(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】生体の肌が感じる触感の評価方法
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20231206BHJP
G01P 15/18 20130101ALI20231206BHJP
【FI】
A61B10/00 X
G01P15/18
(21)【出願番号】P 2020007540
(22)【出願日】2020-01-21
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】山岸 敦
(72)【発明者】
【氏名】阿部 慶太
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-109599(JP,A)
【文献】国際公開第2019/039466(WO,A1)
【文献】特開2019-203886(JP,A)
【文献】特開2016-038317(JP,A)
【文献】特開平04-071533(JP,A)
【文献】特開2017-009489(JP,A)
【文献】登録実用新案第3215567(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の肌に貼り付けられたセンサを用いて、
前記肌に押圧体を接触させた状態で前記押圧体を前記肌に沿って移動させながら角速度の計測データを取得する計測工程と、
前記計測工程で取得した
前記角速度の計測データに基づいて、
前記押圧体と前記肌との間に生じる摩擦力の大きさを算出し、前記摩擦力の大きさによって前記肌が感じる摩擦感を評価する評価工程と、
を備える生体の肌が感じる
摩擦感の評価方法。
【請求項2】
前記評価工程では、
前記肌の表面である肌表面に沿う第1方向の軸周りの角速度と、
前記肌表面に沿い前記第1方向に対して直交する第2方向の軸周りの角速度と、
前記肌表面の面直方向である第3方向の軸周りの角速度と、のうちの少なくとも1以上に基づいて、
前記肌が感じる摩擦感を評価する請求項1に記載の生体の肌が感じる
摩擦感の評価方法。
【請求項3】
前記評価工程では、前記角速度を積分して得られる角度のデータに基づいて評価を行う請求項2に記載の生体の肌が感じる
摩擦感の評価方法。
【請求項4】
前記肌に対する前記押圧体の押圧強さが互いに異なる複数の状態のときのそれぞれにおいて、前記計測工程を行う請求項
1から3のいずれか一項に記載の生体の肌が感じる
摩擦感の評価方法。
【請求項5】
前記移動が等速直線運動である請求項
1から4のいずれか一項に記載の生体の肌が感じる
摩擦感の評価方法。
【請求項6】
前記移動が往復運動である請求項
1から5のいずれか一項に記載の生体の肌が感じる
摩擦感の評価方法。
【請求項7】
前記往復運動の方向が
前記肌の表面である肌
表面に沿う方向である、請求項
6に記載の生体の肌が感じる
摩擦感の評価方法。
【請求項8】
前記往復運動の方向が
前記押圧体によって前記肌を窪ませる方向である、請求項
6に記載の生体の肌が感じる
摩擦感の評価方法。
【請求項9】
前記計測データの周波数成分ごとの振動の強度を演算する演算工程を更に備え、
前記評価工程では、前記演算工程により得られたデータに基づいて評価を行う請求項1から
8のいずれか一項に記載の生体の肌が感じる
摩擦感の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の肌が感じる触感の評価方法、及び、計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品や洗顔料、シャンプー、洗剤、柔軟剤といった物品、又はエステ、マッサージ等のサービスの効果を検証するために、それらの製品又はサービスを適用したヒトの肌や髪、物品などの触感や使用感を評価することが行われている。このような評価方法としては、専門家による官能評価が一般的である。
しかしながら、官能評価では、評価者間の差や、評価時における評価者の身体的及び精神的な状況の差などにより評価結果が左右され易いため、客観的な評価が難しい。
【0003】
このような事情に対し、例えば、特許文献1には、加速度と角速度との双方を計測するセンサを指の爪に装着し、センサが装着された指の指腹部を押圧体として対象面(ヒトの肌など)上で摺動させ、押圧体に生じる振動を計測することによって、対象面の触感を客観的に評価する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本願発明者等の検討によれば、特許文献1の評価方法では、肌に関連する各種の評価をより好適に行う観点から、なお改善の余地がある。特に、同文献1の評価方法では、スポンジ、シート、ブラシ、シェーバーなどの道具についての評価が困難になる。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、肌に関連する各種の評価をより好適に行うことが可能な生体の肌が感じる触感の評価方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、生体の肌に貼り付けられたセンサを用いて、加速度と角速度との少なくともいずれか一方の計測データを取得する計測工程と、前記計測工程で取得した計測データに基づいて、評価対象項目を評価する評価工程と、を備える生体の肌が感じる触感の評価方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、肌に貼り付けられたセンサを用いて加速度と角速度との少なくともいずれか一方の計測データを取得し、その計測データに基づいて評価対象項目を評価するので、肌に関連する各種の評価を、より直接的な計測データに基づき好適に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)は実施形態に係る計測装置の概略構成を示す模式図であり、
図1(b)は計測装置が備えるセンサを裏面側から視た斜視図である。
【
図2】
図2(a)、
図2(b)及び
図2(c)は、摩擦計が計測した摩擦力の時間変化を示すグラフであり、このうち
図2(a)は押圧体と肌とを直に接触させた場合のグラフ、
図2(b)は押圧体と肌との界面に粉体を介在させた場合のグラフ、
図2(c)は押圧体と肌との界面に液体を介在させた場合のグラフである。
【
図3】
図3(a)は摩擦計が計測した摩擦力及び摩擦係数を示しており、
図3(b)は
図3(a)で示した摩擦係数を棒グラフで示している。
【
図4】
図4(a)、
図4(b)及び
図4(c)は実施例1において計測された各軸方向の加速度及び各軸周りの角速度のそれぞれの時間変化を示すグラフであり、このうち
図4(a)は押圧体と肌とを直に接触させた場合のグラフ、
図4(b)は押圧体と肌との界面に粉体を介在させた場合のグラフ、
図4(c)は押圧体と肌との界面に液体を介在させた場合のグラフである。
【
図5】
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)は
図4(a)~
図4(c)に示す計測データをそれぞれ高速フーリエ変換することによって得られたスペクトログラムであり、このうち
図5(a)は
図4(a)と、
図5(b)は
図4(b)と、
図5(c)は
図4(c)と、それぞれ対応している。
【
図6】
図6(a)、
図6(b)及び
図6(c)は
図4(a)~
図4(c)に示す計測データに遮断周波数200Hzのハイパスフィルタ処理を行ったグラフであり、このうち
図6(a)は
図4(a)と、
図6(b)は
図4(b)と、
図6(c)は
図4(c)と、それぞれ対応している。
【
図7】
図7(a)、
図7(b)及び
図7(c)は各軸周りの角速度の時間変化を示すグラフを部分拡大で示しており、このうち
図7(a)はX軸周りの角速度、
図7(b)はY軸周りの角速度、
図7(c)はZ軸周りの角速度をそれぞれ示している。
【
図8】各軸周りの角速度を積分して得られた角度のデータを示す。
【
図9】
図9(a)及び
図9(b)はX方向の軸周りの角速度を積分して得られた角度のデータの時間変化を示すグラフであり、このうち
図9(a)は押圧体の押圧強さが互いに異なる複数の状態で計測した結果を用いた場合を示し、
図9(b)は押圧体の界面の状態が互いに異なる複数の状態で計測した結果を用いた場合を示している。
【
図10】
図10(a)及び
図10(b)はY方向の軸周りの角速度を積分して得られた角度のデータの時間変化を示すグラフであり、このうち
