(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】ミトケトシン:癌細胞におけるケトン代謝を標的とするミトコンドリアに基づく治療薬
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/48 20060101AFI20231206BHJP
C07D 209/24 20060101ALI20231206BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20231206BHJP
A61P 17/18 20060101ALI20231206BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20231206BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231206BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231206BHJP
A61K 31/454 20060101ALI20231206BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20231206BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20231206BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C12Q1/48
C07D209/24
A61P39/06
A61P17/18
A61P31/00
A61P43/00 111
A61P35/00
A61K31/454
C12Q1/02
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
(21)【出願番号】P 2019570935
(86)(22)【出願日】2018-06-25
(86)【国際出願番号】 US2018039354
(87)【国際公開番号】W WO2019005698
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-05-25
(32)【優先日】2017-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519333480
【氏名又は名称】ルネラ・バイオテック・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】リサンティ,マイケル・ピイ
(72)【発明者】
【氏名】ソッジャ,フェデリカ
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】DATABASE REGISTRY(STN) RN 1047387-08-5,2008年09月07日
【文献】DATABASE REGISTRY(STN) RN 1022350-20-4,2008年05月25日
【文献】DATABASE REGISTRY(STN) RN 1022389-70-3,2008年05月25日
【文献】DATABASE REGISTRY(STN) RN 1047958-55-3,2008年09月09日
【文献】DATABASE REGISTRY(STN) RN 1022245-81-3,2008年05月25日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/48
C07D 209/24
A61P 39/06
A61P 17/18
A61P 31/00
A61P 43/00
A61P 35/00
A61K 31/454
C12Q 1/02
G01N 33/50
G01N 33/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮想ハイスループットスクリーニングおよび表現型薬物スクリーニングを使用して、ACAT1/2およびOXCT1/2の少なくとも1つと結合しミトコンドリアのATP産生を阻害する非発癌性化合物であるミトケトシンを同定する方法であって;
仮想ハイスループットスクリーニングを使用してOXCT1またはACAT1を標的とするミトケトシンを同定すること;
前記ミトケトシンを合成すること;および
前記ミトケトシンをミトコンドリア阻害活性について試験すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記ミトケトシンはOXCT1と結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ミトケトシンはACAT1と結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記表現型薬物スクリーニングはin vitro薬物スクリーニングである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記表現型薬物スクリーニングはATP枯渇アッセイを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記表現型薬物スクリーニングは細胞外酸性化速度アッセイを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記表現型薬物スクリーニングは酸素消費速度アッセイを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ミトケトシンを抗癌活性について試験することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
試験される前記抗癌活性はマンモスフィア形成である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
試験される前記抗癌活性は細胞遊走である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記ミトケトシンを抗微生物活性について試験することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
癌を治療するための医薬組成物であって、
医薬上有効な量の一般式:
【化1】
