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特許7397695判定装置、船陸間通信システム及び判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】判定装置、船陸間通信システム及び判定方法
(51)【国際特許分類】
   F01L 3/10 20060101AFI20231206BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20231206BHJP
   F01L 9/10 20210101ALI20231206BHJP
【FI】
F01L3/10 Z
F02D45/00 368S
F02D45/00 345
F01L9/10
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020014035
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021120549
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 孝
(72)【発明者】
【氏名】野上 哲男
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-534848(JP,A)
【文献】特開平05-187210(JP,A)
【文献】特開平06-159024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 3/00- 7/18
F01L 9/00- 9/40
F02D 43/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシリンダを有する舶用2サイクルエンジンにおいて、前記複数のシリンダの各々に設けられた排気弁の動弁装置が具備する空気ばねにおけるエア漏れの可能性を判定する判定装置であって、
前記複数のシリンダの各々について筒内圧力をクランク角に関連付けて測定する筒内圧力測定器と、
前記舶用2サイクルエンジンの状態を表す測定値を取得して、前記エア漏れの可能性を否定する少なくとも1種類の第1群の状態値、及び/又は、前記エア漏れの可能性を肯定する少なくとも1種類の第2群の状態値を算出する状態値算出器と、
前記筒内圧力と、前記第1群の状態値、及び/又は、前記第2群の状態値とを取得して、前記エア漏れの可能性を判定する判定器とを備え、
前記判定器が、前記シリンダ内のピストンが上死点に位置しているときの前記筒内圧力を圧縮圧力とし、所定の圧縮圧力基準値と前記圧縮圧力との差分が所定の圧縮圧力閾値を超えたときに、前記第1群の状態値が大きいほど前記エア漏れの可能性を低く判定する、及び/又は、前記第2群の状態値が大きいほど前記エア漏れの可能性を高く判定するように構成されている、
判定装置。
【請求項2】
前記状態値算出器は、前記第1群の状態値を算出する第1群の状態値算出器と、前記第2群の状態値を算出する第2群の状態値算出器とを含み、
前記判定器は、前記圧縮圧力基準値と前記圧縮圧力との差分が前記圧縮圧力閾値を超えたときに、前記第1群の状態値が大きいほど前記エア漏れの可能性を低く判定し、前記第2群の状態値が大きいほど前記エア漏れの可能性を高く判定する、
請求項1に記載の判定装置。
【請求項3】
前記判定器は、
前記圧縮圧力基準値と前記圧縮圧力との差分の増大に伴って増加する条件指数を求め、
前記第1群の状態値の増大に伴って減少する第1群の状態指数、及び/又は、前記第2群の状態値の増大に伴って増加する第2群の状態指数を求め、
前記第1群の状態指数と前記第2群の状態指数との和に前記条件指数を掛け合わせた評価関数を用いて、前記エア漏れの可能性を判定するように構成されている、
請求項1又は2に記載の判定装置。
【請求項4】
前記第1群の状態指数及び前記第2群の状態指数の少なくとも1つが、前記エア漏れの判定に与える影響の大きさに基づいて重み付けされている、
請求項3に記載の判定装置。
【請求項5】
前記測定値は排気弁ストロークを含み、前記第1群の状態値は所定の排気弁ストローク基準値からの前記排気弁ストロークの減少量を含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の判定装置。
【請求項6】
前記測定値は排気弁閉タイミングを含み、前記第2群の状態値は所定の排気弁閉タイミング基準値からの前記排気弁閉タイミングの遅れ量を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の判定装置。
【請求項7】
前記測定値は前記シリンダにおける燃焼室形成部材の焼蝕容積を含み、前記第1群の状態値は焼蝕無しからの前記焼蝕容積の増加量を含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載の判定装置。
【請求項8】
前記測定値は前記シリンダからの排気ガス温度を含み、前記第1群の状態値は所定の排気ガス温度基準値からの前記排気ガス温度の上昇量を含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の判定装置。
【請求項9】
前記測定値は前記シリンダへ給気される空気が蓄えられた掃気室の掃気室温度を含み、前記第1群の状態値は所定の掃気室温度基準値からの前記掃気室温度の上昇量を含む、
請求項1~8のいずれか一項に記載の判定装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の判定装置と、
船舶に設けられたデータ送信装置と、
陸上に設けられた管理装置とを備え、
前記判定器は前記管理装置に設けられ、
前記筒内圧力測定器及び前記状態値算出器は前記船舶に設けられ、
前記データ送信装置は、前記筒内圧力、前記第1群の状態値、及び前記第2群の状態値のデータを前記管理装置に衛星通信を介して送信するように構成されている、
船陸間通信システム。
【請求項11】
複数のシリンダを有する舶用2サイクルエンジンにおいて、前記複数のシリンダの各々に設けられた排気弁の動弁装置が具備する空気ばねにおけるエア漏れの可能性をコンピュータで判定する判定方法であって、
前記複数のシリンダの各々についてクランク角に関連付けて測定した筒内圧力を取得し
前記舶用2サイクルエンジンの状態を表す測定値から算出された前記エア漏れの可能性を否定する少なくとも1種類の第1群の状態値、及び/又は、前記舶用2サイクルエンジンの状態を表す測定値から算出された前記エア漏れの可能性を肯定する少なくとも1種類の第2群の状態値を取得し、
前記シリンダ内のピストンが上死点に位置しているときの前記筒内圧力を圧縮圧力とし、所定の圧縮圧力基準値と前記圧縮圧力との差分が所定の圧縮圧力閾値を超えたときに、前記第1群の状態値が大きいほど前記エア漏れの可能性を低く判定する、及び/又は、前記第2群の状態値が大きいほど前記エア漏れの可能性を高く判定する、
判定方法。
【請求項12】
前記圧縮圧力基準値と前記圧縮圧力との差分の増大に伴って増加する条件指数と、前記第1群の状態値の増大に伴って減少する第1群の状態指数と、前記第2群の状態値の増大に伴って増加する第2群の状態指数とを求め、
前記第1群の状態指数と前記第2群の状態指数との和に前記条件指数を掛け合わせた評価関数を用いて、前記エア漏れの可能性を判定する、
請求項11に記載の判定方法。
