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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/20 20060101AFI20231206BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B60C9/20 E
B60C9/00 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019229440
(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公開番号】P2021095093
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】松本 恭平
(72)【発明者】
【氏名】上村 一樹
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0159154(US,A1)
【文献】特開2004-009974(JP,A)
【文献】特開2017-101352(JP,A)
【文献】特開平07-304307(JP,A)
【文献】特開2012-076674(JP,A)
【文献】特開2002-002221(JP,A)
【文献】特開2012-041011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/20
B60C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の金属フィラメントが撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コードをエラストマーにより被覆してなるベルト層が、少なくとも2層で積層されてなるベルトを備えるタイヤであって、
前記ベルト内で隣接する2層の前記ベルト層にそれぞれ埋設された前記金属フィラメントの表面間の距離である層間ゲージGと、前記金属コード同士の間の間隔w2との比率G/w2が、1.6以下であり、
前記金属コードを構成する該金属フィラメント同士の間隔w1と前記金属コードの幅Wとの比率w1/Wが0.07以上であり、かつ、
前記金属フィラメントの線径dと、前記金属コードを構成する該金属フィラメント同士の間隔w1との比率d/w1が、1.2以上2未満であることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記層間ゲージGが、0.10mm以上1.20mm以下である請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記金属コードを構成する前記金属フィラメント同士の間隔w1が、0.01mm以上0.24mm以下である請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記金属コード同士の間の間隔w2が、0.25mm以上2.0mm以下である請求項1~3のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項5】
前記金属コードが、2本以上20本以下の金属フィラメントの束からなる請求項1~4のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項6】
前記金属フィラメントの線径dが、0.15mm以上0.40mm以下である請求項1~5のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤに関し、詳しくは、複数本の金属フィラメントが撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コードを、エラストマーで被覆してなる補強部材を備えた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、強度が必要とされるタイヤの内部には、リング状のタイヤ本体の子午線方向に沿って埋設された補強コードを含むカーカスが配置され、カーカスのタイヤ半径方向外側には、ベルト層が配置される。このベルト層は通常、スチール等の金属コードをエラストマーで被覆してなるエラストマー-金属コード複合体を用いて形成され、タイヤに耐荷重性、耐牽引性等を付与している。
【0003】
