(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】光ファイバ用母材、光ファイバ用母材の製造方法、及び光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/012 20060101AFI20231206BHJP
C03C 13/04 20060101ALI20231206BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C03B37/012 Z
C03C13/04
G02B6/02 356A
(21)【出願番号】P 2020058261
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】西村 亮一
(72)【発明者】
【氏名】北原 倫太郎
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-329430(JP,A)
【文献】特開平10-059736(JP,A)
【文献】国際公開第2010/016245(WO,A1)
【文献】特開平03-127032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/012,
C03C 13/04,
G02B 6/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側コアガラス体と、
前記内側コアガラス体の外周面を隙間なく囲む外側コアガラス体と、
前記外側コアガラス体の外周面を隙間なく囲むクラッドガラス体と、
を備え、
前記内側コアガラス体は、希土類元素、アルミニウム、及びリンをドーパントとして含み、
前記外側コアガラス体は、アルミニウム及びリンをドーパントして含まず、屈折率を上昇させるドーパントを含み、
前記内側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差と、前記外側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差とが下記式で表される
ことを特徴とする光ファイバ用母材。
ただし、上記式において、Δ
1Pは前記内側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差を示し、Δ
2Pは前記外側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差を示し、C
Alは前記内側コアガラス体に含まれる元素の総量に対するアルミニウムの濃度
(wt%)を示し、C
Pは前記内側コアガラス体に含まれる元素の総量に対するリンの濃度
(wt%)を示す。
【請求項2】
前記希土類元素はイッテルビウムである
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用母材。
【請求項3】
前記内側コアガラス体は、前記内側コアガラス体の屈折率を調整するための前記希土類元素、アルミニウム、及びリン以外の1種類以上の屈折率調整ドーパントをドーパントとしてさらに含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ用母材。
【請求項4】
前記屈折率調整ドーパントは、ホウ素、フッ素、及びゲルマニウムの少なくとも1つである
ことを特徴とする請求項3に記載の光ファイバ用母材。
【請求項5】
希土類元素、アルミニウム、及びリンをドーパントとして含む内側コアガラス体と、当該内側コアガラス体を隙間なく囲み、屈折率を上昇させるドーパントを含む外側コアガラス体と、当該外側コアガラス体を隙間なく囲むクラッドガラス体と、を備える光ファイバ用母材の製造方法であって、
前記外側コアガラス体に添加されるゲルマニウムの濃度を決定する第1濃度決定工程と、前記内側コアガラス体に添加される前記希土類元素、アルミニウム、及びリンの各濃度を決定する第2濃度決定工程と、前記内側コアガラス体の屈折率を調整するために前記内側コアガラス体にさらに添加される屈折率調整ドーパントの濃度を決定する第3濃度決定工程と、を含むドーパント濃度決定工程と、
前記内側コアガラス体に添加される各ドーパントの濃度が前記ドーパント濃度決定工程で決定された濃度となるように前記内側コアガラス体を形成する内側コアガラス体形成工程と、
前記外側コアガラス体に添加されるドーパントの濃度が前記ドーパント濃度決定工程で決定された濃度となるように前記外側コアガラス体を形成する外側コアガラス体形成工程と、
を備え、
前記第3濃度決定工程では、前記内側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差と、前記外側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差とが下記式を満たすように、前記屈折率調整ドーパントの濃度が決定される
ことを特徴とする光ファイバ用母材の製造方法。
ただし、上記式において、Δ
1Pは前記内側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差を示し、Δ
2Pは前記外側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差を示し、C
Alは前記内側コアガラス体に含まれる元素の総量に対するアルミニウムの濃度
(wt%)を示し、C
Pは前記内側コアガラス体に含まれる元素の総量に対するリンの濃度
(wt%)を示す。
【請求項6】
前記屈折率調整ドーパントは、ホウ素、フッ素、及びゲルマニウムの少なくとも1つである
ことを特徴とする請求項5に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の光ファイバ用母材の製造方法により製造された光ファイバ用母材を線引きする線引工程を備える
ことを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項8】
光ファイバ用母材を線引きして光ファイバ裸線を形成する線引工程を備え、
前記光ファイバ用母材は、
希土類元素、アルミニウム、及びリンをドーパントして含む内側コアガラス体と、
前記内側コアガラス体の外周面を隙間なく囲み、アルミニウム及びリンをドーパントとして含まず、屈折率を上昇させるドーパントを含む外側コアガラス体と、
前記外側コアガラス体を隙間なく囲むクラッドガラス体と、
を備え、
