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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】測定装置及び蓄電デバイスの測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 19/165 20060101AFI20231206BHJP
   G01R 31/388 20190101ALI20231206BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20231206BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20231206BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G01R19/165 M
G01R31/388
G01R31/367
H01M10/48 P
H02J7/00 Q
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020012007
(22)【出願日】2020-01-28
(65)【公開番号】P2021117163
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 匠
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-185861(JP,A)
【文献】特表2020-501122(JP,A)
【文献】特開2009-145137(JP,A)
【文献】特開2003-157911(JP,A)
【文献】特開2015-072148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 19/165
G01R 31/388
G01R 31/367
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスの状態を測定する測定装置であって、
複数の前記蓄電デバイスの負極同士又は正極同士を互いに接続する接続手段と、
前記接続手段によって接続された複数の対の前記蓄電デバイス間の電位差を測定する測定手段と、
前記複数の対の前記電位差に基づいて前記蓄電デバイスの状態を識別する演算手段と、
を備え
前記演算手段は、前記蓄電デバイスの各々の電池電圧と前記複数の対の前記蓄電デバイス間の前記電位差との対応関係を表す行列の一般化逆行列を用いて、前記蓄電デバイス同士の前記電池電圧の差分を最小にする基準電圧に対する相対電圧を算出し、前記相対電圧に基づいて前記蓄電デバイスの状態を識別する、
測定装置。
【請求項2】
請求項に記載の測定装置であって、
前記一般化逆行列は、ムーア・ペンローズの疑似逆行列である、
測定装置。
【請求項3】
請求項に記載の測定装置であって、
前記演算手段は、前記相対電圧が所定の閾値を超える場合には、当該相対電圧に対応する前記蓄電デバイスが異常であると識別する、
測定装置。
【請求項4】
請求項に記載の測定装置であって、
前記演算手段は、前記相対電圧の絶対値が所定の閾値を超える一対の蓄電デバイスのうち電池電圧が低い蓄電デバイスを異常であると識別する、
測定装置。
【請求項5】
蓄電デバイスの状態を測定する測定方法であって、
負極同士又は正極同士が互いに接続された複数の前記蓄電デバイス間の電位差を測定する測定ステップと、
測定された電位差に基づいて前記蓄電デバイスの状態を識別する演算ステップと、
を有し、
前記演算ステップでは、前記蓄電デバイスの各々の電池電圧と前記複数の対の前記蓄電デバイス間の前記電位差との対応関係を表す行列の一般化逆行列を用いて、前記蓄電デバイス同士の前記電池電圧の差分を最小にする基準電圧に対する相対電圧を算出し、前記相対電圧に基づいて前記蓄電デバイスの状態を識別する、