【請求項13】
前記第1群の状態指数及び前記第2群の状態指数の少なくとも1つが、前記エア漏れの判定に与える影響の大きさに基づいて重み付けされている、
請求項12に記載の判定方法。
【請求項14】
前記測定値は排気弁ストロークを含み、前記第1群の状態値は所定の排気弁ストローク基準値からの前記排気弁ストロークの減少量を含む、
請求項11~13のいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項15】
前記測定値は排気弁閉タイミングを含み、前記第2群の状態値は所定の排気弁閉タイミング基準値からの前記排気弁閉タイミングの遅れ量を含む、
請求項11~14のいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項16】
前記測定値は前記シリンダにおける燃焼室形成部材の焼蝕容積を含み、前記第1群の状態値は焼蝕無しからの前記焼蝕容積の増加量を含む、
請求項11~15のいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項17】
前記測定値は前記シリンダからの排気ガス温度を含み、前記第1群の状態値は所定の排気ガス温度基準値からの前記排気ガス温度の上昇量を含む、
請求項11~16のいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項18】
前記測定値は前記シリンダへ給気される空気が蓄えられた掃気室の掃気室温度を含み、前記第1群の状態値は所定の掃気室温度基準値からの前記掃気室温度の上昇量を含む、
請求項11~17のいずれか一項に記載の判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、舶用2サイクルエンジンの排気弁の動弁装置が具備する空気ばねにおけるエア漏れの可能性を判定する判定装置及びこれを備えた船陸間通信システム、並びに、判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、舶用2サイクルエンジンは、燃焼室を形成するシリンダと、シリンダに設けられた排気口を開閉する排気弁と、排気弁を駆動する動弁装置とを備える。特許文献1では、この種の排気弁及び動弁装置を備える舶用2サイクルエンジンが開示されている。
【0003】
特許文献1の舶用2サイクルエンジンの動弁装置は、液圧駆動式の弁アクチュエータを備える。弁アクチュエータは、油圧シリンダと、油圧シリンダに内挿されたピストンとを備え、ピストンにスピンドルを介して排気弁が結合されている。油圧シリンダ内には、ピストンに対して一側に作動油が流出入する圧力室が形成されている。圧力室が高圧供給導管と連通されることにより、圧力室に高圧の作動油が流入して、排気弁を開弁方向へ移動させる。排気弁は、空気ばねにより閉弁方向へ付勢されている。空気ばねは、エアシリンダと、エアシリンダ内を摺動するばねピストンとからなり、ばねピストンの移動により圧縮・膨張するエアが封入されたばね室が形成されている。ばねピストンは、排気弁のスピンドルと結合されている。油圧シリンダの圧力室の圧力が解放されると、ばね室内のエアが膨張して、排気弁が閉弁方向へ移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-30112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような動弁装置に具備された空気ばねでエア漏れが生じると、排気弁が適切に着座しなかったり、閉弁タイミングが遅れたりするなどの現象が生じる。これにより圧縮圧力が低下して、燃焼不良につながる。
【0006】
空気ばねのエア漏れが生じると、筒内圧力波形が正常時から変化する。従って、筒内圧力波形に基づいて空気ばねのエア漏れの可能性を推測できる。しかし、筒内圧力波形を変化させる要因は空気ばねのエア漏れ以外にも多岐にわたる。例えば、排気弁の摺動部の動作不良、燃料弁の動作不良、給気条件の変動に伴う燃焼変動などによっても、筒内圧力波形の変化が引き起こされる。つまり、筒内圧力波形を監視するだけでは、空気ばねのエア漏れの有無を判定することは難しい。
【0007】
一方で、空気ばねのエア漏れを検出するために、空気ばねのばね室の圧力を直接的に検出するセンサを設けることが考え得る。しかし、ばね室の圧力は定常的に変動していることから、ばね室の圧力を空気ばねのエア漏れの有無の判定に利用することは難しい。
【0008】
本発明は以上に鑑みてなされたものであり、排気弁の動弁装置に具備される空気ばねのエア漏れの有無をより正確に判定する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る判定装置は、複数のシリンダを有する舶用2サイクルエンジンにおいて、前記複数のシリンダの各々に設けられた排気弁の動弁装置が具備する空気ばねにおけるエア漏れの可能性を判定する判定装置であって、
前記複数のシリンダの各々について筒内圧力をクランク角に関連付けて測定する筒内圧力測定器と、
前記舶用2サイクルエンジンの状態を表す測定値を取得して、前記エア漏れの可能性を否定する少なくとも1種類の第1群の状態値、及び/又は、前記エア漏れの可能性を肯定する少なくとも1種類の第2群の状態値を算出する状態値算出器と、
前記筒内圧力と、前記第1群の状態値、及び/又は、前記第2群の状態値とを取得して、前記エア漏れの可能性を判定する判定器とを備え、
前記判定器が、前記シリンダ内のピストンが上死点に位置しているときの前記筒内圧力を圧縮圧力とし、所定の圧縮圧力基準値と前記圧縮圧力との差分が所定の圧縮圧力閾値を超えたときに、前記第1群の状態値が大きいほど前記エア漏れの可能性を低く判定する、及び/又は、前記第2群の状態値が大きいほど前記エア漏れの可能性を高く判定するように構成されていることを特徴としている。
【0010】
また、本発明の一態様に係る船陸間通信システムは、
前記判定装置と、
船舶に設けられたデータ送信装置と、
陸上に設けられた管理装置とを備え、
前記判定器は前記管理装置に設けられ、
前記筒内圧力測定器及び前記状態値算出器は前記船舶に設けられ、
前記データ送信装置は、前記筒内圧力、前記第1群の状態値、及び前記第2群の状態値のデータを前記管理装置に衛星通信を介して送信するように構成されていることを特徴としている。
【0011】
また、本発明の一態様に係る判定方法は、複数のシリンダを有する舶用2サイクルエンジンにおいて、前記複数のシリンダの各々に設けられた排気弁の動弁装置が具備する空気ばねにおけるエア漏れの可能性をコンピュータで判定する判定方法であって、
前記複数のシリンダの各々についクランク角に関連付けて測定した筒内圧力を取得し
前記舶用2サイクルエンジンの状態を表す測定値から算出された前記エア漏れの可能性を否定する少なくとも1種類の第1群の状態値、及び/又は、前記舶用2サイクルエンジンの状態を表す測定値から算出された前記エア漏れの可能性を肯定する少なくとも1種類の第2群の状態値を取得し、
前記シリンダ内のピストンが上死点に位置しているときの前記筒内圧力を圧縮圧力とし、所定の圧縮圧力基準値と前記圧縮圧力との差分が所定の圧縮圧力閾値を超えたときに、前記第1群の状態値が大きいほど前記エア漏れの可能性を低く判定する、及び/又は、前記第2群の状態値が大きいほど前記エア漏れの可能性を高く判定することを特徴としている。
【0012】
