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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/18 20120101AFI20231206BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20231206BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20231206BHJP
   B60W 10/00 20060101ALI20231206BHJP
   B60W 10/24 20060101ALI20231206BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20231206BHJP
   B60W 20/10 20160101ALI20231206BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20231206BHJP
   B60L 7/24 20060101ALI20231206BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20231206BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20231206BHJP
   B60L 58/18 20190101ALI20231206BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20231206BHJP
   B60T 8/1761 20060101ALI20231206BHJP
   F02D 41/12 20060101ALI20231206BHJP
   F02D 17/02 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B60W10/18 900
B60W10/08 900
B60W10/06 900
B60W10/00 148
B60W10/24
B60W30/02
B60W20/10
B60K6/485 ZHV
B60L7/24 D
B60L50/16
B60L50/60
B60L58/18
B60T8/17 C
B60T8/1761
F02D41/12
F02D17/02 R
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020022016
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021126964
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 啓史
(72)【発明者】
【氏名】木下 貴博
(72)【発明者】
【氏名】富家 勝也
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-002501(JP,U)
【文献】特開2010-247782(JP,A)
【文献】特開2018-177077(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0111790(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 ~ 30/20
B60K 6/42 ~ 6/485
B60L 7/24
B60L 50/16
B60L 50/60
B60L 58/18
B60T 8/00 ~ 8/1769
F02D 41/00 ~ 41/40
F02D 17/00 ~ 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される車両用制御装置であって、
車輪に動力伝達経路を介して連結される発電機と、
前記車輪間の回転速度差が第1閾値を上回る場合に、ブレーキ機構を制御して前記車輪のロックを抑制するアンチロック制御を実行するブレーキ制御部と、
減速走行時に前記発電機を回生発電状態に制御する発電制御部と、
を有し、
前記発電制御部は、前記発電機を回生発電状態に制御した状態のもとで、前記回転速度差が前記第1閾値よりも小さな第2閾値を上回る場合に、前記発電機の発電トルクを第1速度で低下させた後に、前記発電機の発電トルクを前記第1速度よりも遅い第2速度でゼロに向けて低下させる、
車両用制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記発電機に連結されるエンジンと、
減速走行時に前記エンジンを燃料カット状態に制御するエンジン制御部と、
を有し、
減速走行時において前記アンチロック制御が実行された場合に、
前記エンジン制御部は、前記エンジンを燃料カット状態から燃料噴射状態に切り替え、
前記発電制御部は、前記発電機を回生発電状態から発電停止状態に切り替える際に、エンジン回転数の吹け上がりが収まるまで前記回生発電状態を維持する、
車両用制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用制御装置において、
前記発電制御部は、前記発電機の回生発電状態を維持する過程で、前記発電機の発電トルクを第1速度よりも遅い第3速度で低下させる、
車両用制御装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の車両用制御装置において、
前記回転速度差は、前輪と後輪との回転速度差である、
車両用制御装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の車両用制御装置において、
