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特許7397665組換え細胞、組換え細胞の製造方法、並びに、イソプレン又はテルペンの生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】組換え細胞、組換え細胞の製造方法、並びに、イソプレン又はテルペンの生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/52 20060101AFI20231206BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231206BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231206BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20231206BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20231206BHJP
   C12N 15/60 20060101ALI20231206BHJP
   C12N 15/90 20060101ALI20231206BHJP
   C12P 5/02 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C12N15/52 Z ZNA
C12N1/15
C12N1/21
C12N15/53
C12N15/54
C12N15/60
C12N15/90 100Z
C12P5/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019501247
(86)(22)【出願日】2018-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2018004992
(87)【国際公開番号】W WO2018155272
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2020-10-06
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2017034566
(32)【優先日】2017-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【弁理士】
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】松島 加奈
(72)【発明者】
【氏名】古谷 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】川端 一史
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】福井 悟
【審判官】田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2006-0040494(KR,A)
【文献】国際公開第2014/065271(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/104202(WO,A1)
【文献】特表2009-538601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12P
JDreamIII
STN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレンを生産可能なClostridium属細菌又はMoorella属細菌の組換え細胞であって、
外来性のメバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を有し、
DOXPシンターゼ、DOXPレダクトイソメラーゼ、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトールシンターゼ、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトールキナーゼ、2-C-メチル-D-エリトリトール-2,4-シクロ二リン酸シンターゼ、HMB-PPシンターゼ、及びHMB-PPレダクターゼからなる群より選ばれた少なくとも1つの内在性酵素の活性が欠失していることにより、内在性の非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能が欠失しており、
第一外来遺伝子として、イソプレン合成酵素をコードする遺伝子を有し、
前記外来性のメバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を達成する第二外来遺伝子を有し、当該第二外来遺伝子は、アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、HMG-CoAシンターゼをコードする遺伝子、HMG-CoAレダクターゼをコードする遺伝子、メバロン酸キナーゼをコードする遺伝子、5-ホスホメバロン酸キナーゼをコードする遺伝子、及びジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子を含み、
前記第一外来遺伝子が発現し、イソプレンを生産可能であり、
継代培養を20回繰り返した後においても、前記外来性のメバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を維持し、乾燥菌体1gあたり、少なくとも10mgのイソプレンを生産できる、組換え細胞。
【請求項2】
一酸化炭素及び二酸化炭素からなる群より選ばれた少なくとも1つを唯一の炭素源として増殖可能である、請求項1に記載の組換え細胞。
【請求項3】
DOXPレダクトイソメラーゼの活性が欠失していることにより、前記内在性の非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能が欠失している、請求項1又は2に記載の組換え細胞。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の組換え細胞を製造する組換え細胞の製造方法であって、
非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を有するClostridium属細菌又はMoorella属細菌の宿主細胞を提供する第一工程と、
前記宿主細胞が有する非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を欠失させる第二工程と、
前記宿主細胞に、第一外来遺伝子として、イソプレン合成酵素をコードする遺伝子を導入する第三工程と、
前記宿主細胞に、第二外来遺伝子として、アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、HMG-CoAシンターゼをコードする遺伝子、HMG-CoAレダクターゼをコードする遺伝子、メバロン酸キナーゼをコードする遺伝子、5-ホスホメバロン酸キナーゼをコードする遺伝子、及びジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子を導入する第四工程と、
を包含する、組換え細胞の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載の組換え細胞又は請求項4に記載の組換え細胞の製造方法によって製造された組換え細胞に、一酸化炭素及び二酸化炭素からなる群より選ばれた少なくとも1つのC1化合物を接触させ、当該組換え細胞に前記C1化合物からイソプレンを生産させる、イソプレンの生産方法。
【請求項6】
前記組換え細胞を、一酸化炭素及び二酸化炭素からなる群より選ばれた少なくとも1つのC1化合物を炭素源として用いて培養し、その培養物からイソプレンを取得することを包含する、請求項5に記載のイソプレンの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え細胞、組換え細胞の製造方法、並びに、イソプレン又はテルペンの生産方法に関する。本発明の組換え細胞は、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を安定的に保持し、イソプレン又はテルペンの生産性が高いものである。
【背景技術】
【0002】
イソプレンは合成ポリイソプレンのモノマー原料であり、特にタイヤ業界において重要な素材である。一方、テルペンは炭素数5のイソプレンを構成単位とする炭化水素で、植物、昆虫、菌類などによって作り出される生体物質の一群である。イソプレン及びテルペンは、樹脂原料、香料原料、食品添加物、洗浄剤、電子材料、医農薬原料等の、あらゆる分野で利用されており、工業材料として欠かせないものとなっている。
【0003】
イソプレンは主に、ナフサまたはエチレン生産の石油分解の副生成物として石油化学プロセスにより生産されるため、将来的な需要に対する原料の持続可能性が危ぶまれている。また、有用なテルペンの多くは、植物もしくはその精油等の天然の原料から抽出・精製されるため、大量調達は難しい。その化学合成も試みられているものの、複雑な構造を有するテルペンの合成には、多大なコストと労力を必要とする。このように、イソプレンやテルペンの既存の生産方法には多くの課題が発生している。
【0004】
近年、様々な物質生産分野において、微生物などを利用した、バイオテクノロジーによる新たな生産プロセスへの転換技術の開発と実用化が着実に進んでいる。イソプレンやテルペンに関しても、例えば、糖を原料とした組換え大腸菌による生産技術が知られている(例えば、特許文献1、2)。しかしながら、これらは、すべて少量の連続生産や誘導発現系による一過的な生産に留まっており、恒常的に大量生産を可能にした例はない。そのため、特に当該分野では、安定大量生産を可能にする新規技術が求められている。なお、大腸菌以外の微生物(組換え体)によるイソプレンの生産技術としては、例えば、特許文献3、4に記載のものがある。
【0005】
微生物(組換え体)によるイソプレンやテルペンの生産には、その前駆体となるイソペンテニル二リン酸(IPP)とその異性体であるジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を微生物内で大量に合成する必要がある。IPPは、二つの異なる代謝経路、すなわちメバロン酸経路(MVA経路)と非メバロン酸経路(MEP経路)を介して合成することが可能である。メバロン酸経路は、真核細胞の細胞質、一部の放線菌やアーキアに存在している。非メバロン酸経路は、細菌や植物の葉緑体などに存在している。
【0006】
メバロン酸経路(MVA経路)は、アセチルCoAを出発物質としている。メバロン酸経路で作用する酵素としては、上流から順に、アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、HMG-CoAシンターゼ、HMG-CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、5-ホスホメバロン酸キナーゼ、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼが挙げられる。