前記内側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差と、前記外側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差とが下記式で表される
ことを特徴とする光ファイバの製造方法。
ただし、上記式において、Δ
1Pは前記内側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差を示し、Δ
2Pは前記外側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差を示し、C
Alは前記内側コアガラス体に含まれる元素の総量に対するアルミニウムの濃度
(wt%)を示し、C
Pは前記内側コアガラス体に含まれる元素の総量に対するリンの濃度
(wt%)を示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ用母材、光ファイバ用母材の製造方法、及び光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの一つとして、コアにイッテルビウム(Yb)等の希土類元素が添加される増幅用光ファイバが知られている。このような増幅用光ファイバでは、下記特許文献1に記載されているように、イッテルビウムの結晶化を抑制するためにアルミニウム(Al)が共添加されることがあり、また、フォトダークニングを抑制するために更にリンが共添加されることがある。また、希土類元素、アルミニウム、及びリンが共添加されたコアを内側コアとし、当該内側コアをゲルマニウム(Ge)が添加された外側コアで隙間なく囲んだ増幅用光ファイバも製造されることがあり得る。このような増幅用光ファイバは、上記希土類元素、アルミニウム、及びリンが含まれる内側コアガラス体とゲルマニウムが含まれる外側コアガラス体とを有するコアガラス体と、クラッドガラス体とを備える光ファイバ用母材を線引きすることによって製造され得る。線引きによって、上記内側コアガラス体が希土類元素、アルミニウム、及びリンを含む内側コアとなり、上記外側コアガラス体がゲルマニウムを含む外側コアとなり、クラッドガラス体がクラッドとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、ゲルマニウムが添加されたガラス体の線引き前後の屈折率の変化はわずかである。そのため、ゲルマニウムが添加されたガラス体を含む光ファイバ用母材を線引きして光ファイバが製造される場合、製造される光ファイバにおける光ファイバ用母材のゲルマニウムが添加されたガラス体に相当する部分の屈折率は、線引き前と同様の屈折率となり易い。
【0005】
しかし、アルミニウム及びリンが添加されたガラス体の線引き前後の屈折率の変化は、ゲルマニウムが添加されたガラス体の線引き前後の屈折率の変化に比べて大きい傾向にある。このため、ゲルマニウムが添加された外側コアとアルミニウム及びリンが添加された内側コアとを有するコアを備える光ファイバを製造する場合、外側コアと内側コアとの屈折率を均一に近づけることが難しい傾向にある。
【0006】
そこで、本発明は、屈折率が均一に近いコアを有する光ファイバを製造可能な光ファイバ用母材、上記光ファイバ用母材の製造方法、及び上記光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的の達成のため、本発明の光ファイバ用母材は、内側コアガラス体と、前記内側コアガラス体の外周面を隙間なく囲む外側コアガラス体と、前記外側コアガラス体の外周面を隙間なく囲むクラッドガラス体と、を備え、前記内側コアガラス体は、希土類元素、アルミニウム、及びリンをドーパントとして含み、前記外側コアガラス体は、アルミニウム及びリンをドーパントして含まず、屈折率を上昇させるドーパントを含み、前記内側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差と、前記外側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差とが下記式で表されることを特徴とするものである。
ただし、上記式において、Δ
1Pは前記内側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差を示し、Δ
2Pは前記外側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差を示し、C
Alは前記内側コアガラス体に含まれる元素の総量に対するアルミニウムの濃度を示し、C
Pは前記内側コアガラス体に含まれる元素の総量に対するリンの濃度を示す。
【0008】
ゲルマニウムがドーパントとして添加された外側コアガラス体とアルミニウム及びリンがドーパントして添加された内側コアガラス体とを含むコアガラス体と、クラッドガラス体とを備える光ファイバ用母材を線引きすることによって、ゲルマニウムがドーパントとして添加された外側コアとアルミニウム及びリンがドーパントして添加された内側コアとを含むコアと、クラッドと備える光ファイバ裸線が形成される。ドーパントがゲルマニウムである場合、上述のように屈折率は線引き前後で殆ど変化しない傾向にある。このため、光ファイバ用母材におけるゲルマニウムが添加された外側コアガラス体のクラッドガラス体に対する平均比屈折率差と、光ファイバにおけるゲルマニウムが添加された外側コアのクラッドに対する平均比屈折率差との間の差が小さくなり易い。つまり、上記式における外側コアガラス体のクラッドガラス体に対する平均比屈折率差Δ2Pは、外側コアのクラッドに対する平均比屈折率差とも見做し得る。
【0009】
なお、コアガラス体のクラッドガラス体に対する平均比屈折率差とはコアガラス体のクラッドガラス体に対する比屈折率差を光ファイバ用母材の長手方向に垂直な断面方向に平均化した値であり、コアのクラッドに対する平均比屈折率差とは、コアのクラッドに対する比屈折率差を光ファイバの長手方向に垂直な断面方向に平均化した値である。
【0010】
また、本明細書において、例えば増幅用光ファイバのような内側クラッドと外側クラッドとを有する光ファイバにおいて単にクラッドと記す場合、特に明示のない限り内側クラッドを意味するものとする。
【0011】