図10(a)は押圧体の押圧強さが互いに異なる複数の状態で計測した結果を用いた場合を示し、
図10(b)は押圧体の界面の状態が互いに異なる複数の状態で計測した結果を用いた場合を示している。
【
図11】
図11(a)及び
図11(b)はZ方向の軸周りの角速度を積分して得られた角度のデータの時間変化を示すグラフであり、このうち
図11(a)は押圧体の押圧強さが互いに異なる複数の状態で計測した結果を用いた場合を示し、
図11(b)は押圧体の界面の状態が互いに異なる複数の状態で計測した結果を用いた場合を示している。
【
図12】
図12(a)、
図12(b)及び
図12(c)は各軸周りの角速度を積分して得られた角度のデータを、それぞれ摩擦力の計測値と対応づけてプロットした図であり、このうち
図12(a)は「人工皮革」の場合を、
図12(b)は「人工皮革+粉体」の場合を、
図12(c)は「人工皮革+液体」の場合を、それぞれ示す。
【
図14】
図14(a)、
図14(b)及び
図14(c)は
図5(a)~
図5(c)に示すスペクトログラムのうち、30gfの荷重と対応する部分を拡大した図であり、このうち
図14(a)は「人工皮革」と、
図14(b)は「人工皮革+粉体」と、
図14(c)は「人工皮革+液体」と、それぞれ対応している。
【
図15】
図15(a)~
図15(e)は実施例2における各軸方向の加速度及び各軸周りの角速度の時間変化をそれぞれ示すグラフであり、このうち
図15(a)は指を、
図15(b)は蒸しタオルを、
図15(c)は浴用タオルを、
図15(d)はナイロンタオルを、
図15(e)はメリヤスコットンを、それぞれ押圧体とした場合のグラフである。
【
図16】
図16(a)~
図16(e)は
図15(a)~
図15(e)で示した計測データをそれぞれ高速フーリエ変換することによって得られたスペクトログラムであり、このうち
図16(a)は指を、
図16(b)は蒸しタオルを、
図16(c)は浴用タオルを、
図16(d)はナイロンタオルを、
図16(e)はメリヤスコットンを、それぞれ押圧体とした場合のスペクトログラムである。
【
図17】実施例3に係る計測方法を説明するための模式図である。
【
図18】
図18(a)及び
図18(b)は実施例3における各軸方向の加速度及び各軸周りの角速度の時間変化を高速フーリエ変換して得られたスペクトログラムを示しており、このうち
図18(a)は肌に蒸気を当てる前の測定結果を用いた場合を示し、
図18(b)は肌に蒸気を当てる前の測定結果を用いた場合を示す。
【
図19】
図19(a)及び
図19(b)は実施例3における計測データに遮断周波数40Hzのハイパスフィルタ処理を行ったグラフであり、
図19(a)は肌に蒸気を当てる前の測定結果を用いた場合を示し、
図19(b)は肌に蒸気を当てる前の測定結果を用いた場合を示す。
【
図20】
図20(a)~
図20(d)は実施例4におけるY軸周りの角速度及びZ軸周りの角速度の時間変化を高速フーリエ変換して得られたスペクトログラムを示しており、このうち
図20(a)及び
図20(b)は筋肉が緊張している状態の測定結果を用いた場合を示し、
図20(c)及び
図20(d)は筋肉が弛緩している状態の測定結果を用いた場合を示す。
【
図21】
図21(a)~
図21(d)は実施例4におけるY軸周りの角速度の時間変化のデータに対して周波数成分の抽出処理を行ったグラフであり、このうち
図21(a)及び
図21(b)は筋肉が緊張している状態の計測結果を示しており、
図21(c)及び
図21(d)は筋肉が弛緩している状態の計測結果を示している。
【
図22】
図22(a)~
図22(d)は実施例4におけるY軸周りの角速度及びZ軸周りの角速度の時間変化を高速フーリエ変換して得られたスペクトログラムを示しており、このうち
図22(a)及び
図22(b)は肌がむくんでいない状態の測定結果を用いた場合を示し、
図22(c)及び
図22(d)は肌がむくんでいる状態の測定結果を用いた場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0011】
先ず、本実施形態に係る生体の肌が感じる触感の評価方法(以下、「本方法」と表記する場合がある)を説明する。
図1(a)に示すように、本実施形態に係る生体の肌が感じる触感の評価方法は、生体の肌に貼り付けられたセンサ10を用いて、加速度と角速度との少なくともいずれか一方の計測データを取得する計測工程と、計測工程で取得した計測データに基づいて、評価対象項目を評価する評価工程と、を備える。
【0012】
この生体の肌が感じる触感の評価方法によれば、生体の肌に貼り付けられたセンサ10を用いて、加速度と角速度との少なくともいずれか一方の計測データを取得し、その計測データに基づいて評価対象項目を評価するので、肌に関連する各種の評価を、より直接的な計測データに基づき好適に行うことができる。
【0013】
ここで、肌とは、生体の表層の軟部組織を意味し、当然ながら爪は肌には含まれない。
本方法では、センサ10を生体の肌に貼りつけることによって、肌に伝搬する振動や肌の変位(ねじれ等)を計測することができる。肌の振動や変位は、加速度(センサ10の加速度)や、角速度(センサ10の角速度)の変化として計測される。肌に関連する各種の評価を行うには、本来、摩擦計などの専用の機器を用いて測定する必要があったところ、本実施形態によれば、そのような測定をすることなく、センサ10が計測したデータから摩擦力(摩擦係数を含む)等のデータを算出することもできる。そして、このように算出したデータを用いることによって、肌に関連する各種の評価を容易且つ客観的に行うことができる。
本方法では、後述する計測装置100が好適に用いられる。
生体の肌の計測部位は、特に限定されないが、例えば、頬、額、上腕、前腕、ふくらはぎなどの部位であることが挙げられる。
センサ10を肌に貼り付けるとは、センサ10を肌の表面に貼り付けることである。
本方法の評価工程による評価対象項目の評価は、計測工程により取得された計測データのみを用いて行ってもよいし、予め取得された予備データを併用して(計測工程により取得された計測データを予備データと照合することにより)行ってもよい。
好ましくは、計測工程では、加速度と角速度との双方の計測データを取得する。
【0014】
センサ10の形状は特に限定されないが、センサ10を肌に対して安定的に貼り付けることができるように、センサ10は、平坦な面を有していることが好ましく、この平坦面(以下、固定面と称する場合がある)に接着部30が設けられていることが好ましい。一例として、センサ10は、扁平な平板状に形成されている。また、センサ10の平面形状は、例えば、略矩形状である。
センサ10の寸法は、特に限定されないが、肌に対して安定的に貼り付ける観点から、固定面の一辺の長さが2mm以上50mm以下であることが好ましく、3mm以上20mm以下であることがより好ましい。
また、センサ10の固定面がこのような寸法であることによって、センサ10が肌に貼り付けられた状態で、センサ10が肌の動きに良好に追従するようにできる。
センサ10が肌の動きに良好に追従する観点から、センサ10の重量は、0.1g以上10g以下であることが好ましく、2g以下であることがより好ましい。また、同様の観点から、センサには線材が接続されておらず、取得したデータを無線伝送方式で送るものが好ましい。この場合の無線伝送方式は、長距離の伝送を必要としないので、電波によるものに限らず、光などを用いた伝送も含む。
センサ10としては、例えば、慣性センサを用いることができる。この場合の慣性センサの軸の数や向きは特に限定されないが、一例として、互いに直交する3軸方向の加速度と、当該3軸方向の各軸周りの角速度と、を計測する6軸慣性センサを用いることができる。
【0015】
評価対象項目としては、例えば、肌に触れる物品の触感又は使用感(摩擦感)の評価、肌に塗布(ここでいう塗布には、噴霧による塗布が含まれる)される化粧料などの塗布剤や肌に対して行われるマッサージ等のサービスが肌に与える効果の評価、肌又はその内部の粘弾性状態の評価を挙げることができる。
すなわち、一例として、評価対象項目には、少なくとも、肌の表面又は内部の粘弾性状態のいずれかの評価が含まれる。肌又はそれよりも内部の粘弾性状態の評価を行う場合、予め、様々な粘弾性状態毎に予め取得した予備データを生成しておき、計測工程で取得された計測データを予備データと照合することによって、評価を行うことが好ましい。
