e1677によって記載されている。
【0022】
本開示は、非アレル特異的な様式で内因性SOD1発現を同時に阻害し(例として、内因性野生型および内因性変異型SOD1を抑制し)、外因性SOD1タンパク質(例として、外因性野生型SOD1または外因性強化SOD1タンパク質)を発現する核酸構築物が、WTおよび変異型の内因性SOD1アレルの両方を完全にサイレンシングしても、SOD1不均化活性の正常なレベルを可能にする発見に部分的に基づく。本明細書に使用されるとき、「内因性」は、細胞の天然のDNAによってコードされる遺伝子(例として、SOD1遺伝子)または遺伝子産物(例として、SOD1タンパク質)を指す。「外因性」は、(例として、非天然に細胞に導入された)細胞の天然のDNA以外の起源に由来する遺伝子(例として、SOD1 cDNAなどのSOD1タンパク質をコードする核酸)または遺伝子産物(例として、強化SOD1タンパク質などのSOD1タンパク質)を指す。
【0023】
いくつかの態様において、外因性SOD1核酸配列は、強化SOD1タンパク質をコードする。本明細書に使用されるとき、「強化SOD1」は、内因性野生型SOD1タンパク質と同じタンパク質をコードするが、異なる一次核酸(例として、DNA)配列を有するように、1以上のサイレント突然変異を含むSOD1タンパク質をコードする核酸配列を指す。いずれの具体的な理論によっても拘束されることは望まないが、「強化SOD1」mRNA転写産物は、内因性SOD1 RNA転写産物(例として、野生型SOD1および変異型SOD1転写産物)を標的とするある阻害性RNA(例として、miRNA)によって阻害されない。
【0024】
強化SOD1核酸配列のサイレント突然変異の数は変わり得る。いくつかの態様において、強化SOD1をコードする核酸配列は、野生型SOD1核酸配列(例として、配列番号1;SOD1コード配列)に対する約1と約50との間(例として、両端を含む1と50との間の任意の整数)のサイレント突然変異を含む。いくつかの態様において、強化SOD1をコードする核酸配列は、野生型SOD1核酸配列(例として、配列番号1;SOD1コード配列)に対する少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、または少なくとも15のサイレント突然変異を含む。いくつかの態様において、強化SOD1をコードする核酸配列の1以上のサイレント突然変異は、阻害性核酸によって標的化されるシード領域に位置する。いくつかの態様において、シード領域は、約3~約25の連続ヌクレオチド長の範囲に及ぶ(例として、両端を含む3と25との間の任意の整数)。
【0025】
外因性(例として、強化)SOD1タンパク質をコードする核酸と内因性野生型SOD1タンパク質をコードする核酸との間の核酸(例として、DNA)配列同一性は変わり得る。いくつかの態様において、外因性SOD1タンパク質をコードする核酸配列は、内因性野生型SOD1核酸配列(例として、配列番号1;SOD1 DNAコード配列)と約99.9%と約85%との間で同一である。いくつかの態様において、外因性SOD1タンパク質をコードする核酸配列は、内因性野生型SOD1核酸配列(例として、配列番号1;SOD1 DNAコード配列)と約99.9%、約99%、約98%、約97%、約96%、約95%、約94%、約93%、約92%、約91%、約90%、約89%、約88%、約87%、約86%、または約85%同一である。いくつかの態様において、核酸配列は、内因性野生型SOD1アミノ酸配列(例として、配列番号17)と約99.9%と約90%との間(例として、約99.9%、約99%、約98%、約97%、約96%、約95%、約94%、約93%、約92%、約91%、または約90%)で同一であるアミノ酸配列を有する外因性SOD1タンパク質をコードする。
【0026】
阻害性核酸
本開示の側面は、SOD1(例として、内因性SOD1)を標的とする阻害性核酸に関する。いくつかの態様において、阻害性核酸は、RNA、pre-mRNA、mRNAなどの標的核酸の少なくとも一部にハイブリダイズし、その機能または発現を阻害する核酸である。いくつかの態様において、阻害性核酸は一本鎖または二本鎖である。いくつかの態様において、阻害性核酸は、配列番号4:CTGCATGGATTCCATGTTCAT(miR-SOD-127)に記載の配列を含むか、またはこれによってコードされる。いくつかの態様において、阻害性核酸は、配列番号3:CTGCATGGATTCCATGTTCAT(miR-SOD-127)に記載の配列を含むか、またはこれによってコードされる。いくつかの態様において、阻害性核酸は配列番号3および配列番号4を含む成熟したmiRNAである。いくつかの態様において、配列番号3は、成熟したmiRNAのガイド鎖であり、配列番号4は、成熟したmiRNAのパッセンジャー鎖(例として、miRNA*)である。
【0027】
いくつかの態様において、阻害性核酸は、5~30塩基長(例として、10~30、15~25、19~22)である。阻害性核酸は、10~50、または5~50塩基長でもあり得る。例えば、阻害性核酸は、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50塩基長のいずれか1つであり得る。いくつかの態様において、阻害性核酸は、例として、標的核酸の少なくとも5、10、15、20、25または30塩基、または30または40塩基までと少なくとも80%または90%相補的な塩基の配列を含むか、またはこれからなるか、または標的核酸の10、15、20、25または30塩基にわたって6までのミスマッチを有する塩基の配列を含む。
【0028】
いくつかの態様において、本明細書で提供される配列内の任意の1以上のチミジン(T)ヌクレオチドまたはウリジン(U)ヌクレオチドは、アデノシンヌクレオチドとの塩基対合(例として、ワトソンクリック塩基対を介する)に好適な任意の他のヌクレオチドで置き換えられ得る。例えば、TはUで置き換えられ得、UはTで置き換えられ得る。いくつかの態様において、中枢神経系の細胞における遺伝子の発現を阻害する阻害性核酸が提供される。いくつかの態様において、細胞は、ニューロン、星状細胞、または乏突起膠細胞である。
【0029】
いくつかの態様において、阻害性核酸はmiRNAである。「マイクロRNA」または「miRNA」は、転写または翻訳後の遺伝子サイレンシングを媒介することができる小さな非コードRNA分子である。典型的には、miRNAはヘアピンまたはステムループ(例として、自己相補性、一本鎖バックボーンを有する)二重鎖構造として転写され、一次miRNA(pri-miRNA)と称され、(例として、Drosha、DGCR8、Pashaなどによって)pre-miRNAへと酵素的に処理される。pri-miRNAの長さは変わり得る。いくつかの態様において、pri-miRNAは、約100~約5000塩基対(例として、約100、約200、約500、約1000、約1200、約1500、約1800、または約2000塩基対)長の範囲に及ぶ。いくつかの態様において、pri-miRNAは、200塩基対長よりも大きい(例として、2500、5000、7000、または9000以上の塩基対長)。
【0030】
ヘアピンまたはステムループ二重鎖構造によっても特徴付けられるpre-miRNAもまた長さが変わり得る。いくつかの態様において、pre-miRNAは、約40塩基対長~約500塩基対長のサイズの範囲に及ぶ。いくつかの態様において、pre-miRNAは、約50~100塩基対長のサイズの範囲に及ぶ。いくつかの態様において、pre-miRNAは、約50~約90塩基対長(例として、約50、約52、約54、約56、約58、約60、約62、約64、約66、約68、約70、約72、約74、約76、約78、約80、約82、約84、約86、約88、または約90塩基対長)のサイズの範囲に及ぶ。
【0031】
一般に、pre-miRNAは細胞質にエクスポートされ、ダイサーによって酵素処理されて最初に不完全なmiRNA/miRNA*二重鎖を生成し、次いで一本鎖の成熟miRNA分子を生成し、続いてRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)にロードされる。典型的には、成熟miRNA分子は約19~約30塩基対長のサイズの範囲に及ぶ。いくつかの態様において、成熟miRNA分子は、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、または30塩基対長である。いくつかの態様において、本開示の単離された核酸は、配列番号4(miR-SOD-127)および/または配列番号3に記載の配列を含むか、またはこれによってコードされる、pri-miRNA、pre-miRNA、または成熟miRNAをコードする配列を含む。
【0032】
いくつかの側面において、本開示は、1以上の人工miRNAをコードする単離された核酸およびベクター(例として、rAAVベクター)を提供する。本明細書に使用されるとき、「人工miRNA」または「amiRNA」は、内因性pri-miRNAまたはpre-miRNA(例として、機能的な成熟miRNAを生成できる前駆体miRNAであるmiRNAバックボーン)を指し、miRNAおよびmiRNA*(例として、miRNA二重鎖のパッセンジャー鎖)配列は、例えばEamens et al. (2014), Methods Mol. Biol. 1062:211-224に記載されているように、標的とされた遺伝子の高度に効率的なRNAサイレンシングを指示する対応するamiRNA/amiRNA*配列に置き換えられている。例えば、いくつかの態様において、人工miRNAは、成熟SOD1特異的miRNA(例として、配列番号3および/または4;miR-SOD-127)をコードする配列が内因性miR-155成熟miRNAをコードする配列の代わりに挿入されているmiR-155 pri-miRNAバックボーンを含む。いくつかの態様において、本開示によって記載されるmiRNA(例として、人工miRNA)は、miR-155バックボーン配列、miR-30バックボーン配列、mir-64バックボーン配列、miR-106バックボーン、miR-21バックボーン、miR-1バックボーン、miR-451バックボーン、miR-126バックボーン、またはmiR-122バックボーン配列を含む。いくつかの態様において、阻害性核酸は、miR-155またはmiR-30の隣接領域を有する標的化配列を含むマイクロRNAである。
【0033】
いくつかの態様において、単離された核酸またはベクター(例として、rAAVベクター)は、1より多く(例として、2、3、4、5、または10以上などの複数)のmiRNAをコードする核酸配列を含むことを理解されたい。いくつかの態様において、1より多くのmiRNAの各々は、同じ標的遺伝子(例として、各miRNAがSOD1遺伝子を標的とする3の固有のmiRNAをコードする単離された核酸)を標的とする(例として、ハイブリダイズまたは特異的に結合する)。いくつかの態様において、1より多くのmiRNAの各々は、異なる標的遺伝子を標的とする(例として、ハイブリダイズまたは特異的に結合する)。
