(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】キャビティ、及びステム
(51)【国際特許分類】
H05H 13/00 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
H05H13/00
(21)【出願番号】P 2019196499
(22)【出願日】2019-10-29
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸明
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-531354(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106163072(CN,A)
【文献】特開2002-246198(JP,A)
【文献】特開平11-354299(JP,A)
【文献】特開2007-305496(JP,A)
【文献】特開2010-218747(JP,A)
【文献】特開2000-299200(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0094011(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 3/00-15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を加速する電場を生成するキャビティであって、
ディー電極と、アース板と、前記ディー電極と前記アース板とを繋ぐように延在するステムと、を備え、
前記ステムは、
前記ディー電極に接合する第1接合部と、
前記アース板に接合する第2接合部と、
前記第1接合部及び前記第2接合部との間に延在する本体部と、
を有し、
前記本体部は、前記ステムの延在方向に対する断面積及び断面形状の少なくとも一方が変化している変化部を含み、
前記第1接合部及び前記第2接合
部は、前記本体部の端面よりも外周側へ広がるフランジ部によって構成さ
れ、
前記フランジ部と前記ディー電極および前記アース板とは、それぞれ接続部材によって接続され、
前記本体部は、該本体部の延在方向において前記変化部と前記フランジ部のそれぞれとの間に位置し、且つ、前記ステムの延在方向に対する断面方向において前記接続部材が接続された位置よりも内側に位置する延在部を含む、
キャビティ。
【請求項2】
前記変化部は、前記延在方向に対する断面積を拡大させる、請求項1に記載のキャビティ。
【請求項3】
前記変化部は、前記延在方向において前記第1接合部からの距離と前記第2接合部からの距離とが異なる位置に設けられる、請求項1又は2に記載のキャビティ。
【請求項4】
荷電粒子を加速する電場を生成するキャビティ内のディー電極とアース板とを繋ぐように延在するステムであって、
前記ディー電極に接合する第1接合部と、
前記アース板に接合する第2接合部と、
前記第1接合部及び前記第2接合部との間に延在する本体部と、
を備え、
前記本体部は、前記ステムの延在方向に対する断面積及び断面形状の少なくとも一方が変化している変化部を有し、
前記第1接合部及び前記第2接合
部は、前記本体部の端面よりも外周側へ広がるフランジ部によって構成さ
れ、
前記フランジ部と前記ディー電極および前記アース板とは、それぞれ接続部材によって接続され、
前記本体部は、該本体部の延在方向において前記変化部と前記フランジ部のそれぞれとの間に位置し、且つ、前記ステムの延在方向に対する断面方向において前記接続部材が接続された位置よりも内側に位置する延在部を有する、
ステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビティ、及びステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1に記載のキャビティが知られている。キャビティ内では荷電粒子を加速する電場が生成される。キャビティは、ディー電極と、アース板と、ステムと、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで上述のようなキャビティは、その内部に導入される電磁波が共振するようにキャビティの構成物であるアース板、ディー電極、又はステムについて大きさ又は形状などを設計する必要がある。しかしながら、アース板の形状及びディー電極の形状は、例えばサイクロトロンの磁極の形状に依存するため、ステムの形状に比べて自由度が小さい。したがって、キャビティの共振周波数を最適化するためにステムの形状を主に最適化する。一方で、サイクロトロンの小型化が進んでいることから、ステムの形状の自由度も少なくなっている。そこで、小型化したサイクロトロンのキャビティ内に設置可能であり、且つ、キャビティ内部に導入された電磁波を共振させるよう共振周波数を最適化することができるステムが求められていた。
