(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】走行環境認識装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20231206BHJP
G01S 13/93 20200101ALI20231206BHJP
G01S 13/86 20060101ALI20231206BHJP
B60W 40/02 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G08G1/16 C
G01S13/93
G01S13/86
B60W40/02
(21)【出願番号】P 2019173458
(22)【出願日】2019-09-24
【審査請求日】2022-08-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 雅人
【審査官】宮本 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-006123(JP,A)
【文献】特開2017-220157(JP,A)
【文献】特開2019-093957(JP,A)
【文献】特開2015-219531(JP,A)
【文献】特開2005-216056(JP,A)
【文献】特開2014-071839(JP,A)
【文献】特開2019-002691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G01S 13/93
G01S 13/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車外に設定した第1の検索領域に存在する立体物を検出する第1の検出手段と、
前記第1の検索領域と少なくとも一部が重複するように車外に設定した第2の検索領域に存在する立体物を検出する第2の検出手段と、
前記第1の検索領域と前記第2の検索領域との重複領域において、前記第1の検出手段によって検出された第1の検出立体物と前記第2の検出手段によって検出された第2の検出立体物とが同一立体物か否かの判定を行う判定手段と、
前記判定手段により同一立体物であると判定された前記第1の検出立体物と前記第2の検出立体物とを統合して1つのフュージョン立体物として認識するフュージョン立体物認識手段と、を備え、
前記フュージョン立体物認識手段は、自車両から前記第1の検出立体物及び前記第2の検出立体物までの距離に基づくパラメータと設定閾値との比較により、前記第1の検出立体物及び前記第2の検出立体物が前記自車両の近傍に存在すると判定した場合に
は前記フュージョン立体物
の横幅として前記第1の検出立体物或いは前記第2の検出立体物の最も左端から最も右端までの幅を設定し、前記第1の検出立体物及び前記第2の検出立体物が前記自車両の遠方に存在すると判定した場合に
は前記フュージョン立体物
の横幅として前記第1の検出立体物の横幅と前記第2の検出立体物の横幅の平均値を設定することを特徴とする走行環境認識装置。
【請求項2】
前記フュージョン立体物認識手段は、前記第1の検出立体物及び前記第2の検出立体物が前記自車両の近傍に存在すると判定した場合には前記フュージョン立体物の速度として、前記第1の検出立体物或いは前記第2の検出立体物のうち前記自車両の前方の前記フュージョン立体物については最も遅い速度を設定し、前記自車両の後方の前記フュージョン立体物については最も速い速度を設定し、前記第1の検出立体物及び前記第2の検出立体物が前記自車両の遠方に存在すると判定した場合には前記フュージョン立体物の速度として、前記第1の検出立体物の速度と前記第2の検出立体物の速度の平均値を設定することを特徴とする請求項1に記載の走行環境認識装置。
【請求項3】
車外に設定した第1の検索領域に存在する立体物を検出する第1の検出手段と、
前記第1の検索領域と少なくとも一部が重複するように車外に設定した第2の検索領域に存在する立体物を検出する第2の検出手段と、
前記第1の検索領域と前記第2の検索領域との重複領域において、前記第1の検出手段によって検出された第1の検出立体物と前記第2の検出手段によって検出された第2の検出立体物とが同一立体物か否かの判定を行う判定手段と、
前記判定手段により同一立体物であると判定された前記第1の検出立体物と前記第2の検出立体物とを統合して1つのフュージョン立体物として認識するフュージョン立体物認識手段と、を備え、