測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスの状態を測定する測定装置及びその測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エージング時間における二次電池の電圧降下量に基づいて二次電池の良否判定を行う検査方法が開示されている。このような検査方法では、二次電池の状態を正極及び負極を開放した状態で二次電池を数日から数週間保存し、自己放電により電圧が低下した後に電圧を測定することで、二次電池の状態が推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-072148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の検査方法では、自己放電により電圧が低下するまでエージング時間として数日から数週間の間、二次電池を保存する必要がある。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、短い時間で蓄電デバイスの状態を取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様としての測定装置は、蓄電デバイスの状態を測定する測定装置であって、複数の前記蓄電デバイスの負極同士又は正極同士を互いに接続する接続手段と、前記接続手段によって接続された複数の対の前記蓄電デバイス間の電位差を測定する測定手段と、前記複数の対の前記電位差に基づいて前記蓄電デバイスの状態を識別する演算手段と、を備え、前記演算手段は、前記蓄電デバイスの各々の電池電圧と前記複数の対の前記蓄電デバイス間の前記電位差との対応関係を表す行列の一般化逆行列を用いて、前記蓄電デバイス同士の前記電池電圧の差分を最小にする基準電圧に対する相対電圧を算出し、前記相対電圧に基づいて前記蓄電デバイスの状態を識別する
【発明の効果】
【0007】
この態様によれば、負極同士又は正極同士が接続された複数の蓄電デバイス間の電位差を測定し、測定された電位差に基づいて、演算によって蓄電デバイスの状態を識別する。それゆえ、蓄電デバイスの電圧変化を測定する時間を短縮できるので、短い時間で蓄電デバイスの状態を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の第一実施形態に係る測定装置の構成を示す図である。
図2図2は、第一実施形態に係る測定装置の処理部の機能構成を示す図である。
図3図3は、測定方法に含まれる蓄電デバイスの状態識別処理の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、測定開始から所定期間経過するまで、図3に説明した処理を行った際における、時間経過と相対電圧との相関関係を示す図である。
図5図5は、本発明の第二実施形態に係る測定装置の構成を示す図である。
図6図6は、第二実施形態に係る測定装置の処理部の機能構成を示す図である。
図7図7は、第二実施形態に係る測定装置を用いて蓄電デバイスの状態を識別する方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第一実施形態]
以下、図1を参照して、本発明の第一実施形態に係る蓄電デバイス10の測定装置(以下、単に「測定装置」と称する。)1について説明する。
【0010】
まず、図1を参照して、測定装置1の構成について説明する。図1は、測定装置1の構成を示す図である。測定装置1は、複数の蓄電デバイス10の内部状態を測定するための装置又はシステムである。
【0011】
蓄電デバイス10は、例えば、リチウムイオン二次電池の単一の蓄電セルである。蓄電デバイス10は、二次電池(化学電池)に限らず、例えば、電気二重層キャパシタであってもよい。また、蓄電デバイス10は、複数の蓄電セルが直列に接続されてなる蓄電モジュールであってもよい。
【0012】
本実施形態において、蓄電デバイス10は、リチウムイオン二次電池の構成単位としての単電池(蓄電セル)に相当する。測定装置1には、複数の蓄電デバイス101~10nが接続されている。
【0013】
なお、以下では、複数の蓄電デバイスを個別に説明する必要がある場合には、番号「101~10n」を適宜使用し、複数の蓄電デバイスに共通する内容を説明する場合には、番号「10」を使用する。また、本実施形態において、図1に示す蓄電デバイス101の電池電圧をV1、蓄電デバイス102の電池電圧をV2、・・・、蓄電デバイス10nの電池電圧をVnとする。
【0014】
本実施形態に係る測定装置1は、蓄電デバイス10の品質に殆どばらつきがない、すなわち、電池電圧の値がほぼ同一値である複数の蓄電デバイス10の中から、状態の異なる蓄電デバイス10を検出する場合に有用である。本実施形態においては、複数の蓄電デバイス10の平均的な電池電圧の値から、個々の蓄電デバイス10の電池電圧の値がどの程度乖離しているかを演算によって求めることができる。また、その乖離の度合いに応じて蓄電デバイス10の状態を識別することができる。
【0015】
