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特許7397679光ファイバ母材の製造方法及びこれを用いた光ファイバの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】光ファイバ母材の製造方法及びこれを用いた光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/012 20060101AFI20231206BHJP
   C03B 37/027 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C03B37/012 Z
C03B37/027 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020004975
(22)【出願日】2020-01-16
(65)【公開番号】P2021113134
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】李 廷廷
(72)【発明者】
【氏名】北村 隆之
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-162443(JP,A)
【文献】特開2016-147765(JP,A)
【文献】特開昭63-030340(JP,A)
【文献】特開2012-006779(JP,A)
【文献】国際公開第2016/114313(WO,A1)
【文献】特表2007-504080(JP,A)
【文献】国際公開第2013/105459(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00 - 37/06
G02B 6/00 - 6/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部、及び、前記コア部を包囲するクラッド部を有する光ファイバ母材を製造する光ファイバ母材の製造方法であって、
コア材を準備するコア材準備工程と、
前記コア材を用いて前記コア部を形成するコア部形成工程と、
前記コア部を包囲するように前記クラッド部を形成するクラッド部形成工程とを含み、
前記コア材準備工程が、
ガラス管の内側の中空部にアルカリ金属化合物の蒸気を、酸素ガスを含むキャリアガスとともに供給しながら、前記ガラス管の長手方向に沿ってトラバースする熱源によって前記ガラス管を加熱し、前記ガラス管の内表面にアルカリ金属酸化物を堆積させて前記ガラス管のバルク内にアルカリ金属を添加させるアルカリ金属添加工程を含み、
前記アルカリ金属添加工程が、
前記ガラス管の内表面近傍における前記アルカリ金属の第1最終濃度が第1初期濃度よりも高くなるように前記アルカリ金属の濃度を増加させる複数の濃度増加工程と、
前記濃度増加工程同士の間の箇所のうち少なくとも1箇所で行われ、前記ガラス管の内表面近傍における前記アルカリ金属の第2最終濃度が第2初期濃度よりも低くなるように前記アルカリ金属の濃度を低下させる濃度低下工程とを含む、光ファイバ母材の製造方法。
【請求項2】
前記コア材準備工程が、前記アルカリ金属添加工程の後に、前記ガラス管の外径を縮小させる縮径工程をさらに含む、請求項1に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項3】
前記濃度低下工程において、前記熱源による前記ガラス管の外表面における温度を前記濃度増加工程における前記ガラス管の外表面における温度よりも低く又は高くすることにより、前記ガラス管の内表面近傍における前記アルカリ金属の第2最終濃度が第2初期濃度よりも低くなるように前記アルカリ金属の濃度を低下させる、請求項1又は2に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項4】
前記濃度低下工程において、前記熱源のトラバース速度を前記濃度増加工程における前記熱源のトラバース速度よりも小さく又は大きくすることにより、前記ガラス管の内表面近傍における前記アルカリ金属の第2最終濃度が第2初期濃度よりも低くなるように前記アルカリ金属の濃度を低下させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属添加工程において、前記濃度低下工程から前記濃度増加工程に切り替える場合には、前記濃度低下工程において前記アルカリ金属の濃度を低下させる条件を、予め前記濃度増加工程において前記アルカリ金属の濃度を増加させる条件に戻す、請求項1~4のいずれか一項に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属添加工程において、前記濃度低下工程から前記濃度増加工程に切り替える場合には、前記濃度低下工程において前記アルカリ金属の濃度を低下させる条件を、予め前記濃度低下工程の直前の前記濃度増加工程において前記アルカリ金属の濃度を増加させる条件に戻、請求項5に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ金属添加工程において、前記濃度低下工程が複数回行われ、前記濃度増加工程から2回目以降の前記濃度低下工程に切り替える場合には、前記濃度増加工程において前記アルカリ金属の濃度を増加させる条件を、予め前記濃度低下工程において前記アルカリ金属の濃度を低下させる条件に戻す、請求項1~6のいずれか一項に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ金属添加工程において、前記濃度増加工程から2回目以降の前記濃度低下工程に切り替える場合には、前記濃度増加工程において前記アルカリ金属の濃度を増加させる条件を、予め前記濃度増加工程の直前の前記濃度低下工程において前記アルカリ金属の濃度を低下させる条件に戻す、請求項7に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の光ファイバ母材の製造方法により製造される光ファイバ母材を準備する母材準備工程と、
前記母材準備工程で準備された前記光ファイバ母材を線引きして光ファイバを得る線引き工程とを含む、光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材の製造方法及びこれを用いた光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、伝送損失を低くする観点から、アルカリ金属がコアに添加された光ファイバが知られている。
【0003】
このような光ファイバを形成するための光ファイバ母材の製造方法として、例えば下記特許文献1に記載の製造方法が知られている。同文献では、アルカリ金属をガラス管に添加させるアルカリ金属添加工程、ガラス管を縮径させる縮径工程、ガラス管を中実化する中実化工程等を行ってコア部を形成した後、コア部の周囲にクラッド部を形成して光ファイバ母材を製造する方法が開示されている。また同文献には、アルカリ金属添加工程でアルカリ金属化合物の蒸気を酸素ガスとともにガラス管の内側の中空内部に流し、外部熱源によりガラス管を加熱しながら、アルカリ金属をガラス管中に拡散添加させ、縮径工程では、アルカリ金属蒸気の供給を停止し、外部熱源によるガラス管の加熱を続けて行ってガラス管を縮径し、最終的に中実化工程において中実化を行うことも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-136485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の光ファイバ母材の製造方法は、光ファイバ母材を線引きして光ファイバを製造する場合に、得られる光ファイバにおける伝送損失の点で改善の余地を有していた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、伝送損失の増加が抑制された光ファイバを形成することが可能な光ファイバ母材を製造できる光ファイバ母材の製造方法及びこれを用いた光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた。その結果、上記特許文献1に記載の光ファイバ母材の製造方法では、アルカリ金属添加工程でガラス管にガラス管の内表面からアルカリ金属を添加させる際に、アルカリ金属の添加が拡散よりも優位に行われ、外部熱源をトラバースするたびごとにガラス管の内表面近傍におけるアルカリ金属の最終濃度が増加し、アルカリ金属添加工程が終了した時点で、ガラス管の内表面近傍におけるアルカリ金属の最終濃度が非常に大きくなるのではないかと本発明者らは考えた。そして、さらに、ガラス管の内表面近傍でアルカリ金属の最終濃度が非常に大きくなる結果、ガラス管内で結晶化が起こりやすくなり、この結晶が、光ファイバ母材のコア部に残り、さらには光ファイバ母材の線引きにより得られる光ファイバのコアにも残る結果、光ファイバの伝送損失が増加し得るのではないかと本発明者らは考えた。そこで、本発明者らは、さらに鋭意検討を重ねた結果、以下の発明により上記課題を解決し得ることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、コア部、及び、前記コア部を包囲するクラッド部を有する光ファイバ母材を製造する光ファイバ母材の製造方法であって、コア材を準備するコア材準備工程と、前記コア材を用いて前記コア部を形成するコア部形成工程と、前記コア部を包囲するように前記クラッド部を形成するクラッド部形成工程とを含み、前記コア材準備工程が、ガラス管の内側の中空部にアルカリ金属化合物の蒸気を、酸素ガスを含むキャリアガスとともに供給しながら、前記ガラス管の長手方向に沿ってトラバースする熱源によって前記ガラス管を加熱し、前記ガラス管の内表面にアルカリ金属酸化物を堆積させて前記ガラス管のバルク内にアルカリ金属を添加させるアルカリ金属添加工程を含み、前記アルカリ金属添加工程が、前記ガラス管の内表面近傍における前記アルカリ金属の第1最終濃度が第1初期濃度よりも高くなるように前記アルカリ金属の濃度を増加させる複数の濃度増加工程と、前記濃度増加工程同士の間の箇所のうち少なくとも1箇所で行われ、前記ガラス管の内表面近傍における前記アルカリ金属の第2最終濃度が第2初期濃度よりも低くなるように前記アルカリ金属の濃度を低下させる濃度低下工程とを含む、光ファイバ母材の製造方法である。