前記フュージョン立体物認識手段は、自車両から前記第1の検出立体物及び前記第2の検出立体物までの距離に基づくパラメータと設定閾値との比較により、前記第1の検出立体物及び前記第2の検出立体物が前記自車両の近傍に存在すると判定した場合には前記フュージョン立体物の速度として、前記第1の検出立体物或いは前記第2の検出立体物のうち前記自車両の前方の前記フュージョン立体物については最も遅い速度を設定し、前記自車両の後方の前記フュージョン立体物については最も速い速度を設定し、前記第1の検出立体物及び前記第2の検出立体物が前記自車両の遠方に存在すると判定した場合には前記フュージョン立体物の速度として、前記第1の検出立体物の速度と前記第2の検出立体物の速度の平均値を設定することを特徴とする走行環境認識装置。
【請求項4】
前記設定閾値は、自車速に応じて可変であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の走行環境認識装置。
【請求項5】
前記距離のパラメータは、前記自車両と前記第1の検出立体物及び前記第2の検出立体物との相対速度に基づいて補正されることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の走行環境認識装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車外の走行環境の同一対象物を複数のセンサ等によって検出する走行環境認識装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、ドライバの運転操作の負担を軽減するとともに、安全性の向上を実現することを目的として、ドライバの運転操作を支援するための運転支援装置が実用化されている。この種の運転支援装置では、ドライバによる主体的な運転操作を前提として操舵支援制御や加減速制御を行う運転支援モードや、ドライバの運転操作を必要とすることなく車両を走行させるための運転支援モード(所謂、自動運転モード)についての各種技術が開発されている。
【0003】
また、このような運転支援装置等に用いられる走行環境認識装置についても様々な提案がなされている。この種の走行環境認識装置では、特に自動運転モードでの走行を行う際に、車外の走行環境を正確に認識することが重要となる。
【0004】
そこで、この種の走行環境認識装置では、車外の同一対象物を複数のセンサ(ステレオカメラ、単眼カメラ、ミリ波レーダ、ソナー等)によって検出し、各センサによって検出した同一の立体物を統合することにより、フュージョン立体物として認識する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、ミリ波レーダによって検出した物体(立体物)の位置情報とステレオカメラによって検出した立体物に位置情報との関係が判断基準を満たしている場合に、ミリ波レーダ検出手段によって検出した立体物とステレオカメラによって検出した立体物とが同一立体物と判断する判断手段を備え、立体物までの距離が長い場合には判断基準を同一立体物と判断しやすくなるように閾値を変更する技術が開示されている。さらに、特許文献1の技術では、統合したフュージョン物標(フュージョン立体物)について、距離及び相対速度についてはレーダ情報を用い、その他の情報についてはステレオ画像からの情報を用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術のように、個々の検出情報を選択的に用いてフュージョン立体物を認識した場合、特に自車両の近傍において、フュージョン立体物に対する安全マージンが考慮されず、複数のセンサによって同一の立体物を検出するメリットが失われる可能性がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、複数のセンサによる検出情報を効率的且つ有効に活用してフュージョン立体物を認識することができる走行環境認識装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による走行環境認識装置は、車外に設定した第1の検索領域に存在する立体物を検出する第1の検出手段と、前記第1の検索領域と少なくとも一部が重複するように車外に設定した第2の検索領域に存在する立体物を検出する第2の検出手段と、前記第1の検索領域と前記第2の検索領域との重複領域において、前記第1の検出手段によって検出された第1の検出立体物と前記第2の検出手段によって検出された第2の検出立体物とが同一立体物か否かの判定を行う判定手段と、前記判定手段により同一立体物であると判定された前記第1の検出立体物と前記第2の検出立体物とを統合して1つのフュージョン立体物として認識するフュージョン立体物認識手段と、を備え、前記フュージョン立体物認識手段は、自車両から前記第1の検出立体物及び前記第2の検出立体物までの距離に基づくパラメータと設定閾値との比較により、前記第1の検出立体物及び前記第2の検出立体物が前記自車両の近傍に存在すると判定した場合には前記フュージョン立体物の横幅として前記第1の検出立体物或いは前記第2の検出立体物の最も左端から最も右端までの幅を設定し、前記第1の検出立体物及び前記第2の検出立体物が前記自車両の遠方に存在すると判定した場合には前記フュージョン立体物の横幅として前記第1の検出立体物の横幅と前記第2の検出立体物の横幅の平均値を設定するものである。
