(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】モータ制御装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/62 20160101AFI20231206BHJP
【FI】
H02P29/62
(21)【出願番号】P 2019215598
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅俊
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-027850(JP,A)
【文献】特開2001-171541(JP,A)
【文献】特開2002-335685(JP,A)
【文献】特開2001-209276(JP,A)
【文献】特開2017-046368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/62
G03G 21/00
H02P 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータのコイルに流れるコイル電流
を制限するための制限値
と、前記コイル電流の所定期間に渡る平均値との比較に用いる第1閾値と、を設定する設定手段と、
前記コイル電流の電流値を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された前記コイル電流が前記設定手段
により設定
された前記制限値を超えない範囲において前記コイル電流を前記モータに供給する電流供給手段と、
前記検出手段
により検出
された前記電流値の
前記所定期間に渡る
前記平均値を
前記第1閾値と比較する比較手段と、
を備え、
前記設定手段は、前記平均値が前記第1閾値を超え
る毎に、
前記制限値が前記モータのロータの回転を維持させるのに必要な前記コイル電流の電流値より小さくなるか否かに拘わらず前記制限値を減少させ
ることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記設定手段が設定する前記制限値の初期値は、前記モータの負荷変動に対して前記ロータ
を所定の目標速度で回転させるために必要な前記コイル電流の
電流値より大きいことを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
モータのロータの回転速度
を制限するための制限値
と、前記モータのコイルに流れるコイル電流の所定期間に渡る平均値との比較に用いる第1閾値と、を設定する設定手段と、
前記コイル電流の電流値を検出する検出手段と、
速度初期値と前記制限値と
の内の小さい方を前記ロータの回転速度の目標値
に決定する決定手段と、
前記目標値で前記ロータを回転させるため
の前記コイル電流を前記モータ
に供給する電流供給手段と、
前記検出手段
により検出
された前記電流値の
前記所定期間に渡る
前記平均値を
前記第1閾値と比較する比較手段と、
を備え、
前記設定手段は、前記平均値が前記第1閾値を超え
る毎に、
前記制限値で前記ロータを回転させるための前記コイル電流の電流値が前記ロータの回転を維持させるのに必要な前記コイル電流の電流値より小さくなるか否かに拘わらず前記制限値を減少させ
ることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
前記速度初期値は、前記制限値の初期値より小さいことを特徴とする請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記電流供給手段は、所定の最大値を超えない範囲において前記コイル電流を前記モータに供給し、
前記
所定の最大値は、前記モータの負荷変動に対して前記ロータを前記速度初期値で回転させるために必要な前記コイル電流の
電流値より大きいことを特徴とする請求項3又は4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記設定手段は、前記平均値が前記第1閾値を超え
る毎に、前記制限値を第1所定値だけ減少させ
ることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記設定手段は、前記平均値が前記第1閾値を超え
る毎に、前記平均値と前記第1閾値との差分に基づき求めた減少値だけ前記制限値を減少させ
ることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記設定手段は、前記平均値と前記第1閾値との差分が大きい程、前記減少値を大きくすることを特徴とする請求項7に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記設定手段は、前記平均値が第2閾値
を下回る毎に、前記制限値を増加さ
せ、
前記第2閾値は前記第1閾値より小さいことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
前記設定手段は、前記平均値が前記第2閾値
を下回る毎に、前記制限値を第2所定値だけ増加させ
ることを特徴とする請求項9に記載のモータ制御装置。
【請求項11】
前記設定手段は、前記平均値が前記第2閾値
を下回る毎に、前記平均値と前記第2閾値との差分に基づき求めた増加値だけ前記制限値を増加させ
ることを特徴とする請求項9に記載のモータ制御装置。
【請求項12】
前記設定手段は、前記平均値と前記第2閾値との差分が大きい程、前記増加値を大きくすることを特徴とする請求項11に記載のモータ制御装置。
【請求項13】
前記第1閾値は、前記モータの定格温度及び前記モータの負荷の大きさに基づき求められることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項14】
シートに画像を形成する画像形成手段と、
前記画像形成手段の回転部材を回転駆動するためのモータと、
前記モータのコイルに流れるコイル電流
を制限するための制限値
と、前記コイル電流の所定期間に渡る平均値との比較に用いる第1閾値と、を設定する設定手段と、
前記コイル電流の電流値を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された前記コイル電流が前記設定手段
により設定
された前記制限値を超えない範囲において前記コイル電流を前記モータに供給する電流供給手段と、
前記検出手段
により検出
された前記電流値の
前記所定期間に渡る
前記平均値を
前記第1閾値と比較する比較手段と、
を備え、
前記設定手段は、前記平均値が前記第1閾値を超え
る毎に、
前記制限値が前記モータのロータの回転を維持させるのに必要な前記コイル電流の電流値より小さくなるか否かに拘わらず前記制限値を減少させ
ることを特徴とする画像形成装置。
【請求項15】
シートに画像を形成する画像形成手段と、
前記画像形成手段の回転部材を回転駆動するためのモータと、
前記モータのロータの回転速度
を制限するための制限値
と、前記モータのコイルに流れるコイル電流の所定期間に渡る平均値との比較に用いる第1閾値と、を設定する設定手段と、
前記コイル電流の電流値を検出する検出手段と、
速度初期値と前記制限値と
の内の小さい方を前記ロータの回転速度の目標値
に決定する決定手段と、
前記目標値で前記ロータを回転させるため
の前記コイル電流を前記モータ
に供給する電流供給手段と、
前記検出手段
により検出
された前記電流値の
前記所定期間に渡る
前記平均値を
前記第1閾値と比較する比較手段と、
を備え、
前記設定手段は、前記平均値が前記第1閾値を超え
る毎に、
前記制限値で前記ロータを回転させるための前記コイル電流の電流値が前記ロータの回転を維持させるのに必要な前記コイル電流の電流値より小さくなるか否かに拘わらず前記制限値を減少させ
ることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置の回転部材の駆動源としてブラシレスモータが使用されている。特許文献1は、モータの動作電流を制限値に基づき制限する構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の画像形成装置の小型化に応じて、画像形成装置の回転部材の駆動源であるブラシレスモータ(以下、単に、モータとも呼ぶ。)にも小型化が要求されている。ここで、モータの負荷が想定外に大きくなると、モータのコイルに流れる電流(以下、コイル電流)の増加によりコイル温度が上昇する。そして、コイル温度がコイルの絶縁温度を超えるとモータ故障が生じ得る。例えば、モータの小型化のため、必要な出力に対してマージンの少ないモータを使用すると、負荷が想定外に大きくなったときにコイル温度がコイルの絶縁温度を超え易くなり、モータ故障が生じ易くなる。しかしながら、モータ故障を防ぐためにコイル電流を制限し過ぎると、正常時の負荷変動に対応できなくなり得る。
【0005】
