(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】尿毒素産生抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/49 20060101AFI20231206BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231206BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20231206BHJP
A23L 33/00 20160101ALI20231206BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20231206BHJP
A61P 1/00 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
A61K36/49
A61P43/00 111
A61P13/12
A23L33/00
A61K131:00
A61P1/00
(21)【出願番号】P 2019143958
(22)【出願日】2019-08-05
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】306018376
【氏名又は名称】クラシエ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 昌史
(72)【発明者】
【氏名】菊池 光倫
(72)【発明者】
【氏名】深谷 京子
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 聡
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-118281(JP,A)
【文献】特開2008-073022(JP,A)
【文献】栗|種実類, [online], (2015.11.24), あすけんダイエット, [2023.03.29検索], インターネット,<https://column.asken.jp/nutrient_dictionary/nutrient_dictionary-5227/>
【文献】栗がダイエットに効果的!美容効果も!, [online], (2019.01.31), weboo 暮らしをつくる, [2023.03.30検索], インターネット,<https://weboo.link/article/10800>
【文献】食欲の秋にぴったり!健康にも美容にも良い旬の食材で一汁一菜, [online], (2018.11.28), 無水鍋のある暮らし, [2023.03.29検索], インターネット,<https://musui.co.jp/column/食欲の秋にぴったり!健康にも美容に良い旬の食/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A23L 5/40-5/49
A23L 31/00-33/29
A23L 19/00-19/20
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を経て調製された密封容器入り加熱殺菌調理栗を有効成分とする尿中インドキシル硫酸産生抑制用組成物。
(1)皮付き栗を150~250℃で5~20分間焼成する工程
(2)焼成した栗を剥皮する工程
(3)剥皮した栗を容器に収容、密封し、115~125℃で20~60分間レトルト殺菌する工程
【請求項2】
1日あたり35g以上摂取される請求項1に記載の尿中インドキシル硫酸産生抑制用組成物。
【請求項3】
1日あたり35g以上を14日以上継続して摂取される請求項1又は2に記載の尿中インドキシル硫酸産生抑制用組成物。
【請求項4】
1週あたりの排便日数が3日又は4日であるヒトのための請求項1乃至3の何れか1項に記載の尿中インドキシル硫酸産生抑制用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿毒素の産生を抑制する組成物、さらに詳しくは、特に尿中インドキシル硫酸の産生抑制に有効な尿毒素産生抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
古来より、栗は健康によい食物として知られ、薬膳に用いられている。例えば、栗を食べることによって全身の状態を調節することで、病気や内臓疲労による老化を抑制することが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。また、生の栗をシブと一緒にかむと魚の中毒に効くことや、栗を1日20グラム煎服することによって精力減退、腎臓病に効くことや、栗を食べることによって下痢止めとなることや、るいれきに効くことなどが知られている(例えば、非特許文献2参照。)。しかしながら、尿毒素産生抑制作用については知られていなかった。
【0003】
一方、本発明者らは、栗成分を主体とする栗加工食品として、焼成してから剥皮した剥き栗の表面に水分を施与した後に、容器に収容、密封して加熱殺菌する調理栗を提案している(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、該調理栗の機能性や、尿中の尿毒素産生抑制作用について言及及び示唆していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】劉影監修、「女性のためのはじめての漢方」、株式会社池田書店、2005年2月25日、p136
【文献】東丈夫、大竹茂清、村上光太郎著、「民間薬の実際知識」、東洋経済新報社、昭和63年5月20日、第3刷、p45