【0005】
本発明は、サイクロトロンの大きさ又は形状に合わせて設置することができ、電磁波に対する適切な共振周波数に設定することができるキャビティ、及びステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係るキャビティは、荷電粒子を加速する電場を生成するキャビティであって、ディー電極と、アース板と、ディー電極とアース板とを繋ぐように延在するステムと、を備え、ステムは、ディー電極に接合する第1接合部と、アース板に接合する第2接合部と、第1接合部及び第2接合部との間に延在する本体部と、を有し、本体部は、ステムの延在方向に対する断面積及び断面形状の少なくとも一方が変化している変化部を含んでいる。
【0007】
このキャビティでは、ステムは、ディー電極と第1接合部で接合し、アース板と第2接合部で接合する。ステムの本体部は、第1接合部と第2接合部との間に延在する。本体部は、断面積及び断面形状の少なくとも一方を変化させている変化部を有する。ここで、ステムは、キャビティ内部では主にインダクタンス成分として機能している。ステムの本体部における変化部が断面積及び断面形状を変化させることにより、ステムのインダクタンスを変化させることができ、ステムの共振周波数を変化させることができる。以上より、このキャビティは、サイクロトロンの大きさ又は形状に合わせて設置することができ、電磁波に対する適切な共振周波数に設定することができる。
【0008】
一実施形態においては、変化部は、延在方向に対する断面積を拡大させてもよい。
【0009】
一実施形態においては、変化部は、延在方向において第1接合部からの距離と第2接合部からの距離とが異なる位置に設けられてもよい。このような構成によれば、キャビティ内においてディー電極とアース板との間に他の構成物が存在した場合であっても、変化部が設けられる位置を適切に変化させることにより、本体部はディー電極とアース板とを接続し、適切な共振周波数を設定することができる。したがって、キャビティ内の形状に合わせたステムを設置することができる。
【0010】
一実施形態においては、第1接合部及び第2接合部の少なくとも一方は、本体部の端面よりも外周側へ広がるフランジ部によって構成されてもよい。このような構成によれば、本体部の端面よりも外周側へ広がる第1接合部及び第2接合部の少なくとも一方は、ディー電極及びアース板の少なくとも一方と安定して接合する。このため、ディー電極とステムとは第1接合部により、また、アース板とステムとは第2接合部により、それぞれ安定して接合することができる。
【0011】
一実施形態においては、第1接合部及び第2接合部の少なくとも一方は、本体部の端面によって構成されてもよい。このような構成によれば、ステムは、簡易な構成でディー電極及びアース板の少なくとも一方と接合することができる。
【0012】
本発明の他の側面に係るステムは、荷電粒子を加速する電場を生成するキャビティ内のディー電極とアース板とを繋ぐように延在するステムであって、ディー電極に接合する第1接合部と、アース板に接合する第2接合部と、第1接合部及び第2接合部との間に延在する本体部と、を備え、本体部は、ステムの延在方向に対する断面積及び断面形状の少なくとも一方が変化している変化部を有している。
【0013】