を含むミトケトシンであり、式中、Rは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、カルボキシル基、アルキル基、環状アルキル基、アルケニル基、環状アルケニル基、アルキニル基、ケトン基、ホルミル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、アミド基、単環式または多環式アリール基、ヘテロアリール基、フェニル基、およびベンゾイル基からなる群から選択され得る、ミトケトシン;および
医薬上許容される担体
を含む医薬組成物。
【請求項13】
Rはフッ素原子である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
微生物感染症を治療するための医薬組成物であって、
医薬上有効な量の一般式:
【化2】
を含むミトケトシンであり、式中、Rは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、カルボキシル基、アルキル基、環状アルキル基、アルケニル基、環状アルケニル基、アルキニル基、ケトン基、ホルミル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、アミド基、単環式または多環式アリール基、ヘテロアリール基、フェニル基、およびベンゾイル基からなる群から選択され得る、ミトケトシン;および
医薬上許容される担体
を含む医薬組成物。
【請求項15】
Rはフッ素原子である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
加齢に伴う状態を治療するための医薬組成物であって、
医薬上有効な量の一般式:
【化3】
を含むミトケトシンであり、式中、Rは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、カルボキシル基、アルキル基、環状アルキル基、アルケニル基、環状アルケニル基、アルキニル基、ケトン基、ホルミル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、アミド基、単環式または多環式アリール基、ヘテロアリール基、フェニル基、およびベンゾイル基からなる群から選択され得る、ミトケトシン;および
医薬上許容される担体
を含む医薬組成物。
【請求項17】
Rはフッ素原子である、請求項16に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ミトケトシン(mitoketoscins)-ACAT1/2およびOXCT1/2の少なくとも1つと結合しミトコンドリアのATP産生を阻害する非発癌性化合物、ならびにミトケトシンを同定するための方法、この阻害薬を使用して癌幹細胞を標的とし、細菌および病原性酵母を標的とし、抗加齢効果を提供する方法、および1種以上のミトケトシンを有効成分として含有する、癌、細菌感染症、酵母感染症、および加齢を治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
研究者らは新しい抗癌治療の開発に取り組んでいる。従来の癌療法(例えば、照射、シクロホスファミドなどのアルキル化剤、および5-フルオロウラシルなどの代謝拮抗物質)は、細胞増殖およびDNA複製に関与する細胞機構に干渉することにより、増殖の速い癌細胞を選択的に検出し、根絶しようとした。他の癌療法は、増殖の速い癌細胞上の変異腫瘍抗原に選択的に結合する免疫療法(例えば、モノクローナル抗体)を使用した。残念なことに、腫瘍は、これらの療法の後に同じまたは異なる部位で再発することが多く、このことは全ての癌細胞が根絶されたわけではないことを示している。再発は、化学療法薬の投与量の不足および/または療法に耐性のある癌クローンの出現による可能性がある。従って、新規な癌治療戦略が必要である。
【0003】
ケトン(3-ヒドロキシブチレート、アセトアセテートおよびアセトン)は高エネルギーミトコンドリア燃料であり、それらはカロリー制限、絶食、および/または飢餓の期間中に肝細胞によって自然に生成される。栄養枯渇中に、血中に分泌されたケトン体は次に脳に向けられ、そこでニューロンは、ケトン体がエネルギー源として効果的に再利用され得るようにケトン体を変換してアセチル-CoAに戻す。このケトン再利用プロセスに最も重要な2つのニューロン酵素はOXCT1/2およびACAT1/2であり、それはこれらがケトン体からアセチル-CoAへの変換に直接関与しているためである。 Martinez-Outschoorn et al., Nat Rev Clin Oncol 2017; 14(1):11-31。
【0004】
本発明者らは、ヒト腫瘍にも同様の「ケトンシャトル」が存在し、それによって、ケトン体生成癌関連線維芽細胞(CAF)が、隣接するヒト乳癌細胞のミトコンドリアによる再利用のためにケトン体を局所的に産生することを示した。Martinez-Outschoorn et al., Cell Cycle 2012; 11(21):3956-63。この「代謝カップリング」仮説のさらなる裏付けとして、本発明者らは、MDA-MB-231乳癌細胞におけるACAT1/2またはOXCT1/2の組換え過剰発現は腫瘍成長および肺転移を促進するのに確かに十分であることを見出した。これらのデータは、ケトン体再利用が腫瘍の進行および転移の推進を助け得るという遺伝学的証拠を提供する。
【発明の概要】
【0005】
前述の背景技術を考慮して、酵素ACAT1/2およびOXCT1/2は本物の代謝関連癌遺伝子であり得るように思われる。従って、本開示の目的は、ケトン再利用が多くの癌の増殖および維持において重要な役割を果たすことを実証することである。また、本開示の目的は、ACAT1/2およびOXCT1/2の少なくとも1つと結合しミトコンドリアのATP産生を阻害する非発癌性化合物であるミトケトシンを同定するための方法を提示することである。また、本開示の目的は、抗癌特性および抗生物質特性を有するミトケトシンを同定することである。また、本開示の目的は、抗加齢特性を有するミトケトシンを同定することである。また、本開示の目的は、放射線増感剤および光増感剤として働くミトケトシンである。用語「ミトケトシン」とは、ACAT1/2およびOXCT1/2の少なくとも1つと結合しミトコンドリアのATP産生を阻害する非発癌性化合物を広く指す。従って、これらの化合物は、ケトン再利用に関与し抗癌特性および抗生物質特性を有するミトコンドリア酵素を標的とするように設計されている。これらの化合物は、OXCT1/2およびACAT1/2の活性触媒部位の一方または両方と結合してミトコンドリア機能を阻害する。本開示はさらに、ミトケトシンを同定する方法、そのようなミトケトシンを作製する方法、および治療目的のためにミトケトシンを使用する方法に関する。