また、肌又はその内部の粘弾性状態の評価としては、例えば、肌のむくみ状態の評価や、筋肉の緊張又は弛緩状態の評価などが挙げられる。肌のむくみ状態の評価を行う場合、例えば、肌がむくんでいない状態のときと、肌がむくんでいる状態のときと、のそれぞれにおいて、計測を行い、各状態の予備データを生成しておく。同様に、筋肉の緊張又は弛緩状態の評価を行う場合、筋肉が緊張している状態のときと、筋肉が弛緩している状態のときと、のそれぞれにおいて、計測を行い、各状態の予備データを生成しておく。
【0016】
肌に触れる物品としては、例えば、化粧用ブラシ、化粧用スポンジ、化粧用チップ、洗顔用ブラシ、浴用タオル、浴用スポンジ、コットン、フェイスシート、シェーバー等を挙げることができる。
塗布剤としては、例えば、化粧水、乳液や日焼け止めなどのようなベース化粧料(スキンケア品を含む)、洗浄料、ファンデーションのようなメイクアップ化粧料などの化粧料が含まれる。化粧料の形態としては、液体、粉体、クリーム、ジェル、泡、などを挙げることができる。
【0017】
評価工程では、肌に沿う第1方向の加速度と、肌に沿い第1方向に対して直交する第2方向の加速度と、肌の面直方向である第3方向の加速度と、第1方向の軸周りの角速度と、第2方向の軸周りの角速度と、第3方向の軸周りの角速度と、のうちの少なくとも1以上に基づいて、評価対象項目を評価することが好ましく、これらのうちの2つ以上に基づいて評価対象項目を評価することが更に好ましく、これら6つのすべてに基づいて評価対象項目を評価することも好ましい。なお、本明細書で「肌に沿う」とは、肌の延びる方向、すなわち肌表面に沿うことをいう。
【0018】
また、計測工程では、計測データとして、第1方向の加速度と、第2方向の加速度と、第3方向の加速度と、第1方向の軸周りの角速度と、第2方向の軸周りの角速度と、第3方向の軸周りの角速度と、のうちの少なくとも1以上のデータを取得することが好ましく、これらのうちの少なくとも2以上のデータを取得することが好ましく、これら6つのすべてのデータを取得することも好ましい。
【0019】
評価工程では、例えば、上述の計測データに基づいて、押圧体と肌との間に生じる摩擦力のデータを算出し、評価対象項目を評価してもよい。
より詳細には、本発明者らは、押圧体で触れられた際に肌が受ける目に見える押圧体の動き(肌に対する押圧体の相対的な動き)(加速度及び角速度)に着目し、実施例1で後述するように、その動き方(加速度:傾斜角(重力加速度に対する加速度の変化)、角速度:回転角)が押圧体と肌との間に生じる摩擦力と高い相関を有することを見出した。したがって、上述の計測データを、予め取得した傾斜角及び、又は回転角の大きさと押圧体と肌との間に生じる摩擦力との相関関係を示す予備データと照合することによって、傾斜角及び、又は回転角の大きさ、すなわちセンサ10の計測データから摩擦力のデータを算出することができる。
【0020】
皮膚が感じる触覚は、手などで押した場合に皮膚が変形することにより感じる圧覚と、手を動かした際に摩擦などで皮膚が微細に振動する際に感じる振動覚、さらに温冷覚がある。本評価方法によれば、比較的ゆっくりとして見える動きに対応した圧覚と擦過により発生する振動覚とを同時に計測することができる。
【0021】
評価工程では、少なくとも、肌の面直方向の軸周りの角速度、すなわち第3方向の軸周りの角速度に基づいて、評価対象項目を評価することが好ましい。
詳細は実施例1で説明するが、各軸方向の加速度及び各軸周りの角速度のうち、肌の面直方向の軸周りの角速度が、最も摩擦力との高い相関を示すためである。
また、センサ10の計測データから摩擦力のデータを算出する場合、少なくとも、肌の面直方向の軸周りの角速度、すなわち第3方向の軸周りの角速度に基づいて、摩擦力のデータを算出することが好ましい。
【0022】
また、評価工程では、角速度を積分して得られる角度のデータに基づいて評価を行うことが好ましい。
これによって、詳細は実施例1で説明するように、より直感的に理解しやすい波形に基づく評価が可能となるため、肌の動きをより直感的に認識し易くなる。
【0023】
計測工程では、肌に押圧体を接触させた状態で押圧体を肌に沿って往復運動させながら、計測工程を行うことが好ましい一例である。
押圧体は、例えば、上述したような肌に触れる物品であってもよいし、指であってもよいし、圧子を移動させる移動機構を有する計測装置100(後述)の圧子であってもよい。
これにより、肌に沿って物品や指などを摺動させる際の肌の実際の(又は模擬的な)振動や動きを実現しながら、計測工程を行うことができる。すなわち、例えば、浴用タオルや浴用スポンジで肌を擦り洗いする際や肌に化粧料を塗布する際の、肌の実際の(又は模擬的な)振動や動きを再現しながら、計測工程を行うことができる。
なお、押圧体と肌との間(界面)には、各種の剤を介在させてもよい。一例として、化粧料の使用感や触感を評価する場合、例えば、押圧体を肌に接触させる前に、押圧体と肌との少なくとも一方に当該化粧料を塗布するなどによって、押圧体と肌との間に化粧料を介在させる。
【0024】
また、センサ10として、互いに直交する3軸方向の加速度と、3軸方向の各軸周りの角速度と、を計測する慣性センサ(つまり、6軸慣性センサ)を用いることが好ましい。
そして、慣性センサの3軸方向のうちの第1軸方向を押圧体の移動方向に沿って配置し、3軸方向のうちの第2軸方向を肌の面直方向と移動方向との双方に対して直交する方向に沿って配置し、3軸方向のうちの第3軸方向を肌の面直方向に沿って配置した状態で、計測工程を行うことが好ましい。
【0025】
また、肌に対する押圧体の押圧強さが互いに異なる複数の状態のときのそれぞれにおいて、計測工程を行うことも好ましい。
このようにすることによって、例えば、肌や、肌よりも内部の組織の、厚み方向において、複数の階層部分の評価を行ったり、所望の階層部分の評価を行ったりすることができる。例えば、肌に対する押圧体の押圧強さを弱くすることによって、肌の表層部分の状態を評価したり、肌に対する押圧体の押圧強さを強くすることによって、肌の深部の状態や筋肉の状態を評価したりすることができる。
【0026】
また、押圧体を等速直線運動させながら計測工程を行うことも好ましい。
これにより、例えば、押圧体の押圧強さを一定に設定することによって、肌側に生じる振動の強度等を一定に維持しながら、計測データを取得することができるので、評価対象項目の評価をより高精度に行うことが可能となる。
なお、計測装置100として、圧子を等速直線運動させる移動機構を有するものを用いることによって、このような計測を容易に行うことができる。このとき圧子の移動する方向は一方向でも、双方向、すなわち往復でもよい。一方向の場合は、移動の終了位置でいったん圧子を肌から離し移動の開始位置に戻して再度接触させる繰り返し動作、もしくは、一回だけ圧子を肌に接触させて移動する一回動作のいずれでもよい。
【0027】
また、物品又は指である押圧体を手動で移動させながら計測工程を行ってもよい。
これにより、例えば、タオルやブラシなどの手動で肌に沿って移動させて用いられる物品の使用感(摩擦感)をより好適に評価したり、指で肌に塗布される塗布剤の使用感(摩擦感)をより好適に評価したりすることができる。
【0028】
また、押圧体を往復運動させながら計測工程を行うことも好ましい。
計測装置100として、圧子をその方向転換のとき以外は等速直線運動で往復移動させる移動機構を有するものを用いることによって、このような計測を容易に行うことができる。
【0029】
なお、押圧体の往復運動の方向は、特に限定されず、例えば、肌に沿う方向や、肌に対して交差する方向など、計測したい生体の部位や評価対象項目に応じて適宜変更することができる。ここで、肌に対して交差する方向は、例えば、肌に対して直交する方向とすることが挙げられるが、直交する方向に限らず、押圧体によって肌を窪ませる方向に押圧する様態であればよい。
【0030】
ここで、計測工程において、押圧体を肌に接触させた状態で肌に沿って移動させる代わりに、押圧体を肌の1点に対してタッピング、すなわち軽く叩きつけるようにしてもよい。
なお、より静的な動作によって肌に生じる振動や肌の変位に基づき評価対象項目を評価する場合には、角速度ではなく加速度に基づいて評価を行うこともできる。押圧体を肌に対してタッピングする際の肌に取得された測定データに基づき評価を行う場合も、角速度ではなく加速度に基づいて評価を行ってもよい。なお、むくみを評価する場合は、角速度の振動データを用いるのが好ましい。
【0031】
また、押圧体が加振器であって、生体を加振器により加振しながら計測工程を行うことも好ましい。
