IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フリーキラ製薬の特許一覧

<>
  • 特許-次亜塩素酸を含む抗微生物剤 図1
  • 特許-次亜塩素酸を含む抗微生物剤 図2
  • 特許-次亜塩素酸を含む抗微生物剤 図3
  • 特許-次亜塩素酸を含む抗微生物剤 図4
  • 特許-次亜塩素酸を含む抗微生物剤 図5
  • 特許-次亜塩素酸を含む抗微生物剤 図6
  • 特許-次亜塩素酸を含む抗微生物剤 図7
  • 特許-次亜塩素酸を含む抗微生物剤 図8
  • 特許-次亜塩素酸を含む抗微生物剤 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】次亜塩素酸を含む抗微生物剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/00 20060101AFI20231206BHJP
   A01N 59/08 20060101ALI20231206BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20231206BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20231206BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20231206BHJP
   A61K 33/20 20060101ALI20231206BHJP
   A61P 31/02 20060101ALI20231206BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20231206BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20231206BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20231206BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20231206BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
A01N59/00 Z
A01N59/08 A
A01P3/00
A01P1/00
A01N25/02
A61K33/20
A61P31/02
A61P31/04
A61P31/10
A61P31/12
A61P31/14
A61P31/20
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019557332
(86)(22)【出願日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2018044071
(87)【国際公開番号】W WO2019107510
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2017228845
(32)【優先日】2017-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018207983
(32)【優先日】2018-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509275459
【氏名又は名称】株式会社フリーキラ製薬
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池本 慶且
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/047169(WO,A1)
【文献】特開2001-311095(JP,A)
【文献】特開2015-104719(JP,A)
【文献】特開2003-034605(JP,A)
【文献】アサマ化成株式会社,アサマNewsパートナー,1999-1,日本,1999年,No. 68
【文献】:現場必携・微生物殺菌実用データ集,第1版第1刷,株式会社サイレンスフォーラム,2005年,189頁、195頁
【文献】中村 伸吾 他,細菌・ウイルス等微生物に対する次亜塩素酸水の効果とその活用,防医大誌,2017年,42巻1号,8-13頁
【文献】食品の非加熱殺菌応用ハンドブック,第1版第1刷,株式会社サイレンスフォーラム,2001年,116頁
【文献】臨床と微生物,2006年,33(3),275(059)-279(063)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸ナトリウムを精製水に溶解させる水溶液調製工程と;
9.5~10.5 W/V%の塩酸を含有する希塩酸で前記水溶液のpHを3.0~5.5に調整するpH調整工程と;
前記pH調整した前記水溶液中の残留塩素濃度を、水道水又は精製水を加えて50~260 ppmに希釈する塩素濃度希釈工程と;を備える、塩素ガスの発生を抑えた次亜塩素酸水溶液を有効成分とする、抗微生物剤の製造方法。
【請求項2】
前記次亜塩素酸ナトリウムは食品添加物用次亜塩素酸ナトリウムであり、前記精製水は日本薬局方収載の精製水であり、前記希塩酸は日本薬局方収載の希塩酸であることを特徴とする、請求項1に記載の抗微生物剤の製造方法。
【請求項3】
次亜塩素酸ナトリウム、精製水、及び9.5~10.5 W/V%の希塩酸を含有する、pH3.0~5.5、残留塩素濃度50~260 ppmかつ、塩素ガスの発生を抑えた次亜塩素酸水溶液を有効成分とする抗微生物剤。
【請求項4】
前記次亜塩素酸水溶液中の残留塩素濃度が150~260ppmであり、pHが3.0以上4.5未満であって、1分以内の嫌気性菌死滅時間を有することを特徴とする、請求項3に記載の抗微生物剤。
【請求項5】
