(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】フロントカバーフィルム及びその製造方法、並びに画像表示装置
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20231206BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20231206BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20231206BHJP
B29C 41/20 20060101ALI20231206BHJP
B29C 41/36 20060101ALI20231206BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20231206BHJP
B29K 75/00 20060101ALN20231206BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20231206BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20231206BHJP
B29L 11/00 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
B32B27/00 M
G09F9/00 350Z
G09F9/30 365
G09F9/30 308Z
G09F9/00 366G
B29C41/20
B29C41/36
H05B33/14 A
B29K75:00
B29L7:00
B29L9:00
B29L11:00
(21)【出願番号】P 2019223789
(22)【出願日】2019-12-11
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】501426046
【氏名又は名称】エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平林 英史
(72)【発明者】
【氏名】高杉 親知
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-203552(JP,A)
【文献】特開2013-240982(JP,A)
【文献】特開2019-061186(JP,A)
【文献】国際公開第2013/057959(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
G09F 9/00
G09F 9/30
B29C 41/20
B29C 41/36
H10K 50/10
H10K 59/10
B29K 75/00
B29L 7/00
B29L 9/00
B29L 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二層又はそれ以上の層を有するフロントカバーフィルムであって、
上層の上表面の少なくとも一部が滑り性を有し、下層の下表面が接着性を有しており、
前記下層の厚みが前記上層の厚みよりも大き
く、
前記上層の上表面の端部が接着性を有し、前記端部以外の上表面が滑り性を有する、フロントカバーフィルム。
【請求項2】
前記上層が滑り材を含む、請求項1に記載のフロントカバーフィルム。
【請求項3】
前記二層又はそれ以上の層が、連続的に組成が変化して形成されている、請求項
1または2に記載のフロントカバーフィルム。
【請求項4】
前記下層が接着性を有する材料からなる、請求項1から3のいずれか一項に記載のフロントカバーフィルム。
【請求項5】
前記上層の上表面の表面積に対する、接着性を有する前記端部の合計面積が、0.05~10%である、請求項
1から4のいずれか一項に記載のフロントカバーフィルム。
【請求項6】
前記フロントカバーフィルムのHAZE値が5%以下である、請求項1から
5のいずれか一項に記載のフロントカバーフィルム。
【請求項7】
JIS Z0237に準拠して測定した前記下層の下表面の接着力が、1.0N/25mm以上である、請求項1から
6のいずれか一項に記載のフロントカバーフィルム。
【請求項8】
前記二層又はそれ以上の層が、ウレタン結合を有する樹脂(X)を含む、請求項1から
7のいずれか一項に記載のフロントカバーフィルム。
【請求項9】
前記上層の厚みに対する前記下層の厚み比(前記下層の厚み/前記上層の厚み)が、10超200以下である、請求項1から8のいずれか一項に記載のフロントカバーフィルム。
【請求項10】
フロントカバーフィルムの製造方法であって、前記製造方法は、
原料樹脂と滑り材とを含む樹脂組成物(I)を基板表面に塗工する工程(1)と、
前記基板と接していない側の塗工面の少なくとも一部で、前記滑り材が凝集するように前記樹脂組成物(I)を硬化させる工程(2)とを有
し、
前記原料樹脂がウレタン結合を有する樹脂(X)を含み、
前記樹脂組成物(I)の総質量に対する、前記ウレタン結合を有する樹脂(X)の割合が50質量%以上であり、前記滑り材の割合が2~5質量%である、フロントカバーフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記工程(1)のあと、前記基板と接していない側の塗工面の端部をマスクしたのち、前記工程(2)を実施する、請求項
10に記載のフロントカバーフィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項1から
