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特許7397712皮膚貼付用の粘着シート及びマーキングフィルム
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  • 特許-皮膚貼付用の粘着シート及びマーキングフィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】皮膚貼付用の粘着シート及びマーキングフィルム
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/02 20060101AFI20231206BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20231206BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231206BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20231206BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231206BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20231206BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20231206BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20231206BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20231206BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20231206BHJP
【FI】
A61F13/02 310D
A61K9/70 401
B32B27/00 M
B32B27/30 101
C08J5/18 CEV
C08L27/06
C08L33/14
C08L63/00 A
C09J7/24
C09J7/38
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020025380
(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2021130742
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】三宅 雅哉
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-321828(JP,A)
【文献】特開2011-061189(JP,A)
【文献】特開2010-058438(JP,A)
【文献】特開2008-063424(JP,A)
【文献】特開平02-105843(JP,A)
【文献】特開平11-263947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/06
C08L 63/00
C08L 33/14
C08J 5/18
C09J 7/24
C09J 7/38
B32B 27/00
B32B 27/30
A61F 13/02
A61K 9/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂フィルムと粘着剤層とを有する粘着シート(ただし、カルボニル基含有フッ素樹脂、又はフッ素樹脂及び不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂を含む組成物よりなる層を含まない)であって、
前記塩化ビニル樹脂フィルムは、塩化ビニル樹脂と、エポキシ基含有アクリル樹脂と、可塑剤とを含有し、
前記エポキシ基含有アクリル樹脂は、エポキシ当量が140以上、170以下であり、かつ重量平均分子量が4万以上、6万以下であり、
前記可塑剤の含有量は、前記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、10重量部以上、75重量部以下であり、
前記可塑剤の数平均分子量は、1500以上、3000以下であることを特徴とする皮膚貼付用の粘着シート
【請求項2】
塩化ビニル樹脂フィルムと粘着剤層とを有する粘着シート(ただし、カルボニル基含有フッ素樹脂、又はフッ素樹脂及び不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂を含む組成物よりなる層を含まない)であって、
前記塩化ビニル樹脂フィルムは、塩化ビニル樹脂と、エポキシ基含有アクリル樹脂と、可塑剤とを含有し、
前記エポキシ基含有アクリル樹脂は、エポキシ当量が140以上、170以下であり、かつ重量平均分子量が4万以上、6万以下であり、