【0006】
ミトケトシンは、ミトコンドリア阻害特性を考えると、同様に、細菌および病原性酵母を標的とし、抗加齢効果を提供し、放射線増感剤および/または光増感剤として機能し、癌細胞塊および癌幹細胞を化学療法薬、医薬品、および/または他の天然物質に対して増感させるために使用し得る。
【0007】
ミトケトシンは、仮想ハイスループットin silicoスクリーニングの収束的アプローチとその後のミトコンドリア阻害についてのin vitro検証により同定され得る。ミトケトシンは、in silico薬物設計と表現型薬物スクリーニングとを組み合わせることにより、迅速に開発される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本アプローチの実施形態による創薬戦略を概説する概略図を示す。
【
図2】表現型薬物スクリーニングに従って同定された8つの候補ミトケトシン化合物1~8の化学構造を示す。
【
図3A】MCF7細胞におけるマンモスフィア形成に対する候補ミトケトシン化合物の効果を示す。
【
図3B】MCF7細胞におけるマンモスフィア形成に対する候補ミトケトシン化合物の効果を示す。
【
図3C】MCF7細胞におけるマンモスフィア形成に対する候補ミトケトシン化合物の効果を示す。
【
図3D】MCF7細胞におけるマンモスフィア形成に対する候補ミトケトシン化合物の効果を示す。
【
図3E】MCF7細胞におけるマンモスフィア形成に対する候補ミトケトシン化合物の効果を示す。
【
図3F】MCF7細胞におけるマンモスフィア形成に対する候補ミトケトシン化合物の効果を示す。
【
図4A】MCF7細胞におけるATP枯渇に対する候補ミトケトシン化合物2の効果を示す。
【
図4B】MCF7細胞におけるATP枯渇に対する候補ミトケトシン化合物8の効果を示す。
【
図4C】MCF7細胞におけるATP枯渇に対する候補ミトケトシン化合物6の効果を示す。
【
図4D】MCF7細胞におけるATP枯渇に対する候補ミトケトシン化合物3の効果を示す。
【
図5A】MCF7細胞における基礎呼吸、プロトンリーク、ATP関連呼吸、最大呼吸、および予備呼吸能に対する候補ミトケトシン化合物2の効果を示す。
【
図5B】MCF7細胞における基礎呼吸、プロトンリーク、ATP関連呼吸、最大呼吸、および予備呼吸能に対する候補ミトケトシン化合物8の効果を示す。
【
図6A】MCF7細胞における基礎呼吸、プロトンリーク、ATP関連呼吸、最大呼吸、および予備呼吸能に対する候補ミトケトシン化合物6の効果を示す。
【
図6B】MCF7細胞における基礎呼吸、プロトンリーク、ATP関連呼吸、最大呼吸、および予備呼吸能に対する候補ミトケトシン化合物3の効果を示す。
【
図7A】MCF7細胞における好気性解糖に対する5つの候補ミトケトシン化合物の効果を示す。
【
図7B】MCF7細胞における経時的細胞外酸性化速度(ECAR)に対する5つの候補ミトケトシン化合物の効果を示す。
【
図8A】候補ミトケトシン化合物2のドッキング画像を示す。
【
図8B】候補ミトケトシン化合物8のドッキング画像を示す。
【
図8C】候補ミトケトシン化合物3のドッキング画像を示す。
【
図8D】候補ミトケトシン化合物6のドッキング画像を示す。
【
図9】OXCT1およびACAT1がATP産生を推進するためにどのように機能するかを概説する概略図を示す
【
図10A】CSC増殖を阻害するための4つの候補ミトケトシン化合物およびそれぞれのIC-50を示す。
【
図10B】天然に存在するACAT1阻害薬であるアレコリンの化学構造を示す。
【
図11A】2つの候補ミトケトシン化合物の構造を比較している。
【
図11B】2つの候補ミトケトシン化合物のファーマコフォアを示す。
【
図12B】CoAの構造と2つの候補ミトケトシン化合物とを比較している。
【
図13】本アプローチの実施形態によるミトケトシンの潜在的副作用を改善するためのミトコンドリア基質による追跡治療戦略を概説する概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明は、本アプローチの実施形態を、本アプローチの実施を可能にするに十分詳細に示している。本アプローチを、これらの具体的な実施形態を参照して説明しているが、本アプローチは異なる形態で具体化することができることを理解すべきであり、この説明は、添付の特許請求の範囲を本明細書に示される具体的な実施形態に限定するものとして解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示を十分かつ完全なものとし、本アプローチの範囲を当業者に余すところなく伝えるように提供される。
【0010】
ミトコンドリア代謝は、癌から細菌性および真菌性感染症、老化までに及ぶ複数の苦痛を治療するための未開発の入口である。機能的ミトコンドリアは癌幹細胞の増殖に必要である。癌細胞でのミトコンドリア代謝を阻害するとこれらの細胞の増殖が妨げられる。従って、ミトコンドリア燃料としてのケトン体の再利用を標的とするミトコンドリア阻害薬は、新しい種類の抗癌治療法となる。これらの化合物はまた、ミトコンドリアタンパク質翻訳を阻害し得るため、細菌および病原性酵母の両方を標的とする広域スペクトル抗生物質として機能し得る。研究では、ミトコンドリア阻害薬が抗加齢特性を有することが示されており、それゆえ、ミトケトシンは抗加齢効果も与える可能性がある。
【0011】
OXCT1/2およびACAT1/2の少なくとも1つと結合する新規ミトコンドリアATP産生阻害薬-ミトケトシン-は、仮想ハイスループットスクリーニングの収束的アプローチとその後のミトコンドリア阻害についてのin vivo検証により同定され得る。
図1は、本明細書に開示されるin silico薬物スクリーニングおよび表現型薬物スクリーニングを使用することによりミトケトシンを同定するための方法の概観である。ブタOXCT1およびヒトACAT1タンパク質の三次元構造の全てまたは一部は、仮想ハイスループットスクリーニング(vHTS)(すなわち、in silico薬物スクリーニング)により、これらのタンパク質と結合する新規化合物を同定する工程S101で使用され得る。このスクリーニングは、分子ライブラリーを横断して実施し得る。例えば、初期調査の間、本発明者らは、30,000種の小分子化合物のコレクションを、CoAと共有結合したブタ心臓由来スクシニル-CoA:3-ケト酸CoAトランスフェラーゼ(PDBコード 3OXO)と、またはヒトミトコンドリアアセトアセチル-CoAチオラーゼ(PDBコード 2F2S)のCoA結合部位と、どこかで結合すると予想される化合物についてスクリーニングした。最初のvHTSでは、eHiTSスクリーニングプログラムなどの様々なスクリーニングプログラムを使用して、どちらかのタンパク質に対して強い結合親和性を有する化合物のサブセットを同定することができる。例えば、本発明者らは、eHiTSを使用して、予測された結合親和性に基づいて、最初のライブラリーから上位1,000位に入る化合物を同定した。eHiTSは、重度の立体衝突を回避する立体構造および位置の探索空間部分を体系的に含むスクリーニング方法であり、仮想ハイスループットスクリーニングに適切な速度で精度の高いドッキングポーズを生成する。