9のいずれか一項に記載のフロントカバーフィルムと、画像表示パネルとを備え、前記フロントカバーフィルムの下層の下表面が、前記画像表示パネルと接している、画像表示装置。
【請求項13】
請求項
1から9のいずれか一項に記載のフロントカバーフィルムと、アクティブエリア及び前記アクティブエリアを囲む非アクティブエリアを含む画像表示パネルと、を含む、画像表示装置であって、
前記フロントカバーフィルムの下層の下表面が、前記画像表示パネルと接触しており、
前記フロントカバーフィルムの上層の上表面の端部が、前記非アクティブエリアと重なっており、前記端部の面積が、前記非アクティブエリアの面積以下である、画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントカバーフィルム及びその製造方法、並びに画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、液晶表示装置(Liquid Crystal Display、LCD)や有機発光装置(Organic Light Emitting Diode、OLED)のような画像表示装置は、LCDパネルやOLEDパネル等のパネルに、必要に応じてタッチパネルや光学フィルム等を積層させた画像表示パネルに、さらにフロントカバーフィルムを積層させた構造を有している。フロントカバーフィルムは、画像表示パネルの表面保護材として用いられるものであり、透明性の他、その表面は適度な滑り性を有している必要がある。このようなフロントカバーフィルムは、通常、光学接着剤を含む透明接着層を介して、画像表示パネルの表面に積層される。
【0003】
近年、折り曲げたり、丸めたりすることのできる、フレキシブルな画像表示装置(以下、「フレキシブルディスプレイ」と記載する)が開発されている(特許文献1等)。このようなフレキシブルディスプレイへの適用が可能なフロントカバーフィルムとして、例えば、特許文献2には、特定の架橋構造を有するフロントカバーフィルムと透明接着層とを備える表面保護材料が記載されている。特許文献2によれば、高い剥離強度を維持しつつ、せん断弾性率の向上により、フレキシブルディスプレイを折り曲げた際の屈曲や凹みに耐えうる表面保護材料が得られることが記載されている。
【0004】
フレキシブルディスプレイに適用可能なフロントカバーフィルムも、前述の接着層を介して画像表示パネルに貼り合わせる方法(ダイレクトボンディング方式)が一般的に用いられる。このような方法は、高価な光学接着剤を用いることによる製造コストの増加や、光学接着剤からの脱ガスによりフロントカバーフィルムと接着層との界面に気泡がたまり、貼り直しが必要となる(歩留まりの低下)といった問題を有している。また、このような方法で製造されたフレキシブルディスプレイは、光学接着剤とフロントカバーフィルムとの屈折率差に起因する外光反射や、フレキシブルディスプレイに求められる薄さを実現しにくいという問題も有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-152922号公報
【文献】特開2019-061186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、光学接着剤を含む接着層を介さずとも画像表示パネルに直接貼り付けることが可能なフロントカバーフィルム及びその製造方法、並びに前記フロントカバーフィルムを備える画像表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]二層又はそれ以上の層を有するフロントカバーフィルムであって、上層の上表面の少なくとも一部が滑り性を有し、下層の下表面が接着性を有しており、前記下層の厚みが前記上層の厚みよりも大きい、フロントカバーフィルム。
[2]前記上層が滑り材を含む、[1]に記載のフロントカバーフィルム。
[3]前記二層又はそれ以上の層が、連続的に組成が変化して形成されている、[2]に記載のフロントカバーフィルム。
[4]前記下層が接着性を有する材料からなる、[1]から[3]のいずれか一項に記載のフロントカバーフィルム。
[5]前記上層の上表面の端部が接着性を有し、前記端部以外の上表面が滑り性を有する、[1]から[4]のいずれか一項に記載のフロントカバーフィルム。
[6]前記上層の上表面の表面積に対する、接着性を有する前記端部の合計面積が、0.05~10%である、[5]に記載のフロントカバーフィルム。
[7]前記上層の上表面全てが滑り性を有する、[1]から[4]のいずれか一項に記載のフロントカバーフィルム。
[8]前記フロントカバーフィルムのHAZE値が5%以下である、[1]から[7]のいずれか一項に記載のフロントカバーフィルム。
[9]JIS Z0237に準拠して測定した前記下層の下表面の接着力が、1.0N/25mm以上である、[1]から[8]のいずれか一項に記載のフロントカバーフィルム。
[10]前記二層又はそれ以上の層が、ウレタン結合を有する樹脂(X)を含む、[1]から[9]のいずれか一項に記載のフロントカバーフィルム。
[11][1]に記載のフロントカバーフィルムの製造方法であって、原料樹脂と滑り材とを含む樹脂組成物(I)を基板表面に塗工する工程(1)と、前記基板と接していない側の塗工面の少なくとも一部で、前記滑り材が凝集するように前記樹脂組成物(I)を硬化させる工程(2)とを有する、フロントカバーフィルムの製造方法。
[12]前記工程(1)のあと、前記基板と接していない側の塗工面の端部をマスクしたのち、前記工程(2)を実施する、[11]に記載のフロントカバーフィルムの製造方法。