【0007】
一方、非メバロン酸経路(MEP経路)は、グリセルアルデヒド3-リン酸とピルビン酸を出発物質としている。非メバロン酸経路で作用する酵素としては、上流から順に、DOXPシンターゼ、DOXPレダクトイソメラーゼ、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトールシンターゼ、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトールキナーゼ、2-C-メチル-D-エリトリトール-2,4-シクロ二リン酸シンターゼ、HMB-PPシンターゼ、HMB-PPレダクターゼが挙げられる。
【0008】
大腸菌などの細菌を利用したイソプレンやテルペンの生産では、内在性のMEP経路に加え、エネルギー的に優位な外来MVA経路を導入することにより、より効率的な前駆体の合成を行うことができると考えられる。すなわち、内在性MEP経路は多重かつ精密な制御を受けているため、その改変が非常に困難であり、内在性MEP経路を改変して前駆体であるIPPの大量合成を図ることは難しい。このため、イソプレン、テルペン等の目的産物を大量に得るためには、MVA経路を利用して前駆体合成能の向上を行うことが好ましい。
【0009】
しかしながら、宿主に外来MVA経路を導入した場合、MVA経路による前駆体合成の効率が高くなるにつれ、生合成経路内の中間代謝産物による細胞毒性が無視できないものとなる。すると、外来MVA経路を導入された宿主では、このような毒性物質の蓄積を回避するために、MVA経路内の遺伝子に突然変異が発生し、機能を失った遺伝子を積極的に許容するようになる。その結果、外来MVA経路が導入され生育したクローンでは、MVA経路の活性を失い、内在性MEP経路の活性に依存したクローンが優勢となる。このような現象がイソプレンやテルペンの安定高生産株の取得を阻む要因の1つと考えられる。したがって、微生物によるイソプレン、テルペン等の目的産物の生産量の向上のためには、MEP経路に依存せず、MVA経路によるIPP合成能が安定化したクローンを取得し、MVA経路による前駆体合成能を向上させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特表2011-505841号公報
【文献】特表2011-518564号公報
【文献】国際公開第2014/065271号
【文献】国際公開第2014/104202号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記目的を達成するためには、例えば、内在性MEP経路によるIPP合成能が欠失しており、MVA経路のみでIPPを合成して生育する微生物を利用することが望まれる。しかし、このような特性(遺伝子型)を有した、イソプレンやテルペンの生産微生物(組換え体)は知られておらず、当該微生物を用いたイソプレンやテルペンの生産方法についても知られていない。
【0012】
そこで本発明は、イソプレンやテルペンを安定的に大量生産することを可能にする組換え細胞と、当該組換え細胞を用いたイソプレンやテルペンの生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の1つの様相は、イソプレン又はテルペンを生産可能な組換え細胞であって、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を有し、DOXPシンターゼ、DOXPレダクトイソメラーゼ、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトールシンターゼ、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトールキナーゼ、2-C-メチル-D-エリトリトール-2,4-シクロ二リン酸シンターゼ、HMB-PPシンターゼ、及びHMB-PPレダクターゼからなる群より選ばれた少なくとも1つの内在性酵素の活性が欠失していることにより、内在性の非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能が欠失しており、第一外来遺伝子として、イソプレン合成酵素をコードする遺伝子、モノテルペン合成酵素をコードする遺伝子、セスキテルペン合成酵素をコードする遺伝子、ジテルペン合成酵素をコードする遺伝子、スクアレン合成酵素をコードする遺伝子、又はフィトエン合成酵素をコードする遺伝子を有し、当該第一外来遺伝子が発現し、イソプレン又は炭素数10、15、20、30若しくは40のテルペンを生産可能である組換え細胞である。
【0014】
好ましくは、前記メバロン酸経路は、外来性のメバロン酸経路である。
【0015】
好ましくは、前記外来性のメバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能は、アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、HMG-CoAシンターゼ、HMG-CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、5-ホスホメバロン酸キナーゼ、及びジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼからなる群より選ばれた少なくとも1つの酵素をコードする第二外来遺伝子により達成される。
【0016】
好ましくは、前記組換え細胞は、細菌である。
【0017】
好ましくは、前記組換え細胞は、アーキアである。
【0018】
好ましくは、前記組換え細胞は、一酸化炭素及び二酸化炭素からなる群より選ばれた少なくとも1つを唯一の炭素源として増殖可能である。
【0019】
好ましくは、前記組換え細胞は、メチルテトラヒドロ葉酸若しくはメチルテトラヒドロプテリン、一酸化炭素、及びCoAからアセチルCoAを合成する機能を有する。
【0020】
好ましくは、前記組換え細胞は、Clostridium属細菌又はMoorella属細菌である。
【0021】
好ましくは、前記組換え細胞は、Methanosarcina属、Methanococcus属、又はMethanothermococcus属に属するアーキアである。
【0022】
好ましくは、前記組換え細胞は、メタン、メタノール、メチルアミン、ギ酸、ホルムアルデヒド、及びホルムアミドからなる群より選ばれた少なくとも1つのC1化合物からイソプレン又はテルペンを生産可能である。
【0023】
好ましくは、前記組換え細胞は、ホルムアルデヒドの固定化経路として、セリン経路、リブロースモノリン酸経路、及びキシルロースモノリン酸経路からなる群より選ばれた少なくとも1つのC1炭素同化経路を有する。
【0024】
好ましくは、前記組換え細胞は、Methylacidphilum属、Methylosinus属、Methylocystis属、Methylobacterium属、Methylocella属、Methylococcus属、Methylomonas属、Methylobacter属、Methylobacillus属、Methylophilus属、Methylotenera属、Methylovorus属、Methylomicrobium属、Methylophaga属、Methylophilaceae属、又はMethyloversatilis属に属するものである。
【0025】
好ましくは、前記組換え細胞は、Methanosphaera属、Methanosarcina属、Methanolobus属、Methanococcoides属、Methanohalophilus属、Methanohalobium属に属するものである。
【0026】
本発明の他の様相は、上記の組換え細胞を製造する組換え細胞の製造方法であって、非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を有する宿主細胞を提供する第一工程と、前記宿主細胞が有する非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を欠失させる第二工程と、前記宿主細胞に、第一外来遺伝子として、イソプレン合成酵素をコードする遺伝子、モノテルペン合成酵素をコードする遺伝子、セスキテルペン合成酵素をコードする遺伝子、ジテルペン合成酵素をコードする遺伝子、スクアレン合成酵素をコードする遺伝子、又はフィトエン合成酵素をコードする遺伝子を導入する第三工程と、を包含する、組換え細胞の製造方法である。
【0027】
前記方法は、好ましくは、前記宿主細胞に、第二外来遺伝子として、メバロン酸経路で作用する酵素群であるアセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、HMG-CoAシンターゼ、HMG-CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、5-ホスホメバロン酸キナーゼ、及びジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼからなる群から選ばれた少なくとも1つの酵素をコードする遺伝子を導入し、当該メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を付与する第四工程をさらに包含する。
【0028】
本発明の他の様相は、上記の組換え細胞又は上記の組換え細胞の製造方法によって製造された組換え細胞に、一酸化炭素、二酸化炭素、ギ酸、メタン、メタノール、メチルアミン、ホルムアルデヒド、及びホルムアミドからなる群より選ばれた少なくとも1つのC1化合物を接触させ、当該組換え細胞に前記C1化合物からイソプレン又は炭素数10、15、20、30若しくは40のテルペンを生産させる、イソプレン又はテルペンの生産方法である。
【0029】
前記方法は、好ましくは、前記組換え細胞を、一酸化炭素、二酸化炭素、ギ酸、メタン、メタノール、メチルアミン、ホルムアルデヒド、及びホルムアミドからなる群より選ばれた少なくとも1つのC1化合物を炭素源として用いて培養し、その培養物からイソプレン又は炭素数10、15、20、30若しくは40のテルペンを取得することを包含する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、組換え細胞を用いたイソプレン又はテルペンの生産を安定的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】プラスミドpUC-Δdxr-ermCの構成を表す説明図である。
図2】プラスミドpSK1(LbMVA-ISPS)の構成を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明において「遺伝子」という用語は、全て「核酸」あるいは「DNA」という用語に置き換えることができる。
【0033】
本発明の組換え細胞は、イソプレン又はテルペンを生産可能な組換え細胞であって、メバロン酸経路(MVA経路)によるイソペンテニル二リン酸合成能を有し、内在性の非メバロン酸経路(MEP経路)によるイソペンテニル二リン酸合成能を欠失しているものである。また本発明の組換え細胞は、外来遺伝子(第一外来遺伝子)として、イソプレン合成酵素をコードする遺伝子、モノテルペン合成酵素をコードする遺伝子、セスキテルペン合成酵素をコードする遺伝子、ジテルペン合成酵素をコードする遺伝子、スクアレン合成酵素をコードする遺伝子、又はフィトエン合成酵素をコードする遺伝子を有している。
