(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】架橋性組成物、該架橋性組成物を含む床用塗料組成物、および該床用塗料組成物による塗膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20231206BHJP
C08L 101/10 20060101ALI20231206BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C08L83/04
C08L101/10
C08L71/02
(21)【出願番号】P 2020001497
(22)【出願日】2020-01-08
【審査請求日】2022-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田畑 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】黒田 晃
(72)【発明者】
【氏名】シュタンイェーク,フォルカー
(72)【発明者】
【氏名】アンデルス,ウド
(72)【発明者】
【氏名】ライトマイヤー,クルト
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-508609(JP,A)
【文献】特表2014-521819(JP,A)
【文献】特表2019-528342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08L 71/00-71/14
C08L 75/00-75/16
C08L 101/00-101/16
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(I)で示されるベースポリマー100重量部と、
Y-[(CR
1
2)
b-SiR
a(OR
2)
3-a]
x (I)
(式中、
Yは、窒素、酸素、硫黄、または炭素を介して結合されたx価のポリマー基であり、
Rは、同じであっても異なってもよく、一価の、場合によって置換されているSiC-結合した炭化水素基であり、
R
1は、同じであっても異なってもよく、水素原子、または炭素原子に窒素、リン、酸素、硫黄もしくはカルボニル基が結合することができる一価の、場合によって置換されている炭化水素基であり、
R
2は、同じであっても異なってもよく、水素原子、または一価の、場合によって置換されている炭化水素基であり、
Xは、1から10までの整数であり、
aは、同じであっても異なってもよく、0、1、もしくは2であり、および
bは、同じであっても異なってもよく、1から10までの整数である。)
(B)下記一般式(II)で示される単位を含むシリコーン樹脂800重量部以上2,000重量部以下と
R
3
c(R
4O)
dR
5
eSiO
(4-c-d-e)/2 (II)
(式中、
R
3は、同じであっても異なってもよく、水素原子、一価の、SiC-結合した、場合によって置換されている脂肪族炭化水素基、または式(II)の2つの単位を橋かけしている二価の、場合によって置換されている脂肪族炭化水素基であり、
R
4は、同じであっても異なってもよく、水素原子または一価の、場合によって置換されている炭化水素基であり、
R
5は、同じであっても異なってもよく、一価の、SiC-結合した、場合によって置換されている芳香族炭化水素基であり、
cは、0、1、2、もしくは3であり、
dは、0、1、2、もしくは3であり、および
eは、0、1、もしくは2であり、
ただし、c+d+eの合計は、3以下であり、式(II)の単位の少なくとも40%においてc+eの合計は0もしくは1である。)
を含み、
前記シリコーン樹脂の平均モル質量(数平均)M
nが200g/モル以上1,000g/モル以下であり、T単位としてフェニル官能性T単位のみを含み、
波長500nmにおける透過率が80%以上であり、
無機充填剤を含まないことを特徴とする、架橋性組成物。
【請求項2】
前記式(I)中の基Yが、ポリオキシアルキレン基を含むことを特徴とする、請求項
1に記載の架橋性組成物。
【請求項3】
前記ベースポリマーの末端基が、一般式
-O-C(=O)-NH-(CR
1
2)
b-SiR
a(OR
2)
3-a (III)
または
-NH-C(=O)-NR’-(CR
1
2)
b-SiR
a(OR
2)
3-a (IV)
(式中、基および添字はそれらに対して上で特定された定義の一つを有する。)
の基であることを特徴とする、請求項1
または請求項2に記載の架橋性組成物。
【請求項4】
前記式(I)中の添え字bが1または3である前記ベースポリマーを含むことを特徴とする、請求項1ないし請求項
3のいずれか1項に記載の架橋性組成物。
【請求項5】
前記式(I)中の添え字bが1である前記ベースポリマーを少なくとも1種と、前記式(I)中の添え字bが3である前記ベースポリマーを少なくとも1種とを含むことを特徴とする、請求項1ないし請求項
4のいずれか1項に記載の架橋性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のシラン架橋するベースポリマーとシリコーン樹脂を含有する架橋性組成物、該架橋性組成物を含む床用塗料組成物、および該床用塗料組成物を使用する塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な塗料は、粘度が高いためそのまま施工すると作業性が悪く、塗膜表面に凹凸が生じて仕上がり性が悪くなるという問題がある。
そこで、通常は有機溶剤を添加し低粘度化させることで、作業性および仕上がり性を改善している。
しかし、有機溶剤で希釈すると塗膜を形成する有効成分の含有率が減少するため、塗料を基材に1回塗布する「1回塗り」だと基材の凹凸が影響して仕上がり性が悪くなるだけではなく、硬化塗膜の耐摩耗性や耐久性が低下し、機械的強度が低下する。このため、塗料を2~3回塗布する施工をする必要がある。
また通常、基材と塗料との接着性を向上させるために、塗料の塗布前に基材に対してプライマーを施工している。
【0003】
上記のように、従来の高粘度の塗料は(1)作業性、仕上がり性を向上させるために有害な有機溶剤を使用しなければならないこと、(2)仕上がり性の改善と硬化塗膜の機械強度を向上させるために2~3回施工することが必要で、かつ、基材と塗料の接着性を向上させるためにプライマー工程が必要になるなど、複数回の工程にわたって塗料を施工する必要があること、といった課題がある。そのため有機溶剤が不要で、1回塗りで仕上がり性に優れ、充分な機械強度と基材との接着性が良好な塗料が望まれていた。