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、尿毒素の産生を抑制する組成物、さらに詳しくは、特に尿中インドキシル硫酸の産生抑制に有効な尿毒素産生抑制用組成物を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、栗成分を含有することを特徴とする尿毒素産生抑制用組成物により上記目的を達成する。
【0008】
好ましくは、前記尿毒素がインドキシル硫酸である。さらに好ましくは前記栗成分が調理栗である。より好ましくは、該調理栗が密封容器入り加熱殺菌調理栗である。
【0009】
また、望ましくは、1日あたり35g以上摂取される。さらに望ましくは、1日あたり35g以上を14日以上継続して摂取される。より望ましくは、1週あたりの排便日数が3日又は4日であるヒトのための尿毒素産生抑制用組成物である。
【0010】
すなわち、本発明者らは、栗成分が主体となる栗加工食品そのものの機能性を探索するた
めに、尿中のインドキシル硫酸に注目した。インドキシル硫酸は、食物蛋白質由来のトリプトファン代謝産物であり、体には有害な尿毒素として知られている。栗加工食品として調理栗を用いて鋭意検討した結果、驚くべきことに、1週間あたりの排便日数が3~4日のやや便秘傾向のある被験者が該調理栗を摂取すると、摂取前より尿中のインドキシル硫酸値が有意に低減し、体に悪影響を及ぼす尿毒素の産生を抑制できることを見出し本発明に到達した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物によると、尿毒素の産生を抑制できる。特に、尿中のインドキシル硫酸値の低減に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】I群の摂取前後の尿中インドキシル硫酸値の変化を示す図である。
【
図2】II群の摂取前後の尿中インドキシル硫酸値の変化を示す図である。
【
図3】I及びII群の摂取前後の尿中インドキシル硫酸値の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を詳しく説明する。
【0014】
本発明の尿毒素産生抑制用組成物は、栗成分を含有する。本発明の組成物は、栗成分を含有することにより尿毒素の産生を抑制することができる。該組成物とは、栗成分が主体となる栗加工食品を指し、該栗成分の原料となる栗の品種や大きさは、特に限定するものではなく、一般に用いられるものから適宜選択して用いればよい。例えば、栗の品種としては、日本栗(丹沢栗、利平栗、筑波栗、銀寄栗、国見栗、岸見栗等)、中国栗(天津栗、丹東栗等)、ヨーロッパ栗、アメリカ栗、朝鮮栗、オーストラリア栗等が挙げられる。
【0015】
上記組成物の第一の形態としては、生の皮付き栗に、加熱調理及び剥皮処理された調理栗が挙げられる。加熱調理及び剥皮処理が施されていれば特に限定されず、その加工順序は問わない。
【0016】
上記加熱調理とは、焼成、蒸煮、煮熟等が挙げられ、単独または複数併用してもよい。上記剥皮処理とは鬼皮及び渋皮を取り除くことで、人手もしくは機械によって行われる。例示すると、生の皮付き栗を加熱調理(例えば、焼成など)後剥皮する、皮付き栗を先に剥皮後加熱調理(例えば蒸煮など)する、または皮付き栗を煮熟し、次に焼成した後剥皮する等が挙げられる。処理条件としては、処理装置仕様、処理量によって適宜設定すればよく、焼成条件としては、例えば、150~250℃の回転式焼成釜で5~20分間焼成するなどが挙げられる。なお、上記皮付き栗とは、イガから取り出された状態の栗を指し、外層から順に鬼皮、渋皮、栗果肉からなる。
【0017】
上記組成物の第二の形態としては、上記第一の形態の調理栗に、適宜選択した副原料が本発明の目的を損なわない範囲で表面に施与された調理栗が挙げられる。該副原料を表面施与することは、栗に含有される栗成分を溶出させないように所望の食味や保存安定性などを付与しながら、本発明の効果を良好に発揮することができる点で好ましい。
【0018】
上記副原料としては、例えば、糖質甘味料(スクロース等の少糖類や、キシロース、グルコース等の還元糖、トレハロース等の非還元性少糖類や、糖アルコール、粉末水飴、デキストリン等)、高甘味度甘味料(スクラロース、アセスルファムK等)、水溶性多糖類(植物もしくは微生物由来の多糖類で、例えばアラビアガム、キサンタンガム、グアーガム、ジェランガム、タマリンドシーガム、寒天等)、誘導蛋白質(天然蛋白質から誘導生成された非天然蛋白質で、ゼラチン、プロテオース、ペプトン等)、繊維状蛋白質(ケラチ
ン、コラーゲン、フィブロイン等)、アミノ酸(グリシン、アラニン、オルニチン、シトルリン、グルタミン等)、油脂類、乳製品、安定剤、乳化剤、香料、色素、風味原料、各種栄養素等が挙げられる。これらは単独もしくは複数組み合わせてもよい。
【0019】
表面施与方法は、上記副原料を含有する水溶液を調製し、浸漬する方法、スプレーコーティング、回転釜、恒温高湿機、チャンバー等を用いる方法等が挙げられる。また、同様の表面施与方法を用いて、副原料を含有しない水溶液により水分施与する方法も挙げられる。なお、本発明では、糖漬け処理や長時間浸漬のような栗に含有される栗成分が溶出するような方法は採用しない。
【0020】
上記組成物の第三の形態としては、上記第一又は第二の形態の調理栗を、容器に収容、密封した後、加熱殺菌し、密封容器入り加熱殺菌調理栗が挙げられる。また、容器に収容する際、容器内の空気を、窒素、アルゴン等の不活性ガスに置換してから密封すると、調理栗の表面組織の過褐色化防止の点で好適である。