前記可塑剤の含有量は、前記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、10重量部以上、75重量部以下であり、
前記可塑剤の数平均分子量は、1500以上、3000以下であることを特徴とするマーキングフィルム。
【請求項3】
前記塩化ビニル樹脂フィルムの厚みは、25μm以上、300μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の皮膚貼付用の粘着シート
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル樹脂フィルム及び粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂フィルムは加工性、印刷性等に優れることから種々の用途に用いられる。例えば、特許文献1には、塩化ビニル系重合体100重量部に対して、数平均分子量が1500~3000の範囲のポリエステル系可塑剤30~70重量部と、重量平均分子量2000~20000のエポキシ樹脂3~20重量部と、脂肪酸カルシウム、脂肪酸亜鉛及び脂肪酸バリウムから選ばれる少なくとも1種の金属石ケンの適量と、ハイドロタルサイト0.1~1.0重量部とからなる粘着シート用基材フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-106990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
塩化ビニル樹脂フィルムの成膜方法の一つとして、熱したカレンダーロールを用いてフィルムを延伸するカレンダー成形が挙げられる。カレンダー成形時のカレンダーロールの温度(以下、ロール温度ともいう)は、塩化ビニル樹脂組成物の組成にもよるが、190°近くになることもある。塩化ビニル樹脂フィルムの加工中の熱安定性を高める方法として、塩化ビニル樹脂に熱安定化剤を添加する方法があるが、上記熱安定化剤の添加量を多くすると、熱安定性が高まる一方で、得られる塩化ビニル樹脂フィルムの表面に噴き出し(ブリード)が発生することがあった。また、熱安定化剤としては、人体への安全性が高いことからエポキシ化植物油が用いられることがあるが、充分な熱安定性が得られないことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、熱安定化剤として、特定範囲のエポキシ当量及び特定範囲の重量平均分子量を有するエポキシ基含有アクリル樹脂を用いることで、優れた熱安定性を有しつつ、噴き出しの発生が抑制された塩化ビニル樹脂フィルムが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明の塩化ビニル樹脂フィルムは、塩化ビニル樹脂と、エポキシ基含有アクリル樹脂と、可塑剤とを含有し、上記エポキシ基含有アクリル樹脂は、エポキシ当量が140以上、170以下であり、かつ重量平均分子量が4万以上、6万以下であり、上記可塑剤の含有量は、上記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、10重量部以上、75重量部以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明の塩化ビニル樹脂フィルムの厚みは、25μm以上、300μm以下であることが好ましい。
【0008】
本発明の粘着シートは、本発明の塩化ビニル樹脂フィルムと、粘着剤層とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塩化ビニル樹脂フィルムは、熱安定化剤として、特定範囲のエポキシ当量及び特定範囲の重量平均分子量を有するエポキシ基含有アクリル樹脂を用いることで、優れた熱安定性を有しつつ、噴き出しの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例及び比較例に係る塩化ビニル樹脂フィルムの分解時間を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係る塩化ビニル樹脂フィルムは、塩化ビニル樹脂と、エポキシ基含有アクリル樹脂と、可塑剤とを含有する。上記塩化ビニル樹脂フィルムは、塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含有するため、伸びがよく破断し難い、設計の自由度が高い、エンボス加工が可能である、印刷性に優れる等の優れた特性を有する。更に、本実施形態に係る塩化ビニル樹脂フィルムは、特定のエポキシ基含有アクリル樹脂を含有する。上記エポキシ基含有アクリル樹脂に含まれるエポキシ基が塩化ビニル樹脂の分解物をトラップするため、塩化ビニル樹脂フィルムの熱安定性を高めることができ、フィルム状に加工する際の加熱による分解を抑制できる。そのため、カレンダー成形した場合に、カレンダーロールへの貼り着きが起こり難く、加工性に優れる。また、熱安定性が高いことから、黄変等の変色を抑制することができる。更に、本実施形態に係る塩化ビニル樹脂フィルムは、熱安定化剤やその他の配合成分が上記塩化ビニル樹脂フィルムの表面に噴き出すブリードが発生し難い。上記塩化ビニル樹脂フィルムに粘着剤層を積層した場合に、上記粘着剤層への熱安定化剤等の配合成分の移行が抑制され、上記粘着剤層と良好な密着性が得られることから、粘着シートの基材として好適に用いることができる。