前記嫌気性菌は、クロストリジウム・ブチリカム及びクロストリジウム・スポロゲネシスからなる群から選ばれるいずれかの嫌気性菌であることを特徴とする、請求項4に記載の抗微生物剤。
【請求項6】
前記抗微生物剤は、酵母、真菌及びウイルスからなる群から選ばれるいずれかの微生物の増殖を抑制することを特徴とする、請求項3に記載の抗微生物剤。
【請求項7】
前記酵母は、ロドトルラ属に属する酵母であることを特徴とする、請求項6に記載の抗微生物剤。
【請求項8】
前記真菌は、クラドスポリウム・クラドスオイリオイデス、ペニシリウム・ロケフォルティ、ペニシリウム・グラブラム、アスペルギルス・ニガー、エウロティウム・アモステロダミ、ネオサルトリヤ・フィシェリ、エメリセラチア・ニデュランス、フザリウム、及びアルテナリヤからなる群から選ばれるいずれかの真菌であることを特徴とする、請求項6に記載の抗微生物剤。
【請求項9】
前記ウイルスは、ノロ・ウイルスであることを特徴とする、請求項6に記載の抗微生物剤。
【請求項10】
150~260ppmの残留塩素濃度範囲と、10秒以下のウイルスの死滅時間とを有する、請求項3に記載の抗微生物剤。
【請求項11】
前記ウイルスは、イヌパルボ・ウイルス、ネコパルボ・ウイルス、及び麻疹ウイルスからなる群から選ばれるいずれかのウイルスであることを特徴とする、請求項10に記載の抗微生物剤。
【請求項12】
請求項3~5のいずれかに記載の抗微生物剤中に、前記細菌を10秒~10分間浸漬する工程を備える、微生物の死滅方法。
【請求項13】
請求項3に記載の抗微生物剤中に、前記酵母又は前記真菌を0.5~10分間浸漬する工程を備える、微生物の死滅方法。
【請求項14】
請求項3に記載の抗微生物剤中に、前記ウイルスを10秒~60秒間浸漬する工程を備える、微生物の死滅方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた殺菌効果と安全性とを有する次亜塩素酸水溶液を有効成分とする抗微生物剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内視鏡を初めとする、低侵襲で患部を切除できる小型の医療機器の普及が進んでいる。こうした小型の医療機器による治療には、開胸・開腹手術のような、高度の侵襲を伴う外科手術に比べて、患者への負担が少なく、入院期間も短いという利点がある。一方で、これらの医療機器は、一回治療に使用されると血液、細菌等の付着によって高度に汚染されるため、滅菌を十分に行わないと、感染を広げる可能性がある。
【0003】
こうした医療機器の消毒には高度抗微生物剤が必要であり、現在、改良型のホルマリンを含むグルタラール又はフタラール、過酢酸が使用されている。
【0004】
従来、次亜塩素酸は、次亜塩素酸塩の形で、手指の消毒、水道水の殺菌、食品の殺菌等のために使用されてきた。例えば、次亜塩素酸塩の1種である次亜塩素酸ナトリウム(sodium hypochlorite:NaClO)は、酸化作用、漂白作用及び殺菌作用を有することが知られており、次亜塩素酸塩を含む除菌剤等は、水溶液又は粉末状の家庭用の製品が市販されている。こうした市販品中に含まれる有効塩素濃度は、一般的に、5%、6%、10%、及び12%程度である。
【0005】
次亜塩素酸ナトリウムは次亜塩素酸のナトリウム塩であり、水溶液にすると、酸化作用、漂白作用及び殺菌作用を有する。単なる次亜塩素酸ナトリウムの水溶液(水と次亜塩素酸ナトリウム以外のものを含まない)は、アルカリ性領域では比較的安定であるが、酸性領域では、極めて急激に分解反応を起こし、塩素ガスを発生するため危険である。具体的には、pH 7以下では分解反応が生じ、pH 5以下では急激に塩素ガスが発生する。このため、製造時は、pH 12以上の強アルカリ性となっている。こうした危険を防止するために、塩素ガスの発生を防ぐ装置が開発されている(特許文献1及び特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4740892号公報
【文献】特許第5307351号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】http://www.kenei-pharm.com/medical/countermeasure/faq/b07.php
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、高度抗微生物剤として主に使用されているのは上記3種類であるが、最も効果の高い過酢酸でも滅菌には10分間を要し、また、過酢酸は、医療機器の材質を劣化させることが知られている。
【0009】
グルタラール及びフタラールは材質を劣化させにくいが、滅菌に要する時間が長く、グルタラールで6時間、フタラールでは96時間が必要である。また、グルタラールは刺激臭が強いという問題点がある。さらに、フタラールはタンパク質と強く結合するため、汚れが残留しているとリンスを行ないにくいことが知られている。
【0010】
効率よく治療を進めるためには、滅菌を短時間で終えることができるとともに、材質の劣化を起こさず、タンパク質と強く結合しない消毒薬が必要である。このため、短時間で滅菌を終えることができ、かつ、材質の劣化を起こさず、タンパク質と強く結合しない消毒薬に対する強い社会的要請があった。
【0011】
また、低pHの薬剤を注射すると痛みが強いことでも知られているように、次亜塩素酸のような強アルカリ性の薬剤を医療機器の殺菌等に使用した場合、そうした薬剤がヒトの皮膚(約pH 4.5~6.0)等に接触すると、強い痛みが出ることがある。このため、より中性領域のpHを有する殺菌剤に対する高い社会的要請があった。
【0012】
そして、消毒剤として使用する薬剤には、高い殺菌性を有することに加えて、高度な安全性が確保されていることも求められる。このため、これら2つの性質を兼ね備える消毒剤に対する強い社会的な要請があった。