これにより、加振器によって肌を振動させながら計測データを取得することができ、肌における振動の伝搬性に影響を与える性状、例えば、肌又はそれよりも内部の粘弾性状態を評価することができる。加振器の振動は、例えば、1Hzから4000Hz程度が好ましく、10Hzから1000Hzがより好ましい。
なお、加振器により加振される生体の部位は、特に限定されず、計測したい生体の部位や評価対象項目に応じて変更することができる。
【0032】
なお、加振器の振動方向は、特に限定されず、例えば、肌に沿う方向や、肌に対して交差する方向など、計測したい生体の部位や評価対象項目に応じて適宜変更することができる。
【0033】
また、押圧体が加振器であって、周波数が互いに異なる複数の周波数で加振しながら、各周波数において計測工程を行うことも好ましい。
このようにすることによって、計測する生体の部位の粘性にかかわらず、肌又はそれよりも内部の粘弾性状態を良好に評価することができる。
【0034】
また、押圧体が加振器であって、押圧強さが互いに異なる複数の押圧力で押しながら、各押圧力において、計測工程を行ってもよい。
このようにすることによって、肌や、肌よりも内部の組織の、厚み方向において、複数の階層部分の評価を行ったり、所望の階層部分の評価を行ったりすることができる。
【0035】
更に、押圧体が加振器であって、加振器とセンサ10との離間距離が互いに異なる複数の位置で押しながら、各位置において、計測工程を行ってもよい。
このようにすることによっても、肌や、肌よりも内部の組織の、厚み方向において、複数の階層部分の評価を行ったり、所望の階層部分の評価を行ったりすることができる。
より詳細には、加振器とセンサ10との離間距離が互いに異なる複数の位置の各々で、加振器によって肌を押しながら、計測工程を行う。
【0036】
また、本実施形態に係る生体の肌が感じる触感の評価方法は、計測データの周波数成分ごとの振動の強度を演算する演算工程を更に備え、評価工程では、演算工程により得られたデータに基づいて評価を行うことも好ましい。
これにより、肌の振動の周波数に基づいて評価を行うことができる。
より詳細には、演算工程では、高速フーリエ変換に代表される離散フーリエ変換を行うことによって、周波数成分を分析し、周波数スペクトルを導出する。
なお、本発明において、計測データの周波数成分ごとの振動の強度を演算する手法としては、離散フーリエ変換に限らず、例えば、ウエブレット変換など、周知の周波数分解のための演算を用いることができる。
【0037】
また、本実施形態に係る生体の肌が感じる触感の評価方法は、計測データから特定の周波数成分を抽出する抽出工程を更に備え、評価工程では、抽出工程により得られたデータに基づいて評価を行うことも好ましい。
このようにすることによって、不要な周波数成分を除去し、より適切な評価を行うことが可能となる。
より詳細には、抽出工程において、例えば、特定の遮断周波数のハイパスフィルタ処理を行うことによって周波数成分を抽出する。なお、本発明において、計測データから特定の周波数成分を抽出する処理は、ハイパスフィルタ処理に限らず、ローパスフィルタ処理であってもよいし、ハイパスフィルタ処理とローパスフィルタ処理との双方、すなわちバンドパスフィルタ処理を行うことであってもよい。この場合、上述の高速フーリエ変換の計算を特定の周波数のみ出力するように行ってもよいのはもちろんである。
【0038】
次に、本実施形態に係る計測装置100について説明する。
本実施形態に係る計測装置100は、
図1(a)に示すように、加速度と角速度との少なくとも一方を計測するセンサ10と、センサ10を生体の肌に貼り付けるための接着部30(
図1(b))と、センサ10により得られた計測データを記録する記録部と、を備える。なお、
図1(b)において、接着部30をハッチングで示している。
この計測装置100によれば、接着部30を介してセンサ10を生体の肌に貼り付けることができるので、生体の肌に貼り付けられたセンサ10を用いて、加速度と角速度との少なくとも一方の計測データを計測し、その計測データを記録部に記録することができる。よって、計測データに基づいて、肌に関連する各種の評価を行うことができる。すなわち、肌に関連する各種の評価を、より直接的な計測データに基づき好適に行うことができる。
【0039】
センサ10については、上述したとおりである。
接着部30は、例えば、一方の面がセンサ10の固定面に貼り付けられている両面テープである。ただし、接着部30は、接着剤やその他の粘着性を有する剤であってもよい。
接着部30は、センサ10の固定面の全面に設けられていて、当該全面を肌に貼り付けるものであることが好ましい。ただし、接着部30は、固定面の一部分に設けられていて、当該全面を肌に貼り付けるものであってもよい。更に、接着部30は、固定面における複数箇所をそれぞれ肌に貼り付けるものであってもよい。
【0040】
本実施形態の場合、センサ10とは別体の情報処理装置20が計測データを記録する記録部を備えている。この場合、センサ10と情報処理装置20とは、センサ10から出力される計測データを情報処理装置20が受信できるように、有線通信又は無線通信により接続されている。情報処理装置20としては、例えば、パーソナルコンピュータを用いることができる。この場合、センサ10は、例えば、計測データを有線で情報処理装置20に送信できる機能を有するものであってもよいし、計測データを無線で情報処理装置20に送信できるBluetooth(登録商標)等の送信機能を備えた小型のマイコンシステムを含むものであってもよいが、無線で情報処理装置20に送信できるものが好ましい。この場合のセンサ10は、計測データをリアルタイムに送信するように構成されていてもよいし、計測データを当該センサ10が有するメモリに一旦記録し、記憶された計測データを、例えば計測工程の終了後にメモリから読み出して情報処理装置20に送信するように構成されていてもよい。
情報処理装置20は、出力装置として、例えば、計測データに対して演算を行うことにより各種の演算データを生成する演算処理部を備えている。
また、情報処理装置20は、例えば、ディスプレイを備えており、プリンタを備えていることも好ましい。そして、取得した計測データ、又は、演算データをディスプレイ、プリンタ等の出力装置に出力するようになっている。
【0041】
また、計測装置100は、例えば、肌に接触する押圧体と、押圧体を肌に沿って移動させる移動機構(不図示)と、を備えていることも好ましい。
このような計測装置100を用いることによって、計測データの取得をより容易に行うことができ、また、手動で押圧体を操作しながら計測データを取得する場合と比べて、より信頼性の高い計測データを取得することができる。
【0042】
また、計測装置100は、例えば、生体を加振する加振器(不図示)を更に備えていることも好ましい。
このような計測装置100を用いることによって、生体を加振しながら計測データを取得することができる。
なお、加振器による振動方向は、肌に沿う方向、肌に対して交差する方向のいずれでもよい。また、組織の粘弾性を計測する場合は、加振器の周波数と振幅(強度)、加振器とセンサの距離、加振器およびセンサの押し圧などの測定条件を単独で、もしくは、複数を同時に変化させながら計測することが、肌の状態についていろいろな情報を得ることができるので好ましい。
【0043】
なお、本実施形態に係る生体の肌が感じる触感の評価方法では、特許文献1に記載されたような爪上に装着されるセンサ(以下、爪上センサ)を用いて取得された計測データを併用して、評価を行うようにしてもよい。これによって、評価対象項目をより正確に評価したり、より多くの評価対象項目の評価が可能となったりする。
より詳細には、例えば、爪上センサが装着された指を第2押圧体とし該第2押圧体を肌上で摺動させる際に爪上センサを用いて取得した計測データと、上述のセンサ10を用いて取得した計測データと、の双方を用いることによって、評価を行う。これにより、例えば、ヒトが自分の指で自分の肌に触れた際に感じる触感をより正確に評価することなどが可能となる。
なお、爪上センサを用いて取得した計測データが示す振動と、センサ10が取得した計測データが示す振動と、を重ね合わせたデータを用いて評価を行う場合、爪上センサを用いて取得した計測データが示す振動の強度と、センサ10が取得した計測データが示す振動の強度と、の比率を、評価対象項目に応じて異ならせてもよい。
【0044】