【0012】
<塩化ビニル樹脂>
上記塩化ビニル樹脂としては、例えば、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニルと共重合可能な他の単量体と塩化ビニルとの共重合体等が挙げられる。上記塩化ビニル樹脂は、印刷適性や視認性、寸法安定性に優れる点から、塩化ビニルの単独重合体が好ましい。
【0013】
上記塩化ビニルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;エチレン、プロピレン、スチレン等のオレフィン;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル;マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジエチル等のマレイン酸ジエステル;フマル酸ジブチル、フマル酸ジエチル等のフマル酸ジエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル等が挙げられる。上記塩化ビニル樹脂における、上記重合可能な他の単量体の含有量は、通常、50重量%以下であり、好ましくは10重量%以下である。
【0014】
上記塩化ビニル樹脂の平均重合度は、特に限定されないが、好ましい下限は700であり、好ましい上限は1400である。上記平均重合度が700未満であると、樹脂組成物を溶融してカレンダー成形する際に、成形品の表面が粗くなったり、成形品が脆くなったりすることがある。上記平均重合度が1400を超えると、溶融した樹脂組成物の耐熱性が不充分で加工できなかったり、成形品の耐熱性や耐候性が劣化したりすることがある。上記塩化ビニル樹脂の平均重合度は、JISK-6721「塩化ビニル樹脂試験方法」に準拠して測定することができる。
【0015】
<エポキシ基含有アクリル樹脂>
上記エポキシ基含有アクリル樹脂は、エポキシ当量が140以上、170以下であり、かつ重量平均分子量が4万以上、6万以下である。上記エポキシ当量とは、1当量のエポキシ基を含む樹脂の質量である。上記エポキシ当量は、JIS K7236:2001に準拠した方法により測定することができる。エポキシ当量が小さいほど、樹脂に含まれるエポキシ基の量が多いことを表す。本実施形態に係る塩化ビニル樹脂フィルムに含まれるエポキシ基含有アクリル樹脂は、エポキシ当量が170以下と少ない。すなわち、上記エポキシ基含有アクリル樹脂に含まれるエポキシ基の量が多い。そのため、塩素等の塩化ビニル樹脂の分解物をより多くトラップでき、塩化ビニル樹脂フィルムの熱安定性を高めることができる。また、上記エポキシ基含有アクリル樹脂は、熱安定化効果が高いため、添加量が少なくても充分な熱安定性が得られる。例えば、上記エポキシ当量が300程度では、充分な熱安定性を得るために必要なエポキシ基含有アクリル樹脂の添加量が多くなり、塩化ビニル樹脂フィルムの表面にエポキシ基含有アクリル樹脂やその他の配合成分が溶出する噴き出しが発生する。なお、上記エポキシ当量の下限値140は、エポキシ基が一つである場合のエポキシ基含有アクリル樹脂の分子量を基準に設定した値である。
【0016】
上記エポキシ基含有アクリル樹脂は、重量平均分子量が4万以上、6万以下と大きい。上記エポキシ基含有アクリル樹脂の重量平均分子量が4万以上であると、上記塩化ビニル樹脂フィルムの表面に噴き出し難い。そのため、上記塩化ビニル樹脂フィルムに粘着剤層を積層した場合に、上記粘着剤層にエポキシ基含有アクリル樹脂が移行し難く、上記粘着剤層の粘着力が低下し難い。一方で、一般的に重量平均分子量が大きい化合物は塩化ビニル樹脂との相溶性が悪いが、上記エポキシ基含有アクリル樹脂の重量平均分子量が6万以下であれば塩化ビニル樹脂との相溶性に優れる。なお、本明細書における重量平均分子量及び数平均分子量は、以下のGPCシステム及び測定条件で測定された値である。
装置:東ソー社製「HLC-8220」
カラム:ミックスカラム(2本連結)
東ソー社製「TSKguardcolumn HHR-H」及び「東ソー社製「TSKgel GMHHR-HHHR-」
移動相:クロロホルム
流速:1.0ml/min
測定温度:40℃
検出器:示差屈折計(RI)
標準サンプル:東ソー社製TSKgel標準ポリスチレン(A-500、A-1000、A-2500、A-5000、F-1、F-2、F-4、F-10、F-20、F-40、F-80、F-128)
【0017】