一方、上述のように、内側コアガラス体及び内側コアにはドーパントしてアルミニウム及びリンが添加されている。ドーパントとしてアルミニウム及びリンが添加されている場合、屈折率が線引き前後で大きく変化する傾向にある。具体的には、リンの濃度に対してアルミニウムの濃度が大きい程、線引き前に対して線引き後の屈折率が大きくなる傾向があり、リンの濃度が大きい程、線引き前に対して線引き後の屈折率が小さくなる傾向がある。このため、アルミニウム及びリンが添加された光ファイバ用母材における内側コアガラス体のクラッドガラス体に対する平均比屈折率差と、アルミニウム及びリンが添加された光ファイバにおける内側コアのクラッドに対する平均比屈折率差との差は、光ファイバ用母材における外側コアガラス体の平均比屈折率差と光ファイバにおける外側コアの平均比屈折率差との差に比べて概ね大きい。
【0012】
本発明者は、アルミニウム及びリンがドーパントして添加された内側コアとなる内側コアガラス体を含むコアガラス体と、クラッドとなるクラッドガラス体とを備える光ファイバ用母材について鋭意研究した。その結果、本発明者は、内側コアガラス体の線引き前における平均比屈折率差と、内側コアガラス体の線引き後における平均比屈折率差である内側コアの平均比屈折率差との差は、内側コアガラス体に他のドーパントが添加されているかによらず、アルミニウムとリンとの濃度差に依存する傾向があり、下記式の関係にあることを見出した。
ただし、上記式において、δΔ
1Pは内側コアガラス体の線引き前における平均比屈折率差と内側コアガラス体の線引き後における平均比屈折率差との差を示し、C
Alは前記内側コアガラス体に含まれる元素の総量に対するアルミニウムの濃度を示し、C
Pは前記内側コアガラス体に含まれる元素の総量に対するリンの濃度を示す。
【0013】
したがって、内側コアガラス体の平均比屈折率差Δ1Pに
0.039(CAl-CP)+0.048
から求められる値を追加した値は、内側コアガラス体の線引き後における平均比屈折率差、すなわち、内側コアのクラッドに対する平均比屈折率差と見做し得る。
【0014】
上述のように、本発明の光ファイバ用母材は、
0.9Δ2P≦Δ1P+{0.039(CAl-CP)+0.048}
の関係が満たされるように内側コアガラス体及び外側コアガラス体が形成されている。つまり、内側コアガラス体の線引き後における平均比屈折率差が、外側コアガラス体の線引き後における平均比屈折率差、すなわち、外側コアのクラッドに対する平均比屈折率差の0.9倍以上になるように内側コアガラス体が形成されている。
【0015】
また、上述のように、本発明の光ファイバ用母材は、
Δ1P+{0.039(CAl-CP)+0.048}≦1.1Δ2P
の関係が満たされるように内側コアガラス体及び外側コアガラス体が形成されている。つまり、内側コアガラス体の線引き後における平均比屈折率差が、外側コアガラス体の線引き後における平均比屈折率差、すなわち、外側コアのクラッドに対する平均比屈折率差の1.1倍以下になるように内側コアガラス体が形成されている。
【0016】
このように、本発明の光ファイバ用母材を線引きすることで、内側コアの平均比屈折率差が外側コアの平均比屈折率差の0.9倍以上1.1倍以下の範囲に収まり得、屈折率が均一に近いコアを有する光ファイバが製造され得る。したがって、本発明の光ファイバ用母材によれば、線引きしてなる光ファイバのコアの屈折率を均一に近くし得る。
【0017】
また、前記希土類元素はイッテルビウムであってもよい。
【0018】
また、前記内側コアガラス体は、前記内側コアガラス体の屈折率を調整するための前記希土類元素、アルミニウム、及びリン以外の1種類以上の屈折率調整ドーパントをドーパントとしてさらに含むことが好ましい。
【0019】
このような屈折率調整ドーパントを添加することで、内側コアガラス体の屈折率を所望の値にすることが容易になり得る。
【0020】
この場合、前記屈折率調整ドーパントは、ホウ素、フッ素、及びゲルマニウムの少なくとも1つであってもよい。
【0021】
屈折率調整ドーパントとしてホウ素及び/又はフッ素を用いる場合、内側コアガラス体の屈折率を下げ得る。一方、屈折率調整ドーパントとしてゲルマニウムを用いる場合、内側コアガラス体の屈折率を上げ得る。なお、屈折率調整ドーパントとしてホウ素などの屈折率を下げる元素と、ゲルマニウムなどの屈折率を上げる元素とを併用して、内側コアガラス体の屈折率を調整してもよい。
【0022】
また、上記目的の達成のため、本発明は、希土類元素、アルミニウム、及びリンをドーパントとして含む内側コアガラス体と、当該内側コアガラス体を隙間なく囲み、屈折率を上昇させるドーパントを含む外側コアガラス体と、当該外側コアガラス体を隙間なく囲むクラッドガラス体と、を備える光ファイバ用母材の製造方法であって、前記外側コアガラス体に添加されるゲルマニウムの濃度を決定する第1濃度決定工程と、前記内側コアガラス体に添加される希土類元素、アルミニウム、及びリンの各濃度を決定する第2濃度決定工程と、前記内側コアガラス体の屈折率を調整するために前記内側コアガラス体にさらに添加される屈折率調整ドーパントの濃度を決定する第3濃度決定工程と、を含むドーパント濃度決定工程と、前記内側コアガラス体に添加される各ドーパントの濃度が前記ドーパント濃度決定工程で決定された濃度となるように前記内側コアガラス体を形成する内側コアガラス体形成工程と、前記外側コアガラス体に添加されるドーパントの濃度が前記ドーパント濃度決定工程で決定された濃度となるように前記外側コアガラス体を形成する外側コアガラス体形成工程と、を備え、前記第3濃度決定工程では、前記内側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差と、前記外側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差とが下記式を満たすように、前記屈折率調整ドーパントの濃度が決定されることを特徴とするものである。
ただし、上記式において、Δ
1Pは前記内側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差を示し、Δ
2Pは前記外側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差を示し、C
Alは前記内側コアガラス体に含まれる元素の総量に対するアルミニウムの濃度を示し、C
Pは前記内側コアガラス体に含まれる元素の総量に対するリンの濃度を示す。
【0023】