前記発電機に接続される第1蓄電体と、
前記第1蓄電体と並列に、前記発電機に接続される第2蓄電体と、
を有する、車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、モータジェネレータ、オルタネータ或いはISG(Integrated Starter Generator)等の発電機が設けられている。これらの発電機は、車両のエネルギー効率を向上させる観点から、減速走行時に回生発電状態に制御される(特許文献1~3参照)。
【0003】
また、車両にはアンチロックブレーキシステム(ABS:Antilock Braking System)が搭載されている。このアンチロックブレーキシステムは、車輪速度等に基づき車輪がロック傾向であると判定した場合に、ブレーキ液圧を調整して車輪のロックを防止するアンチロック制御を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-247782号公報
【文献】特開2015-146657号公報
【文献】特開2016-193635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、アンチロック制御が実行される状況においては、エンジンストールを防止する観点などから、発電機は回生発電状態から発電停止状態に制御される。しかしながら、アンチロック制御に伴って発電機の回生発電を停止させることは、アンチロック制御時に車両減速度を大きく減少させ、乗員に違和感を与えてしまう要因であるため、発電機を適切に制御することが求められている。
【0006】
本発明の目的は、発電機を適切に制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両用制御装置は、車両に搭載される車両用制御装置であって、車輪に動力伝達経路を介して連結される発電機と、前記車輪間の回転速度差が第1閾値を上回る場合に、ブレーキ機構を制御して前記車輪のロックを抑制するアンチロック制御を実行するブレーキ制御部と、減速走行時に前記発電機を回生発電状態に制御する発電制御部と、を有し、前記発電制御部は、前記発電機を回生発電状態に制御した状態のもとで、前記回転速度差が前記第1閾値よりも小さな第2閾値を上回る場合に、前記発電機の発電トルクを第1速度で低下させた後に、前記発電機の発電トルクを前記第1速度よりも遅い第2速度でゼロに向けて低下させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車輪間の回転速度差が第1閾値よりも小さな第2閾値を上回る場合に、発電機の発電トルクを第1速度で低下させた後に、発電機の発電トルクを前記第1速度よりも遅い第2速度でゼロに向けて低下させる。これにより、発電機を適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施の形態である車両用制御装置が搭載された車両の構成例を示す概略図である。
図2】電源回路の一例を簡単に示した回路図である。
図3】車両用制御装置が備える制御系の一例を示す図である。
図4】スタータジェネレータを燃焼発電状態に制御したときの電流供給状況の一例を示す図である。
図5】スタータジェネレータを発電停止状態に制御したときの電流供給状況の一例を示す図である。
図6】スタータジェネレータを回生発電状態に制御したときの電流供給状況の一例を示す図である。
図7】スタータジェネレータを力行状態に制御したときの電流供給状況の一例を示す図である。
図8】発電トルク低減制御の実行パターン1を示すタイミングチャートである。
図9】発電トルク低減制御の実行パターン2を示すタイミングチャートである。
図10】発電トルク低減制御の実行パターン3を示すタイミングチャートである。
図11】発電トルク低減制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
[車両構成]
図1は本発明の一実施の形態である車両用制御装置10が搭載された車両11の構成例を示す概略図である。図1に示すように、車両11には、エンジン12およびトランスミッション13からなるパワートレイン14が搭載されている。エンジン12のクランク軸15には、ベルト機構16を介してスタータジェネレータ(発電機)17が連結されている。また、エンジン12に連結されるトランスミッション13には、プロペラ軸18、リヤデファレンシャル機構19および後輪駆動軸20を介して後輪(車輪)21が連結されており、前輪駆動軸22を介して前輪(車輪)23が連結されている。つまり、スタータジェネレータ17と車輪21,23とは、トランスミッション13等からなる動力伝達経路24を介して互いに連結されている。この動力伝達経路24は、クランク軸15、トランスミッション13、プロペラ軸18、後輪駆動軸20、および前輪駆動軸22等によって構成されている。
【0012】
スタータジェネレータ17は、発電機および電動機として機能する所謂ISG(Integrated Starter Generator)である。このスタータジェネレータ17は、クランク軸15に駆動される発電機として機能するだけでなく、クランク軸15を駆動する電動機として機能する。例えば、アイドリングストップ制御においてエンジン12を再始動させる場合や、発進時や加速時においてエンジン12を補助する場合に、スタータジェネレータ17は力行状態に制御され、スタータジェネレータ17は電動機として駆動される。スタータジェネレータ17は、ステータコイルを備えたステータ30と、フィールドコイルを備えたロータ31と、を有している。また、スタータジェネレータ17には、ステータコイルやフィールドコイルの通電状態を制御するため、インバータ、レギュレータ、マイコンおよび各種センサ等からなるISGコントローラ32が設けられている。ISGコントローラ32によってフィールドコイルやステータコイルの通電状態を制御することにより、スタータジェネレータ17の発電電圧、発電トルク、力行トルク等を制御することができる。