また、本発明の他態様による走行環境認識装置は、車外に設定した第1の検索領域に存在する立体物を検出する第1の検出手段と、前記第1の検索領域と少なくとも一部が重複するように車外に設定した第2の検索領域に存在する立体物を検出する第2の検出手段と、前記第1の検索領域と前記第2の検索領域との重複領域において、前記第1の検出手段によって検出された第1の検出立体物と前記第2の検出手段によって検出された第2の検出立体物とが同一立体物か否かの判定を行う判定手段と、前記判定手段により同一立体物であると判定された前記第1の検出立体物と前記第2の検出立体物とを統合して1つのフュージョン立体物として認識するフュージョン立体物認識手段と、を備え、前記フュージョン立体物認識手段は、自車両から前記第1の検出立体物及び前記第2の検出立体物までの距離に基づくパラメータと設定閾値との比較により、前記第1の検出立体物及び前記第2の検出立体物が前記自車両の近傍に存在すると判定した場合には前記フュージョン立体物の速度として、前記第1の検出立体物或いは前記第2の検出立体物のうち前記自車両の前方の前記フュージョン立体物については最も遅い速度を設定し、前記自車両の後方の前記フュージョン立体物については最も速い速度を設定し、前記第1の検出立体物及び前記第2の検出立体物が前記自車両の遠方に存在すると判定した場合には前記フュージョン立体物の速度として、前記第1の検出立体物の速度と前記第2の検出立体物の速度の平均値を設定するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の走行環境認識装置によれば、複数のセンサによる検出情報を効率的且つ有効に活用してフュージョン立体物を認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】車載カメラ及び各レーダの検索領域を示す説明図
【
図3】フュージョン立体物認識ルーチンを示すフローチャート
【
図4】距離のパラメータと車速とに基づいて検出立体物が自車両に対して近傍に存在するか遠方に存在するかを判定するための説明図
【
図5】自車両の近傍において認識されたフュージョン立体物の説明図
【
図6】自車両の遠方において認識されたフュージョン立体物の説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照しながら、本発明の一態様の実施形態について詳細に説明する。
図1に示す運転支援装置1は、自動車などの車両(自車両)100に搭載されている。この運転支援装置1は、車外の走行環境を認識するためのセンサユニット(走行環境認識装置)として、ロケータユニット11及びカメラユニット21を有し、これらの両ユニット11,21が互いに依存することのない完全独立の多重系を構成している。また、運転支援装置1は、走行制御ユニット(以下、「走行_ECU」と称す)22と、エンジン制御ユニット(以下「E/G_ECU」と称す)23と、パワーステアリング制御ユニット(以下「PS_ECU」と称す)24と、ブレーキ制御ユニット(以下「BK_ECU」と称す)25と、を備え、これら各制御ユニット22~25が、ロケータユニット11およびカメラユニット21と共に、CAN(Controller Area Network)などの車内通信回線10を介して接続されている。
【0012】
ロケータユニット11は、道路地図上の自車位置を推定するものであり、自車位置を推定するロケータ演算部12を有している。このロケータ演算部12の入力側には、自車両100の前後加速度を検出する前後加速度センサ13、前後左右各車輪の回転速度を検出する車輪速センサ14、自車両100の角速度または角加速度を検出するジャイロセンサ15、複数の測位衛星から発信される測位信号を受信するGNSS受信機16など、自車両100の位置(自車位置)を推定するに際し、必要とするセンサ類が接続されている。
【0013】
また、ロケータ演算部12には、記憶手段としての高精度道路地図データベース18が接続されている。高精度道路地図データベース18は、HDDなどの大容量記憶媒体であり、高精度な道路地図情報(ダイナミックマップ)が記憶されている。この高精度道路地図情報は、自動運転を行う際に必要とする車線データとして、車線幅データ、車線中央位置座標データ、車線の進行方位角データ、制限速度などを保有している。この車線データは、道路地図上の各車線に数メートル間隔で格納されている。
【0014】