上記構成の判定装置、船陸間通信装置、及び判定方法によれば、圧縮圧力が低下したときに、第1群の状態値が大きいほど空気ばねのエア漏れの可能性が低く判定される。又は/加えて、第2群の状態値が大きいほど空気ばねのエア漏れの可能性が高く判定される。このように、圧縮圧力に加えて、第1群の状態値及び第2群の状態値のうち少なくとも一方を加味してエア漏れの可能性が判定されるので、エア漏れ以外の原因による圧縮圧力の低下が排斥されて、エア漏れの有無をより正確に判定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、排気弁の動弁装置に具備される空気ばねのエア漏れの有無をより正確に判定する技術を提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る判定装置が適用される船陸間通信システムの概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、燃料供給装置の構成を示す図である。
図3図3は、動弁装置の構成を示す図である。
図4図4は、エンジンの1燃焼サイクル分の筒内圧力波形の一例を示す図である。
図5図5は、判定装置の構成を示すブロック図である。
図6図6は、管理装置の構成を示すブロック図である。
図7図7は、エンジン負荷に対応する圧縮圧力設計値を表す圧縮圧力設計値曲線を示す図である。
図8図8は、圧縮圧力基準値と圧縮圧力との差分と条件指数との関係を表す図表である。
図9図9は、排気弁ストロークの減少量と第1状態指数との関係を表す図表である。
図10図10は、排気弁閉タイミングの遅れ量と第2状態指数との関係を表す図表である。
図11図11は、焼蝕容積の増加量と第3状態指数との関係を表す図表である。
図12図12は、排気ガス温度の上昇量と第4状態指数との関係を表す図表である。
図13図13は、掃気室温度の上昇量と第5状態指数との関係を表す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0016】
〔船陸間通信システム1の全体構成〕
図1は、本発明の一実施形態に係る判定装置300が適用される船陸間通信システム1の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施の形態における船陸間通信システム1は、船舶4に設けられる船上システム2と、陸上に設けられる管理装置3とを備える。船舶4は、推進用主機であるエンジンシステム5を備える。
【0017】
〔エンジンシステム5の構成〕
エンジンシステム5は、大型の2サイクル(2ストローク)エンジン(以下、単に「エンジン10」と称する)と、エンジン10に供給される空気を圧縮する過給機20とを備える。なお、エンジン10は、船舶4の発電用エンジンであってもよい。
【0018】
エンジン10は、複数のシリンダ11(図1では1つのみが図示されている)を有する。本実施形態に係るエンジン10は、ユニフロー2サイクルエンジンであって、シリンダ11の下部に掃気口12が形成され、シリンダ11の上部に排気口13が形成されている。シリンダ11内には、掃気口12を横切るようにして摺動するピストン14が設けられている。ピストン14及びシリンダ11などによって燃焼室50が形成されている。ピストン14は、コネクティングロッド17を介してクランク軸18と連結されている。
【0019】
シリンダ11の上部には、燃料噴射弁15が設けられている。燃料噴射弁15を通じて、燃料供給装置31から供給された燃料が燃焼室50内へ吹き出す。燃料供給装置31は、エンジンサイクル中の所定のタイミング、且つ、エンジン負荷に応じた量で、加圧された燃料を燃料噴射弁15へ供給する。
【0020】
図2は、燃料供給装置31の構成を示す図である。図2に示すように、燃料供給装置31は、液圧駆動式の燃料ポンプ34と、燃料ポンプ34から燃料噴射弁15へ高圧の燃料を供給する燃料油供給管38とを備える。燃料ポンプ34は、シリンダ340と、シリンダ340内に往復動自在に設けられたピストン341とを有する。シリンダ340内のピストン341を介して一側は燃料室342であり、他側は圧力室343である。燃料室342には、図示されない燃料源から燃料が供給される。圧力室343は、制御弁37を介して高圧管36と接続されている。高圧管36には、供給管46からポンプ47で圧縮された高圧の作動油が供給されている。制御弁37は、高圧管36から圧力室343への作動油の流入が許容されるONの状態と、高圧管36から圧力室343への作動油の流入が阻止されるOFFの状態との間で切り替わる。制御弁37がOFFのときは、高圧管36と圧力室343との接続が遮断され、圧力室343は戻し配管35と接続される。
【0021】
制御弁37がONとなって高圧管36と圧力室343とが接続されると、高圧管36から高圧の作動油が圧力室343へ流れ込んで、ピストン341が押し下げられる。一方、制御弁37がOFFとなって戻し配管35と圧力室343とが接続されると、圧力室343から戻し配管35へ作動油が流れ出る。燃料供給装置31では、このような制御弁37の動作によってピストン341の動作量(ストローク量)が調整され、ピストン341の動作量によって燃料噴射弁15へ供給される燃料の圧力が制御される。このようにして、燃料噴射弁15からの燃料噴射量、燃料噴射パターン及び燃料噴射タイミングを変更することができる。
【0022】
排気口13には、当該排気口13を開閉する排気弁16が設けられている。排気弁16は、円錐型の弁体161を有するポペット弁である。排気弁16は、動弁装置32によって開閉駆動される。図3は、動弁装置32の構成を示す図である。図3に示す動弁装置32は、液圧駆動式の弁アクチュエータ61と駆動アクチュエータ63とを備える。弁アクチュエータ61は、油圧シリンダ610と、油圧シリンダ610内に往復動自在に設けられたピストン611とを有する。ピストン611には、スピンドル162を介して弁体161が固定されている。油圧シリンダ610内のピストン611を介して一側は圧力室613とされる。駆動アクチュエータ63は、油圧シリンダ630と、油圧シリンダ630内に往復動自在に設けられた駆動ピストン631とを有する。油圧シリンダ630の駆動ピストン631を介して一側は作動油室632とされ、他側は駆動圧力室633とされる。作動油室632は油路62を介して弁アクチュエータ61の圧力室613と接続されている。駆動圧力室633は、制御弁64を介して高圧管49と接続されている。制御弁64は、高圧管49から駆動圧力室633への作動油の流入が許容されるONの状態と、高圧管49から駆動圧力室633への作動油の流入が阻止されるOFFの状態との間で切り替わる。制御弁64がOFFのときは、高圧管49と駆動圧力室633との接続が遮断され、駆動圧力室633は戻し配管48と接続される。
【0023】
動弁装置32は、排気弁16を閉弁方向へ付勢する空気ばね33を備える。空気ばね33は、エアシリンダ331と、エアシリンダ331内に往復動自在に設けられたばねピストン332とを有する。ばねピストン332には、スピンドル162を介して弁体161が固定されている。エアシリンダ331内のばねピストン332を介して一側はばね室333とされる。ばね室333には、エアが充填されている。
【0024】