【0021】
上記容器としては、調理栗を収容し、密封して加熱殺菌できる耐熱性のある包装容器であれば限定されるものではなく、例えば、缶、ビン、パウチのような合成樹脂製袋等が挙げられる。
【0022】
上記加熱殺菌としては、長期保存と品質保持の点からレトルト殺菌(加熱加圧殺菌)を施すことが望ましい。また、レトルト殺菌は、115~125℃、1.7~2.5kg/cm2で20~60分の条件で行うことが、調理栗の形状を維持しながら殺菌できるという点で望ましい。
【0023】
なお、上述した第一乃至第三の形態の調理栗として、具体的には、特開2001-204381号公報、特開2000-125800号公報、特開2003-203号公報、特開2008-73021号公報、特開2008-73022号公報、国際公開第2010/95702号公報、特開2014-168459号公報等に記載の調理栗等が例示できる。
【0024】
次に、上記尿毒素とは、尿中に存在する尿毒素を指し、例えば、インドキシル硫酸、馬尿酸、フェニルアセチルLグルタミン等が挙げられる。これらの中でも、インドキシル硫酸は、尿から腸内環境の状態を示す指標となる点で好適である。
【0025】
上記インドキシル硫酸は、本発明では、尿中のインドキシル硫酸値(単位;μg/mg・Cre)として算出する。該尿中インドキシル硫酸値とは、尿中のインドキシル硫酸濃度及び尿中のクレアチニン濃度を一般的に知られている測定キットや呈色法などを用いて測定し、クレアチニンの一日排泄量を1gとして、次の式1を用いてクレアチニン補正したものをいう。
【0026】
【0027】
次に、本発明の尿毒素産生抑制用組成物の摂取は、摂取する者の症状、性別、年齢等に応じて適宜設定されるが、例えば、本発明組成物を栗成分として1日あたり少なくとも35g以上を摂取することが、尿毒素産生抑制効果の点で好適である。なお、1日あたりの摂取総量が35g以上であればよく、摂取回数は1回もしくは複数回に分けてもよい。
【0028】
さらに好ましくは、上記組成物を14日以上継続して摂取することが、尿毒素産生抑制効果の点で望ましい。
【0029】
より望ましくは、やや便秘傾向のあるヒト、例えば、1週あたりの排便日数が3又は4日であるヒトを摂取対象とすると、尿毒素の産生が顕著に抑制される点で好ましい。
【0030】
また、本発明の尿毒素産生抑制用組成物は、栗成分を含有し、栗成分が主体となる栗加工食品であることから、小腹がすいたときなどおやつ感覚での摂取が可能であり、継続摂取し易い点で好適である。
【0031】
本発明の尿毒素産生抑制用組成物として、例えば、調理栗は次のようにして調製される。
【0032】
まず、原料の生の皮付き栗を水洗し、浮き栗(腐った栗や虫食い栗)や異物を除く。そして、該生の皮付き栗から調理栗を調製する(第一の形態)。或いは、必要に応じて、該調理栗の表面に副原料を施与する(第二の形態)。好ましくは、該調理栗又は副原料が表面施与された調理栗を容器に収容、密封した後、加熱殺菌することで、密封容器入り加熱殺菌調理栗を調製する(第三の形態)。
【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は以下実施例に限定されるものではない。
【0034】
<実施例1>
<密封容器入り加熱殺菌調理栗の調製>
尿毒素産生抑制用組成物として、密封容器入り加熱殺菌調理栗を調製した。まず、中国産天津栗の生の皮付き栗を水洗し浮き栗(腐った栗や虫食い栗)や異物を除いた。皮付き栗のまま、200℃の回転式焼成釜で10分間焼成した。自然放冷後(表面温度約50℃)、人手で鬼皮、渋皮を同時に剥皮し調理栗を調製した。次に、該調理栗の表面を水洗いした後液切りした。その後、該調理栗6~8個を耐熱性のあるアルミパウチに収容し、アルミパウチ内の空気を窒素に置換してから密封した。次に、121℃で30分間レトルト機にて加熱殺菌し、密封容器入り加熱殺菌調理栗(35~45g/袋)を得た。
【0035】
<試験方法>
30歳以上50歳未満の女性45名の被験者を2群(I群、II群)に分け、それぞれの群に実施例1の密封容器入り加熱殺菌調理栗を毎日摂取させ、これを14日間継続した。I群(22名)は1日に一袋(35~45g)を、II群(23名)は1日に二袋(70~90g)を摂取させ、1日の摂取回数は限定しなかった。また、摂取前1週間と摂取中2週間の排便回数を被験者が記録した。さらに、摂取前及び14日摂取後の尿中のインドキシル硫酸濃度と尿中のクレアチニン濃度を測定した。
【0036】
<解析方法>
測定値から上述の式1を用いて尿中のインドキシル硫酸値を算出した。摂取前1週間の排便日数が3~4日と5日以上の被験者における尿中のインドキシル硫酸値(平均値±標準偏差(SD))を表1及び
図1~3に示す(I群、II群、及びI群とII群の合計)。なお、I群とII群では、実施例1の摂取量と測定タイミングに関し、交互作用がなかったため、I群とII群の合計も併せて解析した。また、摂取前後の比較はウィルコクソンの符号順位検定(Wilcoxon signed-rank test)を用いて評価した。
【0037】
【0038】
<結果>
以上の結果、本発明の尿毒素産生抑制用組成物である密封容器入り加熱殺菌調理栗を摂取することで、1週間あたりの排便日数が3~4日の被験者のI群、及びI群とII群の合計について、摂取後の尿中のインドキシル硫酸値が有意に低減した。また、II群については被験者全員の、I群とII群の合計の1週間あたりの排便日数が5日以上の被験者について、尿中のインドキシル硫酸値が低減する傾向がみられた。したがって、本発明の尿毒素産生抑制用組成物は、尿毒素産生の抑制効果を示し、特に、やや便秘傾向のあるヒトに対し有効であった。