【0034】
単離された核酸
いくつかの側面において、本開示は、内因性SOD1の発現を阻害するための合成マイクロRNAをコードする第1発現構築物および合成マイクロRNA(miRNA)に耐性がある外因性SOD1を発現する第2発現構築物を含む単離された核酸に関する。
【0035】
「核酸」配列は、DNA配列またはRNA配列を指す。いくつかの態様において、本開示のタンパク質および核酸は、単離されたものである。本明細書に使用されるとき、用語「単離された(isolated)」は、人工的に産生されたことを意味する。核酸に関し本明細書に使用されるとき、用語「単離された」は、以下を意味する:(i)例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、in vitroで増幅された;(ii)クローニングによって、組み換えで産生された;(iii)切断およびゲル分離などによって(as by cleavage and gel separation)、精製された;または(iv)例えば化学合成によって、合成された。単離された核酸は、当該技術分野において周知の組み換えDNA技法による容易な取扱が可能なものである。よって、5'および3'制限部位が既知であるか、またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマー配列が開示されているベクターに含まれるヌクレオチド配列は、単離されたとものと考えられるが、その天然の状態でその自然宿主において存在する核酸配列はそうではない。単離された核酸は実質的に精製されたものであり得るが、そうである必要はない。例えば、クローニングまたは発現ベクター内で単離された核酸は、それが存在する細胞においてごくわずかなパーセンテージの材料しか含まないものであり得るという点で純粋ではない。しかしながら、かかる核酸は、当業者に知られている標準的な技法によって容易に操作できるため、この用語が本明細書で使用されるように、単離される。タンパク質またはペプチドに対して本明細書に使用されるとき、「単離された」という用語は、その自然環境から単離された、または人工的に生成された(例として、化学合成、組み換えDNA技術などにより)タンパク質またはペプチドを指す。
【0036】
本開示の単離された核酸は、典型的には、対象の内因性mRNA(例として、内因性野生型SOD1および/または内因性変異型SOD1をコードするmRNA)を標的とする1以上の阻害性RNAをコードする1以上の領域を含む。単離された核酸はまた、典型的には、1以上の外因性mRNAをコードする1以上の領域を含む。1以上の外因性mRNAによってコードされるタンパク質(単数または複数)は、1以上の内因性mRNAによってコードされるタンパク質(単数または複数)と配列組成が異なっていても異なっていなくてもよい。例えば、1以上の内因性mRNAは、対象が特定の突然変異についてヘテロ接合性であり、外因性mRNAが同じ特定のタンパク質の野生型mRNAをコードし得る場合など、特定のタンパク質の野生型および変異型をコードし得る。この場合において、典型的には、外因性mRNAおよび野生型タンパク質をコードする内因性mRNAの配列は、外因性mRNAが1以上の阻害性RNAによって標的にされないように充分に異なる。これは、例えば、内因性mRNAと同じタンパク質をコードするが異なる核酸配列を有するように、外因性mRNAに1以上のサイレント突然変異を導入することによって達成され得る。この場合、外来性mRNAは「強化」されたものと称され得る。代わりに、阻害性RNA(例として、miRNA)は、内因性mRNAの5'および/または3'非翻訳領域を標的とし得る。これらの5’および/または3’領域は、次いで外因性mRNAが1以上の阻害性RNAによって標的にされないように、外因性mRNAにおいて除去または置換され得る。
【0037】
別の例において、対象が特定の突然変異についてホモ接合性である場合など、1以上の内因性mRNAは特定のタンパク質の変異型バージョンのみをコードし得、外因性mRNAは同じ特定のタンパク質の野生型mRNAをコードし得る。この場合において、外因性mRNAの配列は上記のように強化され得るか、または1以上の阻害性RNAは外因性mRNAからの変異した内因性mRNAを区別するように設計され得る。
いくつかの態様において、単離された核酸は、典型的には、対象の内因性mRNAにハイブリダイズし、前記内因性mRNA(例として、内因性SOD1 mRNA)の発現を阻害する、前記内因性mRNAに相補的な充分な配列を有する核酸を含む1以上の第1阻害性RNA(例として、miRNA)をコードする第1領域を含む。単離された核酸はまた、典型的には、外因性mRNA(例として、外因性SOD1)をコードする第2領域を含み、外因性mRNAによってコードされるタンパク質は、第1タンパク質と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、1以上の第1阻害性RNAは、前記外因性mRNAにハイブリダイズし、前記外因性mRNAの発現を阻害するための相補的な充分な配列を有する核酸を含まない。例えば、第1領域は、任意の好適な場所に配置され得る。第1領域は、第2領域の非翻訳部分内に配置され得る。第1領域は、例えば、イントロン、5’または3’非翻訳領域などを含む、核酸の任意の非翻訳部分に配置され得る。
【0038】
阻害性核酸を含む領域(例として、第1領域)は、単離された核酸の任意の好適な場所に配置され得る。前記領域は、例えば、イントロン、5'または3'非翻訳領域などを含む、核酸の任意の非翻訳部分に配置され得る。
いくつかのケースにおいて、タンパク質をコードする核酸配列(外因性SOD1タンパク質コード配列をコードする第2領域など)の第1コドンの上流に領域(例として、第1領域)を配置することが所望され得る。例えば、前記領域は、タンパク質コード配列の第1コドンと第1コドンの上流の2000ヌクレオチドとの間に配置され得る。前記領域は、タンパク質コード配列の第1コドンと第1コドンの上流の1000ヌクレオチドとの間に配置され得る。前記領域は、タンパク質コード配列の第1コドンと第1コドンの上流の500ヌクレオチドとの間に配置され得る。前記領域は、タンパク質コード配列の第1コドンと第1コドンの上流の250ヌクレオチドとの間に配置され得る。前記領域は、タンパク質コード配列の第1コドンと第1コドンの上流の150ヌクレオチドとの間に配置され得る。
【0039】
いくつかのケースにおいて、外因性SOD1タンパク質をコードする領域のポリAテールの上流に領域(例として、第1領域などの阻害性核酸をコードする領域)を配置することが所望され得る。例えば、前記領域は、ポリAテールの第1塩基と第1塩基の上流の2000ヌクレオチドとの間に配置され得る。前記領域は、ポリAテールの第1塩基と第1塩基の上流の1000ヌクレオチドとの間に配置され得る。前記領域は、ポリAテールの第1塩基と第1塩基の上流の500ヌクレオチドとの間に配置され得る。前記領域は、ポリAテールの第1塩基と第1塩基の上流の250ヌクレオチドとの間に配置され得る。前記領域は、ポリAテールの第1塩基と第1塩基の上流の150ヌクレオチドとの間に配置され得る。前記領域は、ポリAテールの第1塩基と第1塩基の上流の100ヌクレオチドとの間に配置され得る。前記領域は、ポリAテールの第1塩基と第1塩基の上流の50ヌクレオチドとの間に配置され得る。前記領域は、ポリAテールの第1塩基と第1塩基の上流の20ヌクレオチドとの間に配置され得る。いくつかの態様において、前記領域は、プロモーター配列の最後のヌクレオチド塩基とポリAテール配列の第1ヌクレオチド塩基との間に配置される。
【0040】
いくつかのケースにおいて、阻害性核酸をコードする領域(例として、第1領域)は、外因性SOD1タンパク質をコードする領域のポリAテールの最後の塩基の下流に配置され得る。前記領域は、ポリAテールの最後の塩基と最後の塩基の下流の2000ヌクレオチドの位置との間にあり得る。前記領域は、ポリAテールの最後の塩基と最後の塩基の下流の1000ヌクレオチドの位置との間にあり得る。前記領域は、ポリAテールの最後の塩基と最後の塩基の下流の500ヌクレオチドの位置との間にあり得る。前記領域は、ポリAテールの最後の塩基と最後の塩基の下流の250ヌクレオチドの位置との間にあり得る。前記領域は、ポリAテールの最後の塩基と最後の塩基の下流の150ヌクレオチドの位置との間にあり得る。
単離された核酸が1より多くのmiRNAをコードする場合において、各miRNAは、構築物内の任意の好適な場所に配置され得ることを理解されたい。例えば、第1miRNAをコードする核酸は外因性SOD1タンパク質をコードする領域のイントロンに配置され得、第2miRNAをコードする核酸配列は別の領域(例として、タンパク質コード配列と導入遺伝子のポリAテールの第1塩基との間)に配置され得る。
【0041】
いくつかの態様において、単離された核酸は、1以上の発現制御配列(例として、プロモーターなど)をコードする核酸配列をさらに含む。発現制御配列は、適切な転写開始、終結、プロモーター、およびエンハンサー配列;スプライシングおよびポリアデニル化(ポリA)シグナルなどの、効率的なRNAプロセシングシグナル;細胞質のmRNAを安定化する配列;翻訳効率を増強する配列(すなわち、コザックコンセンサス配列);タンパク質安定性を増強する配列;および、所望の場合、コードされた産物の分泌を増強する配列を包含する。天然の、構成的な、誘導性の、および/または組織特異的のプロモーターを包含する、大多数の発現制御配列は、当該技術分野において知られており、かつ利用されてもよい。
「プロモーター」は、遺伝子の特異的転写を開始するために必要な、細胞の合成機械、または導入された合成機械によって認識されるDNA配列を指す。「作動可能に配置された」、「制御下」または「転写制御下」という句は、プロモーターが核酸に対して正しい場所および配向にあり、RNAポリメラーゼの開始および遺伝子の発現を制御することを意味する。
【0042】