【0004】
これらの課題に対しては、例えば特許文献1では、「長鎖シランを末端に有し、モル質量が12000g/molのポリエーテルをフェニルシリコーン樹脂と混合する非常に有望な手法がWO2013/026654に記載されている。」としている。また、このようにして得られた組成物は床コーティングにも適しているとして、コンクリート、セメント又はスクリードから作られる下張り床に直接塗布されてもよい旨が記載されており、プライマーを必要とせず直接基材に対して塗布可能である塗料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載されるような架橋可能なシラン系のコーティング組成物は透明な塗膜を形成することができるが、ポリマーとシリコーン樹脂との相溶性が悪いと白濁し、コンクリートや木材、ポリウレタンやエポキシコーティング材などの透明トップコートに適しない場合がある。
したがって、本発明は透明コーティング材として透明性に優れたコーティング材組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、架橋性組成物に含まれるシリコーン樹脂の分子量を一定の範囲内に特定することによって、透明性に優れた塗膜を形成することができる架橋性組成物を見出した。
すなわち、本発明の架橋性組成物は、
(A)下記一般式(I)で示されるベースポリマー100重量部と、
Y-[(CR1
2)b-SiRa(OR2)3-a]x (I)
(式中、
Yは、窒素、酸素、硫黄、または炭素を介して結合されたx価のポリマー基であり、
Rは、同じであっても異なってもよく、一価の、場合によって置換されているSiC-結合した炭化水素基であり、
R1は、同じであっても異なってもよく、水素原子、または炭素原子に窒素、リン、酸素、硫黄もしくはカルボニル基が結合することができる一価の、場合によって置換されている炭化水素基であり、
R2は、同じであっても異なってもよく、水素原子、または一価の、場合によって置換されている炭化水素基であり、
Xは、1から10までの整数であり、
aは、同じであっても異なってもよく、0、1、もしくは2であり、および
bは、同じであっても異なってもよく、1から10までの整数である。)
(B)下記一般式(II)で示される単位を含むシリコーン樹脂50重量部以上と
R3
c(R4O)dR5
eSiO(4-c-d-e)/2 (II)
(式中、
R3は、同じであっても異なってもよく、水素原子、一価の、SiC-結合した、場合によって置換されている脂肪族炭化水素基、または式(II)の2つの単位を橋かけしている二価の、場合によって置換されている脂肪族炭化水素基であり、
R4は、同じであっても異なってもよく、水素原子または一価の、場合によって置換されている炭化水素基であり、
R5は、同じであっても異なってもよく、一価の、SiC-結合した、場合によって置換されている芳香族炭化水素基であり、
cは、0、1、2、もしくは3であり、
dは、0、1、2、もしくは3であり、および
eは、0、1、もしくは2であり、
ただし、c+d+eの合計は、3以下であり、式(II)の単位の少なくとも40%においてc+eの合計は0もしくは1である。)
を含み、
前記シリコーン樹脂の平均モル質量(数平均)Mnが200g/モル以上2000g/モル以下であることを特徴とする。
【0008】
シリコーン樹脂の平均モル質量を200g/モル以上2000g/モル以下の範囲とすることにより、シリコーン樹脂とベースポリマーとの相溶性が高まり、透明度の高い架橋性組成物を得ることができる。これにより、架橋性組成物を基材に塗布して得られる塗膜の透明性も高くなり、トップコートとして適した塗膜が得られる。
【0009】
さらに、上記範囲の平均モル質量を有するシリコーン樹脂を含有することにより、架橋性組成物の粘度が適切な範囲にまで低くなり、基材に塗布した際の基材に対する架橋性組成物の濡れ性が高くなる。このため多孔性基材だけでなく、非細孔面に対しても密着性の高い塗膜を形成することができるのである。粘度が低いため作業性も向上する。
【0010】
また、シリコーン樹脂は塗膜に取り込まれる有効成分であり、塗布後に揮発しないため、塗布回数が少ない場合においても十分な機械的特性を塗膜に付与することが可能である。
【0011】
シリコーン樹脂の縮合度は、上記平均モル質量の範囲となるものであれば特に限定されず、上記(II)式で示されるモノマーであってもよく、複数の上記(II)式で示される単位が縮合してオリゴマーを形成していてもよい。上記(II)式に対応するモノマーである場合の構造式は、
R3
c(R4O)dR5
eSiOR4
と表すことができる。
【0012】
シリコーン樹脂の平均モル質量が2000g/モルを超えると、シリコーン樹脂のベースポリマーへの相溶性が低下し、架橋性組成物が白濁する。白濁した架橋性組成物を基材に塗布した場合には、得られる塗膜も白濁するため、高い透明性が求められるトップコートとしては不向きである。さらに架橋性組成物全体の粘度が高くなり、基材への濡れ性が悪くなるだけでなく、レベリング性が低下して基材と塗布面との段差が大きくなり、仕上がり性が悪くなる。
【0013】
基Rの例は、アルキル基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、1-n-ブチル、2-n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル基;ヘキシル基、例えばn-ヘキシル基;ヘプチル基、例えば、n-ヘプチル基;オクチル基、例えばn-オクチル基、イソオクチル基および2,2,4-トリメチルペンチル基;ノニル基、例えば、n-ノニル基;デシル基、例えば、n-デシル基;ドデシル基、例えば、n-ドデシル基;オクタデシル基、例えば、n-オクタデシル基;シクロアルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル基およびメチルシクロヘキシル基;アルケニル基、例えば、ビニル、1-プロペニルおよび2-プロペニル基;アリール基、例えば、フェニル、ナフチル、アントリルおよびフェナントリル基;アルカリール基、例えば、o-、m-、p-トリル基、キシリル基およびエチルフェニル基、ならびにアラルキル基、例えば、ベンジル基、α-およびβ-フェニルエチル基である。
【0014】