【0013】
エンジン12の吸気マニホールド33には、吸入空気量を調整するスロットルバルブ34が設けられている。また、エンジン12には、吸気ポートやシリンダ内に燃料を噴射するインジェクタ35が設けられており、イグナイタや点火プラグ等からなる点火装置36が設けられている。インジェクタ35から燃料を噴射させることにより、エンジン12は燃料噴射状態に制御される一方、インジェクタ35からの燃料噴射を停止させることにより、エンジン12は燃料カット状態に制御される。また、スロットルバルブ34、インジェクタ35および点火装置36には、マイコン等からなるエンジンコントローラ37が接続されている。
【0014】
また、車両11には、アンチロックブレーキシステム(Antilock Braking System)を構成するブレーキ装置(ブレーキ機構)40が設けられている。ブレーキ装置40は、ブレーキペダル41に連動してブレーキ液圧を出力するマスターシリンダ42と、各車輪21,23のディスクロータ43を制動するキャリパ44と、を備えている。また、マスターシリンダ42とキャリパ44との間には、各キャリパ44に供給されるブレーキ液圧を制御するアクチュエータ45が設けられている。このアクチュエータ45は、図示しない電動ポンプ、アキュムレータおよび電磁バルブ等によって構成されている。また、アクチュエータ45には、マイコン等からなるブレーキコントローラ46が接続されている。ブレーキコントローラ46は、後述する前輪速度センサ93や後輪速度センサ94等からの情報に基づき、制動時における車輪21,23のロック傾向を判定する。そして、ブレーキコントローラ46は、車輪21,23にロック傾向があると判定した場合に、車輪21,23のロックを抑制するアンチロック制御を実行する。つまり、アクチュエータ45を制御してブレーキ液圧の減少、保持、増加を繰り返すことにより、ロック傾向にある車輪21,23の制動力を調整して車輪21,23のスリップ率を適切に維持する。
【0015】
[電源回路]
車両11に搭載される電源回路50について説明する。図2は電源回路50の一例を簡単に示した回路図である。図2に示すように、電源回路50は、スタータジェネレータ17に電気的に接続される鉛バッテリ(第1蓄電体)51と、これと並列にスタータジェネレータ17に電気的に接続されるリチウムイオンバッテリ(第2蓄電体)52と、を備えている。なお、リチウムイオンバッテリ52を積極的に放電させるため、リチウムイオンバッテリ52の端子電圧は、鉛バッテリ51の端子電圧よりも高く設計されている。また、リチウムイオンバッテリ52を積極的に充放電させるため、リチウムイオンバッテリ52の内部抵抗は、鉛バッテリ51の内部抵抗よりも小さく設計されている。
【0016】
スタータジェネレータ17の正極端子17aには正極ライン53が接続され、リチウムイオンバッテリ52の正極端子52aには正極ライン54が接続され、鉛バッテリ51の正極端子51aには正極ライン55を介して正極ライン56が接続される。これらの正極ライン53,54,56は、接続点57を介して互いに接続されている。また、スタータジェネレータ17の負極端子17bには負極ライン58が接続され、リチウムイオンバッテリ52の負極端子52bには負極ライン59が接続され、鉛バッテリ51の負極端子51bには負極ライン60が接続される。これらの負極ライン58,59,60は、基準電位点61を介して互いに接続されている。
【0017】
図1に示すように、鉛バッテリ51の正極ライン55には、正極ライン62が接続されている。この正極ライン62には、各種アクチュエータや各種コントローラ等の電気機器63からなる電気機器群64が接続されている。また、鉛バッテリ51の負極ライン60には、バッテリセンサ65が設けられている。バッテリセンサ65は、鉛バッテリ51の充放電電流や端子電圧を検出する機能を有するとともに、充放電電流等から鉛バッテリ51の充電状態であるSOC(State Of Charge)を検出する機能を有している。なお、バッテリセンサ65は、図示しない通電ラインを介して鉛バッテリ51の正極端子51aにも接続されている。
【0018】
電源回路50には、鉛バッテリ51および電気機器63からなる第1電源系71が設けられており、リチウムイオンバッテリ52およびスタータジェネレータ17からなる第2電源系72が設けられている。そして、第1電源系71と第2電源系72との間に設けられる正極ライン56を介して、鉛バッテリ51とリチウムイオンバッテリ52とは互いに並列接続されている。この正極ライン56には、過大電流によって溶断する電力ヒューズ73が設けられるとともに、オン状態とオフ状態とに制御される第1スイッチSW1が設けられている。また、リチウムイオンバッテリ52の正極ライン54には、オン状態とオフ状態とに制御される第2スイッチSW2が設けられている。
【0019】
スイッチSW1をオン状態に制御することにより、第1電源系71と第2電源系72とを互いに接続することができる一方、スイッチSW1をオフ状態に制御することにより、第1電源系71と第2電源系72とを互いに切り離すことができる。また、スイッチSW2をオン状態に制御することにより、スタータジェネレータ17とリチウムイオンバッテリ52とを互いに接続することができる一方、スイッチSW2をオフ状態に制御することにより、スタータジェネレータ17とリチウムイオンバッテリ52とを互いに切り離すことができる。これらのスイッチSW1,SW2は、MOSFET等の半導体素子によって構成されるスイッチであっても良く、電磁力等を用いて接点を機械的に開閉させるスイッチであっても良い。なお、スイッチSW1,SW2は、リレーやコンタクタ等とも呼ばれている。