上記エポキシ基含有アクリル樹脂としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アシルグリシジル(メタ)アクリレートの少なくとも1種からなる重合体であってもよいし、上記重合体と、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロニトリル等との共重合体であってもよい。上記エポキシ基含有アクリル樹脂の具体例としては、メタブレンP-1901(三菱レイヨン株式会社製)等が挙げられる。上記エポキシ基含有アクリル樹脂は、アクリル樹脂の側鎖にエポキシ基を有することが好ましい。
【0018】
なお、上記エポキシ基含有アクリル樹脂とは異なるエポキシ樹脂の一例としては、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂が挙げられる。上記ビスフェノールA型のエポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの縮合反応により製造することができる。このようにして得られたビスフェノールA型のエポキシ樹脂は、分子の末端にエポキシ基が配置されるため、エポキシ当量を低くすることは困難である。一方で、上記エポキシ基含有アクリル樹脂はアクリル基が反応して重合するため、エポキシ基を分子内に多く保持することができ、エポキシ当量を低くすることができる。
【0019】
上記エポキシ基含有アクリル樹脂は、上記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.5 重量部以上、10重量部以下であることが好ましい。上記エポキシ基含有アクリル樹脂の含有量が0.5重量部未満であると、充分な耐熱性が得られないことがある。一方で、上記エポキシ基含有アクリル樹脂の含有量が10重量部を超えると、得られる塩化ビニル樹脂フィルムの表面に噴き出すことがある。上記塩化ビニル樹脂100質量部に対する、上記エポキシ基含有アクリル樹脂の含有量のより好ましい下限は0.8重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0020】
<可塑剤>
上記可塑剤の含有量は、上記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、10重量部以上、75重量部以下である。上記可塑剤の含有量が10重量部未満であると、得られる塩化ビニル樹脂フィルムが硬くなり、被着体に貼り付けた際に被着体の表面形状に追従することが困難となる。また、得られる塩化ビニル樹脂フィルムの風合いが悪くなる。上記可塑剤の含有量が75重量部を超えると、得られる塩化ビニル樹脂フィルムが柔らかくなり過ぎ、カレンダー成形した場合にカレンダーロールからの巻き取りが困難となる。上記塩化ビニル樹脂100質量部に対する、上記可塑剤の含有量の好ましい下限は20重量部、好ましい上限は60重量部であり、より好ましい下限は30重量部、より好ましい上限は50重量部である。
【0021】
上記可塑剤としては、例えば、ポリエステル系可塑剤;アジビン酸ジオクチル、アジピン酸ポリエステル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、セバシン酸ジオクチル等の脂肪族二塩基酸ジエステル;トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェート等のリン酸トリエステル;トリメット酸エステル;フタル酸オクチル(ジー2-エチルヘキシルフタレート(DOP))、フタル酸ジブチル、フタル酸ジノニル等のフタル酸ジエステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。なかでも、上記可塑剤は、上記塩化ビニル樹脂とのなじみがよいことから、ポリエステル系可塑剤であることが好ましい。上記ポリエステル系可塑剤としては、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸等のジカルボン酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコールとの縮重合によるポリエステルからなるものが挙げられる。
【0022】
上記可塑剤の数平均分子量は、1500~3000であることが好ましい。上記数平均分子量が1500よりも小さいときは、塩化ビニル樹脂フィルムに着剤層を積層した場合に、可塑剤が塩化ビニル樹脂フィルムから粘着剤層に移行し、経時的に粘着剤層の粘着力が低減することがある。一方で、上記可塑剤の数平均分子量が3000よりも大きいときは、塩化ビニル樹脂との相溶性が悪く、カレンダー成形による製造が困難となることがある。また、得られた塩化ビニル樹脂フィルムの表面に可塑剤が噴き出すことがある。可塑剤が噴き出すと、塩化ビニル樹脂フィルムに着剤層を積層した場合に、粘着剤層の塩化ビニル樹脂フィルムへの粘着力が低減する。
【0023】
