(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】ガスを検出するためのセンサ装置
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20231206BHJP
G01N 11/16 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G01N5/02 A
G01N11/16 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019117075
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】10 2018 210 387.9
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】レナーテ・ミューラー
(72)【発明者】
【氏名】トビアス・ゼーバスティアン・フライ
(72)【発明者】
【氏名】ヨッヘン・ラインムート
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・ピンター
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-189537(JP,A)
【文献】特表2017-527802(JP,A)
【文献】特開2004-219386(JP,A)
【文献】特開昭60-238742(JP,A)
【文献】特表2017-525959(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0184531(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/00-9/36
G01N 11/00-13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを検出するためのセンサ装置(100)であって、
測定ガス(200)を収容するための測定容積(120)およびを測定容積(120)内に配置したセンサ素子(130)を有する微小電気機械センサ(110)であって、基板(101)に対して弾性的に偏位可能に構成された微小電気機械センサ(110)と、
センサ素子(130)の振動を発生させるための駆動装置(161)と、
センサ素子(130)の振動の少なくとも1つの振動パラメータを検出するための検出装置(163)と、
測定ガス(200)の粘度に基づいて測定ガス(200)の少なくとも1つの成分の濃度を決定するための制御装置(160)であって、センサ素子(130)の振動の少なくとも1つの振動パラメータを評価することによって測定ガス(200)の粘度を決定するように構成された制御装置(160)と、
を含む、ガスを検出するためのセンサ装置(100)において、
前記センサ装置(100)が、前記測定ガス(200)の異なる温度を設定するための加熱装置(170)をさらに含み、制御装置(170)が、測定ガス(200)の異なる温度で前記センサ素子(130)の振動に対する測定ガス(200)の減衰度を個々に決定し、異なる温度で決定した減衰度を一緒に評価することによって測定ガス(200)の少なくとも1つの成分の濃度を決定するように構成された、
センサ装置(100)。
【請求項2】
請求項
1に記載のセンサ装置(100)において、
前記加熱装置(170)が少なくとも1つの電気的な加熱素子(171)を含み、該加熱素子が、前記基板(101)上の、前記測定容積(120)を覆うキャップ構造(140,150)内もしくはキャップ構造(140,150)に配置され、および/または前記センサ素子(130)に配置された、センサ装置(100)。
【請求項3】
ガスを検出するためのセンサ装置(100)であって、
測定ガス(200)を収容するための測定容積(120)およびを測定容積(120)内に配置したセンサ素子(130)を有する微小電気機械センサ(110)であって、基板(101)に対して弾性的に偏位可能に構成された微小電気機械センサ(110)と、
センサ素子(130)の振動を発生させるための駆動装置(161)と、
センサ素子(130)の振動の少なくとも1つの振動パラメータを検出するための検出装置(163)と、
測定ガス(200)の粘度に基づいて測定ガス(200)の少なくとも1つの成分の濃度を決定するための制御装置(160)であって、センサ素子(130)の振動の少なくとも1つの振動パラメータを評価することによって測定ガス(200)の粘度を決定するように構成された制御装置(160)と、
を含む、ガスを検出するためのセンサ装置(100)において、
センサ装置(100)がさらに基準センサ(190)を含み、基準センサ(190)が、外側容積(210)に対して閉じられ、基準ガス(195)を含む基準容積(191)を含み、該基準容積の内部にセンサ素子(192)が配置され、制御装置(170)が、基準センサ(190)を用いて決定した測定データを、前記
