(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】腰痛改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/20 20060101AFI20231206BHJP
A23J 7/00 20060101ALI20231206BHJP
A23L 33/12 20160101ALI20231206BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20231206BHJP
A61K 31/685 20060101ALI20231206BHJP
A61K 31/688 20060101ALI20231206BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20231206BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
A61K35/20
A23J7/00
A23L33/12
A61K9/20
A61K31/685
A61K31/688
A61P19/00
A61P21/00
(21)【出願番号】P 2016146127
(22)【出願日】2016-07-26
【審査請求日】2019-06-17
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】峯岸 慶彦
(72)【発明者】
【氏名】曽我 聡子
(72)【発明者】
【氏名】太田 宣康
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】星 功介
【審判官】齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-516565(JP,A)
【文献】特開2001-158736(JP,A)
【文献】Bioscience,Biotechnology,and Biochemnistry,2015,Vol.79,No.7,p.1172-1177
【文献】ミルクサイエンス,2009,Vol.58,No.3,p.135-141
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K35/
A61K31/
A23L
PubMed
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/WPIX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳脂肪球皮膜を有効成分とする腰痛改善剤(但し、
骨形成と骨吸収のアンカップリングに起因する腰痛の改善剤としての使用を除く)であって、健常人において自覚される腰痛の改善剤。
【請求項2】
乳脂肪球皮膜が、リン脂質を5~100質量%含有する請求項1記載の腰痛改善剤。
【請求項3】
乳脂肪球皮膜が、スフィンゴミエリンを1~50質量%含有する請求項1記載の腰痛改善剤。
【請求項4】
剤型が経口投与用の固形製剤である請求項1~3のいずれか1項記載の腰痛改善剤。
【請求項5】
固形製剤が錠剤である請求項4記載の腰痛改善剤。
【請求項6】
成人1人あたり1日にスフィンゴミエリンを10~1500mg投与又は摂取するものである請求項1~5のいずれか1項記載の腰痛改善剤。
【請求項7】
乳脂肪球皮膜を有効成分とする腰痛改善用食品(但し、
骨形成と骨吸収のアンカップリングに起因する腰痛の改善用食品としての使用を除く)であって、健常人において自覚される腰痛の改善用食品。
【請求項8】
乳脂肪球皮膜が、リン脂質を5~100質量%含有する請求項7記載の腰痛改善用食品。
【請求項9】
乳脂肪球皮膜が、スフィンゴミエリンを1~50質量%含有する請求項7記載の腰痛改善用食品。
【請求項10】
剤型が経口投与用の固形製剤である請求項7~9のいずれか1項記載の腰痛改善用食品。
【請求項11】
固形製剤が錠剤である請求項10記載の腰痛改善用食品。
【請求項12】
成人1人あたり1日にスフィンゴミエリンを10~1500mg投与又は摂取するものである請求項7~11のいずれか1項記載の腰痛改善用食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰痛改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腰痛とは、腰部に痛みや炎症を感じる症状の総称であり、原因は脊椎由来、神経由来、内臓由来、血管由来、心因性の5つに大別されるが、原因の明らかな腰痛の他、原因が明らかではない腰痛(非特異的腰痛)も認められる(非特許文献1)。