[13]前記原料樹脂が、ウレタン結合を有する樹脂(X)を含む、[11]または[12]に記載のフロントカバーフィルムの製造方法。
[14][1]から[10]のいずれか一項に記載のフロントカバーフィルムと、画像表示パネルとを備え、前記フロントカバーフィルムの下層の下表面が、前記画像表示パネルと接している、画像表示装置。
[15][5]に記載のフロントカバーフィルムと、アクティブエリア及び前記アクティブエリアを囲む非アクティブエリアを含む画像表示パネルと、を含む、画像表示装置であって、前記フロントカバーフィルムの下層の下表面が、前記画像表示パネルと接触しており、前記フロントカバーフィルムの上層の上表面の端部が、前記非アクティブエリアと重なっており、前記端部の面積が、前記非アクティブエリアの面積以下である、画像表示装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光学接着剤を含む接着層を介さずとも画像表示パネルに直接貼り付けることが可能なフロントカバーフィルム及びその製造方法、並びに前記フロントカバーフィルムを備える画像表示装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のフロントカバーフィルムの一例を示す断面図である。
【
図2】本発明のフロントカバーフィルムのその他の例を示す断面図である。
【
図3】本発明のフロントカバーフィルムを備える画像表示装置の一例を概略的に示す断面図である。
【
図4】本発明のフロントカバーフィルムを備える画像表示装置のその他の例を概略的に示す断面図である。
【
図5】実施例及び比較例におけるフロントカバーフィルムの折り曲げ試験の測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。
[フロントカバーフィルム]
本発明のフロントカバーフィルムは、二層又はそれ以上の層を有するフロントカバーフィルムであって、上層の上表面の少なくとも一部が滑り性を有し、下層の下表面が接着性を有しており、前記下層の厚みが前記上層の厚みよりも大きい。このような構成を有するフロントカバーフィルムであれば、フロントカバーフィルムに求められる滑り性を維持しつつ、光学接着剤を含む接着層を介さずとも画像表示パネルへ直接貼り付けることができる。
なお、本明細書において、「上層」とは、フロントカバーフィルムを画像表示パネル上に積層させるために配置した際、フロントカバーフィルムの最も上側に位置する層を意味する。また、「下層」とは、画像表示パネルと接する側の層のことを意味する。なお、本明細書において、「上側」、「下側」の記載は、上記の通り、フロントカバーフィルムを画像表示パネル上に積層させるために配置した際の位置のことを指す。すなわち、「上層の上表面」とは、上記の通りフロントカバーフィルムを配置した際、最も上側に位置する層の最表面のことを意味する。同様に、「下層の下表面」とは、画像表示パネルと接する側の層における下側の表面(画像表示パネルと接する表面)を意味する。なお、本明細書において「表面」とは、特に断りのある場合を除いて、外気と接する側の表面のことを意味する。また、「滑り性を有する」とは、その表面の動摩擦係数および静摩擦係数が低い状態を意味する。なお、フロントカバーフィルムが二層以上の層を有する場合、上層と下層以外の層を有していてもよい。このような層のことを、「中間層」と呼ぶこともある。本発明においては、上層と下層の二層からなるフロントカバーフィルムであることがより好ましい。
【0011】
本発明のフロントカバーフィルムは、上層の上表面の少なくとも一部が滑り性を有している。上層の上表面の滑り性は、JIS K 7125(プラスチック-フィルムおよびシート摩擦係数試験)にて測定することができる。本発明の1つの態様において、上記試験方法に準拠して測定した上層の上表面の滑り性の値は、より低い値であることが好ましく、0.1~1であることがより好ましい。
【0012】
上層の上表面は、その全てが滑り性を有していてもよく、一部のみに滑り性を有していてもよい。上層の上表面の一部が滑り性を有する場合、上層の上表面の端部が接着性を有し、前記端部以外の上表面が滑り性を有することが好ましい。このような構成とすることで、本発明のフロントカバーフィルムをフレキシブルディスプレイに適用した際、フレキシブルディスプレイのベゼル部での剥がれが生じにくくなる。
前述の通り、フレキシブルディスプレイは、折り曲げたり、丸めたりすることのできる画像表示装置である。フレキシブルディスプレイが折り曲げられると、折り曲げ部分でせん断応力、ねじれ応力が発生する。ベゼル部は画素部と比較して、接着力が弱く、上記せん断応力やねじれ応力が加わると、フロントカバーフィルムを含む表面保護材が剥がれやすくなる。本発明のフロントカバーフィルムの1つの態様においては、上層の上表面の端部、すなわち、本発明のフロントカバーフィルムをフレキシブルディスプレイに適用した際、ベゼル部と接する端部の上表面が接着性を有しており、前記端部以外の上表面が滑り性を有していることが好ましい。なお「上層の上表面の端部」とは、前述の通り、フレキシブルディスプレイのベゼル部と接する部分であり、より具体的には、フロントカバーフィルムの上層の上表面における、長さ方向及び幅方向の両方の端部のことを指す。1つの態様において、上層の上表面の表面積に対する、接着性を有する前記端部の合計面積の割合は、0.05~10%であることが好ましく、0.1~5%であることがより好ましい。接着性を有する端部の合計面積の割合が0.05~10%であれば、ベゼル部での剥がれがより生じにくい。
