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特許7397623プラント状態評価装置、プラント状態評価方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】プラント状態評価装置、プラント状態評価方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
G05B23/02 T
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019196894
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2021071820
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠原 孝保
(72)【発明者】
【氏名】金田 昌基
(72)【発明者】
【氏名】花木 洋
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-054209(JP,A)
【文献】特開2018-163645(JP,A)
【文献】特開2005-332360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントにおける複数の計測変数と複数の仮想変数との関係を定める複数の関数式を記憶する設計知識格納部と、
前記計測変数の具体的な値である複数の計測値に基づく複数の前記関数式の値と、複数の前記仮想変数の仮定値との各々の差分値を求め、少なくとも流量および圧力に対するものを含む複数の前記差分値の合計である合計差分値を求め、前記合計差分値を最小化することによって前記仮想変数の最適値を計算する仮想変数最適化演算部と、を備える
ことを特徴とするプラント状態評価装置。
【請求項2】
前記関数式と、前記最適値に基づいて、前記最適値に対応する仮想的な前記計測値である評価値を計算し、実際の前記計測値に対応する画像と、前記評価値に対応する画像と、を表示装置に表示させる計測データ誤差評価処理部、をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載のプラント状態評価装置。
【請求項3】
前記仮想変数最適化演算部は、前記仮想変数のうち一部に対して、指定数値が入力されると、前記指定数値が指定された前記仮想変数以外の他の前記仮想変数を最適化する
ことを特徴とする請求項1に記載のプラント状態評価装置。
【請求項4】
複数の前記関数式のうち少なくとも一部は、対応する前記計測値の時間経過に基づいて対応する前記仮想変数を定めるものである
ことを特徴とする請求項1に記載のプラント状態評価装置。
【請求項5】
プラントにおける複数の計測変数と複数の仮想変数との関係を定める複数の関数式を設計知識格納部に記憶する過程と、
前記計測変数の具体的な値である複数の計測値に基づく複数の前記関数式の値と、複数の前記仮想変数の仮定値との各々の差分値を求め、少なくとも流量および圧力に対するものを含む複数の前記差分値の合計である合計差分値を求め、前記合計差分値を最小化することによって前記仮想変数の最適値を計算する過程と、を有する
ことを特徴とするプラント状態評価方法。
【請求項6】
コンピュータを、
プラントにおける複数の計測変数と複数の仮想変数との関係を定める複数の関数式を記憶する設計知識格納手段、
前記計測変数の具体的な値である複数の計測値に基づく複数の前記関数式の値と、複数の前記仮想変数の仮定値との各々の差分値を求め、少なくとも流量および圧力に対するものを含む複数の前記差分値の合計である合計差分値を求め、前記合計差分値を最小化することによって前記仮想変数の最適値を計算する仮想変数最適化演算手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント状態評価装置、プラント状態評価方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
予め用意したプラントモデル(一般にシミュレータと称されているものを含む)のプロセスデータに基づいて、評価対象となるプロセスデータを解析してプラントの状態、性能、異常度を評価する方法が知られている。
例えば、下記特許文献1の要約書には、「[解決手段]実プラントの動作を現したプラントモデルを用いて実プラントの動作に追従するシミュレーションを行なうプラントシミュレータを用いたプラント運転支援システムにおいて、実プラントの実測値に基づき実プラントの状態をリアルタイムで再現するプラントシミュレータを用い、前記実プラントにおける実測値とプラントシミュレータによるシミュレーションによって得られた推定値とに基づき調整された調整パラメータの値があらかじめ定められた許容範囲内であるか否かを判定し、前記実プラントの運転状態の異常を検出することを特徴とするもの。」と記載されている。
【0003】
