(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】接合材料、接合部の製造方法、及び接合構造体
(51)【国際特許分類】
B23K 35/32 20060101AFI20231206BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20231206BHJP
C22C 27/06 20060101ALI20231206BHJP
B23K 1/19 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B23K35/32 310B
B23K35/32 310C
C22C14/00 Z
C22C27/06
B23K1/19 B
(21)【出願番号】P 2020064152
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】石橋 良
(72)【発明者】
【氏名】近藤 貴夫
(72)【発明者】
【氏名】柴田 昌利
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 政名
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0031570(US,A1)
【文献】特表2013-525236(JP,A)
【文献】特開平06-226490(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108213771(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00-35/40
C22C 14/00
C22C 27/06
B23K 1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1SiC部材と第2SiC部材とを接合する接合材料であって、
Tiを44質量%以上100質量%未満の割合で含み、残部としてCr及び不可避不純物
からなる
ことを特徴とする接合材料。
【請求項2】
前記Tiを44質量%以上70質量%以下の割合で含む
請求項1に記載の接合材料。
【請求項3】
前記Tiを70質量%以上100質量%未満の割合で含む
請求項1に記載の接合材料。
【請求項4】
前記接合材料は、前記第1SiC部材と前記第2SiC部材とを接合するロウ付け部である
請求項1~3の何れか1項に記載の接合材料。
【請求項5】
第1SiC部材と、第2SiC部材と、前記第1SiC部材と前記第2SiC部材とを接合する接合材料と、を備える接合部の製造方法であって、
前記第1SiC部材と前記第2SiC部材との間に、Tiを44質量%以上100質量%未満の割合で含み、残部としてCr及び不可避不純物
からなる前記接合材料の組成となる原料組成物を配置する配置工程と、
前記原料組成物を配置した状態で前記第1SiC部材と前記第2SiC部材とを突き合わせて熱処理することで前記接合材料を形成する熱処理工程とを含む
ことを特徴とする接合部の製造方法。
【請求項6】
前記原料組成物を前記第1SiC部材及び前記第2SiC部材の少なくとも一方に付着させることで、前記原料組成物を前記第1SiC部材と前記第2SiC部材との間に配置する
ことを特徴とする請求項5に記載の接合部の製造方法。
【請求項7】
前記原料組成物は、塗布、溶射又はコールドスプレーの何れかにより付着される
請求項6に記載の接合部の製造方法。
【請求項8】
前記原料組成物の箔状体を前記第1SiC部材と前記第2SiC部材との間に配置する
ことを特徴とする請求項5に記載の接合部の製造方法。
【請求項9】
前記原料組成物は、前記Ti及び前記Crをそれぞれ前記割合で含むTi-Cr合金を含む
ことを特徴とする請求項5~8の何れか1項に記載の接合部の製造方法。
【請求項10】
前記原料組成物は、前記Ti及び前記Crをそれぞれ前記割合で含む金属単体の混合物である
ことを特徴とする請求項5~8の何れか1項に記載の接合部の製造方法。
【請求項11】
前記接合部を覆うように、Cr、Ti又はZrの少なくとも1つを主成分として含む金属膜を、物理蒸着、化学蒸着、メッキ、粉末塗布法、溶射又はコールドスプレーの何れかにより形成する金属膜形成工程を含む
ことを特徴とする請求項5~8の何れか1項に記載の接合部の製造方法。
【請求項12】
前記第1SiC部材及び前記第2SiC部材のそれぞれの接合面の少なくとも一方に、Ti又はCrの少なくとも一方を含む金属層が形成される
ことを特徴とする請求項5~8の何れか1項に記載の接合部の製造方法。
【請求項13】
第1SiC部材と、第2SiC部材と、前記第1SiC部材と前記第2SiC部材とを接合する接合材料と、を備える接合部を有する接合構造体であって、
前記接合材料は、Tiを44質量%以上100質量%未満の割合で含み、残部としてCr及び不可避不純物
からなる
ことを特徴とする接合構造体。
【請求項14】
前記接合部を覆うように、Cr、Ti又はZrの少なくとも1つを主成分として含む金属膜を備える
ことを特徴とする請求項13に記載の接合構造体。
【請求項15】
前記接合構造体は、燃料棒、燃料チャンネルボックス、ウォーターロッド又は燃料集合体である
ことを特徴とする請求項13又は14に記載の接合構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合材料、接合部の製造方法、及び接合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、耐食性に優れ、熱伝導率も高く、高温まで安定であるため、しゅう動部材、シール材、熱処理治具等に使用されている。さらに、熱中性子吸収断面積も小さいことから、原子炉炉心の燃料集合体を構成する機器の有望な材料として研究開発が進んでいる。SiCをマトリックスとしSiC繊維の分散によって強化した複合材料(以下、「SiC/SiC複合材料」とも称する)は、セラミックスとしては高い靭性を示し、構造材料として適用が検討されている。