近年、自動車の燃費を向上させるために、タイヤを軽量化する要求が高まっている。タイヤの軽量化の手段として、ベルト補強用の金属コードが注目され、金属フィラメントを撚らずにベルト用コードとして使用する技術が多数公開されている。例えば、特許文献1には、単一のモノフィラメントからなるスチールコード本体の周囲に熱可塑性樹脂中にエラストマーを分散させた熱可塑性エラストマー組成物を被覆したタイヤ補強用スチールコード、および、これを使用したタイヤが開示されている。また、特許文献2には、同一の径の2~6本の主フィラメントを、撚り合わせることなく単一の層をなすように並列させて主フィラメント束とし、主フィラメントより小径で真直の1本のスチールフィラメントをラッピングフィラメントとして主フィラメント束の周囲に巻き付けてなるスチールコードを、タイヤベルト層に用いた空気入りラジアルタイヤが開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、平行配列状態の補強素子をゴム被覆した2層以上の補強層を有し、補強層の少なくとも2層は、補強素子が互いに交差するように積層して交差補強層を構成してなり、交差補強層は、補強素子が、2本以上の補強素子を1ユニットとする補強素子の束として平行配列され、同一の補強素子束を構成する補強素子同士の配列間隔が狭く、補強素子束同士の配列間隔が広く、各補強層を構成する被覆ゴムの100%モジュラス、および、隣接する補強層にそれぞれ位置する補強素子間のゴム厚みが所定条件を満足する空気入りタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-053495号公報
【文献】特開2012-106570号公報
【文献】特開2004-009974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2で提案されているように、金属のモノフィラメントをエラストマーで被覆してベルトコードを形成することで、ベルトの薄ゲージ化による軽量化を図ることができ、さらにモノフィラメントを束として用いれば、モノフィラメント束間の距離の確保による耐ベルトエッジセパレーション(BES)性の向上も図ることができる。
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献2では、ベルトを積層した際の層間における歪の問題や、低転がり抵抗化の点については十分検討されていなかった。これに対し、特許文献3に記載されているような技術もあるが、すべての要求性能を満足できるものではなかった。
【0008】
そこで本発明の目的は、軽量かつ低転がり抵抗であって、耐BES性、ベルト層間における歪および操縦安定性が従来のタイヤに劣ることのないタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、ベルト内で隣接する2層のベルト層に含まれる金属フィラメントが、所定の関係を満足するものとすることにより、上記課題を解消できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、複数本の金属フィラメントが撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コードをエラストマーにより被覆してなるベルト層が、少なくとも2層で積層されてなるベルトを備えるタイヤであって、
前記ベルト内で隣接する2層の前記ベルト層にそれぞれ埋設された前記金属フィラメントの表面間の距離である層間ゲージGと、前記金属コード同士の間の間隔w2との比率G/w2が、1.6以下であり、
前記金属コードを構成する該金属フィラメント同士の間隔w1と前記金属コードの幅Wとの比率w1/Wが0.07以上であり、かつ、
前記金属フィラメントの線径dと、前記金属コードを構成する該金属フィラメント同士の間隔w1との比率d/w1が、1.2以上2未満であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明のタイヤにおいては、前記層間ゲージGが、0.10mm以上1.20mm以下であることが好ましい。また、本発明のタイヤにおいては、前記金属コードを構成する前記金属フィラメント同士の間隔w1が、0.01mm以上0.24mm以下であることが好ましい。さらに、本発明のタイヤにおいては、前記金属コード同士の間の間隔w2が、0.25mm以上2.0mm以下であることが好ましい。
【0012】
さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記金属コードが、2本以上20本以下の金属フィラメントの束からなることが好ましい。さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記金属フィラメントの線径dが、0.15mm以上0.40mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、軽量かつ低転がり抵抗であって、耐BES性、ベルト層間における歪および操縦安定性が従来のタイヤに劣ることのないタイヤを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤの概略片側断面図である。
図2】本発明の一好適な実施の形態に係るベルト層の幅方向における部分断面図である。
図3図2に示すベルト層における金属コードの一構成例を示す概略平面図である。
図4図1に示すベルトの拡大部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のタイヤについて、図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