なお、上層の前記端部の接着力は、フロントカバーフィルムの下層の下表面の接着力と同じであることが好ましい。
【0013】
本発明のフロントカバーフィルムは、下層の下表面が接着性を有している。本発明の1つの態様において、下層の下表面のJIS Z0237に準拠して測定した接着力は、1.0N/25mm以上であることが好ましく、5.0N/25mm以上であることがより好ましい。下層の表面の接着力が、1.0N/25mm以上であれば、光学接着剤を含む接着層を介さずとも、画像表示パネルに対する良好な接着性が得られ易くなる。また、下層は接着性を有する材料からなることが好ましい。「接着性を有する材料」としては、例えば、接着性樹脂や、接着性シート、フィルム等であって、透明性を有するものが挙げられる。これら接着性を有する材料としては、前述の通り、JIS Z0237に準拠して測定した接着力が1.0N/25mm以上のものが好ましい。また、接着性を有する材料としては、後述する、反応性官能基が結合して形成された架橋構造を有する樹脂を含む材料であってもよい。
【0014】
また、本発明のフロントカバーフィルムは、下層の厚みが上層の厚みよりも大きい。接着性を有する下層の厚みを上層よりも大きくすることで、光学接着剤を含む接着層を介さずとも画像表示パネルへ直接貼り付けることができる。
滑り性を有する上層と、接着性を有する下層とは、フロントカバーフィルムの断面から光学顕微鏡により判断することができる。
本発明の1つの態様において、上層の厚みに対する下層の厚み比(下層の厚み/上層の厚み)は、10超200以下であることが好ましく、20以上100以下であることがより好ましい。前記厚み比が10超200以下であれば、透明性、機械特性を両立しやすい。
【0015】
本発明のフロントカバーフィルムは、上層に滑り材を含むことが好ましい。上層が滑り材を含むことで、上層の上表面の少なくとも一部に、滑り性を付与しやすくなる。
滑り材としては、本発明の効果を有する限り特に限定されず、例えば、フッ素系又はシリコーン系添加剤、炭化水素系滑剤、炭素数12~24の脂肪酸アミド、炭素数12~24の脂肪酸・炭素数12~24の高級アルコール系滑剤、金属せっけん系滑剤、エステル系(グリセリンモノステアレート)滑剤、シリカ又はシリコーン微粒子、金属酸化物微粒子等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。このうち、透明性、滑り性の観点から、滑り材としては、フッ素系添加剤、シリコーン系添加剤が好ましく、シリコーン系添加剤がより好ましい。
上層の滑り材の含有量としては、上層を構成する全材料の合計量(100質量%)に対して、0.5~20質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましく、2~5質量%が特に好ましい。滑り材の含有量が0.5~20質量%であれば、上層の滑り性がより良好なものとなりやすい。
【0016】
本発明のフロントカバーフィルムは、上層が滑り材を含み、二層又はそれ以上の層が、連続的に組成が変化して形成されていることが好ましい。また、上層から下層に向けて、連続的に組成が変化して形成されていることがより好ましい。「連続的に組成が変化する」とは、層間に化学的な繋がりがあり、上層から下層に向けて滑り材の濃度勾配があることを意味する。このような構成とすることで、各層間の架橋密度が増加しやすくなり、更に各層間の親和性が向上しやすくなる。
【0017】
また、本発明のフロントカバーフィルムは、少なくとも下層が、反応性官能基が結合して形成された架橋構造を有する樹脂を含む材料で形成されていることが好ましく、二層又はそれ以上の層が、反応性官能基が結合して形成された架橋構造を有する樹脂を含む材料で形成されていることがより好ましい。反応性官能基としては、例えば、カルボキシ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、(メタ)アクリル基、イソシアネート基等を挙げることができる。架橋構造は、これらから選択される反応性官能基が結合した架橋構造とすることができる。具体的な架橋構造としては、例えば、ヒドロキシ基及びイソシアネート基から形成されたウレタン結合、イソシアネート基及びアミノ基から形成されたウレア結合、カルボキシ基及びアミノ基から形成されたアミド結合、エポキシ基及びアミノ基から形成された結合、(メタ)アクリル基から形成された結合、ビニル基とシリコーンとから形成された結合、カチオン性基及びアニオン性基から形成されたイオン結合等を挙げることができる。
【0018】
また、本発明の1つの態様において、架橋構造は、熱硬化性樹脂由来の架橋構造であることが好ましい。「熱硬化性樹脂由来の架橋構造」としては、例えば、ウレタン結合、ウレア結合、エポキシ基及びアミノ基から形成された結合、ビニル基とシリコーンとから形成された結合等が挙げられる。架橋構造を熱硬化性樹脂由来の架橋構造とすることで、架橋反応の種類が熱硬化反応(すなわち、加熱により架橋が進行する反応)となる。熱硬化反応の場合、フロントカバーフィルムを層の順次重ね合わせにより製造する場合にも、架橋反応の進行を制御しやすく、層間の架橋密度、すなわち親和性が向上しやすくなる。前記熱硬化性樹脂由来の架橋構造は、1種単独であってもよく、2種以上を併用してもよい。また前記熱硬化性樹脂由来の架橋構造は、三次元架橋構造であることがより好ましい。三次元架橋構造であることにより、フロントカバーフィルムのせん断弾性率が向上しやすくなり、外部からの衝撃や応力に対して変形しにくくなり、表面保護の効果が得られ易くなる。