微小電気機械センサ(110)を用いて決定した測定データを補正するために使用するように構成さ
れ、
前記基準センサ(190)が、前記基準容積(191)と前記外側容積(210)との間の圧力補償をもたらす可撓性の圧力補償膜(194)を含む、
センサ装置(100)。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれか一項に記載のセンサ装置(100)において、
前記センサ素子(130)が、互いにかみ合う複数のフィンガ構造(133,136)を有する少なくとも2つのセンサ部分(131,134)を含む櫛形構造として構成され、少なくとも1つのセンサ部分(131,134)が、それぞれ他のセンサ部分(131,134)に対して弾性的に偏位可能に構成された、センサ装置(100)。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のセンサ装置(100)において、
前記センサ装置(100)が、前記測定ガス(200)の現在の温度および/または現在の圧力を決定するための少なくとも1つの付加的なセンサ(165,166)を含み、
制御装置(170)が、付加的なセンサ(165,166)によって決定されたパラメータを使用して、前記センサ素子(130)の振動を評価することによって決定した測定ガス(200)の少なくとも1つの成分の濃度を計算および/または補正するように構成された、センサ装置(100)。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載のセンサ装置(100)において、
前記測定容積(120)が、キャップ構造(140,150)によって外側容積(210)に対して少なくとも一方側で制限され、キャップ構造(140,150)が、測定容積(120)と外側容積(120)との間で測定ガス(200)を交換するための少なくとも1つの開口部(141,151)またはガス透過膜(142)を含む、センサ装置(100)。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載のセンサ装置(100)のための微小電気機械センサ(110)において、
測定ガス(200)を収容するための測定容積(120)を有する基板(101)と、
測定容積(120)内に配置したセンサ素子(130)であって、前記基板(101)に対して弾性的に偏位可能に構成されたセンサ素子(130)と、
センサ素子(130)の振動を発生させるための駆動装置(161)と、
を含む微小電気機械センサ(110)。
【請求項8】
測定ガス(200)の粘度に基づいて測定ガス(200)の少なくとも1つの成分の濃度を決定するための、請求項1~
6のいずれか一項に記載のセンサ装置(100)のための制御装置(160)であって、
制御装置(160)が、測定ガス(200)の粘度を、前記センサ素子(130)の振動の少なくとも1つの振動パラメータを評価することによって決定するように構成された、
制御装置(160)。
【請求項9】
請求項1~
6のいずれか一項に記載のセンサ装置(100)によってガスを検出する方法において、
センサ装置(100)が、測定容積(120)を有する微小電気機械センサと、測定容積(120)内で弾性的に偏位可能に配置されたセンサ素子(130)とを含み、前記方法が、
検出されるべき測定ガス(200)を測定容積(120)内に供給するステップ、
センサ素子(130)の振動を発生させるステップ、
センサ素子(130)の振動の少なくとも1つの振動パラメータを検出するステップ、
検出した振動パラメータを評価することによって測定ガス(200)の粘度を決定するステップ、および、
測定ガス(200)の決定した粘度に基づいて測定ガス(200)の少なくとも1つの成分の濃度を決定するステップ、
を含
み、
前記測定ガス(200)を異なる温度に加熱し、測定ガス(200)の異なる温度に対する測定ガス(200)の粘度を個別に決定し、
異なる温度について決定した測定ガス(200)の粘度を一緒に評価することによって、測定ガス(200)の少なくとも1つの成分の濃度を決定する、
方法。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載のセンサ装置(100)によってガスを検出する方法において、
センサ装置(100)が、測定容積(120)を有する微小電気機械センサと、測定容積(120)内で弾性的に偏位可能に配置されたセンサ素子(130)とを含み、前記方法が、
検出されるべき測定ガス(200)を測定容積(120)内に供給するステップ、
センサ素子(130)の振動を発生させるステップ、
センサ素子(130)の振動の少なくとも1つの振動パラメータを検出するステップ、
検出した振動パラメータを評価することによって測定ガス(200)の粘度を決定するステップ、および、
測定ガス(200)の決定した粘度に基づいて測定ガス(200)の少なくとも1つの成分の濃度を決定するステップ、