【0013】
また、こうした抗微生物剤は、細菌のみならず、ウイルスに又は真菌(カビ)に対しても、効果を発揮するものであることが望まれており、殺菌、抗ウイルス及び抗真菌効果という複数の効果を有する抗微生物剤に対する強い社会的要請があった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以上のような状況の下で完成されたものであり、優れた殺菌効果と安全性とを有する、中性領域でも安定な次亜塩素酸水溶液を有効成分とする抗微生物剤(以下、「消毒剤」ということがある。)を提供することを目的とする。すなわち、本明細書中では、殺菌、抗ウイルス及び抗真菌効果という複数の効果を有する薬剤を集合的に「抗微生物剤」と称し、また、前記抗微生物剤を「消毒剤」ということがある。
【0015】
本発明のある態様は、次亜塩素酸ナトリウムを精製水に溶解させる水溶液調製工程と;約9.5~10.5 W/V%の塩酸を含有する希塩酸で前記水溶液のpHを3.0~6.7に調整するpH調整工程と;前記pH調整した前記水溶液中の残留塩素濃度を、水道水又は精製水を加えて50~260 ppmに希釈する塩素濃度希釈工程と;を備える、塩素ガスの発生を抑えた次亜塩素酸水溶液を有効成分とする、抗微生物剤の製造方法である。
前記次亜塩素酸ナトリウムは食品添加物用次亜塩素酸ナトリウムであり、前記精製水は日本薬局方収載の精製水であり、前記希塩酸は日本薬局方収載の希塩酸であることが好ましい。
【0016】
本発明の他の態様は、次亜塩素酸ナトリウム、精製水、及び9.5~10.5% W/V%の希塩酸を含有する、pH3.0~5.5、残留塩素濃度50~260 ppmかつ、塩素ガスの発生を抑えた次亜塩素酸水溶液を有効成分とする、抗微生物剤である。前記次亜塩素酸水溶液中の残留塩素濃度が150~260ppmであり、pHが3.0以上4.5未満であって、1分以内の嫌気性菌死滅時間を有することが好ましい。前記嫌気性菌は、クロストリジウム・ブチリカム又はクロストリジウム・スポロゲネシスであることがさらに好ましい。
【0017】
本発明の別の態様は、酵母、真菌及びウイルスの増殖を抑制する前記抗微生物剤である。
ここで、前記酵母を、ロドトルラ属に属する酵母であるいずれかの菌とすることができる。また、前記真菌を、クラドスポリウム・クラドスオイリオイデス、ペニシリウム・ロケフォルティ、ペニシリウム・グラブラム、アスペルギルス・ニガー、エウロティウム・アモステロダミ、ネオサルトリヤ・フィシェリ、エメリセラチア・ニデュランス、フザリウム、及びアルテナリヤからなる群から選ばれるいずれかの真菌とすることができる。また、前記ウイルスを、ノロ・ウイルスとすることができる。
【0018】
本発明の別の態様は、150~260ppmの残留塩素濃度範囲と、pH3.0~6.5のpH範囲と、10秒以下のウイルスの死滅時間とを有する、前記抗微生物剤である。
前記ウイルスは、イヌパルボ・ウイルス、ネコパルボ・ウイルス、及び麻疹ウイルスからなる群から選ばれるいずれかのウイルスであることが好ましい
【0019】
なお、上記の本発明の次亜塩素酸水溶液は、食品添加物用次亜塩素酸ナトリウムと、日本薬局方精製水と、日本薬局方希塩酸とを含むことが好ましい。
【0020】
本発明のさらに別の態様は、上述した本発明のある態様の抗微生物剤中に、前記細菌を10秒~10分間浸漬する、微生物の死滅方法である。
【0021】
本発明のさらにまた他の態様は、上述した本発明の他の態様の抗微生物剤中に、前記酵母又は前記真菌いずれかの微生物を0.5~10分間浸漬する工程を備える、微生物の死滅方法である。
【0022】
本発明のさらにまた別の態様は、上述した本発明の別の態様の抗微生物剤中に、前記ウイルスを10秒~60秒間浸漬することを特徴とする、微生物の死滅方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の次亜塩素酸水溶液によれば、医療用医薬品としても有用な、優れた殺菌効果と安全性とを有する次亜塩素酸水溶液とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液と本発明の次亜塩素酸水溶液との各pH領域における塩素の発生の相違をまとめたグラフである。
図2図2は、クロストリジウム・ブチリカムNBRC13949に対する殺菌効果を示すグラフである。
図3図3は、クロストリジウム・スプロゲネスIFO13950に対する殺菌効果を示すグラフである。
【0025】
図4図4は、ネコパルボウイルス(Feline panleukemia virus)ATCC VR-648に対する抗ウイルス効果を示すグラフである。
図5図5は、麻疹ウイルス(Measles virus)ATCC VR-24に対する抗ウイルス効果を示すグラフである。
図6図6は、表17に示すネコカリシウイルス、マウスノロウイルス、コクサッキーウイルスに対する抗ウイルス効果を示すグラフである。
【0026】
図7図7は、表17に示すインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果を示すグラフである。
図8図8は、表17に示す単純ヘルペスウイルスに対する抗ウイルス効果を示すグラフである。
図9図9は、表17に示すアデノウイルスに対する抗ウイルス効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態に係る次亜塩素酸水溶液について説明する。
【0028】
(次亜塩素酸水溶液及びその製造例)
本発明の抗微生物剤は、次亜塩素酸水溶液は、次亜塩素酸ナトリウムを精製水に溶解して水溶液とし、希塩酸でpHを調整することによって生成される水溶液である。ここで、次亜塩素酸ナトリウム及び希塩酸は、いずれも食品添加物として認可されており、精製水も日本薬局方に記載されているから、本発明の抗微生物剤は、極めて安全性が高い。
