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特許7397612照明装置、植物への光照射設備及び植物への光照射方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】照明装置、植物への光照射設備及び植物への光照射方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20231206BHJP
   F21V 9/38 20180101ALI20231206BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20231206BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20231206BHJP
【FI】
A01G7/00 601A
F21V9/38
F21S2/00 600
F21Y115:30
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019179407
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021052671
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147304
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 知哉
(72)【発明者】
【氏名】久保 真澄
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-147374(JP,A)
【文献】特開2003-158922(JP,A)
【文献】特表2016-504044(JP,A)
【文献】特開平04-207128(JP,A)
【文献】特表2014-510528(JP,A)
【文献】特開2013-126382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
F21V 9/38
F21S 2/00
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
600nm以上700nm以下の第1波長域と、720nm以上800nm以下の第2波長域とのそれぞれに発光ピークを有し、
前記第1波長域における光量子束密度(d1)に対する、前記第2波長域における光量子束密度(d2)の比(d2/d1)が0.1以上である光を出射する光源を備える、照明装置であって、
前記光源は、前記第1波長域に発光ピークを有する第1量子ドットが分散された複数の第1領域と、前記第2波長域に発光ピークを有する第2量子ドットが分散された複数の第2領域とを含む発光部を有し、前記複数の第1領域と前記複数の第2領域とが交互に配列されている、照明装置
【請求項2】
前記複数の第1領域と前記複数の第2領域とがマトリクス状に配列されている、請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記d2/d1が0.3以上である、請求項1または2に記載の照明装置。
【請求項4】
前記光源は、前記発光部に含まれる量子ドットの励起波長の光を前記発光部に対して出射する発光素子をさらに備える、請求項1からのいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項5】
600nm以上700nm以下の第1波長域と、720nm以上800nm以下の第2波長域とのそれぞれに発光ピークを有し、
前記第1波長域における光量子束密度(d1)に対する、前記第2波長域における光量子束密度(d2)の比(d2/d1)が0.1以上である光を出射する光源を備える、照明装置であって、
前記光源は、前記第1波長域に発光ピークを有する複数の第1レーザ素子と、前記第2波長域に発光ピークを有する複数の第2レーザ素子とをみ、前記複数の第1レーザ素子と前記複数の第2レーザ素子とが交互に配列されている、照明装置。
【請求項6】
前記複数の第1レーザ素子と前記複数の第2レーザ素子とがマトリクス状に配列されている、請求項5に記載の照明装置。
【請求項7】
植物を配置する配置部と、
前記配置部に配置された植物に対して光を照射する照明装置と、
を備え、
前記照明装置は、
600nm以上700nm以下の第1波長域と、720nm以上800nm以下の第2波長域とのそれぞれに発光ピークを有し、
前記第1波長域における光量子束密度(d1)に対する、前記第2波長域における光量子束密度(d2)の比(d2/d1)が0.1以上である光を出射する光源を有する、植物への光照射設備であって、
前記光源は、前記第1波長域に発光ピークを有する第1量子ドットが分散された複数の第1領域と、前記第2波長域に発光ピークを有する第2量子ドットが分散された複数の第2領域とを含む発光部を有し、前記複数の第1領域と前記複数の第2領域とが交互に配列されている、光照射設備
【請求項8】
植物を配置する配置部と、
前記配置部に配置された植物に対して光を照射する照明装置と、
を備え、