【0003】
従来、腰痛を改善又は治療する方法として、安静、マッサージ、薬物療法、温熱療法、理学療法、装具療法、運動療法、神経ブロック注射療法、手術療法等の手法が適用される。腰痛を改善又は治療する薬剤としては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、COX-2選択的阻害薬、アセトアミノフェン、筋弛緩薬、抗不安薬、抗うつ薬、オピオイド等が用いられる。その他、消炎鎮痛成分等を配合した、湿布、ローション、クリーム、軟膏等の外用薬も用いられる。しかしながら、薬物療法、温熱療法、理学療法、装具療法、運動療法、神経ブロック注射療法又は手術療法を実施するには、医師及びその他の医療関係者の指導が必要であり、誰にでも起こりうる腰痛をより簡便な方法で改善する方法が望まれている。
【0004】
一方、乳由来のホエータンパク質加水分解物やラクトパーオキシダーゼ及び/又はその分解物に骨強化作用があることが報告されている(特許文献1及び2)。また、乳由来のホエイ関連製品、例えばホエータンパク質濃縮物にSOD作用があることが報告されている(特許文献3)。さらに、セラミド、スフィンゴミエリン、スフィンゴ糖脂質、ガングリオシド等のスフィンゴシン骨格を有する化合物を有効成分とする骨関節疾患の予防及び改善剤が報告されている(特許文献4)。しかし、これら乳由来成分が腰痛改善に有用であるかは明らかにされていない。
【0005】
乳脂肪球皮膜(Milk-fat Globule Membrane:MFGM)は、乳腺より分泌される乳脂肪球を被覆している膜成分で、バターミルクやバターセーラム等の乳複合脂質高含有画分に多く含まれることが知られている(非特許文献2)。乳脂肪球皮膜は、脂肪を乳汁中に分散させる機能を有するのみならず、マウスにおける筋量増加作用や運動機能向上作用、内臓脂肪蓄積抑制作用、血中アディポネクチン増加及び減少抑制作用等の生理機能を有することが報告されている(特許文献5~7)。
しかしながら、乳脂肪球皮膜が腰痛へ与える影響については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-184961号公報
【文献】特開2005-60321号公報
【文献】特開2004-262848号公報
【文献】特開2001-158736号公報
【文献】特開2010-59155号公報
【文献】特開2013-100275号公報
【文献】特開2007-320901号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本整形外科学会、日本腰痛学会監修、「腰痛診療ガイドライン2012」 南江堂 2012年
【文献】三浦晋、FOOD STYLE21、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、腰痛の改善に有用な医薬品、医薬部外品又は食品、或いはこれらに配合可能な素材又は製剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、鋭意検討したところ、乳脂肪球皮膜が腰痛の改善に有用であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、乳脂肪球皮膜を有効成分とする腰痛改善剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の腰痛改善剤は、腰痛を改善する作用を有し、また、安全性に優れることから、腰痛改善効果を発揮し得る医薬品、医薬部外品又は食品として、或いはこれらに配合可能な素材又は製剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いられる乳脂肪球皮膜は、乳脂肪球を被覆している膜、及び膜を構成する成分の混合物と定義される。乳脂肪球皮膜は、食経験が豊富で安全性が高い。