このステムは、ディー電極と第1接合部で接合し、アース板と第2接合部で接合する。ステムの本体部は、第1接合部と第2接合部との間に延在する。本体部は、断面積及び断面形状の少なくとも一方を変化させている変化部を有する。ここで、ステムは、キャビティ内部では主にインダクタンス成分として機能している。ステムの本体部における変化部の断面積及び断面形状を変化させることにより、ステムのインダクタンスを変化させることができ、ステムの共振周波数を変化させることができる。以上より、このステムは、サイクロトロン及びキャビティの大きさ又は形状に合わせて設置することができ、電磁波に対する適切な共振周波数に設定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、サイクロトロンの大きさ又は形状に合わせて設置することができ、電磁波に対する適切な共振周波数に設定することができるキャビティ、及びステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係るキャビティを備えるサイクロトロンの内部を示す斜視図である。
【
図2】
図1のキャビティを模式的に示す断面図である。
【
図3】
図2のキャビティを部分的に拡大して示す断面図である。
【
図4】実施形態に係るキャビティの一部及びステムを示す概略断面図である。
【
図5】実施形態に係るキャビティの一部及びステムを示す概略断面図である。
【
図6】実施形態に係るキャビティの一部及びステムを示す概略断面図である。
【
図7】実施形態に係るキャビティの一部及びステムを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において、同一又は同等の要素には同一の符号を付し重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、図面の位置関係に基づくものとする。
【0017】
まず、本実施形態に係るキャビティ6を備えるサイクロトロン1について説明する。
図1は、サイクロトロン1の内部を示す斜視図である。
図1では、サイクロトロン1の上部側が取外され内蔵部品が見えるような状態が図示されている。
【0018】
サイクロトロン1は、陽子ビームを生成するものであり、イオン源(図示せず)から供給される水素の陽イオン(荷電粒子)を真空容器3の内部で加速させて、陽子ビームを生成し、出射する。真空容器3は、例えば、ステンレス鋼などにより形成されている。また、真空容器3には、図示しない真空ポンプが接続されている。真空容器3は、イオンが加速する真空環境を内部に形成する。
【0019】
サイクロトロン1は、上下に対向して配置されたヨーク4と、真空容器3内に磁場を形成する励磁コイル5と、を備えている。また、サイクロトロン1は、陽子ビームにエネルギを付与するために、高周波電場を発生させるキャビティ6と、キャビティ6の共振周波数を調整するRFチューナー11を備えている。
【0020】
ヨーク4及び励磁コイル5によって真空容器3内に磁場が形成され、キャビティ6によって高周波電場が形成されることにより、陽子ビームがらせん状の軌道で周回運動し、周回軌道の半径が大きくなるにつれて陽子ビームの進行速度が増加する。なお、
図1では、下側のヨーク4が図示され、上側のヨーク4の図示は省略されている。
【0021】
また、サイクロトロン1には、真空容器3の側壁の内面側に設置されて、加速された陽子ビームを引き出すためのデフレクター(偏向器)7と、磁場勾配を補正するグラディエントコレクター(勾配補正器)8と、陽子ビームを所定の方向(水平方向)に出射するコリメーター9と、出射された陽子ビームの焦点を調整するパーマネントクワドロポールマグネット(四極子)10とが設けられている。真空容器3内で加速された陽子ビームは、デフレクター7によって引き出され、グラディエントコレクター8によって磁場勾配が補正されて、コリメーター9によって出射方向が調整される。出射された陽子ビームはパーマネントクワドロポールマグネット10によってビームの焦点が調整される。
【0022】
図2は
図1のキャビティ6を模式的に示す断面図である。サイクロトロン1では、一対のキャビティ6が陽子ビームBの通路を挟んで上下に設けられている。
図2に示されるように、一対のキャビティ6は、互いにほぼ上下対称で同一又は同等の構造を有している。よって以下では、重複する説明を省略すべく、下方に位置するキャビティ6の構造についてのみ説明する。
【0023】
キャビティ6は、ディー電極21と、アース板23と、ステム27と、を有している。アース板23は、ディー電極21と離間し、ディー電極21を内部に収容する有底のカップ状をなしており、ヨーク4の凹部に嵌め込まれている。アース板23は、例えば無酸素銅からなる。アース板23の底面から上方に向けてステム27が延びており、ディー電極21はステム27の上端に固定されている。なお、