【0020】
図1に示すように、電源回路50には、バッテリモジュール74が設けられている。このバッテリモジュール74は、リチウムイオンバッテリ52を有するとともに、スイッチSW1,SW2を有している。また、バッテリモジュール74は、マイコンや各種センサ等からなるバッテリコントローラ75を有している。さらに、バッテリモジュール74には、リチウムイオンバッテリ52の充放電電流、端子電圧および温度等を検出するバッテリセンサ76が設けられている。また、バッテリコントローラ75は、バッテリセンサ76から送信される充放電電流等に基づいて、リチウムイオンバッテリ52の充電状態であるSOC(State Of Charge)を算出する機能を有している。
【0021】
[制御系]
図3は車両用制御装置10が備える制御系の一例を示す図である。図1および図3に示すように、車両用制御装置10は、マイコン等からなるメインコントローラ80を有している。メインコントローラ80には、エンジンコントローラ37に制御信号を出力してエンジン12を制御するエンジン制御部81が設けられており、ISGコントローラ32に制御信号を出力してスタータジェネレータ17を制御するISG制御部(発電制御部)82が設けられている。また、メインコントローラ80には、ブレーキコントローラ46に制御信号を出力してブレーキ装置40を制御するブレーキ制御部83が設けられており、バッテリコントローラ75に制御信号を出力してスイッチSW1,SW2を制御するスイッチ制御部84が設けられている。メインコントローラ80や前述した各コントローラ32,37,46,75は、CANやLIN等の車載ネットワーク85を介して互いに通信自在に接続されている。
【0022】
メインコントローラ80に接続されるセンサとして、アクセルペダルの操作状況を検出するアクセルペダルセンサ91、ブレーキペダル41の操作状況を検出するブレーキペダルセンサ92、前輪23の回転速度を検出する前輪速度センサ93、後輪21の回転速度を検出する後輪速度センサ94、および車両11の走行速度を検出する車速センサ95等がある。また、メインコントローラ80には、エンジンコントローラ37からエンジン12の運転状況が入力され、ISGコントローラ32からスタータジェネレータ17の作動状況が入力され、ブレーキコントローラ46からブレーキ装置40の作動状況が入力され、バッテリコントローラ75からリチウムイオンバッテリ52やスイッチSW1,SW2の作動状況が入力される。
【0023】
[スタータジェネレータ発電制御]
スタータジェネレータ17の発電制御について説明する。メインコントローラ80のISG制御部82は、ISGコントローラ32に制御信号を出力し、スタータジェネレータ17を発電状態に制御する。例えば、ISG制御部82は、リチウムイオンバッテリ52のSOCが低下すると、スタータジェネレータ17の発電電圧を上げて燃焼発電状態に制御する一方、リチウムイオンバッテリ52のSOCが上昇すると、スタータジェネレータ17の発電電圧を下げて発電停止状態に制御する。
【0024】
図4はスタータジェネレータ17を燃焼発電状態に制御したときの電流供給状況の一例を示す図である。なお、スタータジェネレータ17の燃焼発電状態とは、エンジン動力によってスタータジェネレータ17を発電させる状態、つまりエンジン12内で燃料を燃焼させてスタータジェネレータ17を発電させる状態である。例えば、リチウムイオンバッテリ52のSOCが所定値を下回る場合には、リチウムイオンバッテリ52を充電するため、エンジン動力によってスタータジェネレータ17を発電させる。このように、スタータジェネレータ17を燃焼発電状態に制御する際には、スタータジェネレータ17の発電電圧が、鉛バッテリ51およびリチウムイオンバッテリ52の端子電圧よりも上げられる。これにより、図4に黒塗りの矢印で示すように、スタータジェネレータ17から、リチウムイオンバッテリ52、電気機器群64および鉛バッテリ51等に対して電流が供給され、リチウムイオンバッテリ52や鉛バッテリ51が緩やかに充電される。
【0025】
図5はスタータジェネレータ17を発電停止状態に制御したときの電流供給状況の一例を示す図である。例えば、リチウムイオンバッテリ52のSOCが所定値を上回る場合には、リチウムイオンバッテリ52を積極的に放電させるため、エンジン動力を用いたスタータジェネレータ17の発電が休止される。このように、スタータジェネレータ17を発電停止状態に制御する際には、スタータジェネレータ17の発電電圧が、鉛バッテリ51およびリチウムイオンバッテリ52の端子電圧よりも下げられる。これにより、図5に黒塗りの矢印で示すように、リチウムイオンバッテリ52から電気機器群64に電流が供給されるため、スタータジェネレータ17の発電を停止させることができ、エンジン負荷を軽減することができる。なお、発電停止状態におけるスタータジェネレータ17の発電電圧としては、リチウムイオンバッテリ52を放電させる発電電圧であれば良い。例えば、スタータジェネレータ17の発電電圧を0Vに制御しても良く、スタータジェネレータ17の発電電圧を0Vよりも高く制御しても良い。
【0026】