置換された基Rの例は、ハロアルキル基、例えば、3,3,3-トリフルオロ-n-プ
ロピル基、2,2,2,2’,2’,2’-ヘキサフルオロイソプロピル基およびヘプタフルオロイソプロピル基、ならびにハロアリール基、例えば、o-、m-およびp-クロロフェニル基である。
【0015】
基Rは、好ましくは場合によってハロゲン原子によって置換されており1から6個の炭素原子を有している一価の炭化水素基を、より好ましくは1個または2個の炭素原子を有するアルキル基、より特定的にはメチル基を含む。
【0016】
基R1の例は、水素原子、Rに対して特定した基、また炭素原子に、窒素、リン、酸素、硫黄、炭素、またはカルボニル基によって結合されている、場合によって置換されている炭化水素基である。
【0017】
好ましくは、R1は、水素原子および1から20個までの炭素原子を有する炭化水素基であり、より特定的には水素原子である。
【0018】
基R2の例は、水素原子または基Rに対して特定した例である。
【0019】
基R2は、好ましくは、水素原子、または場合によってハロゲン原子によって置換されており、1から10個までの炭素原子を有するアルキル基、より好ましくは1から4個までの炭素原子を有するアルキル基、より特定的にはメチルおよびエチル基である。
【0020】
ポリマー基Yのベースとなるポリマーは、本発明においては、主鎖中の全結合の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%が炭素-炭素、炭素-窒素、または炭素-酸素結合である全てのポリマーであることが理解されるべきである。
【0021】
ポリマー基Yは、有機ポリマー基を好ましくは含み、それは、ポリマー鎖として、ポリオキシアルキレン、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマーおよびポリオキシプロピレン-ポリオキシブチレンコポリマー;炭化水素ポリマー、例えば、ポリイソブチレン、ポリエチレン、またはポリプロピレンおよびポリイソブチレンのイソプレンとのコポリマー;ポリイソプレン;ポリウレタン;ポリエステル、ポリアミド;ポリアクリレート;ポリメタクリレート;およびポリカーボネートを含み、それらは、好ましくは、-O-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)O-、-NH-C(=O)-NH-、-NR’-C(=O)-NH-、NH-C(=O)-NR’-、-NH-C(=O)-、-C(=O)-NH-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-O-C(=O)-O-、-S-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-S-、-C(=O)-S-、-S-C(=O)-、-S-C(=O)-S-、-C(=O)-、-S-、-O-および-NR’-によって1つの基または複数の基-[(CR1
2)b-SiRa(OR2)3-a]に結合され、ただし、R’は、同じであっても異なってもよく、Rに対して与えられた定義を有し、または基-CH(COOR”)-CH2-COOR”であり、ここでR”は同じであっても異なってもよく、Rに対して与えられた定義を有する。
【0022】
基R’の例は、シクロヘキシル、シクロペンチル、n-プロピルおよびイソプロピル、n-ブチル、イソブチルおよびtert-ブチル、ペンチル基、ヘキシル基、またはヘプチル基のさまざまな立体異性体、およびまたフェニル基である。
【0023】
基R’は、好ましくは、基-CH(COOR”)-CH2-COOR”または1から20個までの炭素原子を有する、場合によって置換されている炭化水素基、より好ましくは1から20個までの炭素原子を有する直鎖の基、分枝した基もしくはシクロアルキル基、
または6から20個の炭素原子を有しており、場合によってハロゲン原子によって置換されているアリール基である。
【0024】
基R”は、好ましくは1から10個までの炭素原子を有するアルキル基、より好ましくはメチル基、エチル基、またはプロピル基である。
【0025】
より好ましくは、式(I)中の基Yは、ポリウレタン基およびポリオキシアルキレン基を、より好ましくはポリオキシプロピレン含有ポリウレタン基またはポリオキシプロピレン基を含む。
【0026】
ここでベースポリマー(A)は、ポリマー中の任意の望ましい位置、例えば、鎖内および/または末端に、好ましくは鎖内および末端に、より好ましくは末端に、記載されている様式で結合している基-[(CR1
2)b-SiRa(OR2)3-a]を有することができる。
【0027】
本発明に従って使用されるベースポリマー(A)の末端基は、好ましくは、一般式
-O-C(=O)-NH-(CR1
2)b-SiRa(OR2)3-a (III)
および
-NH-C(=O)-NR’-(CR1
2)b-SiRa(OR2)3-a (IV)
(式中、基および添字はそれらに対して上で特定された定義の一つを有する。)
である。
【0028】
本発明の1つの特に好ましい実施形態において、ベースポリマー(A)は、いずれの場合も、-O-C(=O)-NH-(CR1
2)b基または-NH-C(=O)-NR’-(CR1
2)b基(R’、R1およびbは、上で特定した定義の1つを有する。)によって結合されているジメトキシメチルシリル、トリメトキシシリル、ジエトキシメチルシリル、またはトリエトキシシリル末端基を有するシラン末端ポリエーテルおよびシラン末端ポリウレタン、より特定的にはシラン末端ポリプロピレングリコールおよびシラン末端ポリウレタンを含む。
【0029】
ベースポリマー(A)の平均モル質量Mnは、好ましくは少なくとも400g/モル、より好ましくは少なくとも600g/モル、より特定的には少なくとも800g/モルであり、好ましくは30,000g/モル未満、より好ましくは19,000g/モル未満、より特定的には13,000g/モル未満である。
【0030】
ベースポリマー(A)の粘度は、いずれの場合にも20℃で測定されて、好ましくは少なくとも0.2Pas、より好ましくは少なくとも1Pas、非常に好ましくは少なくとも5Pasであり、好ましくは1,000Pas以下、より好ましくは700Pas以下である。
【0031】
本発明に従って使用されるベースポリマー(A)は、特許文献1に記載されるように商業製品であるかまたは化学においては一般的な方法によって調製され得る。
【0032】