【0019】
架橋構造のより好ましい例としては、熱により反応速度を制御しやすく、かつ三次元架橋構造を形成しやすい、ヒドロキシ基及びイソシアネート基から形成されたウレタン結合が挙げられる。すなわち、本発明のフロントカバーフィルムは、ウレタン結合を有する樹脂(X)を含むことがより好ましい。
ウレタン結合を有する樹脂(X)、すなわちポリウレタンとしては、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを含む反応成分から形成される熱硬化性ポリウレタンであることがより好ましい。このようなポリウレタンとしては、ポリウレタンエラストマー又はポリウレタンゲルを用いることもできる。なお、本発明におけるゲルとは、ゲル状の力学特性を持つ材料全般を指すものとする。
【0020】
ウレタン結合を有する樹脂(X)(以下、「樹脂(X)」ということもある)を構成するためのポリオール成分としては、本発明の効果を有する限り特に限定されず、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール等を挙げることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、ポリ(オキシプロピレンエーテル)ポリオール、ポリ(オキシエチレン-プロピレンエーテル)ポリオール等を挙げることができる。
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリカーボネートグリコール、ポリカーボネートトリオール、ポリカーボネートテトラオール等を挙げることができる。
ポリエステルポリオールとしては、例えば、ジカルボン酸とグリコール成分とを脱水縮合させたものが挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等を挙げることができる。グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、トリエチレングリコール等の脂肪族グリコール;1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール;p-キシレンジオール等の芳香族ジオール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール等を挙げることができる。
本発明の1つの態様において、ポリオール成分としては、水酸基価が20~100mgKOH/gのものが好ましく、30~70mgKOH/gのものがより好ましい。
【0021】
ポリイソシアネート成分としては、本発明の効果を有する限り特に限定されず、例えば、芳香族系、脂肪族系、脂環式系等のポリイソシアネートが挙げられる。このようなポリイソシアネート成分としては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、水添化ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニルメタンポリイソシアネート、変性ジフェニルメタンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、フェニレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
また、上記のポリオール成分やポリイソシアネート成分は、部分的にフッ素化されていても良い。
なお、樹脂(X)としては、前記ポリオール成分及びポリイソシアネート成分から得られるポリウレタンを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。すなわち、樹脂(X)は複数のポリウレタンの混合物であってもよい。
【0022】
本発明の1つの態様において、上層及び下層がウレタン結合を有する樹脂(X)を含むことが好ましく、フロントカバーフィルムを構成する全ての層が、ウレタン結合を有する樹脂(X)を含むことがより好ましい。このような構成とすることで、各層間の架橋密度が増加しやすくなり、更に各層間の親和性が向上しやすくなる。
フロントカバーフィルム中の樹脂(X)の含有量は、フロントカバーフィルムを構成する全材料の合計量(100質量%)に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
【0023】
フロントカバーフィルムを構成する材料には、本発明の効果を阻害しない範囲で、前記樹脂(X)及び滑り材以外のその他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、本発明の効果を有する限り特に限定されず、例えば、オイルディスパージョン等の添加材、硬化触媒等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0024】
フロントカバーフィルムは、画像表示パネルの強度を高める点で、JIS K 6253およびISO 7619に規定のA硬度で、A50以上であることが好ましい。
また、フロントカバーフィルムのHAZE値は、5%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。前述の通り、フロントカバーフィルムは画像表示パネルの表面保護材として用いられるため、透明性にも優れている必要がある。フロントカバーフィルムのHAZE値が5%以下であれば、透明性がより良好となる。