【0034】
<メバロン酸経路>
すでに述べたとおり、メバロン酸経路(MVA経路)は、アセチルCoAを出発物質とするイソペンテニル二リン酸(IPP)の生合成経路である。メバロン酸経路で作用する酵素としては、上流から順に、アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、HMG-CoAシンターゼ、HMG-CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、5-ホスホメバロン酸キナーゼ、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼが挙げられる。
【0035】
本発明の組換え細胞は、MVA経路によるイソペンテニル二リン酸(IPP)合成能を有している。
本発明の組換え細胞が有するMVA経路には、宿主細胞が本来的に有する内在性のものと、宿主細胞に対して外から導入された外来性のものの両方が含まれる。宿主細胞がIPP合成経路として非メバロン酸経路(MEP経路)のみを有するもの(例えば、細菌等の原核生物)である場合には、前記MVA経路は外来性のものとなる。一方、宿主細胞がIPP合成経路としてMEP経路とMVA経路の両方を有するものである場合には、前記MVA経路は内在性のものと外来性のいずれか一方又は両方であり得る。
【0036】
外来性MVA経路を宿主細胞に導入する場合には、メバロン酸経路で作用する酵素をコードする遺伝子、例えば、アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、HMG-CoAシンターゼ、HMG-CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、5-ホスホメバロン酸キナーゼ、及びジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼからなる群より選ばれた酵素をコードする遺伝子(第二外来遺伝子)を宿主に導入し、発現させればよい。導入する酵素遺伝子は、MVA経路によるIPP合成能を保持する限りにおいて、上記のいずれか1つの酵素遺伝子であってもよいし、複数の酵素遺伝子であってもよい。
【0037】
外来性MVA経路の由来、例えば上記した酵素群(アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、HMG-CoAシンターゼ、HMG-CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、5-ホスホメバロン酸キナーゼ、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ)の由来としては、真核生物由来のものが挙げられる。なお、全ての真核生物はMVA経路を有している。
【0038】
ただし、MVA経路は真核生物以外でも見出されている。MVA経路を有する当該微生物としては、放線菌では、Streptomyces sp. Strain CL190 (Takagi M. et al., J. Bacteriol. 2000, 182 (15), 4153-7)、Streptomyces griseolosporeus MF730-N6 (Hamano Y. et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 2001, 65(7), 1627-35)が挙げられる。
また細菌では、Lactobacillus helvecticus (Smeds A et al., DNA seq. 2001, 12(3), 187-190)、Lactobacillus johnsonii NCC 533、Corynebacterium amycolatum、Mycobacterium marinum、Bacillus coagulans、Enterococcus faecalis、Streptococcus agalactiae、Myxococcus xanthus等が挙げられる(Lombard J. et al., Mol. Biol. Evol. 2010, 28(1), 87-99)。
さらにアーキアでは、Aeropyrum属、Sulfolobus属、Desulfurococcus属、Thermoproteus属、Halobacterium属、Methanococcus属、Thermococcus属、Pyrococcus属、Methanopyrus属、Thermoplasma属等が挙げられる(Lombard J. et al., Mol. Biol. Evol. 2010, 28(1), 87-99)。
本発明では、これらの放線菌、細菌、又はアーキア由来のMVA経路を、外来性MVA経路として採用することができる。
【0039】
<非メバロン酸経路>
非メバロン酸経路(MEP経路)は、グリセルアルデヒド3-リン酸とピルビン酸を出発物質とするイソペンテニル二リン酸(IPP)の生合成経路である。非メバロン酸経路で作用する酵素としては、上流から順に、DOXPシンターゼ、DOXPレダクトイソメラーゼ、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトールシンターゼ、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトールキナーゼ、2-C-メチル-D-エリトリトール-2,4-シクロ二リン酸シンターゼ、HMB-PPシンターゼ、HMB-PPレダクターゼ、が挙げられる。
【0040】
本発明の組換え細胞は、内在性のMEP経路によるイソペンテニル二リン酸(IPP)合成能を欠失している。具体的には、上記したDOXPシンターゼ、DOXPレダクトイソメラーゼ、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトールシンターゼ、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトールキナーゼ、2-C-メチル-D-エリトリトール-2,4-シクロ二リン酸シンターゼ、HMB-PPシンターゼ、及びHMB-PPレダクターゼからなる群より選ばれた少なくとも1つの内在性酵素の活性が欠失しており、その結果、内在性のMEP経路によるIPP合成能を欠失している。
【0041】
これらの酵素の活性が欠失している態様としては、例えば、酵素をコードする構造遺伝子の一部又は全部が欠失している、構造遺伝子にフレームシフト等の変異が生じている、などの態様が挙げられる。その他、酵素遺伝子を制御しているプロモーターの変異や、リボゾーム結合領域の変異等により、酵素の発現が正常に行われない態様が挙げられる。変異処理としては、放射線照射や、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)や亜硝酸等の変異剤による処理が挙げられる。
活性が欠失している酵素は、DOXPシンターゼ、DOXPレダクトイソメラーゼ、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトールシンターゼ、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトールキナーゼ、2-C-メチル-D-エリトリトール-2,4-シクロ二リン酸シンターゼ、HMB-PPシンターゼ、HMB-PPレダクターゼのいずれか1つのみでもよいし、複数でもよい。
【0042】
好ましい実施形態では、少なくとも、DOXPレダクトイソメラーゼとHMB-PPシンターゼのいずれか一方又は両方が欠失している。
【0043】
<宿主細胞>
本発明の組換え細胞の基となる宿主細胞としては、MEP経路を有しているものであればよく、例えば細菌が挙げられる。その他、一部のアーキアも候補となる。また、資化できる炭素源の観点では、いわゆる合成ガス資化性微生物やメタノール資化性微生物(メチロトローフ等)であって、MEP経路を有しているものが宿主細胞の候補となる。
【0044】
<合成ガス資化性微生物>
合成ガス(Synthesis gas, Syngas)は、廃棄物、天然ガス、及び石炭から高温・高圧下で金属触媒の作用によって効率よく得られる、一酸化炭素、二酸化炭素、及び水素を主成分とする混合ガスである。
【0045】
本発明の組換え細胞の一実施形態では、一酸化炭素及び二酸化炭素からなる群より選ばれた少なくとも1つを唯一の炭素源として増殖可能である。また、メチルテトラヒドロ葉酸若しくはメチルテトラヒドロプテリン、一酸化炭素、及びCoAからアセチルCoAを合成する機能を有するものであることが好ましい。これらの性質を備えることにより、本発明の組換え細胞は、例えば、合成ガスを資化してイソプレン又はテルペンを生産することができる。このような細胞(微生物)の例としては、還元型アセチルCoA経路(Wood-Ljungdahl pathway)とメタノール経路(Methanol pathway)を有する嫌気性微生物が挙げられる。
【0046】
当該嫌気性微生物としては、Clostridium ljungdahlii、Clostridium autoethanogenum、Clostridium carboxidivorans、Clostridium ragsdalei(Kopke M. et al., Appl. Environ. Microbiol. 2011, 77(15), 5467-5475)、Moorella thermoacetica(Clostridium thermoaceticumと同じ) (Pierce EG. Et al., Environ. Microbiol. 2008, 10, 2550-2573)等のClostridium属細菌又はMoorella属細菌が代表例として挙げられる。特に、Clostridium属細菌は、宿主-ベクター系や培養方法が確立しており、本発明における宿主細胞として好適である。
【0047】
Clostridium属細菌、Moorella属細菌以外の前記嫌気性微生物としては、Carboxydocella sporoducens sp. Nov. (Slepova TV. et al., Inter. J. Sys. Evol. Microbiol. 2006, 56, 797-800)、Rhodopseudomonas gelatinosa(Uffen RL, J. Bacteriol. 1983, 155(3), 956-965)、Eubacterium limosum (Roh H. et al., J. Bacteriol. 2011, 193(1), 307-308),Butyribacterium methylotrophicum (Lynd, LH. Et al., J. Bacteriol. 1983, 153(3), 1415-1423)、Oligotropha carboxidovorans、Bradyrhizobium japonicum、等の細菌が挙げられる。
【0048】