本発明に従って使用されるベースポリマー(A)は、1種類の式(I)の化合物のみを含むことができ、また異なる種類の式(I)の化合物の混合物を含むこともできる。この場合、このベースポリマー(A)は、式(I)の化合物を排他的に含むことができ、ポリマー基Yに結合されたシリル基全体の90%超、好ましくは95%超、より好ましくは98%超は同一である。しかしながら、その場合、少なくとも一部分において、異なるシリル基がポリマー基Yに結合している式(I)の化合物を含むベースポリマー(A)を使用することも可能である。最後に、ベースポリマー(A)として、合計で少なくとも2つの異なる種類のシリル基が存在するが、それぞれのポリマー基Yに結合されている全てのシリル基については同じである式(I)の異なる化合物の混合物を使用することも可能である。
【0033】
本発明に従って使用されるベースポリマー(A)において、式(I)中の添え字bが1または3であってもよく、添え字bが1であるベースポリマーを少なくとも1種と、添え字bが3であるベースポリマーを少なくとも1種含んでもよい。
【0034】
式(I)中の添え字bが1の場合には、2以上である場合に比べて反応性が高く、スズ触媒等の金属触媒を使用しなくとも架橋しうる点でより好ましい。
【0035】
ベースポリマー(A)が、異なる種類の式(I)の化合物を含む場合、好ましい混合物は、bが1であり、R1がHであり、aが0または1である式(III)または(IV)の末端基を有する化合物(A1)のみでなく、bが3であり、R1がHであり、aが0である式(IV)または(V)の末端基を有する化合物(A2)を含むものであり、特に好ましい混合物は、(A1)対(A2)の重量比が、0.1から10まで、好ましくは0.2から5までであるものである。
【0036】
本発明の架橋性組成物は、ベースポリマー(A)を、好ましくは40重量%以下、より好ましくは20重量%以下であり、好ましくは少なくとも2重量%、より好ましくは少なくとも5重量%の濃度で含む。
【0037】
ベースポリマー(A)の濃度を上記範囲内とすると、仕上がり性がさらに向上し、好適な機械的特性を有する塗膜を形成することが可能となる。また、基材との密着性がより高まり、プライマー施工をしない場合にも高い仕上がり性を得ることが可能となる。
ベースポリマー(A)の濃度が上記範囲よりも少なくなると、形成される塗膜がより硬度化し、割れやすくなるという現象が発生する。一方、ベースポリマー(A)の濃度が上記範囲よりも高くなると、得られる塗膜の平滑性が低下して仕上がり性が悪くなる。また得られる塗膜の硬度が低下して耐摩耗性が低下する傾向となる。
【0038】
ベースポリマー(A)に対し、シリコーン樹脂(B)は架橋性組成物全体の粘度を低下させ、かつ相溶性のあるベースポリマー(A)とともに透明性に優れた塗膜を構成する役割を有する。ベースポリマーをシリコーン樹脂よりも少ない適切な量(例えば架橋性組成物全体の50%以下)とすることにより、架橋性組成物全体の安定性が向上する。
粘度を低下させると、被塗布面である基材にスクラッチ等の傷があった場合にも、傷を埋めるように塗膜が形成され、かつ塗膜が形成される部分の盛り上がりが少ないため、平滑性の高い塗膜が得られ、仕上がり性が高くなる。
【0039】
本発明の架橋性組成物は、100重量部のベースポリマー(A)に基づき、好ましくは少なくとも100重量部の、より好ましくは、少なくとも400重量部の、より特定的には少なくとも800重量部のシリコーン樹脂(B)を含む。本発明の架橋性組成物は、100重量部のベースポリマー(A)に基づき、好ましくは10,000重量部以下、より好ましくは5,000重量部以下、より特定的には2,000重量部以下のシリコーン樹脂(B)を含む。
【0040】
上記配合とすることにより、ベースポリマーに対するシリコーン樹脂の相溶性が高くなり、その結果、架橋性組成物の透明性が高くなる。この透明性が高い架橋性組成物を含む床用塗料組成物を基材に塗布することにより、トップコートとして適した透明性の高い塗膜を得ることが可能となる。
また、上記配合とすることにより架橋性組成物全体の粘度、さらには基材への濡れ性を好適な範囲とすることが可能となる。シリコーン樹脂(B)を上記の範囲よりも多く含有すると、形成される塗膜の機械的強度が低下し、割れやすくなるという問題もある。
【0041】
シリコーン樹脂(B)は、好ましくは、少なくとも90重量%程度の式(II)の単位からなる。特に好ましくは、シリコーン樹脂(B)は、式(II)の単位のみからなる。
【0042】
基R3の例は、Rに対して上で特定した脂肪族の例である。基R3はまた、例えば、式(II)の2つのシリル基を互いに結び付けている、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、またはブチレン基等の1から10個の炭素原子を有するアルキレン基等の二価の脂肪族基を含むこともできる。二価の脂肪族基の1つの例は、エチレン基である。
【0043】
しかしながら、基R3は、好ましくは、ハロゲン原子により場合によって置換されており、1から18個までの炭素原子を有する一価のSiC-結合した脂肪族炭化水素原子群、より好ましくは1から6個までの炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、より特定的にはメチル基を含む。
【0044】
基R4の例は、水素原子、または、基Rに対して特定されている例である。
【0045】
基R4は、水素原子、または場合によりハロゲン原子によって置換されており、1から10個までの炭素原子を有するアルキル基、より好ましくは1から4個までの炭素原子を有するアルキル基、より特定的にはメチルおよびエチル基を含む。
【0046】
基R5の例は、Rに対して上で特定されている芳香族基である。
【0047】
基R5は、好ましくは、場合によってハロゲン原子によって置換されており1から18までの炭素原子を有するSiC-結合した芳香族炭化水素基、例えば、エチルフェニル、トリル、キシリル、クロロフェニル、ナフチル、またはスチリル基、より好ましくはフェニル基を含む。
【0048】
シリコーン樹脂(B)としての使用が好ましいのは、全ての基R3の少なくとも90%がメチル基であり、全ての基R4の少なくとも90%がメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピル基であり、全ての基R5の少なくとも90%がフェニル基であるシリコーン樹脂である。
【0049】