この光ファイバ用母材の製造方法によれば、第1濃度決定工程においてゲルマニウムの濃度が決定されるため、外側コアガラス体の平均比屈折率差Δ2Pを定めることができる。また、第2濃度決定工程においてアルミニウムの濃度CAl及びリンの濃度CPが決定される。このため、第3濃度決定工程において屈折率調整ドーパントの濃度を調整することによって、上記式を満たすように内側コアガラス体の平均比屈折率差Δ1Pを定めることができる。したがって、各ドーパントの濃度が、第1濃度決定工程と第2濃度決定工程と第3濃度決定工程とを含むドーパント濃度決定工程で定められた濃度となるように内側コアガラス体及び外側コアガラス体を形成することによって、上記式を満たす光ファイバ用母材、すなわち、屈折率が均一に近いコアを有する光ファイバを製造可能な光ファイバ用母材を製造することができる。
【0024】
この場合、前記屈折率調整ドーパントは、ホウ素、フッ素、及びゲルマニウムの少なくとも1つであってもよい。
【0025】
また、上記目的の達成のため、本発明の光ファイバの製造方法は、上記の光ファイバ用母材の製造方法により製造された光ファイバ用母材を線引きする線引工程を備えることを特徴とするものである。
【0026】
このような光ファイバの製造方法によれば、屈折率が均一に近いコアを有する光ファイバを製造することができる。
【0027】
あるいは、上記目的の達成のため、本発明の光ファイバの製造方法は、光ファイバ用母材を線引きして光ファイバ裸線を形成する線引工程を備え、前記光ファイバ用母材は、希土類元素、アルミニウム、及びリンをドーパントして含む内側コアガラス体と、前記内側コアガラス体の外周面を隙間なく囲み、アルミニウム及びリンをドーパントとして含まず、屈折率を上昇させるドーパントを含む外側コアガラス体と、前記外側コアガラス体を隙間なく囲むクラッドガラス体と、を備え、前記内側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差と、前記外側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差とが下記式で表されることを特徴とするものである。
ただし、上記式において、Δ
1Pは前記内側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差を示し、Δ
2Pは前記外側コアガラス体の前記クラッドガラス体に対する平均比屈折率差を示し、C
Alは前記内側コアガラス体に含まれる元素の総量に対するアルミニウムの濃度を示し、C
Pは前記内側コアガラス体に含まれる元素の総量に対するリンの濃度を示す。
【0028】
この光ファイバの製造方法は、上記式の関係を満たす内側コアガラス体及び外側コアガラス体を備える光ファイバ用母材を線引きするものである。したがって、コアの屈折率が均一に近い光ファイバが製造され得る。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明によれば、屈折率が均一に近いコアを有する光ファイバを製造可能な光ファイバ用母材、上記光ファイバ用母材の製造方法、及び上記光ファイバの製造方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態に係る光ファイバの長手方向に垂直な断面の構造を示す図である。
【
図2】
図1に示される光ファイバの内側クラッドの内部における比屈折率差のプロファイルを示す図である。
【
図3】
図1に示される光ファイバを製造する工程を示すフローチャートである。
【
図4】
図1に示される光ファイバを製造するために用いられる光ファイバ用母材を概略的に示す図である。
【
図5】
図4に示される光ファイバ用母材の長手方向に垂直な断面の片側の構造を
図2と同様に示すとともに、光ファイバ用母材のクラッドガラス体の内部における比屈折率差のプロファイルを
図2と同様に示す図である。
【
図6】
図4に示される光ファイバ用母材を製造する工程を示すフローチャートである。
【
図7】
図3に示される線引工程及び被覆工程の様子を概略的に示す図である。
【
図8】
図5に示される内側コアガラス体に添加されるアルミニウム及びリンの濃度と、熱膨張係数との関係を示すグラフである。
【
図9】
図8に示される熱膨張係数と、線引工程における内側コアガラス体の屈折率変化の割合との関係を示すグラフである。
【
図10】
図5に示される内側コアガラス体に添加されるアルミニウム及びリンの濃度差と、線引き前後における平均比屈折率差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る光ファイバ用母材、光ファイバ、光ファイバ用母材の製造方法、及び光ファイバの製造方法を実施するための形態が添付図面とともに例示される。以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、以下の実施形態から変更、改良することができる。また、本明細書では、理解を容易にするために、各部材の寸法が誇張して示されている場合がある。
【0032】
図1は、実施形態に係る光ファイバの長手方向に垂直な断面の構造を示す図である。本実施形態における光ファイバは、コアに希土類元素が添加されるダブルクラッドファイバであり、伝搬する励起光によって上記希土類元素が励起される増幅用光ファイバである。
図1に示すように、光ファイバ10は、コア11と、コア11を隙間なく囲む内側クラッド12と、内側クラッド12の外周面を隙間なく囲む外側クラッド13と、外側クラッド13を被覆する被覆層14と、を主な構成として備える。また、コア11は、内側コア11iと、内側コア11iを隙間なく囲む外側コア11оとを有している。
【0033】
内側コア11iは石英から形成されている。本実施形態では、内側コア11iには、アルミニウム(Al)、リン(P)、ホウ素(B)、及び活性元素としての希土類元素がドーパントとして共添加されている。なお、希土類元素としては、イッテルビウム(Yb)、ツリウム(Tm)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、エルビウム(Er)等が挙げられる。本実施形態の例では、希土類元素としてイッテルビウムが内側コア11iに添加されている。
【0034】
外側コア11оは石英から形成されている。外側コア11оには、屈折率を上昇させるゲルマニウム(Ge)がドーパントとして添加されている。
【0035】
内側クラッド12は、ドーパントが添加されていない純粋石英、あるいは、屈折率を低下させるフッ素(F)やホウ素などが添加された石英から形成される。本実施形態の例では、内側クラッド12は純粋石英から形成される。
【0036】