また、本実施形態に係る生体の肌が感じる触感の評価方法では、力覚センサによる計測データを併用して、評価を行うようにしてもよい。これにより、肌が感じる力覚をより正確に計測することができる。よって、このことによっても、評価対象項目をより正確に評価したり、より多くの評価対象項目の評価が可能となったりする。
また、計測装置100は、力覚センサを有する移動機構を備えていてもよい。
【0045】
また、本実施形態に係る生体の肌が感じる触感の評価方法では、肌の互いに異なる位置に貼り付けられた複数のセンサ10を用いて取得した計測データを併用して、評価を行うようにしてもよい。これにより、単一のセンサ10を用いて計測データを取得する場合と比べて、より信頼性の高い計測データを取得することができる。
【実施例】
【0046】
<予備実験>
図2(a)から
図3(b)は予備実験の結果を示す。この予備実験では、市販の表面性測定機を用いて被験者の腕を押圧体で擦過し、表面性測定機が有する摩擦計によって押圧体と腕との摩擦力を計測した。表面性測定機は、押圧体として、等速直線運動で往復移動する圧子(曲面圧子)を備えている。圧子において腕に接する面には、人工皮革を貼り付け、圧子を前腕に接触させ、前腕の長手方向に沿って摺動させた。圧子が摺動する領域(擦過領域)は、30mm×90mmの範囲とし、圧子の片道の移動距離は70mmとし、圧子の移動速度は3000mm/分とした。摩擦計のサンプリング周波数は200Hzとした。
図2(a)は予備実験1の結果を示す。予備実験1では、圧子に貼り付けた人工皮革を腕に対して直接接触させた状態(以下、単に、「人工皮革」と称する場合がある)で、圧子により前腕を擦過した。
図2(b)は予備実験2の結果を示す。予備実験2では、圧子に貼り付けた人工皮革と腕との界面に粉体(粒径5μmのシリコーンパウダー)を介在させた状態(以下、単に、「人工皮革+粉体」と称する場合がある)で、圧子により前腕を擦過した。
図2(c)は予備実験3の結果を示す。予備実験3では、圧子に貼り付けた人工皮革と腕との界面に液体(濃グリセリン)を介在させた状態(以下、単に、「人工皮革+液体」と称する場合がある)で、圧子により前腕を擦過した。
予備実験1~3のそれぞれについて、腕に対する圧子の押圧強さ(以下、単に「荷重(の大きさ)」と称する)を10gf、30gf、50gf及び100gfの4条件で行い、各条件につき圧子を5往復させた。
図2(a)~
図2(c)の各々においては、横軸は時間(秒(sec))、縦軸は摩擦力(gf)である。
図3(a)において、右から3列目は予備実験1の、右から2列目は予備実験2の、最も右側の列は予備実験3の、それぞれ実測値を示している。ただし、これら実測値は、2往復目から5往復目までの平均値である。左から2列目は予備実験1の、左から2列目は予備実験2の、左から3列目は予備実験3の、それぞれ摩擦係数の計算値を示している。
図2(a)~
図3(b)に示すように、予備実験1~3の各々において、荷重が大きいほど摩擦力が増大しており、荷重の大きさにかかわらず、ほぼ一定の摩擦係数となった。この結果から、摩擦計により正しく測定できていることが分かる。
また、人工皮革と腕とが直に接触する予備実験1よりも、人工皮革と腕との間に粉体が介在する予備実験2の方が、摩擦係数が小さい点は、妥当な結果であり、予備実験2よりも、人工皮革と腕との間に液体が介在する予備実験3の方が摩擦係数が小さい点も、妥当な結果であった。
【0047】
<実施例1>
実施例1では、センサ10が計測する加速度及び角速度と摩擦力との関係性について、以下に説明する試験を行い評価した。
なお、実施例1は、実施形態で説明した計測装置100を用いて行った。ただし、この計測装置100は、上述の表面性測定機を備えており、この表面性測定機において、圧子を移動させる機構は、移動機構である。
実施例1において、擦過領域200(
図1(a))は、予備実験と同じに設定した。
図1(a)に示すように、実施例1では、被験者の腕110に対し、接着部30(
図1(b))によってセンサ10を貼り付けた。センサ10は、6軸慣性センサである。慣性センサによる測定結果は、押圧体の動きに対応したセンサ10の姿勢の変化や回転と、押圧体と肌との摺動により発生する振動を示すデータとなり、力と関連する量的なものと触質感と関連する質的なものとを含む。
センサ10の貼り付け位置は、擦過領域200の長手方向における中央部から10mm離間した位置とした。すなわち、センサ10と擦過領域200との間隙(最短距離)を10mmに設定した。
センサ10の貼り付けの際には、3軸方向のうちの第1軸方向を押圧体の移動方向に沿って配置し、3軸方向のうちの第2軸方向を肌の面直方向と移動方向との双方に対して直交する方向に沿って配置し、3軸方向のうちの第3軸方向を肌の面直方向に沿って配置した。
なお、以下の説明において、第1軸方向をX方向(
図1(a))と称し、第2軸方向をY方向(
図1(a))と称し、第3軸方向をZ方向(
図1(a))と称する場合がある。
【0048】
実施例1では、擦過領域200において押圧体を肌に接触させ、肌に接触させた状態で押圧体をX方向に等速直線運動で往復運動(5往復)させた際の、各軸方向の加速度と各軸周りの角速度とをそれぞれ計測した。センサ10のサンプリング周波数は1000Hzであり、圧子(押圧体)の片道の移動距離は70mm、圧子(押圧体)の移動速度は3000mm/分とした。
図4(a)~
図4(c)は、実施例1による測定結果(生データ)を示す。
実施例1での計測は、予備実験と同様に、押圧体と腕(肌)との界面の状態が互いに異なる複数の状態のときのそれぞれにおいて行った。
図4(a)は、予備実験1と同様の「人工皮革」の条件での結果である。
図4(b)は、予備実験2と同様の「人工皮革+粉体」の条件での結果である。
図4(c)は、予備実験3と同様に、「人工皮革+液体」の条件での結果である。
図4(a)~
図4(c)の各々において、一番上の行(AX)はX方向の加速度の測定結果を示し、上から2番目の行(AY)はY方向の加速度の測定結果を示し、上から3番目の行(AZ)はZ方向の加速度の測定結果を示し、上から4番目の行(GX)はX方向の軸周りの角速度を示し、上から5番目の行(GY)はY方向の軸周りの角速度を示し、一番下の行(GZY)はZ方向の軸周りの角速度を示す。
図4(a)~
図4(c)のそれぞれについて、荷重の大きさを10gf、30gf、50gf及び100gfの4段階としてそれぞれ計測を行った結果を左から順に示す。加速度の単位はmGであり、角速度の単位はdpsである。
図4(a)~
図4(c)で示す測定結果には、移動機構による圧子の動作ノイズが含まれている。圧子の動き始めのタイミングや、圧子の移動方向が反転する際に、特に大きなノイズが生じている。また、圧子が一方向に等速直線運動する期間においても、モータ走行による動作ノイズが生じている。更に、
図4(a)~
図4(c)で示す測定結果には、圧子に取り付けるおもりの重量を変更する操作を行う際の操作ノイズも含まれている。
なお、「人工皮革」、「人工皮革+粉体」、「人工皮革+液体」のそれぞれについて、専門家による触感の官能評価の結果は、順に、「しっとりと柔らかく摩擦感大(乾燥および境界摩擦)」、「するするよく滑る(転がり摩擦)」、「粘度があり滑らか摩擦感小(液体摩擦)」であった。
【0049】
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)は、
図4(a)~
図4(c)に示す計測データをそれぞれ高速フーリエ変換することによって得られたスペクトログラムである。この高速フーリエ変換は、256データを1グループとしシフト長1/32で、情報処理装置20の内部で演算処理として行った。
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)において、信号の強度は色の明暗で示されており、明度が高くなるほど(白くなるほど)強度が高い。
図6(a)、
図6(b)及び
図6(c)は
図4(a)~
図4(c)で示す計測データに対して、遮断周波数200Hzのハイパスフィルタ処理を行った結果を示している。このハイパスフィルタ処理は、情報処理装置20の内部で演算処理として行った。
なお、
図5(a)及び
図6(a)は
図4(a)と対応しており、
図5(b)及び
図6(b)は
図4(b)と対応しており、
図5(c)及び
図6(c)は
図4(c)と対応している。
【0050】
また、
図4(a)~
図4(c)の各データについて、荷重の大きさごとに比較すると、
図4(a)における各軸方向の加速度及び各軸周りの角速度のそれぞれの波形の振幅は、
図4(b)及び
図4(c)における各軸方向の加速度及び各軸周りの角速度のそれぞれの波形の振幅よりも大きいことが分かる。また、