【0012】
当業者ならば、必要とされる結合親和性を有する化合物のサブセットを同定するための方法を選択または開発し得ることを理解されたい。ドッキングを効率的に実行するために、タンパク質構造全体に対応する一連のクリップファイルが準備され、各化合物は各クリップファイルに連続してドッキングされ得る。上位化合物のコンセンサススコアリングは、eHiTSスクリーニングから予測された各化合物の同じ一般的な結合部位に基づいて、AutoDock 4.2を使用して実行され得る。予測された結合親和性のさらなる分析および目視検査は、例えばSPROUTなどのデノボ設計プログラムを含む複数の方法を使用して実施され得る。SPROUTに関する情報については、参照によりその全体が組み込まれるLaw et al., J Mol Struct.666:651-657(2003)を参照。最初のライブラリーのサイズおよび結果に応じて、表現型薬物スクリーニングのために複数の化合物が選択され得る。例えば、本発明者らは、工程S103での表現型薬物スクリーニングのためにこれらの分析工程で結果が良好な227種の化合物を選択した。OXCT1に基づく表現型スクリーニングのために84種の化合物が選択され、ACAT1に基づく表現型スクリーニングのために143種の化合物が選択された。
【0013】
表現型薬物スクリーニングS103は、選択された細胞株で選択された化合物のミトコンドリア阻害を試験することにより達成され得る。例えば、ATP枯渇アッセイを使用し得る。本発明者らは、選択された227種の化合物をMCF7ヒト乳癌細胞においてATP枯渇を機能的に誘導する能力について試験した。細胞のATPのおよそ85%は通常ミトコンドリアのOXPHOSによって生成されるため、ATP枯渇はミトコンドリア阻害の代用マーカーである。当業者ならばミトコンドリア阻害の他の代用物を採用し得ることを理解されたい。しかしながら、発明者らが採用したATP枯渇アッセイでは、MCF7細胞(6,000細胞/ウェル)を黒色透明底96ウェルプレートに播種し、処理前に一晩インキュベートした。vHTSによって同定された227種の化合物を、平板培養したMCF7細胞に20μMの濃度で適用し、ATP枯渇についてスクリーニングした。その後、ATP枯渇効果を示す化合物をより低い濃度(10μM)で再スクリーニングして、ATP枯渇を最も強く誘導した上位8位までの化合物を同定した。72時間のインキュベーション後に化合物を試験し、実験は2反復で行った。処理後、ウェルから培地を吸引し、Ca2+およびMg2+を補給した温リン酸緩衝生理食塩水(PBS)でプレートを洗浄した。次に、細胞を、ヘキスト33342(Sigma)染色溶液(10μg/ml)とともに30分間インキュベートし、PBSで洗浄して、細胞生存率を推定した。355/460nmの励起/発光波長を使用して蛍光をプレートリーダーで読み取った。次に、CellTiter-Glo luminescent assay(Promega)を実施して、所定の化合物で処理した全く同じウェルでの代謝活性(ATP含量)を測定した。アッセイは製造業者の実施要綱に従って実施した。蛍光強度(ヘキスト染色)および発光強度(ATP含量)をビヒクル単独で処理した対照に対して正規化し、比較のために対照百分率として表示した。8種の試験化合物は全て、生細胞でのATPレベルを大幅に激減させた。当業者ならば同じまたは類似のATP枯渇アッセイを選択して採用し、そのようなアッセイを変更し得るし、またはATP枯渇アッセイを、選択された化合物をミトコンドリア阻害についてスクリーニングするための別の方法論(例えば、酸素消費アッセイ)に置き換え得ることを理解されたい。
【0014】
本アプローチは、細胞生存率を確認する方法を含む。当業者は、特定の実施形態に好適な細胞生存率を確認するための1つ以上の方法を選択し得る。本発明者らは、最初に、細胞タンパク質含有量の測定に基づくスルホローダミン(SRB)アッセイを使用した。96ウェルプレートで72時間処理した後、細胞を冷蔵室にて10%トリクロロ酢酸(TCA)で1時間固定し、室温で一晩乾燥させた。次に、細胞をSRBとともに15分間インキュベートし、1%酢酸で2回洗浄し、少なくとも1時間風乾した。最後に、タンパク質に結合した色素を10mM Tris、pH8.8溶液に溶解し、プレートリーダーを使用して540nmで読み取った。SRBアッセイを使用して、本発明者らは、さらなる分析のために顕著な細胞毒性なくATPレベルを激減させる化合物だけを選択した。顕著な細胞毒性は、プレート上に依然として存在する細胞が30%未満であることと定義された。当然のことながら、他の細胞生存率確認方法論を採用する実施形態により、さらなる分析のために、当技術分野で公知であり得る他の考慮事項に基づいて化合物を選択してもよい。
【0015】
本アプローチは、工程S105において機能的検証の方法をさらに含み、その間に、ミトコンドリア阻害薬としての化合物の機能が確認され得る。例えば、代謝フラックス解析、マンモスフィアアッセイ、生存率アッセイ、および抗生物質(抗菌および/または抗真菌)活性を含む複数の方法を機能的検証のために使用し得る。例えば、本発明者らは、Seahorse細胞外フラックス(XF96)アナライザー(Seahorse Bioscience、MA、USA)を使用して、MCF7細胞についての細胞外酸性化速度(ECAR)およびリアルタイム酸素消費速度(OCR)を決定した。MCF7細胞は、10%FBS(ウシ胎仔血清)、2mM GlutaMAX、および1%Pen-Strepを補給したDMEM中で維持した。ウェルあたり5,000個の細胞をXF96ウェル細胞培養プレートに播種し、5%CO2加湿雰囲気中、37℃で一晩インキュベートした。24時間後、細胞を、様々な濃度で顕著な細胞毒性なくATP枯渇を示す選択された化合物(またはビヒクル単独)で処理した。72時間の処理後、細胞を、予温したXFアッセイ培地(OCR測定用、XFアッセイ培地に、10mMグルコース、1mMピルベート、2mML-グルタミンを補給し、pH7.4に調整した)で洗浄した。