測定装置1は、一又は複数の蓄電デバイス10間の電池電圧の差分値(以下、電位差と称する)を測定する差分測定部2と、測定装置本体3とを備える。
【0016】
まず、差分測定部2について説明する。差分測定部2は、接続手段としての接続部21と、デバイス選択モジュール22と、差分検出モジュール23とを有する。また、測定装置本体3は、操作部31、表示部32及び、演算手段としての処理部33を有する。
【0017】
接続部21は、複数の蓄電デバイス101~10nを接続する。本実施形態においては、接続部21は、複数の蓄電デバイス101~10nの負極同士を互いに接続する接続ケーブルである。接続部21は、蓄電デバイス101~10nの負極同士を互いに接続するものであればよく、マトリックススイッチによって構成されてもよい。
【0018】
デバイス選択モジュール22は、処理部33からの制御信号に従い、蓄電デバイス101~10nの中から、電位差の測定対象として一対の蓄電デバイス10を複数選択する。すなわち、デバイス選択モジュール22は、予め定められた複数の対の蓄電デバイス10を選択する。
【0019】
一例として、蓄電デバイス101と蓄電デバイス10nとの電位差を測定する場合には、デバイス選択モジュール22は、蓄電デバイス101の正極を差分検出モジュール23の正極(+)と接続するとともに、蓄電デバイス10nの正極を差分検出モジュール23の負極(-)と接続する。
【0020】
差分検出モジュール23は、一対の蓄電デバイス10間の電池電圧の電位差を測定する直流電圧計である。差分検出モジュール23は、デバイス選択モジュール22によって順次選択された一対の蓄電デバイス10間の電位差を測定する。また、差分検出モジュール23は、特定の異なる対の蓄電デバイス10間における電位差の大きさに対応する電気信号、すなわち電位差の測定値を処理部33に出力する。
【0021】
このように電位差を用いることにより、差分検出モジュール23の分解能を確保することができる。例えば、差分検出モジュール23が7桁半(7 1/2)の直流電圧計である場合は、蓄電デバイス10の電位差の検出のために「-100mV」から「+100mV」までの範囲に設定することが好ましい。
【0022】
また、蓄電デバイス10の電位差が100mV未満である場合は、7桁半(7 1/2)の直流電圧計の分解能を10[nV]まで上げることができる。これにより、蓄電デバイス10の微小な電位差の変化を精度良く検出することができる。また、差分検出モジュール23として、測定レンジを±10mVまで縮小可能な直流電圧計を用いる場合は、検出レンジを蓄電デバイス10の電圧に対して「-10mV」から「+10mV」までの範囲に設定することがより好ましい。
【0023】
本実施形態においては、デバイス選択モジュール22は、処理部33からの制御信号に基づいて、複数の蓄電デバイス101~10nを順次切り換えて、蓄電デバイス101~10n間の差分電圧値を測定するように構成されている。
【0024】
例えば、デバイス選択モジュール22は、各蓄電デバイス10に付された識別番号が連続する一対の蓄電デバイス10ごとに蓄電デバイス10間の差分電圧値を順次測定し、最初と最後の識別番号の一対の蓄電デバイス10間の差分電圧値を測定する。あるいは、デバイス選択モジュール22は、物理的に隣接する一対の蓄電デバイス10ごとに蓄電デバイス間10の差分電圧値を順次測定し、物理的に距離が最も離れた一対の蓄電デバイス10間の差分電圧値を測定してもよい。これにより、差分検出モジュール23は、一つの蓄電デバイス10ごとに、当該蓄電デバイス10に対して少なくとも二つの蓄電デバイス10との差分電圧値を測定することができる。
【0025】
続いて、測定装置本体3について説明する。操作部31は、測定条件の設定操作及び蓄電デバイス10の状態を識別する処理の開始等を指示する各種の操作スイッチ、マウス及びキーボード等からなる。操作部31は、これらからの操作に応じた操作信号を処理部33に出力する。操作部31は、機械的に構成される操作スイッチの代わりに、表示部32に備えられるタッチパネルであってもよい。
【0026】
表示部32は、処理部33からの制御信号に従って、各種設定画面や蓄電デバイス10の状態識別結果等を表示する。本実施形態においては、表示部32は、液晶パネル等によって構成される。
【0027】
処理部33は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)等を備えたマイクロコンピュータで構成される。
【0028】