ロケータ演算部12は、自車位置を推定する自車位置推定部12a、地図情報取得部12bを備えている。地図情報取得部12bは、例えばドライバが自動運転に際してセットした目的地に基づき、現在地から目的地までのルート地図情報を高精度道路地図データベース18に格納されている地図情報から取得する。
【0015】
また、地図情報取得部12bは、取得したルート地図情報(ルート地図上の車線データ)を自車位置推定部12aへ送信する。自車位置推定部12aは、GNSS受信機16で受信した測位信号に基づき自車両100の位置座標を取得する。また、自車位置推定部12aは、取得した位置座標をルート地図情報上にマップマッチングして、道路地図上の自車位置を推定すると共に走行車線を特定し、道路地図データに記憶されている走行車線中央の道路曲率を取得する。
【0016】
さらに、自車位置推定部12aは、トンネル内走行などのようにGNSS受信機16の感度低下により測位衛星からの有効な測位信号を受信することができない環境において、車輪速センサ14で検出した車輪速に基づき求めた車速、ジャイロセンサ15で検出した角速度、前後加速度センサ13で検出した前後加速度に基づいて自車位置を推定する自律航法に切換えて、道路地図上の自車位置を推定する。
【0017】
カメラユニット21は、車室内前部の上部中央に固定されており、車幅方向中央を挟んで左右対称な位置に配設されているメインカメラ21aおよびサブカメラ21bからなる車載カメラ(ステレオカメラ)と、画像処理ユニット(IPU)21cおよび走行環境認識部21dを有している。
【0018】
IPU21cは、両カメラ21a,21bで撮像した自車両100の前方の前方走行環境画像情報を所定に画像処理し、対応する対象の位置のズレ量から求めた距離情報を含む前方走行環境画像情報(距離画像情報)を生成する。
【0019】
走行環境認識部21dは、IPU21cから受信した距離画像情報などに基づき、自車両100が走行する進行路(自車進行路)の左右を区画する区画線の道路曲率[1/m]、および左右区画線間の幅(車幅)を求める。この道路曲率、および車幅の求め方は種々知られているが、例えば、走行環境認識部21dは、道路曲率を前方走行環境画像情報に基づき輝度差による二値化処理にて、左右の区画線を認識し、最小二乗法による曲線近似式などにて左右区画線の曲率を所定区間毎に求め、さらに、両区画線間の曲率の差分から車幅を算出する。
【0020】
そして、走行環境認識部21dは、この左右区間線の曲率と車線幅とに基づき車線中央の道路曲率を求め、さらに、車線中央を基準とする自車両100の横位置偏差、正確には、車線中央から自車両100の車幅方向中央までの距離である自車横位置偏差Xdiffを算出する。
【0021】
また、走行環境認識部21dは、距離画像情報に対して所定のパターンマッチングなどを行い、道路に沿って存在するガードレール、縁石および立体物の認識を行う。ここで、走行環境認識部21dにおける立体物の認識では、例えば、立体物の種別、立体物までの距離、立体物の速度、立体物と自車両100との相対速度などの認識が行われる。
【0022】
さらに、走行環境認識部21dには、複数のレーダ(例えば、左前側方レーダ21lf、右前側方レーダ21rf、左後側方レーダ21lr、右後側方レーダ21rr)が接続されている。
【0023】
左前側方レーダ21lf及び右前側方レーダ21rfは、例えば、ミリ波レーダであり、フロントバンパの左右側部に各々配設されている。これら左前側方レーダ21lf及び右前側方レーダ21rfは、上述した車載カメラからの画像では認識することの困難な自車両100の左右斜め前方及び側方の領域Alf,Arf(
図2参照)を監視する。
【0024】
左後側方レーダ21lr及び右後側方レーダ21rrは、例えば、ミリ波レーダであり、リヤバンパの左右側部に各々配設されている。これら左後側方レーダ21lr及び右後側方レーダ21rrは、上述した左前側方レーダ21lf及び右前側方レーダ21rfでは監視することのできない自車両100の側方から後方にかけての領域Alr,Arr(
図2参照)を監視する。
【0025】
ここで、各レーダを構成するミリ波レーダは、出力した電波に対し、物体からの反射波解析することにより、主として並走車や後続車等の立体物を、レーダオブジェクト(レーダOBJ)として検出する。具体的には、各レーダは、レーダオブジェクトに関する情報として、立体物の横幅、立体物の代表点Pの位置(自車両100との相対位置)、及び、速度等を検出する。
【0026】
ここで、本実施形態において、車載カメラによる前方領域A1と、左前側方レーダ21lf及び右前側方レーダ21rfによる左右斜め前方及び側方の領域Alf,Arfとは一部が重複するように設定されている。従って、前方領域A1を第1の検索領域とし、左右斜め前方及び側方の領域Alf,Arfを第2の検索領域とすると、車載カメラは第1の検出手段としての機能を実現し、左前側方レーダ21lf及び右前側方レーダ21rfは第2の検出手段としての機能を実現する。