タンパク質をコードする核酸について、ポリアデニル化配列は一般に、導入遺伝子配列の後、かつ3’AAV ITR配列の前に挿入される。本開示において有用なrAAV構築物はまた、プロモーター/エンハンサー配列と導入遺伝子との間に望ましく位置付けられるイントロンを含有していてもよい。あり得るイントロン配列の1つはSV-40に由来し、SV-40 Tイントロン配列と称される。使用されてもよい別のベクター要素は、内部リボソーム侵入部位(IRES)である。IRES配列は、単一の遺伝子転写産物からの1より多くのポリペプチドを産生するために使用される。IRES配列は、1より多くのポリペプチド鎖を含有するタンパク質を産生するために使用されるであろう。これらのおよび他の共通のベクター要素の選択は従来のものであり、多くのかかる配列は入手可能である[例として、Sambrookら、および例えばその3.18 3.26頁および16.17 16.27頁に引用された参考文献、およびAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York、1989を参照]。いくつかの態様において、口蹄疫ウイルス2A配列は、ポリタンパク質に包含される;これは、ポリタンパク質の切断を媒介することが示された小ペプチド(およそ18アミノ酸長)である(Ryan, M D et al., EMBO, 1994; 4: 928-933;Mattion, N M et al., J Virology, November 1996; p. 8124-8127;Furler, S et al., Gene Therapy, 2001; 8: 864-873;およびHalpin, C et al., The Plant Journal, 1999; 4: 453-459)。2A配列の切断活性はこれまでに、プラスミドおよび遺伝子治療ベクター(AAVおよびレトロウイルス)を包含する人工系において実証されていた(Ryan, M D et al., EMBO, 1994; 4: 928-933;Mattion, N M et al., J Virology, November 1996; p. 8124-8127;Furler, S et al., Gene Therapy, 2001; 8: 864-873;およびHalpin, C et al., The Plant Journal, 1999; 4: 453-459;de Felipe, P et al., Gene Therapy, 1999; 6: 198-208;de Felipe, P et al., Human Gene Therapy, 2000; 11: 1921-1931.;およびKlump, H et al., Gene Therapy, 2001; 8: 811-817)。
【0043】
構成的プロモーターの例は、限定せずに、レトロウイルスであるラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター(任意にRSVエンハンサーをもつ)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(任意にCMVエンハンサーをもつ)[例として、Boshart et al, Cell, 41:521-530 (1985)を参照]、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、β-アクチンプロモーター(例として、CBAプロモーター)、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、およびEF1αプロモーター[Invitrogen]を包含する。いくつかの態様において、プロモーターは、増強されたニワトリβ-アクチンプロモーター(CAGプロモーター)である。いくつかの態様において、プロモーターは、H1プロモーターまたはU6プロモーターである。
【0044】
誘導プロモーターは、遺伝子発現の調節を可能にさせ、外因的に供給される(exogenously supplied)化合物、温度などの環境因子、もしくは特定の生理学的状態の存在、例として急性期、細胞の具体的な分化状態によって、または複製細胞のみにおいて、調節され得る。誘導プロモーターおよび誘導系は、限定せずに、Invitrogen、Clontech、およびAriadを包含する、様々な商業的供給源から入手可能である。多くの他の系も記載され、当業者によって容易に選択され得る。外因的に供給されるプロモーターによって調節される誘導プロモーターの例は、亜鉛誘導性ヒツジメタロチオネイン(MT)プロモーター、デキサメタゾン(Dex)誘導性マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、T7ポリメラーゼプロモーター系(WO 98/10088);エクジソン昆虫プロモーター(No et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93:3346-3351 (1996))、テトラサイクリン抑制系(Gossen et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:5547-5551 (1992))、テトラサイクリン誘導系(Gossen et al, Science, 268:1766-1769 (1995)、またHarvey et al, Curr. Opin. Chem. Biol., 2:512-518 (1998)も参照)、RU486誘導系(Wang et al, Nat. Biotech., 15:239-243 (1997)およびWang et al, Gene Ther., 4:432-441 (1997))およびラパマイシン誘導系(Magari et al, J. Clin. Invest., 100:2865-2872 (1997))を包含する。これに関連して有用であり得る誘導プロモーターの更なる他の型は、特定の生理学的状態、例として温度、急性期、細胞の具体的な分化状態によって、または複製細胞のみにおいて、調節されるものである。
【0045】
別の態様において、SOD1(例として、配列番号16)のための天然のプロモーターが使用されるであろう。導入遺伝子の発現が天然の発現を模倣すべきであることが所望されるとき、天然のプロモーターが好ましいこともある。導入遺伝子の発現が、時間的にもしくは発生的に、または組織特異的な様式で、または特定の転写刺激に応答して、調節されなければならないとき、天然のプロモーターが使用されてもよい。さらなる態様において、エンハンサー要素、ポリアデニル化部位、またはコザックコンセンサス配列などの、他の天然の発現制御要素はまた、天然の発現を模倣するために使用されてもよい。
【0046】
いくつかの態様において、調節配列は、組織特異的な遺伝子発現能を授ける。いくつかのケースにおいて、組織特異的な調節配列は、組織特異的な様式で転写を誘導する組織特異的な転写因子に結合する。かかる組織特異的な調節配列(例として、プロモーター、エンハンサーなど)は、当該技術分野において周知である。例示の組織特異的な調節配列は、これらに限定されないが、以下の組織特異的なプロモーター:肝臓特異的なチオレキシン結合グロブリン(TBG)プロモーター、インスリンプロモーター、グルカゴンプロモーター、ソマトスタチンプロモーター、膵臓ポリペプチド(PPY)プロモーター、シナプシン-1(Syn)プロモーター、クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター、哺乳動物デスミン(DES)プロモーター、α-ミオシン重鎖(a-MHC)プロモーター、または心臓トロポニンT(cTnT)プロモーターを包含する。他の例示のプロモーターは、ベータ-アクチンプロモーター、B型肝炎ウイルスコアプロモーター、Sandig et al., Gene Ther., 3:1002-9 (1996);アルファ-フェトプロテイン(AFP)プロモーター、Arbuthnot et al., Hum.Gene Ther., 7:1503-14 (1996))、骨オステオカルシンプロモーター(Stein et al., Mol. Biol. Rep., 24:185-96 (1997));骨シアロタンパク質プロモーター(Chen et al., J. Bone Miner. Res., 11:654-64 (1996))、CD2プロモーター(Hansal et al., J. Immunol., 161:1063-8 (1998));免疫グロブリン重鎖プロモーター;T細胞受容体α鎖プロモーター、ニューロンの、たとえばニューロン特異的な、エノラーゼ(NSE)プロモーター(Andersen et al., Cell. Mol. Neurobiol., 13:503-15 (1993))、ニューロフィラメント軽鎖遺伝子プロモーター(Piccioli et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:5611-5 (1991))、およびニューロン特異的なvgf遺伝子プロモーター(Piccioli et al., Neuron, 15:373-84 (1995))を包含し、数ある中でも当業者にとって明らかであろうものも包含する。
【0047】
本開示の態様は、1より多くのプロモーター(例として、2、3、4、または5以上のプロモーター)を含む単離された核酸に関する。例えば、阻害性RNA(例として、miRNA)をコードする第1領域および外因性SOD1タンパク質をコードする第2領域を含む導入遺伝子を有する構築物の文脈において、阻害性RNAコード領域の発現を第1プロモーター配列(例として、阻害性核酸コード領域に作動可能に連結された第1プロモーター配列)を使用して駆動すること、および、外因性SOD1コード領域の発現を第2プロモーター配列(例として、外因性SOD1コード領域に作動可能に連結された第2プロモーター配列)で駆動することが所望され得る。一般に、第1プロモーター配列および第2プロモーター配列は、同じプロモーター配列または異なるプロモーター配列であり得る。いくつかの態様において、第1プロモーター配列(例として、タンパク質コード領域の発現を駆動するプロモーター)は、RNAポリメラーゼIII(pol III)プロモーター配列である。pol IIIプロモーター配列の非限定例は、U6およびH1プロモーター配列を含む。いくつかの態様において、第2プロモーター配列(例として、外因性SOD1 RNAの発現を駆動するプロモーター配列)は、RNAポリメラーゼII(pol II)プロモーター配列である。pol IIプロモーター配列の非限定例は、ニワトリベータアクチンプロモーター(CBA)、T7、T3、SP6、RSV、およびサイトメガロウイルスプロモーター配列を含む。いくつかの態様において、pol IIIプロモーター配列は、阻害性RNA(例として、miRNA)コード領域の発現を駆動する。いくつかの態様において、pol IIプロモーター配列は、タンパク質コード領域の発現を駆動する。
以下にさらに記載されるように、単離された核酸は、AAV1、AAV2、AAV5、AAV6、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11およびそのバリアントからなる群から選択されるAAV血清型の逆位末端配列(ITR)を含み得る。
【0048】
マルチシストロン性構築物
本発明のいくつかの側面は、様々な立体配置の2以上の発現カセットを含むマルチシストロン性(例として、2シストロン性)発現構築物を提供する。
異なる態様において、発現カセットが異なる方法で配置されるマルチシストロン性(例として、2シストロン性)発現構築物が提供される。例えば、いくつかの態様において、第1発現カセットが第2発現カセットに隣接して配置されるマルチシストロン性発現構築物が提供される。いくつかの態様において、第1発現カセットがイントロンを含み、第2発現カセットが第1発現カセットのイントロン内に配置されているマルチシストロン性発現構築物が提供される。いくつかの態様において、第1発現カセットのイントロン内に配置された第2発現カセットは、プロモーターおよびプロモーターに作動的に連結された遺伝子産物をコードする核酸配列を含む。