制御弁64がONとなって駆動圧力室633が高圧管49と接続されると、駆動圧力室633へ高圧液体が流入して、作動油室632の作動油を圧縮する方向へ駆動ピストン631が移動する。これにより、作動油室632と連通された弁アクチュエータ61の圧力室613の圧力が増加してピストン611が開弁方向(下方)へ移動し、これにより排気口13が開放される。空気ばね33では、ばねピストン332が排気弁16と一体的に開弁方向へ移動して、ばね室333のエアが圧縮される。
【0025】
一方、制御弁64がOFFとなって駆動圧力室633が戻し配管48と接続されると、駆動圧力室633の圧力が解放される。空気ばね33の付勢により排気弁16及びピストン611は閉弁方向(上方)へ移動して、圧力室343から作動油室632へ作動油が流れ、駆動圧力室633から戻し配管48へ作動油が流れ出る。これにより、排気弁16が弁座に着座して排気口13が閉止される。
【0026】
排気口13が開放されると、燃焼室50から排気管26へ燃焼ガスが流れ出る。燃焼ガス(即ち、排気ガス)は、排気管26を通じて過給機20へ送られる。過給機20は、タービン21と、タービン21と回転軸23によって連結された圧縮機22とを備える。タービン21は、シリンダ11から排気管26を通じて供給される排気ガスによって回転する。圧縮機22はタービン21と一体的に回転し、外部から空気を導入して断熱圧縮する。圧縮された空気は、掃気管24及び掃気室25を介してエンジン10へ供給される。
【0027】
図4は、エンジン10の1燃焼サイクル分の筒内圧力波形の一例を示す図である。筒内圧力波形は、筒内圧力及びクランク角の検出値から求めた、筒内圧力-クランク角関係線図(トレンド線図)である。クランク軸18が一回転する間に、ピストン14の上昇行程と下降行程とが行われる。クランク角の検出値に基づいて排気弁16の動作が制御される。下降行程の後期の所定クランク角で排気口13が開放され、上昇行程の初期の所定クランク角で排気口13が閉止される。また、掃気口12は、下降行程の後期において排気口13が開いた後、所定期間をおいたクランク角で開放され、上昇行程の初期において排気口13が閉じるよりも所定期間前のクランク角で閉止される。上昇行程の初期では、ピストン14が上昇する間に燃焼室50の掃気(燃焼ガスの排気及び新気の吸気)が行われ、上昇行程の後期ではピストン14が上昇する間に新気が圧縮される。ピストン14が上死点TDCに到達する直前で、圧縮された空気に対して燃料噴射弁15から燃料が噴射され、圧縮による温度上昇によって自然着火する。下降行程では、燃料の燃焼(爆発)によりピストン14が下降し、下降行程の後期に排気口13が開放されて燃焼室50から燃焼ガスが排気される。
【0028】
〔船上システム2の構成〕
船上システム2は、エンジンシステム5を制御するエンジン制御装置60と、エンジンシステム5の状態を表すデータを収集するデータ収集装置6とを備える。データ収集装置6が収集するデータには、エンジン負荷データ、筒内圧力データ、クランク角検出データ、燃料噴射タイミングデータ、排気弁位置データ、排気ガス温度データ、掃気室温度データなどが含まれる。排気弁位置から排気弁16のストローク及び閉タイミングを求めることができ、データ収集装置6が収集するデータには、排気弁ストロークデータ、排気弁閉タイミングデータが更に含まれる。なお、エンジン制御装置60は、エンジンシステム5の制御のために、燃料制御弁用作動油圧データ、排気制御弁用作動油圧データ、及び燃料噴射量データ等を取得する。
【0029】
図5に示すように、データ収集装置6は、エンジン負荷検出器51、筒内圧力センサ52、排気ガス温度計53、排気弁位置検出器55、クランク角検出器56、及び掃気室温度計57と電気的に接続されており、これらの機器から検出値を取得する。
【0030】
データ収集装置6は、エンジン負荷データを計測する。エンジン負荷データは、エンジン負荷検出器51により検出されるデータに基づいて得られるものであってよい。例えば、エンジン負荷の指標としてエンジン10の出力軸回転数が用いられる場合、エンジン負荷検出器51はエンジン10の出力軸に設けられた回転数センサであってよい。例えば、エンジン負荷の指標としてエンジン10に要求される出力(例えば、スロットル値)が用いられてもよい。例えば、エンジン負荷の指標として過給機20の回転軸23が用いられる場合、エンジン負荷検出器51は過給機20の回転軸23に設けられた回転数センサであってよい。例えば、エンジン負荷の指標として燃料噴射量及びエンジン回転数が用いられる場合、エンジン負荷検出器51は燃料ポンプ34に設けられる噴射量検出器54及びエンジン10に設けられた機関回転数検出器(図示略)であってよい。
【0031】
データ収集装置6は、筒内圧力測定器65を有する。筒内圧力センサ52は、エンジン10の各シリンダ11に設けられて、燃焼室50内の圧力を検出する。クランク角検出器56は、クランク軸18に設けられて、クランク角(即ち、クランク軸18の回転位置)を検出する。クランク角検出器56は、例えば、クランク角を算出するためのクランクパルス信号を筒内圧力測定器65へ送信する。筒内圧力測定器65は、検出された筒内圧力及びクランク角を所定のサンプリング周期で取得して、筒内圧力と当該筒内圧力の計測時におけるクランク角の情報を対応付けた筒内圧力データを生成する。例えば、筒内圧力測定器65は、ピストン14が上死点TDCの位置にあるときをクランク角の0°とし、それを基準に-180°から180°までの角度範囲における筒内圧力の変化を取得する。
【0032】
データ収集装置6は、排気弁位置検出器55の検出値に基づいて、排気弁ストロークデータを生成する。排気弁位置検出器55は、動弁装置32に設けられており、排気弁16の変位(即ち、弁位置)を検出する。本実施形態では、排気弁位置検出器55として、弁体161と一体的に往復移動するピストン611又はその付帯物の変位を検出する非接触式センサが用いられている。データ収集装置6は、排気弁位置検出器55で検出された排気弁16の位置と、排気弁16の位置の計測時におけるクランク角の情報を対応付けた排気弁位置データを計測する。排気弁位置の変位幅は、排気弁ストロークである。データ収集装置6は、排気弁位置データに基づいて排気弁ストロークデータを生成する。排気弁閉タイミングθcは、排気弁閉時のクランク角である。データ収集装置6は、排気弁位置データから排気弁閉タイミングデータを生成する。但し、排気弁閉タイミングθcは筒内圧力データを用いて特定することもできる。この場合、ピストン14の上昇行程において筒内圧力が上昇を開始したときのクランク角が排気弁閉タイミングθcである。
【0033】
データ収集装置6は、排気ガス温度計53の検出値に基づいて、排気ガス温度データを生成する。排気ガス温度計53は、各シリンダ11の排気口13から排気管26までの間に設けられて、燃焼室50から排気管26へ流出する排気ガス温度Teを検出する。
【0034】
データ収集装置6は、掃気室温度計57の検出値に基づいて、掃気室温度データを生成する。掃気室温度計57は、掃気室25内に設けられて、掃気室25内の空気の温度である掃気室温度Tsを検出する。
【0035】
船上システム2は、データ送信信号を生成するデータ送信装置7と、生成されたデータ送信信号を衛星通信を介して管理装置3に送信する船外通信部8とを更に備える。データ送信装置7は、エンジン制御装置60及び/又はデータ収集装置6から所定のデータを取得し、管理装置3に送信するためのデータ送信信号を生成する。データ送信装置7は、公知のコンピュータ装置で構成されていてよい。データ送信装置7と船外通信部8とは船内LAN9により信号を授受可能に接続されている。船外通信部8は、例えば電子メール等を送信可能なサーバを備える。船内LAN9には、種々のデータサーバ、演算装置、入力装置又は表示装置等(いずれも図示略)が接続され得る。船外通信部8から送信されたデータ送信信号は、通信衛星40を介した衛星通信により伝送される。