【0009】
上記製造方法によれば、ガラス管の内側の中空部にアルカリ金属化合物の蒸気を、酸素ガスを含むキャリアガスとともに供給しながら、ガラス管の長手方向に沿ってトラバースする熱源によってガラス管を加熱し、ガラス管の内表面にアルカリ金属酸化物を堆積させてガラス管のバルク内にアルカリ金属を添加させるアルカリ金属添加工程が行われる。そして、アルカリ金属添加工程では、ガラス管の内表面近傍におけるアルカリ金属の第1最終濃度が第1初期濃度よりも高くなるようにアルカリ金属の濃度を増加させる複数の濃度増加工程が行われ、濃度増加工程同士の間の箇所のうち少なくとも1箇所で、ガラス管の内表面近傍におけるアルカリ金属の第2最終濃度が第2初期濃度よりも低くなるようにアルカリ金属の濃度を低下させる濃度低下工程が行われ、コア材が準備される。そして、こうして準備されたコア材を用いてコア部が形成される。このため、ガラス管のバルク内に添加されるアルカリ金属の総量が同じである場合、濃度増加工程同士の間の箇所のうち少なくとも1箇所で、上記の濃度低下工程が行われることにより、アルカリ金属添加工程において最後に行われる濃度増加工程におけるガラス管の内表面近傍でのアルカリ金属の最終濃度を、複数の濃度増加工程を全て行った後に濃度低下工程を行う場合に比べて、低下させることができる。このため、ガラス管において結晶化を起こりにくくすることができ、コア部内の結晶を低減することができる。従って、このようなコア部をクラッド部で包囲した後、線引きにより光ファイバを製造する場合に、伝送損失の増加が抑制された光ファイバを形成することが可能な光ファイバ母材を製造することができる。
【0010】
上記光ファイバ母材の製造方法は、前記コア材準備工程が、前記アルカリ金属添加工程の後に、前記ガラス管の外径を縮小させる縮径工程をさらに含むことが好ましい。
【0011】
この場合、アルカリ金属添加工程の後に縮径工程が行われると、縮径工程の後にアルカリ金属添加工程が行われる場合に比べて相対的にガラス管の肉厚が薄くなるため、アルカリ金属をガラス管においてより外周側まで拡散させることができる。そのため、得られる光ファイバ母材のコア部において、アルカリ金属をより広く分布させることができる。
【0012】
上記光ファイバ母材の製造方法においては、前記濃度低下工程において、前記熱源による前記ガラス管の外表面における温度を前記濃度増加工程における前記ガラス管の外表面における温度よりも低く又は高くすることにより、前記ガラス管の内表面近傍における前記アルカリ金属の第2最終濃度が第2初期濃度よりも低くなるように前記アルカリ金属の濃度を低下させることが好ましい。
【0013】
この場合、濃度低下工程において、熱源によるガラス管の外表面における温度を濃度増加工程におけるガラス管の外表面における温度よりも低くすると、ガラス管の内側の中空部におけるアルカリ金属酸化物の生成量を減ずることができ,その結果、ガラス管の内表面への堆積量を減ずることができる。一方、熱源によるガラス管の外表面における温度を濃度増加工程におけるガラス管の外表面における温度よりも高くすることにより、ガラス管の内表面に堆積したアルカリ金属酸化物のガラス管のバルク内への拡散を促進することができる。従って、ガラス管の内表面近傍におけるアルカリ金属の濃度を効果的に低下させることができる。また、濃度低下工程が終了して次の濃度増加工程を行う際、熱源によるガラス管の外表面における温度については極めて容易に変更することができ、濃度増加工程の後の濃度低下工程を直ちに行うことができるし、濃度低下工程の後の濃度増加工程を直ちに行うこともできる。
【0014】
上記光ファイバ母材の製造方法においては、前記濃度低下工程において、前記熱源のトラバース速度を前記濃度増加工程における前記熱源のトラバース速度よりも小さく又は大きくすることにより、前記ガラス管の内表面近傍における前記アルカリ金属の第2最終濃度が第2初期濃度よりも低くなるように前記アルカリ金属の濃度を低下させることが好ましい。
【0015】
この場合、濃度低下工程において、熱源のトラバース速度が濃度増加工程における熱源のトラバース速度よりも小さい場合、ガラス管の単位時間当たりの加熱時間が長くなるため、アルカリ金属酸化物が、アルカリ金属酸化物の堆積量が少ない又はガラス管の結晶化が起こらないうちにガラス管の内表面から外径方向に向かって拡散しやすくなる。一方、濃度低下工程において、熱源のトラバース速度が濃度増加工程における熱源のトラバース速度よりも大きい場合、単位時間当たりのアルカリ金属酸化物のガラス管の内表面への堆積量を減らすことができる。従って、ガラス管の内表面近傍におけるアルカリ金属の濃度を効果的に低下させることができる。また、濃度低下工程が終了して次の濃度増加工程を行う際、熱源のトラバース速度については極めて容易に変更することができ、濃度増加工程の後の濃度低下工程を直ちに行うことができるし、濃度低下工程の後の濃度増加工程を直ちに行うこともできる。