図4(b)における上述の波形の振幅は、
図4(c)における波形の振幅よりも大きいことが分かる。
すなわち、官能評価及び摩擦計の計測において摩擦力及び摩擦係数が大きいと評価された界面の状態の方が、計測値の振幅が大きくなることが分かった。特に、GZは、荷重の増大に応じたピークの増大がより顕著であるため、力との関連性が高いと考えられる。
【0051】
また、
図5(a)~
図5(c)の各データについて、荷重の大きさごとに比較すると、
図5(a)における各軸方向の加速度及び各軸周りの角速度の振動のスペクトログラムの色の明度は、
図5(b)及び
図5(c)における明度よりも高い(白い)ことが確認された。また、
図5(b)における上述の色の明度は、
図5(c)における色の明度よりも高い(白い)ことが確認された。
図5(a)~
図5(c)の結果から、官能評価及び摩擦計の計測において摩擦力及び摩擦係数が大きいと評価された界面の状態の方が、周波数が高く、信号の強度も高いことが分かる。
また、高速フーリエ変換した結果は、界面の状態の違いによる周波数の高さの違いや信号の強度の違いも大きいことから、質感に関連する評価に有用であることが示唆されている。
【0052】
ここで、
図4(a)~
図6(c)において、各軸方向の加速度(AX、AY、AZ)よりも、各軸周りにおける角速度(GX、GY、GZ)のほうがおおむね波形の振幅が大きいことから、各軸周りにおける角速度の方が、各軸方向の加速度よりも、押圧体の往復運動に対する感度がより高いことが分かった。このため、押圧体の往復運動によって肌に伝搬する振動を計測する場合、各軸周りにおける角速度を用いることが好ましいといえる。
【0053】
図7(a)~
図7(c)は、「人工皮革」で荷重を30gfに設定した場合の各角速度(GX、GY、GZ)時間変化を示すグラフを部分拡大で示しており、このうち
図7(a)はGX(X方向の軸周りの角速度)、
図7(b)はGY(Y方向の軸周りの角速度)、
図7(c)はGZ(Z方向の軸周りの角速度)をそれぞれ示している。
図8から
図11(b)の各々は、角速度(GX、GY、GZ)の生データを積分して得られた角度のデータの時間変化を示すグラフである。
このうち
図8は、「人工皮革」で荷重を30gfに設定した場合の各角速度(GZ、GY、GZ)の生データ(
図7(a)~
図7(c)で示す計測データ)を積分して得られた角度のデータの時間変化を示す。
図9(a)は、
図4(a)のGX(X方向の軸周りの角速度)を、荷重の大きさ別に積分して得られた角度の時間変化を示すデータである。
図9(b)は、
図4(a)、
図4(b)及び
図4(c)のそれぞれのGX(X方向の軸周りの角速度)について、荷重を30gfとしたときの角速度を積分して得られた角度の時間変化を示している。
図10(a)は、
図4(a)のGY(Y方向の軸周り角速度)を、荷重の大きさ別に積分して得られた角度の時間変化を示すデータである。
図10(b)は、
図4(a)、
図4(b)及び
図4(c)のそれぞれのGY(Y方向の軸周りの角速度)について、荷重を30gfとしたときの角速度を積分して得られた角度の時間変化を示している。
図11(a)は、
図4(a)のGZ(Z方向の軸周りの角速度)を、荷重の大きさ別に積分して得られた角度の時間変化を示すデータである。
図11(b)は、
図4(a)、
図4(b)及び
図4(c)のそれぞれのGZ(Z方向の軸周りの角速度)について、荷重を30gfとしたときの角速度を積分して得られた角度の時間変化を示している。
図9(a)、
図10(a)及び
図11(a)の各々は、荷重の大きさが角度に与える影響を示している。
図9(b)、
図10(b)及び
図11(b)の各々は、界面の状態が角度に与える影響を示している。
【0054】
また、
図7(a)~
図7(c)及び
図8に示すように、上述の計測によって得られた各軸周りの角速度を積分し角度に変換することによって、圧子の動作ノイズや操作ノイズを除去することができるとともに、波形の経時的な変動をより分かりやすくすることができる。
【0055】
更に、
図9(a)及び
図9(b)に示すように、X方向の軸周りの角速度を積分して得られた角度のデータの各々は、荷重の大きさや界面の状態にかかわらず、位相が揃っており、また、波形のピークの大きさが摩擦係数及び荷重にそれぞれ比例していることが分かった。
また、
図11(a)及び
図11(b)に示すように、Z方向の軸周りの角速度を積分して得られた角度のデータの各々は、荷重の大きさや界面の状態にかかわらず、位相が揃っており、また、波形のピークの大きさが摩擦係数及び荷重にそれぞれ比例していることが分かった。また、Z方向の軸周りの角速度を積分して得られた角度のデータは、X方向の軸周りの角速度を積分して得られた角度のデータと比べて、更に、摩擦係数及び荷重との相関が高い。
ただし、
図10(a)に示すように、Y方向の軸周りの角速度を積分して得られた角度のデータにおいては、荷重が100gfの場合において波形の大きな変動が確認され、X方向及びZ方向の周りの角度のデータとは異なる結果が確認された。これは、Y方向の軸周りの回転において、押圧体が肌に対して沈み込むことによって、押圧体と肌との間に生じる摩擦力が変動していることに起因していると考えられる。また、
図10(b)に示すように、Y方向の軸周りの角速度を積分して得られた角度のデータは、界面の状態によるピークの大きさの差が小さい。
これらの結果から、X方向及びZ方向の軸周りの角度を用いることによって、押圧体又は肌の摩擦係数と、押圧体による押圧強さを非常に高い相関で評価できることが分かった。
なお、後述するように、Y方向の軸周りの角度を用いる場合も、押圧体又は肌の摩擦係数と、押圧体による押圧強さについて、ある程度高い相関で評価することができる。
これらのことから、角度のデータによって、肌が感じる触覚と力覚との双方を客観的に評価できると考えられる。
【0056】
図12(a)、
図12(b)及び
図12(c)の各々は、各軸周りの角速度(GX、GY、GZ)を積分して得られた角度(縦軸)をプロットし、各軸毎に回帰直線を示したものである。横軸は、計測装置100の移動機構の摩擦計による計測値を示す。
図12(a)~
図12(c)の各々において、各軸方向の角度を導出するために用いられた各軸周りの角速度は、2往復目から5往復目までの測定データのうち、各往復の期間内(各ストローク内)における絶対値の平均値を求め、更に、その求めた平均値について、2往復目から5往復目までの平均値を算出したものである。
図12(a)、
図12(b)及び
図12(c)のうち、
図12(a)は「人工皮革」と対応しており、
図12(b)は「人工皮革+粉体」と対応しており、
図12(c)は「人工皮革+液体」と対応している。
図13は、
図12(a)~
図12(c)に示すすべてのデータを一括してプロットしたものである。
【0057】
図12(a)~
図12(c)に示すように、「人工皮革」、「人工皮革+粉体」及び「人工皮革+液体」のいずれの場合においても、各回帰直線からの、対応する各プロットのズレが極めて小さく(各プロットが概ね略回帰直線上に存在し)、その決定係数(R
2)はいずれも0.99以上であり、1に非常に近い値となった。
すなわち、各軸周りの角速度と摩擦力には高い相関があることが確認された。したがって、振動の強度により摩擦力の大きさを評価できることが分かった。より詳細には、例えば、振動(各軸周りの角速度)と摩擦力との相関を含む予備データと、上述の評価方法を用いて計測した振動の強度のデータと、を比較することによって、摩擦力の大きさを評価することができる。
【0058】
更に、
図13に示すように、「人工皮革」、「人工皮革+粉体」及び「人工皮革+液体」とそれぞれ対応するプロットを一括してプロットした場合においても、各回帰直線からの、対応する各プロットのズレが極めて小さく、その決定係数(R
2)はいずれも0.80以上であり、1に非常に近い値となっている。特に、3軸方向のうち、Z方向の軸周りの角度における決定係数(R
2)は0.97であり最も高い値となった。また、X方向の軸周りの角度における決定係数(R
2)も、0.96となっており、非常に高い値であった。また、3軸方向のうち、Z方向の軸周りの角度と対応する回帰直線の傾きが最も大きい。
したがって、押圧体の界面の状態にかかわらず、各軸周りの角度と摩擦力には高い相関関係があることが確認された。よって、計測する肌の状態にかかわらず、回転角の大きさから摩擦力の大きさを算出し、上述の評価対象項目を評価できることが分かった。特に、Z方向の軸周りの角度と摩擦力との関係は、相関が最も高く、且つ、摩擦力の変化に対する感度が最も高いことから、回転角の大きさに基づいて摩擦力を評価する場合、Z方向の軸周りの角度を用いることが好ましいことが分かった。