【0003】
一般に、沸騰水型原子炉(BWR)、加圧水型原子炉(PWR)等の軽水炉の炉心内には、原子炉燃料として燃料集合体が装荷されている。燃料集合体は、ウラン燃料が装填された複数本の原子炉燃料棒(単に燃料棒ともいう)が、上部タイプレート及び下部タイプレートにより整列及び支持されているものである。
【0004】
各原子炉燃料棒は、長さ約4mの燃料被覆管にウラン燃料ペレットが装填されており、その両端が端栓によって封じられている。燃料被覆管及び端栓は、従来から、熱中性子吸収断面積が小さくかつ耐食性に優れたジルコニウム合金(ジルカロイ)がその材料として使用されている。このため、燃料被覆管及び端栓は、中性子経済に優れるとともに通常の原子炉内環境において安全に使用されてきた。
【0005】
一方、水を冷却材として使用する軽水炉では、冷却水が原子炉内に流入できなくなる事故(所謂、冷却材喪失事故)が発生した場合、ウラン燃料の発熱により原子炉内の温度が上昇し、高温の水蒸気が発生する。また、冷却水不足により燃料棒が冷却水から露出すると、燃料棒の温度が上昇して1000℃を優に超え、燃料被覆管のジルコニウム合金と水蒸気とが化学反応して(ジルコニウム合金が酸化して水蒸気が還元され)、水素が生成する。水素の大量発生は、爆発事故につながることから厳に避けるべき事象である。
【0006】
冷却材喪失及び爆発のような事故を回避するため、現在の原子炉では、非常用電源、非常用炉心冷却装置等の多重の電源装置及び冷却装置を設けるといった安全性を強化したシステム設計が施されており、更なる改良及び改修も重ねられている。安全性強化の試みは、システム設計に留まらず、炉心を構成する材料に対しても検討されている。
【0007】
例えば、燃料被覆管及び端栓の材料として、水素発生の原因となるジルコニウム合金の代わりにセラミックスを用いる検討が進められている。中でも、SiCは、耐食性に優れ、熱伝導率も高く、熱中性子吸収断面積も小さいことから、燃料被覆管及び端栓の有望な材料として研究開発が進んでいる。また、1300℃を超えるような高温水蒸気環境におけるSiCの酸化速度は、ジルコニウム合金のそれよりも2桁低いことから、万が一冷却材喪失事故が発生したとしても水素生成の大幅な低減が期待できる。
【0008】
一方、SiCは耐食性に優れた材料であるが、酸化性の高い環境では耐食性に対する配慮が必要である。SiCは反応速度が低いものの酸化して酸化ケイ素を生成する。酸化ケイ素は水溶性であり、さらに、水分があると揮発性の水酸化珪素を生じることから、環境によっては保護皮膜としての機能が小さい場合がある。
【0009】
SiC/SiC複合材料では、SiC繊維とSiCマトリックスとの間にパイロカーボン又は窒化硼素が界面層に使用されており、SiCに先立って界面層が酸化する場合がある。さらに、SiCマトリックスは種々の方法で形成されている。例えば、酸化物等の焼結助剤を用いてSiCを焼結する場合、又は、SiとCとを反応させてSiCを生成している場合、酸化物、未反応のSi、又は未反応のCが環境に晒されて、環境中への溶出又は酸化によって消失する場合がある。SiCからの酸化珪素の溶出は、SiCを用いた機器を採用したプラントの管理及び制御に影響を与える場合がある。例えば、原子力発電プラントでは、冷却水の水質管理において浄化系に従来よりも負荷をかけることから望ましくなく、低減されるべきである。SiC/SiC複合材料が環境に晒されて材料を構成する界面層又はSiCマトリックスが侵食されると、構造材料としての機能を失われる可能性があり、望ましくなく、防止すべきである。
【0010】
次に、燃料棒をはじめ機器の多くは、接合部を有する接合構造材である。接合プロセスの多くでは接合部に対して加熱を施すことから、加熱による劣化等を考慮して、接合部の構造とともに、対象の機器の一連のプロセスの中で適切な接合プロセス(加熱)の機会を折り込むプロセス設計が必要である。さらに、接合材料、及び、接合材料と基材との反応層に対しても、強度、耐食性などに配慮する必要がある。高融点を有するSiCに対する接合材料と接合方法として、Si、Si合金、酸化物等を用いたロウ付け、Mo、Ti等を用いた拡散接合、反応焼結法、液相焼結法又は化学蒸着法により形成するSiCを使用した接合が検討されている。これらの接合材料の内、高温高圧純水に対して、Si、Si合金、Mo、SiC、酸化物の一部の耐食性に課題があり、直接、接液面となることは望ましくなく、防止すべきである。
【0011】
拡散接合法は、高温で高い圧力をSiC基材に負荷しなければ気密性及び強度のある接合部が得られないため、燃料棒の最終端栓接合部のように、被覆管内部へのHeガス封止を兼ね、気密性が要求される接合には望ましくない。
【0012】
ロウ付けによる接合技術として、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、SiC複合材の燃料棒被覆管の封止に係り、燃料棒被覆管の設計構造は問わない技術が記載されている。当該被覆管は、好ましくは、封止されたSiC端栓を有し、内部のロウ付け及び外部の最終的なSiCコーティングによってさらに封止される技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特表2017-515094号公報(特に要約書)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、Tiは耐食性に優れる。このため、Tiはロウ材として好適と考えられる。しかし、Tiの融点は高くTi単体の接合材料は施工し難い。そこで、特許文献1には、Ti及びCrを含むろう材が記載され(段落0029)、Crの含有によりろう材の融点を低下できる。しかし、本発明者の検討によれば、Crを含むことでロウ付け部分である接合材料の耐食性が低下し得ることがわかった。