【0049】
異なる態様において、発現カセットが異なる方法で配向されるマルチシストロン性(例として、2シストロン性)発現構築物が提供される。例えば、いくつかの態様において、第1発現カセットが第2発現カセットと同じ配向であるマルチシストロン性発現構築物が提供される。いくつかの態様において、反対の配向の第1および第2発現カセットを含むマルチシストロン性発現構築物が提供される。
発現カセットに関連して本明細書に使用される「配向」という用語は、所与のカセットまたは構造の方向的な特徴を指す。いくつかの態様において、発現カセットは、コード核酸配列の5'プロモーターを内包し、コード核酸配列の転写は、センス鎖の5'末端から3'末端へと進み、これを方向性カセットとする(例として、5'-プロモーター/(イントロン)/コード配列-3')。この意味で事実上すべての発現カセットは方向性があるため、当業者は、第2核酸構造、例えば第2発現カセット、ウイルスゲノムに関連して、または、カセットがAAV構造に含まれている場合にはAAV ITRに関連して、所与の発現カセットの配向を容易に決定し得る。
【0050】
例えば、所与の核酸構築物が、立体配置5’-プロモーター1/コード配列1---プロモーター2/コード配列2-3’において2の発現カセットを含む場合、
【化1】
発現カセットは同じ配向であり、矢印はカセットの各々の転写の方向を示す。別の例について、所与の核酸構築物が、立体配置5’-プロモーター1/コード配列1---コード配列2/プロモーター2-3’において2の発現カセットを含むセンス鎖を含む場合、
【化2】
発現カセットは、互いに反対の配向であり、矢印によって示されるように、発現カセットの転写の方向は反対である。この例において、示される鎖は、プロモーター2およびコード配列2のアンチセンス鎖を含む。
【0051】
別の例では、発現カセットがAAV構築物に含まれる場合、カセットは、AAV ITRと同じ配向(例として、
図5に示される構造など)、または反対の配向のいずれかであり得る。AAV ITRは方向性がある。例えば、
図5に例示される変異5’ITRは、H1プロモーター/阻害性RNAをコードする発現カセットと同じ配向であるが、ITRおよび発現カセットの両方が同じ核酸鎖上にある場合は、3’ITRとは反対の配向になるであろう。
【0052】
rAAVベクター
本発明の単離された核酸は、組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(rAAVベクター)であり得る。いくつかの態様において、本開示によって記載される単離された核酸は、第1アデノ随伴ウイルス(AAV)逆位末端配列(ITR)またはそのバリアントを含む領域(例として、第1領域)を含む。単離された核酸(例として、組み換えAAVベクター)は、カプシドタンパク質にパッケージされ、対象に投与され、および/または選択された標的細胞へ送達され得る。「組み換えAAV(rAAV)ベクター」は、典型的には、少なくとも、導入遺伝子およびその調節配列、および5'および3'AAV逆位末端配列(ITR)から構成される。導入遺伝子は、本明細書の他の場所で開示されるように、対象の内因性mRNAを標的とする核酸を含む1以上の阻害性RNA(例として、miRNA)をコードする1以上の領域を含み得る。導入遺伝子はまた、本開示の他の場所で記載されるように、例えば、タンパク質および/または発現制御配列(例として、ポリAテール)をコードする領域を含み得る。
【0053】
一般に、ITR配列は約145塩基対(bp)長である。好ましくは、実質的にITRをコードする配列全体が分子において使用されるが、これらの配列のある程度の小さな改変は許容される。これらのITR配列を改変する能力は、当該技術分野の技術の範囲内である。(例として、Sambrook et al., "Molecular Cloning. A Laboratory Manual", 2d ed., Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1989);およびK. Fisher et al., J Virol., 70:520 532 (1996)などのテキストを参照)。本発明で用いられるかかる分子の例は、選択された導入遺伝子配列および関連する調節要素が5'および3'AAV ITR配列に隣接している導入遺伝子を含む「シス作用」プラスミドである。AAV ITR配列は、現在同定されている哺乳動物のAAV種類を含む、任意の既知のAAVから得ることができる。いくつかの態様において、単離された核酸(例として、rAAVベクター)は、AAV1、AAV2、AAV5、AAV6、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、およびそのバリアントから選択される血清型を有する少なくとも1のITRを含む。いくつかの態様において、単離された核酸は、AAV2 ITRをコードする領域(例として、第1領域)を含む。
【0054】
いくつかの態様において、単離された核酸は、第2AAV ITRを含む領域(例として、第2領域、第3領域、第4領域など)をさらに含む。いくつかの態様において、第2AAV ITRは、AAV1、AAV2、AAV5、AAV6、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、およびそのバリアントから選択される血清型を有する。いくつかの態様において、第2ITRは、機能的な末端分解部位(TRS)を欠く変異型ITRである。「末端分解部位を欠く」という用語は、ITRの末端分解部位(TRS)の機能を無効にする突然変異(例として、非同義突然変異またはミスセンス突然変異などのセンス突然変異)を含むAAV ITR、または機能的TRSをコードする核酸配列を欠く短縮型AAV ITR(例として、ΔTRS ITR)を指し得る。いずれの具体的な理論によっても拘束されることは望まないが、機能的なTRSを欠くITRを含むrAAVベクターは、例えば、McCarthy (2008) Molecular Therapy 16(10):1648-1656に記載されているように、自己相補的なrAAVベクターを生成する。
【0055】
組み換えAAVベクターについて上記で特定された主要な要素に加えて、ベクターはまた、ベクターでトランスフェクトされた細胞、または本発明により生成されたウイルスに感染した細胞におけるその転写、翻訳および/または発現を可能にする様式で導入遺伝子の要素と作動可能に連結される従来の制御要素を含む。本明細書に使用されるとき、「作動可能に連結された」配列は、目的の遺伝子に連続する発現制御配列、および目的の遺伝子を制御するためにトランスでまたは離れて作用する発現制御配列の両方を含む。発現制御配列は、適切な転写開始、終結、プロモーターおよびエンハンサー配列;スプライシングおよびポリアデニル化(ポリA)シグナルなどの効率的なRNAプロセッシングシグナル;細胞質mRNAを安定化させる配列;翻訳効率を高める配列(すなわち、コザックコンセンサス配列);タンパク質の安定性を高める配列;そして、所望されるとき、コードされた産物の分泌を増強する配列を含む。天然、構成的、誘導性および/または組織特異的であるプロモーターを含む多くの発現制御配列は、当該技術分野において知られており、利用することができる。
【0056】
本明細書に使用されるとき、核酸配列(例として、コード配列)および調節配列は、調節配列の影響または制御下で核酸配列の発現または転写を配置するような方法でそれらが共有結合されるとき、作動可能に連結されると言われる。核酸配列を機能性タンパク質に翻訳することが所望される場合、5'調節配列におけるプロモーターの導入がコード配列の転写をもたらし、2つのDNA配列間の結合の性質が、(1)フレームシフト突然変異の導入をもたらさない、(2)プロモーター領域がコード配列の転写を指示する能力を妨害しない、または(3)タンパク質に翻訳される対応するRNA転写産物の能力を妨害しない場合、2つのDNA配列は作動可能に連結されると言われる。よって、プロモーター領域がそのDNA配列の転写をもたらすことができ、その結果得られる転写産物が所望のタンパク質またはポリペプチドに翻訳され得る場合、プロモーター領域は核酸配列に作動可能に連結されるであろう。同様に、2以上のコード領域は、それらが共通のプロモーターからのそれらの転写がインフレームで翻訳された2以上のタンパク質の発現をもたらすような方法で連結されるとき、作動可能に連結される。いくつかの態様において、作動可能に連結されたコード配列は、融合タンパク質を生じる。
【0057】
組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)
いくつかの側面において、本開示は、単離されたAAVを提供する。AAVに関し本明細書に使用されるとき、用語「単離された」は、人工的に産生されたかまたは得られたAAVを指す。単離されたAAVは、組み換え方法を使用して産生されてもよい。かかるAAVは本明細書中、「組み換えAAV」と称される。組み換えAAV(rAAV)は、好ましくは、rAAVのヌクレアーゼおよび/または導入遺伝子が1以上の所定の組織(単数または複数)へ特異的に送達されるように、組織特異的な標的能を有する。AAVカプシドは、これらの組織特異的な標的能を決定する際の重要な要素である。よって、標的にされる組織に適切なカプシドを有するrAAVが選択され得る。
【0058】
所望されるカプシドタンパク質を有する組み換えAAVを得るための方法は、当該技術分野において周知である。(例えば、US2003/0138772を参照、それらの内容は、それら全体が参照されることによって本明細書に組み込まれる)。典型的には、方法は、AAVカプシドタンパク質をコードする核酸配列;機能性rep遺伝子;AAV逆方向末端反復(ITR)と導入遺伝子とから構成される組み換えAAVベクター;およびAAVカプシドタンパク質中への組み換えAAVベクターパッケージングを許容するのに充分なヘルパー機能、を含有する宿主細胞を培養することを伴う。いくつかの態様において、カプシドタンパク質は、AAVのcap遺伝子によってコードされる構造タンパク質である。AAVは、3つのカプシドタンパク質であるビリオンタンパク質1~3(VP1、VP2およびVP3と名付けられる)を含むが、それらのすべては、選択的スプライシングを介して単一cap遺伝子から転写される。いくつかの態様において、VP1、VP2、およびVP3の分子量は夫々、約87kDa、約72kDa、および約62kDaである。いくつかの態様において、翻訳の際、カプシドタンパク質は、ウイルスゲノムの周りに60マー(60-mer)の球状タンパク質シェルを形成する。いくつかの態様において、カプシドタンパク質の機能は、ウイルスゲノムを保護すること、ゲノムを送達すること、および宿主と相互作用することである。いくつかの側面において、カプシドタンパク質は、組織特異的な様式でウイルスゲノムを宿主へ送達する。
【0059】