前記照明装置は、
600nm以上700nm以下の第1波長域と、720nm以上800nm以下の第2波長域とのそれぞれに発光ピークを有し、
前記第1波長域における光量子束密度(d1)に対する、前記第2波長域における光量子束密度(d2)の比(d2/d1)が0.1以上である光を出射する光源を有する、植物への光照射設備であって、
前記光源は、前記第1波長域に発光ピークを有する複数の第1レーザ素子と、前記第2波長域に発光ピークを有する複数の第2レーザ素子とを含み、前記複数の第1レーザ素子と前記複数の第2レーザ素子とが交互に配列されている、光照射設備
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明装置、植物への光照射設備及び植物への光照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、植物の成長と発育とを支える照明装置として、62nm~680nmの間にピークを有する第1発光ダイオードと、700nm~760nmの間にピークを有する第2発光ダイオードとを有する光電素子アレーを備える照明装置が提案されている。
【0003】
特許文献1には、波長が620nm~680nmの光は、光合成プロセスのための一次エネルギー源であり、具体的には、励起状態を生成するためのクロロフィル分子と相互作用する放射エネルギーの源となる旨が記載されている。
【0004】
特許文献1には、波長が700nm~760nmの光エネルギーは、光合成に伴うエネルギー移転プロセスの向上に関係する旨が記載されている。
【0005】
特許文献1には、光電素子アレーにおける第1発光ダイオード(620nm~680nm)の数は、第2発光ダイオード(700nm~760nm)の数よりもずっと少ない旨、その理由として、望ましい光形態形成応答を生成するためには、少量の放射エネルギーが供給されるにすぎないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-115219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
植物の光合成の効率を向上したいという要望がある。
【0008】
本開示の主な目的は、植物の光合成の効率を向上し得る照明装置、植物への光照射設備及び植物への光照射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態に係る照明装置は、光源を備える。光源は、600nm以上700nm以下の第1波長域と、720nm以上800nm以下の第2波長域とのそれぞれに発光ピークを有し、第1波長域における光量子束密度(d1)に対する、第2波長域における光量子束密度(d2)の比(d2/d1)が0.1以上である光を出射する。
【0010】
本発明の一態様に係る植物への光照射設備は、植物を配置する配置部と、配置部に配置された植物に対して光を照射する照明装置とを備える。照明装置は、光源を有する。光源は、600nm以上700nm以下の第1波長域と、720nm以上800nm以下の第2波長域とのそれぞれに発光ピークを有し、第1波長域における光量子束密度(d1)に対する、第2波長域における光量子束密度(d2)の比(d2/d1)が0.1以上である光を出射する。
【0011】
本発明の一態様に係る植物への光照射方法では、600nm以上700nm以下の第1波長域と、720nm以上800nm以下の第2波長域とのそれぞれに発光ピークを有し、第1波長域における光量子束密度(d1)に対する、第2波長域における光量子束密度(d2)の比(d2/d1)が0.1以上である光を植物に対して照射する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る光照射設備の模式図である。
図2】波長が660nmの光を照射したときの光強度とPnとの関係を表すグラフである。
図3】波長が720nmの光を照射したときの光強度とPnとの関係を表すグラフである。
図4】波長が735nmの光を照射したときの光強度とPnとの関係を表すグラフである。
図5】第1実施形態における光源の模式的断面図である。
図6】第1量子ドットから出射される光のスペクトルの一例である。
図7】第2量子ドットから出射される光のスペクトルの一例である。
図8】第1実施形態における照明装置から出射される光のスペクトルの一例である。
図9】第2実施形態における発光部の模式的平面図である。
図10】第3実施形態における光源の模式的平面図である。
図11】第4実施形態に係る光照射設備の模式図である。
図12】スペクトル(Spectral Photon Flux Curves)S1、S2、S3、S4及びS5を表すグラフである。
図13】実施例1、2及び比較例1、2における光強度と量子収率φIIとの関係を表すグラフである。
図14】実施例3~9、比較例3~5におけるd2/d1とPnとの関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る光照射設備1の模式図である。図1に示す光照射設備1は、植物への光照射を行うための設備である。光照射装置1が植物に光照射する目的は、特に限定されない。光照射装置1は、例えば、植物の光合成を促進させる設備、植物を育成させる設備等であってもよい。
