(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】放射線検出用ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 4/12 20060101AFI20231206BHJP
C03C 3/064 20060101ALI20231206BHJP
C03C 3/066 20060101ALI20231206BHJP
C03C 3/17 20060101ALI20231206BHJP
C03C 3/19 20060101ALI20231206BHJP
G01T 1/06 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C03C4/12
C03C3/064
C03C3/066
C03C3/17
C03C3/19
G01T1/06
(21)【出願番号】P 2017111420
(22)【出願日】2017-06-06
【審査請求日】2020-05-15
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2017035685
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池田 光
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 克
(72)【発明者】
【氏名】中根 慎護
(72)【発明者】
【氏名】高山 佳久
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 良憲
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】立木 林
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-38310(JP,A)
【文献】特開2016-145145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、SiO
2+B
2O
3 4.0~30%、SiO
2 0~20%、B
2O
3 0~10%、P
2O
5 40~70%、Al
2O
3 10~30%、Na
2O 10~25%、Ag
2O 0.01~2%
、MgO 0~10%、ZnO 0~10%を含有し、モル比で、P
2O
5/(SiO
2+B
2O
3+Al
2O
3)が3.1以下であることを特徴とする放射線検出用ガラス。
【請求項2】
モル比で、P
2O
5/(SiO
2+B
2O
3+Al
2O
3)が2.4以上であることを特徴とする請求項
1に記載の放射線検出用ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線の線量当量を計測するために好適な放射線検出用ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線検出用ガラスは、放射線被ばく線量を測定するための検出物質として、医療分野、原子力分野等の放射線を取り扱う分野において広く用いられている。なお、ここで放射線とはベータ線、ガンマ線またはエックス線等を指す。一般に放射線検出用ガラスには、例えば、銀イオンを含有したリン酸塩ガラスが用いられている。このガラスに放射線を照射すると、ガラス中に正孔と電子が生成し、生成した正孔と電子がガラス中のAg+イオンに捕捉されてAg2+、Ag0となる。ガラス中のAg2+、Ag0を、波長300~400nmの紫外光により励起すると蛍光を発する(ラジオフォトルミネッセンス現象、以下「RPL現象」と示す。)。
【0003】
RPL現象による蛍光強度は照射された放射線の線量当量(以下、「放射線量」と記す。)に比例するので、蛍光強度を測定する事により放射線量を計測する事が出来る。このガラスの放射線量に対する蛍光検出感度は、ガラスの組成に応じて変化する。RPL現象によってガラス中に生成した蛍光中心は近接配位原子との相互作用により安定化し、室温下では蛍光中心の消失が起こらないため、長期間にわたり放射線量の計測が可能である。また、ガラス中に生成した蛍光中心は加熱処理により消失するため、繰り返して使用することが可能である。
【0004】
ところで、放射線検出用ガラスは、高温高湿環境下で使用される場合があり、高い耐候性が必要になる。耐候性が悪いと、放射線未照射時にガラス自身が有する蛍光(以下、「プレドーズ」と示す。)が増加し、放射線量の計測を阻害する問題がある。更に、ガラス表面のひび割れや異物の発生等の問題が生じる。
【0005】
そこで、放射線検出用ガラスの耐候性を向上させるために、例えば特許文献1には、オルトリン酸アルミニウム等を原料として使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているガラスは、耐候性の向上を図っているが蛍光検出感度が十分に確保できないという問題があった。
【0008】
以上に鑑み、本発明は、高い蛍光検出感度及び高い耐候性を有する放射線検出用ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、種々の実験を繰り返した結果、ガラス組成を厳密に規制することにより上記技術的課題を解決しえることを見出した。
【0010】
