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特許7397705診断装置、システム、制御方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】診断装置、システム、制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20231206BHJP
   B61K 9/08 20060101ALI20231206BHJP
   E01B 35/00 20060101ALI20231206BHJP
   E01C 23/01 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
B60L3/00 N
B61K9/08
E01B35/00
E01C23/01
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020020613
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2021129330
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000203977
【氏名又は名称】日鉄テックスエンジ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】君塚 清
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 信一
(72)【発明者】
【氏名】水戸 勇介
(72)【発明者】
【氏名】伊東 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】植松 尚大
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐輝
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-142176(JP,A)
【文献】特開2017-075846(JP,A)
【文献】特開2013-006577(JP,A)
【文献】特開2015-153212(JP,A)
【文献】特開2017-110375(JP,A)
【文献】特開2016-061630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/00
B61K 9/08
E01B 35/00
E01C 23/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体が路盤上を移動する際に前記移動体に設置されたセンサにより測定されるセンサデータに基づいて決定される前記路盤上の場所に対応する複数の物理量に関する複数のデータであって、前記移動体に対してかかる複数の異なる方向の加速度に関するデータそれぞれと、前記移動体の複数の異なる回転方向の角速度に関するデータそれぞれと、前記移動体の複数の異なる回転方向の傾斜角に関するデータそれぞれと、のうちの少なくとも2つ以上のデータを含む前記複数のデータを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記複数のデータの中に、前記複数のデータそれぞれについて設定された閾値以上となるデータが1以上の予め定められた個数以上、存在するか否かに基づいて、前記路盤上の前記場所に異常があるか否かを診断する診断手段と、
を有し、
前記取得手段は、前記場所において、前記移動体に設置された加速度センサにより測定された、前記移動体にかかる1つ以上の方向の加速度それぞれの二乗平均のデータと、前記場所において、前記移動体に設置された角速度センサにより測定された、前記移動体にかかる1つ以上の回転方向の角速度それぞれの二乗平均のデータとを含む前記複数のデータを取得する診断装置。
【請求項2】
前記複数の物理量は、対応する方向、又は、回転方向の異なる2つの物理量を含む請求項1記載の診断装置。
【請求項3】
前記移動体は、前記路盤上の軌条に沿って移動する車両であり、
前記取得手段は、前記センサに含まれる軌間センサを介して取得される前記場所における前記軌条の軌間のズレ幅に関するデータを含む前記複数のデータを取得する請求項1又は2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記診断手段による診断の結果を示す情報を出力する出力手段を更に有する請求項1乃至の何れか1項に記載の診断装置。
【請求項5】
移動体が路盤上を移動する際に前記移動体に設置されたセンサにより測定されるセンサデータに基づいて決定される前記路盤上の場所に対応する複数の物理量に関する複数のデータであって、前記移動体に対してかかる複数の異なる方向の加速度に関するデータそれぞれと、前記移動体の複数の異なる回転方向の角速度に関するデータそれぞれと、前記移動体の複数の異なる回転方向の傾斜角に関するデータそれぞれと、のうちの少なくとも2つ以上のデータを含む前記複数のデータを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記複数のデータの中に、前記複数のデータそれぞれについて設定された閾値以上となるデータが1以上の予め定められた個数以上、存在するか否かに基づいて、前記路盤上の前記場所に異常があるか否かを診断する診断手段と、
を有し、
前記取得手段は、前記場所において、前記移動体に設置された加速度センサにより測定された、前記移動体にかかる1つ以上の方向の加速度それぞれの二乗平均のデータと、前記場所において、前記移動体に設置された角速度センサにより測定された、前記移動体にかかる1つ以上の回転方向の角速度それぞれの二乗平均のデータとを含む前記複数のデータを取得するシステム。
【請求項6】
診断装置の制御方法であって