図2以降の断面図及び概略断面図において、ステム27は断面ではなく側面を示している。
【0024】
アース板23の上端縁部はカウンターディー29を構成している。また、アース板23の上端縁部とディー電極21との間には間隙が設けられており、この間隙が、ディー電極21とカウンターディー29との間の加速ギャップGを構成している。ディー電極21とカウンターディー29との間に、電磁波が導入されることにより陽子ビームBの回転位相に応じた高周波電場が発生することで、陽子ビームBが加速ギャップGを通過する毎に加速される。
【0025】
図3は、
図2のキャビティ6を部分的に拡大して示す断面図である。
図3に示されるように、アース板23は、底板31と、底板31から垂直に立ち上がる側板33と、側板33の上端から外側方に鍔状に張り出すカウンターディー29と、を備えている。
【0026】
底板31は、ディー電極21に平行な平面内に延びている。底板31の中央には貫通穴(図示せず)が設けられている。貫通穴は、カプラ(図示せず)を挿通させるための穴が設置されている。また、底板31には、ステム27を取付けるための取付座(図示せず)が2箇所設けられている。ステム27は、ディー電極21とアース板23の底板31とを繋ぐように上下方向(延在方向)に延在する。なお、以下、上下方向を延在方向と記載し、延在方向に直交する水平面の方向を断面方向と記載する。底板31は、無酸素銅の平板材の板金加工によって製作される。底板31の板厚は、機械的強度を確保するために、5mm以上とされる。なお、板金加工は、金属性の平板材に対する切断加工、穴あけ加工、打抜き加工、曲げ加工、又はそれらの加工の組み合わせを含む。
【0027】
側板33は、複数の側板部品が組み合わされて筒状に形成される。各側板部品は、湾曲又は屈曲された薄板状をなし、無酸素銅の平板材の板金加工によって製作される。各側板部品の板厚は、側板33の機械的強度を確保するために、5mm以上とされる。また、カウンターディー29も薄板状をなしており、無酸素銅の平板材の板金加工によって製作される。
【0028】
ここで、キャビティ6の機能及び設計条件を説明する。キャビティ6内に導入される電磁波の周波数は、サイクロトロン1の励磁コイル5から発生する磁場によるサイクロトロン周波数と同程度にする必要がある。電磁波の周波数は、例えば、数十MHzから数百MHz程度である。キャビティ6は、その内部に導入される電磁波が共振するように設計される。
【0029】
キャビティ6内の電磁波の共振周波数は、ディー電極21の形状、アース板23の形状、又は、ステム27の大きさ及び形状等が寄与する。アース板23の形状は、アース板23が設置される励磁コイル5の形状に依存し、ディー電極21の形状はアース板23の形状に依存する。このため、上記の3つのうち、ステム27の大きさ及び形状が設計の自由度として大きい。ステム27は、キャビティ6内では主にインダクタンス成分として機能することから、ステム27の大きさ及び形状を変化させることにより、インダクタンスを変化させ、キャビティ6内での電磁波の共振周波数を変化させることができる。例えば、ステム27が円柱状に形成されている場合、ステム27の延在方向に対する外径(断面方向の径)を大きくすればするほど、電磁波の共振周波数は大きくなる。
【0030】
従来のステムは、ディー電極21及びアース板23の底板31とそれぞれ接続される1対の接続部(後述の第1接合部50及び第2接合部60に相当)と、1対の接続部とをつなぐ連結部(後述の本体部70に相当)とから構成されている。各接続部は、ディー電極21に設けられた取付座(図示せず)及びアース板23の底板31に設けられた取付座にそれぞれ接続部材(後述の接合部材37に相当)を介して接続している。接続部材は、断面方向において接続部の外周に沿って配置され、延在方向に向けて取り付けられている。連結部は、延在方向に対する断面積(断面方向に連結部を切断した場合の断面の面積)を変更させることなく延在している。連結部は、各接続部における接続部材が取り付けられていない部位に接合している。したがって、連結部の延在方向に対する断面積は、各接続部における接続部材が取り付けられていない部位の大きさに依存するため、変化可能な断面積及び体積には上限があった。このため、従来のステムは、サイクロトロン又はキャビティの大きさ又は形状に応じた電磁波の共振周波数に設定できない可能性があった。