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、施工し易く、耐食性に優れた接合材料、接合部の製造方法及び接合構造体の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の接合材料は、第1SiC部材と第2SiC部材とを接合する接合材料であって、Tiを44質量%以上100質量%未満の割合で含み、残部としてCr及び不可避不純物からなることを特徴とする。その他の解決手段発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、施工し易く、耐食性に優れた接合材料、接合部の製造方法及び接合構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】別の実施形態の接合部を示す断面模式図である。
【
図3】接合部の製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】別の実施形態の接合部の製造方法を示すフローチャートである。
【
図6】別の実施形態の接合部の製造方法を示す断面模式図である。
【
図7】別の実施形態の接合部の製造方法を示す断面模式図である。
【
図8】別の実施形態の接合部の製造方法を示す断面模式図である。。
【
図9】接合構造体の一例であるBWR用の燃料棒の断面模式図である。
【
図11】
図9に示す燃料被覆管と端栓との接合部を拡大する図である。
【
図12】別の実施形態の接合構造体の一例であるPWR用の燃料棒の断面模式図である。
【
図13】別の実施形態の接合構造体の一例であるウォーターロッドの断面模式図である。
【
図14】別の実施形態の接合構造体の一例である燃料チャンネルボックスの断面模式図である。
【
図15】別の実施形態の接合構造体の一例であるBWR用の燃料集合体の縦断面図の一例を示す模式図である。
【
図17】別の実施形態の接合構造体の一例であるPWR用の燃料集合体の模式図である。
【
図18】別の実施形態の接合構造体の一例であるBWR用のセルを示す横断面模式図である。
【
図19】別の実施形態の接合構造体の一例であるPWR用のセルを示す横断面模式図である。
【
図20】Ti濃度を変えた接合材料の溶融開始温度及び耐食性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を説明するが、本発明は以下の内容に限定されず、本発明の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形して実施できる。本発明は、異なる実施形態同士を組み合わせて実施できる。以下の記載において、異なる実施形態において同じ部材については同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
図1は、接合部8を示す断面模式図である。接合部8は、第1SiC部材1a(基材)と、第2SiC部材1b(基材)と、第1SiC部材1aと第2SiC部材1bとを接合する接合材料2(接合部材)と、を備える。第1SiC部材1a及び第2SiC部材1bは、それぞれ、SiCを主成分とする基材であることが好ましい。本明細書における主成分とは、構成する各成分の中で最も高い割合を示す成分である。第1SiC部材1a及び第2SiC部材1bは、それぞれ、SiC/SiC複合材料である。
【0021】
ただし、第1SiC部材1a及び第2SiC部材1bは、それぞれ、SiC/SiC複合材料に限定されず、接合材料2との少なくとも接合面1a1,1b1がSiCにより構成されていればよい。このような例は、例えば、任意の繊維強化材料の表面のうちの接合材料2との接合面に、例えば蒸着等によりSiC層を形成することが考えられる。
【0022】
接合材料2は、Tiを44質量%以上100質量%未満の割合で含み、残部としてCr及び不可避不純物を含む。Ti及びCrをこの濃度で含むことで、接合材料2の融点をTi単独の融点よりも下げて施工し易くでき、かつ、接合材料2の耐食性を向上できる。不可避的不純物とは、例えばFe、Ni等である。接合材料2には、含まれるTi及びCrのうちの少なくとも一部が合金化し、Ti-Cr合金が含まれる。
【0023】
Tiの濃度は、接合材料2の性能のうちの特に所望する性能に応じて決定すればよい。接合材料2は、Tiを44質量%以上70質量%以下の割合で含むことができる。Tiをこの濃度で含むことで、接合材料2の融点を特に低くでき、施工し易く、かつ、施工時の第1SiC部材1a及び第2SiC部材1bへの熱影響を抑制できる。一方で、接合材料2は、Tiを70質量%以上100質量%未満の割合で含むこともできる。Tiをこの濃度で含むことで、接合材料2の組成をTi100質量%に近づけることができ、接合材料2の耐食性をTi100質量%の場合の耐食性に近づけることができる。好ましくは、Ti濃度を90質量%以下の割合とすることにより、溶融開始温度を降下させることができる。
【0024】
接合材料2は、第1SiC部材1aと第2SiC部材1bとを接合するロウ付け部2cである。ロウ付け部2cを備えることで、第1SiC部材1aと第2SiC部材1bとの接合部分での気泡を減らし、密着性を向上できる。ロウ付け部2cは、第1SiC部材1a及び第2SiC部材1bの接合面1a1,1b1の少なくとも一方にロウ材を例えば塗布し、第1SiC部材1a及び第2SiC部材1bを突き合わせた状態での熱処理により、形成される。
【0025】
図2は、別の実施形態の接合部8を示す断面模式図である。接合部8は、接合部8を覆うように金属膜3を備える。金属膜3は、接合材料2と、第1SiC部材1a及び第2SiC部材1bを覆う。
【0026】
金属膜3は、Cr、Ti又はZrの少なくとも1つを主成分として含むことが好ましい。Cr、Ti又はZrを2つ以上含む場合、Cr、Ti及びZrの総和が主成分となることが好ましい。金属膜3を備えることで、接合材料2を保護でき、保護しない場合と比べて接合部8の信頼性をより向上できる。