【0016】
上記光ファイバ母材の製造方法においては、前記アルカリ金属添加工程において、前記濃度低下工程から前記濃度増加工程に切り替える場合には、前記濃度低下工程において前記アルカリ金属の濃度を低下させる条件を、予め前記濃度増加工程において前記アルカリ金属の濃度を増加させる条件に戻すことが好ましい。また、上記光ファイバ母材の製造方法においては、前記アルカリ金属添加工程において、前記濃度増加工程から前記濃度低下工程に切り替える場合には、前記濃度増加工程において前記アルカリ金属の濃度を増加させる条件を、予め前記濃度低下工程において前記アルカリ金属の濃度を低下させる条件に戻すことが好ましい。
【0017】
この場合、濃度増加工程及び濃度低下工程の合計の時間が同じである場合、すなわち添加されるアルカリ金属の量が同じである場合であっても、ガラス管の内表面近傍のアルカリ金属の濃度が一時的に高くなることが抑制されるため、ガラス管が結晶化しにくくなる。
【0018】
このとき、前記アルカリ金属添加工程において、前記濃度低下工程から前記濃度増加工程に切り替える場合には、前記濃度低下工程において前記アルカリ金属の濃度を低下させる条件を、予め前記濃度低下工程の直前の前記濃度増加工程において前記アルカリ金属の濃度を増加させる条件に戻すことが好ましい。また、前記アルカリ金属添加工程において、前記濃度増加工程から前記濃度低下工程に切り替える場合には、前記濃度増加工程において前記アルカリ金属の濃度を増加させる条件を、予め前記濃度増加工程の直前の前記濃度低下工程において前記アルカリ金属の濃度を低下させる条件に戻すことが好ましい。
【0019】
この場合、濃度増加工程及び濃度低下工程の合計の時間が同じ場合、すなわち添加されるアルカリ金属の量が同じ場合であっても、ガラス管の内表面近傍のアルカリ金属酸化物の濃度が一時的に高くなることがより抑制されるため、ガラス管がより結晶化しにくくなる。
【0020】
また、本発明は、上述した光ファイバ母材の製造方法により製造される光ファイバ母材を準備する母材準備工程と、前記母材準備工程で準備された前記光ファイバ母材を線引きして光ファイバを得る線引き工程とを含む、光ファイバの製造方法である。
【0021】
この光ファイバの製造方法によれば、上述した光ファイバ母材の製造方法により、ガラス管において結晶化を起こりにくくすることができ、コア部内の結晶を低減することができる。このため、このようなコア部をクラッド部で包囲して製造した光ファイバ母材を線引きして光ファイバを製造する場合に、伝送損失の増加が抑制された光ファイバを製造することができる。
【0022】
なお、本発明において、「ガラス管のバルク」とは、ガラス管の内表面と外表面との間の部分をいう。
【0023】
また、本発明において、「ガラス管の内側の中空部」とは、ガラス管の内表面によって囲まれる中空の部分をいう。
【0024】
さらに、本発明において、「内表面近傍」とは、ガラス管のバルクであって、ガラス管の内表面からガラス管の径方向外側の領域であって、添加されたアルカリ金属が拡散する領域であり、例えば、添加されたアルカリ金属の濃度が特に高くなる領域として、ガラス管の内表面からガラス管の肉厚の1/10の厚さよりも薄い領域をいう。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、伝送損失の増加が抑制された光ファイバを形成することが可能な光ファイバ母材を製造できる光ファイバ母材の製造方法及びこれを用いた光ファイバの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の光ファイバ母材の製造方法により製造される光ファイバ母材の一例を示す端面図である。
図2】本発明の光ファイバ母材の製造方法においてコア部を形成するのに用いるコア材を示す端面図である。
図3】本発明の光ファイバ母材の製造方法に含まれるアルカリ金属添加工程を示す図である。
図4】ガラス管の内表面近傍におけるアルカリ金属の濃度の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<光ファイバ母材の製造方法>
以下、本発明の光ファイバ母材の製造方法の実施形態について詳細に説明する。
【0028】
まず、本発明の光ファイバ母材の一実施形態について図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の光ファイバ母材の製造方法により製造される光ファイバ母材の一例を示す端面図である。
【0029】
図1に示すように、光ファイバ母材10は、中実状の母材であり、コア部1と、コア部1を包囲するクラッド部2とを備えている。
【0030】
次に、光ファイバ母材10の製造方法について図2図4を参照しながら説明する。図2は、本発明の光ファイバ母材の製造方法においてコア部を形成するのに用いるコア材を示す端面図であり、図3は、本発明の光ファイバ母材の製造方法に含まれるアルカリ金属添加工程を示す図であり、図4は、ガラス管の内表面近傍におけるアルカリ金属の濃度の時間変化を示すグラフである。
【0031】
