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特許7397742時計用接着組成物、これを用いた時計および該時計の製造方法
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  • 特許-時計用接着組成物、これを用いた時計および該時計の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】時計用接着組成物、これを用いた時計および該時計の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 163/02 20060101AFI20231206BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20231206BHJP
   G04B 17/06 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C09J163/02
C09J11/04
G04B17/06 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020065585
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021161302
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 祐司
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-241493(JP,A)
【文献】特開2004-099886(JP,A)
【文献】特開2001-049221(JP,A)
【文献】特開2009-127031(JP,A)
【文献】特開2014-080489(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
G04B 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で固体であるエポキシ樹脂と、常温で固体である硬化剤とを含み、
前記エポキシ樹脂の軟化点は、前記硬化剤の融点よりも30℃以上低
20℃で固体状態にある、
時計用接着組成物。
【請求項2】
糸状の形状を有する、
請求項1に記載の時計用接着組成物。
【請求項3】
塊状の形状を有する、
請求項1に記載の時計用接着組成物。
【請求項4】
粉末状の形状を有する、
請求項1に記載の時計用接着組成物。
【請求項5】
前記硬化剤の融点は、110℃以下である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の時計用接着組成物。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂はビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の時計用接着組成物。
【請求項7】
前記硬化剤はアミンアダクト型潜在性硬化剤である、
請求項1~6のいずれか1項に記載の時計用接着組成物。
【請求項8】
さらに、フュームドシリカを含む、
請求項1~7のいずれか1項に記載の時計用接着組成物。
【請求項9】
常温で固体であるエポキシ樹脂と、常温で固体である硬化剤とを含み、前記エポキシ樹脂の軟化点は、前記硬化剤の融点よりも30℃以上低く、
げ持とひげぜんまいとを固定するために用いられる、
計用接着組成物。
【請求項10】
ひげ持とひげぜんまいとを有し、
前記ひげ持と前記ひげぜんまいとが、時計用接着組成物の硬化物で固定されており、
前記時計用接着組成物が、常温で固体であるエポキシ樹脂と、常温で固体である硬化剤とを含み、前記エポキシ樹脂の軟化点は、前記硬化剤の融点よりも30℃以上低い、
時計。
【請求項11】
ひげ持とひげぜんまいとを、時計用接着組成物の硬化物で固定する固定工程を含み、
前記時計用接着組成物が、常温で固体であるエポキシ樹脂と、常温で固体である硬化剤とを含み、前記エポキシ樹脂の軟化点は、前記硬化剤の融点よりも30℃以上低い、
時計の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用接着組成物、これを用いた時計および該時計の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、時計用接着組成物が記載されている。上記時計用接着組成物は、少なくとも、接着温度(S)と、融点(T)との関係が下記の条件を満たす第1、第2の樹脂からなる。
第1の樹脂 S-53℃>=T1(第1の樹脂の融点)>=S-75℃
第2の樹脂 S-40℃>=T2(第2の樹脂の融点)>S-53℃
【0003】