外側クラッド13は、樹脂または石英から形成されている。このような樹脂としては、例えば、紫外線硬化樹脂或いは熱硬化樹脂が挙げられる。石英としては、例えば、内側クラッド12よりもさらに屈折率が低くなるように屈折率を低下させるフッ素やホウ素等のドーパントが添加された石英が挙げられる。本実施形態の例では、外側クラッド13は熱硬化樹脂から形成されている。
【0037】
被覆層14は、紫外線硬化樹脂や熱硬化樹脂などの樹脂から形成されている。なお、外側クラッド13が樹脂の場合、被覆層14は、外側クラッド13を形成する樹脂とは異なる紫外線硬化樹脂や熱硬化樹脂から形成される。本実施形態の例では、被覆層14は、外側クラッド13を形成する熱硬化樹脂とは異なる熱硬化樹脂から形成されている。
【0038】
上記のような構成により、本実施形態では、外側クラッド13の屈折率は内側クラッド12の屈折率よりも低くなっており、内側クラッド12の屈折率はコア11の屈折率よりも低くなっている。
【0039】
図2は、このような内側クラッド12の内部における比屈折率差のプロファイルを示す図であり、外側コア11оの内側クラッド12に対する比屈折率差と、内側コア11iの内側クラッド12に対する比屈折率差とを示している。
図2に示すように、本実施形態では、内側コア11iの平均比屈折率差と、外側コア11оの平均比屈折率差とは概ね同じであり、より具体的には、内側コア11iの平均比屈折率差は、外側コア11оの平均比屈折率差の0.9倍以上1.1倍以下の範囲に含まれている。こうして、本実施形態では、内側コア11iの屈折率と外側コア11оの屈折率とが均一に近くなっている。なお、上述のように、平均比屈折率差とは、比屈折率差を光ファイバの長手方向に垂直な断面方向に平均化した値であり、
図2では、内側コア11iの平均比屈折率差が破線で示されている。
【0040】
以上のように、本実施形態の光ファイバ10では、内側コア11iの平均屈折率と外側コア11оの平均屈折率とが概ね等しくなっており、コア11の屈折率が均一に近くなっている。このため、例えば、コアの屈折率が均一に近い光ファイバに光ファイバ10を融着接続するような場合に、融着点において電界分布の不一致が生じることが抑制され、その結果、融着点で不要な高次モードが励振されることが抑制され得る。また、内側コア11iにはアルミニウムが添加されているため、アルミニウムが添加されていない場合に比べて、結晶化したイッテルビウムが少なくなっている。さらに、内側コア11iにはリンが添加されているため、フォトダークニングが生じることが抑制される。
【0041】
次に、このような光ファイバ10の製造方法について説明する。
図3は、光ファイバ10の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図3に示すように、光ファイバ10の製造方法は、母材製造工程P1と、線引工程P2と、被覆工程P3とを含んでいる。
【0042】
(母材製造工程P1)
本工程は、光ファイバ10を製造するための光ファイバ用母材を製造する工程である。本工程のフローを説明する前に、本工程により製造される光ファイバ用母材の構成について説明する。
【0043】
図4は、本工程により製造される光ファイバ用母材10Pを概略的に示す図である。また、
図5は、
図4に示される光ファイバ用母材の長手方向に垂直な断面の片側の構造を
図2と同様に示すとともに、光ファイバ用母材のクラッドガラス体の内部における比屈折率差のプロファイルを
図2と同様に示す図である。
【0044】
図4に示すように、光ファイバ用母材10Pは、円柱状の形状をしており、光ファイバ10のコア11となるコアガラス体11Pと、コアガラス体11Pの外周面を隙間なく囲み、光ファイバ10の内側クラッド12となるクラッドガラス体12Pとから構成される。また、
図5に示すように、コアガラス体11Pは、光ファイバ10の内側コア11iとなる内側コアガラス体11Piと、内側コアガラス体11Piの外周面を隙間なく囲み、光ファイバ10の外側コア11оとなる外側コアガラス体11Pоとから構成される。
【0045】
本実施形態では、コアガラス体11Pの直径とクラッドガラス体12Pの外径との比は、光ファイバ10のコア11の直径と内側クラッド12の外径との比と略同一である。また、内側コアガラス体11Piの直径と外側コアガラス体11Pоの外径との比は、光ファイバ10の内側コア11iの直径と外側コア11оの外径との比と略同一である。
【0046】
クラッドガラス体12Pは、内側クラッド12と同じ材料である純粋石英から形成されており、内側クラッド12と概ね同じ屈折率を有している。また、外側コアガラス体11Pоは、外側コア11оと同じ材料であるゲルマニウムが添加された石英から形成されており、外側コア11оと概ね同じ屈折率を有している。このような構成により、本実施形態では、
図5に示すように、外側コアガラス体11Pоのクラッドガラス体12Pに対する平均比屈折率差が、光ファイバ10における外側コア11оの内側クラッド12に対する平均比屈折率差と概ね同じになる。
【0047】
なお、
図5では、光ファイバ用母材10Pにおけるコアガラス体11Pのクラッドガラス体12Pに対する比屈折率差及び平均比屈折率差が実線で示されており、光ファイバ10におけるコア11の内側クラッド12に対する比屈折率差及び平均比屈折率差が一点鎖線で示されている。
【0048】
内側コアガラス体11Piは、内側コア11iと同じ材料から形成されている。すなわち、内側コアガラス体11Piは、イッテルビウム、アルミニウム、リン、及びホウ素がドーパントとして添加された石英から形成されている。また、
図5に示すように、内側コアガラス体11Piは、内側コアガラス体11Piのクラッドガラス体12Pに対する比屈折率差が、内側コア11iの内側クラッド12に対する比屈折率差よりも低くなるように形成されており、内側コアガラス体11Piの平均比屈折率差が内側コア11iの平均比屈折率差よりも低くなっている。具体的に、本実施形態では、内側コア11iの内側クラッド12に対する平均比屈折率差と内側コアガラス体11Piのクラッドガラス体12Pに対する平均比屈折率差との差δΔ
1Pが下記式(1)を満たすように、内側コアガラス体11Piが形成されている。
ただし、式(1)において、C
Alは、内側コアガラス体11Piに含まれる元素の総量に対するアルミニウムの濃度(wt%)を示す。また、C