【0027】
金属膜3の厚さは、10μm以上1000μm以下であることが好ましい。10μm以上にすることで接合材料2の保護効果を十分に発揮できる。一方で、1000μm以下にすることで、第1SiC部材1a及び第2SiC部材1bを覆う場合に第1SiC部材1a及び第2SiC部材1bとの密着性を高め、剥離を抑制できる。金属膜3の厚さは、金属膜3の成膜方法により制御できる。例えば、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)、メッキ、又は粉末塗布による成膜では厚さは10μm以上100μm以下であり、溶射又はコールドスプレーによる成膜では厚さは100μm以上1000μm以下である。
【0028】
第1SiC部材1a及び第2SiC部材1bの表面のうち、少なくとも接合面1a1,1b1にSiC層(図示しない)を形成してもよい。SiC層の形成により、第1SiC部材1a及び第2SiC部材1bに含まれ得る焼結助剤等が接合材料2及び金属膜3に拡散することを防ぎ、接合材料2及び金属膜3の性能を長期間維持できる。
【0029】
接合材料2の組成は、FIB(Focused Ion Beam)等で加工して接合材料2の断面を出し、オージェ電子分光法又はXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)による組成分析、TEM(Transmission Electron Microscope)又はXRD(X‐ray diffraction)による構造解析によって同定することができる。
【0030】
図3は、接合部8(
図1)の製造方法を示すフローチャートである。
図4は、接合部8の製造方法を示す断面模式図である。接合部8は、配置工程S1及び熱処理工程S2を含むことで製造できる。配置工程S1及び熱処理工程S2において、少なくとも、第1SiC部材1a、第2SiC部材1b、及び、接合材料2の位置を支持するための荷重を負荷している。
【0031】
配置工程S1は、第1SiC部材1a(
図1)と第2SiC部材1b(
図1)との間に、接合材料2(
図1)の組成となる原料組成物を配置するものである。原料組成物は、Ti及びCrをそれぞれ接合材料2の割合で含むTi-Cr合金を含むことが好ましい。このような原料組成物を使用することで、接合面1a1,1b1(
図1)におけるTi及びCrそれぞれの付着量むらを抑制できる。別の実施形態では、原料組成物は、Ti及びCrをそれぞれ接合材料2の割合で含む金属単体の混合物であることが好ましい。このような原料組成物を使用することで、予めTi-Cr合金を調製する必要が無いため、原料組成物を簡便に配置できる。
【0032】
原料組成物は例えばロウ材の形態である。このため、原料組成物を、第1SiC部材1a及び第2SiC部材1bの双方の接合面1a1,1b1(少なくとも一方の接合面でよい)に付着することで、原料組成物としてのロウ材層4,4を形成できる。これにより、ロウ材層4,4を、第1SiC部材1aと第2SiC部材1bとの間に容易に配置できる。
【0033】
原料組成物は、例えば、上記ロウ材の塗布のほか、溶射又はコールドスプレーの何れかにより付着できる。このような加熱が不要又は加熱量が少ない方法を使用することで、付着による第1SiC部材1a及び第2SiC部材1bへの熱及び圧力による影響を抑制でき、第1SiC部材1a及び第2SiC部材1bへのダメージを抑制できる。
【0034】
熱処理工程S2は、ロウ材層4,4を配置した状態で第1SiC部材1aと第2SiC部材1bとを突き合わせて熱処理することで接合材料2を形成するものである。熱処理工程S2により原料組成物が溶融して少なくとも一部のTi及びCrが合金化し、接合材料2が形成される。また、熱処理後に冷却することで溶融した接合材料2を固化し、接合材料2によって第1SiC部材1aと第2SiC部材1bとを接合できる。熱処理温度は、例えば、原料組成物の融点以上Tiの融点未満にできる。熱処理時間は、例えば、1秒以上1時間以下にできる。
【0035】
図5は、別の実施形態の接合部8(
図1)の製造方法を示すフローチャートである。金属膜3(
図2)を形成する場合、接合部8の製造方法は、熱処理工程S2後に、物理蒸着、化学蒸着、メッキ、粉末塗布法、溶射又はコールドスプレーの何れかにより金属膜3を形成する金属膜形成工程S3を含んでもよい。物理蒸着は例えばスパッタリング法である。金属膜形成工程S3により金属膜3を形成でき、上記のように接合部8の信頼性をより向上できる。成膜方法は、金属膜3の厚さに応じて選択すればよい。
【0036】
接合部8の製造方法は、金属膜形成工程S3後に、金属膜3の密着性を向上させる第2熱処理工程S4を含んでもよい。第2熱処理工程S4により第1SiC部材1a(
図2)及び第2SiC部材1b(
図2)と金属膜3(
図2)との間での拡散による反応層(図示しない)を形成でき、金属膜3の密着性を向上できる。第2熱処理工程S4は、例えば950℃以上1000℃以下、10分以上1時間以下(好ましくは30分以上1時間以下)にできる。なお、金属膜3を化学蒸着、溶射又はコールドスプレーにより形成した場合、第2熱処理工程S4を行わなくても、成膜工程中の入熱又は機械的な混合により反応層が形成され得る。
【0037】
図6は、別の実施形態の接合部8(
図1)の製造方法を示す断面模式図である。
図6では、
図4とは異なり、原料組成物の箔状体5が第1SiC部材1aと第2SiC部材1bとの間に配置される。なお。
図6は、図示の便宜上、箔状体5の厚さを、第1SiC部材1a及び第2SiC部材1bに対する相対的な実際の大きさよりも大きくしている。箔状体5を使用することで、箔状体5の厚さ調整により原料組成物の配置量を容易に調整できる。熱処理工程S2(
図3)は、第1SiC部材1aと第2SiC部材1bとの突き合わせによって箔状体5を挟み込んだ状態で行われる。箔状体5の厚さは例えば10μm以上1mm以下である。