を含み、
センサ素子(130)の振動の少なくとも1つの振動パラメータを測定および評価することによって測定ガス(200)の粘度を決定し、前記少なくとも1つの振動パラメータが、
測定ガス(200)との相互作用によって減衰されるセンサ素子(130)の振動の一定の振幅を保持するために必要な駆動装置のエネルギー供給、
測定ガス(200)との相互作用によって減衰されるセンサ素子(130)の振動の振動時間および/または減衰時間、
測定ガス(200)との相互作用によって減衰されるセンサ素子(130)の振動の共振周波数の変化、
測定ガス(200)との相互作用によって減衰されるセンサ素子(130)の振動の減衰度および/または品質係数、
である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを検出するためのセンサ装置に関する。さらに本発明は、このようなセンサ装置のための微小電気機械センサおよび制御装置、ならびにガスを検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス状の物質を検出するためには、周囲の空気の化学的情報を電気的に有効な信号に変換する特殊なガスセンサが使用される。種々のガス検出方法が知られており、これらの方法は、それぞれ使用される測定原理によって基本的に異なる。例えば酸化性、反応性、および再現性など、ガスの化学的特性を利用する化学的測定方法と並んで、例えば電気的、磁気的、誘電的、光学的または熱的特性など、測定されるべきガスの種々の物理的特性を検出する物理的測定方法も使用される。さらに、測定されるガスとの化学的または物理的な相互作用によって生じる、センサの所定の特性の変化を検出する測定方法も知られている。これらの測定方法は、とりわけ、ガス分子の吸収に基づいた質量変化を検出する重量測定センサ、または測定されるガスによって影響されるガス感応性のセンサ層の導電率を検出する抵抗ガスセンサを含む。ドイツ連邦共和国特許出願公開第4244224号明細書により、例えば、熱量測定原理を使用するガスセンサが知られている。さらにドイツ連邦共和国特許出願公開第19804326号明細書により、振動する曲げ舌片によって媒体の粘度および密度を検出するガスセンサも知られている。さらに国際公開第2007/038180号は、水素の濃度を測定するために振動する水晶フォークを使用するガスセンサを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】ドイツ連邦共和国特許出願公開第4244224号明細書
【文献】ドイツ連邦共和国特許出願公開第19804326号明細書
【文献】国際公開第2007/038180号
【発明の概要】
【0004】
したがって、本発明の課題は、ガスもしくは流体を検出するための代替的な方法を提供することである。この課題は、請求項1に記載のセンサ装置によって解決する。さらにこの課題は、請求項9に記載の方法によって解決する。本発明のさらなる有利な実施形態が従属請求項に記載している。
【0005】
本発明によれば、測定ガスを収容するための測定容積を有する微小電気機械センサと、測定容積内に配置したセンサ素子とを含む、ガスを検出するためのセンサ装置を提供する。センサ素子は、基板に対して弾性的に偏位可能に構成している。さらにセンサ装置は、センサ素子の振動を発生させるための駆動装置と、センサ素子の振動を検出するための検出装置と、測定ガスによって引き起こされる、センサ素子の振動の減衰に基づいて測定ガスの少なくとも1つの成分の濃度を決定するための制御装置とを備える。この場合、制御装置は、センサ素子の振動を評価することによってセンサ素子の減衰度を決定するように構成している。このようなセンサ装置によって、複数のガスを互いに独立して検出することが可能である。測定原理に基づいて、センサは、測定ガスとの直接の接触にもかかわらず、劣化しないかまたは少ししか劣化せず、このことは特に長い寿命につながる。化学センサとは異なり、ここに提示した測定概念では、検出素子の飽和または汚染のリスクもない。さらにセンサ装置は、適切なフォトリソグラフィ方法によって特に安価に製造することができる。
【0006】
一実施形態では、センサ素子は、互いにかみ合うフィンガ構造を有する少なくとも2つのセンサ部分を含む櫛形構造として構成している。この場合、少なくとも1つのセンサ部分は、それぞれ他のセンサ部分に対して弾性的に偏位可能である。多数の互いにかみ合い、相互作用するフィンガ構造に基づいて、センサとガスとの間に特に大きな相互作用面が生じるので、櫛形構造によって減衰度を特に正確に決定することができる。これにより、測定ガスの粘度の最小の変化あっても検出することができる。櫛形構造におけるフィンガ構造の動きは、有効センサ表面全体にわたって実質的に一様に行われるので、測定ガスのわずかな局所的な温度差しか生じない。したがって、測定ガスの温度を特に正確に検出することができ、これにより測定精度をさらに向上させることができる。最後に、櫛形構造は、加速度を検出するための慣性センサとして付加的に使用することができ、これによりセンサ装置の機能が拡張される。慣性センサの製造プロセスはよく知られているので、これらのセンサは極めて安価にかつ確実に製造することができる。