移動体が路盤上を移動する際に前記移動体に設置されたセンサにより測定されるセンサデータに基づいて決定される前記路盤上の場所に対応する複数の物理量に関する複数のデータであって、前記移動体に対してかかる複数の異なる方向の加速度に関するデータそれぞれと、前記移動体の複数の異なる回転方向の角速度に関するデータそれぞれと、前記移動体の複数の異なる回転方向の傾斜角に関するデータそれぞれと、のうちの少なくとも2つ以上のデータを含む前記複数のデータを取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得された前記複数のデータの中に、前記複数のデータそれぞれについて設定された閾値以上となるデータが1以上の予め定められた個数以上、存在するか否かに基づいて、前記路盤上の前記場所に異常があるか否かを診断する診断ステップと、
を含み、
前記取得ステップでは、前記場所において、前記移動体に設置された加速度センサにより測定された、前記移動体にかかる1つ以上の方向の加速度それぞれの二乗平均のデータと、前記場所において、前記移動体に設置された角速度センサにより測定された、前記移動体にかかる1つ以上の回転方向の角速度それぞれの二乗平均のデータとを含む前記複数のデータを取得する制御方法。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1乃至の何れか1項に記載の診断装置の各手段として、機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断装置、システム、制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
移動体が路盤上を移動する際に、移動体に設置された加速度センサ等のセンサを介して測定されたデータを用いて路盤の異常を診断することが行われている。
特許文献1には、定められた軌道を車両が走行する軌道系交通システムの軌道設備又は車両設備の異常を診断する方法が開示されている。
また、特許文献2には、車両が移動する軌道の状態を車両の振動から把握するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-148466号公報
【文献】特開2005-231427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
移動体によっては、速度が制限される場合がある。速度が低速になる程、移動体に設置されたセンサを介して得られるデータが微弱なデータとなる場合がある。このような場合、センサを介して微弱なデータしか得られず、移動体が移動する路盤の異常の診断ができなくなる場合があるという問題がある。
そこで、本発明は、速度が制限されている移動体に設置されたセンサの信号を用いて路盤の異常の診断をより精度よく行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の診断装置は、移動体が路盤上を移動する際に前記移動体に設置されたセンサにより測定されるセンサデータに基づいて決定される前記路盤上の場所に対応する複数の物理量に関する複数のデータであって、前記移動体に対してかかる複数の異なる方向の加速度に関するデータそれぞれと、前記移動体の複数の異なる回転方向の角速度に関するデータそれぞれと、前記移動体の複数の異なる回転方向の傾斜角に関するデータそれぞれと、のうちの少なくとも2つ以上のデータを含む前記複数のデータを取得する取得手段と、前記取得手段により取得された前記複数のデータの中に、前記複数のデータそれぞれについて設定された閾値以上となるデータが1以上の予め定められた個数以上、存在するか否かに基づいて、前記路盤上の前記場所に異常があるか否かを診断する診断手段と、を有し、前記取得手段は、前記場所において、前記移動体に設置された加速度センサにより測定された、前記移動体にかかる1つ以上の方向の加速度それぞれの二乗平均のデータと、前記場所において、前記移動体に設置された角速度センサにより測定された、前記移動体にかかる1つ以上の回転方向の角速度それぞれの二乗平均のデータとを含む前記複数のデータを取得する
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、速度が制限されている移動体に設置されたセンサの信号を用いて路盤の異常の診断をより精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、診断システムのシステム構成の一例を示す図である。
図2図2は、診断装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3図3は、診断装置の機能構成の一例を示す図である。
図4図4は、センサデータ収集処理の一例を示すフローチャートである。
図5図5は、データ取得処理の一例を示すフローチャートである。
図6図6は、診断処理の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、実験状況を説明する図である。
図8図8は、実験で取得されたデータを示す図である。
図9図9は、実験で取得されたデータを示す図である。
図10図10は、実験で取得されたデータを示す図である。
図11図11は、実験結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<実施形態>
以下、本発明の一実施形態について図面に基づいて説明する。
【0009】
(診断システム)
図1は、本実施形態の診断システム100のシステム構成の一例を示す図である。
診断システム100は、移動体110に設置され、移動体110が移動する路盤に異常があるか否かを診断するシステムである。路盤の異常とは、路盤に生じた予め定められた正常状態からの何等かの乖離である。本実施形態では、路盤の異常には、軌条の破損、軌条の断裂等の重篤なものだけでなく、軌条の摩耗、擦り傷等の軽微なものも含まれる。移動体110は、路盤上に設置された軌条に沿った軌道を移動する鉄道車両である。ただし、他の例として、移動体110は、道路上を移動する車両、レール上を移動する天井クレーン等の他の移動体であってもよい。本実施形態では、移動体110は、低速として定められた速度帯(例えば、20km/h未満、10km/h以下等)で軌条に沿って移動し、この速度帯以上の速度で移動することができない。