本発明は、正常時の負荷変動に対応しつつ、負荷異常時のコイル温度の上昇を抑制できるモータ制御技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によると、モータ制御装置は、モータのコイルに流れるコイル電流を制限するための制限値と、前記コイル電流の所定期間に渡る平均値との比較に用いる第1閾値と、を設定する設定手段と、前記コイル電流の電流値を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された前記コイル電流が前記設定手段により設定された前記制限値を超えない範囲において前記コイル電流を前記モータに供給する電流供給手段と、前記検出手段により検出された前記電流値の前記所定期間に渡る前記平均値を前記第1閾値と比較する比較手段と、を備え、前記設定手段は、前記平均値が前記第1閾値を超える毎に、前記制限値が前記モータのロータの回転を維持させるのに必要な前記コイル電流の電流値より小さくなるか否かに拘わらず前記制限値を減少させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、正常時の負荷変動に対応しつつ、負荷異常時のコイル温度の上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】負荷トルクとコイル電流の関係と、負荷トルクとコイル温度及びスイッチング素子温度との関係と、を示す図。
【
図5】正常負荷時の負荷変動によるコイル電流の変動を示す図。
【
図7】一実施形態によるモータ制御のフローチャート。
【
図9】一実施形態によるモータ制御のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<第一実施形態>
図1は、本実施形態による画像形成装置の構成図である。画像形成装置は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のトナー像を重ね合わせてフルカラーの画像を形成する。
図1において、参照符号の末尾のY、M、C及びKは、参照符号により示される部材が形成に関わるトナー像の色が、それぞれ、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックであることを示している。なお、以下の説明において、色を区別する必要がない場合には、末尾のY、M、C及びKを除いた参照符号を使用する。感光体13は、画像形成時、図の時計回り方向に回転駆動される。帯電ローラ15は、対応する感光体13の表面を一様な電位に帯電させる。露光部11は、対応する感光体13の表面を光で露光して感光体13に静電潜像を形成する。現像部12の現像ローラ16は、対応する感光体13の静電潜像をトナーで現像してトナー像として可視化する。一次転写ローラ18は、一次転写バイアスにより、対応する感光体13に形成されたトナー像を中間転写ベルト19に転写する。クリーナ14は、中間転写ベルト19に転写されず、対応する感光体13に残留したトナーを除去する。なお、各感光体13に形成されたトナー像を中間転写ベルト19に重ねて転写することでフルカラーの画像が中間転写ベルト19に形成される。
【0011】
中間転写ベルト19は、画像形成時、図の反時計回り方向に回転駆動される。これにより中間転写ベルト19に転写されたトナー像は、二次転写ローラ29の対向位置へと搬送される。一方、カセット22に格納されたシート21は、搬送路に沿って設けられた各ローラの回転によりカセット22から搬送路に給送され、二次転写ローラ29の対向位置へと搬送される。二次転写ローラ29は、二次転写バイアスにより中間転写ベルト19のトナー像をシート21に転写する。その後、シート21は、定着部30へと搬送される。定着部30は、シート21を加熱・加圧してトナー像をシート21に定着させる。トナー像の定着後、シート21は、画像形成装置の外部に排出される。画像形成装置の全体を制御する制御部31は、CPU32を備えている。
【0012】
本実施形態において、感光体13Y、13M及び13Cは、1つのモータにより回転駆動される。また、感光体13K及び中間転写ベルト19は、1つのモータにより回転駆動される。さらに、現像ローラ16Y、16M、16C及び16Kは、1つのモータにより回転駆動される。なお、これらモータの制御構成は同様であり
図2を用いて以下に説明する。
【0013】