本実施形態に係る塩化ビニル樹脂フィルムは、更に、金属石ケンを含有してもよい。金属石ケンを含有することで、塩化ビニル樹脂フィルムの熱安定性を向上させることができる。
【0024】
上記金属石ケンとしては、脂肪酸カルシウム、脂肪酸亜鉛及び脂肪酸バリウムから選ばれる少なくとも1種を含むものが挙げられる。上記金属石ケンの脂肪酸成分としては、例えば、ラウリン酸、ステアリン酸、リシノール酸等が挙げられる。上記金属石ケンの具体例としては、例えば、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸バリウム、ステアリン酸バリウム、リシノール酸バリウム等が好ましく用いられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。組み合わせることで安定化効果を高められることから、脂肪酸カルシウムと脂肪酸亜鉛とを含むCa-Zn系安定剤が好ましく用いられる。
【0025】
上記金属石ケンは、上記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.1重量部以上、10重量部以下であることが好ましい。上記塩化ビニル樹脂100質量部に対する、上記金属石ケンの含有量のより好ましい下限は0.2重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0026】
本実施形態に係る塩化ビニル樹脂フィルムは、更に、加工助剤を含有してもよい。上記加工助剤としては、例えば、シリカ、ハイドロタルサイト等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。なかでも、シリカとハイドロタルサイトとを併用することが好ましい。上記シリカと上記ハイドロタルサイトとの配合比は、例えば、3:1~1:3である。
【0027】
上記ハイドロタルサイトは、一般に下記式(1)で表わされる不定比の塩基性炭酸マグネシウムアルミニウムである。通常、xは、0<x≦0.33、mは、0≦m≦0.5の範囲であり、市販品を入手することができる(「石灰と石膏」、第187巻第47~53頁(1983年))。上記ハイドロタルサイトの具体例としては、アルカマイザー#1(協和化学工業株式会社製)、マグセラー(協和化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0028】
【化1】
【0029】
上記加工助剤は、上記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.1重量部以上、1重量部以下であることが好ましい。上記塩化ビニル樹脂100質量部に対する、上記加工助剤の含有量のより好ましい下限は0.2重量部、より好ましい上限は0.6重量部である。
【0030】
上記塩化ビニル樹脂フィルムに粘着剤層を積層する場合に、上記粘着剤層の粘着力が経時的に低下することを抑制する観点からは、塩化ビニル樹脂フィルムは、エポキシ化植物油を含まないことが好ましい。一方で、塩化ビニル樹脂フィルムと後述する粘着剤層との粘着力を調整できることから、上記塩化ビニル樹脂フィルムは、少量のエポキシ化植物油を含有してもよい。本実施形態に係る塩化ビニル樹脂フィルムは、特定範囲のエポキシ当量と特定範囲の重量平均分子量とを有するエポキシ基含有アクリル樹脂を含有することから、エポキシ化植物油を含有したとしても、充分に粘着剤層の粘着力が経時的に低下することを抑制することができる。
【0031】
上記エポキシ化植物油は、上記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0重量部以上、3重量部以下であることが好ましい。上記エポキシ基含有アクリル樹脂と上記エポキシ化植物油との配合比は、例えば、1:0~1:5である。
【0032】
上記エポキシ化植物油としては、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等が挙げられる。上記エポキシ化大豆油の具体例としては、エポサイザーW-100EL(DIC株式会社)、アデカサイザーO-130P(株式会社ADEKA)等が挙げられる。
【0033】
本実施形態に係る塩化ビニル樹脂フィルムは、必要に応じて、各種添加剤が適量添加されていてもよい。上記添加剤としては、例えば、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、改質剤、帯電防止剤、補強剤、防曇剤、充填剤、希釈剤、防カビ剤等が挙げられる。
【0034】
カレンダー成形を行う際に、カレンダーロールから上記塩化ビニル樹脂フィルムを剥がれやすくできることから、ポリエステル系オリゴマー、脂肪酸エステル等を添加してもよい。上記ポリエステル系オリゴマーの含有量は、上記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.05量部以上、1重量部以下であることが好ましい。上記ポリエステル系オリゴマーの添加量が、上記塩化ビニル樹脂100質量部に対して1重量部を超えると、得られる塩化ビニル樹脂フィルムの表面に噴き出すことがある。