細胞は、非CO2インキュベーター内で175μL/ウェルのXFアッセイ培地中、37℃で1時間維持した。インキュベーション中、25μLの、80mMグルコース、9μMオリゴマイシン、1M 2-デオキシグルコースのXFアッセイ培地溶液(ECAR測定用)および25μLの10μMオリゴマイシン、9μM FCCP、10μM ロテノン、10μMアンチマイシンAのXFアッセイ培地溶液(OCR測定用)をXFe-96センサーカートリッジの注入ポートに入れた。実験中、この装置が所定の時点でこれらの阻害薬をウェルに注入したが、ECAR/OCRは連続的に測定された。ECARおよびOCRの測定値は、タンパク質含有量によって正規化された(スルホローダミンBアッセイ使用)。データセットは、一元配置分散分析およびスチューデントt検定計算を使用して、XFe-96ソフトウェアにより分析した。全ての実験を三反復で実施し、結果により、本明細書に記載のミトケトシン化合物のミトコンドリア阻害効果が確認された。機能的検証については数多くの方法が知られており、当業者ならば検証の必要性に応じて1つ以上を選択し得る(例えば、ミトコンドリア機能を測定または概算する他のアッセイ)ことを理解されたい。
【0016】
要約すると、本アプローチは、in silico薬物スクリーニングおよび表現型薬物スクリーニングを使用して、潜在的なミトケトシンを同定する方法を含み得る。この方法論を使用して同定された新規化合物は、抗癌活性(例えば、マンモスフィア形成および細胞遊走を阻害する能力)について試験され、抗微生物活性を調査するために、異なる細菌および/または酵母株でさらに試験され得る。
図1は、本アプローチの実施形態による薬物スクリーニングおよび検証のための一般的な方法を要約しているが、当業者ならば本アプローチから逸脱することなく本明細書に開示される具体的な例から逸脱可能であることを理解されたい。
【0017】
本アプローチは、抗癌特性を有するミトケトシンの同定につながり、本アプローチの実施形態は、これらの化合物の1種以上の形態、ならびにこれらの化合物の1種以上の有効量を含む医薬組成物、およびこれらの化合物の1種以上を使用する様々な治療方法をとり得る。本発明者らの最初のスクリーニングおよび検証に基づき、
図2の同定された化合物は、抗癌特性を有するため、ミトケトシンである。従って、本発明者らの研究を考慮して、これらのミトケトシンは臨床試験の候補である。
図2の同定されたミトケトシンは、網羅的ではなく、本明細書に記載の新規方法論を使用してこれまでに同定された化合物にすぎないことを理解されたい。当業者においては、特定の療法での各化合物の治療上有効な量は、当技術分野で公知の簡単な手順の適用により決定し得ることを理解されたい。
【0018】
いくつかの実施形態は、1種以上のミトケトシンの形態をとり得る。この実施形態は、癌、細菌感染症、および/または病原性酵母感染症を治療するための医薬組成物に含められ得る。例えば、ミトケトシンは、以下の構造を有する一般的なファーマコフォア(またはその塩)であり得る。
【0019】
【0020】
式中、Zは、エチルピペリジンまたはエチルピロリジンとして定義される。
【0021】
【0022】
別の例として、ミトケトシンは、以下の構造を有する一般的なファーマコフォア(またはその塩)であり得る:
【0023】
【0024】
式中、各Rは、同じでも異なってもよく、水素、炭素、窒素、硫黄、酸素、フッ素(flourine)、塩素、臭素、ヨウ素、カルボキシル、アルカン、環状アルカン、アルカン系誘導体、アルケン、環状アルケン、アルケン系誘導体、アルキン、アルキン系誘導体、ケトン、ケトン系誘導体、アルデヒド、アルデヒド系誘導体、カルボン酸、カルボン酸系誘導体、エーテル、エーテル系誘導体、エステルおよびエステル系誘導体、アミン、アミノ系誘導体、アミド、アミド系誘導体、単環式または多環式アレーン、ヘテロアレーン、アレーン系誘導体、ヘテロアレーン系誘導体、フェノール、フェノール系誘導体、安息香酸、ならびに安息香酸系誘導体からなる群から選択される。
【0025】
別の例として、ミトケトシンは、以下の構造を有する一般的なファーマコフォア(またはその塩)であり得る。
【0026】
【0027】
さらなる例として、ミトケトシンは、以下の構造を有する一般的なファーマコフォア(またはその塩)であり得る:
【0028】
【0029】
式中、各Rは、同じでも異なってもよく、水素、炭素、窒素、硫黄、酸素、フッ素(flourine)、塩素、臭素、ヨウ素、カルボキシル、アルカン、環状アルカン、アルカン系誘導体、アルケン、環状アルケン、アルケン系誘導体、アルキン、アルキン系誘導体、ケトン、ケトン系誘導体、アルデヒド、アルデヒド系誘導体、カルボン酸、カルボン酸系誘導体、エーテル、エーテル系誘導体、エステルおよびエステル系誘導体、アミン、アミノ系誘導体、アミド、アミド系誘導体、単環式または多環式アレーン、ヘテロアレーン、アレーン系誘導体、ヘテロアレーン系誘導体、フェノール、フェノール系誘導体、安息香酸、および安息香酸系誘導体からなる群から選択される。
【0030】
別の例として、ミトケトシンは、以下の構造を有する一般的なファーマコフォア(またはその塩)であり得る:
【0031】
【0032】
式中、各Rは、同じでも異なってもよく、水素、炭素、窒素、硫黄、酸素、フッ素(flourine)、塩素、臭素、ヨウ素、カルボキシル、アルカン、環状アルカン、アルカン系誘導体、アルケン、環状アルケン、アルケン系誘導体、アルキン、アルキン系誘導体、ケトン、ケトン系誘導体、アルデヒド、アルデヒド系誘導体、カルボン酸、カルボン酸系誘導体、エーテル、エーテル系誘導体、エステルおよびエステル系誘導体、アミン、アミノ系誘導体、アミド、アミド系誘導体、単環式または多環式アレーン、ヘテロアレーン、アレーン系誘導体、ヘテロアレーン系誘導体、フェノール、フェノール系誘導体、安息香酸、および安息香酸系誘導体からなる群から選択される。
【0033】
ミトケトシンの別の例は、以下の構造を有する一般的なファーマコフォア(またはその塩)である。
【0034】
【0035】
ミトケトシンのさらなる例は、以下の構造を有する一般的なファーマコフォア(またはその塩)である。
【0036】
【0037】
ミトケトシンの追加例は、以下の構造を有する一般的なファーマコフォア(またはその塩)である:
【0038】
【0039】