また、還元型アセチルCoA経路は細菌が有するものであるが、アーキアもこれに類似した経路を有する。アセチルCoA合成酵素の基質であるメチル基供与体は、細菌ではメチルテトラヒドロ葉酸等であるのに対し、アーキアではメチルテトラヒドロプテリン等である(Diender M. et al., Frontiers in Microbiology 2015 , vol. 6, article 1275)。
アーキアに属する前記嫌気性微生物の例としては、Thermococcus属、Methanosarcina属、Methanococcus属、Methanomethylovorans属、Methanothrix属、Methanothermobacter属、Methanomethylophilus属、Methanosphaera属、等に属するものがある(Diender M. et al., Frontiers in Microbiology 2015 , vol. 6, article 1275;Borrel G. et al., Genome Biol. Evol. 2013, 5(10), 1769-1779)。本発明では、例えば、Methanosarcina属、Methanococcus属、又はMethanothermococcus属に属するアーキアを用いることができる。
【0049】
<メチロトローフ>
メチロトローフ(Methylotroph)とは、分子内にC-C結合を有さない炭素化合物、例えばメタン、メタノール、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン等を唯一の炭素源、エネルギー源として利用するC1化合物資化性微生物の総称名である。メサノトローフ(Methanotroph)、メタン酸化細菌、メタノール資化性細菌、メタノール資化性酵母、メタノール資化性微生物等と呼ばれる微生物は、全てメチロトローフに属するものである。
【0050】
メチロトローフは、メタノールをホルムアルデヒドに変換後、ホルムアルデヒドをC-C結合を有する有機物に変換する反応を中心代謝とする。ホルムアルデヒドを介した炭素同化代謝経路として、セリン経路、リブロースモノリン酸経路(RuMP経路)、及びキシルロースモノリン酸経路(XuMP経路)が知られている。細菌に分類されるメチロトローフ(メチロトローフ細菌)は、セリン回路又はRuMP経路を保有している。一方、酵母に分類されるメチロトローフ(メチロトローフ酵母)は、XuMP経路を保有している。
また、メチロトローフ細菌は、メタノール要求性の違いから、偏性メチロトローフ(obligate methylotroph)と、他の炭素化合物も利用できる通性メチロトローフ(facultative methylotroph)とに分類される。
【0051】
本発明の組換え細胞はメチロトローフであり得る。例えば、本発明の組換え細胞の一実施形態では、メタン、メタノール、メチルアミン、ギ酸、ホルムアルデヒド、及びホルムアミドからなる群より選ばれた少なくとも1つのC1化合物からイソプレン又はテルペンを生産可能である。また、ホルムアルデヒドの固定化経路として、セリン経路、リブロースモノリン酸経路、及びキシルロースモノリン酸経路からなる群より選ばれた少なくとも1つのC1炭素同化経路を有する。
【0052】
本発明で使用可能なメチロトローフとしては、例えば、Methylacidphilum属、Methylosinus属、Methylocystis属、Methylobacterium属、Methylocella属、Methylococcus属、Methylomonas属、Methylobacter属、Methylobacillus属、Methylophilus属、Methylotenera属、Methylovorus属、Methylomicrobium属、Methylophaga属、Methylophilaceae属、Methyloversatilis属、Mycobacterium属、Arthrobacter属、Bacillus属、Beggiatoa属、Burkholderia属、Granulibacter属、Hyphomicrobium属、Pseudomonas属、Achromobactor属、Paracoccus属、Crenothrix属、Clonothrix属、Rhodobacter属、Rhodocyclaceae属、Silicibacter属、Thiomicrospira属、Verrucomicrobia属、などに属するメチロトローフ細菌が挙げられる。
【0053】
細菌以外では、MEP経路を有している、Pichia属、Candida属、Saccharomyces属、Hansenula属、Torulopsis属、Kloeckera属、などに属するメチロトローフ酵母が挙げられる。Pichia属酵母の例としては、P. haplophila、P. pastoris、P. trehalophila、P. lindnerii、などが挙げられる。Candida属酵母の例としては、C. parapsilosis、C. methanolica、C. boidinii、C. alcomigas、などが挙げられる。Saccharomyces属酵母の例としては、Saccharomyces metha-nonfoams、などが挙げられる。Hansenula属酵母の例としては、H. wickerhamii、H. capsulata、H. glucozyma、H. henricii、H. minuta、H. nonfermentans、H. philodendra、H. polymorpha、などが挙げられる。Torulopsis属酵母の例としては、T. methanolovescens、T. glabrata、T. nemodendra、T. pinus、T. methanofloat、T. enokii、T. menthanophiles、T. methanosorbosa、T. methanodomercqii、などが挙げられる。
【0054】
好ましい実施形態では、組換え細胞がMethylacidphilum属、Methylosinus属、Methylocystis属、Methylobacterium属、Methylocella属、Methylococcus属、Methylomonas属、Methylobacter属、Methylobacillus属、Methylophilus属、Methylotenera属、Methylovorus属、Methylomicrobium属、Methylophaga属、Methylophilaceae属、又はMethyloversatilis属に属するものである。特に好ましくは、Methanosphaera属、Methanosarcina属、Methanolobus属、Methanococcoides属、Methanohalophilus属、Methanohalobium属に属するものである。
【0055】
なお、非メチロトローフである宿主細胞に、ホルムアルデヒドを介した炭素同化代謝経路(セリン経路、RuMP経路、XuMP酸経路、等)を導入することにより、メチロトローフと同様に扱うことが可能となる。RuMP経路の導入は、例えば、3-ヘキスロース6リン酸合成酵素(HPS;例えばEC4.1.2.43)遺伝子と、6-ホスホ-3-ヘキスロイソメラーゼ(PHI;例えばEC5.3.1.27)遺伝子を導入することにより、実現することができる。セリン経路の導入は、例えば、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(例えばEC2.1.2.1)遺伝子を導入することにより、実現することができる。このような、非メチロトローフをメチロトローフ化する手法の詳細は、例えば国際公開第2014/104202号(特許文献4)に記載されている。
【0056】
<第一外来遺伝子>
本発明において、外来遺伝子(第一外来遺伝子)としてイソプレン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、イソプレンを生産可能である。また、外来遺伝子としてモノテルペン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、モノテルペン(炭素数10のテルペン)を生産可能である。また、外来遺伝子としてセスキテルペン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、セスキテルペン(炭素数15のテルペン)を生産可能である。また、外来遺伝子としてジテルペン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、ジテルペン(炭素数20のテルペン)を生産可能である。また、外来遺伝子としてスクアレン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、トリテルペン(炭素数30のテルペン)を生産可能である。また、外来遺伝子としてフィトエン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、テトラテルペン(炭素数40のテルペン)を生産可能である。以下、各酵素及び遺伝子について順次説明する。
【0057】
<イソプレン合成酵素>
イソプレン合成酵素(イソプレンシンターゼ、isoprene synthase、IspS)は、イソペンテニル二リン酸(IPP)の異性体であるジメチルアリル二リン酸(dimethylallyl diphosphate(DMAPP))をイソプレンに変換する作用を有する。なお、イソペンテニル二リン酸とジメチルアリル二リン酸間の構造変換は、イソペンテニル二リン酸異性化酵素(isopentenyl diphosphate isomerase(IDI))が触媒する。イソペンテニル二リン酸異性化酵素は全ての生物に存在する。
【0058】
本発明で用いるイソプレン合成酵素(IspS)としては特に限定はなく、例えば、植物等の真核生物由来のものを用いることができる。植物由来のイソプレン合成酵素としては、ポプラ、ムクナ、クズ由来のものが一般的であるが、これらに限定されない。イソプレン合成酵素の具体例としては、Q50L36、Q6EJ97、Q9AR86、Q7XAS7、A0PFK2、A0A0M4UQH9、A0A0M5MSL0(以上UniProtKB entry)等が挙げられる。
【0059】
配列番号1にポプラ由来イソプレン合成酵素(GenBank Accession No.: AM410988.1)のアミノ酸配列を示す。
【0060】
本発明で用いるイソプレン合成酵素については、天然で見いだされ且つ単離されたイソプレン合成酵素の他、これらの改変体であってもよい。例えば、既存のイソプレン合成酵素の部分断片やアミノ酸置換変異体であって且つイソプレン合成酵素の活性を有するタンパク質であってもよい。
【0061】
例えば、本発明で用いるイソプレン合成酵素には、少なくとも、下記(a-1)~(a-3)のタンパク質が含まれる。
(a-1)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(a-2)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつイソプレン合成酵素活性を有するタンパク質、
(a-3)配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつイソプレン合成酵素活性を有するタンパク質。