図1に、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤの概略片側断面図を示す。図示するタイヤ100は、接地部を形成するトレッド部101と、このトレッド部101の両側部に連続してタイヤ半径方向内方へ延びる一対のサイドウォール部102と、各サイドウォール部102の内周側に連続するビード部103とを備えた空気入りタイヤである。
【0017】
本発明のタイヤは、図示するように、一対のビード部103間にトロイド状に延在して、トレッド部101、サイドウォール部102およびビード部103を補強する少なくとも1枚、図示する例では1枚のカーカスプライからなるカーカス104を骨格とする。また、カーカス104のクラウン部タイヤ半径方向外側には、トレッド部101を補強する少なくとも2層のベルト層、図示する例では2層の第1ベルト層105aおよび第2ベルト層105bからなるベルト105が配置されている。ここで、カーカスプライは2枚以上であってもよく、ベルト層は3層以上であってもよい。
【0018】
図2は、本発明の一好適な実施の形態に係るベルト層の幅方向における部分断面図である。また、図3は、図2に示すベルト層における金属コードの一構成例を示す概略平面図である。本発明においては、図示するように、ベルト105が、複数本の金属フィラメント1が撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コード2をエラストマー3により被覆してなるベルト層により形成されており、ベルト105に含まれる金属フィラメント同士が、所定の関係を満足する点が重要である。これにより、後述するように、軽量かつ低転がり抵抗であって、耐BES性、ベルト層間における歪および操縦安定性が従来のタイヤに劣ることのないタイヤを実現することが可能となった。
【0019】
本発明に係るベルト層は、複数本の金属フィラメント1が撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コード2をエラストマー3により被覆して形成されている。このような構成とすることで、ベルト層の厚みを薄くすることができ、タイヤの軽量化を図ることができる。なお、本発明に係る金属フィラメントは、真直フィラメントでも2次元型付けフィラメントでも3次元型付けフィラメントでもよく、実質的に真直の金属フィラメントが好ましい。ここで、真直の金属フィラメントとは、意図的に型付けをしておらず、実質的に型がついていない状態の金属フィラメントを指す。
【0020】
図示するように、本発明の金属コード2は、複数本の金属フィラメント1が、撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる。このような構成とすることで、金属フィラメント束間の距離を確保することができ、耐BES性を向上することができる。
【0021】
本発明に係る金属コード2において、金属フィラメント1は、好適には2本以上、より好適には5本以上であって、好適には20本以下、より好適には12本以下、さらに好適には10本以下、特に好適には9本以下の金属フィラメント束で金属コード2を構成する。図示する例においては、5本の金属フィラメント1が、撚り合わされずに引き揃えられて、金属コード2を形成している。
【0022】
図4に、図1に示すベルトの拡大部分断面図を示す。本発明においては、べルト内で隣接する2層のベルト層に含まれる金属フィラメントが、以下の関係を満足することが重要である。すなわち、本発明においては、ベルト105内で隣接する2層のベルト層105a,105bにそれぞれ埋設された金属フィラメント1の表面間の距離である層間ゲージGと、金属コード2同士の間の間隔w2との比率G/w2が、1.6以下である。また、本発明においては、金属コード2を構成する金属フィラメント1同士の間隔w1と金属コードの幅Wとの比率w1/Wが0.07以上であって、さらに、金属フィラメント1の線径dと、金属コード2を構成する金属フィラメント1同士の間隔w1との比率d/w1が、1.2以上2未満である。
【0023】
隣接するベルト層間における金属フィラメント1間の距離である層間ゲージGと、金属コード2同士の間の間隔w2との比率G/w2、金属コード2を構成する金属フィラメント1同士の間隔w1と金属コードの幅Wとの比率w1/W、および、金属フィラメント1の線径dと、金属コード2を構成する金属フィラメント1同士の間隔w1との比率d/w1が、上記範囲を満足するものとすることで、ベルト層間における歪および操縦安定性を悪化させることなく、軽量化および低転がり抵抗化を図ることが可能となった。比率G/w2の値は、好適には0.2以上1.6以下であり、より好適には0.4以上1.4以下である。また、比率w1/Wの値は、好適には0.07以上0.18以下であり、より好適には0.07以上0.15以下である。さらに、比率d/w1の値は、好適には1.3以上2未満であり、より好適には1.4以上2未満である。