フロントカバーフィルムの厚みは、50~1000μmが好ましく、100~500μmがより好ましい。
【0025】
[フロントカバーフィルムの製造方法]
本発明のフロントカバーフィルムの製造方法は、原料樹脂と滑り材とを含む樹脂組成物(I)を基板表面に塗工する工程(1)と、前記基板と接していない側の塗工面の少なくとも一部で、前記滑り材が凝集するように前記樹脂組成物(I)を硬化させる工程(2)とを有する。
工程(1)において、樹脂組成物(I)を塗工する方法としては、本発明の効果を有する限り特に限定されず、例えば、スリットコーティング、ダイコーティング等が挙げられる。
樹脂組成物(I)を基板表面に塗工したのち、工程(2)を実施する。樹脂組成物(I)に含まれる滑り材は、一般に樹脂組成物と親和性の低い官能基を含むため、基板と接していない側の塗工面、すなわち塗工液の上側の面(外気との界面)で凝集する。よって、工程(2)は、滑り材が、基板と接していない側の塗工面の少なくとも一部で凝集するように静置したのち、前記塗工液を硬化させる工程であることが好ましい。
原料樹脂としては、前述の接着性を有する樹脂であることが好ましい。また、接着性を有する樹脂としては、前述の反応性官能基が結合して形成された架橋構造を有する樹脂であることが好ましく、ウレタン結合を有する樹脂(X)を含むことがより好ましく、ウレタン結合を有する樹脂(X)からなることが特に好ましい。
樹脂組成物(I)を塗工する基板としては、ポリイミド樹脂等のフィルム、又は前記原料樹脂を硬化させて得られたもの(原料樹脂の硬化物)であってもよい。基板が原料樹脂の硬化物である場合、前記硬化物は、本発明のフロントカバーフィルムの下層を構成するものとなる。すなわち、本発明のフロントカバーフィルムの製造方法は、前記工程(I)の前に、ポリイミド樹脂等のフィルムの上に原料樹脂を塗工して硬化させる工程(a)を含んでいてもよい。工程(a)を含む場合、工程(1)の樹脂組成物(I)は、原料樹脂の硬化物(フロントカバーフィルムの下層)の上に塗工され、その後、工程(2)を実施する。すなわち、本発明のフロントカバーフィルムの製造方法は、下層と上層を順次重ね合わせて製造する方法であってもよい。
工程(2)の後、基板から剥離してフロントカバーフィルムを得ることができる。このような方法で得られたフロントカバーフィルムは、その上表面の少なくとも一部が滑り性を有する上層と、下表面が接着性を有する下層との少なくとも二層から構成されたものとなる。
このような方法で製造されたフロントカバーフィルムは、一方の表面が滑り性を有し、かつ他方の表面が接着性を有しており、光学接着剤を含む接着層を介さずとも画像表示パネルへの貼り付けが可能である。
【0026】
本発明のフロントカバーフィルムの製造方法の1つの態様は、前記工程(1)のあと、前記基板と接していない側の塗工面の端部をマスクしたのち、前記工程(2)を実施する方法である。「基板と接していない側の塗工面の端部」とは、フロントカバーフィルムの前述のベゼル部と接する部分のことを指す。すなわち、塗工液の長さ方向及び幅方向の両方の端部のことを指す。前記端部をPETフィルム等でマスクすることにより、マスクされた端部以外の表面で滑り材が凝集する。また、マスクされた端部は接着性を有する。その後、基板から剥離することでフロントカバーフィルムを得ることができる。このような方法で得られたフロントカバーフィルムは、端部が接着性を有し、前記端部以外の上表面が滑り性を有する上層と、接着性を有する下層との少なくとも二層から構成されたものとなる。このような方法で製造されたフロントカバーフィルムは、光学接着剤を含む接着層を介さずとも画像表示パネルへの貼り付けが可能であり、さらにフレキシブルディスプレイへも好適に利用することができる。なお、本態様においても、工程(1)の前に、前記工程(a)を実施してもよい。
また、このような製造方法であれば、フロントカバーフィルムの上層表面において、滑り性を有する部分の面積を制御することが可能である。
【0027】
本発明のフロントカバーフィルムの製造方法において、樹脂組成物(I)中のウレタン結合を有する樹脂(X)の含有量は、樹脂組成物(I)の総質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
また、樹脂組成物(I)中の滑り材の含有量は、樹脂組成物(I)の総質量に対して、1~10質量%が好ましく、2~5質量%がより好ましい。
樹脂組成物(I)中には、本発明の効果を阻害しない範囲で、前述のその他の成分が含まれていてもよい。
【0028】
[画像表示装置]
本発明の画像表示装置の1つの態様は、前記フロントカバーフィルムと、画像表示パネルとを備え、前記フロントカバーフィルムの下層の下表面が、前記画像表示パネルと接している、画像表示装置である。
また、本発明の画像表示装置のその他の態様は、上層の上表面の端部が接着性を有し、前記端部以外の上表面が滑り性を有する、前述のフロントカバーフィルムと、アクティブエリア及び前記アクティブエリアを囲む非アクティブエリアを含む画像表示パネルと、を含む、画像表示装置であって、前記フロントカバーフィルムの下層の下表面が、前記画像表示パネルと接しており、前記フロントカバーフィルムの上層の上表面の端部が、前記非アクティブエリアと重なっており、前記端部の面積が、前記非アクティブエリアの面積以下である、画像表示装置である。なお、「上層の上表面の端部が、非アクティブエリアと重なっている」とは、フロントカバーフィルムを画像表示パネルの上に積層させた画像表示装置を、フロントカバーフィルムの上から平面視した際、画像表示パネルの非アクティブエリアの位置と、フロントカバーフィルムの上層の上表面の端部の位置とが、重なり合っている状態を指す。フロントカバーフィルムの上層の端部の面積は、非アクティブエリアの面積以下である。フロントカバーフィルムの上層の端部の面積は、好ましくは、前述の通り、上層の上表面の表面積に対して、0.05~10%であり、より好ましくは、0.1~5%である。