図2は、モータ101の制御構成図である。モータ制御部120は、マイクロコンピュータ(以下、マイコンと表記)121を有する。マイコン121の通信ポート122は、制御部31とシリアル通信を行う。制御部31は、シリアル通信を介してモータ制御部120を制御することで、モータ101の回転を制御する。基準クロック生成部125は、水晶発振子126の出力に基づき基準クロックを生成する。カウンタ123は、この基準クロックに基づきパルスの周期の計測等を行う。不揮発メモリ124は、モータの制御に使用する各種データやマイコン121が実行するプログラム等を格納する。マイコン121は、パルス幅変調信号(PWM信号)をPWMポート127から出力する。本実施形態において、マイコン121は、モータ101の3つの相(U、V、W)それぞれについて、ハイ側のPWM信号(U-H、V-H、W-H)と、ロー側のPWM信号(U-L、V-L、W-L)の計6つのPWM信号を出力する。このため、PWMポート127は、6つの端子U-H、V-H、W-H、U-L、V-L、W-Lを有する。
【0014】
PWMポート127の各端子は、ゲートドライバ132に接続され、ゲートドライバ132は、PWM信号に基づき、3相のインバータ131の各スイッチング素子のオン・オフ制御を行う。なお、インバータ131は、各相についてハイ側3個、ロー側3個の計6つのスイッチング素子を有し、ゲートドライバ132は、各スイッチング素子を対応するPWM信号に基づき制御する。スイッチング素子としては、例えばトランジスタやFETを使用することができる。本実施形態においては、PWM信号がハイであると、対応するスイッチング素子がオンとなり、ローであると、対応するスイッチング素子がオフになるものとする。インバータ131の出力133は、モータ101のコイル135(U相)、136(V相)及び137(W相)に接続されている。インバータ131の各スイッチング素子をオン・オフ制御することで、各コイル135、136、137の励磁電流(コイル電流)を制御することができる。この様に、マイコン121、ゲートドライバ132及びインバータ131は、複数のコイル135、136及び137にコイル電流を供給し、かつ、コイル電流の電流値を制御する電流供給部として機能する。
【0015】
電流センサ130は、各コイル135、136、137に流れたコイル電流の電流値に応じた検出電圧を出力する。増幅部134は、各相の検出電圧を増幅し、かつ、オフセット電圧の印加を行ってアナログ・デジタルコンバータ(ADコンバータ)129に出力する。ADコンバータ129は、増幅後の検出電圧をデジタル値に変換する。電流値算出部128は、ADコンバータ129の出力値(デジタル値)に基づき各相のコイル電流を判定する。例えば、電流センサ130が、1A当たり、0.01Vの電圧を出力し、増幅部134での増幅率(ゲイン)を10倍とし、増幅部134が印加するオフセット電圧を1.6Vとする。モータ101に流れるコイル電流の範囲が-10A~+10Aであるとすると、増幅部134が出力する電圧範囲は、0.6V~2.6Vになる。例えば、ADコンバータ129が、0~3Vの電圧を、0~4095のデジタル値に変換して出力するのであれば、-10A~+10Aのコイル電流は、凡そ、819~3549のデジタル値に変換される。なお、インバータ131からモータ101への方向にコイル電流が流れているときを正の電流値とし、その逆を負の電流値とする。
【0016】
電流値算出部128は、デジタル値からオフセット電圧に対応するオフセット値を減じ、所定の変換係数を乗ずることでコイル電流の電流値を求める。本例では、オフセット電圧(1.6V)に対応するオフセット値は、約2184(1.6×4095/3)である。また、変換係数は、約0.000733(3/4095)である。この様に、電流センサ130と、増幅部134と、ADコンバータ129と、電流値算出部128は、コイル電流の電流値を検出する電流検出部を構成する。
【0017】
図3は、モータ101の構成図である。モータ101は、6スロットのステータ140と、4極のロータ141からなり、ステータ140はU相、V相、W相の各コイル135、136、137を備える。ロータ141は、永久磁石により構成され、2組のN極/S極を備える。
【0018】
図4(A)は、モータ101の回転軸にかかる負荷トルクと、ロータ141を所定の目標速度で回転させるためのコイル電流との関係を示している。
図4(A)に示す様に、コイル電流と負荷トルクは比例関係にあり以下の式(1)で示される。
Ic=(1/Kt)×T (1)
式(1)において、Icはコイル電流であり、Tは負荷トルクであり、Ktはモータ101のトルク定数である。
図4(A)及び式(1)から明らかな様に、負荷が大きくなるとコイル電流は大きくなる。
【0019】
図4(B)は、ロータ141を