【0035】
本実施形態に係る塩化ビニル樹脂フィルムの厚みは、25μm以上、300μm以下であることが好ましい。上記厚みが25μm未満であると強度が低下することがある。一方で、上記厚みが300μmを超えると、被着体に貼り付ける際に、塩化ビニル樹脂フィルムの追従性が不充分となることがある。上記厚みのより好ましい下限は50μmであり、より好ましい上限は150μmである。上記基材の厚みは、測定子の直径が5mmのダイヤルゲージを用いて、幅方向に7点で測定し、その平均値を上記基材の厚みとした。なお、幅方向とは、カレンダー成形でシートを形成する際のシートの短手方向をいう。
【0036】
上記塩化ビニル樹脂フィルムの製造方法は、特に限定されないが、例えば、上記塩化ビニル樹脂と上記可塑剤と上記エポキシ基含有アクリル樹脂とを混合して塩化ビニル樹脂組成物を調製し、その後、得られた塩化ビニル樹脂組成物を製膜する方法が挙げられる。上記塩化ビニル樹脂組成物は、更に上記金属石ケン、上記加工助剤、上記エポキシ化植物油、上記ポリエステル系オリゴマー等の添加剤を含有してもよい。
【0037】
上記塩化ビニル樹脂組成物の調製は、所定量の各配合成分を、連続混練機、バンバリ一ミキサー、ニーダー、押出機等を用いて溶融混練することにより行うことができる。上記製膜は、カレンダー成形、押出成形、射出成形等によって行うことができる。上記製膜は、カレンダー成形によって行うことが好ましい。カレンダー成形は、フィルムの厚さを均一にし易く、種々のサイズのフィルムを製膜することができ、小ロットでの製造にも対応できるため好適に用いられる。上記カレンダー成形としては、例えば、逆L型、Z型、直立2本型、L型、傾斜3本型等のカレンダー形式が挙げられる。また、カレンダー成形時のロール温度は、塩化ビニル樹脂組成物の組成に応じて適宜選択すればよいが、通常、140~190℃であり、好ましくは160~180℃である。本実施形態に係る塩化ビニル樹脂フィルムは、特定のエポキシ基含有アクリル樹脂を含有することで、優れた熱安定性を有するため、上記温度でカレンダー成形を行った場合であっても、フィルムの分解、変色を抑制することができる。
【0038】
[粘着シート]
本実施形態の粘着シートは、本実施形態の塩化ビニル樹脂フィルムと、粘着剤層とを有する。上記粘着剤層は、特に限定されないが、例えば、アクリル系粘着剤、天然ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ビニルエーテル系粘着剤等を含有するものが挙げられる。上記粘着シートを後述する皮膚貼付用として用いる場合には、皮膚への刺激が少ないことから、上記粘着剤層はアクリル系粘着剤を含有することが好ましい。
【0039】
上記粘着剤層の厚みは、10μm以上、80μm以下であることが好ましい。上記粘着剤層の厚みが10μm未満であると、粘着力が不足し被着体に対する粘着力が充分に得られないことがある。一方で、上記粘着剤層の厚みが80μmを超えると、被着体に対する粘着力が高くなるため、被着体から粘着シートを剥離する際に、塩化ビニル樹脂フィルムが変形したり、糊残りが発生したりすることがある。上記粘着剤層の厚みの好ましい下限は20μmであり、好ましい上限は60μmである。上記粘着剤層の厚みは、測定子の直径が5mmのダイヤルゲージを用いて7点で測定し、その平均値を上記粘着剤層の厚みとした。
【0040】
上記粘着シートは、上記粘着剤層の塩化ビニル樹脂フィルムと反対側に、必要に応じてセパレーターを有してもよい。セパレーターとしては、従来公知のものを使用することができ、離型フィルムであってもよいし、離型紙であってもよい。
【0041】
上記粘着シートの製造方法は、特に限定されないが、例えば、得られた塩化ビニル樹脂フィルムの片面に粘着剤層を形成する。上記粘着剤層は、従来公知の方法により形成すればよく、粘着剤を塩化ビニル樹脂フィルムに直接塗布して形成してもよいし、別途用意した支持体に一旦塗布した後、転写して形成してよい。上記支持体としてセパレーターを用いれば、粘着剤層を形成すると同時にセパレーターも積層することができる。上記粘着シートは、上記塩化ビニル樹脂フィルムの粘着剤層と反対側の表面にエンボス加工、印刷等が施されてもよい。
【0042】
上記粘着シートは、優れた柔軟性及び熱安定性を有し、かつ上記塩化ビニル樹脂フィルムと上記粘着剤層との密着性が良好である。上記粘着シートは、皮膚貼付用の粘着シート、マーキングフィルム等に用いることができる。
【0043】
上記皮膚貼付用の粘着シートは、例えば、創傷被覆材(ドレッシング材)として用いたり、中央部にガーゼ等の吸液性バッドを配置して絆創膏として用いたりすることができる。上記粘着シートは、適度な柔軟性を有するため、皮膚の動きにも充分に追従することができる。
【0044】