本明細書において、「画像表示パネル」は、OLEDパネル等のパネル単体だけでなく、前記パネルの表面に、光学フィルムやタッチパネル等を積層させた構成、フロントカバーフィルムを積層させる面とは反対側の面に接着層を介してバックプレートや衝撃吸収材を積層させた構成等も含まれる。よって、「フロントカバーフィルムの下層の下表面が、画像表示パネルと接している」とは、パネルの表面に本発明のフロントカバーフィルムを貼り付けた構成、パネルの上に積層されている光学フィルム又はタッチパネルの表面に、本発明のフロントカバーフィルムを貼り付けた構成等も含まれる。
本明細書において、「アクティブエリア」とは、画像表示パネルにおける画像表示領域のことを意味する。また、画像表示パネルがタッチパネル等を積層させた構成を有する場合は、ユーザーのタッチ操作を受け付ける領域のことを意味する。一方、「非アクティブエリア」とは、前記アクティブエリアを囲うように設けられた、画像非表示領域、又はタッチパネルを積層させた構成の場合は、タッチ操作を受け付けない領域のことを意味する。
【0029】
図3は、本発明のフロントカバーフィルムを備える画像表示装置の一例を概略的に示す断面図である。画像表示装置200は、画像表示パネル100と、フロントカバーフィルム10又は20とを有する。画像表示パネル100は、OLEDパネル40の上面に、タッチパネル30が積層され、下面に光学接着剤からなる接着層50を介してバックプレート60と衝撃吸収材70が積層された構成を有している。本発明のフロントカバーフィルム10又は20は、タッチパネル30の上に、光学接着剤を含む接着層を介さずに直接貼り付けられている。
また、
図4は、本発明のフロントカバーフィルムを備える画像表示装置のその他の例を概略的に示す断面図である。画像表示装置400は、画像表示パネル300とフロントカバーフィルム20とを有する。画像表示パネル300は、アクティブエリア302と、アクティブエリア302を囲むように設けられた、非アクティブエリア301とを有する。この画像表示パネル300の上に、フロントカバーフィルム20の下層の下表面4が、画像表示パネル300と接するように、直接貼り付けられている。また、フロントカバーフィルム20の上層の端部5の位置が、非アクティブエリア301と重なっている。また、上層の端部5の面積は、非アクティブエリア301の面積以下である。
図3、4に示すような構成を有する画像表示装置200、又は400は、フロントカバーフィルムの貼り付け時に光学接着剤を含む接着層を必要としないため、光学接着剤からの脱ガスによる歩留まりの低下を抑制でき、さらに製造コストの低減も可能である。また、画像表示パネルの表面にフロントカバーフィルムを直接貼り付ける構成であるため、画像表示装置の薄層化も可能となる。さらに、光学接着剤とフロントカバーフィルムとの屈折率差に起因する外光反射を低減することができる。
【0030】
(画像表示装置の製造方法)
本発明のフロントカバーフィルムを備える画像表示装置の製造方法は、画像表示パネルの表面に前記フロントカバーフィルムを直接貼り付ける工程を有する。
前述の通り、フロントカバーフィルムは、一般にダイレクトボンディング方式によって画像表示パネルに貼り付けられる。このようなダイレクトボンディング方式では、画像表示パネルの表面に光学接着剤をディスペンシング(塗工)し、UVを照射して予備硬化させたのち、真空下でフロントカバーフィルムとの貼り合わせを行う。本発明のフロントカバーフィルムは、光学接着剤を用いずとも画像表示パネルに直接貼り付けることができる。そのため、本発明のフロントカバーフィルムを備える画像表示装置の製造方法は、ダイレクトボンディング方式における光学接着剤の塗工、予備硬化、及び貼り合わせの工程を省略することができ、材料費の削減及び製造工程の簡略化が可能である。
なお、前記画像表示装置には、フレキシブルディスプレイも含まれる。
【0031】
本発明の1つの側面は、前記フロントカバーフィルムのフレキシブルディスプレイ用表面保護材としての使用、又はその使用方法である。前記使用方法は、フレキシブルディスプレイの画像表示パネル表面に、前記フロントカバーフィルムを直接貼り付ける工程を有する。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0033】
実施例及び比較例で用いた材料は以下のとおりである。
PUエラストマー1(ウレタン結合を有する樹脂(X)):熱硬化性ウレタン樹脂、旭化成株式会社製 商品名「T5652」。
PUエラストマー2(ウレタン結合を有する樹脂(X)):熱硬化性ウレタン樹脂、DIC株式会社製 商品名「パンデックス(登録商標)GW1350/HX-650」。
OCA-1(透明接着剤):シリコーン系樹脂、Iwatani株式会社製、商品名「SS050」。
OCA-2(透明接着剤):アクリル系樹脂、DIC株式会社製、商品名:「ZB597-25」。
PI:ポリイミド樹脂フィルム、東レ・デュポン株式会社製、商品名:「カプトン(登録商標)200H」。
滑り添加剤:旭化成株式会社製、商品名:「AK-10000」。