また、下記特許文献2の要約書には、「[解決手段]実プラントの動作と並行してプロセスシミュレーションを行い、シミュレーション結果をもとに実プラントの動作を予測するプラント運転支援装置に関するものである。実データをもとにシミュレーションモデルを随時修正し、実プラントから受け取った実データに基づいてシミュレーションモデルを修正し、修正したシミュレーションモデルを用いて実プラントの動作と並行してシミュレーションを行う。」と記載されている。
また、下記特許文献3の要約書には、「[解決手段]入力された計測信号から該計測信号の特徴パラメータを抽出する手段(1,2)と、プラント運転状態に応じた該特徴パラメータの統計的正常範囲上限値及び下限値を管理値として記憶するデータベースと、該抽出された特徴パラメータと該管理値との比較により該抽出されたパラメータが前記正常範囲にない、偏差大なる状態を判定する手段(3,4)と、該偏差大なる状態の発生を記憶する手段(5)と、該状態の発生の頻度が所定値より大である場合に、プラントが異常状態にあると判定する手段(6,7)とを有することを特徴とするプラント監視装置。」と記載されている。
また、下記非特許文献1には、各種設計知識が示されている。また、下記非特許文献2には、最適化手法の例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-157550号公報
【文献】特開2005-332360号公報
【文献】特開2001-117626号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】GE Power Systems, GER-4190,Steam Turbine Thermal Evaluation and Assessment
【文献】A R. Conn et.al, Introduction to Derivative-Free Optimization, Society for Industrial and Applied Mathematics Philadelphia,2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、プラントの何れかのプロセス量の変動が検知された際、同時発生的に多くのプロセス量およびその相互の関係が正常とは異なる挙動を示す場合が多い。従って、プロセス量の変動異常の原因を適切に推定すること(例えば早期に精度よく推定すること)が困難である。
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、プロセス量の変動異常の原因を、ユーザが適切に推定できるプラント状態評価装置、プラント状態評価方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明のプラント状態評価装置は、プラントにおける複数の計測変数と複数の仮想変数との関係を定める複数の関数式を記憶する設計知識格納部と、前記計測変数の具体的な値である複数の計測値に基づく複数の前記関数式の値と、複数の前記仮想変数の仮定値との各々の差分値を求め、少なくとも流量および圧力に対するものを含む複数の前記差分値の合計である合計差分値を求め、前記合計差分値を最小化することによって前記仮想変数の最適値を計算する仮想変数最適化演算部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、各仮想変数の最適値と、対応する計測値とを比較することによって、ユーザはプロセス量の変動異常の原因を適切に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】好適な第1実施形態によるオンライン診断システムのブロック図である。
図2】解析対象となるプラントの系統構成の一例を示す図である。
図3】計測変数の具体例を示す図である。
図4】仮想変数の具体例を示す図である。
図5】仮想変数の他の具体例を示す図である。
図6】仮想変数の他の具体例を示す図である。
図7】仮想変数の他の具体例を示す図である。
図8】仮想変数を導出する関数の関数名と関係変数との対応関係の例を示す図である。
図9】関係式と関係変数との対応関係の例を示す図である。
図10】表示画面の一例を示す図である。
図11】表示画面の他の例を示す図である。
図12】表示画面の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〈実施形態の全体構成〉
図1は、好適な実施形態によるオンライン診断システム1(プラント状態評価装置)のブロック図である。このオンライン診断システム1は、プラント2のオンライン診断を行うためのシステムである。
オンライン診断システム1は、プラント信号入力装置100と、演算装置200(コンピュータ)と、GUI装置300と、記憶装置400(コンピュータ)と、を備えている。ここで、プラント信号入力装置100は、プラント2から各種計測値を取得する。GUI装置300は、各種情報を表示するフラットパネルディスプレイと、マウス、キーボード等の入力装置と、を備えている。
【0011】