【0036】
〔管理装置3の構成〕
管理装置3には、衛星通信によるデータ送信信号を受信可能な衛星アンテナ41が設けられ得る。これに加えて、又は、これに代えて、陸上に設けられた他の衛星アンテナ42で一旦データ送信信号が受信され、当該衛星アンテナ42からインターネット等の通信ネットワーク43を介して管理装置3にデータ送信信号が送信されてもよい。
【0037】
図6は、管理装置3の構成を示すブロック図である。図6に示すように、管理装置3は、演算装置30と、プリンタやディスプレイや警告灯やブザーなどの出力装置27と、キーボードやポインティングデバイスなどの入力装置28と、大容量の記憶装置29とを備える。演算装置30は、いわゆるコンピュータであって、プロセッサ301と、メモリ302と、通信部304と、出入力部303と、インターフェース305とを有する。演算装置30には、インターフェース305を介して出力装置27、入力装置28、及び記憶装置29が接続されている。
【0038】
管理装置3は、通信部304を介して取得したデータ送信信号に含まれる各種データを記憶装置29に記憶する。記憶装置29には、船上システム2から送信されてきた各種データを格納したデータベースが構築されている。記憶装置29には、例えば、エンジン負荷データ、筒内圧力データ、燃料噴射タイミングデータ、排気弁位置データ、排気ガス温度データ、掃気室温度データ、排気弁ストロークデータ、及び排気弁閉タイミングデータなどを記憶したデータベースが構築されてよい。
【0039】
〔判定装置300の構成〕
船陸間通信システム1には、エンジン10が有する動弁装置32に具備される空気ばね33のエア漏れの有無を判定する判定装置300が含まれている。判定装置300は、判定器3Aと、複数のシリンダ11の各々について筒内圧力をクランク角に関連付けて測定する筒内圧力測定器65と、エンジン10の状態を表す測定値を取得してエア漏れの可能性を否定する第1群の状態値を算出する第1群の状態値算出器66と、エンジン10の状態を表す測定値を取得してエア漏れの可能性を肯定する第2群の状態値を算出する第2群の状態値算出器67とを備える。状態値算出器66,67は少なくとも1つの演算器から構成される。
【0040】
判定器3Aは、管理装置3に構成されている。管理装置3のメモリ302には、判定プログラムが記憶されている。管理装置3は、プロセッサ301が判定プログラムを読み出して実行することにより、判定器3Aとしての機能を発揮する。
【0041】
筒内圧力測定器65、第1群の状態値算出器66、及び第2群の状態値算出器67は、データ収集装置6に構成されている。
【0042】
第1群の状態値算出器66は、エンジン10の状態を表す測定値を取得して、空気ばね33のエア漏れの可能性を否定する少なくとも1種類の第1群の状態値を算出する。なお、第1群の状態値には、排気弁ストロークの減少量ΔS、排気ガス温度Teの上昇量ΔTe、焼蝕容積の増加量、掃気室温度Tsの上昇量ΔTsのうち少なくとも1種類が含まれる。上記の測定値には、第1群の状態値を算出するための測定データが含まれる。このような測定値には、排気弁位置検出器55の検出値に基づく排気弁ストロークデータ、排気ガス温度計53の検出値に基づく排気ガス温度データ、及び、掃気室温度計57の検出値に基づく掃気室温度データのうち第1群の状態値に対応したデータが含まれる。
【0043】
第2群の状態値算出器67は、空気ばね33のエア漏れの可能性を肯定する少なくとも1種類の第2群の状態値を算出する。なお、第2群の状態値には、排気弁閉タイミングθcの遅れ量Δθcが含まれる。上記の測定値には、第2群の状態値を算出するための測定データが含まれる。このような測定値には、エンジン負荷検出器51の検出値に基づくエンジン負荷センサ、筒内圧力センサ52の検出値に基づく筒内圧力データ、及び排気弁位置検出器55の検出値に基づく排気弁閉タイミングデータのうち第2群の状態値に対応したデータが含まれる。
【0044】
判定器3Aは、筒内圧力、第1群の状態値、及び第2群の状態値を取得して、空気ばね33におけるエア漏れの可能性を判定する。以下、判定器3Aによって行われる判定処理を詳細に説明する。
【0045】
判定器3Aは、筒内圧力データから圧縮圧力Pcompを抽出し、その値を監視する。圧縮圧力Pcompは、シリンダ11内のピストン14が上死点TDCに位置しているときの筒内圧力である(図4、参照)。判定器3Aは、計測された圧縮圧力Pcompと、所定の圧縮圧力基準値とを比較する。圧縮圧力Pcompが圧縮圧力基準値以上の場合には空気ばね33のエア漏れは生じていないが、圧縮圧力Pcompが圧縮圧力基準値よりも小さくなると空気ばね33のエア漏れが生じている可能性があると推測することができる。
【0046】
上記において、圧縮圧力基準値は、ターゲットシリンダ11のターゲットサイクルの直前の所定数サイクルの圧縮圧力Pcompの平均値であってよい。また、圧縮圧力基準値は、ターゲットサイクルと同等のエンジン負荷のときに測定された圧縮圧力Pcompの平均値であってよい。或いは、圧縮圧力基準値は、エンジン10が具備する複数のシリンダ11でターゲットサイクルと同一サイクルで測定された圧縮圧力Pcompの平均値であってよい。また、圧縮圧力基準値は、ターゲットシリンダ11において、エンジン負荷と対応付けられた圧縮圧力設計値であってよい。図7は、エンジン負荷に対応する圧縮圧力設計値を表す圧縮圧力設計値曲線を示す図である。圧縮圧力設計値曲線では、エンジン負荷の増大に従って圧縮圧力設計値が増大する。予め図7に示すような圧縮圧力設計値曲線が判定器3Aに記憶されており、判定器3Aはエンジン負荷に応じて予め設定される設計上の圧縮圧力/掃気圧比(Pcomp/P比)を利用して、測定されたエンジン負荷に対応する圧縮圧力設計値を求め、それを圧縮圧力基準値として用いてよい。掃気圧Pは、掃気行程の筒内圧力である。また、圧縮圧力基準値は、設計上の圧縮圧力/掃気圧比を利用して、計測された掃気圧Pから求まる圧縮圧力であってよい。
【0047】
判定器3Aは、圧縮圧力Pcompが圧縮圧力基準値よりも小さく、且つ、圧縮圧力基準値と圧縮圧力Pcompとの差分ΔPcが所定の圧縮圧力閾値Acよりも大きいことを条件として、判定処理を開始する。
【0048】
判定処理を開始した判定器3Aは、条件指数Fと、第1状態指数R~第5状態指数Rのうち少なくとも1種類とを算出する。採用される状態指数は、エンジン10の構造に応じて決定されてよい。採用される状態指数の種類は1であってもよいが、採用される状態指数の種類が多いほど判定の精度が向上する。
【0049】
状態指数R~Rは、エア漏れが生じている可能性を低める要因(否定要素)を示す第1群の状態指数と、エア漏れが生じている可能性を高める要因(肯定要素)を示す第2群の状態指数とに分類できる。判定に採用される状態指数R~Rには、少なくとも1種類の第1群の状態指数と、少なくとも1つの第2群の状態指数とが含まれることが望ましい。
【0050】
〔条件指数F〕