処理部33は、複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。処理部33は、ROMに記憶されたプログラムをCPUに読み出して実行することによって測定装置1の各種動作を制御する。そして、処理部33は、異なる対の蓄電デバイス10間の電位差に基づいて蓄電デバイス10の状態を識別する演算を実行する。
【0029】
ROMには、蓄電デバイス101~10n間の電位差に基づいて蓄電デバイス10の状態を識別するための処理を実行するプログラムが記憶されている。ROMは、コントローラの動作プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体である。なお、ROMは、測定装置1に対して着脱可能に構成されていてもよい。
【0030】
続いて、本実施形態において、蓄電デバイス10の状態を演算によって識別可能とする概念について説明する。
【0031】
例えば、起電圧が4[V]のリチウムイオン二次電池を構成する蓄電セルの電池電圧を測定するには、直流電圧計の測定レンジを10Vレンジに設定する必要があり、このときの測定確度は、±48[μV]程度である。一方、電池セルの自己放電に起因する電池電圧の電圧降下は「μVオーダ」である。このため、起電圧4[V]に重畳された「μVオーダ」の電圧降下を正確に検出することは困難である。
【0032】
しかし、品質に殆どばらつきがない蓄電デバイス10であれば、電池電圧の値は、いずれもほぼ同一値であるため、蓄電デバイス10の電池電圧の差分は、「mVオーダ」となる。この場合には、100mVレンジでの測定が可能になるため、検出精度の向上が見込まれる。
【0033】
そこで、本実施形態においては、蓄電デバイス10の電池電圧の変化(電圧降下)の程度を各蓄電デバイス10間の電位差を用いて検出する。まず、蓄電デバイス101~10n間の電位差を測定する。ここでは、一例として、V1-V2,V2-V3,・・・,Vn-1-Vn, Vn-V1により得られる電位差をx1,x2,・・・,xn-1,xnと表す。
【0034】
このとき、蓄電デバイス101~10nにおける任意の一対の蓄電デバイス間の電位差の測定結果は、以下の式(1)に示す行列式で表すことができる。
【0035】
【数1】
【0036】
ここで、蓄電デバイス101~10nにおける任意の蓄電デバイス10の組み合わせを規定する左側の係数行列を計測行列Aと表す。すなわち、計測行列Aは、蓄電デバイス10ごとに当該蓄電デバイス10を含む一対の蓄電デバイス10間の電位差xnと当該蓄電デバイス10の電池電圧Vnとの対応関係を表す行列である。
【0037】
式(1)によれば、計測行列Aの逆行列が計算できれば、各蓄電デバイス101~10nの電池電圧V1,V2,・・・,Vn(これらを電池電圧Viと称する)を算出することができる。しかし、計測行列Aは、フルランク行列ではないため、計測行列Aの逆行列を計算して電池電圧Viを求めることはできない。
【0038】
ここで、計測行列Aの一般化逆行列A+を考える。一般化逆行列A+を用いることによって、各蓄電デバイス101~10nそれぞれについて、ある電圧値(以下、基準電圧V0と称する)との差分を算出することができる。この基準電圧V0は、各電池電圧の差を最小にするような尤度の高い電圧値であり、例えば、各電池電圧の差の二乗和が最小になるような電圧値として算出することができる。
【0039】
このような考え方に基づいて、本実施形態においては、測定装置1における処理部33は、計測行列Aの一般化逆行列A+を生成又は保持する機能構成を備える。
【0040】
続いて、図2を用いて、処理部33の機能について説明する。
【0041】
図2は、処理部33の機能構成を示す図である。処理部33は、上述した考え方に基づいて蓄電デバイス10の状態を識別する処理を実行するために、逆行列生成モジュール331と、相対電圧算出モジュール332と、識別モジュール333とを有する。
【0042】
逆行列生成モジュール331は、各蓄電デバイス10の電池電圧と電位差との関係を表わす計測行列Aの一般化逆行列A+を生成する。本実施形態では、逆行列生成モジュール331は、下式(2)に示すムーア・ペンローズの疑似逆行列A+を生成する。
【0043】
【数2】
【0044】
相対電圧算出モジュール332は、上式(2)に示した疑似逆行列A+を用いて、下記式(3)の行列式から、全ての蓄電デバイス101~10nの基準電圧V0に対する個別の蓄電デバイス101~10nの電池電圧の差分(V^)を算出する。以下では、基準電圧V0からの個別の蓄電デバイス101~10nの電池電圧の差分を相対電圧と称する。すなわち、下式(3)によれば、蓄電デバイス101~10nの各々について、相対電圧を直接算出することができる。