上記マーキングフィルムは、被着体の表面の加飾等に用いることができる。上記粘着シートをマーキングフィルムとして用いる場合、上述のように、上記塩化ビニル樹脂フィルムの粘着剤層と反対側の表面に印刷が施されるか、印刷層を有することが好ましい。
【0045】
上記マーキングフィルムの被着体としては、特に限定されないが、例えば、自転車、バイク、自動車、バス、電車等の車両;家具、家電製品等の家庭用品;キャビネット、事務机、パソコン等のオフィス用品;住宅等の建造物等;携帯電話、携帯電話のカバー等の日用品又は、これらの外装部品若しくは内装部品等が挙げられる。上記被着体の材質としては、例えば、ガラス;アルミ、ステンレス等の金属;樹脂等が挙げられる。上記粘着シートは柔軟性を有するため、凹凸形状、曲面形状を有する被着体にして、好適に用いることができる。
【0046】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0047】
以下の実施例及び比較例で用いた熱安定化剤を下記表1に示し、その他の化合物を下記表2に示した。表1の「メタブレンP-1901」は、グリシジルメタクリレートを含むエポキシ基含有アクリル樹脂である。表1の「水添BPA型エポキシ樹脂」とは、水素化したビスフェノールA(BPA)を原料とするエポキシ樹脂である。表2の「アルカマイザー#1」は、上記化学式(1)において、x=0.33、m=0.50のハイドロタルサイトである。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
(実施例1)
平均重合度が1300の塩化ビニル樹脂100重量部に対して、下記表3に示したように、熱安定化剤としてエポキシ基含有アクリル樹脂Aを3重量部、ポリエステル系可塑剤を54重量部、加工助剤、金属石ケン及びポリエステル系オリゴマーを添加し、塩化ビニル樹脂組成物を得た。得られた塩化ビニル樹脂組成物をバンバリーミキサーで溶融混練後、カレンダー成形により、塩化ビニル樹脂フィルムを作製した。
【0051】
(実施例2及び3、比較例1~7)
下記表3に示したように塩化ビニル樹脂組成物の材料を変更したことを除いて実施例1と同様にして、実施例2及び3、比較例1~7に係る塩化ビニル樹脂フィルムをそれぞれ作製した。
【0052】
<評価>
実施例及び比較例で調整した塩化ビニル樹脂組成物について、下記の方法により分解時間を測定し、実施例及び比較例で作製した塩化ビニル樹脂フィルムについて、下記の方法により噴き出しの有無を確認した。
【0053】
(1)分解時間の測定
混錬・押出成形評価試験装置(株式会社東洋精機製作所製、ラボプラストミル)の測定容器に実施例及び比較例で用いた塩化ビニル樹脂組成物の材料を投入し、190℃、60rpmで装置を回転させ、上記材料が溶解してトルク値が上昇し始めるまでの時間を分解時間とした。上記分解時間が19分以上である場合を適合とした。結果を表3及び図1に示した。図1は、実施例及び比較例に係る塩化ビニル樹脂フィルムの分解時間を表したグラフである。
【0054】
(2)噴き出し
上記カレンダー成形により、実施例及び比較例に係る塩化ビニル樹脂フィルムを作製し、得られた塩化ビニル樹脂フィルムをカレンダーロールから巻き取った後に、カレンダーロールの表面を目視にて確認した。カレンダーロールの表面に付着物が観察されなかった場合を○(噴き出し無し)とし、カレンダーロールの表面が白くなっていた場合を×(噴き出し有り)とした。結果を下記表3に示した。
【0055】
【表3】
【0056】
表3及び図1に示したように、特定のエポキシ当量及び重量平均分子量を有するエポキシ基含有アクリル樹脂を用いた実施例1~3は、分解時間が19分以上であり、かつ、表3に示したように、噴き出しが確認されなかった。
【0057】
一方で、表3及び図1に示したように、熱安定化剤を添加しなかった比較例1は、分解時間が9分と短かった。熱安定化剤としてエポキシ化大豆油を用いた比較例2及び3は、比較例1よりは分解時間が長くなったものの、目標値である19分には満たなかった。
【0058】
表3及び図1に示したように、エポキシ基含有アクリル樹脂ではないエポキシ系の熱安定化剤を添加した比較例4~6は、同量のエポキシ基含有アクリル樹脂を添加した実施例1又は2と比較して、熱安定性が低かった。また、表3に示したように、比較例4~6ともに噴き出しが発生しており、比較例4~6で用いた熱安定化剤では、噴き出しを抑制しつつ、実施例1又は2と同等の熱安定性は得られなかった。
【0059】
表3及び図1に示したように、熱安定化剤としてエポキシ基含有アクリル樹脂を用いた場合であっても、エポキシ当量が280であり、重量平均分子量が8000であるエポキシ基含有アクリル樹脂を用いた比較例7は、熱安定性が不十分であった。比較例7に用いたエポキシ基含有アクリル樹脂は、実施例1~3で用いたエポキシ基含有アクリル樹脂よりもエポキシ当量が大きい、すなわち、エポキシ基の数が少ないため、塩化ビニル樹脂の分解物をトラップする能力が低く、充分な熱安定性が得られなかったと考えられる。
図1