図4(A)と同じ所定の目標速度で回転させるためのモータ101の回転軸にかかる負荷トルクと、モータ101のコイルの温度及びインバータ131のスイッチング素子の温度との関係を示している。負荷トルクとコイル温度の関係は、以下の式(2)で表すことができ、負荷トルクとスイッチング素子温度との関係は、以下の式(3)で表すことができる。
Tc=a×T
2 (2)
Tf=b×T
2 (3)
式(2)及び式(3)において、Tcはコイル温度であり、Tfはスイッチング素子温度であり、Tは負荷トルクであり、aはコイルの温度上昇係数であり、bはスイッチング素子の温度上昇係数である。
図4(B)並びに式(2)及び式(3)から明らかな様に、負荷トルクが大きくなると、コイル温度及びスイッチング素子温度は上昇する。
【0020】
例えば、モータ101のコイルの定格温度が120度の場合、コイル温度が120度を超えると、コイルの絶縁皮膜が熱によって溶け、モータ101が故障し得る。
図4(B)から、コイル温度が120度のときの負荷トルクは80mNmである。
図4(A)から負荷トルクが80mNmのときのコイル電流値は3.5Aである。したがって、コイル温度を120度以下にするには、基本的には、コイル電流を3.5A以下にする必要がある。なお、短い期間の間、一時的にコイル電流が3.5Aを超えてもコイル温度は120度に到達しない、或いは、到達してもその期間は短いため絶縁被膜が溶けることはない。つまり、モータ101の故障を防ぐには、3.5Aより大きいコイル電流が所定期間以上継続することを防ぐ必要がある。
【0021】
図5は、モータ101の負荷に異常がない正常状態において、モータ101を所定の目標速度で回転させている間のコイル電流の時間変化例を示している。負荷が正常であっても、瞬間的な負荷変動が生じ得る。負荷変動により負荷が増加した場合、負荷の増大による速度低下を防いで目標速度を維持するためにコイル電流が増加する。
図5では、コイル電流が3.5Aを超えることが2回生じている。ここで、モータ101のコイル電流を3.5A以下に制限すると、この様な負荷の増大時にロータ141の回転速度が低下し、画像ブレや色ずれ等の画像不良が生じ得る。負荷変動に対してロータ141の回転速度を目標速度に維持するためには、負荷変動に対応するために必要なコイル電流を供給できるようにする必要がある。つまり、コイル温度が定格温度を超えることを防ぎつつ、負荷変動時のロータ141の回転速度変動を抑える様にコイル電流を供給する必要がある。
【0022】
このため、本実施形態では、モータ制御に関するパラメータとして、コイル電流制限値ILと温度上昇閾値Thを設ける。コイル電流制限値ILは可変値であり、その初期値は、定常負荷状態(正常時)においてロータ141を目標速度で回転させている際の負荷変動に対応できる値に設定する。例えば、正常状態における負荷変動が
図5に示すものである場合、負荷変動時におけるコイル電流の最大値は凡そ4Aになる。したがって、コイル電流制限値ILの初期値は4A以上とする。以下の説明においては、コイル電流制限値ILの初期値を、負荷変動時におけるコイル電流の最大値である4Aより1Aだけ大きい5Aとする。一方、温度上昇閾値Thは、コイル温度を定格温度にするコイル電流の電流値に基づき決定する。例えば、目標速度におけるモータ101の特性が
図4に示すものであり、かつ、コイルの定格温度を120度とすると、コイル温度を定格温度にするコイル電流の電流値は3.5Aである。例えば、3.5Aを温度上昇閾値Thとすることができる。或いは、3.5Aに対してマージンを考慮した値を温度上昇閾値Thとすることができる。以下の説明においては、温度上昇閾値Thを3.5Aとする。制御部31は、コイル電流の所定期間毎の平均値を求める。なお、以下の例では、この所定期間を1秒とする。制御部31は、コイル電流の1秒間の平均値が温度上昇閾値Th以上であるとコイル電流制限値ILを所定値ずつ下げる様に更新する。なお、本例では、この所定値を0.1Aとする。
【0023】
図6(A)は、正常負荷状態の場合のコイル電流及びコイル電流制限値ILの時間変化を示している。
図6(A)によると、コイル電流は瞬間的に温度上昇閾値Th(3.5A固定)を超えているが、1秒間の平均値は温度上昇閾値Thより小さいため、コイル電流制限値ILは初期値(5A)のままとなっている。
図6(B)は、過負荷状態の場合のコイル電流及びコイル電流制限値ILの時間変化を示している。
図6(B)によると、コイル電流は、定常的に4.3A程度流れており、かつ、瞬間的に上昇しているが、コイル電流制限値ILによりその最大値は抑えられている。