即ち、本発明の放射線検出用ガラスは、モル%で、SiO2+B2O3 0.1~30%、SiO2 0~20%、B2O3 0~10%、P2O5 40~70%、Al2O3 10~30%、Na2O 10~30%、Ag2O 0.01~2%を含有することを特徴とする。
【0011】
ガラス組成中にAg2Oを導入することにより、高い蛍光検出感度を有しやすくなる。さらに、ガラス組成中にSiO2及び/またはB2O3と、Al2O3とを所定量導入することにより、蛍光検出感度を高い状態に保ちながら耐候性を高めやすくなる。
【0012】
本発明の放射線検出用ガラスは、モル%で、さらにMgO 0~10%、ZnO 0~10%を含有することが好ましい。
【0013】
本発明の放射線検出用ガラスは、モル比で、P2O5/(SiO2+B2O3+Al2O3)が1.5以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い蛍光検出感度及び高い耐候性を有する放射線検出用ガラスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の放射線検出用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2+B2O3 0.1~30%、SiO2 0~20%、B2O3 0~10%、P2O5 40~70%、Al2O3 10~30%、Na2O 10~30%、Ag2O 0.01~2%を含有する。
【0016】
ガラス組成を上記のように限定した理由を以下に示す。なお、各成分の含有量の説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。
【0017】
SiO2及びB2O3は、ガラスの耐候性を高めるために重要な成分であり、また蛍光検出感度を高める成分である。SiO2+B2O3の含有量は0.1~30%であり、0.3~25%、0.5~19%、0.7~17%、1~15%、特に1.5~10%であることが好ましい。SiO2+B2O3の含有量が少なすぎると、耐候性が著しく低下し易い。SiO2+B2O3の含有量が多すぎると、ガラス化し難くなることに加えて、逆に耐候性が低下し易くなる。なお、「SiO2+B2O3」は、SiO2及びB2O3の各含有量の合量を意味する。
【0018】
SiO2及びB2O3の好ましい範囲は以下の通りである。
【0019】
SiO2は、ガラスの耐候性を高めるために重要な成分であり、また蛍光検出感度、ガラスの機械的強度を高める成分である。SiO2の含有量は0~20%であり、0.1~19%、0.1~18%、0.5~17%、0.7~16%、1~15%、特に1.5~10%であることが好ましい。SiO2の含有量が多過ぎると、溶融性が低下しガラス化し難くなることに加えて、クリストバライト等の失透結晶が析出し易くなる。
【0020】
B2O3は、ガラスの耐候性を高めるために重要な成分であり、また蛍光検出感度を高める成分である。B2O3の含有量は0~10%であり、0.1~10%、0.1~9%、0.5~8%、0.7~7%、1~6%、特に1.5~5%であることが好ましい。B2O3の含有量が多過ぎると、分相によってガラス化し難くなることに加えて、逆に耐候性が低下し易くなる。
【0021】
P2O5は、ガラスの骨格を形成する主成分である。P2O5の含有量は40~70%であり、45~67%、47~65%、50~63%、特に55~63%であることが好ましい。P2O5の含有量が少な過ぎると、蛍光検出感度の低下が起こり易く、またガラスが分相、失透し易くなる。一方、P2O5の含有量が多過ぎると、溶融性が低下しガラス化し難くなる。
【0022】
Al2O3は、ガラスの耐候性を高める成分であると共に、分相、失透を抑制する成分である。Al2O3の含有量は10~30%であり、11~28%、13~26%、14~24%、特に15~23%であることが好ましい。Al2O3の含有量が少な過ぎると、耐候性が低下し易くなる。一方、Al2O3の含有量が多過ぎると、溶融性が低下しガラス化し難くなる。
【0023】
P2O5/(SiO2+B2O3+Al2O3)は1.5以上、1.6以上、特に1.7以上であることが好ましい。P2O5/(SiO2+B2O3+Al2O3)が小さ過ぎると分相や失透が起り易くなって、ガラス化し難くなる。また、P2O5/(SiO2+B2O3+Al2O3)の上限は特に限定されないが、P2O5/(SiO2+B2O3+Al2O3)が大き過ぎるとガラス化し難くなったり、耐候性が低下し易くなるため、5以下、4.5以下、特に4以下であることが好ましい。なお、「P2O5/(SiO2+B2O3+Al2O3)」はP2O5の含有量をSiO2、B2O3及びAl2O3の合量で除した値を指す。
【0024】
なお、P2O5/(B2O3+Al2O3)は1.5以上、1.6以上、特に1.7以上であることが好ましい。P2O5/(B2O3+Al2O3)が小さ過ぎると分相や失透が起り易くなって、ガラス化し難くなる。また、P2O5/(B2O3+Al2O3)の上限は特に限定されないが、現実的には、5以下、4.5以下、特に4以下であることが好ましい。なお、「P2O5/(B2O3+Al2O3)」はP2O5の含有量をB2O3及びAl2O3の合量で除した値を指す。
【0025】