乳脂肪球皮膜は、一般的に、乾燥重量の約半分が脂質で構成され、当該脂質としては、トリグリセライドやリン脂質、スフィンゴ糖脂質が含まれることが知られている(三浦晋、FOOD STYLE21、2009及びKeenan TW、Applied Science Publishers、1983、pp89-pp130)。リン脂質としては、スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質、ホスファチジルコリンやホスファチジルエタノールアミン等のグリセロリン脂質が含まれることが知られている。
また、脂質以外の成分としては、ミルクムチンと呼ばれる糖タンパク質が含まれることが知られている(Mather、Biochim Biophys Acta、1978)。
【0013】
本発明で用いられる乳脂肪球皮膜は、生理効果の点から、脂質の含有量が、10質量%以上、更に20質量%以上、更に30質量%以上であるのが好ましく、また、風味・ハンドリングの点から、100質量%以下、更に90質量%以下、更に60質量%以下であるのが好ましい。また、乳脂肪球皮膜中の脂質の含有量は、10~100質量%、更に20~90質量%、更に30~60質量%が好ましい。
【0014】
また、乳脂肪球皮膜は、生理効果の点から、リン脂質の含有量が5質量%以上、更に8質量%以上、更に10質量%以上、更に15質量%以上であるのが好ましく、また、風味・ハンドリングの点から、100質量%以下、更に85質量%以下、更に70質量%以下、更に60質量%以下であるのが好ましい。また、乳脂肪球皮膜中のリン脂質の含有量は、5~100質量%、更に8~90質量%、更に10~70質量%、更に15~60質量%が好ましい。
また、乳脂肪球皮膜は、生理効果の点から、リン脂質としてスフィンゴミエリンを含むのが好ましく、乳脂肪球皮膜中のスフィンゴミエリンの含有量が、1質量%以上、更に2質量%以上、更に3質量%以上であるのが好ましく、また、風味・ハンドリングの点から、50質量%以下、更に30質量%以下、更に25質量%以下、更に20質量%以下であるのが好ましい。また、乳脂肪球皮膜中のスフィンゴミエリンの含有量は、1~50質量%、更に2~30質量%、更に3~25質量%、更に3~20質量%が好ましい。
同様の点から、乳脂肪球皮膜の全リン脂質中のスフィンゴミエリン含有量が、3質量%以上、更に5質量%以上、更に10質量%以上、更に15質量%以上であるのが好ましく、また、50質量%以下、更に40質量%以下、更に35質量%以下、更に30質量%以下であるのが好ましい。また、乳脂肪球皮膜の全リン脂質中のスフィンゴミエリン含有量は、3~50質量%、更に5~40質量%、更に10~35質量%、更に15~30質量%が好ましい。
なお、本明細書において、乳脂肪球皮膜中の脂質、リン脂質及びスフィンゴミエリンの含有量、並びに乳脂肪球皮膜の全リン脂質中のスフィンゴミエリン含有量は、乳脂肪球皮膜の乾燥物に対する質量割合とする。
【0015】
乳脂肪球皮膜は、原料乳から遠心分離法や有機溶剤抽出法等の公知の方法により得ることができる。例えば、特開平3-47192号公報に記載の調製方法を用いることができる。また、特許第3103218号公報、特開2007-89535号公報に記載の方法等を用いることができる。
さらに、透析、硫安分画、ゲルろ過、等電点沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、溶媒分画等の手法により精製することにより純度を高めたものを用いてもよい。
なお、乳脂肪球皮膜の形態は、特に限定されず、室温(15~25℃)で液状、半固体状(ペースト等)、固体状(粉末、固形、顆粒等)等のいずれでもよく、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0016】
乳脂肪球皮膜の原料乳としては、牛乳やヤギ乳等が挙げられる。なかでも、食経験が豊富であり、安価な点から、牛乳が好ましい。また、原料乳には、生乳、全粉乳や加工乳等の乳の他、乳製品も含まれ、乳製品としては、バターミルク、バターオイル、バターセーラム、ホエータンパク質濃縮物(WPC)等が挙げられる。
バターミルクは、牛乳等を遠心分離して得られるクリームからバター粒を製造する際に得られ、当該バターミルク中に乳脂肪球皮膜が多く含まれているので、乳脂肪球皮膜としてバターミルクをそのまま使用してもよい。同様に、バターオイルを製造する際に生じるバターセーラム中にも乳脂肪球皮膜が多く含まれているので、乳脂肪球皮膜としてバターセーラムをそのまま使用してもよい。