【0059】
図14(a)~
図14(c)は、
図5(a)~
図5(c)に示すスペクトログラムのうち、30gfの荷重と対応する部分を拡大した図であり、上から順に、X方向の加速度、Y方向の加速度、X方向の軸周りの角速度、Y方向の軸周りの角速度、Z方向の軸周りの角速度を、それぞれ高速フーリエ変換した結果を示している。
【0060】
図14(a)~
図14(c)に示すように、押圧体の往復運動の過程(1ストローク内)においても信号の周波数や振動の強度が変化することが確認された。
より詳細には、
図14(a)におけるAYのスペクトログラムに着目すると、押圧体の往復運動の過程(1ストローク内)において、開始地点(各周期において、波形の始点があり、且つ、信号の強度の1つのピークがある地点)から折り返し地点(開始地点よりも周波数が高く、且つ、信号の強度の次のピークがある地点)にかけて、徐々に信号が高周波にシフトしていることが分かる。
そのようになる理由は、摩擦係数が大きい場合には、押圧体と皮膚との相対速度は、ストロークの開始地点では小さく(皮膚の伸びが生じて押圧体が皮膚と一体的に移動するため)、折り返し地点に向けて徐々に増大するためと考えられる。
一方、
図14(b)においては、押圧体の往復運動の過程(1ストローク内)において、開始地点(各周期において、波形の始点があり、且つ、信号の強度の1つのピークがある地点)から当該開始地点と折り返し地点(開始地点よりも周波数が高く、且つ、信号の強度の次のピークがある地点)との中間点にかけて、徐々に信号が高周波にシフトしており、中間点から折り返し地点までの間は、信号の周波数が略一定であることが分かる。
そのようになる理由は、摩擦係数が小さい場合には、押圧体と皮膚との相対速度は、早い段階で押圧体の絶対速度に近づくためであると考えられる。
例えば
図14(a)に示す結果や
図14(b)に示す結果などから、肌と押圧体との相互作用や肌の触質感(すぐに摺動し始める、初期には引っ掛かりがある、など)の判定も可能であると考えられる。
なお、
図14(c)においては、全体的に周波数が小さく、変動も
図14(a)及び
図14(b)と比べて小さい。
【0061】
<実施例2>
実施例2では、以下に説明する各押圧体で被験者の腕を擦過した際のAY、AX、AZ、GY、GX及びGZの測定データを取得した。
なお、実施例2で用いた計測装置100は、押圧体と移動機構とを有していない点で、実施例1で用いた計測装置100とは相違している。
実施例2の場合、押圧体として、指、身体洗浄用タオル1、身体洗浄用浴用タオル2、身体洗浄用タオル3、メリヤスコットンを、それぞれ用いた。
図15(a)~
図15(e)は、各軸方向の加速度及び各軸周りの角速度の時間変化をそれぞれ示すグラフであり、このうち
図15(a)は指と対応し、
図15(b)は身体洗浄用タオル1と対応し、
図15(c)は身体洗浄用タオル2と対応し、
図15(d)は身体洗浄用タオル3と対応、
図15(e)はメリヤスコットンと対応する。
図16(a)~
図16(e)は、
図15(a)~
図15(e)に示す計測データをそれぞれ高速フーリエ変換することによって得られたスペクトログラムを示し、このうち
図16(a)は
図15(a)と、
図16(b)は
図15(b)と、
図16(c)は
図15(c)と、
図16(d)は
図15(d)と、
図16(e)は
図15(e)と、それぞれ対応している。
本実施例では、センサ10の近傍において、被験者が手動で押圧体を直線的に往復運動(10往復)させた。
【0062】
ここで、これら押圧体を用いて肌を擦過した際の、専門家による官能評価の結果は、指が「摩擦感とても大きく引っ掛かり動かしにくい」、身体洗浄用タオル1が「摩擦感少なく滑らかに動く」、身体洗浄用タオル2が「摩擦感少しあり、硬い感じだが滑らか」、身体洗浄用タオル3が「摩擦感大きく、硬くてざらざらした感じ」、コットンが「摩擦感小さく優しい感じ」、であった。
図15(a)~
図15(e)に示すように、官能評価における摩擦感が大きい押圧体を用いた場合ほど、各軸方向における加速度及び各軸周りの角速度の振幅が大きくなった。つまり、
図15(a)~(e)に示す結果は、それぞれ官能評価の結果と相関があるデータとなった。なかでも、被験者が感じる摩擦力と最も相関が高いと感じたのは、GZであった。
図16(a)~(e)に示す結果から、摩擦感が高い押圧体を用いた場合ほど、周波数が高く、信号の強度も高くなることが分かった。
【0063】
ここで、実施例1で説明したように、振動の強度と摩擦力とは高い相関がある。よって、肌に伝搬される振動を計測することによって、押圧体で肌を擦過した際に生じる摩擦力の大きさを評価できることが分かった。これにより、例えば、押圧体の使用感の評価を容易に行うことができる。
より詳細には、例えば、実施例1のような振動の強度と摩擦力との相関関係を示す予備データを生成しておき、実施例2のような計測データと照合することによって、押圧体の使用感を客観的に評価することができる。
【0064】
<実施例3>
実施例3では、以下に説明する試験を被験者に行い、被験者の顔に蒸気を当てる前後間での顔の肌の粘弾性の変化を評価した。
計測装置100としては、実施例2と同様のものを用いた。本実施例の場合、センサ10は被験者の頬(頬骨付近)の肌に貼り付けた。なお、センサ10の第1方向を水平方向に向け、第2方向を上下方向に向け、第3方向を頬の肌に対する面直方向に向けた。
なお、センサ10のサンプリング周波数は1000Hzとした。
また、本変形例で用いた計測装置100は、生体を加振する加振器130(
図17)を備える。加振器130は、被験者の腰に当てた。なお、加振器130としては、市販のマッサージ器をバイブレーター(25Hz)として用いた。
被験者の顔に蒸気を当てる前の段階で、加振器130によって被験者に振動を与えながら、AX、AY、AZ、GX、GY及びGZの測定データを取得することを2回繰り返した。
その後、市販の顔用スチーマーを用いて被験者の顔に10分間蒸気を当てた。
更にその後、加振器130によって被験者に振動を与えながら、AX、AY、AZ、GX、GY及びGZの測定データを取得することを2回繰り返した。
なお、これらの測定データについては、図示を省略している。
【0065】
図18(a)は、顔に蒸気を当てる前の段階で取得した測定データを高速フーリエ変換することによって得られたスペクトログラムを示しており、上段から順に、AX、AY、AZ、GX、GY及びGZのスペクトログラムを示す。
図18(b)は、顔に蒸気を当てた後の段階で取得した測定データを高速フーリエ変換することによって得られたスペクトログラムを示しており、上段から順に、AX、AY、AZ、GX、GY及びGZのスペクトログラムを示す。
なお、ここでの高速フーリエ変換は、512データを1グループとしシフト長1/32で、情報処理装置20の内部で演算処理として行った。
これらのスペクトログラムにおいては、基本周波数である25Hzと、倍波である50Hzと、3倍波である75Hzにそれぞれ強度のピークが生じている。
【0066】
図19(a)は、顔に蒸気を当てる前の段階で取得した測定データに対して、遮断周波数40Hzのハイパスフィルタ処理を行った結果を示している。
図19(b)は、顔に蒸気を当てた後の段階で取得した測定データに対して、遮断周波数40Hzのハイパスフィルタ処理を行った結果を示している。
なお、ここでのハイパスフィルタ処理は、情報処理装置20の内部で演算処理として行った。
【0067】
図18(a)と比べて、
図18(b)では、特に50Hzにおいて、信号の強度が低下したことが確認された。
また、
図19(a)と比べて、
図19(b)では、振動の振幅が小さくなったことが確認された。
したがって、顔に蒸気を当てる前よりも、顔に蒸気を当てた後の方が、振動に対する応答性が低くなっていることが分かる。これは、顔に蒸気を当てることによって肌の弾性が低下し、より粘性的になり振動がより吸収されやすくなったことに起因していると考えられる。
よって、肌側に生じる振動の強度を計測することによって、肌の粘弾性状態を客観的に評価できるといえる。
【0068】
<実施例4>
次に、
図20(a)~
図25(d)を用いて、実施例4について説明する。