診断システム100は、診断装置101、加速度センサ102、角速度センサ103、軌間センサ104、測位計105を含む。
【0010】
診断装置101は、加速度センサ102、角速度センサ103、軌間センサ104のうちの少なくとも1つを用いて測定されたデータに基づいて、路盤に異常があるか否かを診断する情報処理装置である。診断装置101は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)、移動体に組み込まれたコンピュータ、サーバ装置、タブレット装置等である。
加速度センサ102は、移動体110にかかる加速度の測定に用いられるセンサである。角速度センサ103は、移動体110の角速度の測定に用いられるセンサである。加速度センサ102は、移動体110の予め定められた1対の車輪を介して伝わる加速度を、適切に検知できるように、この1対の車輪から予め定められた範囲(例えば、この1対の車輪の中間の位置から予め定められた閾値以下の距離の範囲)内の位置に設置されている。以下では、この予め定められた1対の車輪を基準車輪対とする。
また、角速度センサ103は、基準車輪対と軌条との接触により生じる角速度を適切に検知できるように、基準車輪対から予め定められた範囲(例えば、この1対の車輪の中間の位置から予め定められた閾値以下の距離の範囲)内の位置に設置されている。
【0011】
軌間センサ104は、2つの2次元レーザ計測計を含み軌道における2本の軌条(レール)間の距離である軌間の測定に用いられるセンサである。軌間センサ104の2つの2次元レーザ計測計それぞれは、測定位置において、移動体110の進行方向を前方向とし、重力方向を下方向とした場合の左右方向における軌道の2つの軌条それぞれの端部の位置を測定する。そして、軌間センサ104は、2つの2次元レーザ計測計それぞれにより測定された位置に基づいて、測定位置における軌間を計測する。軌間センサ104の2つの2次元レーザ計測計それぞれは、軌条上の基準車輪対が接触する位置の近傍の位置(例えば、接触位置から、前方に予め定められた距離だけ進んだ位置)におけるレールの位置を測定できるように、移動体110の筐体の下部に設置されている。本実施形態では、軌間センサ104が測定する軌間は、軌条において基準車輪対が接触する位置における軌間であると仮定する。
以下では、移動体110の進行方向を前方向とする。また、以下では、重力方向を下方向とする。
測位計105は、路盤上の予め定められた位置に設置されているRFIDタグを読み取るRFIDタグリーダ、レーザドップラ速度計を含み、移動体110の位置を測定する計測器である。測位計105は、RFIDタグリーダを介して、RFIDタグからの信号を読み取ることで、移動体110の位置を求める。また、測位計105は、レーザドップラ速度計を介して、移動体110の速度を求める。本実施形態では、測位計105は、路盤上における基準車輪対の位置(例えば、移動体110のスタート地点から100mの位置等)を、移動体110の位置として測定する。ただし、測位計105は、他の方法を用いて、移動体110の位置を求めてもよい。例えば、測位計105は、GPSを用いて、移動体110の位置を求めることとしてもよい。また、測位計105は、レーザ距離計を用いて、移動体110の位置を求めてもよい。また、測位計105は、移動体110に設置されたスピードメータからの車速信号に基づいて、移動体110の位置を求めてもよい。
【0012】
(診断装置の詳細)
図2は、診断装置101のハードウェア構成の一例を示す図である。診断装置101は、CPU201、主記憶装置202、補助記憶装置203、デバイスI/F204、入力部205、出力部206を含む。各要素は、システムバス207を介して、相互に通信可能に接続されている。
CPU201は、診断装置101を制御する中央演算装置である。主記憶装置202は、CPU201のワークエリア、データの一時的な記憶領域として機能するRandom Access Memory(RAM)等の記憶装置である。補助記憶装置203は、各種プログラム、各種設定情報、各種計測データ等を記憶する記憶装置である。補助記憶装置203は、Read Only Memory(ROM)、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)等である。
【0013】
デバイスI/F204は、加速度センサ102、角速度センサ103、軌間センサ104、測位計105等の外部のデバイスとの接続に用いられるインターフェースである。CPU201は、デバイスI/F204を介して、加速度センサ102、角速度センサ103、軌間センサ104、測位計105との間で情報の入出力を行う。
入力部205は、マウス、キーボード、タッチパネル、専用のコントローラ、マイク等の入力装置である。出力部206は、モニタ、スピーカ、タッチパネルの表示部等の出力装置である。
CPU201が、補助記憶装置203等に記憶されたプログラムにしたがって処理を実行することで、図3で後述する診断装置101の機能、図4~6で後述するフローチャートの処理等が実現される。
【0014】
図3は、診断装置101の機能構成の一例を示す図である。診断装置101は、取得部301、診断部302を含む。
取得部301は、加速度センサ102、角速度センサ103、軌間センサ104を介して、予め定められた種類のデータを取得する。本実施形態では、取得部301は、加速度センサ102、角速度センサ103、軌間センサ104等の計測器の少なくとも1つから出力される信号に基づいて求められる、何等かの物理量に関するデータを取得する。
診断部302は、取得部301により取得されたデータに基づいて、路盤上に設定された場所に異常が存在するか否かを診断する。