いくつかの態様において、AAVカプシドタンパク質は、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV8、AAVrh8、AAV9、AAV10、AAVrh.10、AAV AAV.PHB、および上記の任意のバリアントからなる群から選択されるAAV血清型のものである。いくつかの態様において、AAVカプシドタンパク質は、非ヒト霊長目の動物に由来する血清型、例えばAAVrh10血清型のものである。いくつかの態様において、AAVカプシドタンパク質は、AAV9血清型のものである。
【0060】
rAAVベクターをAAVカプシド中にパッケージングするための宿主細胞において培養されるべき構成要素は、トランスで宿主細胞へ提供され得る。代わりに、要求される構成要素(例として、組み換えAAVベクター、rep配列、cap配列、および/またはヘルパー機能)のいずれか1以上は、当業者に知られている方法を使用して、要求される構成要素の1以上を含有するよう操作されている安定した宿主細胞によって提供され得る。最も好適には、かかる安定した宿主細胞は、誘導プロモーターの制御下で、要求される構成要素(単数または複数)を含有するであろう。しかしながら、要求される構成要素(単数または複数)は、構成的プロモーターの制御下にあってもよい。好適な誘導性および構成的プロモーターの例は、導入遺伝子との使用に好適な調節要素の考察において、本明細書に提供される。もう1つの他の選択肢において、選択された安定した宿主細胞は、構成的プロモーターの制御下の選択された構成要素(単数または複数)および1以上の誘導プロモーターの制御下の他の選択された構成要素(単数または複数)を含有してもよい。例えば、293細胞(これは構成的プロモーターの制御下でE1ヘルパー機能を含有する)に由来するが、しかし誘導プロモーターの制御下でrepタンパク質および/またはcapタンパク質を含有する安定した宿主細胞が生成され得る。更なる他の安定した宿主細胞が、当業者によって生成され得る。
【0061】
いくつかの態様において、本開示は、内因性SOD1を標的とする阻害性核酸をコードする配列および外因性タンパク質(例として、外因性SOD1タンパク質、任意に「強化」外因性SOD1タンパク質)をコードする配列を含む核酸を含む宿主細胞に関する。いくつかの態様において、本開示は、上に記載の宿主細胞を含む組成物に関する。いくつかの態様において、上の宿主細胞を含む組成物はさらに、凍結保存剤(cryopreservative)を含む。
【0062】
本開示のrAAVを産生するのに要求される組み換えAAVベクター、rep配列、cap配列、およびヘルパー機能は、いずれか適切な遺伝学的要素(ベクター)を使用して、パッケージング宿主細胞へ送達され得る。選択される遺伝学的要素は、本明細書に記載の方法を包含する、いずれの好適な方法によっても送達され得る。本開示のいずれの態様を構築するために使用される方法は、核酸操作の技能をもつ者らに知られており、遺伝子工学(genetic engineering)、組み換え操作(recombinant engineering)、および合成技法を包含する。例として、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y.を参照。同様に、rAAVビリオンを生成する方法は周知であり、好適な方法の選択は、本開示へ限定を課すものではない。例として、K. Fisher et al., J. Virol., 70:520-532 (1993)および米国特許第5,478,745号を参照。
【0063】
いくつかの態様において、組み換えAAVは、トリプルトランスフェクション方法(米国特許第6,001,650号に詳細に記載される)を使用して産生され得る。典型的には、組み換えAAVは、AAV粒子中へパッケージングされるべき組み換えAAVベクター(導入遺伝子を含む)、AAVヘルパー機能ベクター、および補助機能ベクターを宿主細胞にトランスフェクトすることによって産生される。AAVヘルパー機能ベクターは、より結果をもたらす(productive)AAV複製およびカプシド形成のためにトランスで機能する「AAVヘルパー機能」配列(すなわち、repおよびcap)をコードする。好ましくは、AAVヘルパー機能ベクターは、検出可能ないずれの野生型AAVビリオン(すなわち、機能性のrep遺伝子およびcap遺伝子を含有するAAVビリオン)も生成せずに、効率的なAAVベクター産生を後押しする。本開示との使用に好適なベクターの非限定例は、米国特許第6,001,650号に記載のpHLP19、および米国特許第6,156,303号に記載のpRep6cap6ベクター(これらはともにその全体が参照されることによって本明細書に組み込まれる)を包含する。補助機能ベクターは、AAVが複製のために依存する非AAV由来ウイルス機能および/または細胞機能(すなわち、「補助機能」)のためのヌクレオチド配列をコードする。補助機能は、AAV複製に要求されるそれら機能(those functions)を包含するが、これらは限定せずに、AAV遺伝子転写の活性化、ステージ特異的なAAV mRNAスプライシング、AAV DNA複製、cap発現産物の合成、およびAAVカプシド集合に関与するそれら機能(those moieties)を包含する。ウイルスベースの補助機能は、アデノウイルス、ヘルペスウイルス(1型単純ヘルペスウイルス以外の)、およびワクシニアウイルスなどの、知られているヘルパーウイルスのいずれにも由来し得る。
【0064】
いくつかの側面において、本開示は、トランスフェクトされた宿主細胞を提供する。用語「トランスフェクション」は、細胞による外来DNAの取り込みを指すために使用され、細胞は、外来性のDNAが細胞膜内部に導入されたとき「トランスフェクトされた」。数多のトランスフェクション技法は一般に、当該技術分野において知られている。例として、Graham et al. (1973) Virology, 52:456、Sambrook et al. (1989) Molecular Cloning, laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratories, New York、Davis et al. (1986) Basic Methods in Molecular Biology, Elsevier、およびChu et al. (1981) Gene 13:197を参照。かかる技法は、ヌクレオチド組込み型(integration)ベクターおよび他の核酸分子などの1以上の外来性の核酸を好適な宿主細胞中へ導入するために使用され得る。
【0065】
「宿主細胞」は、関心のある物質を内包するかまたはこれを内包することが可能ないずれの細胞をも指す。しばしば宿主細胞は、哺乳動物の細胞である。宿主細胞は、AAVヘルパー構築物、AAVミニ遺伝子プラスミド、補助機能ベクター、または組み換えAAVの産生に関連する他のトランスファー(transfer)DNAのレシピエントとして使用されてもよい。前記用語は、トランスフェクトされた起源細胞(original cell)の子孫(progeny)を包含する。よって、「宿主細胞」は、本明細書に使用されるとき、外来性のDNA配列がトランスフェクトされた細胞を指すこともある。単一の親細胞の子孫が、自然の、偶然の、または意図的な突然変異に起因して、形態学において、またはゲノムもしくは全DNA相補体において、当初の親(original parent)と完全に同一である必要はなくてもよいことは、理解される。
本明細書に使用されるとき、用語「細胞株」は、in vitroでの継続的または持続的な成長および分裂が可能な細胞の集団を指す。しばしば、細胞株は、単一の前駆細胞に由来するクローン集団である。自発的変化または誘導された変化が、かかるクローン集団の保管または移送の間に核型に生じることは、当該技術分野においてさらに知られている。したがって、言及された細胞株に由来する細胞は、祖先細胞または培養物と正確に同一でなくてもよく、言及された細胞株は、かかるバリアントを包含する。
本明細書に使用されるとき、用語「組み換え細胞」は、生物学的に活性なポリペプチドの転写またはRNAなどの生物学的に活性な核酸の産生に繋がるDNAセグメントなどの外因性DNAセグメントが導入された細胞を指す。
【0066】
本明細書に使用されるとき、用語「ベクター」は、適正な制御要素と結び付けられたとき複製することが可能でありかつ細胞間で遺伝子配列を移送し得るいずれの遺伝学的要素、たとえば、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、人工染色体、ウイルス、ビリオンなどを包含する。よって、前記用語は、クローニングおよび発現ビヒクル、ならびにウイルスベクターを包含する。いくつかの態様において、有用なベクターは、転写されるべき核酸セグメントがプロモーターの転写制御下に配置された(positioned)それらベクターであることが企図される。「プロモーター」は、遺伝子の特定の転写を開始するのに要求される細胞の合成機械または導入された合成機械によって認識されるDNA配列を指す。句「制御下」または「転写制御下」で、「作動可能に(operatively)配置された」は、RNAポリメラーゼの開始および遺伝子の発現を制御する核酸に関して、プロモーターが正しい場所および配向にあることを意味する。用語「発現ベクターまたは構築物」は、配列をコードする核酸の一部または全部が転写されることが可能である核酸を含有するいずれの型の遺伝学的構築物をも意味する。いくつかの態様において、発現は、核酸、例えば転写された遺伝子から生物学的に活性なポリペプチド産物または機能性RNA(例として、ガイドRNA)を生成するための核酸の転写を包含する。本開示のrAAVを産生するために所望されるAAVカプシドに組み換えベクターをパッケージングするための上記の方法は、限定することを意図されておらず、他の好適な方法も当業者には明らかであろう。
【0067】
投与の様式
本開示の単離された核酸およびrAAVは、当該技術分野において知られている任意の適切な方法に従って、組成物において細胞または対象へ送達され得る。例えば、好ましくは生理学的に適合性のある担体(すなわち、組成物)に懸濁されたrAAVは、対象、すなわちヒト、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ヒツジ、ウサギ、ウマ、ウシ、ヤギ、ブタ、モルモット、ハムスター、ニワトリ、シチメンチョウ、または非ヒト霊長目の動物(例として、マカク)などの宿主動物に投与され得る。いくつかの態様において、宿主動物はヒトを含まない。
【0068】