【0017】
乳脂肪球皮膜は、市販品を用いることもできる。斯かる市販品としては、メグレジャパン(株)「BSCP」、雪印乳業(株)「ミルクセラミドMC-5」、(株)ニュージーランドミルクプロダクツ「Phospholipid Concentrate シリーズ(500,700)」等が挙げられる。
【0018】
後記実施例に示すように、乳脂肪球皮膜は、腰痛改善作用を有する。従って、乳脂肪球皮膜は、腰痛の改善に有用な腰痛改善剤となり得、また、腰痛改善剤を製造するために使用することができる。すなわち、乳脂肪球皮膜は、腰痛が気になるヒトに適用して、腰痛の改善のために使用することができる。
ここで、「改善」とは、症状又は状態の好転、症状又は状態の悪化の防止又は遅延、あるいは症状の進行の逆転、防止又は遅延をいう。また、「使用」は、ヒトへの投与又は摂取であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0019】
本発明の腰痛改善剤は、ヒトを含む動物に摂取又は投与した場合に腰痛改善効果を発揮する医薬品、医薬部外品又は食品となり、また当該腰痛改善剤は、当該医薬品、医薬部外品又は食品に配合して使用される素材又は製剤となり得る。
【0020】
当該食品には、腰痛の改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示食品、サプリメントが包含される。これらの食品は機能表示が許可された食品であるため、一般の食品と区別することができる。
【0021】
上記医薬品(医薬部外品も含む、以下同じ)の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤、シロップ剤等による経口投与が挙げられる。
このような種々の剤型の製剤は、本発明の乳脂肪球皮膜を単独で、又は他の薬学的に許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等や、本発明の乳脂肪球皮膜以外の薬効成分を適宜組み合わせて調製することができる。
なかでも、好ましい剤型は経口投与用の固形製剤であり、錠剤が好ましく、チュアブル錠がより好ましい。
【0022】
医薬品中の本発明の乳脂肪球皮膜の含有量(乾燥物換算)は、一般的に0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。医薬品中の乳脂肪球皮膜の含有量(乾燥物換算)は、好ましくは0.001~90質量%、より好ましくは0.01~80質量%、更に好ましくは0.1~70質量%、更に好ましくは1~60質量%、更に好ましくは10~50質量%、更に好ましくは20~50質量%、更に好ましくは30~50質量%である。
【0023】
上記食品の形態としては、清涼飲料水、茶系飲料、コーヒー飲料、果汁飲料、炭酸飲料、ゼリー、ウエハース、ビスケット、パン、麺、ソーセージ等の飲食品や栄養食等の各種食品組成物の他、さらには、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、トローチ剤等の固形製剤)の栄養補給用組成物が挙げられる。なかでも、錠剤が好ましく、チュアブル錠がより好ましい。
【0024】
種々の形態の食品は、本発明の乳脂肪球皮膜を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、酸味料、甘味料、苦味料、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、乳脂肪球皮膜以外の有効成分等を適宜組み合わせて調製することができる。
【0025】
食品中の本発明の乳脂肪球皮膜の含有量(乾燥物換算)は、その使用形態により異なるが、飲料の形態では、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、また、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。また、食品中の乳脂肪球皮膜の含有量(乾燥物換算)は、飲料の形態では、好ましくは0.001~3質量%、より好ましくは0.01~2質量%、更に好ましくは0.1~1質量%である。
【0026】
