(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】調整方法および印刷装置
(51)【国際特許分類】
B65H 26/00 20060101AFI20231206BHJP
B41J 15/04 20060101ALI20231206BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B65H26/00
B41J15/04
B41J2/01 305
B41J2/01 451
B41J2/01 401
(21)【出願番号】P 2020051241
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】岡本 晃澄
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-189337(JP,A)
【文献】特開2006-95879(JP,A)
【文献】特開2019-206090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 26/00
B41J 15/04
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺帯状の基材を、複数の搬送ローラにより、前記基材の長手方向に沿う搬送方向に搬送しつつ、複数のヘッドから前記基材の表面にインクを吐出する印刷装置において、前記搬送ローラの姿勢を調整する調整方法であって、
a)前記基材の表面における前記複数のヘッドによるインクの吐出位置のずれ量を含む計測値を取得する工程と、
b)前記工程a)により得られた前記計測値を強化学習部に入力する工程と、
c)前記強化学習部から出力される調整量に基づいて、前記搬送ローラの姿勢を調整する工程と、
を繰り返す、調整方法。
【請求項2】
請求項1に記載の調整方法であって、
前記工程c)では、前記搬送ローラの一端を、少なくとも前記搬送方向に移動させることにより、前記搬送ローラの姿勢を調整する、調整方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の調整方法であって、
前記工程c)では、前記搬送ローラの一端を、前記基材の法線方向に移動させることにより、前記搬送ローラの姿勢を調整する、調整方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の調整方法であって、
前記計測値は、ある搬送ローラに対する他の搬送ローラの姿勢のずれ量を含む、調整方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の調整方法であって、
前記計測値は、前記基材の張力、前記基材の法線方向の変位量、および前記基材のエッジの幅方向の位置、の少なくとも1つを含む、調整方法。
【請求項6】
長尺帯状の基材に画像を印刷する印刷装置であって、
前記基材を、複数の搬送ローラにより、前記基材の長手方向に沿う搬送方向に搬送する搬送機構と、
前記搬送機構により搬送される前記基材の表面に、インクを吐出する複数のヘッドと、
前記基材の表面における前記複数のヘッドによるインクの吐出位置のずれ量を含む計測値を取得する計測値取得部と、
前記計測値取得部により得られた前記計測値を入力変数とし、前記搬送ローラの姿勢の調整量を目的変数とし、前記入力変数に応じた報酬に基づいて前記調整量を出力する強化学習部と、
前記強化学習部から出力される前記調整量に基づいて、前記搬送ローラの姿勢を調整するアクチュエータと、
を備えた印刷装置。
【請求項7】
請求項6に記載の印刷装置であって、
前記アクチュエータは、前記搬送ローラの一端を、少なくとも前記搬送方向に移動させることにより、前記搬送ローラの姿勢を調整する、印刷装置。
【請求項8】
請求項7に記載の印刷装置であって、
前記アクチュエータは、前記搬送ローラの一端を、前記基材の法線方向に移動させることにより、前記搬送ローラの姿勢を調整する、印刷装置。
【請求項9】
請求項6から請求項8までのいずれか1項に記載の印刷装置であって、
前記計測値は、ある搬送ローラに対する他の搬送ローラの姿勢のずれ量を含む、印刷装置。
【請求項10】
請求項6から請求項9までのいずれか1項に記載の印刷装置であって、