演算装置200および記憶装置400は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)等、一般的なコンピュータとしてのハードウエアを備えており、SSDには、OS(Operating System)、アプリケーションプログラム、各種データ等が格納されている。OSおよびアプリケーションプログラムは、RAMに展開され、CPUによって実行される。図1において、演算装置200および記憶装置400の内部は、アプリケーションプログラム等によって実現される機能を、ブロックとして示している。
【0012】
すなわち、演算装置200は、仮想変数最適化演算部210(仮想変数最適化演算手段)と、最適計算結果表示処理部220と、計測データ誤差評価処理部230と、設計知識モデル化処理部240と、信号前処理部250と、を備えている。また、記憶装置400は、計測データ記憶部410と、設計知識格納部420(設計知識格納手段)と、を備えている。
【0013】
図2は、解析対象となるプラント2の系統構成の一例を示す。
図示の例において、プラント2は発電プラントであり、反応炉21と、タービン221,222,223と、発電機23と、復水器24と、復水ポンプ25と、給水加熱器261,262,263と、給水ポンプ27と、これらを接続する配管(符号なし)と、計測部28と、を備えている。計測部28は、プラント2の各部に配置された計器類(図示せず)を含んでいる。これら計器類によって測定される項目を「計測変数」と呼ぶ。また、「計測変数」の具体的な値を「計測値」と呼ぶ。計測部28は、これら計測値をオンライン診断システム1のプラント信号入力装置100に供給する。
【0014】
〈データ構成〉
次に、本実施形態におけるデータ構成について説明する。
図3は、計測部28(図2参照)において計測される計測変数の具体例を示す図である。
図3において計測変数の名称と、計測変数の意味とを列挙している。ここで、計測変数の変数名に含まれる「21」、「221」、「222」、「223」、「24」または「25」の数字は、図2における各構成要素の符号に対応している。例えば、図3の1行目および2行目(表題欄を除く。以下同)に示されている計測変数I_V_P_21_1,I_V_P_21_2は、何れも「21」が含まれているため、反応炉21に対応する計測変数である。
【0015】
計測変数I_V_P_21_1,I_V_P_21_2は、何れも反応炉21の「プラント圧力」を示すものである。これは、計測部28(図2参照)が、同様に構成された2台の圧力測定用計器を冗長配置しているため、同様の計測変数I_V_P_21_1,I_V_P_21_2が得られることを示している。図3に示すように、本実施形態において、計測変数の名称は、必ず「I_」から始まる文字列である。
【0016】
図4図5図6図7は、仮想変数の具体例を示す図である。
ここで、仮想変数とは、計測変数および/または他の仮想変数に基づいて、信号前処理部250が算出する変数である。また、仮想変数の値と、計測値とを総称して「プロセス量」と呼ぶことがある。ここで、仮想変数の変数名に含まれる「21」、「221」、「222」、「223」、「24」、「25」、「261」、「262」、「263」、「27」の数字は、図2における各構成要素の符号に対応している。例えば、図4の2行目に示されている仮想変数V_P_21_inは、反応炉21の「プラント圧力」を示すものである。仮想変数V_P_21_inは、例えば上述した計測変数I_V_P_21_1,I_V_P_21_2の平均値によって算出することができる。
【0017】
図8は、仮想変数を導出する関数の関数名と、該関数に対して適用される関係変数との対応関係の例を示す図である。ここで、「関係変数」とは、当該関数に使用される計測変数と仮想変数とを総称したものである。また、該関数に対して入力される関係変数を入力関係変数と呼び、出力される関係変数を出力関係変数と呼ぶことがある。図8において、関数名は、「Eval_」で始まる名称になっている。そして、関数名から「Eval_」の部分を削除した文字列が、求めようとする仮想変数すなわち出力関係変数の変数名になる。
【0018】
また、図8において「関係変数」の欄に記載している変数名は、出力関係変数を導出するための入力関係変数の名称を示している。例えば、図8の1行目に記載されている関数Eval_V_P_21_inは、「Eval_」の部分を削除した出力関係変数すなわち仮想変数V_P_21_inを導出する関数である。そして、上述した計測変数I_V_P_21_1,I_V_P_21_2が、仮想変数V_P_21_inを導出するための入力関係変数になる。すなわち、これらの関係変数の相互関係は、下式によって表すことができる。
V_P_21_in=Eval_V_P_21_in(I_V_P_21_1,I_V_P_21_2) …式(1)
【0019】
図9は、関係式と、関係変数との対応関係を示す図である。