【0007】
別の実施形態では、センサ装置は、測定ガスの現在の温度および/または現在の圧力を決定するための少なくとも1つの付加的なセンサをさらに含む。この場合、制御装置は、付加的なセンサによって決定したパラメータを使用して、センサ素子の振動を評価することによって決定した測定ガスの少なくとも1つの成分の濃度を計算および/または補正するように構成している。これにより、環境の影響、圧力および温度に起因する測定ガスの粘度の変化を特に効果的に補正することができる。したがって、フォトリソグラフィによってヒータを極めて正確に製造することができるので、特に正確な測定が可能になる。
【0008】
別の実施形態では、センサ装置は、測定ガスの異なる温度を設定するための加熱装置をさらに含み、制御装置は、測定ガスの異なる温度でセンサ素子の振動に対する測定ガスの減衰度を個々に決定し、異なる温度で個々に決定した減衰度を一緒に評価することによって測定ガスの少なくとも1つの成分の濃度を決定するように構成している。これにより、異なるガス混合物を互いに区別することが可能になる。特に、この場合にガス混合物の個々の成分の濃度を決定することができる。しかしながら、異なる温度で粘度を測定し、評価することにより、1つの成分のみを有するガスの場合にも測定精度を改善することが可能になる。
【0009】
別の実施形態では、加熱装置は少なくとも1つの電気的な加熱素子を含み、この加熱素子は、基板上の、測定容積を覆うキャップ構造内もしくはキャップ構造に配置し、および/またはセンサ素子センサ素子に配置している。センサ素子のすぐ近くに加熱素子を直接に配置することにより、測定ガスの温度を特に正確に設定することができ、これにより特に高い測定精度が際立つ。この場合、基板に配置した加熱素子は、例えば、容量性の駆動装置または対応する検出装置の基板側の電極としての役割を果たすことができる。同じことが、測定体積を覆うキャップ構造または偏位可能なセンサ素子に加熱素子を配置する場合にも当てはまる。このように、センサ装置の様々な機能をまとめることができる。
【0010】
別の実施形態では、測定容積は、キャップ構造によって外側容積に対して少なくとも一方側で制限されている。この場合、キャップ構造は、測定容積と外側容積との間で測定ガスを交換するための少なくとも1つの開口部またはガス透過膜を含む。このようなキャップ構造は、繊細なセンサ素子のための機械的保護を提供する。ガス交換用の開口部の直径が十分に小さい場合には、このようなキャップ構造は、効果的な粒子保護をさらに提供する。対応する粒子保護はガス透過膜も提供する。しかしながら、ガス透過膜を対応して形成することにより、ガス混合物から特定のガス分子を的確に濾過することもできる。このようにして測定精度を高めることができる。
【0011】
別の実施形態では、センサ装置はさらに基準センサを含み、基準センサは、外側容積に対して閉じ、基準ガスを含む基準容積を含み、基準容積の内部にはセンサ素子を配置している。制御装置は、基準センサを用いて決定した測定データを、センサを用いて決定した測定データを補正するために使用するように構成している。基準センサを使用することにより、例えば、圧力および温度などの特定の環境の影響による測定ガスの粘性の変化を比較的容易に計算もしくは補正することができる。これにより、例えば、基準容積および測定容積をホイートストンブリッジとして実施することによって、測定精度をさらに高めることができる。
【0012】
別の実施形態では、基準センサが、基準容積と外側容積との間の圧力補償をもたらす可撓性の圧力補償膜を含む。このような圧力補償膜は、測定すべき粘度に対するガス圧力の影響の特に効率的な補正を達成することを可能にする。
【0013】
本発明によれば、センサ装置によってガスを検出する方法をさらに提供し、センサ装置は、測定容積を有する微小電気機械センサと、測定容積内で弾性的に偏位可能なセンサ素子とを含む。この場合、第1のステップにおいて、検出すべき測定ガスを測定容積内に供給する。続いて、センサ素子の振動を生成する。さらに、センサ素子の振動の少なくとも1つの振動パラメータを検出する。続いて、検出した振動パラメータを評価することによって、測定ガスの粘度を決定する。最後に、測定ガスの少なくとも1つの成分の濃度を、測定ガスの決定した粘度に基づいて決定する。
【0014】
一実施形態では、測定ガスを異なる温度に加熱し、測定ガスの異なる温度に対する測定ガスの粘度を別々に決定する。さらに測定ガスの少なくとも1つの成分の濃度を、異なる温度について決定した測定ガスの粘度を一緒に評価することによって決定する。異なる温度で粘度を測定することによって、ガス混合物を区別できる可能性がもたらされる。この場合、ガス混合物の個々の成分を特定し、これらの成分の濃度を決定することもできる。1つの成分のみを含有するガスの場合にも、いくつかの温度で粘度を測定することにより測定精度が高まる。