前記計測値は、前記基材の張力、前記基材の法線方向の変位量、および前記基材のエッジの幅方向の位置、の少なくとも1つを含む、印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置において、搬送ローラの姿勢を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、複数のヘッドからインクを吐出することにより、基材に画像を印刷するインクジェット方式の印刷装置が知られている。インクジェット方式の印刷装置は、複数のヘッドから、それぞれ異なる色のインクを吐出する。そして、各色のインクにより形成される単色画像の重ね合わせによって、基材の表面に多色画像を印刷する。従来の印刷装置については、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の印刷装置では、複数の搬送ローラにより、基材が搬送される。このため、各搬送ローラの僅かな姿勢のずれによって、基材の搬送状態が変化する。特に、ヘッドの下方に位置するローラの姿勢がずれると、上述した複数の単色画像の間にずれ(いわゆる「見当ずれ」)が生じやすい。
【0005】
従来の印刷装置では、装置の立ち上げ時またはメンテナンス時に、作業者が、複数の搬送ローラの平行度を見ながら、各搬送ローラの姿勢を調整していた。しかしながら、これは、非常に負担の大きい作業であった。特に、搬送される基材の種類が変更されたり、長期の使用により装置の状態が変化したりすると、搬送ローラの最適な姿勢も変化する。従来の作業者による調整では、このような変化に適切に対応することは、困難であった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、印刷装置において、機械学習を利用して、搬送ローラの姿勢を自動的に調整できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、長尺帯状の基材を、複数の搬送ローラにより、前記基材の長手方向に沿う搬送方向に搬送しつつ、複数のヘッドから前記基材の表面にインクを吐出する印刷装置において、前記搬送ローラの姿勢を調整する調整方法であって、a)前記基材の表面における前記複数のヘッドによるインクの吐出位置のずれ量を含む計測値を取得する工程と、b)前記工程a)により得られた前記計測値を強化学習部に入力する工程と、c)前記強化学習部から出力される調整量に基づいて、前記搬送ローラの姿勢を調整する工程と、を繰り返す。
【0008】
本願の第2発明は、第1発明の調整方法であって、前記工程c)では、前記搬送ローラの一端を、少なくとも前記搬送方向に移動させることにより、前記搬送ローラの姿勢を調整する。
【0009】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の調整方法であって、前記工程c)では、前記搬送ローラの一端を、前記基材の法線方向に移動させることにより、前記搬送ローラの姿勢を調整する。
【0010】
本願の第4発明は、第1発明から第3発明までのいずれか1発明の調整方法であって、前記計測値は、ある搬送ローラに対する他の搬送ローラの姿勢のずれ量を含む。
【0011】
本願の第5発明は、第1発明から第4発明までのいずれか1発明の調整方法であって、前記計測値は、前記基材の張力、前記基材の法線方向の変位量、および前記基材のエッジの幅方向の位置、の少なくとも1つを含む。
【0012】
本願の第6発明は、長尺帯状の基材に画像を印刷する印刷装置であって、前記基材を、複数の搬送ローラにより、前記基材の長手方向に沿う搬送方向に搬送する搬送機構と、前記搬送機構により搬送される前記基材の表面に、インクを吐出する複数のヘッドと、前記基材の表面における前記複数のヘッドによるインクの吐出位置のずれ量を含む計測値を取得する計測値取得部と、前記計測値取得部により得られた前記計測値を入力変数とし、前記搬送ローラの姿勢の調整量を目的変数とし、前記入力変数に応じた報酬に基づいて前記調整量を出力する強化学習部と、前記強化学習部から出力される前記調整量に基づいて、前記搬送ローラの姿勢を調整するアクチュエータと、を備える。
【0013】
本願の第7発明は、第6発明の印刷装置であって、前記アクチュエータは、前記搬送ローラの一端を、少なくとも前記搬送方向に移動させることにより、前記搬送ローラの姿勢を調整する。
【0014】
本願の第8発明は、第7発明の印刷装置であって、前記アクチュエータは、前記搬送ローラの一端を、前記基材の法線方向に移動させることにより、前記搬送ローラの姿勢を調整する。
【0015】
本願の第9発明は、第6発明から第8発明までのいずれか1発明の印刷装置であって、前記計測値は、ある搬送ローラに対する他の搬送ローラの姿勢のずれ量を含む。
【0016】
本願の第10発明は、第6発明から第9発明までのいずれか1発明の印刷装置であって、前記計測値は、前記基材の張力、前記基材の法線方向の変位量、および前記基材のエッジの幅方向の位置、の少なくとも1つを含む。