また、上記第1、第2の樹脂は、フェノール樹脂とポリアミド樹脂との組み合わせであることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-075832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の時計用接着組成物により時計部品を固定した時計は、高温において時計部品の固定状態が変化する問題がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、高温においても、時計部品の固定状態が変化しない時計用接着組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の時計用接着組成物は、常温で固体であるエポキシ樹脂と、常温で固体である硬化剤とを含み、上記エポキシ樹脂の軟化点は、上記硬化剤の融点よりも30℃以上低い。
【発明の効果】
【0008】
本発明の時計用接着組成物によれば、高温においても、時計部品の固定状態が変化しない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態の時計用接着組成物が用いられるフリースプラング構造を有する機械式時計を説明するための図である。
図2図2は、実施形態の時計用接着組成物が用いられるフリースプラング構造を有する時計を説明するための図である。
図3図3は、他の実施形態の時計用接着組成物が用いられる緩急針を有する機械式時計を説明するための図である。
図4図4は、他の実施形態の時計用接着組成物が用いられる緩急針を有する機械式時計を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0011】
<実施形態の時計用接着組成物>
実施形態の時計用接着組成物は、フリースプラング構造を有する機械式時計に用いる。具体的には、実施形態の時計用接着組成物は、フリースプラング構造を有する機械式時計において、ひげ持とひげぜんまいとを固定するために用いる。
【0012】
図1および図2は、実施形態の時計用接着組成物が用いられるフリースプラング構造を有する機械式時計を説明するための図である。フリースプラング構造を有する機械式時計について、図1は、てんぷ1の上面図を示しており、図2は、てんぷ1の断面図を示している。上記機械式時計では、駆動源であるぜんまいからの力が、アンクルを経ててんぷ1に伝達される。図1に示すように、てんぷ1は、天真11および振り座とともに、てんわ12、ひげ玉13、ひげぜんまい14、ひげ持15を有する。てんわ12は、調整錘16を有する。具体的には、回転可能な天真11に、振り座、てんわ12およびひげ玉13がつけられている。アンクルからの力は振り座に伝達され、結果として天真11が回転する。ひげ玉13にはひげぜんまい14の一方の端部が固定されており、ひげぜんまい14の他方の端部はひげ持15に固定されている。ひげ持15は、ひげ持ねじ17により、ひげ持受18に固定されている。てんぷ1は、ひげぜんまい14の性質を利用して天真11を中心として回転し、この回転の速度が時計の歩度となる。歩度は、調整錘16によって調整される。ここで、実施形態の時計用接着組成物は、上述のように、ひげ持15の凹部にひげぜんまい14を固定するために用いられる。
【0013】
実施形態の時計用接着組成物は、常温(具体的には20℃)で固体であるエポキシ樹脂および常温で固体である硬化剤を含む。したがって、実施形態の時計用接着組成物は、常温で固体状態にある。また、エポキシ樹脂の軟化点は、硬化剤の融点(軟化点)よりも30℃以上低い。本明細書において、エポキシ樹脂の軟化点は、JIS-K7234:2008(環球法)に準拠して測定される値である。また、融点は、融点測定装置で測定を用いて測定した値である。
【0014】
上記時計用接着組成物によれば、フリースプラング構造の場合であっても、ひげ持とひげぜんまいとを強固に固定できる。すなわち、フリースプラング構造の場合は、緩急針を有しないため、ひげ持とひげぜんまいとの結合部に大きな力がかかり得る。上記時計用接着組成物によれば、上記結合部に大きな力がかかる場合であっても、上記結合部を強固に固定できる(接着強度に優れる)。また、常温から高温(たとえば80℃)まで、ひげ持とひげぜんまいとの結合部の固定状態が変化せず、時計の歩度を一定に保つことができる。すなわち、上記時計用接着組成物はクリープ性を有しないため、大きな力がかかっても上記結合部における上記時計用接着組成物は変形しない。これにより、ひげぜんまいの長さも変化せず、常温から高温まで、時計の歩度を一定に保つことができる。さらに、上記時計用接着組成物によれば、上記結合部をばらつきなく固定できる利点もある。
【0015】
以下に、実施形態の時計用接着組成物によって発揮される上記効果について、該時計用接着組成物の使用方法とともに、詳しく述べる。まず、ひげ持15の凹部に、時計用接着組成物を付着した後、凹部中の時計用接着組成物を加熱して流動性を高める。この加熱(第1段階の加熱)により時計用接着組成物の流動性を高めた状態のまま、凹部にひげぜんまい14を挿入する。時計用接着組成物の加熱を止め、常温に戻ると、時計用接着組成物は再び流動性を失い固体状態となる。この固体状態に戻った時計用接着組成物により、ひげ持15と凹部に挿入されたひげぜんまい14とが仮固定される。ここで、時計用接着組成物の加熱温度および加熱時間は、通常、エポキシ樹脂は柔らかくなり、時計用接着組成物の流動性は高まるが、硬化剤によるエポキシ樹脂の硬化反応は進まない条件に設定する。
【0016】