【0015】
(診断システム100の処理)
図4を用いて、診断システム100が実行するセンサデータ収集処理を説明する。
本実施形態では、診断システム100は、移動体110が路盤上をスタート地点から移動し始めたことに併せて、図4の処理を開始する。以下では、センサから出力されるデータをセンサデータとする。
S401において、取得部301は、測位計105を介して、処理時点における移動体110の位置(基準車輪対の位置)と、移動体110の速度と、を取得する。
S402において、取得部301は、加速度センサ102から出力される複数の方向の加速度を示すセンサデータを取得する。本実施形態では、取得部301は、この複数の方向の加速度を示すセンサデータとして、前後方向にかかる加速度、上下方向にかかる加速度、左右方向にかかる加速度をそれぞれ示す3つのセンサデータを取得する。
【0016】
S403において、取得部301は、角速度センサ103から出力される複数の回転方向の角速度を示すセンサデータを取得する。本実施形態では、取得部301は、この複数の回転方向の角速度を示すセンサデータとして、ロール方向の角速度、ピッチ方向の角速度、ヨー方向の角速度をそれぞれ示す3つのセンサデータを取得する。
ロール方向とは、角速度センサ103を通り、移動体110の進行方向(前方向)の軸の回転方向である。ピッチ方向とは、角速度センサ103を通り、移動体110の左右方向の軸の回転方向である。ヨー方向とは、角速度センサ103を通り、移動体110の上下方向の軸の回転方向である。
以下では、方向と回転方向とを合わせた概念を、方向・回転方向とする。
S404において、取得部301は、軌間センサ104から出力される、軌条において基準車輪対の接触する位置におけるレールの幅である軌間を示すセンサデータを取得する。
【0017】
S405において、取得部301は、ロール方向について、これまでにS403で取得した角速度のセンサデータの値を積分(合計)することで、S401で取得した位置における移動体110のロール方向の傾斜角を求める。また、取得部301は、求めたロール方向の傾斜角を、これまでにS402で取得した加速度のセンサデータの値で補正し、補正した傾斜角を、移動体110のロール方向の傾斜角として取得する。また、取得部301は、ピッチ方向について、これまでにS403で取得した角速度のセンサデータの値を積分(合計)することで、S401で取得した位置における移動体110のピッチ方向の傾斜角を求める。また、取得部301は、求めたピッチ方向の傾斜角を、これまでにS402で取得した加速度のセンサデータの値で補正し、補正した傾斜角を、移動体110のピッチ方向の傾斜角として取得する。ただし、他の例として、取得部301は、傾斜角を直接検出することが可能なセンサを用いて、直接傾斜角のデータを取得することとしてもよい。
S406において、取得部301は、S401で取得した速度と、S402~S404で取得されたセンサデータと、S405で取得した傾斜角のデータとを、S401で取得した位置と対応付けて、補助記憶装置203に記憶する。
S407において、取得部301は、予め定められた期間待機する。本実施形態では、取得部301は、2msec待機する。これにより、取得部301は、S407での待機期間(2msec)ごとにS401~S405で各データを取得することとなる。ただし、取得部301は、S407で、1msec、5msec、1sec等、任意の期間待機することとしてもよい。
【0018】
S408において、取得部301は、移動体110の移動が完了したか否かを判定する。本実施形態では、取得部301は、直近のS401の処理で取得した移動体110の位置が路盤上のゴール地点以降の地点である場合、移動体110の移動が完了したと判定する。また、取得部301は、直近のS401の処理で取得した移動体110の位置が路盤上のゴール地点以降の地点でない場合、移動体110の移動が完了していないと判定する。
取得部301は、移動体110の移動が完了したと判定した場合、図4の処理を終了し、移動体110の移動が完了していないと判定した場合、処理をS401に進める。
以上の図4の処理により、診断システム100は、移動体110の路盤上の移動の際に2msecごとに各データを取得できる。以下では、図4の処理により補助記憶装置203に路盤上の位置と対応付けて記憶されたデータ群を、生データ群とする。
【0019】
図5を用いて、診断システム100が実行するデータ取得処理を説明する。
S501において、取得部301は、図4の処理で記憶された生データ群の各データを、路盤上に予め定められた複数の場所それぞれに対応するデータ群に分割する。本実施形態では、路盤上には、軌条に沿ったスタート地点からゴール地点までを、予め定められた間隔(例えば、1m、25cm等)で区切った複数の場所が設定されている。即ち、取得部301は、生データ群の各データを、各データに対応する路盤上の位置を含む場所に対応するデータとして振り分ける。
S502において、取得部301は、路盤上に設定された複数の場所それぞれにおいて、移動体110にかかる加速度に関するデータを取得する。より具体的には、取得部301は、複数の場所それぞれについて、以下の処理を行う。
即ち、取得部301は、S501でその場所に対応するデータとして振り分けたデータ群から、加速度センサ102から出力された各方向(前後方向、上下方向、左右方向)の加速度のセンサデータを取得する。そして、取得部301は、方向ごとに、その場所に対応する加速度のセンサデータの二乗平均(各センサデータの二乗の平均値)を求め、求めた値を、その場所において移動体110にかかる各方向の加速度に関するデータとする。取得部301は、二乗平均をとることで、移動体110が低速度帯で移動し、微弱なセンサデータしか取得できない場合でも、加速度に関するより強調されたデータを取得できる。ただし、他の例として、取得部301は、方向ごとに、その場所に対応する加速度のセンサデータの平均値、最大値、最小値、振幅、絶対値の平均等を、各方向の加速度に関するデータとして取得してもよい。また、取得部301は、これらのデータと、その場所に対応する加速度のセンサデータの二乗平均のデータと、のうちの複数のデータを、それぞれ加速度に関するデータとして取得してもよい。