Na2Oはガラス融液の粘度を下げて、溶融性を顕著に高める成分であると共に、蛍光検出感度を高める成分である。Na2Oの含有量は10~30%であり、11~28%、13~27%、14~26%、特に15~25%であることが好ましい。Na2Oの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下し易くなることに加えて、蛍光検出感度が低下しやすくなる。一方、Na2Oの含有量が多過ぎると、耐候性が低下し易くなる。
【0026】
Ag2OはRPL現象によって蛍光中心を形成するための重要な成分である。Ag2Oの含有量は、0.01~2%であり、0.01~1%、特に0.01~0.5%であることが好ましい。Ag2Oの含有量が少な過ぎると蛍光検出感度が低下し易くなる。一方、Ag2Oの含有量が多過ぎると耐候性が低下し易くなる。
【0027】
本発明の放射線検出用ガラスは、上記成分以外にも以下の成分を含有することができる。
【0028】
MgOはガラスの耐候性を高める成分である。MgOの含有量は0~10%、0~7%、特に0~4%であることが好ましい。MgOの含有量が多過ぎると、液相温度が上昇して、リン酸マグネシウム等の失透結晶が析出し易くなる。
【0029】
ZnOはガラスの分相、失透を抑制する成分である。ZnOの含有量は0~10%、0~7%、特に0~4%であることが好ましい。ZnOの含有量が多過ぎると、耐候性、蛍光検出感度が低下し易くなる。
【0030】
CaO、SrO及びBaOはガラスの耐候性を高める成分である。CaO+SrO+BaOの含有量は0~15%、0~10%、特に0~5%であることが好ましい。CaO+SrO+BaOの含有量が多すぎると蛍光検出感度が低下し易くなり、また液相温度が低下して、リン酸塩等の失透結晶が析出し易くなる。
【0031】
なお、CaO、SrO及びBaOの含有量の好ましい範囲は以下の通りである。
【0032】
CaOの含有量は0~15%、0~10%、特に0~5%であることが好ましい。
【0033】
SrOの含有量は0~15%、0~10%、特に0~5%であることが好ましい。
【0034】
BaOの含有量は0~15%、0~10%、特に0~5%であることが好ましい。
【0035】
なお、本発明の放射線検出用ガラスの具体的な組成例として、モル%で、B2O3 0.1~10%、P2O5 40~70%、Al2O3 10~30%、Na2O 10~30%、Ag2O 0.01~2%を含有するものが挙げられる。
【0036】
本発明の放射線検出用ガラスは、ガラス転移点が600℃以下、550℃以下、特に530℃以下であることが好ましい。ガラス転移点が高すぎると、後述する熱処理温度が高くなるため、熱処理時にB2O3、P2O5、Na2Oが蒸発し組成ズレが起こりやすくなり、所望の特性が得られにくくなる。ガラス転移点の下限は特に限定されないが、現実的には300℃以上である。
【0037】
次に本発明の放射線検出用ガラスの製造方法について説明する。
【0038】
まず、所望の組成になるように調合した原料粉末を、均質なガラスが得られるまで溶融する。ここで、ガラス溶融用容器としては、石英ガラス、耐火物、グラッシーカーボン、白金や金等の金属等が使用できる。次いで、溶融ガラスをカーボン板等の上に流し出し、板状に成形した後、常温まで徐冷する。徐冷条件としては、例えば、徐冷点より約20℃高い温度から約2℃/分で降温することが好ましい。このようにして、放射線検出用ガラスを得ることができる。得られた放射線検出用ガラスは、個人被ばく線量計測、環境中の放射線計測に用いることができる。
【0039】
なお、溶融時の酸素分圧が低くなるとAg成分が還元され易くなり、ガラス中にAg0が生成しやすくなる。ガラス中にAg0が多く存在すると、プレドーズ値が高くなり、蛍光検出感度が低下し易くなる。そこで、Ag成分の還元を抑制するために、溶融温度を1000~1400℃と低くするか、または、原料として酸化剤である硝酸塩を使用することが望ましい。なお、硝酸塩としては、硝酸銀、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム等を用いることができる。
【0040】
次に、放射線検出用ガラスを用いて蛍光強度測定を行った後、再生する一連の流れについて説明する。
【0041】
(自然放射線による蛍光中心の消失)
まず、得られた放射線検出用ガラスの両面を光学研磨面(鏡面)となるように研磨した後、熱処理し、自然放射線によって形成された蛍光中心を消失させる。
【0042】
(放射線量の測定)
続いて、放射線検出用ガラスが受けた放射線量を測定する。具体的には、放射線検出用ガラスに放射線が照射されると、ガラス中にAg2+、Ag0が形成される。その後、下記の熱処理条件で熱処理し蛍光強度を安定化した後、紫外光を照射して蛍光強度を測定する。この蛍光強度から放射線量を算出する。
【0043】
熱処理温度は、(ガラス転移点/4)~(ガラス転移点/2.5)、特に(ガラス転移点/3.5)~(ガラス転移点/2.7)であることが好ましい。熱処理温度が低すぎると、蛍光強度が安定化しにくく、放射線量測定値の再現性が低くなり易い。一方、熱処理温度が高すぎると、長期保管時に蛍光強度が低下し易く、放射線量測定値の再現性が低くなり易い。具体的には、熱処理温度は、105~200℃、特に110~180℃であることが好ましい。また、熱処理時間は、10~120分、特に20~70分であることが好ましい。熱処理時間が短過ぎると、ガラス内部にまで熱が伝わりにくいため、蛍光強度が安定化しにくく、放射線量測定値の再現性が低くなり易い。一方、熱処理時間が長過ぎると、長期保管時に蛍光強度が低下し易く、放射線量測定値の再現性が低くなり易い。