なお(a-3)におけるアミノ酸配列の同一性については、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上である。
【0062】
イソプレン合成酵素遺伝子に加えて、外来遺伝子としてイソペンテニル二リン酸異性化酵素(IDI)をコードする遺伝子をさらに有する実施形態も可能である。IDI遺伝子を導入することで、IPPからDMAPPへの変換が増強され、イソプレン合成能を増強することが可能となる。ここで使用されるIDIは特に限定されないが、P61615、Q13907、Q46822、P50740、Q8TT35、P15496、Q10132、Q9KWG2(以上UniProtKB entry)、等が例として挙げられる。
【0063】
<モノテルペン合成酵素>
モノテルペンは2つのイソプレン単位から成る炭素数10のテルペンである。モノテルペンには非環式と環式のものがある。非環式モノテルペンには、ゲラニオール、ミルセン、シトラール、リナロール、ネロール等がある。環式モノテルペンには、リモネン、α-フェランドレン、β-フェランドレン、メントール、チモール、α-ピネン、β-ピネン、カレン、カルボン、シネオール、カンファー等がある。
【0064】
モノテルペン合成酵素は、ゲラニル二リン酸(GPP)又はネリル二リン酸(neryl diphosphate(NPP))をモノテルペンに変換する酵素の総称である。モノテルペンの合成経路としては、GPP合成酵素(GPP synthase(GPPS))又はNPP合成酵素(NPP synthase(NPPS))の作用によって、イソペンテニル二リン酸(IPP)からGPP又はNPPが合成される。続いて、モノテルペン合成酵素の作用により、GPP又はNPPからモノテルペンが合成される。
【0065】
好ましい実施形態では、モノテルペン合成酵素が環式モノテルペン合成酵素である。さらに好ましくは、環式モノテルペン合成酵素がフェランドレン合成酵素であり、具体的には、α-フェランドレン合成酵素又はβ-フェランドレン合成酵素である。
【0066】
α-フェランドレン合成酵素としては、基質であるGPP又はNPPからα-フェランドレンを生成させる活性のある酵素であればいずれのものも使用可能である。α-フェランドレン合成酵素の例としては、G5CV35、E5GAG2 (以上UniProtKB entry)、GN65-37361 (SolCyc GeneID)、等があるがこれらに限定されない。
【0067】
β-フェランドレン合成酵素としては、基質であるGPP又はNPPからβ-フェランドレンを生成させる活性のある酵素であればいずれのものも使用可能である。β-フェランドレン合成酵素の例としては、Q9M7D1、C1K5M3、Q1XBU4、R9QMW3、R9QMR4、R9QMW7、E9N3U9、C0PTH8、F2XFA5、F2XFA1、F2XFA4、A0A0B0P314 (以上UniProtKB entry)、等があるがこれらに限定されない。
【0068】
本発明で用いるモノテルペン合成酵素については、天然で見いだされ且つ単離されたモノテルペン合成酵素の他、これらの改変体であってもよい。例えば、既存のモノテルペン合成酵素の部分断片やアミノ酸置換変異体であって且つモノテルペン合成酵素の活性を有するタンパク質であってもよい。
【0069】
例えば、本発明で用いるフェランドレン合成酵素(モノテルペン合成酵素の一例)には、少なくとも、下記(b-1)~(b-3)のタンパク質が含まれる。
(b-1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b-2)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつα-フェランドレン合成酵素活性を有するタンパク質、
(b-3)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつα-フェランドレン合成酵素活性を有するタンパク質。
なお(b-3)におけるアミノ酸配列の同一性については、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上である。
【0070】
その他、本発明で用いるフェランドレン合成酵素(モノテルペン合成酵素の一例)には、少なくとも、下記(c-1)~(c-3)のタンパク質が含まれる。
(c-1)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(c-2)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつβ-フェランドレン合成酵素活性を有するタンパク質、
(c-3)配列番号3で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつβ-フェランドレン合成酵素活性を有するタンパク質。
なお(c-3)におけるアミノ酸配列の同一性については、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上である。
【0071】
モノテルペン合成酵素遺伝子に加えて、外来遺伝子としてイソペンテニル二リン酸異性化酵素(IDI)をコードする遺伝子をさらに有する実施形態も可能である。IDI遺伝子を導入することで、IPPからDMAPPへの変換が増強され、GPP合成能又はNPP合成能を増強することが可能となる。その結果、モノテルペン合成能を増強することが可能となる。
【0072】
好ましい実施形態では、モノテルペン合成酵素遺伝子等に加えて、外来遺伝子としてGPP合成酵素(GPPS)をコードする遺伝子又はNPP合成酵素(NPPS)遺伝子をさらに有する。これらの遺伝子を導入することにより、GPP又はNPPからのモノテルペン合成能を増強することが可能となる。GPPSの例としては、S4S927、S4S8D9、D8LHY4、H6VLF6、H6VLF3、D8RV97、Q6V4K1、Q8LKJ3、Q8LKJ2、Q8LKJ1、Q9FSW8、H6VLF7、V5REB1、Q58GE8 (以上UniProtKB entry)、等が挙げられる。NPPSの例としては、トマト由来のNDPS1 (Schilmiller AL et al., PNAS 2009, 106 (26), 10865-10870)、等が挙げられる。
【0073】
<セスキテルペン合成酵素>
セスキテルペンは3つのイソプレン単位から成る炭素数15のテルペンである。セスキテルペンには非環式、単環式、二環式、及び三環式のものがある。非環式セスキテルペンにはファルネセン、ファルネソール等がある。単環式セスキテルペンにはzingiberene、Humulene、アブシジン酸等がある。二環式セスキテルペンにはCaryophyllene、Eudesman、Eremophilan、Valeran、Cadinan、Cadinene、Guajan、Driman、Cedrol、Nootkatone等がある。三環式セスキテルペンにはIlludan、Prezizaan、Marasman、Cedran、Thujopsan、Hirsutan等がある。
【0074】
セスキテルペン合成酵素は、ファルネシル二リン酸(FPP)をセスキテルペンに変換する酵素の総称である。セスキテルペンの合成経路としては、GPP合成酵素の作用によって、IPPからGPPが合成される。続いて、FPP合成酵素の作用によって、GPPからFPPが合成される。続いて、セスキテルペン合成酵素の作用によって、FPPからセスキテルペンが合成される。
【0075】
好ましい実施形態では、セスキテルペン合成酵素が環式セスキテルペン合成酵素である。別の好ましい実施形態では、セスキテルペン合成酵素がファルネセン合成酵素である。
【0076】
ファルネセン合成酵素としては、基質であるファルネシル二リン酸(FPP)からファルネセンを生成させる活性のある酵素であればいずれのものも使用可能である。ファルネセン合成酵素の例としては、ファルネセンのα体((3E, 6E)-alpha-farnesene)を合成するには、Q84LB2, B9RXW0、B2KSJ6、Q84KL5 (以上、UniProtKB entry)等があり、ファルネセンのβ体((E)-beta-farnesene)を合成するには、Q9FXY7、O48935、Q2NM15、C7E5V9、C7E5V7、Q94JS8、C7E5W0、C7E5V8 (以上、UniProtKB entry)等があるが、これらに限定されない。
【0077】
本発明で用いるセスキテルペン合成酵素については、天然で見いだされ且つ単離されたセスキテルペン合成酵素の他、これらの改変体であってもよい。例えば、既存のセスキテルペン合成酵素の部分断片やアミノ酸置換変異体であって且つセスキテルペン合成酵素の活性を有するタンパク質であってもよい。
【0078】
例えば、本発明で用いるファルネセン合成酵素(セスキテルペン合成酵素)には、少なくとも、下記(d-1)~(d-3)のタンパク質が含まれる。
(d-1)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(d-2)配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつファルネセン合成酵素活性を有するタンパク質、
(d-3)配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつファルネセン合成酵素活性を有するタンパク質。
なお(d-3)におけるアミノ酸配列の同一性については、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上である。
【0079】
セスキテルペン合成酵素遺伝子に加えて、外来遺伝子としてIDIをコードする遺伝子をさらに有する実施形態も可能である。IDI遺伝子を導入することで、GPP合成能を増強することが可能となる。その結果、FPP合成能が強化され、セスキテルペン合成能を増強することが可能となる。
【0080】
好ましい実施形態では、セスキテルペン合成酵素遺伝子等に加えて、外来遺伝子としてGPP合成酵素(GPPS)をコードする遺伝子及び/又はFPP合成酵素(FPPS)遺伝子をさらに有する。これらの遺伝子を導入することにより、GPP及び/又はFPPの合成能が増強され、結果としてセスキテルペン合成能を増強することが可能となる。GPPSの例としては、上記で例示したものが挙げられる。FPPSの例としては、P08524、P09152、P49349、P14324、P05369、O014230 (以上UniProtKB entry)、等が挙げられる。GPPS遺伝子とFPPS遺伝子については、いずれか一方が導入されていてもよいし、両方が導入されていてもよい。
【0081】
<ジテルペン合成酵素>
ジテルペンは4つのイソプレン単位から成る炭素数20のテルペンである。ジテルペンには非環式、単環式、二環式、及び三環式のものがある。非環式ジテルペンにはα-トコフェノール、レチノール、及びフィトール等がある。環式ジテルペンにはAbietane、Abietic acid、Neoabietic acid、Levomaric acid、Sapietic acid、Atisane、Beyerane、Gibbane、Gibberellic acid、Kaurane、Steviol、Labdane、Picrasane、Pimarane、Podocarpane、Rosane、Taxane、レチナール、レチノイン酸、レチノール、等がある。