本発明に従えば、それぞれの場合に、式(II)の単位の総数に基づいて、cが0である式(II)の単位を少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%有するシリコーン樹脂(B)を使用することが優先される。
【0050】
それぞれの場合に、式(II)の単位の総数に基づいて、dが値3を表す式(II)の単位を少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%含むことが好ましい。この範囲とすることにより、適度な架橋密度が得られ、十分な硬度を有する塗膜が形成される。
【0051】
シリコーン樹脂(B)としてより優先的に使用されるのは、それぞれの場合に、式(II)の単位の総数に基づいて、eが0以外の値を表す式(II)の単位を少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より特定的には少なくとも30%有するシリコーン樹脂である。eが0以外である式(II)の単位のみを有するシリコーン樹脂(B)が使用され得る。
【0052】
それぞれの場合に、式(II)の単位の総数に基づいて、eが値1を表す式(II)の単位を少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%有するシリコーン樹脂(B)を使用することが優先される。eが1である式(II)の単位のみを有するシリコーン樹脂(B)が使用され得る。
【0053】
さらに、シリコーン樹脂(B)中の芳香族基が増加すると、ベースポリマー(A)とシリコーン樹脂(B)との混合物である架橋性組成物の貯蔵安定性が増加する。これは、メチル基に代表される脂肪族炭化水素基よりも、フェニル基に代表される芳香族炭化水素基を有するシリコーン樹脂のほうが安定性が高く、空気中の水分と反応して硬化する現象が起きにくいためと考えられる。
アミノプロピルトリメトキシシラン等に代表される架橋剤を架橋性組成物に添加した後においても、芳香族炭化水素基を有するシリコーン樹脂のほうが空気中の水分と反応しにくく、貯蔵安定性が高い傾向にある。
したがって、式(II)におけるeの値が1である単位を多く含有するほうが、より高い貯蔵安定性が得られ、好ましい。
【0054】
優先的に使用されるのは、それぞれの場合に、式(II)の単位の総数に基づいて、c+eの和が1である式(II)の単位を少なくとも50%有するシリコーン樹脂(B)である。
【0055】
本発明の1つの特に好ましい実施形態において、それぞれの場合に、式(II)の単位の総数に基づいて、eが値1を表し、cが値0を表す式(II)の単位を少なくとも20%、より好ましくは少なくとも40%有するシリコーン樹脂がシリコーン樹脂(B)として使用される。この場合、式(II)の総単位の好ましくは70%以下、より好ましくは40%以下は、0以外のdを有する。
【0056】
本発明の別の特に好ましい実施形態において、シリコーン樹脂(B)として使用されるシリコーン樹脂は、それぞれの場合に式(II)の単位の総数に基づいて、eが値1を表し、cが値0を表す式(II)の単位を少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%有する樹脂である。この場合、式(II)の全単位の好ましくは70%以下、より好ましくは40%以下は、0以外のdを有しており、式(II)の全単位の少なくとも1%は、0のdを有する。
【0057】
本発明に従って使用されるシリコーン樹脂(B)は、好ましくは少なくとも200g/モルの、より好ましくは少なくとも600g/モルの平均モル質量(数平均)Mnを有する。この平均モル質量Mnは、好ましくは1,500g/モル以下、より好ましくは1,000g/モル以下である。
【0058】
本発明に従って使用されるシリコーン樹脂(B)は、23℃および1,000hPaにおいて固体または液体のいずれかであり得、シリコーン樹脂(B)は、好ましくは液体である。このシリコーン樹脂(B)は、10から100,000mPasまで、好ましくは50から50,000mPasまで、より特定的には100から20,000mPasまでの粘度を好ましくは有する。このシリコーン樹脂(B)は、好ましくは5以下、より好ましくは3以下の多分散性(Mw/Mn)を有する。
【0059】
このシリコーン樹脂(B)は、純粋な形、または適当な溶媒中の溶液の形のいずれかで使用され得る。
【0060】
この場合に使用され得る溶媒としては、エーテル(例えば、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、グリコールのエーテル誘導体、THF)、エステル(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、グリコールエステル)、炭化水素(例えば、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、または他の長鎖の、分枝したおよび分枝していないアルカン)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、芳香族(例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン)、または他のアルコール(例えば、メタノール、エタノール、グリコール、プロパノール、イソプロパノール、グリセロール、ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール)が挙げられる。
【0061】
しかしながら、有機溶媒を含まないシリコーン樹脂(B)を使用することが好ましい。
【0062】
本発明に従って使用されるこのシリコーン樹脂(B)は、市販品である、またはケイ素化学において慣例的な方法によって調製され得る。
【0063】
使用されるベースポリマー(A)および(B)に加えて、本発明の架橋性組成物は、ベースポリマー(A)および(B)とは異なる、例えば、塩基性窒素を含む有機ケイ素化合物(C)、充填剤(D)、触媒(E)、接着促進剤(F)、水捕捉剤(G)、添加剤(H)および補助剤(K)等の全てのその他の物質を含むことができる。
【0064】
本発明の架橋性組成物において、本発明に従って場合によって使用される有機ケイ素化合物(C)は、硬化触媒または硬化共触媒の機能をもつこともできる。
さらに、本発明に従って場合によって使用される有機ケイ素化合物(C)は、接着促進剤としておよび/または水捕捉剤として作用することもできる。
【0065】