【0044】
(ガラスの再生)
蛍光強度測定後のガラスを下記の熱処理条件で熱処理することにより、ガラスを再生(再利用)することができる。
【0045】
熱処理温度は、(ガラス転移点-80℃)~(ガラス転移点-10℃)、(ガラス転移点-55℃)~(ガラス転移点-15℃)、(ガラス転移点-40℃)~(ガラス転移点-15℃)、特に(ガラス転移点-25℃)~(ガラス転移点-20℃)であることが好ましい。熱処理温度が低すぎると、ガラス中に形成された蛍光中心を十分に消失させにくく、ガラスを再生し難くなる。一方、熱処理温度が高すぎると、ガラス表面の銀イオン濃度が高まりガラスが変質しやすくなるため、ガラスを再生し難くなる。具体的には、熱処理温度は、420~500℃、430~490℃、440~480℃、特に450~470℃であることが好ましい。また、熱処理時間は、20~150分、30~120分、40~90分、特に50~70分であることが好ましい。熱処理時間が短過ぎると、ガラス内部にまで熱が伝わりにくいため、ガラス中に形成された蛍光中心を十分に消失させにくく、ガラスを再生し難くなる。一方、熱処理時間が長過ぎると、ガラス表面の銀イオン濃度が高まりガラスが変質しやすくなるため、ガラスを再生し難くなる。なお、ガラスを再生することにより、繰り返し使用することが可能になる。使用回数が多いほど、コストダウンに繋がることは言うまでもない。なお、自然放射線によって形成された蛍光中心を消失させる際の熱処理条件も上記と同様にすることが好ましい。
【0046】
ちなみに、SiO2またはB2O3を含有するガラスは熱処理によるガラスの再生が不十分になり易い。これは、ガラスがSiO2またはB2O3を含有すると、粘度が高くなって正孔や電子の動きを妨げるため、Ag2+、Ag0がAg+に戻り難くなるためであると考えられる。そこで、SiO2またはB2O3を含有するガラスを上記の通り比較的高い温度で熱処理することで、ガラスの粘度を低下させ、正孔や電子の動きを活性化することができる。結果として、Ag2+、Ag0をAg+に十分に戻すことができ、放射線検出用ガラスを再生することが可能になる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0048】
本発明の実施例(No.1~15)及び比較例(No.16)のガラスの組成、蛍光検出感度及び耐候性を表1及び2に示す。
【0049】
【0050】
【0051】
まず表中のガラス組成になるように、各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の通常のガラスに使用される高純度原料を選定し、秤量して均一に混合したガラスバッチを石英ガラスるつぼに投入し、電気炉にて1000~1300℃で1~5時間、均質なガラスが得られるまで溶融した。なお、ガラスの均質化及び泡切れ等を目的として、溶融時に攪拌を行った。次いで、溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、板形状に成形した後、徐冷点より20℃程度高い温度から2℃/分で常温まで徐冷した。得られた各試料について、耐候性と所定の放射線量を照射した後の蛍光検出感度を評価した。
【0052】
耐候性の評価には、プレドーズ値を用いた。詳細には、両面を光学研磨面(鏡面)となるように研磨した試料を超音波洗浄し、120℃で10分間乾燥させ、試験前の試料を得た。その後、温度50℃、湿度95%の環境下で40時間静置し、試験後の試料を得た。試験前の試料の光学研磨面に紫外光を照射して測定した蛍光強度を[試験前のプレドーズ値]、試験後の試料の光学研磨面に紫外光を照射して測定した蛍光強度を[試験後のプレドーズ値]とした。プレドーズ値の変化を[試験後のプレドーズ値]/[試験前のプレドーズ値]として算出した。
【0053】
蛍光検出感度の評価には、両面を光学研磨面(鏡面)となるように研磨した試料を使用した。試料を400℃で1時間熱処理する事で、自然放射線によって形成された蛍光中心を消失させた後、試料の光学研磨面の垂直方向から約1Gyのエックス線を照射した。エックス線照射後に100℃で30分熱処理し、蛍光中心の生成が完了した後、試料の光学研磨面に紫外光を照射して測定した蛍光強度を蛍光検出感度とした。なお、表に記載の蛍光検出感度の値は、No.16の試料の蛍光強度を1としたときの相対値である。
【0054】
表から明らかなように、本発明の実施例であるNo.1~15の試料は蛍光検出感度が1.5~3.1と高かった。また、No.1~15の試料は、プレドーズ値の変化が1.15以下と小さく、耐候性が高かった。一方、比較例であるNo.16の試料は、プレドーズ値の変化が2.24と大きいため耐候性が低く、また、蛍光検出感度も低かった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の放射線検出用ガラスは、放射線の個人被ばく線量計、環境中の放射線計測、放射線治療時の患者の被ばく量モニタリング等に用いるガラスとして好適である。なお、ここで放射線とはベータ線、ガンマ線またはエックス線等を指す。