哺乳動物対象へのrAAVの送達は、例えば、筋肉内注射によるか、または哺乳動物対象の血流への投与によるものであり得る。血流への投与は、静脈、動脈、または任意の他の血管導管への注射によるものであり得る。いくつかの態様において、rAAVは、外科分野で周知の技法である分離式肢灌流によって血流に投与され、この方法は、rAAVビリオンの投与前に、当業者が体循環から肢を分離することを本質的に可能にする。米国特許第6,177,403号に記載されている分離式肢灌流技法のバリアントはまた、分離された肢の脈管構造にビリオンを投与して筋細胞または組織への形質導入を潜在的に増強するために当業者によって用いられ得る。さらに、特定の例では、ビリオンを対象のCNSに送達することが望ましい場合がある。「CNS」は、脊椎動物の脳および脊髄のすべての細胞および組織を意味する。よって、この用語は、神経細胞、グリア細胞、星状細胞、脳脊髄液(CSF)、間質腔、骨、軟骨などを含むが、これらに限定されない。組み換えAAVは、定位注射などの当該技術分野において知られている神経外科技法を使用して、針、カテーテルまたは関連デバイスを用いて、例として、心室領域、ならびに線条体(例として、尾状核または線条体の被殻)、脊髄および神経筋接合部、または小脳小葉への注射により、CNSまたは脳に直接送達され得る(例えば、Stein et al., J Virol 73:3424-3429, 1999;Davidson et al., PNAS 97:3428-3432, 2000;Davidson et al., Nat. Genet. 3:219-223, 1993;およびAlisky and Davidson, Hum. Gene Ther. 11:2315-2329, 2000を参照)。いくつかの態様において、本開示に記載されるrAAVは、静脈内注射によって投与される。いくつかの態様において、rAAVは、脳内注射によって投与される。いくつかの態様において、rAAVは、髄腔内注射によって投与される。いくつかの態様において、rAAVは、線条体内注射によって投与される。いくつかの態様において、rAAVは頭蓋内注射によって送達される。いくつかの態様において、rAAVは大槽注射によって送達される。いくつかの態様において、rAAVは、脳側脳室注射によって送達される。
【0069】
本開示の側面は、カプシドタンパク質および導入遺伝子をコードする核酸を含む組み換えAAVを含む組成物に関し、ここで、導入遺伝子は、1以上のmiRNAをコードする核酸配列を含む。いくつかの態様において、各miRNAは、配列番号3および/または4に記載の配列(miR-SOD-127)を含むか、またはそれによってコードされる。いくつかの態様において、各miRNAは、配列番号5および/または6に記載の配列を含むか、またはそれによってコードされる。いくつかの態様において、核酸は、AAV ITRをさらに含む。いくつかの態様において、rAAVは、配列番号8~15のいずれか1に記載の配列(AAVベクター配列)によって表されるrAAVベクター、またはその一部を含む。いくつかの態様において、組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。
いくつかの態様において、本開示の組成物は、rAAVを単独で、または1以上の他のウイルス(例として、1以上の異なる導入遺伝子を有するコードする第2rAAV)と組み合わせて、含んでいてもよい。いくつかの態様において、組成物は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10種またはそれ以上の異なるrAAV(各々が、1以上の異なる導入遺伝子を有する)を含む。
【0070】
好適な担体は、rAAVが向けられる適応症を考慮し当業者によって容易に選択され得る。例えば、1つの好適な担体は、様々な緩衝溶液(例として、リン酸緩衝生理食塩水)とともに製剤化されてもよい生理食塩水を包含する。他の例示の担体は、滅菌生理食塩水、ラクトース、スクロース、リン酸カルシウム、ゼラチン、デキストラン、寒天、ペクチン、ピーナツ油、ゴマ油、および水を包含する。担体の選択は、本開示の限定ではない。
任意に、本開示の組成物は、rAAVおよび担体(単数または複数)に加えて、防腐剤または化学安定剤などの他の従来の医薬成分を含有していてもよい。好適な例示の防腐剤は、クロロブタノール、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、二酸化硫黄、没食子酸プロピル、パラベン、エチルバニリン、グリセリン、フェノール、およびパラクロロフェノールを包含する。好適な化学安定剤は、ゼラチンおよびアルブミンを包含する。
【0071】
rAAVは、過度の悪影響なしに、所望される組織の細胞にトランスフェクトし、遺伝子のトランスファーおよび発現の充分なレベルを提供するのに充分な量で投与される。従来のおよび薬学的に許容し得る投与ルートは、これらに限定されないが、選択された器官への直接送達(例として、肝臓への門脈内送達)、経口、吸入(経鼻および気管内送達を包含する)、眼内、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腫瘍内、および他の非経口投与ルートを包含する。投与ルートは、所望されるなら、組み合わされてもよい。
具体的な「治療的効果」を達成するのに要求されるrAAVビリオンの用量、例として、ゲノムコピー/キログラム体重あたり(GC/kg)での用量の単位は、以下を包含するがこれらに限定されない複数の因子に基づき変動するであろう:rAAVビリオンの投与ルート、治療的効果を達成するのに要求される遺伝子またはRNAの発現レベル、処置される特定の疾患または障害、および遺伝子またはRNAの産物安定性。当業者は、具体的な疾患または障害を有する患者を処置するためのrAAVビリオン用量範囲を、前述の因子ならびに当該技術分野において周知である他の因子に基づき容易に決定し得る。
【0072】
rAAVの有効量は、動物を標的感染させ、所望の組織を標的にするのに充分な量である。いくつかの態様において、rAAVの有効量は、安定した体細胞遺伝子導入動物モデルを産生するのに充分な量である。有効量は、対象の種、年齢(age)、重量、健康状態、および標的にされるべき組織などの因子に主に依存し、よって動物および組織の間で変動し得る。例えば、rAAVの有効量は、一般に、約109~1016ゲノムコピーを含有する溶液の約1mlから約100mlまでの範囲にある。いくつかのケースにおいて、約1011~1013rAAVゲノムコピーの間の投薬量が適切である。ある態様において、1012または1013rAAVゲノムコピーが、CNS組織を標的にするのに有効である。いくつかのケースにおいて、安定したトランスジェニック動物は、rAAVの複数回用量によって産生される。
【0073】
いくつかの態様において、rAAVの用量は、暦日(例えば、24時間)に1回以下で対象に投与される。いくつかの態様において、rAAVの用量は、2、3、4、5、6、または7暦日あたり1回以下で対象に投与される。いくつかの態様において、rAAVの用量は、暦週(例えば、7暦日)に1回以下で対象に投与される。いくつかの態様において、rAAVの用量は、隔週(例えば、暦2週間に1回)以下で対象に投与される。いくつかの態様において、rAAVの用量は、暦月あたり1回以下(例えば、30暦日に1回)対象に投与される。いくつかの態様において、rAAVの用量は、6暦月に1回以下で対象に投与される。いくつかの態様において、rAAVの用量は、暦年に1回以下(例えば、365日または閏年で366日)対象に投与される。
【0074】
いくつかの態様において、rAAV組成物は、その組成物において、具体的にはrAAVが高濃度(例として、~1013GC/ml以上)で存在する組成物において、AAV粒子の凝集を低減させるように製剤化される。rAAVの凝集を低減させるための方法は当該技術分野において周知であり、例えば、界面活性剤の添加、pH調整、塩濃度調整などを包含し得る。(例として、Wright FR, et al., Molecular Therapy (2005) 12, 171-178を参照、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる。)
薬学的に許容し得る賦形剤および担体溶液の製剤化は、様々な処置レジメンにおいて本明細書に記載の具体的な組成物を使用するための好適な投薬および処置レジメンの開発がそうであるように、当業者に周知である。
【0075】
典型的には、これらの製剤は、活性化合物の少なくとも約0.1%以上を含有してもよいが、活性成分(単数または複数)のパーセンテージはもちろん変動してもよく、便宜的に、総製剤の重量または体積の約1または2%と約70%または80%以上との間であってもよい。当然のことながら、治療的に有用な各組成物中の活性化合物の量は、好適な投薬量が化合物のいかなる単位用量でも得られるように、調製されてもよい。可溶性、バイオアベイラビリティ、生物学的半減期、投与ルート、製品有効期間、ならびに他の薬理学的な検討事項などの因子が、かかる医薬製剤を調製する当業者によって企図されるであろう。これを踏まえて、様々な投薬量および処置レジメンが所望され得る。
特定の状況では、rAAVベースの治療用構築物を、本明細書に開示される好適に製剤された医薬組成物として、皮下、膵内、鼻腔内、非経口、静脈内、筋肉内、髄腔内、または経口、腹腔内、または吸入により送達することが望ましいであろう。いくつかの態様において、米国特許第5,543,158号;第5,641,515号および第5,399,363号(各々、具体的に全体として参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているような投与様式を使用して、rAAVを送達し得る。いくつかの態様において、好ましい投与の様式は門脈注射によるものである。
【0076】
注射可能な使用に好適な医薬形態は、滅菌された注射可能な溶液または分散液の即時調製のための、滅菌された水性溶液または分散液および滅菌された粉末を包含する。分散液はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物中でも、ならびに油中でも、調製されてもよい。保管および使用の通常の条件下、これらの調製物は、微生物の成長を防止するための防腐剤を含有する。多くのケースにおいて、その形態は滅菌されており、注射針が楽に通過する程度に(to the extent that easy syringability exists)流動性がある。それは、製造および保管の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に抗して保存されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例として、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、これらの好適な混合物、および/または植物油を含有する溶媒または分散媒であり得る。適した流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散媒のケースにおいては要求される粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって、維持されてもよい。微生物の作用の予防は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。多くのケースにおいて、等張剤、例えば、糖類または塩化ナトリウムを包含することが好ましいであろう。注射可能な組成物の長期的な吸収は、吸収を遅延させる剤、例えばモノアステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの、組成物における使用によってもたらされ得る。