本発明の架橋性組成物が、成分(C)を含む場合、100重量部のベースポリマー(A)に基づいて、好ましくは0.1から25重量部、より好ましくは0.5から10重量部の成分(C)を含むことができる。
【0066】
本発明の架橋性組成物中に場合によって使用される充填剤(D)は、今までに知られている任意の望ましい充填剤であり得る。
【0067】
充填剤(D)の例は、非補強性充填剤、好ましくは、最大50m2/gのBET表面積を有する充填剤、例えば、石英、珪藻土、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、タルク、カオリン、ゼオライト、金属酸化物粉末、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化鉄、または酸化亜鉛および/またはそれらの混合酸化物、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、セッコウ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ホウ素、ガラス粉末およびポリマー粉末、例えば、ポリアクリロニトリル粉末;補強性充填剤、50m2/gを超えるBET表面積を有する充填剤、例えば、熱分解により調製されたシリカ、沈降シリカ、沈降炭酸カルシウム、カーボンブラック、例えばファーネスブラックおよびアセチレンブラックおよび高いBET表面積の混合ケイ素/アルミニウム酸化物;三水酸化アルミニウムの中空ビーズの形の充填剤、例えば、ドイツ、ノイスの3M Deutschland GmbHから商標名Zeeospheres(商標)の下で入手できるものが例である磁性マイクロビーズ、例えば、スウェーデン、スンツバルのAKZO NOBEL,Expancelから商標名EXPANCEL(登録商標)の下で入手できるその種の弾性ポリマービーズ
、またはガラスビーズ;繊維形状の充填剤、例えば、アスベストおよびまたポリマー繊維である。上記の充填剤は、例えば、オルガノシランおよび/もしくはオルガノシロキサンによる、または、ステアリン酸による処理によって、またはヒドロキシル基のアルコキシ基へのエーテル化によって疎水化されていてもよい。
【0068】
場合によって使用される充填剤(D)は、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満の水分含量を有する。
【0069】
本発明の架橋性組成物が充填剤(D)を含む場合、100重量部のベースポリマー(A)に基づいて、好ましくは10から1,000重量部まで、より好ましくは50から500重量部まで、より特定的には80から300重量部までであってもよい。
【0070】
本発明の架橋性組成物において場合によって使用される触媒(E)は、シラン縮合によって硬化する組成物に対して今までに知られている任意の望ましい触媒であり得る。
【0071】
金属を含む硬化触媒(E)の例は、有機チタンおよび有機スズ化合物であり、例は、チタン酸エステル、例えば、チタン酸テトラブチル、チタン酸テトラプロピル、チタン酸テトライソプロピルおよびチタンテトラアセチルアセトネート;スズ化合物、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクタノエート、ジブチルスズアセチルアセトネート、ジブチルスズオキシドおよび対応するジオクチルスズ化合物である。
【0072】
金属を含まない硬化触媒(E)の例は、塩基性化合物、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノン-5-エン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、N,N-ビス-(N,N-ジメチル-2-アミノエチル)メチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N-ジメチルフェニルアミンおよびN-エチルモルホリニン(ethylmorpholinine)である。
【0073】
触媒(E)として、酸性化合物、例えば、リン酸およびそのエステル、トルエンスルホン酸、硫酸、硝酸、またはその他の有機カルボン酸、例えば、酢酸および安息香酸を使用
することが同様に可能である。
【0074】
本発明の架橋性組成物が、触媒(E)を含む場合、含まれるその量は、100重量部のベースポリマー(A)に基づいて、好ましくは、0.01から20重量部まで、より好ましくは、0.05から5重量部までであってもよい。
【0075】
本発明の架橋性組成物において場合によって使用される接着促進剤(F)は、シラン縮合によって硬化する系に対してこれまでに記載されている任意の望ましい接着促進剤であり得る。
【0076】
接着促進剤(F)の例は、エポキシシラン、例えば、グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、グリシジルオキシプロピル-メチルジメトキシシラン、グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、またはグリシジルオキシプロピル-メチルジエトキシシラン、2-(3-トリエトキシシリルプロピル)無水マレイン酸、N-(3-トリメトキシシリルプロピル)尿素、N-(3-トリエトキシシリルプロピル)尿素、N-(トリメトキシシリルメチル)尿素、N-(メチルジメトキシシリルメチル)尿素、N-(3-トリエトキシシリルメチル)尿素、N-(3-メチルジエトキシシリルメチル)尿素、O-メチルカルバメートメチル-メチルジメトキシシラン、O-メチルカルバメートメチル-トリメトキシシラン、O-エチルカルバメートメチル-メチルジエトキシシラン、O-エチルカルバメートメチル-トリエトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピル-トリメトキシシラン、メタクリロイルオキシメチル-トリメトキシシラン、メタクリロイルオキシメチル-メチルジメトキシシラン、メタクリロイルオキシメチル-トリエトキシシラン、メタクリロイルオキシメチル-メチルジエトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピル-トリメトキシシラン、アクリロイルオキシメチル-トリメトキシシラン、アクリロイルオキシメチル-メチルジメトキシシラン、アクリロイルオキシメチル-トリエトキシシランおよびアクリロイルオキシメチル-メチルジエトキシシラン、およびまた、それらの部分的な縮合物である。