図2に示すように、まずコア材11を準備する(コア材準備工程)。
【0032】
コア材11を形成するには、図3に示すように、まずガラス管21の両端にそれぞれ第1ダミー管22及び第2ダミー管23が接続された複合ガラス管20を用意し、第1ダミー管22及び第2ダミー管23を、図示しない旋盤に回転可能に支持させる。ガラス管21、第1ダミー管22,第2ダミー管23はそれぞれ例えばシリカガラスで構成される。
【0033】
第1ダミー管22の内部には、第1ダミー管22とガラス管21との接続部から離れた位置に、原料となるアルカリ金属化合物30が固体の状態で配置される。アルカリ金属化合物30としては、例えばアルカリ金属のハロゲン化物(塩化物、臭素化物、フッ化物)、硫化物、炭酸塩、炭酸水素塩などを用いることができる。アルカリ金属としては、例えばカリウム、リチウム、ナトリウム、ルビジウム、セシウムなどが挙げられる。
【0034】
また、第1ダミー管22を包囲するように、原料となるアルカリ金属化合物30を加熱する第1熱源41が設けられている。ガラス管21の外側には、ガラス管21を外側から加熱する第2熱源42が設けられている。第2熱源42は、ガラス管21の長手方向Aに沿ってトラバースすることが可能となっている。第1熱源41及び第2熱源42としては、例えば酸水素バーナ、電気炉などを用いることができる。
【0035】
また、複合ガラス管20には、第1ダミー管22側からキャリアガスCを供給することが可能となっており、排気ガスEがダミー管23側から排気されるようになっている。キャリアガスとしては、Oガス、不活性ガス又はこれらの混合物が挙げられる。不活性ガスとしては、例えばヘリウム及びアルゴンが挙げられる。
【0036】
次に、旋盤によって、複合ガラス管20をその長手方向Aに沿った中心軸回りに回転させながら、第1熱源41によってアルカリ金属化合物30を加熱して溶融させ、アルカリ金属化合物30の蒸気を生成させる。
【0037】
一方、複合ガラス管20の第1ダミー管22側から、Oガスを含むキャリアガスを供給する。すると、アルカリ金属化合物30の蒸気はキャリアガスによって下流側に流され、第1ダミー管22及びガラス管21の接続部と、原料となるアルカリ金属化合物30を配置した部分との間の領域R1で冷却され、微粒子となり、エアロゾルとなってガラス管21の内側の中空部に供給される。
【0038】
他方、第2熱源42をガラス管21の長手方向Aに沿って往復移動させる。このとき、ガラス管21の内側の中空部でアルカリ金属化合物がキャリアガスC中のOガスと酸化反応してアルカリ金属酸化物となり、ガラス管21の内表面に堆積される。このとき、アルカリ金属酸化物は、サーモフォレシス効果により、第2熱源42による加熱部よりも下流側のガラス管21の内表面に堆積される。そして、第2熱源42が後から、堆積したアルカリ金属酸化物を通過するときに、アルカリ金属酸化物がガラス管21の内表面から外径方向に向かってガラス管21のバルク内に拡散される。こうして、ガラス管21にアルカリ金属を添加させる(アルカリ金属添加工程)。
【0039】
アルカリ金属添加工程においては、まず、図4に示すように、ガラス管21の内表面近傍においてアルカリ金属の第1最終濃度C2が第1初期濃度C1よりも高くなるようにアルカリ金属の濃度を増加させる(濃度増加工程)。このとき、アルカリ金属の濃度は、第1初期濃度C1から始まり、最大となった後、第1最終濃度C2に達する。アルカリ金属の濃度がこのように変化するのは以下の理由による。
【0040】
すなわち、まず、最初はサーモフォレシス効果でアルカリ金属酸化物がガラス管21の内表面に堆積し,一部はガラス管21のバルク内に溶解し始めるので、ガラス管21の内表面近傍におけるアルカリ金属の濃度が高くなる。次に、時間の経過につれて第2熱源42が近づくことでガラス管21の温度が高くなり、アルカリ金属酸化物の堆積量及び溶解量が増えるので、ガラス管21の内表面近傍におけるアルカリ金属濃度が一層高くなる。しかし、アルカリ金属化合物30の供給量の制約により、アルカリ金属酸化物の堆積量は飽和状態となり、アルカリ金属の濃度は最大となる。次に、第2熱源42がさらに近づくと、ガラス管21の温度が高くなってアルカリ金属酸化物のガラス管21の内表面側から外表面側への拡散が始まるので、ガラス管21の内表面近傍におけるアルカリ金属濃度が低下し始める。そして、第2熱源42がさらに一層近づくと、ガラス管21の温度がさらに高くなってアルカリ金属酸化物の拡散速度が大きくなり、ガラス管21の内表面近傍におけるアルカリ金属濃度が低下する。そして、第2熱源42が離れると、ガラス管21の温度が低下するので、アルカリ金属酸化物の拡散がほとんど止まり、ガラス管21の内表面近傍におけるアルカリ金属濃度が一定に近づく。
【0041】
この濃度増加工程は、第2熱源42をガラス管21の長手方向Aに沿って一定速度でトラバースさせ、1往復させたときに完了する(1回目のトラバース)。このとき、第2熱源42により、ガラス管21の外表面を例えば1500℃以上2100℃以下に加熱する。また、第2熱源42のトラバース速度は、下流側に向かう速度については、例えば25~150mm/分とし、上流側に向かう速度については、ガラス管21の内表面近傍におけるアルカリ金属の濃度分布に影響を与えないよう,ガラス管21の外表面が1000℃以下になる程度に高速に、例えば100~400mm/秒とする。