図6(B)において、コイル電流の1秒間の平均値は温度上昇閾値Th以上であるため、コイル電流制限値ILは初期値(5A)から徐々に(0.1Aずづ)減少する様に更新されている。また、コイル電流制限値ILが、定常的に流れているコイル電流の電流値である4.3Aより小さくなると、モータ101は、速度を維持することができなくなって停止される。
【0024】
図6(A)に示す様に、本実施形態の制御によると、正常負荷時の負荷変動に対応することができる。一方、
図6(B)に示す様に、過負荷時には、コイル温度が過剰に上昇することでモータが故障となることを防ぐことできる。なお、本実施形態においては、コイル電流の1秒間の平均値が温度上昇閾値Thを超えた場合、平均値に拘わらずコイル電流制限値ILを所定値ずつ減少させるとした。しかしながら、平均値が大きくなる程、或いは、平均値と温度上昇閾値Thとの差分が大きくなる程、コイル電流制限値ILの減少値を大きくする構成とすることもできる。
【0025】
図7は、本実施形態による制御部31が実行する処理のフローチャートである。なお、制御部31は、画像形成の開始によりモータ101の回転を開始すると
図7の処理を実行する。制御部31は、モータ101が目標速度に達すると、S10で、コイル電流制限値ILを初期値、本例では5に設定する。その後、制御部31は、S11で、コイル電流の所定期間の平均値Iaveを判定し、S12で、平均値Iaveと温度上昇閾値Thとを比較する。平均値Iaveが温度上昇閾値Thより大きいと、制御部31は、S13で、コイル電流制限値ILを所定値、本例では、0.1だけ減少させる。その後、制御部31は、S14で画像形成が終了したかを判定する。画像形成が終了していると、制御部31は、
図7の処理を終了し、画像形成が終了していないと、制御部31は、S11から処理を繰り返す。
【0026】
一方、S12で、平均値Iaveが温度上昇閾値Th以下であると、制御部31は、S15で、平均値Iaveと温度上昇閾値Thから所定値を引いた値(閾値)とを比較する。なお、本例では、この所定値を1とするが例示である。制御部31は、平均値Iaveが温度上昇閾値Thから1を引いた値より小さいと、S16で、コイル電流制限値ILを所定値、本例では、0.1だけ増加させてS14の処理を行う。一方、平均値Iaveが温度上昇閾値Thから1を引いた値以上であると、制御部31は、コイル電流制限値ILを更新することなくS14の処理を行う。なお、S13で減少させる所定値と、S16で増加させる所定値は同じ値であっても異なる値であっても良い。また、S16では所定値だけコイル電流制限値ILを増加させるとしたが、平均値が小さくなる程、或いは、平均値と温度上昇閾値Thから1を1引いた値との差分が大きくなる程、コイル電流制限値ILの増加値を大きくする構成とすることもできる。
【0027】
以上、コイル電流制限値ILを、閾値とコイル電流の平均値とに基づき動的に制御することで、正常時の負荷変動に対応しつつ、過負荷時(負荷異常時)においてコイル温度が定格温度を超えることを防ぐことができる。
【0028】
<第二実施形態>
続いて、第二実施形態について第一実施形態との相違点を中心に説明する。本実施形態においては、コイル電流の平均値が温度上昇閾値Thよりも大きい場合、モータ速度を制限する。本実施形態では、第一実施形態で説明した温度上昇閾値Thとコイル電流制限値ILに加えて、目標速度制限値VLをさらに設定する。目標速度制限値VLは可変値であり、その初期値は、ロータ141の回転速度の初期の目標値(以下、目標速度初期値VTD)より大きい値に設定される。目標速度初期値VTDは固定値である。なお、本実施形態において、コイル電流制限値ILは第一実施形態とは異なり固定値である。この初期値は、第一実施形態と同様に、定常負荷状態(正常時)においてロータ141を目標速度初期値VTDで回転させている際の負荷変動に対応できる値(本例では5A)に設定する。そして、制御部31は、コイル電流の1秒間の平均値が温度上昇閾値Th以上であると目標速度制限値VLを所定値ずつ下げる様に更新する。以下の例において、目標速度制限値VLの初期値を2700ppmとし、目標速度初期値VTDを2000rpmとする。目標速度制限値VLが目標速度初期値VTD以上の間、制御部31は、目標速度初期値VTDを、ロータ141の回転速度の目標値VTに決定する。一方、目標速度制限値VLが目標速度初期値VTDより小さい場合、制御部31は、目標速度制限値VLを目標値VTに決定する。
【0029】
図8(A)は、過負荷時における目標速度制限値VLの時間変化を示し、
図8(B)は、