【発明の効果】
【0017】
本願の第1発明~第10発明によれば、インクの吐出位置のずれ量を含む計測値に基づいて、強化学習により、搬送ローラの姿勢を自動的に調整できる。
【0018】
特に、本願の第4発明、第5発明、第9発明、および第10発明によれば、搬送ローラの姿勢を、より精度よく調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】印刷部の付近における印刷装置の部分上面図である。
【
図4】姿勢調整部の構成を概念的に示した図である。
【
図5】印刷装置の各部とコンピュータとの接続を示したブロック図である。
【
図6】コンピュータの機能を概念的に示したブロック図である。
【
図7】調整処理の流れを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
<1.印刷装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る印刷装置1の構成を示した図である。この印刷装置1は、長尺帯状の基材9を搬送しつつ、複数のヘッド21~24から基材9へ向けてインクの液滴を吐出することにより、基材9の表面に画像を印刷する装置である。基材9は、印刷用紙であってもよく、あるいは、樹脂製のフィルムであってもよい。
図1に示すように、印刷装置1は、搬送機構10、印刷部20、張力センサ31、変位量センサ32、エッジセンサ33、アライメントセンサ34(
図3参照)、画像取得部40、姿勢調整部50(
図4参照)、およびコンピュータ60を備えている。
【0022】
搬送機構10は、基材9をその長手方向に沿う搬送方向に搬送する機構である。本実施形態の搬送機構10は、巻き出し部11、複数の搬送ローラ12、および巻き取り部13を有する。基材9は、巻き出し部11から繰り出され、複数の搬送ローラ12により構成される搬送経路に沿って搬送される。各搬送ローラ12は、水平軸を中心として回転することにより、基材9を搬送経路の下流側へ案内する。基材9は、張力が掛かった状態で、複数の搬送ローラ12に掛け渡される。これにより、搬送中における基材9の弛みや皺が抑制される。搬送後の基材9は、巻き取り部13へ回収される。
【0023】
図1に示すように、基材9は、複数のヘッド21~24の下方において、複数のヘッド21~24の配列方向と略平行に移動する。このとき、基材9の印刷面は、上方(ヘッド21~24側)に向けられている。以下では、複数の搬送ローラ12のうち、印刷部20の下方に位置する4つのローラを、それぞれ、第1ローラ121、第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124と称する。第1ローラ121、第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124は、基材9の搬送方向に沿って、この順に配列されている。
【0024】
印刷部20は、搬送機構10により搬送される基材9に対して、インクの液滴(以下「インク滴」と称する)を吐出する処理部である。本実施形態の印刷部20は、第1ヘッド21、第2ヘッド22、第3ヘッド23、および第4ヘッド24を有する。第1ヘッド21は、第1ローラ121の上方に配置されている。第2ヘッド22は、第2ローラ122の上方に配置されている。第3ヘッド23は、第3ローラ123の上方に配置されている。第4ヘッド24は、第4ローラ124の上方に配置されている。
【0025】
図2は、印刷部20の付近における印刷装置1の部分上面図である。
図2中に破線で示したように、各ヘッド21~24の下面には、基材9の幅方向と平行に配列された複数のノズル201が設けられている。各ヘッド21~24は、複数のノズル201から基材9の上面へ向けて、多色画像の色成分となるC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の各色のインク滴を、それぞれ吐出する。
【0026】
すなわち、第1ヘッド21は、搬送経路上の第1印刷位置P1において、基材9の上面に、C色のインク滴を吐出する。第2ヘッド22は、第1印刷位置P1よりも下流側の第2印刷位置P2において、基材9の上面に、M色のインク滴を吐出する。第3ヘッド23は、第2印刷位置P2よりも下流側の第3印刷位置P3において、基材9の上面に、Y色のインク滴を吐出する。第4ヘッド24は、第3印刷位置P3よりも下流側の第4印刷位置P4において、基材9の上面に、K色のインク滴を吐出する。
【0027】