【0045】
【数3】
【0046】
識別モジュール333は、式(3)から算出された蓄電デバイス10の相対電圧が予め設定された正常範囲内であるか否かを判断する。そして識別モジュール333は、蓄電デバイス10の相対電圧が正常範囲内にある場合には、蓄電デバイス10が正常である、すなわち蓄電デバイス10の自己放電に伴う電圧低下量が正常であると識別する。
【0047】
一方、識別モジュール333は、蓄電デバイス10の相対電圧が正常範囲内でない場合には、蓄電デバイス10が異常である、すなわち蓄電デバイス10の自己放電に伴う電圧低下量が過大であると識別する。正常範囲の上限値及び下限値は、所定の閾値に相当し、正常な蓄電デバイス10の実験データ又はシミュレーション結果などに基づいて定められる。
【0048】
次に、本実施形態に係る測定装置1の動作について図3を参照して説明する。
【0049】
図3は、第一実施形態に係る測定装置1を用いて蓄電デバイス10の状態を識別する方法の一例を示すフローチャートである。
【0050】
図3に示す例では、測定装置1は、例えば、雰囲気温度を一定に維持可能な恒温槽の中に複数の蓄電デバイス101~10nを収容する等して、蓄電デバイス101~10nの温度変化を抑制した環境にて測定を実行する。
【0051】
ステップS1では、処理部33は、デバイス選択モジュール22に制御信号を送り、複数の蓄電デバイス10のうち、予め定められた複数の対の蓄電デバイス10間の電位差を順次測定する。
【0052】
ステップS2では、処理部33は、互いに接続された複数の対の蓄電デバイス101~10n間の電位差の測定が終了したか否か判別し、蓄電デバイス101~10n間の全ての蓄電デバイス10間における電位差の測定が終了した場合には、ステップS3へ移行する。
【0053】
ステップS3では、処理部33の相対電圧算出モジュール332は、逆行列生成モジュール331から取得したムーア・ペンローズの疑似逆行列A+を用いて、式(3)により、蓄電デバイス101~10nの基準電圧V0に対する相対電圧を算出する。
【0054】
ステップS4では、処理部33の識別モジュール333は、蓄電デバイス101~10nの基準電圧V0に対する相対電圧に基づいて蓄電デバイス10の状態を識別する。すなわち、式(3)から算出された蓄電デバイス10の相対電圧が予め設定された正常範囲内である場合には、蓄電デバイス10が正常であると識別し(S4:yes)、ステップS5へ移行する。
【0055】
また、ステップS4では、識別モジュール333は、蓄電デバイス10の相対電圧が正常範囲内でない場合には、蓄電デバイス10が異常であると識別し(S4:no)、ステップS6へ移行する。
【0056】
ステップS5では、処理部33は、蓄電デバイス10が正常な状態であるとして、表示部32にその旨を表示して使用者に通知する。一方、ステップS6では、処理部33は、蓄電デバイス10が異常な状態であるとして、表示部32にその旨を表示して使用者に通知する。
【0057】
図4は、測定開始から所定期間経過するまで、図3に説明した処理を行った際における、時間経過と相対電圧との関係を示す図である。図4に示す例では、六つの蓄電デバイス(CH1~CH6)のうち一つの蓄電デバイス(CH6)が自己放電の大きい蓄電デバイスである。
【0058】
自己放電が進みやすい蓄電デバイス(CH6)の電池電圧は、所定期間経過後には、蓄電デバイス10の基準電圧V0からの乖離が大きくなる。所定期間が経過するにつれて電池電圧の低下が顕著に現れることが想定される。
【0059】
本実施形態においては、試験開始から所定期間が経過した時点で、図3に説明した処理を行って、ある時点(例えば、4000秒後)における相対電圧を算出し、この時点における相対電圧に基づいて、蓄電デバイス10を識別してもよい。
【0060】
以上の状態識別処理を実行することにより、蓄電デバイス10の状態識別処理が完了する。
【0061】
<第一実施形態の作用効果>
本実施形態に係る測定装置1によれば、複数の蓄電デバイス101~10nの負極同士を互いに接続する接続部21と、接続部21によって接続された複数の対(異なる対)の蓄電デバイス10間の電池電圧の差分値(電位差)をそれぞれ測定する差分検出モジュール23と、複数の対の電位差に基づいて蓄電デバイス101~10nの状態をそれぞれ識別する処理部33とを備える。
【0062】