次いで、仮固定され一体となったひげ持15とひげぜんまい14とを他の時計部品に組み付け、再加熱(第2段階の加熱)を行う。ここで、仮固定している時計用接着組成物について、硬化剤によるエポキシ樹脂の硬化反応を進ませる。この再加熱を得て、ひげ持15とひげぜんまい14とは、最終的には時計用接着組成物の硬化物により本固定される。
【0017】
このように、実施形態の時計用接着組成物を用いると、上記結合部は最終的には硬化物によって本固定されるため、強固に固定できるのみでなく、常温から高温(たとえば80℃)まで、上記結合部の固定状態が変化しない。したがって、ひげぜんまいの長さ、すなわち時計の歩度を一定に保つことができる。一方、特許文献1の時計用接着組成物は、熱可塑性樹脂によって構成されている。このため、高温では、ひげ持とひげぜんまいとの結合部の時計用接着組成物が柔らかくなり、変形する。この変形により、ひげぜんまいの長さ、すなわち時計の歩度が変化し得る。すなわち、特許文献1の時計用接着組成物はクリープ性を有するため、大きな力がかかると上記結合部における上記時計用接着組成物が変形することがある。これにより、ひげぜんまいの長さも変化し、特に高温では、時計の歩度が変化することがある。
【0018】
また、実施形態の時計用接着組成物は、2段階の加熱によって上記結合部を固定するため、ばらつきなく固定できる。
【0019】
硬化剤の融点は、110℃以下であることが好ましい。また、エポキシ樹脂の軟化点は、80℃以下であることが好ましい。硬化剤の融点およびエポキシ樹脂の軟化点が上記温度範囲にあると、第2段階の加熱温度をそれほど高くしなくてもすむため、加熱による時計部品への影響を抑えられる。さらに、エポキシ樹脂の軟化点は、60℃以上であることが好ましい。エポキシ樹脂の軟化点が上記温度範囲にあると、時計用接着組成物の保存性が向上する。
【0020】
エポキシ樹脂は、好適な固定状態が得られるため、ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂であることが好ましい。たとえば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、三菱ケミカル株式会社製、jER(登録商標)1001(軟化点64℃、エポキシ当量450~500(g/eq))、1002(軟化点78℃、エポキシ当量600~700(g/eq))、1003(軟化点89℃、エポキシ当量670~770(g/eq))が挙げられる。また、ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、三菱ケミカル株式会社製、jER4005P(軟化点87℃、エポキシ当量950~1200(g/eq))、4007P(軟化点108℃、エポキシ当量2000~2500(g/eq))が挙げられる。エポキシ樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
硬化剤は、潜在性硬化剤であることが好ましい。潜在性硬化剤としては、有機酸ヒドラジド化合物、アミンアダクト化合物(アミンアダクト型潜在性硬化剤)が挙げられる。アミンアダクト化合物は、アミン化合物とエポキシ化合物との反応生成物である。これらのうちで、本固定後に強固に固定できることから、アミンアダクト型潜在性硬化剤が好適に用いられる。たとえば、有機酸ヒドラジド化合物としては、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン(融点120℃)、7,11-オクタデカジエン-1,18-ジカルボヒドラジド(融点160℃)が挙げられる。具体的には、味の素ファインテクノ株式会社製、アミキュア(登録商標)VDH、アミキュアUDHが挙げられる。また、アミンアダクト型潜在性硬化剤としては、エポキシアミンアダクト(具体的には、味の素ファインテクノ株式会社製、アミキュアPN-23(融点100℃))が挙げられる。硬化剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
具体的には、エポキシ樹脂および硬化剤は、上記の中から、エポキシ樹脂の軟化点が硬化剤の融点よりも30℃以上低くなるように組み合わせて選ぶことができる。
【0023】
実施形態の時計用接着組成物は、さらに、フュームドシリカを含んでいてもよい。フュームドシリカを用いると、第2段階の加熱の際に、エポキシ樹脂と硬化剤との分離をより抑えられ、均一な硬化物が得られる。したがって、歩度をより安定して維持できる。フュームドシリカ(煙霧シリカ)は、たとえばクロロシランなどのハロゲン化シランの火炎加水分解によって製造される。フュームドシリカは、表面に存在するOH基をジメチルジクロロシランなどの有機珪素化合物と反応させた疎水化フュームドシリカであってもよい。フュームドシリカは、平均一次粒子径が500nm以下であることが好ましい。なお、平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡写真より求められる。平均一次粒子径が上記範囲にあると、硬化時に、エポキシ樹脂と硬化剤との分離をより抑えられ、より均一な硬化物が得られる。
【0024】