これにより、取得部301は、路盤上の複数の場所それぞれについて、移動体110にかかる各方向の加速度に関するデータを取得できる。
【0020】
S503において、取得部301は、路盤上に設定された複数の場所それぞれにおいて、移動体110の角速度に関するデータを取得する。より具体的には、取得部301は、複数の場所それぞれについて、以下の処理を行う。
即ち、取得部301は、S501でその場所に対応するデータとして振り分けたデータ群から、角速度センサ103から出力された各回転方向(ロール方向、ピッチ方向、ヨー方向)の角速度のセンサデータを取得する。そして、取得部301は、回転方向ごとに、その場所に対応するセンサデータの二乗平均(各センサデータの二乗の平均値)を求め、求めた値を、その場所における移動体110の各回転方向の角速度に関するデータとする。ただし、他の例として、取得部301は、回転方向ごとに、その場所に対応する角速度のセンサデータの平均値、最大値、最小値、振幅、絶対値の平均等を、各回転方向の角速度に関するデータとして取得してもよい。また、取得部301は、これらのデータと、その場所に対応する角速度のセンサデータの二乗平均のデータと、のうちの複数のデータを、それぞれ角速度に関するデータとして取得してもよい。
これにより、取得部301は、路盤上の複数の場所それぞれについて、移動体110の各回転方向の角速度に関するデータを取得できる。
【0021】
S504において、取得部301は、路盤上に設定された複数の場所それぞれにおいて、移動体110の傾斜角に関するデータを取得する。より具体的には、取得部301は、複数の場所それぞれについて、以下の処理を行う。
即ち、取得部301は、S501でその場所に対応するデータとして振り分けたデータ群から、各回転方向(ロール方向、ピッチ方向)の傾斜角のデータを取得する。そして、取得部301は、回転方向ごとに、その場所に対応する傾斜角の平均を求め、求めた値を、その場所における移動体110の各回転方向(ロール方向、ピッチ方向)の傾斜角に関するデータとする。ただし、他の例として、取得部301は、回転方向ごとに、その場所に対応する傾斜角のデータの最大値、最小値、振幅、絶対値の平均、二乗平均等を、各回転方向の傾斜角に関するデータとして取得してもよい。また、取得部301は、これらのデータと、その場所に対応する傾斜角の平均のデータと、のうちの複数のデータを、それぞれ傾斜角に関するデータとして取得してもよい。
これにより、取得部301は、路盤上の複数の場所それぞれについて、移動体110の各回転方向の傾斜角に関するデータを取得できる。
【0022】
S505において、取得部301は、路盤上に設定された複数の場所それぞれにおける軌間のズレ幅に関するデータを取得する。より具体的には、取得部301は、複数の場所それぞれについて、以下の処理を行う。
即ち、取得部301は、S501でその場所に対応するデータとして振り分けたデータ群から、軌間のデータを取得する。そして、取得部301は、その場所に対応する軌間のデータと軌間の幅として予め定められた値との差分の平均を求め、その場所における軌間のズレ幅に関するデータとする。ただし、他の例として、取得部301は、その場所に対応する軌間のデータと軌間の幅として予め定められた値との差分の最大値、最小値、振幅、絶対値の平均、二乗平均等を、軌間のズレ幅に関するデータとして取得してもよい。また、取得部301は、これらのデータと、その場所に対応する軌間のデータと軌間の幅として予め定められた値との差分の平均のデータと、のうちの複数のデータをそれぞれ傾斜角に関するデータとして取得してもよい。
これにより、取得部301は、路盤上の複数の場所それぞれについて、軌間のズレ幅に関するデータを取得できる。
S506において、取得部301は、S502~S505それぞれで取得した各種のデータを補助記憶装置203に記憶する。即ち、取得部301は、路盤上に設定された各場所に対応する3つの方向の加速度に関するデータ、3つの回転方向の角速度に関するデータ、2つの回転方向の傾斜角に関するデータ、軌間のズレ幅に関するデータの9種類のデータを記憶する。
【0023】
ここで、診断システム100が実行する診断処理の概要を説明する。
移動体110が路盤上を移動する際、路盤の異常(路盤の変形、軌条の変形等)により、移動体110に変動が生じる。この変動は、必ずしも、移動体110を基準とした1つの方向・回転方向についての1種類の物理量として現れるとは限らない。物理量には、加速度、速度、角速度、傾斜角、幅(長さ)等の種類がある。この変動は、移動体110を基準とした種々の方向・回転方向の種々の種類の物理量の複合として現れる場合があると考えられる。そのため、路盤の異常は、移動体110を基準とする方向・回転方向又は、種類の異なる複数の物理量に関する複数のデータとして現れると考えられる。
また、移動体110は、低速度帯での移動を行うため、各センサデータが、低速度帯以上の速度で移動している移動体に設置されたセンサから出力されるセンサデータよりも微弱となる。そのため、1つのデータのみに着目しても、路盤の異常の影響が表れているか否かを判別できない場合がある。
そこで、本実施形態では、診断システム100は、図5の処理で記憶したデータのうち、3つの方向の加速度に関するデータ、3つの回転方向の角速度に関するデータ、2つの回転方向の傾斜角に関するデータの8種類のデータのうち少なくとも2つ以上を、路盤の異常の診断に用いるデータとして決定する。そして、診断システム100は、決定したデータそれぞれに閾値判定を行い、路盤の異常診断を行う。以上が、診断処理の概要である。
【0024】
図6を用いて、診断システム100が実行する診断処理の詳細を説明する。