測定装置1によれば、並列に接続された複数の対の蓄電デバイス10~10n間の電位差を測定することにより、差分検出モジュール23の分解を上げられるので、蓄電デバイス10同士の電池電圧の僅かな差分を的確に検出することができる。それゆえ、蓄電デバイス10の自己放電に伴う電圧降下量の僅かな違いを精度よく検出することができるので、蓄電デバイス10の電圧降下量が十分に大きくなるまで待たなくともよい。言い換えれば、短い時間で蓄電デバイス10の電圧降下量の違いを検出することができる。
【0063】
これに加え、測定された各対の電位差を用いることにより、電位差の平均的な値に対する差分を求めることが可能になるので、各対の電位差のうち、相対的に大きな電位差に対応する一対の蓄電デバイス10を抽出することができる。それゆえ、異常な状態であるため相対的に差分が大きくなっている蓄電デバイス10と、正常な状態であるため相対的に差分が小さくなっている蓄電デバイス10とを大まかに識別することができる。このように、測定された各対の電位差を用いて統計的な演算を行うことによって複数の蓄電デバイス101~10nの状態を識別することができる。
【0064】
このため、数週間放置して蓄電デバイス10の電圧降下量を求めて蓄電デバイス10の状態を判別する手法に比べて、短い時間で複数の蓄電デバイス101~10nの状態を求めることができる。
【0065】
また、蓄電デバイス10がリチウムイオン二次電池などによって構成される場合、蓄電デバイス10の電圧は、雰囲気温度及び雰囲気湿度などの周囲環境の僅かな変化によって変動する。その結果、周囲環境の変化に起因する蓄電デバイス10の電圧変動が蓄電デバイス10の自己放電に伴う電圧降下量に重畳されてしまい、蓄電デバイス10の自己放電に伴う電圧降下量を抽出するのが困難になる。
【0066】
これに対し、測定装置1によれば、同じ種類の蓄電デバイス10同士の電位差が測定されるので、周囲環境の変化に伴って蓄電デバイス10の電圧が変動したとしても、全ての蓄電デバイス10の電圧が同じように変動するので、電位差にはその影響が現れにくい。それゆえ、蓄電デバイス10の自己放電に伴う電圧変化を検出するにあたり、周囲環境の変化に伴う蓄電デバイス10の電圧変動の影響を軽減することができる。
【0067】
また、測定装置1によれば、処理部33は、蓄電デバイス10の基準電圧V0に対する蓄電デバイス10の各々の相対電圧を算出し、算出した相対電圧に基づいてその相対電圧に対応する蓄電デバイス10の状態を識別する。基準電圧は、複数の対の蓄電デバイス10の各電池電圧の差分を最小にするような尤度の高い電圧値を示す。
【0068】
この構成によれば、蓄電デバイス10ごとに基準電圧に対する相対電圧が算出されるので、蓄電デバイス10の各々について平均的な値からの差分を把握することができる。したがって、蓄電デバイス10の状態が正常か否かを識別することができる。
【0069】
また、測定装置1によれば、処理部33は、蓄電デバイス10の各々の電池電圧と電位差との対応関係を表わす計測行列Aの一般化逆行列A+を用いて相対電圧を蓄電デバイス10ごとに算出する。一般化逆行列A+として、ムーア・ペンローズの疑似逆行列が用いられる。この構成によれば、一般化逆行列A+を用いることにより、簡易な演算により、蓄電デバイス10の各々の相対電圧を算出することができる。
【0070】
また、測定装置1によれば、処理部33は、蓄電デバイス10の各々の相対電圧が所定の閾値を超える場合には、その相対電圧に対応する蓄電デバイス10が異常であると判別する。あらかじめ定められた所定の閾値を用いることにより、蓄電デバイス10が異常か否かを正確に判別することが可能となる。
【0071】
また、測定装置1によれば、処理部33は、相対電圧の絶対値が所定の閾値を超える一対の蓄電デバイス10のうち電池電圧が低い蓄電デバイス10を異常であると識別する。
【0072】
この構成によれば、処理部33は、蓄電デバイス10の各々の相対電圧に基づいて異常な状態である蓄電デバイス10を含む一対の蓄電デバイス10を抽出し、抽出した一対の蓄電デバイス10の各電池電圧を測定して双方の蓄電デバイス10の測定値を比較する。これにより、電池電圧の測定値が低い方の蓄電デバイス10については自己放電に伴う電圧降下量が相対的に大きいとみなすことができるので、処理部33は、この蓄電デバイス10は異常な状態であると識別することができる。
【0073】
このように、上述した所定の閾値、電池電圧の測定値又は電池電圧の推定値などの蓄電デバイス10の良否を判定するための絶対値を用いることにより、相対電圧の絶対値が大きな蓄電デバイス10の状態を正しく識別することができる。