【0034】
[実施例1]
PUエラストマー2を395μmの厚さの金型に流しいれ、50℃で1時間、120℃で1時間アニール処理して硬化させた。この膜の上から、PUエラストマー1(99.5質量%)に滑り材(0.5質量%)を加えた樹脂組成物(I)を、硬化後の膜厚が5μmになるようにスリットコータにて塗工し、70℃で2分間、120℃で6分間、50℃で16時間の条件で硬化させて、フロントカバーフィルムを作製した。得られたフロントカバーフィルムの厚みは400μmであった。得られたフロントカバーフィルムの諸物性及び折り曲げ試験を以下の手順に沿って評価した。結果を表1に示す。
<滑り性評価>
JIS K 7125に準拠して、フロントカバーフィルムの上層の上表面の滑り性を評価した。値は0.2であり、フロントカバーフィルムの上層の上表面が滑り性を有していることが確認された。
<接着性評価>
JIS Z0237に準拠して、フロントカバーフィルムの下層の下表面の接着力を評価した。その結果、前記した表面の接着力は1.0N/25mmであった。
<上層と下層の厚み評価>
光学顕微鏡を用いてフロントカバーフィルムの上層と下層の厚みを測定した。その結果、下層の厚みが上層よりも大きく、その厚み比(下層の厚み/上層の厚み)は80であった。
<HAZE値(透明性)評価>
ASTM D1003-97に準拠して、コニカミノルタ株式会社製分光測色計(製品名「CM-3600A」)を用いて、フロントカバーフィルムのHAZE値を測定した。その結果、HAZE値は3%であった。
<折り曲げ試験(機械特性)評価>
以下の手順にて、
図5に示す構成を有する試験片を作成した。
長さ70mm、幅20mm、厚さ25μmのポリイミド樹脂製の基材フィルム上に、上記フロントカバーフィルムを、長さ70mm、幅20mm、厚さ400μmになるように切り取ってラミネートした。作製した試験片の端部をガラス基板に固定し、ユアサシステム機器株式会社製、U字折り曲げ試験機(製品名「DLDM111LHA」)にて、R=2、繰り返し回数10万回で折り曲げ試験を実施した。試験後、フィルムの外観を目視で確認し、外観に変化がなかったものを「〇」、白濁、剥離が生じたものを「×」として評価した。結果を表1に示す。
【0035】
[比較例1]
長さ70mm、幅20mm、厚さ50μmの上記ポリイミド樹脂製の基材フィルム上に、透明接着層として、長さ70mm、幅20mm、厚さ25μmの上記OCA-1をラミネートした。さらに、実施例1で作成したフロントカバーフィルムを、長さ70mm、幅20mm、厚さ400μmになるように切り取り、前記透明接着層の上にラミネートし、試験片を作成した。作成した試験片について、実施例1と同様の方法でHAZE値評価、折り曲げ試験を実施し、フィルム外観を目視で確認した。結果を表1に示す。
【0036】
[比較例2]
透明接着層をOCA-1からOCA-2に変え、比較例1と同様にして試験片を作製した。作成した試験片について、実施例1と同様の方法でHAZE値評価、折り曲げ試験を実施し、フィルム外観を目視で確認した。結果を表1に示す。
比較例1、2に関しては、基材フィルムの上に透明接着層、フロントカバーフィルムの順に積層させた試験片を用いて180°ピール試験を実施し、透明接着層を有するフロントカバーフィルムの接着力評価も行った。結果を表1に示す。
【0037】
[参考例1]
PUエラストマー2を370μmの厚さの金型に流しいれ、50℃で1時間、120℃で1時間アニール処理して硬化させた。この膜の上から、PUエラストマー1(99.5質量%)に滑り材(0.5質量%)を加えた樹脂組成物(I)を、硬化後の膜厚が37μmになるようにスリットコータにて塗工し、70℃で2分間、120℃で6分間、50℃で16時間の条件で硬化させて、フロントカバーフィルムを作製した。得られたフロントカバーフィルムの厚みは400μmであった。得られたフロントカバーフィルムは、上層と下層の二層から構成されていた。得られたフロントカバーフィルムの諸物性及び折り曲げ試験を実施例1と同様の手順にて評価した。結果を表1に示す。
次に、実施例1と同様の手順にて試験片を作成して、HAZE値評価、折り曲げ試験を実施した。結果を表1に示す。
なお、表1中、「積層フィルム」の欄には、ポリイミドフィルムの上にフロントカバーフィルムを積層させたフィルムの構成及び物性値を記載した。また、フロントカバーフィルムの透明性評価は、前記の方法で測定したフロントカバーフィルムのHAZE値が10%以下のものを「〇」、HAZE値が10%超のものを「×」として記載した。
【0038】
【0039】
表1に示すように、実施例1のフロントカバーフィルムは、従来のパネル構成である比較例と同等の接着力を有し、かつフィルムの破断を引き起こさないことが示された。一方、参考例1のフロントカバーフィルムは、接着力、機械特性には優れるものの、HAZE値が大きく、透明性が低いものであった。以上の結果より、本発明の構成を満たすフロントカバーフィルムは、光学接着剤を含む接着層を介さずとも画像表示パネルへの貼り付けが可能であることが確認された。また、フレキシブルディスプレイへも好適に利用できることが確認された。
【符号の説明】
【0040】
1 上層
2 下層
3 上層の上表面
4 下層の下表面
5 上層の端部
10、20 フロントカバーフィルム
30 タッチパネル
40 OLEDパネル
50 接着層
60 バックプレート
70 衝撃吸収材
80 ガラス基板
100、300 画像表示パネル
200、400 画像表示装置
301 非アクティブエリア
302 アクティブエリア