【0015】
別の実施形態では、少なくとも1つの振動パラメータを測定および評価することによってセンサ素子の振動から測定ガスの粘度を決定する。この場合、振動パラメータとしては、測定ガスとの相互作用によって減衰されるセンサ素子の振動の一定の振幅を保持するために必要な駆動装置のエネルギー供給、測定ガスとの相互作用によって減衰されるセンサ素子の振動の振動時間および/または減衰時間、測定ガスとの相互作用によって減衰されるセンサ素子の振動の共振周波数の変化、および/または、測定ガスとの相互作用によって減衰されるセンサ素子の振動の減衰度および/または品質係数を使用する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】互いにかみ合う複数のフィンガ構造を有する櫛形センサを含む、ガスを検出するためのセンサ装置の概略的な平面図である。
【
図3】外部容積に対して閉鎖された測定容積を有するセンサ装置の代替的な実施形態を示す概略図である。
【
図4】Z方向に振動するセンサ素子を有する
図3のセンサ装置の変形例を示す図である。
【
図5】ロッカーとして構成されたセンサ素子を有する
図3のセンサ装置の別の変形例を示す図である。
【
図6】複数のガス交換用の開口部を備えるキャップ構造を有する
図2のセンサ装置の変形例を示す図である。
【
図7】ガス透過膜として構成されたキャップ構造を有する
図6のセンサ装置の変形例を示す図である。
【
図8】付加的な基準センサを有する
図2のセンサ装置の代替的な構成を示す図である。
【
図9】基準センサのキャップ構造が圧力補償膜を有する、
図8のセンサ装置の変形例を示す図である。
【
図10】基板に配置された加熱素子を含む加熱装置を有するセンサ装置を示す図である。
【
図11】キャップ構造に配置された加熱素子を有する
図10のセンサ装置の変形例を示す図である。
【
図12】加熱素子をセンサ素子のフィンガ構造に配置している、
図11のセンサ装置の変形例を示す図である。
【
図13】種々のガスの粘度を温度の関数として示す線図である。
【
図14】種々の温度で印加された圧力の関数として窒素の粘度を示す線図である。
【
図15】種々の圧力における温度の関数として窒素の粘度を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ここで説明する検出コンセプトは、ガスもしくは流体を検出するための振動もしくは震動センサ構造を使用することを想定している。このようなセンサ構造がガス環境で振動を励起されると、周囲のガスにより振動の減衰が起こる。この減衰は、とりわけガスの粘度に依存するので、減衰した振動を分析することによってそれぞれのガスの存在もしくはガスの濃度を推定することができる。さらにガスは特有の粘度を有するので、適宜な分析によって、ガス混合物の組成もしくはガス混合物中の個々のガス成分の濃度を決定することができる。この場合、好ましくは、検査するガスの粘度の温度および圧力特性を使用する。このような特性は、異なるガスに応じて異なる変化を示す。したがって、測定するガスの温度および/または圧力を変化させることによって、異なる測定状況を生成することができ、これらの測定状況を一緒に分析することによって、ガス混合物中の個々のガス成分の濃度について推論することが可能になる。
【0018】
減衰した振動は、ここでは振動する質量、サスペンションの弾性、変位、および減衰度によって記述される。強制された振動の場合には、さらに振幅、振動数、減衰度もしくは等級係数を分析することもできる。これらの振動パラメータのうちの1つ以上を測定および評価することによって、ガスによって引き起こされる振動の減衰度、したがってガスの粘度も比較的正確に決定することができる。次いで、粘度に基づいてガスの濃度もしくは組成を決定する。異なる温度でガスを測定し、個々の温度で得られた測定結果を適切なアルゴリズムによって一緒に評価することによって、さらに、ガス混合物において異なるガス成分を個別に決定することも可能である。
【0019】
表1は、例として、通常の条件下での空気および他のガスの粘度ηおよび自由工程λを示す。水素の粘度は、空気の主成分である窒素の粘度の約半分であることが分かる。
【表1】
ガスについては、粘度ηは、基本的に以下のように推定することができる。
[数1]
η=1/3nmv λ
尚、粒子の数密度n、ガス粒子の質量m、平均粒子速度vおよび自由工程λである。
【0020】
粒子速度vは温度Tに比例して増すので、ガスの粘度は一般に温度と共に増大する。
図13は、ガス温度の関数としての種々のガスの粘度の推移を推定することができる図を示す。図から分かるように、ガスの粘度は温度と共に非線形に増大する。温度による粘度の推移はガスに特有であり、異なるガスの粘度はそれぞれ同じ測定温度で部分的には互いに極めて明確に異なる。したがって、温度の関数として粘度を測定することは、ガスの組成を決定できる可能性をもたらす。特に、異なる温度で測定ガスの粘度を測定することによって、ガス混合物の個々の成分を特定することができ、ガス混合物の濃度を決定することができる。