式中、各Rは、同じでも異なってもよく、水素、炭素、窒素、硫黄、酸素、フッ素(flourine)、塩素、臭素、ヨウ素、カルボキシル、アルカン、環状アルカン、アルカン系誘導体、アルケン、環状アルケン、アルケン系誘導体、アルキン、アルキン系誘導体、ケトン、ケトン系誘導体、アルデヒド、アルデヒド系誘導体、カルボン酸、カルボン酸系誘導体、エーテル、エーテル系誘導体、エステルおよびエステル系誘導体、アミン、アミノ系誘導体、アミド、アミド系誘導体、単環式または多環式アレーン、ヘテロアレーン、アレーン系誘導体、ヘテロアレーン系誘導体、フェノール、フェノール系誘導体、安息香酸、ならびに安息香酸系誘導体からなる群から選択される。
【0040】
ミトケトシンの別の例は、以下の構造を有する一般的なファーマコフォア(またはその塩)である:
【0041】
【0042】
式中、各Rは、同じでも異なってもよく、水素、炭素、窒素、硫黄、酸素、フッ素(flourine)、塩素、臭素、ヨウ素、カルボキシル、アルカン、環状アルカン、アルカン系誘導体、アルケン、環状アルケン、アルケン系誘導体、アルキン、アルキン系誘導体、ケトン、ケトン系誘導体、アルデヒド、アルデヒド系誘導体、カルボン酸、カルボン酸系誘導体、エーテル、エーテル系誘導体、エステルおよびエステル系誘導体、アミン、アミノ系誘導体、アミド、アミド系誘導体、単環式または多環式アレーン、ヘテロアレーン、アレーン系誘導体、ヘテロアレーン系誘導体、フェノール、フェノール系誘導体、安息香酸、ならびに安息香酸系誘導体からなる群から選択される。
【0043】
ミトケトシンのさらなる例は、以下の構造を有する一般的なファーマコフォア(またはその塩)である。
【0044】
【0045】
ミトケトシンの別の例は、以下の構造を有する一般的なファーマコフォア(またはその塩)である:
【0046】
【0047】
式中、各Rは、同じでも異なってもよく、水素、炭素、窒素、硫黄、酸素、フッ素(flourine)、塩素、臭素、ヨウ素、カルボキシル、アルカン、環状アルカン、アルカン系誘導体、アルケン、環状アルケン、アルケン系誘導体、アルキン、アルキン系誘導体、ケトン、ケトン系誘導体、アルデヒド、アルデヒド系誘導体、カルボン酸、カルボン酸系誘導体、エーテル、エーテル系誘導体、エステルおよびエステル系誘導体、アミン、アミノ系誘導体、アミド、アミド系誘導体、単環式または多環式アレーン、ヘテロアレーン、アレーン系誘導体、ヘテロアレーン系誘導体、フェノール、フェノール系誘導体、安息香酸、ならびに安息香酸系誘導体からなる群から選択される。ミトケトシンは、治療的使用のために、個別にまたは1種以上の特定のミトケトシンと組み合わせて、および/または他の治療法の効力を高める他の物質と組み合わせて選択され得ると理解されるべきである。治療薬は、1つ以上の既知の方法を使用して調製し得る通常の医薬組成物の形態で使用し得る。例えば、医薬組成物は、当技術分野で公知の希釈液または賦形剤、例えば、1つ以上の充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤などを使用して調製し得る。治療目的に応じて、様々なタイプの投与単位形態を選択し得る。医薬組成物のための形態の例としては、限定されるものではないが、錠剤、丸剤、粉末、液体、懸濁液、エマルション、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注射剤(溶液および懸濁液)、局所クリーム、および当技術分野で公知であり得る他の形態が挙げられる。錠剤形態の医薬組成物を成形するために、既知の任意の賦形剤、例えば、ラクトース、白砂糖、塩化ナトリウム、グルコース、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、シクロデキストリン、結晶性セルロース、ケイ酸などの担体;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、グルコース溶液、デンプン溶液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、シェラック(shelac)、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドンなどの結合剤などを使用し得る。加えて、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、寒天粉末、コンブ粉末(laminalia powder)、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタンの脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸のモノグリセリド、デンプン、ラクトースなどの崩壊剤を使用し得る。白砂糖、ステアリン、ココナツバター、硬化油などの崩壊抑制剤;四級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウムなどの吸収促進剤を使用し得る。グリセリン、デンプン、および当技術分野で公知の他のものなどの湿潤剤を使用し得る。例えば、デンプン、ラクトース、カオリン、ベントナイト、コロイドケイ酸などの吸着剤を使用し得る。精製タルク、ステアレート、ホウ酸粉末、ポリエチレングリコールなどの滑沢剤を使用し得る。錠剤が望ましい場合、錠剤を通常のコーティング材料でさらにコーティングして、糖衣錠、ゼラチンフィルムコーティング錠、腸溶コーティング錠、フィルムコーティング錠、二層錠剤、および多層錠剤として錠剤を作製し得る。局所投与に適した医薬組成物は、軟膏、クリーム、懸濁液、ローション、粉末、溶液、ペースト、ゲル、泡沫、スプレー、エアゾール、またはオイルとして調剤し得る。そのような医薬組成物は、限定されるものではないが、保存剤、薬物浸透を促進する溶媒、共溶媒、皮膚軟化剤、噴射剤、粘度調整剤(ゲル化剤)、界面活性剤、および担体を含む従来の添加剤を含み得る。
【0048】
本アプローチは、いくつかの実施形態において、化合物、特にミトケトシンを、抗癌特性について試験する方法を含み得る。上述のように、vHTSおよび計算化学を使用して、候補ミトコンドリア阻害薬を同定し得る。これらの候補は、特定の抗癌特性について試験し得る。例えば、本発明者らは、MCF7細胞におけるマンモスフィア形成を阻害する能力について、7種の候補化合物を同時に比較した。
図3は、試験した6種の化合物がマンモスフィア形成を阻害したことを実証している。化合物2および8(それぞれ
図3Aおよび3B)は、25μMの濃度で癌幹細胞活性の尺度であるマンモスフィア数の減少において最も強力な2つの候補であった。化合物6および3も有効であった(それぞれ
図3Cおよび3D)が、一方、化合物5および1(それぞれ