【0015】
図1に示すように、光照射装置1は、照射室10と、配置部20と、照明装置30とを備えている。照射室10は、例えば、採光窓を有しており、外光を取り込み可能な部屋であってもよいが、本実施形態では、外光を遮蔽した光遮蔽室である。照射室10の大きさは、特に限定されない。照射室10は、光を照射しようとする植物の種類、大きさ、量等に応じて適宜設定することができる。照射室10の床面積は、例えば、数cm以上10km以下であってもよい。
【0016】
照射室10内には、植物21を配置する配置部20が配置されている。配置部20は、植物21を配置可能である限りにおいて特に限定されない。配置部20には、例えば、鉢やプランター等の栽培容器等に植えられた植物21が配置されてもよい。例えば、水性栽培された植物21を配置部20に配置してもよい。
【0017】
配置部20に配置される植物21の種類は、特に限定されない。植物21は、例えば、陸上植物であってもよい。
【0018】
照明装置30は、照射室10内において、配置部20に配置された植物21に対して光を照射可能に配置されている。具体的には、本実施形態では、照明装置30は、照射室10の天井11に取り付けられている。天井11と配置部20との間の距離が離れている場合には、例えば、照明装置30を天井11から吊り下げてもよい。照明装置30は、照明装置30の光量、植物21の種類、植物21の育成条件等に鑑み、配置部20に対して最適であると考えられる位置に配置されていることが好ましい。
【0019】
照明装置30は、光源30aと、光源30aの保持具(図示せず)とを備えている。光源30aは、以下の条件(1)及び条件(2)を満たす光を出射する。
条件(1):第1波長域と、第2波長域とのそれぞれに発光ピークを有する。
条件(2):d2/d1が0.1以上である。
【0020】
但し、
第1波長域:600nm以上700nm以下の波長域、
第2波長域:720nm以上800nm以下の波長域、
d1:第1波長域における光量子束密度、
d2:第2波長域における光量子束密度、
である。
【0021】
ここで、「光量子束密度」(Photon Flux Density:PFD)とは、単位時間に単位面積を通過する光量子の数であり、光強度の指標として使用される単位である。光量子束密度のうち、波長が400nm以上700nm以下の範囲の光量子束密度は、特に、光合成有効光量子束密度(PPFD)と言われている。
【0022】
本発明者は、鋭意研究の結果、上記条件(1)及び条件(2)を満たす光を植物21に照射することにより、植物21の光合成の効率を向上し得ることを見出し、本実施形態に係る技術を成すに至った。すなわち、本実施形態に係る照明装置30を用いることにより、植物21の光合成の効率を向上し得る。特に、照明装置30を用いることにより、植物21に対して照射する光の強度が、例えば、200μmol・m-2・s-1以上、さらには、300μmol・m-2・s-1以上、400μmol・m-2・s-1以上であるときに、植物21の光合成の効率を飛躍的に向上し得る。
【0023】
この事実は、本発明者にとって驚くべき事実であった。
【0024】
光合成は、明反応と、暗反応とを含む。明反応では、光エネルギーにより水が酸素に酸化されるとともに、二酸化炭素の還元に必要なNADPH とATPとが造り出される。暗反応では、NADPH とATPとを利用して二酸化炭素から糖が造り出される。明反応及び暗反応のうち、光を必要とする反応は、明反応である。明反応では、光化学系(Photosystem:PS)と呼ばれるタンパク質とクロロフィル(Chl)や補助色素等との複合体に含まれるPSを励起させる必要がある。従って、明反応を進行させるためには、植物21にPSの励起波長の光を照射する必要がある。PSの励起波長は、通常660nm~680nm程度である。このため、従来、680nm程度の波長の光を植物21に照射することが植物21の光合成を促進する観点から好ましいと考えられている。一方、700nm以上の波長の光を単独で照射しても光合成がほとんど行われず、700nm以上の波長の光は、単独で光合成に実質的に寄与しないことが知られている。
【0025】
図2は、波長が660nmの光を照射したときの光強度とPnとの関係を表すグラフである。図3は、波長が720nmの光を照射したときの光強度とPnとの関係を表すグラフである。図4は、波長が735nmの光を照射したときの光強度とPnとの関係を表すグラフである。なお、Pnとは、光合成による生産(総一次生産)から呼吸による消費を差し引いた値である。Pnがプラスである状態は、呼吸による消費以上に光合成による生産が行われている状態である。Pnがマイナスである状態は、呼吸による消費よりも光合成による生産が少ない状態である。従って、Pnがマイナスである状態では、光合成が活発に行われていないと考えられる。
【0026】