【0027】
また、本実施形態において、左前側方レーダ21lfによる左斜め前方領域Alfと右前側方レーダ21rfによる右斜め前方及び側方の領域Arfとは一部が重複するように設定されている。従って、左斜め前方領域Alfを第1の検索領域とし、右前側方レーダ21rfを第2の検索領域とすると、左前側方レーダ21lfは第1の検出手段としての機能を実現し、右前側方レーダ21rfは第2の検出手段としての機能を実現する。
【0028】
また、本実施形態において、左前側方レーダ21lfによる左斜め前方領域Alfと左後側方レーダ21lrによる左斜め前方及び側方の領域Alrとは一部が重複するように設定されている。従って、左斜め前方領域Alfを第1の検索領域とし、左後側方レーダ21lrを第2の検索領域とすると、左前側方レーダ21lfは第1の検出手段としての機能を実現し、右前側方レーダ21lrは第2の検出手段としての機能を実現する。
【0029】
また、本実施形態において、右前側方レーダ21rfによる右斜め前方領域Arfと右後側方レーダ21rrによる右斜め後方及び側方の領域Arrとは一部が重複するように設定されている。従って、右斜め前方領域Alrを第1の検索領域とし、右後側方レーダ21rrを第2の検索領域とすると、右前側方レーダ21rfは第1の検出手段としての機能を実現し、右前側方レーダ21rrは第2の検出手段としての機能を実現する。
【0030】
さらに、本実施形態において、左後側方レーダ21lrによる左斜め後方領域Alrと右後側方レーダ21rrによる右斜め後方及び側方の領域Arrとは一部が重複するように設定されている。従って、左斜め後方領域Alrを第1の検索領域とし、右後側方レーダ21rrを第2の検索領域とすると、左後側方レーダ21lrは第1の検出手段としての機能を実現し、右後側方レーダ21rrは第2の検出手段としての機能を実現する。
【0031】
そして、走行環境認識部21dは、第1の検索領域と第2の検索領域との重複領域において、第1の検出手段によって検出された立体物(第1の検出立体物)と前記第2の検出手段によって検出された立体物(第2の検出立体物)とが同一立体物か否かの判定を行う。そして、走行環境認識部21dは、同一立体物であると判定された第1の検出立体物と第2の検出立体物とを統合して1つのフュージョン立体物として認識する。
【0032】
その際、走行環境認識部21dは、自車両から第1の検出立体物及び第2の検出立体物までの距離に基づくパラメータLと設定閾値Lthとの比較により、第1の検出立体物及び第2の検出立体物が自車両100の近傍に存在すると判定した場合には各検出結果の最悪値を用いてフュージョン立体物を認識し、第1の検出立体物及び第2の検出立体物が自車両の遠方に存在すると判定した場合には各検出結果の平均値を用いて前記フュージョン立体物を認識する。
【0033】
このように、走行環境認識部21dは、判定手段、及び、フュージョン立体物認識手段としての各機能を実現する。
【0034】
ロケータ演算部12の自車位置推定部12aで推定した自車位置、カメラユニット21の走行環境認識部21dで求めた自車横位置偏差Xdiffおよび立体物情報(フュージョン立体物を含む)などは、走行_ECU22で読込まれる。また、走行_ECU22の入力側には、各種スイッチ・センサ類として、ドライバが自動運転(運転支援制御)のオン/オフ切換等を行うモード切換スイッチ33と、ドライバがステアリングを保舵(把持)しているときオンするハンドルタッチセンサ34と、ドライバによる運転操作量としての操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ35と、ドライバによる運転操作量としてのブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキセンサ36と、ドライバによる運転操作量としてのアクセルペダルの踏込量を検出するアクセルセンサ37と、が接続されている。
【0035】
走行_ECU22には、運転モードとして、手動運転モードと、第1の運転支援モードと、第2の運転支援モードと、退避モードと、が設定されている。
【0036】
ここで、手動運転モードとは、ドライバ100による保舵を必要とする運転モードであり、例えば、ドライバ100によるステアリング操作、アクセル操作およびブレーキ操作などの運転操作に従って、自車両100を走行させる運転モードである。
【0037】