図3Eおよび3F)はマンモスフィア成長の阻害薬としての作用が弱かった。
【0049】
【0050】
表1は、7種の候補化合物についてのマンモスフィア形成阻害結果を要約したものである。表1は、7種の化合物が10~170μMの半数阻害濃度(IC-50)でマンモスフィア形成を阻害したことを示している。化合物1~4は、OXCT1スクリーニングから同定され、化合物5、6、および8は、ACAT1スクリーニングから同定された。
【0051】
本アプローチは、いくつかの実施形態において、ミトケトシン化合物の機能検証の方法を含み得る。例えば、本発明者らは、酸素消費速度(OCR)および細胞外酸性化速度(ECAR)を定量的に測定するSeahorseアナライザーを使用して4種の候補の機能的検証を評価した。OCRはOXPHOSの代用マーカーであり、ECARは解糖およびL-ラクテート生産の代用マーカーである。
【0052】
本発明者らの結果により、化合物2、3、6、および8が全て、MCF7細胞におけるミトコンドリアの酸素消費を用量依存的に阻害したことが実証された。
図4Aおよび4Bは、化合物2および8が、5μMほどの低い用量でもミトコンドリア呼吸を大幅に減少させたことを示している。化合物6および3も強力な阻害薬であった(
図4Cおよび4D)。
図5および6で示されるように、これらの化合物が基礎呼吸、プロトンリーク、ATP関連呼吸、および最大呼吸を用量依存的に(dosed dependently)減少させた。
図7は、4種の化合物が、対照と比較して解糖を大幅に阻害した様子を示している。
【0053】
本アプローチのいくつかの実施形態は、マンモスフィア形成に対する化合物の効果を考慮することにより、化合物を抗癌特性について試験することを含み得る。当業者は、本アプローチから逸脱することなく、特定の細胞株に対する候補ミトコンドリア阻害薬の効果を評価するために、当技術分野で公知の他の方法を使用し得ることを理解されたい。また、阻害薬は癌幹細胞(CSC)を標的とするため、当業者は他の癌タイプに対する候補ミトコンドリア阻害薬の効果を評価し得ることも理解されたい。CSCは、ほとんどの癌タイプで保存されたまたは類似の特徴を示す。
【0054】
図8A~8Dは化合物2、8、3、および6の分子モデリングを示している。分子モデリングの目標は、化合物と既知の三次元構造との主要な(predominant)結合様式を予測することである。
図8Aおよび8Cはそれぞれ、OXCT1の3D結晶構造内のスクシニル-CoA結合部位での化合物2および3の分子ドッキングを示している。
図8Aおよび8Cの比較は、少なくとも1つのアミノ酸、ASN-373が、化合物2および3の両方と直接結合すると予測されることを示している。
図8Bおよび8Dはそれぞれ、ACAT1の3D結晶構造内のCoA結合部位での化合物8および6の分子ドッキングを示している。
図8Bおよび8Dの比較は、少なくとも2つのアミノ酸、LEU-184およびHIS-192が、化合物8および6の両方と直接結合すると予測されることを示している。これらの予測された主要な(dominant)結合様式は、さらなるリード最適化にとって非常に貴重であり得る。
【0055】
ケトン体はミトコンドリア燃料として機能的に作用し、これが腫瘍成長および転移を積極的に推進し得る。これに関連して、
図9に要約されているように、OXCT1およびACAT1は、ケトン再利用に関与する2つのミトコンドリアタンパク質である。本発明者らは、癌細胞が再利用ケトン体をアセチル-CoAに変えるのを防ぐためにOXCT1およびACAT1を分子標的とした。このアセチル-CoAは、通常、ミトコンドリアのATP産生を推進するTCA回路に入る。
【0056】
図10Aで示されるように、OXCT1スクリーニングのトップヒット(化合物2)およびACAT1スクリーニングのヒット(化合物8)は、比較的重要でない官能性側基を除いて類似の化学構造を有する。
図11Bで示されるように、基礎となる「化学的足場」すなわちファーマコフォアは、両方の小分子で同じである。化合物2および8の構造は、
図12で、補酵素Aの分子構造とも比較され、構造の類似性が実証された。
【0057】
図11Aで示されるように、OXCT1スクリーニングからの2つの化合物(化合物3および4)は、互いに構造的に類似している。しかしながら、観察されたIC-50値に基づき、化合物3は、CSC増殖を標的とする能力において化合物4よりもほぼ4倍強力である。これらの2つの分子を構造的に区別する独特の化学基(
図11Aでは矢印で強調表示)が、CSC増殖の阻害について観察された観察されたIC-50の違いに関与している可能性がある。
【0058】
最近の研究によりアレコリンが潜在的なACAT1阻害薬として同定されたため、これらの研究により癌遺伝子としてのACAT1の役割の追加証拠が提供される。Garcia-Bermudez et al., Mol Cell 2016, 64(5):856-857。アレコリンは、ビンロウ(ビンロウジュ(Areca catechu))の果実であるビンロウジに含まれるニコチン酸ベースのアルカロイドである。アレコリンは抗腫瘍活性を示し、ACAT1を標的とする薬物が抗癌剤として価値がある可能性があることがさらに検証された。しかしながら、本発明者らは、CSCを標的とする能力を評価しなかった。アレコリンは、非常に小さな分子であるため(化合物6および3との比較については
図10Bに示す)、効力を高めるために医薬品化学によりそれを大幅に変更する必要があり得る。アレコリンは、発癌性があることが知られている化合物であるため、ミトケトシンではない。
【0059】
正常なケトン代謝は、生物飢餓および/または著しい栄養枯渇の条件下で起こるが、この調節はヒト腫瘍では失われ、癌細胞ではケトン代謝は構成的に起こるように思われる。通常の食事条件下でヒト腫瘍におけるケトン代謝を標的とすることは、代謝性副作用が最小限であると予測される。それにもかかわらず、ケトン阻害薬の潜在的な副作用は、
図13に示すように、グルコース、ピルベート、ラクテート、脂肪酸および/またはアセチル-カルニチンなどの他のミトコンドリア補助基質での追跡治療からなる「救済」工程を含むことにより大幅に改善または「制御」することができた。滅菌D-グルコースおよびL-ラクテート静注液(D5W、D5NS、乳酸加リンゲル液)は、他の臨床的および治療的適応のために病院ですでに日常的に使用されており、従って、追跡治療は臨床的に実現可能である。
【0060】