条件指数Fは、圧縮圧力Pcompの低下度合いを表す。図8は、圧縮圧力基準値と圧縮圧力Pcompとの差分ΔPcと条件指数Fとの関係を表す図表であり、縦軸が条件指数Fを表し、横軸が差分ΔPcを表している。条件指数F(ΔPc)は差分ΔPcの関数である。条件指数F(ΔPc)は、差分ΔPcが圧縮圧力閾値Acまではゼロであり、差分ΔPcが圧縮圧力閾値Acを超えると差分ΔPcの増加に従って増加する。
【0051】
〔否定要素:第1状態指数R
排気弁摺動部の汚損や損傷によって排気弁動作が阻害され排気弁ストロークが減少した場合に、圧縮圧力Pcompが減少することがある。排気弁ストロークの減少が生じている場合には、圧縮圧力Pcompの減少の要因は空気ばね33のエア漏れ以外である可能性がある。そこで、所定の排気弁ストローク基準値からの排気弁ストロークの減少量ΔSが第1群の状態値として用いられ、減少量ΔSの増大に伴って減少する第1状態指数Rが第1群の状態指数として用いられる。
【0052】
第1群の状態値算出器66は、排気弁ストロークデータを用いて、排気弁ストローク基準値からの排気弁ストロークの減少量ΔSを求める。排気弁ストローク基準値は、ターゲットシリンダ11のターゲットサイクルの直前の所定数サイクルの排気弁ストロークの平均値であってよい。また、排気弁ストローク基準値は、ターゲットサイクルと同等のエンジン負荷のときに測定された排気弁ストロークの平均値であってよい。或いは、排気弁ストローク基準値は、エンジン10が具備する複数のシリンダ11でターゲットサイクルと同一サイクルで測定された排気弁ストロークの平均値であってよい。
【0053】
判定器3Aは、排気弁ストロークの減少量ΔSに基づいて第1状態指数Rを求める。図9は、排気弁ストロークの減少量ΔSと第1状態指数Rとの関係を表す図表であり、縦軸が第1状態指数Rを表し、横軸が排気弁ストロークの減少量ΔSを表している。排気弁ストロークの減少量ΔSと第1状態指数Rとの関係は予め判定器3Aに記憶されている。第1状態指数R(ΔS)は、排気弁ストロークの減少量ΔSがストローク閾値As以下では一定値(例えば、1)であり、排気弁ストロークの減少量ΔSがストローク閾値Asを超えると(即ち、排気弁ストロークがストローク閾値Asよりも小さくなると)殆どゼロまで急峻に減少する。
【0054】
〔肯定要素:第2状態指数R
ターゲットシリンダ11の排気弁閉タイミングθcに遅れが生じている場合には、検出された圧縮圧力Pcompの減少は空気ばね33のエア漏れに起因する可能性が高い。そこで、所定の排気弁閉タイミング基準値からの排気弁閉タイミングθcの遅れ量Δθcが第2群の状態値として用いられ、遅れ量Δθcの増大に伴って増加する第2状態指数Rが第2群の状態指数として用いられる。
【0055】
第2群の状態値算出器67は、排気弁閉タイミングデータを用いて、所定の排気弁閉タイミング基準値からの排気弁閉タイミングθcの遅れ量Δθcを求める。排気弁閉タイミング基準値は、エンジン10が具備する複数のシリンダ11でターゲットサイクルと同一サイクルで測定された排気弁閉タイミングθcの平均値であってよい。
【0056】
判定器3Aは、排気弁閉タイミングθcの遅れ量Δθcに基づいて第2状態指数Rを求める。図10は、排気弁閉タイミングθcの遅れ量Δθcと第2状態指数Rとの関係を表す図表であり、縦軸が第2状態指数Rを表し、横軸が排気弁閉タイミングθcの遅れ量Δθcを表している。排気弁閉タイミングθcの遅れ量Δθcと第2状態指数R2との関係は予め判定器3Aに記憶されている。第2状態指数R(Δθc)は、遅れ量Δθcが遅れ閾値Aθc以下ではゼロであり、遅れ量Δθcが遅れ閾値Aθcを超えると遅れ量Δθcの増加に伴って増加する。
【0057】
〔否定要素:第3状態指数R
シリンダカバー、排気弁16の触火面、及びピストンクラウン頂部などの燃焼室50を形成している要素において焼蝕が生じていると、燃焼室50の容積が設計値よりも大きくなる。燃焼室50の容積の増加は、圧縮圧力Pcompの低下の原因となり得る。そこで、焼蝕容積がゼロからの焼蝕容積の増加量(即ち、焼蝕容積)が第1群の状態値として用いられ、焼蝕容積の増加量の増大に伴って減少する第3状態指数Rが第1群の状態指数として用いられる。
【0058】
点検時に、燃焼室50を形成しているシリンダカバー、排気弁16の触火面、及びピストンクラウン頂部などの焼蝕の状態が目視で確認される。目視点検によって燃焼室50を形成している部材に焼蝕が見つかれば、焼蝕容積が計測される。焼蝕容積は予め判定器3Aに記憶されており、点検のたびに更新される。
【0059】
判定器3Aは、焼蝕容積の増加量に基づいて第3状態指数Rを求める。図11は、焼蝕容積の増加量と第3状態指数Rとの関係を表す図表であり、縦軸が第3状態指数Rを表し、横軸が焼蝕容積を表している。焼蝕容積の増加量と第3状態指数Rとの関係は予め判定器3Aに記憶されている。焼蝕により減少した容積(焼蝕容積)がゼロであるとき(即ち、焼蝕がないとき)の第3状態指数Rは1とする。第3状態指数Rは、焼蝕容積の増加に伴って段階的に(又は連続的に)が減少する。
【0060】
〔否定要素:第4状態指数R
排気弁16のシート不良に起因して燃焼室50からのガス漏れが生じると、圧縮圧力Pcompの低下が生じる。一方で、排気弁16のシート不良が生じると、燃焼室50の燃焼ガスが排気口13の下流へ漏れ出て、排気ガス温度計53で検出される排気ガス温度Teが上昇する。そこで、所定の排気ガス温度基準値からの排気ガス温度Teの上昇量ΔTeが第1群の状態値として用いられ、上昇量ΔTeの増大に伴って減少する第4状態指数Rが第1群の状態指数として用いられる。
【0061】
第1群の状態値算出器66は、排気ガス温度データを用いて、所定の排気ガス温度基準値からの排気ガス温度Teの上昇量ΔTeを求める。排気ガス温度基準値は、エンジン10が具備する複数のシリンダ11でターゲットサイクルと同一サイクルで測定された排気ガス温度Teの平均値であってよい。或いは、排気ガス温度基準値は、ターゲットシリンダ11に接続された排気管26で所定期間に測定された排気ガス温度Teの平均値であってよい。
【0062】
判定器3Aは、排気ガス温度Teの上昇量ΔTeに基づいて第4状態指数Rを求める。図12は、排気ガス温度Teの上昇量ΔTeと第4状態指数Rとの関係を表す図表であり、縦軸が第4状態指数Rを表し、横軸が排気ガス温度Teの上昇量ΔTeを表している。排気ガス温度Teの上昇量ΔTeと第4状態指数Rとの関係は、予め判定器3Aに記憶されている。第4状態指数R(ΔTe)は、排気ガス温度Teの上昇量ΔTeが所定の閾値ATe以下の場合には一定値(例えば、1)であり、上昇量ΔTeが閾値ATeを超えると上昇量ΔTeの増加に伴って減少する。
【0063】
〔否定要素:第5状態指数R
ピストン14に嵌められたピストンリング(図示略)のシール不良に起因して燃焼室50からのガス漏れが生じると、圧縮圧力Pcompの低下が生じる。一方で、ピストンリングのシール不良が生じると、燃焼室50の燃焼ガスが掃気室25へ漏れ出て、掃気室25の温度上昇を招く。そこで、所定の掃気室温度基準値からの掃気室温度Tsの上昇量ΔTsが第1群の状態値として用いられ、上昇量ΔTsの増大に伴って減少する第5状態指数Rが第1群の状態指数として用いられる。
【0064】
第1群の状態値算出器66は、掃気室温度データを用いて、所定の掃気室温度基準値からの掃気室温度Tsの上昇量ΔTsを求める。掃気室温度基準値は、エンジン10が具備する複数のシリンダ11でターゲットサイクルと同一サイクルで測定された掃気室温度Tsの平均値であってよい。或いは、掃気室温度基準値は、ターゲットシリンダ11に接続された掃気室25で所定期間に測定された掃気室温度Tsの平均値であってよい。