【0031】
上記のような従来のステムの課題を解決することができる本実施形態に係るキャビティ6内のステム27について詳細に説明する。
図3に示されるように、ステム27は、ディー電極21とアース板23とを繋ぐように延在方向に延在する。ステム27は、ディー電極21に接合する第1接合部50と、アース板23に接合する第2接合部60と、第1接合部50と第2接合部60との間に延在する本体部70と、を有する。
【0032】
第1接合部50は、ディー電極21と接合される。第1接合部50は、延在方向において、ディー電極21の下面と向かい合って接触する。第1接合部50は、例えば締結用穴(図示せず)を有する。第1接合部50は、ディー電極21に設けられた取付座(図示せず)に接合部材37を介して接合する。接合部材37は、例えばボルトである。接合部材37は、例えば、ディー電極21から第1接合部50に向けて締結用穴及び取付座に挿入され、ディー電極21及び第1接合部50と嵌合する。第1接合部50は、例えば、円盤状を呈する。第1接合部50の締結用穴は、例えば第1接合部50の上面の外周に沿って設けられる凹部である。締結用穴は、延在方向において、第1接合部50を貫通していてもよい。接合部材37は、例えば、第1接合部50からディー電極21に向けて締結用穴及び取付座に挿入されてもよい。
【0033】
第2接合部60は、ディー電極21と接合される。第2接合部60は、延在方向において、アース板23の底板31と向かい合って接触する。第2接合部60は、例えば締結用穴(図示せず)を有する。第2接合部60は、アース板23に設けられた取付座に接合部材37を介して接合する。接合部材37は、例えば、第2接合部60からアース板23に向けて締結用穴及び取付座に挿入され、第2接合部60及びアース板23と嵌合する。第2接合部60は、例えば、円盤状を呈する。第2接合部60の締結用穴は、例えば第2接合部60の上面の外周に沿って設けられる。締結用穴は、延在方向において、第2接合部60を貫通している。例えば、接合部材37は、例えば、アース板23から第2接合部60に向けて締結用穴及び取付座に挿入されてもよい。
【0034】
本体部70は、第1接合部50及び第2接合部60との間に延在する。本体部70は、第1延在部71と、第2延在部74と、変化部77とを有する。延在方向のうち、ディー電極21からアース板23の底板31の向き(下向き)において、ステム27は、第1接合部50、第1延在部71、変化部77、第2延在部74、第2接合部60の順に並んで設けられている。第1延在部71、第2延在部74及び変化部77のそれぞれの内部において、冷却用管路が設けられていてもよい。第1延在部71、第2延在部74、及び変化部77の延在方向の長さは、設定する共振周波数によって適宜設定される。第1延在部71、第2延在部74、及び変化部77は、例えば一体物として形成されている。例えば、第1接合部50、第1延在部71、変化部77、第2延在部74、及び第2接合部60の各々の中心線は、同一の軸上に配置されている。
【0035】
第1接合部50及び第2接合部60は、本体部70の端面よりも外周側へ広がるフランジ部によって構成される。端面とは、それぞれ後述の第1延在部71の端面(上面)、及び第2延在部74の端面(下面)を指す。なお、フランジ部の断面積の大きさ又は断面方向の径、及び、変化部77の断面積の大きさ又は断面方向の径において、大小関係は限定されない。すなわち、フランジ部の断面積の大きさ又は断面方向の径と、変化部77の断面積の大きさ又は断面方向の径とは、どちらが大きくてもよい。また、第1接合部50及び第2接合部60の両方がフランジ部でなくともよく、一方がフランジ部で構成され、他方が本体部70の端面で構成されてもよい。
【0036】