本実施形態では、第1印刷位置P1は、基材9が第1ローラ121に接触する位置である。第2印刷位置P2は、基材9が第2ローラ122に接触する位置である。第3印刷位置P3は、基材9が第3ローラ123に接触する位置である。第4印刷位置P4は、基材9が第4ローラ124に接触する位置である。第1印刷位置P1、第2印刷位置P2、第3印刷位置P3、および第4印刷位置P4は、基材9の搬送方向に沿って、間隔をあけて配列されている。
【0028】
4つのヘッド21~24は、インク滴を吐出することによって、基材9の上面に、それぞれ単色画像を印刷する。そして、4つの単色画像の重ね合わせにより、基材9の上面に、多色画像が形成される。したがって、仮に、4つのヘッド21~24から吐出されるインク滴の基材9上における搬送方向の位置が相互にずれていると、印刷物の画像品質が低下する。このような、基材9上における単色画像の相互の位置ずれの大きさ(以下「見当ずれ量」と称する)を許容範囲内に抑えることが、印刷装置1の印刷品質を向上させるための重要な要素となる。
【0029】
なお、ヘッド21~24の搬送方向下流側に、基材9の印刷面に吐出されたインクを乾燥させる乾燥処理部が、さらに設けられていてもよい。乾燥処理部は、例えば、基材9へ向けて加熱された気体を吹き付けて、基材9に付着したインク中の溶媒を気化させることにより、インクを乾燥させる。ただし、乾燥処理部は、光照射等の他の方法で、インクを乾燥させるものであってもよい。
【0030】
張力センサ31は、基材9にかかる搬送方向の張力を計測するための計測器である。張力センサ31は、例えば、搬送ローラ12の軸受に接続されたロードセルを有し、ロードセルに加わる荷重により、基材9の張力を計測する。ただし、張力センサ31は、巻き取り部13のローラに接続されていてもよい。張力センサ31は、基材9の張力を、連続的または断続的に計測することにより、多数の計測値d1を取得する。そして、張力センサ31は、得られた張力の計測値d1を、コンピュータ60へ送信する。
【0031】
変位量センサ32は、基材9の法線方向の変位量を計測するための計測器である。変位量センサ32は、印刷部20の近傍において、基材9の法線方向の変位量を、例えばレーザ測長器により非接触で計測する。変位量センサ32は、基材9の法線方向の変位量を、連続的または断続的に計測することにより、多数の計測値d2を取得する。そして、変位量センサ32は、得られた変位量の計測値d2を、コンピュータ60へ送信する。
【0032】
エッジセンサ33は、基材9のエッジの幅方向の位置を計測するための計測器である。エッジセンサ33は、例えば、基材9のエッジ付近を挟んで配置された投光器331および受光器332を有する。投光器331は、受光器332へ向けて計測光を照射する。受光器332は、基材9の幅方向に沿って配列された複数の受光素子を有する。エッジセンサ33は、受光器332の各受光素子における計測光の検出の有無に基づいて、基材9のエッジの幅方向の位置を計測する。エッジセンサ33は、基材9のエッジの幅方向の位置を、連続的または断続的に計測することにより、多数の計測値d3を取得する。そして、エッジセンサ33は、得られた計測値d3を、コンピュータ60へ送信する。
【0033】
アライメントセンサ34は、第1ローラ121に対する第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124の姿勢のずれ量(以下「ミスアライメント量」と称する)を計測するための計測器である。
図3は、アライメントセンサ34により、第1ローラ121に対する第2ローラ122のミスアライメント量を計測する様子を、模式的に示した図である。
図3に示すように、アライメントセンサ34は、搬送方向のミスアライメント量を計測する第1アライメントセンサ71と、法線方向のミスアライメント量を計測する第2アライメントセンサ72とを有する。
【0034】
第1アライメントセンサ71は、第1レーザ測長器711と、第1ミラー712と、第2ミラー713とを有する。第1ミラー712は、第1ローラ121の幅方向の両端に設けられている。第2ミラー713は、第2ローラ122の幅方向の両端に設けられている。第1レーザ測長器711から出射されたレーザ光は、第1ミラー712により反射されて、第1ミラー712から第2ミラー713へ向かう。その後、第2ミラー713により反射されたレーザ光は、再び第1ミラー712へ向かい、第1ミラー712により反射されて、第1レーザ測長器711へ入射する。第1レーザ測長器711は、第2ローラ122の両端部の第2ミラー713から反射される2本のレーザ光の光路差を検出する。そして、検出された光路差に基づいて、第1ローラ121に対する第2ローラ122の、搬送方向の傾斜角度θxを計測する。