図2に示すように、波長が660nmの光を植物に照射した場合は、照射光の強度が高くなるにつれてPnが高くなり、マイナスからプラスに転じる。このことから、波長が660nmの光は光合成に寄与していることが理解される。それに対して、図3及び図4に示すように、波長が720nmまたは735nmの光を植物に照射した場合は、照射光の強度が高くなってもPnはほとんど変化せず、マイナスのままである。このことからも、700nm以上の波長の光は光合成に実質的に寄与しないことが理解される。
【0027】
従って、当業者であれば、光合成の効率を向上する観点からは、波長が700nm以上の光の割合を低くし、660nm~680nm程度の波長の光の割合を高くすることを考える。
【0028】
従って、600nm以上700nm以下の第1波長域に発光ピークを有する光に加え、720nm以上800nm以下の第2波長域に発光ピークを有する光を所定の割合以上加え、d2/d1を0.1以上とするという技術的思想には、通常の当業者は想到し得ない。
【0029】
なお、上記条件(1)及び条件(2)を満たす光を植物21に照射することにより、植物21の光合成の効率を向上し得る理由としては、例えば、以下の理由が考えられる。光合成の明反応の進行には、P680の励起とP700nmの励起が必要であるが、P700を効率的に励起させるには、従来必要と考えられていた700nmの波長の光よりもより長波長側の700nmよりも高い720nm以上800nm以下の第2波長域の光の照射が効率的であるためであると考えられる。
【0030】
光合成の効率をより向上する観点からは、d2/d1が0.3以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましい。d2/d1は、0.9以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.7以下であることがさらに好ましく、0.65以下であることがなお好ましい。
【0031】
光合成の効率をより向上する観点からは、光源30aが出射する光が、630nm以上700nm以下の波長域に発光ピークを有することが好ましく、650nm以上680nm以下の波長域に発光ピークを有することが好ましい。
【0032】
光合成の効率をより向上する観点からは、光源30aが出射する光の720nm以上750nm以下の波長域における光量子束密度をd3としたときに、d3/d1が0.1以上であることがより好ましく、0.3以上であることがさらに好ましい。
【0033】
上記好ましい発光スペクトルを有する光源30aの構成は特に限定されない。本実施形態において、光源30aは、第1波長域に発光ピークを有する第1量子ドットと、第2波長域に発光ピークを有する第2量子ドットとの少なくとも一方を含む。このように、第1量子ドットと第2量子ドットとを用いて光源30aを構成することにより、各発光ピークの半値幅を小さくすることができる。従って、PSの励起に好適な波長の光の割合をより高めることができる。従って、光合成の効率をさらに向上することができる。
【0034】
図5は、第1実施形態における光源30aの模式的断面図である。以下、本実施形態における光源30aの具体的な構成について、図5を参照して詳細に説明する。
【0035】
図5に示すように、光源30aは、発光部31と、発光素子32とを有する。
【0036】
発光部31は、第1蛍光体と、第2蛍光体を含む。具体的には、複数の第1蛍光体と複数の第2蛍光体とのそれぞれが発光部31内に分散している。
【0037】
図6は、第1蛍光体(詳細には、第1蛍光体を構成している第1量子ドット)から出射される光のスペクトルの一例である。図7は、第2蛍光体(詳細には、第2蛍光体を構成している第2量子ドット)から出射される光のスペクトルの一例である。図6に示すように、第1蛍光体は、第1波長域(600nm以上700nm以下の波長域)に発光ピークを有する。図7に示すように、第2蛍光体は、第2波長域(720nm以上800nm以下の波長域)に発光ピークを有する。
【0038】
なお、図6及び図7と、後述する図8に示すグラフの縦軸は、光子束PF(Photon Flux)を表している。
【0039】
発光部31に含まれる第1蛍光体及び第2蛍光体は、例えば、QLED(Quantum dot Light Emitting Diode)やOLED(Organic Light Emitting Diode)等により構成することができる。本実施形態では、具体的には、第1蛍光体と第2蛍光体とのそれぞれは、QLEDにより構成されている。より具体的には、第1蛍光体と第2蛍光体とは、粒子径が相互に異なる、同じ材料系のQLEDにより構成されている。
【0040】
発光素子32は、発光部31に対して配置部20とは反対側に配置されている。発光素子32は、発光部31に含まれる第1蛍光体及び第2蛍光体のそれぞれの励起波長の光(励起光)を発光部31に対して出射する。このため、発光部31に含まれる第1蛍光体及び第2蛍光体は、発光素子32から出射される光により励起され、蛍光を発する。従って、発光部31は、図8に示すように、第1波長域と第2波長域との両方に発光ピークを有する光を出射する所謂フォトルミネッセンス(PL)方式の発光部である。
【0041】