実施例4では、実施例3と同様の計測装置100を用いた。本実施例の場合、センサ10は被験者のふくらはぎの上部に貼り付けた。なお、センサ10の第1方向を水平方向に向け、第2方向を上下方向に向け、第3方向をふくらはぎの上部の肌に対する面直方向に向けた。
そして、加振器130によってふくらはぎに振動を与えている状態において、加速度及び角速度を計測した。
なお、センサ10のサンプリング周波数は1000Hzとした。
本変形例の場合、加振器130は、手作業でふくらはぎに当てた。加振器130としては、市販の電動歯ブラシ(約125Hz)を用いた。
実施例4は、センサ10と加振器130との離間距離や、肌に対する加振器130の押圧強さ(荷重)を変更して、複数の条件でそれぞれ計測データを取得した。
【0069】
図20(a)~
図21(d)は、被験者が自信のふくらはぎの筋肉を緊張させた状態と弛緩させた状態とでそれぞれ計測データを取得した結果を示している。
このうち
図20(a)、
図20(b)、
図21(a)及び
図21(b)は、ふくらはぎの筋肉を緊張させた状態で計測データを取得した結果を示し、
図20(c)、
図20(d)、
図21(c)及び
図21(d)は、ふくらはぎの筋肉を弛緩させた状態で計測データを取得した結果を示す。
図20(a)~(d)の上段は、GYの計測データに高速フーリエ変換(1グループ256データ、シフト長1/32)を行うことにより得られたスペクトログラムを示し、下段は、GZの計測データに高速フーリエ変換(1グループ256データ、シフト長1/32)を行うことにより得られたスペクトログラムを示す。
図21(a)~
図21(d)の上段は、GYの計測データに遮断周波数50Hzのハイパスフィルタ処理を行った結果を示すグラフであり、中段は、GYの計測データに通過周波数100~150Hzのバンドパスフィルタ処理を行った結果を示すグラフであり、下段は、GYの計測データに通過周波数225~275Hzのバンドパスフィルタ処理を行った結果を示すグラフである。
図20(a)、
図20(c)、
図21(a)及び
図21(c)の各々において、センサ10と加振器130との離間距離を2cm、3cm、5cm、7.5cm、10cmとした場合の結果を左側から順に示している。
図20(b)、
図20(d)、
図21(b)及び
図21(d)の各々において、センサ10と加振器130との離間距離が5cmである場合に、荷重を10gf、25gf、50gfとした場合の結果を左側から順に示している。
【0070】
図22(a)~
図25(d)は、被験者のふくらはぎがむくむ前の状態とむくんだ状態とでそれぞれ計測データを取得した結果を示している。
このうち
図22(a)、
図22(b)、
図23(a)、
図23(b)、
図24(a)、
図24(b)、
図25(a)及び
図25(b)は、ふくらはぎがむくむ前の状態で計測データを取得した結果を示し、
図22(c)、
図22(d)、
図23(c)、
図23(d)、
図24(c)、
図24(d)、
図25(c)及び
図25(d)は、ふくらはぎがむくんだ状態で計測データを取得した結果を示す。
図22(a)~(d)の上段は、GYの計測データに高速フーリエ変換(1グループ256データ、シフト長1/32)を行うことにより得られたスペクトログラムを示し、下段は、GZの計測データに高速フーリエ変換(1グループ256データ、シフト長1/32)を行うことにより得られたスペクトログラムを示す。
図23(a)~(d)の上段は、GXの計測データに遮断周波数10Hzのハイパスフィルタ処理を行った結果を示すグラフであり、中段は、GXの計測データに高速フーリエ変換(1グループ256データ、シフト長1/32)を行うことにより得られたスペクトログラムを示し、下段は、GXの計測データに100~150Hzのバンドパスフィルタ処理を行った結果を示すグラフである。
図24(a)~(d)の上段は、GZの計測データに遮断周波数10Hzのハイパスフィルタ処理を行った結果を示すグラフであり、中段は、GZの計測データに高速フーリエ変換(1グループ256データ、シフト長1/32)を行うことにより得られたスペクトログラムを示し、下段は、GXの計測データに100~150Hzのバンドパスフィルタ処理を行った結果を示すグラフである。
図25(a)~(d)の上段は、GYの計測データに遮断周波数10Hzのハイパスフィルタ処理を行った結果を示すグラフであり、上から二段目は、GYの計測データに高速フーリエ変換(1グループ256データ、シフト長1/32)を行うことにより得られたスペクトログラムを示し、下から二段目は、GYの計測データに100~150Hzのバンドパスフィルタ処理を行った結果を示すグラフであり、最下段は、GYの計測データに高速フーリエ変換(1グループ1024データ、シフト長1/32)を行うことにより得られたスペクトログラムを示す。
図22(a)、
図22(c)、
図23(a)、
図23(c)、
図24(a)、
図24(c)、
図25(a)及び
図25(b)の各々において、センサ10と加振器130との離間距離を2cm、3cm、5cm、7.5cm、10cmとした場合の結果を左側から順に示している。
図22(b)、
図22(d)、
図23(b)、
図23(d)、
図24(b)、
図24(d)、
図25(b)及び
図25(d)の各々において、センサ10と加振器130との離間距離が5cmである場合に、荷重を10gf、25gf、50gfとした場合の結果を左側から順に示している。
【0071】
なお、ここでいうむくみとは、肌の表層付近に水分(組織液)が溜まっている状態を意味する。すなわち、むくんでいる状態において、肌の粘弾性が高くなっていると考えられる。脚のむくみは、例えば、立位姿勢や座位姿勢などの同じ姿勢を長時間維持することによって下半身に水分が溜まることに起因する。実施例4では、被験者が約30分間立位姿勢を維持し、官能評価で自身のふくらはぎがむくんでいると評価した状態で計測データを取得した。
【0072】
図20(a)~
図21(d)に示すように、被験者の筋肉が緊張している状態において、各軸方向の加速度及び各軸周りの角速度は、被験者の筋肉が弛緩している状態よりも、振動の強度が高く、振動の応答性が高くなっていることが分かった。なお、
図20(a)~(d)の下段のスペクトログラムから、低周波(基本周波数である125Hzよりも低い周波数)の振動の伝搬性は、筋肉が緊張している状態よりも、筋肉が弛緩している状態の方が、僅かに高いことが分かる。
【0073】
また、
図22(a)~
図25(d)に示すように、被験者が自身のふくらはぎがむくんでいると評価した状態において、各軸方向の加速度及び各軸周りの角速度は、むくんでいない状態よりも、振動の強度が低いことが分かった。これは、むくみによって肌の粘性が高まりより振動が吸収されやすくなったことに起因すると考えられる。
図23(b)と
図23(d)との比較、並びに、
図24(b)と
図24(d)との比較から、特に、荷重が小さい(例えば10gf)のときの振動の伝搬性は、むくんでいるときの方が低いことが分かる。上述のように、むくみにより、肌の表層付近に組織液が溜まるため、最も荷重が小さいときに振動の伝搬が阻害されるのは、妥当な結果であるといえる。
また、
図25(a)及び(b)の最下段と
図25(c)及び(d)の最下段との比較から、むくみによって、低周波数(12.5Hz付近)の振動伝搬も阻害されたことが分かる。これは、むくみにより粘性が高まり(硬くなり)、低周波数の振動を受けても肌が振動しにくいことに起因すると考えられる。更に、この結果から、加振器により生体に付与される振動の条件を、互いに異なる複数種類の振動数の条件に設定してそれぞれ計測データを取得し、振動数に応じた振動の伝搬性を判定することによっても、粘弾性の評価ができる可能性がある。
【0074】
これらの結果から、加振器130を肌と接触させ振動させた際に、肌に伝搬する振動の強さを計測することによって、筋肉の緊張状態又は弛緩状態を客観的に評価したり、肌のむくみ状態の有無を客観的に評価できることが分かった。
より詳細には、例えば、筋肉が緊張している状態における振動の強度と、筋肉が弛緩している状態における振動の強度と、を含む予備データと、新たに計測したデータと、を比較することによって、生体の肌のむくみ状態を客観的に評価することができる。
同様に、例えば、肌がむくんでいる状態における振動の強度と、肌がむくんでいない状態における振動の強度と、を含む予備データと、新たに計測したデータと、を比較することによって、生体の肌のむくみ状態を客観的に評価することもできる。
【符号の説明】
【0075】
10 センサ
20 情報処理装置
30 接着部
100 計測装置
110 腕
130 加振器
200 擦過領域