【0035】
この傾斜角度θxは、第1ローラ121に対する第2ローラ122の搬送方向のミスアライメント量である。アライメントセンサ34は、同様の方法で、第1ローラ121に対する第3ローラ123の搬送方向のミスアライメント量と、第1ローラ121に対する第4ローラ124の搬送方向のミスアライメント量も、計測する。
【0036】
第2アライメントセンサ72は、第2レーザ測長器721と、第1ローラ121の幅方向の一端に設けられた第3ミラー722と、第2ローラ122の幅方向の一端に設けられた第4ミラー723とを有する。第2レーザ測長器721から出射されたレーザ光は、第3ミラー722および第4ミラー723により反射されて、再び第2レーザ測長器721へ入射する。第2レーザ測長器721は、第3ミラー722により反射されるレーザ光と、第4ミラー723により反射されるレーザ光との光路差を検出する。そして、検出された光路差に基づいて、第1ローラ121に対する第2ローラ122の、法線方向の傾斜角度θyを計測する。
【0037】
この傾斜角度θyは、第1ローラ121に対する第2ローラ122の法線方向のミスアライメント量である。アライメントセンサ34は、同様の方法で、第1ローラ121に対する第3ローラ123の法線方向のミスアライメント量と、第1ローラ121に対する第4ローラ124の法線方向のミスアライメント量も、計測する。
【0038】
アライメントセンサ34は、第1ローラ121に対する第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124の搬送方向および法線方向のミスアライメント量を、連続的または断続的に計測する。これにより、多数のミスアライメントの計測値d4が取得される。そして、アライメントセンサ34は、得られた計測値d4を、コンピュータ60へ送信する。
【0039】
画像取得部40は、印刷部20を通過した基材9の上面を撮影するカメラである。画像取得部40は、印刷部20よりも搬送経路の下流側の撮影位置P5において、基材9の印刷面に対向して配置される。画像取得部40には、例えば、CCDやCMOS等の撮像素子が、幅方向に複数配列されたラインセンサが使用される。画像取得部40は、基材9の印刷面を撮影することにより、印刷済みの基材9の画像データを取得する。そして、画像取得部40は、得られた画像データを、コンピュータ60へ送信する。
【0040】
姿勢調整部50は、第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124の姿勢を調整するための機構である。
図4は、姿勢調整部50の構成を概念的に示した図である。
図4に示すように、姿勢調整部50は、第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124の各搬送ローラ12に設けられている。姿勢調整部50は、各搬送ローラ12の幅方向の一端を、法線方向に移動させる第1アクチュエータ51と、搬送方向に移動させる第2アクチュエータ52とを有する。各搬送ローラ12の幅方向の他端の位置は、固定されている。
【0041】
第1アクチュエータ51は、搬送ローラ12の幅方向の一端を支持する支持ブロック53を、法線方向に移動させる。第2アクチュエータ52は、支持ブロック53および第1アクチュエータ51の全体を、搬送方向に移動させる。第1アクチュエータ51および第2アクチュエータ52には、例えば、モータから得られる回転運動をボールねじにより直進運動に変換する機構が用いられる。
【0042】
このように、姿勢調整部50は、第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124のそれぞれ幅方向の一端を、法線方向および搬送方向に移動させる。これにより、第1ローラ121に対する第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124の姿勢を、調整することができる。
【0043】
コンピュータ60は、印刷装置1内の各部の動作制御と、後述する学習処理とを行うための情報処理装置である。
図5は、コンピュータ60と、印刷装置1の各部との接続を示したブロック図である。