図13は、一例として、3つの異なる測定温度T1、T2、およびT3における測定ガスの粘度の検出を示す。
【0021】
さらに、ガスの粘度は、それぞれのガスの圧力もしくは密度に依存する。これは、特に、非常に薄いまたは非常に濃いガスに当てはまる。これに対して、低圧(≒0.1~10バール)の場合のガスの粘度は、自由工程が容器の寸法と比較して小さく、分子の寸法と比較して大きい場合には、実質的に圧力とは無関係である。
図14に示すグラフから、異なるガス温度で設定された圧力に対する窒素の粘度の依存性を読み取ることができる。これは、測定ガスの粘度が圧力と共に非線形にどのように増大するかを示す。さらに、測定ガスの異なる温度に対して異なる推移が生じる。これらの関係はガスの粘度を決定する場合に利用することができ、この場合に、測定すべきガスの圧力を適切な方法で測定し、それぞれのガスについて決定した粘度を補正するために使用する。
【0022】
これに対して、
図15に示す図は、異なるガス圧における窒素の粘度とガス温度との関係を示している。この図から、粘度と温度との関係は、圧力が増加するにつれて大きく変化することが分かる。とりわけ、特に高い圧力および低い温度ではガスの粘度の温度に対する依存性は逆になる。その結果、低い温度かつ高い圧力では、ガスの粘度は、最初に温度と共に減少し、その後、高い温度では温度と共に再び増大する。
【0023】
本発明によれば、振動センサ構造をセンサとして使用し、このセンサは、好ましくは、微小電気機械センサとして構成している。このようなMEMSセンサ構造は、角速度センサまたは加速度センサ、マイクロフォン、およびマイクロミラーとして既に実現されており、好ましくは、それぞれの用途に合わせた駆動もしくは測定システムを有する。
【0024】
図1は、例えば、基板101と、ガスを検出するために基板101に配置した微小電気機械センサ110とを有するセンサ装置100を示す。センサ110は偏位可能なセンサ素子130を備え、このセンサ素子130は、フレーム構造102によって横方向に制限されたキャビティとして形成した測定容積120内に配置している。この場合、センサ素子130は櫛形構造として構成しており、互いに対して弾性的に偏位可能に配置された2つのセンサ部131,134を備え、それぞれ、基体132,135と、基体132,135に配置した複数のフィンガ構造133,136とを有する。この場合、第1のセンサ部分131のフィンガ構造133は、第2のセンサ部分134のフィンガ構造136と噛み合い係合している。フィンガ構造133,136が互いにかみ合うことにより、測定するガスとの相互作用のために利用可能な比較的大きい有効センサ面積が生じる。さらに、大きい有効センサ面積は、2つのセンサ部分131,134のフィンガ構造133,136間の相対運動を特に正確に検出することを可能にする。センサ110の動作時には、2つのセンサ部分131,134のうちの少なくとも一方は適切な駆動装置161によって偏位され、これにより、2つのセンサ部分131,134のフィンガ構造133,136の間に相対的な振動が生じる。この実施形態では、両方のセンサ部分131,134は弾性的に偏位可能に構成しているので、2つのセンサ部分131,134がそれぞれに励起されることによって、2つの矢印で示されている反対の振動が生じる。これにより、フィンガ構造133,136と周囲のガスとの相互作用が生じ、この相互作用は2つのセンサ部分131,134の振動を減衰するように作用する。櫛形構造の場合には、それぞれ隣接するフィンガ構造133,136の間のギャップが、振動段階に特に大きい相対容積変化を受けるので、この減衰は特に顕著である。さらに、減衰効果は、互いにかみ合うフィンガ構造の数に比例して増大する。
【0025】
センサ部分131,134の互いに対する振動は、好ましくは基板101に配置の集積回路として構成した検出装置163によって検出する。この場合、検出装置163は、2つのセンサ部分131,134のフィンガ構造133,136の間で電気的容量の変化を検出する電気容量測定方法に基づく。この場合、フィンガ構造133,136の向かい合った側はそれぞれ相補的な電極を形成し、これにより、それぞれのフィンガ構造の相互間隔のそれぞれの相対的変化は、2つのセンサ部分131,134の電極間の容量の測定可能な変化をもたらす。原則的には、振動を検出するために他の検出方法、例えば、2つのセンサ部分の相対的な偏位を、例えば、レーザビームを偏向させることによって検出する光学的な測定方法を使用することもできる。
【0026】
図1にさらに示すように、検出装置163の測定信号は、対応する信号線を介して制御装置160に供給し、制御装置160は、この測定信号に基づいて振動の評価を行う。制御装置160は、好ましくは、基板101に配置の集積回路として構成している。しかしながら、原則として、制御装置160を別個の基板またはキャリアに配置することも可能である。