Pは、内側コアガラス体11Piに含まれる元素の総量に対するリンの濃度(wt%)を示す。ここで、内側コアガラス体11Piに含まれる元素の総量とは、例えば、内側コアガラス体11Piを形成する二酸化ケイ素、希土類酸化物、酸化アルミニウム、五酸化二リン、酸化ホウ素、及び塩素の総量に対する濃度である。なお、上述した内側コアガラス体11Piに含まれる元素は、上記の元素に限定されず、例えば、二酸化ケイ素、希土類酸化物、並びに屈折率を上昇させるドーパント及び屈折率を低減させるドーパントのいずれか一方又は両方であってもよい。
【0049】
本工程は、上記のような構成を有する光ファイバ用母材10Pを製造する工程であり、
図6に示すように、ドーパント濃度決定工程P11と、外側コアガラス体形成工程P12と、内側コアガラス体形成工程P13と、コラプス工程P14とを含んでいる。
【0050】
<ドーパント濃度決定工程P11>
本工程は、コアガラス体11Pに添加する各種ドーパントの濃度を決定する工程であり、第1濃度決定工程P111と、第2濃度決定工程P112と、第3濃度決定工程P113とを含んでいる。
【0051】
本工程では、まず、第1濃度決定工程P111が行われる。この第1濃度決定工程P111において、外側コアガラス体11Pоに添加されるドーパントであるゲルマニウムの濃度が決定される。ゲルマニウムの濃度が決定されることよって、外側コアガラス体11Pоの屈折率が定められ、外側コアガラス体11Pоのクラッドガラス体12Pに対する平均比屈折率差Δ2Pが定められる。
【0052】
次に、第2濃度決定工程P112が行われる。この第2濃度決定工程P112において、内側コアガラス体11Piに添加されるドーパントであるイッテルビウム、アルミニウム、及びリンの各濃度が決定される。
【0053】
次に、第3濃度決定工程P113が行われる。この第3濃度決定工程P113において、内側コアガラス体11Piにさらに添加されるドーパントであるホウ素の濃度が決定される。ホウ素は屈折率を下げる性質を有している。このため、ホウ素をドーパントとしてさらに添加することによって、内側コアガラス体11Piの屈折率を第2濃度決定工程P112時点における内側コアガラス体11Piの屈折率から変化させることができる。すなわち、内側コアガラス体11Piのクラッドガラス体12Pに対する平均比屈折率差Δ
1Pを第2濃度決定工程P112時点における内側コアガラス体11Piの平均比屈折率差Δ
1Pから変化させることができる。このように、ホウ素は、内側コアガラス体11Piの屈折率を調整する屈折率調整用ドーパントとして作用する。具体的には、この第3濃度決定工程P113において、ホウ素の濃度は、下記式(2)を満たすような濃度に決定される。
こうして、第3濃度決定工程P113において、内側コアガラス体11Piの平均比屈折率差Δ
1Pが定められる。
【0054】
<外側コアガラス体形成工程P12>
第1濃度決定工程P111と、第2濃度決定工程P112と、第3濃度決定工程P113とを含むドーパント濃度決定工程P11によって、添加する各種ドーパントの濃度を決定した後、本工程を行う。本工程では、外側コアガラス体11Poに添加されるゲルマニウムの濃度がドーパント濃度決定工程P11で決定された濃度となるように外側コアガラス体11Poが形成される。本工程は、例えば、MCVD法を用いて行うことができる。MCVD法を用いる場合、ゲルマニウムの濃度が第1濃度決定工程P111で決定された濃度となるように、二酸化ゲルマニウムを含む石英のスートを純粋石英からなる中空石英管の内壁に堆積させる。こうして、当該スートの堆積とほぼ同時にゲルマニウムを含む層が透明ガラス化される。
【0055】
<内側コアガラス体形成工程P13>
外側コアガラス体形成工程P12の後、本工程を行う。本工程では、内側コアガラス体11Piに添加されるイッテルビウム、アルミニウム、リン、及びホウ素の濃度がドーパント濃度決定工程P11で決定された濃度となるように内側コアガラス体11Piが形成される。本工程では、例えば、外側コアガラス体形成工程P12から連続してMCVD法を行ってもよい。具体的には、透明ガラス化されたゲルマニウムを含む層を含む中空石英管に、イッテルビウム、アルミニウム、及びリンが第2濃度決定工程P112で決定された各濃度となるように、また、ホウ素が第3濃度決定工程P113で決定された濃度となるように、イッテルビウム、アルミニウム、リン、及びホウ素を含むガラスをさらに堆積させる。この工程において、例えば、イッテルビウム及びアルミニウムが添加されたスートを堆積させた上でリン及びホウ素を添加して透明ガラス化するプロセスを複数回繰り返してもよい。あるいは、イッテルビウム、アルミニウム、リン、及びホウ素を含むガラスの堆積と透明ガラス化とを同時に行ってもよい。
【0056】
<コラプス工程P14>
次に、外側コアガラス体11Poとなるスートの堆積層及び内側コアガラス体11Piとなるガラスが積層された中空石英管をさらに加熱する。こうして、中空石英管を潰して、中空石英管の内部に残存する隙間を消滅させる。
【0057】
こうして、母材製造工程P1によって、内側コアガラス体11Piと、内側コアガラス体11Piの外周面を隙間なく囲む外側コアガラス体11Poと、外側コアガラス体11Pоの外周面を隙間なく囲むクラッドガラス体12Pと、を備え、内側コアガラス体11Piは、イッテルビウム、アルミニウム、及びリンをドーパントとして含み、外側コアガラス体11Poは、アルミニウム及びリンをドーパントして含まず、ゲルマニウムをドーパントとして含み、内側コアガラス体11Piのクラッドガラス体12Pに対する平均比屈折率差Δ1Pと、外側コアガラス体11Poのクラッドガラス体12Pに対する平均比屈折率差Δ2Pとが上記式(2)で表される光ファイバ用母材10Pが製造される。
【0058】
なお、外側コアガラス体形成工程P12及び内側コアガラス体形成工程P13の順序を逆にしてもよい。例えば、まず、内側コアガラス体形成工程P13としてVAD法により内側コアガラス体11Piを形成した後、外側コアガラス体形成工程P12としてOVD法により外側コアガラス体11Poを形成してもよい。また、このようにVAD法及びOVD法により形成されたコアガラス体11Pをクラッドガラス体12Pとなる中空石英管にロッドインチューブ法によって挿入することで、光ファイバ用母材10Pを製造することができる。あるいは、外側コアガラス体形成工程P12及び内側コアガラス体形成工程P13の双方をVAD法により行ってもよい。この場合、概ね同時に内側コアガラス体11Pi及び外側コアガラス体11Poを形成し得る。
【0059】
(線引工程P2)
図3に示すように、母材製造工程P1により光ファイバ用母材10Pを製造した後、本工程を行う。本工程は、光ファイバ用母材10Pを線引きする工程である。