図5中に概念的に示したように、コンピュータ60は、GPU等のプロセッサ601、RAM等のメモリ602、およびハードディスクドライブ等の記憶部603を有する。記憶部603内には、印刷処理および後述する学習処理を実行するためのコンピュータプログラムCPが、記憶されている。また、コンピュータ60は、上述した搬送機構10、4つのヘッド21~24、張力センサ31、変位量センサ32、エッジセンサ33、アライメントセンサ34、画像取得部40、および姿勢調整部50と、それぞれ通信可能に接続されている。コンピュータ60は、コンピュータプログラムCPに従って、これらの各部を動作制御する。
【0044】
<2.コンピュータについて>
図6は、上述したコンピュータ60の機能を、概念的に示したブロック図である。
図6に示すように、コンピュータ60は、ずれ量計測部61、計測値取得部62、強化学習部63、および制御部64を有する。ずれ量計測部61、計測値取得部62、強化学習部63、および制御部64の各機能は、コンピュータ60のプロセッサ601が、コンピュータプログラムCPに従って動作することにより実現される。
【0045】
ずれ量計測部61は、画像取得部40から入力される画像データIに基づいて、上述した見当ずれ量を計測するための処理部である。ずれ量計測部61は、画像データIから、レジスターマークなどの特定のパターンの画像を抽出し、抽出された画像における各色のパターンの位置を、画像処理によって認識する。そして、ずれ量計測部61は、各色のパターンの位置の相互のずれ量を、見当ずれ量の計測値d5として算出する。ずれ量計測部61は、連続的に入力される画像データIに対して、このような見当ずれ量の計測を、順次に行うことにより、多数の計測値d5を取得する。取得された見当ずれ量の計測値d5は、ずれ量計測部61から計測値取得部62へ送られる。
【0046】
計測値取得部62は、複数のセンサ31~34およびずれ量計測部61から、各計測値d1~d5を取得する。具体的には、計測値取得部62は、張力センサ31から、基材9にかかる張力の計測値d1を取得する。また、計測値取得部62は、変位量センサ32から、基材9の法線方向の変位量の計測値d2を取得する。また、計測値取得部62は、エッジセンサ33から、基材9のエッジの幅方向の位置の計測値d3を取得する。また、計測値取得部62は、アライメントセンサ34から、第1ローラ121に対する第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124のミスアライメント量の計測値d4を取得する。また、計測値取得部62は、ずれ量計測部61から、見当ずれ量の計測値d5を取得する。
【0047】
強化学習部63は、上述した複数の計測値d1~d5を入力変数とし、第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124の姿勢の調整量daを目的変数として、強化学習を行う処理部である。強化学習のアルゴリズムとしては、例えば、Q学習法、DQN(Deep Q Network)法、SARSA、モンテカルロ法、epsilon-greedy法、BoltzmannQPolicy法等を使用することができるが、他の強化学習のアルゴリズムを使用してもよい。
【0048】
強化学習部63は、強化学習用のモデルに、計測値d1~d5を入力し、当該モデルから調整量daを出力する処理を繰り返す。その際、強化学習部63は、見当ずれ量の計測値d5に基づいて、報酬(評価値)を付与する。報酬は、見当ずれ量の計測値d5が小さくなるほど、高い値となる。強化学習部63は、モデルのパラメータを変更しながら、上述した計測値d1~d5の入力と、調整量daの出力とを繰り返す。これにより、高い報酬が得られるパラメータを探索する。
【0049】
制御部64は、姿勢調整部50を制御するための処理部である。制御部64は、強化学習部63から出力される調整量daに基づいて、姿勢調整部50を動作させる。具体的には、制御部64は、各搬送ローラ122,123,124の第1アクチュエータ51および第2アクチュエータ52を、調整量daに従って動作させる。これにより、第1ローラ121に対する第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124の姿勢が調整される。
【0050】
<3.アライメント調整の流れについて>
続いて、上述したコンピュータ60により、第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124の姿勢を調整する処理の流れについて、より詳細に説明する。
図7は、当該調整処理の流れを示したフローチャートである。
【0051】
この調整処理は、印刷装置1の立ち上げ時あるいはメンテナンス時に実行される。調整処理を行うときには、印刷装置1の搬送機構10および印刷部20を動作させて、基材9に対するテスト印刷を開始する(ステップS1)。