【0029】
具体的には、本発明の抗微生物剤は、次亜塩素酸ナトリウムを精製水中で、0.018~0.026 W/V%、好ましくは0.026 W/V%となるように溶解させる。得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液に、希塩酸(約9.5~10.5 W/V%)を加えてよく撹拌し、得られた溶液がpH 6.0~6.5となるように調整する。以下、ここで得られた水溶液を、「次亜塩素酸水溶液」という。
【0030】
上記次亜塩素酸水溶液中の有効塩素濃度は、死滅させようとする微生物の種類に応じて、約50 ppm~約260 ppm、好ましくは約200 ppm~約210 ppmとすることが、高い死滅効果を確保する上で好ましい。上記有効塩素濃度は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素12%)と希塩酸水溶液(濃度約10%)とをほぼ等容で混合して混合液を調製し、例えば、精製水を99.9 %、残りの0.1 %を上記混合液として混合することによって、調整することができる。
【0031】
例えば、有効塩素濃度を約200~約780 ppmに調整した次亜塩素酸水溶液を原液とした場合、次亜塩素酸水溶液と等量の水道水を加えるか、又は次亜塩素酸水溶液の3倍量の水道水を加える。このようにして原液の有効塩素濃度の1/2又は1/4になるように希釈することができ、これらを抗微生物剤として使用することができる。
【0032】
また、有効塩素濃度を約150 ppm~約260 ppmに調製するとともに、この次亜塩素酸水溶液のpHを、3.0~6.5の範囲になるように調節し、抗微生物剤として使用することもできる。
【0033】
なお、上記の製造例においては、原料となる各物質を混合して、次亜塩素酸水溶液をマニュアルで製造しているが、市販されている次亜塩素酸水溶液の製造装置を利用して、次亜塩素酸水溶液を得ることもできる(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0034】
希塩酸を添加してpHを中性領域とすることによって、本発明の次亜塩素酸水溶液は、普通の次亜塩素酸ナトリウム水溶液であれば、pH 7以下となったときに発生する塩素ガスの発生を抑えることができる(図1参照)。
【実施例1】
【0035】
(次亜塩素酸水溶液及びその製造例)
次亜塩素酸ナトリウムを、0.026 %(W/V)となるように秤量し、精製水と混合して希釈した。この希釈によって調製した次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、希塩酸(約9.5~10.5 % (W/V))を加えてpH 6.0~6.5となるように調整した。この溶液中の残留塩素濃度は、220 ppmであった。
【0036】
(次亜塩素酸水溶液の成分分析)
以下に次亜塩素酸水溶液の成分分析表を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
また、本実施例では、以下の性質を有する精製水を使用した。
【0039】
【表2】
* 導電性試験:適当量の精製水をビーカーにとって撹拌する。液温を25±1℃に調節し、強く撹拌しながら、一定時間ごとに導電率の測定を行う。5分当たりの導電率変化が0.1 μS/cm以下となったときの導電率を精製水の導電率(25℃)とした。
【実施例2】
【0040】
(ノロウイルスに対する殺ウイルス効果の測定)
(1)供試株
糞便由来のノロウイルス(NV遺伝子2群に属するNorovirus)を使用した。このウイルスについては、厚生労働省の推奨するノロウイルスの検出法(PCR法)に従って、定性的に確認した。
【0041】
(2)被検試料の準備
次亜塩素酸水溶液の残留塩素濃度が、200 ppmとなるように調整し、被検試料とした。上記被検試料を用いて以下の試料を調整し、抗ウイルス効果の測定に使用した。
(a) 陰性対照(500μLのノロウイルス懸濁液)
(b) 陽性対照(5倍希釈:ノロウイルス懸濁液100μL+精製水400μL)
(c) 試料(100μLのノロウイルス懸濁液+400μLの被検試料)
【0042】
(3)測定方法
ノロウイルスの増殖は、PCR法にて確認した。まず、上記3つの測定用試料をボルテックスミキサーにて撹拌し、15分間室温にて静置し、RT-PCR法に従って核酸(RNA)を抽出し、DNaseで不純物を処理してRNAを得た。得られたRNAを、PCRキット(Revertra-Plus、東洋紡(株)製)を用い、室温で増幅させて最終産物を得た。
得られた最終産物20μgを、2.5%アガロースゲル電気泳動(100 V、50分)に供し、ノロウイルスのDNAが増幅されたか否かを確認した。結果を下記表3に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
上記表3に示すように、対照区ではいずれもノロウイルスの増殖が見られたが、試験区では、いずれもノロウイルスの増殖は見られなかった。以上より、本発明の次亜塩素酸水溶液は、ノロウイルスに対して殺ウイルス活性を有することが示された。
【実施例3】
【0045】
(細菌に対する殺菌効果の測定)
(1)供試試料
実施例1で調製した次亜塩素酸水溶液を使用した。原液の残留塩素濃度は200 ppmであった。この原液を、2倍の段階希釈を行なって、100 ppm、50 ppm、25 ppm、12.5 ppm、及び6.3 ppmに希釈して使用した。
【0046】
(2)試験法
1)供試菌
下記表4に示す7種類の細菌を使用した。残留塩素濃度が200 ppmの原液を、滅菌蒸留水を用いて2倍系列希釈して、100 ppm、50 ppm、25 ppm、12.5 ppm、6.3 ppm の各希釈液を調製し、20 mL容試験管に5 mLずつ分注して使用した。試料中の残留塩素濃度測定は、ハンデイ水質計AQ-101(柴田科学(株)製)で測定した。