前述したように、メインコントローラ80は、SOCに基づきスタータジェネレータ17を燃焼発電状態や発電停止状態に制御しているが、車両減速時には多くの運動エネルギーを回収して燃費性能を高めることが求められる。そこで、減速走行時には、スタータジェネレータ17の発電電圧が引き上げられ、スタータジェネレータ17は回生発電状態に制御される。これにより、スタータジェネレータ17の発電電力を増加させることができるため、運動エネルギーを積極的に電気エネルギーに変換して回収することができ、車両11のエネルギー効率を高めて燃費性能を向上させることができる。なお、スタータジェネレータ17は、ブレーキペダル41が踏み込まれる減速走行時に回生発電状態に制御されるだけでなく、アクセルペダルの踏み込みが解除される減速走行時つまりコースト走行時にも回生発電状態に制御される。
【0027】
ここで、図6はスタータジェネレータ17を回生発電状態に制御したときの電流供給状況の一例を示す図である。スタータジェネレータ17を回生発電状態に制御する際には、前述した燃焼発電状態よりもスタータジェネレータ17の発電電圧が上げられる。これにより、図6に黒塗りの矢印で示すように、スタータジェネレータ17から、リチウムイオンバッテリ52や鉛バッテリ51に対して大きな電流が供給されるため、リチウムイオンバッテリ52や鉛バッテリ51は急速に充電される。また、リチウムイオンバッテリ52の内部抵抗は、鉛バッテリ51の内部抵抗よりも小さいことから、発電電流の大部分はリチウムイオンバッテリ52に供給される。
【0028】
なお、図4図6に示すように、スタータジェネレータ17を燃焼発電状態、回生発電状態および発電停止状態に制御する際に、スイッチSW1,SW2はオン状態に保持されている。つまり、車両用制御装置10においては、スイッチSW1,SW2の切替制御を行うことなく、スタータジェネレータ17の発電電圧を制御するだけで、リチウムイオンバッテリ52の充放電を制御することが可能である。これにより、簡単にリチウムイオンバッテリ52の充放電を制御することができるだけでなく、スイッチSW1,SW2の耐久性を向上させることができる。
【0029】
[スタータジェネレータ力行制御]
スタータジェネレータ17の力行制御について説明する。メインコントローラ80のISG制御部82は、例えば、アイドリングストップ制御においてエンジン12を再始動させる場合に、スタータジェネレータ17を力行状態に制御する。ここで、図7はスタータジェネレータ17を力行状態に制御したときの電流供給状況の一例を示す図である。図7に示すように、アイドリングストップ制御におけるエンジン再始動時に、スタータジェネレータ17を力行状態に制御する際には、スイッチSW1がオン状態からオフ状態に切り替えられる。これにより、リチウムイオンバッテリ52からスタータジェネレータ17に大電流が供給される場合であっても、電気機器群64に対する瞬間的な電圧低下を防止することができ、電気機器群64等を正常に機能させることができる。
【0030】
なお、図7に示した例では、スタータジェネレータ17を力行状態に制御する際に、スイッチSW1をオフ状態に切り替えているが、これに限られることはなく、スイッチSW1をオン状態に保持したままスタータジェネレータ17を力行状態に制御しても良い。例えば、発進時や加速時にエンジン12を補助するモータアシスト制御においては、前述したエンジン再始動時に比べてスタータジェネレータ17の消費電力が小さいため、スタータジェネレータ17の力行時にはスイッチSW1がオン状態に保持される。このように、消費電力の小さなモータアシスト制御においては、スイッチSW1をオン状態に保持したとしても、鉛バッテリ51からスタータジェネレータ17に大電流が流れることはなく、電気機器群64の電源電圧を安定させることができる。
【0031】
[発電トルク低減制御]
続いて、回生発電時にアンチロック制御を予測しながらスタータジェネレータ17の発電トルクを低下させる発電トルク低減制御について説明する。前述したように、アクセルペダルの踏み込みが解除される減速走行時や、ブレーキペダル41が踏み込まれる減速走行時には、スタータジェネレータ17が回生発電状態に制御される。このようなスタータジェネレータ17の回生発電状態においては、スタータジェネレータ17の発電トルクに応じて車両減速度が増加することになる。ここで、雪道等の滑り易い路面において減速走行が行われていた場合には、車輪21,23のスリップ率が増加してアンチロック制御が実行されてしまう虞がある。このように、ブレーキ装置40のアンチロック制御が実行されると、車輪ロックに伴いエンジン回転数が急低下してエンジンストールを発生させる虞があるため、エンジン12が燃料カット状態から燃料噴射状態に切り替えられ、スタータジェネレータ17が回生発電状態から発電停止状態に切り替えられる。すなわち、回生発電中にアンチロック制御が実行された場合には、スタータジェネレータ17の発電停止に伴い車両減速度が大きく低下するため、乗員に違和感を与えてしまう虞がある。そこで、メインコントローラ80のISG制御部82は、乗員に過度な違和感を与えないように、アンチロック制御を予測してスタータジェネレータ17の発電トルクを事前に低下させる発電トルク低減制御を実行する。
【0032】
(実行パターン1)
図8は発電トルク低減制御の実行パターン1を示すタイミングチャートである。なお、図8および後述する図9~10において、前後輪速度差ΔNは、前輪回転速度Nfから後輪回転速度Nrを減算した回転速度差の絶対値、つまり前輪23と後輪21との回転速度差の絶対値である。また、ABSフラグはアンチロック制御が実行される場合にON設定されるフラグであり、燃料カットフラグはエンジン12が燃料カット状態に制御される場合にON設定されるフラグである。さらに、発電トルクTgはスタータジェネレータ17の発電トルクであり、ISG減速度はスタータジェネレータ17に起因する車両減速度である。なお、図8図10に示される各線図においては、前後輪速度差ΔNがゼロよりも下方に示され、発電トルクの発電側(+側)がゼロよりも下方に示され、ISG減速度の減速側(+側)がゼロよりも下方に示され、車両減速度の減速側(+側)がゼロよりも下方に示されている。