図7は、本工程及び被覆工程P3の様子を概略的に示す図である。
図7に示すように、本工程では、まず、光ファイバ用母材10Pを紡糸炉310に設置する。そして、紡糸炉310の加熱部311を発熱させた後、光ファイバ用母材10Pを加熱部311に挿入して、光ファイバ用母材10Pを加熱する。このとき、光ファイバ用母材10Pの下端は、例えば2000℃に加熱され溶融状態となる。そして、光ファイバ用母材10Pからガラスが溶融して、ガラスが線引きされる。なお、上述のようにコアガラス体11Pにはイッテルビウムに加えてアルミニウムが添加されているため、線引きの際にイッテルビウムが結晶化することが抑制される。
【0060】
線引きされた溶融状態のガラスは、紡糸炉310から出ると、すぐに固化して、内側コアガラス体11Piが内側コア11iとなり、外側コアガラス体11Pоが外側コア11оとなり、クラッドガラス体12Pが内側クラッド12となる。これにより、内側コア11i及び外側コア11оを有するコア11と、内側クラッド12とから構成される光ファイバ裸線10Nが形成される。その後、この光ファイバ裸線10Nは、冷却装置320を通過して、適切な温度まで冷却される。冷却装置320に入る際、光ファイバ裸線10Nの温度は、例えば1800℃程度であるが、冷却装置320を出る際には、光ファイバ裸線10Nの温度は、例えば40℃~50℃となる。
【0061】
(被覆工程P3)
線引工程P2の後、本工程が行われる。
図7に示すように、線引工程P2によって形成された光ファイバ裸線10Nは、外側クラッド13となる第1熱硬化樹脂が入った第1コーティング装置331を通過し、内側クラッド12がこの第1熱硬化樹脂で被覆される。本実施形態では、この第1熱硬化樹脂は、所定条件下の加熱により架橋する材料から形成される。第1熱硬化樹脂で被覆された光ファイバ裸線10Nは、第1加熱炉332を通過し、この加熱炉332内で加熱される。この加熱により、第1熱硬化樹脂を形成する材料が架橋して第1熱硬化樹脂が硬化する。その結果、内側クラッド12の外周面に、第1熱硬化樹脂からなる外側クラッド13が形成される。
【0062】
外側クラッド13で覆われた光ファイバ裸線10Nは、第1熱硬化樹脂とは異なる材料からなる第2熱硬化樹脂が入った第2コーティング装置333を通過し、この第2熱硬化樹脂で被覆される。本実施形態では、この第2熱硬化樹脂は、所定条件下の加熱により架橋する材料から形成される。第2熱硬化樹脂で被覆された光ファイバ裸線10Nは、第2加熱炉334を通過し、この第2加熱炉334内で加熱される。この加熱により、第2熱硬化樹脂を形成する材料が架橋して第2熱硬化樹脂が硬化する。その結果、外側クラッド13の外周面に、第2熱硬化樹脂からなる被覆層14が形成される。
【0063】
なお、上述のように、外側クラッド13及び被覆層14を紫外線硬化樹脂から形成してもよい。
【0064】
また、上述の例では2層の被覆層をコーティングする例を示したが、被覆層は1層であってもよいし、3層以上であってもよい。
【0065】
以上の工程を経て、光ファイバ用母材10Pを線引きしてなる
図1に示される光ファイバ10が製造される。
【0066】
そして、光ファイバ10は、ターンプーリー341により方向が変換され、リール342により巻取られる。
【0067】
ところで、ガラス体に添加されるドーパントがゲルマニウムであり、ガラス体に添加されるドーパントとしてアルミニウム及びリンが含まれない場合、ガラス体の屈折率は線引き前後で殆ど変化しない傾向にある。このため、
図5に示すように、ドーパントとしてゲルマニウムのみが添加された外側コアガラス体11Pоのクラッドガラス体12Pに対する平均比屈折率差と、当該外側コアガラス体11Poが線引されてなる外側コア11оの内側クラッド12に対する平均比屈折率差とは概ね同じになる。つまり、上記式(2)における平均比屈折率差Δ
2Pは、外側コア11оの内側クラッド12に対する平均比屈折率差とも見做し得る。
【0068】
一方、内側コアガラス体11Piにはドーパントしてアルミニウム及びリンが添加されている。アルミニウムとリンとが添加されたガラス体では、アルミニウムとリンとの濃度差によって当該ガラス体の熱膨張係数が変化することが非特許文献「D. J. Digiovanni, et. al., "STRUCTURE AND PROPERTIES OF SILICA CONTAINING ALUMINUM AND PHOSHORUS NEAR THE AlPO4 JOIN", Journal of Non-Crystalline Solids 113 (1989).」によって知られている。具体的には、
図8に示すように、アルミニウムの濃度に比べてリンの濃度が大きい場合、ガラス体の熱膨張係数が大きくなる傾向があり、リンの濃度に比べてアルミニウムの濃度が大きい場合、ガラス体の熱膨張係数が小さくなる傾向がある。また、
図9に示すように、ガラス体の熱膨張係数が小さい程、線引き前に対して線引き後のガラス体の屈折率が上昇することが知られている。すなわち、リンの濃度に対してアルミニウムの濃度が大きい程、線引き前に対して線引き後のガラス体の屈折率が大きくなる傾向があり、アルミニウム濃度に対してリンの濃度が大きい程、線引き前に対して線引き後のガラス体の屈折率が小さくなる傾向がある。このように、ドーパントとしてアルミニウム及びリンが添加されているガラス体では、屈折率が線引き前後で大きく変化する傾向にある。
【0069】
このため、アルミニウム及びリンが添加された内側コアガラス体のクラッドガラス体に対する平均比屈折率差と、アルミニウム及びリンが添加された内側コアのクラッドに対する平均比屈折率差との差は、外側コアガラス体の平均比屈折率差と外側コアの平均比屈折率差との差に比べて概ね大きい。したがって、ゲルマニウムが添加された外側コアとアルミニウム及びリンが添加された内側コアとを有するコアを備える光ファイバを製造する場合、光ファイバ用母材の内側コアガラス体の屈折率が線引き前後において外側コアガラス体の屈折率に比べて大きく変化する傾向にあるため、内側コアの屈折率と外側コアの屈折率との間に差が生じやすく、コアの屈折率が均一に近くなり難い。
【0070】
しかし、実施形態の光ファイバの製造方法によれば、上記式(2)を満たす光ファイバ用母材10Pを線引きするものであるため、