錠剤や加工食品等の固形食品の形態では、上記脂肪球皮膜の含有量(乾燥物換算)は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。また、食品中の乳脂肪球皮膜の含有量(乾燥物換算)は、固形食品の形態では、好ましくは0.05~90質量%、より好ましくは0.5~80質量%、更に好ましくは1~70質量%、更に好ましくは5~60質量%、更に好ましくは10~50質量%、更に好ましくは20~50質量%、更に好ましくは30~50質量%である。
【0027】
本発明の腰痛改善剤の投与量又は摂取量は、投与又は摂取対象者の体重、性別、年齢、状態又はその他の要因に従って変動し得る。投与の用量、経路、間隔、及び摂取の量や間隔は、当業者によって適宜決定され得るが、通常、成人1人(60kg)に対して1日あたり、本発明の乳脂肪球皮膜(乾燥物換算)として、好ましくは0.1g以上、より好ましくは0.3g以上、更に好ましくは0.6g以上、更に好ましくは1g以上であり、また、好ましくは30g以下、より好ましくは20g以下、更に好ましくは10g以下、更に好ましくは5g以下である。また、本発明の腰痛改善剤の投与量又は摂取量は、成人1人(60kg)に対して1日あたり、乳脂肪球皮膜(乾燥物換算)として、好ましくは0.1~30g、より好ましくは0.3~20g、更に好ましくは0.6~10g、更に好ましくは1~5gである。本発明では斯かる量を1日に1回~複数回で投与又は摂取するのが好ましい。
【0028】
また、本発明の腰痛改善剤の投与量又は摂取量は、成人1人(60kg)に対して1日あたり、スフィンゴミエリンとして、好ましくは0.1mg以上、より好ましくは1mg以上、更に好ましくは2mg以上、更に好ましくは5mg以上、更に好ましくは10mg以上、更に好ましくは20mg以上であり、また、好ましくは1500mg以下、より好ましくは1000mg以下、更に好ましくは500mg以下、更に好ましくは250mg以下、更に好ましくは100mg以下、更に好ましくは50mg以下である。また、本発明の腰痛改善剤の投与量又は摂取量は、成人1人(60kg)に対して1日あたり、スフィンゴミエリンとして、好ましくは0.1~1500mg、より好ましくは1~1000mg、更に好ましくは2~500mg、更に好ましくは5~250mg、更に好ましくは10~100mg、更に好ましくは20~50mgである。
【0029】
上記製剤は、任意の計画に従って投与又は摂取され得る。
投与又は摂取期間は特に限定されないが、反復・連続して投与又は摂取することが好ましく、5日間以上連続して投与又は摂取することがより好ましく、15日間以上連続して投与又は摂取することが更に好ましい。
【0030】
投与又は摂取対象者としては、腰痛の改善を必要とする若しくは希望するヒトであれば特に限定されないが、腰痛の自覚があるヒトにおける投与又は摂取が有効である。
【0031】
上述した実施形態に関し、本発明においては以下の態様が開示される。
<1>乳脂肪球皮膜を有効成分とする腰痛改善剤。
<2>乳脂肪球皮膜を有効成分とする腰痛改善用食品。
<3>腰痛改善剤を製造するための乳脂肪球皮膜の使用。
<4>腰痛改善に使用するための乳脂肪球皮膜。
<5>乳脂肪球皮膜の有効量を投与又は摂取することによる腰痛改善方法。
<6>上記<4>において、使用は非治療的使用である。
<7>上記<5>において、方法は非治療的方法である。
<8>上記<5>において、投与又は摂取の対象は、腰痛の改善を必要とする若しくは希望するヒトである。
<9>上記<1>~<8>において、乳脂肪球皮膜は、リン脂質を5~100質量%含有するものである。
<10>上記<1>~<8>において、乳脂肪球皮膜は、スフィンゴミエリンを1~50質量%含有するものである。
<11>上記<1>の腰痛改善剤又は<2>の腰痛改善用食品の剤型が経口投与用の固形製剤である。
<12>上記<1>の腰痛改善剤又は<2>の腰痛改善用食品の剤型が錠剤である。
<13>上記<1>~<12>において、乳脂肪球皮膜は、成人1人あたり1日にスフィンゴミエリンとして10~1500mgを投与又は摂取するものである。
【実施例】
【0032】
乳脂肪球皮膜は牛乳から調製したものを使用した。また、乳脂肪球皮膜成分の含水量は2.5質量%であった。
乳脂肪球皮膜の組成は、乾燥物換算で、炭水化物:13.4%、脂質:25.2%、タンパク質:53.4%であった。また、乳脂肪球皮膜中、リン脂質の含有量は乾燥物換算で20.4%であり、スフィンゴミエリンの含有量は3.72%であった。
【0033】