【0065】
判定器3Aは、掃気室温度Tsの上昇量ΔTsに基づいて第5状態指数Rを求める。図13は、掃気室温度Tsの上昇量ΔTsと第5状態指数Rとの関係を表す図表であり、縦軸が第5状態指数Rを表し、横軸が掃気室温度Tsの上昇量ΔTsを表している。掃気室温度Tsの上昇量ΔTsと第5状態指数Rとの関係は予め判定器3Aに記憶されている。第5状態指数R(ΔTs)は、上昇量ΔTsが閾値ATs以下の場合には一定値(例えば、1)であり、上昇量ΔTsが閾値ATsを超えると上昇量ΔTsの増加に伴って減少する。
【0066】
〔評価関数C〕
判定器3Aは、評価関数Cを用いて算出された評価指標に基づいて空気ばね33におけるエア漏れの可能性を評価する。評価関数Cは、第1群の状態指数と第2群の状態指数との和に条件指数Fを掛け合わせる演算式である。第1群の状態指数及び前記第2群の状態指数の少なくとも1つは、評価指標に与える影響の大きさに基づいて重み付けされていてよい。このような評価指標を用いることにより、判定器3Aは、所定の圧縮圧力基準値と圧縮圧力Pcompとの差分ΔPcが所定の圧縮圧力閾値Acを超えたときに、第1群の状態値が大きいほどエア漏れの可能性を低く判定する、及び/又は、第2群の状態値が大きいほどエア漏れの可能性を高く判定することとなる。
【0067】
本実施形態において判定器3Aは、上記のように算出された条件指数F及び第1状態指数R~第5状態指Rと、予め記憶された影響指数α~αと、予め与えられた評価関数Cとを用いて評価指標を算出する。評価関数Cは、次式(1)で表される。
C=F×R ・・・式(1)
(但し、R=α・R・R・R・R・R
【0068】
上記において、α~αは、各状態指数R~Rがエア漏れの可能性の判定に与える影響度を示す影響指数である。影響指数α~αは、各状態指数R~Rにおける他の状態指数に対する重みを表す。影響指数α~αの値は、特に限定されないが、例えば、全体を100としてα:α:α:α:α=25:20:5:25:25に設定される。なお、影響指数α~αは、エンジン10の特性、仕様、使用年数等によって異なる割合に設定され得る。また、影響指数α~αは、機械学習(教師あり学習)を行った結果に基づいて設定されてもよい。また、評価関数Cにおいて、影響指数α~αは用いられなくてもよい(即ち、α=α=α=α=α=1)。
【0069】
上記のような評価関数Cを用いて判定器3Aが算出する評価指標が大きい値となるほど、空気ばね33におけるエア漏れの可能性が高くなる。判定器3Aは、評価関数Cを用いて算出された評価指標が所定の判定基準を超えた場合に、空気ばね33におけるエア漏れの可能性が高いと判定し、所定の報知を行う。所定の報知は、例えば、管理装置3の出力装置27(例えば、ディスプレイ、警告灯、ブザー等)を通じて行われてもよいし、管理装置3から船舶4に異常報知信号を送信することにより、船舶4に備えられた表示装置、警告灯、ブザー等によって行われてもよい。
【0070】
以上に説明した通り、本実施形態に係る船陸間通信システム1は、船舶4に設けられたデータ送信装置7と、陸上に設けられた管理装置3と、判定装置300とを備える。判定装置300は、管理装置3に設けられた判定器3Aと、船舶4に設けられた筒内圧力測定器65及び状態値算出器66,67とを含む。そして、データ送信装置7は、筒内圧力、第1群の状態値のデータ、及び第2群の状態値のデータを管理装置3に衛星通信を介して送信するように構成されている。なお、上記実施形態では、判定器3Aが陸上に設けられているが、判定器3Aは船舶4に設けられていてもよい。
【0071】
筒内圧力測定器65は、エンジン10のシリンダ11の筒内圧力をクランク角に関連付けて測定し、筒内圧力測定データを生成する。状態値算出器66,67は、エンジン10の状態を表す測定値を取得して、エア漏れの可能性を否定する少なくとも1種類の第1群の状態値、及び/又は、エア漏れの可能性を肯定する少なくとも1種類の第2群の状態値を算出する。判定器3Aは、筒内圧力と、第1群の状態値、及び/又は、第2群の状態値とを取得して、空気ばね33のエア漏れの可能性を判定する。ここで、判定器3Aは、所定の圧縮圧力基準値と圧縮圧力Pcompとの差分ΔPcが所定の圧縮圧力閾値Acを超えたときに、第1群の状態値が大きいほどエア漏れの可能性を低く判定する、及び/又は、第2群の状態値が大きいほどエア漏れの可能性を高く判定する。
【0072】
同様に、本実施形態に係る判定方法は、複数のシリンダ11の各々について筒内圧力を検知し、エンジン10の状態を表す測定値を取得して、エア漏れの可能性を否定する少なくとも1種類の第1群の状態値、及び/又は、エア漏れの可能性を肯定する少なくとも1種類の第2群の状態値を算出し、所定の圧縮圧力基準値と圧縮圧力閾値Acとの差分ΔPcが所定の圧縮圧力閾値Acを超えたときに、第1群の状態値が大きいほどエア漏れの可能性を低く判定する、及び/又は、第2群の状態値が大きいほどエア漏れの可能性を高く判定する。
【0073】
上記の判定装置300及び判定方法によれば、圧縮圧力Pcompが低下したときに、第1群の状態値が大きいほど空気ばね33のエア漏れの可能性が低く判定される。又は/加えて、第2群の状態値が大きいほど空気ばね33のエア漏れの可能性が高く判定される。このように、圧縮圧力Pcompに加えて、第1群の状態値及び第2群の状態値を加味してエア漏れの可能性が判定されるので、エア漏れ以外の原因による圧縮圧力Pcompの低下が排斥されて、エア漏れの有無をより正確に判定することができる。
【0074】
上記では、第1群の状態値及び第2群の状態値のうち少なくとも一方が判定に用いられるが、より確実度の高い判定を行う観点から、第1群の状態値及び第2群の状態値の双方が判定に用いられることが望ましい。そこで、本実施形態に係る判定装置300において、状態値算出器66,67は、第1群の状態値を算出する第1群の状態値算出器66と、第2群の状態値を算出する第2群の状態値算出器67とを含む。そして、判定器3Aは、圧縮圧力基準値と圧縮圧力Pcompとの差分ΔPcが圧縮圧力閾値Acを超えたときに、第1群の状態値が大きいほどエア漏れの可能性を低く判定し、第2群の状態値が大きいほどエア漏れの可能性を高く判定する。
【0075】
このように、空気ばね33におけるエア漏れの可能性を低める判定要素である第1群の状態値及びその可能性を高める判定要素である第2群の状態値の双方に基づいて判定を行うことにより、より確実度の高い判定を行うことができる。
【0076】
また、本実施形態に係る判定装置300において、判定器3Aは、圧縮圧力基準値と圧縮圧力Pcompとの差分ΔPcの増大に伴って増加する条件指数Fと、第1群の状態値の増大に伴って減少する第1群の状態指数(R,R,R,R)と、第2群の状態値の増大に伴って増加する第2群の状態指数(R)とを求め、第1群の状態指数(R,R,R,R)と第2群の状態指数(R)との和に条件指数Fを掛け合わせた評価関数Cを用いて、エア漏れの可能性を判定するように構成されている。
【0077】
同様に、本実施形態に係る判定方法では、圧縮圧力基準値と圧縮圧力Pcompとの差分ΔPcの増大に伴って増加する条件指数Fと、第1群の状態値の増大に伴って減少する第1群の状態指数(R,R,R,R)と、第2群の状態値の増大に伴って増加する第2群の状態指数(R)とを求め、第1群の状態指数(R,R,R,R)と第2群の状態指数(R)との和に条件指数Fを掛け合わせた評価関数Cを用いて、エア漏れの可能性を判定する。