第1延在部71は、変化部77と第1接合部50との間に位置する。第1延在部71は、例えば円柱状を呈する。第1延在部71は、第1接合部50の下面のうち、締結用穴及び第1接合部50に嵌合した接合部材37が設けられていない箇所と接合する。すなわち、第1接合部50がフランジ部によって構成されている場合、第1接合部50の締結用穴及び第1接合部50に嵌合した接合部材37は、断面方向において、第1接合部50の外周と第1延在部71の外周との間に位置する。第1延在部71の延在方向における断面積は、第1接合部50の断面積以下である。第1延在部71は、例えば、第1接合部50と変化部77との間において延在方向に延びる軸に平行に延在している。第1延在部71は、例えば、第1接合部50に溶接により接合している。第1接合部50と本体部70とは、一体物として形成されていてもよい。
【0037】
第2延在部74は、変化部77と第2接合部60との間に位置する。第2延在部74は、例えば円柱状を呈する。第2延在部74は、第2接合部60の上面のうち、締結用穴及び第2接合部60に嵌合した接合部材37が設けられていない箇所と接合する。すなわち、第2接合部60がフランジ部によって構成されている場合、第2接合部60の締結用穴及び第2接合部60に嵌合した接合部材37は、断面方向において、第2接合部60の外周と第2延在部74の外周との間に位置する。第2延在部74の延在方向における断面積は、第2接合部60の断面積以下である。第2延在部74は、例えば、第2接合部60と変化部77との間において延在方向に延びる軸に平行に延在している。第2延在部74は、例えば、第2接合部60に溶接により接合している。第2接合部60と本体部70とは、一体物として形成されていてもよい。
【0038】
変化部77は、本体部のうち、延在方向に対する断面積(断面方向の面積)及び断面形状の少なくとも一方が変化している部分である。変化部77は、例えば、第1延在部71及び第2延在部74の少なくとも一方に対して、延在方向に対する断面積及び断面形状の少なくとも一方が変化している。変化部77は、例えば、円柱状に形成されていてもよい。このとき、変化部77は、冷却用管路を除き中実である。
【0039】
まず、変化部77が、延在方向に対する断面積を変化させている場合を説明する。変化部77は、例えば、延在方向に対する断面積を拡大させている。変化部77は、第1延在部71及び第2延在部74の少なくとも一方に対して断面方向の外径(以下、単に「外径」と記載)を大きくすることによって、断面積を拡大させてもよい。変化部77は、例えば、第1延在部71及び第2延在部74と変化部77とのそれぞれの境界面において、第1延在部71及び第2延在部74の少なくとも一方の外径から予め設定された外径に拡大させる。変化部77において、例えば、第1延在部71と変化部77との境界面、及び第2延在部74と変化部77との境界面の間の変化部77の外径は、同一である。変化部77は、第1接合部50及び第2接合部60の少なくとも一方と比べて外径を小さくしていてもよい。
【0040】
図4は、実施形態に係るキャビティ6の一部及びステム27を示す概略断面図である。
図4の(a)は、ステム27の外径が第1接合部50の外径及び第2接合部60の外径と比べて大きい状態を示す概略断面図である。
図4の(a)に示されるように、変化部77は、第1接合部50及び第2接合部60の少なくとも一方と比べて外径を大きくしていてもよい。
【0041】
図4の(b)は、変化部77の延在方向の中心に向かって、変化部77の外径が第1延在部71の外径及び第2延在部74の外径と比べて段階的に大きくなっている状態を示す概略断面図である。
図4の(b)に示されるように、変化部77の外径は、第1延在部71との境界面から変化部77の延在方向の中心に向かうにしたがって大きくなっている。同様に、変化部77の外径は、第2延在部74との境界面から変化部77の延在方向の中心に向かうにしたがって大きくなっている。
図4の(b)に示されるように、変化部77の外径は、変化部77の延在方向の中心に向かうにしたがって、変化部77の延在方向の中心まで大きくならなくてもよい。変化部77の外径は、ステム27の延在方向の中心付近で同一の外径であってもよい。以上のように、延在方向における変化部77の外径は、第1延在部71及び第2延在部74に対するそれぞれの変化箇所のみ増加させてもよいし、第1延在部71と第2延在部74との間において段階的に増加させてもよい。
【0042】
変化部77は、例えば、延在方向に対する断面積を縮小させていてもよい。変化部77は、第1延在部71及び第2延在部74の少なくとも一方に対して外径を小さくすることによって、断面積を縮小させてもよい。延在方向における変化部77の外径は、第1延在部71及び第2延在部74に対するそれぞれの変化箇所のみ減少させてもよいし、第1延在部71と第2延在部74との間において段階的に減少させてもよい。