【0047】
【表4】
【0048】
2)試験前培養
供試菌を、トリプチックソイブロス(Tryptic Soy Broth、以下、「TSB」と略すことがある。)を培地として用いて、35℃にて、20~24時間静置培養し(前培養)、試験に供した。培養した供試菌の菌数は、1×107~1×108であった。
【0049】
3)試験方法
各濃度の試料に、上記表4に示す各菌を含む溶液(以下、「菌液」ということがある。)を0.1 mLずつ接種して混合し、試料とした。接種後、所定時間(0.5分、1分、2分、5分、及び10分)を経過したときに、各試料から0.1 mLずつを抜き取り、2 mLのTSBにそれぞれ接種して希釈し、希釈液を調製した。さらに、上記の各菌を接種したTSBから0.1 mLを取り出し、SA培地を含む平板寒天培地に塗抹した。各菌を塗抹した寒天培地を、35℃にて24時間培養し、平板上に出現したコロニーを計測した。
【0050】
4)判定
試料の濃度別に、出現コロニー数を処理時間毎に生残菌数を計測し、殺菌効果を判定した。
(3)試験結果
各処理時間における最小殺菌濃度を上記表4に示す。表4に示す各細菌が、上述した残留塩素濃度のうちどの濃度で死滅したかを、下記表5~6に示す。表中、+は菌の生育が見られたもの(コロニーが形成されたもの)、-は菌が死滅したもの(コロニー形成が見られなかったもの)を示す。
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
表4に示す7種の細菌を用いた最小殺菌濃度試験の結果から、残留塩素濃度が12.5 ppm以上であれば、枯草菌(Bacillus subtilis)を除き、他の6種の細菌は2分間処理でコロニー形成が見られなくなり、死滅したと判定された。
特に、次亜塩素酸水溶液は、緑膿菌に対する効果が強く、残留塩素濃度が12.5 ppm以上であれば、0.1分以内の処理でコロニー形成が見られなくなり、菌が死滅したと判定された。また、残留塩素濃度が6.3 ppmの場合でも、10分間の処理でコロニー形成が見られなくなり、菌が死滅したものと判定された。
【0054】
枯草菌(Bacillus subtilis)は、供試菌7種のうち、唯一芽胞を形成する。枯草菌が残留塩素濃度100 ppmという高濃度でなければ死滅しなかったのは、芽胞形成が原因と考えられた。芽胞は、一般的に、熱、消毒薬剤、紫外線又は乾燥に強いと言われているが、次亜塩素酸水溶液に対しても、抵抗性があることが示された。
【実施例4】
【0055】
(細菌、酵母及び真菌に対する効果の測定)
(1)供試試料
残留塩素濃度が200~210 ppmの原液を、滅菌蒸留水で2倍及び4倍に希釈し、残留塩素濃度が100~103 ppmの希釈液(以下、「X2希釈液」という。)及び残留塩素濃度が50~52 ppmの希釈液(以下、「X4希釈液」という。)を調製し、15 mL容量の試験管に、それぞれ10 mLずつ分注して試験に供した。試料中の残留塩素濃度測定は、ハンデイ水質計AQ-101(柴田科学(株)製)で測定した。また、測定時間を、30秒、60秒、5分、及び10分とし、X4倍希釈液のみ、測定時間を30分まで延長した。
【0056】
(2)試験法
(2-1)供試菌
下記表7に示す4種類の細菌、2種類の酵母、及び8種類の真菌(糸状菌)を使用し、後述する平板寒天又は液体培地を用いた試験を行なった。以下、上記細菌、酵母、及び真菌(糸状菌)を集合的に「供試菌」ということがある。
【0057】
(2-2)試験前培養
下記表7に示す供試菌を以下の条件で前培養して試験に供した。細菌の前培養は、SA培地を用いて、37℃にて24時間行った。酵母の前培養は、ポテトデキストロース(PDA)培地を用いて、25℃にて48時間行った。真菌(糸状菌)の前培養は、PDA培地を用いて、25℃にて7~10日間行った。
【0058】
(2-3)菌液の調製
上記のように前培養した供試菌のうち、細菌又は酵母は滅菌生理食塩水を用いて、1×105~1×106CFU/mLになるように調製した。また、糸状菌(真菌)は、0.05 %のTween 80を含む生理食塩水を用いて1×105~1×106CFU/mLになるように調製した。
【0059】
(2-4)試験方法
次亜塩素酸水溶液の下記表7に示す供試菌に対する効果を平板寒天又培地は液体培地を用いた方法で検討した。
(2-4-1)平板寒天培地を使用した試験
上記のように調製した菌液を、15 mL容量の試験管に入れた各試料(10 mL)に対して0.1 mLずつ接種し、室温にて静置して接触させた。所定時間(30秒、60秒、5分、10分、X4倍希釈のみ30分)が経過したときに、供試試料から0.1 mLずつ、無菌的に抜き取り、滅菌生理食塩水で希釈段階系列を作成して、増殖確認用試料とした。この増殖確認用試料を、細菌の場合には、SA培地に、酵母及び真菌の場合にはPDA培地に、それぞれ塗抹した。各試料を塗抹した平板寒天培地を、細菌の場合には35℃にて2日間、酵母の場合には25℃にて2日間、そして、真菌の場合には25℃にて7日間培養した。
【0060】
(2-4-2)液体培地を用いた試験
平板寒天を用いた場合と同様に調製した上記の供試菌液を、上述した10 mLの供試試料に0.1 mLずつ接種し、室温にて静置した。その後、所定時間(30秒、60秒)を経過したときに、各供試試料から0.1 mLずつ抜き取った。試験用の細菌は、10 mLの液体培地(ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト培地、以下、「SCD液体培地」ということがある。)に、酵母及び真菌はブドウ糖・ペプトン培地(以下、「GP培地」ということがある。)に、下記表7~12に示す初発菌数で接種し、被験試料とした。
【0061】
被験試料から、ただちに1 mLずつ、無菌的に抜き取ってさらに希釈し、上記の各培地に接種した。細菌を接種したACD培地は、35℃にて2日間、酵母を接種したGP培地は25℃にて2日間、真菌を接種したGP培地は25℃にて7日間培養した。