【0052】
次に、テスト印刷を継続しながら、まず、計測値取得部62が、複数の計測値d1~d5を取得する(ステップS2)。具体的には、計測値取得部62は、張力センサ31から、基材9にかかる張力の計測値d1を取得する。また、計測値取得部62は、変位量センサ32から、基材9の法線方向の変位量の計測値d2を取得する。また、計測値取得部62は、エッジセンサ33から、基材9のエッジの幅方向の位置の計測値d3を取得する。また、計測値取得部62は、アライメントセンサ34から、第1ローラ121に対する第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124のミスアライメント量の計測値d4を取得する。また、計測値取得部62は、ずれ量計測部61から、見当ずれ量の計測値d5を取得する。
【0053】
次に、計測値取得部62は、取得した計測値d1~d5を、強化学習部63へ入力する(ステップS3)。このとき、計測値取得部62は、取得した計測値d1~d5を、そのまま強化学習部63へ入力してもよい。あるいは、計測値取得部62は、所定の演算やフィルタ処理を行うことによって、計測値d1~d5を強化学習に適した値に加工した上で、強化学習部63へ入力してもよい。
【0054】
強化学習部63では、入力された見当ずれ量の計測値d5に基づいて、報酬が付与される(ステップS4)。報酬は、見当ずれ量の計測値d5が大きいほど低い値とされ、見当ずれ量の計測値d5が小さいほど高い値とされる。
【0055】
強化学習部63は、計測値d1~d5を入力変数とし、第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124の姿勢の調整量daを目的変数とする、強化学習用のモデルを有する。強化学習部63は、当該モデルへ、計測値取得部62から得られた計測値d1~d5を入力する。これにより、当該モデルから、調整量daが出力される(ステップS5)。
【0056】
続いて、制御部64は、強化学習部63のモデルから出力された調整量daに従って、姿勢調整部50を動作させる(ステップS6)。具体的には、制御部64は、各搬送ローラ122,123,124の第1アクチュエータ51および第2アクチュエータ52を、調整量daに従って動作させる。これにより、第1ローラ121に対する第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124の、搬送方向および法線方向の姿勢が調整される。
【0057】
コンピュータ60は、上記のステップS2~S6の処理を、所定の終了条件が満たされるまで繰り返す(ステップS7:no)。その際、強化学習部63は、ステップS4において付与される報酬が高くなるように、モデルのパラメータを調整する。これにより、モデルは、次第に高い報酬が得られる調整量daを出力するようになる。すなわち、見当ずれ量の計測値d5が次第に小さくなるように、ステップS6において、第1ローラ121に対する第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124の姿勢が、調整される。
【0058】
ステップS7の終了条件は、例えば、上述した報酬が、予め設定された閾値よりも高くなること、とすればよい。また、終了条件は、ステップS2~S6の繰り返し実行回数が、予め設定された回数に到達すること、としてもよい。
【0059】
やがて、ステップS7において終了条件が満たされると、コンピュータ60は、強化学習処理を終了して(ステップS7:yes)、テスト印刷を終了する(ステップS8)。これにより、第1ローラ121に対する第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124のミスアライメントが低減されて、各搬送ローラ122,123,124の姿勢の調整が完了する。
【0060】
以上のように、本実施形態の印刷装置1は、複数の計測値d1~d5を入力変数とし、搬送ローラ122,123,124の姿勢の調整量daを目的変数とする強化学習により、各搬送ローラ122,123,124の姿勢を、適切な姿勢に自動調整する。したがって、作業者による手動調整の負担を減らすことができる。また、搬送される基材9の種類が変更された場合や、長期の使用により印刷装置1の状態が変化した場合にも、その時の状態に応じて、搬送ローラ122,123,124の姿勢を、最適な状態に調整できる。これにより、印刷装置1において、見当ずれを抑えた高品質な印刷を行うことができる。