【0038】
箔状体5は、Ti-Cr合金又は金属単体の混合物を箔状に成型したものを使用できる。これらのうち、金属単体の混合物は、接合材料2の割合になるように配合されたTi及びCrの粉末の圧粉箔とすることができる。
【0039】
図7は、別の実施形態の接合部8(
図1)の製造方法を示す断面模式図である。
図7では、それぞれの接合面1a1,1b1の双方(少なくとも一方でよい)に、Ti又はCrの少なくとも一方を含む金属膜6が形成される。金属膜6により、ロウ材層4の熱処理による溶融時、速やかに金属膜6の金属との間で接合界面が形成でき、熱処理時間を短くできる。金属膜6は、物理蒸着、化学蒸着、メッキ又は粉末塗布によりTi又はCrの少なくとも一方を含む原料を接合面1a1,1b1に付着させて熱処理することで形成できる。
【0040】
図8は、別の実施形態の接合部8(
図1)の製造方法を示す断面模式図である。
図7のロウ材層4に代えて箔状体5を使用しても、接合部8を製造できる。即ち、金属膜6をそれぞれ形成した接合面1a1,1b1の間に、原料組成物である箔状体5が配置される。第1SiC部材1aと第2SiC部材1bとの突き合わせによって箔状体5を挟み込んだ状態で熱処理工程S2(
図3)を行うことで、箔状体5の溶融時に速やかに金属膜6の金属との間で接合界面が形成され、熱処理時間を短くできる。
【0041】
図9は、接合構造体100の一例であるBWR用の燃料棒10の断面模式図である。燃料棒10は、原子炉の炉心に装荷されるものであり、燃料被覆管11と、燃料被覆管11の両端に接合され燃料被覆管11を封じる端栓12(12a,12b)とを有し、燃料被覆管11内に複数の燃料ペレット13が装填される。燃料被覆管11の内部には例えばヘリウムが封入される。燃料被覆管11及び端栓12は、いずれもSiC/SiC複合材料により構成される。燃料被覆管11と端栓12とは接合材料2(
図11)によって接合される。燃料ペレット13を固定するため、連装された燃料ペレット13の一方の端部は、プレナムスプリング15によって押圧される。
【0042】
図10は、
図9の横断面図である。燃料被覆管11は大きく3重の構造を呈しており、円管の基材200の外側表面に皮膜201が設けられ、内側表面に内層202が設けられる。基材200の内側表面に内層202を設けることで、核分裂核種に対する閉じ込め性を担保できる。内層202はモノリシックSiC層、金属層、又は、モノリシックSiC層及び金属層の積層である。最も内側に金属層を設けることにより燃料ペレットとの相互作用に伴う破損を抑制することができる。また、基材200の外側表面に皮膜201(Cr、Ti及びZrのうちの少なくとも1つを主成分とする皮膜)を設けることで、耐食性を担保できる。
【0043】
図11は、
図9に示す燃料被覆管11(第1SiC部材1a)と端栓12a(第2SiC部材1b)との接合部8を拡大する図である。接合部8は、燃料棒10(接合構造体100)は、燃料被覆管11と端栓12と接合材料2とを備え、接合材料2は燃料被覆管11と端栓12とを接合する。
図11は燃料ペレット13を図示せず、下方の端栓12a近傍を拡大する。
【0044】
端栓12aは胴部12c及び段部12dを備え、端栓12aの側壁に形成された段部12dから先端に向かって胴部12cを有する。段部12dの端面12d1と燃料被覆管11の開口端11aとが突き当たる。端栓12aと燃料被覆管11とは、端面12d1と開口端11aとを接合する接合材料2a(接合材料2)、及び、燃料被覆管11の内壁面11bと胴部12cの側面12c1とを接合する接合材料2b(接合材料2)で接合する。接合材料2aは燃料被覆管11の軸方向に延び、接合材料2bは燃料被覆管11の径方向に延び、これらは一体に形成される。このため、接合材料2の全体の接合面積を大きくでき、接合強度を向上できる。さらに、胴部12cは、端栓12aの内側の内壁面、及び、燃料被覆管11の内壁面11bとの間に、ねじ構造を設けることが望ましい。緩いねじ構造(例えば、山谷が浅い、ねじピッチが広い)であっても、螺合する雄ねじと雌ねじ間での摩擦力により、胴部12cが、燃料被覆管11及び端栓12aから離脱することなく螺合状態を維持できる程度であれば良い。
【0045】
径方向に延び燃料被覆管11の表面に露出した接合材料2aを覆うように、金属膜3が形成される。金属膜3は、Cr、Ti又はZrの少なくとも1つを主成分として含む。金属膜3により接合材料2を保護でき、燃料被覆管11の信頼性を向上できる。
【0046】
燃料被覆管11への燃料ペレット13の充填は、例えば、下側の端栓12aを接合し上側の端栓12b(
図9)を接合せずに、上から内部に充填することで行うことができる。充填前に接合する端栓12aに対しては、燃料被覆管11及び端栓12aの各接合面に、物理蒸着、化学蒸着、溶射、コールドスプレー、メッキ又は粉末塗布等によってSiC皮膜を形成することが好ましい。さらに、密着性を向上させるために成膜の後、950℃以上1000℃以下に加熱し、拡散による上記反応層を形成することが好ましい。
【0047】
充填後に接合する端栓12b(
図9)に対しては、予め同様にSiC皮膜を形成することが好ましい。次いで、熱処理する場合には、接合面近傍のみが加熱されるように、周辺に冷却機構(図示しない)を備えた局所加熱が好ましい。ただし、この熱処理は省略してもよい。上記のように、成膜を化学蒸着、溶射又はコールドスプレーによって行う場合、熱処理を施さなくても反応層を形成できる。
【0048】
図12は、別の実施形態の接合構造体100の一例であるPWR用の燃料棒20の断面模式図である。燃料棒20は、管状の燃料被覆管11を備え、燃料被覆管11の上下開口(図示しない)は端栓12により封止される。燃料被覆管11の内部に形成される燃料プレナム16には燃料ペレット13が充填され、燃料プレナム16の上方にはプレナムスプリング15が配置される。詳細な構造の図示はしないが、燃料棒20においても、接合部8が形成される。接合部8により、燃料被覆管11と端栓12とが接合材料2(