図8(A)に対応するコイル電流の時間変化を示している。
図8(B)に示す様に、コイル電流の平均値が温度上昇閾値Th以上であるため、目標速度制限値VLは初期値(2700rpm)から徐々に減少する様に更新されている。なお、本例では、この減少値を100rpmとしている。目標速度制限値VLが、目標速度初期値VTD(2000rpm)未満になると、ロータ141の回転速度の目標値VTは、目標速度制限値VLに設定される。つまり、ロータ141の回転速度を、その初期値から低下させる。ロータ141の回転速度の低下に応じて、コイル電流が低下する。ロータ141の回転速度が所定速度よりも低くなると回転を継続できずモータ101は停止される。
【0030】
図8に示す様に、本実施形態の制御によると、過負荷時、コイル温度が過剰に上昇することでモータが故障となることを防ぐことできる。なお、本実施形態においては、コイル電流の1秒間の平均値が温度上昇閾値Thを超えた場合、平均値に拘わらず目標速度制限値VLを所定値ずつ減少させるとした。しかしながら、平均値が大きくなる程、或いは、平均値と温度上昇閾値Thとの差分が大きくなる程、目標速度制限値VLの減少値を大きくする構成とすることもできる。
【0031】
図9は、本実施形態において制御部31が実行する処理のフローチャートである。制御部31は、S20で、目標電流制限値VLを初期値、本例では2700に設定し、目標速度初期値VTDを2000に設定し、目標速度初期値VTDとなる様にロータ141を回転させる。その後、制御部31は、S21で、コイル電流の所定期間の平均値Iaveを判定し、S22で、平均値Iaveと温度上昇閾値Thとを比較する。平均値Iaveが温度上昇閾値Thより大きいと、制御部31は、S23で、目標速度制限値VLを所定値、本例では、100だけ減少させる。その後、制御部31は、S24で、VTDとVLの小さい方の値を目標値VTに設定する。そして、制御部31は、S25で画像形成が終了したかを判定する。画像形成が終了していると、制御部31は、
図9の処理を終了し、画像形成が終了していないと、制御部31は、S21から処理を繰り返す。
【0032】
一方、S22で、平均値Iaveが温度上昇閾値Th以下であると、制御部31は、S26で、平均値Iaveと温度上昇閾値Thから所定値を引いた値(閾値)とを比較する。なお、本例では、この所定値を1とするが例示である。制御部31は、平均値Iaveが温度上昇閾値Thから1を引いた値より小さいと、S27で、目標速度制限値VLを所定値、本例では、100だけ増加させてS24の処理を行う。一方、平均値Iaveが温度上昇閾値Thから1を引いた値以上であると、制御部31は、目標速度制限値VLを更新することなくS24の処理を行う。なお、S23で減少させる所定値と、S27で増加させる所定値は同じ値であっても異なる値であっても良い。また、S27では所定値だけコイル電流制限値ILを増加させるとしたが、平均値が小さくなる程、或いは、平均値と温度上昇閾値Thから1を引いた値との差分が大きくなる程、目標速度制限値VLの増加値を大きくする構成とすることもできる。
【0033】
以上、ロータ141の回転速度の目標値を、閾値とコイル電流の平均値とに基づき動的に制御することで、正常時の負荷変動に対応しつつ、過負荷時(負荷異常時)においてコイル温度が定格温度を超えることを防ぐことができる。
【0034】
[その他の実施形態]
なお、上記実施形態において制御部31が実行するとした処理の一部又は全部をモータ制御部120が実行する構成とすることができる。また、モータ制御部120と、制御部31のモータ制御に係る部分を、モータ制御装置として実装することができる。また、モータ101は、感光体13、中間転写ベルト19、現像ローラ16の駆動源としたが、モータ101の負荷は、シート21を搬送するローラや定着器30等であっても良く、負荷の種別に制限はない。さらに、画像形成装置により本実施形態を説明したが、本発明は、モータ101を制御する任意の装置に対して適用することができる。さらに、上記実施形態で使用した具体的な数値は例示であり、本発明は、実施形態の説明に使用した特定の数値に限定されるものではない。
【0035】
[その他の実施形態]
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0036】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0037】
31:制御部、121:マイクロコンピュータ、132:ゲートドライバ、131:インバータ、130:電流センサ、134:増幅部