【0042】
次に、図4に示すように、ガラス管21の内表面近傍においてアルカリ金属の第2最終濃度C3が第2初期濃度(すなわち直前に行われた濃度増加工程におけるアルカリ金属の第1最終濃度)C2よりも低くなるようにアルカリ金属の濃度を低下させる(濃度低下工程)。このとき、アルカリ金属の濃度は、第2初期濃度C2から始まり、時間とともに低下して第2最終濃度C3に達する。また、濃度低下工程は、濃度増加工程と同様、第2熱源42をガラス管21の長手方向Aに沿って一定速度でトラバースさせ、1往復させたときに完了する(2回目のトラバース)。
【0043】
そして、濃度低下工程から濃度増加工程に切り替える前に、濃度低下工程においてアルカリ金属の濃度を低下させる条件を、予め濃度増加工程においてアルカリ金属の濃度を増加させる条件に戻す。具体的には、第2熱源42により、ガラス管21の外表面の温度及び第2熱源42のトラバース速度を、先に行った濃度増加工程と同様とする。
【0044】
次に、ガラス管21の内表面近傍においてアルカリ金属の第1最終濃度C4が第1初期濃度(すなわち直前に行われた濃度低下工程の第2最終濃度)C3よりも高くなるようにアルカリ金属の濃度を増加させる(濃度増加工程)。このとき、アルカリ金属の濃度は、第1初期濃度C3から始まり、最大となった後、第1最終濃度C4に達する。この濃度増加工程は、第2熱源42をガラス管21の長手方向Aに沿ってトラバースさせ、1往復させたときに完了する(3回目のトラバース)。
【0045】
そして、濃度増加工程から濃度低下工程に切り替える前に、濃度増加工程においてアルカリ金属の濃度を増加させる条件を、予め濃度低下工程においてアルカリ金属の濃度を低下させる条件に戻す。具体的には、第2熱源42によるガラス管21の外表面の温度及び第2熱源42のトラバース速度を、先に行った濃度低下工程と同様とする。
【0046】
次に、図4に示すように、ガラス管21の内表面近傍においてアルカリ金属の第2最終濃度C5が第2初期濃度(すなわち直前に行われた濃度増加工程におけるアルカリ金属の第1最終濃度)C4よりも低くなるようにアルカリ金属の濃度を低下させる(濃度低下工程)。このとき、アルカリ金属の濃度は、第2初期濃度C4から始まり、時間とともに低下して第2最終濃度C5に達する。このとき、濃度低下工程は、濃度増加工程と同様、第2熱源42をガラス管21の長手方向Aに沿ってトラバースさせ、1往復させたときに完了する(4回目のトラバース)。
【0047】
次に、アルカリ金属が添加されたガラス管21の外径を縮小させる(縮径工程)。縮径工程は通常,第1熱源41によるアルカリ金属化合物30の加熱を停止することでガラス管21の内側の中空部へのアルカリ金属化合物の供給を停止した条件で実施する。縮径工程は、ガラス管21の内圧を外圧よりも低くしながらガラス管21を加熱したり、ガラス管21の外表面の温度がアルカリ金属添加工程におけるガラス管21の外表面の温度よりも高くなるようにガラス管21を加熱したりすることによって行うことができる。添加されたアルカリ金属は,縮径工程においても,ガラス管21の内表面側から外表面側への拡散が進行する。
【0048】
続いて、縮径されたガラス管21を最終的に中実化してコア材11を得る(中実化工程)。添加されたアルカリ金属は,中実化工程においても,ガラス管21の内表面側から外表面側への,あるいはコア材11の中心から外周側への拡散が進行する。
【0049】
続いて、複合ガラス管20を構成していた第1ダミー管22及び第2ダミー管23を、溶断によりコア材11から除去する。
【0050】
そして、コア材11に対し、必要に応じて延伸及び外周研削などを行い、コア部1を形成する(コア部形成工程)。
【0051】
次に、コア部1を包囲するようにクラッド部2を形成する(クラッド部形成工程)。クラッド部2は、コア部1よりも低い屈折率を有するように形成する。
【0052】
通常クラッド部2はコア部1よりも体積が大きいので、複数回に分けて層状に形成してもよい。コア部1とクラッド部2の屈折率差,半径比は,必要とする光ファイバの特性に応じて適宜選択してよい。またクラッド部2は異なる屈折率を持つ複数の層から形成されてもよい。以上のようにして光ファイバ母材10が製造される。
【0053】