本実施形態において、仮想変数を導出する関数(例えば図8に示した関数)は、「入力関係変数」に対して「関係式」を適用するものである。例えば図9の1~3行目における関係式TB1,TB2,TB3は、それぞれタービン221,222,223の入出力関係を表す関係式である。また、図9の下から2行目における関係式Rtrは、反応炉21の入出力関係を表す関係式である。そして、これら関係式TB1,TB2,TB3には、「入力関係変数の平均値を導出する数式」が含まれている。
【0020】
例えば、図9の1行目における関係式TB1の関係変数には、仮想変数V_P_21_inが含まれている。これは、仮想変数V_P_21_inが関係変数に含まれていると、関係式TB1における「平均値演算」が適用されることを示している。従って、図8に示した関数Eval_V_P_21_inは、下式(2)のように、関係変数I_V_P_21_1,I_V_P_21_2の平均値を示すものになる。
Eval_V_P_21_in(I_V_P_21_1, I_V_P_21_2)
=(I_V_P_21_1, I_V_P_21_2)/2 …式(2)
【0021】
ところで、ある関数が複数の仮想変数を出力する場合、関数名に「.1」「.2」等の文字列を付けて、これら仮想変数を区別する場合がある。例えば、ある関係式Rの入力仮想変数がVin_1、Vin_2、Vin_3であり、この関係式Rが2つの出力仮想変数としてVout_1,Vout_2を出力すると仮定する。ここで、出力仮想変数Vout_1が、関係式Rの1番目の出力であり、出力仮想変数Vout_2が2番目の出力であれば、下式(3),(4)のように表すことがある。
Vout_1=R(Vin_1、Vin_2、Vin_3).1 …式(3)
Vout_2=R(Vin_1、Vin_2、Vin_3).2 …式(4)
【0022】
また、通常の「平均値演算」以外の他の例についても説明する。
図8の3行目において、関数Eval_V_T_21_outに関係する計測変数すなわち関係変数は、関係変数I_V_T_21_out_12のみである。このような場合において、関数Eval_V_T_21_outとして関係変数I_V_T_21_out_12をそのまま用いる場合もあるが、時間軸上の関係変数の値を時間平均する等、加工を行う場合もある。例えば、関数Eval_V_T_21_out、仮想変数V_T_21_out、および関係変数I_V_T_21_out_12を時刻tの関数とし、ΔTを所定周期とすると、仮想変数V_T_21_outは下式(5)によって表現することができる。
V_T_21_out(t)
=Eval_V_T_21_out(I_V_T_21_out_12).1
=(I_V_T_21_out_12(t-2ΔT) + I_V_T_21_out_12(t-ΔT)
+ I_V_T_21_out_12(t))/3 …式(5)
【0023】
〈オンライン診断システム1の詳細〉
図1に戻り、プラント信号入力装置100は、プラント2から各種計測値を受信する。
(記憶装置400)
また、記憶装置400における計測データ記憶部410は、プラント信号入力装置100を介して過去に入力された計測値を記憶する。また、設計知識格納部420は、以下に列挙するデータ等を記憶している。
・蒸気表関数による、飽和蒸気における圧力に対する温度、
・タービンの入力蒸気エンタルピと出力蒸気エンタルピ、温度、圧力、抽気量等の関係、
・その他、非特許文献1に示されている関係等、
【0024】
(設計知識モデル化処理部240)
設計知識モデル化処理部240は、プラントモデルPMを記憶する。プラントモデルPMは、仮想変数と仮想変数との関係を定めるものである。すなわち、設計知識モデル化処理部240は、上述した図3図9の内容を記憶する。
【0025】
(信号前処理部250)
演算装置200における信号前処理部250は、上述した式(2)~(5)等に基づいて、プラント信号入力装置100が受信した計測値と、仮想変数との関係付けを行う。例えば、上述したように、プラント2のある箇所の圧力を測定するために、2台の圧力計を冗長配置したとする。信号前処理部250は、プラント信号入力装置100を介して、これら2台の圧力計による2個の計測値を受信する。そして、信号前処理部250は、例えば、これら2個の計測値の平均値を仮想変数の値として出力する。
【0026】
(仮想変数最適化演算部210)
仮想変数最適化演算部210は、各仮想変数の最適値を求めるものである。換言すれば、仮想変数最適化演算部210は、仮想変数の関係式(図9参照)が最も良く満たされるように、全体の仮想変数を最適化する。その詳細を以下説明する。
【0027】
ここで、計測変数および仮想変数について「仮定/計測値」と称する値について定義しておく。仮想変数の「仮定/計測値」とは、当該仮想変数に対して任意に仮定した仮定値である。また、計測変数(すなわち、I_V_P_21_1のように変数名の先頭が「I_」から始まる変数である場合)の「仮定/計測値」とは、当該計測変数に対応する計測値である。「仮定/計測値」は、仮想変数または計測変数の変数名に「**」を付して表記する。
【0028】