【0033】
図8に時刻t1aで示すように、減速走行時においては、エンジン12が燃料カット状態に制御され(符号a1)、スタータジェネレータ17が回生発電状態に制御される(符号b1)。このとき、発電トルクTgは所定値T1で制御されており(符号b1)、ISG減速度Dgは所定値D1(例えば0.4m/s)に達している(符号c1)。また、前後輪速度差ΔNはほぼゼロであり(符号d1)、アンチロック制御は停止されている(符号e1)。なお、図示する車両用制御装置10においては、前後輪速度差ΔNに基づきアンチロック制御が実行される。つまり、前後輪速度差ΔNが所定の閾値(第1閾値)N1を上回る場合に、ブレーキ装置40のアンチロック制御が実行される。
【0034】
続いて、時刻t2aで示すように、前輪23または後輪21がスリップし始めることにより、前後輪速度差ΔNが閾値N1よりも小さな閾値(第2閾値)N2を上回ると(符号d2)、メインコントローラ80は発電トルクTgを所定量Xaで低下させ(符号b2)、その後に発電トルクTgをゼロに向けて低下させる(符号b3)。このとき、符号S1,S2で示すように、発電トルクTgを所定量Xaで低下させる速度(第1速度)は、発電トルクTgをゼロまで低下させる速度(第2速度)よりも速く設定されている。すなわち、メインコントローラ80は、前後輪速度差ΔNが閾値N2を上回る場合に(符号d2)、スタータジェネレータ17の発電トルクを第1速度で低下させ(符号b2)、その後、スタータジェネレータ17の発電トルクを第1速度よりも遅い第2速度で低下させている(符号b3)。
【0035】
このように、前後輪速度差ΔNが閾値N2を上回る場合には、発電トルクTgを所定量Xaで素早く低下させた後に(符号b2)、発電トルクTgをゼロに向けて緩やかに低下させている(符号b3)。これにより、ISG減速度Dgは所定量Xb(例えば0.1m/s)だけ低下した後に(符号c2)、ISG減速度Dgはゼロに向けて緩やかに低下する(符号c3)。さらに、ISG減速度Dgの低下に伴い、車両減速度Dvは所定量Xcで素早く低下した後に(符号f1)、車両減速度Dvは緩やかに低下する(符号f2)。
【0036】
前述したように、発電トルクTgを所定量Xaで低下させた場合には(符号b2)、車両減速度Dvも所定量Xcで低下することになるが(符号f1)、その低下量は所定の許容量Xdを超えないように設定されている。すなわち、車両減速度Dvが所定時間Δt内に許容量Xdを超えて低下しないように、発電トルクTgの低下量である所定量Xaが設定されている。これにより、乗員に大きな違和感を与えることなく、発電トルクTgを素早く下げることができ、アンチロック制御の実行に備えることができる。つまり、アンチロック制御に伴って回生発電が停止された場合であっても、車両減速度Dvの急な落ち込みを防止することができ、乗員に大きな違和感を与えることなくアンチロック制御を実行することができる。
【0037】
これまで説明したように、前後輪速度差ΔNが閾値N2を上回る場合には、その後に回生停止を伴うアンチロック制御の実行が予想されるため、発電トルクTgを所定値Xaだけ素早く低下させた後に、発電トルクTgをゼロに向けて緩やかに低下させている。これにより、アンチロック制御の実行前に発電トルクTgを下げることができるため、アンチロック制御の実行に伴って回生発電が停止される場合であっても、車両減速度の急な低下を回避することができる。つまり、乗員に大きな違和感を与えないように、アンチロック制御の実行に備えてスタータジェネレータ17を適切に制御することができる。しかも、前後輪速度差ΔNが閾値N2を上回る場合に、発電トルクTgを所定値Xaだけ素早く低下させることにより、車輪21,23の制動力を低下させることができるため、前輪23または後輪21のスリップを抑制することができる。
【0038】
(実行パターン2)
図9は発電トルク低減制御の実行パターン2を示すタイミングチャートである。図9には、アンチロック制御の実行に備えて発電トルクTgを下げる前に、ブレーキペダル41の踏み込み等によってアンチロック制御が実行される状況が示されている。図9に時刻t1bで示すように、減速走行時においては、エンジン12が燃料カット状態に制御され(符号a1)、スタータジェネレータ17が回生発電状態に制御される(符号b1)。このとき、発電トルクTgは所定値T1で制御されており(符号b1)、ISG減速度Dgは所定値D1に達している(符号c1)。また、前後輪速度差ΔNはほぼゼロであり(符号d1)、アンチロック制御は停止されている(符号e1)。
【0039】
続いて、時刻t2bで示すように、凍結路面等でのブレーキ操作によって前輪23または後輪21が急速にスリップし始めると、前後輪速度差ΔNが閾値N2を超えて閾値N1に到達し(符号d2)、アンチロック制御が開始される(符号e2)。このように、アンチロック制御が開始されると(符号e2)、メインコントローラ80のエンジン制御部81は、エンジン12を燃料カット状態から燃料噴射状態に切り替える(符号a2)。また、メインコントローラ80のISG制御部82は、アンチロック制御が開始されると(符号e2)、発電トルクTgを所定値T2まで低下させ(符号b2)、その後に発電トルクTgをゼロまで低下させる(符号b3)。このとき、符号S3で示すように、発電トルクTgを所定値T2まで低下させる速度(第3速度)は、前述の図8に符号S1で示した発電トルクTgの低下速度(第1速度)よりも遅く設定されている。なお、符号S3,S4で示すように、発電トルクTgを所定値T2まで低下させる速度は、その後に発電トルクTgをゼロまで低下させる速度よりも速く設定されている。