発光素子32は、第1蛍光体及び第2蛍光体のそれぞれの励起光を出射可能なものである限りにおいて特に限定されない。発光素子32は、例えば、レーザ素子、OLEDを蛍光体として含む素子等により構成することができる。本実施形態では、具体的には、発光素子32は、一対の電極と、一対の電極の間に設けられており、OLEDを含む発光層とにより構成されている。すなわち、本実施形態においては、発光素子32は、OLEDを用いた、エレクトロルミネッセンス(EL)方式の発光素子(EL方式のOLED素子)である。もっとも、発光素子32は、例えば、OLEDやQLEDを用いた、フォトルミネッセンス(PL)方式の発光素子(PL方式のQLED素子またはOLED素子)であってもよい。
【0042】
なお、図5では、模式的に光源30aの構成要素として、発光部31と発光素子32とのみを描画している。但し、光源30aは、発光部31及び発光素子32以外の構成をさらに有していてもよい。光源30aは、例えば、拡散板や輝度向上フィルム等の光学シートをさらに備えていてもよい。
【0043】
以下、本発明の好ましい実施形態の他の例について説明する。以下の説明において、上記第1実施形態と実質的に共通の機能を有する部材を共通の符号で参照し、説明を省略する。
【0044】
(第2実施形態)
図9は、第2実施形態における発光部31の模式的平面図である。図9及び図10においては、領域または素子を区別するために一部の領域または素子にハッチングを附している。図9及び図10において、ハッチングが附された領域は、断面を表していない。
【0045】
本実施形態に係る光照射装置は、第1実施形態に係る光照射装置1と、発光部31の構成においてのみ異なる。このため、本実施形態では、発光部31の構成について説明し、他の構成要件について第1実施形態の説明を援用する。
【0046】
第1実施形態では、発光部31の全体に第1量子ドットと第2量子ドットとのそれぞれが分散しており、第1波長域と第2波長域との両方に発光ピークを有する光が発光部31の全体から出射される例について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。
【0047】
例えば、発光部31において、第1波長域に発光ピークを有する光を出射する複数の第1領域と、第2波長域に発光ピークを有する光を出射する複数の第2領域とがマトリクス状に配列されていてもよい。
【0048】
具体的には、図9に示すように、本実施形態における発光部31は、交互にマトリクス状に配列された複数の第1領域31a及び複数の第2領域31bを有する。第1領域31aにおいては、第1蛍光体(具体的には、第1量子ドット)が分散している。このため、第1領域31aからは、第1波長域に発光ピークを有する光が出射される。第2領域31bにおいては、第2蛍光体(具体的には、第2量子ドット)が分散している。このため、第2領域31bからは、第2波長域に発光ピークを有する光が出射される。従って、発光部31の全体から、第1波長域に発光ピークを有する光と、第2波長域に発光ピークを有する光との両方が出射する。従って、第1実施形態と同様に、光合成の高い効率を実現し得る。
【0049】
(第3実施形態)
図10は、第3実施形態における光源30aの模式的平面図である。第1実施形態及び第2実施形態では、QLEDを用いて光源30aを構成する例について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。例えば、レーザ素子を用いて光源を構成してもよい。
【0050】
図10に示すように、本実施形態における光源30aは、フォルダ30a1と、複数の第1レーザ素子30a2と、複数の第2レーザ素子30a3とを有する。フォルダ30a1は、複数の第1レーザ素子30a2と、複数の第2レーザ素子30a3とを保持している。複数の第1レーザ素子30a2と、複数の第2レーザ素子30a3とは、交互にマトリクス状に配列されている。第1レーザ素子30a2は、第1波長域に発光ピークを有する。第2レーザ素子30a3は、第2波長域に発光ピークを有する。
【0051】
レーザ素子から出射される発光ピークの半値幅は狭い。このため、本実施形態のように、第1レーザ素子30a2及び第2レーザ素子30a3を用いて光源30aを構成することにより、光合成の効率を向上し得る。
【0052】
(第4実施形態)
図11は、第4実施形態に係る光照射設備1aの模式図である。図11に示すように、光照射設備1aでは、照明装置30は、複数の蛍光灯33と、複数の光源34とを備えている。複数の蛍光灯33と複数の光源34は、一の方向(図11においては、左右方向)に沿って交互に配列されている。
【0053】
蛍光灯33は、600nm以上650nm以下の波長域に大きなピーク波長を有する光を出射する。このため、蛍光灯33は、第1波長域に発光ピークを有する光源である。
【0054】
光源34は、720nm以上800nm以下の第2波長域に少なくとも発光ピークを有する。このため、光源34と蛍光灯33とを有する照明装置30は、第1波長域と第2波長域とのそれぞれに発光ピークを有する光を植物21に対して出射する。また、複数の蛍光灯33と複数の光源34とは、d2/d1が0.1以上、好ましくは0.3以上となるように構成されている。このため、本実施形態に係る光照射装置1aによれば、光合成の高い効率で植物を育成し得る。