【0062】
(2-5)判定
平板寒天を用いた試験では、各試料の濃度別に、出現コロニー数を処理時間毎に計数して生残菌数を求め、殺菌効果を判定した。液体培地を用いた試験では、コロニー形成に加えて、目視でも菌の発育を観察して判定した。
【0063】
(3)試験結果
平板寒天を用いた試験の場合の各処理時間における細菌数を表7~9に示す。また、液体培地を用いた場合の各処理時間における細菌数を表10~12に示す。表中、+は菌の生育が見られたもの(コロニーが形成されたもの)、-は菌が死滅したもの(コロニー形成が見られなかったもの)を示す。
【0064】
また、表7~12中、Escherichia coli又はE. coliと記載されている株はEscherichia coli KEC-B-001を、Staphylococcus aureus又はS. aureusと記載されている菌株はStaphylococcus aureus KEC-B-002を、Serratia sp.と記載されている菌株はSerratia sp.THMC 56を、Bacillus subtilus又はB. subtilusと記載されている菌株はBacillus subtilus KEC-B-007を、それぞれ表す。
【0065】
Candida albicans又はC. albicansと記載されている株はCandida albicans HRC 032を、 Rhodotorula sp. と記載されている株はRhodotorula sp. HRC 042を、それぞれ表す。
Cladosporium cladosporioides又はC. cladosporioidesと記載されている株は、Cladosporium cladosporioides HRC 219を、Altrnaria alternate又はA. alternateと記載されている株はAltrnaria alternate HRC 237を、Penicillium glabrum又はP. glabrumと記載されている株はPenicillium glabrum HRC 659を、Aspergillus niger又はA. nigerと記載されている株はAspergillus niger HRC 258を、Chaetomium sp.と記載されている株はChaetomium sp. HRC 280を、Fusarium sp.と記載されている株はFusarium sp. HRC 289を、Emericella nidulans又はE. nidulansと記載されている株はEmericella nidulans HRC 210を、Neosartorya sp.と記載されている株はNeosartorya sp. HRC 259をそれぞれ表す。
【0066】
【表7】
*:死滅時間
単位:CFU/mL
【0067】
【表8】
*:死滅時間
単位:CFU/mL
【0068】
【表9】
*:死滅時間
単位:CFU/mL
【0069】
いずれの濃度においても、細菌4種及び酵母2種の死滅時間は、0.5分以下であった。また、真菌の自滅時間は、Chaetomiumを除いて0.5分以下であった。
以下に、液体培地を用いた場合の各微生物に対する殺菌等の効果を示す。液体培地を用いた場合でも、各処理時間において、各試料から0.1 mLを抜き取り、上記と同じ寒天培地に塗抹してコロニー形成数から生菌数を求めた。
【0070】
【表10】
単位:CFU/mL
【0071】
【表11】
単位:CFU/mL
【0072】
【表12】
単位:CFU/mL
【0073】
液体培地を用いた試験では、真菌の死滅時間に残留塩素濃度によって若干の相違がみられた。それ以外は、いずれの希釈倍率の次亜塩素酸水溶液を用いた場合でも、速やかに微生物は死滅し、短時間で微生物を死滅させる効果を有することが示された。
【0074】
本発明の次亜塩素酸水溶液は、上述した通り、弱酸性の次亜塩素酸水溶液中に精製水のみを添加しており、医薬品として承認を受けているため、極めて安全性が高い。また、医薬製剤に比べて低コストであり、様々な地域で衛生状態を改善するために使用することができる。
【実施例5】
【0075】
(医療用内視鏡汚染消化器系微生物等に対する殺菌効果試験)
(1)試験方法
1)供試菌
次亜塩素酸水溶液の殺菌効果の確認を以下の供試菌を用いて行った。
Escherichia coli(大腸菌)
Salmonella Enteritidis(サルモネラ)
Candida sp.(カンジダ)
Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)
【0076】
2)試料の準備
次亜塩素酸水溶液を、それぞれ有効塩素濃度が、200、20、5、2、1、0.5 ppmとなるように希釈し、試験の試料とした。これらの試料を、それぞれ20 mL容試験管に5 mLずつ分注した。また、次亜塩素酸水溶液を含まない滅菌純水を対照とした。
【0077】
3)試験前培養
大腸菌及びサルモネラについては、供試菌をTSB(Tryptic Soy Broth)で35℃、20~24時間静置培養し、試験に供した。供試した菌液濃度は、培養液を滅菌純水で希釈して調製した。菌数は、大腸菌が1.2×10/mL、サルモネラが1.7×10/mLであった。
【0078】
カンジダについては、供試菌をPDA(Potato Dextrose Agar)培地にて25℃で44~48時間培養した。培養した菌体を滅菌純水に懸濁して、菌液を調製した。菌数は、2.7×10/mLであった。
緑膿菌については、TSBで25℃、44~48時間静置培養し、培養液を滅菌純水で希釈して調製した。菌数は2.3×10/mLであった。
【0079】
4)試験方法