【0074】
なお、上記実施形態では一般化逆行列A+を用いて各蓄電デバイス10の相対電圧を算出したが、これに限られるものではない。例えば、処理部33は、複数の対の蓄電デバイス間の電位差についての平均値、中央値、又は最頻値などの統計値を基準電圧V0として算出し、この基準電圧V0と蓄電デバイス10の電池電圧との差分を相対電圧として用いてもよい。この場合であっても、上記実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0075】
[第二実施形態]
以下、図5を参照して、本発明の第二実施形態に係る蓄電デバイス10の測定装置100について説明する。第一実施形態に係る測定装置1と同様の構成については、同一の番号を付して、詳細な説明を省略する。
【0076】
第二実施形態に係る測定装置100は、図5に示すように、蓄電デバイス101~10nの負極同士を接続する接続部21と接続されて、デバイス選択モジュール22まで延長する接続部24を、さらに備えることを特徴とする。
【0077】
第二実施形態においては、デバイス選択モジュール22は、処理部33からの指示に従い、蓄電デバイス101~10nの中から電位差の測定対象としての複数の蓄電デバイス10を選択する動作のほかに、蓄電デバイス10の正極を差分検出モジュール23の正極と接続するとともに、蓄電デバイス10nの負極が接続された接続部24を差分検出モジュール23の負極と接続する。
【0078】
これにより、差分検出モジュール23は、蓄電デバイス101~10nの各々の電池電圧を測定することができる。
【0079】
図6は、第二実施形態に係る処理部33の機能構成を示す図である。処理部33は、逆行列生成モジュール331と、相対電圧算出モジュール332と、電池電圧平均値算出モジュール334と、電圧演算モジュール335とを有する。
【0080】
電池電圧平均値算出モジュール334は、差分検出モジュール23から供給された蓄電デバイス101~10nの各々の電池電圧から、以下の式(4)に基づいて、電池電圧の平均値を算出する。
【0081】
【数4】
【0082】
電圧演算モジュール335は、式(4)で表される電池電圧の実測の平均値と、相対電圧算出モジュール332において算出された相対電圧とを用いて、以下の式(5)により、蓄電デバイス101~10nの各々の電池電圧を算出する。
【0083】
【数5】
【0084】
図7は、第二実施形態に係る測定装置100を用いて蓄電デバイス10の状態を識別する方法の一例を示すフローチャートである。
【0085】
図7に示す例では、第一実施形態と同様、測定装置100は、例えば、雰囲気温度を一定に維持可能な恒温槽の中に複数の蓄電デバイス101~10nを収容する等して、蓄電デバイス101~10nの温度変化を抑制した環境にて測定を実行する。
【0086】
ステップS11では、処理部33は、デバイス選択モジュール22において、蓄電デバイス101~10nの各々の電池電圧を測定する。
【0087】
ステップS12では、処理部33は、蓄電デバイス101~10nの電池電圧の測定が終わったか否か判別し、全ての蓄電デバイス10の電池電圧の測定が終了した場合には、ステップS13へ移行する。
【0088】
ステップS13では、処理部33は、電池電圧平均値算出モジュール334において、測定された蓄電デバイス101~10nの各々の電池電圧の平均値を算出する。
【0089】
ステップS14~ステップS16は、図3に示したステップS1~ステップS3と同じ処理である。
【0090】
ステップS17では、処理部33は、電圧演算モジュール335において、ステップS11~S13において算出された蓄電デバイス101~10nの電池電圧の平均値と、ステップS14~S16において算出された相対電圧とを用いて、蓄電デバイス101~10nの電池電圧の値を算出する。
【0091】
具体的には、実測の平均値に、蓄電デバイス101~10nの各々の相対電圧を加算することにより蓄電デバイス101~10nの電池電圧を算出することができる。
【0092】
ステップS18では、算出された蓄電デバイス10の電池電圧が正常範囲内でない場合には、蓄電デバイス10が異常であると識別し(S18:no)、ステップS20へ移行する。
【0093】
ステップS19では、処理部33は、蓄電デバイス10が正常な状態であるとして、表示部32にその旨を表示して使用者に通知する。一方、ステップ20では、処理部33は、蓄電デバイス10が異常な状態であるとして、表示部32にその旨を表示して使用者に通知する。