【0082】
ジテルペン合成酵素は、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)をジテルペンに変換する酵素の総称である。ジテルペンの合成経路としては、GPP合成酵素の作用によって、IPPからGPPが合成される。続いて、FPP合成酵素の作用によって、GPPからFPPが合成される。続いて、GGPP合成酵素(GGPPS)の作用によって、FPPからGGPPが合成される。続いて、ジテルペン合成酵素の作用によって、GGPPからジテルペンが合成される。
【0083】
ジテルペン合成酵素としては、GGPPからジテルペンを生成させる活性のある酵素であればいずれのものも使用可能である。ジテルペン合成酵素の例としては、Q38710、P9WJ61、G9MAN7、M4HY05、H8ZM70、M1VDX3、A2PZA5、Q675L5、Q0E088、P9WJ60、Q6Z5J6、M4HYP3 (UniProtKB entry)、等があるが、これらに限定されない。
【0084】
本発明で用いるジテルペン合成酵素については、天然で見いだされ且つ単離されたジテルペン合成酵素の他、これらの改変体であってもよい。例えば、既存のジテルペン合成酵素の部分断片やアミノ酸置換変異体であって且つジテルペン合成酵素の活性を有するタンパク質であってもよい。
【0085】
ジテルペン合成酵素遺伝子に加えて、外来遺伝子としてIDIをコードする遺伝子をさらに有する実施形態も可能である。IDI遺伝子を導入することで、GPP合成能を増強することが可能となる。その結果、FPP合成能とGPP合成能が強化され、ジテルペン合成能を増強することが可能となる。
【0086】
好ましい実施形態では、ジテルペン合成酵素遺伝子等に加えて、外来遺伝子としてGPP合成酵素(GPPS)をコードする遺伝子、FPP合成酵素(FPPS)をコードする遺伝子、及びGGPP合成酵素(GGPPS)をコードする遺伝子からなる群から選ばれた少なくとも1つの遺伝子をさらに有する。これらの遺伝子を導入することにより、GPP、FPP、又はGGPPの合成能が増強され、結果としてジテルペン合成能を増強することが可能となる。GPPS、FPPSの例としては、上記で例示したものが挙げられる。GGPPSの例としては、Q12051、Q84J75、P34802、P80042、Q94ID7、Q9SLG2、Q9C446、Q54BK1、Q9LUE1、Q92236、Q39108、O95749、Q12051、Q9P885、P24322 (UniProtKB entry)、等が挙げられる。
GPPS遺伝子、FPPS遺伝子、GGPPS遺伝子については、いずれか1つが導入されていてもよいし、2つ以上が導入されていてもよい。
【0087】
好ましい実施形態では、ジテルペン合成酵素遺伝子等に加えて、外来遺伝子としてコパリル二リン酸合成酵素(CPPS)をコードする遺伝子をさらに有する。コパリル二リン酸(Copalyl diphosphate、CPP)は炭素数20のGGPP誘導体である。CPP合成酵素遺伝子を導入することにより、ジテルペン合成酵素の基質がCPPである場合にも対応できる。CPPSの例としては、G8HZG6、O22667、A0A0N7I618、Q0Q2G7 (UniProtKB entry)、等が挙げられる。
【0088】
<スクアレン合成酵素>
トリテルペンは6つのイソプレン単位から成る炭素数30のテルペンである。一般的には、FPP(C15)の二量体化で非環式トリテルペンであるスクアレン(Squalene)(C30)が生成し(スクアレン合成酵素が触媒する)、スクアレンから2,3-Oxidosqualene(2,3-epoxy-2,3-dihydroaqualene)が生成し、2,3-Oxidosqualeneの環化を経て200種以上のトリテルペン骨格が生合成され得る。ただし、スクアレンから2,3-Oxidosqualeneの生成が酸素要求性であるので、嫌気性アーキアである本発明の組換え細胞が生産可能なトリテルペンは、スクアレンの環化によって生じるホペン(Hopene)、ホパノール(Hopanol)、及びその誘導体であるホパノイド(Hopanoid)化合物が主となる。
【0089】
上述のように、スクアレン合成酵素(squalene synthase(SS))(EC 2.5.1.21)はFPPを二量体化する作用を有する。ホパノイド化合物を合成する場合には、スクアレン合成酵素遺伝子に加えて、少なくともスクアレン/ホペン環化酵素(Squalene/Hopene cyclase)(EC 5.4.99.17)遺伝子、もしくはスクアレン/ホパノール環化酵素(Squalene/Hopanol cyclase)(EC 4.2.1.129)遺伝子を導入すればよい。一般的は、スクアレン/ホペン環化酵素は、スクアレン/ホパノール環化酵素活性も持ち合わせている。スクアレン合成酵素(SS)の例としては、P53799、P36596、P29704、P37268、P52020、Q9HGZ6、Q9Y753、Q9SDW9、P78589 (UniProtKB entry)、等が挙げられる。スクアレン/ホペン環化酵素(スクアレン/ホパノール環化酵素)の例としては、P33247、P33990、P54924、P55348 (UniProtKB entry)、等が挙げられる。
【0090】
SS遺伝子に加え、さらにIDI遺伝子を導入することで、スクアレン合成能を増強することが可能である。またさらに、ゲラニル二リン酸合成酵素(GPPS)遺伝子及び/又はファルネシル二リン酸合成酵素(FPPS)遺伝子を導入することで、スクアレンの合成能を増強することが可能である。GPPS、FPPSの例としては、上記で例示したものが挙げられる。
【0091】
本発明で用いるスクアレン合成酵素については、天然で見いだされ且つ単離されたスクアレン合成酵素の他、これらの改変体であってもよい。例えば、既存のスクアレン合成酵素の部分断片やアミノ酸置換変異体であって且つスクアレン合成酵素の活性を有するタンパク質であってもよい。
【0092】
<フィトエン合成酵素>
テトラテルペンは8つのイソプレン単位から成る炭素数40のテルペンであり、主にカロテノイドとばれる化合物群が含まれる。テトラテルペンには非環式又は環式のものが多数存在する。非環式のテトラテルペンには、フィトエン、リコペン、ネウロスポレン等がある。一環式のテトラテルペンには、γ-カロテン等がある。二環式テトラテルペンには、α-カロテン、β-カロテン、アスタキサンチン、アンテラキサンチン、カンタキサンチン、カプサンチン、β-クリプトキサンチン、ルテイン、ミキソキサントフィル、ゼアキサンチン、フコキサンチン、ロドキサンチン、ネオキサンチン、フラボキサンチン等がある。
【0093】
フィトエン合成酵素(phytoene synthase(PYS))(EC 2.5.1.32)は、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)を二量体化する作用を有する。PYSの例としては、Q7Z859、Q9P854、P37272、Q67GH9、D5KXJ0、P21683、Q9UUQ6、P08196、B2ATB0、Q2U4X9、A2QM49、P37271、P37273、P49085、P54975、P9WHP3、P54977、P22872、P17056 (UniProtKB entry)、等が挙げられる。
【0094】
PSY遺伝子に加え、さらにIDI遺伝子を導入することで、フィトエン合成能を増強することが可能である。またさらに、GPP合成酵素遺伝子、FPP合成酵素遺伝子、及びGGPP合成酵素遺伝子からなる群より選ばれた少なくとも1つの遺伝子を導入することで、フィトエン合成能を増強することが可能である。GPPS、FPPS、GGPPSの例としては、上記で例示したものが挙げられる。
【0095】
本発明で用いるフィトエン合成酵素については、天然で見いだされ且つ単離されたフィトエン合成酵素の他、これらの改変体であってもよい。例えば、既存のフィトエン合成酵素の部分断片やアミノ酸置換変異体であって且つフィトエン合成酵素の活性を有するタンパク質であってもよい。
【0096】
以上のように、本発明の組換え細胞は、外来遺伝子としてイソプレン合成酵素遺伝子、モノテルペン合成酵素遺伝子、セスキテルペン合成酵素遺伝子、ジテルペン合成酵素遺伝子、スクアレン合成酵素遺伝子、又はフィトエン合成酵素遺伝子を有し、任意的に、IDI遺伝子、GPPS遺伝子、NPPS遺伝子、GGPPS遺伝子、CPPS遺伝子、SS遺伝子、等をさらに有してもよい。
【0097】
<組換え細胞の製造方法>
本発明の組換え細胞は、例えば、非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を有する宿主細胞と、イソプレン合成酵素又はテルペン合成酵素をコードする遺伝子を用いて製造することができる。例えば、本発明の組換え細胞は、下記工程(1)~(3):
(1)非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を有する宿主細胞を提供する第一工程、
(2)前記宿主細胞が有する非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を欠失させる第二工程、
(3)前記宿主細胞に、第一外来遺伝子として、イソプレン合成酵素をコードする遺伝子、モノテルペン合成酵素をコードする遺伝子、セスキテルペン合成酵素をコードする遺伝子、ジテルペン合成酵素をコードする遺伝子、スクアレン合成酵素をコードする遺伝子、又はフィトエン合成酵素をコードする遺伝子を導入する第三工程、
を包含する方法によって製造することができる。
【0098】
前記第一工程では、非メバロン酸経路(MEP経路)によるイソペンテニル二リン酸(IPP)合成能を有する宿主細胞を提供する。例えば、細菌等の、MEP経路によってIPPを合成している細胞を宿主細胞として準備する。
【0099】
前記第二工程では、宿主細胞が有する非メバロン酸経路(MEP経路)によるイソペンテニル二リン酸(IPP)合成能を欠失させる。例えば、MEP経路で作用する酵素群である、DOXPシンターゼ、DOXPレダクトイソメラーゼ、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトールシンターゼ、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトールキナーゼ、2-C-メチル-D-エリトリトール-2,4-シクロ二リン酸シンターゼ、HMB-PPシンターゼ、及びHMB-PPレダクターゼからなる群より選ばれた少なくとも1つの酵素の活性を欠失させる。上記したように、酵素活性を欠失させる手法としては、酵素遺伝子の一部又は全部を欠失させる、酵素遺伝子に変異(フレームシフト等)を生じさせる、プロモーターやリボゾーム結合領域に変異を生じさせる、等が挙げられる。変異処理としては、放射線照射、変異剤(NTG、亜硝酸等)による処理、等が挙げられる。なお、活性を欠失させる上記酵素は、1つのみでもよいし、複数でもよい。
好ましい実施形態では、少なくとも、DOXPレダクトイソメラーゼとHMB-PPシンターゼのいずれか一方又は両方の活性を欠失させる。
【0100】