【0024】
本発明において、層間ゲージGは、0.10mm以上1.20mm以下であることが好ましく、0.35mm以上0.80mm以下であることがより好ましい。層間ゲージGを0.10mm以上1.20mm以下とすることで、層間歪の抑制と、軽量性および低転がり抵抗の効果とを、バランス良く得ることができる。層間ゲージGが小さくなるとベルト層が薄くなるため、軽量化および低転がり抵抗化の面では有利になるが、層間歪が悪化する。
【0025】
また、本発明において、金属コード2を構成する金属フィラメント1同士の間隔w1は、0.01mm以上0.24mm以下であることが好ましい。金属コード2内で隣り合う金属フィラメント1同士の間の間隔w1を、上記範囲とすることで、層間歪の改善効果をより良好に得ることができる。金属コード2を構成する金属フィラメント1同士の間隔w1は、より好適には0.03mm以上0.20mm以下、さらに好適には0.03mm以上、0.18mm以下である。
【0026】
さらに、本発明においては、ベルト層内に含まれる金属コード2同士の間の間隔w2が、好適には0.25mm以上2.0mm以下、より好適には0.3mm以上、1.8mm以下であって、さらに好適には0.35mm以上、1.5mm以下である。金属コード2同士の間の間隔w2を上記範囲とすることで、層間歪の改善効果をより良好に得ることができる。
【0027】
さらにまた、本発明において、金属フィラメント1の線径dは、0.15mm以上0.40mm以下であることが好ましい。より好ましくは0.18mm以上、さらに好ましくは0.20mm以上であって、また、好ましくは0.35mm以下である。金属フィラメント1の線径dを0.40mm以下とすることで、タイヤの軽量効果が十分に得られる。一方、金属フィラメント1の線径dを0.15mm以上とすることで、十分なベルト強度を発揮できる。
【0028】
本発明においては、隣り合う金属フィラメント1間にエラストマー3を十分に浸透させることができるものであるが、隣り合う金属フィラメント間にエラストマーによって被覆されていない非エラストマー被覆領域が連続して存在することを抑止する観点からは、以下の条件を満足することが好ましい。すなわち、金属コード2内で隣り合う金属フィラメント1の、金属コード2の幅方向側面におけるエラストマー被覆率が、単位長さ当たり10%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。さらに好ましくは50%以上被覆されており、80%以上被覆されていることが特に好ましい。もっとも好ましくは、90%以上被覆されている状態である。これにより、ベルト層における耐腐食進展性を確保するとともに、ベルトの面内剛性を向上させ、操縦安定性を改善する効果を良好に得ることができる。
【0029】
ここで、本発明において、エラストマー被覆率とは、例えば、エラストマーとしてゴムを用い、金属コードとしてスチールコードを用いた場合、スチールコードをゴム被覆し、加硫した後、得られたゴム-スチールコード複合体からスチールコードを引き抜き、スチールコードを構成するスチールフィラメント同士の間隙に浸透したゴムにより被覆されている、スチールフィラメントの金属コード幅方向側面の長さを測定し、下記算出式に基づいて算出した値の平均をいう。
エラストマー被覆率=(ゴム被覆長/試料長)×100(%)
なお、エラストマーとして、ゴム以外のエラストマーを用いた場合、および、金属コードとして、スチールコード以外の金属コードを用いた場合も、同様に算出することができる。
【0030】
本発明において、金属フィラメント1は、一般に、鋼、すなわち、鉄を主成分(金属フィラメントの全質量に対する鉄の質量が50質量%を超える)とする線状の金属をいい、鉄のみで構成されていてもよいし、鉄以外の、例えば、亜鉛、銅、アルミニウム、スズ等の金属を含んでいてもよい。
【0031】
また、本発明において、金属フィラメント1の表面状態については特に制限されないが、例えば、下記の形態をとることができる。すなわち、金属フィラメント1としては、表面のN原子が2原子%以上60原子%以下であって、かつ、表面のCu/Zn比が1以上4以下であることが挙げられる。また、金属フィラメント1としては、フィラメント表面からフィラメント半径方向内方に5nmまでのフィラメント最表層に酸化物として含まれるリンの量が、C量を除いた全体量の割合で、7.0原子%以下である場合が挙げられる。
【0032】
また、本発明において、金属フィラメント1の表面には、めっきが施されていてもよい。めっきの種類としては、特に制限されず、例えば、亜鉛(Zn)めっき、銅(Cu)めっき、スズ(Sn)めっき、ブラス(銅-亜鉛(Cu-Zn))めっき、ブロンズ(銅-スズ(Cu-Sn))めっき等の他、銅-亜鉛-スズ(Cu-Zn-Sn)めっきや銅-亜鉛-コバルト(Cu-Zn-Co)めっき等の三元系合金めっきなどが挙げられる。これらの中でも、ブラスめっきや銅-亜鉛-コバルトめっきが好ましい。ブラスめっきを有する金属フィラメントは、ゴムとの接着性が優れているからである。なお、ブラスめっきは、通常、銅と亜鉛との割合(銅:亜鉛)が、質量基準で60~70:30~40、銅-亜鉛-コバルトめっきは、通常、銅が60~75重量%、コバルトが0.5~10重量%である。また、めっき層の層厚は、一般に100nm以上300nm以下である。