図12では図示しない)により接合される。
【0049】
図13は、別の実施形態の接合構造体100の一例であるウォーターロッド33の断面模式図である。ウォーターロッド33は、ウォーターロッド本体30と、ウォーターロッド本体30の上下開口部(図示しない)のそれぞれに接合された端栓12,12bとを有し、内部に炉水が入るように設計される。ウォーターロッド本体30は、SiC/SiC複合材料により構成される。詳細な構造の図示はしないが、ウォーターロッド33においても、接合部8が形成される。接合部8により、ウォーターロッド本体30と端栓12とが接合材料2(
図13では図示しない)により接合される。
【0050】
図14は、別の実施形態の接合構造体100の一例である燃料チャンネルボックス35の断面模式図である。燃料チャンネルボックス35は、正方形の角管であり、上部にクリップ部38が設けられている。
図14の例では、ウォーターロッド本体30は、SiC/SiC複合材料により構成された4つのL字形状の部材39(第1SiC部材1a、第2SiC部材1b)が、4箇所の接合材料2により接合される。ただし、コの字形状の部材(図示しない)を2箇所の接合材料2で接合した構造であってもよい。
【0051】
図15は、別の実施形態の接合構造体100の一例であるBWR用の燃料集合体40の縦断面図の一例を示す模式図である。また、
図16は、
図15のA-A線断面図である。燃料集合体40は、接合部8(
図15及び
図16では図示しない)を備える燃料棒10(
図9参照)、ウォーターロッド33及び燃料チャンネルボックス35を備える。従って、燃料集合体40は接合材料2(
図15及び
図16では図示しない)を含む接合部8を備える。
【0052】
燃料集合体40は、上部タイプレート31と、下部タイプレート32と、上部タイプレート31及び下部タイプレート32に両端が保持された複数の燃料棒10及びウォーターロッド33とを備える。また、燃料集合体40は、燃料棒10及びウォーターロッド33を束ねる燃料支持格子(スペーサ)34と、上部タイプレート31に取り付けられた複数の燃料棒10を取り囲む燃料チャンネルボックス35とを備える。横断面角筒状の燃料チャンネルボックス35内には、燃料棒10(全長燃料棒ともいう)と部分長燃料棒36とウォーターロッド33とが正方格子状に束ねられて収容される。
【0053】
部分長燃料棒36は、原子炉燃料棒の一種であり、燃料棒10(全長燃料棒)よりも内部の燃料有効長が短く高さが上部タイプレート31まで達しない燃料棒である。上部タイプレート31にはハンドル37が締結されており、ハンドル37を吊り上げると、燃料集合体40の全体を引き上げることができる。
【0054】
燃料集合体40では、ウォーターロッド33又は燃料チャンネルボックス35は、従来技術と同じもの(ジルコニウム合金製のウォーターロッド又は燃料チャンネルボックス)を用いてもよいが、冷却材喪失事故を想定すると、ウォーターロッド33も、燃料棒10と同様の構成を有していることが好ましい。
【0055】
図17は、別の実施形態の接合構造体100の一例であるPWR用の燃料集合体50の模式図である。燃料集合体50は、接合部8(
図17では図示しない)を備える燃料棒20(
図12)を備える。従って、燃料集合体50は接合材料2(
図17では図示しない)を含む接合部8を備える。
【0056】
燃料集合体50は、複数の燃料棒20と、複数の制御棒案内シンブル51と、炉内計装用案内シンブル52と、それらを束ねて支持する複数の支持格子(スペーサ)53と、上部ノズル54と、下部ノズル55とを備える。上部ノズル54及び下部ノズル55は、燃料集合体50の骨格の構成体であると同時に、炉心における燃料集合体50の位置決め及び冷却水の流路確保の役割を担う。
【0057】
図18は、別の実施形態の接合構造体100の一例であるBWR用のセル61を示す横断面模式図である。セル61は、接合部8(
図18では図示しない)を備える燃料集合体40(
図15及び
図16)を備える。従って、セル61は接合材料2(
図18では図示しない)を含む接合部8を備える。
【0058】
セル61では、4体の燃料集合体40が正方形状に配置され、その中央部に横断面が十字形の制御棒41が配設されている。セル61は、燃料棒10及び燃料集合体40を利用することにより、通常運転環境下で従来と同等の長期信頼性を維持しつつ、非常事態(例えば、冷却材喪失事故)における安全性を向上することができる。
【0059】
図19は、別の実施形態の接合構造体100の一例であるPWR用のセル62を示す横断面模式図である。セル62は、接合部8(
図18では図示しない)を備える燃料集合体50(
図15及び
図16)を備える。従って、セル62は接合材料2(
図18では図示しない)を含む接合部8を備える。
【0060】
セル60では、燃料集合体50の中に制御棒が配設されることから、4体の燃料集合体50がそのまま正方状に配置される。セル62も、燃料棒20及び燃料集合体50を利用することにより、通常運転環境下で従来と同等の長期信頼性を維持しつつ、非常事態(例えば、冷却材喪失事故)における安全性を向上できる。
【0061】
以上説明したように、接合材料2、接合部8及び接合構造体100によれば、耐熱性とともに、例えば水分を含んだ酸化性の高い使用環境における耐食性を擁する。また、融点がTiよりも低いため、Tiによる接合よりも容易に施工できる。そして、接合時に第1SiC部材1a及び第2SiC部材1bを損傷しにくく、気密性が必要な部分に適用できる。例えば、原子力発電プラントにおいては、燃料棒、ウォーターロッド、燃料チャンネルボックス等において、事故時における耐熱性を有しつつ、通常運転時での高い耐食性による接合材料2への侵食を防ぎ、製造時の基材の破損リスクを低減した、燃料集合体を提供できる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