【0043】
変化部77は、延在方向に対する断面積が第1延在部71及び第2延在部74に対して変化している部位の数には限定されない。すなわち、変化部77は、例えば、延在方向に対する断面積が第1延在部71及び第2延在部74に対して変化している部位を3つ以上、複数有していてもよい。変化部77は、延在方向の部位ごとに断面積を拡大させたり縮小させたりしてもよい。変化部77は、上下対称でなくてもよく、延在方向における断面積の変化度合いを部位によって異なっていてもよい。
【0044】
また、変化部77は、延在方向に対する断面形状を変化させている場合を説明する。変化部77は、第1延在部71及び第2延在部74の少なくとも一方に対して延在方向に対する断面形状(以下、単に「断面形状」と記載)を変化させてもよい。変化部77は、例えば、第1延在部71及び第2延在部74と変化部77とのそれぞれの境界面において、第1延在部71及び第2延在部74の少なくとも一方の断面形状から予め設定された断面形状に変化させる。
【0045】
図5は、実施形態に係るキャビティ6の一部及びステム27を示す概略断面図である。
図5の(a)は、ステム27の延在方向に対する断面形状が正八角形になった状態を示す概略断面図である。
図5の(b)は、第1延在部71の延在方向に対する断面形状を示す断面図である。
図5の(c)は、変化部77の延在方向に対する断面形状を示す断面図である。
図5の(a)~(c)に示されるように、第1延在部71、第2延在部74、及び変化部77は、円柱状に形成されていなくてもよい。第1延在部71及び第2延在部74は、変化部77と同一の断面形状を有していてもよい。この場合、変化部77は、第1延在部71及び第2延在部74とは異なる断面積を有する。変化部77は、第1延在部71及び第2延在部74の少なくとも一方とは異なる断面形状を有する。変化部77の断面形状は、多角形、正円、楕円等であってもよい。
【0046】
変化部77は、延在方向に対する断面積を変化させなくてもよい。この場合、変化部77の延在方向に対する断面積は、第1延在部71及び第2延在部74の少なくとも一方の延在方向に対する断面積と同一である。このとき、変化部77の延在方向に対する断面形状は、第1延在部71及び第2延在部74の少なくとも一方の延在方向に対する断面形状とは異なる。変化部77は、延在方向に対する断面積と断面形状とを双方とも変化させてもよい。
【0047】
また、変化部77は、中実に形成されていなくてもよい。すなわち、変化部77は中空に形成されていてもよい。例えば、変化部77が筒状を呈する場合、変化部77は、断面方向の外径及び外形の少なくとも一方を変化させなくてもよい。断面方向の外形とは、側板33に面する外縁を指す。このとき、変化部77の外径及び外形の少なくとも一方を変化させることなく、変化部77内の中実部位を減少させ、中空部位を増加させることで断面積を減少させてもよい。変化部77の外径及び外形の少なくとも一方を変化させることなく、変化部77内に中空部位を形成し、中実部位の形状及び中空部位の形状を変化させることで断面形状を変えてもよい。変化部77は、断面方向において凹部を含む形状を有していてもよい。
【0048】
図6は、実施形態に係るキャビティ6の一部及びステム27を示す概略断面図である。
図6に示されるように、変化部77は、延在方向において第1接合部50からの距離と第2接合部60からの距離とが異なる位置に設けられる。延在方向において、第1延在部71の長さと第2延在部74の長さとは異なっていてもよい。すなわち、変化部77の延在方向における中心の位置は、ステム27の全体の延在方向における中心の位置とは異なっていてもよい。
【0049】
図7は、実施形態に係るキャビティ6の一部及びステム27を示す概略断面図である。
図7に示されるように、第1接合部50及び第2接合部60の少なくとも一方は、本体部70の端面によって構成される。第1接合部50は、第1延在部71の延在方向の端面(上面)であってもよい。第2接合部60は、第2延在部74の延在方向の端面(下面)であってもよい。すなわち、第1延在部71は、延在方向において第1接合部50を端面とし、変化部77に向けて延在してもよく、第2延在部74は、延在方向において第2接合部60を端面とし、変化部77に向けて延在してもよい。なお、第1接合部50及び第2接合部60の両方が本体部70の端面でなくともよく、一方が本体部70の端面で構成され、他方がフランジ部で構成されてもよい。