【0077】
注射可能な水性溶液の投与のために、例えば、溶液は、必要ならば、好適に緩衝化されてもよく、液体の希釈剤は、充分な生理食塩水またはグルコースで最初に等張にされる。これらの具体的な水性溶液は、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内の投与にとくに好適である。これに関連して、用いられ得る滅菌水性媒体は当業者に知られているであろう。例えば、1投薬量が、1mlの等張NaCl溶液に溶解されて、1000mlの皮下注入用流体へ加えられるかまたは提案の注入部位にて注射されるかのいずれかであってもよい(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」第15版、1035~1038および1570~1580頁を参照)。投薬量のいくつかのバリエーションは、宿主の状態に応じて、必然的に生じるであろう。投与に対して責任を持つ者は、いずれにしても、個々の宿主にとって適切な用量を決定するであろう。
【0078】
滅菌された注射可能な溶液は、要求される量の活性rAAVを、本明細書に列挙された様々な他の成分とともに(そう要求されるとき)、適切な溶媒に組み込むこと、その後に濾過滅菌が続くことによって調製される。一般に、分散液は、基礎分散媒および上に列挙されたものからの要求される他の成分を含有する滅菌ビヒクル中へ、様々な滅菌活性成分を組み込むことによって調製される。滅菌された注射可能な溶液の調製のための滅菌された粉末のケースにおいて、好ましい調製の方法は、真空乾燥技法および凍結乾燥技法であるが、これらは、先に滅菌濾過されたその溶液から、活性成分の粉末を、いずれか所望の追加成分を加えて産み出す。
【0079】
本明細書に開示のrAAV組成物はまた、中性または塩の形態で製剤化されてもよい。薬学的に許容し得る塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基とともに形成された)、ならびに、例えば塩酸またはリン酸などの無機酸あるいは酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸とともに形成された酸付加塩を包含する。遊離カルボキシル基とともに形成された塩はまた、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウムまたは水酸化鉄などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基にも由来し得る。製剤化されると、溶液は、投薬製剤に適合性のある様式で、かつ治療的に有効であるような量で、投与されるであろう。製剤は、注射可能な溶液、薬物放出カプセルなどの様々な剤形(dosage forms)で楽に投与される。
【0080】
本明細書に使用されるとき、「担体」は、ありとあらゆる溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング剤、希釈剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤、緩衝剤、担体溶液、懸濁液、コロイドなどを包含する。薬学的に活性な物質のためのかかる媒体および剤の使用は、当該技術分野において周知である。補助的な活性成分もまた、組成物中へ組み込まれ得る。句「薬学的に許容し得る」は、宿主へ投与されたとき、アレルギーまたは同様の有害反応を生み出さない分子実体(molecular entities)および組成物を指す。
リポソーム、ナノカプセル、微粒子、ミクロスフェア、脂質粒子、ベシクルなどの送達ビヒクルは、好適な宿主細胞中への本開示の組成物の導入のために使用されてもよい。とりわけ、rAAVベクターによって送達される導入遺伝子は、脂質粒子、リポソーム、ベシクル、ナノスフェア、もしくはナノ粒子、または同種のもののいずれかにカプセル化されて送達されるために製剤化されてもよい。
【0081】
かかる製剤は、本明細書に開示の核酸またはrAAV構築物の薬学的に許容し得る製剤の導入のために、好ましいこともある。リポソームの形成および使用は一般に、当業者に知られている。近年、改善された血清安定性および循環半減時間をもつリポソームが開発された(米国特許第5,741,516号)。さらに、潜在的な薬物担体としてのリポソームおよびリポソーム様調製物の様々な方法が記載されている(米国特許第5,567,434号;第5,552,157号;第5,565,213号;第5,738,868号および第5,795,587号)。
リポソームは、通常、他の手順によるトランスフェクションに耐性がある数々の細胞型とともに、首尾よく使用されている。加えて、リポソームは、ウイルスベースの送達系に典型的なDNA長に制約がない。リポソームは、遺伝子、薬物、放射線治療剤、ウイルス、転写因子およびアロステリックエフェクターを様々な培養細胞株および動物中へ導入するのに効果的に使用されている。加えて、リポソーム媒介薬物送達の有効性を検査する数件の成功した臨床試験が完了している。
【0082】
リポソームは、水性媒体に分散されたリン脂質から形成され、自然に多重膜同心二層ベシクル(また多重膜ベシクル(MLV)とも呼ばれる)を形成する。MLVは一般に、25nmから4μmまでの直径を有する。MLVの超音波処理は、コア中に水性溶液を含有する、200~500オングストロームの範囲の直径をもつ小さな一枚膜ベシクル(SUV)の形成をもたらす。
代わりに、rAAVのナノカプセル製剤が使用されてもよい。ナノカプセルは一般に、物質を安定かつ再現性のあるように封入し得る。細胞内ポリマー過負荷(intracellular polymeric overloading)に起因する副作用を避けるために、かかる超微細粒子(ほぼ0.1μmのサイズである)が、in vivoで分解され得るポリマーを使用して設計されるべきである。これらの要求を満たす生分解性ポリアルキル-シアノアクリラートナノ粒子が、使用を企図される。
【0083】
上記の送達方法に加えて、以下の技法もまた、rAAV組成物を宿主に送達する代替の方法として企図される。ソノフォレーシス(すなわち、超音波)は、循環系内および循環系を通じて薬物浸透の速度および有効性を高めるためのデバイスとして米国特許第5,656,016号に使用され、記載されている。企図される他の薬物送達の選択肢は、骨内注射(米国特許第5,779,708号)、マイクロチップデバイス(米国特許第5,797,898号)、眼科用製剤(Bourlais et al., 1998)、経皮マトリックス(米国特許第5,770,219号および第5,783,208号)およびフィードバック制御送達(米国特許第5,697,899号)である。
【0084】
使用の方法
本明細書では、FTDおよび/またはALSに関連するSOD1などの遺伝子の発現を阻害するための方法が提供される。いくつかの態様において、本開示によって記載される方法は、ALSおよび/またはFTDを有するか、または有すると疑われる対象を処置するために有用である。本明細書に使用されるとき、「処置する」または「処置すること」は、(a)神経変性疾患(例として、ALS/FTDなど)の発症を予防または遅延させること;(b)ALS/FTDの重症度を軽減すること;(c)ALS/FTDに特徴的な症状の発症を軽減または予防すること;および/または(d)ALS/FTDに特徴的な症状の悪化を予防することを指す。
【0085】
いくつかの態様において、対象(例として、対象の中枢神経系(CNS))における内因性SOD1タンパク質発現を阻害するための方法が提供される。いくつかの態様において、前記方法は、内因性SOD1 mRNAを標的とする阻害性核酸および阻害性核酸に耐性がある外因性SOD1 mRNA転写産物を発現するように操作された単離された核酸またはrAAVを対象へ投与する(例として、対象のCNSへ投与する)ことを含む。いくつかの態様において、対象は、FTDまたはALSを有するか、または有すると疑われる(例として、例えば診断DNA検査によって、機能の有毒な獲得をもたらす1以上の突然変異を有するSOD1遺伝子を有すると同定された、および/またはALSの1以上の兆候または症状を示す)。いくつかの態様において、前記方法は、対象の細胞において内因性SOD1 mRNAを標的とする阻害性核酸を発現するように操作された核酸を内包する有効量の組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を対象へ投与することを含む。いくつかの態様において、阻害性核酸は、配列番号3(GACGTACCTAAGGTACAAGTA)および/または4に記載の配列を含むか、またはそれによってコードされる(miR-SOD-127)。いくつかの態様において、阻害性核酸は、配列番号5および/または6に記載の配列を含むか、またはそれによってコードされる。
【0086】
いくつかの態様において、細胞におけるSOD1発現を阻害するための方法が提供される。いくつかの態様において、前記方法は、本開示により記載される単離された核酸またはrAAVを細胞へ送達することを含み、ここで、阻害性RNAは、配列番号3(GACGTACCTAAGGTACAAGTA)および/または4(CTGCATGGATTCCATGTTCAT)に記載の配列またはその配列の相補的な配列の5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20または21の連続したヌクレオチドを含むか、またはそれによってコードされるmiRNAである。
【0087】
上記に従って、本明細書で提供される特定の方法は、本明細書で開示される組み換え核酸のいずれかを内包する有効量の組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を対象に投与することを含む。一般に、rAAVの「有効量」は、所望の生物学的応答を誘発するのに充分な量を指す。いくつかの態様において、有効量は、ex vivoで細胞または組織を形質導入するのに有効なrAAVの量を指す。他の態様において、有効量は、対象へのrAAVの直接投与に有効な量を指す。当業者によって理解されるように、本発明の組み換えAAVの有効量は、所望の生物学的エンドポイント、発現産物の薬物動態、処置される状態、投与様式、および対象などの因子に依存して変わる。典型的には、rAAVは、本開示の他の場所に記載されているように、薬学的に許容し得る担体と共に投与される。
【0088】