また、実施形態の時計用接着組成物は、さらに、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、色材、フィラーが挙げられる。その他の成分は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
実施形態の時計用接着組成物において、エポキシ樹脂に対する硬化剤の配合量は特に制限されない。それぞれの未反応分を少なく抑える観点からは、エポキシ樹脂と硬化剤との当量比、すなわちエポキシ樹脂中のエポキシ基数に対する硬化剤中の官能基数の比(硬化剤中の官能基数/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)は、0.5以上2.0以下であることが好ましい。また、速やかに硬化反応を進ませる観点からは、1.0以上1.5以下であることがより好ましい。
【0026】
また、フュームドシリカを用いる場合、フュームドシリカは、エポキシ樹脂100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下の量で用いることが好ましく、0.5質量部以上1.5質量部以下の量で用いることがより好ましい。また、その他の成分として色材を用いる場合は、エポキシ樹脂100質量部に対して0.01質量部以上5質量部以下の量で用いることが好ましい。また、その他の成分としてフィラーを用いる場合は、エポキシ樹脂100質量部に対して1質量部以上30質量部以下の量で用いることが好ましい。
【0027】
実施形態の時計用接着組成物の形状は、具体的には糸状であり、その中で、エポキシ樹脂と硬化剤とが分子レベルで混合している。このような時計用接着組成物では、第2段階での加熱温度が低くても(たとえば、エポキシ樹脂の軟化点より高いが、硬化剤の融点より低くても)、硬化剤によるエポキシ樹脂の硬化反応を進ませられる。したがって、加熱による時計部品への影響を抑えられる。なお、第2段階の加熱温度が硬化剤の融点より低くても、硬化反応が進むのは、エポキシ樹脂と硬化剤とが分子レベルで混合しているためと考えられる。
【0028】
糸状の時計用接着組成物を得るためには、たとえば、まず、時計用接着組成物を構成する成分を配合し粉砕して均一な混合物を調製する。次いで、この混合物について、ホットプレート上でエポキシ樹脂および硬化剤が溶融状態になる温度まで加熱し、溶かした混合物をピンセットで引き延ばし、大気の温度で糸状に冷却固化させる。ここで、加熱から冷却固化までの時間が短時間であるため、エポキシ樹脂および硬化剤が溶融状態になる温度まで加熱しても、通常、硬化剤によるエポキシ樹脂の硬化反応は起こらないと考えられる。
【0029】
なお、実施形態の時計用接着組成物の形状は、ひげ持とひげぜんまいとを固定できる形状であればよく、糸状でなくてもよい。また、その中で、エポキシ樹脂と硬化剤とが分子レベルで混合していなくてもよい。具体的には、時計用接着組成物は、構成する成分を配合し、たとえばエポキシ樹脂は柔らかくなる温度であるが、硬化剤の融点より低い温度まで加熱して混合して得てもよい。なお、混合後に常温に戻した塊状の時計用接着組成物は、砕いて粉末状の時計用接着組成物として、ひげ持とひげぜんまいとの固定に用いることができる。
【0030】
<実施形態の時計>
実施形態の時計は、フリースプラング構造を有する機械式時計である。また、ひげ持とひげぜんまいとが、上述した実施形態の時計用接着組成物の硬化物で固定されている。なお、実施形態の時計の構造については、実施形態の時計用接着組成物の説明で述べたとおりである。
【0031】
<実施形態の時計の製造方法>
実施形態の時計の製造方法は、ひげ持とひげぜんまいとを、上述した時計用接着組成物の硬化物で固定する固定工程を含む。具体的には、固定工程は、仮固定工程および本固定工程を含む。このような実施形態の時計の製造方法によれば、上述した実施形態の時計が得られる。
【0032】
仮固定工程は、ひげ持15とひげぜんまい14とを仮固定する工程である。まず、ひげ持15の凹部を加熱する。ここで、凹部の加熱温度は、通常、エポキシ樹脂の軟化点以上であり、硬化剤の融点よりも低い温度とする。加熱には、はんだごてを用いることができる。ハロゲンランプ等による赤外線加熱やレーザーによる加熱を行ってもよい。なお、他の工程における加熱についても同様である。次いで、凹部を加熱したまま、糸状の時計用接着組成物の端部を凹部に接触させ加熱して、時計用接着組成物の流動性を高め、時計用接着組成物を凹部に流し入れる。その後、凹部の加熱を止めると、時計用接着組成物が凹部の中で固まり、固体状態になる。次いで、凹部の加熱(第1段階の加熱)を行い、凹部中の時計用接着組成物の流動性を再び高め、凹部にひげぜんまい14の端部を挿入する。凹部の加熱を止め、時計用接着組成物が常温に戻ると、時計用接着組成物は再び流動性を失い固体状態となる。この固体状態に戻った時計用接着組成物により、ひげ持15と凹部に挿入されたひげぜんまい14とが仮固定される。この第1段階の加熱において、時計用接着組成物の加熱温度および加熱時間は、通常、エポキシ樹脂は柔らかくなり、時計用接着組成物の流動性は高まるが、硬化剤によるエポキシ樹脂の硬化反応は進まない条件に設定する。たとえば、加熱温度を硬化剤の融点以上の温度とし、加熱時間を1~10秒(好ましくは数秒程度)とすることができる。この場合、加熱温度が高くても、加熱時間が短いため、硬化剤によるエポキシ樹脂の硬化反応は進まない。あるいは、加熱温度を、エポキシ樹脂の軟化点以上であり、硬化剤の融点よりも低い温度としてもよい。この場合も、両者の温度差は30℃以上であるため、第1段階の加熱時には、エポキシ樹脂は柔らかくなり、時計用接着組成物の流動性は高まるが、硬化剤によるエポキシ樹脂の硬化反応は進まない。