【0061】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。以下では、種々の変形例について、上記の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0062】
上記のステップS2~S6を繰り返すことにより、強化学習部63において、適切な調整量daを出力可能な学習済みモデルが生成される。この学習済みモデルを、コンピュータ60の記憶部603に記憶しておいてもよい。そうすれば、次回以降のメンテナンス時に、学習済みモデルを使用して、強化学習を開始することができる。これにより、次回以降のメンテナンス時におけるアライメント調整の時間を短縮できる。
【0063】
上記の実施形態では、強化学習部63に、5項目の計測値d1~d5を入力していた。しかしながら、強化学習部63に入力される計測値の項目は、上記の5項目には限定されない。強化学習部63に入力される計測値の項目は、4項目以下であってもよく、6項目以上であってもよい。また、生成された学習済みモデルにおける各入力変数の影響度(重み変数)を考慮して、2回目以降のメンテナンス時には、計測値の項目を減らしてもよい。すなわち、2回目以降のメンテナンス時には、入力される計測値を、影響度が高い項目に絞ってもよい。
【0064】
強化学習部63には、少なくとも、見当ずれ量の計測値d5が入力されればよい。ただし、上記の実施形態のように、第1ローラ121に対する第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124のミスアライメント量(姿勢のずれ量)の計測値d4を入力変数に加えれば、より直接的に、搬送ローラ122,123,124の姿勢を学習できる。したがって、より適切な調整量daを出力できる。
【0065】
また、上記の実施形態のように、基材9にかかる張力の計測値d1、基材9の法線方向の変位量の計測値d2、および基材9のエッジの幅方向の位置の計測値d3の少なくとも1つを入力変数に加えることにより、より適切な調整量daを、出力できる。
【0066】
また、上記の実施形態では、各搬送ローラ122,123,124のミスアライメント量の計測値d4は、搬送方向の計測値と、法線方向の計測値とを含んでいた。しかしながら、ミスアライメント量の計測値d4は、これらの2方向の計測値のいずれか1つであってもよい。また、上記の実施形態では、各搬送ローラ122,123,124の姿勢の調整量daは、搬送方向の調整量と、法線方向の調整量とを含んでいた。しかしながら、調整量daは、これらの2方向の調整量のいずれか1つであってもよい。
【0067】
また、上記の実施形態では、第1ローラ121を基準として、第2ローラ122、第3ローラ123、および第4ローラ124の姿勢を調整していた。しかしながら、これらの4つの搬送ローラ121~124のうち、第1ローラ121以外の搬送ローラを基準として、他の搬送ローラの姿勢を調整してもよい。
【0068】
また、上記の実施形態では、ずれ量計測部61、計測値取得部62、強化学習部63、および制御部64が、1つのコンピュータ60により実現されていた。しかしながら、これらの各部は、2つ以上のコンピュータにより実現されていてもよい。
【0069】
また、上記の実施形態では、
図2のように、各ヘッド21~24において、ノズル201が幅方向に一列に配置されていた。しかしながら、各ヘッド21~24において、ノズル201が2列以上に配置されていてもよい。
【0070】
また、上記の実施形態の印刷装置1は、4つのヘッド21~24を備えていた。しかしながら、印刷装置1が備えるヘッドの数は、2つ、3つ、あるいは5つ以上であってもよい。例えば、印刷装置1は、C,M,Y,Kの各色に加えて、特色のインクを吐出するヘッドを備えていてもよい。
【0071】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 印刷装置
9 基材
10 搬送機構
11 巻き出し部
12 搬送ローラ
13 巻き取り部
20 印刷部
21 第1ヘッド
22 第2ヘッド
23 第3ヘッド
24 第4ヘッド
31 張力センサ
32 変位量センサ
33 エッジセンサ
34 アライメントセンサ
40 画像取得部
50 姿勢調整部
51 第1アクチュエータ
52 第2アクチュエータ
60 コンピュータ
61 ずれ量計測部
62 計測値取得部
63 強化学習部
64 制御部
71 第1アライメントセンサ
72 第2アライメントセンサ
121 第1ローラ
122 第2ローラ
123 第3ローラ
124 第4ローラ
d1~d5 計測値
da 調整量