(1)接合材料例1~13の接合部の作製及び評価
複数種の接合部構成(接合材料例1~13)の試験片(接合部8)を作製した。始めに、基材(
図1の第1SiC部材1a及び第2SiC部材1b)としてSiC/SiC複合材料を準備し、基材の表面に化学蒸着によりSiC層を形成した。接合材料(
図1の接合材料2)の原料として、Ti濃度を変えたCr-Ti合金粉末(接合材料例1~12)及びTi粉末(接合材料例13)を用い、これらをそれぞれ基材の接合面(
図1の接合面1a1,1b1)に溶射法により付着させた。その後、不活性ガス中で基材同士を端部で突き合わせて温度を上昇させた。
【0064】
接合面を挟む2つの基材間の変位を測定することにより、接合材料の原料の溶融開始と完了を検知し、溶融開始温度(融点)を求めた。具体的には、昇温による熱膨張によって接合材料の幅である基材同士の距離は長くなるが、溶融開始により接合材料が流動化し当該距離が短くなる。そこで、このような距離の変化が生じる温度を溶融開始温度とした。溶融開始温度から最大で50℃程度高い温度で溶融が完了した。その後、試験片を室温まで冷却し、接合材料を凝固させた(ロウ付け接合)。凝固した接合材料の化学組成を、エネルギー分散型X線分析(EDX)法により分析し、含有するTi濃度を決定した。
【0065】
次に、ロウ付け法により接合した試験片(接合部8)に対して高温水腐食試験により耐食性を評価した。高純度水循環ループを擁した圧力容器内に試験片を装填し、溶存酸素濃度8mg/Lに調整した高純度水を循環させながら、圧力を8MPaまで昇圧、圧力容器内を288℃まで昇温して、500時間保持した。500時間保持後、圧力容器内の温度を室温まで降温して開放し、試験片を取り出した。試験片の接合材料を外観及び断面観察により腐食の有無を判定した。外観及び断面観察は、目視及び電子顕微鏡を用いて行った。
【0066】
表1に接合材料の化学組成、溶融開始温度、及び、高温水腐食の有無をまとめる。Ti濃度が24質量%以下の接合材料例1及び2では腐食が確認された。具体的には、腐食により、接合材料の剥離、き裂の発生等が確認された。一方で、Ti濃度が44質量%以上100質量未満の接合材料例3~12では、腐食が確認されなかった。従って、接合材料のTi濃度を44質量%以上100質量%未満にすることで、Crの含有により溶融開始温度(融点)を低下できたにも関わらず、Ti同様の優れた耐食性が示されることがわかった。
【0067】
【0068】
図20は、Ti濃度を変えた接合材料の溶融開始温度及び耐食性の評価結果を示すグラフである。プロットは、○が耐食性あり、×が耐食性無しを示す。溶融開始温度はTi濃度が44質量%以上70質量%以下(即ち55%付近)で極小となっていた。Ti濃度が70質量%以上になると、Ti濃度の増加に伴い溶融開始温度は上昇し、Tiの融点近傍まで上昇した。従って、Ti濃度を44質量%以上70質量%以下にすることで、腐食の抑制でき、かつ、溶融開始温度を特に低くできることが確認された。一方で、Ti濃度を70質量%以上100質量%未満にすることで、溶融開始温度をTi100質量%の接合材料よりも低下でき、かつ、組成をTi100質量%に近づけ、特に耐食性を向上できると考えられる。好ましくは、Ti濃度を90質量%以下の割合とすることにより、溶融開始温度を降下させることができる。
【0069】
このように、Ti濃度が44質量%以上であれば高温水に対する耐食性が確認され、Ti濃度を変えることによって溶融開始温度を調整できることがわかった。耐熱性の観点では、溶融開始温度が高いほうが望ましい。一方、SiCを主成分とする基材は、その形状及び製造方法によって、加熱に伴う破損が生じる温度が異なる。例えば、折れ曲がったような基材では応力集中が生じ易いため、低温での施工が好ましい。そこで、必要に応じて熱的な負荷をかけないようにTi濃度を調整した接合材料を採用できる。
【0070】
(2)接合材料の原料の付与方法を変えた接合部の作製
複数の接合材料の原料の付与方法を用いて、試験片を作製した。初めに、「(1)接合材料例1~13の接合部の作製及び評価」と同様にして、SiC層を形成した基材を作製した。次に、溶融後にTi濃度が55質量%となるよう歩留まりを考慮して配合したTi及びCrの金属単体の混合粉末を溶射により、基材の接合面に付着させた。接合面を突き合わせた状態で試験片を、不活性ガス中で温度を1460℃に昇温したところ、混合粉末は接触面から溶融して接合材料として基材同士を接合することができた。
【0071】
一方で、別の試験片作製のため、SiC層を形成した基材を2つ用意した。そして、Ti濃度55質量%のTi-Cr合金箔(厚さ0.01mm)を10枚重ねて、2つの基材の接合面間に挟み込んだ。接合面を突き合わせた状態で試験片を、不活性ガス中で温度を1460℃に昇温したところ、溶融した箔によって形成された接合材料により、基材同士を接合できた。
【0072】
更に別の試験片作製のため、上記Ti-Cr合金箔を2枚の間にTi濃度55質量%となるように配合したTi及びCrの金属単体の混合粉末を挟んだ後、これらに治具を介してプレス機で圧力をかけて圧粉体シートを作製した。そして、作製した圧粉体シートを、2つの基材の接合面に挟み込んだ。接合面を突き合わせた状態で試験片を、不活性ガス中で温度を1460℃に昇温したところ、溶融した圧粉体シートによって形成された接合材料により、基材同士を接合できた。
【0073】
また更に別の試験片作製のため、基材の接合面に、後述する方法で物理蒸着により、Ti層(金属膜6)を形成した。形成後、Ti-Cr合金粉末を溶射により、基材の接合面に付着させた。接合面を突き合わせた状態で試験片を、不活性ガス中で温度を1460℃に昇温したところ、溶融した粉末によって形成された接合材料により、基材同士を接合できた。
【0074】