【0033】
本固定工程は、ひげ持15とひげぜんまい14とを本固定する工程である。まず、仮固定され一体となったひげ持15とひげぜんまい14とを他の時計部品に組み付ける。次いで、凹部の再加熱(第2段階の加熱)を行い、仮固定している時計用接着組成物について、硬化剤によるエポキシ樹脂の硬化反応を進ませる。この再加熱を得て、ひげ持15とひげぜんまい14とは、最終的には時計用接着組成物の硬化物により本固定される。この第2段階の加熱において、時計用接着組成物の加熱温度および加熱時間は、硬化剤によるエポキシ樹脂の硬化反応が進む条件に設定する。たとえば、加熱温度は、通常、エポキシ樹脂の軟化点以上であり、硬化剤の融点よりも低い温度とすることができる。糸状の時計用接着組成物では、エポキシ樹脂と硬化剤とが分子レベルで混合しているため、加熱時間を長くすれば、第2段階の加熱温度が硬化剤の融点より低くても、硬化反応が進むと考えられる。第2段階での加熱温度を、時計部品の性能に影響を与えない温度範囲である70℃以上80℃以下とする場合は、加熱時間は、硬化反応を充分に進ませるため、たとえば3時間以上8時間以下とすることが好ましく、3時間以上6時間以下とすることがより好ましい。
【0034】
本固定工程において、一体となったひげ持15とひげぜんまい14とを組み付ける他の時計部品は、ひげ持15とひげぜんまい14とを組み付けた際に、機械式時計として最終製品となる状態であってもよいが、これに限らない。さらに、本固定工程後に、他の部品をさらに組み付けて最終製品としてもよい。
【0035】
なお、上述した粉末状の時計用接着組成物を用いる場合は、仮固定工程において、ひげ持15の凹部に、粉末状の時計用接着組成物を付着させる。即ち、まず、ひげ持15の凹部を加熱する。ここで、凹部の加熱温度は、通常、エポキシ樹脂の軟化点以上であり、硬化剤の融点よりも低い温度とする。次いで、凹部を加熱したまま、粉末状の時計用接着組成物を凹部に入れ加熱して、時計用接着組成物の流動性を高める。その後、凹部の加熱を止めると、時計用接着組成物が凹部の中で固まり、固体状態(塊状)になる。次いで、凹部の加熱(第1段階の加熱)を行い、凹部中の時計用接着組成物の流動性を再び高め、凹部にひげぜんまい14の端部を挿入する。凹部の加熱を止め、時計用接着組成物が常温に戻ると、時計用接着組成物は再び流動性を失い固体状態となる。この固体状態に戻った時計用接着組成物により、ひげ持15と凹部に挿入されたひげぜんまい14とが仮固定される。この第1段階の加熱において、時計用接着組成物の加熱温度および加熱時間は、通常、エポキシ樹脂は柔らかくなり、時計用接着組成物の流動性は高まるが、硬化剤によるエポキシ樹脂の硬化反応は進まない条件に設定する。たとえば、加熱温度を硬化剤の融点以上の温度とし、加熱時間を1~10秒(好ましくは数秒程度)とすることができる。あるいは、加熱温度を、エポキシ樹脂の軟化点以上であり、硬化剤の融点よりも低い温度としてもよい。
【0036】
また、この場合、本固定工程は、仮固定され一体となったひげ持15とひげぜんまい14とを他の時計部品に組み付ける前に行う。他の時計部品に組み付ける前に、凹部の再加熱(第2段階の加熱)を行い、仮固定している時計用接着組成物について、硬化剤によるエポキシ樹脂の硬化反応を進ませる。この再加熱を得て、ひげ持15とひげぜんまい14とは、最終的には時計用接着組成物の硬化物により本固定される。この第2段階の加熱において、加熱温度は、通常、硬化剤の融点以上の温度とする。粉末状の時計用接着組成物では、エポキシ樹脂と硬化剤とが分子レベルで混合していないため、第2段階の加熱温度を硬化剤の融点以上として、硬化反応を進ませる。第2段階での加熱温度は、たとえば、130℃以上180℃以下とすることができる。また、加熱時間は、硬化反応を充分に進ませるため、たとえば30分以上3時間以下であることが好ましい。高温で硬化反応を進ませるため、加熱時間を短くできる。
【0037】
さらに、この場合は、本固定工程において一体となったひげ持15とひげぜんまい14とを、他の時計部品に組み付けて、機械式時計が得られる。
【0038】
<他の実施形態の時計用接着組成物>
他の実施形態の時計用接着組成物は、フリースプラング構造を有する機械式時計以外の機械式時計に用いてもよい。具体的には、他の実施形態の時計用接着組成物は、そのような機械式時計において、ひげ持とひげぜんまいとを固定するために用いてもよい。たとえば、他の実施形態の時計用接着組成物は、緩急針を有する機械式時計に用いる。具体的には、他の実施形態の時計用接着組成物は、緩急針を有する機械式時計において、ひげ持とひげぜんまいとを固定するために用いる。
【0039】