【0027】
櫛形センサ110は、2つのセンサ部分131,134の相対運動にのみ依存するので、代替的には、センサ部131,134のいずれか一方のみを弾性的に偏位可能に構成し、他方のセンサ部分をそれぞれ基板101に対して堅固に配置することもできる。
【0028】
センサ装置100は、測定するガスの現在の温度を検出する温度センサ165と、現在のガス圧力を検出する圧力センサ166とをさらに備えてもよい。これらの付加的なセンサは、本センサと同じパッケージ内に、または同じチップに適切な方法で組み込んでもよい。好ましくは、付加的なセンサ165,166は測定容積120内に配置しており、適切な信号線によって制御装置160に接続している。制御装置160は、好ましくは、測定した温度もしくは測定した圧力を、測定ガスの粘度を測定する場合に計算または補正因子として使用するように構成している。これにより、信号分析時に、測定ガスの粘度に対する2つの環境影響、すなわち圧力および温度の影響を考慮することが可能になる。
【0029】
さらに、センサ装置100は、測定ガスの所定の温度を設定するための加熱装置170を含むこともでき、加熱装置170は、好ましくは測定容積120内に配置される少なくとも1つの加熱素子171を含む。この場合、加熱装置170は、対応する導体を介して制御装置160に直接に接続することができる。
【0030】
駆動装置161としては、慣性センサ、マイクロフォン、マイクロミラー技術によって公知の方法、例えば圧電式、磁気式、または静電式の駆動方法を使用することができる。
【0031】
図2は、
図1のセンサ装置100の簡略化した断面図を示す。図示のように、微小電気機械センサ110の2部分により構成したセンサ素子130は、フレーム102によって制限される測定容積120内に配置している。測定容積120は、この場合、外側容積210に対して開かれているので、外側容積210と測定容積120との間で測定すべきガス200の交換を行うことができる。代替的には、測定容積120をキャップ構造によって閉鎖して構成し、ガス交換用の開口部を介してのみ外部容積210に接続してもよい。これにより、温度および圧力を良好に測定もしくは調節することができる所定のガス容積が生じる。
【0032】
図3は、流量センサとしてセンサ装置100の代替的な構成を示す。この場合、測定容積120は、外側容積210に対して上部および下部キャップ構造140,150によって制限されている。2つのキャップ構造140,150は、それぞれ中央開口部141,151を有し、これらの開口部を通って測定ガス200が測定容積120内へ流入するか、もしくは測定容積120から流出することができる。対応するガス流は、矢印203,204によって示している。センサ素子130は、好ましくは、
図1および
図2に示した櫛形構造として構成している。
【0033】
図4は、センサ素子130が基板平面に対して垂直に振動する、センサ110の代替的な構成を示す。センサ素子130は、弾性サスペンション136によって基板101に固定した膜として形成してもよい。この場合、センサ110の駆動および検出装置としての役割を果たす対応する電極162,164は、一方または両方のキャップ構造140,150に配置してもよい。
【0034】
図5は、センサ素子130が旋回点137を中心として旋回可能に配置されたロッカーとして構成した、センサ110の代替的な構成を示す。ロッカーは、適切な弾性サスペンション136によって基板101に固定している。
【0035】
原則的には、
図4および
図5に示す代替的なセンサ素子は、
図2、
図6または
図7と同様に、外側容積に対して片側のみが開いているかもしくはキャップ構造またはガス選択膜によって閉じられたセンサハウジング内に格納することもできる。
【0036】
図6は、
図2のセンサ装置100の代替的な構成を示し、測定容積120は、上部キャップ構造140によってのみ外部容積210に対して制限している。キャップ構造140は、外側容積210と測定容積120との間のガス交換を可能にする複数のガス交換用の開口部141を有する。この場合、ガス交換用の開口部141は比較的小さい直径を有し、これにより、粒子による汚染に対するセンサ素子130のより良好な保護を実現する。代替的には、ガス透過膜によって測定容積120を外側容積210に対して閉じることもできる。このようなガス透過膜142を
図7に示す。この場合、ガス透過膜142は、ガス雰囲気210から測定容積120へ所望のガス分子、例えば水素のみを通過させるガス感受性のフィルタ層として構成することができる。このようなガス感受性のフィルタ層は、例えば、適切に官能化された層またはゲッター材料によって実現することができる。高い拡散性を有する水素を測定したい場合には、層は、水素を他のガスから分離するために適している必要がある。
【0037】