S601において、診断部302は、S506で記憶されたデータから9種類のデータから、3つの方向の加速度に関するデータ、3つの回転方向の角速度に関するデータ、2つの回転方向の傾斜角に関するデータの8種類のデータのうちの少なくとも2つ以上を含むように、路盤の異常の診断に用いるデータを決定する。以下では、路盤の異常の診断に用いられるデータを、診断データとする。
診断部302は、入力部205を介した操作により指定されたデータを、診断データとして決定する。ただし、他の例として、診断部302は、あらかじめ定められた種類のデータを診断データとして決定してもよい。
本実施形態では、診断部302は、左右方向の加速度に関するデータ、上下方向の加速度に関するデータ、ロール方向の角速度に関するデータ、ヨー方向の角速度に関するデータ、ピッチ方向の角速度に関するデータ、ロール方向の傾斜角に関するデータ、ピッチ方向の傾斜角に関するデータの7種類のデータを、診断データとして決定したとする。
【0025】
S602において、診断部302は、路盤上に設定された複数の場所から、1つを診断対象の場所として選択する。以下では、S602で選択された場所を選択場所とする。
S603において、診断部302は、選択場所に対応する診断データそれぞれについて、診断データの値が診断データそれぞれについて予め定められた第1の閾値以上となるか否かを特定する。この第1の閾値それぞれは、診断データの種類ごとに予め定められている。
S604において、診断部302は、診断データのうち、S603で第1の閾値以上となると特定したデータの数が、2以上の予め定められた個数(例えば、3、4等)以上であるか否かを判定する。診断部302は、診断データのうち、S603で第1の閾値以上となると特定したデータの数が、予め定められた個数以上であると判定した場合、処理をS607に進める。診断部302は、診断データのうち、S603で第1の閾値以上となると特定したデータの数が、予め定められた個数未満であると判定した場合、処理をS605に進める。
【0026】
S605において、診断部302は、選択場所に対応する診断データそれぞれについて、診断データの値が診断データそれぞれについて予め定められた閾値であって、S603の処理で用いた第1の閾値よりも大きい第2の閾値以上となるか否かを特定する。この第2の閾値は、診断データの種類ごとに予め定められている。
S606において、診断部302は、診断データのうち、S605で第2の閾値以上となると特定したデータの数が、1以上であるか否かを判定する。診断部302は、診断データのうち、S605で第2の閾値以上となると特定したデータの数が、1以上であると判定した場合、処理をS607に進める。診断部302は、診断データのうち、S605で第2の閾値以上となると特定したデータの数が、0であると判定した場合、処理をS608に進める。
ここで、S605~S606の処理の意義について説明する。路盤に顕著な異常が存在する場合、移動体110が低速度帯で移動する場合でも、顕著な値のセンサデータを得ることができる場合が考えられる。そのため、診断部302は、診断データの中にS603で用いた閾値よりも大きな閾値以上となるデータが1つでもあれば、異常であると診断するために、S605~S606を実行する。
【0027】
S607において、診断部302は、路盤上の選択場所に異常があると診断する。
S608において、診断部302は、路盤上の選択場所に異常がない(正常である)と診断する。
S609において、診断部302は、路盤上に設定された複数の場所の全てについて診断が完了したか否かを判定する。診断部302は、路盤上に設定された複数の場所の全てについて診断が完了したと判定した場合、処理をS610に進める。また、診断部302は、路盤上に設定された複数の場所の中に診断が完了していない場所があると判定した場合、処理をS602に進める。
【0028】
S610において、診断部302は、路盤上に設定された複数の場所それぞれについての診断結果(S607又はS608の結果)を出力する。ただし、他の例として、診断部302は、異常と診断された場所についての診断結果のみを出力することとしてもよい。
診断部302は、診断結果を出力部206のモニタに表示することで、出力することとする。ただし、他の例として、診断部302は、診断結果を、補助記憶装置203に記憶することで、出力することとしてもよい。また、診断部302は、診断結果を、予め定められた送信先に送信することで出力することとしてもよい。
【0029】
(効果)
以上、本実施形態の処理により、移動体110が低速度帯で移動する場合であっても、移動体110に設置されたセンサのセンサデータを用いて、より精度よく路盤に異常があるか否かを診断できる。
【0030】
(実効性検証実験)
発明者らは、本実施形態の処理の実効性を検証するための実験を行った。以下では、この実験を、本実験とする。本実験とその実験結果とについて説明する。
図7は、本実験の状況を説明する図である。
本実験では、移動体110として、天井クレーン装置700を用いた。天井クレーン装置700は、レール710に沿って移動する。
天井クレーン装置700は、ガーダ701、トロリ702、クレーン部703、走行部704を含む。天井クレーン装置700は、総重量が155.2tである。ガーダ701は、トロリ702等を支持する柱状の構造物である。トロリ702は、クレーン部703を介して荷をつってガーダ上を移動する台車である。本実験では、トロリ702は、ガーダ701の中央に配置されている。クレーン部703は、荷を吊り下げる機構であり、トロリ702と連動して移動する。走行部704は、車輪を有し、レール710に設置され、天井クレーン装置700のレール710上での移動に用いられる。
【0031】
レール710は、東西方向に水平に配置されたレールであり、長さが360mである。以下では、レール710のうち、北側に配置されたレールは、レール710Aとする。また、以下では、レール710のうち、南側に配置されたレールは、レール710Bとする。