物理蒸着に代えて後記する化学蒸着又は粉末塗布の各手法を用いたこと、Ti層に代えてCr層(金属膜6)又は反応層を形成したこと、及び、Ti-Cr合金粉末に代えてTi及びCrの金属単体の混合粉末を溶射したこと以外はそれぞれ同様にして、試験片を作製した。ここでいう反応層は、上記の
図5を参照して説明したように、第2熱処理工程S4で生じた拡散により形成されたものである。何れも試験片においても、接合材料によって基材同士を接合できた。
【0075】
作製した上記の各試験片に対し、ヘリウム透過試験を実施して、接合材料を含む試験片の両面間で気密性が確保されていることを確認した。従って、様々な作製方法により、気密性を確保した接合部を製造できることが確認された。
【0076】
(3)表面を被覆により覆った接合部材の作製
上記各試験片に対して、物理蒸着、化学蒸着、溶射、コールドスプレー、又は粉末塗布の各手法により、接合材料を含む試験片全体を覆う金属膜(金属膜3)を製膜した。
【0077】
物理蒸着による成膜では、スパッタリング法を適用し、Arガスを導入してチャンバ内圧力を1.3Pa一定にした後、スパッタ電力1.50kW、バイアス電圧150Vで実施した。蒸着装置として、純Cr、純Ti、純Zr及びZr合金のスパッタ蒸発源(ターゲット)の切り替えにより、多層膜及び傾斜組成層を形成可能なものを使用した。金属膜を形成する金属膜形成工程S3(
図5)及び第2熱処理工程S4(
図5)では、油拡散ポンプ(ターボ分子ポンプを使用してもよい)を用いた10
-4Pa以下の高真空中、950℃以上1000℃以下で0.5時間以上1時間以下加熱した。高真空中での第2熱処理工程S4により、Ti、Zr等といった活性な金属の皮膜の酸化を抑制した。熱処理後、金属膜3の剥離がないことを確認した。
【0078】
化学蒸着による成膜では、原料ガスを流して皮膜形成部にレーザ光を用いた局所加熱を実施して化学蒸着を施工した。原料ガスには、Cr膜を生成するにはCr(CO)6+H2ガス、Ti膜を生成するにはTiCl2ガス、Zr膜を生成するにはZrCl2ガスを用いた。Cr層を形成した後に、原料ガスと加熱条件を変更することにより、Cr層上にTi膜及びZr膜からなる多層の金属膜を形成した。なお、レーザ光を用いた局所加熱に代えてヒータを用いた局所加熱、又はレーザ光を用いた光分解を行っても、多層膜を形成できた。
【0079】
溶射による成膜では、接合部8を含む部位の周辺の空気を一旦パージした後、減圧下で不活性ガスとしてArガスを導入した状態でプラズマ溶射により施工した。溶射プロセス中の原料粉末の酸化抑制により、活性なTi、Zr又はZr合金の金属膜3を形成できた。原料粉末は、純Cr、純Ti、純Zr及びZr合金の何れかの粉末(粒径10μ以上60μm以下)を用い、原料粉末を切り替えることにより多層の金属膜を形成できたほか、原料粉末を混合することにより中間組成(即ち合金)の金属膜を形成できた。
【0080】
コールドスプレーによる成膜では、作動ガスにヘリウムを用いて皮膜形成部に原料粉末を吹き付けて施工した。コールドスプレーは作動ガス温度が原料粉末の融点より低いことが特徴であり、溶射法よりも酸化、熱影響、及び熱応力を抑制し緻密な皮膜の形成が可能である。原料粉末は、純Cr、純Ti、純Zr及びZr合金の粉末(粒径数~50μm)を用い、原料粉末を切り替えることにより多層の金属膜を形成できたほか、原料粉末を混合することにより中間組成(即ち合金)の金属膜を形成できた。
【0081】
粉末塗布による成膜では、少なくとも接合材料を覆うようにCr粉末を塗布したのち950℃以上1000℃以下で熱処理を実施し、続いてTi粉末を塗布したのち950℃以上1100℃以下で熱処理を実施した。これにより、接合材料を覆う金属膜を形成できた。また、Ti粉末に代えてZr粉末又はZr合金粉末を用いたこと以外は同様にしても、金属膜を形成できた。一部の試験片では、Cr粉末の塗布及びそれに続く熱処理の後、CrめっきによりCr層を厚くすることができた。
【0082】
以上で作製した試験片について、上記「(1)接合材料例1~13の接合部8の作製及び評価」に記載の高温水腐食試験を行った。この結果、全ての試験片にについて腐食は確認されず、金属膜が腐食環境から基材及び接合材料を遮蔽していることを確認できた。
【0083】
以上、説明したように、接合材料2、接合部8及び接合構造体100によれば、水分を含んだ酸化環境、水蒸気環境又は高温水環境において、高い耐食性を奏することが示された。
【0084】
上述した実施形態は、本発明の理解を助けるために具体的に説明したものであり、本発明は、説明した全ての構成を備えることに限定されるものではない。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。さらに、各実施形態の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
【符号の説明】
【0085】
10,20 燃料棒(原子炉燃料棒)
1000 接合構造体
11 燃料被覆管
11a 開口端
12,12a,12b 端栓
12c 胴部
12d 段部
13 燃料ペレット
15 プレナムスプリング
16 燃料プレナム
1a 第1SiC部材
1a1,1b1 接合面
1b 第2SiC部材
2,2a,2b 接合材料
200 基材
201 皮膜
202 内層
2c ロウ付け部
3 金属膜
30 ウォーターロッド本体
31 上部タイプレート
32 下部タイプレート
33 ウォーターロッド
34 燃料支持格子
35 燃料チャンネルボックス
36 部分長燃料棒
37 ハンドル
38 クリップ部
39 部材
4 ロウ材層
41 制御棒
5 箔状体(原料組成物)
40,50 燃料集合体
51 制御棒案内シンブル
52 炉内計装用案内シンブル
53 支持格子
54 上部ノズル
55 下部ノズル
6 金属膜
60,61,62 セル
8 接合部
S1 配置工程
S2 熱処理工程
S3 金属膜形成工程
S4 第2熱処理工程