【0078】
上記判定装置300及び判定方法によれば、空気ばね33におけるエア漏れの可能性が高いほど評価関数Cで得られる評価指標が大きい値となるため、エア漏れの可能性を容易に可視化することができる。
【0079】
上記判定装置300及び判定方法において、第1群の状態指数及び第2群の状態指数の少なくとも1つが、エア漏れの判定に与える影響の大きさに基づいて重み付けされていてよい。
【0080】
このように状態指数が一律に加え合わせられるのではなく、エア漏れの判定に与える影響の大きさに基づいて個別に重み付けされることによって、エア漏れの可能性が評価関数Cにより正確に表れる。
【0081】
上記判定装置300及び判定方法において、測定値は排気弁ストロークを含み、第1群の状態値は所定の排気弁ストローク基準値からの排気弁ストロークの減少量ΔSを含んでいてよい。
【0082】
排気弁16の摺動部の異常が生じていると排気弁動作が阻害され排気弁ストロークが減少し、圧縮圧力Pcompが低下することがある。よって、第1群の状態値に排気弁ストロークの減少量ΔSが含まれることによって、測定された圧縮圧力Pcompの低下に排気弁16の摺動部の異常が関与しているか否かを知ることができる。
【0083】
上記判定装置300及び判定方法において、測定値は排気弁閉タイミングθcを含み、第2群の状態値は所定の排気弁閉タイミング基準値からの排気弁閉タイミングθcの遅れ量Δθcを含んでいてよい。
【0084】
空気ばね33のエア漏れが生じていると排気弁閉タイミングが遅れ、圧縮圧力Pcompが低下する。このように、空気ばね33のエア漏れは排気弁閉タイミングの遅れに直接的に影響を与え得る。よって、第2群の状態値に排気弁閉タイミングの遅れ量が含まれることによって、測定された圧縮圧力Pcompの低下に空気ばね33のエア漏れが関与している可能性の有無をより明確に知ることができる。
【0085】
上記判定装置300及び判定方法において、測定値はシリンダ11における燃焼室形成部材の焼蝕容積を含み、第1群の状態値は焼蝕無しからの焼蝕容積の増加量(即ち、焼蝕容積)を含んでいてよい。
【0086】
焼蝕容積の増加に従って燃焼室50の容積が大きくなるため、圧縮圧力Pcompが低下する。よって、第1群の状態値に焼蝕容積の増加量が含まれることによって、測定された圧縮圧力Pcompの低下にシリンダ11における燃焼室形成部材の焼蝕が関与しているか否かを知ることができる。
【0087】
上記判定装置300及び判定方法において、測定値はシリンダ11からの排気ガス温度Teを含み、第1群の状態値は所定の排気ガス温度基準値からの排気ガス温度Teの上昇量ΔTeを含んでいてよい。
【0088】
排気弁16のシート不良が生じていると、排気ガス温度Teが上昇する。一方で、排気弁16のシート不良は圧縮圧力Pcompの低下を引き起こす。よって、第1群の状態値に排気ガス温度Teの上昇量ΔTeが含まれることによって、測定された圧縮圧力Pcompの低下に排気弁16のシート不良が関与しているか否かを知ることができる。
【0089】
上記判定装置300及び判定方法において、測定値はシリンダ11へ給気される空気が蓄えられた掃気室25の掃気室温度Tsを含み、第1群の状態値は所定の掃気室温度基準値からの掃気室温度Tsの上昇量ΔTsを含んでいてよい。
【0090】
ピストン14のシール不良が生じていると、掃気室温度Tsが上昇する。一方で、ピストン14のシール不良は圧縮圧力Pcompの低下を引き起こす。よって、第1群の状態値に掃気室温度Tsの上昇量ΔTsが含まれることによって、測定された圧縮圧力Pcompの低下にピストン14のシール不良が関与しているか否かを知ることができる。
【0091】
なお、上記の第1群の状態値及び第2群の状態値は何れも従来から船舶4のエンジンシステム5に搭載されている計器を用いて容易に想定可能である。つまり、圧縮圧力Pcompが低下した要因が空気ばね33におけるエア漏れであるか、他の要因であるのかを容易に測定可能な状態値を用いて判定することができる。従って、簡単な構成で空気ばね33におけるエア漏れの可能性を判定することができる。
【0092】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、本発明の思想を逸脱しない範囲で、上記実施形態の具体的な構造及び/又は機能の詳細を変更したものも本発明に含まれ得る。上記の船陸間通信システム1及び判定装置300の構成は、例えば、以下のように変更することができる。
【0093】
例えば、上記実施の形態において、第1状態指数R~第5状態指数Rをすべて評価関数Cに用いる態様を例示したが、これに限られない。すなわち、上記5つの状態指数R~Rのうち、少なくとも1種類が使用されていればよく、使用しない状態指数が存在していてもよい。なお、場合によって影響指数α~αの何れかを0とすることで、対応する状態指数R~Rの評価関数Cへの影響をなくしてもよい。例えば、否定要素である第1群の状態指数において影響指数の最も大きい状態指数(R、R及びRのうちいずれか一つ)と、肯定要素である第2群の状態指数において影響指数の最も大きい状態指数(R)とを用いて評価関数Cが算出されてもよい。
【0094】
また、上記実施の形態においては、データ送信装置7で生成したデータ送信信号を船外通信部8に送信し、船外通信部8が衛星通信を介して陸上の管理装置3にデータ送信する態様を例示したが、データ送信装置7が直接衛星通信を介して陸上の管理装置3にデータ送信してもよい。すなわち、データ送信装置7が衛星通信を行う船外通信部8を備えていてもよい。
【0095】
また、上記実施の形態では、陸上の管理装置3に判定器3Aが設けられる態様を例示したが、管理装置3とは別の陸上設備に判定器3Aが設けられてもよい。或いは、例えば、データ送信装置7又は船内LAN9に接続された判定処理用の演算器等、船上に判定器3Aが設けられてもよい。
【0096】
また、判定対象のエンジン10は、船舶4に設けられる燃焼機関である限り、特に限定されない。例えば、上記エンジン10は、推進用主機、各種補機、船内発電用内燃機関等、種々の用途のエンジン10を含み得る。
【符号の説明】
【0097】
1 :船陸間通信システム
2 :船上システム
3 :管理装置
3A :判定器
4 :船舶
5 :エンジンシステム
6 :データ収集装置
7 :データ送信装置
10 :エンジン
11 :シリンダ
12 :掃気口
13 :排気口
14 :ピストン
15 :燃料噴射弁
16 :排気弁
18 :クランク軸
20 :過給機
24 :掃気管
25 :掃気室
26 :排気管
31 :燃料供給装置
32 :動弁装置
33 :空気ばね
36,49 :高圧管
40 :通信衛星
41,42 :衛星アンテナ
50 :燃焼室
51 :エンジン負荷検出器
52 :筒内圧力センサ
53 :排気ガス温度計
54 :噴射量検出器
55 :排気弁位置検出器
56 :クランク角検出器
57 :掃気室温度計
60 :エンジン制御装置
61 :弁アクチュエータ
65 :筒内圧力測定器
66 :第1群の状態値算出器
67 :第2群の状態値算出器
300:判定装置
331:エアシリンダ
332:ばねピストン
333:ばね室


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