ある関係式Rの入力関係変数がVin_1、Vin_2、Vin_3であり、この関係式Rが2つの仮想変数としてVout_1,Vout_2を出力する場合を想定する。このとき、「関係式Rが充足されない程度」を非充足度RH(差分値)と呼ぶ。非充足度RHを示す式として、「“出力値-関数値”の絶対値」の合計を用いることができる。
例えば、上述の例において、非充足度RHは、下式(6)で表すことができる。
RH= |Vout_1**- R(Vin_1**, Vin_2**, Vin_3**).1|
+|Vout_2**- R(Vin_1**, Vin_2**, Vin_3**).2| …式(6)
また、これに代えて、「“出力値-関数値”の絶対値の二乗値」の合計を非充足度RHとして用いてもよい。
【0029】
ここで、入力関係変数の仮定/計測値Vin_1**,Vin_2**,Vin_3**のうち、「仮想変数の仮定値」であるもの、および出力関係変数の仮定値Vout_1**,Vout_2**を様々に変化させると、非充足度RHを最小化することができる。これにより、関係変数の仮定/計測値Vin_1**,Vin_2**,Vin_3**,Vout_1**,Vout_2**および出力関係変数を最適化した結果が得られる。このようにして最適化した仮定/計測値を、「最適/計測値」と呼ぶ。最適/計測値は、仮想変数または計測変数の変数名に「*」を付して表記する。例えば、上述の例において得られる最適/計測値は、Vin_1*,Vin_2*,Vin_3*,Vout_1*,Vout_2*である。
【0030】
この記法によって、各変数の最適/計測値は、例えば下式(7)において、プラント2全体の非充足度RHの合計である合計非充足度RHG(合計差分値)を最小化した値になる。
RHG=|V_P_21_in** - Eval_V_P_21_in(I_V_P_21_1, I_V_P_21_2).1|
+|V_F_21_out** - Eval_V_F_21_out(I_V_F_21_1).1|
:
+|V_F_25_out** - Eval_V_F_25_out(I_V_F_25_out). 1 |
+|V_F_221_out** -TB1(V_F_21_out**,V_T_21_out**,V_P_221**,V_T_221**,
V_F_221_in**).1|
+|Eff_221** -TB1(V_F_21_out**,V_T_21_out**,V_P_221**,V_T_221**,
V_F_221_in**).2|
+|V_F_222_out** -TB2(V_F_22_out**,V_T_22_out**,V_P_222**,V_T_222**).1|
+|Eff_222** -TB2(V_F_22_out**,V_T_22_out**,V_P_222**,V_T_222**,
V_F_222_in).2|
:
+|V_Q_F21** -Rtr(V_P_21**, V_T_21_out**).1|
:
+|E_eff** -PLANT(V_E_23**, V_Q_F21**).1|
…式(7)
【0031】
上式(7)において、関係式TB1の第1出力、すなわちTB1(V_F_21_out**,V_T_21_out**,V_P_221**,V_T_221**,V_F_221_in**).1は、タービン221から給水加熱器263への蒸気流量である。また、関係式TB1の第2出力、すなわちTB1(V_F_21_out**,V_T_21_out**,V_P_221**,V_T_221**,V_F_221_in**).2は、タービン221の効率である。関係式TB2,TB3についても、関係式TB1と同様である。また、反応炉21に対する関係式Rtrの第1出力、すなわちRtr(V_P_21**, V_T_21_out**).1は、熱出力V_Q_21に対応する。
【0032】
また、式(7)において関係式PLANTの第1出力、すなわちPLANT(V_E_23**, V_Q_F21**).1は、プラント2の効率である。この関係式においては、電気出力V_E_23と熱出力V_Q_F21とが入力関係変数になっている。なお、式(7)に示した例は、各項(term)に対して特に標準化を行うものではないが、各項の標準化を行うようにしてもよい。
【0033】
例えば、前処理によって、過去の計測値等から、各仮想変数の値の平均値が「1」になるように規格化することが考えられる。これにより、特定の仮想変数の誤差のみが全体の合計非充足度RHGに大きく寄与するような事態を抑制できる。ところで、最適化の計算においては、蒸気表関数など非線形かつ微分不可能な関数が含まれている。このような場合においては、非特許文献2に示されているような最適化手法によって、最適化を実現することができる。すなわち、仮想変数最適化演算部210は、上述した仮定/計測値に対応する仮想変数の最適値V_P_21_in*,V_F_21_out*,V_F_25_out*等を決定する。
【0034】
(最適計算結果表示処理部220)
最適計算結果表示処理部220は、各仮想変数の最適値をGUI装置300に表示するための表示処理を行う。その一例を図10に示す。