【0077】
本発明の架橋性組成物が、接着促進剤(F)を含む場合、含まれるその量は、架橋性組成物の100重量部に基づいて、好ましくは、0.5から30重量部まで、より好ましくは、1から10重量部までであってもよい。
【0078】
本発明の架橋性組成物中に場合によって使用される水捕捉剤(G)は、シラン縮合によって硬化する系に対して記載されている任意の望ましい水捕捉剤であり得る。
【0079】
水捕捉剤(G)の例は、シラン、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、O-メチルカルバメートメチル-メチルジメトキシシラン、O-メチルカルバメートメチル-トリメトキシシラン、O-エチルカル
バメートメチル-メチルジエトキシシラン、O-エチルカルバメートメチル-トリエトキシシランおよび/またはそれらの部分縮合物、およびまた、オルトエステル、例えば、1,1,1-トリメトキシエタン、1,1,1-トリエトキシエタン、トリメトキシメタンおよびトリエトキシメタンである。
【0080】
本発明の架橋性組成物が水捕捉剤(G)を含む場合、含まれるその量は、100重量部の架橋性組成物に基づいて、好ましくは、0.5から30重量部、より好ましくは、1から10重量部であってもよい。
【0081】
本発明の架橋性組成物中に場合によって使用される添加剤(H)は、今までに知られており、シラン架橋系に対して典型的な任意の望ましい添加剤であり得る。
【0082】
本発明に従って場合によって使用される添加剤(H)は、好ましくは、酸化防止剤、紫外線安定剤、例えば、HALS化合物、殺菌剤および顔料である。
【0083】
本発明の架橋性組成物が添加剤(H)を含む場合、含まれるその量は、100重量部のベースポリマー(A)に基づいて、好ましくは、0.01から30重量部、より好ましくは、0.1から10重量部であってもよい。
【0084】
本発明に従って場合によって使用される補助剤(K)は、好ましくは、例えばテトラエトキシシランのようなテトラアルコキシシランおよび/またはそれらの部分縮合物、反応性可塑剤を含めた可塑剤、レオロジー添加剤、難燃剤および有機溶媒である。
【0085】
可塑剤(K)の例は、フタル酸エステル(例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソオクチルおよびフタル酸ジウンデシル)、ペルヒドロ化フタル酸エステル(例えば、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステルおよび1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジオクチルエステル)、アジピン酸エステル(例えば、アジピン酸ジオクチル)、安息香酸エステル、グリコールエステル、飽和アルカンジオールのエステル(例えば、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレートおよび2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート)、リン酸エステル、スルホン酸エステル、ポリエステル、ポリエーテル(例えば、好ましくは1,000から10,000ダルトンのモル質量を有するポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール)、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、パラフィン炭化水素および分枝した高分子質量の炭化水素である。
【0086】
レオロジー添加剤(K)は、好ましくは、ポリアミドワックス、水素化ヒマシ油またはステアレートである。
【0087】
有機溶媒(K)の例は、溶媒として上で既に特定されている化合物、好ましくはアルコールである。
【0088】
本発明の架橋性組成物が、1種以上の成分(K)を含む場合、含まれるその量は、それぞれの場合、ベースポリマー(A)の100重量部に基づいて、好ましくは0.5から200重量部まで、より好ましくは1から100重量部まで、より特定的には2から70重量部までである。
【0089】
本発明の架橋性組成物は、それぞれの場合、25℃で、好ましくは500から1,000,000mPasまでの、より好ましくは1,000から500,000mPasまでの、より特定的には1,000から20,000mPasまでの粘度を好ましくは有する配合物である。
【0090】
本発明の組成物は、それ自体知られている任意の望ましい方法、例えば、湿気硬化性組成物製造に対して通例のような方法および混合技術によって製造され得る。さまざまな構成成分が互いに混合される順序は、適宜変動されてもよい。
【0091】
本発明はまた、上記架橋性組成物を含む床用塗料組成物である。
【0092】
床用塗料組成物には、架橋性組成物の他に、必要に応じて任意で架橋剤、チッソを含有する有機ケイ素化合物、触媒、接着促進剤、水捕捉剤、フィラー等を含むことができる。
【0093】
本発明の架橋性組成物を含む床用塗料が塗布される基材の表面は特に限定されず、コンクリートや木材等の多孔質面からなる床であってもよいが、基材表面に開孔部の少ないポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、大理石等の非細孔系基材からなる床であってもよい。
本発明の架橋性組成物を含む床用塗料が塗布される基材の表面はまた、新規な基材から構成される床面であってもよいが、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の塗料が塗布された既存塗膜から構成される床面であってもよい。
【0094】
本発明によってさらに提供されるのは、本発明の床用塗料組成物を少なくとも1つの基材の表面に塗布する第一ステップと、塗布された床用塗料組成物を架橋させる第二ステップとを含む、塗膜の形成方法である。
【0095】
本発明に従って塗膜を形成することができる基材の例は、木材、PVCを含めたプラスチック、コンクリートといった基材表面に開孔のある多孔質基材や、鉱物基材、金属、ガラス、セラミックス、大理石およびポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の塗料により塗装した表面といった、多孔質でない被塗布面を有する非細孔系基材である。
【0096】