いくつかの例では、rAAVの投与後、FTDまたはALSに関連する少なくとも1の臨床成績パラメーターまたはバイオマーカー(例として、核内G4C2RNA病巣、RANタンパク質発現など)が対象で評価される。典型的には、rAAVの投与後に評価された臨床成績パラメーターまたはバイオマーカーは、rAAVの有効性を決定するために、rAAVの投与前の時点で決定された臨床成績パラメーターまたはバイオマーカーと比較される。多くの場合、rAAV投与後の臨床成績パラメーターまたはバイオマーカーの改善は、rAAVの有効性を示す。任意の適切な臨床成績パラメーターまたはバイオマーカーが使用され得る。典型的には、臨床成績パラメーターまたはバイオマーカーは、FTDまたはALSの1以上の兆候を示す。例えば、いくつかの態様において、臨床成績パラメーターまたはバイオマーカーは、内因性SOD1発現、記憶喪失、または、不安定性、硬直、遅滞、痙攣、筋力低下または嚥下困難性、発語および言語困難性、筋肉の痙攣(束縛)およびこむら返り(手足のものを含む)などの運動障害の有無であり得る。
【0089】
キットおよび関連する組成物
本明細書に記載の組み換え核酸、組成物、rAAVベクター、rAAVなどは、いくつかの態様において、治療、診断または研究用途でのそれらの使用を容易にするために医薬または診断または研究キットに組み立てられ得る。キットは、本発明の構成要素を収容する1以上の容器および使用説明書を含み得る。具体的には、かかるキットは、本明細書に記載される1以上の薬剤、ならびに意図される用途およびこれらの薬剤の適切な使用を説明する説明書を含み得る。ある態様において、キット中の薬剤は、特定の用途および薬剤の投与方法に好適な医薬製剤および投薬量であり得る。研究目的のキットは、様々な実験を実行するための適切な濃度または量の構成要素を含み得る。
【0090】
キットは、研究者による本明細書に記載の方法の使用を容易にするように設計され得、多くの形態をとり得る。キットの各組成物は、適用可能な場合、液体の形態(例として、溶液)または固体の形態(例として、乾燥粉末)で提供され得る。あるケースにおいて、組成物のいくつかは、例えば、好適な溶媒または他の種(例えば、水または細胞培養培地)の添加により、構成可能またはそうでなければ(例として、活性形態に)加工可能であり得、これはキットとともに提供され得るか、またはキットとともに提供され得ない。本明細書に使用されるとき、「説明書」は、説明および/または宣伝の構成要素を定義し得、典型的には、本発明のパッケージング上またはそれに関連する書面による説明を含む。説明書はまた、説明書がキットに関連付けられるべきであることをユーザーが明確に認識するような任意の様式で、例えば、オーディオビジュアル(例として、ビデオテープ、DVDなど)、インターネット、および/またはウェブベースのコミュニケーションなどで提供される任意の口頭または電子的説明を含み得る。書面による説明書は、医薬品または生物学的製品の製造、使用、または販売を規制する政府機関によって規定された形式であり得、その指示は、動物投与の製造、使用、または販売の機関による承認を反映することもできる。
【0091】
キットは、1以上の容器に、本明細書に記載の任意の1以上の構成要素を含み得る。一例として、一態様において、キットは、キットの1以上の構成要素を混合するための、および/または試料を単離および混合し、対象に適用するための説明書を含み得る。キットは、本明細書に記載の薬剤を収容する容器を含み得る。薬剤は、液体、ゲルまたは固体(粉末)の形態であり得る。薬剤は、無菌で調製され、シリンジに包装され、冷蔵輸送されてもよい。代わりに、保管のためにバイアルまたは他の容器に収容されてもよい。第2容器は、無菌で調製された他の薬剤を有し得る。代わりに、キットは、事前に混合され、シリンジ、バイアル、チューブ、または他の容器中で輸送される活性剤を含み得る。キットは、シリンジ、局所適用デバイス、またはIV針チューブおよびバッグなどの、対象に薬剤を投与するために必要とされる1以上またはすべての構成要素を有し得る。
本発明の例示的な態様は、以下の例によってより詳細に記載されるであろう。これらの態様は、本発明の例示であり、当業者は、例示の態様に限定されないことを認識するであろう。
【0092】
例
例1
この例は、(1)内因性サイトゾルCu/Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)活性の発現を抑制する合成マイクロRNAを発現するように操作された第1構築物の送達を、(2)前記合成マイクロRNAに耐性がある野生型SOD1を発現するように操作された第2構築物と連結する二重発現遺伝子治療ベクターを記載する。
【0093】
AAVrh10-抗SOD1-miRNAを介したSOD1サイレンシングを、合成マイクロRNAに耐性があるWT SOD1の発現と連結することの根拠は、2つの因子に基づく。第1に、SOD1タンパク質の不均化活性は神経保護特性を有する。第2に、SOD1が抑制されているALS症例の組織(具体的に言うと、運動ニューロン)は、野生型(WT)および変異型SOD1の両方を発現しているため、正常ではない。実に、SOD1サイレンシング研究が発症後に開始されたとき、運動ニューロン(およびいくつかの非神経細胞)は明らかに病的であることがすでに観察されている。この状況では、WT SOD1分子によって付与されるSOD1不均化活性を(およびいくつかの変異型SOD1タンパク質から生じ得る不均化活性をも)排除することは、その活性によって付与される潜在的な神経保護作用を排除することでもある。したがって、細胞に対する正味の効果は、2つの相反する因子のバランスを反映する:(a)変異型タンパク質およびその神経毒性のサイレンシング対(b)SOD1不均化活性の神経保護作用の排除。病気の運動ニューロンでは、変異型タンパク質のレベルが同時に低下しているにもかかわらず、正味の効果は標的細胞の生存率をさらに損ない得ると考えられる。この所見と一致して、固有のSOD1活性のないマウスは正常な発達中に劇症のALSを発症しないが、それらの運動ニューロンは重なった損傷に高度に敏感であることに留意されたい。これらのSOD1陰性マウスの顔面神経傷害は、WTマウスよりもはるかに広範囲の顔面神経の喪失をもたらす。その上、晩年には、これらのSOD1陰性マウスは、ゆっくり進行する遅発性運動神経障害を発症することが観察されている。
【0094】
本開示により記載される二重発現遺伝子構築物は、SOD1不均化からの神経保護活性の喪失の課題に取り組む。本開示の構築物における遺伝子発現カセットの配置は、WTおよび変異型の内因性SOD1アレルの両方の完全なサイレンシングを伴う場合でさえ、正常なレベルのSOD1不均化活性(例として、WT SOD1の発現)を可能にする。よって、本明細書に記載の構築物の正味の効果は、変異型SOD1タンパク質(ただし、WT SOD1タンパク質ではない)のレベルの低下であり、これはSOD1媒介ALSに有益である。
【0095】
本開示の二重発現構築物は、以下のように構築される:SOD1を標的とする人工miRNAおよび人工miRNAに対して耐性にするサイレント塩基対改変を有するSOD1 cDNAの両方を発現するAAV構築物が作製される。この構築物は、変異型SOD1のサイレンシングおよび単一のAAVベクターからの野生型SOD1の増強した発現を同時に可能にする。いくつかの態様において、構築物は、
図1に示されるように2シストロン性であり、ここで、構築物は2つのプロモーターを有し、例えば、抗SOD1発現はH1プロモーターによって駆動され、SOD1 cDNA発現はCBAプロモーターによって駆動される。抗SOD1-miR発現は、U6プロモーターなどの別のPol IIIプロモーター、または特定の細胞または器官の種類へのmiRNAの発現を制限するPol IIプロモーターによって駆動することもできる。構築物の第2部分は、典型的には、miRNA耐性SOD1 cDNAを発現するPol IIプロモーター(例として、
図1のCBA)を有する。この第2プロモーターは、内因性SOD1プロモーター、またはSOD1 cDNAの特定の細胞集団への制限された発現が望まれる場合は、シナプシンプロモーターなどの別のプロモーターでもあり得る。
【0096】
いくつかの態様において、二重機能ベクターは、
図2に示されるように、人工miRおよびmiR耐性cDNAの両方を発現する単一のpol IIプロモーター(例として、CBA)である。この態様において、抗SOD1-miRは、SOD1 cDNA発現カセット内のイントロンから、または代わりに、mIR耐性SOD1 cDNA発現カセットの3’UTR(または5’UTR)の一部として発現され得る。二重機能ベクター構築物の追加の非限定例は、
図3~8に示され、配列番号8~15に記載されている。
図9は、野生型SOD1コード配列(配列番号1)の「強化」SOD1コード配列(配列番号7)の例との核酸配列アラインメントを示す。
【0097】
配列
>ヒトSOD1コード配列(NCBI参照NM_000454.4)(配列番号1)
【化3】
【0098】
>SOD1 miR標的配列5’-3’;いくつかの態様において、「T」は、「U」で置き換えられることに留意(配列番号2)
【化4】
【0099】
>SOD1 miR成熟miRNA 3’-5’;いくつかの態様において、「T」は、「U」で置き換えられることに留意(配列番号3)
【化5】
【0100】
>SOD-miR-127成熟miRNA 5’-3’;いくつかの態様において、「T」は、「U」で置き換えられることに留意(配列番号4)
【化6】
【0101】
>miR-SOD1 5’-3’鎖(配列番号5);いくつかの態様において、「T」は、「U」で置き換えられることに留意
【化7】
【0102】
>miR-SOD1 3’-5’鎖(配列番号6);いくつかの態様において、「T」は、「U」で置き換えられることに留意
【化8】
【0103】
>強化SOD1コード配列(配列番号7);野生型SOD1コード配列と比べたサイレント塩基対突然変異(太字)
【化9】
【0104】
>2シストロン性H1-miRおよびCB-Sod1の配列(配列番号8)
【化10-1】
【化10-2】
【化10-3】
【0105】
>CB-抗Sod1 miRおよびmiRNA耐性Sod1の配列(配列番号9)
【化11-1】
【化11-2】
【0106】
>2シストロン性H1-SOD1-miR-CB-SOD1の配列(配列番号10);miR耐性SOD1標的(太字);SOD1コード配列(小文字)
【化12】
【0107】
>CB-miR-CB-SOD1の配列(配列番号11);miR耐性SOD1標的(太字);SOD1コード配列(小文字)
【化13-1】
【化13-2】
【0108】
>自己相補的なH1-SOD1-miR-CB-SOD1(3’UTRを有する)の配列(配列番号12);AAV ITR(太字)
【化14-1】
【化14-2】
【0109】
>自己相補的なH1-SOD1-miR-CB-SOD1(3’UTRなし)の配列(配列番号13);AAV ITR(太字)
【化15-1】
【化15-2】
【0110】
>一本鎖CB-miR-CB-SOD1(3’UTRを有する)の配列(配列番号14);AAV ITR(太字)
【化16-1】
【化16-2】
【0111】
>一本鎖CB-miR-CB-SOD1(3’UTRを有する)の配列(配列番号15);AAV ITR(太字)
【化17-1】
【化17-2】
【0112】
>SOD1プロモーター挿入配列(配列番号16)
【化18-1】
【化18-2】
【0113】
>野生型SOD1アミノ酸配列;NCBI参照配列NP_000445.1(配列番号17)
【化19】
【配列表】