また、第1の運転支援モードも同様に、ドライバ100による保舵を必要とする運転モードである。すなわち、第1の運転支援モードは、ドライバ100による運転操作を反映しつつ、例えば、E/G_ECU23、PS_ECU24、BK_ECU25などの制御を通じて、主として、先行車追従制御(Adaptive Cruise Control)と、車線維持(Lane Keep Assist)制御および車線逸脱防止(Lane Departure Prevention)制御とを組み合わせて行うことにより、目標走行経路に沿って自車両100を走行させる、いわば半自動運転モードである。
【0038】
また、第2の運転支援モードとは、ドライバ100による保舵、アクセル操作およびブレーキ操作を必要とすることなく、例えば、E/G_ECU23、PS_ECU24、BK_ECU25などの制御を通じて、主として、先行車追従制御と、車線維持制御および車線逸脱防止制御とを組み合わせて行うことにより、目標走行経路に沿って自車両100を走行させる自動運転モードである。
【0039】
退避モードは、例えば、第2の運転支援モードによる走行中に、当該モードによる走行が継続不能となり、且つ、ドライバに運転操作を引き継ぐことができなかった場合(すなわち、手動運転モード、または、第1の運転支援モードに遷移できなかった場合)に、自車両100を路側帯などに自動的に停止させるためのモードである。
【0040】
このように設定された各運転モードは、モード切換スイッチ33に対する操作状況等に基づき、走行_EUC22において選択的に切換可能となっている。
【0041】
E/G_ECU23の出力側には、スロットルアクチュエータ27が接続されている。このスロットルアクチュエータ27は、エンジンのスロットルボディに設けられている電子制御スロットルのスロットル弁を開閉動作させるものであり、E/G_ECU23からの駆動信号によりスロットル弁を開閉動作させて吸入空気流量を調整することで、所望のエンジン出力を発生させる。
【0042】
PS_ECU24の出力側には、電動パワステモータ28が接続されている。この電動パワステモータ28は、ステアリング機構にモータの回転力で操舵トルクを付与するものであり、自動運転では、PS_ECU24からの駆動信号により電動パワステモータ28を制御動作させることで、現在の走行車線の走行を維持させる車線維持制御、および自車両100を隣接車線へ移動させる車線変更制御(追越制御などのための車線変更制御)が実行される。
【0043】
BK_ECU25の出力側には、ブレーキアクチュエータ29が接続されている。このブレーキアクチュエータ29は、各車輪に設けられているブレーキホイールシリンダに対して供給するブレーキ油圧を調整するもので、BK_ECU25からの駆動信号によりブレーキアクチュエータ29が駆動されると、ブレーキホイールシリンダにより各車輪に対してブレーキ力が発生し、強制的に減速される。
【0044】
次に、走行環境認識部21dにおいて行われるフュージョン立体物の認識制御について、
図3に示すフュージョン立体物認識ルーチンのフローチャートに従って説明する。
【0045】
このルーチンは、設定時間毎に繰り返し実行されるものであり、ルーチンがスタートすると、走行環境認識部21dは、先ず、ステップS101において、各センサ(すなわち、本実施形態においては、車載カメラ及び各レーダ)によって検出された立体物を読み込む。
【0046】
続くステップS102において、走行環境認識部21dは、2つの検索領域(第1,第2の検索領域)の重複領域内での同一立体物判定を行う。
【0047】
この判定は、各重複領域内において第1,第2の検出手段が検出した全ての立体物について行われる。すなわち、例えば、前方領域A1と左斜め前領域Alfとの重複領域において、車載カメラにより検出された各立体物と左前側方レーダ21rfにより検出された各立体物と全ての組合せについて、立体物までの距離、立体物の移動速度、立体物の移動方向、及び、立体物の横幅をそれぞれ比較し、これらがそれぞれ予め設定された誤差範囲内にある場合に、同一立体物であると判定する。
【0048】
そしてステップS102からステップS103に進むと、走行環境認識部21dは、各重複領域内に未だ統合処理されていない同一の立体物の組合せが存在するか否かを調べる。
【0049】
そして、ステップS103において、未だ統合されていない同一立体物の組合せが存在すると判定した場合、走行環境認識部21dは、ステップS104に進み、統合されていない同一立体物の組合せを抽出する。
【0050】
そして、ステップS104からステップS105に進むと、走行環境認識部21dは、抽出した同一立体物の組合せの距離情報に基づいて、距離のパラメータLを設定する。
【0051】
この距離のパラメータLは、例えば、以下の(1)式に基づいて設定される。
【0052】
L=(立体物までの距離)+(相対速度×時間パラメータ) …(1)