各濃度の試料に菌液を0.2 mL接種し、混合した。0.5分、5分、及び10分経過後のそれぞれにおいて、各試料から0.2 mLを取り出し、1.8 mLの1 mg/mLチオ硫酸ナトリウム含有滅菌純水に懸濁した。この懸濁液と、さらに1 mg/mLのチオ硫酸ナトリウム含有滅菌純水を用いて10倍希釈した液とを、細菌の場合はSA寒天培地に、酵母の場合はPDA寒天培地に、それぞれ0.1 mLずつ塗抹した。対照として、チオ硫酸ナトリウム含有滅菌純水の替わりに滅菌純水を用いた。培地を培養した後、平板上に出現したコロニーを計測し、生菌数を求めた。
【0080】
5)判定
試料の濃度別に、各処理時間で出現したコロニー数を計測し、生菌数を求めて殺菌効果を判定した。
【0081】
(2)試験結果
以下の表13~表16に示すように、本試験に使用したすべての微生物は、次亜塩素酸水溶液の有効塩素濃度5 ppmにおいて、0.5分間作用させることにより死滅した。
【0082】
【表13】
【0083】
【表14】
【0084】
【表15】
【0085】
【表16】
【実施例6】
【0086】
(抗ウイルス効果の確認)
【0087】
供試サンプルとして、2018年6月27日作製し、6月28日に受領した次亜塩素酸水溶液(商品名:ドクターウォーター(登録商標))を使用した。有効塩素量は、50ppmに調整した。
ウイルス株として、ネコカリシウイルス(FCV/F9)、マウスノロウイルス(MNV CW1)、コクサッキーウイルスA7(CA7)及びB5(CB5)、インフルエンザウイルス(A/PR8及びA/USSR/92/97)、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-HF)及び2型(HSV-UW)、アデノウイルス3型(Ad.3)及び5型(Ad.5)並びに8型(Ad.8)を使用した。
【0088】
感受性細胞として、ネコカリシウイルス用にはCRFK細胞、マウスノロウイルス用にはRAW264.7細胞、コクサッキーウイルス及び単純ヘルペスウイルス用にはVero細胞、インフルエンザウイルス用にはMDCK細胞、アデノウイルス用にはA549細胞を、それぞれ使用した。
抗ウイルス効果試験方法は下記の通りとした。まず、サンプル溶液900μLに、各保存ウイルス液100μLを添加して混合した。
【0089】
混合後、10秒、1分、5分、10分経過(各処理時間経過)後に、0.1Nチオ硫酸ナトリウム入りの培地を用いて、それぞれ10倍希釈系列を作成した。各希釈系列から10μLを抜き取り、感受性細胞に接触させ、その後、維持用の培地100μLを添加して、37℃にて5%CO2インキュベータ中にて、3日~10日培養した。
【0090】
上記の各ウイルスが各感受性細胞に感染することで生じる形態変化及び細胞変性効果(cytopathic effect)を光学顕微鏡下で肉眼にて観察し、どのくらい高い希釈度まで、細胞変性効果が見られるかを観察し、TCID50(50% tissue culture infectious dose)を求めた。結果を下記表17に示す。
【0091】
【表17】
【0092】
表17に示すように、いずれのウイルスに対しても、本発明の次亜塩素酸水溶液は、高い抗ウイルス効果を示した。
【実施例7】
【0093】
(次亜塩素酸水溶液のpHを変化させたときの効果の測定)
(1)供試試料
残留塩素濃度が150~260 ppmの原液を、希塩酸でpH 3.0~6.5となるように調整し、供試試料とした。試料中の残留塩素濃度測定は、ハンデイ水質計AQ-101(柴田科学(株)製)で測定した。また、測定時間を、10秒、1分、5分、及び10分とした。
【0094】
(2)試験法
(2-1)供試菌
下記表18及び19に示す2種類の細菌を使用し、後述する平板寒天又は液体培地を用いた試験を行なった。
【0095】
(2-2)試験前培養
下記表18及び19に示す供試菌を以下の条件で前培養して試験に供した。上記細菌の前培養は、コーンスターチ2.0%、アミノ酸液2.0%及び炭酸カルシウム0.75%を含む、10mLのCS液体培地に、クロストリジウム・ブチリカム・NBRC13949(Clostridium butyricum NBRC13949)、又はクロストリジウム・スポロゲネシス(Clostridium sporogenes IFO13950) 株を接種し、37℃で24時間、炭酸ガス置換スチールウール法により嫌気培養し、前培養液を調製した。
【0096】
(2-3)菌液の調製
上記のように前培養した供試菌を、滅菌生理食塩水を用いて、1×107~1×106CFU/mLになるように調製した。
【0097】
(2-4)試験方法
次亜塩素酸水溶液の下記表17及び18に示す供試菌に対する効果を、ブレインハートインフュージョン平板寒天又培地を用いた方法で検討した。
上記のように調製した供試試料溶液900μLに供試菌100μLを加えてj混合し、10秒後、1分後、5分後、10分後に、0.1 N チオ硫酸ナトリウムを添加したBHI培地を用いて、各時点の10倍希釈系列を作成し、10μLをBHI寒天培地に塗布して、37℃で24時間、炭酸ガス置換スチールウール法により嫌気培養し、菌数を測定した。
【0098】
(2-5)判定方法及び結果
各試料の濃度別に、出現コロニー数を処理時間毎に計数して生残菌数を求め、殺菌効果を判定した。結果を表18及び19に示す。
【0099】
【表18】
【0100】
【表19】
【0101】
いずれの濃度及びpHにおいても、上記2種類のクロストリジウムの死滅時間は、10秒以下であり、いずれの塩素濃度及びpHの次亜塩素酸水溶液を用いた場合でも、極めて短時間でクロストリジウムを死滅させる効果を有することが示された。
【実施例8】
【0102】
(細菌に対する殺菌効果の測定)
(1)供試試料
上記実施例7(1)で調製した次亜塩素酸水溶液を被検資料として使用して以下の試料を調製し、下記の細菌に対する殺菌効果の判定に使用した。
【0103】
(2)試験法
1)供試菌