本発明者らは、癌細胞において急性ATP枯渇を誘導する化合物は、これらの細胞を放射線、紫外線、化学療法薬、天然物質、および/またはカロリー制限に対して増感させ得ることを示した。本明細書で議論されるミトケトシンにより、ATP枯渇効果が実証された。これらの予備段階の結果に基づいて、ミトケトシンは、放射線増感剤および/または光増感剤としても使用し得る。放射線増感剤および/または光増感剤としての使用は、限定されるものではないが、当技術分野で公知の他の癌治療方法を含む他の治療ベクター、および本明細書に開示されるミトコンドリア生合成阻害による癌治療と組み合わせ得る。同様に、ミトケトシンを使用して、癌細胞塊および癌幹細胞を、化学療法薬、医薬品、および/または他の天然物質、例えば栄養補助食品、ならびにカロリー制限に対して機能的に増感させ得る。
【0061】
抗癌および抗生物作用に加えて、本アプローチにより同定され得るミトコンドリア阻害薬は、哺乳類の老化プロセスを遅らせる可能性を有する。ミトコンドリアタンパク質翻訳の遺伝的阻害は、有益な副作用、特に老化プロセスを遅らせモデル生物の寿命を延ばすという副作用を有することが示されている。Mrps5(ミトリボソームタンパク質)の低い定常状態レベルは長いネズミ寿命との機能的相関が強く、最大250日という大幅な寿命の延長がもたらされる。加えて、C.エレガンス(C. elegans)におけるMrps5の選択的ノックダウンは、寿命を劇的に延ばす。Mrps5ノックダウン線虫は、ミトコンドリア呼吸およびATP産生の大幅な減少を示す。同様に、ミトコンドリア複合体I、III、IVおよびV、ならびにいくつかのTCA回路酵素の線虫ホモログのノックダウンは全て、寿命を確実に延ばし、機構としてOXPHOS活性の低下およびATPレベルの低下をさらに暗示した。最後に、ミトコンドリア生合成の薬理学的阻害(ドキシサイクリンのオフターゲット効果を使用)もC.エレガンスの寿命を大幅に延長する。従って、ミトケトシンは、老化プロセスを治療的に標的とし、寿命を延ばすために使用し得る。
【0062】
ミトケトシンはまた、癌細胞の薬剤耐性を最小限に抑えかつ/または解除するためにも使用し得る。薬剤耐性は、少なくとも部分的には、癌細胞のミトコンドリア機能の増加に基づいていると考えられている。具体的には、タモキシフェンなどの内分泌療法に対する耐性を示す癌細胞は、ミトコンドリア機能が増加していると予想される。ミトケトシンは、ミトコンドリアの機能を阻害するため、癌細胞の薬剤耐性の低下、場合によっては、解除において有用であり得る。
【0063】
本明細書の発明の説明で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためのものにすぎず、本発明を限定することを意図しない。発明の説明および添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈がそうではないことを明示しない限り、複数形も含むものとする。本発明は、以下の詳細な説明の考察から明らかになるように、数多くの選択肢、変更、および等価物を含む。
【0064】
「第1」、「第2」、「第3」、「a)」、「b)」、および「c)」などの用語は、本明細書において、本発明の様々な要素を記載するために使用され得るが、これらの用語に限定されるものではないと理解される。これらの用語は、本発明のある要素を別の要素と区別するために使用されるにすぎない。従って、以下で論じる第1の要素は要素態様と呼ばれることがあり、同様に、本発明の教示から逸脱することなく第3の要素と呼ばれることがある。従って、「第1」、「第2」、「第3」、「a)」、「b)」、および「c)」などの用語は、必ずしも関連要素に順序または他の序列を与えることを意図せず、識別のために使用されているにすぎない。操作(または工程)の順序は、特許請求の範囲に記載されている順番に限定されない。
【0065】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。さらに、一般的に使用される辞書で定義されているものなどの用語は、本出願および関連技術の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想化されたまたは過度に形式的な意味で解釈されるべきではないと理解される。本明細書の発明の説明で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためのものにすぎず、本発明を限定することを意図しない。本明細書に記載される全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全内容が参照により組み込まれる。用語に矛盾がある場合には本明細書に従う。
【0066】
また、本明細書で使用される場合、「および/または」とは、関連する記載項目の1以上のありとあらゆる可能な組合せと、選択的に解釈される場合(「または」)の組み合わせない項目とを指し、それらを包含する。
【0067】
文脈がそうではないことを意味しない限り、本明細書に記載の発明の様々な特徴をいずれの組合せで使用してもよいことが特に意図される。さらに、本発明はまた、本発明のいくつかの実施形態で、本明細書に記載のいずれの特徴または特徴の組合せも除外または省略可能であると考えられる。説明のために、本明細書に複合体が成分A、BおよびCを含むと述べられている場合、A、BまたはCのいずれか、またはそれらの組合せを省略および放棄可能であることが特に意図される。
【0068】
本明細書で使用される場合、移行句「から本質的になる」(および文法的変形)は、特許請求された発明の列挙された材料または工程「および基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさないもの」を包含すると解釈されるべきである。従って、用語「から本質的になる」は、本明細書で使用される場合、「含む」と同等であると解釈されるべきではない。
【0069】
用語「約」は、本明細書で使用される場合、例えば、量または濃度などの測定可能な値を指す場合、±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%、またはさらには±0.1%の指定量の変動を包含することを意味する。測定可能な値について本明細書で与えられる範囲は、任意の他の範囲および/またはその中の個別の値を含み得る。
【0070】
従って、本発明の特定の実施形態を説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明は、以下に特許請求されるその趣旨または範囲から逸脱することなく多くの明らかなその変形が可能であるため、上記の説明に記載された特定の詳細によって限定されるものではないと理解されるべきである。