【0055】
なお、光源34は、上記実施形態の光源30aと実質的に同様に構成し得る。このため、光源34の構成とて上記実施形態における光源30aの記載を援用するものとする。
【実施例
【0056】
以下、具体的な実施例に基づいて本発明について説明する。以下の実施例は単なる例示であって、本発明は、下記の実施例に何ら限定されない。
【0057】
(比較例1)
ロメインレタス(0426播種、0510定植)に対して、上方に配置したLEDから、図12に示すスペクトルS1を有する光(発光ピーク波長:660nm)を表1に示す各光強度で照射した。光が照射されており、光合成が行われているときの量子収率φIIを、蛍光測定装置(WALZ社製JUNIOR-PAM)を用いてPAM蛍光法(pulse amplitude modulated fluorometry)に基づいて測定した。結果を表1及び図13に示す。なお、比較例1においては、ロメインレタスに対して照射した光のd2/d1は0であった。
【0058】
【表1】
【0059】
(比較例2)
図12に示すスペクトルS2を有する光(発光ピーク波長:680nm)を表2に示す各光強度で照射したこと以外は、比較例1と同様にしてロメインレタスに対して光を照射し、量子収率φIIを測定した。結果を表2及び図13に示す。なお、比較例2においては、ロメインレタスに対して照射した光のd2/d1は0であった。
【0060】
【表2】
【0061】
(実施例1)
図12に示すスペクトルS1を有する光(発光ピーク波長:660nm)と、図12に示すスペクトルS3を有する光(発光ピーク波長:735nm)とを、スペクトルS1を有する光を出射するLEDからの光のPF(Photon Flux)と、スペクトルS3を有する光を出射するLEDからの光のPFとの比が約4:1となるようにロメインレタスに対して照射したこと以外は、比較例1と同様にしてロメインレタスに対して光を照射し、量子収率φIIを測定した。結果を表3及び図13に示す。なお、実施例1においては、ロメインレタスに対して照射した光のd2/d1は0.2であった。
【0062】
【表3】
【0063】
(実施例2)
図12に示すスペクトルS2を有する光(発光ピーク波長:680nm)と、図12に示すスペクトルS3を有する光(発光ピーク波長:735nm)とを、スペクトルS2を有する光を出射するLEDからの光のPFと、スペクトルS3を有する光を出射するLEDからの光のPFとの比が約4:1となるようにロメインレタスに対して照射したこと以外は、比較例1と同様にしてロメインレタスに対して光を照射し、量子収率φIIを測定した。結果を表4及び図13に示す。なお、実施例2においては、ロメインレタスに対して照射した光のd2/d1は0.2であった。
【0064】
【表4】

図13に示すように、実施例1の結果と比較例1の結果との比較、及び、実施例2の結果と比較例2の結果との比較から、d2/d1を0.1以上とすることにより光合成の効率を向上できることが分かる。特に、ロメインレタスに対して照射する光の強度が高い領域において光合成の効率を大きく向上できることが分かる。
【0065】
(実施例3~9及び比較例3~5)
溶液条件EC:2.0dSm-1、pH:6.5±0.5の溶液、温度25℃前後で育てたリーフレタス”Greenwave“(タキイ種苗)に対して、上方に配置した下記のLEDを用いて、表5に示すd1及びd2となる光を照射した。光照射中のPnを、携帯型光合成蒸散測定装置(Li-Cor社製LI6400XT)を用いて測定した。測定時のチャンバー内温度は20℃、CO濃度は400ppmであった。結果を表5及び図14に示す。
【0066】
LED(660):図12のスペクトルS1の光を出射するLED(発光ピーク波長:約660nm)
LED(735):図12のスペクトルS3の光を出射するLED(発光ピーク波長:約735nm)
LED(720)):図12のスペクトルS4の光を出射するLED(発光ピーク波長:約720nm)
LED(700)):図12のスペクトルS5の光を出射するLED(発光ピーク波長:約700nm)
比較例3~5:LED(660)とLED(700)
実施例3、4:LED(660)とLED(720)
実施例5、6:LED(660)とLED(735)
実施例7~9:LED(660)とLED(720)とLED(735)
【0067】
【表5】

図14に示す結果から、d2/d1を0.1以上とすることにより、光合成の効率を向上できることが分かる。光合成の効率をより向上する観点からは、d2/d1を0.3以上とすることが好ましく、0.4以上とすることがより好ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0068】
1、1a 光照射装置
20 配置部
21 植物
30 照明装置
30a 光源
30a2 第1レーザ素子
30a3 第2レーザ素子
31 発光部
32 発光素子
34 光源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14