【0040】
このように、アンチロック制御に伴ってスタータジェネレータ17を回生発電状態から発電停止状態に切り替える際には、メインコントローラ80によって発電トルクTgが緩やかに引き下げられる(符号b2,b3)。これにより、ISG減速度Dgを緩やかに低下させることができ(符号c2,c3)、車両減速度Dvを緩やかに低下させることができる(符号f1,f2)。しかも、発電トルクTgが緩やかに低下することから(符号b2,b3)、エンジン回転数Neの吹け上がりに備えて、スタータジェネレータ17によるエンジン負荷を残すことができる。すなわち、アンチロック制御に伴う燃料噴射再開によってエンジン回転数Neが吹き上がる状況であっても、スタータジェネレータ17によるエンジン負荷が残されるため、エンジン回転数Neの過度な吹き上がりを抑制することができる(符号g1)。このように、エンジン回転数Neの吹き上がりを抑制することができるため、車両減速度Dvが所定時間Δt内に許容量Xdを超えて低下しないように、つまり車両減速度Dvが線βよりも急速に変化しないように抑えることができる。これにより、アンチロック制御に伴って燃料噴射が再開される場合であっても、車両減速度Dvの急な落ち込みを防止することができ、乗員に大きな違和感を与えることなくアンチロック制御を実行することができる。
【0041】
すなわち、図9に破線α1で示すように、アンチロック制御に伴って発電トルクTgを急速にゼロまで低下させた場合には、ISG減速度Dgが急速にゼロまで低下するとともに(符号α2)、スタータジェネレータ17によるエンジン負荷が無くなるため、燃料噴射再開に伴ってエンジン回転数Neが大きく吹け上がり(符号α3)、車両減速度Dvが急速に落ち込むことになる(符号α4)。これに対し、車両用制御装置10においては、アンチロック制御に伴って発電トルクTgを緩やかに低下させることにより(符号b2,b3)、エンジン回転数Neの吹け上がりが収まるまで(時刻t3b)、スタータジェネレータ17の回生発電状態が維持されている。これにより、エンジン回転数Neの過度な吹け上がりを抑えることができ(符号g1)、車両減速度Dvの急な落ち込みを防止することができる(符号f1,f2)。
【0042】
(実行パターン3)
図10は発電トルク低減制御の実行パターン3を示すタイミングチャートである。図10には、アンチロック制御の実行に備えて発電トルクTgを低下させる過程で、ブレーキペダル41の踏み込み等によってアンチロック制御が実行される状況が示されている。図10に時刻t1cで示すように、減速走行時においては、エンジン12が燃料カット状態に制御され(符号a1)、スタータジェネレータ17が回生発電状態に制御される(符号b1)。このとき、発電トルクTgは所定値T1で制御されており(符号b1)、ISG減速度Dgは所定値D1に達している(符号c1)。また、前後輪速度差ΔNはほぼゼロであり(符号d1)、アンチロック制御は停止されている(符号e1)。
【0043】
続いて、時刻t2c示すように、前輪23または後輪21がスリップし始めることにより、前後輪速度差ΔNが閾値N2を上回ると(符号d2)、メインコントローラ80は発電トルクTgを所定量Xaで素早く低下させた後に(符号b2)、発電トルクTgをゼロに向けて緩やかに低下させる。これにより、ISG減速度Dgは所定量Xbだけ低下した後に(符号c2)、ISG減速度Dgはゼロに向けて緩やかに低下する。さらに、ISG減速度Dgの低下に伴い、車両減速度Dvは所定量Xcで素早く低下した後に(符号f1)、車両減速度Dvは緩やかに低下する。これにより、前述した実行パターン1と同様に、乗員に大きな違和感を与えることなく、発電トルクTgを素早く下げることができ、アンチロック制御の実行に備えることができる。
【0044】
次いで、時刻t3cで示すように、凍結路面等でのブレーキ操作によって前輪23または後輪21が急速にスリップし始めると、前後輪速度差ΔNが閾値N1に到達し(符号d3)、アンチロック制御が開始される(符号e2)。このように、アンチロック制御が開始されると(符号e2)、メインコントローラ80のエンジン制御部81は、エンジン12を燃料カット状態から燃料噴射状態に切り替える(符号a2)。また、メインコントローラ80のISG制御部82は、アンチロック制御が開始されると(符号e2)、発電トルクTgをゼロに向けて低下させる(符号b3)。なお、図示する例では、時刻t3cの時点で、発電トルクTgが所定値T2を下回ることから、発電トルクTgはゼロに向けて緩やかに低下している(符号b3)。
【0045】
このように、アンチロック制御に伴ってスタータジェネレータ17を回生発電状態から発電停止状態に切り替える際には、メインコントローラ80によって発電トルクTgが緩やかに引き下げられる(符号b3)。これにより、ISG減速度Dgを緩やかに低下させることができ(符号c3)、車両減速度Dvを緩やかに低下させることができる(符号f2)。しかも、発電トルクTgが緩やかに低下することから(符号b3)、エンジン回転数Neの吹け上がりに備えて、スタータジェネレータ17によるエンジン負荷を残すことができる。すなわち、アンチロック制御に伴う燃料噴射再開によってエンジン回転数Neが吹き上がる状況であっても、スタータジェネレータ17によるエンジン負荷を残すことができ、エンジン回転数Neの過度な吹き上がりを抑制することができるため(符号g1)、車両減速度Dvの急な落ち込みを防止することができる(符号f2)。
【0046】