【0053】
ここで、(1)式において、立体物までの距離としては、例えば、自車両100から、同一立体物の組合せを構成する各立体物までの距離のうち、安全走行の観点から見た最悪値(自車両100に近い距離)が用いられる。或いは、立体物までの距離として、自車両100から、同一立体物の組合せを構成する各立体物までの距離の平均値を用いることも可能である。なお、立体物までの距離は、立体物が自車両100の前方に存在する場合には正値となり、立体物が自車両100の後方に存在する場合には負値となる。
【0054】
また、相対速度としては、例えば、自車両100と同一立体物の組合せを構成する各立体物との相対速度(自車両100の前方の立体物については(立体物の速度)-(自車速)、自車両100の後方の立体物については(自車速)-(立体物の速度))のうち、安全走行の観点から見た最悪値(絶対値が小さい方の値)が用いられる。或いは、相対速度として、各立体物との相対速度の平均値を用いることも可能である。
【0055】
また、時間パラメータとしては、例えば、1秒が設定されている。
【0056】
なお、距離のパラメータLとしては、(1)式で示したように相対速度に基づく補正を行わないことも可能である。
【0057】
ステップS105からステップS106に進むと、走行環境認識部21dは、距離のパラメータLに対する設定閾値Lthを読み込む。例えば、
図4に示すように、この設定閾値Lthは、自車両100の前方の検出立体物に対する正値の設定閾値Lthと、自車両100の後方の検出立体物に対する正負の設定閾値Lthと、が設定されている。ここで、本実施形態において、各設定閾値Lthは、自車速に応じて可変であり、自車速が高いほど、正値の設定閾値Lthは大きな値となり、負値の設定閾値Lthは小さな値となる。なお、設定閾値Lthは、自車速に対して固定値であっても良い。
【0058】
ステップS106からステップS107に進むと、走行環境認識部21dは、距離のパラメータLと設定閾値Lthとの比較により、第1の検出立体物及び第2の検出立体物が自車両よりも遠方に存在するか否かを調べる。ここで、
図4に示すように、距離のパラメータLが正の設定閾値Lthよりも大きい場合、或いは、距離のパラ-メタLが負の設定閾値Lthよりも小さい場合、第1の検出立体物及び第2の検出立体物は自車両100の遠方に存在すると判定される。一方、距離のパラメータLが負の設定閾値Lth以上且つ正の設定閾値Lth以上である場合、第1の検出立体物及び第2の検出立体物は自車両の近傍に存在すると判定される。
【0059】
そして、ステップS107において、第1の検出立体物及び第2の検出立体物が自車両100の遠方に存在すると判定した場合、走行環境認識部21dは、ステップS108に進み、第1の検出立体物及び第2の検出立体物についての各検出結果の平均値を用いてフュージョン立体物を認識した後、ステップS103に戻る。
【0060】
すなわち、ステップS108において、走行環境認識部21dは、例えば、
図5に示すように、フュージョン立体物の横幅として、第1の検出立体物の横幅と第2の検出立体物の横幅の平均値を設定する。また、フュージョン立体物の代表点の位置として、第1の検出立体物の代表点の位置と第2の検出立体物の代表点の位置の平均値を設定する。また、フュージョン立体物の速度として、第1の検出立体物の速度と第2の検出立体物の速度の平均値を算出する。なお、その他の各情報についても同様に設定され、第1の検出立体物或いは第2の検出立体物の何れか一方のみ検出された情報については、当該情報が設定される。
【0061】
一方、ステップS107において第1の検出立体物及び第2の検出立体物が自車両100の近傍に存在すると判定した場合、走行環境認識部21dは、ステップS109に進み、第1の検出立体物及び第2の検出立体物の最悪値を用いてフュージョン立体物を認識した後、ステップS103に戻る。
【0062】
すなわち、ステップS109において、走行環境認識部21dは、例えば、
図6に示すように、フュージョン立体物の横幅として、第1の検出立体物或いは第2の検出立体物の最も左端から最も右端までの幅を設定する。また、フュージョン立体物の代表点として、第1の検出立体物或いは第2の検出立体物の代表点のうち、自車両100に最も近いものを設定する。また、フュージョン立体物の速度として、第1の検出立体物或いは第2の検出立体物の速度のうち、自車両100の前方のフュージョン立体物については最も遅い速度が設定され、自車両100の後方のフュージョン立体物については最も速い速度が設定される。なお、その他の各情報についても同様の観点から設定され、第1の検出立体物或いは第2の検出立体物の何れか一方のみ検出された情報については、当該情報が設定される。これにより、フュージョン立体物の各認識情報には、安全マージンが反映される。