【0033】
さらにまた、本発明においては、金属フィラメント1の抗張力や断面形状については、特に制限はない。例えば、金属フィラメント1としては、抗張力(filament strength)が2500MPa(250kg/mm)以上のものを用いることができ、これにより、タイヤの耐久性を維持しつつ、ベルトに使用する金属量を低減でき、騒音性を改善することができる。さらに、金属フィラメント1の幅方向の断面形状も特に制限されず、真円状や楕円状、矩形状、三角形状、多角形状等とすることができるが、真円状が好ましい。なお、本発明において、金属コード2を構成する金属フィラメント1の束を拘束する必要がある場合には、金属フィラメント束にラッピングフィラメント(スパイラルフィラメント)を巻回してもよい。本発明において金属フィラメント1は、樹脂被覆されていないものであり、金属フィラメントの表面とエラストマーとが直接接するものである。
【0034】
金属コード2を被覆するエラストマー3としては、例えば、従来、金属コードを被覆するために用いていたゴムの他、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR、高シスBRおよび低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR等のジエン系ゴムおよびその水添物、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M-EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー等のオレフィン系ゴム、Br-IIR、CI-IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br-IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M-CM)等の含ハロゲンゴム、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム等のシリコンゴム、ポリスルフィドゴム等の含イオウゴム、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム等のフッ素ゴム、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらのエラストマー3は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
また、エラストマー3には、硫黄、加硫促進剤、カーボンブラックの他に、タイヤやコンベアベルト等のゴム製品で通常使用される老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸等を適宜配合することができる。
【0036】
本発明において、ベルト層を形成するベルトトリートは、既知の方法にて作製することができる。すなわち、例えば、複数本の金属フィラメント1を撚り合わせずに引き揃えた金属フィラメント束からなる金属コード2を、エラストマー3により被覆して作製することができる。
【0037】
本発明において、ベルト層を形成するベルトトリートの厚みは、0.30mm超、1.00mm未満とすることが好ましい。ベルトトリートの厚みを上記範囲とすることで、ベルトの軽量化を十分に達成することができる。
【0038】
本発明のタイヤ100においては、上記所定の条件を満足するベルトを配置する以外の点については特に制限されるものではない。例えば、ベルト105のタイヤ径方向外側にベルト補強層を配置してもよく、その他の補強部材を用いてもよい。また、一対のビード部103には、それぞれビードコア106を配置することができ、カーカス104は、通常、ビードコア106の周りに内側から外側に巻き上げて係止される。さらに、図示はしないが、ビードコア106のタイヤ径方向外側には、断面先細り状のビードフィラーを配置することができる。さらにまた、タイヤ100に充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0039】
さらにまた、本発明において、カーカス104のカーカス層は複数枚としてもよく、タイヤ周方向に対してほぼ直交する方向、例えば、70°以上90°以下の角度で延びる有機繊維コードを好適に用いることができる。また、ベルト105におけるコード角度は、タイヤ周方向に対し30°以下とすることができる。
【0040】
本発明においては、タイヤ種には制限はなく、図示するタイヤは乗用車用タイヤであるが、トラック・バス用タイヤや大型タイヤなど、いかなるタイヤにも適用することができる。