前記第三工程では、前記宿主細胞に、第一外来遺伝子として、イソプレン合成酵素をコードする遺伝子、モノテルペン合成酵素をコードする遺伝子、セスキテルペン合成酵素をコードする遺伝子、ジテルペン合成酵素をコードする遺伝子、スクアレン合成酵素をコードする遺伝子、又はフィトエン合成酵素をコードする遺伝子を導入する。これにより、内在性MEP経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を欠失した、イソプレン又はテルペンを生産する組換え細胞が得られる。なお、IPPの合成は、内在性のMVA経路、あるいは別途導入する外来性のMVA経路により行うことができる。
【0101】
なお、本方法においては第二工程と第三工程の実施順序は問わない。すなわち、内在性MEP経路の活性を欠失させてから第一外来遺伝子を導入してもよいし、第一外来遺伝子を導入してから内在性MEP経路の活性を欠失させてもよい。両工程を同時に行ってもよい。
【0102】
好ましい実施形態では、上記(1)~(3)に加えて下記工程(4):
(4)前記宿主細胞に、第二外来遺伝子として、メバロン酸経路で作用する酵素群であるアセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、HMG-CoAシンターゼ、HMG-CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、5-ホスホメバロン酸キナーゼ、及びジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼからなる群から選ばれた少なくとも1つの酵素をコードする遺伝子を導入し、当該メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を付与する第四工程、
をさらに行う。宿主細胞が内在性のメバロン酸経路(MVA経路)を有さないものである場合には、基本的に第四工程が必要である。導入する第二外来遺伝子は、MVA経路によるIPP合成能を付与できる限りにおいて、上記のいずれか1つの酵素遺伝子であってもよいし、複数の酵素遺伝子であってもよい。
【0103】
なお本方法においては第二工程、第三工程、第四工程の実施順序は問わないが、第二工程より前に第四工程を行うことが好ましい。すなわち、第二外来遺伝子を導入した後に、内在性MEP経路を欠失させることが好ましい。また、第三工程と第四工程は、同時に行うことができる。例えば、1つのベクターに第一外来遺伝子と第二外来遺伝子を組み込んでおき、当該ベクターを宿主細胞に導入することにより、第三工程と第四工程を同時に行うことができる。
【0104】
<遺伝子導入の手法>
宿主細胞に遺伝子を導入する方法としては特に限定はなく、宿主細胞の種類等によって適宜選択すればよい。例えば、宿主細胞に導入可能でかつ組み込まれた遺伝子を発現可能なベクターを用いることができる。例えば、宿主細胞が細菌等の原核生物の場合には、当該ベクターとして、宿主細胞において自立複製可能ないしは染色体中への組み込みが可能で、挿入された上記遺伝子を転写できる位置にプロモーターを含有しているものを用いることができる。例えば、当該ベクターを用いて、プロモーター、リボソーム結合配列、上記遺伝子(DNA)、および転写終結配列からなる一連の構成を宿主細胞内で構築することが好ましい。
【0105】
宿主細胞がClostridium属細菌(Moorella属細菌のような近縁種を含む)の場合について説明すると、Clostridium属細菌と大腸菌とのシャトルベクターpIMP1(Mermelstein LD et al., Bio/technology 1992, 10, 190-195)を用いることができる。本シャトルベクターは、pUC9 (ATCC 37252)とBacillus subtilisから分離されたpIM13 (Projan SJ et al., J. Bacteriol. 1987, 169 (11), 5131-5139)との融合ベクターであり、Clostridium属細菌内でも安定的に保持される。
【0106】
なお、Clostridium属細菌への遺伝子導入には、通常、エレクトロポレーション法が使用されるが、遺伝子導入直後の導入された外来プラスミドは制限酵素Cac824I等による分解を受けやすく極めて不安定である。そのため、Bacillus subtilis ファージΦ3T1由来メチルトランスフェラーゼ遺伝子が保持されたpAN1 (Mermelstein LD et al., Apply. Environ. Microbiol. 1993, 59(4), 1077-1081)を保有する大腸菌、例えばER2275株等で、pIMP1に由来するベクターを一旦増幅し、メチル化処理を行ってから、これを大腸菌から回収しエレクトロポレーションによる形質転換に使用することが好ましい。なお最近では、Cac824I遺伝子が欠損したClostridium acetobutylicumが開発されており、メチル化処理されていないベクターも安定的に可能である(Dong H. et al., PLoS ONE 2010, 5 (2), e9038)。
【0107】
Clostridium属細菌における異種遺伝子発現のプロモーターとしては、例えばthl (thiolase)プロモーター(Perret S et al., J. Bacteriol. 2004, 186(1), 253-257)、Dha (glycerol dehydratase)プロモーター(Raynaud C. et al., PNAS 2003, 100(9), 5010-5015)、ptb (phosphotransbutyrylase)プロモーター (Desai RP et al., Appl. Environ. Microbiol. 1999, 65(3), 936-945)、adc (acetoacetate decarboxylase)プロモーター(Lee J et al., Appl. Environ. Microbiol. 2012, 78 (5), 1416-1423)等がある。ただし、本発明ではこれらに限定されることなく、宿主細胞等に見出される様々な代謝系のオペロンに使用されているプロモーター領域の配列が使用可能である。
【0108】
宿主細胞がメチロトローフ細菌の場合について説明すると、メチロトローフ細菌の染色体への組み込み方法としては、リブロースモノリン酸経路を有するMethylobacillus flagellatusや、セリン経路を有するMethylobacterium extorquencsで、目的遺伝子の破壊操作によって例が示されている(Chistoserdova L. et al., Microbiology 2000, 146, 233-238; Chistoserdov AY., et al., J. Bacteriol 1994, 176, 4052-4065)。これらは環状DNAを用いたゲノムへの遺伝子導入法であるが、Methylophilus属細菌等では、直鎖状DNAを用いたゲノムへの遺伝子導入法も開発されている(特開2004-229662号公報)。一般に、宿主細胞による分解を受けにくい場合は、直鎖状DNAによるゲノム組換えの方が、環状DNAによるよりも効率的である。また通常、相同組換え法は、inverted-repeat sequence等のように、ゲノム上に多コピー存在する遺伝子を標的することが好ましい。また、ゲノムに多コピー導入する手法としては、相同組換え以外に、トランスポゾンに搭載する方法もある。メチロトローフ細菌へのプラスミドによる遺伝子導入法としては、例えば、広宿主域ベクターであるpAYC32 (Chistoserdov AY., et al., Plasmid 1986, 16, 161-167)、pRP301 (Lane M., et al., Arch. Microbiol. 1986, 144(1), 29-34)、pBBR1、pBHR1 (Antoine R. et al., Molecular Microbiology 1992, 6, 1785-1799)、pCM80 (Marx CJ. et al., Microbiology 2001, 147, 2065-2075)、等がある。
【0109】
宿主細胞がアーキアの場合について説明すると、アーキアにおける遺伝子操作では、例えば、Methanosarcina属菌に内在するプラスミドpC2Aをベースとした大腸菌とのシャトルベクターが使用可能である(Sowers K.R. et al., J. Bacteriol. 1988, 170, 4979-4982; Metcalf W.W. et al., PNAS 1997, 94, 2626-2631)。相同組換えによる遺伝子の導入、欠損の例もあり(Rother M., et al., J. Bacteriol 2005, 187, 5552-5559; Conway D.M., J. Mol. Biol. 1996, 262, 12-20)、これらの手法が利用可能である。発現系としては、テトラサイクリン耐性遺伝子発現の制御系を利用した誘導及び構成発現の手法(Guess A.M. et al., Archaea 2008, 2, 193-203)等が利用可能である。
【0110】
また、ベクターを用いて複数種の遺伝子を宿主細胞に導入する場合、各遺伝子を1つのベクターに組み込んでもよいし、別々のベクターに組み込んでもよい。さらに1つのベクターに複数の遺伝子を組み込む場合には、各核酸を共通のプロモーターの下で発現させてもよいし、別々のプロモーターの下で発現させてもよい。複数種の遺伝子を導入する例としては、上記第一外来遺伝子と第二外来遺伝子を導入する態様が挙げられる。
【0111】
上記のような外来遺伝子導入に加え、突然変異やゲノムシャッフリングをさらに施すことで、イソプレンやテルペンの生産性が格段向上した菌株を育種することも可能である。
【0112】
<イソプレン又はテルペンの生産方法>
本発明のイソプレン又はテルペンの生産方法は、上記した組換え細胞に、一酸化炭素、二酸化炭素、ギ酸、メタン、メタノール、メチルアミン、ホルムアルデヒド、及びホルムアミドからなる群より選ばれた少なくとも1つのC1化合物を接触させ、当該組換え細胞に前記C1化合物からイソプレン又は炭素数10、15、20、30若しくは40のテルペンを生産させるものである。典型的には、前記組換え細胞を一酸化炭素、二酸化炭素、ギ酸、メタン、メタノール、メチルアミン、ホルムアルデヒド、及びホルムアミドからなる群より選ばれた少なくとも1つの炭素源として用いて培養し、その培養物からイソプレン又は炭素数10、15、20、30若しくは40のテルペンを取得する。
【0113】
炭素原として用いる上記C1化合物については、1つのみを用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらのC1化合物は、主たる炭素原として用いることが好ましく、唯一の炭素原であることがより好ましい。また、エネルギー源として水素(H2)を同時に提供することが好ましい。
【0114】