本発明に係る塗膜の形成方法において、第一ステップは、プライマー施工をした後に実施することもできるが、プライマー施工をせずに、床用塗料組成物を基材に直接塗布する工程であってもよい。
【0097】
別段の断りのない限り、以下の実施例は、周囲の外気の圧力の下、言い換えれば、約1,000hPaで、および室温で、言い換えれば、約23℃で、または反応物が付加的な加熱または冷却なしで、室温で組み合わされるときになる温度で、およびまた、約50%の相対大気湿度で行なわれる。さらに、部および百分率に関する全ての記述は、特に示さなければ重量に基づく。
【実施例】
【0098】
以下の実施例は、以下の物質を使用した:
(ベースポリマー(A))
GENIOSIL(R)STP-E2:平均モル質量(Mn)が4000g/molであり、式-O-C(=O)-NH-CH2-SiCH3(OCH3)2の末端基を有する、シランを末端に有するポリプロピレングリコール(Wacker Chemie AG(ミュンヘン、ドイツ)から市販)。
【0099】
(シリコーン樹脂(B))
LX678:フェニル官能性T単位のみから成り、15重量%のメトキシ基含量および900g/molの平均モル質量を有する液体フェニルシリコーン樹脂(Wacker Chemie AG(ミュンヘン、ドイツ)から市販)。
SY231:フェニル官能性T単位およびメチル官能性T単位から成り、15重量%のメトキシ基含量および1800g/molの平均モル質量を有する液体フェニルシリコーン樹脂(Wacker Chemie AG(ミュンヘン、ドイツ)から市販)。
IC368:フェニル官能性T単位およびメチル官能性T単位から成り、15重量%のメトキシ基含量および1900g/molの平均モル質量を有する液体フェニルシリコーン樹脂(Wacker Chemie AG(ミュンヘン、ドイツ)から市販)。
平均モル質量が2000を超えるフェニルシリコーン樹脂:フェニル官能性T単位のみから成り、2700g/molの平均モル質量を有する液体フェニルシリコーン樹脂。
【0100】
上述の平均モル質量が2000を超えるフェニルシリコーン樹脂の製法は次のとおりである。
滴下漏斗、リービッヒ冷却器、スターラー、および温度計を備える容量2リットルの4つ口フラスコに、25℃で1000gのフェニルトリメトキシシランを導入し、20gの20%塩酸水溶液と攪拌しながら混合する。続いて、穏やかな還流が始まるまで、65~68℃の温度に加熱する。次に、還流下で、80gの水と30gのメタノールの混合物を30分間にわたって均一な速度で添加する。添加終了後、還流下での撹拌をさらに10分間続け、その後25℃まで冷却する。反応混合物を25℃で約16時間放置し、その後60gの炭酸水素ナトリウムを攪拌しながら加える。混合物を30分間撹拌し、次いで形成された固体を濾過により除去する。最後に、低沸点物(主にメタノール)を蒸留により除去する。最初に、取り出される留出物の量の約80~90%が1013mbar、120℃の温度で除去される。その後、10mbarまで減圧し、15~20分かけて残りの低沸点残留物を留去する。
これにより、平均モル質量が2700g/mol、粘度が23℃で60mPasの平均モル質量が2000を超えるフェニルシリコーン樹脂が得られる。
【0101】
(架橋剤)
GENIOSIL(R)GF 9:N-(2-アミノ-エチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(Wacker Chemie AG(ミュンヘン、ドイツ)から市販)。
【0102】
上記のベースポリマー(A)、シリコーン樹脂(B)、架橋剤は市販品を使用することができ、例えば特許文献1に記載されるような公知の方法で合成されてもよい。
【0103】
実施例1~3では、表1に記載する重量比に従って化合物を配合した。
【0104】
(実施例1)
最初にシリコーン樹脂(B)であるLX678を90g、直径が6.5cmのビーカーに投入する。次いで、ベースポリマー(A)であるGENIOSIL(R)STP-E2を10gと架橋剤GENIOSIL(R)GF 9を3g添加し、撹拌して、架橋性組成物を得た。架橋性組成物は高い透明性を有し、透明性評価結果はレベルAであった。また、この架橋性組成物を床用塗料組成物としてモルタルパネルに塗布した結果、トップコートとして適する透明性に優れた塗膜が得られた。
【0105】
(実施例2)
シリコーン樹脂(B)にSY231を90g使用した以外は実施例1と同様である。架橋性組成物は高い透明性を有し、透明性評価結果はレベルAであった。この架橋性組成物を床用塗料組成物としてモルタルパネルに塗布した結果、トップコートとして適する透明性に優れた塗膜が得られた。
【0106】
(実施例3)
シリコーン樹脂(B)にIC368を90g使用した以外は実施例1と同様である。架橋性組成物は高い透明性を有し、透明性評価結果はレベルAであった。この架橋性組成物を床用塗料組成物としてモルタルパネルに塗布した結果、トップコートとして適する透明性に優れた塗膜が得られた。
【0107】
(貯蔵安定性評価)
実施例1~3で調整した架橋性組成物の一部を、湿度50%の空気中で24時間23℃で保存する。
貯蔵安定性は目視で外観の変化を観測することにより評価した。ここで、ゲル化・硬化がなく、外観上の変化がなく液状である場合を〇、ゲル化した場合を△、硬化した場合を×として評価する。
評価結果は表1に示すとおりであり、フェニル官能性T単位のみを有するシリコーン樹脂を使用する実施例1で最も高い貯蔵安定性が得られた。
【0108】
(透明性評価)
実施例1~3において、貯蔵安定性評価に使用する以外の架橋性組成物は調整後すぐに透明性評価に使用した。
透明性評価では、日本分光株式会社製紫外可視分光光度計 (V-670型)を使用して、波長500nmにおける透過率を測定することにより行った。評価基準は透過率80%以上がレベルA、20%以上80%未満がレベルB、20%未満がレベルCとした。トップコートとして適する塗膜が得られる架橋性組成物の透明性としてはレベルAを合格基準とする。
【0109】
(比較例)
平均モル質量が2700g/molである平均モル質量が2000を超えるシリコーン樹脂(フェニル官能性T単位のみを有するシリコーン樹脂)を使用したところ、すべてのシリコーン樹脂がベースポリマー(A)に十分に溶解せず、白濁分離した状態となり、均一な架橋性組成物を構成することができなかった。透明性評価結果はレベルCであった。この架橋性組成物を床用塗料組成物としてモルタルパネルに塗布した結果、得られる塗膜は白濁しており、トップコートとして不適切であった。
【0110】