【実施例
【0041】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0042】
(ゴム-スチールコード複合体の作製)
下記の表1中に示す条件に従うスチールコードを、上下両側から、ゴム組成物よりなる厚さ0.5mm程度のシートにより被覆して、各ゴム-スチールコード複合体を作製した。コーティング用のゴム組成物は、常法に従い配合・混練することで調製した。得られた各ゴム-スチールコード複合体を160℃、20分にて加硫して、以下の評価を行った。
【0043】
ここで、比較例3の金属コードは、撚り合わせずに一列に引き揃えられた線径0.35mmのスチールフィラメントが均等に配置されたものである。実施例1の金属コードは、撚り合わせずに一列に引き揃えられた5本の線径0.26mmのスチールフィラメントからなるスチールフィラメント束よりなるコードである。比較例4の金属コードは、撚り合わせずに一列に引き揃えられた3本の線径0.3mmのスチールフィラメントからなるスチールフィラメント束よりなるコードである。
【0044】
<ベルト重量>
得られた各ゴム-スチールコード複合体を用いてベルト層サンプルを作製し、その重量を計測して、比較例1のベルト重量を100とする指数にて示した。数値が小さいほど軽量であって好ましい。
【0045】
(タイヤによる評価)
図1に示すようなタイヤサイズ195/65R15の乗用車用タイヤを、各ゴム-スチールコード複合体を2層のベルトに適用して作製した。ベルト角度は、タイヤ周方向に対して±28°とした。
【0046】
<転がり抵抗>
各供試タイヤにつき、SAE J 1269に準拠して、転がり抵抗を、転動抵抗試験機を用いて測定した。結果は、比較例1を100とする指数で示した。数値が小さいほど結果は良好である。
【0047】
<層間歪>
各供試タイヤにつき、2層のベルト層間における歪の大きさを、有限要素法(FEM)により算出して求めた。結果は、比較例1を100とする指数で示した。数値が小さいほど結果は良好である。但し、90~110の範囲内であれば、同等レベルと評価する。
【0048】
<ベルト端耐久性>
各供試タイヤに内圧を充填してテスト用乗用車に装着し、BESドラム上を、サイドフォース(SF)一定で横力をかけて走行させた後、タイヤを解剖してベルト層端部に発生している亀裂の長さを測定した。ベルト端耐久性が不十分である場合を×、やや不十分である場合を△、優れている場合を○、非常に優れている場合を◎として評価した。
【0049】
<操縦安定性>
操縦安定性は、以下に従い求めた面内剛性の値に基づいて評価した。結果は、比較例1の面内剛性の値を100として指数化し、この指数値に基づき、90未満である場合を×、90以上100未満である場合を△、100以上110未満である場合を○、110以上である場合を◎として評価した。
【0050】
比較例1~4および実施例1の各ゴム-スチールコード複合体を用いて作製した交錯ベルト層サンプルを用いて慣用の方法により面内剛性の評価を行い、操縦安定性の指標とした。
【0051】
これらの結果を下記の表1中に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
*1)比較例1,2のコードは断面楕円形のコードであり、比較例1,2における金属フィラメントの線径は平均コード径((長径0.64mm+短径0.53mm)/2)を意味する。
*2)比較例1,2のコードは断面楕円形のコードであり、金属フィラメント間間隔(コード間間隔)はコードの打込みの向きにより変動する。
【0054】
次に、下記の表2中に示す実施例2~5および比較例5~7について、上記実施例1等と同様の条件でベルト重量、転がり抵抗、ベルト端耐久性および操縦安定性を評価した場合の評価結果を、予測値として求めた。また、下記の表2中に示す実施例2~5および比較例5~7について、上記実施例1等と同様にして、層間歪を、有限要素法(FEM)を用いて評価した。
【0055】
これらの結果を下記の表2中に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
上記表中の結果より、複数本の金属フィラメントが撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コードをエラストマーにより被覆してなるベルト層について、金属フィラメントが所定の条件を満足するものとした各実施例においては、軽量かつ低転がり抵抗であって、耐BES性、ベルト層間における歪および操縦安定性が従来のタイヤに劣ることのないタイヤが得られていることがわかる。
【符号の説明】
【0058】
1 金属フィラメント
2 金属コード
3 エラストマー
10 エラストマー-金属コード複合体
100 タイヤ
101 トレッド部
102 サイドウォール部
103 ビード部
104 カーカス
105 ベルト
105a,105b ベルト層
106 ビードコア
図1
図2
図3
図4