測定精度を高めるために、センサ装置は、例えばセンサ110と同じチップに組み込んだ付加的な基準センサを備える二重構造をさらに有することができる。対応するセンサ装置100は
図8に示しており、基準センサ190はセンサ110に隣接して配置している。基準センサ190は、実際のセンサ110と実質的に同じように構成しており、所定の基準ガス195で満たされた基準容積191を含むが、この基準容積は、外側容積210に対してキャップ構造193によって気密に閉じている。基準センサ190の測定信号は、センサ110の測定信号を補正するために測定装置100の制御装置170によって使用する。基準容積191と外側容積210との間の圧力補償を可能にするために、基準センサ190のキャップ構造193は可撓性の圧力補償膜194を含むことができる。このようなセンサ装置100を
図9に示す。基準センサ190および対応する評価回路を用いて、測定すべきガスの粘度に対する温度、および場合によっては圧力の影響を、特に容易に計算もしくは補正することができる。これは、例えば、ホイートストンブリッジを使用して行うことができる。基準ガスとしては、適切なガス混合物を使用することができ、このガス混合物に対してセンサ110が特に高感度であることが望ましい。
【0038】
測定ガス200の所定の温度を生成するために、センサ装置100は、少なくとも1つの加熱素子171を含む適切な加熱装置170を備えることができる。加熱素子171は、金属めっき、ドーピング部、または加熱ワイヤとして実現することができる。これらの導電性構造は、適宜な電流が流れた場合に加熱を引き起こす所定の電気抵抗を有する。できるだけ効果的な熱伝達を確保するために、加熱素子171は、センサ要素130のすぐ近くに配置することが好ましい。このために、
図10は、加熱素子171が基板101上のセンサ素子130の直下に配置したセンサ装置100を示す。さらに、センサ装置100は温度センサ165および圧力センサ166も含み、これらのセンサは、同様に、この実施形態では、基板101上のセンサ素子130の下方に配置している。これに対して、
図11は、加熱装置170の加熱素子171をキャップ構造140の内側に形成したセンサ装置100を示す。
図12は、別のセンサ装置100を示し、このセンサ装置では、加熱装置170は、センサ素子130もしくはフィンガ構造133,136に直接に導電性の層として配置した加熱要素171を備える。この構成では、特に効果的な熱伝達が可能である。別の実施形態では、ガス流入部もしくはガス供給口は、例えば、加熱層または加熱ワイヤによって加熱する。加熱素子171を導電性の層として構成する場合、この構造は同時に駆動装置161の一部としての役割を果たすこともできる。例えば、
図11に示す実施形態では、加熱素子171は容量性の駆動装置の駆動電極として、または容量性の検出装置の検出電極として同時に使用することもできる。これにより、センサ装置100のいくつかの機能をまとめ、製造コストを低減する。
【0039】
この加熱装置170によって、異なる温度で測定を行うことが可能である。これによりガス混合物もしくはガス混合物の成分を良好に検出することが可能になる。なぜならば、粘度と温度との間の関係は非線形であり、ガスに特有だからである。
【0040】
ここに記述したセンサ装置は、電気自動車における水素の検出のために、例えば自動車の燃料電池システムのための水素安全センサとして使用することができる。しかしながら、原理的には、一般的なガス検出のために、例えばガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンにおいて、もしくはガスまたは水素内燃機関におけるガスセンサとしてこのセンサ装置を使用することも可能である。さらにセンサ装置は、エンジン用途にかかわらず、エネルギー生成用の一般的な燃料電池システム、水素製造用設備、例えばガスクロマトグラフィーなどのガス分析業務において使用することができる。さらにセンサ装置は、湿度センサとしても使用することができる。
【0041】
本発明をガスもしくはガス状媒体に関してのみ説明したが、原理的には、高粘度液体と低粘度液体とを区別するために液状媒体に使用することもできる。
【0042】
以上に好ましい実施形態によって本発明を詳細に例示し説明したが、本発明は、開示した実施形態により制限されない。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、他の実施形態を導き出すことができる。
【符号の説明】
【0043】
100 センサ装置
101 基板
110 微小電気機械センサ
120 測定容積
130 センサ素子
131,134 センサ部分
133,136 フィンガ構造
140,150 キャップ構造
141,151 開口部
142 膜
160 制御装置
161 駆動装置
163 検出装置
165,166 センサ
170 加熱装置
171 加熱素子
190 基準センサ
191 基準容積
192 センサ素子
194 圧力補償膜
200 測定ガス