【0094】
以上のように、実測の電池電圧には、環境温度等によるノイズ成分が含まれたものであるが、実測の電池電圧の値から算出された平均値は、各電池電圧の平均化処理が行われているので、ノイズ成分が抑制されている。したがって、基準電圧V0に代えて、実測の電池電圧の値から算出された平均値を用いることにより、蓄電デバイス101~10nの電池電圧を正確に算出することができる。
【0095】
<第二実施形態の作用効果>
本実施形態に係る測定装置100によれば、複数の蓄電デバイス101~10nの負極同士を互いに接続する接続部21と、接続部21によって接続された複数の対(異なる対)の蓄電デバイス10間の電池電圧の差分値(電位差)をそれぞれ測定する差分検出モジュール23と、測定した各対の電位差に基づいて各対の蓄電デバイス10の基準電圧V0に対する蓄電デバイス101~10nの各々の相対電圧を演算する相対電圧算出モジュール332と、蓄電デバイス101~10nごとに、演算した相対電圧と蓄電デバイス101~10nの各々の電圧値とに基づいて蓄電デバイス101~10nの電圧を算出する電圧演算モジュール335とを含む。
【0096】
第一実施形態に係る測定装置1では、仮に、蓄電デバイス101~10nのなかに設計品質よりも劣る蓄電デバイスが想定以上に多く含まれていた場合に、基準電圧V0そのものが適切な値と異なる可能性がある。そのため、蓄電デバイス101~10nの各々の相対電圧にもずれが生じ、蓄電デバイス10の状態の識別が正しく行えない可能性が生じ得る。
【0097】
これに対して、第二実施形態に係る測定装置100では、蓄電デバイス10の実測の電池電圧の統計値としての平均値を、尤度の高い電圧値(基準電圧V0)として算出する。すなわち、測定装置100は、蓄電デバイス101~10nの電池電圧を算出する際に、基準電圧V0に替えて、蓄電デバイス10の実測の電池電圧の平均値を使用する。
【0098】
測定装置100において算出される相対電圧は、「μVオーダ」の精度で測定された各対の電位差を用いて得られるものであるので、確度が高い。一方、蓄電デバイス10の電池電圧の平均値は、各電池電圧の平均化処理が行われているので、ノイズ成分が抑制されている。
【0099】
このため、測定装置100によれば、確度の高い相対電圧と、ノイズ成分が抑制された電池電圧の平均値とを用いることにより、尤度の高い電圧値として算出された基準電圧V0が不確かである可能性を排除できる。したがって、測定装置100によれば、平均値に相対電圧を加算することで、確度の高い蓄電デバイス10の電池電圧を算出することができる。これにより、蓄電デバイス10の状態の識別の確度を向上させることができる。
【0100】
なお、測定装置100では、蓄電デバイス101~10nの電池電圧を算出する際に、統計値として蓄電デバイス101~10nの実測の電池電圧の平均値を使用し、この平均値に相対電圧を加算しているが、統計値は、蓄電デバイス101~10nの実測の電池電圧の中央値、最頻値又は二乗和平均であってもよい。
【0101】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0102】
本実施形態において、接続部21は、複数の蓄電デバイス101~10nの負極同士を互いに接続しているが、正極同士であってもよい。
【0103】
蓄電デバイス10は、二次電池に限らず、例えば、電気二重層キャパシタであってもよい。また、蓄電デバイス10は、複数の蓄電セルが直列に接続されてなる蓄電モジュールであってもよい。
【0104】
また、測定装置1は、コントローラに内蔵されるRAM及びROM以外に、ハードディスク或いは半導体メモリ等により構成された記憶部が備えられていてもよい。この場合には、上述したプログラムの全部又は一部が記憶部に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0105】
1 測定装置
10(101~10n) 蓄電デバイス
21 接続部(接続手段)
22 デバイス選択モジュール
23 差分検出モジュール(測定手段)
24 接続部
31 操作部
32 表示部
33 処理部(演算手段)
100 測定装置
331 逆行列生成モジュール
332 相対電圧算出モジュール
333 識別モジュール
334 電池電圧平均値算出モジュール
335 電圧演算モジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7