図3および図4は、他の実施形態の時計用接着組成物が用いられる緩急針を有する機械式時計を説明するための図である。緩急針を有する機械式時計について、図3は、てんぷ1の上面図を示しており、図4は、てんぷ1の断面図を示している。以下では、図1および図2に示したフリースプラング構造を有する機械式時計と同じ点については説明を省略し、異なる点について説明する。緩急針を有する機械式時計では、フリースプラング構造を有する機械式時計と異なり、てんわ12に調整錘16は設けられていない。その代り、緩急針19が設けられている。緩急針19は、緩急針体20、ひげ棒21およびひげ受22から構成されている。歩度は、ひげ棒21およびひげ受22の位置を移動させることによって調整される。ここで、他の実施形態の時計用接着組成物は、ひげ持15の凹部にひげぜんまい14を固定するために用いられる。
【0040】
他の実施形態の時計用接着組成物について、成分、形状、調製方法の他、該時計用組成物によって得られる効果も、上述した実施形態の時計用接着組成物の場合と同様である。
【0041】
<他の実施形態の時計>
他の実施形態の時計は、フリースプラング構造を有する機械式時計以外の機械式時計、たとえば緩急針を有する機械式時計である。また、ひげ持とひげぜんまいとが、上述した他の実施形態の時計用接着組成物の硬化物で固定されている。なお、他の実施形態の時計の構造については、他の実施形態の時計用接着組成物の説明で述べたとおりである。また、他の実施形態の時計の製造方法は、調整錘16の代わりに緩急針19を含む時計部品を用いる以外は、上述した実施形態の時計の製造方法の場合と同様である。
【0042】
さらに、他の実施形態の時計用接着組成物は、フリースプラング構造または緩急針を有する機械式時計などの機械式時計において、ひげ持およびひげぜんまい以外の時計部品同士を固定するために用いる時計用接着組成物であってもよい。たとえば、アンクルおよび爪石を固定するために用いる時計用接着組成物であってもよい。また、他の実施形態の時計は、このような他の実施形態の時計用接着組成物を用いた時計であってもよい。また、このような他の実施形態の時計の製造方法は、ひげ持およびひげぜんまいの代わりに、これら以外の時計部品同士を用いて固定工程を行う以外は、上述した実施形態の時計の製造方法の場合と同様である。
【0043】
以上より、本発明は以下に関する。
[1] 常温で固体であるエポキシ樹脂と、常温で固体である硬化剤とを含み、上記エポキシ樹脂の軟化点は、上記硬化剤の融点よりも30℃以上低い、時計用接着組成物。
上記時計用接着組成物を用いると、高温においても、時計部品の固定状態が変化しない。
[2] 上記硬化剤の融点は、110℃以下である、[1]に記載の時計用接着組成物。
上記硬化剤の融点が上記温度範囲にあると、固定の際に、加熱による時計部品への影響を抑えられる。
[3] 上記エポキシ樹脂はビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である、[1]または[2]に記載の時計用接着組成物。
上記エポキシ樹脂を用いると、好適な固定状態が得られる。
[4] 上記硬化剤はアミンアダクト型潜在性硬化剤である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の時計用接着組成物。
上記硬化剤を用いると、時計部品を強固に固定できる。
[5] さらに、フュームドシリカを含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の時計用接着組成物。
上記フュームドシリカを用いると、均一な硬化物が得られる。
[6] 上記時計用接着組成物が、ひげ持とひげぜんまいとを固定するために用いられる、[1]~[5]のいずれか1つに記載の時計用接着組成物。
上記時計用接着組成物を用いると、常温から高温まで、時計の歩度を一定に保つことができる。
[7] ひげ持とひげぜんまいとを有し、上記ひげ持と上記ひげぜんまいとが、時計用接着組成物の硬化物で固定されており、上記時計用接着組成物が、常温で固体であるエポキシ樹脂と、常温で固体である硬化剤とを含み、上記エポキシ樹脂の軟化点は、上記硬化剤の融点よりも30℃以上低い、時計。
上記時計は、常温から高温まで、時計の歩度を一定に保つことができる。
[8] ひげ持とひげぜんまいとを、時計用接着組成物の硬化物で固定する固定工程を含み、上記時計用接着組成物が、常温で固体であるエポキシ樹脂と、常温で固体である硬化剤とを含み、上記エポキシ樹脂の軟化点は、上記硬化剤の融点よりも30℃以上低い、時計の製造方法。
上記時計の製造方法により得られた時計は、常温から高温まで、時計の歩度を一定に保つことができる。
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例]
[実施例1-1]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、jER1001(軟化点64℃、エポキシ当量450~500(g/eq)))を100質量部と、エポキシアミンアダクト(味の素ファインテクノ株式会社製、アミキュアPN-23(融点100℃))を10質量部とを配合し粉砕して均一な混合物を調製した。ここで、エポキシ樹脂と硬化剤との当量比は、1.25である。次いで、この混合物について、ホットプレート上でエポキシ樹脂および硬化剤が溶融状態になる温度まで加熱し、溶かした混合物をピンセットで引き延ばし、大気の温度で糸状に冷却固化させた。このようにして、糸状の時計用接着組成物を得た。