【0050】
第1接合部50に設けられた締結用穴は、例えば第1接合部50の外周に沿って設けられ、第1延在部71において延在方向に深さを有する凹部である。第1接合部50の断面方向の広さは、ディー電極21の大きさ以下である。第1延在部71は、例えば、少なくとも延在方向における締結用穴の深さ以上の長さを有する。第1接合部50に設けられた締結用穴は、延在方向において変化部77まで達してもよい。
【0051】
第2接合部60に設けられた締結用穴は、例えば第2接合部60の外周に沿って設けられ、第2延在部74において延在方向に深さを有する凹部である。第2接合部60の断面方向の広さは、アース板23の底板31の大きさ以下である。第2延在部74は、例えば、少なくとも延在方向における締結用穴の深さ以上の長さを有する。第2接合部60に設けられた締結用穴は、延在方向において変化部77まで達してもよい。
【0052】
以上のように、本実施形態に係るキャビティ6及びステム27は、サイクロトロン1の大きさ又は形状に合わせて設置することができ、電磁波に対する適切な共振周波数に設定することができる。ステム27の本体部70における変化部77が断面積及び断面形状を変化させることにより、ステム27のインダクタンスを変化させることができ、ステム27の共振周波数を変化させることができる。
【0053】
変化部77は、延在方向に対する断面積を拡大させてもよい。従来のステムは、連結部(本実施形態の本体部70に相当)における延在方向に対する断面積は各部分で同一であったことから、ディー電極21又はアース板23との接合における接続部材(本実施形態の接合部材37に相当)の配置箇所によって変化可能な断面積に上限があった。本実施形態のような構成によれば、側板33に当接しない範囲で、変化部77は、延在方向に対する断面積を従来のステムに比べて増加させることができる。
【0054】
変化部77は、延在方向において第1接合部50からの距離と第2接合部60からの距離とが異なる位置に設けられてもよい。このような構成によれば、キャビティ6内においてディー電極21とアース板23との間に他の構成物が存在した場合であっても、変化部77が設けられる位置を適切に変化させることにより、本体部70はディー電極21とアース板23とを接続し、適切な共振周波数を設定することができる。したがって、キャビティ6内の形状に合わせたステム27を設置することができる。
【0055】
第1接合部50及び第2接合部60の少なくとも一方は、本体部70の端面よりも外周側へ広がるフランジ部によって構成されてもよい。このような構成によれば、本体部70の端面よりも外周側へ広がる第1接合部50及び第2接合部60の少なくとも一方は、ディー電極21及びアース板23の底板31の少なくとも一方と安定して接合する。このため、ディー電極21とステム27とは第1接合部50により、また、アース板23とステム27とは第2接合部60により、それぞれ安定して接合することができる。
【0056】
第1接合部50及び第2接合部60の少なくとも一方は、本体部70の端面によって構成されてもよい。このような構成によれば、ステム27は、簡易な構成でディー電極21及びアース板23の底板31の少なくとも一方と接合することができる。
【0057】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、変化部77は、複数の部位ごとに断面積及び断面形状の変化を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…サイクロトロン、3…真空容器、4…ヨーク、5…励磁コイル、6…キャビティ、7…デフレクター、8…グラディエントコレクター、9…コリメーター、10…パーマネントクワドロポールマグネット、11…RFチューナー、21…ディー電極、23…アース板、27…ステム、29…カウンターディー、31…底板、33…側板、37…接合部材、50…第1接合部、60…第2接合部、70…本体部、71…第1延在部、74…第2延在部、77…変化部、B…陽子ビーム、G…加速ギャップ。