上記製造方法によれば、ガラス管21の内側の中空部にアルカリ金属化合物30の蒸気を、Oガスを含むキャリアガスとともに供給しながら、ガラス管21の長手方向に沿ってトラバースする第2熱源42によってガラス管21を加熱し、ガラス管21の内表面にアルカリ金属酸化物を堆積させてガラス管21のバルク内にアルカリ金属を添加させるアルカリ金属添加工程が行われる。そして、アルカリ金属添加工程では、ガラス管21の内表面近傍におけるアルカリ金属の第1最終濃度が第1初期濃度よりも高くなるようにアルカリ金属の濃度を増加させる2回の濃度増加工程が行われ、2回の濃度増加工程同士間の箇所で、ガラス管21の内表面近傍におけるアルカリ金属の第2最終濃度が第2初期濃度よりも低くなるようにアルカリ金属の濃度を低下させる濃度低下工程が行われ、さらに濃度低下工程の後に濃度増加工程が行われる。すなわち、濃度増加工程及び濃度低下工程からなるステップが複数回繰り返される。こうしてコア材11が準備され、コア材11を用いてコア部1が形成される。このため、ガラス管21のバルク内に添加されるアルカリ金属の総量が同じである場合、濃度増加工程同士の間の箇所のうち2箇所で、上記の濃度低下工程が行われることにより、アルカリ金属添加工程において最後に行われる濃度増加工程におけるガラス管21の内表面近傍でのアルカリ金属の最終濃度を、複数の濃度増加工程を全て行った後に濃度低下工程を行う場合に比べて低下させることができる。
【0054】
例えば図4において、第2熱源42の2回目のトラバースで濃度低下工程を、破線で示すように濃度増加工程に変更し、3回目のトラバースで濃度増加工程を、破線で示すように濃度低下工程に変更すると、2回の濃度増加工程を全て行った後、濃度低下工程を2回連続して行うことになる。この場合、2回目に行われる濃度増加工程(最後に行われる濃度増加工程)におけるガラス管21の内表面近傍でのアルカリ金属の第1最終濃度はC6となる。一方、本実施形態では、2回目に行われる濃度増加工程(最後に行われる濃度増加工程)におけるガラス管21の内表面でのアルカリ金属の第1最終濃度はC4となる。そして、C4は、C6よりもΔCだけ低下することになる。
【0055】
このようにガラス管21の内表面近傍においてアルカリ金属の濃度をより低下させることができるため、ガラス管21において結晶化を起こりにくくすることができ、コア部1内の結晶を低減することができる。このため、このようなコア部1をクラッド部2で包囲して光ファイバ母材10を製造すると、線引きにより光ファイバを製造する場合に、伝送損失の増加が抑制された光ファイバを形成することが可能な光ファイバ母材10を製造することができる。
【0056】
また、上記製造方法では、アルカリ金属添加工程の後に縮径工程が行われる。このため、縮径工程の後にアルカリ金属添加工程が行われる場合に比べて相対的にガラス管21の肉厚が薄くなるため、アルカリ金属をガラス管21においてより外周側まで拡散させることができる。そのため、得られる光ファイバ母材10のコア部1において、アルカリ金属をより広く分布させることができる。
【0057】
さらに、上記製造方法では、濃度低下工程から濃度増加工程に切り替える場合には、濃度低下工程においてアルカリ金属の濃度を低下させる条件を、予め濃度低下工程の直前の濃度増加工程においてアルカリ金属の濃度を増加させる条件に戻し、濃度増加工程から濃度低下工程に切り替える場合には、濃度増加工程においてアルカリ金属の濃度を増加させる条件を、予め濃度増加工程の直前の濃度低下工程においてアルカリ金属の濃度を低下させる条件に戻している。このため、濃度増加工程及び濃度低下工程の合計の時間が同じである場合、すなわち添加されるアルカリ金属の量が同じである場合であっても、ガラス管21の内表面近傍のアルカリ金属の濃度が一時的に高くなることがより抑制されるため、ガラス管21がより結晶しにくくなる。
【0058】
次に、上記濃度低下工程について詳細に説明する。
【0059】
濃度低下工程は、具体的には、以下の(1)~(4)の工程を行うことによって実現することができる。
(1)アルカリ金属化合物30の供給量を、濃度増加工程におけるアルカリ金属化合物30の供給量よりも減少させる工程。
(2)Oガスの供給量を、濃度増加工程におけるOガスの供給量よりも減少させる工程。
(3)第2熱源42の温度を、濃度増加工程における第2熱源42の温度よりも低く又は高くする工程。
(4)第2熱源42のトラバース速度を、濃度増加工程における第2熱源42のトラバース速度よりも小さく又は大きくする工程。
【0060】
(1)の工程は、具体的には、アルカリ金属化合物30に対する第1熱源41による加熱温度をアルカリ金属化合物30の融点未満の温度にする、第1熱源41による加熱を止める、又は複合ガラス管20の内側の中空部にシャッター(図示せず)を設け、第1ダミー管22からガラス管21の内側の中空部にアルカリ金属化合物30が供給されることを阻止することなどによって行うことができる。
【0061】
(2)の工程は、具体的には、キャリアガスの供給量を濃度増加工程時のキャリアガスの供給量よりも減少させる、又は、キャリアガス中のOガスの割合を濃度増加工程時のOガスの割合よりも低下させる(例えば100%から0%にする)ことなどによって行うことができる。
【0062】
上記(1)又は(2)の工程によれば、アルカリ金属酸化物の生成量が濃度増加工程における生成量よりも減少するため、アルカリ金属酸化物のガラス管21の内表面への堆積量を減少させることができ、ガラス管21の内表面におけるアルカリ金属の濃度を効率よく低下させることができる。
【0063】