すなわち、図10に破線α1で示すように、アンチロック制御に伴って発電トルクTgを急速にゼロまで低下させた場合には、ISG減速度Dgが急速にゼロまで低下するとともに(符号α2)、スタータジェネレータ17によるエンジン負荷が無くなるため、燃料噴射再開に伴ってエンジン回転数Neが大きく吹け上がり(符号α3)、車両減速度Dvが急速に落ち込むことになる(符号α4)。これに対し、車両用制御装置10においては、アンチロック制御に伴って発電トルクTgを緩やかに低下させることにより(符号b3)、エンジン回転数Neの吹け上がりが収まるまで(時刻t4c)、スタータジェネレータ17の回生発電状態が維持されている。これにより、エンジン回転数Neの過度な吹け上がりを抑えることができ(符号g1)、車両減速度Dvの急な落ち込みを防止することができる(符号f2)。
【0047】
(フローチャート)
続いて、メインコントローラ80による発電トルク低減制御の実行手順をフローチャートに沿って説明する。図11は発電トルク低減制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。なお、図11に示す「ISG」とは、スタータジェネレータ17である。
【0048】
図11に示すように、ステップS10では、スタータジェネレータ17が回生発電状態であるか否かが判定される。ステップS10において、スタータジェネレータ17が回生発電状態であると判定された場合には、ステップS11に進み、アンチロック制御中であるか否かが判定される。ステップS11において、アンチロック制御中ではないと判定された場合には、ステップS12に進み、前後輪速度差ΔNが閾値N2を上回るか否かが判定される。
【0049】
ステップS12において、前後輪速度差ΔNが閾値N2を上回ると判定された場合、つまり、前輪23または後輪21の微小なスリップが始まっていると判定された場合には、ステップS13に進み、アンチロック制御中であるか否かが判定される。ステップS13において、アンチロック制御中ではないと判定された場合には、ステップS14に進み、スタータジェネレータ17の発電トルクTgが所定量Xaだけ速度(第1速度)Sp1で下げられる。続くステップS15において、アンチロック制御中ではないと判定された場合には、ステップS16に進み、発電トルクTgがゼロまで速度Sp1よりも遅い速度(第2速度)Sp2で下げられる。これにより、アンチロック制御の実行前に発電トルクTgを下げることができるため、アンチロック制御の実行に伴って回生発電が停止された場合であっても、車両減速度の急な低下を回避することができる。しかも、アンチロック制御が開始される前に、発電トルクTgを下げることで車輪21,23の制動力を下げることができるため、前輪23または後輪21のスリップを抑制することができる。
【0050】
また、各ステップS11,S13,S15において、アンチロック制御が実行されていると判定された場合には、ステップS17に進み、発電トルクTgが所定値T2まで速度(第3速度)Sp3で下げられ、続くステップS18において、発電トルクTgがゼロまで速度Sp3よりも遅い速度Sp4で下げられる。このように、アンチロック制御に伴って発電トルクTgを緩やかに低下させることにより、スタータジェネレータ17の回生発電を維持してエンジン回転数の過度な吹け上がりを抑えることができ、車両減速度の急な落ち込みを防止することができる。
【0051】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。前述の説明では、スタータジェネレータ17を回生発電状態に制御する際に、スタータジェネレータ17の発電トルクTgを所定値T1に制御しているが、この所定値T1としては、予め設定された固定値であっても良く、車速やブレーキ操作量等に応じて変化する変動値であっても良い。また、前述の説明では、車輪21,23間の回転速度差として、前輪回転速度Nfから後輪回転速度Nrを減算した前後輪速度差ΔNを用いているが、これに限られることはなく、後輪回転速度Nrから前輪回転速度Nfを減算した前後輪速度差であっても良い。また、前輪回転速度Nfとして、左右の前輪速度センサ93が検出する回転速度をそれぞれ使用しても良く、左右の前輪速度センサ93が検出する回転速度の平均値を使用しても良い。同様に、後輪回転速度Nrとして、左右の後輪速度センサ94が検出する回転速度をそれぞれ使用しても良く、左右の後輪速度センサ94が検出する回転速度の平均値を使用しても良い。
【0052】
図示する例では、発電機としてISGであるスタータジェネレータ17を採用しているが、これに限られることはなく、発電機としてオルタネータを採用しても良く、発電機としてモータジェネレータを採用しても良い。また、図示する例では、電源回路50に2つの蓄電体51,52を設けているが、これに限られることはなく、電源回路50に1つの蓄電体だけが設けられていても良い。また、図示する例では、リチウムイオンバッテリ52の正極ライン54にスイッチSW2を設けているが、これに限られることはない。例えば、図2に一点鎖線で示すように、リチウムイオンバッテリ52の負極ライン59にスイッチSW2を設けても良い。
【符号の説明】
【0053】
10 車両用制御装置
11 車両
12 エンジン
17 スタータジェネレータ(発電機)
21 後輪(車輪)
23 前輪(車輪)
24 動力伝達経路
40 ブレーキ装置(ブレーキ機構)
51 鉛バッテリ(第1蓄電体)
52 リチウムイオンバッテリ(第2蓄電体)
81 エンジン制御部
82 ISG制御部(発電制御部)
83 ブレーキ制御部
ΔN 前後輪速度差(回転速度差)
Tg 発電トルク
N1 閾値(第1閾値)
N2 閾値(第2閾値)
Sp1 速度(第1速度)
Sp2 速度(第2速度)
Sp3 速度(第3速度)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11