また、以下では、レール710Aに設置されている方の走行部704を、走行部704Aとする。また、以下では、レール710Bに設置されている方の走行部704を、走行部704Bとする。
【0032】
走行部704A、704Bそれぞれは、東西方向において同じ位置となるように移動する。そのため、ガーダ701は、長手方向が、南北方向に水平となる。また、レール710のレール間の幅(レール710Aとレール710Bとの距離)は、38.5mである。
本実験における診断対象の路盤は、レール710Aとレール710Aの設置面とである。
本実験では、診断システム100は、移動体110である天井クレーン装置700に設置される。加速度センサ102、角速度センサ103、は、ガーダ701上における走行部704Aの直上部に配置されている。
【0033】
本実験では、天井クレーン装置700を、図7中のA地点をスタート位置として東向きにD地点まで走行させた。天井クレーン装置700は、B地点からC地点までの区間では、時速7.2km/hの定速で移動した。診断装置101は、天井クレーン装置700がB地点からC地点までの区間で低速移動を行っている間に、図4と同様の処理を行うことで、生データ群を取得した。ただし、本実験では、診断装置101は、傾斜角センサを含み、S405では、この傾斜角センサを介して、ロール方向及びピッチ方向の傾斜角を取得した。
そして、診断装置101は、取得した生データ群に基づいて、図5と同様の処理を行うことで、診断データの候補となるデータを生成した。ただし、診断装置101は、本実験では、軌間センサ104を用いなかったため、S505の処理については実行していない。また、本実験では、路盤上に予め定められた複数の場所は、レール710上のB地点からC地点までの区間を0.25mの間隔で区切った複数の場所であるとした。
また、診断装置101は、S502で、各場所に対応する加速度に関するデータとして、各場所に対応する加速度のセンサデータの平均のデータと、2乗平均のデータと、を取得した。以下では、各場所に対応する加速度のセンサデータの平均のデータを、加速度(平均)データとする。また、以下では、各場所に対応する加速度のセンサデータの2乗平均のデータを、加速度(2乗平均)データとする。
【0034】
また、診断装置101は、S503で、各場所に対応する角速度に関するデータとして、各場所に対応する角速度のセンサデータの平均のデータと、2乗平均のデータと、を取得した。以下では、各場所に対応する角速度のセンサデータの平均のデータを、角速度(平均)データとする。また、以下では、各場所に対応する角速度のセンサデータの2乗平均のデータを、角速度(2乗平均)データとする。
また、診断装置101は、S504では、図5で説明したデータと同様のデータを取得した。
ここで実行された図5の処理で生成されたデータを、候補データとする。
【0035】
生成された候補データのうち、左右方向の加速度(平均)データ、前後方向の加速度(平均)データ、上下方向の加速度(平均)データ、ロール方向の角速度(平均)データ、ヨー方向の角速度(平均)データを、図8に示す。
生成された候補データのうち、ロール方向の傾斜角のデータ、ピッチ方向の傾斜角のデータを、図9に示す。
生成された候補データのうち、左右方向の加速度(2乗平均)データ、前後方向の加速度(2乗平均)データ、上下方向の加速度(2乗平均)データ、ロール方向の角速度(2乗平均)データ、ヨー方向の角速度(2乗平均)データを、図10に示す。
【0036】
図8~10の各グラフの横軸は、レール710上でB地点からC地点までの330m区間内の位置を示す。以下では、図8~10の各グラフの横軸に示されている区間は、この330mの区間内の185mの区間である。以下では、この185mの区間を設定区間とする。縦軸は、データの値を示す。各グラフは、対応する横軸が示す位置に存在する場所に対応するデータの値を示すグラフである。
【0037】
続いて、診断装置101は、図6の処理を行うことで、路盤に異常があるか否かを診断した。ただし、本実験では、診断装置101は、S601で、図9図10で示した複数のデータを、診断データとして決定した。即ち、本実験では、診断データは、ロール方向の傾斜角のデータ、ピッチ方向の傾斜角のデータ、左右方向の加速度(2乗平均)データ、前後方向の加速度(2乗平均)データ、上下方向の加速度(2乗平均)データ、ロール方向の角速度(2乗平均)データ、ヨー方向の角速度(2乗平均)データの7種類のデータである。
また、ロール方向の傾斜角のデータについての第1の閾値は、0.3とした。また、ピッチ方向の傾斜角のデータについての第1の閾値は、1とした。また、左右方向の加速度(2乗平均)データについての第1の閾値は、2とした。また、前後方向の加速度(2乗平均)データについての第1の閾値は、0.5とした。また、上下方向の加速度(2乗平均)データについての第1の閾値は、3とした。また、ロール方向の角速度(2乗平均)データについての第1の閾値は0.05とした。また、ヨー方向の角速度(2乗平均)データについての第1の閾値は、0.02とした。
【0038】
また、S604での判定処理に用いられる予め定められた個数は、3個であるとした。
また、ロール方向の傾斜角のデータについての第2の閾値は、1とした。また、ピッチ方向の傾斜角のデータについての第2の閾値は、1.5とした。また、左右方向の加速度(2乗平均)データについての第2の閾値は、5とした。また、前後方向の加速度(2乗平均)データについての第2の閾値は、1とした。また、上下方向の加速度(2乗平均)データについての第2の閾値は、6とした。また、ロール方向の角速度(2乗平均)データについての第2の閾値は0.2とした。また、ヨー方向の角速度(2乗平均)データについての第2の閾値は、0.05とした。
【0039】
診断結果について、図11を用いて説明する。