ここで、図10は、GUI装置300における表示画面310の一例を示す図である。
図10において、表示画面310には、系統図画像320と、状態表示欄510,520,530,540と、が表示されている。また、系統図画像320は、反応炉画像321と、タービン画像371,372,373と、発電機画像323と、復水器画像324と、復水ポンプ画像325と、給水加熱器画像381,382,383と、給水ポンプ画像327と、これらを接続する配管画像(符号なし)と、を含んでいる。
【0035】
これら系統図画像320に含まれる画像は、それぞれ、図2に示した反応炉21と、タービン221,222,223と、発電機23と、復水器24と、復水ポンプ25と、給水加熱器261,262,263と、給水ポンプ27と、これらを接続する配管(符号なし)と、に対応している。
【0036】
状態表示欄510は、反応炉21(図2参照)の熱出力V_Q_F21(図4の1行目参照)に関する時間経過のグラフと、現在値の数値(図示の例では「2800」)と、を表示している。また、状態表示欄520は、反応炉21に供給されるプラント給水流量V_F_21_in(図4の3行目参照)の時間経過のグラフと、現在値の数値(図示の例では「1800」)と、を表示している。
【0037】
また、状態表示欄530は、給水加熱器263(図2参照)における第3給水加熱器効率Eff_263(図7の下から3行目参照)の時間経過のグラフと、現在値の数値(図示の例では「72%」)と、を表示している。また、状態表示欄540は、給水ポンプ27(図2参照)における給水ポンプ効率Eff_27(図7の下から2行目参照)の時間経過のグラフと、現在値の数値(図示の例では「65%」)と、を表示している。
【0038】
ユーザは、設計ノウハウに基づいてGUI装置300を操作して、状態表示欄510~540に表示されている数値を適宜変更し、より正しいと考えられる仮定的な数値を入力することができる。入力された数値を「指定数値」と呼ぶ。状態表示欄510~540のうち何れかにおいて、何れかの仮想変数に対して、ユーザが指定数値を入力すると、最適計算結果表示処理部220は、他の状態表示欄に対して、他の仮想変数を最適化した結果である最適値を表示させる。その一例を図11に示す。
【0039】
図11は、GUI装置300における他の表示画面312の一例を示す図である。
図11は、ユーザがGUI装置300を操作して、プラント給水流量(図4の3行目におけるV_F_21_in)を図10に示した「1800」から、指定数値である「1850」に上昇させた場合の表示画面312である。
状態表示欄520は、ユーザによる操作内容に対応して、プラント給水流量として、変更前の数値「1800」と、変更後の数値「1850」と、両者を結ぶ矢印522と、を含んでいる。
【0040】
また、状態表示欄530に示されている第3給水加熱器効率(図7の下から3行目のEff_263参照)は、図10に示されている「72%」から「71%」に低下している。すなわち、第3給水加熱器効率は「1%」低下するため、「1%」の文字と、下向きの矢印532と、が状態表示欄530に示されている。また、状態表示欄540に示されている給水ポンプ27の給水ポンプ効率(図7の下から2行目のEff_27参照)は、図10に示されている「65%」から「64%」に変化している。すなわち、給水ポンプ27の給水ポンプ効率は「1%」低下するため、やはり「1%」の文字と、下向きの矢印542と、が状態表示欄540に示されている。また、状態表示欄510には、下向きの矢印512と、「0.1%」の文字とが示されている。これは、熱出力V_Q_F21(図4の1行目参照)が、「0.1%」低下することを示している。
【0041】
このように、ユーザは、自身の設計ノウハウに基づいて、所望の仮想変数の数値を、任意に(例えば、より好ましいと思える値に)適宜変更することができる。そして、変更された数値に連動して、他の仮想変数の値が更新され、図11に示したように、GUI装置300に表示される。そして、ユーザがGUI装置300において仮定的な数値を入力する操作を「調整設定」と呼ぶ。仮想変数に対する調整設定の内容は、設計知識モデル化処理部240に記憶され、制約条件として、設計知識モデルに追加される。
【0042】
例えば、図11に示したように、プラント給水流量V_F_21_inを「1800」から「1850」に変更すると、その調整設定に対応して、下式(8)に示す制約条件が、設計知識モデル追加される。
V_F_21_in=1850 …式(8)
この式(8)制約条件を用いて、式(7)に示した合計非充足度RHGを最小化するように、各仮想変数の再計算を行うと、上述したように、熱出力は「0.1%」低下し、第3給水加熱器効率および給水ポンプ27の給水ポンプ効率は、共に「1%」低下するという評価結果が示される。
【0043】