本発明の組換え細胞を培養する方法としては特に限定はなく、宿主細胞の種類等に応じて適宜行うことができる。組換え細胞がClostridium属細菌(絶対嫌気性)の場合には、例えば、生育に必要な無機塩類及び、合成ガスからなる栄養条件で培養する。好ましくは0.2~0.3MPa(絶対圧)程度の加圧状態で培養する。さらには、初期増殖及び到達細胞密度を良好にするためには、ビタミン、酵母エキス、コーンスティープリカー、バクトトリプトン等の有機物を少量加えてよい。
なお、組換え細胞が好気性や通性嫌気性の場合には、例えば、液体培地を用いた通気・撹拌培養を行うことができる。
【0115】
一酸化炭素と水素とを主成分とするガス、あるいは二酸化炭素と水素とを主成分とするガスを、前記組換え細胞に提供してもよい。すなわち、これらのガスを炭素源として用いて組換え細胞を培養したり、あるいは、これらのガスを組換え細胞に接触させて、ガス中の一酸化炭素又は二酸化炭素からイソプレン又はテルペンを生産させる。この場合も、水素はエネルギー源として使用される。
【0116】
ギ酸及び/又はメタノールを組換え細胞に提供し、ギ酸及び/又はメタノールからもイソプレン又はテルペンを生産することもできる。すなわち、一酸化炭素や二酸化炭素に加えて、もしくは単独で、ギ酸やメタノールを炭素源として用いて組換え細胞を培養したり、ギ酸やメタノールを組換え細胞に接触させることにより、ギ酸やメタノールからもイソプレン又はテルペンを生産することができる。
【0117】
培養を行わずにイソプレン又はテルペンの生産を行うこともできる。すなわち、細胞分裂(細胞増殖)を伴うか否かにかかわらず、組換え細胞に前記したC1化合物を接触させて、イソプレン又はテルペンを生産させることができる。例えば、固定化した組換え細胞に前記したC1化合物を連続的に供給し、イソプレン又はテルペンを連続的に生産させることができる。本態様においても、これら炭素源であるC1化合物については、1つのみを用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。また、エネルギー源として水素(H2)を同時に接触させることが好ましい。
【0118】
生産されたイソプレン又はテルペンは、例えば、細胞外、すなわち培養液や気相画分から回収することができる。
【0119】
以下、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0120】
本実施例では、合成ガス資化性細菌の一種であるClostridium ljungdahliiの組換え細胞、及び、MEP経路欠損組換え細胞にてイソプレンの生産量の比較を行った。
【0121】
(1)各種ベクターの構築
Appl Biochem Biotechnol (2012) 168:1384_1393 を参照し、C. ljungdahliiのDOXPレダクトイソメラーゼ遺伝子dxr (CLJU_c13080)の上流配列、エリスロマイシン耐性遺伝子(Staphylococcus aureus由来ermC遺伝子、配列番号5、GenBank Accession No.: KX011076)、及びC. ljungdahliiのDOXPレダクトイソメラーゼ遺伝子dxrの下流配列、を含むpUC-Δdxr-ermC(配列番号6)を作製した。pUC-Δdxr-ermCの構成を図1に示す。図中、dxr upstreamはDOXPレダクトイソメラーゼ遺伝子の上流配列、dxr downstreamはDOXPレダクトイソメラーゼ遺伝子の下流配列、ermCはエリスロマイシン耐性遺伝子、AmpRはアンピシリン耐性遺伝子を表す。
【0122】
Clostridium/E.coliバイナリーベクターであるpJIR750ai(Sigma-Aldrich社)を改変し、乳酸桿菌由来メバロン酸経路遺伝子クラスター(Lactobacillus johnsonii NCC 533由来、配列番号7、配列番号8、GenBank Accession No.: AE017198.1)、イソプレン合成酵素遺伝子(ポプラ由来IspS遺伝子、配列番号9、GenBank Accession No.: AM410988.1)、クロラムフェニコール耐性遺伝子(pJIR750ai由来)、をコドン改変した塩基配列含むpSK1(LbMVA-ISPS)(配列番号10)を構築した。
【0123】
pSK1(LbMVA-ISPS)の構成を図2に示す。図中、MvaEはアセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、HMGCRはHMG-CoAレダクターゼ遺伝子、HMGCSはHMG-CoAシンターゼ遺伝子、MVKはメバロン酸キナーゼ遺伝子、MVDはジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ遺伝子、PMVKはホスホメバロン酸キナーゼ遺伝子、IDIはイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子を表す。また、IspS populusはポプラ由来イソプレン合成酵素の配列(Clostridium用に一部コドン改変)、GroEL SDはC. ljungdahliiのchaperonin GroEL遺伝子上流のSD配列、thl promoterはC. acetobutylicumのチオラーゼプロモーターを表す。さらに、pMB1は大腸菌のori、CatPはクロラムフェニコール耐性遺伝子、rep originはClostridiumの複製開始点、pIP404 replication enzymeはClostridiumでの複製酵素を表す。
【0124】
(2)DSM13528/ATCC55383株への遺伝子導入
Leang C. et al.,Appl Environ Microbiol. 2013 79(4), 1102-9記載の手法を用いて、DSM13528/ATCC55383株にpSK1(LbMVA-ISPS)をエレクトロポレーション法で導入した。5μg/mL チアンフェニコール入りATCC1754寒天培地(フルクトース入り、1.5%Agar)で選抜し、イソプレン生産株SK1を取得した。SK1株は、内在性MEP経路と外来性MVA経路の両方を有する。
【0125】
(3)MEP経路欠損(dxr遺伝子ノックアウト)Clostridium株の作製
Leang C. et al.,Appl Environ Microbiol. 2013 79(4), 1102-9で推奨の手法を用いて、SK1株にpUC-Δdxr-Catを導入した。4μg/mLクラリスロマイシン、及び5μg/mL チアンフェニコールをそれぞれ含むATCC1754寒天培地(1.5% Agar)で選抜し、相同組み換えによりdxrを欠失させた。これにより、内在性MEP経路が欠失しており、外来性MVA経路に依存して生育するイソプレン生産株SK2を作製した。
【0126】
(4)イソプレン定量
SK1株とSK2株を、それぞれ37℃、嫌気条件下で培養した。5μg/mLチアンフェニコール入りATCC1754培地(ただしpH=5.0、フルクトース非含有)5mLに植菌し、CO/CO2/H2=33/33/34%(体積比)の混合ガスを27mL容の密閉可能なヘッドスペースバイアル容器に仕込み、0.25MPa(絶対圧)のガス圧で充填し、アルミキャップで密封した後、振とう培養した。増殖が認められたものにつき、OD600が1.0に到達した時点で培養を終了し、気相をガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS-QP2010 Ultra、島津製作所社)にて分析した。
その結果、SK1株、SK2株ともに、平均10mgイソプレン/乾燥菌体(g)の生産量でイソプレンが検出された。
以上より、内在性MEP経路が欠失しているが外来性MVA経路が機能しているC. ljungdahliiの組換え細胞は、内在性MEP経路と外来性MVA経路の両方を有する組換え細胞と同等のイソプレン生産が可能であった。すなわち、内在性MEP経路の有無にかかわらず、外来性MVA経路によって同等のイソプレン生産が可能であった。
【実施例2】
【0127】
本実施例では、実施例1で作製したSK1株、及びSK2株を使用し、それぞれの株におけるイソプレン生産の安定性を検討した。
【0128】
(1)組換え細胞の継代培養実験
SK1株、及びSK2株のそれぞれについて、5クローンずつ、5μg/mLチアンフェニコール入りATCC1754培地(ただしpH=5.0、フルクトース非含有)5mLに植菌し、CO/CO2/H2=33/33/34%(体積比)の混合ガスを27mL容の密閉可能なヘッドスペースバイアル容器に仕込み、0.25MPa(絶対圧)のガス圧で充填し、アルミキャップで密封した後、振とう培養した。OD600が1.0に到達した時点で、それぞれを新たなATCC1754培地に再び植菌した(継代培養)。この継代培養の工程を20回繰り返したところ、すべてのクローンで、20回目の継代培養後も増殖が確認された。
【0129】
(2)プラスミド安定性とイソプレン生産性
Isolation of Plasmid DNA from Bacillus subtilis using the QIAprep Spin Miniprep Kit - (EN)を参照し、SK1株、及びSK2株の各クローンから、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社)を利用して、プラスミドpSK1(LbMVA-ISPS)をそれぞれ菌体から抽出した。抽出したDNAをE. coli JM109(タカラバイオ社)に形質転換し、得られたコロニーのうち、それぞれ10コロニーから、QIAprep Spin Miniprep Kitを使用し、再度プラスミドの抽出を行った。得られたプラスミドの塩基配列をApplied Biosystems 3130 ジェネティックアナライザ(Applied Biosystems社)を用いて解析した。
【0130】
その結果、SK1株の各クローン由来のプラスミドでは、メバロン酸経路遺伝子クラスター配列内に、少なくとも1箇所以上の突然変異が生じており、MVA経路の機能を失っていると考えられた。なお、薬剤耐性遺伝子配列への突然変異はみられなかった。一方、SK2株の各クローン由来のプラスミドでは、メバロン酸経路遺伝子クラスター配列内、及び薬剤耐性遺伝子配列のいずれにも突然変異はなく、20回継代後もMVA遺伝子クラスターが正常に保持されていた。
【0131】
さらに、SK1株、及びSK2株の20回継代培養後のバイアルボトルの気相を、ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS-QP2010 Ultra)にて分析した。その結果、SK1株では、すべてのクローンでイソプレン生産量がガスクロマトグラフ質量分析計の検出限界以下であった。一方、SK2株では、すべてのクローンで平均10mgイソプレン/乾燥菌体(g)の生産量でイソプレンが検出された。
【0132】
以上より、宿主細胞にイソプレンの前駆体(IPP)を合成する外来性メバロン酸経路を導入するとともに、宿主の内在性非メバロン酸経路遺伝子をノックアウトすることで、IPPの合成経路として外来性メバロン酸経路のみが機能している組換え細胞を作製することができた。そして、イソプレン合成酵素遺伝子を導入した当該組換え細胞は、外来性メバロン酸経路の機能を安定的に維持し、イソプレンを安定的に継続生産できることが示された。
図1
図2
【配列表】
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