図11(a)のグラフは、設定区間における各場所について、各場所に対応する診断データのうち第1の閾値以上となった診断データの個数を示すグラフである。横軸は、設定区間における位置を示す。縦軸は、第1の閾値以上となった診断データの個数を示す。また、グラフ中の点線は、縦軸上の値3(S604で用いられた予め定められた個数)を示す。即ち、グラフ中で、この点線以上となる場所について、診断装置101は、S604で第1の閾値以上となる診断データが3個以上と判定し、S607で異常ありと診断することとなる。
図11(b)のグラフは、設定区間における各場所について、各場所に対応する診断データのうち第2の閾値以上となった診断データの個数を示すグラフである。横軸は、設定区間における位置を示す。縦軸は、第2の閾値以上となった診断データの個数を示す。また、グラフ中の点線は、縦軸の値1を示す。即ち、グラフ中で、この点線以上となる場所について、診断装置101は、S606で第2の閾値以上となる診断データが1個以上と判定し、S607で異常ありと診断することとなる。
【0040】
図11(a)のグラフを見ると、第1の閾値に基づいて、設定区間における103m付近、116m付近、117.5m付近の場所に異常があると診断されることが分かる。
また、図11(b)のグラフを見ると、第2の閾値に基づいて、113m付近、117.5m付近の場所に異常があると診断されることが分かる。
診断装置101は、図6の処理の結果、設定区間における103m付近、113m付近の場、116m付近、117.5m付近の場所それぞれに、異常があると診断した。
【0041】
発明者らは、レール710A上の設定区間における103m付近、113m付近の場、116m付近、117.5m付近の場所それぞれについて、実際に異常があるか否かを調査した。そして、発明者らは、各場所において実際に異常(レールの摩耗、擦り傷)が発生していることを確認した。
このことから、発明者らは、天井クレーン装置700の移動する路盤の異常を検出するために、本実施形態の処理が有効であることを確認した。
また、図11に示されるように、設定区間の113m付近の場所における異常は、第1の閾値に基づいて検出できていない。また、設定区間の103m付近、116m付近の場所における異常は、第2の閾値に基づいて検出できていない。そのため、発明者らは、第1の閾値と第2の閾値との双方を用いることで、より精度よく路盤の異常の有無を診断できることを確認した。
【0042】
(変形例1)
本実施形態では、診断部302は、3つの方向の加速度に関するデータ、3つの回転方向の角速度に関するデータ、2つの回転方向の傾斜角に関するデータの8種類のデータのうちの少なくとも2つ以上を含むように、診断データを決定することとした。ただし、他の例として、診断部302は、方向・回転方向の異なる2つ以上(複数)の物理量に関するデータを含ませるように、診断データを決定してもよい。診断部302は、方向・回転方向の異なる物理量についての複数のデータを用いて診断を行うことで、路盤の異常の影響が複数の方向・回転方向についての物理量として現れる場合であっても、より精度よく路盤の異常を診断できる。
(変形例2)
本実施形態では、診断システム100は、図6の処理において、S602~S609の処理で、全ての診断場所についての診断が終了してから、S610で診断結果を出力することとした。ただし、他の例として、診断システム100は、図6の処理において、1つの診断場所についてS602~S608の処理で診断が完了する度に、その診断場所に対する診断結果を出力することとしてもよい。その場合、診断システム100は、それまでに診断が完了した全ての診断場所についての診断結果を出力することとしてもよい。
【0043】
(変形例3)
本実施形態では、診断システム100は、図6の処理において、診断データそれぞれについて、S603~S604で第1の閾値を用いた診断処理を行い、異常と診断できなかった場合に、S605~S606で第2の閾値を用いた診断処理を行った。ただし、他の例として、診断システム100は、第2の閾値を用いた診断処理を実行しなくてもよい。その場合、診断システム100は、S604で、第1の閾値以上となるデータの数が、予め定められた個数未満となった場合、処理をS608に進め、選択場所を異常なしと診断する。
また、診断システム100は、第1の閾値を用いた診断処理を実行せずに、第2の閾値を用いた診断処理を実行してもよい。その場合、診断システム100は、S602の処理の後で、処理をS605に進める。
また、診断システム100は、第1の閾値を用いた診断処理の結果と、第2の閾値を用いた診断処理の結果と、に基づいて、最終的な診断結果を求めてもよい。例えば、診断システム100は、第1の閾値を用いた診断処理において異常ありと診断し、かつ、第2の閾値を用いた診断処理において異常ありと診断した場合に、最終的に選択場所に異常があると診断してもよい。
【0044】
(変形例4)
本実施形態では、診断装置101は、移動する移動体110に設置された各センサからセンサデータを取得し、各物理量に関するデータを取得し、取得したデータから決定した診断データに基づいて、路盤の異常を診断した。ただし、他の例として、診断装置101は、路盤の異常を診断する処理を行わないこととしてもよい。その場合、例えば、外部の診断装置が、診断装置101が移動する移動体110の各センサから取得したセンサデータから各物理量に関するデータを取得し、取得したデータから診断データを決定し、決定した診断データに基づいて、路盤の異常の診断を行うこととしてもよい。
(変形例5)
本実施形態では、診断システム100は、S602で、軌間のズレ幅に関するデータを診断データとして決定しないこととした。ただし、他の例として、診断システム100は、S602で、軌間のズレ幅に関するデータを診断データとして決定してもよい。
(その他の変形例)
本実施形態の診断システムの機能構成の一部又は全てをハードウェアとして診断装置101等に実装してもよい。
【符号の説明】
【0045】
100 診断システム、101 診断装置、201 CPU
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11