【0046】
[実施例1-2]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂を100質量部と、エポキシアミンアダクトを10質量部ととともに、さらに、フュームドシリカ(平均一次粒子径が500nm以下)1質量部を配合し粉砕して均一な混合物を調製した。この混合物を用いた以外は、実施例1-1と同様にして、糸状の時計用接着組成物を得た。
【0047】
[実施例1-3]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、jER1002(軟化点78℃、エポキシ当量600~700(g/eq)))を100質量部と、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン(味の素ファインテクノ株式会社製、アミキュアVDH(融点120℃))を14質量部とを配合し粉砕して均一な混合物を調製した。ここで、エポキシ樹脂と硬化剤との当量比は、1.25である。次いで、この混合物について、エポキシ樹脂は柔らかくなる温度であるが、硬化剤の融点より低い温度(80℃)まで加熱してさらに混合した。混合後の塊状の時計用接着組成物を粉砕して、粉末状の時計用接着組成物を得た。
【0048】
[実施例1-4]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂を100質量部と、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントインを14質量部ととともに、さらに、フュームドシリカ(平均一次粒子径が500nm以下)1質量部を配合し粉砕して均一な混合物を調製した。この混合物を用いた以外は、実施例1-3と同様にして、粉末状の時計用接着組成物を得た。
【0049】
[実施例1-5]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、jER1003(軟化点89℃、エポキシ当量670~770(g/eq)))を100質量部と、7,11-オクタデカジエン-1,18-ジカルボヒドラジド(味の素ファインテクノ株式会社製、アミキュアUDH(融点160℃))を15.8質量部とを配合し粉砕して均一な混合物を調製した。ここで、エポキシ樹脂と硬化剤との当量比は、1.25である。次いで、この混合物について、エポキシ樹脂は柔らかくなる温度であるが、硬化剤の融点より低い温度(90℃)まで加熱してさらに混合した。混合後の塊状の時計用接着組成物を粉砕して、粉末状の時計用接着組成物を得た。
【0050】
[実施例1-6]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂を100質量部と、7,11-オクタデカジエン-1,18-ジカルボヒドラジドを15.8質量部ととともに、さらに、フュームドシリカ(平均一次粒子径が500nm以下)1質量部を配合し粉砕して均一な混合物を調製した。この混合物を用いた以外は、実施例1-5と同様にして、粉末状の時計用接着組成物を得た。
【0051】
[比較例1-1]
フェノール樹脂(CAS:9003-35-4、融点95℃)および6/66アミド樹脂共重合体(CAS:24993-04-2、融点100℃)を同量用いて、150℃で加熱ニーダーにより20分間混合して時計用接着組成物を得た。
【0052】
[比較例1-2]
6/66アミド樹脂共重合体として、東レ株式会社製、アラミン(登録商標)CM4000を用いた以外は、比較例1-1と同様にして、時計用接着組成物を得た。
【0053】
[比較例1-3]
6/66アミド樹脂共重合体として、東レ株式会社製、アラミン(登録商標)CM8000を用いた以外は、比較例1-1と同様にして、時計用接着組成物を得た。
【0054】
[実施例2-1]
実施例1-1で得られた糸状の時計用接着組成物を用いて、フリースプラング構造を有する機械式時計(図1)を作製した。
仮固定工程では、まず、ひげ持15の凹部を加熱した。ここで、凹部の加熱温度は、80℃とした。加熱には、はんだごてを用いた。次いで、凹部を加熱したまま、糸状の時計用接着組成物の端部を凹部に接触させ加熱して、時計用接着組成物の流動性を高め、時計用接着組成物を凹部に流し入れた。その後、凹部の加熱を止めると、時計用接着組成物が凹部の中で固まり、固体状態になった。次いで、凹部の加熱(第1段階の加熱)を行い、凹部中の時計用接着組成物の流動性を再び高め、凹部にひげぜんまい14の端部を挿入した。凹部の加熱を止め、時計用接着組成物が常温に戻ると、時計用接着組成物は再び流動性を失い固体状態となった。この固体状態に戻った時計用接着組成物により、ひげ持15と凹部に挿入されたひげぜんまい14とが仮固定された。この第1段階の加熱において、装置設定温度は180℃、時計用接着組成物温度は推定100℃以上とし、加熱時間は数秒とした。
本固定工程では、まず、仮固定され一体となったひげ持15とひげぜんまい14とを他の時計部品に組み付けた。次いで、凹部の再加熱(第2段階の加熱)を行い、仮固定している時計用接着組成物について、硬化剤によるエポキシ樹脂の硬化反応を進ませた。この再加熱を得て、ひげ持15とひげぜんまい14とは、最終的には時計用接着組成物の硬化物により本固定された。この第2段階の加熱において、加熱温度は、80℃とした。また、加熱時間は、6時間とした。なお、加熱は恒温槽にて行った。