下記表20及び21に示すクロストリジウム(クロストリジウム・ブチリカム (Clostridium butyricum NBRC13949)及びクロストリジウム・スポロゲネス(Clostridium sporogenes IFO 13950))を使用した。
【0104】
2)試験前培養
供試菌を、CDC嫌気性菌用羊血液寒天培地(日本BD(株)、以下「血液寒天培地」と略すことがある。)を培地として用いて、嫌気チャンバー内にて37℃にて、24~48時間静置培養し(前培養)、試験に供した。供試菌数は、1×107~1×108CFU/mLに調整した。
【0105】
3)試験方法
各濃度の試料0.9 mLに、上記の各細菌を含む溶液(以下、「菌液」ということがある。)を0.1 mLずつ接種して混合し、試料溶液とした。上記細菌の接種後、所定時間(10秒、1分、5分、及び10分)を経過したときに、各試料から20μLを抜き取り、細菌の維持培地180μLに接種して10倍希釈系列を作成した。
各細菌の10倍希釈系列より、それぞれ10μLを抜き取って血液寒天培地にコンラージ棒にて塗抹した。各試料を塗抹した血液寒天培地を、37℃にて24時間嫌気チャンバー内にて培養し、平板上に出現したコロニーを計数した。
【0106】
(3)試験結果
各処理時間における殺菌効果試験の結果を、細菌ごとに分けて表20及び表21に示す。
【0107】
【表20】
【0108】
【表21】
【0109】
表20及び21に示す各クロストリジウムを用いた殺菌効果試験の結果から、残留塩素濃度が150 ppm以上であれば、10秒以内の処理でコロニー形成が見られなくなり、死滅したものと判定された。以上から、本発明の次亜塩素酸水溶液は、低pH領域で、嫌気性菌であるクロストリジウムに対して高い殺菌効果を有することが示された。
【実施例9】
【0110】
(ウイルスに対する殺ウイルス効果の測定)
(1)供試株
パルボウイルス科に属するパルボウイルスであるFeline panleukopenia virus (ATCC(登録商標) VR-648)、Canine parvovirus (ATCC VR-2017)と、パラミクソウイルス科に属する麻疹ウイルスMeasles virus(ATCC VR-24)を使用した。
Feline panleukopenia virusの増殖には、感受性細胞としてCRFK細胞(JCRB9035)を、Canine parvovirusの増殖には、感受性細胞としてA-72細胞(ATCC CRL-1542)を、Measles virusの増殖には感受性細胞としてVero細胞(DSファーマ(株)、現(株)ケー・エー・シー)を用い、ウイルス懸濁液をそれぞれ作成した。各ウイルスの効果測定に使用した対照溶液及び試料溶液は下記表22に示す通りである。
【0111】
【表22】
【0112】
(2)被検試料の準備
上記表22に示す次亜塩素酸水溶液の有効塩素濃度を、150 ppm、200 ppm、及び260 ppm、pHを3.0、4.5、5.5、6.5になるようにそれぞれ調製し、被検試料とした(下記表4~6参照)。有効塩素濃度は、高濃度有効塩素計RC-2Z(笠原理化工業株式会社製)を用いて測定した。pHは、パーソナルpHメータMODEL PH82(横河電機株式会社製)を用いて測定した。上記被検試料を用いて以下の試料を調製し、抗ウイルス効果を測定した。なお、本発明の次亜塩素酸水溶液からは、ガスの発生は見られず、pH 3.0~5.5という低いpH領域でも塩素ガスを発生させることはないことが確認された。
被験資料の液量は、対照及び試料共に1,000μLとした。陰性対照はリン酸緩衝液のみ、陽性対照はウイルス懸濁液100μL+リン酸緩衝液900μL、試料は100μLのウイルス懸濁液+900μLの被検試料(次亜塩素酸水溶液)とした。
【0113】
(3)測定方法
上記各ウイルスの定量は、上述したように試料を10倍希釈し、上記の各感受性細胞にそれぞれ同量を接種してウイルス感染価を求めた。ウイルス感染価は、上記の各ウイルスが各感受性細胞に感染することで生じる形態変化及び細胞変性効果(cytopathic effect)を顕微鏡下で肉眼にて観察し、どのくらい高い希釈度まで、細胞変性効果が観察されるかで決定した。
【0114】
ウイルス感染価の測定は、以下の手順で行った。
ウイルス懸濁液100μLを試料900μLに添加しボルテックスミキサーにて10秒又は60秒撹拌し、試料(ウイルス懸濁液と次亜塩素酸水溶液との混合液)を調製した。この混合液を、上記細胞の維持用培地で希釈して10倍希釈系列を作成した。
【0115】
麻疹ウイルスでは、作成した希釈系列の10μLを、あらかじめ上記感受性細胞を培養した96 ウェルプレートの所定のウェルに接種した。ネコパルボウイルス及びイヌパルボウイルスでは、作成した希釈系列の50μLを、あらかじめ上記感受性細胞を培養した24ウェルプレートの所定のウェルに接種した。
【0116】
各ウイルスの10倍希釈系列を所定のウェルに加えた後、各プレートを37℃のCO2インキュベーター中にて7~10日培養した。顕微鏡を用いて細胞変性効果を観察し、TCID50をBehrens-Karber法で求めた。結果を下記表23~25に示す。
【0117】
【表23】
【0118】
【表24】
【0119】
【表25】
【0120】
上記表23~25に示すように、陽性対照区ではいずれのウイルスでも増殖が見られたが、試験区では、いずれのウイルスでも増殖は見られなかった。以上より、本発明の次亜塩素酸水溶液は、低pH領域で、ネコパルボウイルス、イヌパルボウイルス、及び麻疹ウイルスに対して殺ウイルス活性を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、手指の殺菌以外に、調理器具等の洗浄など、幅広い分野における抗微生物剤となるため、医薬、薬学の分野で特に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9