上記の乳脂肪球皮膜の分析は次のとおり行った。
(1)タンパク質の分析
タンパク質量はケルダール法を用いて、窒素・タンパク質換算係数6.38として求めた。
【0034】
(2)脂質の分析
脂質量は酸分解法で求めた。試料を1g量りとり、塩酸を加え分解した後、ジエチルエーテル及び石油エーテルを加え、攪拌混和した。エーテル混合液層を取り出し、水洗した。溶媒を留去させ、乾燥させた後、重量を秤量することで脂質量を求めた。
【0035】
(3)炭水化物の分析
炭水化物量は試料の質量から試料中のタンパク質量、脂質質量、灰分量、及び水分量を除くことにより求めた。なお、灰分量は直接灰化法 (550℃で試料を灰化させ重量測定)、水分量は常圧加熱乾燥法 (105℃4時間乾燥させ重量測定)により求めた。
【0036】
(4)リン脂質の分析
試料1gを量りとり、クロロホルム及びメタノールの2:1(V/V)混液150mL、100mL、及び20mL中でホモジナイズ後、0.88質量%(W/V)塩化カリウム水溶液93mLを添加し、一晩室温で放置した。脱水ろ過、溶媒留去後、クロロホルムを添加し総量を50mLとした。そのうち2mLを分取し、溶媒留去後、550℃16時間加熱処理により灰化した。灰分を6M塩酸水溶液5mLに溶解後、蒸留水を添加し、総量を50mLとした。3mLを分取し、モリブデンブルー発色試薬5mL、5質量%(W/V)アスコルビン酸水溶液1mL及び蒸留水を添加し総量を50mLとし、710nmの吸光度を測定した。リン酸2水素カリウムを用いた検量線からリン量を求め、リン量に25.4をかけた値をリン脂質量とした。
【0037】
(5)スフィンゴミエリンの分析
試料1gを量りとり、クロロホルム及びメタノールの2:1(V/V)混液150mL、100mL、及び20mL中でホモジナイズ後、0.88質量%(W/V)塩化カリウム水溶液93mLを添加し、一晩室温で放置した。脱水ろ過、溶媒留去後、クロロホルムを添加し総量を50mLとした。そのうち10mLを分取し、シリカカートリッジカラムに添加した。カラムをクロロホルム20mLで洗浄後、メタノール30mLでリン脂質を溶出し、溶媒留去後クロロホルム1.88mLに溶解した。シリカゲル薄層プレートに20μLを負荷し、1次元展開溶媒としてテトラヒドロフラン:アセトン:メタノール:水=50:20:40:8(V/V)、2次元展開溶媒としてクロロホルム:アセトン:メタノール:酢酸:水=50:20:10:15:5(V/V)を用いて2次元展開を行った。展開後の薄層プレートにディトマー試薬を噴霧し、スフィンゴミエリンのスポットをかきとり、3質量%(V/V)硝酸含有過塩素酸溶液2mL添加後、170℃3時間の加熱処理を行った。蒸留水5mL添加後モリブデンブルー発色試薬5mL、5質量%(W/V)アスコルビン酸水溶液1mL及び蒸留水を添加し総量を50mLとし、710nmの吸光度を測定した。リン酸2水素カリウムを用いた検量線からリン量を求め、リン量に25.4をかけた値をスフィンゴミエリン量とした。
【0038】
試験例1
日本薬局方(製剤総則「錠剤」)に準じて、下記表1に示す組成のタブレット(450mg/錠)を調製した。
【0039】
【0040】
腰痛の自覚がある50~60歳代の健常男女7名を二つの群に分け、一方の群(MFGM群:4名)には1日あたり1gの乳脂肪球皮膜(MFGM)を含むタブレットを、もう一方の群(プラセボ群:3名)には対照としてMFGMのかわりに全粉乳を含むタブレットを摂取させながら、週2回の定期的な軽運動(1回あたり運動量:トレッドミル歩行15分間及び自転車漕ぎ運動15分)を10週間継続して実施させた。
【0041】
試験終了後、被験者7名(MFGM群:4名、プラセボ群:3名)に、タブレット摂取開始前に感じた腰痛の症状に対して、現在の状態を、「改善」、「やや改善」、「少し改善」、「変化なし」、「悪化」の5段階で自己評価してもらった。結果を表2に示す。
【0042】
【0043】
表2より明らかなように、プラセボ群は3人中3人全員が初期症状に対して変化を感じられなかったのに対して、MFGM摂取群は4人中2人が改善、1人が少し改善、1人が変化なしと回答し、4人中3人が何らかの改善を実感していることが分かった。いずれの群も定期的な軽運動を行っていたにも関わらず、MFGM群のみで改善の実感が得られていることから、運動ではなく、MFGMの摂取が腰痛症状の改善に寄与していることが示唆された。