このようにして、フリースプラング構造を有する機械式時計が得られた。
【0055】
[実施例2-2]
実施例1-2で得られた糸状の時計用接着組成物を用いた以外は、実施例2-1と同様にして、フリースプラング構造を有する機械式時計を作製した。
【0056】
[実施例2-3]
実施例1-3で得られた粉末状の時計用接着組成物を用いて、フリースプラング構造を有する機械式時計(図1)を作製した。
仮固定工程では、ひげ持15の凹部に、粉末状の時計用接着組成物を付着させた。即ち、まず、ひげ持15の凹部を加熱した。ここで、凹部の加熱温度は、80℃とした。次いで、凹部を加熱したまま、粉末状の時計用接着組成物を凹部に入れ加熱して、時計用接着組成物の流動性を高めた。その後、凹部の加熱を止めると、時計用接着組成物が凹部の中で固まり、固体状態(塊状)になった。次いで、凹部の加熱(第1段階の加熱)を行い、凹部中の時計用接着組成物の流動性を再び高め、凹部にひげぜんまい14の端部を挿入した。凹部の加熱を止め、時計用接着組成物が常温に戻ると、時計用接着組成物は再び流動性を失い固体状態となった。この固体状態に戻った時計用接着組成物により、ひげ持15と凹部に挿入されたひげぜんまい14とが仮固定された。この第1段階の加熱において、加熱温度は、80℃とした。
本固定工程では、他の時計部品に組み付ける前に、凹部の再加熱(第2段階の加熱)を行い、仮固定している時計用接着組成物について、硬化剤によるエポキシ樹脂の硬化反応を進ませた。この再加熱を得て、ひげ持15とひげぜんまい14とは、最終的には時計用接着組成物の硬化物により本固定された。この第2段階の加熱において、加熱温度は、150℃とした。また、加熱時間は、30分とした。
さらに、本固定工程において一体となったひげ持15とひげぜんまい14とを、他の時計部品に組み付けて、フリースプラング構造を有する機械式時計を得た。
【0057】
[実施例2-4]
実施例1-4で得られた粉末状の時計用接着組成物を用いた以外は、実施例2-3と同様にして、フリースプラング構造を有する機械式時計を作製した。
【0058】
[実施例2-5]
実施例1-5で得られた粉末状の時計用接着組成物を用いたこと、仮固定工程の加熱において、加熱温度を90℃としたこと、本固定工程の第2段階の加熱において、加熱温度を180℃としたこと以外は、実施例2-3と同様にして、フリースプラング構造を有する機械式時計を作製した。
【0059】
[実施例2-6]
実施例1-6で得られた粉末状の時計用接着組成物を用いた以外は、実施例2-5と同様にして、フリースプラング構造を有する機械式時計を作製した。
【0060】
[比較例2-1]
比較例1-1で得られた粉末状の時計用接着組成物を用いて、フリースプラング構造を有する機械式時計を作製した。
固定工程では、ひげ持の凹部に、粉末状の時計用接着組成物を付着させた。次いで、凹部の加熱を行い、凹部中の時計用接着組成物の流動性を再び高め、凹部にひげぜんまいの端部を挿入した。凹部の加熱を止め、時計用接着組成物が常温に戻ると、時計用接着組成物は再び流動性を失い固体状態となった。この固体状態に戻った時計用接着組成物により、ひげ持と凹部に挿入されたひげぜんまいとが固定された。この加熱において、加熱温度は、150℃とした。
さらに、固定工程において一体となったひげ持とひげぜんまいとを、他の時計部品に組み付けて、フリースプラング構造を有する機械式時計を得た。
【0061】
[比較例2-2]
比較例1-2で得られた粉末状の時計用接着組成物を用いて、フリースプラング構造を有する機械式時計の作製を試みた。150℃に加熱しても、時計用接着組成物が柔らかくならず、ひげ持の凹部に、粉末状の時計用接着組成物を付着することができなかった。
【0062】
[比較例2-3]
比較例1-3で得られた粉末状の時計用接着組成物を用いて、フリースプラング構造を有する機械式時計の作製を試みた。150℃に加熱しても、時計用接着組成物が柔らかくならず、ひげ持の凹部に、粉末状の時計用接着組成物を付着することができなかった。
【0063】
[評価方法および評価結果]
作製したフリースプラング構造を有する機械式時計について、常温で歩度の変化を調べた。歩度について、常温で時計の動作開始から3時間未満で変化した場合を×、3時間以上6時間未満で変化した場合を○、6時間以上変化しなかった場合を◎とした。
また、作製したフリースプラング構造を有する機械式時計について、80℃で歩度の変化を調べた。歩度について、80℃で時計の動作開始から3時間未満で変化した場合を×、3時間以上6時間未満で変化した場合を○、6時間以上変化しなかった場合を◎とした。評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【符号の説明】
【0065】
1 てんぷ
11 天真
12 てんわ
13 ひげ玉
14 ひげぜんまい
15 ひげ持
16 調整錘
17 ひげ持ねじ
18 ひげ持受
19 緩急針
20 緩急針体
21 ひげ棒
22 ひげ受
図1
図2
図3
図4