図2に示すように、内側コア11iの平均比屈折率差と外側コア11оの平均比屈折率差とを概ね同一の値にすることができ、コア11の屈折率を均一に近くすることができる。具体的には、上述のように、内側コア11iの平均比屈折率差が外側コア11оの平均比屈折率差の0.9倍以上1.1倍以上の範囲に収まる光ファイバ10を製造することができる。以下、この点について詳細に説明する。
【0071】
本発明者は、このようなガラス体の平均比屈折率差の線引き前後の変化について鋭意研究したところ、アルミニウムとリンとが添加されたコアガラス体のクラッドガラス体に対する平均比屈折率差と、当該コアガラス体が線引きされてなるコアのクラッドガラス体が線引されてなるクラッドに対する平均比屈折率差との差は、コアガラス体に他のドーパントが添加されているかによらず、アルミニウムとリンとの濃度差に依存することを見出した。
【0072】
本発明者は、この点に関してさらに研究を進めた。具体的には、以下のようにして研究を進めた。まず、純粋石英にアルミニウム及びリンがドーパントとして添加されたコアガラス体と、コアガラス体を隙間なく囲み、何らドーパントが添加されていない純粋石英からなるクラッドガラス体とを備えるガラス体を複数準備した。アルミニウム及びリンは、濃度差「C
Al-C
P」(wt%)がガラス体ごとに異なるように添加された。これらガラス体は、直径及び全長が同じになるように形成された。次に、各ガラス体に対して上記線引工程P2を行う前に、各ガラス体に対して、コアガラス体のクラッドガラス体に対する平均比屈折率差の測定を行った。次に、各ガラス体に対して線引工程P2を行った後、各ガラス体に対して、コアガラス体のクラッドガラス体に対する平均比屈折率差の測定を行った。そして、各ガラス体における線引き前の平均比屈折率差と線引き後の平均比屈折率差との間の差δΔ
1Pを求め、δΔ
1Pを縦軸、「C
Al-C
P」を横軸とする座標系に対して、各ガラス体のδΔ
1P及び「C
Al-C
P」をプロットした。その結果、
図10に示すような散布図が得られた。この
図10に示す散布図から、最小2乗法を用いて1次関数Lを求めたところ、上記式(1)が得られた。
【0073】
つまり、この結果は、アルミニウムとリンとが添加されたコアガラス体と、クラッドガラス体とを有するガラス体を線引きした場合、コアガラス体のクラッドガラス体に対する平均比屈折率差は、上記式(1)を満たすように変化することを示している。よって、内側コアガラス体に添加されるアルミニウムの濃度CAlとリンの濃度CPとが分かっていれば、上記式(1)に基づいて、線引きによる内側コアガラス体の平均比屈折率差の増加量又は減少量を推定することができる。
【0074】
したがって、上記式(2)を満たすように内側コアガラス体の平均比屈折率差を調整することによって、内側コアの平均比屈折率差が外側コアの平均屈折率差の0.9倍以上1.1倍以上に収まる光ファイバを製造することができる。また、上記式(2)を満たすような内側コアガラス体及び外側コアガラス体を有する光ファイバ用母材であれば、線引きされた後、内側コアの平均比屈折率差が外側コアの平均屈折率差の0.9倍以上1.1倍以上に収まる光ファイバになり得る。
【0075】
以上説明したように、本実施形態の光ファイバ用母材10Pは、内側コアガラス体11Piと、内側コアガラス体11Piの外周面を隙間なく囲む外側コアガラス体11Poと、外側コアガラス体11Pоの外周面を隙間なく囲むクラッドガラス体12Pと、を備え、内側コアガラス体11Piは、希土類元素、アルミニウム、及びリンをドーパントとして含み、外側コアガラス体11Poは、アルミニウム及びリンをドーパントとして含まず、ゲルマニウムをドーパントとして含み、内側コアガラス体11Piのクラッドガラス体12Pに対する平均比屈折率差と、外側コアガラス体11Poのクラッドガラス体12Pに対する平均比屈折率差とが上記式(2)で表される。
【0076】
したがって、この光ファイバ用母材10Pによれば、内側コア11iの平均比屈折率差が外側コア11оの平均比屈折率差の0.9倍以上1.1倍以下の範囲に収まる光ファイバ10が製造され得る。すなわち、この光ファイバ用母材によれば、屈折率が均一に近いコアを有する光ファイバを製造可能である。
【0077】
こうして、本実施形態の光ファイバ10では、コアの屈折率が均一に近くなり得る。また、内側コア11iにはアルミニウムが添加されているため、アルミニウムが添加されていない場合に比べて、結晶化したイッテルビウムが少なくなっている。さらに、内側コア11iにはリンが添加されているため、フォトダークニングが生じることが抑制される。
【0078】
以上、本発明について、上記実施形態を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0079】
例えば、上記実施形態では、屈折率調整用ドーパントしてホウ素を用いる例を説明したが、屈折率調整ドーパントは、内側コアガラス体11Piの平均比屈折率差Δ1Pを調整できるのであれば、他の元素を用いてもよい。例えば、フッ素(F)を用いてもよい。フッ素を用いることで、内側コアガラス体11Piの屈折率を下げ得る。あるいは、屈折率調整ドーパントとしてゲルマニウムを用いてもよい。この場合、内側コアガラス体11Piの屈折率を上げ得る。なお、屈折率調整ドーパントとしてホウ素などの屈折率を下げる元素と、ゲルマニウムなどの屈折率を上げる元素とを併用して、内側コアガラス体11Piの屈折率を調整してもよい。あるいは、屈折率調整ドーパントとして希土類元素、アルミニウム、及びリンなどを用いることも可能である。
【0080】
また、上記実施形態では、外側コア及び外側コアガラス体に屈折率を上昇させるドーパントとしてゲルマニウムが添加される例を説明したが、外側コア及び外側コアガラス体に添加される屈折率を上昇させるドーパントとして、アルミニウムとリンとが共添加されないことを前提に、アルミニウム、リン、ホウ素、塩素、フッ素などを用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、線引きによってコアの屈折率が均一に近くなり得る光ファイバ用母材、信頼性が良好に保たれ易い光ファイバ、上記光ファイバ用母材の製造方法、及び上記光ファイバの製造方法が提供され、例えばファイバレーザなどの分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0082】
10・・・光ファイバ
10N・・・光ファイバ裸線
10P・・・光ファイバ用母材
11i・・・内側コア
11о・・・外側コア
11Pi・・・内側コアガラス体
11Po・・・外側コアガラス体
12・・・内側クラッド
12P・・・クラッドガラス体