(3)の工程によれば、濃度低下工程において、第2熱源42によるガラス管21の外表面における温度を、濃度増加工程におけるガラス管21の外表面における温度よりも低くすると、ガラス管21の内表面におけるアルカリ金属酸化物の生成量を減ずることができる。一方、第2熱源42によるガラス管21の外表面における温度を濃度増加工程におけるガラス管21の外表面における温度よりも高くすることにより、ガラス管21の内表面に堆積したアルカリ金属酸化物のガラス管21への拡散を促進することができる。従って、ガラス管21の内表面近傍におけるアルカリ金属の濃度を効果的に低下させることができる。また、濃度増加工程が終了して濃度低下工程を行う際、逆に濃度低下工程が終了して次の濃度増加工程を行う際、第2熱源42として酸水素火炎を用いた場合には、第2熱源42によるガラス管21の外表面における温度については極めて容易に変更することができ、濃度増加工程の後の濃度低下工程を直ちに行うことができるし、濃度低下工程の後の濃度増加工程を直ちに行うこともできる。
【0064】
(4)の工程によれば、濃度低下工程において、第2熱源42のトラバース速度が濃度増加工程における第2熱源42のトラバース速度よりも小さい場合、ガラス管21の単位時間当たりの加熱時間が長くなるため、アルカリ金属酸化物が、アルカリ金属酸化物の堆積量が少ない又はガラス管21の結晶化が起こらないうちにガラス管21の内表面から外径方向に向かって拡散しやすくなる。一方、濃度低下工程において、第2熱源42のトラバース速度が濃度増加工程における第2熱源42のトラバース速度よりも大きい場合、単位時間当たりのアルカリ金属酸化物のガラス管21の内表面への堆積量を減らすことができる。従って、ガラス管21の内表面におけるアルカリ金属の濃度を効果的に低下させることができる。また、濃度低下工程が終了して次の濃度増加工程を行う際、第2熱源42のトラバース速度については極めて容易に変更することができ、濃度増加工程の後の濃度低下工程を直ちに行うことができるし、濃度低下工程の後の濃度増加工程を直ちに行うこともできる。
【0065】
なお、上記(1)~(4)の工程はそれぞれ単独で行うこともできるが、2つ以上の工程を組み合わせて行うことも可能である。
【0066】
<光ファイバの製造方法>
次に、本発明の光ファイバの製造方法について説明する。本発明の光ファイバの製造方法は、上述した光ファイバ母材の製造方法により製造される光ファイバ母材10を準備する母材準備工程と、母材準備工程で準備された光ファイバ母材10を線引きして光ファイバを得る線引き工程とを含む。
【0067】
この光ファイバの製造方法によれば、上述した光ファイバ母材の製造方法により、ガラス管21において結晶化を起こりにくくすることができ、コア部1内の結晶を低減することができる。このため、このようなコア部1をクラッド部2で包囲して製造した光ファイバ母材10を線引きして光ファイバを製造する場合に、伝送損失の増加が抑制された光ファイバを製造することができる。
【0068】
<線引き工程>
線引き工程では、光ファイバ母材10を線引き装置にセットし、加熱炉で加熱して線引きする。これにより、アルカリ金属が添加されたコアと、クラッドとを有する光ファイバが製造される。
【0069】
ここで、線引き温度(加熱炉温度)は例えば2000~2200℃である。
【0070】
本発明は、上記実施形態に限定されない。例えば上記実施形態では、アルカリ金属添加工程において、2回の濃度増加工程が行われているが、濃度増加工程は複数回行われればよく、3回以上行われてもよい。また、この場合、濃度増加工程同士の間の箇所は2箇所以上となるが、この場合、少なくとも1箇所で濃度低下工程が行われればよい。従って、全ての箇所で濃度低下工程が行われてもよい。例えばアルカリ金属添加工程において、濃度増加工程を4回行う場合には、濃度増加工程同士の間の箇所は3箇所となるが、3箇所全てで濃度低下工程を行ってもよく、1箇所又は2箇所で濃度低下工程を行ってもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、コア材準備工程において、縮径工程の前にアルカリ金属添加工程が行われているが、縮径工程の後にアルカリ金属添加工程が行われてもよいし、複数回の縮径工程を行う場合には、その縮径工程同士の間の箇所でアルカリ金属添加工程が行われてもよい。
【0072】
さらに、上記実施形態では、濃度低下工程から濃度増加工程に切り替える場合には、濃度低下工程においてアルカリ金属の濃度を低下させる条件を、予め濃度低下工程の直前の濃度増加工程においてアルカリ金属の濃度を増加させる条件に戻しているが、必ずしも戻さなくてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、濃度増加工程から濃度低下工程に切り替える場合には、濃度増加工程においてアルカリ金属の濃度を増加させる条件を、予め濃度増加工程の直前の濃度低下工程においてアルカリ金属の濃度を低下させる条件に戻しているが、必ずしも戻さなくてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…コア部
2…クラッド部
10…光ファイバ母材
11…コア材
21…ガラス管
42…第2熱源(熱源)
図1
図2
図3
図4