また、最適計算の結果、計測変数すなわち計器の計測値と、図8に示す関数名に係る出力関係変数の最適値との間に統計的に大きな差がある場合には、計器が故障していると疑われる。以下、図7に示した関数名(例えば、Eval_V_P_21_in)に係る出力関係変数(同、V_P_21_in)の最適値(同、V_P_21_in*)を発生させる計測変数の値「評価値」と呼ぶ。計測値(同、I_V_P_21_1, I_V_P_21_2)と、これらの評価値との間に統計的に大きな差がある場合(例えば、差が所定値以上である場合)には、計器が故障していることが疑われる。そこで、このような場合、ユーザが所定の操作を行うと、計測データ誤差評価処理部230は、計測変数の評価値と、実測値とを並べて、表示画面に表示させる。
【0044】
図12は、GUI装置300における他の表示画面314の一例を示す図である。
表示画面314には、給水加熱器画像383と反応炉画像321とを結ぶ配管画像(符号なし)に対応して、状態表示欄550が示されている。状態表示欄550には、反応炉21(図2参照)への給水流量V_F_21_inについて、評価値を表す評価値ヒストグラム552(画像)と、2つの実測値(IV_F_21_1, IV_F_21_2)を表す実測値ヒストグラム554,556(画像)と、が表示されている。これにより、ユーザは、「実測値IV_F_21_1, IV_F_21_2を計測する計器に故障が生じている可能性が高い」ということを認識することができる。
【0045】
〈実施形態の効果〉
以上のように、プラント状態評価装置(1)は、プラント(2)における複数の計測値と複数の仮想変数との関係を定める複数の関数式を記憶する設計知識格納部(420)と、複数の計測値に基づく複数の関数式の値と、複数の仮想変数の仮定値との各々の差分値(RH)を求め、複数の差分値(RH)の合計である合計差分値(RHG)を求め、合計差分値(RHG)を最小化することによって仮想変数の最適値を計算する仮想変数最適化演算部(210)と、を備えることが好ましい。これによってユーザは、各仮想変数の最適値と、対応する計測値とを比較することができ、プロセス量の変動異常の原因を適切に推定できる。
【0046】
また、プラント状態評価装置(1)は、関数式と、最適値に基づいて、最適値に対応する仮想的な計測値である評価値を計算し、実際の計測値に対応する画像(554,556)と、評価値に対応する画像(552)と、を表示装置(300)に表示させる計測データ誤差評価処理部(230)、をさらに備えることが好ましい。これにより、ユーザは、実際の計測値に対応する画像(554,556)と、評価値に対応する画像(552)と、を目視することにより、プロセス量の変動異常の原因を一層適切に推定できる。
【0047】
また、仮想変数最適化演算部(210)は、仮想変数のうち一部に対して、指定数値が入力されると、指定数値が指定された仮想変数以外の他の仮想変数を最適化することが好ましい。これにより、ユーザが有する設計知識に基づいて、各種の仮想変数を最適化することができる。
【0048】
また、複数の関数式のうち少なくとも一部(例えば、Eval_V_T_21_out)は、対応する計測値(同、I_V_T_21_out_12)の時間経過に基づいて対応する仮想変数(同、V_T_21_out)を定めることが好ましい。これにより、特に時間経過に応じて変動する計測値について、適切な仮想変数を定めることができる。
【0049】
〈変形例〉
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、上記実施形態の構成に他の構成を追加してもよく、構成の一部について他の構成に置換をすることも可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
【0050】
(1)上記実施形態における演算装置200および記憶装置400のハードウエアは一般的なコンピュータによって実現できるため、上述した各種処理を実行するプログラム等を記憶媒体に格納し、または伝送路を介して頒布してもよい。
【0051】
(2)上述した各処理は、上記実施形態ではプログラムを用いたソフトウエア的な処理として説明したが、その一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit;特定用途向けIC)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いたハードウエア的な処理に置き換えてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 オンライン診断システム(プラント状態評価装置)
2 プラント
200 演算装置(コンピュータ)
210 仮想変数最適化演算部(仮想変数最適化演算手段)
230 計測データ誤差評価処理部
300 GUI装置(表示装置)
400 記憶装置(コンピュータ)
420 設計知識格納部(設計知識格納手段)
552 評価値ヒストグラム(画像)
554,556 実測値ヒストグラム(画像)
RH 非充足度(差分値)
RHG 合計非充足度(合計差分値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12