【0063】
また、ステップS103において、未だ統合処理されていない同一立体物の組合せが存在しないと判定した場合、走行環境認識部21dは、ルーチンを抜ける。
【0064】
なお、このフュージョン立体物認識ルーチンにおいて統合されていない各立体物は、それぞれ単独のセンサによって検出された立体物として認識される。
【0065】
このような実施形態によれば、自車両から第1の検出立体物及び第2の検出立体物までの距離に基づくパラメータLと設定閾値Lthとの比較により、第1の検出立体物及び第2の検出立体物が自車両100の近傍に存在すると判定した場合には各検出結果の最悪値を用いてフュージョン立体物を認識し、第1の検出立体物及び第2の検出立体物が自車両の遠方に存在すると判定した場合には各検出結果の平均値を用いて前記フュージョン立体物を認識することにより、複数のセンサによる検出情報を効率的且つ有効に活用してフュージョン立体物を認識することができる。
【0066】
すなわち、自車両100による緊急の衝突回避制御等を必要とする可能性の低い遠方にフュージョン立体物が存在する場合には、第1の検出立体物及び第2の検出立体物の各検出結果の平均値を用いてフュージョン立体物を認識することにより、当該フュージョン立体物に対する過剰な運転制御を抑制することができる。一方、自車両100による緊急の衝突回避制御等を必要とする可能性の高い近傍にフュージョン立体物が存在する場合には、第1の検出立体物及び第2の検出立体物の各検出結果の最悪値(自車両との衝突の可能性のある最もシビアな値)を用いてフュージョン立体物を認識することにより、安全マージンを十分に考慮した運転制御を実現することができる。
【0067】
その際、自車速に応じて設定閾値Lthを可変に設定することにより、自車両100の実際の走行状態に即して第1,第2の検出立体物が遠方に存在するか近傍に存在するかの判断を行うことができる。
【0068】
また、距離のパラメータを相対速度に基づいて補正することにより、自車両100の走行環境に即して第1,第2の検出立体物が遠方に存在するか近傍に存在するかの判断を行うことができる。
【0069】
ここで、上述の実施形態においては、ステレオカメラを用いた車載カメラとレーダとのフュージョンを例に説明したが、用いるセンサとしては、単眼カメラ、ソナー等であっても良いことは勿論である。
【0070】
なお、運転支援装置1を構成するロケータユニット11、カメラユニット21、及び、各ECU22~26は、中央処理装置(CPU)、ROM、RAMなどの記憶装置などを含むプロセッサを有している。また、プロセッサの複数の回路の全て若しくは一部の構成は、ソフトウェアで実行してもよい。例えば、ROMに格納された各機能に対応する各種プログラムをCPUが読み出して実行するようにしてもよい。
【0071】
さらに、プロセッサの全部若しくは一部の機能は、論理回路あるいはアナログ回路で構成してもよく、また各種プログラムの処理を、FPGAなどの電子回路により実現するようにしてもよい。
【0072】
以上の実施の形態に記載した発明は、それらの形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記各形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより種々の発明が抽出され得るものである。
【0073】
例えば、各形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、述べられている課題が解決でき、述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得るものである。
【符号の説明】
【0074】
1 … 運転支援装置
10 … 車内通信回線
11 … ロケータユニット
12 … ロケータ演算部
12a … 自車位置推定部
13 … 前後加速度センサ
14 … 車輪速センサ
15 … ジャイロセンサ
16 … GNSS受信機
21 … カメラユニット
21a … メインカメラ
21b … サブカメラ
21c … IPU
21d … 走行環境認識部
21l … 側後方カメラ
21r … 側後方カメラ
22 … 走行制御ユニット(走行_ECU)
23 … エンジン制御ユニット(E/G_ECU)
24 … パワーステアリング制御ユニット(PS_ECU)
25 … ブレーキ制御ユニット(BK_ECU)
27 … スロットルアクチュエータ
28 … 電動パワステモータ
29 … ブレーキアクチュエータ
33 … モード切換スイッチ
34 … ハンドルタッチセンサ
35 … 操舵トルクセンサ
36 … ブレーキセンサ
37 … アクセルセンサ